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(…あんなの、すっかり忘れちゃってた…)
 青い目玉のお守りなんて、と小さなブルーがついた溜息。
 ハーレイが訪ねて来てくれた日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドの端に腰を下ろして。
 「こんなのが出来ているらしいぞ?」と、ハーレイが持って来た一枚の紙。
 其処に幾つも、幾つも目玉。
 青いガラスで出来たお守り、「メデューサの目」とヒルマンが呼んでいた。
 遠く遥かな時の彼方で、シャングリラで。
(ハーレイはなんて言っていたっけ…?)
 今の時代のお守りの名前、それを確かに聞いたけれども。
(…ナザール…?)
 なんだったっけ、と思い出せない目玉のお守り。
 メデューサの目を象っているのは同じだけれども、別の名前がついていた。
 あのお守りを土産物にしている地域での名前。
 玄関に吊るす大きなものから、ブレスレットやペンダントまで。
 沢山あった目玉のお守り、災いを防ぐお守りの目玉。魔除けの目玉。
 人を石に変えたと伝わるメデューサの瞳、災いを跳ね返すお守りの目玉。
 相手を石に変える代わりに、災いを弾いて持ち主を守る。
 青い目玉はそういうお守り、前の自分も知っていた。
 ヒルマンが話してくれたから。
 SD体制が始まるよりも昔の地球には、それがあったと。


 前の自分たちが生きた時代は、メデューサの目は無かったけれど。
 青い目玉のお守りは何処にも無かったけれども、今の時代はあるらしい。
 復活して来た文化のお蔭で、山のように。
 ハーレイが持って来てくれた紙にプリントされていた目玉は、恐らくほんの一部分。
 売っている地域へ出掛けて行ったら、他にも沢山あるのだろう。
 青い目玉ばかりを扱う専門店だってあるかもしれない。
 人気の土産物らしいから。…ハーレイがそう言っていたから。
(メデューサの目は、いいんだけどね…)
 青い目玉のお守りならいい、本当にお守りなのだから。
 平和な時代に魔除けが必要かどうかはともかく、由緒正しいお守りの目玉。
 メデューサはギリシャ神話の怪物、ずっと昔から地球に伝わる神話の登場人物だから。
 そう、元々は美しい乙女、艶やかな髪を持っていた。
 けれども、女神アテナに憎まれ、怪物の姿に変えられた上に、髪まで蛇にされてしまった。
 挙句に退治されてしまって、落とされた首から噴き出した血がペガサスを産んだ。
 翼を持った天翔る白馬。
(だから、本物…)
 ギリシャ神話の時代からずっと、地球にいたのがメデューサだから。
 美しかった乙女が怪物になって退治されても、その首は女神アテナの盾に飾られた。
 血から生まれたペガサスは空を走り続けて、後の時代にも人気の天馬。
 彫刻になったり、絵に描かれたりと、古代ギリシャが滅びた後も。
 神話の神々の神殿を顧みる者がいなくなっても、ギリシャ神話は愛された。
 劇にされたり、映画にもなって。
 前の自分が生きた時代も、人類軍の船の名前はギリシャ神話から取られていた。
 最後の旗艦はゼウスだったし、キースがメギドを持ち込んだ時の船の名前はエンデュミオン。


 そんな具合だから、ギリシャ神話は本物だろう。
 史実かどうかは疑わしくても、長い長い時を語り継がれた神話だから。
(メデューサの目だって…)
 ギリシャ神話から生まれたお守り、相手を石に変える瞳で災いを弾き返して欲しいと。
 メデューサの目の力が欲しいと、人が求めて生まれたお守り。
 青いガラスで出来た目玉に、祈りをこめて。
 けれど…。
(ヒルマンが見付けちゃったから…)
 かつて地球には「メデューサの目」というお守りがあった、と知ったヒルマン。
 彼はメデューサの目のお守りにあやかりたいと考えた。
 ちょうど制服を作ろうとしていた時期だったから。
 シンボルとして揃いの石をつけよう、と服飾部門の者たちが出したアイデア。
 石の色の候補は赤と青と緑、どれも制服に合いそうだけれど。
 「赤い色がいいと思うのだがね」と言い出したのがヒルマンだった。
 根拠になったのが青い色をした、お守りの目玉。メデューサの瞳。
 それが青なら、ミュウのお守りには赤い色がいいと。
 ミュウたちを守るソルジャーの瞳、その色と同じ赤にしようと。
(前のぼくなんか、神話じゃないのに…!)
 ギリシャ神話にはとても敵わないのに、ただのちっぽけな人間なのに。
 生きた年数も、知名度の方も、ギリシャ神話の端役にすらも及ばないのに。
 …どうしたわけだか、長老たちも、前のハーレイも大賛成で。
 船の仲間たちにも話が伝わり、「赤色がいい」と選ばれてしまった制服の石。
 ソルジャーの瞳と同じ色だと、お守りなのだと。
 これが自分たちを守ってくれると、青い目玉ではなくて赤い瞳が、と。


 一人で反対してみても無駄で、出来上がった制服に赤い石。
 前の自分と多くの仲間は襟元に一つ、長老たちや前のハーレイはマントの飾りに。
 ずっと後にはフィシスの首飾りにもなった石だけれど、赤に決まった理由が問題。
(ぼくの瞳がお守りだなんて…!)
 それはあまりに恥ずかしすぎるし、それほどの力も持ってはいない。
 ギリシャ神話のメデューサの目とは違うのだから。
 あやかっただけで、ただのこじつけ。
 人間を石に変えられはしないし、災いを防ぐ力だって無い。
(なのに、お守り…)
 誰の制服にも赤い石。
 自分の瞳の色をした石、お守りだという思いをこめて。
(あんまり恥ずかしかったから…)
 いつか新しい仲間を迎えることがあったら、知られたくないと思った自分。
 赤い石が選ばれた理由など。
 自分の瞳がお守りなのだと、そういう意味の石だなどとは。
 後々までも伝わるなどは御免蒙る、と敷いた緘口令。
 「新しい仲間には絶対に言うな」と。
 もちろん自分も言いはしないし、ジョミーにだって話さなかった。
 制服の赤い石については、ただの一言も。
 赤い理由も、お守りのことも。
 だからジョミーは、シンボルだと信じていたことだろう。
 アルテメシアから加わった仲間が、そうだったように。
 「シャングリラでは誰もがつけるらしい」と、「ミュウのシンボルは赤い石だ」と。


