(んーと…)
宇宙はうんと広いんだけど、と考えたブルー。
お風呂上がりに、パジャマ姿でベッドにチョコンと腰掛けて。
(恋人同士の人は沢山いるよね)
この地球はもちろん、他の星にだって。
自分が住んでいる地域だけでも、もう山ほどの恋人同士。
(パパとママだって…)
恋人同士だからこそ、結婚して一緒に住んでいて。
今の自分が生まれて来たわけで、今の自分は愛の結晶そのものだけれど。
その愛がちょっぴり気にかかる。
愛も、それに恋も。
ふと考えた、ハーレイとの恋。
今はまだ両親にすらも明かせない恋で、学校では教師と教え子の仲で。
恋人同士なことは知られていなくて、そこまでは前と同じだけれど。
前の自分がしていた恋と、全く同じで秘密だけれど。
今度は結婚出来るのだった、と思うと胸が温かくなる。
いつか自分が大きくなったら、ハーレイとの恋を隠さなくてもよくなったなら。
結婚式を挙げて、ハーレイと暮らす。
前の自分たちのようにはならない、誰にも秘密のままで終わってしまった恋のようには。
いつも、いつも、そう思うけれど。
今度は幸せになれるのだった、と未来を夢見て胸を大きく膨らませるけれど。
(こういう恋人同士って…)
どのくらいいるというのだろう?
前の生からの恋の続きをしている人たち。
生まれ変わって、前の続きを再び始めた恋人たち。
それが今夜は、気になったから。
(…パパもママも…)
そういう恋人同士ではない、今が初めての恋人同士。
今の自分が生まれ変わりだと知った時に驚いたのだから。
「そんなことが…」と酷く驚いていたし、両親には前世の記憶など無い。
とても仲のいい二人だけれど。
自分という愛の結晶まで生まれて、幸せ一杯の二人だけれど。
広い宇宙を見渡してみても、きっと両親のようなのが普通。
生まれ変わりという言葉はあっても、実例の方が皆無だから。
まるで無いことは無かったとしても、広く知られてはいないから。
(パパとママも、前からの恋人同士かもだけど…)
前世で出会って、恋して、そして結婚をして。
子供も生まれていたかもしれない、二人の間に。
幸せに暮らした恋人同士で、また出会ったのかもしれないけれど。
この宇宙にいる恋人たちの多くは、実はそうなのかもしれないけれど。
そうだとしたって、恋人同士の絆は切れずに繰り返すものだとしたって。
(…忘れちゃったら…)
前の生では何処で出会って、どういう風に恋が始まって。
恋が実って、どんな満ち足りた生を生きたのか。
どう幸せに過ごしていたのか、忘れたのでは悲しすぎる。
今がどんなに幸せだって。
前よりも幸せな生にしたって、前を忘れてしまったのなら。
けれど、どうやらそれが普通のようだから。
両親もそうだし、自分が知っている恋人同士も、それ以外の恋人同士の人も。
前の生での記憶などは無くて、今の分だけ。
愛も恋も今の生の分だけ、前の生から引き継いだ想いは無いのが普通。
それを思うと…。
幸せだと思う、今の自分は。
前の生から愛し続けたハーレイに会えた、奇跡のように。
メギドに向かって飛んだ時には、これが別れだと思っていたのに。
次に会う時には互いの命はとうに無くなって、まだ見ぬ何処か。
そこで再び会えるならいいと、そこで会おうと心で別れを告げたのに。
(でも、ぼくは…)
最後まで持っていたいと願った温もりを失くした、右の手から。
ハーレイの温もりを失くしてしまった、銃で撃たれた痛みのあまりに。
右の手は冷たく凍えてしまって、失くしてしまったハーレイとの絆。
もう会えないのだと泣きじゃくりながら死んだ、独りぼっちになってしまったと。
ハーレイには二度と会えはしないと、自分は独りきりなのだと。
そうして終わった筈なのに。
悲しみの中で全ては終わって、独りぼっちで放り出された筈なのに。
気付けばハーレイとまた出会っていた、地球の上で。
