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「ねえ、ハーレイ。…お腹が空かない?」
 テーブルを挟んで、向かい合わせで座ったブルーにそう訊かれて。
 「いや?」とハーレイは首を横に振った。
「腹が減るって…。食ったトコだしな?」
 朝飯もちゃんと食って来たし、と指差すテーブル。
 空のケーキ皿が載っているけれど、ついさっきまではケーキがあった。
 ブルーの母が焼いた美味しいケーキが。
 身体の大きいハーレイのために、と大きめに切られていたケーキが。


 それに、ティーポットにはまだお茶がたっぷり。
 暑い季節だから、ガラスのポットに露を浮かべたアイスティー。
 昼食までは充分に持つだろう腹具合。
 紅茶をおかわりするだけで。乾いた喉を潤すだけで。
 なのにブルーは、また訊いて来た。
 「お腹、空かない?」と。
 無邪気な瞳で、小首を傾げて。


「お前なあ…。足りなかったのか、ケーキ?」
 それとも朝飯を食ってないのか、と問い返したら。
 ブルーは「ううん」と首を横に振って。
「食べたよ、いつもと同じ分だけ。それにミルクも」
 背が伸びるように飲んだもの、と答えるブルー。
 ぼくのお腹は空いてないよ、と。
「ふうむ…。なら、俺を気遣ってくれている、と」
「そうだよ、お腹が空いているかと思って」
 ハーレイ、ホントに大丈夫…?


 ペコペコじゃないの、と心配そうな顔だから。
 苦笑しながら「いつものことだろ?」と壁の時計を示した。
「午前のお茶で、それから昼飯。普段と変わらん時間じゃないか」
 俺は一度も腹が減ったと言ったことなど無い筈だがな?
 そう思わんか、と言ってやったら。
「御飯の方はそうだろうけど…。でも、お腹…」
 食べたくならない? と訊き返された。
 きっとペコペコ、と。


「俺は充分、満足してるが?」
 今、食った分で大丈夫だ、と答えたら。
「そうじゃなくって! ハーレイのお腹!」
 ぼくを長いこと食べてないでしょ?
 お腹ペコペコで、食べたくならない…?
「馬鹿野郎! チビのくせに!」
 誰が食うか、と銀色の頭をコツンと叩いた、痛くないように。
 けれども、しっかり釘を刺すように。
 そういう台詞はまだまだ早いと、もっと育ってから言えと。
 前のお前と同じ背丈にと、それまではキスも駄目だからな、と…。



        お腹が空かない? ・了







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(今日も一日、終わったってな)
 ブルーの家には寄れなかったけれど、終わった仕事。
 帰り道には買い出しもしたし、充実していた日だとは思う。
(柔道部のヤツらも頑張ってたし…)
 普段は投げられてばかりの生徒が、今日は見事に一本決めた。
 他の部員も触発されたか、いつも以上に熱気が溢れていた練習。
 そうなって来たら教え甲斐もあるし、惜しみなく皆に稽古をつけた。
 「かかって来い!」と相手をしたり、技の指導をしてやったり。


 部活の後には会議が入っていたけれど。
 そちらの方で時間を取られて、ブルーの家には寄れずに帰って来たけれど。
 会議は無駄に長引いたわけでもないから、必要なことを決めたのだから。
(やっぱり仕事は大切なんだ)
 それで生活しているわけだし、文句は言わない。
 言おうとも全く思っていないし、今日も一日無事に終わったとガレージに車を入れただけ。
 この後は俺の自由時間だと、家に帰ったら俺の時間だと。
(より正確に言うならば、だ…)
 学校の門を出た瞬間から自由だけれど。
 買い出しに行こうがジムに行こうが、ドライブに行こうが、好きにしてかまわないのだけれど。


 そうは言っても、目指していたのが家だから。
 あれとこれを買って家に帰って…、と決めて車で走り出したから、ゴールは家で。
 ガレージに車を停めた所で、まずは第一段階をクリア。
 助手席に置いた鞄と買い込んだ食料品の袋と、それを手にして車を降りたら次の段階。
 運転席のドアをバタンと閉めて、ロックして。
 ガレージから庭の方へと入って、玄関の方へ歩いてゆく。
 もうすぐ終点、玄関に着けば。
 玄関の鍵をカチャリと開けたら、家の中へと入ったら。


 今の季節は日暮れが遅いし、この時間でも充分明るい。
 とはいえ、昼間ほどではなくて。
 夕方と呼ぶにも少し暗くて、言うならば薄暮。
 庭も庭木も見えるけれども、鮮やかな色はもう消えていて。
 闇が落ちる前のモノクロームの世界が忍び寄ってくる、そういう時間。
 暗くなったら自動で点くようにしてある門灯、それがぼんやり灯ってもいる。
 玄関の扉の脇の明かりも、ポウッと。