 そうやって見事に隠しおおせた、あの赤い石の由来だけれど。
 今の時代まで伝わりはせずに、時の彼方に消えたけれども。
(…前のぼく、時々、思い出しちゃって…)
 いたたまれない思いをしていたのだった、皆の制服についている石に。
 赤い石にふと気付いてしまえば、誰の服にも自分の瞳。
 その制服を着ている者が、石の由来を知らなくても。
 ただのシンボルだと考えていても、前の自分は本当のことを知っていたから…。
(あっちにも、こっちにも、お守りの目玉…)
 お守りにされた自分の瞳が、シャングリラ中に散らばっていた。
 仲間の数だけ、お守りの目玉。赤い瞳のお守りなるもの。
 どんなに恥ずかしい思いをしていたか、ハーレイはきっと知らないだろう。
 現に今日だって、青い目玉が山ほど印刷された紙をウキウキ持って来たから。
 少しでも「申し訳ない」と思っていたなら、あれを持っては来ないだろうから。
(…そりゃあ、ちょっぴり懐かしかったけど…)
 青い目玉のお守りが復活していることが分かって嬉しかったけれど。
 それとこれとは別問題で、赤い瞳のお守りの方は忘れたい。
 あまりに恥ずかしすぎるから。
 前の自分はメデューサほどの力も知名度も無かったのだから。
 今でこそ伝説の英雄扱い、ソルジャー・ブルーを知らない者などいないとはいえ、それも別。
 歴史の悪戯で英雄になって、有名人になっただけのこと。
 瞳をお守りにされた頃の自分は、シャングリラにいた仲間たちしか知らない存在。
 人類にとっては、アルタミラごと滅ぼしたつもりのミュウの一人で、不要なもの。
 そういう境遇だった自分の瞳が、メデューサの目と並ぶなど…。
(おこがましいよね?)
 思い上がりも甚だしい、という気になるから、もう忘れたい。
 青い目玉のお守りの方も、お守りにされた自分の瞳も。
 でも…。


(お守りの目玉…)
 ハーレイが持って来た紙に刷られていた、土産物だというメデューサの目。
 青い色をした目玉のお守り、あれがちょっぴり欲しい気がする。
 前の自分は、お守りの目玉を持っていなかったから。
 赤い石のお守りは自分の瞳で、それではお守りにならないから。
(ちょっと欲しいな…)
 今は平和な時代なのだし、魔除けは必要無いけれど。
 青い目玉も飾りのようなものだろうけれど、せっかく本物がある時代。
 本当のお守りの目玉はこれだと、青い色だと、一つ持ってみたい。
 ハーレイに話したら、反対はされなかったから。
(もし、忘れないで覚えていたら…)
 一つと言わず、山ほど買ってみようか、あれを?
 ハーレイが「家中、目玉だらけか?」と驚いていたから、青い目玉をドッサリと。
 「シャングリラにいた頃の、ぼくの気分はこうだったけど!」と。
(自分の瞳が山ほどっていう気分を、ハーレイに味わって貰うんだったら…)
 青ではなくて、鳶色だけれど。
 鳶色の目玉のお守りが山ほど要るのだけれども、それは無いから、青色で。
 今の自分のお守りに一つ、ハーレイを苛めるために山ほど。
 ふふっ、と笑ったお守りの目玉。
 覚えていたなら一つ欲しいと、ハーレイのためには山ほどだよね、と…。

 

        お守りの目玉・了


※生まれ変わっても、瞳をお守りにされてしまった恥ずかしさが忘れられないブルー君。
 いつかメデューサの目をドッサリと買って、ハーレイ先生を苛めるかもですねv





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(…あいつ、ジョミーにも話さなかったのか…)
 そんなに苦手だったとはな、とクックッと可笑しそうに笑うハーレイ。
 夜の書斎で、机に置いた紙を見ながら。
 小さなブルーに今日、見せてやった、カラーでプリントしてある資料。
 青い色をした幾つもの目玉、「メデューサの目」と呼ばれるお守り。
(ヒルマンはそう言ってたんだが…)
 今の時代は、別の名前の方が通りがいいらしい。
 ナザール・ボンジュウ、遠い昔のトルコの言葉。
 邪視を指すナザール、お守りの意味のボンジュック。
 訳せば「邪視のお守り」だけれど、邪視を避けるのに使うお守り。
 呪いの力がこもった視線を避けられるように、呪いの力を受けないように。
(…人類にしてみりゃ、サイオンは邪視ってヤツだったかもな)
 手を触れもせずに、人の心臓を止めることだって出来たのだから。
 そうするミュウがいなかっただけで。
 優しい気質のミュウは本来、人殺しなどはしないから。
(前のあいつだって…)
 大人しく、されるがままになっていた。
 生き地獄だったアルタミラの檻にいた頃は。
 研究者たちを殺して逃げ出そうとか、自由になろうとは思いもせずに。
 もしもブルーがそう望んだなら、研究者たちは皆殺しになっていたのだろうに。
 研究所だって根こそぎ吹っ飛び、他の檻にいたミュウだけが助かったろうに。
 なのにブルーは、それを思いもしなかった。
 どんなに酷い目に遭わされていても、酷い実験を繰り返されても。


 今から思えば、命拾いをした研究者たち。
 ミュウの優しい気質のお蔭で、前のブルーもそうだったせいで。
(全て承知でやっていたんだろうが…)
 心理探査もしていた彼らは、ミュウの気質を最初から見抜いていたのだろう。
 手ひどく扱い、殺したとしても、ミュウは最後まで反撃しないと。
 そういう意志を持ちはしないと、大人しく殺されるだけなのだと。
(…前の俺にしたって、そうだったしなあ…)
 殴ろうと思えば、殴り飛ばせた研究者。
 虚弱なミュウには珍しい体躯、大きく頑丈に育った身体。
 成人検査の直後はともかく、檻で成長を遂げた後なら、力では負けなかったろう。
 顎に一発お見舞いしたなら…。
(吹っ飛んだだろうな、研究者どもは)
 今の自分が柔道で相手を投げ飛ばすように、簡単に。
 いともあっさりダウンしたろう、忌まわしい白衣の研究者たち。
 けれど、殴りはしなかった。
 殴ったことで受ける仕打ちを恐れていたとか、怖かったとか。
 そんな理由はまるで無かった、殴ろうと思わなかっただけ。
(…殴ってやれば良かったのにな?)
 寄ってたかって殴られる羽目になろうとも。
 警備兵が出て来て撃ち殺されても、きっとスカッとしていただろう。
 死ぬ前に一矢報いてやったと、満足だと。
 それなのに、殴ろうとしなかった自分。
 前のブルーが、研究所を破壊しなかったように。
 研究者たちを一人残らず、殺そうと考えなかったように。


