飽きられたなら
(…美人は三日で飽きる、って言うが…)
前の俺は飽きはしなかったな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…三日どころか、三百年も…)
飽きずに眺め続けたんだ、と遠く遥かな時の彼方での歳月を思う。
前のハーレイは、飽きることなく「前のブルー」を見詰め続けた。
三日で飽きるなど、今、考えてみても「有り得ない」。
(…あんな美人は、そうはいないぞ…)
美人過ぎると飽きないのかもな、と可笑しくなる。
「ブルーに飽きる」時が来るなど、思い付きさえしなかった。
(…今の俺にしても、きっと…)
三百年でも飽きやしない、と「飽きない自信」は、たっぷりとある。
青い地球の上に生まれ変わったのだし、尚更だろう。
(前だと、考えられなかったような暮らしで…)
飽きるどころか、新鮮な日々が続きそうだ。
(現に今でも、新鮮で…)
新鮮すぎると言うべきかもな、と「今のブルー」を頭に描いた。
今のブルーは、十四歳にしかならない「子供」で「チビ」。
小さなブルーは、前の生でも出会ったけれども、今のブルーとは全く違う。
(中身は確かに子供だったが、前の俺より年上で…)
サイオンだって凄かったんだ、とアルタミラでの出会いを思い出す。
今の「サイオンが不器用になった」ブルーとは、月とスッポンくらいに差があった。
(…俺が言うまで、思い付いてはいなかったが…)
前のブルーは、強いサイオンで、大勢の仲間を救い出した。
メギドの炎で燃える地面を走り続けて、閉じ込められた仲間を解き放って。
前のブルーは、同じチビでも「強かった」。
サイオンばかりか、心の方も、やはり強めに出来ていた。
(直ぐに膨れてしまいやしなかったな…)
頬っぺたを膨らませた顔などは知らん、と今のブルーと比べてみる。
(前のあいつの、ハコフグみたいな顔は知らんし…)
顔を見ているだけでも新鮮だ、と愉快になる。
今でさえも「そういう調子」なのだし、先の人生は、もっと新鮮なのに違いない。
(前のあいつと瓜二つでも、まるで違って見えそうだぞ…)
釣りをしているブルーなんて、と「約束」の一つを思うだけでも、楽しみな気分。
今のハーレイの父は、釣りの名人。
ブルーも「大きくなったら、ハーレイのお父さんと釣りに行きたい」と夢を見ている。
約束は、じきに叶うだろうし、釣竿を持った「ブルー」が見られる。
前のブルーだと、釣りの道具を使う機会は、一度も無かった。
釣りが出来る日を「いつか、地球で」と夢に見たって、其処までが長い。
(…まず、人類とミュウの関係ってヤツを…)
なんとか解決しないことには、地球には行けない。
当然、釣りに行けもしないし、其処までの道を「切り開く」のが、前のブルーの役目だった。
(…とんでもない、重大な責任で…)
ブルーが一人で背負ってゆくには「重すぎた」けれど、どうすることも出来はしなかった。
(…タイプ・ブルーは、あいつ一人で…)
他の者では「戦えない」以上、ブルーが一人で背負うしかない。
(そんなあいつを、横で支えることしか出来なかったが…)
今度は逆になりそうだしな、と「今のブルー」が「前より弱い」のが、本当に嬉しい。
(あいつは、不満たらたらなんだが…)
俺にとっては有難いんだ、と「今の自分」に感謝する。
ブルーよりも年上に生まれられたし、身体も頑丈に出来ているから、今のブルーに丁度いい。
横で支えて生きるのではなくて、先に立って進んでゆける人生。
(…今のあいつの手を、しっかりと握ってだな…)
次はこっちだ、とリードしながら行けるってモンだ、とコーヒーのカップを傾ける。
ブルーに「飽きる」日など来なくて、人生が幕を閉じる時まで、幸せ一杯で歩けそうだ。
(…砂糖カエデが生えた森とか、青いケシが咲く高い山とか…)
旅に行けるし、普段だったら食事にドライブ、と夢が大きく広がってゆく。
どれも「今は、まだ夢」の時点だけれども、いずれは叶うことばかり。
(あいつに飽きる暇など、何処にあるんだ?)
無いじゃないか、と思う間に、ハタと気付いた。
(……待てよ?)
