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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(アルテメシアか…)
 いつか行きたい場所ではあるな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…地球からだと、かなり遠いんだが…)
 それもそうか、と少し可笑しくなった。
 遠く遥かな時の彼方で、アルテメシアから地球を目指した。
 ミュウと人類の間の溝や戦い、それらを抜きにしても、長い道のりだった。
(最後の長距離ワープにしたって、とんでもない距離を…)
 ワープしたんだ、とキャプテンだったからこそ、鮮明に分かる。
 あの時のワープの出発地点は、アルテメシアよりも、ずっと地球に近かった。
(今の時代の船で行っても、地球から行くには、ワープを数回…)
 繰り返さないと無理だ、と分かっている。
 前の生での記憶が戻って来た後、何度も見たのが「アルテメシア行き」のツアー広告。
 どのくらいの日数で行けて、何処を見て回る旅になるのか、興味津々で眺めている。


(行く時は、ブルーとの旅になるよな)
 俺一人でも行けないことはないんだが、とハーレイは苦笑した。
 ツアーの日数などからして、夏休み中とかならば、時間は作れる。
 けれども、「ちょっと旅行に行って来る」と言おうものなら、ブルーはフグになるだろう。
 頬っぺたをプウッと膨らませて怒って、「ハーレイ、酷い!」と睨むに違いない。
(その上、行先がアルテメシアではなあ…)
 ブルーの怒りは「酷い!」どころか「ずるい!」に変わって、プンスカ怒って、おかんむり。
 最悪の場合、「出て行ってよ!」と怒鳴って、クッションを投げて来ることも有り得る。
(…それでホントに帰っちまったら、それはそれで…)
 怒り散らすんだ、と分かっているから、今はまだ旅に出られはしない。
 アルテメシアでなくても、自分の楽しみのために行くのは、許して貰えないだろう。
(土産をドッサリ買って来たって、土産だけ、ちゃっかり貰っておいて…)
 文句三昧でフグになるんだ、とクスクスと笑う。
 アルテメシアに行くとしたなら、ブルーと一緒に暮らし始めた後にするしかない。


 とはいえ、アルテメシアに行くとなったら、ブルーと行くのが似合いではある。
 前の生での思い出の星で、一番長く、ブルーと暮らした場所でもあった。
(…ただなあ…)
 あいつと違って、俺の場合は「思い出の場所」が無いんだよな、と顎に手を当てた。
 前のブルーは、「タイプ・ブルー」に相応しいサイオンの使い手だった。
 雲海に潜む船の外にも、自在に出られた。
(海を眺めたり、テラフォーミングされた範囲の山に降りたり…)
 外に出た「ついで」に、自然を満喫していたようだ。
 空を見上げたり、星を仰いだり、通り過ぎて行く風に吹かれたりも。
(気に入りの場所も、あちこち、あったんだろうが…)
 俺は無いんだ、と少し悲しい。
 他の仲間も同じだったけれども、船の外には出て行けない。
 潜入班の者たちだけが、外の世界に「思い出の場所」を持っていた。


 そんな事情で、ハーレイは「思い出の場所」を持たない。
 アルテメシアまで旅をしたって、もう一度、見たい場所も、行きたい場所も思い付かない。
(ツアーで行っても、いいくらいだよな…)
 お勧めコースを観光して回って、それでおしまいの「ごく普通の旅」。
 今の時代ならではの「名物料理」があったら、それも、もちろん食べられる。
(…いっそ、そういう旅にするかな…)
 それとも個人旅行で、ブルーと二人で出掛けてゆくか、と悩ましい。
 ブルーの方には「行きたい場所」があるかもしれないし、それに合わせて旅程を組む。
(…あいつ次第か…)
 どうせ行くなら、あいつが一緒なんだしな、と思うけれども、ふと浮かんだ考え。


(そうだ、記念墓地にある、俺の墓標に…)
 散々、似合わないと言われた「薔薇の花」をドッサリ供えてやろう、とクスリと笑う。
 「薔薇の花びらのジャム」を配るクジの箱さえ、前のハーレイの前は素通りだった。
 それほど「似合わない」とされた花でも、今の時代は、墓標に供えられている。
(よし、コレだ!)
 アルテメシアに着いたら、早速、花屋に出掛けないとな、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブルーと一緒に店に入って、「薔薇の花で花束と花輪を作って貰えますか」と注文しよう。
 うんと豪華で見栄えのするものを、と付け加えるのも忘れない。
 そして花束と花輪が出来たら、ブルーと二人で供えに行こう。
 「薔薇の花びらのジャム」が似合わないと言われた、「キャプテン・ハーレイ」の墓標に。
 誰一人として気付かなくても、ブルーとハーレイだけに分かる、最高のジョークなのだから…。