(さて、と…)
 明かりに頼らねばならない暗さではないけれど。
 これだっけな、と確認した鍵、それで玄関の扉を開けた。
 扉の向こうにも点いている明かり、暗くなったら点く明かり。
 なんとも思わず中に入って、扉を閉めて。
 玄関先に鞄と食料品の袋とを置いて、靴を脱いだら揃えて置いて。
(これでゴール、と…)
 家に帰ったぞ、と床を踏み締めた、俺の家だと。
 これから先はもう完全に自由時間だと、好きに過ごしていいのだからと。


 家の中は流石に、もう暗いから。
 廊下の明かりをパチンと点けて、鞄と食料品の袋を提げて歩いて行って。
 少し考えてから、まずキッチンへ。
 食料品の中には冷蔵の物もあったから。
 明かりを点けて、袋の中身の仕分けを済ませてしまえば、残る荷物は鞄だけ。
 それを手にしてリビングに行った、帰宅して直ぐのお決まりのコース。
 鞄を床かソファに下ろして、その後は着替え。


 リビングにも明かりは点いていないから、パチンと点けた。
 それからソファに鞄をドサリと、両手が空いたら緩めるネクタイ。
 暑い季節にネクタイの同僚は少ないけれども、これが性分。
 長袖のワイシャツを着込むのと同じで、ネクタイの方も外せない。
 けれども家に着いたら要らない、ネクタイなどは。
 結び目を緩めて、ほどいて、外して。
 ソファの背もたれにポイと投げ掛けて、ワイシャツの襟元のボタンも外して。


 出掛ける前から用意しておいた、家用のラフな半袖シャツとズボンと。
 それに着替えたら、脱いだワイシャツとズボンの片付け。
 ソファの背もたれに預けてあったネクタイも。
(これでよし、と…)
 飯にするかな、とキッチンの方へ向かおうとして。
 今夜の晩飯はこれとこれだ、と頭の中で考えながら廊下を歩いていて。


 明かりが漏れているキッチン。
 そこで気付いた、この家には自分一人だと。
 当然と言えば当然だけれど、自分の他には誰もいないと。
(…俺しか住んでいないんだよなあ…)
 だから明かりを点けねばならない、行く先々で。
 足を踏み入れようとしているキッチンだって、さっき点けたから明るいだけで。
 食料品を仕舞うために入って、そのままだったから明るいだけで…。


(いつもだったら…)
 暗いのだった、このキッチンも。
 ブルーの家で夕食を御馳走になって帰って来た日も、そうでない日も。
 夕食を自分で作るにしたって、コーヒーだけを淹れるにしたって、暗いキッチン。
 明かりを点けねばならないキッチン。
 他の部屋にしたってそれは同じで、リビングも、入って直ぐの廊下も。
 自動で点くよう、セットすることは出来るけれども…。
(…誰かが点けてくれるってことだけはないからなあ…)
 この家には誰もいないのだから。
 自分しか住んではいないのだから。


 そう思ったら、頭に浮かんだブルーの顔。
 今日は寄ってやれなかった家に住んでいる、十四歳の小さなブルー。
(…あいつがいればなあ…)
 いてくれたらな、と思ってしまった、ブルーがいれば、と。
 この家にブルーがいてくれたならば、先に明かりを点けておいてくれる。
 暗くなって来たら、廊下も、リビングも、ダイニングも。
 キッチンだって、きっと。


(それ以前に、だ…)
 玄関を開けたら、ブルーが駆けて来るだろう。
 「おかえりなさい!」と奥の方から。
 もしも気付かずにいたとしたって、何処かで出会う。
 リビングか、ダイニングか、ひょっとしたらブルーがキッチンに立って…。
(何か作っているかもなあ…)
 前のブルーは料理は全くしなかったけれど。
 今のブルーも調理実習の経験だけしか無いようだけれど、この家にブルーがいるならば。
(結婚してるってことなんだしな?)
 そうなれば料理もするかもしれない、簡単なものしか作れなくても。
 普段は自分が料理をしていて、ブルーは食べるのが専門でも。


 キッチンに立っているブルー。
 たとえ料理は上手くなくても、何か作ろうとしてくれるブルー。
(そんなブルーがいてくれたら…)
 どんなに愛おしいことだろう。
 きっとたまらず抱き締めてしまう、ブルーが鍋を焦がしていても。
 フライパンの中身が黒焦げになってしまっていようが、鍋から煙が上がっていようが。
 いてくれるというだけで嬉しい、その上に料理。


