「ねえ、ハーレイ。粘り強さは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「粘り強さだって?」
今の話と繋がらないんだが、とハーレイはブルーを眺めた。
他愛ないことを話していたから、粘り強さの出番は無い。
「うん。…でも、思い付いた時には、質問でしょ?」
すっかり忘れてしまう前に、というブルーの言葉は正しい。
現にハーレイも、生徒たち授業中などに、よく言っている。
「質問があったら、直ぐに言えよ」と、口を酸っぱくして。
だから、ブルーにも頷くしかない。
「そうだな。忘れちまったら、駄目だからなあ…」
それで何を聞きたいんだ、とブルーの瞳を真っ直ぐに見る。
ブルーの意図が分からないだけに、気を引き締めて。
(…何度も、この手に引っ掛かったし…)
こいつの質問は、油断出来ん、とハーレイは既に経験済み。
真面目に答えてやった結果が、とんでもないことも数多い。
「…ハーレイ、ぼくを疑ってるよね…」
急に質問しちゃったから、とブルーに言われてハッとする。
(先入観ってヤツを、持ち過ぎてたか…)
疑ってかかるのは良くないよな、とハーレイは反省した。
経験則は役に立つけれど、頼り過ぎると失敗しがち。
「悪い、ついつい、思い込みでな」
すまん、と潔く頭を下げたら、ブルーはクスッと笑った。
「そう思われても、仕方ないけど…」
膨れていないで聞き直すのも、粘り強さ、とブルーは言う。
「粘り強さが皆無だったら、もう聞かないでしょ?」
「そりゃそうだ。馬鹿にされてる、と放り出してな」
粘り強さに感謝するぞ、とハーレイも大きく頷いた。
ブルーが投げ出してしまうタイプだったら、話はおしまい。
というわけで、振り出しに戻って、粘り強さの話になった。
「あのね…。さっきみたいなのも、そうなんだけど…」
諦めないでコツコツ努力は大事だよね、とブルーが尋ねる。
投げ出しちゃうより、粘り強さ、と真剣そうな瞳をして。
「うむ。たった今、証明されちまったし…」
他の面でも大事ではある、とハーレイはブルーを肯定した。
「お前には、あまり関係無さそうなんだが…」
勉強もスポーツも、粘り強さが重要だぞ、と説く。
「出来やしない、と放り出したら、それっきりだ」
勉強だったら置いて行かれて、スポーツなら負ける、と。
「そうだよね…。ぼくも毎日、頑張ってるもの」
まるで駄目だよ、と泣きそうでも、とブルーは苦笑した。
「諦めないでコツコツやっているよ」と、少し誇らしげに。
「…泣きそうだって?」
お前がなのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
ブルーは、スポーツはともかく、優秀な生徒。
「まるで駄目だよ」と泣きそうになるとは思えない。
「…泣きそうだってば、毎日とまでは言わないけれど…」
毎日、牛乳、厳しいんだよ、とブルーの答えは奮っていた。
「紅茶に入れて飲んだ程度じゃ、足りないしね…」
朝御飯でも飲んで、頑張ってる、とブルーは自分を指差す。
「でないと、背丈が伸びないんだもの…」
だけど、ちっとも伸びてくれない、と深い溜息も零れ出た。
「一ミリさえも伸びないんだよ」と、ブルーが言う通り。
青い地球に生まれ変わって再会してから、背丈は同じまま。
ブルーの成長は止まってしまって、少しも伸びない。
(…なるほど、努力が報われない、というわけか…)
気の毒だが仕方ないことだな、とハーレイは思う。
ブルーの背丈を決めているのは、多分、神様だから。
「お前の気持ちは、分からないでもないんだが…」
子供時代を楽しめるよう、そうなんだろう、と諭してやる。
「育っちまったら、もう後戻りは出来ないしな」と。
「…粘り強さで、頑張れって?」
ちっともゴールが見えなくっても、とブルーは半ば諦め顔。
「大切なのは分かってるけど、たまに泣きそう…」
投げ出しちゃったら、ごめんなさい、と謝られた。
「ハーレイには悪いけど、チビのままかも…」
「投げ出すってか!?」
それは困る、とハーレイは慌てた。
もしもブルーが育たなくても、嫌いはならないけれども…。
「お前が育ってくれないことには、この先がだな…!」
俺も大変になっちまうぞ、と焦ると、ブルーが微笑んだ。
「そうでしょ? だったら、粘り強さを保てるように…」
励ましのキス、と注文をされたものだから…。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別件だ、とハーレイは軽く拳を握った。
ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
粘り強さを投げ出されそうだとは、もう思わない。
(どうせ、こいつは、最初から…)
こうするつもりでいたんだしな、とブルーに、お仕置き。
「よくも騙してくれやがって」と、コッツンと。
「同情した分、馬鹿を見ちまった」と、呆れ顔で…。
粘り強さは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「粘り強さだって?」
今の話と繋がらないんだが、とハーレイはブルーを眺めた。
他愛ないことを話していたから、粘り強さの出番は無い。
「うん。…でも、思い付いた時には、質問でしょ?」
すっかり忘れてしまう前に、というブルーの言葉は正しい。
現にハーレイも、生徒たち授業中などに、よく言っている。
「質問があったら、直ぐに言えよ」と、口を酸っぱくして。
だから、ブルーにも頷くしかない。
「そうだな。忘れちまったら、駄目だからなあ…」
それで何を聞きたいんだ、とブルーの瞳を真っ直ぐに見る。
ブルーの意図が分からないだけに、気を引き締めて。
(…何度も、この手に引っ掛かったし…)
こいつの質問は、油断出来ん、とハーレイは既に経験済み。
真面目に答えてやった結果が、とんでもないことも数多い。
「…ハーレイ、ぼくを疑ってるよね…」
急に質問しちゃったから、とブルーに言われてハッとする。
(先入観ってヤツを、持ち過ぎてたか…)
疑ってかかるのは良くないよな、とハーレイは反省した。
経験則は役に立つけれど、頼り過ぎると失敗しがち。
「悪い、ついつい、思い込みでな」
すまん、と潔く頭を下げたら、ブルーはクスッと笑った。
「そう思われても、仕方ないけど…」
膨れていないで聞き直すのも、粘り強さ、とブルーは言う。
「粘り強さが皆無だったら、もう聞かないでしょ?」
「そりゃそうだ。馬鹿にされてる、と放り出してな」
粘り強さに感謝するぞ、とハーレイも大きく頷いた。
ブルーが投げ出してしまうタイプだったら、話はおしまい。
というわけで、振り出しに戻って、粘り強さの話になった。
「あのね…。さっきみたいなのも、そうなんだけど…」
諦めないでコツコツ努力は大事だよね、とブルーが尋ねる。
投げ出しちゃうより、粘り強さ、と真剣そうな瞳をして。
「うむ。たった今、証明されちまったし…」
他の面でも大事ではある、とハーレイはブルーを肯定した。
「お前には、あまり関係無さそうなんだが…」
勉強もスポーツも、粘り強さが重要だぞ、と説く。
「出来やしない、と放り出したら、それっきりだ」
勉強だったら置いて行かれて、スポーツなら負ける、と。
「そうだよね…。ぼくも毎日、頑張ってるもの」
まるで駄目だよ、と泣きそうでも、とブルーは苦笑した。
「諦めないでコツコツやっているよ」と、少し誇らしげに。
「…泣きそうだって?」
お前がなのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
ブルーは、スポーツはともかく、優秀な生徒。
「まるで駄目だよ」と泣きそうになるとは思えない。
「…泣きそうだってば、毎日とまでは言わないけれど…」
毎日、牛乳、厳しいんだよ、とブルーの答えは奮っていた。
「紅茶に入れて飲んだ程度じゃ、足りないしね…」
朝御飯でも飲んで、頑張ってる、とブルーは自分を指差す。
「でないと、背丈が伸びないんだもの…」
だけど、ちっとも伸びてくれない、と深い溜息も零れ出た。
「一ミリさえも伸びないんだよ」と、ブルーが言う通り。
青い地球に生まれ変わって再会してから、背丈は同じまま。
ブルーの成長は止まってしまって、少しも伸びない。
(…なるほど、努力が報われない、というわけか…)
気の毒だが仕方ないことだな、とハーレイは思う。
ブルーの背丈を決めているのは、多分、神様だから。
「お前の気持ちは、分からないでもないんだが…」
子供時代を楽しめるよう、そうなんだろう、と諭してやる。
「育っちまったら、もう後戻りは出来ないしな」と。
「…粘り強さで、頑張れって?」
ちっともゴールが見えなくっても、とブルーは半ば諦め顔。
「大切なのは分かってるけど、たまに泣きそう…」
投げ出しちゃったら、ごめんなさい、と謝られた。
「ハーレイには悪いけど、チビのままかも…」
「投げ出すってか!?」
それは困る、とハーレイは慌てた。
もしもブルーが育たなくても、嫌いはならないけれども…。
「お前が育ってくれないことには、この先がだな…!」
俺も大変になっちまうぞ、と焦ると、ブルーが微笑んだ。
「そうでしょ? だったら、粘り強さを保てるように…」
励ましのキス、と注文をされたものだから…。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別件だ、とハーレイは軽く拳を握った。
ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
粘り強さを投げ出されそうだとは、もう思わない。
(どうせ、こいつは、最初から…)
こうするつもりでいたんだしな、とブルーに、お仕置き。
「よくも騙してくれやがって」と、コッツンと。
「同情した分、馬鹿を見ちまった」と、呆れ顔で…。
粘り強さは・了
PR
(ママに、悪いことしちゃったかな?)
