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(何に生まれたって、あいつを見付け出せる自信はだ…)
 あるんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(例えば、犬や猫にしたって、ウサギだったり、鳥になっていても…)
 必ず見付けられるし、出会えるだろう、と考える。
 ブルーとの絆は強いものだけに、人間として出会えなくても、きっと出会える。
(もしも犬だと、俺とは種類が違いそうだぞ)
 俺は大型の犬で、あいつは小さな種類の犬で、と想像しただけで微笑ましい。
 犬に生まれたブルーも、白い犬なのに違いない。
(ふわふわしてるか、毛足が長いか、それとも…)
 どんなのにしも可愛いんだ、と「犬のブルー」を頭に描く。
 アルビノでなくても、真っ白な犬で、手入れが行き届いていることだろう。
(頭にリボンを結んでるとかも、あるかもしれないな…)
 美容室に連れて行って貰ったりしたら、そうなりそう。
 ブルーが「男の子」の犬であっても、見栄えがするなら頭にリボン。
(飼い主が色々、コレクションしたのを日替わりで…)
 毎朝、頭にキュッと結んで、それから散歩なんだ、と「散歩に行くブルー」が見えるよう。


 犬のブルーは愛らしいけども、ハーレイの方は違っているという気がする。
 大型犬だし、可愛く見えるのは子犬時代だけ。
(犬のあいつと出会う頃には、育っちまってて…)
 ブルーの何倍あるだろうか、と思うくらいに体格からして差があるだろう。
 外見にしても、獰猛そうでなければマシだと言える。
(大型犬にも、大人しいのから、猟犬とかまでいるんだし…)
 出来れば大人しい種類に生まれたいもんだ、とハーレイは肩を軽く竦める。
 見るからに恐ろしそうな犬だった時は、犬のブルーの飼い主に距離を取られてしまう。
 ブルーが「あっ、ハーレイ!」と気付いて、嬉しそうに鳴いていたって、近付けてくれない。
(危ないわよ、とリードをグッと握って…)
 足早に去って、公園だったら出てゆくだろうし、路上だったら遠ざかってゆく。
(…ほんの一瞬だけの出会いで…)
 次があっても同じことだぞ、と結果は考えるまでもない。
 「犬のブルー」が、獰猛そうな大型犬に向かって鳴くのは、飼い主にすれば好ましくない。
(この子が、怖さに気付いていないだけなんだ、と…)
 勘違いをして、散歩コースを変えてしまえば、もう会うことは出来なくなる。
 「犬のハーレイ」の飼い主にしたって、トラブルは避けたいと考えそう。
(…俺がブルーを噛んじまったら、大変なことになっちまうからなあ…)
 散歩コースを変更するのは、ハーレイの飼い主の方かもしれない。
 他の犬が多い公園よりも、人の少ない場所の散歩に切り替えるとか。


 如何にもありそうな、「出会えなくなる」結末。
 犬のブルーと犬種が違って、「犬のハーレイ」が怖そうな見た目になっていれば起きる。
(大型犬でも、大人しい方で願いたいぞ…)
 どんな性格をしている犬かは、飼い主にしか分からないし、とハーレイは溜息をついた。
 前の自分も、人によっては「怖そうな人だ」と見ていただろうか。
 ブリッジで指揮を執る所だけしか知らなかったら、有り得そうではある。
(眉間に皺で、難しい顔で…)
 シャングリラの中を歩いていたのが前の自分で、怖そうな犬と同じかもしれない。
(犬に生まれた俺の場合も、猟犬になっていたって、大人しい性格で…)
 訓練でボールなどはキャッチ出来ても、動物を追うことはしないのだろう。
 もちろん「小型犬のブルー」を噛みはしないし、出会えたのなら、一緒に遊ぶだけ。
(仲良くなれたら、飼い主同士も、話が弾んで…)
 散歩コースや時間を合わせてくれて、会える日がグンと増えてくれそう。
 「大人しい犬なんです」とアピールする機会は、是非とも欲しい。
 ブルーの飼い主が足早に去って、二度と出会えなくなるのは悲しすぎる。


