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(暑くなりそうなんだけど…)
 そんな感じのお日様だけど、とブルーが眺める窓の外。
 夏休みの朝、朝食を終えて、二階の自分の部屋の窓から。
 茂った庭の木々や芝生を照らす太陽、真夏の朝の明るい日射し。
 今の時間はさほど暑くはないけれど。
 木陰にいたなら涼しい風だって抜けてゆくのだし、まだ充分に爽やかな朝。
 もう少し経てば、そうも言ってはいられなくなってしまうけど。
 暑くて駄目だと、涼しい場所へと、家に駆け込むだろうけれども。


 生まれつき身体が弱いから。
 丈夫でないから、夏の眩い日射しは苦手。
 暑すぎる太陽も身体には毒で、出来るだけ日陰を選んでしまう。
 夏の太陽は肌だけでなくて、身体ごと焼いてしまうから。
 下手をしたなら暑くなりすぎて、身体を壊してしまうから。
 夏は草木を育てる季節で、背丈も伸びそうな気だってするのに。
 ぐんぐん伸びてゆく草や木のように、自分も大きくなれそうなのに。
 前の自分と同じ背丈になれる日を目指して、ぐんぐんと。
 夏の日射しを身体に浴びれば、健やかに伸びてゆけそうなのに。


 けれども無理だと分かっているから、夏の日射しも暑さも身体に悪いから。
 暑くなりそうな日は何かと苦手で、家に引っ込んでしまうのが自分。
 庭で一番大きな木の下、白いテーブルと椅子でハーレイとお茶を楽しむくらいで。
 それも暑さが酷くない日の午前中だけ、涼しい風が吹く間だけ。
 暑さが増したら「そろそろ中に入らんとな?」とハーレイが言うか、母がやって来るか。
 「暑いから中に入りなさい」と、「お茶は運んであげるから」と。


 そんな具合で、夏の暑さと仲がいいとはとても言えない。
 夏が大好きな子供は多いし、夏休みと言えば子供にとっては天国なのに。
 海で泳げて、プールで泳げて、太陽の下で駆け回れる季節。
 草木もへばってしまう暑い盛りはアイスクリームを買って食べたり、水に飛び込んだり。
 公園の噴水で水浴びしてしまう子供だって多い、涼しいからと。
 服を着たまま噴水を浴びて、濡れた服のままで遊び回って。
 「涼しいんだぜ!」と友達に教えられたけれど、自分には無理な服での水浴び。
 服が自然に乾くよりも前に、きっと気分が悪くなる。
 びっしょりと濡れた服を乾かしてくれる、真夏の暑い太陽のせいで。
 燦々と照り付ける暑い日射しで、それでクラリとしてしまって。


 生命力に溢れている夏、窓越しでも分かる命の輝き。
 木々の緑は力強いし、芝生の緑も他の季節よりもずっと鮮やか。
 日盛りの昼間は暑さのあまりに色褪せたようになってしまっても、夕方になれば元通り。
 暑すぎる太陽が傾いてゆけば、シャンと力を取り戻す。
 庭の木々も芝生も息を吹き返して、涼やかな風が吹いてゆく。
 夕方の風が、夜の涼しさの先触れの風が。


(お日様が沈んでる間は涼しいんだけどな…)
 星が瞬く夜は涼しい、窓を開けたら冷房が要らなくなるほどに。
 夏の夜空に輝く星たち、その煌めきから冷たい夜露が降り注ぐのかと思うくらいに。
 暑い太陽とはまるで違って清かな光の月や星たち、夜風も肌に心地良い。
 痛いほどの日射しが照り付け、身体ごと焼かれる昼と違って。
 眩しすぎる太陽が支配している昼間と違って。


 今日も朝から太陽の光は元気一杯、空には雲の欠片も見えない。
 急に湧き上がる入道雲くらいしか期待出来ない、あの太陽を遮るものは。
 ザッと夕立を降らせる雲でも湧かない限りは、暑くなる一方としか思えない昼間。
 夕方になって陽が陰るまで。
 元気すぎる真夏の暑い太陽が、西の空へと落ちてゆくまで。


 太陽が沈めば涼しい夜が来るけれど。
 身体に優しい夜になるけれど、それまではきっと暑そうな今日。
 そんな暑さを物ともしないで、ハーレイは歩いて来るだろうけれど。
 前の生から愛した恋人、褐色の肌の夏の太陽が似合う恋人。
(…ハーレイは暑いの、平気だもんね…)
 柔道と水泳が得意なハーレイ、水泳をやるなら夏が一番。
 部活で学校へ行って来た日はプールでひと泳ぎして来るという。
 自分は長くは入れないプール、そこで泳いで、それから歩いてこの家まで。


