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「ねえ、ハーレイ。何か、思い付いたら…」
 行動に移すべきかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「は?」
 どういう意味だ、とハーレイは首を傾げて問い返した。
「えっとね…。ちょっと聞きたくなったから…」
 聞いてみただけ、とブルーの方は、単なる好奇心らしい。
「ぼくは、どっちかと言えば、慎重な方でしょ?」
 思い付きで動くのとは違うタイプ、とブルーは自分を指す。
「でも、そうじゃない人も多いし、どっちなのかな、って」
「なるほどなあ…。確かに、お前は逆になるよな」
 前のお前もそうだった、とハーレイは大きく頷いた。
 今も昔も、ブルーは「石橋を叩いて渡る」タイプの人間。
 思い付いて直ぐに動きはしなくて、検討してから動き出す。


(…咄嗟の判断のように見えても、違うんだよな…)
 凄い速さで計算しているだけだ、とハーレイは承知だった。
 前のブルーは、メギドに飛んで行った時さえ、そうだろう。
(ずっと前から、そういう場面を想定していて…)
 似た状況に陥った時に、自分が決めていた通りに行動した。
 「自分の命は捨ててかかって、船を救う」というシナリオ。
(…前のあいつは、多すぎるくらいの危機を考慮して…)
 それに応じて「どう動くべきか」を、常に頭に置いていた。
(キースの野郎が、仮死状態のトォニィを、投げた時にも…)
 ブルーは素早く飛び出したけれど、とうに計算していた筈。
 「地球の男」が「取りそうな手段」を、頭の中で何通りも。
(…そうでなければ、目覚めて間もない、あの身体で…)
 飛び出せるものか、とハーレイには充分、分かっている。


 今のブルーは、前のブルーだった頃より、マシだった。
 「思い付いたら、行動に移す」部分が多い、楽観的な性格。
 とはいえ、一般人と比べた場合は、そうは言えない。
(…慎重すぎるくらいに、慎重なトコがドッサリ…)
 もっと気楽でいいと思うが、という気がしないでもない。
 だから、ハーレイは、こう言った。
「思い付いたら、即、行動でも、いいと思うぞ」
 時と場合によるんだがな、とブルーの資質も尊重しておく。
「しかし、思い付きというのも、大切なことを…」
 示す言葉が、ちゃんとあるだろ、とハーレイは続けた。
「思い立ったが吉日、ってヤツ、聞いていないか?」
「知ってる!」
「ほらな、直ぐに動いて損はしない、と言う人も…」
 あるって証拠だ、とハーレイはブルーに笑い掛けた。
「お前は慎重すぎるわけだが、逆もあるんだ」
 たまには逆もいいと思うぞ、とハーレイは太鼓判を押す。
 「これを機会に、考えてみろ」とも。
 そうしたら…。


「分かった! そうしてみる!」
 ブルーは椅子から立って、ハーレイの横にやって来た。
 けれども、何をするわけでもなく、立っているだけ。
「おい、どうしたんだ?」
「思い付いた通りに、やっているだけ!」
 気にしないで、とブルーは言うものの、気になってしまう。
 何か目的があるからこそで、その目的は何なのか。
(…心を読むのは簡単なんだが、マナー違反で…)
 やるべきことではないんだよな、とハーレイは溜息を零す。
 ブルーの魂胆が読めない以上、放っておくしかなさそうだ。
(…まあいい、俺も好きにするさ)
 茶でも飲むか、と紅茶のカップを手に取ると…。
『やった、もう少し! 早く飲んでよ!』
 ブルーの心が零れたはずみに、真意がポンと伝わって来た。


『ハーレイが口を開けた所が、チャンスだってば!』
 紅茶のカップを手ごと弾いて、ぼくが間に、と心の声。
 「上手くいったらキスが出来る」と、ブルーは野心の塊。
 「失敗したって、カップが割れるだけだよ」という考えも。
(そう来たか…!)
 分かっちまった、とブルーの狙いを知れば、対処あるのみ。
 油断しないで、口を開ける幅を狭くするのも手だけれど…。
「悪いが、アイスティーな気分になっちまった…」
 お母さんに頼んで、氷とストロー、とハーレイは注文する。
 「ついでにグラスもあると助かるんだが」と、厚かましく。
「ええっ…!?」
「そりゃまあ、礼儀知らずには違いないがな…」
 思い付いたら行動なんだ、とハーレイはニッコリと笑んだ。
 「たまにはこんな日だってあるさ」と、ブルーを封じて…。


