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(…ハーレイ、来てくれなかったよ…)
 今日は残念、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 仕事の帰りに寄ってくれるかと思った恋人。
 前の生から愛したハーレイ。
 けれど、鳴らずに終わったチャイム。
 時計の針だけがどんどん進んで、気付けば日暮れ。
 もうハーレイは来ない時間になっていた。
 何度も窓を覗く間に、「来てくれるかな?」と待つ内に。
 今日は会えずに終わった恋人。
 学校で言葉は交わしたけれども、教師と教え子、そういう会話。
 「ハーレイ先生」としか呼べはしなくて、恋人らしい話も出来ない。
 だから来て欲しかったのに。
 恋人の方の、ハーレイと話したかったのに。
(…話さなくちゃ、って思うことは何も無いけれど…)
 前の生での記憶のこととか、出来事だとか。
 是非ハーレイに話さなくては、と思うことは何も無かったけれど。
 それでも会いたくなる気持ち。
 会い損なったら、悲しい気持ち。
(…キスは出来なくても、やっぱり恋人…)
 唇へのキスをしてくれなくても、ハーレイは恋人に違いない。
 こうして会えずに終わった時には、零れる溜息。
 「今日は、ハーレイに会えなかったよ」と。
 そのハーレイは忙しいのだし、こんな日だってあるけれど。
 学校の会議や、柔道部の指導や、他にも色々。
 どれも大切な仕事だと分かっているけれど…。
(…寂しいよ…)
 会えなかったよ、と募る寂しさ。
 今日はハーレイに会えなかった、と。


 夜はすっかり更けてしまって、時計が指している時刻も遅い。
 そろそろベッドに入らなければ、と思ったはずみに小さな欠伸。
 眠いのかな、と考える間もなく、二つ目の欠伸。
 今度はさっきよりも大きな欠伸で、ついでに溢れてしまった涙。
(…夜更かししちゃった?)
 涙が出ちゃった、と指で拭った目許。
 頬にも伝いかけていたのを、軽い気持ちで。
 途端に、フイと掠めた記憶。
 遠く遥かな時の彼方で、こうして拭っていた涙。
 同じようにベッドに腰を下ろして、けれど悲しみに覆われて。
 今とは比べようもない寂しさも抱えて、たった一人で。
(……前のぼく……)
 そうだったっけ、と蘇って来た、前の自分のこと。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた頃。
 あの広大な青の間で一人、何度も涙を拭っていた。
 さっき自分がしたように。
 チビの自分が「涙が出ちゃった」と、指先で拭っていたように。
(…前のぼくの寿命…)
 それが尽きると気付いた時から、何度も零していた涙。
 ハーレイがいれば縋れたけれども、いなかった時。
 愛おしい人は、船のキャプテンだったから。
 青の間で側にいる時よりかは、いない時の方が多かったから。
 ブリッジで指揮を執るのはもちろん、他にも幾つもキャプテンの仕事。
 一日の終わりには航宙日誌も書いていた。
 全て終わるまで、青の間に来てはくれないハーレイ。
 それまでの時間は、前の自分は一人きり。
 深い悲しみに囚われていても、恋人の胸に縋りたくても。
 胸にわだかまる苦しみや辛さ、それを吐き出してしまいたくても。


 何度、一人で泣いただろうか。
 自分の命はもうすぐ尽きると、いずれ終わると気付いた日から。
 夢に見ていた青い星まで、行けはしないと知った時から。
(…地球に着いたら、やりたかったこと…)
 数え切れないほどに幾つも描いた、地球への夢。
 青い水の星に辿り着いたら、あれをしようと、これもしようと。
 ハーレイと二人で約束したこと、「いつか」と「地球に着いたら」と。
 その約束はもう、叶いはしない。
 自分の命は尽きてしまって、とても地球には行けないから。
 焦がれ続けた青い水の星は、夢のままで消えてしまうのだから。
(…地球も、本当に見たかったけど…)
 肉眼で捉えたかったけれども、それが出来ないことよりも、もっと。
 地球を見られないことよりもずっと、辛くて悲しかったこと。
 それが自分の寿命の終わり。
 命が尽きたら、一人、逝くしかないのだから。
 独りぼっちで真っ暗な道を、死出の旅路を歩いてゆくしかないのだから。
 その日が来たなら、終わりが来る。
 ハーレイとの恋は消えてしまって、一人きりで旅に出るしかない。
 愛おしい人は、その後も生きてゆくのだから。
 ハーレイの寿命は、まだまだ先があるのだから。
(…ぼくは一人で…)
 行くしかない、と泣きじゃくっていたら、強く抱き締めてくれたハーレイ。
 「大丈夫ですよ」と、「私がいます」と。
 けして一人にさせはしないと、共に逝くからと。
 二人だったら、きっと寂しくはないのだろう。
 どんなに暗い道であっても、光など欠片も見えなくても。
 二人一緒に歩いてゆくなら、真っ暗な死出の旅だって、きっと。
 ハーレイが側にいてくれたならば、一人、歩かずに済むのだったら。


