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(今の人生、やり直しみたいなモンなんだよなあ…)
 実際には前の続きなんだが、とハーレイが、ふと考えたこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(考え方によっては、やり直しとも言えるだろう)
 前の生では出来なかった沢山のことを、青い地球の上でやっていけるし、やり直し。
 しかも愛おしい人も一緒で、素晴らしい人生を送ってゆけそう。
(…前のあいつを失くした時には、俺の人生、真っ暗になってしまって…)
 それから後は、どう生きていたかも記憶が定かではない。
 白いシャングリラのキャプテンとしては、全て覚えているのだけれども、他が怪しい。
(個人的なことになったら、他人事のようで…)
 傍観者でしかないんだよな、と思うくらいに、「自分」を捨ててしまっていた。
 前のブルーが「いない」人生、それには意味が無かったから。
(今から、人生、やり直せるのは、有難いぞ)
 ちょいと時代がズレちまったが、と苦笑はしても、青く蘇った地球での人生。
 時代が少しズレていようが、前の自分が「英雄扱い」の世界だろうが、構わない。
 愛おしい人と「やり直せる」なら、例え地獄の底であろうと、きっと自分は幸せだろう。
(…とはいえ、地獄は御免蒙りたいが…)
 前の生だけで充分だしな、と時の彼方を思い返して、別の考えがヒョイと浮かんだ。
 同じ「人生」を「やり直す」のなら、前の生だと、どうなるのだろう、と。
 遠く遥かな時の彼方に、「前の自分」の人生がある。
 「キャプテン・ハーレイ」として生きた時代で、その「人生」を、やり直すという考え。
(転生モノってヤツが、色々とあって…)
 死んだ人間が、生まれ変わって「別の人生」を生きてゆくという物語がある。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わるのも、「転生モノ」でいいのだろうか。


(……ふうむ……)
 その手の知識に詳しくはないが、とハーレイは少し首を捻った。
 「転生モノ」に該当するのか、しないのかまでは、知識不足で分からない。
 古典の教師をやっている上、現代小説なども好きだとはいえ、範疇外の疑問になる。
(その手の知識は、持っちゃいないし…)
 まあいいとしよう、と「転生モノ」かどうかは、棚上げにして先に進んだ。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わって、その人生を生きてみるのも、興味深い。
(生まれ変わりなんだし、今の俺と、条件は変わらないんだよなあ?)
 何処の時点で記憶があるかは、運次第だが、と想像の翼を羽ばたかせる。
(生まれつき持っていたっていいし、途中からでもいいんだが…)
 先が分かっている人生だしな、とハーレイはコーヒーのカップを傾けた。
 「今の自分」の記憶を持っているなら、「人生の先」は分かっている。
 前のブルーと「メギドの炎で燃え上がる地獄」で出会って、後にメギドのせいで別れた。
(…まるでメギドが鍵のようだな…)
 メギドが人生の節目とは酷い、と思いはしても、今では「済んでしまったこと」でしかない。
 「仕方なかった」で終わりなのだけれど、「やり直し」ならば「違って来る」。
(転生モノの醍醐味と言えば、そういった点で…)
 定型的な筈の物語が、「転生」という要素で、ガラリと変わってゆくのが王道だろう。
 「本来、こういった人は、こう生きる」と誰もが頷く所が、人が変わって、生き方も変わる。
 「今の自分」が「前の自分」に「生まれ変わった」場合にしたって、当て嵌まりそう。
(…メギドの辺りを、ちょいとだな…)
 今の俺ならではの知識でもって、書き換えてやれば、と思わず笑みを湛えてしまった。
 始まりの方の「メギド」は、そのままにしておいても、問題は無い。
 ちょっぴり欲を出していいなら、当時は「持ち合わせなかった」記憶をプラスしてやれば…。
(閉じ込められてたシェルターが、壊れちまってて…)
 救出が間に合わなかった仲間を、先回りして何人も救い出せる。
 何処のシェルターが「無事に残っていたか」は、今の自分が覚えている。
 救出するのを後に回せば、壊れていたシェルターが「無事な間」に、きっと救える。