         いつか行くなら・了


※いつかは行ってみたい、アルテメシア。けれど、思い出の場所が無いハーレイ先生。
 ツアーにするのも良さそうですけど、記念墓地で薔薇を供えるんなら、個人旅行ですねv






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(ウサギになりたかったんだよね…)
 小さかった頃は、とブルーが、ふと考えたこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(幼稚園にいたウサギ、元気そうだったから…)
 ウサギになれたら楽しそうだ、と思って、仲間入りがしたかった。
 あの時、ウサギになっていたなら、ハーレイとの出会いは難しそう。
(…前にハーレイに、この話をしたら、仲間になってくれるって…)
 ハーレイは頼もしい言葉をくれたけれども、出会いからして、人間同士のようにはいかない。
 それに、ハーレイも一緒にウサギにならない限り、野原で暮らすウサギは厳しいだろう。
(ぼくが自分で、巣穴を掘って、ご飯を探して頑張らないと…)
 生きてゆけないから、幼稚園にいたウサギみたいに、飼われているウサギが向いている。
 ウサギ用の小屋を持っていて、庭で気ままに跳ね回るウサギがいい。
(…庭にいるトコへ、ハーレイが通り掛かって…)
 見付けてくれたら出会えるわけで、その後の暮らしは、ハーレイ次第。
 揃ってウサギになってもいいし、ハーレイが貰い受けてくれて、飼ってくれるのも良さそう。
(ハーレイと一緒に暮らせるんなら、どっちでもいいよね)
 野原暮らしのウサギになっても、ハーレイの家のペットでも幸せなのに違いない。


 ウサギの暮らしも悪くはなさそう、と思うけれども、出会うチャンスが少ないのが難点。
(ハーレイの散歩と、ぼくが庭に出ている時間が合わないと…)
 お互い、気付かないまま、擦れ違ってしまう。
(…うーん…。ぼくがウサギじゃ、難しいかな…)
 ウサギは散歩に行かない生き物だしね、とブルーの頭に浮かんだのは、別の生き物。
 毎日、散歩に行くと言ったら、犬だろう。
(ぼくが公園で散歩してたら、ハーレイがジョギングで走って来るんだよ)
 そのハーレイに「やっと会えたよ!」と叫んだならば、気付いて貰える。
 声は犬でも、姿形も人でなくても。
(だってハーレイ、どんな姿になった、ぼくでも…)
 見付けられると言っているから、大丈夫。
 「おっ、ブルー!?」と、大急ぎで駆けて来るだろう。
 リードを握った飼い主の方に、まずは挨拶、それから「犬のブルー」にも…。
(元気そうな子だな、と頭を撫でてくれそうだよね!)
 それとも「お利口そうな子ですね」と、飼い主を見ながら言うのだろうか。
 どっちにしたって、自然な出会いで、ハーレイの口から「ブルー」の名前が出たら最高。
(犬のぼく、名前が何かは分からないもの…)
 飼い主が決めた名前なのだし、「ブルー」になるとは限らない。
 ハーレイは、飼い主に「この子の名前は、何でしょう?」と尋ねて、その名で呼ぶ。
 名前が「ブルー」でなかった時には、「ブルー」とは呼んで貰えない。
 あの懐かしい声で、「ブルー」と呼ばれたくても、違う名前しか出て来ない。