(そうだ、あいつがいてくれるだけで…)
 この家の中が温かくなる。
 帰れば明かりの灯っている部屋、そして「おかえりなさい!」の声。
 ブルーの笑顔に、自分を迎えてくれる声。
 扉を開けたら、その向こう側で。
 「ただいま」と玄関の扉を開けたら、そこでブルーが待っている。
 玄関先にはいないとしても。
 リビングかダイニング、時にはキッチンにいるかもしれない。
 そこでブルーに「ただいま」と言えば、「おかえりなさい」と笑顔が返って。


 きっとネクタイも緩めない内に、ギュッと抱き付かれてしまうのだろう。
 扉を開けたら、この家でブルーが待っていたなら。
(いつかはあいつが…)
 出迎えてくれる、この家の中で。家の何処かで。
 今はまだ小さくて幼いけれども、いつか大きく育ったならば。
 結婚してこの家に来てくれたならば。
 今はまだ夢で、いつとも知れない未来だけれど。
 その日は必ずやって来るから、ブルーと暮らせる日が来るのだから。


(うん、それまでの辛抱だな)
 ついでに束の間の自由なのかもな、とクッと笑った、今だけかもな、と。
 ブルーがいてくれる家は幸せで、早く扉を開けたいけれど。
 開けてブルーに会いたいけれども、その代わり。
 仕事帰りに思い立ったからと、急にジムには行けなくなるから。
 一人暮らしの気ままな自由は、もう無くなってしまうから。
(それでも、だ…)
 一人より二人の方がいい。
 ブルーと暮らせる家の方がいい。
 扉を開けたらブルーがいる家が、ブルーが笑顔で待っている家が…。

 

       扉を開けたら・了


※ハーレイ先生、今は気ままな一人暮らしの日々ですけれど。
 ブルー君と二人の方がいいですよね、自由がちょっぴり減ったとしてもv





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(んーと…)
 宇宙はうんと広いんだけど、と考えたブルー。
 お風呂上がりに、パジャマ姿でベッドにチョコンと腰掛けて。
(恋人同士の人は沢山いるよね)
 この地球はもちろん、他の星にだって。
 自分が住んでいる地域だけでも、もう山ほどの恋人同士。
(パパとママだって…)
 恋人同士だからこそ、結婚して一緒に住んでいて。
 今の自分が生まれて来たわけで、今の自分は愛の結晶そのものだけれど。


 その愛がちょっぴり気にかかる。
 愛も、それに恋も。
 ふと考えた、ハーレイとの恋。
 今はまだ両親にすらも明かせない恋で、学校では教師と教え子の仲で。
 恋人同士なことは知られていなくて、そこまでは前と同じだけれど。
 前の自分がしていた恋と、全く同じで秘密だけれど。
 今度は結婚出来るのだった、と思うと胸が温かくなる。
 いつか自分が大きくなったら、ハーレイとの恋を隠さなくてもよくなったなら。
 結婚式を挙げて、ハーレイと暮らす。
 前の自分たちのようにはならない、誰にも秘密のままで終わってしまった恋のようには。


 いつも、いつも、そう思うけれど。
 今度は幸せになれるのだった、と未来を夢見て胸を大きく膨らませるけれど。
(こういう恋人同士って…)
 どのくらいいるというのだろう?
 前の生からの恋の続きをしている人たち。
 生まれ変わって、前の続きを再び始めた恋人たち。
 それが今夜は、気になったから。


(…パパもママも…)
 そういう恋人同士ではない、今が初めての恋人同士。
 今の自分が生まれ変わりだと知った時に驚いたのだから。
 「そんなことが…」と酷く驚いていたし、両親には前世の記憶など無い。
 とても仲のいい二人だけれど。
 自分という愛の結晶まで生まれて、幸せ一杯の二人だけれど。


 広い宇宙を見渡してみても、きっと両親のようなのが普通。
 生まれ変わりという言葉はあっても、実例の方が皆無だから。
 まるで無いことは無かったとしても、広く知られてはいないから。
(パパとママも、前からの恋人同士かもだけど…)
 前世で出会って、恋して、そして結婚をして。
 子供も生まれていたかもしれない、二人の間に。
 幸せに暮らした恋人同士で、また出会ったのかもしれないけれど。
 この宇宙にいる恋人たちの多くは、実はそうなのかもしれないけれど。