ほんのちょっぴり、と小さなブルーが、ふと思い返した今日の出来事。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…学校が終わって帰って来たら、ママが…)
ちょうどケーキを焼き上げた所だった。
オーブンから出して、仕上げの作業を始めている。
(今日のおやつは、レモンケーキよ、って…)
母は、パウンドケーキのように見えるケーキに、刷毛でシロップを塗っていた。
ケーキの名前は、レモンドリズルケーキ。
(ママが時々、作るケーキで…)
遠い昔のイギリスで生まれた、少し酸っぱい味がするもの。
レモンをたっぷり焼き込むケーキなのだけれど、仕上げのシロップがポイントらしい。
(…レモン果汁に、お砂糖を入れて…)
甘さと酸っぱさが混じるシロップを作ってゆく。
シロップが出来たら、たっぷりと塗って、味をしみ込ませる。
(ママだと、そのまま刷毛で塗ってるんだけれど…)
欲張りな人は、焼き上がったケーキに、串をグサグサと刺して穴を幾つも作るほど。
そうしておいたら、シロップが良くしみ込むから、と母はブルーに話してくれた。
(…串を刺しても、その穴は目立たないみたい…)
火が通ったかを確かめる穴と変わらないしね、と「目立たない」理由はブルーにも分かる。
(それにシロップ、冷めて来たら白く固まるから…)
ケーキの表面に開いていた穴は、白いシロップに隠れてしまう。
欲張って幾つも穴を開けても、お客様に出せる見栄えのケーキが出来上がる仕組み。
(あのケーキ、美味しいんだよね…)
出来たばかりのも、日が経ったのも、と美味しさは舌が覚えている。
「どっちも、とっても美味しいものね」と、どちらが好きかは比較出来ない。
そういう「おやつ」が待っていたのが、今日の午後だった。
母は「着替えてる間に、出来上がるから」と、ケーキにシロップを塗ってゆく。
「出来たばかりのも、大好きでしょ?」と、着替えてくるよう、促しながら。
(…だから急いで、制服を脱いで…)
うがいと手洗いも忘れなかった。
「次は、おやつ」と、階段を下りて、母が待っているテーブルに行くのも急ぎ足。
レモンのケーキは、ちゃんと出来上がって、切り分けられるのを待っている。
(ブルー、どのくらい食べたいの、って…)
母がケーキ皿を前にして尋ねて来た時、チャイムが鳴った。
門扉の所につけてあるもので、窓越しに見たら、ご近所の奥さんの姿がある。
(…行って来るから、自分で切ってもかまわないのよ、って、ママ…)
そちらへ行こうと出て行ったけれど、どうするのかが悩ましい。
(…ケーキくらいは、切れるんだけど…)
テーブルの上には、お茶の支度もしてあった。
熱い紅茶が入ったポットと、ティーカップ。
(…お客さんの用事、早く済んだら…)
母も自分用に、紅茶を淹れることだろう。
ケーキは出来上がったばかりなのだし、味見を兼ねてのティータイムで。
(…それなら、待っていようかな、って思うよね…?)
切るのが面倒臭いからじゃなくて、と自分自身に言い訳をする。
あの時は、確かに「そのつもり」だった。
「ママが戻ったら、ママと食べよう」と、出来立てのケーキを目の前にして。
ブルーの決断は、正しかった。
ご近所さんは「何か、届け物」を持って来ただけで、母に渡して帰って行った。
(…お土産かな、って思って見てて…)
何だろうか、と考えていたら、母が「お菓子でも入っていそうな箱」を持って戻った。
(…箱の中身、ぼくが思った通りで…)
出掛けた先で買って来たという、酒饅頭が詰まった箱を届けに来てくれたらしい。
(ママが、箱をテーブルに置いて…)
「この酒饅頭、とても美味しいらしいわよ」と、酒饅頭の箱を開けて微笑んだ。
「出来立てを買って来て下さったの」と、「レモンケーキと、どっちがいい?」と。
(……ぼくはお酒は、駄目なんだけど……)
酒饅頭は名前だけだし、「お酒が入った饅頭」ではない。
美味しいことも承知している。
(しかも、出来立て…)
これは間違いなく、「今、食べる」のが、一番美味しい。
レモンドリズルケーキだったら、日が経った分、味わいが深まってゆくけれど…。
(…酒饅頭だと、ふかふかの皮が固くなっていって…)
蒸し直したりしないと「出来立ての味」には戻ってくれない。
どちらか選んで食べていいなら、酒饅頭の方に決まっている。
(…だから、酒饅頭にするよ、って…)
母に聞かれるなり、即断即決、今日のおやつには「酒饅頭」が選ばれた。
レモンドリズルケーキの方は退場、母がキッチンへ運んで行った。
明日まで味を馴染ませるために、棚に置いておこう、ということだろう。
(…ママ、戻って来た時、お茶のセットも…)
トレイに載せて、新しいものを持って来た。
「酒饅頭には、紅茶は合わないでしょう?」と、熱い緑茶のを。
(…紅茶は、ママが後で飲むから、って…)
母は紅茶のポットとカップを下げて、代わりに緑茶を注いでくれた。
「せっかくだから、ママも一緒に食べるわ」と、自分用の湯呑にも、緑茶を淹れて。
(…酒饅頭、うんと美味しくて…)
ブルーも母も、大満足だったティータイム。
けれど、夜になって思い返してみたら、母に悪いことをしたような気がする。
(…もしも、ママがチャイムで出て行った時に…)
自分でケーキを切り分けていたら、どうなったろう。
母が「ご近所さん」と話し込んだ場合、戻って来るまでの間に…。
(…ケーキ、食べ始めちゃってるよね?)
紅茶も自分で淹れて、レモンドリズルケーキを食べていたなら、酒饅頭が届けられても…。
(食べかけのケーキ、明日まで残しておくなんて…)
出来はしないし、おやつは「ケーキ」の方だったのに違いない。
「酒饅頭、待っていれば良かったかも…」と、少し残念な気分で箱を見ながら。
(…そっちだったら、ぼくが残念なだけで…)
母が作ったケーキも、用意していた紅茶のポットも、ティータイムでの出番があった。
酒饅頭に席を譲り渡して、下げられはせずに。
(…ママは、気にしてないんだろうけど…)
それにケーキは、明日でも美味しいケーキなんだけど、と思いはしても、引っ掛かる。
「ホントに、あれで良かったのかな?」と、巡り合わせを考えてみて。
「ぼくが自分で切り分けていたら、違う展開になっていたよね?」と振り返って。
日が経てば味わいが増すレモンドリズルケーキと、出来立てが美味しい酒饅頭。
どちらを先に食べるべきかは、誰に聞いても、同じ答えが返るだろう。
とはいえ、ほんの少しだけ「出会う時間がズレていたなら」、選ばれたのはケーキの方。
(…レモンのケーキが今日で、酒饅頭が明日になっても…)
仕方ないとしか言えないわけで、そちらだったら「ママに悪かったかな」という気はしない。
(……うーん……)
難しいよね、と考え込んでいる内に、ハタと気付いた。
今日は「相手が母だった」けれど、いつかハーレイと暮らし始めたら…。
(…ハーレイが何か作ってくれてて、出来上がったトコで…)
誰かが「今が一番美味しいんですよ」と、届けに来たなら、状況は今日と全く同じになる。
ハーレイは「お前、どっちが食べたいんだ?」と笑顔で聞いてくれるだろう。
「俺のは、明日でもいいんだしな」と、用意するのに掛かった手間も時間も、放り出して。
(…ぼくが選ぶの、今日と同じで…)
後から届いた「何か」になるのか、それとも「ハーレイが作った方」を優先するのか。
(……ママだったから、迷わなかったけど……)
それは「甘え」が入っていたからで、ハーレイの時は違うかもしれない。
「どっちにする?」と自分に問い掛け、秤にかけて悩み始めそう。
ハーレイの好意を無にする方か、「美味しい間に食べる」何かを選ぶべきなのか。
(…困っちゃうんだけど…!)
でも、ハーレイが決めてくれそう、と決断を先送りにする道が見える気もする。
ハーレイの方から「じゃあ、コレにするか」と、後から来た方を選んでくれるまで。
(…うん、きっとそう!)
ハーレイだものね、と思うけれども、他のケースが浮かんで来た。
二人で何処かへ出掛けた時に、不意に「食べたくなった」もの。
(…ぼくに、好き嫌いは無いんだけれど…)
あれが食べたい、と思ったりはする。
出掛けた先で、自分が食べたくなった「何か」を、ハーレイに提案する前に…。
(おっ、昼飯は、あそこにするか、って…)
ハーレイが店に目を留めて、入ろうとスタスタ歩いてゆく。
ブルーが「食べたい」ものは無さそうな、まるで違った品揃えに見える店の方へと。
(……どうするの!?)
ぼくは違うのが食べたいのに、と主張するのか、ハーレイの気持ちを尊重すべきか。
(……それって、とっても……)
困るんだけど、と考えただけで困ってしまう。
もしも将来、急に何かを「食べたくなったなら」、どうするのか。
ハーレイのためにグッと我慢するのか、自分の好みを押し通すべきか。
(…困っちゃうんだけど…!)