(よし、物語の出だしは、なかなかに…)
 良さそうじゃないか、とハーレイは自画自賛した。
 滑り出しとしては上々、幸先のいいスタートを切ることが出来そう。
(其処から先は、多分、大して…)
 大きく変わりはしないんだよな、と時の彼方を思い返した。
 幸いなことに、人類軍との「本格的な戦闘」は、アルテメシアに着くまで無かった。
 アルテメシアでも、ジョミーを救出するまでの間は、平穏な日々が流れていた。
(今の俺の記憶で救い出せるのは、そう多くなくて…)
 ミュウの子供を助ける程度だよな、と「助け損ねた子供」の数だけ指を折ってみる。
(…恐らく、この子たちの全てを…)
 俺の記憶で助けられるぞ、と「救出失敗」の理由を挙げて、ハーレイは大きく頷いた。
(そうなりゃ、ジョミーの救出にしても…)
 先回り出来る部分はありそうだが、と思うけれども、その件は、後でいいだろう。
(……問題は、メギド……)
 ナスカで出て来た、例のヤツだ、と忌まわしい惑星破壊兵器に舌打ちをする。
 流石に「メギド」は、今の自分の記憶があっても、手も足も出ない。
 使える兵器は限られているし、白いシャングリラでは「破壊出来ない」。
(…壊せないなら、アレが来るのを…)
 阻むか、キースがメギドを持ち出す前に、シャングリラでナスカから脱出するか。
(現実的な選択としては、後者で…)
 ナスカに残ろうとした者たちを、全て殴り倒してでも、強引に船に乗り込ませる。
(皆を乗せたら、ブリッジで舵をしっかり握って、シャングリラ、発進! とだ…)
 俺が号令すれば行けるぞ、とシナリオを描く。
 メギドが来る前に、ワープしさえすれば、誰もナスカで死にはしないし、前のブルーも…。
(失くさないで済んで、かなり時間がかかったとしても…)
 地球まで連れて行けそうだよな、とハーレイは笑んだ。
 「今の自分」の記憶さえあれば、前の自分が辿った道より、旅は短い。
 訪れるだろう様々な危機をヒョイと乗り越え、シャングリラは地球に辿り着ける。
 もっとも、そうして着いた「憧れの地球」の姿は、とても無残なものなのだけれど。


 前のブルーが、地球で目覚めて、赤茶けている星を見たなら、悲しむだろう。
 青い水の星を長く夢見て、焦がれ続けていたのだから。
(しかしだな…)
 どうにも出来んし、ご愛敬で勘弁して欲しい、と「転生モノ」の中のブルーに、心で詫びる。
(地球という星に生きて行けただけでも、良しとして…)
 青くない点は許してくれよ、と苦笑していて、別のルートを考え付いた。
(…メギド自体は破壊出来んが、アレが来るのを…)
 阻む方法、無いわけでも、と「非現実的だ」としか言えない方の、選択肢の先を。
(メギドが来たのは、キースがアレを持ち出したせいで…)
 ヤツさえいなけりゃ、どうとでもなるな、と「転生モノ」ならではの展開を。
(要は、キースが…)
 消えてくれればいいってことだ、と顎に手を当て、ニヤリと笑う。
(今の俺なら、先回りして…)
 ヤツを殺してしまうことが出来るぞ、と「あの後に起きた」事実を挙げてゆく。
(一度目のチャンスは、ヤツがナスカに下りて来た時で…)
 他の仲間が何と言おうが、「撃ち落とせ!」と、たった一言、命じればいい。
 キースが乗って降下して来る小型機、それを落とせば、キースは「死ぬ」。
(…実際、緊迫した場面だったし…)
 「キャプテン・ハーレイ」の判断ならば、ジョミーも従うことだろう。
 第一、ジョミーは、あの時には…。
(ナスカに下りてたわけなんだしな…?)
 俺が、撃墜させたとしたって、事後報告に過ぎん、と嬉しくなった「名案」だけども…。