俺の方では飽きないんだが…、と「今のブルー」を考えてみる。
(…美人でも、三日で飽きるそうだし…)
俺の場合はどうなんだ、と鏡を覗くまでもない。
(…美人どころか、逆と言っても…)
いいのが「俺」というわけなだんだが…、と時の彼方での「約束事」が蘇って来る。
(…シャングリラで作ってた、薔薇の花びらのジャムは…)
数が少ないせいで、出来上がる度に「クジ引き」だった。
そのためのクジが入れられた箱は、白いシャングリラの中を回って、ブリッジにも来た。
(クジの箱が来たら、ゼルまでもが…)
「どれ、運試しじゃ」と、箱に手を突っ込んでいたものだけれど…。
(クジ引きの箱は、前の俺の前は、いつも素通り…)
立ち止まりもせずに通り過ぎて行った、クジの箱を持った女性たち。
「キャプテンに、薔薇のジャムは似合わないわよね」と、船の女性たちは思っていた。
(…恐らく、前のあいつ以外は…)
俺なんか見てはいなかったんだ、と悪い方での自信なら「ある」。
前のブルーは「美人過ぎる」くらいだったけれども、前のハーレイは「美人」とは逆。
ついでに「今のハーレイ」の方も、前のハーレイと瓜二つ。
導き出せる答えは、一つしか無くて、今のハーレイも、「美人ではない」。
(…なんてこった…)
美人でも三日で飽きるんだぞ、とハーレイは、恐ろしい気持ちになって来た。
(シャングリラの頃なら、前のあいつも…)
ハーレイしか見てはいなかったけれど、今の生では条件が違う。
「ソルジャーとキャプテン」という、絶対的な絆の方も、今度は危うい。
(…結婚して、一緒に暮らし始めたら…)
あいつ、三日で飽きるかもな、と背筋がゾクリと冷える。
(…俺の顔なんぞを見続けてるより、ちょいと息抜き、って…)
別行動を取りたくなって、二人で買い物に出掛けた先でも、入口の所で別れるとか。
(…それじゃ、後で、と…)
集合時間と場所を決めたら、ブルーは「一人で」出掛けてゆく。
ハーレイが「野菜や肉」といった食材を買いに行こうが、ブルーの方は、お構いなし。
(…今夜の食事は、これがいいな、とも…)
希望のメニューを言いもしないで、ブルーの関心は他に向けられて、別の買い物。
(…買い物で済めば、まだマシな方で…)
近くの公園へ散歩に行くとか、最悪なケースとしては、同じ店の中で…。
(フードコートに出掛けて行って、新着メニューをチェックして…)
何か飲んだり、アイスを食べたり、「ハーレイは抜きで」、寛ぎの時間。
なにしろ「ハーレイには、飽きた」わけだし、「ハーレイがいない」場所が一番。
(…ありそうな未来で、困るんだが…!)
飽きられたなら、そうなっちまう、と慌てふためいてみても、解決策は無さそう。
前の生から「この顔」なのだし、変わってくれるわけがない。
ブルーがハーレイに「飽きてしまえば」、それでおしまい。
(…どうすりゃいいんだ…?)
巻き返しのチャンスは、自力で作るしか無いんだよな、と絶望しそうにもなる。
ブルーが「ハーレイに飽きた」以上は、誘ってみるだけ無駄だろう。
デートも食事も、旅にしたって、ブルーは「付き合ってはくれる」だろうけれども…。
(行った先でも、退屈そうに…)
俺とは別に動くかもな、と思えて来るから、そんな未来は来て欲しくない。
(…俺の方では、あいつに飽きる時は来ないし…)
飽きられたなら、泣き暮らす日々になるんだしな、と今から神に祈りたくなる。
「ブルーが、俺に飽きませんように」と、「美人ではない」自分の未来を。
美人でも三日で飽きるらしいし、美人ではない「今のハーレイ」は、大いに不利。
「どうか、神様…」と、祈ることしか出来ないわけだし、祈っておこう。
今のブルーも、前のブルーと同じに「ハーレイに、飽きてしまわない」ように。
三百年以上経とうが、飽きることなく「ハーレイ」だけを見てくれるよう。
「ハーレイの顔を見てるよりかは」と、別行動を取られる日々だと、悲しすぎるから…。
飽きられたなら・了
※ブルー君に飽きる日など来ない、と思うハーレイ先生ですけど、逆が問題。