ホントのホントに困っちゃうよ、と遠い未来の悩み事について、一人、ぐるぐると悩み続ける。
まだ、その時は来てはいないのに。
ずっと遥かな遠い未来で、婚約さえもしていないのに…。
食べたくなったなら・了
※お母さんが作ったケーキよりも、頂き物の酒饅頭を選んでしまったブルー君。
食べたい方を選んだだけなんですけど、ハーレイ先生と暮らし始めたら、事情は違うかもv
ほんのちょっぴり、と小さなブルーが、ふと思い返した今日の出来事。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…学校が終わって帰って来たら、ママが…)
ちょうどケーキを焼き上げた所だった。
オーブンから出して、仕上げの作業を始めている。
(今日のおやつは、レモンケーキよ、って…)
母は、パウンドケーキのように見えるケーキに、刷毛でシロップを塗っていた。
ケーキの名前は、レモンドリズルケーキ。
(ママが時々、作るケーキで…)
遠い昔のイギリスで生まれた、少し酸っぱい味がするもの。
レモンをたっぷり焼き込むケーキなのだけれど、仕上げのシロップがポイントらしい。
(…レモン果汁に、お砂糖を入れて…)
甘さと酸っぱさが混じるシロップを作ってゆく。
シロップが出来たら、たっぷりと塗って、味をしみ込ませる。
(ママだと、そのまま刷毛で塗ってるんだけれど…)
欲張りな人は、焼き上がったケーキに、串をグサグサと刺して穴を幾つも作るほど。
そうしておいたら、シロップが良くしみ込むから、と母はブルーに話してくれた。
(…串を刺しても、その穴は目立たないみたい…)
火が通ったかを確かめる穴と変わらないしね、と「目立たない」理由はブルーにも分かる。
(それにシロップ、冷めて来たら白く固まるから…)
ケーキの表面に開いていた穴は、白いシロップに隠れてしまう。
欲張って幾つも穴を開けても、お客様に出せる見栄えのケーキが出来上がる仕組み。
(あのケーキ、美味しいんだよね…)
出来たばかりのも、日が経ったのも、と美味しさは舌が覚えている。
「どっちも、とっても美味しいものね」と、どちらが好きかは比較出来ない。
そういう「おやつ」が待っていたのが、今日の午後だった。
母は「着替えてる間に、出来上がるから」と、ケーキにシロップを塗ってゆく。
「出来たばかりのも、大好きでしょ?」と、着替えてくるよう、促しながら。
(…だから急いで、制服を脱いで…)
うがいと手洗いも忘れなかった。
「次は、おやつ」と、階段を下りて、母が待っているテーブルに行くのも急ぎ足。
レモンのケーキは、ちゃんと出来上がって、切り分けられるのを待っている。
(ブルー、どのくらい食べたいの、って…)
母がケーキ皿を前にして尋ねて来た時、チャイムが鳴った。
門扉の所につけてあるもので、窓越しに見たら、ご近所の奥さんの姿がある。
(…行って来るから、自分で切ってもかまわないのよ、って、ママ…)
そちらへ行こうと出て行ったけれど、どうするのかが悩ましい。
(…ケーキくらいは、切れるんだけど…)
テーブルの上には、お茶の支度もしてあった。
熱い紅茶が入ったポットと、ティーカップ。
(…お客さんの用事、早く済んだら…)
母も自分用に、紅茶を淹れることだろう。
ケーキは出来上がったばかりなのだし、味見を兼ねてのティータイムで。
(…それなら、待っていようかな、って思うよね…?)
切るのが面倒臭いからじゃなくて、と自分自身に言い訳をする。
あの時は、確かに「そのつもり」だった。
「ママが戻ったら、ママと食べよう」と、出来立てのケーキを目の前にして。
ブルーの決断は、正しかった。
ご近所さんは「何か、届け物」を持って来ただけで、母に渡して帰って行った。
(…お土産かな、って思って見てて…)
何だろうか、と考えていたら、母が「お菓子でも入っていそうな箱」を持って戻った。
(…箱の中身、ぼくが思った通りで…)
出掛けた先で買って来たという、酒饅頭が詰まった箱を届けに来てくれたらしい。
(ママが、箱をテーブルに置いて…)
「この酒饅頭、とても美味しいらしいわよ」と、酒饅頭の箱を開けて微笑んだ。
「出来立てを買って来て下さったの」と、「レモンケーキと、どっちがいい?」と。
(……ぼくはお酒は、駄目なんだけど……)
酒饅頭は名前だけだし、「お酒が入った饅頭」ではない。
美味しいことも承知している。
(しかも、出来立て…)
これは間違いなく、「今、食べる」のが、一番美味しい。
レモンドリズルケーキだったら、日が経った分、味わいが深まってゆくけれど…。
(…酒饅頭だと、ふかふかの皮が固くなっていって…)
蒸し直したりしないと「出来立ての味」には戻ってくれない。
どちらか選んで食べていいなら、酒饅頭の方に決まっている。
(…だから、酒饅頭にするよ、って…)
母に聞かれるなり、即断即決、今日のおやつには「酒饅頭」が選ばれた。
レモンドリズルケーキの方は退場、母がキッチンへ運んで行った。
明日まで味を馴染ませるために、棚に置いておこう、ということだろう。
(…ママ、戻って来た時、お茶のセットも…)
トレイに載せて、新しいものを持って来た。
「酒饅頭には、紅茶は合わないでしょう?」と、熱い緑茶のを。
(…紅茶は、ママが後で飲むから、って…)
母は紅茶のポットとカップを下げて、代わりに緑茶を注いでくれた。
「せっかくだから、ママも一緒に食べるわ」と、自分用の湯呑にも、緑茶を淹れて。
(…酒饅頭、うんと美味しくて…)
ブルーも母も、大満足だったティータイム。
けれど、夜になって思い返してみたら、母に悪いことをしたような気がする。
(…もしも、ママがチャイムで出て行った時に…)
自分でケーキを切り分けていたら、どうなったろう。
母が「ご近所さん」と話し込んだ場合、戻って来るまでの間に…。
(…ケーキ、食べ始めちゃってるよね?)
紅茶も自分で淹れて、レモンドリズルケーキを食べていたなら、酒饅頭が届けられても…。
(食べかけのケーキ、明日まで残しておくなんて…)
出来はしないし、おやつは「ケーキ」の方だったのに違いない。
「酒饅頭、待っていれば良かったかも…」と、少し残念な気分で箱を見ながら。
(…そっちだったら、ぼくが残念なだけで…)
母が作ったケーキも、用意していた紅茶のポットも、ティータイムでの出番があった。
酒饅頭に席を譲り渡して、下げられはせずに。
(…ママは、気にしてないんだろうけど…)
それにケーキは、明日でも美味しいケーキなんだけど、と思いはしても、引っ掛かる。
「ホントに、あれで良かったのかな?」と、巡り合わせを考えてみて。
「ぼくが自分で切り分けていたら、違う展開になっていたよね?」と振り返って。
日が経てば味わいが増すレモンドリズルケーキと、出来立てが美味しい酒饅頭。
どちらを先に食べるべきかは、誰に聞いても、同じ答えが返るだろう。
とはいえ、ほんの少しだけ「出会う時間がズレていたなら」、選ばれたのはケーキの方。
(…レモンのケーキが今日で、酒饅頭が明日になっても…)
仕方ないとしか言えないわけで、そちらだったら「ママに悪かったかな」という気はしない。
(……うーん……)
難しいよね、と考え込んでいる内に、ハタと気付いた。
今日は「相手が母だった」けれど、いつかハーレイと暮らし始めたら…。
(…ハーレイが何か作ってくれてて、出来上がったトコで…)
誰かが「今が一番美味しいんですよ」と、届けに来たなら、状況は今日と全く同じになる。
ハーレイは「お前、どっちが食べたいんだ?」と笑顔で聞いてくれるだろう。
「俺のは、明日でもいいんだしな」と、用意するのに掛かった手間も時間も、放り出して。
(…ぼくが選ぶの、今日と同じで…)
後から届いた「何か」になるのか、それとも「ハーレイが作った方」を優先するのか。
(……ママだったから、迷わなかったけど……)
それは「甘え」が入っていたからで、ハーレイの時は違うかもしれない。
「どっちにする?」と自分に問い掛け、秤にかけて悩み始めそう。
ハーレイの好意を無にする方か、「美味しい間に食べる」何かを選ぶべきなのか。
(…困っちゃうんだけど…!)
でも、ハーレイが決めてくれそう、と決断を先送りにする道が見える気もする。
ハーレイの方から「じゃあ、コレにするか」と、後から来た方を選んでくれるまで。
(…うん、きっとそう!)
ハーレイだものね、と思うけれども、他のケースが浮かんで来た。
二人で何処かへ出掛けた時に、不意に「食べたくなった」もの。
(…ぼくに、好き嫌いは無いんだけれど…)
あれが食べたい、と思ったりはする。
出掛けた先で、自分が食べたくなった「何か」を、ハーレイに提案する前に…。
(おっ、昼飯は、あそこにするか、って…)
ハーレイが店に目を留めて、入ろうとスタスタ歩いてゆく。
ブルーが「食べたい」ものは無さそうな、まるで違った品揃えに見える店の方へと。
(……どうするの!?)