(…待てよ?)
 キースが死んだら、其処から先は、どうなるんだ、と「穴」に気付いた。
 当時のキースは「悪」そのものでも、後には「人類の世界を根底から変えた英雄」になる。
(…もしも、キースを消しちまったら…)
 前のブルーは存命だけれど、地球までの旅路が、どうなるのやら、と深い溜息が零れ落ちた。
(……難問だな……)
 転生モノってヤツの中でも、人生は難しいのかもしれん、と苦い笑いをうかべるしかない。
(…やり直すなら、今の俺の人生くらいが、丁度いいのかもな…)
 平和な青い地球の上で、とカップを傾け、納得した。
 「俺の人生、これでいいんだ」と、満足で。
 今の新しい人生をくれた、神に心からの感謝をこめて、カップを乾杯のように掲げて…。



           やり直すなら・了


※前の自分に転生したなら、上手く人生をやり直せる、と思い付いたハーレイ先生。
 けれど、キースを消してしまうのは無理で、縛りが多そう。今の人生が良さそうですねv








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「ねえ、ハーレイ。過保護にするのは…」
 良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
 お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
 今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
 必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
 お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
 束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
 一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
 「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。


「すまん、別件だったんだな?」
 勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
 ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
 それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
 マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
 SD体制の時代だったら、育児は違った。
 機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
 ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
 変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
 「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。


 カリナは、過保護だったわけではない。
 ただ、愛情が深くて大きすぎた。
 トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
 前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
 だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
 子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
 「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
 育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
 子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
 「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。


「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
 お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
 「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
 他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
 お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
 キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
 「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
 「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。


(そう来やがったか…!)
 今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
 今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
 過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
 「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
 計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。


       過保護にするのは・了




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(美人でも、三日で飽きるって言うらしいけど…)
 今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
 男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
 前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
 その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
 恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
 写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
 「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
 現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
 「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
 船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
 「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
 今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
 船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
 青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
 ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。


 懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
 今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
 「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
 ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
 写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
 記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
 スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
 今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
 前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
 スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
 頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
 記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
 可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
 飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
 「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
 今のブルーは、そういう位置付け。
 誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。


(…美人でも、三日で飽きられるから…)
 ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
 今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
 ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
 怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
 絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
 「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
 飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
 今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
 前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
 一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
 毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。


(……えっと……?)
 会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
 今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
 毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
 三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
 飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
 飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
 船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
 「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
 来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
 戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
 ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
 そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
 顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
 それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
 飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
 今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
 前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。


(…ということは、今のぼくだと…)
 育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
 とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
 色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
 今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
 人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
 ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
 二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
 命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
 おかしくないんだ、と恐ろしい。
 なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
 早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
 どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
 飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
 本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
 ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。


 そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
 ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
 生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
 困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
 飽きられてしまったら、おしまいだから。
 いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。



          飽きられちゃったら・了


※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
 けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv








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(…美人は三日で飽きる、って言うが…)
 前の俺は飽きはしなかったな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…三日どころか、三百年も…)
 飽きずに眺め続けたんだ、と遠く遥かな時の彼方での歳月を思う。
 前のハーレイは、飽きることなく「前のブルー」を見詰め続けた。
 三日で飽きるなど、今、考えてみても「有り得ない」。
(…あんな美人は、そうはいないぞ…)
 美人過ぎると飽きないのかもな、と可笑しくなる。
 「ブルーに飽きる」時が来るなど、思い付きさえしなかった。
(…今の俺にしても、きっと…)
 三百年でも飽きやしない、と「飽きない自信」は、たっぷりとある。
 青い地球の上に生まれ変わったのだし、尚更だろう。
(前だと、考えられなかったような暮らしで…)
 飽きるどころか、新鮮な日々が続きそうだ。
(現に今でも、新鮮で…)
 新鮮すぎると言うべきかもな、と「今のブルー」を頭に描いた。
 今のブルーは、十四歳にしかならない「子供」で「チビ」。
 小さなブルーは、前の生でも出会ったけれども、今のブルーとは全く違う。
(中身は確かに子供だったが、前の俺より年上で…)
 サイオンだって凄かったんだ、とアルタミラでの出会いを思い出す。
 今の「サイオンが不器用になった」ブルーとは、月とスッポンくらいに差があった。
(…俺が言うまで、思い付いてはいなかったが…)
 前のブルーは、強いサイオンで、大勢の仲間を救い出した。
 メギドの炎で燃える地面を走り続けて、閉じ込められた仲間を解き放って。