             思い付いたら・了




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(ウサギになりたかったんだよね…)
 幼稚園だった頃には、と小さなブルーは、ふと思い出した。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…本気でウサギになりたかったけど…)
 あの時、ウサギになれていたなら、ハーレイとの出会いも変わっていたろう。
 ウサギのブルーは、今の学校に行きはしないし、いったい何処で出会えたのか。
(ぼくは野原で、ハーレイがドライブして来て、散歩していて…)
 ブルーを見付けて連れて帰って、飼ってくれるのかもしれない。
(ハーレイ、ウサギの言葉が分かるのかな?)
 それとも、ぼくがウサギだったら、思念波を使いこなせるのかな、などと考えてみる。
 ハーレイに「ウサギの恋人」が出来た場合は、暮らしぶりも変わってしまいそう。
(学校に行くのに、ウサギ連れって…)
 難しいよね、とブルーは可笑しくなった。
 幼稚園ならともかく、今の学校にウサギを飼っている小屋は無い。
 何処の学校も事情は同じで、ウサギ小屋は、下の学校の一部にある程度。
(ウサギ小屋があったら、授業の間は、此処にいてくれ、って…)
 ハーレイが入れて行ってくれれば、帰りまで待つ。
 他のウサギと一緒に食事で、遊んだり、寒い日には寄り添い合って温め合ったり。
(ウサギ小屋があれば、いいんだけどね…)
 残念ながら無いとなったら、ブルーの居場所は、学校には無い。
(…出掛ける前には、ペットホテルに寄って行くのかな?)
 仕事が終わるまでの間は、其処で待つことになりそう。
 他にも待っている仲間がいたって、ウサギではなくて犬や猫かもしれない。
(うーん…)
 つまらなさそう、と思うけれども、仕方ないから、慣れるしかない。


 ウサギになっていなくて良かったよね、とブルーは、ホッと安心した。
 同じ人間として再会したから、今の暮らしを満喫出来る。
 不満な部分も多いとはいえ、結婚出来る年に育つ頃には、全て解消しているだろう。
(ぼくの背丈が、前のぼくだった頃と同じになったら…)
 ハーレイとキスも出来るし、デートにも行ける。
 ほんの数年だけの我慢で、それまでの間は耐えるしかない。
(あと十年とかじゃないから…)
 幼稚園の頃とは違うものね、と振り返ってみて、ウサギ小屋のあった場所を思い浮かべる。
 ハーレイが「ウサギになったブルー」と再会するより、幼稚園時代に出会った方が厄介そう。
(…結婚出来る年になるまで、十年以上も…)
 ひたすら耐えて我慢の日々が続いて、キスもデートも、全て「おあずけ」。
(…あんまりすぎるよ…)
 おまけに、ぼくも小さすぎるし、とブルーは部屋を見回した。
 今は大きなベッドが置いてあるけれど、幼稚園の頃には、もっと小さなベッドだった。
 部屋が広々していた記憶は、子供用ベッドのせいだけではない。
(勉強机も置いていないし、窓の所の、テーブルと椅子も…)
 幼稚園時代のブルーは、一つも持っていなかった。
 代わりに絨毯の上にクッション、オモチャが入った箱や、積み木の箱が置かれていた。
(…本棚も無くて、絵本も専用の場所があっただけ…)
 ハーレイを呼ぶには、子供じみてる、とブルーは頭を抱えてしまった。
 せっかく再会出来たというのに、ハーレイが恋人の部屋に来たなら、興覚めだろう。