 そう思うと心強かったけれど、そのハーレイが側にいない時。
 青の間で一人過ごしていた時、何度も襲われた激しい恐怖。
 終わりの時は、いつやって来るか分からないから。
 こうして一人きりの時なら、どうすることも出来ないから。
(…何か前触れがあればいいけど…)
 必ずあるとは限らない。
 元から弱い身体なのだし、ある日、突然に終わりが来ても。
 ハーレイがブリッジに出掛けてゆくのを見送った後に、倒れないとは限らない。
 もしも倒れたら、助けを求める思念も紡げなかったなら…。
(…独りぼっちで…)
 死んでゆくことになるのだろう。
 部屋付きの係も、朝食の後は掃除などが済めば去ってゆくから。
 ソルジャーの邪魔をしないようにと、長居はせずに。
 昼食の支度が整うまでは、呼ばない限りは覗きにも来ない。
 青の間はとても広いとはいえ、ソルジャーの私室だったから。
 プライベートな空間なのだし、用が無い限りは他の者たちも遠慮する。
 だから倒れてしまっていたって、誰もそのまま気が付かない。
 助けを呼べなかったなら。
 命の焔が消えてしまう前に、誰かが青の間に来なかったなら。
(…絶対、無いとは言い切れなくて…)
 何度も覚えた、背筋が凍るような感覚。
 ハーレイのいない所で、一人きりで死んでゆく自分。
 たった一人で死の世界へと放り出されて、暗闇に落ちてゆく自分。
 恋人の名前をいくら呼んでも、もう届かない。
 暮らす世界が分かれてしまって、ハーレイは何も知らないから。
 「ご一緒しますよ」と約束した相手が、もういないこと。
 独りぼっちで死んでしまって、魂はもう飛び去ったことを。
 多忙な日々を送っているのがキャプテンなだけに、きっと直ぐには気付かない。
 気付いた係が駆け付けるまで、ソルジャーの死が知らされるまで。


 何度震えたことだろう。
 「もし、ハーレイがいなかったら」と。
 その時がやって来た時に。
 自分の命の灯が消える時に。
(…とても怖くて…)
 考え始めただけで怖くて、零れた涙。
 それを何度も指で拭っては、「大丈夫」と自分に言い聞かせていた。
 「きっとハーレイなら、気付いてくれる」と。
 予知能力は持っていなくても、恋人同士の絆があるから。
 何かが起こったような気がして、青の間に来てくれるだろう。
 魂が身体を離れる前に。
 心臓が止まって、息も止まって、身体が冷たくなってゆく前に。
(…だけど、本当に間に合うかどうか…)
 そう思う度に震えた身体。
 怖くて竦み上がってしまった心臓。
(今すぐ来て、って…)
 ハーレイに思念を飛ばしたい気持ちに、何度囚われたか分からない。
 「大丈夫ですよ」という温かな声が聞きたくて。
 あの強い腕に、逞しい胸に抱き締められて、背中を優しく撫でて欲しくて。
 けれど、キャプテンを仕事中に呼ぶなど、用が無ければしてはならない。
 何の根拠も無いような恐怖、それに駆られて呼んではならない。
(…いくらソルジャーでも、駄目だ、って…)
 そう思ったから、一人で耐えた。
 心細くて零れる涙を、自分の指で何度も拭って。
 「大丈夫だから」と、「そんなことにはならないから」と。
 なのに当たった、前の自分の悲しすぎた予感。
 青の間ではなくて、メギドだったけれど。
 残り少ない命を自ら燃やし尽くして、一人きりで死んでいったのだけれど。


(…あの時のぼくも、泣きじゃくってて…)
 右手に持っていたハーレイの温もり、それを落として失くしたから。
 ハーレイとの絆が切れてしまって、独りぼっちになってしまったから。
 もうハーレイには二度と会えない、と思ったことを覚えている。
 死よりも恐ろしい絶望と孤独、それに包まれて自分は死んだ。
 ソルジャー・ブルーだった前の自分は、たった一人で泣きじゃくりながら。
(…前のぼくの涙…)
 とても悲しくて、辛かった涙。
 青の間で泣いていた時も。
 独りぼっちで、メギドで死んでゆく時も。
(…あんなに悲しくて泣いていたのに…)
 そういう涙を覚えているのに、今の自分が零した涙。
 欠伸と一緒に目から零れて、指先で拭っていた涙。
 同じ涙でも、まるで違っている涙。
 それを思うと、胸の奥から溢れる幸せ。
 今日はハーレイに会い損なったけれども、悲しさも寂しさも、今はそれだけ。
 前の自分の悲しい涙も、今は欠伸で出るようだから。
 欠伸のはずみに目から零れて、指で同じに拭うのだから…。

 