(違う種類の犬でも、仲良くなれるケースは多いからなあ…)
 犬と猿でも仲良くなるって話も聞くし、とハーレイは思う。
 「犬猿の仲」という言葉があるのだけれども、仲がいい犬と猿とは存在する。
(…俺の飼い主と、ブルーの飼い主に期待するしか…)
 判断違いが起きちまったら、おしまいなんだ、とゾッとしてから、ハタと気付いた。
 犬のブルーと仲良くなれても、出会える時間は散歩の時しか無さそう。
 それ以外の時間は、それぞれの家で過ごしているしかない。
(雨が降ったら、散歩は行かないだろうし…)
 寒すぎる日とか、暑すぎる日にも、犬のブルーは「家の近く」で散歩を済ませるだろう。
 大型犬のハーレイと違って、暑さ寒さに弱いのは容易に分かる。
(…そうなってくると、せっかく、あいつと再会出来ても…)
 俺たちの人生、飼い主次第か、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 犬の場合は「犬生」だけれども、全てが飼い主に左右されてしまう。
 散歩コースを変えるにしても、合わせるにしても、ハーレイとブルーは蚊帳の外になる。


(ついでに、一緒に暮らすなんぞは、夢のまた夢…)
 雄同士だしな、とハーレイは頭を抱えたくなった。
 犬のブルーが雌にしたって、犬種が違う時点で絶望的。
(交配したい、と思う飼い主、いないだろうし…)
 仲が良さそうだから、と例外を認めるにしても、一緒に飼ってはくれないだろう。
 子供が出来るシーズンにだけ、ほんの数日、どちらかの家で過ごしておしまい。
(生まれて来た子も、ブルーの家で育っていくだけで…)
 俺は顔さえ見られないんだ、と思うものだから、犬に生まれ変わるのは駄目かもしれない。
(飼い主がいたら、お互い、どうにも出来んからなあ…)
 犬は駄目だ、とハーレイは神に感謝した。
 今の生で犬に生まれていたなら、ハーレイもブルーも、悲しい思いをすることになった。
(何に生まれても、あいつを見付け出せるんだが…)
 飼い主のいない生き物で頼む、と心から願う。
 ハーレイもブルーも、飼い主がいたら、自由に生きるのは不可能だから…。



           飼い主がいたら・了


※何に生まれても、ブルー君を見付ける自信があるハーレイ先生。犬や鳥でも大丈夫。
 けれど気付いてしまった現実。飼い主がいる場合は、思い通りには生きられませんよねv







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「ねえ、ハーレイ。大人しい子は…」
 損なのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「は? 急にどうした?」
 そういう場面に出くわしたのか、とハーレイは尋ねた。
 今のブルーも、前のブルーも、大人しいタイプ。
(…もっとも、前のあいつの場合は…)
 頑固だった分、補正されていたよな、と考えてしまう。
(確かに根っこは、大人しいんだが…)
 こうと決めたら動かないんだ、と悲しい記憶が蘇った。
 メギドに飛んで行った時のブルーも、そうだった。
(ナスカの仲間を、説得に行くと言っていたのに…)
 実際は、船から打って出るのが目的だった。


 今のブルーは、前のブルーほど頑固ではない。
 十四歳にしかならないせいか、強く言ったら聞き入れる。
(前のあいつだと、有り得ないことで…)
 考えてみれば損をしてるかもな、と思わないでもない。
 ついでに言うなら、前のブルーも損をしていた。
 大人しいのが本来だけに、自分を強く押し出しはしない。
(厨房で作った、試作メニューを食べる時にも…)
 どれほど上手く出来ていようが、おかわりは無し。
 皿に盛られて渡された分を食べたら、おしまいだった。
 「いいと思うよ」と感想を告げて、厨房の者が勧めても…。
(ぼくはいいから、と出て行っちまって…)
 残った分は、他の仲間が奪い合っていた。
 ジャンケンだったり、クジを引いたり、それは楽しそうに。


 すると、今のブルーは、二重に損なタイプかもしれない。
(…友達が持って来た菓子が余っちまって…)
 何人か二個目を貰えそうな時に、今のブルーは主張しない。
 「二個目、欲しいな」と言いはしなくて、貰えないまま。
(おまけに、最初に菓子が登場した時も…)
 前のブルーの頃と違って、「ブルー用の枠」は無いだろう。
(ソルジャーじゃなくて、友達の一人というだけで…)
 ブルー用の菓子を「確保しておく」必要は無い。
 人数分の菓子が無ければ、ブルーが食べることは出来ない。
(六人いたって、五個しか無いって場面は多いしなあ…)
 欲しい者だけ名乗り出る時、今のブルーも大人しいから…。
(名乗れなくって、枠が無いせいで…)
 食べ損ねるのは確実だから、損だと言える。
 前のブルーだった場合は、しない損までしている勘定。