(…それって、悲しい…)
 せっかく再会出来たというのに、ハーレイは「ブルー」と呼んでくれない。
 おまけに、ジョギングの途中なのだし、そうそう長くはいてくれないだろう。
(ぼくの飼い主だって、変だと思いそうだし…)
 いくらハーレイが「犬好き」に見えたとしても、立ち話出来るのは、五分ほどかもしれない。
(ハーレイも犬を連れていたなら、もっと、ゆっくり…)
 飼い主同士で話せるのにね、と項垂れたはずみに、掠めた考え。
(…ハーレイの方も、犬だったら…?)
 犬同士、公園で出会ったのなら、と思考が別の方向を向いた。
 ハーレイも犬に生まれ変わっていて、散歩コースで、「ブルー」と出会う。
 そっちの方なら、もう少し長く一緒にいられそう。
 再会した後も、散歩の時間が合ったら、何度でも会える。
 犬は毎日、散歩するから、飼い主同士で時間合わせをしてくれれば、毎日でも。
(流石に、雨の日は無理だろうけど…)
 ぼくが犬なら、小型犬だろうし、と白くて小さな犬を思い浮かべた。
 様々な種類の犬がいるから、どれになるかは分からない。
(ハーレイは、きっと、もっと大きい種類の犬で…)
 頼もしそうな犬なんだよね、と大型犬を想像していて、ハタと気付いた。
 小型の犬と、大型の犬が、公園で出会った場合、飼い主たちは、どう動くだろう。


(ハーレイの飼い主、リードを、グッと握って…)
 犬のハーレイが「犬のブルー」を驚かせないように、距離を取りそう。
 ハーレイが大人しい種類の犬にしたって、用心に越したことはない。
(犬にも相性、あるみたいだから…)
 万一があれば、ハーレイは「ブルー」に吠えてかかるし、それは良くない。
 犬のブルーを飼っている方も、大型犬のハーレイを目にした途端に、回れ右して…。
(今日は、こっちに行きましょうね、って…)
 ハーレイを避けて、急ぎ足で公園を出るかもしれない。
 そうなってしまえば、「犬のハーレイ」とは、出会っただけでおしまい。
(待って、ハーレイ! って、ぼくが叫んでも…)
 ブルーの飼い主には、無謀に思えてしまうのだろう。
 大型犬の怖さを知らない「ブルー」が、喧嘩を吹っ掛けていると勘違いして。
(縄張り意識、あるものね…)
 いつもの散歩コースを変えられたのだし、「あの犬のせいだ!」と怒り出したとか。
(そうじゃないのに、犬の言葉は、人間に通じないから…)
 ハーレイの飼い主の方も、「これはまずい」と考えそう。
 自分の犬が「小さな犬」を挑発したかのようで、何か起きたら、大型犬だけに大惨事になる。
(どっちかのリード、離れちゃったら…)
 大型犬のハーレイは全力疾走、ブルーをガップリ噛むかもしれない。
 走り出したのがブルーの方でも、犬のハーレイに挑みかかって、ガブリとやられる。


(…両方の飼い主、そう思うよね…)
 犬同士だったら起こりそうだし、と恐ろしくなった。
 ほんの一瞬、再会しただけで、次は無い出会い。
 飼い主は散歩コースを変えてしまうか、遠くから見掛けて、その日はコース変更になる。
(…そんなの、酷い…!)
 飼い主がいたなら、そうなっちゃうんだ、と思うものだから、人間で良かった。
 小さかった頃の夢が叶って、ウサギになっていたって、上手く運びはしなかっただろう。
(…飼い主がいたなら、ウサギ人生、飼い主次第になっちゃうものね…)
 神様に感謝しなくっちゃ、とブルーは聖痕をくれた神に向かって、お礼の言葉を繰り返す。
 「人間にしてくれて、ありがとう!」と、ハーレイの分も合わせて、何回も…。



※ウサギになりたかったブルー君。ウサギよりも犬の方がいい、と考えたのですけど。
 犬同士で出会った場合は、その後のことは、飼い主次第。人間に生まれるのが一番ですv






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(何に生まれたって、あいつを見付け出せる自信はだ…)
 あるんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(例えば、犬や猫にしたって、ウサギだったり、鳥になっていても…)
 必ず見付けられるし、出会えるだろう、と考える。
 ブルーとの絆は強いものだけに、人間として出会えなくても、きっと出会える。
(もしも犬だと、俺とは種類が違いそうだぞ)
 俺は大型の犬で、あいつは小さな種類の犬で、と想像しただけで微笑ましい。
 犬に生まれたブルーも、白い犬なのに違いない。
(ふわふわしてるか、毛足が長いか、それとも…)
 どんなのにしも可愛いんだ、と「犬のブルー」を頭に描く。
 アルビノでなくても、真っ白な犬で、手入れが行き届いていることだろう。
(頭にリボンを結んでるとかも、あるかもしれないな…)
 美容室に連れて行って貰ったりしたら、そうなりそう。
 ブルーが「男の子」の犬であっても、見栄えがするなら頭にリボン。
(飼い主が色々、コレクションしたのを日替わりで…)
 毎朝、頭にキュッと結んで、それから散歩なんだ、と「散歩に行くブルー」が見えるよう。


