転勤したなら
(…引き金は、転勤だったんだよね…)
ぼくとハーレイが出会ったのは、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイの転勤、決まってたけど、前の学校で引き留められて…)
来るのが少し遅れたんだっけ、とブルーも事情を知っている。
本当だったら、ハーレイが来るのは、入学式よりも前の筈だった。
予定通りに来ていた場合は、もっと早くに出会えただろう。
(…その代わり、大事な入学式がメチャクチャ…)
凄い迷惑をかけていたよね、と光景が目に浮かぶよう。
ハーレイを初めて目にした瞬間、ブルーの身体に聖痕が出現した。
右の瞳や、両方の肩や、脇腹からも血が流れ出して、教室は酷い騒ぎになった。
(…ぼくは倒れて、前のぼくだった頃の記憶が戻って来るのを…)
感じ取りながら意識を手放したけれど、後でクラスメイトたちから聞かされた。
ハーレイが慌てて駆け寄り、「救急車を呼んで来てくれ!」と指示し、他の教師も駆け付けた。
「みんな、落ち着いて、席について!」と先生たちが叫んでも、皆は直ぐには従わなかった。
落ち着くどころか、他所のクラスや、違う校舎からまで、見に来る生徒が多かったほど。
(…教室の中でも、そうだったんだし…)
入学式なら大騒ぎだよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
大切な式は台無しになって、皆の記憶に、違う意味合いで残っただろう。
そうならないよう、ハーレイが来るのが遅れたのかな、という気がしている。
一生に一度の入学式だし、お祝いをする家も少なくはない。
(…大騒ぎになって、救急車まで来てました、なんていう思い出よりは…)
後になってから思い出せるのは「お祝いの御馳走とケーキだけ」でも、きっといい。
(だから、神様、ハーレイの転勤が決まっても…)
直ぐには来られないようにしてたんだよ、と思うけれども、どうだろう。
もっと早くに出会えていたなら、もっと沢山、色々な話が出来たのに。
(……うーん……)
タイミングっていうのは難しいよね、と思う間に、「次の転勤」が頭を掠めた。
今のハーレイは教師なのだし、「キャプテン・ハーレイ」だった頃とは違う。
同じ職場で勤め続ける仕事ではない。
(…先生の任期って、どのくらいだっけ…?)
下の学校の先生と同じくらいかな、と考えてみる。
そうだとしたなら、ブルーが卒業する頃までは、充分、いてくれる筈。
プラスして二年くらいは、勤めていたって変ではない。
(…だけど、ハーレイ、そうそういない先生だよね…?)
古典はともかく、柔道と水泳、とハーレイが持つ「特技」が気になる。
どちらもプロの選手にもなれる腕だし、欲しい学校は多いだろう。
(……強豪校で、欠員が出たら……)
ここぞとばかりに声が掛かって、転勤になってしまいそう。
古典の教師は、資格さえあれば出来るけれども、柔道部などの指導は、そうはいかない。
(…其処の学校にいる古典の先生、ハーレイと交換ってことにしたなら…)
めでたく「プロ級の人材」が来るわけだから、大いに有り得る。
欠員が出た科目が古典でなくても、まずは「ハーレイ」を手に入れること。
(…先生が足りなくなった科目が、数学とかでも…)
そちらはそちらで、「数学の先生」を探し出せばいい。
(転勤する人、一人だけで済むトコ、二人になってしまうけど…)
そんなことより、部活の指導が優先だろう。
優秀なコーチがいないばかりに、強豪校から転落するのは、何処も避けたい。
(…ハーレイ、連れて行かれちゃう…!)
ハーレイは喜ぶかもだけど、と思うけれども、それと話は別だった。
転勤で他所に行ってしまったら、ハーレイに会えるチャンスが減るのは確実。
(学校の中では会えない上に、帰りに家に寄ってくれる日も…)
うんと減りそう、と容易に分かる。
強豪校で指導するなら、休日だって不在がちになるかもしれない。
試合や遠征が増えるだろうし、今の学校よりも忙しそう。
それは困るよ、とブルーは怖くなって来た。
「絶対に無い」とは言い切れないだけに、恐ろしいとも言い換えられる。
(強豪校だと、何処なのかな…?)