(…何処で出会って、聖痕がどうなったのかとかも、ややこしそうで…)
 幼稚園だったら大変だよね、と容易に想像がつく。
 ハーレイが「幼稚園の先生」だとか、「幼稚園バスの運転手」でないと出会えなさそう。
(入園式で聖痕が出たら、大騒ぎになっちゃう…)
 泣き出す子だけで済めばいいけど、と恐ろしくなった。
 幼い子供は、「出血だけで怪我はしていない」聖痕現象などは理解出来ない。
 パニックを起こして、倒れてしまう子も出るかもしれない。
(…ハーレイと出会うの、もっと後でないと…)
 入園式は、ぼくは風邪でお休みするとか、と「出会いの瞬間」を先延ばしにする。
 ついでに再会を果たす時にも、周りに他の子供がいない方が良さそう。
(…遅れて入って、ウサギ小屋を覗き込んでる時くらいかな…)
 ハーレイが近付いて来て、「ウサギ見てるのか?」と声を掛けてくれて、振り向いた瞬間。
(それなら、聖痕が出ても、泣き出しちゃう子供は少なめ…)
 被害は最小限で済みそうだよ、と考えたものの、それから後もかなり厄介。
 幼稚園の先生か、幼稚園バスの運転手のハーレイも、恐らく「人気者」だろう。
 他の子たちに引っ張りだこで、幼稚園では、ブルーが近付けるチャンスは少なそう。
(守り役だって、どうなるのかな…?)
 学校に行くまでの間だけで終わりそうだし、と溜息が零れ落ちてしまう。
 幼稚園の先生などのハーレイだった場合は、学校に入った時点で、多分、お別れ。


 困っちゃうよね、とブルーは「今の出会い」に感謝する。
 今の学校で出会ったからこそ、結婚までの待ち時間も少ない上に、一緒にいられる時間も多い。
(それに、ハーレイが家に来たって…)
 座って貰うための椅子もある上、テーブルもある。
 ブルーが寝込んでいる時に尋ねて来てくれても、ハーレイは其処で過ごしている。
(本棚もあるから、目に付いた本を取って読めるし…)
 いいことずくめの部屋なんだから、と眺め回して、ハタと気付いた。
(出会った場所が、幼稚園だったら…)
 ハーレイは「大人が過ごすには、退屈すぎる部屋」で、長い時間を費やす羽目に陥る。
 幼稚園時代のブルーに、「お茶の時間」は存在しなかった。
(…お茶じゃなくって、おやつの時間で…)
 母はティーセットを用意しないで、カップにミルクやココアを入れて渡してくれた。
 お菓子は今と変わらなくても、お皿は小ぶりな「幼児用」だった。
(…ハーレイ先生が来てくれるから、って…)
 母がティーセットを出して来るとは思えない。
 ハーレイが好むコーヒーを淹れて、お菓子の皿とセットで、トレイに乗っけて…。
(絨毯の上に置いて行くのか、ちょっとした台を据えて、其処に置くのか…)
 どちらにしたって、ブルーと「テーブルを挟んで、向かい合わせ」の時間にはならない。
 お茶の時間を楽しむと言うより、ハーレイもブルーも、マイペースで「おやつ」を味わう。
(ぼくは積み木で遊んだりしてる合間に…)
 少しずつ食べて、ハーレイは、微笑みながらコーヒー片手に「見守り」だろう。


(…そんな時間に、キスを強請りに出掛けても…)
 断られてしまう以前に、様にならない。
 頬っぺたに「お菓子の欠片」をくっつけたブルーが、「ぼくにキスして」では、笑われるだけ。
(おまけに、ハーレイに抱き付こうとしても…)
 ぼくの身体が小さすぎるし、背中まで手が回らないかも、とブルーは愕然とさせられた。
 まるで似合わない「恋人同士」で、今よりも酷くて情けない感じになって来る。
(…ハーレイと出会ったの、幼稚園だったら…)
 二人きりで過ごす時間があっても、噛み合わないよ、と頭の中がぐるぐるしそう。
 そういう出会いだった時には、きっと後まで笑い話で、ハーレイにからかわれ続ける人生。
(そんな人生、嫌すぎるから…!)
 もっと早くに出会いたかったけど、と思いはしても、限界がある。
 幼稚園での再会は「早すぎる」上に、尾を引きそうだから、諦めておこう。
 ハーレイとの出会いの場所が幼稚園だったら、ハーレイには似合わない恋人だから…。