        欠伸が出たら・了


※欠伸したはずみに、ブルー君の目から溢れた涙。それを指先で拭ったら…。
 同じように涙を拭っていたのが、ソルジャー・ブルー。悲しい涙は、もう要りませんよねv





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(…すっかり遅くなっちまったな)
 ブルーの家に寄るどころか、とハーレイが漏らした苦笑い。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 普段より、ずっと遅めの時間に。
 それでも熱いコーヒーを一杯、これが寛ぎのひと時だから。
 コーヒーで眠れなくなるタイプではないから、いつも通りに。
(美味いんだ、これが…)
 今日は特にな、と傾ける愛用のマグカップ。
 ようやく家に帰って来たぞ、とホッとする気持ちになる時間。
 本当の所は、ついさっきまで…。
(…楽しくやっていたんだがな?)
 ブルーには、とても言えないが…、と竦めた肩。
 小さなブルーは、待ちぼうけを食らったのだから。
 今日は恋人が寄ってくれるかと、何度も窓から外を覗いていただろうから。
(俺だって、今日はそのつもりでだな…)
 会議の予定も入っていないし、帰りは寄ろうと思っていた。
 ブルーと二人でお茶を飲んだ後は、両親も一緒の夕食の席、と。
 けれど、狂ってしまった予定。
 同僚たちに誘われた食事。
(そっちはそっちで、楽しいもんだし…)
 ブルーとは何度も会っているしな、と同僚たちとの時間を選んだ。
 車で通勤しているのだから、一緒に酒は飲めないけれど。
 バスなどで学校に来ている仲間を、家まで送る役目にもなってしまうのだけれど。
 だから料理は楽しめたものの、足りていない喉を潤す一杯。
 酒の代わりのジュースなどでは、とても足りない。
 帰るなり淹れた熱いコーヒー、これが一番。
 「ようやっと俺の時間だ」と。


 時計が指す時間は、本当に夜更け。
 ブルーは、とうに眠ってしまったことだろう。
 「ハーレイ、来てくれなかったよ…」と愚痴でも零しながら。
 あるいは膨れたりもして。
(しかし、仕事が忙しいこともあるからな?)
 多分、そちらだと思ったろうブルー。
 「忙しいんだから、仕方がないよ」と。
 それでも膨れただろうけど。
 「今日は会えなかった」と、不満たらたらなのだろうけれど。
 学校で顔を合わせただけでは、「会った」ことにはならないから。
 教師と教え子、そんな会話しか交わせないから。
(すまん…)
 俺だけ食事に行っちまって、と心で詫びた小さな恋人。
 前の生から愛したブルー。
(とはいえ、仕事もして来たんだぞ?)
 四人も家まで送ったしな、と自分に言い訳。
 車で出掛けて行った以上は、それがお役目。
 自分の家とは、まるで反対の方へ向かって走ってゆく羽目になろうとも。
 送ってゆく先が四つもあるから、かなりの距離を走ろうとも。
(でもって、最後のヤツを降ろしたら…)
 後は会話も消えてしまって、一人きりでの帰り道。
 もう遅いから、通行量も減っている道を。
 車から見える家の灯りも、ずっと少なくなっている道を。
 何処の家でも、とうに過ぎている夕食時。
 寝静まっている家だって。
 そういう道を一人で走って、やっと帰って来た我が家。
 着替えを済ませて淹れたコーヒー、いつもの一杯。
 これが美味いと、やっと我が家だ、と。


 体力自慢ではあるのだけれども、遅くまで家に帰れなかった日。
 送り届けた四人の同僚、彼らは自分よりも先に我が家に着いたのに。
 今頃は早くもベッドの中とか、ゆっくりと風呂に浸かっているか。
 そんな所だ、と思うと少し感じる疲れ。
 「俺だけが遅くなっちまったぞ」と。
 もっと前から誘ってくれれば、車で出勤しなかったろうに。
 皆と一緒に愉快に飲もうと、路線バスか歩きで出勤したのに。
(…それでも、俺が自分で行こうと決めたんだしな?)
 自業自得というヤツなんだ、とコーヒーを飲んでいたのだけれど。
 不意に大きな欠伸が一つ。
 やはり多少は疲れたのか、と思った途端に、もう一つ。
 今度は欠伸が出たのと一緒に、涙まで。
(うーむ…)
 俺はそんなに眠いんだろうか、と拭った涙。
 なんの気なしに。
 無造作に指で拭ったけれども、それが記憶を連れて来た。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分がやっていたこと。
 こうして涙を拭った、と。
 今と同じに夜が更けた部屋で、一人きりで、と。
(……そうだっけな……)
 何度もあった、と胸に蘇る深い悲しみ。
 前のブルーを喪った後に、一人きりで拭っていた涙。
 キャプテンの部屋で、同じように机に向かっていて。
 一日の出来事を思い返しながら、航宙日誌を綴っていて。
(SD何年、何月何日、と…)
 その日の日付けを書き入れることから始まる時間。
 淡々と書いてゆくのだけれども、何かのはずみに思い出すこと。
 「ブルーがいない」と。
 もういないのだと、宇宙の何処を探したって、と。


 航宙日誌は、ブルーにも読ませはしなかった。
 だから余計に興味を示して、読もうとしていたのがブルー。
 「いったい何を書いてるんだい?」と、後ろから覗き込もうとしたり。
 ブルーほどの力を持っていたなら、盗み見ることは可能だろうに。
 ブリッジに出掛けて留守の間に、入り込んで読むことも出来るだろうに。
(…あいつは、それをしなかったんだ…)
 けしてコッソリ読もうとしないで、いつも、いつだって正攻法。
 「中身がとても気になるけどね?」と、正面突破を目指したブルー。
 机の横から忍び寄ったり、ヒョイと肩越しに不意打ちしたり。
 そして自分は身体で隠した。
 「俺の日記だ」と、その時だけは昔に戻った言葉遣いで。
 一度も言いはしなかった。「私の日記ですから」とは。
 ブルーが覗こうと試みる度に、何度言ったか分からない言葉。
 「俺の日記だ」と、ブルーの企みを打ち砕くために。
 そうして何度も退け続けた、航宙日誌を読もうとした人。
 最初の間は仲のいい友達、いつの頃からか、恋人になった。
 それでも日誌は読ませないままで、前のブルーは…。
(……逝っちまった……)
 シャングリラを守って、たった一人で。
 誰も側にはいなかった場所で、暗い宇宙で、メギドを沈めて。
 ブルーを失くしたその瞬間から、前の自分の魂は死んでいたけれど。
 抜け殻のようになってしまったけれども、それでも行かねばならない地球。
 ブルーに頼まれたことだから。
 「ジョミーを支えてやってくれ」と、ブルーは頼んで行ったのだから。
 なんとしてでも、青い地球まで。
 シャングリラを其処まで運ばなければ、と綴り続けた航宙日誌。
 仕事を終えて部屋に戻ったら、取り出して。
 「SD何年、何月何日」と日付を記して、その日の出来事を順に数えて。