分かんないや、と呻くくらいに、ブルーはスポーツに縁が無い。
縁が無いから興味も無くて、どの学校が有名なのかもサッパリだけれど、強豪校は存在する。
大きな大会に出場しては、賞を貰って凱旋して来る。
(…もし、ハーレイが転勤したなら…)
今は名前も知らない学校、それを追うことになるのだろう。
(新聞とかでも、今までチラッと見ていただけのスポーツ欄とか…)
食い入るように目を通しては、「ハーレイ」の名前が無いかを探す。
順調に勝ち進んでいればもちろん、試合の時期と違っていたって、関連記事を載せたりもする。
(今のチームはこんな感じ、って…)
先生も一緒に写真が出たり、と「記事の印象」だけは頭にあるから、探す毎日。
何処かに「ハーレイ」が写っていないか、インタビューの類は載っていないか、と。
(…ハーレイの様子を詳しく知りたかったら、そうするしか…)
滅多に家に来てくれないなら、他に方法は見付からない。
「今日のハーレイ」の最新情報を掴みたかったら、友達探しも必要だろう。
(ハーレイが行った学校の生徒で、柔道とか水泳に興味があって…)
だけど部員じゃない、普通の生徒、と条件は厳しい。
部員の場合は「他所の学校にいる友達」と話す時間を、そうそう取れはしないから。
(ハーレイ先生、今日はどうだった、って聞けやしないから…)
無難に部活の話題で始めて、さりげなく情報を掴むしかない。
古典の授業があった日だったら、「今日の雑談、どんなのだった?」でいいだろう。
(ハーレイ、雑談が得意技だしね?)
前の学校で聞いていた「ブルー」が興味を持っても、変ではない。
聞かれた方でも、「楽しかったよ、今日、聞いたのは…」と、楽し気に話すに違いない。
(…水泳とか柔道を見る趣味がある生徒、どうやって探せばいいのかな…?)
うーん、と壁にぶつかったけれど、乗り越えないと「ハーレイの最新情報」は手に入らない。
今の学校の生徒で、似た趣味を持つ「誰か」を探して、人脈を辿るのが早いだろうか。
(…でも、ハーレイが、ぼくの守り役なことは、みんな知ってて…)
その「ブルー」が、「ハーレイが転勤した先の学校」の生徒と繋がりたいなら、理由は一つ。
「ハーレイの情報を追っている」からで、熱烈なファンなのだと「勘違い」されそう。
(…転勤した先の学校の生徒、教えてくれても、その生徒には…)
「ハーレイ先生の熱烈なファン」がいるから、仲良くしてやって欲しい、と紹介だろう。
貰える情報は増えそうだけれど、「熱烈なファン」である本当の理由が問題だった。
(…本当は恋人を追ってるんです、なんて言えやしないし…)
隠し事をしながら付き合えるかな、と思うと答えは「否」でしかない。
何処かでウッカリ、バレてしまうか、そうでなくても「後ろめたい」。
やっぱり新聞くらいしか、と情けなくても、それが現実。
ハーレイが転勤で行ってしまったら、情報源は他に無さそう。
(…今だって、試合で来られない日とか、寂しくなってしまうのに…)
そんな日が増えて、学校の中でも会えないなんて、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
まだ「そうなった」わけでもないのに、「その日」を想像してみただけで。
(…悲しすぎるよ…)
ハーレイが転勤しちゃったら、と恐ろしいから、強豪校の先生たちには頑張って欲しい。
病気になったり、怪我をしたりで、「指導出来なくなりました」という事態に陥らないよう。
(あと四年ほどだけで充分だから…!)