 意志の力で人を殺せたミュウの力は、人類から見れば邪視だったろう。
 それに捕まらないよう、ミュウを殺した。
 人類はミュウを排除し続け、前の自分たちも星ごと滅ぼされそうになったほど。
 アルタミラで、それに赤いナスカで。
(…散々、酷い目に遭わされたんだが…)
 人類の世界にコレは無かった、とトンと指先で叩いたナザール・ボンジュウ。
 本物ではなくて、印刷だけれど。
 小さなブルーに見せてやろうと、プリントしていった資料だけれど。
(ミュウの力が怖かったんなら、こいつを作れば良かったのにな?)
 気休めにしかならないとしても、邪視のお守り。
 青いガラスで作られた目玉、邪視を跳ね返すお守りの目玉。
(今は山ほどあるのになあ…)
 地球が滅びるよりも前の時代に、トルコという国があった辺りを中心に。
 家を丸ごと守れるようにと、とても大きな青い目玉のお守りもある。
 そうかと思えば、一センチほどの小さな目玉のお守りも。
 幾つも連ねてブレスレットになったものやら、一つだけ下がったペンダントやら。
 それは色々、目玉のお守り。
 小さなブルーに見せてやったら、直ぐに反応が返って来た。
 「ヒルマンが言ってたヤツだよね?」と。
 メデューサの目だと教えてやったら、興味津々で見ていたブルー。
 前の自分たちが生きた時代は、このお守りは無かったから。
 青い目玉のお守りは無くて、その代わりに…。


(邪視の力を持っていたミュウが、こいつを持っていたってな)
 色は全く違うんだが…、と時の彼方に思いを馳せた。
 シャングリラにいた仲間たち。
 誰の制服にも、赤い色の石がついていた。…何処かに、必ず。
 殆どの仲間とソルジャーの服は、襟元に一つ。
 前の自分や長老たちはマントの飾りに。
 フィシスは首飾りにつけていた石、あれはミュウのためのお守りだった。
 ナザール・ボンジュウは青いけれども、赤い色をした目玉のお守り。
(特に名前はつけなかったが…)
 人類から逃れられるようにと、願いをこめて出来たお守り。
 ヒルマンが見付けたメデューサの目という、青いお守りを参考に。
 ミュウの場合は赤い目玉だと、赤い色の石が選ばれた。
 制服につける石の色は赤、と。
 色の候補は赤の他にもあったのに。
 青や緑も挙がっていたのに、青い目玉のお守りを知って、選ばれた赤。
 ミュウの魔除けは、青い瞳ではなかったから。
 前のブルーの赤い瞳が、ミュウを守るのに相応しい瞳の色だったから。
 青いメデューサの目が魔除けになるなら、赤い瞳も同じこと。
 人類から皆を守ってくれると、赤い瞳のお守りを持っておきたいと。
 だから、ミュウにはあったお守り。
 シャングリラで暮らすミュウは持っていた、目玉のお守り。
 それは青くはなかったけれど。
 前のブルーの瞳の通りに、赤だったけれど。


 そうやって出来た、目玉のお守り。
 名前は無くても赤い瞳の色をしたお守り、誰の服にも必ず一つ。
(…あいつ、嫌がっていたんだが…)
 瞳をお守りにされてしまった、と嬉しそうではなかったブルー。
 どうやら恥ずかしかったらしくて、緘口令を敷いてしまった。
 「新しく船に来る仲間には言うな」と、「石の色の由来を教えるな」と。
 古参の仲間はそれを守ったから、アルテメシアで加わった仲間は知らなかった。
 制服の赤い石の由来を、お守りなのだということを。
 ミュウのシンボルだと思い込んでいた仲間たち。
 赤い石はそうだと、誰の服にもついているのはシンボルだからと。
(…本当はお守りだったんだがなあ…)
 前の自分や、由来を知っていた仲間にとっては。
 お守りに頼りはしなかったけれど、ブルーの瞳が守ってくれると。
 ブルーがいれば安全なのだと、人類からも逃れられると。
(…しかしだ、あいつは、いたたまれなくて…)
 普段は忘れていたらしいけれど、思い出したら恥ずかしかったと話したブルー。
 小さなブルーは、そう言っていた。
 どちらを見ても自分の目玉だらけで、いたたまれない気分になったものだと。
(だからと言って、ジョミーにまで黙っておかなくてもいいと思うがな…?)
 次の世代を担うソルジャー候補には、教えておいて欲しかった。
 赤い石には意味があるのだと、あの石はミュウのお守りなのだと。
 けれども、伝えはしなかったブルー。
 ジョミーは誰からも石の由来を聞かずに終わって、赤いお守りは消えてしまった。
 古参のミュウだけが知っていたって、新しい世代は知らないのだから。


 なんとも惜しい、と思うけれども、時の彼方に消えたお守り。
 青い目玉がメデューサの目なら、赤い石のお守りはブルーの瞳。
 今の時代も絶大な人気を誇り続けるソルジャー・ブルーの、赤い瞳の色なのに。
 ミュウのお守りだったのに。
(…メデューサの目なら、ドッサリあるのに…)
 家ごと守る玄関用の大きなものから、ペンダントやブレスレットまで。
 復活して来たメデューサの目なら、作っている地域へ旅をしたなら買えるのに。
(それも人気の土産物で、だ…)
 小さなブルーも「一つ欲しい」と言い出したほど。
 前のブルーは、お守りを持っていなかったから。
 自分の瞳がお守りなのでは、どうにもこうにもならないから。
(あのお守りは、よく効いたんだ…)
 人を守ったら割れると伝わる、青いガラスのメデューサの目。
 前のブルーは右の瞳をキースに砕かれ、それでもメギドを沈めて逝った。
 文字通りにミュウを守ったお守り、赤い瞳は白いシャングリラを守ってくれた。
 それが砕けてしまうまで。…割れて力を失うまで。
 だからこそ、皆に知って欲しいけれど。
 赤い石の意味が今の時代まで伝わっていたら、と思うけれども。
(…あいつが伝えなかったんではなあ…)
 仕方ないか、と零れる溜息。
 誰も知らないミュウのお守り、赤い瞳の色をした石。
 とてもよく効くお守りだったのにと、青いガラスの目玉よりもずっと、と…。