 前のブルーは、同じチビでも「強かった」。
 サイオンばかりか、心の方も、やはり強めに出来ていた。
(直ぐに膨れてしまいやしなかったな…)
 頬っぺたを膨らませた顔などは知らん、と今のブルーと比べてみる。
(前のあいつの、ハコフグみたいな顔は知らんし…)
 顔を見ているだけでも新鮮だ、と愉快になる。
 今でさえも「そういう調子」なのだし、先の人生は、もっと新鮮なのに違いない。
(前のあいつと瓜二つでも、まるで違って見えそうだぞ…)
 釣りをしているブルーなんて、と「約束」の一つを思うだけでも、楽しみな気分。
 今のハーレイの父は、釣りの名人。
 ブルーも「大きくなったら、ハーレイのお父さんと釣りに行きたい」と夢を見ている。
 約束は、じきに叶うだろうし、釣竿を持った「ブルー」が見られる。
 前のブルーだと、釣りの道具を使う機会は、一度も無かった。
 釣りが出来る日を「いつか、地球で」と夢に見たって、其処までが長い。
(…まず、人類とミュウの関係ってヤツを…)
 なんとか解決しないことには、地球には行けない。
 当然、釣りに行けもしないし、其処までの道を「切り開く」のが、前のブルーの役目だった。
(…とんでもない、重大な責任で…)
 ブルーが一人で背負ってゆくには「重すぎた」けれど、どうすることも出来はしなかった。
(…タイプ・ブルーは、あいつ一人で…)
 他の者では「戦えない」以上、ブルーが一人で背負うしかない。
(そんなあいつを、横で支えることしか出来なかったが…)
 今度は逆になりそうだしな、と「今のブルー」が「前より弱い」のが、本当に嬉しい。
(あいつは、不満たらたらなんだが…)
 俺にとっては有難いんだ、と「今の自分」に感謝する。
 ブルーよりも年上に生まれられたし、身体も頑丈に出来ているから、今のブルーに丁度いい。
 横で支えて生きるのではなくて、先に立って進んでゆける人生。


(…今のあいつの手を、しっかりと握ってだな…)
 次はこっちだ、とリードしながら行けるってモンだ、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブルーに「飽きる」日など来なくて、人生が幕を閉じる時まで、幸せ一杯で歩けそうだ。
(…砂糖カエデが生えた森とか、青いケシが咲く高い山とか…)
 旅に行けるし、普段だったら食事にドライブ、と夢が大きく広がってゆく。
 どれも「今は、まだ夢」の時点だけれども、いずれは叶うことばかり。
(あいつに飽きる暇など、何処にあるんだ?)
 無いじゃないか、と思う間に、ハタと気付いた。
(……待てよ?)
 俺の方では飽きないんだが…、と「今のブルー」を考えてみる。
(…美人でも、三日で飽きるそうだし…)
 俺の場合はどうなんだ、と鏡を覗くまでもない。
(…美人どころか、逆と言っても…)
 いいのが「俺」というわけなだんだが…、と時の彼方での「約束事」が蘇って来る。
(…シャングリラで作ってた、薔薇の花びらのジャムは…)
 数が少ないせいで、出来上がる度に「クジ引き」だった。
 そのためのクジが入れられた箱は、白いシャングリラの中を回って、ブリッジにも来た。
(クジの箱が来たら、ゼルまでもが…)
 「どれ、運試しじゃ」と、箱に手を突っ込んでいたものだけれど…。
(クジ引きの箱は、前の俺の前は、いつも素通り…)
 立ち止まりもせずに通り過ぎて行った、クジの箱を持った女性たち。
 「キャプテンに、薔薇のジャムは似合わないわよね」と、船の女性たちは思っていた。
(…恐らく、前のあいつ以外は…)
 俺なんか見てはいなかったんだ、と悪い方での自信なら「ある」。
 前のブルーは「美人過ぎる」くらいだったけれども、前のハーレイは「美人」とは逆。
 ついでに「今のハーレイ」の方も、前のハーレイと瓜二つ。
 導き出せる答えは、一つしか無くて、今のハーレイも、「美人ではない」。