 犬のブルーは愛らしいけども、ハーレイの方は違っているという気がする。
 大型犬だし、可愛く見えるのは子犬時代だけ。
(犬のあいつと出会う頃には、育っちまってて…)
 ブルーの何倍あるだろうか、と思うくらいに体格からして差があるだろう。
 外見にしても、獰猛そうでなければマシだと言える。
(大型犬にも、大人しいのから、猟犬とかまでいるんだし…)
 出来れば大人しい種類に生まれたいもんだ、とハーレイは肩を軽く竦める。
 見るからに恐ろしそうな犬だった時は、犬のブルーの飼い主に距離を取られてしまう。
 ブルーが「あっ、ハーレイ!」と気付いて、嬉しそうに鳴いていたって、近付けてくれない。
(危ないわよ、とリードをグッと握って…)
 足早に去って、公園だったら出てゆくだろうし、路上だったら遠ざかってゆく。
(…ほんの一瞬だけの出会いで…)
 次があっても同じことだぞ、と結果は考えるまでもない。
 「犬のブルー」が、獰猛そうな大型犬に向かって鳴くのは、飼い主にすれば好ましくない。
(この子が、怖さに気付いていないだけなんだ、と…)
 勘違いをして、散歩コースを変えてしまえば、もう会うことは出来なくなる。
 「犬のハーレイ」の飼い主にしたって、トラブルは避けたいと考えそう。
(…俺がブルーを噛んじまったら、大変なことになっちまうからなあ…)
 散歩コースを変更するのは、ハーレイの飼い主の方かもしれない。
 他の犬が多い公園よりも、人の少ない場所の散歩に切り替えるとか。


 如何にもありそうな、「出会えなくなる」結末。
 犬のブルーと犬種が違って、「犬のハーレイ」が怖そうな見た目になっていれば起きる。
(大型犬でも、大人しい方で願いたいぞ…)
 どんな性格をしている犬かは、飼い主にしか分からないし、とハーレイは溜息をついた。
 前の自分も、人によっては「怖そうな人だ」と見ていただろうか。
 ブリッジで指揮を執る所だけしか知らなかったら、有り得そうではある。
(眉間に皺で、難しい顔で…)
 シャングリラの中を歩いていたのが前の自分で、怖そうな犬と同じかもしれない。
(犬に生まれた俺の場合も、猟犬になっていたって、大人しい性格で…)
 訓練でボールなどはキャッチ出来ても、動物を追うことはしないのだろう。
 もちろん「小型犬のブルー」を噛みはしないし、出会えたのなら、一緒に遊ぶだけ。
(仲良くなれたら、飼い主同士も、話が弾んで…)
 散歩コースや時間を合わせてくれて、会える日がグンと増えてくれそう。
 「大人しい犬なんです」とアピールする機会は、是非とも欲しい。
 ブルーの飼い主が足早に去って、二度と出会えなくなるのは悲しすぎる。


(違う種類の犬でも、仲良くなれるケースは多いからなあ…)
 犬と猿でも仲良くなるって話も聞くし、とハーレイは思う。
 「犬猿の仲」という言葉があるのだけれども、仲がいい犬と猿とは存在する。
(…俺の飼い主と、ブルーの飼い主に期待するしか…)
 判断違いが起きちまったら、おしまいなんだ、とゾッとしてから、ハタと気付いた。
 犬のブルーと仲良くなれても、出会える時間は散歩の時しか無さそう。
 それ以外の時間は、それぞれの家で過ごしているしかない。
(雨が降ったら、散歩は行かないだろうし…)
 寒すぎる日とか、暑すぎる日にも、犬のブルーは「家の近く」で散歩を済ませるだろう。
 大型犬のハーレイと違って、暑さ寒さに弱いのは容易に分かる。
(…そうなってくると、せっかく、あいつと再会出来ても…)
 俺たちの人生、飼い主次第か、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 犬の場合は「犬生」だけれども、全てが飼い主に左右されてしまう。
 散歩コースを変えるにしても、合わせるにしても、ハーレイとブルーは蚊帳の外になる。