ぼくは違うのが食べたいのに、と主張するのか、ハーレイの気持ちを尊重すべきか。
(……それって、とっても……)
困るんだけど、と考えただけで困ってしまう。
もしも将来、急に何かを「食べたくなったなら」、どうするのか。
ハーレイのためにグッと我慢するのか、自分の好みを押し通すべきか。
(…困っちゃうんだけど…!)
ホントのホントに困っちゃうよ、と遠い未来の悩み事について、一人、ぐるぐると悩み続ける。
まだ、その時は来てはいないのに。
ずっと遥かな遠い未来で、婚約さえもしていないのに…。
食べたくなったなら・了
※お母さんが作ったケーキよりも、頂き物の酒饅頭を選んでしまったブルー君。
食べたい方を選んだだけなんですけど、ハーレイ先生と暮らし始めたら、事情は違うかもv
(いきなり食いたくなるんだよなあ…)
不思議なことに、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺にしては、珍しい晩飯だったが…)
美味かったしな、と今日の夕食を振り返る。
炊いた御飯はあったけれども、他には何も作っていない。
(あの店に行ったら、誘惑に負けてしまうってモンで…)
サラダなどのサイドディッシュも、セットで購入してしまった。
ついでに「スープもお願いします」と、テイクアウトの出来る器で頼んだ。
(家に帰れば、そのままレンジで温め直して…)
湯気の立つスープが出来上がるわけで、メインの料理もサイドディッシュも…。
(レンジに入れたら、説明通りに…)
温める時間をセットするだけ、それで美味しく仕上がる仕組み。
店で食べるのと、ほぼ変わらない味になるのが嬉しい。
(…店で食っても良かったんだが…)
ブルーの顔が頭に浮かんで、気が咎めた。
(あいつの家には寄れてないのに、俺だけが…)
外食を楽しむのは申し訳ない、とテイクアウトの方にした。
持って帰って「家で食べる」のなら、少しは後ろめたさが減る。
「何もしないで、食べるだけ」よりは、レンジで、ひと手間掛けた方がいい。
今日の夕食は、フライドチキンというものだった。
学生時代に、友人たちと何度も食べに出掛けた、何処にでもあるチェーン店。
(フライドチキンは、特に珍しくもないんだが…)
専門店とは違う店でも、置いていたりもする。
「普段は買わない」ものなのだけど、今日は突然「食べたくなった」。
ブルーの家には寄れない時間に、学校を出て、家に帰ろうと車で走っていた時の思い付き。
(…今夜は何にするかな、と…)
夕食の献立を考えながらの運転中に、「フライドチキン」と不意に思った。
「長いこと食べていなかったよな」と、店まで目の前に見えるよう。
(…せっかくなんだし…)
幸いなことに、調理を急ぐ食材は「家には無い」。
冷蔵庫の中身を頭の中で確認してから、「よし!」とハンドルを切った。
いつもの食料品店とは違う方へと、真っ直ぐ車を走らせてゆく。
目指す先は「フライドチキンの専門店」で、駐車場だって充分にある。
(滅多に、行きやしないんだがなあ…)
それでも食いたくなるモンだ、と着いたら急いで車を停めて、店の中へと。
「いらっしゃいませ!」
店員が明るく声を掛けて来たから、メニューを見ながら注文した。
「フライドチキンを、このセットで。スープもテイクアウト、これを一つ」
「かしこまりました!」
元気一杯の返事が返って、じきに頼んだ品が出来て来たから、持って帰った。
家に着いたら、着替えを済ませて、炊いた御飯を盛り付けて…。
(後はレンジのお世話になって…)
「食べたかった料理」を、心ゆくまで楽しんだ。
「そういや、こういう味だったっけな」と、店ならではの味を噛み締めながら。
(…あの味だけは、家で作ったんでは…)
どうにも再現出来ないんだ、と自分自身に言い訳をする。
店の秘伝のスパイス配合、それは明らかにされていないし、再現するのは難しい。
挑んだ人は数多いのに、未だに出来ない「再現レシピ」。
だからいいんだ、と「外食もどき」には満足している。
店で食べるのが一番だけれど、其処の所は「踏み止まった」自分の自制心も充分だろう。
(…手抜きの飯には違いなくても、美味かったしな…)
たまにはいいさ、とコーヒーのカップを傾ける。
「こんな日だってあるもんだ」と、書斎で一人で頷きもする。
(…あいつが帰って来る前の頃は…)
小さなブルーと再会するよりも前は、こんな夕食が何度もあった。
フライドチキンもあったけれども、他にも色々なパターンが存在していた。
(…あいつに遠慮しなくていい分、店で食うのもありがちで…)
仕事の帰りに思い付いたら、そっちへ車を走らせていた。
ハンバーガーの店やら、ラーメン店やら、「食べたくなった」気持ちが導くままに。
(それなのに、とんと御無沙汰で…)
久しぶりだった「フライドチキンの夕食」。
家で温め直した味でも、フライドチキンは美味しかったし、サイドディッシュも美味。
(サラダまで買って来たわけで…)
本当に俺には珍しいよな、と振り返るけれど、誰にだってあることだろう。
思い付いた「何か」が食べたくなるのは、誰でも共通だと思う。
(それを狙って、広告で…)
様々な食べ物を売り込むのだから、釣られる人が「多い」証拠でもある。
(広告でなくても、店の前を通り掛かったら…)
写真までついた看板があったり、美味しそうな匂いが漂って来たりもする。
(そうやって誘って来るんだし…)
釣られちまうのが「人間」っていうヤツだよな、と自分自身に照らしてみれば良く分かる。
(俺には、好き嫌いが無いと言っても…)
今夜のフライドチキンのように、ついつい「食べたくなる」のは、否定はしない。
「好き嫌い」とは、恐らく別の次元になるのだろう。
仕方ないよな、と手抜きの夕食を思い出していて、ハタと気付いた。
「好き嫌いが無い」のは何故なのか、という自分の事情という代物に。
(…俺に、好き嫌いが無いっていうのは…)
子供の頃からの性質だったし、生まれつきだと考えていた。
選り好みしない遺伝子を持っているのに違いない、と頭から信じ込んでもいた。
(…しかしだな…)
どうやら「間違っていた」らしい。
「好き嫌いが無い」のは、遠く遥かな時の彼方で生きた「自分」のせいだった。
食べ物の好みなど言ってはいられない、生きていくのが精一杯だった環境。
(…あの船でも、好き嫌いを言ってたヤツらは、ちゃんといたんだが…)
前のハーレイの場合は「言わない」タイプで、長い歳月を生きていた。
自分でも全く気付かない魂の奥に、「好き嫌いを言わない」前の自分が存在している。
そのせいで「好き嫌いが無い」のが、今のハーレイ。
もちろん、今のブルーも同じで、好き嫌いが無いわけだけれども…。
(…将来、あいつと暮らし始めて…)
一緒に食事をするようになったら、今日のような場面はどうなるのだろう。
(あいつが、家で待ってるんだし…)
「飯のことなら任せておけ」と、何度もブルーに話している。
当然、ブルーは、夕食の支度はしていない。
(飯くらいは炊いていそうなんだが…)
炊飯器に任せておけばいいから、「御飯」はブルーの担当になるとは思う。
とはいえ、ブルーがやるのは「其処でおしまい」、料理は「ハーレイが帰宅してから」。
(今日の晩御飯は、何になるのかな、と…)
楽しみに待っている「ブルー」が家にいるのに、フライドチキンを持って帰るのはどうか。
いくら「好き嫌いが無い」と言っても、「今夜はコレだぞ」と、差し出されたのが…。
(…フライドチキンの店の袋じゃ…)
ブルーは赤い瞳を真ん丸にして、「晩御飯、これ…?」と玄関先で立ち尽くしそう。
レンジで温め直せば「美味しくなる」のを分かってはいても、ガッカリするのは間違いない。
何処から見たって「手抜きの夕食」、ブルーが炊いた「御飯」以外は、出来合いだから。
そいつはマズイ、と冷汗が流れそうなハーレイだけれど、いつか、そういう日が来そう。
「これが食べたい」と思い付いた品が、その日の食事に「そぐわない」時。
(…家で食う時もそうだが、出掛けた先でも…)
ハーレイの気分は「ラーメン」なのに、ブルーの瞳が向いている先は和食の店だとか。
(…今日みたいに、いきなり食べたくなったら…)
どうするんだ、と自分自身に問い掛ける。
「我慢するのか」、ブルーを「付き合わせる」のか、どちらの道を選ぶんだ、と真剣に。
(……うーむ……)
思い付いたのが俺でなければ、と悩むくらいに「難問」だという気がしてくる。
もしも、ブルーが「今日の夕食、これがいいな」と唐突に言ったら、快く…。
(メニュー変更で、家にある食材、チェックしてから…)
手早く作り上げる自信ならあるし、食材が無ければ買いに走りもするだろう。
けれども、逆に「ハーレイが、食べたくなった」方なら、どっちにするかはハーレイ次第。
ブルーに呆れられてもいいから、付き合わせるか、我慢して次の機会を待つか。
(…はてさて…)
こいつは困っちまうぞ、と悩ましいけども、その時が来たら、きっと楽しい。
(あいつのためなら、と我慢する俺も、強引に付き合わせちまう俺も、だ…)
どちらも「ブルーを中心」に回る世界だからこそ、起きる出来事。
回る軸の中心を「自分に寄せる」のも、「ブルーにしておく」のも、自由に選べる。
青い地球の上に二人で生まれて来たから、楽しく悩める。
「食べたくなったら、どうするんだ?」と。
付き合わせるのか、グッと我慢して「食べたい」気分を抑え込むのか。
「俺は、フライドチキンが食いたいんだがなあ…」などと、愛おしいブルーを思いながら…。