(…なんてこった…)
 美人でも三日で飽きるんだぞ、とハーレイは、恐ろしい気持ちになって来た。
(シャングリラの頃なら、前のあいつも…)
 ハーレイしか見てはいなかったけれど、今の生では条件が違う。
 「ソルジャーとキャプテン」という、絶対的な絆の方も、今度は危うい。
(…結婚して、一緒に暮らし始めたら…)
 あいつ、三日で飽きるかもな、と背筋がゾクリと冷える。
(…俺の顔なんぞを見続けてるより、ちょいと息抜き、って…)
 別行動を取りたくなって、二人で買い物に出掛けた先でも、入口の所で別れるとか。
(…それじゃ、後で、と…)
 集合時間と場所を決めたら、ブルーは「一人で」出掛けてゆく。
 ハーレイが「野菜や肉」といった食材を買いに行こうが、ブルーの方は、お構いなし。
(…今夜の食事は、これがいいな、とも…)
 希望のメニューを言いもしないで、ブルーの関心は他に向けられて、別の買い物。
(…買い物で済めば、まだマシな方で…)
 近くの公園へ散歩に行くとか、最悪なケースとしては、同じ店の中で…。
(フードコートに出掛けて行って、新着メニューをチェックして…)
 何か飲んだり、アイスを食べたり、「ハーレイは抜きで」、寛ぎの時間。
 なにしろ「ハーレイには、飽きた」わけだし、「ハーレイがいない」場所が一番。


(…ありそうな未来で、困るんだが…!)
 飽きられたなら、そうなっちまう、と慌てふためいてみても、解決策は無さそう。
 前の生から「この顔」なのだし、変わってくれるわけがない。
 ブルーがハーレイに「飽きてしまえば」、それでおしまい。
(…どうすりゃいいんだ…?)
 巻き返しのチャンスは、自力で作るしか無いんだよな、と絶望しそうにもなる。
 ブルーが「ハーレイに飽きた」以上は、誘ってみるだけ無駄だろう。
 デートも食事も、旅にしたって、ブルーは「付き合ってはくれる」だろうけれども…。
(行った先でも、退屈そうに…)
 俺とは別に動くかもな、と思えて来るから、そんな未来は来て欲しくない。
(…俺の方では、あいつに飽きる時は来ないし…)
 飽きられたなら、泣き暮らす日々になるんだしな、と今から神に祈りたくなる。
 「ブルーが、俺に飽きませんように」と、「美人ではない」自分の未来を。
 美人でも三日で飽きるらしいし、美人ではない「今のハーレイ」は、大いに不利。
 「どうか、神様…」と、祈ることしか出来ないわけだし、祈っておこう。
 今のブルーも、前のブルーと同じに「ハーレイに、飽きてしまわない」ように。
 三百年以上経とうが、飽きることなく「ハーレイ」だけを見てくれるよう。
 「ハーレイの顔を見てるよりかは」と、別行動を取られる日々だと、悲しすぎるから…。



           飽きられたなら・了


※ブルー君に飽きる日など来ない、と思うハーレイ先生ですけど、逆が問題。
 美人でさえも三日で飽きるのだったら、美人とは逆のハーレイ先生、飽きられるのかもv







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「ねえ、ハーレイ。思い付きって…」
 大切だよね、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? たった今、何か思い付いたのか?」
 まあいいんだが、とハーレイは苦笑しながら返した。
「お前、いきなり思い付くしな」
 それでどうした、とブルーに向かって尋ねてみる。
「俺にして欲しいようなことでも、出来たのか?」
 いつものヤツなら、お断りだぞ、とハーレイは釘を刺した。
 こういった時のブルーは、要注意。
 ろくでもないことを思い付いては、無理なおねだり。
(…キスをしろとか、うるさいんだ…)
 チビのくせに、とブルーを睨んだけれども、違ったらしい。