(ついでに、一緒に暮らすなんぞは、夢のまた夢…)
 雄同士だしな、とハーレイは頭を抱えたくなった。
 犬のブルーが雌にしたって、犬種が違う時点で絶望的。
(交配したい、と思う飼い主、いないだろうし…)
 仲が良さそうだから、と例外を認めるにしても、一緒に飼ってはくれないだろう。
 子供が出来るシーズンにだけ、ほんの数日、どちらかの家で過ごしておしまい。
(生まれて来た子も、ブルーの家で育っていくだけで…)
 俺は顔さえ見られないんだ、と思うものだから、犬に生まれ変わるのは駄目かもしれない。
(飼い主がいたら、お互い、どうにも出来んからなあ…)
 犬は駄目だ、とハーレイは神に感謝した。
 今の生で犬に生まれていたなら、ハーレイもブルーも、悲しい思いをすることになった。
(何に生まれても、あいつを見付け出せるんだが…)
 飼い主のいない生き物で頼む、と心から願う。
 ハーレイもブルーも、飼い主がいたら、自由に生きるのは不可能だから…。



           飼い主がいたら・了


※何に生まれても、ブルー君を見付ける自信があるハーレイ先生。犬や鳥でも大丈夫。
 けれど気付いてしまった現実。飼い主がいる場合は、思い通りには生きられませんよねv







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(…ぼくの名前は…)
 今でもブルーなんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくだった時も、ブルーだったから…)
 お蔭で、前の自分の記憶が戻った後にも、違和感は無かった。
 誰もブルーを「違う名前」で呼びはしないし、途惑ったりする心配は無い。
(もし、今のぼくが、違う名前だったら…)
 さぞかし困ったことだろう。
 家で両親に呼び掛けられても、反応が遅くなったかもしれない。
 学校などで友人が呼んでいたって、全く気付かないとかも有り得た。
(ぼくのことだと思わなくって…)
 呼ばれているのに、振り向きもしないで、教室を出て帰宅してしまうとか。
(…うーん…)
 それは困るよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
 「自分の名前は、ブルーではない」と理解していても、行動がついていきそうにない。
(…ブルーで良かった…)
 姿形が違っていても困るけれども、名前が違うというのも困ってしまう。
 果たして「前の自分」を上手く受け入れられたか、心配でもある。
(…今のぼくと、上手く噛み合わなくて…)
 どっちを優先すればいいのか、迷った挙句に、片方が疎かになって…。
(ハーレイが来て、呼んでいたって、返事しないで…)
 窓の向こうを眺めているとか、そういったことも起こり得た。
 両親が呼ぶ方の名前を優先した結果で、学校などでも使う名前が優先だろうから。


 名前というのは大切なもので、「今のブルー」を示している。
 違う名前が付いていたなら、そちらの方を優先すべき。
(…ぼくの違和感、大きいんだろうけど…)
 とにかく慣れてしまわないことには、世の中を上手く渡って行けない。
 今のハーレイにも、「今の名前で呼んで欲しいよ」と頼み込むしか無さそう。
(でないと、ハーレイを無視しちゃうとか…)
 それとは逆に、ハーレイが呼んでくれる「ブルー」にしか、反応しなくなるとか。
 大いにありそうな話なだけに、「今の名前」を大事にするには、心の中で改名するしかない。
(…マイケルだったり、ディックだったり…)
 前の自分には似合わなくても、受け入れる他に無いだろう。
 その名前で呼ぶ羽目に陥る「ハーレイ」は気の毒だけれども、仕方ない。
(…今のぼくの方が、改名するのも難しそうだし…)
 第一、子供の間は出来やしない、とブルーは充分、承知している。
 ほんの十四歳にしかならない子供が、「名前を変えたいんです」と書類を作ってみても…。
(…戸籍を管理する所に、提出しに行ったら…)
 係の人は、ブルーの顔をチラと眺めて、「保護者の方は?」と尋ねるだろう。
 「保護者の方に来て頂かないと、受理出来ません」と、門前払いに決まっている。
(……変えられないよ……)
 ハーレイと結婚出来る年になるまでは無理、と考えただけで溜息が出そう。
 そういう意味でも、今の自分も「ブルー」で良かった。
 名前で全く困りはしないし、皆が自然に「前の自分と同じ名前」で呼び掛けてくれる。