ぼくが卒業しちゃった後なら、「ハーレイ」が転勤したって平気だしね、とブルーは祈る。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、転勤は単に「勤め先が変わる」だけに過ぎない。
(来年から、此処の学校だ、とハーレイに聞いて…)
その学校って何処にあるの、と質問してみる所から始まる。
「其処で柔道部の指導もするの?」だとか、「水泳部の顧問なのかな?」とか。
行ったことの無い場所にある学校だった時は、「どんな校舎?」と聞くのもいい。
(ハーレイが勤め始めたら、ドライブに出掛けた時に、ついでに…)
寄って貰って見てみたいよね、と素敵な夢が膨らんでゆくから、そっちの方が断然いい。
(ぼくが学校に通ってる間に、転勤したなら、大変だけど…)
卒業した後なら、楽しそうだよ、とブルーは「その日」を祈り続ける。
「ハーレイの転勤は、ぼくが卒業した後にして下さい」と、聖痕をくれた神に向かって…。
転勤したなら・了
※もし、ハーレイ先生が転勤になったら、と考えてみたブルー君。会える日が減りそう。
ハーレイ先生の情報も手に入らなくなって、悲しすぎる日々。卒業までいて欲しいですねv
ぼくとハーレイが出会ったのは、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイの転勤、決まってたけど、前の学校で引き留められて…)
来るのが少し遅れたんだっけ、とブルーも事情を知っている。
本当だったら、ハーレイが来るのは、入学式よりも前の筈だった。
予定通りに来ていた場合は、もっと早くに出会えただろう。
(…その代わり、大事な入学式がメチャクチャ…)
凄い迷惑をかけていたよね、と光景が目に浮かぶよう。
ハーレイを初めて目にした瞬間、ブルーの身体に聖痕が出現した。
右の瞳や、両方の肩や、脇腹からも血が流れ出して、教室は酷い騒ぎになった。
(…ぼくは倒れて、前のぼくだった頃の記憶が戻って来るのを…)
感じ取りながら意識を手放したけれど、後でクラスメイトたちから聞かされた。
ハーレイが慌てて駆け寄り、「救急車を呼んで来てくれ!」と指示し、他の教師も駆け付けた。
「みんな、落ち着いて、席について!」と先生たちが叫んでも、皆は直ぐには従わなかった。
落ち着くどころか、他所のクラスや、違う校舎からまで、見に来る生徒が多かったほど。
(…教室の中でも、そうだったんだし…)
入学式なら大騒ぎだよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
大切な式は台無しになって、皆の記憶に、違う意味合いで残っただろう。
そうならないよう、ハーレイが来るのが遅れたのかな、という気がしている。
一生に一度の入学式だし、お祝いをする家も少なくはない。
(…大騒ぎになって、救急車まで来てました、なんていう思い出よりは…)
後になってから思い出せるのは「お祝いの御馳走とケーキだけ」でも、きっといい。
(だから、神様、ハーレイの転勤が決まっても…)
直ぐには来られないようにしてたんだよ、と思うけれども、どうだろう。
もっと早くに出会えていたなら、もっと沢山、色々な話が出来たのに。
(……うーん……)
タイミングっていうのは難しいよね、と思う間に、「次の転勤」が頭を掠めた。
今のハーレイは教師なのだし、「キャプテン・ハーレイ」だった頃とは違う。
同じ職場で勤め続ける仕事ではない。
(…先生の任期って、どのくらいだっけ…?)
下の学校の先生と同じくらいかな、と考えてみる。
そうだとしたなら、ブルーが卒業する頃までは、充分、いてくれる筈。
プラスして二年くらいは、勤めていたって変ではない。
(…だけど、ハーレイ、そうそういない先生だよね…?)
古典はともかく、柔道と水泳、とハーレイが持つ「特技」が気になる。
どちらもプロの選手にもなれる腕だし、欲しい学校は多いだろう。
(……強豪校で、欠員が出たら……)
ここぞとばかりに声が掛かって、転勤になってしまいそう。
古典の教師は、資格さえあれば出来るけれども、柔道部などの指導は、そうはいかない。
(…其処の学校にいる古典の先生、ハーレイと交換ってことにしたなら…)
めでたく「プロ級の人材」が来るわけだから、大いに有り得る。
欠員が出た科目が古典でなくても、まずは「ハーレイ」を手に入れること。
(…先生が足りなくなった科目が、数学とかでも…)
そちらはそちらで、「数学の先生」を探し出せばいい。
(転勤する人、一人だけで済むトコ、二人になってしまうけど…)
そんなことより、部活の指導が優先だろう。
優秀なコーチがいないばかりに、強豪校から転落するのは、何処も避けたい。
(…ハーレイ、連れて行かれちゃう…!)
ハーレイは喜ぶかもだけど、と思うけれども、それと話は別だった。
転勤で他所に行ってしまったら、ハーレイに会えるチャンスが減るのは確実。
(学校の中では会えない上に、帰りに家に寄ってくれる日も…)
うんと減りそう、と容易に分かる。
強豪校で指導するなら、休日だって不在がちになるかもしれない。
試合や遠征が増えるだろうし、今の学校よりも忙しそう。
それは困るよ、とブルーは怖くなって来た。
「絶対に無い」とは言い切れないだけに、恐ろしいとも言い換えられる。
(強豪校だと、何処なのかな…?)
