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違う名前だったら
(…ぼくの名前は…)
 今でもブルーなんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくだった時も、ブルーだったから…)
 お蔭で、前の自分の記憶が戻った後にも、違和感は無かった。
 誰もブルーを「違う名前」で呼びはしないし、途惑ったりする心配は無い。
(もし、今のぼくが、違う名前だったら…)
 さぞかし困ったことだろう。
 家で両親に呼び掛けられても、反応が遅くなったかもしれない。
 学校などで友人が呼んでいたって、全く気付かないとかも有り得た。
(ぼくのことだと思わなくって…)
 呼ばれているのに、振り向きもしないで、教室を出て帰宅してしまうとか。
(…うーん…)
 それは困るよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
 「自分の名前は、ブルーではない」と理解していても、行動がついていきそうにない。
(…ブルーで良かった…)
 姿形が違っていても困るけれども、名前が違うというのも困ってしまう。
 果たして「前の自分」を上手く受け入れられたか、心配でもある。
(…今のぼくと、上手く噛み合わなくて…)
 どっちを優先すればいいのか、迷った挙句に、片方が疎かになって…。
(ハーレイが来て、呼んでいたって、返事しないで…)
 窓の向こうを眺めているとか、そういったことも起こり得た。
 両親が呼ぶ方の名前を優先した結果で、学校などでも使う名前が優先だろうから。


 名前というのは大切なもので、「今のブルー」を示している。
 違う名前が付いていたなら、そちらの方を優先すべき。
(…ぼくの違和感、大きいんだろうけど…)
 とにかく慣れてしまわないことには、世の中を上手く渡って行けない。
 今のハーレイにも、「今の名前で呼んで欲しいよ」と頼み込むしか無さそう。
(でないと、ハーレイを無視しちゃうとか…)
 それとは逆に、ハーレイが呼んでくれる「ブルー」にしか、反応しなくなるとか。
 大いにありそうな話なだけに、「今の名前」を大事にするには、心の中で改名するしかない。
(…マイケルだったり、ディックだったり…)
 前の自分には似合わなくても、受け入れる他に無いだろう。
 その名前で呼ぶ羽目に陥る「ハーレイ」は気の毒だけれども、仕方ない。
(…今のぼくの方が、改名するのも難しそうだし…)
 第一、子供の間は出来やしない、とブルーは充分、承知している。
 ほんの十四歳にしかならない子供が、「名前を変えたいんです」と書類を作ってみても…。
(…戸籍を管理する所に、提出しに行ったら…)
 係の人は、ブルーの顔をチラと眺めて、「保護者の方は?」と尋ねるだろう。
 「保護者の方に来て頂かないと、受理出来ません」と、門前払いに決まっている。
(……変えられないよ……)
 ハーレイと結婚出来る年になるまでは無理、と考えただけで溜息が出そう。
 そういう意味でも、今の自分も「ブルー」で良かった。
 名前で全く困りはしないし、皆が自然に「前の自分と同じ名前」で呼び掛けてくれる。


(…同じで良かった…)
 ホントに運が良かったよね、とブルーは心から思う。
 ついでに「今のハーレイ」の名前が、前と同じで「ハーレイ」なのも有難い。
(前と同じで、ウィリアム・ハーレイ…)
 呼ぶのに困ることは無いもの、と「今のハーレイ」の名前が嬉しい。
 もしも、前の自分の記憶が蘇った時、ハーレイの名前が違っていたなら、困っただろう。
(記憶が戻って来た瞬間は、とても痛くて…)
 聖痕の痛みで気絶したから、「今のハーレイ」も「ハーレイ」なのだと思い込んでいる。
 病院で意識を取り戻したって、まず「ハーレイ」を探しただろう。
(…だけどハーレイ、もう学校に戻っちゃってたし…)
 病院の看護師や、飛んで来た両親が口にする名は「ハーレイ」ではない。
(付き添って来てくれた先生の名前、教えられても…)
 それが「ハーレイ」だと分かったかどうか、まるで全く自信が持てない。
(救急車の中で、ずっと呼び掛けてくれてたの…)
 ハーレイだったと思いたくても、耳に入るのは「ハーレイ」とは違う名前の先生。
(…違う先生だったのかな、って…)
 ガッカリしている「当時の自分」が目に浮かぶよう。
 今のハーレイは、あれが初対面だったし、救急車に乗ってくれたとは限らない。
(最初の授業が待っているから、他の先生に、ぼくを任せて…)
 教室に残っていたことも起こり得た。
 もっとも、夜には「今のハーレイ」が来てくれたのだから、勘違いしたままではないけれど。