 そうだとしたって、恋人同士の絆は切れずに繰り返すものだとしたって。
(…忘れちゃったら…)
 前の生では何処で出会って、どういう風に恋が始まって。
 恋が実って、どんな満ち足りた生を生きたのか。
 どう幸せに過ごしていたのか、忘れたのでは悲しすぎる。
 今がどんなに幸せだって。
 前よりも幸せな生にしたって、前を忘れてしまったのなら。


 けれど、どうやらそれが普通のようだから。
 両親もそうだし、自分が知っている恋人同士も、それ以外の恋人同士の人も。
 前の生での記憶などは無くて、今の分だけ。
 愛も恋も今の生の分だけ、前の生から引き継いだ想いは無いのが普通。
 それを思うと…。


 幸せだと思う、今の自分は。
 前の生から愛し続けたハーレイに会えた、奇跡のように。
 メギドに向かって飛んだ時には、これが別れだと思っていたのに。
 次に会う時には互いの命はとうに無くなって、まだ見ぬ何処か。
 そこで再び会えるならいいと、そこで会おうと心で別れを告げたのに。


(でも、ぼくは…)
 最後まで持っていたいと願った温もりを失くした、右の手から。
 ハーレイの温もりを失くしてしまった、銃で撃たれた痛みのあまりに。
 右の手は冷たく凍えてしまって、失くしてしまったハーレイとの絆。
 もう会えないのだと泣きじゃくりながら死んだ、独りぼっちになってしまったと。
 ハーレイには二度と会えはしないと、自分は独りきりなのだと。


 そうして終わった筈なのに。
 悲しみの中で全ては終わって、独りぼっちで放り出された筈なのに。
 気付けばハーレイとまた出会っていた、地球の上で。
 前の自分が焦がれ続けた、青い星の上で。


 聖痕が運んで来た奇跡。
 気絶するほどの激しい痛みに襲われたけれど、それが記憶を戻してくれた。
 前の自分は誰だったのかを。
 目の前にいる人が、抱き起こしてくれた人が自分の何だったのかを。
 一瞬の内に全てが分かった、恋人の所に戻れたのだと。
 前の生で愛した恋人の腕が、自分を抱えてくれているのだと。


 それが自分の恋の始まり、今のハーレイとの恋の始まり。
 前の自分がもう会えないと泣きながら死んだ、悲しすぎた恋の続きの恋。
 続きなのだから、始まりと呼んでいいのかどうかは分からないけれど。
 遠く過ぎ去った時の彼方で、右手と一緒に凍えた恋。
 前の自分の恋を覆ってしまった氷が、時が来て溶けて消えただけかもしれないけれど。
 春になったら、雪の下から顔を覗かせた花たちが咲くように。
 そういった風に氷の季節が、雪の季節が去っただけかもしれないけれど。


 また始まったハーレイとの恋、前の自分が失くした筈の恋と恋人。
 キスは駄目だと叱られるけれど、愛を交わすことも出来ないけれど。
 それが悲しくてたまらないけれど、恋人は戻って来てくれた。
 前の自分は、その恋人がくれた温もりを失くしたのに。
 もう会えないのだと、泣きじゃくりながら悲しみの中で死んでいったのに…。


 思いがけなく取り戻した恋、前の自分が失くした恋の続き。
 死んで終わりの筈だった恋は消えずに恋の続きがあった。
 青い地球の上で、奇跡のように。
 誰よりも愛した人と再び会うことが出来た、もう一度生きて巡り会えた。
 命は失くした筈なのに。
 前の自分は死んでしまって、それで終わりの筈だったのに。


 そんな悲しい最期でなくても、前の生の記憶は無いのが普通。
 当たり前のように今の生だけを生きるのが普通。
 自分もハーレイと巡り会うまではそうだった。
 前の自分が誰かも知らずに、恋人がいたことも忘れてしまって。
 同じ町で十四年間も暮らしていたのに、思い出しもせずに、忘れたままで。


 けれども、今では戻った記憶。
 前の自分の頃の恋から、ずっと続いている記憶。
 メギドへ飛ぶ前の別れのことも、泣きじゃくりながら死んだ記憶も。
 前の自分が持っていた記憶はそこで終わって、今に繋がる。
 失くした筈のハーレイの腕に抱き起こされる所へと。
 それから再び恋が始まる、今のハーレイとの恋が。


 前の自分が死の瞬間まで愛し続けた、大切な恋人。
 もう会えないと思ったから泣いた、独りぼっちだと泣きじゃくった。
 それなのに会えて、今度はいつか結婚出来る。
 自分が大きくなったなら。
 結婚出来る年に育ったならば。
 前の自分だった頃から愛した人と。
 誰よりも愛して、愛し続けた大切な人と。