           幼稚園だったら・了


※ハーレイ先生と出会った場所が幼稚園だったら、と想像してみたブルー君ですけど。
 今よりも厄介な日々になりそう。第一、ハーレイ先生と釣り合いが取れないらしいですv






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(幼稚園なら、って話もあったっけな…)
 そういえば、とハーレイが、ふと思い出したこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 生まれ変わって再び出会えた、愛おしい人との再会の場所は学校だった。
 そのブルーと何度も話した間に、幼稚園説が出て来た。
(あいつが幼稚園児の頃に出会えていたら、と話したんだが…)
 幼稚園で出会っていたなら、どうなったろう、とハーレイは気になり始めた。
(公園とかで会うのは、ありがちなんだが…)
 そのものズバリは、かなり難しそう。
 幼稚園という場所柄、部外者が訪れることは殆ど無い。
(親が行くのも、参観日とかで…)
 それ以外の者が訪問するなら、学校活動の一環で出掛ける程度。
 幼稚園の子供たちが「出て来る」機会の方が何倍も多い。
(…ふうむ…)
 出会いからしてハードルが高いぞ、とハーレイは、この難題に取り組むことにした。


 ブルーと幼稚園で出会うためには、ハーレイも幼稚園に入らないといけない。
 今の学校は、下の学校と違って、幼稚園の子たちと一緒に動く行事は無かった。
(…俺に子供がいるわけじゃないし、どうやって入り込んだモンだか…)
 関係者になるしか道は無いな、と思うし、それが手っ取り早そうだ。
 幼稚園の先生になるか、送迎バスの運転手になって、雑用などもこなす立場か。
(…あいつの側にいる時間を、たっぷり取りたかったら、先生だな…)
 柔道も水泳も、まるで出番は無さそうだが、と悔しいけれども、贅沢は言えない。
 古典の教師の道に行かずに、幼稚園の先生になれる道を真っ直ぐ進んで、幼稚園へ。
(そもそも、そこからして有り得ない気が…)
 してしまうだけに厳しそうだ、と前提条件の時点で、つまずいてしまいそう。
 「やはり俺には向いていない」と、進路変更、結局は古典の教師で落ち着くコース。
(…出会いの場には、向いてないんだ…)
 幼稚園ってトコはな、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
 出会う前から門前払いで、幼稚園には入れないのが「ハーレイ」らしい。


(…その辺の所は、ご都合主義で…)
 おとぎ話のように上手く乗り越え、幼稚園の先生になれていたなら、どうなるだろう。
 ブルーが入園してくるまでの間は、「ハーレイ先生」と慕われるだろうか。
(…身体がデカいし、肩車もしてやれるしな…)
 絨毯などが敷いてある場所なら、子供たちを乗せて馬になるのも、お安い御用。
 一度に三人くらいは乗せられそうだし、かなり人気が高いかもしれない.
(…順風満帆で先生をやっていたら、ある日、ブルーが入園して来て…)
 その場で聖痕が現れ、血塗れの姿になるというのは変わらない。
(今の学校の時と同じで、大騒ぎで…)
 俺が救急車に乗って付き添いなんだ、と「実際にあった出来事」と、やっと繋がった。
 ブルーの記憶も、ハーレイの記憶も戻って来るから、暫くの間は、同じように時が流れる。
 互いに再会を喜び合って、時間を共有出来るけれども…。
(…なにしろ、あいつは幼稚園児で…)
 扱い方が難しそうだ、と次の難問が降って来た。
 十四歳のブルーでさえも、何かと我儘、困らされている恋人ではある。
 幼稚園児のブルーとなったら、その比ではないように思えてしまう。