 

        目玉のお守り・了


※前のブルーの瞳の色だった、ミュウの制服の赤い石。お守りにしようと、選ばれた赤。
 伝わっていないとは残念ですけど、こればかりは仕方ないですよねv





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(…ぼくって、とっても幸せだよね…)
 幸せすぎる人生だよね、と小さなブルーが考えたこと。
 夜、眠る前に、自分の部屋で。
 パジャマ姿で、ベッドの端にチョコンと腰を下ろして。
 今日はハーレイは家に来てくれなかったけれど。
 学校で挨拶しただけで終わったけれども、幸せな一日だったと思う。
 ハーレイにちゃんと会えたから。
 大好きな笑顔を見ることが出来て、大好きな声も聞けたのだから。
 それに、来てくれなかったことだって。
 会議があると聞いていたから、最初から期待していなかった。
 来られないのが当たり前。運が良ければ、来てくれるだけ。
(…ハーレイは来ない、って知っていたから…)
 部屋でチャイムが鳴るのを待たずに、ダイニングで母とゆっくり過ごした。
 紅茶とケーキを味わいながら。
 学校であった話や、他にも色々、母と話して、笑い合って。
 夕食は父も加わっての家族団欒、食後のお茶までのんびりと。
 その最中に、ふと思ったこと。「幸せだよね」と。
 どういうはずみでそう思ったかは、分からないけれど。
 何故だか思った、「幸せ」ということ。
 暖かな家に、温かな家族。
 美味しい料理に、弾む会話に…。
 どれを取っても、全部幸せ。
 自分はとても幸せ者だと、幸せすぎる人生だと。


 お風呂に入って部屋に帰っても、まだ忘れてはいなかった。
 なんて幸せなのだろう、と。
 熱いお風呂も、お風呂上がりでも寒くない部屋も。
(…前のぼくだと…)
 そういったものが無かった時代もあったのだった。
 アルタミラでは、狭い檻の中で生きていたから。
 自分の部屋などありはしなくて、ゆったり浸かれるお風呂も無かった。
 それを思えば、今の自分は幸せすぎる。
 努力せずとも、暖かな部屋も、熱いお風呂も使い放題。
 この部屋を自分にくれた両親、それさえも持っていなかったのが前の自分。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた自分に、両親などはいなかった。
 あの時代は、誰もがそうだったけれど。
 血の繋がった親子はいなくて、人工子宮から生まれた子供。
 両親の代わりに養父母が選ばれ、親と言ったら養父母だった。
 もっとも、前の自分の場合は…。
(…育ててくれた人の顔だって…)
 まるで覚えていなかった。
 成人検査で記憶を消された上に、ミュウへと変化してしまったから。
 実験動物になってしまったから、何度も繰り返された実験。
 あまりにも過酷な人体実験、それが記憶を全て奪った。
 おぼろげながらも残るのだという、養父母に関するものさえも。
 どういう人に育てられたか、何も覚えていなかった自分。
 仕方ないことだと諦めたけれど、今の自分には両親がいる。
 血が繋がった、本物の家族。
 母は自分を産んでくれたし、父と母とが出会わなかったら、自分はいない。
 前の自分とそっくり同じに育つ予定の、今の自分は。
 十四歳のチビになってしまった、かつてソルジャー・ブルーだった自分は。


 まさか両親と暮らせるだなんて、前の自分は夢にも思っていなかった。
 過去を失い、顔さえ思い出せなかった養父母。
 その人たちの所へ帰れはしないし、帰った所で喜ばれもしない。
 SD体制が敷かれた時代は、そういう社会。
 「目覚めの日」と呼ばれた十四歳の誕生日が来たら、子供は養父母と別れるもの。
 教育ステーションへと旅立ち、大人の社会を目指して歩み始めた年が十四歳。
 あの時代ならば、自分はとうに家を離れていただろう。
 両親と一緒に暮らす代わりに、学校のような教育ステーションへと連れてゆかれて。
(だけど、今だと、ずうっと一緒…)
 現に自分は両親の家で、今も暮らしているのだから。
 今日のおやつは母と一緒で、夕食は父も加わった。
 あれこれ話して、「幸せだよね」と思った時間。
 暖かな家も、温かな家族も、自分は全部持っている。
 儚く消えてしまいはしなくて、明日の朝が来れば、また両親と一緒のテーブルで食事。
 こんがりとキツネ色に焼けたトースト、明日の朝は何で食べようか?
 ハーレイの母に貰った夏ミカンのマーマレードでもいいし、バターも美味しい。
 そんな朝食が明日も自分を待っている世界、朝食も両親も煙のように消えてしまいはしない。
(…ホントに幸せ…)
 前の自分とは違う人生、平和で穏やかな日々がゆったり流れてゆく。
 白いシャングリラのように閉じた世界ではなくて、何処までも広がる大きな世界。
 幾つもの植民惑星が宇宙に散らばり、その中心が青く蘇った地球。
 前の自分が焦がれ続けて、辿り着けずに終わった星。
 あの時代には、地球は死の星だったのだけれど。
 そんなことなど知らなかった自分は、地球を夢見た。
 青く輝く母なる星。
 いつか其処まで辿り着こうと、着いたらあれを、これをしようと。


(ハーレイとだって…)
 地球に着いたら、幸せになれると信じていた。
 ソルジャーとキャプテンだったからこそ、隠さなくてはいけなかった恋。
 けれども、地球に辿り着けたら、もうソルジャーは要らないから。
 白いシャングリラも要らなくなるから、キャプテンの役目も消えて無くなる。
 ただのブルーとハーレイになれたら、自分たちの恋を明かしてもいい。
 恋人同士で何処へでも行けて、地球をあちこち見て回れる。
 そういう未来が待っているのだと、夢を膨らませたことだってあった。
 きっといつかは、と。
 …なのに、叶わなかった夢。
 前の自分の命の焔は、少しずつ弱り始めたから。
 地球の座標も掴めないのに、青い星へは旅立てないのに。
 そうなった以上、諦めるしかなかった夢。
 ハーレイと地球まで行けはしないと、その前に自分の命は尽きると。
 地球を見られないことも悲しかったけれど、ハーレイと離れてしまう運命。
 それが悲しくて、とても辛くて、何度涙を流したことか。
 ハーレイの腕の中、何度も、何度も。
 泣き濡れる前の自分を抱き締め、ハーレイは「共に」と誓ってくれた。
 何処までも決して離しはしないと、死んだ後にもそれは同じだと。
 命の焔が燃え尽きたならば、追ってゆくからと。
 誓いを聞く度、幸せな気持ちに包まれたけれど。
 いつまでも一緒だと思ったけれども、それさえも叶わずに終わってしまった。
 前の自分は、メギドへと飛んで行ったから。
 ハーレイと離れて、たった一人で。
 死ぬと分かっていたというのに、ハーレイには追って来て貰えなかった。
 シャングリラはキャプテンを失えないから、一人きりで逝くしかなかった最期。
 「ジョミーを支えてやってくれ」と、ハーレイに思念でそっと伝えて。


