忍者ブログ

やり直すなら
(今の人生、やり直しみたいなモンなんだよなあ…)
 実際には前の続きなんだが、とハーレイが、ふと考えたこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(考え方によっては、やり直しとも言えるだろう)
 前の生では出来なかった沢山のことを、青い地球の上でやっていけるし、やり直し。
 しかも愛おしい人も一緒で、素晴らしい人生を送ってゆけそう。
(…前のあいつを失くした時には、俺の人生、真っ暗になってしまって…)
 それから後は、どう生きていたかも記憶が定かではない。
 白いシャングリラのキャプテンとしては、全て覚えているのだけれども、他が怪しい。
(個人的なことになったら、他人事のようで…)
 傍観者でしかないんだよな、と思うくらいに、「自分」を捨ててしまっていた。
 前のブルーが「いない」人生、それには意味が無かったから。
(今から、人生、やり直せるのは、有難いぞ)
 ちょいと時代がズレちまったが、と苦笑はしても、青く蘇った地球での人生。
 時代が少しズレていようが、前の自分が「英雄扱い」の世界だろうが、構わない。
 愛おしい人と「やり直せる」なら、例え地獄の底であろうと、きっと自分は幸せだろう。
(…とはいえ、地獄は御免蒙りたいが…)
 前の生だけで充分だしな、と時の彼方を思い返して、別の考えがヒョイと浮かんだ。
 同じ「人生」を「やり直す」のなら、前の生だと、どうなるのだろう、と。
 遠く遥かな時の彼方に、「前の自分」の人生がある。
 「キャプテン・ハーレイ」として生きた時代で、その「人生」を、やり直すという考え。
(転生モノってヤツが、色々とあって…)
 死んだ人間が、生まれ変わって「別の人生」を生きてゆくという物語がある。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わるのも、「転生モノ」でいいのだろうか。


(……ふうむ……)
 その手の知識に詳しくはないが、とハーレイは少し首を捻った。
 「転生モノ」に該当するのか、しないのかまでは、知識不足で分からない。
 古典の教師をやっている上、現代小説なども好きだとはいえ、範疇外の疑問になる。
(その手の知識は、持っちゃいないし…)
 まあいいとしよう、と「転生モノ」かどうかは、棚上げにして先に進んだ。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わって、その人生を生きてみるのも、興味深い。
(生まれ変わりなんだし、今の俺と、条件は変わらないんだよなあ?)
 何処の時点で記憶があるかは、運次第だが、と想像の翼を羽ばたかせる。
(生まれつき持っていたっていいし、途中からでもいいんだが…)
 先が分かっている人生だしな、とハーレイはコーヒーのカップを傾けた。
 「今の自分」の記憶を持っているなら、「人生の先」は分かっている。
 前のブルーと「メギドの炎で燃え上がる地獄」で出会って、後にメギドのせいで別れた。
(…まるでメギドが鍵のようだな…)
 メギドが人生の節目とは酷い、と思いはしても、今では「済んでしまったこと」でしかない。
 「仕方なかった」で終わりなのだけれど、「やり直し」ならば「違って来る」。
(転生モノの醍醐味と言えば、そういった点で…)
 定型的な筈の物語が、「転生」という要素で、ガラリと変わってゆくのが王道だろう。
 「本来、こういった人は、こう生きる」と誰もが頷く所が、人が変わって、生き方も変わる。
 「今の自分」が「前の自分」に「生まれ変わった」場合にしたって、当て嵌まりそう。
(…メギドの辺りを、ちょいとだな…)
 今の俺ならではの知識でもって、書き換えてやれば、と思わず笑みを湛えてしまった。
 始まりの方の「メギド」は、そのままにしておいても、問題は無い。
 ちょっぴり欲を出していいなら、当時は「持ち合わせなかった」記憶をプラスしてやれば…。
(閉じ込められてたシェルターが、壊れちまってて…)
 救出が間に合わなかった仲間を、先回りして何人も救い出せる。
 何処のシェルターが「無事に残っていたか」は、今の自分が覚えている。
 救出するのを後に回せば、壊れていたシェルターが「無事な間」に、きっと救える。