(…そうでなくても、我慢が出来ない年の頃だし…)
 約束事を決めてみたって、ブルーには、きっと守れない。
 「幼稚園では、俺を先生らしく扱え」と教え込んでも、遠慮しないで親し気に話す。
 他の子たちが「ハーレイ先生」と呼んでいる中、ブルーだけが「ハーレイ」と呼び掛けて。
(その上、下手に親しいモンだから…)
 肩車も馬も、他の子たちが並んで待つ中、割り込んで来そう。
 「ハーレイ、ぼくにも!」と列をかき分け、悪びれもしないで先頭に立って。
(俺が「こら、並ばないとダメじゃないか!」と叱ったら…)
 たちまちフグのように膨れっ面か、でなければ大きな声で泣き出す。
 「ハーレイ先生、酷い!」と、自分が悪かったことなど、考えもせずに棚に上げて大泣き。
(…泣き声を聞いて、他の先生が…)
 飛んで来るのは目に見えているし、ハーレイが叱られる方かもしれない。
 「ブルー君の気持ちも、考えてあげて」と、子供は我慢が出来ないことを説かれて。
 「もっと優しい言い方をして、分かりやすく!」と、お説教まで食らいそう。
 もちろんブルーは、お説教の間も、「お話、まだ終わらないのかな?」と無邪気に待つだけ。


 なんてこった、とハーレイは軽く頭痛がして来た。
 幼稚園でのブルーとの出会いは、再会した後も「ご難続き」の日々らしい。
 人気者の「ハーレイ先生」を巡って、ブルーの独占欲が発揮される。
(仕事帰りに、あいつの家に寄るのは、控えないとな…)
 でなきゃ一層、増長するぞ、と思うものだから、会える時間は今よりも減ることだろう。
 幼すぎるブルーが「ハーレイ先生は、ぼくだけの先生」と勘違いしないよう、距離を取る。
(…今のあいつよりも、何倍も厄介…)
 いくら中身が「ブルー」でもな、と容易に想像出来てしまう。
 今のブルーでも、前のブルーに比べて「抑えが効かない」。
 幼稚園児のブルーとなったら、我儘放題、コントロールは不可能に近い。
(…自制心を、と教え込んでも、その自制心が…)
 備わる前の時代なんだ、と分かっているから、どうにもならない。
 ブルーが育って「分別がつく」年頃になるまで、トラブル続きの日かもしれない。


(ハーレイ先生は、ブルーも、他の子も、お気に入りのオモチャで…)
 奪い合いしては大騒ぎなのか、とハーレイは書斎の天井を仰いだ。
 「幼稚園時代のブルー」はともかく、「幼稚園での出会い」を避けられたのは幸運だった。
(…もしも出会いが、幼稚園なら…)
 俺が幼稚園の先生だったら、と溜息しか出ない有様なのだし、今の出会いでいいのだろう。
 今のブルーも、かなり厄介な「ませた子供」とはいえ、幼稚園児のブルーよりはマシ。
(…出会ってた場所が幼稚園なら、ご難続きで卒園してった後もだな…)
 付き合いが続いて、今のブルーの時代もやって来るんだ、とハーレイは軽く肩を竦めた。
(幼稚園で出会って、あいつが結婚出来る年になるまで…)
 待ちぼうけどころか、受難までだぞ、と思うものだから、神様に感謝するしかない。
 「今の出会いで幸運でした」と、振り回される年数が少なめなことを…。




            幼稚園なら・了


※もしも、ブルー君と幼稚園で出会っていたら、と考えてみたハーレイ先生。
 幼稚園の先生のハーレイの奪い合いとか、トラブルが多そう。今の出会いが一番ですよねv






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「ねえ、ハーレイ。許すことって…」
 大切だと思う、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 許すって…?」
 いったい何の話なんだ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
 ブルーは今朝から上機嫌で、怒っているようには見えない。
「そのままの意味だよ。例えば、ハーレイの場合だと…」
 キースを許すことは出来るの、とブルーは凄い例を出した。
 今の生では、未だ、キースと出会ってはいない。
 ブルーもハーレイも、遠く遥かな時の彼方で出会ったきり。
 けれど、その時、キースが何をしたかが問題だった。


「うーむ…。キースってか…?」
 今の俺にヤツを許せと、とハーレイは思わず唸った。
 前の生では、キースがブルーを撃ったことを知らなかった。
 だから、後に地球の上で出会った時には、何もしていない。
(…会談を控えて、地球に降下した時なんぞには…)
 キャプテンとしての立場で、国家主席のキースに挨拶した。
 言葉を交わして、握手までしてしまったことを、今でも…。
(…ずっと、後悔し続けてるんだ…)
 今のブルーに聞いて以来な、と小さなブルーの顔を眺める。
 たとえブルーが此処にいようが、憎い仇には違いない。
(秋咲きの朝顔、品種名がキース・アニアンで…)
 そうと知ったら、毟りたくなったぞ、と思うくらいに憎い。