 そしてメギドで終わった命。
 最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりさえも失くして。
 それを失くした右手が凍えて、独りぼっちになってしまったと泣きじゃくりながら。
(…ホントに悲しくて、うんと寂しくて…)
 泣きながら死んだソルジャー・ブルー。
 もうハーレイには二度と会えないと、絆が切れてしまったからと。
(だけど、またハーレイに会えたんだよ…)
 まるで奇跡が起こったかのように、長い長い時をヒョイと飛び越えて。
 蘇った青い地球で出会った、もう会えないと思った人に。
 今はキャプテンではないのだけれども、姿はあの頃と全く同じ。
 古典の教師になったハーレイ、前の生から愛した人。
 自分もハーレイも、会った瞬間、前の記憶が戻ったから。
 出会った時から恋人同士で、恋の続きが始まった。
 前の自分が焦がれ続けた、青い地球の上で。
 両親までいる素敵な世界で、誰もがミュウになった世界で。
 すっかり平和になった今では、前の自分たちは伝説の英雄扱いだけれど。
 生まれ変わりだとは誰も知らないから、それまでと変わらない平凡な日々と生活と。
 両親と暮らして、ハーレイが訪ねて来てくれて…。
(…ホントに幸せ…)
 前の自分が生きた時代に比べたら。
 辛く苦しい時代を生きて、生き抜いて、メギドで死んだソルジャー・ブルー。
 あの人生と今の人生とは、何処も全く似てはいなくて。
 恋人だけが同じにハーレイ。
 しかも今度は…。
(ちゃんと結婚出来るんだものね?)
 いつか自分が、前と同じに育ったら。
 結婚出来る年になったら。


 今度は隠さなくてもいい恋。
 自分がチビの子供の間は、両親には内緒の恋だけれども。
 いつかは両親にもきちんと話して、祝福して貰って、結婚式を挙げて。
 ハーレイと一緒に生きてゆけるのが、今の幸せな自分の未来。
 暖かい家で両親と一緒に暮らした後には、ハーレイと二人で暮らしてゆく。
 それを思うだけで、今の自分は幸せすぎる、と顔が綻ぶ。
 ソルジャー・ブルーが持っていなかったものを、山ほど持っているんだから、と。
(…パパとママがいて、ハーレイがいて…)
 それに結婚、と指を折っては数える幸せ。
 指くらいでは、とても足りないけれど。
 幸せすぎる今の幸せ、それを全部は数えられなくて、指の数だってまるで足りない。
 幸せは幾つも降ってくるから、幾らでも降ってくるのだから。
(…ぼくって、幸せ者だよね…?)
 今でも充分、そう思うのに。
 もっと幸せになれる未来が待っているから、もう幸せでたまらない。
 ハーレイと二人、青い地球までやって来たから、いつか結婚するのだから。
 幸せすぎる今を暮らして、もっと幸せな未来へ歩いてゆくのだから。
 前の生から愛し続けた、ハーレイと手を繋ぎ合って。
 いつまでも、何処までも、二人一緒に、離れずに歩いてゆけるのだから…。

 

         幸せすぎる今・了


※今の自分は幸せすぎる、と考えてしまうブルー君。前の自分だった頃と比べて。
 けれど、まだまだ幸せになれる今度の人生。本当に幸せ者ですよねv





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(…つくづく幸せ者だよなあ…)
 俺ってヤツは、とハーレイの顔に浮かんだ笑み。
 夜の書斎で、コーヒー片手に寛ぎのひと時。
 熱いコーヒーを傾けながら、しみじみと思う自分の幸せ。
 ブルーの家には寄れなかったけれど、今日も充実していた一日。
 帰宅してからも、手際よく夕食を作って、食べて。
 炊き立ての御飯を頬張っていたら、ふっと頭に浮かんだ言葉。「幸せだな」と。
 何が心の琴線に触れたか、それは全く分からないけれど。
 美味しく炊けた新米だったか、それとも味噌汁や焼き魚なども手伝ったのか。
 何故だか思った、「幸せだな」と。
 一人きりの食卓で、誰を招いたわけでもないのに。
 好物の酒もつけてはいなかったのに。
 一度気付くと、「幸せ」の数はぐんぐんと増えた。
 今日の出来事の中に幾つも、幾つも鏤められた幸せ。
 朝一番の柔道部の練習、其処でやっていた走り込み。
 普段はそれほど目立たない生徒が、今日は頑張って走っていた。
 彼が先頭を走る所など、まだ見たことが無かったのに。
 他の生徒を何人も抜いて、颯爽と走り続けた彼。
 「ずいぶん調子がいいようだな」と後で褒めたら、照れたように笑っていた生徒。
 一度でいいから先頭を、と彼も願っていたらしい。
 部活が終わって家に帰ってから、一人で家の近所を走って、鍛えて。
 その成果を披露したのが今朝。
 「よし、その調子だ」と励ましながら、嬉しくなった。
 彼はこれから伸びることだろう、足腰が強くなったのだから。