美人でさえも三日で飽きるのだったら、美人とは逆のハーレイ先生、飽きられるのかもv
前の俺は飽きはしなかったな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…三日どころか、三百年も…)
飽きずに眺め続けたんだ、と遠く遥かな時の彼方での歳月を思う。
前のハーレイは、飽きることなく「前のブルー」を見詰め続けた。
三日で飽きるなど、今、考えてみても「有り得ない」。
(…あんな美人は、そうはいないぞ…)
美人過ぎると飽きないのかもな、と可笑しくなる。
「ブルーに飽きる」時が来るなど、思い付きさえしなかった。
(…今の俺にしても、きっと…)
三百年でも飽きやしない、と「飽きない自信」は、たっぷりとある。
青い地球の上に生まれ変わったのだし、尚更だろう。
(前だと、考えられなかったような暮らしで…)
飽きるどころか、新鮮な日々が続きそうだ。
(現に今でも、新鮮で…)
新鮮すぎると言うべきかもな、と「今のブルー」を頭に描いた。
今のブルーは、十四歳にしかならない「子供」で「チビ」。
小さなブルーは、前の生でも出会ったけれども、今のブルーとは全く違う。
(中身は確かに子供だったが、前の俺より年上で…)
サイオンだって凄かったんだ、とアルタミラでの出会いを思い出す。
今の「サイオンが不器用になった」ブルーとは、月とスッポンくらいに差があった。
(…俺が言うまで、思い付いてはいなかったが…)
前のブルーは、強いサイオンで、大勢の仲間を救い出した。
メギドの炎で燃える地面を走り続けて、閉じ込められた仲間を解き放って。
前のブルーは、同じチビでも「強かった」。
サイオンばかりか、心の方も、やはり強めに出来ていた。
(直ぐに膨れてしまいやしなかったな…)
頬っぺたを膨らませた顔などは知らん、と今のブルーと比べてみる。
(前のあいつの、ハコフグみたいな顔は知らんし…)
顔を見ているだけでも新鮮だ、と愉快になる。
今でさえも「そういう調子」なのだし、先の人生は、もっと新鮮なのに違いない。
(前のあいつと瓜二つでも、まるで違って見えそうだぞ…)
釣りをしているブルーなんて、と「約束」の一つを思うだけでも、楽しみな気分。
今のハーレイの父は、釣りの名人。
ブルーも「大きくなったら、ハーレイのお父さんと釣りに行きたい」と夢を見ている。
約束は、じきに叶うだろうし、釣竿を持った「ブルー」が見られる。
前のブルーだと、釣りの道具を使う機会は、一度も無かった。
釣りが出来る日を「いつか、地球で」と夢に見たって、其処までが長い。
(…まず、人類とミュウの関係ってヤツを…)
なんとか解決しないことには、地球には行けない。
当然、釣りに行けもしないし、其処までの道を「切り開く」のが、前のブルーの役目だった。
(…とんでもない、重大な責任で…)
ブルーが一人で背負ってゆくには「重すぎた」けれど、どうすることも出来はしなかった。
(…タイプ・ブルーは、あいつ一人で…)
他の者では「戦えない」以上、ブルーが一人で背負うしかない。
(そんなあいつを、横で支えることしか出来なかったが…)
今度は逆になりそうだしな、と「今のブルー」が「前より弱い」のが、本当に嬉しい。
(あいつは、不満たらたらなんだが…)
俺にとっては有難いんだ、と「今の自分」に感謝する。
ブルーよりも年上に生まれられたし、身体も頑丈に出来ているから、今のブルーに丁度いい。
横で支えて生きるのではなくて、先に立って進んでゆける人生。
(…今のあいつの手を、しっかりと握ってだな…)
次はこっちだ、とリードしながら行けるってモンだ、とコーヒーのカップを傾ける。
ブルーに「飽きる」日など来なくて、人生が幕を閉じる時まで、幸せ一杯で歩けそうだ。
(…砂糖カエデが生えた森とか、青いケシが咲く高い山とか…)
旅に行けるし、普段だったら食事にドライブ、と夢が大きく広がってゆく。
どれも「今は、まだ夢」の時点だけれども、いずれは叶うことばかり。
(あいつに飽きる暇など、何処にあるんだ?)
無いじゃないか、と思う間に、ハタと気付いた。
(……待てよ?)