 なんとも元気すぎる恋人、夏の太陽と同じに元気な恋人。
 あんな風に暑さに馴染めたならと、仲良く出来たらと思うけれども、出来ない相談。
 弱すぎる身体に夏は酷な季節、夜くらいしか仲良くなれそうもない季節。
 庭で一番大きな木の下、それが作ってくれる日陰も長く続きはしないから。
 日陰にいたって風が暑くなって、家に入るしかなくなるから。


(あのお日様のせいなんだけど…)
 朝だというのに他の季節よりも高く昇っている太陽。
 其処から照り付ける眩しすぎる日射し、それがどんどん強くなる。
 昼間に向かって、日盛りに向かって、暑さは増してゆく一方で。
 雲が隠してくれない限りは、うだるような日になるのだろう。今日だって、きっと。
 凶悪とまでは言わないけれども、暴力的に暑い太陽のせいで。
 一年で一番元気な季節の太陽のせいで。


 もう少し和らいでくれないだろうかと、せめて陰ってくれないだろうかと見上げた太陽。
 朝だというのに他の季節より高く昇っている太陽。
 あれのせいだと、あのせいで夏は暑いんだからと眩しい光を睨んだ途端。
 目を細めつつもキッと睨んでやった途端に気が付いた。
(…本物の太陽…)
 あれが本物、と前の自分が心の何処かで飛び跳ねた。
 ずっと焦がれていた星なのだと、あの星を夢見て自分は生きたと。


 フィシスの記憶で見ていた地球。
 機械が与えた映像だけれど、それは充分、知っていたけれど。
 本物なのだと信じた映像、地球へ行くにはこういう風に旅をしてゆくのだと。
 銀河の海に浮かぶ母なる地球。青い水の星。
 其処への標がソル太陽系を照らす太陽、人間を生み出した地球の恒星。
 遠い昔には太陽は一つだけしか無かった、地球を照らしていた太陽しか。
 それ以外の星は全部恒星、太陽と呼ぶ者はいなかった。
 人が宇宙へと船出するまで、幾つもの星に根を下ろすまで。


 漆黒の宇宙に散らばる星たち、その中のたった一つの太陽。
 青い地球を連れて宇宙に浮かんだ、ソル太陽系の真ん中の星。
 それを幾度も夢に見ていた、其処へ向かって旅立ちたいと。
 青い地球まで辿り着こうと、本物の太陽を目指して飛ぼうと。


 けれど、叶わなかった夢。
 前の自分が命尽きた星に、赤いナスカに太陽は二つ。
 青い地球では有り得ない光景、本物の太陽は一つだけしか無いのだから。
 長く潜んだ雲海の星の太陽は一つだったけれども、地球とは違ったアルテメシア。
 輝いていた太陽はクリサリス星系の星で、本物の太陽などではなかった。
 ジョミーを救って力尽きた自分が深い眠りに就いていた間、仲間たちは地球を探したけれど。
 白いシャングリラで宇宙を旅したけれども、ソル太陽系は見付からなくて。
 そして自分は命を落とした、赤いナスカで。
 二つの太陽が存在していた、地球が見えもしないジルベスター星系の片隅で。


 それを思えば、なんという幸せなのだろう。
 本物の太陽が輝く地球に自分は生まれた。
 ハーレイと二人、生まれ変わって青い地球まで辿り着けた。
 前の自分が焦がれ続けて、行けずに終わってしまった地球へ。
 あの星を標に旅をしようと夢を見続けた、本物の太陽が輝く地球へ。
(…太陽がこんなに暑かったなんて…)
 夢にも思いはしなかった。
 肌を焼く真夏の太陽の日射しも、草木も項垂れてしまうほどの夏も。
 これほどに力強い星とは、太陽がこれほど眩いとは。


(…本物の太陽は元気一杯…)
 フィシスの映像とはまるで違う、と窓の外を見た、夏の太陽を。
 これからどんどん高く昇って、酷い暑さを運んで来そうな元気すぎる夏の太陽を。
 今の自分には夏の暑さは辛いけれども、身体にも良くはないのだけれど。
 これが本物の太陽だから。
 前の自分が夢に見続けた、青い地球を照らす太陽なのだから。
(暑いけれども、これが本物…)
 元気一杯の夏の太陽でも、元気すぎる暑さが辛くても。
 急に素敵な気持ちがして来た、なんと元気な星だろうかと。強い太陽なのだろうかと。