(ずっと、ずっと、好き…)
 前のぼくの頃からずっと大好き、と心で何度も繰り返す。
 ハーレイが好き、と。
 長い長い時を愛し続けて、これからもずっと愛してゆける。
 前の自分の記憶があるから、前の恋を忘れていないから。


 もうそれだけでも充分に奇跡だと思うから。
 普通は前世の記憶などは無くて、どんなに愛した人のことでも忘れてしまうようだから。
(ぼくって、幸せ…)
 ハーレイと二人、生まれ変われて、二人とも覚えているのだから。
 愛し合ったことを、恋人同士だった記憶を、二人とも失くしていないのだから。
 前の自分は泣きじゃくりながら死んだのに。
 もうハーレイには会えないのだと、死よりも辛い悲しみの中で。


 それなのに、巡り会えたから。
 またハーレイとの恋が始まって、今度は結婚出来るのだから。
(ずっと大好き…)
 ハーレイのことが、と夢見るように唱え続ける。
 ずっとずっと好きで、ずっと大好き。
 前のぼくの時からずっと大好きで、これからもずっと大好きだよ、と…。

 

       ずっと大好き・了


※ハーレイ先生と出会って再び始まった恋。ブルー君にとっては奇跡なのです。
 まさか続きがあったなんて、という奇跡の恋。ずっと大好きでいられるのが幸せv





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(世の中、恋人同士ってのは山ほどいるが…)
 広い宇宙に沢山いるわけだが、と考えてしまった夕食の後。
 書斎で熱いコーヒーが入ったマグカップを傾けながら、小さなブルーを思い浮かべて。
 今の学校に赴任するまで、会ったことも無かった小さなブルー。
 存在すらも知らずに生きて来た。
 同じ町にいたのに、十四年間も同じ町で過ごしていたというのに。
 けれども出会った、五月の三日に。
 初めて足を踏み入れた教室、其処でブルーが待っていた。


 正確に言えば、ブルーの方でも待っていたわけではないけれど。
 授業の始まりを待っていただけで、教師が来るのを待っていただけ。
 年度始めに少し遅れて転任して来た、新しい古典の教師の登場を。
 ところが、それが自分だったから。
 ブルーもブルーだったから。
 長い長い時を飛び越えてまた巡り会った、恋人同士だったから。
 その瞬間から始まった恋。
 互いに一目でそうだと分かった、恋の相手だと。
 生まれてくる前から恋人だったと。


 そうして再び、始まった恋。
 前の生でいつか行きたいと焦がれた青い地球の上で。
 奇跡のように生まれ変わってまた巡り会えた、運命の相手に。
(俺はあいつをずっと愛して…)
 前のブルーであった頃から、ずっと愛して、愛し続けて。
 失くしてしまっても愛していた。
 ブルーだけを。
 メギドへ飛んで行ってしまって、自分の前から消えてしまった恋人を。


 いつかブルーの許へゆこうと、ただそれだけを思って生きた。
 死の星だった地球へ辿り着くまで、ブルーの許へと旅立つ日だけを思い描いて。
 その時が来たら自由になれると、ブルーに巡り会えるのだと。
 今は駄目でも、地球に着いたら、キャプテンの務めを終えたならば、と。


 そう、死の瞬間までブルーを想い続けていた。
 地球の地の底で崩れ落ちて来た天井と瓦礫、その下敷きになる瞬間まで。
 まるで夢見るように思った、これで逝けると。
 ブルーの所へ旅立てるのだと、やっとブルーを追ってゆけると。
 いつ終わるのかと一人歩んだ、孤独な道はもう終わりだと。


 其処で途切れた自分の意識。
 それよりも後の記憶は無くて。
 気付けばブルーとまた出会っていた、この地球の上で。
 前の自分が別れた時よりずっと幼くなったブルーと。
 まだ十四歳にしかならないブルーと、何の前触れもなく巡り会った。
 足を踏み入れた教室で。
 まさかブルーがいるとは思わず、ブルーの存在さえも知らずに。
 恋人がいるとも思いもせずに。


(なにしろ、いきなり出会ったからなあ…)
 ブルーの姿を認めた瞬間、そのブルーの右目から溢れ出した赤。
 それが血なのだと気付いた時には、小さなブルーはもう血まみれで。
 てっきり事故だとばかり思った、何か起こったと。
 慌てて駆け寄り、倒れたブルーを抱き起こした途端。
 前の自分が帰って来た。
 ブルーに恋をしていた自分が、前のブルーを愛し続けて逝った自分が。