食べたくなったら・了
※夕食が出来合いだったハーレイ先生。食べたくなったら、買いに行きたくなるのが人間。
将来、ブルー君と暮らし始めたら、どうするのか。付き合わせるか、我慢か、悩ましいかもv
不思議なことに、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺にしては、珍しい晩飯だったが…)
美味かったしな、と今日の夕食を振り返る。
炊いた御飯はあったけれども、他には何も作っていない。
(あの店に行ったら、誘惑に負けてしまうってモンで…)
サラダなどのサイドディッシュも、セットで購入してしまった。
ついでに「スープもお願いします」と、テイクアウトの出来る器で頼んだ。
(家に帰れば、そのままレンジで温め直して…)
湯気の立つスープが出来上がるわけで、メインの料理もサイドディッシュも…。
(レンジに入れたら、説明通りに…)
温める時間をセットするだけ、それで美味しく仕上がる仕組み。
店で食べるのと、ほぼ変わらない味になるのが嬉しい。
(…店で食っても良かったんだが…)
ブルーの顔が頭に浮かんで、気が咎めた。
(あいつの家には寄れてないのに、俺だけが…)
外食を楽しむのは申し訳ない、とテイクアウトの方にした。
持って帰って「家で食べる」のなら、少しは後ろめたさが減る。
「何もしないで、食べるだけ」よりは、レンジで、ひと手間掛けた方がいい。
今日の夕食は、フライドチキンというものだった。
学生時代に、友人たちと何度も食べに出掛けた、何処にでもあるチェーン店。
(フライドチキンは、特に珍しくもないんだが…)
専門店とは違う店でも、置いていたりもする。
「普段は買わない」ものなのだけど、今日は突然「食べたくなった」。
ブルーの家には寄れない時間に、学校を出て、家に帰ろうと車で走っていた時の思い付き。
(…今夜は何にするかな、と…)
夕食の献立を考えながらの運転中に、「フライドチキン」と不意に思った。
「長いこと食べていなかったよな」と、店まで目の前に見えるよう。
(…せっかくなんだし…)
幸いなことに、調理を急ぐ食材は「家には無い」。
冷蔵庫の中身を頭の中で確認してから、「よし!」とハンドルを切った。
いつもの食料品店とは違う方へと、真っ直ぐ車を走らせてゆく。
目指す先は「フライドチキンの専門店」で、駐車場だって充分にある。
(滅多に、行きやしないんだがなあ…)
それでも食いたくなるモンだ、と着いたら急いで車を停めて、店の中へと。
「いらっしゃいませ!」
店員が明るく声を掛けて来たから、メニューを見ながら注文した。
「フライドチキンを、このセットで。スープもテイクアウト、これを一つ」
「かしこまりました!」
元気一杯の返事が返って、じきに頼んだ品が出来て来たから、持って帰った。
家に着いたら、着替えを済ませて、炊いた御飯を盛り付けて…。
(後はレンジのお世話になって…)
「食べたかった料理」を、心ゆくまで楽しんだ。
「そういや、こういう味だったっけな」と、店ならではの味を噛み締めながら。
(…あの味だけは、家で作ったんでは…)
どうにも再現出来ないんだ、と自分自身に言い訳をする。
店の秘伝のスパイス配合、それは明らかにされていないし、再現するのは難しい。
挑んだ人は数多いのに、未だに出来ない「再現レシピ」。
だからいいんだ、と「外食もどき」には満足している。
店で食べるのが一番だけれど、其処の所は「踏み止まった」自分の自制心も充分だろう。
(…手抜きの飯には違いなくても、美味かったしな…)
たまにはいいさ、とコーヒーのカップを傾ける。
「こんな日だってあるもんだ」と、書斎で一人で頷きもする。
(…あいつが帰って来る前の頃は…)
小さなブルーと再会するよりも前は、こんな夕食が何度もあった。
フライドチキンもあったけれども、他にも色々なパターンが存在していた。
(…あいつに遠慮しなくていい分、店で食うのもありがちで…)
仕事の帰りに思い付いたら、そっちへ車を走らせていた。
ハンバーガーの店やら、ラーメン店やら、「食べたくなった」気持ちが導くままに。
(それなのに、とんと御無沙汰で…)
久しぶりだった「フライドチキンの夕食」。
家で温め直した味でも、フライドチキンは美味しかったし、サイドディッシュも美味。
(サラダまで買って来たわけで…)
本当に俺には珍しいよな、と振り返るけれど、誰にだってあることだろう。
思い付いた「何か」が食べたくなるのは、誰でも共通だと思う。
(それを狙って、広告で…)
様々な食べ物を売り込むのだから、釣られる人が「多い」証拠でもある。
(広告でなくても、店の前を通り掛かったら…)
写真までついた看板があったり、美味しそうな匂いが漂って来たりもする。
(そうやって誘って来るんだし…)
釣られちまうのが「人間」っていうヤツだよな、と自分自身に照らしてみれば良く分かる。
(俺には、好き嫌いが無いと言っても…)
今夜のフライドチキンのように、ついつい「食べたくなる」のは、否定はしない。
「好き嫌い」とは、恐らく別の次元になるのだろう。
仕方ないよな、と手抜きの夕食を思い出していて、ハタと気付いた。
「好き嫌いが無い」のは何故なのか、という自分の事情という代物に。
(…俺に、好き嫌いが無いっていうのは…)
子供の頃からの性質だったし、生まれつきだと考えていた。
選り好みしない遺伝子を持っているのに違いない、と頭から信じ込んでもいた。
(…しかしだな…)
どうやら「間違っていた」らしい。
「好き嫌いが無い」のは、遠く遥かな時の彼方で生きた「自分」のせいだった。
食べ物の好みなど言ってはいられない、生きていくのが精一杯だった環境。
(…あの船でも、好き嫌いを言ってたヤツらは、ちゃんといたんだが…)
前のハーレイの場合は「言わない」タイプで、長い歳月を生きていた。
自分でも全く気付かない魂の奥に、「好き嫌いを言わない」前の自分が存在している。
そのせいで「好き嫌いが無い」のが、今のハーレイ。
もちろん、今のブルーも同じで、好き嫌いが無いわけだけれども…。
(…将来、あいつと暮らし始めて…)
一緒に食事をするようになったら、今日のような場面はどうなるのだろう。
(あいつが、家で待ってるんだし…)
「飯のことなら任せておけ」と、何度もブルーに話している。
当然、ブルーは、夕食の支度はしていない。
(飯くらいは炊いていそうなんだが…)
炊飯器に任せておけばいいから、「御飯」はブルーの担当になるとは思う。
とはいえ、ブルーがやるのは「其処でおしまい」、料理は「ハーレイが帰宅してから」。
(今日の晩御飯は、何になるのかな、と…)
楽しみに待っている「ブルー」が家にいるのに、フライドチキンを持って帰るのはどうか。
いくら「好き嫌いが無い」と言っても、「今夜はコレだぞ」と、差し出されたのが…。
(…フライドチキンの店の袋じゃ…)
ブルーは赤い瞳を真ん丸にして、「晩御飯、これ…?」と玄関先で立ち尽くしそう。
レンジで温め直せば「美味しくなる」のを分かってはいても、ガッカリするのは間違いない。
何処から見たって「手抜きの夕食」、ブルーが炊いた「御飯」以外は、出来合いだから。
そいつはマズイ、と冷汗が流れそうなハーレイだけれど、いつか、そういう日が来そう。
「これが食べたい」と思い付いた品が、その日の食事に「そぐわない」時。
(…家で食う時もそうだが、出掛けた先でも…)
ハーレイの気分は「ラーメン」なのに、ブルーの瞳が向いている先は和食の店だとか。
(…今日みたいに、いきなり食べたくなったら…)
どうするんだ、と自分自身に問い掛ける。
「我慢するのか」、ブルーを「付き合わせる」のか、どちらの道を選ぶんだ、と真剣に。
(……うーむ……)
思い付いたのが俺でなければ、と悩むくらいに「難問」だという気がしてくる。
もしも、ブルーが「今日の夕食、これがいいな」と唐突に言ったら、快く…。
(メニュー変更で、家にある食材、チェックしてから…)
手早く作り上げる自信ならあるし、食材が無ければ買いに走りもするだろう。
けれども、逆に「ハーレイが、食べたくなった」方なら、どっちにするかはハーレイ次第。
ブルーに呆れられてもいいから、付き合わせるか、我慢して次の機会を待つか。
(…はてさて…)
こいつは困っちまうぞ、と悩ましいけども、その時が来たら、きっと楽しい。
(あいつのためなら、と我慢する俺も、強引に付き合わせちまう俺も、だ…)
どちらも「ブルーを中心」に回る世界だからこそ、起きる出来事。
回る軸の中心を「自分に寄せる」のも、「ブルーにしておく」のも、自由に選べる。
青い地球の上に二人で生まれて来たから、楽しく悩める。
「食べたくなったら、どうするんだ?」と。
付き合わせるのか、グッと我慢して「食べたい」気分を抑え込むのか。
「俺は、フライドチキンが食いたいんだがなあ…」などと、愛おしいブルーを思いながら…。
食べたくなったら・了
※夕食が出来合いだったハーレイ先生。食べたくなったら、買いに行きたくなるのが人間。
将来、ブルー君と暮らし始めたら、どうするのか。付き合わせるか、我慢か、悩ましいかもv
「ねえ、ハーレイ。復習するのは…」
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「復讐だと!?」
また物騒な話だな、とハーレイは面食らった。
前のブルーも、そうだったけれど、今のブルーも大人しい。
(…こいつが、復讐するだって…?)