 それが今日の一番最初の「幸せ」。
 生徒のやる気を引き出せた上に、才能を伸ばす手伝いが出来る。
 思わぬ生徒が伸びてゆくのは、とても嬉しいことだから。
 最初から光る才能を持った生徒に出会えば、それは嬉しくて当然のこと。
 けれど、努力を積んだ生徒も、柔道の道では強いもの。
 心技体を鍛える武道が柔道、強い心は武器になる。
 あいつは伸びる、と確信したから、朝から最高に幸せだった。
 何処まで伸びてくれるだろうかと、自分が手伝うべきことは、と。
 これから磨いてゆける原石、それを見付けた朝の練習。
 浮き立つ心で練習を終えて、着替えにゆこうと歩いていたら。
 小さなブルーにバッタリ出会った、丁度、登校して来た所。
 「ハーレイ先生、おはようございます!」と弾けた笑顔。
 元気そうだったから、もうそれだけで幸せな気分。
 今のブルーも、前と同じに生まれつき身体が弱いから。
 風邪を引いたり、疲れすぎたり、よく体調を崩しがち。
 そんなブルーが朝から元気一杯だったら、自分まで嬉しくなってくる。
 「今日も一日、元気でいろよ?」と、ポンと頭に置いてやった手。
 教え子を励ますように見えても、ちゃんと心は伝わるから。
 想いはブルーに届いているから、「はいっ!」と明るい声が返った。
 「今日は体育もやるんです!」と。
 小さなブルーは、しょっちゅう見学している体育。
 何処か具合が悪い時やら、授業がハードすぎる時やら。
 けれども、今日は見学しないでいいらしい。
 体調がいい証拠だよな、と綻んだ顔。
 「頑張れよ!」とブルーに声を掛けてやれたこと、それが二つ目の幸せだった。
 他にも幾つも…、と数えた幸せ。
 夕食を食べる間に、あれも、これもと。


 そんな具合に時が過ぎたから、片付けを終えてコーヒーを淹れて。
 書斎でゆったり椅子に座ったら、思ったこと。
 「俺はつくづく幸せ者だ」と。
 今日も充分に幸せだったけれど、それ以上の幸せを持っているしな、と。
(なんたって、二度目の人生なんだ…)
 小さなブルーと初めて出会った、その時に思い出したこと。
 実は二度目の人生だったと、前にも確かに生きていたと。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が生きた人生。
 それが一度目、今の自分の人生が二度目。
(しかも、最高と来たもんだ)
 今、生きている二度目の人生。
 やり直すかのように、貰った命。新しい身体。
 前の自分とそっくり同じ姿に育った、今の自分の大きな身体。
 誰が見たってキャプテン・ハーレイ、伝説の英雄に瓜二つ。
 「生まれ変わりか?」と何度も訊かれたけれども、いつも「違う」と答えて来た。
 自分でも知らなかったから。
 他人の空似で、似ているだけだと思っていたから。
 ところが違った、自分の正体。
 思い出せずにいたというだけ、自分がキャプテン・ハーレイだったことを。
 忘れていたそれを思い出した日、小さなブルーと再会した日。
 十四歳の子供の姿になってしまった、愛おしい人と。
 前の生で自分が誰よりも愛したソルジャー・ブルー。
 蘇った青い地球で出会えた、愛おしい人の生まれ変わりに。
 自分はこの人を愛したのだ、と蘇った記憶。
 何処までも共にと誓っていたのに、失くしてしまった大切な人。
 その恋人にまた出会えたと、愛おしい人を取り戻せたと。


 小さなブルーと再会したこと、それだけで最高とも言える人生。
 前の自分が失くしたブルーを、もう一度この手に取り戻せたこと。
 生きて再び出会うことが出来た、愛おしい人に。
 小さなブルーの命の温もり、それを抱き締めて確かめられる。
 なんと自分は幸せなのか、二度目の人生を生きられるとは。
 前の生で愛し続けていた人、その人と共に新しい命を貰えるとは。
(…今のあいつは、まだチビなんだが…)
 いつか大きく育った時には、文字通りブルーを手に入れられる。
 伴侶に迎えて、一緒に暮らして。
 誰にも邪魔をされることなく、誰にも仲を隠すことなく。
 前の自分とブルーとの恋は、誰にも明かせなかったのに。
 けして誰にも知られないよう、懸命に隠し続けていたのに。
(今度は結婚出来るんだ…)
 結婚式を挙げて、手に入れるブルー。
 自分の所へ来てくれるブルー。
 前の自分には出来なかったことで、夢にも思いはしなかったこと。
 ブルーに結婚を申し込むなど、二人きりで暮らしてゆくことなどは。
(…地球に着いたら、と思ってた頃もあったんだが…)
 互いの役目から解き放たれたら、共に生きようという夢ならば見た。
 ブルーと二人で何度も描いた、幸せに生きてゆける未来を。
 けれど、いつしか諦めた夢。
 諦めざるを得なかった夢。
 前のブルーの寿命が尽きると分かったから。
 とても地球まで行けはしなくて、その前にブルーは逝ってしまうから。


 前の自分は夢を諦め、それでもブルーと生きようとした。
 ブルーの寿命が尽きる時まで、側にいようと。
 そしてブルーが命尽きたら追ってゆこうと、彼の魂を追って逝こうと。
 なのに、叶わなかった夢。
 ブルーの最期を看取る代わりに、前の自分は失くしてしまった。
 いつとも、何処とも分からない内に、愛おしい人を。
 ただ漠然と、「もう戻らない」と悟っただけ。
 メギドの炎を防ぐためにと、前のブルーは飛び去ったから。
 命を捨ててしまったから。
 二人で暮らした白い船から、遠く離れた暗い宇宙で。
 何処に在ったのか、場所さえ定かではなかったメギド。
 それを沈めて、ブルーは逝ってしまったから。
(…あいつが死んだ時間も場所も…)
 前の自分には分からないまま。
 ブルーを追って死ぬことさえも、許されなかった前の自分。
 それをブルーが禁じたから。
 「ジョミーを支えてやってくれ」と、愛おしい人が遺した言葉。
 そうするためには生きるしかない、どんなにブルーを追いたくても。
 愛おしい人の許にゆきたくても、生きてゆかねばならなかった自分。
 ブルーは何処にもいないのに。
 どんなに呼んでも、声は返って来ないのに…。