 そうは言っても、違う名前の「ハーレイ」が目の前に現れる。
(ただいま、ハーレイ、って…)
 呼び掛ける所までは変わらなくても、それから後の全てが変わっていたのに違いない。
 再会出来たことを、互いに喜び合った「ハーレイ」が、タイミングを計って、こう告げる。
 「おっと、すまない。今の名前は、それじゃないんだ」。
(…どういう意味なの、って…)
 目を丸くしながら、病院で聞かされた「違う名前の先生」の名をハーレイから聞く。
 「今の名前は、こういう名前になっていてな」と、「ハーレイらしくない」と思える名前。
(…マクレガーとか、ウィンストンとか…)
 耳に馴染まない姓を聞かされ、ファーストネームも「ウィリアム」ではない。
(ビリーだったり、チャールズだったり…)
 そんな名前は知りやしない、とポカンとしたって、それが「ハーレイ」。
 今のハーレイを示す名前で、他の名前には置き換えられない。
(…学校に来られるようになったら、そう呼んでくれ、って…)
 ハーレイに念を押されるわけで、きっとショックは、とても激しい。
(…違う名前になっちゃったんだ、って声も出なくて…)
 目の前にいる「マクレガー」だか、「チャールズ」だかを、まじまじと見る。
 見間違えようもない「ハーレイ」なのに、今の名前は「ウィンストン」や「ビリー」。
(…あんまりすぎるよ…!)
 間違えて呼んでしまいそう、と泣きそうになっても、「ハーレイ」と呼ぶことは出来ない。
 学校で「ハーレイ!」と呼んでみたって、返事が返りはしないだろう。


(…それにハーレイ、ぼくと違って、とうに大人で…)
 教師生活も、そこそこ長いし、改名することは難しい上、すべきでもない。
(どんなに、前のぼくと生きた時代が大事でも…)
 その思い出で「今のハーレイ」を縛り付けるのは、新しい命に失礼でもある。
 「ハーレイ」なのだと思いたければ、「今のブルー」だけが我慢で、そっと何処かで…。
(誰もいない時とか、ハーレイと結婚した後、ニックネームみたいに…)
 「ハーレイ」と呼ぶのが相応しい。
 幸い、見た目は「キャプテン・ハーレイ」なのだし、「ハーレイ」でも変には思われない。
(今のぼくに、もっと友達、多かったなら…)
 学校で「ハーレイ先生」と渾名を付けて、皆に広めて使うことも出来るのだけれど…。
(そんなに友達、多くないから、誰か代わりに…)
 思い付いてくれない限りは、「ハーレイ先生」は誕生してくれない。
(…マクレガー先生とか、ウィンストン先生とか…)
 そう呼ぶしかない毎日なんだ、と頭を抱えたくなるから、今の名前で良かったと思う。
 もしも、ハーレイが違う名前だったら、困る場面しか浮かばないから…。



           違う名前だったら・了


※今のブルー君の名前はブルー。前と同じで嬉しいですけど、ハーレイ先生も、そう。
 けれど、違う名前だったら、お互い、困りそう。「ハーレイ先生」は、渾名で呼べるかもv






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