俺の方では飽きないんだが…、と「今のブルー」を考えてみる。
(…美人でも、三日で飽きるそうだし…)
俺の場合はどうなんだ、と鏡を覗くまでもない。
(…美人どころか、逆と言っても…)
いいのが「俺」というわけなだんだが…、と時の彼方での「約束事」が蘇って来る。
(…シャングリラで作ってた、薔薇の花びらのジャムは…)
数が少ないせいで、出来上がる度に「クジ引き」だった。
そのためのクジが入れられた箱は、白いシャングリラの中を回って、ブリッジにも来た。
(クジの箱が来たら、ゼルまでもが…)
「どれ、運試しじゃ」と、箱に手を突っ込んでいたものだけれど…。
(クジ引きの箱は、前の俺の前は、いつも素通り…)
立ち止まりもせずに通り過ぎて行った、クジの箱を持った女性たち。
「キャプテンに、薔薇のジャムは似合わないわよね」と、船の女性たちは思っていた。
(…恐らく、前のあいつ以外は…)
俺なんか見てはいなかったんだ、と悪い方での自信なら「ある」。
前のブルーは「美人過ぎる」くらいだったけれども、前のハーレイは「美人」とは逆。
ついでに「今のハーレイ」の方も、前のハーレイと瓜二つ。
導き出せる答えは、一つしか無くて、今のハーレイも、「美人ではない」。
(…なんてこった…)
美人でも三日で飽きるんだぞ、とハーレイは、恐ろしい気持ちになって来た。
(シャングリラの頃なら、前のあいつも…)
ハーレイしか見てはいなかったけれど、今の生では条件が違う。
「ソルジャーとキャプテン」という、絶対的な絆の方も、今度は危うい。
(…結婚して、一緒に暮らし始めたら…)
あいつ、三日で飽きるかもな、と背筋がゾクリと冷える。
(…俺の顔なんぞを見続けてるより、ちょいと息抜き、って…)
別行動を取りたくなって、二人で買い物に出掛けた先でも、入口の所で別れるとか。
(…それじゃ、後で、と…)
集合時間と場所を決めたら、ブルーは「一人で」出掛けてゆく。
ハーレイが「野菜や肉」といった食材を買いに行こうが、ブルーの方は、お構いなし。
(…今夜の食事は、これがいいな、とも…)
希望のメニューを言いもしないで、ブルーの関心は他に向けられて、別の買い物。
(…買い物で済めば、まだマシな方で…)
近くの公園へ散歩に行くとか、最悪なケースとしては、同じ店の中で…。
(フードコートに出掛けて行って、新着メニューをチェックして…)
何か飲んだり、アイスを食べたり、「ハーレイは抜きで」、寛ぎの時間。
なにしろ「ハーレイには、飽きた」わけだし、「ハーレイがいない」場所が一番。
(…ありそうな未来で、困るんだが…!)
飽きられたなら、そうなっちまう、と慌てふためいてみても、解決策は無さそう。
前の生から「この顔」なのだし、変わってくれるわけがない。
ブルーがハーレイに「飽きてしまえば」、それでおしまい。
(…どうすりゃいいんだ…?)
巻き返しのチャンスは、自力で作るしか無いんだよな、と絶望しそうにもなる。
ブルーが「ハーレイに飽きた」以上は、誘ってみるだけ無駄だろう。
デートも食事も、旅にしたって、ブルーは「付き合ってはくれる」だろうけれども…。
(行った先でも、退屈そうに…)
俺とは別に動くかもな、と思えて来るから、そんな未来は来て欲しくない。
(…俺の方では、あいつに飽きる時は来ないし…)
飽きられたなら、泣き暮らす日々になるんだしな、と今から神に祈りたくなる。
「ブルーが、俺に飽きませんように」と、「美人ではない」自分の未来を。
美人でも三日で飽きるらしいし、美人ではない「今のハーレイ」は、大いに不利。
「どうか、神様…」と、祈ることしか出来ないわけだし、祈っておこう。
今のブルーも、前のブルーと同じに「ハーレイに、飽きてしまわない」ように。
三百年以上経とうが、飽きることなく「ハーレイ」だけを見てくれるよう。
「ハーレイの顔を見てるよりかは」と、別行動を取られる日々だと、悲しすぎるから…。
飽きられたなら・了
※ブルー君に飽きる日など来ない、と思うハーレイ先生ですけど、逆が問題。
美人でさえも三日で飽きるのだったら、美人とは逆のハーレイ先生、飽きられるのかもv
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