前の自分が焦がれ続けた、青い星の上で。
聖痕が運んで来た奇跡。
気絶するほどの激しい痛みに襲われたけれど、それが記憶を戻してくれた。
前の自分は誰だったのかを。
目の前にいる人が、抱き起こしてくれた人が自分の何だったのかを。
一瞬の内に全てが分かった、恋人の所に戻れたのだと。
前の生で愛した恋人の腕が、自分を抱えてくれているのだと。
それが自分の恋の始まり、今のハーレイとの恋の始まり。
前の自分がもう会えないと泣きながら死んだ、悲しすぎた恋の続きの恋。
続きなのだから、始まりと呼んでいいのかどうかは分からないけれど。
遠く過ぎ去った時の彼方で、右手と一緒に凍えた恋。
前の自分の恋を覆ってしまった氷が、時が来て溶けて消えただけかもしれないけれど。
春になったら、雪の下から顔を覗かせた花たちが咲くように。
そういった風に氷の季節が、雪の季節が去っただけかもしれないけれど。
また始まったハーレイとの恋、前の自分が失くした筈の恋と恋人。
キスは駄目だと叱られるけれど、愛を交わすことも出来ないけれど。
それが悲しくてたまらないけれど、恋人は戻って来てくれた。
前の自分は、その恋人がくれた温もりを失くしたのに。
もう会えないのだと、泣きじゃくりながら悲しみの中で死んでいったのに…。
思いがけなく取り戻した恋、前の自分が失くした恋の続き。
死んで終わりの筈だった恋は消えずに恋の続きがあった。
青い地球の上で、奇跡のように。
誰よりも愛した人と再び会うことが出来た、もう一度生きて巡り会えた。
命は失くした筈なのに。
前の自分は死んでしまって、それで終わりの筈だったのに。
そんな悲しい最期でなくても、前の生の記憶は無いのが普通。
当たり前のように今の生だけを生きるのが普通。
自分もハーレイと巡り会うまではそうだった。
前の自分が誰かも知らずに、恋人がいたことも忘れてしまって。
同じ町で十四年間も暮らしていたのに、思い出しもせずに、忘れたままで。
けれども、今では戻った記憶。
前の自分の頃の恋から、ずっと続いている記憶。
メギドへ飛ぶ前の別れのことも、泣きじゃくりながら死んだ記憶も。
前の自分が持っていた記憶はそこで終わって、今に繋がる。
失くした筈のハーレイの腕に抱き起こされる所へと。
それから再び恋が始まる、今のハーレイとの恋が。
前の自分が死の瞬間まで愛し続けた、大切な恋人。
もう会えないと思ったから泣いた、独りぼっちだと泣きじゃくった。
それなのに会えて、今度はいつか結婚出来る。
自分が大きくなったなら。
結婚出来る年に育ったならば。
前の自分だった頃から愛した人と。
誰よりも愛して、愛し続けた大切な人と。
(ずっと、ずっと、好き…)
前のぼくの頃からずっと大好き、と心で何度も繰り返す。
ハーレイが好き、と。
長い長い時を愛し続けて、これからもずっと愛してゆける。
前の自分の記憶があるから、前の恋を忘れていないから。
もうそれだけでも充分に奇跡だと思うから。
普通は前世の記憶などは無くて、どんなに愛した人のことでも忘れてしまうようだから。
(ぼくって、幸せ…)
ハーレイと二人、生まれ変われて、二人とも覚えているのだから。
愛し合ったことを、恋人同士だった記憶を、二人とも失くしていないのだから。
前の自分は泣きじゃくりながら死んだのに。
もうハーレイには会えないのだと、死よりも辛い悲しみの中で。
それなのに、巡り会えたから。
またハーレイとの恋が始まって、今度は結婚出来るのだから。
(ずっと大好き…)
ハーレイのことが、と夢見るように唱え続ける。
ずっとずっと好きで、ずっと大好き。
前のぼくの時からずっと大好きで、これからもずっと大好きだよ、と…。
ずっと大好き・了
※ハーレイ先生と出会って再び始まった恋。ブルー君にとっては奇跡なのです。
まさか続きがあったなんて、という奇跡の恋。ずっと大好きでいられるのが幸せv