 羽根ペンで日誌を綴る間に、気付かされてしまうブルーの不在。
 「もういないのだ」と、「何処にもいない」と。
 そう思ったら、滲んでしまった自分の視界。
 涙がじわりと溢れ出すから。
 胸の奥から湧き上がる悲しみ、それが心を覆うから。
(…涙が日誌に落ちちまったら…)
 きっと滲むだろうインク。
 ぽたりと落ちた涙の形に、駄目になるだろう綴った文字。
 後進のためにと書いているのに、私的な日記とは違うのに。
 ブルーにさえ一度も見せなかったけれど、いずれ公文書になるのだろうに。
 自分の命が尽きた後には、船の仲間たちが広げて読んで。
 「こういう時には…」と、参考にしたりするために。
 だから涙は零せない。
 航宙日誌に涙の跡など残せないから、指先でグイと拭った涙。
 時によっては、拳でも。
 頬を伝おうとしている涙を、「消えてしまえ」と。
 今は泣いてはいられないから、そんな時ではないのだから。
 キャプテンの仕事を続けなければ、一日の出来事を綴っておかねばならないから。
(…何回も、いや、何百回も…)
 前の自分が拭った涙。
 今と同じに机に向かって、同じ仕草で。
 「泣くな」と、「今は泣いては駄目だ」と。
 ブルーのことを想って泣くなら、今日の仕事が済んでから。
 航宙日誌を綴ってからだと、それからブルーを想おうと。
 逝ってしまった愛おしい人を、二度と戻らない恋人を。


(…前の俺は、何度も泣いていたんだ…)
 正確に言えば泣けなかったな、と思い出す時の彼方でのこと。
 溢れた涙を指で、拳で、拭っては書いた航宙日誌。
 あの時の俺と全く同じ仕草だった、と目許にやった手。
 「こうだったな」と、「さっき、こうやった」と。
 けれど、同じに溢れた涙は…。
(…ただの欠伸で…)
 それと一緒に零れただけで、悲しみの記憶も蘇っただけ。
 全てはとうに過ぎ去ったことで、失くしてしまった愛おしい人は…。
(今頃は、ベッドで眠ってるってな)
 ブルーは戻って来てくれたのだし、今日は会い損なっただけ。
 同じ涙でも、今じゃ欠伸だ、と綻んだ顔。
 涙もすっかり変わっちまったと、今は欠伸で出て来た涙を拭うんだな、と…。

 

        欠伸をしたら・了


※欠伸をしたら、出て来た涙。なんの気なしに拭ったハーレイ先生ですけれど。
 時の彼方で同じように涙を拭った思い出。悲しみの涙はもう無くなって、今では欠伸v




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(明日はハーレイが来てくれるんだよ)
 一日一緒、と小さなブルーが浮かべた笑み。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 明日は土曜日、午前中からハーレイが訪ねて来てくれる。
 そして一日一緒に過ごせる、二人きりではないけれど。
 両親と暮らしている家なのだし、お茶を運んでくれるのも母。
 昼食を届けてくれるのも。
 それに夕食は両親も一緒、ハーレイと二人とはいかない。
 夕食の後のお茶の時間を何処で過ごすかも、両親次第。
 ハーレイと話が弾んでいたなら、食後のお茶はダイニング。
 そうでなくても、コーヒーが似合う料理だったら…。
(…ぼくはコーヒー、苦手だから…)
 やっぱりダイニングになる、食後のお茶。
 両親とハーレイはコーヒーを飲んで、自分だけが飲む紅茶やココア。
 ちょっぴり寂しい仲間外れで、おまけにハーレイと二人でもない。
(パパがお酒を出して来ちゃったら…)
 その時も、食後のお茶の時間はダイニング。
 ハーレイと父は酒を楽しみ、母と自分は紅茶か何か。
 けれど、そういう目に遭ったって…。
(…ハーレイ、明後日も来てくれるもんね?)
 土曜日の次は日曜日だから。
 用事があるとは聞いていないから、ハーレイは家に来てくれる。
 明日の夜に「またな」と帰っても。
 食後のお茶を二人で楽しめなくても、次の日も丸ごとハーレイと一緒。
 それが週末、ハーレイに用事が無かったら。
 明日は土曜日、その週末が始まる日。