 この太陽が青い地球を育てて、人を生み出して、今も照らして。
 自分は其処に生まれて来たから、地球に来られたから、夏の暑さを知っている。
 今日もこれから暑くなりそうだと空を見上げる、少し陰ってくれればと。
(…なんて贅沢…)
 前の自分が憧れ続けた地球の太陽、それに陰って欲しいだなんて。
 雲でも湧いてくれればいいとか、夜の方が涼しくて好きだとか。
 今日くらいは少し我慢をしようか、暑いけれども、この太陽は本物だから。
 前の自分が夢に見続けた、本物の地球の太陽だから…。

 

        暑いけれども・了


※夏の暑さが苦手なブルー君。でも、その暑さが何処から来るのか気付いたら…。
 暑いけれども我慢してみようかと思ったようです、無理はしないでねv





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(今日も暑い日になりそうだな…)
 夜中は涼しかったんだがな、とハーレイが眺めた窓の外。
 夏休みの朝のまだ早い時間、朝日が射す庭は生命の輝きが溢れているけれど。
 芝生は元気一杯の緑、庭の木々も青い葉を茂らせて空を仰いでいるけれど。
 この輝きは朝の間だけ、爽やかな風が吹き抜けてゆく間だけ。
 もう少し経てば太陽の光が強くなるから、暑い日射しが照り付けるから。
 瑞々しい緑はうだってしまって失せる鮮やかさ、元気の良さ。
 夕方に陰って涼しくなるまで、人と同じでへばってしまう。
 暑すぎて駄目だと言わんばかりに、草木も疲れてしまうのが真夏。


 夏の暑さで疲れてしまうのは人だけではなくて、動物も同じ。
 涼しい朝には飼い主とはしゃいで散歩していたような犬でも、昼間はぐったり。
 ハアハアと舌を出して暑さを訴えているか、でなければ日陰に転がっているか。
 空をゆく鳥も暑い盛りは鳴かない気がする、朝夕は賑やかに囀っていても。
 しんと静まってしまいそうな夏の日盛り、出歩く人影も減る時間。
 心なしか車も減っているように思える時間。
 それほどに暑くなるのが真夏で、その原因は…。


(今の時間は、ただ眩しいってだけなんだがな?)
 庭の隅々まで明るく照らし出す夏の太陽、一年で一番、太陽が元気になる季節。
 強く眩しく輝く季節。
 夏の日射しは嫌いではない、夏生まれだからか、それとも水の季節だからか。
 子供の頃から親しんだ水泳、海や川で楽しく泳げる季節は夏だから。
 春や秋ではプールと違って泳げはしないし、冬ともなれば論外だから。
(まあ、冬は冬で…)
 寒中水泳なるものもあるし、水辺と全く無縁とまでは言えないけれど。
 冬の川や海で泳ごうという人もいるけれど、やはり最高の季節は夏。
 水の季節は夏だと思うし、暑い日射しがよく似合う季節。


 そんな具合で、夏の太陽も日射しも多分、好きな方。
 四季それぞれに良さがあるから、夏を贔屓はしないけれども。
 ただ、その太陽の元気の良さも少々困りものではある。
 朝の間はいいけれど。
 爽やかな朝だと、今日も快晴になりそうだ、と眺める間はいいのだけれど。
(…へばっちまうしなあ、庭の木とかが)
 水を下さいと言わんばかりに萎れてしまう葉だってある。
 太陽に炙られてもう限界だと、シャンと姿勢を保てはしないと。
 夕方になって陽が陰ったなら、また勢いを取り戻すけれど…。


(何日も雨が降らなかったりしたら、ヤツらも限界…)
 夏ならではの夕立が来れば、天の恵みで自然の水撒き。
 ザアッと空から降ってくる雨が地面を潤し、木々も潤す。
 気温も下がって暫くの間は暑さも一服、うだっていた草木も息を吹き返す。
 そうした雨が来ればいいけれど、来てくれなければ乾く一方。
 芝生はまだしも、木々の中には悲鳴を上げるものだってある。
 夏の間は分からなくても、秋になったら水不足だったと訴える木が。
 木の葉が色づく紅葉の季節に、葉がチリチリと縮んでしまって可哀相な木が。