いったい何が起こったんだ、と鳶色の瞳を見開くしかない。
友人と喧嘩をしたにしたって、復讐というのは極端すぎる。
「おいおいおい…。そりゃ、大事かもしれないが…」
黙っていたんじゃダメなんだが…、とハーレイは説いた。
「しかし、仕返しするのは勧めないぞ」
他の手段を考えてみろ、とブルーの赤い瞳を覗き込む。
「仕返しされたら、相手も腹が立つからな」
やり返されてヒートアップだ、と諭してやる。
火に油を注ぐような真似はするな、とブルーを見詰めて。
「えっと…? ハーレイ、勘違いしていない?」
ぼくが言うのは復習だよ、とブルーは同じ言葉を口にした。
「確かに、響きはソックリだけど、予習の反対」
「…はあ?」
そっちなのか、とハーレイの目が真ん丸になる。
予習なら、今のブルーに似合いで、予習するから優等生。
(…しかしだな…)
復習も当然している筈なのに、思い付きさえしなかった。
(…だから、復讐だとばかり…)
すっかり勘違いしちまったんだ、とハーレイは苦笑する。
「復習の方で良かったよな」と、心の底からホッとして。
「悪かった、俺の勘違いだ」
お前だって復習するだろうに、とブルーに頭を下げる。
「俺が来る前に、宿題とセットで、熱心にな」
「うん。積み残したら、後で困っちゃうしね」
習って初めて、分かることもあるから、とブルーは笑んだ。
「予習してても、間違えちゃってる時もあるし」と。
今のブルーは優秀だけれど、失敗することもあるらしい。
「古典とかね」と、ペロリと舌を出した。
「前のぼくだと知らない言葉で、難しいから」と、正直に。
今のハーレイは、古典の教師。
ブルーが「予習していても、間違える」のが少し嬉しい。
前のブルーに教えたものは、生活の知識が多かった。
いわゆる「勉強」は、教える機会などは無かった。
(…ヒルマンとエラがいたからなあ…)
俺の知識じゃ敵わなかった、と認めざるを得ない昔のこと。
それが今度は、「教えてやれる」ものがドッサリ。
だからブルーに微笑み掛けた。
「なるほど、そっちの復習か…。大事なことだぞ」
古典は厄介な分野だしな、と脅してもみる。
「今は普通の文字で読めるわけだが、上の学校だと違うぞ」
「えっ?」
何があるの、と驚くブルーに教えてやった。
「うんと昔の頃は、書いてある文字が今と違うんだ」
文字は同じでも筆で流れるように書くとか…、と説明する。
「まだ平仮名が無くて、漢字ばかりとかな」
「ええ……」
そんなの、ぼくじゃ歯が立たないよ、とブルーは嘆いた。
「予習どころか、復習ばかりになっちゃいそう」と。
「そうなるな。俺も苦労をしたもんだ」
復習だけで精一杯で、とハーレイは肩を竦めてみせる。
「柔道と水泳がメインだったし、予習までは無理だ」とも。
「そうなんだ…。だけど、今では先生だよね」
復習はホントに大事みたい、とブルーは感心している様子。
「ハーレイ、古典の先生だもの」と尊敬に溢れた眼差しで。
「俺が実例というわけだ」
復習も大いに頑張れよ、とハーレイはブルーを激励した。
「予習するのも大事なんだが、復習もだ」と。
「分かった! それじゃ、復習しておかないと…」
困る前に、とブルーは立ち上がるから、勉強かもしれない。
帰宅してから時間が足りずに「積み残した」分の復習。
(よしよし、勉強するんだったら…)
休みの日でも頑張るべきだ、と思ったのだけれど…。
(…何なんだ、俺に質問か?)
積み残したヤツは古典なのか、と近付くブルーを眺める。
「教科書を持って来ればいいのに」と考えながら。
そうしたら…。
「キスの復習、しなくっちゃね!」
前のぼくしかしてないから、とブルーが顔を近付けて来た。
「いざという時、下手になってたら、困っちゃうでしょ?」
「馬鹿野郎!」
それが普通だ、とハーレイはブルーの顔を躱して睨んだ。
「いいか、世の中、普通は初心者ばかりなんだぞ!」
予習しているヤツもいなけりゃ、復習もだ、と叱り付ける。
「 そんな復習、しなくてもいい!」と、拳を軽く握った。
銀色の頭に一発お見舞いするために。
どうせブルーは懲りないけれど、けじめだから、と…。
復習するのは・了
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「復讐だと!?」
また物騒な話だな、とハーレイは面食らった。
前のブルーも、そうだったけれど、今のブルーも大人しい。
(…こいつが、復讐するだって…?)
いったい何が起こったんだ、と鳶色の瞳を見開くしかない。
友人と喧嘩をしたにしたって、復讐というのは極端すぎる。
「おいおいおい…。そりゃ、大事かもしれないが…」
黙っていたんじゃダメなんだが…、とハーレイは説いた。
「しかし、仕返しするのは勧めないぞ」
他の手段を考えてみろ、とブルーの赤い瞳を覗き込む。
「仕返しされたら、相手も腹が立つからな」
やり返されてヒートアップだ、と諭してやる。
火に油を注ぐような真似はするな、とブルーを見詰めて。
「えっと…? ハーレイ、勘違いしていない?」
ぼくが言うのは復習だよ、とブルーは同じ言葉を口にした。
「確かに、響きはソックリだけど、予習の反対」
「…はあ?」
そっちなのか、とハーレイの目が真ん丸になる。
予習なら、今のブルーに似合いで、予習するから優等生。
(…しかしだな…)
復習も当然している筈なのに、思い付きさえしなかった。
(…だから、復讐だとばかり…)
すっかり勘違いしちまったんだ、とハーレイは苦笑する。
「復習の方で良かったよな」と、心の底からホッとして。
「悪かった、俺の勘違いだ」
お前だって復習するだろうに、とブルーに頭を下げる。
「俺が来る前に、宿題とセットで、熱心にな」
「うん。積み残したら、後で困っちゃうしね」
習って初めて、分かることもあるから、とブルーは笑んだ。
「予習してても、間違えちゃってる時もあるし」と。
今のブルーは優秀だけれど、失敗することもあるらしい。
「古典とかね」と、ペロリと舌を出した。
「前のぼくだと知らない言葉で、難しいから」と、正直に。
今のハーレイは、古典の教師。
ブルーが「予習していても、間違える」のが少し嬉しい。
前のブルーに教えたものは、生活の知識が多かった。
いわゆる「勉強」は、教える機会などは無かった。
(…ヒルマンとエラがいたからなあ…)
俺の知識じゃ敵わなかった、と認めざるを得ない昔のこと。
それが今度は、「教えてやれる」ものがドッサリ。
だからブルーに微笑み掛けた。
「なるほど、そっちの復習か…。大事なことだぞ」
古典は厄介な分野だしな、と脅してもみる。
「今は普通の文字で読めるわけだが、上の学校だと違うぞ」
「えっ?」
何があるの、と驚くブルーに教えてやった。
「うんと昔の頃は、書いてある文字が今と違うんだ」
文字は同じでも筆で流れるように書くとか…、と説明する。
「まだ平仮名が無くて、漢字ばかりとかな」
「ええ……」
そんなの、ぼくじゃ歯が立たないよ、とブルーは嘆いた。
「予習どころか、復習ばかりになっちゃいそう」と。
「そうなるな。俺も苦労をしたもんだ」
復習だけで精一杯で、とハーレイは肩を竦めてみせる。
「柔道と水泳がメインだったし、予習までは無理だ」とも。
「そうなんだ…。だけど、今では先生だよね」
復習はホントに大事みたい、とブルーは感心している様子。
「ハーレイ、古典の先生だもの」と尊敬に溢れた眼差しで。
「俺が実例というわけだ」
復習も大いに頑張れよ、とハーレイはブルーを激励した。
「予習するのも大事なんだが、復習もだ」と。
「分かった! それじゃ、復習しておかないと…」
困る前に、とブルーは立ち上がるから、勉強かもしれない。
帰宅してから時間が足りずに「積み残した」分の復習。
(よしよし、勉強するんだったら…)
休みの日でも頑張るべきだ、と思ったのだけれど…。
(…何なんだ、俺に質問か?)