 楽しみだよね、と心待ちにする明日の朝。
 ハーレイは朝には来ないけれども、早起きなのだと聞いている。
 ずっと昔からそういう習慣、仕事の無い日も早くに起きる。
 だから自分が目覚める頃には、とっくに起きているだろうハーレイ。
 前の生から愛し続けて、また巡り会えた愛おしい人。
(うんと朝早くに起きちゃったら…)
 ジョギングだろうか、この家を訪ねて来る前に。
 とても運動が好きなハーレイ、今は古典の教師なのに。
 体育の教師とは違うのに。
(でも、柔道も水泳も、腕はプロ級…)
 プロの選手にならないか、と誘いが来ていたほどの腕前。
 なのに、誘いを蹴ったハーレイ。
 教師になろうと決めていたから、そちらの道へと行ってしまって。
 おまけに、この町の学校で教える教師。
 ハーレイが生まれた隣町でも、教師のポストはあったのに。
 この町に引越しして来なくても、教師にはなれていたというのに。
(…ぼくが生まれる町だから…)
 来たのかもな、とハーレイは言った。
 予知能力は持っていないけれども、何か予感があったのかも、と。
 前の生から愛した恋人、その人が此処に生まれて来ると。
 そういう予感に導かれるまま、教師の道に進んだかもな、と。
(…でないと、ぼくに会えないしね?)
 ハーレイが同じ教師になっても、隣町で教えていたならば。
 今の自分が通う学校、其処の教室に来なかったなら。
 プロの選手になっていたって、やはり同じに出会えない。
 いつも試合や練習ばかりで、子供と触れ合うチャンスは無い筈。
 スポーツ観戦の趣味を持たない、自分は会えない。
 試合を見たいとも思わない上、練習風景なら、尚更だから。


(これって、やっぱり運命なんだよ)
 ハーレイと巡り会えたこと。
 「キスは駄目だ」と叱られるけれど、それでも会えた愛おしい人。
 前の生での恋の続きが、青い地球の上で始まった。
 またハーレイに恋をしていて、「俺のブルーだ」と抱き締められて。
 唇へのキスはまだ貰えなくても、結婚出来る日はずっと先でも。
 二人一緒に暮らせる日までは、まだ何年もかかるとしても。
(ちゃんと会えたし、明日も会えるし…)
 明後日だって、と零れた笑み。
 チビでも恋は出来るから。
 ハーレイだって、恋人扱いしてくれるから。
 明日は二人で何をしようか、何を話して過ごそうか。
 天気がいいという予報だったし、庭に出てお茶にするのもいい。
 庭で一番大きな木の下、据えてある白いテーブルと椅子。
 初めてのデートの思い出の場所で、のんびりとお茶。
 母に頼んで、お茶とお菓子を運んで貰って。
(それもいいよね…)
 二人で其処に座っていたなら、どんな話が出来るだろう。
 思いがけなく昔語りが飛び出すだろうか、前の自分たちだった頃の思い出。
 ふとしたはずみに、それはヒョッコリ顔を出すから。
 庭のテーブルでも、色々な話をして来たから。
 白いシャングリラでクジ引きだった、薔薇の花びらのジャムだとか。
 今ではヒラリと庭を舞う蝶、それがシャングリラにはいなかったとか。
(…ハーレイとだから、出来るんだよ…)
 前の生での思い出話。
 遠く遥かな時の彼方で、同じ船で二人、生きていたから。
 白いシャングリラで共に暮らして、恋をしていた二人だから。


 ずっと二人で生きていたのに、運命に引き裂かれてしまった恋。
 前の自分はメギドへと飛んで、二度と戻れなかった船。
 その上、切れてしまった絆。
 ハーレイの温もりを失くしてしまって、泣きじゃくりながら潰えた命。
 「もうハーレイには二度と会えない」と、「独りぼっちだ」と。
 死よりも恐ろしい絶望と孤独、それに飲み込まれて途切れた意識。
 けれど、気付けば地球に来ていた。
 前の自分が焦がれ続けた、青い地球の上に。
 ハーレイも同じに生まれ変わって、学校の教室でまた巡り会えた。
 その日からずっと、恋をしている。
 明日は来てくれるハーレイに。
 「キスは駄目だと言ってるだろうが」と、睨み付けるケチなハーレイに。
 今のハーレイはケチだけれども、唇へのキスをくれないけれど。
 それでもハーレイのことは好きだし、会えるというだけで心が弾む。
 明日は一日、一緒だから。
 夜には「またな」と帰って行っても、日曜日にまた会えるから。
(…早く明日が来てくれないかな…)
 早くハーレイに会いたいものね、と思い浮かべた恋人の顔。
 明日の朝、自分が目覚める頃には、とっくに起きていそうなハーレイ。
 もうジョギングを済ませた後で、のんびりと朝食の最中だとか。
 朝食さえも終えてしまって、食後のコーヒータイムだとか。
(もっと早くに家を出て来てくれればいいのに…)
 時間つぶしをしていないで、と思うけれども、ハーレイの流儀は仕方ない。
 早すぎる時間に訪ねて来るのは、失礼だと思っているらしいから。
(ちょっとでも長く、ハーレイと一緒にいたいんだけどな…)
 せっかく二人で過ごすんだから、と考えていて、ふと気付いたこと。
 ハーレイとまた巡り会えたからこそ、明日は一緒に過ごせるけれど。
 明後日も一緒なのだけれども…。