分かんないや、と呻くくらいに、ブルーはスポーツに縁が無い。
縁が無いから興味も無くて、どの学校が有名なのかもサッパリだけれど、強豪校は存在する。
大きな大会に出場しては、賞を貰って凱旋して来る。
(…もし、ハーレイが転勤したなら…)
今は名前も知らない学校、それを追うことになるのだろう。
(新聞とかでも、今までチラッと見ていただけのスポーツ欄とか…)
食い入るように目を通しては、「ハーレイ」の名前が無いかを探す。
順調に勝ち進んでいればもちろん、試合の時期と違っていたって、関連記事を載せたりもする。
(今のチームはこんな感じ、って…)
先生も一緒に写真が出たり、と「記事の印象」だけは頭にあるから、探す毎日。
何処かに「ハーレイ」が写っていないか、インタビューの類は載っていないか、と。
(…ハーレイの様子を詳しく知りたかったら、そうするしか…)
滅多に家に来てくれないなら、他に方法は見付からない。
「今日のハーレイ」の最新情報を掴みたかったら、友達探しも必要だろう。
(ハーレイが行った学校の生徒で、柔道とか水泳に興味があって…)
だけど部員じゃない、普通の生徒、と条件は厳しい。
部員の場合は「他所の学校にいる友達」と話す時間を、そうそう取れはしないから。
(ハーレイ先生、今日はどうだった、って聞けやしないから…)
無難に部活の話題で始めて、さりげなく情報を掴むしかない。
古典の授業があった日だったら、「今日の雑談、どんなのだった?」でいいだろう。
(ハーレイ、雑談が得意技だしね?)
前の学校で聞いていた「ブルー」が興味を持っても、変ではない。
聞かれた方でも、「楽しかったよ、今日、聞いたのは…」と、楽し気に話すに違いない。
(…水泳とか柔道を見る趣味がある生徒、どうやって探せばいいのかな…?)
うーん、と壁にぶつかったけれど、乗り越えないと「ハーレイの最新情報」は手に入らない。
今の学校の生徒で、似た趣味を持つ「誰か」を探して、人脈を辿るのが早いだろうか。
(…でも、ハーレイが、ぼくの守り役なことは、みんな知ってて…)
その「ブルー」が、「ハーレイが転勤した先の学校」の生徒と繋がりたいなら、理由は一つ。
「ハーレイの情報を追っている」からで、熱烈なファンなのだと「勘違い」されそう。
(…転勤した先の学校の生徒、教えてくれても、その生徒には…)
「ハーレイ先生の熱烈なファン」がいるから、仲良くしてやって欲しい、と紹介だろう。
貰える情報は増えそうだけれど、「熱烈なファン」である本当の理由が問題だった。
(…本当は恋人を追ってるんです、なんて言えやしないし…)
隠し事をしながら付き合えるかな、と思うと答えは「否」でしかない。
何処かでウッカリ、バレてしまうか、そうでなくても「後ろめたい」。
やっぱり新聞くらいしか、と情けなくても、それが現実。
ハーレイが転勤で行ってしまったら、情報源は他に無さそう。
(…今だって、試合で来られない日とか、寂しくなってしまうのに…)
そんな日が増えて、学校の中でも会えないなんて、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
まだ「そうなった」わけでもないのに、「その日」を想像してみただけで。
(…悲しすぎるよ…)
ハーレイが転勤しちゃったら、と恐ろしいから、強豪校の先生たちには頑張って欲しい。
病気になったり、怪我をしたりで、「指導出来なくなりました」という事態に陥らないよう。
(あと四年ほどだけで充分だから…!)
ぼくが卒業しちゃった後なら、「ハーレイ」が転勤したって平気だしね、とブルーは祈る。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、転勤は単に「勤め先が変わる」だけに過ぎない。
(来年から、此処の学校だ、とハーレイに聞いて…)
その学校って何処にあるの、と質問してみる所から始まる。
「其処で柔道部の指導もするの?」だとか、「水泳部の顧問なのかな?」とか。
行ったことの無い場所にある学校だった時は、「どんな校舎?」と聞くのもいい。
(ハーレイが勤め始めたら、ドライブに出掛けた時に、ついでに…)
寄って貰って見てみたいよね、と素敵な夢が膨らんでゆくから、そっちの方が断然いい。
(ぼくが学校に通ってる間に、転勤したなら、大変だけど…)
卒業した後なら、楽しそうだよ、とブルーは「その日」を祈り続ける。
「ハーレイの転勤は、ぼくが卒業した後にして下さい」と、聖痕をくれた神に向かって…。
転勤したなら・了
※もし、ハーレイ先生が転勤になったら、と考えてみたブルー君。会える日が減りそう。
ハーレイ先生の情報も手に入らなくなって、悲しすぎる日々。卒業までいて欲しいですねv
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