(よし、物語の出だしは、なかなかに…)
 良さそうじゃないか、とハーレイは自画自賛した。
 滑り出しとしては上々、幸先のいいスタートを切ることが出来そう。
(其処から先は、多分、大して…)
 大きく変わりはしないんだよな、と時の彼方を思い返した。
 幸いなことに、人類軍との「本格的な戦闘」は、アルテメシアに着くまで無かった。
 アルテメシアでも、ジョミーを救出するまでの間は、平穏な日々が流れていた。
(今の俺の記憶で救い出せるのは、そう多くなくて…)
 ミュウの子供を助ける程度だよな、と「助け損ねた子供」の数だけ指を折ってみる。
(…恐らく、この子たちの全てを…)
 俺の記憶で助けられるぞ、と「救出失敗」の理由を挙げて、ハーレイは大きく頷いた。
(そうなりゃ、ジョミーの救出にしても…)
 先回り出来る部分はありそうだが、と思うけれども、その件は、後でいいだろう。
(……問題は、メギド……)
 ナスカで出て来た、例のヤツだ、と忌まわしい惑星破壊兵器に舌打ちをする。
 流石に「メギド」は、今の自分の記憶があっても、手も足も出ない。
 使える兵器は限られているし、白いシャングリラでは「破壊出来ない」。
(…壊せないなら、アレが来るのを…)
 阻むか、キースがメギドを持ち出す前に、シャングリラでナスカから脱出するか。
(現実的な選択としては、後者で…)
 ナスカに残ろうとした者たちを、全て殴り倒してでも、強引に船に乗り込ませる。
(皆を乗せたら、ブリッジで舵をしっかり握って、シャングリラ、発進! とだ…)
 俺が号令すれば行けるぞ、とシナリオを描く。
 メギドが来る前に、ワープしさえすれば、誰もナスカで死にはしないし、前のブルーも…。
(失くさないで済んで、かなり時間がかかったとしても…)
 地球まで連れて行けそうだよな、とハーレイは笑んだ。
 「今の自分」の記憶さえあれば、前の自分が辿った道より、旅は短い。
 訪れるだろう様々な危機をヒョイと乗り越え、シャングリラは地球に辿り着ける。
 もっとも、そうして着いた「憧れの地球」の姿は、とても無残なものなのだけれど。


 前のブルーが、地球で目覚めて、赤茶けている星を見たなら、悲しむだろう。
 青い水の星を長く夢見て、焦がれ続けていたのだから。
(しかしだな…)
 どうにも出来んし、ご愛敬で勘弁して欲しい、と「転生モノ」の中のブルーに、心で詫びる。
(地球という星に生きて行けただけでも、良しとして…)
 青くない点は許してくれよ、と苦笑していて、別のルートを考え付いた。
(…メギド自体は破壊出来んが、アレが来るのを…)
 阻む方法、無いわけでも、と「非現実的だ」としか言えない方の、選択肢の先を。
(メギドが来たのは、キースがアレを持ち出したせいで…)
 ヤツさえいなけりゃ、どうとでもなるな、と「転生モノ」ならではの展開を。
(要は、キースが…)
 消えてくれればいいってことだ、と顎に手を当て、ニヤリと笑う。
(今の俺なら、先回りして…)
 ヤツを殺してしまうことが出来るぞ、と「あの後に起きた」事実を挙げてゆく。
(一度目のチャンスは、ヤツがナスカに下りて来た時で…)
 他の仲間が何と言おうが、「撃ち落とせ!」と、たった一言、命じればいい。
 キースが乗って降下して来る小型機、それを落とせば、キースは「死ぬ」。
(…実際、緊迫した場面だったし…)
 「キャプテン・ハーレイ」の判断ならば、ジョミーも従うことだろう。
 第一、ジョミーは、あの時には…。
(ナスカに下りてたわけなんだしな…?)
 俺が、撃墜させたとしたって、事後報告に過ぎん、と嬉しくなった「名案」だけども…。


(…待てよ?)
 キースが死んだら、其処から先は、どうなるんだ、と「穴」に気付いた。
 当時のキースは「悪」そのものでも、後には「人類の世界を根底から変えた英雄」になる。
(…もしも、キースを消しちまったら…)
 前のブルーは存命だけれど、地球までの旅路が、どうなるのやら、と深い溜息が零れ落ちた。
(……難問だな……)
 転生モノってヤツの中でも、人生は難しいのかもしれん、と苦い笑いをうかべるしかない。
(…やり直すなら、今の俺の人生くらいが、丁度いいのかもな…)
 平和な青い地球の上で、とカップを傾け、納得した。
 「俺の人生、これでいいんだ」と、満足で。
 今の新しい人生をくれた、神に心からの感謝をこめて、カップを乾杯のように掲げて…。



           やり直すなら・了


※前の自分に転生したなら、上手く人生をやり直せる、と思い付いたハーレイ先生。
 けれど、キースを消してしまうのは無理で、縛りが多そう。今の人生が良さそうですねv








拍手[0回]

PR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
 管理人のみ閲覧
 
Copyright ©  -- つれづれシャングリラ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]