(…もしも、ハーレイに会えてなかったら…)
 どうなってしまっていたのだろう?
 ある日、ぽっかり、前の自分の記憶が戻っていたならば。
 聖痕は無しで、ハーレイも無しで。
 ほんの小さな何かの切っ掛け、それで戻って来る記憶。
 自分はソルジャー・ブルーだったと、キャプテン・ハーレイに恋をしていたのだと。
(…思い出すのはいいけれど…)
 見回してみても、何処にも姿が見えないハーレイ。
 学校中を駆け回ったって、家にいたなら、家の近所を闇雲にせっせと歩いたって。
(……それじゃ、「ただいま」……)
 言えないんだ、と見開いた瞳。
 今の自分は、ハーレイにそう言ったのだけど。
 愛おしい人に告げた、「ただいま」と「帰って来たよ」の言葉。
 もしもハーレイがいなかったならば、そんな言葉は口に出来ない。
 記憶が戻って来たというだけ、自分はポツンと独りぼっち。
 まるでメギドにいた時のように。
 もうハーレイには二度と会えないと、泣きじゃくった前の自分のように。
(…そんなの、困る…)
 困るけれども、どうやって探せばいいのだろう?
 見回しても姿が全く見えないハーレイを。
 辺りを懸命に探し回っても、弱い身体が悲鳴を上げるまで走り続けても…。
(…ハーレイ、いるとは限らなくって…)
 何日経っても、手掛かりさえも得られないまま。
 「こういう人を知りませんか」と、新聞に投書してみても。
 友達に端から頼んで回って、心当たりが無いか訊いて貰っても。
(それで見付かるなら、まだマシだけれど…)
 いつか出会えるなら、探した甲斐もあるのだけれど。
 宇宙の何処にもいなかったならば、出会えない。
 同じ時代にハーレイがいなくて、生まれ変わっていなかったならば。


 そうなっていたら独りぼっちだ、と思わずギュッと抱いた両肩。
 もしも一人なら、一人で生まれ変わっていたら。
(…何処を探しても、ハーレイ、いなくて…)
 街を歩く時はキョロキョロしたって、バスの中でも探したって。
 今の学校を卒業してからも、探し続けて頑張ったって。
(…生まれ変わって来ていないなら…)
 けしてハーレイに会えはしなくて、独りぼっちのままなのだろう。
 記憶が戻って来ているからには、ハーレイしか好きにならないから。
 ハーレイを探して、探し続けて、一人きりで生きてゆくのだろう。
 前の自分と同じくらいに、長い長い時を、独りぼっちで。
 「ハーレイがいない」と泣きじゃくりながら。
(…そんなの、嫌だよ…)
 考えただけでも、真っ暗な穴が見えるよう。
 心に開いた深すぎる穴が、落ちたら二度と上がれない穴が。
 ハーレイと巡り会えなかったら、きっと落っこちただろう穴が。
(落っこちずに済んだの、ハーレイがいたから…)
 もしも一人なら落ちていたよ、と思うから。
 泣きながら生を終えただろうから、今の幸せに感謝した。
 キスもくれないケチのハーレイでも、きちんと巡り会えたから。
 いつかは二人で生きてゆけるから、明日もハーレイに会えるのだから…。

 

        もしも一人なら・了


※明日はハーレイが来てくれるんだよ、と楽しみにしているブルー君。土曜日だから、と。
 けれど、そのハーレイがいなかったなら…。生まれ変わって出会えたことに感謝ですよねv





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(明日はブルーに会えるってな)
 そして一日一緒なんだ、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
 明日は土曜だという日の夜に。
 いつもの書斎で、コーヒー片手に。
 愛おしい人に会える週末、それが明日から。
 明日も明後日も、ブルーと二人。
 厳密に言えば、二人きりではないけれど。
 ブルーの家には両親がいるし、夕食は揃って囲むテーブル。
 けれども昼間はブルーと二人で、ゆったり過ごせるのが週末。
 ブルーの部屋でお茶を飲んだり、庭のテーブルと椅子に出掛けたり。
(明日もあそこでデートかもなあ…)
 庭で一番大きな木の下、其処に据えられた白いテーブルと椅子。
 初めてのデートをした場所だから、今もブルーのお気に入り。
 最初はキャンプ用の椅子とテーブルだったのだけれど。
 この家で教え子たちと使うもの、それを運んで行ったのだけれど。
(今じゃすっかり、ブルーのための場所で…)
 白いテーブルと椅子は、ブルーの父が買ったもの。
 「いつも運んで来て頂くのは大変ですから」と。
 そうやって其処に置かれたテーブルと椅子。
 天気のいい日は「庭に行こうよ」と強請る恋人。
 「あそこがいいよ」と、「初めてのデートの思い出の場所」と。
 明日は晴れるという予報だから、きっと庭でのお茶だろう。
 ブルーと一日一緒に過ごして、夜は両親も交えた夕食。
 食後のお茶が済んだ後には、別れの時が来るけれど。
 「またな」とブルーに告げて帰るしかないのだけれど…。
(日曜日にまた会えるんだしな?)
 ほんの少しのお別れなんだ、と分かっているから寂しくはない。
 次の日もブルーと一緒なのだし、幸せな日になる筈だから。