積み残したヤツは古典なのか、と近付くブルーを眺める。
「教科書を持って来ればいいのに」と考えながら。
そうしたら…。
「キスの復習、しなくっちゃね!」
前のぼくしかしてないから、とブルーが顔を近付けて来た。
「いざという時、下手になってたら、困っちゃうでしょ?」
「馬鹿野郎!」
それが普通だ、とハーレイはブルーの顔を躱して睨んだ。
「いいか、世の中、普通は初心者ばかりなんだぞ!」
予習しているヤツもいなけりゃ、復習もだ、と叱り付ける。
「 そんな復習、しなくてもいい!」と、拳を軽く握った。
銀色の頭に一発お見舞いするために。
どうせブルーは懲りないけれど、けじめだから、と…。
復習するのは・了
(今日は、失敗しちゃったよね…)
ママが教えてくれてたのに、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ママが作った、スイートポテト…)
今日のおやつは、それだった。
学校から帰る時間に出来上がるように、母が調整してくれていた。
(だけど、ちょっぴり…)
帰宅した後、出遅れた。
着替えたまでは良かったけれど、其処で机の上に気を取られた。
昨日の夜に、途中まで読んだ本を置いてあったせいで。
(続き、とっても気になってて…)
昨夜は寝るのが惜しかったほどで、夜更かししてでも読みたかった。
けれど、身体は丈夫ではない。
夜更かししたなら、風邪を引くとか、ろくなことにはなりそうもない。
(だから諦めて、大人しく…)
ベッドに入って眠ったわけで、今朝も読んでいる時間は無かった。
学校に持って行って読むという手もあったけれども、それはなんだか…。
(…せっかくの山場に、もったいなくて…)
家に帰って、ゆっくり読もう、と思い直して、机の上に置いたままで出掛けた。
その本が目に入ったことが、出遅れた理由。
(…おやつの後には、すぐに読めるしね…)
ほんの一行、読んで行くだけ、と手に取ったのが敗因だった。
そのまま本に吸い付けられてしまって、気付いた時には、母の呼び声がしていた。
(ブルー、まだなの、って…)
呼んでいるから、急いで階段を下りて行ったら、母は庭仕事に出掛ける所。
(おやつの用意は出来てるから、って教えてくれて…)
母は花壇の手入れに行ってしまって、ブルーは一人で残された。
テーブルには、お茶のポットとカップが置かれて、お菓子の皿もあって、申し訳ない気分。
いつも通りに直ぐに来たなら、お菓子は「出来立て」を食べられる筈だったから。
母が作ったスイートポテト。
サツマイモを潰して、滑らかに漉して、綺麗に形を整えたもの。
オーブンから出したばかりだったら、熱々だったに違いない。
(温め直すと、美味しいわよ、って言ってたし…)
熱い方が美味しいことも知っているから、温め直すことにした。
(…レンジでもいいけど、ママのオススメ、トースターに入れて…)
ほんの数分、焼いて食べるという方法、その方がレンジでやるより美味しいだろう。
母はオーブンで焼き上げたのだし、それの再現といった具合で。
(…ママが教えてくれた通りの時間と、温度にしておいて…)
スイートポテトをトースターに入れて、後は待つだけ。
数分なのだし、新聞でも読んで待てばいい。
面白そうな記事もあったし、楽しく読んでいたのだけれど…。
(…トースターの方から、美味しそうな匂いがしてたのが…)
焦げる匂いに変わっていたのに、気付くのが少し遅かった。
(あっ、大変、って…)
慌てて飛んで行ったけれども、スイートポテトは、真っ黒に焦げてしまっていた。
母に言われた通りに、ちゃんと温めていたというのに。
(…時間の設定、間違えたかな、ってトースターを睨んでいたら…)
母の教えを「守らなかった」ことに気付かされた。
おやつに遅刻したせいで、頭の中が整理されてはいなかったらしい。
(…トースターなら、ホイルで丸ごと包んでから…)
入れなさいね、と母は確かに言って出掛けた。
「でないと、焦げてしまうわよ」とも。
(…そんなの、覚えていなかったし…)
スイートポテトを、お皿の上から、トースターの中へ移動させただけ。
後は温度と時間を決めて、スタートさせたのだから、たまらない。
スイートポテトは焦げて当然、こんがりどころか、炭みたいな見た目になってしまった。
(…中身までは、まだ焦げてはいないかな、って…)
しょげながら皿の上に戻して、紅茶を淹れていたら、母が戻った。
焦げたスイートポテトを見るなり、「あらまあ…」と目を丸くしていたけれど…。
(他にもあるから、待っていてね、って温め直して…)
美味しいものを渡してくれて、焦げた方のは、母の分になった。
「大丈夫、中はホクホクだから」と、レンジで温めて、焦げた部分を全部、剥がして。
(…ホントに、中までは焦げていなくって…)
母は笑顔で食べていたのが、今日の「失敗」、母に迷惑を掛けてしまった。
もしも焦がしてしまわなかったら、庭仕事から戻った後には、満足の休憩時間だったろう。
夕食の支度に取りかかる前に、紅茶でも淹れて、スイートポテト。
焦げてしまったものではなくて、ちゃんと綺麗に温め直して、ホクホクのものを。
(……大失敗……)
おやつに遅れて、おまけに焦がしちゃうなんて、と情けない。
母は「こういう日だって、たまにあるわよ」と可笑しそうだった。
「ブルーは滅多に失敗しないし、面白い顔を見ちゃったわ」とクスクス笑いで。
(…ションボリした上、半分、パニックだったしね…)
面白い顔になっていたのは、本当だろう。
普段のブルーでは、とても見られない「珍しい」見世物。
とはいえ、それで失敗したのが、帳消しに出来るわけもない。
焦げたスイートポテトは、暫くの間、母の記憶に残りそう。
次に「温め直す」ようなことがあったら、茶目っ気たっぷりに言われるのだろう。
「温め直す時には、気を付けてね」と、今日の失敗を引き合いに出して。
「きちんとホイルで包むのよ」と念を押したり、他にも注意をしたりもして。
(…ホントに、失敗…)
いつまで言われちゃうんだろう、と肩を落として、ハタと思い当たった。
(……今日の失敗、ママの前だったから……)
まだしもマシな方だったろう。
あの時、近くに父もいたなら、もっと笑われて、父にも当分、注意されそう。
「お前は焦がすから、気を付けるんだぞ」と、くどいくらいに。
(…だけどパパなら、まだマシな方で…)
未来のぼくが心配だよ、と首を竦めた。
今は「母におやつを作って貰う」立場だけれども、将来は違う。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、おやつを作る係は、多分、ハーレイ。
(…ハーレイが好きな、ママのパウンドケーキだけは…)
自分で焼きたいし、焼けるようにもなるだろう。
けれど、ハーレイは、今も昔も、料理の腕は抜群なだけに…。
(…ぼくが作るの、パウンドケーキだけで…)
他のお菓子は、料理とセットで、ハーレイが作る毎日。
仕事がある日も、作っておいて出掛けるくらいに、ハーレイは腕を奮うと思う。
「今日の昼飯、コレだからな。おやつも、作っておいたから」と、毎朝、満足そうに。
(…そうやって作っておいてくれたの、焦がしちゃったら…)
今日のスイートポテト以上に、申し訳なくて、情けない気分になってしまいそう。
「焦がしちゃったよ…」と、半ば泣き顔になっている日もありそうな気がする。
真っ黒焦げになった「何か」を、涙が滲んだ瞳で見詰めて。
(…せっかく作ってくれたのに、って…)
平謝りに謝りたくても、ハーレイは「いない」。
仕事に出掛けて留守にしていて、仕事の真っ最中なのかもしれない。
ブルーの方は「おやつの時間」で、のんびりとお茶を淹れていたって。
(……最低だよ……)
ハーレイの心尽くしを真っ黒に焦がしてしまった上に、謝るチャンスも夜まで来ない。
「焦げてしまった、おやつ」の代わりも、余分に作ってあった時しか無い。
(…あればいいけど…)
無かった時には、真っ黒焦げのを食べるしかなくて、本当の美味しさは分からない。
帰って来たハーレイに、二重の意味で謝る羽目に陥るのだろう。
「ごめんなさい、おやつ、焦がしちゃった」と、「本当の味も、分からなかったよ」と。
(…そんなの、悲惨すぎるから…!)
だけど、やりそう、と文字通り震え上がりそう。
ハーレイと一緒に暮らし始めたなら、きっと、いつかは、そういう失敗。
(……ごめんなさい……!)
今の間に先に謝っておくからね、とハーレイの家の方向を向いて謝った。
「今日は失敗しちゃったんだけど、未来のぼくも、やりそうだから」と、頭を下げて。
(…ホントのホントに、ごめんなさい…!)
気を付けるけど、きっと、やっちゃう、と未来のハーレイに向かって謝るしかない。
まだまだ先の話だけれども、その時になって謝りたくても、ハーレイは、仕事中だろうから。
(作って行ってくれたの、焦がしちゃったら、ホントに、ごめん…!)