(…ふうむ…)
 さっきの質問、当然かもな、とハーレイは思い当たった。
 珍しい菓子を食べ損なったとか、二個目を貰い損ねたとか。
(ありそうな話なんだよなあ…)
 だったら、一押し、背中を押すか、と助言することにした。
「大人しい子は損なのか、と聞かれりゃ、そうだな」
「やっぱり…?」
 ぼくって損をしているのかな、とブルーは首を傾げる。
「普段は、気にしていないんだけど…」
「美味い菓子でも、食い損なったか?」
「そんなトコかも…」
 残念すぎて、とブルーが項垂れるから、ハーレイは笑んだ。
「分かってるんなら、たまには強く出るのはどうだ?」
 損をするよりマシだろうが、とブルーに勧める。
 「厚かましいかな、と思うくらいで丁度かもな」と。


 ブルーはハーレイの言葉を聞いて、素直にコクリと頷いた。
「じゃあ、強く出てみるようにする」
「その意気だ。お前は、大人しすぎるからな」
「ありがとう、とっても参考になった!」
 強く出てみるね、とブルーは、とびきりの笑顔になった。
「ハーレイ、ぼくにキスして!」
「なんだって!?」
「大人しくしてるの、やめにしておく!」
 でないと損をしちゃうんだもの、とブルーは自分を指した。
「大人しく我慢してたら、未だにキスが貰えないんだよ?」
 遠慮しないで言わなくっちゃ、とブルーが勝ち誇るから…。
「馬鹿野郎!」
 そこは大人しくしてるべきだ、とハーレイは叱る。
 「厚かましいのはお断りだ」と、「黙っていろ」と…。


          大人しい子は・了




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(…ぼくの名前は…)
 今でもブルーなんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくだった時も、ブルーだったから…)
 お蔭で、前の自分の記憶が戻った後にも、違和感は無かった。
 誰もブルーを「違う名前」で呼びはしないし、途惑ったりする心配は無い。
(もし、今のぼくが、違う名前だったら…)
 さぞかし困ったことだろう。
 家で両親に呼び掛けられても、反応が遅くなったかもしれない。
 学校などで友人が呼んでいたって、全く気付かないとかも有り得た。
(ぼくのことだと思わなくって…)
 呼ばれているのに、振り向きもしないで、教室を出て帰宅してしまうとか。
(…うーん…)
 それは困るよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
 「自分の名前は、ブルーではない」と理解していても、行動がついていきそうにない。
(…ブルーで良かった…)
 姿形が違っていても困るけれども、名前が違うというのも困ってしまう。
 果たして「前の自分」を上手く受け入れられたか、心配でもある。
(…今のぼくと、上手く噛み合わなくて…)
 どっちを優先すればいいのか、迷った挙句に、片方が疎かになって…。
(ハーレイが来て、呼んでいたって、返事しないで…)
 窓の向こうを眺めているとか、そういったことも起こり得た。
 両親が呼ぶ方の名前を優先した結果で、学校などでも使う名前が優先だろうから。


 名前というのは大切なもので、「今のブルー」を示している。
 違う名前が付いていたなら、そちらの方を優先すべき。
(…ぼくの違和感、大きいんだろうけど…)
 とにかく慣れてしまわないことには、世の中を上手く渡って行けない。
 今のハーレイにも、「今の名前で呼んで欲しいよ」と頼み込むしか無さそう。
(でないと、ハーレイを無視しちゃうとか…)
 それとは逆に、ハーレイが呼んでくれる「ブルー」にしか、反応しなくなるとか。
 大いにありそうな話なだけに、「今の名前」を大事にするには、心の中で改名するしかない。
(…マイケルだったり、ディックだったり…)
 前の自分には似合わなくても、受け入れる他に無いだろう。
 その名前で呼ぶ羽目に陥る「ハーレイ」は気の毒だけれども、仕方ない。
(…今のぼくの方が、改名するのも難しそうだし…)
 第一、子供の間は出来やしない、とブルーは充分、承知している。
 ほんの十四歳にしかならない子供が、「名前を変えたいんです」と書類を作ってみても…。
(…戸籍を管理する所に、提出しに行ったら…)
 係の人は、ブルーの顔をチラと眺めて、「保護者の方は?」と尋ねるだろう。
 「保護者の方に来て頂かないと、受理出来ません」と、門前払いに決まっている。
(……変えられないよ……)
 ハーレイと結婚出来る年になるまでは無理、と考えただけで溜息が出そう。
 そういう意味でも、今の自分も「ブルー」で良かった。
 名前で全く困りはしないし、皆が自然に「前の自分と同じ名前」で呼び掛けてくれる。