 明日が楽しみな金曜の夜。
 週末に用が入っていない限りは、心が弾む金曜の夜。
 「明日はブルーに会える日なんだ」と、愛おしい人を思い浮かべて。
 会ったら何を話そうかと。
 ブルーがキスを強請って来たなら、どんなお仕置きをしようかと。
(額を指で弾いてやるか、頭を軽くコツンとやるか…)
 どっちにしたって懲りないんだが、と分かっているから微笑ましい。
 一人前の恋人気取りの、チビのブルーが。
 十四歳にしかならない恋人、その愛らしさが。
(…あいつがいるっていうだけで…)
 俺の人生、薔薇色なんだ、と何度思ったか分からない。
 そう、今だって。
 キスも出来ない恋人でも。
 結婚出来る十八歳さえ、まだまだ遠いチビのブルーでも。
 グンと彩りを増した人生、輝きに満ちた週末の時間。
 チビのブルーがいるだけで。
 二人でお茶を飲めるというだけ、話して食事が出来るだけでも。
 キスの一つも交わせなくても。
(なんたって、俺のブルーだしな?)
 前の生から愛し続けた、愛おしい人。
 遠く遥かな時の彼方で、一度は失くしてしまった人。
 その人と再び巡り会えた上、今度は一緒に生きてゆけるから。
 今は小さなブルーだけれども、いつか大きく育ったら。
(…前のあいつと、そっくり同じ姿になったら…)
 夢のような日々がやって来る。
 二人一緒に暮らせる時が。
 週末でなくても、いつもブルーと二人きりの日々。
 仕事に出掛ける時間以外は、ブルーと暮らしてゆけるのだから。


 いつか結婚するブルー。
 前の生では出来なかったこと、二人の恋を明かすこと。
 それが今度は叶うのだから、もう幸せでたまらない。
 今はまだチビのブルーでも。
 キスも出来ないようなブルーでも、こうして巡り会えたのだから。
 前の自分の恋の続きを、しっかりと掴み取ったのだから。
(俺は幸せ者だよなあ…)
 宇宙はとても広いけれども、きっと多くはないだろう。
 今の自分とブルーのように、生まれ変わってまた巡り会うことは。
 この人だった、と分かる相手と再び恋をすることは。
 だから余計に嬉しくなる。
 なんと幸せな人生なのかと、自分は幸せ者なのかと。
 チビのブルーでも、前の自分が愛したブルー。
 その魂は同じなのだし、前のブルーのままだから。
 …ちょっぴり弱いブルーだけれど。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた頃とは、まるで比較にならないけれど。
(すぐ泣いちまうし、メギドの夢は怖がるし…)
 とても伝説の大英雄とは思えないのが、小さなブルー。
 けれども、それも愛おしい。
 前と同じに強かったならば、包んで守ってやれないから。
 「俺が守る」と言ってみたって、その必要は無いのだから。
 いくら平和な時代だとはいえ、守るチャンスは幾らでもある。
 「いいか、しっかり掴まってろよ?」と、急流下りの船に乗るとか。
 デートの途中で激しい雨が降って来たなら、「入れ」とシールドで包むとか。
 今のブルーはサイオンを上手く扱えないから。
 雨が降ったら、傘が無ければ頭から濡れてしまうのだから。
(…守ってやれるチャンスは山ほど…)
 俺が守る、と心に誓う。
 今度こそブルーを守ってやろうと、どんな小さなことからだって、と。


 それが出来るのも、ブルーに巡り会えたから。
 まだまだ小さな恋人だけれど、前の生から愛した人。
 その人と一緒に生きてゆけるから、この人生は素晴らしい。
 今でさえ、もう薔薇色だから。
 いつかブルーが育った時には、もっと輝きを増すのだから。
(何もかも、あいつがいるからで…)
 チビのあいつでも凄い値打ちが、と愛おしく思うブルーのこと。
 本当に俺の宝物だと、まさに人生の宝だと。
 最高の宝を掘り当てたんだと、俺は誰よりも幸せ者だ、と。
(…チビでも、立派に宝物で…)
 大判小判がザックザクだ、と頭に描いた古典の世界。
 ブルーはそれよりも凄い宝で、何にも代えられない宝。
 誰にも譲り渡しはしないし、生涯、大切に守り続ける宝物。
 前の生では失くした分まで、今度は決して失くさないように。
 ブルーの手を二度と離すことなく、何処へも行かせないように。
(メギドなんかは、無い時代だがな…)
 それでも俺が守るんだから、と思った所で気付いたこと。
 小さなブルーは確かに今もいるのだけれども、もしもブルーがいなかったら、と。
 前の自分の記憶が戻って、其処で出会えていなかったら、と。
(…どんなあいつでも、俺は必ず見付け出せるし…)
 見付けてみせると思うけれども、それはブルーがいた時のこと。
 今の自分と同じ世界に、地球でなくても宇宙の何処かに。
 それならば、きっとブルーに会える。
 いつか必ず見付けてみせるし、どんなブルーでも恋をする。
 人でなくても、それこそ猫や小鳥でも。
 「俺のブルーだ」と連れて帰って、一緒に生きて。
 猫や小鳥は喋れなくても、きっと心は通い合うから。
 ブルーは見詰めてくれるだろうし、自分もブルーの想いに応える。
 何処までも共に生きてゆこうと、もう離れないと。