 ブルーは「違うってば!」と、不満そうに頬を膨らませた。
「ただの質問みたいなものなんだよ」
 思い付きというのは、閃きとかで、とブルーが説明する。
「ほら、色々と思い付くでしょ?」
 何かする時でなくても、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「いろんなアイデア、そうやって出て来るもので…」
 発明だって、そうじゃないかな、とハーレイを見詰める。
 あれこれ考えて順序立てるだけでは、ダメそうだよ、と。
「ぐるぐるしちゃって、煮詰まってくだけで…」
 頭の中は、それで一杯、とブルーは自分の頭を指差す。
「そうなった時に、お茶とかで休憩していたら…」
 いいアイデアが閃くものじゃないの、と言われれば、そう。
 実際、大発明の切っ掛けになることも多い。


「なるほどなあ…。確かに、思い付きは大切かもな」
 お前の場合は、違う気がするが、とハーレイは慎重になる。
 此処でウッカリ「その通りだ」と同意するのは危険だろう。
「ハーレイ、疑っているんでしょ?」
 よく、そんなので、先生やってるよね、とブルーは膨れる。
「生徒が思い付いたアイデア、否定するわけ?」
「いや、それは…。まずは話を聞いてだな…」
 それから中身を検討なんだ、とハーレイは答えた。
「いいアイデアか、そうでないかは、聞いてみないと…」
「だったら、ぼくのも聞くべきでしょ!」
 初っ端から否定するなんて…、とブルーは眉を吊り上げた。
「生徒の前で同じことをしたら、嫌われちゃうよ?」
「だから、しないと…」
「ぼくだけ、違う枠になるわけなの!?」
 ハーレイの生徒の一人なのに、とブルーは怒り始めた。
 フグみたいに頬を膨らませて、プンスカと。
 「ハーレイ、いつも酷いんだから!」と、睨み付けて。


 とはいえ、ハーレイの方にも言い分はある。
 ブルーは生徒の一人に違いなくても、特別な枠の中にいる。
 ハーレイは「ブルーの守り役」なのだし、学校でも承知。
「お前なあ…。違う枠になっても、当然だろう?」
 毎日のように家庭訪問だぞ、とハーレイは説いた。
 「他の生徒なら、其処まではしない」と、守り役について。
「言わば特別扱いなんだし、向き合い方も変わるよな?」
「うーん…。頭ごなしに否定するのは、違うと思う…」
 いつだって、そういう調子なんだから、とブルーも粘る。
 「もっと、きちんと扱ってよね」と、諦めないで。
「そう言われてもなあ…。ところで、お前の思い付きは…」
 この問答を吹っ掛けることだったのか、とハーレイは訊く。
 どうも、そうとしか思えないから、確認をした方がいい。
「押し問答で終わりそうだし、早い間に切り上げろよ?」
 するとブルーは、更に頬っぺたを膨らませた。
「やっぱり、聞く気なんか無いでしょ!」
 分からず屋だよね、と散々、怒り続けた果てに…。


「ハーレイ、今ので少しは懲りた?」
 ぼくの思い付きを聞くべきだ、って、とブルーが尋ねる。
「否定しないで聞いていたなら、ぼくは怒らないよ?」
「…そうだな、俺が悪かった…」
 すまん、とハーレイは謝ったけれど、次の瞬間、後悔した。
 ブルーの顔が、たちまち笑顔に変わったから。
「懲りたんだったら、謝ってよね!」
 お詫びはキスで充分だから、とブルーは、それは嬉しそう。
 思い付いた通りに、上手く話が転がったらしい。
「馬鹿野郎!」
 お前の思い付きなどは聞かなくていい、とハーレイは叱る。
「どうせ、ろくでもないことなんだしな!」
 現に、たった今、証明されたぞ、とブルーの頭をコツン。
 軽く一発お見舞いするのが、今のブルーに似合いだから…。


          思い付きって・了





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