(…同じで良かった…)
 ホントに運が良かったよね、とブルーは心から思う。
 ついでに「今のハーレイ」の名前が、前と同じで「ハーレイ」なのも有難い。
(前と同じで、ウィリアム・ハーレイ…)
 呼ぶのに困ることは無いもの、と「今のハーレイ」の名前が嬉しい。
 もしも、前の自分の記憶が蘇った時、ハーレイの名前が違っていたなら、困っただろう。
(記憶が戻って来た瞬間は、とても痛くて…)
 聖痕の痛みで気絶したから、「今のハーレイ」も「ハーレイ」なのだと思い込んでいる。
 病院で意識を取り戻したって、まず「ハーレイ」を探しただろう。
(…だけどハーレイ、もう学校に戻っちゃってたし…)
 病院の看護師や、飛んで来た両親が口にする名は「ハーレイ」ではない。
(付き添って来てくれた先生の名前、教えられても…)
 それが「ハーレイ」だと分かったかどうか、まるで全く自信が持てない。
(救急車の中で、ずっと呼び掛けてくれてたの…)
 ハーレイだったと思いたくても、耳に入るのは「ハーレイ」とは違う名前の先生。
(…違う先生だったのかな、って…)
 ガッカリしている「当時の自分」が目に浮かぶよう。
 今のハーレイは、あれが初対面だったし、救急車に乗ってくれたとは限らない。
(最初の授業が待っているから、他の先生に、ぼくを任せて…)
 教室に残っていたことも起こり得た。
 もっとも、夜には「今のハーレイ」が来てくれたのだから、勘違いしたままではないけれど。


 そうは言っても、違う名前の「ハーレイ」が目の前に現れる。
(ただいま、ハーレイ、って…)
 呼び掛ける所までは変わらなくても、それから後の全てが変わっていたのに違いない。
 再会出来たことを、互いに喜び合った「ハーレイ」が、タイミングを計って、こう告げる。
 「おっと、すまない。今の名前は、それじゃないんだ」。
(…どういう意味なの、って…)
 目を丸くしながら、病院で聞かされた「違う名前の先生」の名をハーレイから聞く。
 「今の名前は、こういう名前になっていてな」と、「ハーレイらしくない」と思える名前。
(…マクレガーとか、ウィンストンとか…)
 耳に馴染まない姓を聞かされ、ファーストネームも「ウィリアム」ではない。
(ビリーだったり、チャールズだったり…)
 そんな名前は知りやしない、とポカンとしたって、それが「ハーレイ」。
 今のハーレイを示す名前で、他の名前には置き換えられない。
(…学校に来られるようになったら、そう呼んでくれ、って…)
 ハーレイに念を押されるわけで、きっとショックは、とても激しい。
(…違う名前になっちゃったんだ、って声も出なくて…)
 目の前にいる「マクレガー」だか、「チャールズ」だかを、まじまじと見る。
 見間違えようもない「ハーレイ」なのに、今の名前は「ウィンストン」や「ビリー」。
(…あんまりすぎるよ…!)
 間違えて呼んでしまいそう、と泣きそうになっても、「ハーレイ」と呼ぶことは出来ない。
 学校で「ハーレイ!」と呼んでみたって、返事が返りはしないだろう。


(…それにハーレイ、ぼくと違って、とうに大人で…)
 教師生活も、そこそこ長いし、改名することは難しい上、すべきでもない。
(どんなに、前のぼくと生きた時代が大事でも…)
 その思い出で「今のハーレイ」を縛り付けるのは、新しい命に失礼でもある。
 「ハーレイ」なのだと思いたければ、「今のブルー」だけが我慢で、そっと何処かで…。
(誰もいない時とか、ハーレイと結婚した後、ニックネームみたいに…)
 「ハーレイ」と呼ぶのが相応しい。
 幸い、見た目は「キャプテン・ハーレイ」なのだし、「ハーレイ」でも変には思われない。
(今のぼくに、もっと友達、多かったなら…)
 学校で「ハーレイ先生」と渾名を付けて、皆に広めて使うことも出来るのだけれど…。
(そんなに友達、多くないから、誰か代わりに…)
 思い付いてくれない限りは、「ハーレイ先生」は誕生してくれない。
(…マクレガー先生とか、ウィンストン先生とか…)
 そう呼ぶしかない毎日なんだ、と頭を抱えたくなるから、今の名前で良かったと思う。
 もしも、ハーレイが違う名前だったら、困る場面しか浮かばないから…。