 その瞬間から始まった恋。
 前の生の続きの、恋の始まり。
 それを始まりと言うのかどうかは分からないけれど。
 前のブルーを愛したままで逝った自分の恋の続きで、動き出しただけかもしれないけれど。
 遠い遥かな時の彼方で止まってしまっていた恋が。
 時が来るまで眠り続けた種子が目覚めて、芽吹いたのかもしれないけれど。


 そんなこんなで、出会ったブルー。
 また巡り会って、小さなブルーに恋をしている。
 まだ十四歳にしかならないブルーに、幼くなってしまったブルーに。
(それでも、あいつは俺のブルーだ)
 どんなに小さくて、幼くても。
 幼すぎてキスも出来ないけれども、それでもブルー。
 前の生から愛し続けた愛おしい人で、大事な恋人。


 今でも変わらないままに。
 前の自分が愛したとおりに、今もブルーを愛している。
 愛の形は少し違うけれど、前と同じにとはゆかないけれど。
 キスは出来なくて、愛を交わすことも出来なくて。
 小さなブルーはそれが不満で膨れるけれども、そうしないことが愛だから。
 幼いブルーが前と同じに育つ時まで、見守ることもまた愛なのだから。


 そう、変わらずに愛している。
 前の生から、前の生が終わった瞬間の続きに、今もブルーを。
 ずっと愛して、愛し続けて、今もブルーだけを。
(こんな恋が幾つあるやらなあ…)
 宇宙はとても広いけれども、カップルも沢山いるけれど。
 恋人同士の人間の数はそれこそ星の数ほど、まるで見当もつかないけれど。
 その中にどれほどいるだろう?
 自分たちのような恋をしている人が。
 前の生からの恋の続きで、今も変わらず愛し続けている恋人を持っている人間が。


(多分、俺たちくらいなもんだな)
 そんな気がする、他にはいないと。
 これは奇跡だと、神が起こした奇跡なのだと。
 小さなブルーが持っていた聖痕、それと同じに。
 きっと何処にもありはしなくて、前の生の続きの恋をしているのは自分たちだけだと。
 もしかしたら、いるかもしれないけれど。
 広い宇宙に一組くらいは、あるいは二組、三組くらいは。
 けれども、多分、他にはいない。
 そういう気がする、自分たちの奇跡のような恋。


 なんと幸せなことだろう。
 ずっと愛して、愛し続けて、今もブルーを愛している。
 これからもずっと愛してゆく。
 ブルーが育てば愛の形も変わるけれども、ブルーへの愛は変わらない。
 前と同じに愛し続けて、これからもずっと。
 命ある限り、命尽きても、きっとその先も愛し続ける。
 ブルーはブルーなのだから。
 前の生から愛し続けた、大切な恋人なのだから。


 今の生にしても、運命の恋。
 出会った途端に始まった恋で、それを言葉で表すのなら…。
(…一目惚れだってな)
 それもお互い、一目惚れ。
 自分はブルーに恋をしたのだし、ブルーの方でも恋をしてくれた。
 互いに一目で恋に落ちたとは、もうそれだけでドラマのようで。
 おまけにそれが前の生の続きに始まった恋で、生まれる前からの愛の続きで。


 あまりにも劇的すぎる恋。
 前の自分ですら、想像もしなかったブルーとの恋。
 失くしたブルーを追ってゆこうと思った頃には。
 これでブルーの許にゆけると、笑みすら浮かべて死んだ時には。
 誰が続くと思うだろう?
 互いに失くした命が続くと。
 また命を得て、恋の続きが始まるだなどと。


 思いもしなかった恋の始まり、命の続き。
 ブルーはこれから大きく育って、恋も愛もまだまだこれからのことで。
 今でも充分、恋人だけれど、もっと深く愛して、愛し合えるようになって…。
(うん、何もかもこれからなんだ)
 まだ始まったばかりの恋。
 それを始まりと言うのかは謎で、続きなのかもしれないけれど。
 前の生からの恋の続きで、再び芽吹いた恋の種かもしれないけれど。


(俺はあいつを愛してるってな)
 ずっと前から、今の自分が生まれる前から。
 前の自分が愛したとおりに、再び巡り会えたブルーを今の自分も愛している。
 愛の形はまだ違うけれど、幼いブルーに相応しい形で愛するけれど。
 それでもブルーが愛おしいから、ブルーだけしか見えないから。
 この先も、ずっと愛してゆく。
 命尽きるまで、その先も、ずっと。


 ずっと愛してる、と呟かずにはいられない。
 今も、この先も、前の生からも。
 俺にはお前一人だけだと、俺の恋人はお前だけだと、小さなブルーに。
 此処にブルーはいないけれども、それでも呟く。
 お前だけだと、ずっとお前一人を愛して、いつまでも愛し続けるからと…。