お菓子どころか、お料理の方も焦がしそうだし、と情けないけれど、それが現実。
「パウンドケーキしか、作れないブルー」に、お似合いの未来。
(…やっぱり、お料理、出来るようにしておいた方がいいのかも…)
などと思ってはみても、ハーレイのことだし、「俺が作る」になってしまいそう。
それに甘えて、いつの間にやら、油断した挙句…。
(…ハーレイが作ってくれたのを…)
焦がしちゃうんだ、という気しかしないから、謝り続ける。
先の未来にいる「ハーレイ」に向けて。
「焦がしちゃったら、ごめんなさい」と、今の内から、精一杯の謝罪をこめて…。
焦がしちゃったら・了
※お母さんが作ったスイートポテトを、焦がしてしまったブルー君。うっかりミスで。
ハーレイ先生と暮らし始めても、やりそうな失敗。今の内から謝っておく方がいいかもv
ママが教えてくれてたのに、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ママが作った、スイートポテト…)
今日のおやつは、それだった。
学校から帰る時間に出来上がるように、母が調整してくれていた。
(だけど、ちょっぴり…)
帰宅した後、出遅れた。
着替えたまでは良かったけれど、其処で机の上に気を取られた。
昨日の夜に、途中まで読んだ本を置いてあったせいで。
(続き、とっても気になってて…)
昨夜は寝るのが惜しかったほどで、夜更かししてでも読みたかった。
けれど、身体は丈夫ではない。
夜更かししたなら、風邪を引くとか、ろくなことにはなりそうもない。
(だから諦めて、大人しく…)
ベッドに入って眠ったわけで、今朝も読んでいる時間は無かった。
学校に持って行って読むという手もあったけれども、それはなんだか…。
(…せっかくの山場に、もったいなくて…)
家に帰って、ゆっくり読もう、と思い直して、机の上に置いたままで出掛けた。
その本が目に入ったことが、出遅れた理由。
(…おやつの後には、すぐに読めるしね…)
ほんの一行、読んで行くだけ、と手に取ったのが敗因だった。
そのまま本に吸い付けられてしまって、気付いた時には、母の呼び声がしていた。
(ブルー、まだなの、って…)
呼んでいるから、急いで階段を下りて行ったら、母は庭仕事に出掛ける所。
(おやつの用意は出来てるから、って教えてくれて…)
母は花壇の手入れに行ってしまって、ブルーは一人で残された。
テーブルには、お茶のポットとカップが置かれて、お菓子の皿もあって、申し訳ない気分。
いつも通りに直ぐに来たなら、お菓子は「出来立て」を食べられる筈だったから。
母が作ったスイートポテト。
サツマイモを潰して、滑らかに漉して、綺麗に形を整えたもの。
オーブンから出したばかりだったら、熱々だったに違いない。
(温め直すと、美味しいわよ、って言ってたし…)
熱い方が美味しいことも知っているから、温め直すことにした。
(…レンジでもいいけど、ママのオススメ、トースターに入れて…)
ほんの数分、焼いて食べるという方法、その方がレンジでやるより美味しいだろう。
母はオーブンで焼き上げたのだし、それの再現といった具合で。
(…ママが教えてくれた通りの時間と、温度にしておいて…)
スイートポテトをトースターに入れて、後は待つだけ。
数分なのだし、新聞でも読んで待てばいい。
面白そうな記事もあったし、楽しく読んでいたのだけれど…。
(…トースターの方から、美味しそうな匂いがしてたのが…)
焦げる匂いに変わっていたのに、気付くのが少し遅かった。
(あっ、大変、って…)
慌てて飛んで行ったけれども、スイートポテトは、真っ黒に焦げてしまっていた。
母に言われた通りに、ちゃんと温めていたというのに。
(…時間の設定、間違えたかな、ってトースターを睨んでいたら…)
母の教えを「守らなかった」ことに気付かされた。
おやつに遅刻したせいで、頭の中が整理されてはいなかったらしい。
(…トースターなら、ホイルで丸ごと包んでから…)
入れなさいね、と母は確かに言って出掛けた。
「でないと、焦げてしまうわよ」とも。
(…そんなの、覚えていなかったし…)
スイートポテトを、お皿の上から、トースターの中へ移動させただけ。
後は温度と時間を決めて、スタートさせたのだから、たまらない。
スイートポテトは焦げて当然、こんがりどころか、炭みたいな見た目になってしまった。
(…中身までは、まだ焦げてはいないかな、って…)
しょげながら皿の上に戻して、紅茶を淹れていたら、母が戻った。
焦げたスイートポテトを見るなり、「あらまあ…」と目を丸くしていたけれど…。
(他にもあるから、待っていてね、って温め直して…)
美味しいものを渡してくれて、焦げた方のは、母の分になった。
「大丈夫、中はホクホクだから」と、レンジで温めて、焦げた部分を全部、剥がして。
(…ホントに、中までは焦げていなくって…)
母は笑顔で食べていたのが、今日の「失敗」、母に迷惑を掛けてしまった。
もしも焦がしてしまわなかったら、庭仕事から戻った後には、満足の休憩時間だったろう。
夕食の支度に取りかかる前に、紅茶でも淹れて、スイートポテト。
焦げてしまったものではなくて、ちゃんと綺麗に温め直して、ホクホクのものを。
(……大失敗……)
おやつに遅れて、おまけに焦がしちゃうなんて、と情けない。
母は「こういう日だって、たまにあるわよ」と可笑しそうだった。
「ブルーは滅多に失敗しないし、面白い顔を見ちゃったわ」とクスクス笑いで。
(…ションボリした上、半分、パニックだったしね…)
面白い顔になっていたのは、本当だろう。
普段のブルーでは、とても見られない「珍しい」見世物。
とはいえ、それで失敗したのが、帳消しに出来るわけもない。
焦げたスイートポテトは、暫くの間、母の記憶に残りそう。
次に「温め直す」ようなことがあったら、茶目っ気たっぷりに言われるのだろう。
「温め直す時には、気を付けてね」と、今日の失敗を引き合いに出して。
「きちんとホイルで包むのよ」と念を押したり、他にも注意をしたりもして。
(…ホントに、失敗…)
いつまで言われちゃうんだろう、と肩を落として、ハタと思い当たった。
(……今日の失敗、ママの前だったから……)
まだしもマシな方だったろう。
あの時、近くに父もいたなら、もっと笑われて、父にも当分、注意されそう。
「お前は焦がすから、気を付けるんだぞ」と、くどいくらいに。
(…だけどパパなら、まだマシな方で…)
未来のぼくが心配だよ、と首を竦めた。
今は「母におやつを作って貰う」立場だけれども、将来は違う。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、おやつを作る係は、多分、ハーレイ。
(…ハーレイが好きな、ママのパウンドケーキだけは…)
自分で焼きたいし、焼けるようにもなるだろう。
けれど、ハーレイは、今も昔も、料理の腕は抜群なだけに…。
(…ぼくが作るの、パウンドケーキだけで…)
他のお菓子は、料理とセットで、ハーレイが作る毎日。
仕事がある日も、作っておいて出掛けるくらいに、ハーレイは腕を奮うと思う。
「今日の昼飯、コレだからな。おやつも、作っておいたから」と、毎朝、満足そうに。
(…そうやって作っておいてくれたの、焦がしちゃったら…)
今日のスイートポテト以上に、申し訳なくて、情けない気分になってしまいそう。
「焦がしちゃったよ…」と、半ば泣き顔になっている日もありそうな気がする。
真っ黒焦げになった「何か」を、涙が滲んだ瞳で見詰めて。
(…せっかく作ってくれたのに、って…)
平謝りに謝りたくても、ハーレイは「いない」。
仕事に出掛けて留守にしていて、仕事の真っ最中なのかもしれない。
ブルーの方は「おやつの時間」で、のんびりとお茶を淹れていたって。
(……最低だよ……)
ハーレイの心尽くしを真っ黒に焦がしてしまった上に、謝るチャンスも夜まで来ない。
「焦げてしまった、おやつ」の代わりも、余分に作ってあった時しか無い。
(…あればいいけど…)
無かった時には、真っ黒焦げのを食べるしかなくて、本当の美味しさは分からない。
帰って来たハーレイに、二重の意味で謝る羽目に陥るのだろう。
「ごめんなさい、おやつ、焦がしちゃった」と、「本当の味も、分からなかったよ」と。
(…そんなの、悲惨すぎるから…!)
だけど、やりそう、と文字通り震え上がりそう。
ハーレイと一緒に暮らし始めたなら、きっと、いつかは、そういう失敗。
(……ごめんなさい……!)
今の間に先に謝っておくからね、とハーレイの家の方向を向いて謝った。
「今日は失敗しちゃったんだけど、未来のぼくも、やりそうだから」と、頭を下げて。
(…ホントのホントに、ごめんなさい…!)
気を付けるけど、きっと、やっちゃう、と未来のハーレイに向かって謝るしかない。
まだまだ先の話だけれども、その時になって謝りたくても、ハーレイは、仕事中だろうから。
(作って行ってくれたの、焦がしちゃったら、ホントに、ごめん…!)
お菓子どころか、お料理の方も焦がしそうだし、と情けないけれど、それが現実。
「パウンドケーキしか、作れないブルー」に、お似合いの未来。
(…やっぱり、お料理、出来るようにしておいた方がいいのかも…)
などと思ってはみても、ハーレイのことだし、「俺が作る」になってしまいそう。
それに甘えて、いつの間にやら、油断した挙句…。
(…ハーレイが作ってくれたのを…)
焦がしちゃうんだ、という気しかしないから、謝り続ける。
先の未来にいる「ハーレイ」に向けて。
「焦がしちゃったら、ごめんなさい」と、今の内から、精一杯の謝罪をこめて…。
焦がしちゃったら・了
※お母さんが作ったスイートポテトを、焦がしてしまったブルー君。うっかりミスで。
ハーレイ先生と暮らし始めても、やりそうな失敗。今の内から謝っておく方がいいかもv
