飽きられちゃったら
(美人でも、三日で飽きるって言うらしいけど…)
今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。
懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
今のブルーは、そういう位置付け。
誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。
(…美人でも、三日で飽きられるから…)
ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。
(……えっと……?)
会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。
(…ということは、今のぼくだと…)
育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
おかしくないんだ、と恐ろしい。
なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。
そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
飽きられてしまったら、おしまいだから。
いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。
飽きられちゃったら・了
※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv
今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。
懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
今のブルーは、そういう位置付け。
誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。
(…美人でも、三日で飽きられるから…)
ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。
(……えっと……?)
会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。
(…ということは、今のぼくだと…)
育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
おかしくないんだ、と恐ろしい。
なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。
そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
飽きられてしまったら、おしまいだから。
いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。
飽きられちゃったら・了
※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv
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