 

        ずっと愛してる・了


※ハーレイ先生とブルー君の恋。生まれ変わる前から続いているというのが奇跡そのもの。
 きっとこの先も、ずっと続く恋。ハーレイ先生の愛も、ずっと続いてゆくのですv





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(んーと…)
 失くしちゃった、と小さなブルーがついた溜息。
 ハーレイの温もりが無くなっちゃった、と。
 右手に持っていた筈のハーレイの温もり、今日も温めて貰った右手。
 「今は夏だぞ?」とハーレイは苦笑していたけれど。
 外は暑いと、窓を開ければ右手も温まる筈なんだが、と。


 そう言いはしても、笑いはしても。
 ハーレイはけして断りはしない、駄目だと拒絶したりはしない。
 キスは駄目だと言われるけれども、右手を温めることは。
 前の生の終わりにメギドで凍えた、悲しい記憶が残る右手を温めることは。
 どんなに外が暖かい日でも、半袖で過ごす今の季節でも。
 夏の日射しが照り付ける日でも、温めて貰える小さな右手。


 今日も温めて貰ったのに。
 「温めてよ」と差し出した右手を、両手で包んで貰ったのに。
 その温もりを失くしてしまった、ウッカリしていて。
 キースに撃たれたせいではなくて、自分の不注意、自分のミス。
 撃たれた痛みで失くしたのなら、それは仕方がないけれど。
 自分のせいではないのだけれども、今日は自分のせいで失くした。
 自分でも気付かない内に。
 まるで気付いていない間に、右手から消えてしまった温もり。


 ハーレイが「またな」と帰って行った時には、持っていたと思う。
 見送りながら振った右手に、ハーレイの温もりはあったと思う。
 別れるのは少し寂しいけれども、また会えるから。
 また来てくれると分かっているから、幸せな気持ちで手を振った。
 「またね」と、明日もきっと来てねと。
 夏休みだから、明日も会えるから。


 ハーレイの姿が見えなくなった後、戻った部屋でも温もりはあった。
 そんな自覚は無かったけれども、幸せな気持ちは残っていたから。
 ハーレイと過ごせて幸せだったと、いい日だったと。
 明日もきっとと、頬が緩んでいたのだから。
 ハーレイに会って、話をして。
 膝の上で甘えて、胸にピッタリくっついたりも…、と。


 持っていた筈のハーレイの温もり、温めて貰った右手の温もり。
 何処で失くしたのか、いつ消えたのか。
 あんなに幸せだったのに。
 幸せな気分に満たされたままで、あの後もずっと過ごしていたのに。
 こうしてベッドに入る前まで、眠りに就こうとする前まで。
 ベッドにもぐって身体を丸めて、無意識に右手を握る前まで。


(無くなっちゃった…)
 右手にあった筈の温もり。
 ハーレイに貰った筈の温もり。
 右手はちゃんと温かいけれど、冷たいわけではないけれど。
 それは自分の体温のせいで、ハーレイに貰ったものではなくて。
 いったい何処で失くしたのだろう、何処へ落として来たのだろう?
 キースに撃たれてはいないのに。
 撃たれた痛みもありはしないのに。


 それなのに消えてしまった温もり。
 ハーレイに貰った大事な温もり、分けて貰った優しい温もり。
 失くした理由は自分の不注意、何処かでウッカリ失くしたのだから。
 いつとも、何処とも思い出せない理由で消えてしまったのだから。


(…何処で失くしたの?)
 右手は変わらず温かいけれど、けして冷たくはないのだけれど。
 ハーレイの温もりを失くしたことが悲しいから。
 あんなに大切なものを何故失くしたのか、どうしてなのかと胸が痛むから。
 何処で失くしたのか思い出そうと記憶を辿った、ベッドに入るまでの。
 ハーレイと別れて見送った後に、自分が何をしたのかを。


 二階の部屋に戻った時には、確かに右手にあったと思う。
 胸は幸せで一杯だったし、明日も会えると心を躍らせていたのだから。
 今は寂しくても、また会えるからと。
 そんな時に右手の温もりが消えたら、きっと分かるし、覚えている。
 あそこで失くしたと、温もりが消えてしまったと。


 だから部屋では失くしてはいない、あの時には。
 その後は本を読んでいたから、そこでも失くしていない筈。
 右手を何度も握ったりしたし、それは温もりを無意識に確かめる仕草。
 右の手が凍えて冷たくはないと、今の自分は幸せなのだと。
 あの時に温もりを失くしていたなら、気付いていない筈がない。