 何度も涙し、深い孤独と絶望の中で前の自分は生き続けた。
 死の星だった地球の地の底で、息絶えるまで。
 それが一度目の人生の最後。
 前のブルーと幸せになれず、悲しみに覆い尽くされた人生の終わり。
(…あいつの所へ、やっと行けると…)
 そう思ったのを覚えている。
 これで行けると、ブルーの魂を追ってゆけると。
 けれど、命は終わらなかった。
 終わったけれども、二度目の人生に続いた命。
 自分は幸せな今を生きていて、今度こそブルーと共に生きてゆける。
 前のブルーと夢に見ていた、青い地球の上で。
 小さなブルーが、前と同じに育ったら。
 結婚出来る年になったら。
(…本当に俺は幸せ者だ…)
 失くした筈の命もブルーも、二つとも手に入れたから。
 ブルーと学校でしか会えなかった日でも、幸せが幾つも降ってくる今。
 平和な時代に、幾つもの幸せに彩られた日々。
 幸せすぎる今に生まれて、いつかはブルーと生きてゆく日々。
 もう最高だと、幸せ者だと、そう思わずにはいられない。
 前の生から愛し続けた、ブルーと生きてゆけるのだから。
 そういう未来が待っている地球に、幸せな今に、自分は生きているのだから…。

 

         幸せな今・了


※ハーレイ先生、今の自分は幸せ者だとしみじみ思っているようです。前に比べて。
 その上、いつかはブルー君と結婚。本当に幸せな人生なのです、最高の幸せ者ですよねv





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「ねえ、ハーレイ。…一番幸せなことって、何?」
 何が幸せ、と首を傾げた小さなブルー。
 二人でのんびり過ごす休日、いつものテーブルを間に挟んで。
「幸せって…。俺の幸せか?」
 そういう意味か、と問い返したら。
「うん。ハーレイは何が一番幸せ?」
 ぼくに教えて、と瞬く赤い宝石。ブルーの顔に輝く二つの宝石、命の色の。
「そうだな…。俺はいつでも幸せなんだが…」
 幸せ探しは得意だからな、とハーレイがパチンと瞑った片目。
 どんな時にだって幸せはあると、探してやれば見付かるもんだ、と。
「ホント?」
 疑わしそうな顔をしているブルー。本当にいつでもあるものなの、と。
「もちろんだ。たとえば、今はお前に疑われてるが…」
 俺の言葉を信じて貰えていないわけだが、そいつを俺がどう受け取るか。
 信じて貰えない俺は不幸だと考えたならば、失敗だ。
 それじゃ幸せは見付からん。
 こう考えるのさ、「お前に信じさせてみせるぞ」と。
 そうすりゃ目標が一つ出来てだ、それに向かって走り出すわけだ。
 お前が信じてくれなくっても、もっと、もっとと、努力を重ねてゆくんだな。
 これでどうだと、まだ信じないかと、俺の力の限りを尽くして。
 大変そうに聞こえるだろうが、そうじゃない。努力した分だけ、俺は何かを手に入れる。
 「そんなの嘘だ」と膨れっ面のお前の顔とか、「騙されないよ」と笑うお前の顔だとか。
 色々なお前の顔が見られて、「もっと頑張ろう」って気持ちになれる。
 そしてお前が信じてくれたら、見事ゴールというヤツだ。
 長くて辛いコースを走って、ゴールした時の達成感は凄いんだぞ?
 もう最高に幸せな気分で、それまでの疲れも吹っ飛んじまう。…そういうモンだ。


 だから幸せは探さないとな、と微笑むハーレイ。
 諦めてしまったらそれで終わりで、見付かるものも見付からないと。
「お前、信じていないようだが…。そいつは、幸せすぎるからだな」
 いつも幸せで、幸せ一杯。
 今はそういう時代なんだし、幸せってヤツを誰もが持ってる。どんな時でも。
 当たり前に幸せを持っているから、そのせいで気付かないんだな。
 自分が幸せだということに。…今もそうだろ?
 俺と二人で此処にいるだけで、お前は幸せな筈なんだが…?
 前のお前はどうだったんだ、と問い掛けられた。
 ソルジャー・ブルーだったお前は何処に消えたと、どうなってしまったんだった、と。
「…前のぼく…。メギドで独りぼっち…」
 ハーレイの温もりも失くしちゃった、とブルーがキュッと握った右手。
 前の生の最後に冷たく凍えて、それきりになってしまった右の手。
「ほら見ろ。…寄越せ、右の手」
 温めてやるから、とハーレイはブルーの右手を包んだ。褐色の肌の大きな両手で。
 ブルーの手は冷えていないけれども、体温を優しく移すように。
 そうしてブルーの手を包みながら、尋ねてやる。
 「今のお前は幸せなのか?」と。
「うん、幸せ…。だって、ハーレイと一緒だから」
 独りぼっちじゃないんだもの。
 ぼくの右手は凍えていないし、ハーレイも側にいてくれるから…。
 手も温めて貰えるから。
「さっきまで忘れていただろうが。…その幸せを」
 ちゃんと幸せを持っているのに、気が付かない。
 それほど今は幸せってことだ、当たり前すぎて見落とすほどに。
 だから幸せを探していないと、気付かないままになっちまうんだな。


 大切なんだぞ、とハーレイが語る「幸せ探し」。
 どんな時にも幸せはあるから、探して見付けてゆかないと、と。
「いいか、前の俺たちの人生ってヤツ。俺もお前も、幸せに生きたが…」
 今に比べりゃ、ほんの小さな幸せだったろ?
 シャングリラの中が世界の全てで、何処にも行けやしなかった。
 ちょっと息抜きに外へ出ることも、買い物に出掛けてゆくことも。
 …前のお前は外に出られたが、今のお前とは全然違う。
 学校なんかには行けなかったし、友達の家に行くのも無理だったろうが。
 今の俺たちには当たり前のことが、前の俺たちには夢の世界だ。
 シャングリラどころか、今の俺たちは地球の上に住んでいるんだから。
「そっか…。そうだよね、いつも幸せ…」
 ぼくはチビだけど、記憶は一つも失くしていないし、パパもママもいるし。
 前と同じで弱い身体だけど、檻に閉じ込められたりしてないし…。
 うんと幸せだね、普通のことが。
 前のぼくたちが生きた時代に比べたら…。
「そういうこった。だから、ついつい忘れるんだな」
 幸せはいつでもあるってことを。
 ほんの少しだけ視点を変えたら、何処からか降って来るってことを。
 さっきも言ったろ、辛いコースを走っていたって、得られるものは幾つもあるんだ。
 本物の道を走ってる時も、走った分だけ何かを得られる。
 根性だとか、我慢強さとか。
 それは必ず役に立つんだし、言わば幸せの貯金だな。
 「あの時、頑張っておいて良かった」と思う時がいつかは来るもんだ。
 幸せの貯金が幸せになって現れるわけだ、何処からかヒョイと。
 どんなことでも、幸せに繋がっていくんだな、うん。


