「ねえ、ハーレイ。…お腹が空かない?」
テーブルを挟んで、向かい合わせで座ったブルーにそう訊かれて。
「いや?」とハーレイは首を横に振った。
「腹が減るって…。食ったトコだしな?」
朝飯もちゃんと食って来たし、と指差すテーブル。
空のケーキ皿が載っているけれど、ついさっきまではケーキがあった。
ブルーの母が焼いた美味しいケーキが。
身体の大きいハーレイのために、と大きめに切られていたケーキが。
それに、ティーポットにはまだお茶がたっぷり。
暑い季節だから、ガラスのポットに露を浮かべたアイスティー。
昼食までは充分に持つだろう腹具合。
紅茶をおかわりするだけで。乾いた喉を潤すだけで。
なのにブルーは、また訊いて来た。
「お腹、空かない?」と。
無邪気な瞳で、小首を傾げて。
「お前なあ…。足りなかったのか、ケーキ?」
それとも朝飯を食ってないのか、と問い返したら。
ブルーは「ううん」と首を横に振って。
「食べたよ、いつもと同じ分だけ。それにミルクも」
背が伸びるように飲んだもの、と答えるブルー。
ぼくのお腹は空いてないよ、と。
「ふうむ…。なら、俺を気遣ってくれている、と」
「そうだよ、お腹が空いているかと思って」
ハーレイ、ホントに大丈夫…?
ペコペコじゃないの、と心配そうな顔だから。
苦笑しながら「いつものことだろ?」と壁の時計を示した。
「午前のお茶で、それから昼飯。普段と変わらん時間じゃないか」
俺は一度も腹が減ったと言ったことなど無い筈だがな?
そう思わんか、と言ってやったら。
「御飯の方はそうだろうけど…。でも、お腹…」
食べたくならない? と訊き返された。
きっとペコペコ、と。
「俺は充分、満足してるが?」
今、食った分で大丈夫だ、と答えたら。
「そうじゃなくって! ハーレイのお腹!」
ぼくを長いこと食べてないでしょ?
お腹ペコペコで、食べたくならない…?
「馬鹿野郎! チビのくせに!」
誰が食うか、と銀色の頭をコツンと叩いた、痛くないように。
けれども、しっかり釘を刺すように。
そういう台詞はまだまだ早いと、もっと育ってから言えと。
前のお前と同じ背丈にと、それまではキスも駄目だからな、と…。
お腹が空かない? ・了