(それから、ママが…)
 お風呂に入るようにと呼ばれた、返事して下りていった階段。
 バスルームに入って、バスタブに浸かって…。
 のんびり過ごしたバスタイム。
 其処でも失くしていそうにはない、お風呂は温かいのだから。
 温かなお湯に浸かっていたなら、温もりは逃げはしないのだから。


(でも、お風呂…)
 熱いお湯に紛れて消えただろうか?
 ハーレイの温もりよりも温かなお湯が、熱かったお湯が奪ったろうか?
 体温の分だけの温もりを。
 お湯よりも温度が低い温もりを、溶かして奪ってしまったろうか?
 温かいお湯に浸かっていたから、自分では気付かなかっただけで。
 知らない間に温もりは薄れて、熱いお湯の中に溶けてしまったろうか…?


 そうかもしれない、温もりが熱さに溶けてしまって。
 お風呂で落として来たかもしれない、そうと知らずに。
 自分でも全く気付かない内に、心地良いお風呂に溶かしてしまって。
 ハーレイの温もりを落っことしたことも、失くしたことにも気付かないままで。
 とても間抜けな話だけれども、お風呂で失くしてしまったろうか。
 ハーレイに貰った温もりを。
 前の自分が最後まで持っていたいと望んだ、あの温もりを。


(…お風呂に落として来ちゃったなんて…)
 気持ちよく浸かって失くしたなんて、と情けないけれど。
 なんと自分は馬鹿なのだろうかと、ウッカリ者だと嘆いたけれども、消えた温もり。
 右の手にハーレイの温もりは無くて、ただポカポカと温かいだけ。
 部屋に冷房が入っていたって、凍えもしないで。
 もう充分に温かな右手、メギドの悲しい記憶には繋がらないけれど。
 冷たくないからメギドの悪夢も、多分、来ないだろうけれど。


 温もりを落としたことが悔しい、ハーレイの優しい温もりを。
 知らない間に失くしたなんて、と本当に悔しくて情けなくて。
(お風呂で失くすって、ホントに馬鹿だよ…)
 いくら気持ち良く浸かっていたって、ハーレイの温もりは特別なのに。
 お風呂のお湯とはまるで違って、熱すぎることものぼせることも…、と思っていて。


(…お風呂の後…!)
 それだ、と気付いた、お風呂の後。
 お風呂にのんびり浸かった後で、熱すぎたかな、と思ったから。
 こんな時には水分補給、と出掛けたキッチン、冷蔵庫から出した冷たい水。
 それをコップにたっぷり注いで、一気に飲まずにゆっくりと喉へ。
 冷たい水を一息に飲んだら身体に悪いし、時間をかけて。
 コップを持った手から伝わる冷たさ、その心地良さを楽しみながら。
 頬を冷やしたり、額だったりと、冷たいコップで肌に触れていた。
 とても気持ちいいと、ひんやりして気分がシャキッとすると。


 あの時、コップを持っていた右手。
 冷たい水を満たしたコップを、頬に、額に当てていた右手。
(それじゃ失くすよ…)
 どんな温もりでも、冷蔵庫から出した水で冷やしてしまったら。
 それが心地良いと冷やしていたなら、冷たさを肌で楽しんだなら。


(ぼくって馬鹿だ…)
 お風呂のお湯に溶かしたどころか、冷たい水で冷やした温もり。
 ハーレイに貰った大事な温もり、温めて貰った右手の温もり。
 それをコップで冷やして失くした、冷たい水を満たしたコップで。
 キースに撃たれて失くしたのなら仕方ないけれど、自分で冷やした。
 気持ちいいからと、お風呂上がりに。
 どんな温もりでも消してしまうだろう、冷たい水を入れたコップで。


 それでは残っている筈もない。
 寝る前に大切に抱こうとしたって、ハーレイの温もりがある筈もなくて。
(…冷やしちゃうだなんて…)
 次は失敗しないんだから、と心に誓った、もう失くさないと。
 ウッカリ失くしてしまいはしないと、持っておこうと手を握るけれど。


 失くしてもきっと、ハーレイはまた温もりをくれるから。
 何度も何度も分けて貰えるから、今度の自分は失くしはしない。
 前の自分が失くしてしまった、あの大切な温もりを。
 ウッカリ失くしても、また何度でも貰えるから。
 今度は失くさない、失くしはしない。
 失くしてもきっと貰えるから。
 「今日は暑いぞ?」と笑われはしても、また温もりを貰えるから…。

 

        今度は失くさない・了


※ハーレイ先生に貰った温もり、落っことしたらしいブルー君。
 何度失くしても、今度は何度でも貰えるのです。貰えるんなら、失くしませんよねv





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