 そんなキースを許せるのか、と尋ねられたら、答えは否。
(俺は一生、ヤツを許せん!)
 今の生で運良く出会えたならば、許せそうだが、と呻く。
(もしも会えたら、一発、思い切り、殴り飛ばして…)
 ブルーを撃った件は、水に流せそうでも、というのが現状。
「ハーレイ、やっぱり、許せないんだ?」
「…残念ながら、俺は其処まで人間が出来ていなくて…」
 とても無理だ、とハーレイは潔く白旗を掲げた。
「許すというのは、確かに大切ではあるんだが…」
「自分の気持ちが追い付かないなら、仕方ないわけ?」
「そうだな、自分を、無理に押し殺してまで…」
 許すことを優先しろとは言えんな、とハーレイは苦笑する。
 大の大人も出来ないことを、子供のブルーには強いれない。


「そっか、ハーレイでも無理なんだったら…」
 許せなくても、許されるよね、とブルーは笑んだ。
「そうなるが…。なんだ、友達と喧嘩中なのか?」
 早めの仲直りを勧めるぞ、とハーレイは提案しておく。
 友人同士の喧嘩だったら、グッと堪えて許すことも大切。
 そう思うから、ブルーに説こうとしたら…。
「友達じゃなくって、ハーレイだよ!」
「俺!?」
 喧嘩なんぞをしてはいないぞ、とハーレイは仰天した。
 今日も昨日も、その前にしても、怒らせるようなことは…。
(…していないよな…?)
 どう考えても、と振り返る間に、ブルーが言った。


「許せないのは、キスだってば!」
 いつも頬っぺたで、そればっかり、とブルーは膨れる。
 唇にキスをしてはくれない、とフグみたいな顔で。
(……その件か……)
 許せないからキスをしろ、と来たか、とハーレイは呆れた。
 そういうことなら、許せないのは、ハーレイにしても同じ。
「よし、分かった。今日の所は、これで失礼しよう」
「えっ!?」
 キスの話は、とブルーは驚くけれども、サラリと無視した。
「許せないっていうトコについては、俺も同じだしな?」
 いくら許すことが大切だろうが、さっきの話、とニンマリ。


「キスをする気にはなれんし、今日は帰るぞ」
「ちょ、ちょっと…!」
 謝るから、帰らないで、とブルーは必死で、可笑しくなる。
(…キースの話まで持ち出して、俺をだ…)
 追い詰めて来たんだし、懲りておけ、とハーレイは立った。
 「ではな」と、椅子をテーブルの方へと寄せて。
「少し早いが、今から帰れば、食料品店に寄って…」
 美味い晩飯を作れそうだし、とブルーを脅して楽しむ。
(本当の所は、帰る気なんぞ、まるで全く…)
 ありはしないが、と帰るふりをして、からかい続ける。
 「たまには、こんな返り討ちもいいさ」と、扉の前で…。



         許すことって・了





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(…引き金は、転勤だったんだよね…)
 ぼくとハーレイが出会ったのは、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイの転勤、決まってたけど、前の学校で引き留められて…)
 来るのが少し遅れたんだっけ、とブルーも事情を知っている。
 本当だったら、ハーレイが来るのは、入学式よりも前の筈だった。
 予定通りに来ていた場合は、もっと早くに出会えただろう。
(…その代わり、大事な入学式がメチャクチャ…)
 凄い迷惑をかけていたよね、と光景が目に浮かぶよう。
 ハーレイを初めて目にした瞬間、ブルーの身体に聖痕が出現した。
 右の瞳や、両方の肩や、脇腹からも血が流れ出して、教室は酷い騒ぎになった。
(…ぼくは倒れて、前のぼくだった頃の記憶が戻って来るのを…)
 感じ取りながら意識を手放したけれど、後でクラスメイトたちから聞かされた。
 ハーレイが慌てて駆け寄り、「救急車を呼んで来てくれ!」と指示し、他の教師も駆け付けた。
 「みんな、落ち着いて、席について!」と先生たちが叫んでも、皆は直ぐには従わなかった。
 落ち着くどころか、他所のクラスや、違う校舎からまで、見に来る生徒が多かったほど。
(…教室の中でも、そうだったんだし…)
 入学式なら大騒ぎだよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
 大切な式は台無しになって、皆の記憶に、違う意味合いで残っただろう。