(…同じで良かった…)
 ホントに運が良かったよね、とブルーは心から思う。
 ついでに「今のハーレイ」の名前が、前と同じで「ハーレイ」なのも有難い。
(前と同じで、ウィリアム・ハーレイ…)
 呼ぶのに困ることは無いもの、と「今のハーレイ」の名前が嬉しい。
 もしも、前の自分の記憶が蘇った時、ハーレイの名前が違っていたなら、困っただろう。
(記憶が戻って来た瞬間は、とても痛くて…)
 聖痕の痛みで気絶したから、「今のハーレイ」も「ハーレイ」なのだと思い込んでいる。
 病院で意識を取り戻したって、まず「ハーレイ」を探しただろう。
(…だけどハーレイ、もう学校に戻っちゃってたし…)
 病院の看護師や、飛んで来た両親が口にする名は「ハーレイ」ではない。
(付き添って来てくれた先生の名前、教えられても…)
 それが「ハーレイ」だと分かったかどうか、まるで全く自信が持てない。
(救急車の中で、ずっと呼び掛けてくれてたの…)
 ハーレイだったと思いたくても、耳に入るのは「ハーレイ」とは違う名前の先生。
(…違う先生だったのかな、って…)
 ガッカリしている「当時の自分」が目に浮かぶよう。
 今のハーレイは、あれが初対面だったし、救急車に乗ってくれたとは限らない。
(最初の授業が待っているから、他の先生に、ぼくを任せて…)
 教室に残っていたことも起こり得た。
 もっとも、夜には「今のハーレイ」が来てくれたのだから、勘違いしたままではないけれど。


 そうは言っても、違う名前の「ハーレイ」が目の前に現れる。
(ただいま、ハーレイ、って…)
 呼び掛ける所までは変わらなくても、それから後の全てが変わっていたのに違いない。
 再会出来たことを、互いに喜び合った「ハーレイ」が、タイミングを計って、こう告げる。
 「おっと、すまない。今の名前は、それじゃないんだ」。
(…どういう意味なの、って…)
 目を丸くしながら、病院で聞かされた「違う名前の先生」の名をハーレイから聞く。
 「今の名前は、こういう名前になっていてな」と、「ハーレイらしくない」と思える名前。
(…マクレガーとか、ウィンストンとか…)
 耳に馴染まない姓を聞かされ、ファーストネームも「ウィリアム」ではない。
(ビリーだったり、チャールズだったり…)
 そんな名前は知りやしない、とポカンとしたって、それが「ハーレイ」。
 今のハーレイを示す名前で、他の名前には置き換えられない。
(…学校に来られるようになったら、そう呼んでくれ、って…)
 ハーレイに念を押されるわけで、きっとショックは、とても激しい。
(…違う名前になっちゃったんだ、って声も出なくて…)
 目の前にいる「マクレガー」だか、「チャールズ」だかを、まじまじと見る。
 見間違えようもない「ハーレイ」なのに、今の名前は「ウィンストン」や「ビリー」。
(…あんまりすぎるよ…!)
 間違えて呼んでしまいそう、と泣きそうになっても、「ハーレイ」と呼ぶことは出来ない。
 学校で「ハーレイ!」と呼んでみたって、返事が返りはしないだろう。


(…それにハーレイ、ぼくと違って、とうに大人で…)
 教師生活も、そこそこ長いし、改名することは難しい上、すべきでもない。
(どんなに、前のぼくと生きた時代が大事でも…)
 その思い出で「今のハーレイ」を縛り付けるのは、新しい命に失礼でもある。
 「ハーレイ」なのだと思いたければ、「今のブルー」だけが我慢で、そっと何処かで…。
(誰もいない時とか、ハーレイと結婚した後、ニックネームみたいに…)
 「ハーレイ」と呼ぶのが相応しい。
 幸い、見た目は「キャプテン・ハーレイ」なのだし、「ハーレイ」でも変には思われない。
(今のぼくに、もっと友達、多かったなら…)
 学校で「ハーレイ先生」と渾名を付けて、皆に広めて使うことも出来るのだけれど…。
(そんなに友達、多くないから、誰か代わりに…)
 思い付いてくれない限りは、「ハーレイ先生」は誕生してくれない。
(…マクレガー先生とか、ウィンストン先生とか…)
 そう呼ぶしかない毎日なんだ、と頭を抱えたくなるから、今の名前で良かったと思う。
 もしも、ハーレイが違う名前だったら、困る場面しか浮かばないから…。