 それでだ…、とハーレイが浮かべた笑み。
 「お前は俺の言葉を信じたようだし、これで俺にも幸せが一つ」と。
「どうだ、手に入れたぞ、幸せを一つ。俺は諦めなかったからな」
 疑われちまった俺は不幸だ、と思っていたなら、この幸せは無しだった…、と。
 幸せ探しの名人だろうが、こうやって見付けていくんだが…。
 一番の幸せは何かと訊かれたら、そいつはお前に決まってる。
 もう一度、お前に出会えたこと。…今はチビでも、いつか大きく育つお前に。
 それが一番の幸せだな、と言われたから。
 その答えが欲しくて投げた問いだから、ブルーの胸に溢れた幸せ。「ぼくは幸せ」と。
 だから想いが溢れるままに、キュッと握った褐色の手。
 右手を包んでくれている手を、左手と右手で外と内側から。
「ぼくも…。ぼくも一番幸せなんだよ、ハーレイとまた出会えたことが」
 それに今度は、いつまでも一緒。
 今は先生と生徒だけれども、いつか二人で暮らせるでしょ?
 誰にも内緒にしなくても良くて、何処に行くのも、いつも二人で。
「ああ。…今度こそ、俺はお前を離しやしない。それも幸せの一つだな」
 今度は離さなくてもいいんだ、お前の手を。
 前の俺だと、黙ってお前を見送ることしか出来なかったが…。
 今なら、追い掛けて捕まえられる。
 お前がいなくなっちまう前に。…さよならも言わずに消えちまう前に。
「ごめんね、前のぼくのこと…。ハーレイを独りぼっちにしちゃった…」
 いくらハーレイでも、あの後、幸せ探しなんかはしていないよね…。
 していたんなら、そっちの話をしてくれるもんね。
 こんな楽しいことがあったとか、「あれから面白いことがあったぞ」とか。
「…すまん。一本取られちまったな」
 前の俺だと、俺に説教されちまうのか…。
 ちゃんと探せよと、どんな時でも幸せは周りにあるもんだから、と。


 それから二人で考えたけれど、幸せはやっぱり何処かにあるもの。
 前のハーレイは見付け損なったけれど、数えてみたら、幾つも幸せ。
「前のぼくたちは追い出されたのに、アルテメシアに帰れたんでしょ?」
 戦いに勝って、テラズ・ナンバー・ファイブも倒して…。
 地球の座標も手に入ったんだよね、アルテメシアで?
「うむ。それを使って地球を目指して…。色々と苦労もしたんだが…」
 地球には着けたな、青い地球ではなかったが。
 あれが青かったら、幸せってヤツに気付いていたかもしれないが…。
「地球に行くことが、前のぼくたちの夢だったもんね…」
 青い星だったら、ハーレイもきっと幸せになれていたよね。此処まで来た、って。
「どうだかなあ…。俺の隣に前のお前はいなかったからな」
 前のお前の夢だったからこそ、俺にとっても地球は大切な星だった。
 お前がいなけりゃ、青い地球でも駄目だったかもな。
 幸せ探しを続けていたって、肝心のお前がいないんじゃなあ…。
「え…?」
「一人より、二人。そっちの方が断然いいだろ?」
 幸せってヤツは、一人占めするより、分け合う人がいる方がいい。
 自分が幸せな気持ちになったら、お裾分けをしたくなるもんだ。「どうぞ」とな。
 とびきりの幸せを見付けたんなら、なおのことだ。
 青い地球まで辿り着いたら、みんなでワイワイ分けたいじゃないか。
 そして大切な人がいるなら、その人に特別大きな一切れ。
 それを渡したい前のお前がいなかったんでは、駄目だったような気がするなあ…。


 青い地球に出会えていたとしても…、とハーレイに両手を包み込まれた。
 左手も一緒に、大きな褐色の手の中に。
「幸せ探しも大切なんだが、一人占めより、お裾分けだ。それは分かるな?」
 今の時代じゃ、ガレット・デ・ロワって菓子があるんだが…。
 お前、知ってるか、そいつのこと?
「えっと…。お正月に食べるお菓子だっけ?」
「正月ではあるが、一月六日だ。公現節の菓子だから。あれの中には…」
 フェーヴってヤツが入っていて、だ…。陶器の小さな人形みたいなの。
 みんなで賑やかに切り分けて食べて、自分の菓子にフェーヴが入っていれば王様。
 王冠の飾りを被せて貰って、一年間の幸運が約束されるというんだが…。
 もしもそいつを俺が引き当てたら、幸運、お前にやりたいな。
 幸せが一杯の今の時代でも、もっと幸せになって欲しいし。
「ぼくもハーレイに譲りたいよ、それ」
 一人で幸せになるよりも、二人。一年分の幸せが半年分になっちゃっても。
「やっぱりなあ…。俺たちの場合は、食わない方がいいのかもなあ…」
 ガレット・デ・ロワ。当たっちまったら、譲りたくなってしまうんだから。
 お裾分けしたくて、半分ずつとか、そんな感じで。
「そうかもね…。一人占めするより、幸せ、二人で分けたいもんね」
 お菓子が連れて来る幸せもいいけど、ハーレイと二人で幸せ探し。
 その方がずっと楽しそうだし、きっと困りもしないと思う。
 当たっちゃったけどどうしよう、ってお菓子を見ながら困らないから。
「そうだな、俺たちはやめておくか」
 お前のお母さんたちが用意しちまったら、その時は仕方ないんだが…。
 お互い、ウッカリ引き当てないよう、気を付けんとな。
 譲り合おうにも、お母さんたちがいちゃ出来ないし…。
 幸せ、一人占めになっちまうからな。


 二人で「やめておこう」と指切りをした、ガレット・デ・ロワ。
 一月六日に食べるお菓子は、二人きりなら買わないこと。
 幸せを運ぶフェーヴは一つだけしか入っていなくて、一人だけにしか当たらないから。
 一年分の幸せを一人占めするより、二人で分けて味わいたいから。
 お菓子で貰える幸せよりかは、二人で幸せを探してゆこう。
 どんな時でも、幸せはきっと見付かるから。
 諦めないで探していたなら、幸せはやって来るものだから…。

 

        幸せの見付け方・了


※幸せ探しの名人なのがハーレイ先生。どんな時でも、幸せは見付かるみたいですけど…。
 ガレット・デ・ロワに入っていた時には、困るようです。お裾分け、難しそうですものねv





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