 そうならないよう、ハーレイが来るのが遅れたのかな、という気がしている。
 一生に一度の入学式だし、お祝いをする家も少なくはない。
(…大騒ぎになって、救急車まで来てました、なんていう思い出よりは…)
 後になってから思い出せるのは「お祝いの御馳走とケーキだけ」でも、きっといい。
(だから、神様、ハーレイの転勤が決まっても…)
 直ぐには来られないようにしてたんだよ、と思うけれども、どうだろう。
 もっと早くに出会えていたなら、もっと沢山、色々な話が出来たのに。
(……うーん……)
 タイミングっていうのは難しいよね、と思う間に、「次の転勤」が頭を掠めた。
 今のハーレイは教師なのだし、「キャプテン・ハーレイ」だった頃とは違う。
 同じ職場で勤め続ける仕事ではない。
(…先生の任期って、どのくらいだっけ…?)
 下の学校の先生と同じくらいかな、と考えてみる。
 そうだとしたなら、ブルーが卒業する頃までは、充分、いてくれる筈。
 プラスして二年くらいは、勤めていたって変ではない。
(…だけど、ハーレイ、そうそういない先生だよね…?)
 古典はともかく、柔道と水泳、とハーレイが持つ「特技」が気になる。
 どちらもプロの選手にもなれる腕だし、欲しい学校は多いだろう。


(……強豪校で、欠員が出たら……)
 ここぞとばかりに声が掛かって、転勤になってしまいそう。
 古典の教師は、資格さえあれば出来るけれども、柔道部などの指導は、そうはいかない。
(…其処の学校にいる古典の先生、ハーレイと交換ってことにしたなら…)
 めでたく「プロ級の人材」が来るわけだから、大いに有り得る。
 欠員が出た科目が古典でなくても、まずは「ハーレイ」を手に入れること。
(…先生が足りなくなった科目が、数学とかでも…)
 そちらはそちらで、「数学の先生」を探し出せばいい。
(転勤する人、一人だけで済むトコ、二人になってしまうけど…)
 そんなことより、部活の指導が優先だろう。
 優秀なコーチがいないばかりに、強豪校から転落するのは、何処も避けたい。
(…ハーレイ、連れて行かれちゃう…!)
 ハーレイは喜ぶかもだけど、と思うけれども、それと話は別だった。
 転勤で他所に行ってしまったら、ハーレイに会えるチャンスが減るのは確実。
(学校の中では会えない上に、帰りに家に寄ってくれる日も…)
 うんと減りそう、と容易に分かる。
 強豪校で指導するなら、休日だって不在がちになるかもしれない。
 試合や遠征が増えるだろうし、今の学校よりも忙しそう。


 それは困るよ、とブルーは怖くなって来た。
 「絶対に無い」とは言い切れないだけに、恐ろしいとも言い換えられる。
(強豪校だと、何処なのかな…?)
 分かんないや、と呻くくらいに、ブルーはスポーツに縁が無い。
 縁が無いから興味も無くて、どの学校が有名なのかもサッパリだけれど、強豪校は存在する。
 大きな大会に出場しては、賞を貰って凱旋して来る。
(…もし、ハーレイが転勤したなら…)
 今は名前も知らない学校、それを追うことになるのだろう。
(新聞とかでも、今までチラッと見ていただけのスポーツ欄とか…)
 食い入るように目を通しては、「ハーレイ」の名前が無いかを探す。
 順調に勝ち進んでいればもちろん、試合の時期と違っていたって、関連記事を載せたりもする。
(今のチームはこんな感じ、って…)
 先生も一緒に写真が出たり、と「記事の印象」だけは頭にあるから、探す毎日。
 何処かに「ハーレイ」が写っていないか、インタビューの類は載っていないか、と。
(…ハーレイの様子を詳しく知りたかったら、そうするしか…)
 滅多に家に来てくれないなら、他に方法は見付からない。
 「今日のハーレイ」の最新情報を掴みたかったら、友達探しも必要だろう。
(ハーレイが行った学校の生徒で、柔道とか水泳に興味があって…)
 だけど部員じゃない、普通の生徒、と条件は厳しい。
 部員の場合は「他所の学校にいる友達」と話す時間を、そうそう取れはしないから。