           違う名前だったら・了


※今のブルー君の名前はブルー。前と同じで嬉しいですけど、ハーレイ先生も、そう。
 けれど、違う名前だったら、お互い、困りそう。「ハーレイ先生」は、渾名で呼べるかもv






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(今でもブルーなんだよな…)
 あいつの名前、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(違う名前になっていたって、不思議じゃないんだが…)
 有難いことに「ブルー」なんだ、と嬉しくなる。
 今のブルーの名前の由来は、前のブルーと同じアルビノだからと聞いた。
 アルビノの息子が生まれて来た時、両親は迷わず「ブルー」と名付けた。
(前のあいつは、今の時代は英雄なんだし…)
 ブルーのような子供が生まれた場合は、選びたくなる親が多いだろう。
(もっとも、育てば、名前負けして…)
 ソルジャー・ブルーとは似ても似つかない、ごく平凡な子になるかもしれない。
 外見はもちろん、頭脳などにしても、ソルジャー・ブルーと同等に育つのは難しそう。
(幸い、あいつは本物だから…)
 髪型までが「ソルジャー・ブルー風」で、人目を引く子供になりつつある。
 前のブルーと同じ背丈に育つ頃には、文字通り、瓜二つになっていることだろう。


 美しく育ち上がった「今のブルー」を、今のハーレイは連れて歩ける。
 結婚する前にデートに行っても、注目を集めそうな「ソルジャー・ブルー」を。
(俺が「ブルー」と呼んでいたって…)
 本名だと思ってくれる人が、どれだけいるかは分からない。
 そっくりなだけに、「ブルー」が愛称だということは有り得る。
(正真正銘、ブルーなんだが…)
 信じて貰えないかもしれないな、と可笑しくなった。
 行く先々で擦れ違う人たちの耳に届いた名前が、「ブルー」であっても。
(振り返りながら、本名は何なのか考えるヤツらも…)
 きっといるぞ、と考えるだけで面白い。
 逆に「アルビノだから本名だろうけど、運のいい子だ」と眺める人もいるに違いない。
(名前負けしないで、ソルジャー・ブルーそっくりに育ったんだし…)
 親を恨まずに済んで良かったな、と一足飛びの思考をしてみたりして。
 確かに「ブルー」が、どう育つかは、生まれた時には分からない。
 「ブルーと名付けて育てることは、ある意味、賭けな部分が大きい。


 今のブルーの両親は、「名付け」の賭けの勝利者と言える。
 生まれて来た子は、幼い頃から「ソルジャー・ブルー」に似ていたらしい。
(小さなソルジャー・ブルーだ、と公園などで可愛がられて…)
 初対面の人から、お菓子を貰ったりして、人気を集めていたようだ。
 連れて歩く父や母の方でも、鼻高々だったことだろう。
(お名前は、と尋ねられた時は、嬉しかったろうなあ…)
 「この子の名前は、ブルーなんです」と答えられるし、聞かされた人の方も驚く。
「 あらまあ…! 本物のブルー君だったのねえ!」などと、目を真ん丸にしたりして。
(…大したもんだ…)
 あいつの両親の名付け方は、と思うけれども、アルビノなだけに、賭けをしただけ。
 「どう育つのか」までは考えないまま、「ブルー」と名付けることは「賭け」でしかない。
 まるで全く心配しないで「迷わなかった」のなら、大物だろう。
(…もっとも、神様のお計らいで…)
 両親の頭に浮かぶ名前は「ブルー」しか無くて、他の候補は無かった可能性もある。
 生まれる前には考えていても、アルビノの子だと分かった時点で、「ブルー」の名前が…。
(頭にストンと落っこちて来て…)
 他の候補は消えてしまって、それっきりになってしまったろうか。