           違う名前だったら・了


※今のブルー君の名前はブルー。前と同じで嬉しいですけど、ハーレイ先生も、そう。
 けれど、違う名前だったら、お互い、困りそう。「ハーレイ先生」は、渾名で呼べるかもv






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(今でもブルーなんだよな…)
 あいつの名前、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(違う名前になっていたって、不思議じゃないんだが…)
 有難いことに「ブルー」なんだ、と嬉しくなる。
 今のブルーの名前の由来は、前のブルーと同じアルビノだからと聞いた。
 アルビノの息子が生まれて来た時、両親は迷わず「ブルー」と名付けた。
(前のあいつは、今の時代は英雄なんだし…)
 ブルーのような子供が生まれた場合は、選びたくなる親が多いだろう。
(もっとも、育てば、名前負けして…)
 ソルジャー・ブルーとは似ても似つかない、ごく平凡な子になるかもしれない。
 外見はもちろん、頭脳などにしても、ソルジャー・ブルーと同等に育つのは難しそう。
(幸い、あいつは本物だから…)
 髪型までが「ソルジャー・ブルー風」で、人目を引く子供になりつつある。
 前のブルーと同じ背丈に育つ頃には、文字通り、瓜二つになっていることだろう。


 美しく育ち上がった「今のブルー」を、今のハーレイは連れて歩ける。
 結婚する前にデートに行っても、注目を集めそうな「ソルジャー・ブルー」を。
(俺が「ブルー」と呼んでいたって…)
 本名だと思ってくれる人が、どれだけいるかは分からない。
 そっくりなだけに、「ブルー」が愛称だということは有り得る。
(正真正銘、ブルーなんだが…)
 信じて貰えないかもしれないな、と可笑しくなった。
 行く先々で擦れ違う人たちの耳に届いた名前が、「ブルー」であっても。
(振り返りながら、本名は何なのか考えるヤツらも…)
 きっといるぞ、と考えるだけで面白い。
 逆に「アルビノだから本名だろうけど、運のいい子だ」と眺める人もいるに違いない。
(名前負けしないで、ソルジャー・ブルーそっくりに育ったんだし…)
 親を恨まずに済んで良かったな、と一足飛びの思考をしてみたりして。
 確かに「ブルー」が、どう育つかは、生まれた時には分からない。
 「ブルーと名付けて育てることは、ある意味、賭けな部分が大きい。


 今のブルーの両親は、「名付け」の賭けの勝利者と言える。
 生まれて来た子は、幼い頃から「ソルジャー・ブルー」に似ていたらしい。
(小さなソルジャー・ブルーだ、と公園などで可愛がられて…)
 初対面の人から、お菓子を貰ったりして、人気を集めていたようだ。
 連れて歩く父や母の方でも、鼻高々だったことだろう。
(お名前は、と尋ねられた時は、嬉しかったろうなあ…)
 「この子の名前は、ブルーなんです」と答えられるし、聞かされた人の方も驚く。
「 あらまあ…! 本物のブルー君だったのねえ!」などと、目を真ん丸にしたりして。
(…大したもんだ…)
 あいつの両親の名付け方は、と思うけれども、アルビノなだけに、賭けをしただけ。
 「どう育つのか」までは考えないまま、「ブルー」と名付けることは「賭け」でしかない。
 まるで全く心配しないで「迷わなかった」のなら、大物だろう。
(…もっとも、神様のお計らいで…)
 両親の頭に浮かぶ名前は「ブルー」しか無くて、他の候補は無かった可能性もある。
 生まれる前には考えていても、アルビノの子だと分かった時点で、「ブルー」の名前が…。
(頭にストンと落っこちて来て…)
 他の候補は消えてしまって、それっきりになってしまったろうか。