(ハーレイ先生、今日はどうだった、って聞けやしないから…)
 無難に部活の話題で始めて、さりげなく情報を掴むしかない。
 古典の授業があった日だったら、「今日の雑談、どんなのだった?」でいいだろう。
(ハーレイ、雑談が得意技だしね?)
 前の学校で聞いていた「ブルー」が興味を持っても、変ではない。
 聞かれた方でも、「楽しかったよ、今日、聞いたのは…」と、楽し気に話すに違いない。
(…水泳とか柔道を見る趣味がある生徒、どうやって探せばいいのかな…?)
 うーん、と壁にぶつかったけれど、乗り越えないと「ハーレイの最新情報」は手に入らない。
 今の学校の生徒で、似た趣味を持つ「誰か」を探して、人脈を辿るのが早いだろうか。
(…でも、ハーレイが、ぼくの守り役なことは、みんな知ってて…)
 その「ブルー」が、「ハーレイが転勤した先の学校」の生徒と繋がりたいなら、理由は一つ。
 「ハーレイの情報を追っている」からで、熱烈なファンなのだと「勘違い」されそう。
(…転勤した先の学校の生徒、教えてくれても、その生徒には…)
 「ハーレイ先生の熱烈なファン」がいるから、仲良くしてやって欲しい、と紹介だろう。
 貰える情報は増えそうだけれど、「熱烈なファン」である本当の理由が問題だった。
(…本当は恋人を追ってるんです、なんて言えやしないし…)
 隠し事をしながら付き合えるかな、と思うと答えは「否」でしかない。
 何処かでウッカリ、バレてしまうか、そうでなくても「後ろめたい」。


 やっぱり新聞くらいしか、と情けなくても、それが現実。
 ハーレイが転勤で行ってしまったら、情報源は他に無さそう。
(…今だって、試合で来られない日とか、寂しくなってしまうのに…)
 そんな日が増えて、学校の中でも会えないなんて、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
 まだ「そうなった」わけでもないのに、「その日」を想像してみただけで。
(…悲しすぎるよ…)
 ハーレイが転勤しちゃったら、と恐ろしいから、強豪校の先生たちには頑張って欲しい。
 病気になったり、怪我をしたりで、「指導出来なくなりました」という事態に陥らないよう。
(あと四年ほどだけで充分だから…!)
 ぼくが卒業しちゃった後なら、「ハーレイ」が転勤したって平気だしね、とブルーは祈る。
 ハーレイと一緒に暮らし始めたら、転勤は単に「勤め先が変わる」だけに過ぎない。
(来年から、此処の学校だ、とハーレイに聞いて…)
 その学校って何処にあるの、と質問してみる所から始まる。
 「其処で柔道部の指導もするの?」だとか、「水泳部の顧問なのかな?」とか。
 行ったことの無い場所にある学校だった時は、「どんな校舎?」と聞くのもいい。
(ハーレイが勤め始めたら、ドライブに出掛けた時に、ついでに…)
 寄って貰って見てみたいよね、と素敵な夢が膨らんでゆくから、そっちの方が断然いい。
(ぼくが学校に通ってる間に、転勤したなら、大変だけど…)
 卒業した後なら、楽しそうだよ、とブルーは「その日」を祈り続ける。
 「ハーレイの転勤は、ぼくが卒業した後にして下さい」と、聖痕をくれた神に向かって…。



          転勤したなら・了


※もし、ハーレイ先生が転勤になったら、と考えてみたブルー君。会える日が減りそう。
 ハーレイ先生の情報も手に入らなくなって、悲しすぎる日々。卒業までいて欲しいですねv







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