(…いつ頃、ブルーに決まったんだか…)
 その辺の話は聞いていないな、とハーレイは顎に手を当てた。
 もしかしたら、今のブルー自身も、耳にしたことは無いかもしれない。
 「ブルー」と決める前に「名前の候補」が存在したのか、あったとしたなら何なのか。
(…ボツにしちまった名前なんかは、話さないしなあ…)
 俺にしたって聞いちゃいないぞ、と自分の名前を振り返ってみる。
 今のハーレイも「ハーレイ」だけども、前と同じで「姓」が「ハーレイ」。
 名前の方は「ウィリアム」なわけで、これまた前と同じ「ウィリアム」。
(ちゃんと、ウィリアム・ハーレイなんだ…)
 だから「ブルー」も、神様のお計らいだろう、と見当がつく。
 とはいえ、ハーレイにしても「ウィリアム」以外に、名前の候補があったかは知らない。
(親父に聞いたら、とんでもないのが…)
 出て来るのかもな、と釣り好きの父の顔が浮かんだ。
 釣り好きで、釣りの名人なだけに、名付けのセンスが常識外れで…。
(…釣りの名人の名前にあやかりたいなら、まだマシな方で…)
 お気に入りの釣りのスポットを選ぶとかもありそう。
 贔屓にしている釣り船の名前を捻ってみたり、そのまま貰って名付けたり。


(……うーむ……)
 あの親父ならやりかねんぞ、と思うものだから、「ブルー」も気になる。
 両親が他の候補を持っていたのか、無かったのか。
(…あった場合は、今のあいつの名前は…)
 ブルーじゃなかったわけでだな、と「もしも」の世界を想像した。
 神様のお計らいが無かったならば、ブルーには違う名前が付けられていた。
(見た目が今と全く同じで、前のあいつがチビだった頃に瓜二つでも…)
 ブルーの名前は「ブルー」ではない。
 両親のセンスで付けられた名で、学校でも名前は「その名前」になる。
(…俺が教室で、今のあいつと再会して…)
 ブルーの身体に聖痕が出ても、病院でカルテに書かれる名前は「ブルー」ではなくて…。
(…俺が教室で、「この生徒の名前は?」と尋ねても…)
 パニックだった生徒たちが口にする名は、「ブルー」とは違う名前だったろう。
(…何処から見たって、あいつなんだが…)
 俺にしてみりゃ「ブルー」なのに、と混乱しそうな光景がハッキリと見える。
 やっと出会えた愛おしい人が、知らない名前になっているのだから。


 今のブルーが「違う名前」なら、再会した時の感動と共に「衝撃」も来そう。
(ブルーなんだが、ブルーじゃないんだ、と…)
 過ぎてしまった長い歳月を思い知らされ、打ちのめされる。
 「ブルー」が「ブルー」でなくなるくらいに、時が流れてしまったのだ、と。
(…でもって、あいつに呼び掛ける時も…)
 二人きりで過ごす時を除けば、「違う名前」を使うしかない。
 ブルーの両親は事情を知っているのだけれども、自分たちの息子が「ブルー」なのは…。
(…違和感が大きすぎるよなあ…)
 夕食を御馳走になってる時に、「ブルー」と呼べやしない、とハーレイにだって分かる。
 きっと両親は「嬉しくない」のに違いないから、馴染んだ名前で呼ぶのが礼儀だろう。
(…ヘンリーだったり、ディックだったり、マイケルだったり…)
 そんな名前で呼ぶしかないじゃないか、とハーレイは頭を抱えてしまった。
 今のブルーが違う名前なら、確実に、そうなっていたわけだから…。


(…神様に感謝するしかなさそうだよなあ…)
 前の名前で呼べることを、とハーレイは神に心から感謝の祈りを捧げる。
 「今のあいつの名前を、ブルーにして下さって、感謝します」と。
 お蔭で「ブルー」と遠慮なく呼べるし、この先もそう。
 前と同じに自然に呼び掛け、誰にも迷惑をかけることなく、ブルーと呼べる素晴らしい世界。
 もしも「ブルー」が違う名前なら、それを使うしかない世界になっていたから…。




            違う名前なら・了


※今のブルー君の名前は「ブルー」で、前と同じ。ハーレイ先生が呼ぶ名も「ブルー」。
 けれど名前が違っていたら、その名で呼ぶしかないのです。違う名前だと困りますよねv





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