(…いつ頃、ブルーに決まったんだか…)
 その辺の話は聞いていないな、とハーレイは顎に手を当てた。
 もしかしたら、今のブルー自身も、耳にしたことは無いかもしれない。
 「ブルー」と決める前に「名前の候補」が存在したのか、あったとしたなら何なのか。
(…ボツにしちまった名前なんかは、話さないしなあ…)
 俺にしたって聞いちゃいないぞ、と自分の名前を振り返ってみる。
 今のハーレイも「ハーレイ」だけども、前と同じで「姓」が「ハーレイ」。
 名前の方は「ウィリアム」なわけで、これまた前と同じ「ウィリアム」。
(ちゃんと、ウィリアム・ハーレイなんだ…)
 だから「ブルー」も、神様のお計らいだろう、と見当がつく。
 とはいえ、ハーレイにしても「ウィリアム」以外に、名前の候補があったかは知らない。
(親父に聞いたら、とんでもないのが…)
 出て来るのかもな、と釣り好きの父の顔が浮かんだ。
 釣り好きで、釣りの名人なだけに、名付けのセンスが常識外れで…。
(…釣りの名人の名前にあやかりたいなら、まだマシな方で…)
 お気に入りの釣りのスポットを選ぶとかもありそう。
 贔屓にしている釣り船の名前を捻ってみたり、そのまま貰って名付けたり。


(……うーむ……)
 あの親父ならやりかねんぞ、と思うものだから、「ブルー」も気になる。
 両親が他の候補を持っていたのか、無かったのか。
(…あった場合は、今のあいつの名前は…)
 ブルーじゃなかったわけでだな、と「もしも」の世界を想像した。
 神様のお計らいが無かったならば、ブルーには違う名前が付けられていた。
(見た目が今と全く同じで、前のあいつがチビだった頃に瓜二つでも…)
 ブルーの名前は「ブルー」ではない。
 両親のセンスで付けられた名で、学校でも名前は「その名前」になる。
(…俺が教室で、今のあいつと再会して…)
 ブルーの身体に聖痕が出ても、病院でカルテに書かれる名前は「ブルー」ではなくて…。
(…俺が教室で、「この生徒の名前は?」と尋ねても…)
 パニックだった生徒たちが口にする名は、「ブルー」とは違う名前だったろう。
(…何処から見たって、あいつなんだが…)
 俺にしてみりゃ「ブルー」なのに、と混乱しそうな光景がハッキリと見える。
 やっと出会えた愛おしい人が、知らない名前になっているのだから。


 今のブルーが「違う名前」なら、再会した時の感動と共に「衝撃」も来そう。
(ブルーなんだが、ブルーじゃないんだ、と…)
 過ぎてしまった長い歳月を思い知らされ、打ちのめされる。
 「ブルー」が「ブルー」でなくなるくらいに、時が流れてしまったのだ、と。
(…でもって、あいつに呼び掛ける時も…)
 二人きりで過ごす時を除けば、「違う名前」を使うしかない。
 ブルーの両親は事情を知っているのだけれども、自分たちの息子が「ブルー」なのは…。
(…違和感が大きすぎるよなあ…)
 夕食を御馳走になってる時に、「ブルー」と呼べやしない、とハーレイにだって分かる。
 きっと両親は「嬉しくない」のに違いないから、馴染んだ名前で呼ぶのが礼儀だろう。
(…ヘンリーだったり、ディックだったり、マイケルだったり…)
 そんな名前で呼ぶしかないじゃないか、とハーレイは頭を抱えてしまった。
 今のブルーが違う名前なら、確実に、そうなっていたわけだから…。


(…神様に感謝するしかなさそうだよなあ…)
 前の名前で呼べることを、とハーレイは神に心から感謝の祈りを捧げる。
 「今のあいつの名前を、ブルーにして下さって、感謝します」と。
 お蔭で「ブルー」と遠慮なく呼べるし、この先もそう。
 前と同じに自然に呼び掛け、誰にも迷惑をかけることなく、ブルーと呼べる素晴らしい世界。
 もしも「ブルー」が違う名前なら、それを使うしかない世界になっていたから…。




            違う名前なら・了


※今のブルー君の名前は「ブルー」で、前と同じ。ハーレイ先生が呼ぶ名も「ブルー」。
 けれど名前が違っていたら、その名で呼ぶしかないのです。違う名前だと困りますよねv