(…しかしだな…)
 本当に一人だったなら。
 ある日、記憶がぽっかり戻って、けれど見付からないブルー。
 休みの度に探し回っても、それこそ広告を出したって。
 「こういう人を知りませんか」と、遠い星に住む友人たちまで動員して。
 もちろん街を歩く時には、キョロキョロと探す自分の周り。
 忘れようもない愛おしい人、その人が歩いていないかと。
 ブルーに記憶は無かったとしても、もしや歩いていはしないかと。
 見れば一目で分かるから。
 きっと駆け寄って、「ブルー!」と呼び止めるだろうから。
 そうすれば戻る、ブルーの記憶。
 戻る筈だと思うけれども、あくまでブルーに会えた時の話。
 この地球の上か、宇宙の何処かで。
 前の生ではブルーだった誰か、もしくは生まれ変わりの何か。
 猫や小鳥でも気にしないけれど、ブルーであればいいのだけれど。
(……あいつもいるとは限らないんだ……)
 今のブルーとの出会いが奇跡で、きっと神の手が働いた結果。
 それが無ければ、ブルーには会えなかっただろう。
 何かのはずみに、前の自分が誰だったのかを思い出しても。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれていた人、その人と恋をしていたのだと気付いても。
(…俺だけしか、此処にいなかったなら…)
 どんなに懸命に探し回っても、ブルーに会えなかったなら。
 ブルーが何処にもいなかったなら…。
(…きっと、人生、真っ暗なんだ…)
 今の薔薇色とは違って闇。
 いないブルーを探し続けて、自分の生は終わるのだろう。
 もしも一人で生まれ変わったら。
 ブルーに会えなかったなら。


 それを思うと、本当に奇跡。
 明日は小さなブルーと過ごせて、いつかはブルーと二人で暮らす。
 もし一人なら、一人きりなら、巡って来なかっただろう幸せ。
(…俺は幸せ者なんだな…)
 本当にな、と噛み締めた今の自分の幸せ。
 もし一人なら、きっと真っ暗だったろうから。
 生涯、ブルーを探し続けて、闇の中を歩いていただろうから…。

 

        もし一人なら・了


※明日はブルーに会える日だから、と幸せ一杯のハーレイ先生。週末だぞ、と。
 けれど、そのブルー君が何処にもいなかったなら…。二人一緒で良かったですよねv





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「よう、ブルー」
 元気にしてたか、とブルーの部屋に入ったハーレイ。
 いつもと同じに、ブルーの母に案内されて。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで座ったけれど。
 ブルーの母は「ごゆっくりどうぞ」と去ったのだけれど…。
「…なに、その挨拶?」
 酷い、と頬っぺたを膨らませたブルー。
 十四歳にしかならない小さな恋人、それが見事に膨れっ面。
「おい、酷いって…。俺の何処がだ?」
 ちゃんと挨拶しただろうが、と顔を覗き込んだら、返った言葉。
 「どの辺が?」と赤い瞳で睨み付けて。
「ぼく、ハーレイの恋人だよね?」
 チビだけれど、とブルーはおかんむりで。
 もうプンスカと怒ってしまって、本当に損ねているらしい機嫌。
 きちんと挨拶してやったのに。
 何も間違えてはいない筈だし、「ブルー」と名前も呼んでやったのに。


 なんとも解せない、恋人の怒り。
 何処が悪かったのか、まるで分からない、この状況。
 いつも通りに「よう」と挨拶、それから椅子に腰掛けたのに。
(どうも分からん…)
 こんな時には訊くに限る、と考えたから問い掛けた。
 まだ怒っている恋人に。
 不機嫌そうなチビのブルーに、「俺が何をした?」と。
「挨拶を間違えちゃいないと思うが、いったい何処が悪かったんだ?」
 そう尋ねたら、「全部だよ!」と怒りの炎が燃え上がった瞳。
 赤い瞳は炎さながら、焼き尽くされてしまいそうな色。
「分かってないわけ、誰に挨拶してるのか!」
 恋人なんだよ、いくらチビでも、ぼくは恋人!
 それに昨日も会っていないし、その前だって…。
 会えたの、ずいぶん久しぶりなのに、「よう」って、なあに!?


 有り得ないよ、と怒ったブルー。
 「もっと恋人らしくして」と。
 何日も会えずに過ごした分だけ、愛情をこめて挨拶して、と。
「会いたかったとか、愛してるとか…。色々あるでしょ?」
 ママの前では「よう」でいいけど、その後だよ!
 抱き締めてくれてもいい筈なのに、と怒る恋人は御不満で。
 「恋人らしく」と、「会いたかった」と、そういう甘い言葉を希望。
 気持ちは確かに分かるけれども、そのブルー。
 チビの恋人の顔を最後に見たのは…。
(…今日の放課後だぞ?)
 下校するブルーとバッタリ出会った、グラウンドの端。
 「今、帰りか?」と呼び止めてやって、「気を付けてな」とも。
 「はい!」と元気に返事したブルー、ほんの数時間前のこと。
 数時間と言っても三時間も無いし、二時間に届くか届かないか。
 その前の日も、その前だって、学校では会っていたわけで…。


(…恋人同士で会える時間は、久しぶりかもしれないが…)
 なんだって恋人らしくせにゃならんのだ、と思う挨拶。
 チビのブルーには「よう」が似合いで、「愛している」は早すぎる。
 「会いたかった」も、会っているのに使う言葉でもないものだから…。
「おい、ブルー」
 気に入らないなら俺は帰るが、と椅子を引いたら、慌てたブルー。
 「帰らないで!」とアタフタするから、ニッと笑った。
 「なら、挨拶の件は無しだな」と。
 恋人らしくしようじゃないかと、二人でお茶だ、と。
 チビのお前にはそれが似合いだと、背伸びするなら帰っちまうぞ、と。
 俺とゆっくり過ごしたいなら、膨れっ面はやめるんだな、と…。



         恋人らしく・了



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