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「ねえ、ハーレイ。何か、思い付いたら…」
 行動に移すべきかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「は?」
 どういう意味だ、とハーレイは首を傾げて問い返した。
「えっとね…。ちょっと聞きたくなったから…」
 聞いてみただけ、とブルーの方は、単なる好奇心らしい。
「ぼくは、どっちかと言えば、慎重な方でしょ?」
 思い付きで動くのとは違うタイプ、とブルーは自分を指す。
「でも、そうじゃない人も多いし、どっちなのかな、って」
「なるほどなあ…。確かに、お前は逆になるよな」
 前のお前もそうだった、とハーレイは大きく頷いた。
 今も昔も、ブルーは「石橋を叩いて渡る」タイプの人間。
 思い付いて直ぐに動きはしなくて、検討してから動き出す。


(…咄嗟の判断のように見えても、違うんだよな…)
 凄い速さで計算しているだけだ、とハーレイは承知だった。
 前のブルーは、メギドに飛んで行った時さえ、そうだろう。
(ずっと前から、そういう場面を想定していて…)
 似た状況に陥った時に、自分が決めていた通りに行動した。
 「自分の命は捨ててかかって、船を救う」というシナリオ。
(…前のあいつは、多すぎるくらいの危機を考慮して…)
 それに応じて「どう動くべきか」を、常に頭に置いていた。
(キースの野郎が、仮死状態のトォニィを、投げた時にも…)
 ブルーは素早く飛び出したけれど、とうに計算していた筈。
 「地球の男」が「取りそうな手段」を、頭の中で何通りも。
(…そうでなければ、目覚めて間もない、あの身体で…)
 飛び出せるものか、とハーレイには充分、分かっている。


 今のブルーは、前のブルーだった頃より、マシだった。
 「思い付いたら、行動に移す」部分が多い、楽観的な性格。
 とはいえ、一般人と比べた場合は、そうは言えない。
(…慎重すぎるくらいに、慎重なトコがドッサリ…)
 もっと気楽でいいと思うが、という気がしないでもない。
 だから、ハーレイは、こう言った。
「思い付いたら、即、行動でも、いいと思うぞ」
 時と場合によるんだがな、とブルーの資質も尊重しておく。
「しかし、思い付きというのも、大切なことを…」
 示す言葉が、ちゃんとあるだろ、とハーレイは続けた。
「思い立ったが吉日、ってヤツ、聞いていないか?」
「知ってる!」
「ほらな、直ぐに動いて損はしない、と言う人も…」
 あるって証拠だ、とハーレイはブルーに笑い掛けた。
「お前は慎重すぎるわけだが、逆もあるんだ」
 たまには逆もいいと思うぞ、とハーレイは太鼓判を押す。
 「これを機会に、考えてみろ」とも。
 そうしたら…。


「分かった! そうしてみる!」
 ブルーは椅子から立って、ハーレイの横にやって来た。
 けれども、何をするわけでもなく、立っているだけ。
「おい、どうしたんだ?」
「思い付いた通りに、やっているだけ!」
 気にしないで、とブルーは言うものの、気になってしまう。
 何か目的があるからこそで、その目的は何なのか。
(…心を読むのは簡単なんだが、マナー違反で…)
 やるべきことではないんだよな、とハーレイは溜息を零す。
 ブルーの魂胆が読めない以上、放っておくしかなさそうだ。
(…まあいい、俺も好きにするさ)
 茶でも飲むか、と紅茶のカップを手に取ると…。
『やった、もう少し! 早く飲んでよ!』
 ブルーの心が零れたはずみに、真意がポンと伝わって来た。


『ハーレイが口を開けた所が、チャンスだってば!』
 紅茶のカップを手ごと弾いて、ぼくが間に、と心の声。
 「上手くいったらキスが出来る」と、ブルーは野心の塊。
 「失敗したって、カップが割れるだけだよ」という考えも。
(そう来たか…!)
 分かっちまった、とブルーの狙いを知れば、対処あるのみ。
 油断しないで、口を開ける幅を狭くするのも手だけれど…。
「悪いが、アイスティーな気分になっちまった…」
 お母さんに頼んで、氷とストロー、とハーレイは注文する。
 「ついでにグラスもあると助かるんだが」と、厚かましく。
「ええっ…!?」
「そりゃまあ、礼儀知らずには違いないがな…」
 思い付いたら行動なんだ、とハーレイはニッコリと笑んだ。
 「たまにはこんな日だってあるさ」と、ブルーを封じて…。


             思い付いたら・了




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