 けれども昼間は出来ない水撒き、ブルーの家に行くからではない。
 家にいたってしてはならない、父に厳しく教えられた。
 自然に降る夕立は地面も空気も丸ごと冷やすから大丈夫だけども、水撒きは駄目だと。
 人の力で庭だけに水を撒いてやっても、一時しのぎにしかならないからと。
 却って草木が疲れてしまって、その後の暑さでダウンしてしまう。
 もっと水をと、これではまるで足りはしないと。
 つまりは人間と全く同じ。
 喉が乾いてたまらない時に一口しか水を貰えなかったら、余計に喉が乾くから。
 もっと飲みたいと、ゴクゴクと水を飲みたいのに、と。


 そうならないよう水撒きするなら、朝とんでもなく早い内。
 暗い内から水撒きを始めて、朝日が昇る頃までに終えてしまうというのが正しい方法。
 これなら草木は自然に水を吸い込めるから。
 夜の間に降りた夜露を吸うのと同じで、それをたっぷり貰えたようなものだから。
(…もう何日か降らないようなら…)
 そのコースだな、と考える。
 ブルーの家へと出掛けるよりも前、朝食を食べるよりも、まだ早い時間。
 水撒き用のホースを持ち出し、庭一面に景気よく。
 しっかり水を飲んでおいてくれと、これで暑さを乗り越えてくれと。


 毎朝やっても、特に問題ないけれど。
 むしろいいのかもしれないけれども、庭木は甘やかさない主義。
 農家の畑の野菜でもなし、せっせと手入れをしてやらずとも、と。
 夏は暑いし、それを自力で乗り切ってこそと思うから。
 自分の都合で庭に植えてある責任の分だけ、手をかけてやればと思うから。
 後は庭木の頑張り次第で、うだる夏にはそのように。
 寒い季節も、それに見合った生き方を。


 そうは思っても困りものの夏、太陽が元気すぎる夏。
 水撒きの手間は惜しまないけれど、出来れば自然に任せたい。
 せっかく庭に植えてあるのだし、家の中に置かれた鉢植えなどではないのだから。
 屋根も壁も無くて、太陽も雨も風も浴び放題、そういう場所にあるのだから。
(出来れば一雨…)
 夕立でもいいし、夜中に降ってくれてもいいし、と庭を眺めて。
 今日も暑そうだから、入道雲が湧いてくれないものか、と眩しい日射しの元を仰いで。


(そうか、太陽…!)
 本物だった、と気付いた太陽。庭を照らしている太陽。
 ごくごく見慣れた光景だけれど、太陽は空にあるものだけれど。
(前の俺だと…)
 無かったのだった、こういう地球の太陽は。
 白いシャングリラの何処を探しても、太陽にはお目にかかれなかった。
 あの船の中に太陽は無くて、アルテメシアの太陽でさえも船体を照らし出しただけ。
 雲海に潜んだ白いシャングリラ、それを昼間は白く見せただけ。
 船の中にまでは日射しは届かず、天窓を通して射し込んだくらい。
 ブリッジからも見えた公園、ああいった場所に。


 赤いナスカに降りた時には太陽が二つ。
 一つではなくて二つの太陽、しかもジルベスター星系の恒星。
 あの頃に太陽と言ったら恒星のことで、太陽という言葉の源になった星ではなくて。
(…地球の太陽なんぞは夢のまた夢…)
 いつかは其処へ、と夢を見た星、青い水の星を連れているのが母なる地球の太陽だった。
 ソル太陽系の中心となる星、それが太陽。
 太陽という言葉を生み出した元の恒星、人を生み出した地球の太陽。


 それは青い地球と同じで夢の彼方に浮かんでいた星、座標さえも掴めなかった星。
 いくら宇宙を捜し回っても、幾つもの星系を訪れてみても。
 どれも違った、ソル太陽系とは違った太陽。
 ナスカのように二つだったり、三連恒星だったものもあった。
 本物の太陽には出会えないままに宇宙を旅した、前のブルーを乗せていた船で。
 昏々と眠り続けるブルーを、ジョミーを救って力尽きてしまった前のブルーを乗せた船で。


 そうして太陽が二つあった星、赤いナスカでブルーは消えた。
 いなくなってしまった、メギドを沈めて。
 白いシャングリラから飛び立って行って、二度と戻りはしなかった。
 前のブルーの犠牲のお蔭で辿り着けたソル太陽系。
 太陽は其処にあったけれども、地球を照らしていたのだけども。
(…肝心の地球が無かったんだった…)
 死に絶えたままの赤い星しか。
 前のブルーが最後まで焦がれ続けた星は何処にも無かった、青い水の星は。


(そいつが今では揃ったってか…)
 元の通りに、と笑みが浮かんだ、本物の太陽と青い地球。
 其処に自分はまた辿り着いた、長く遥かな時を飛び越えて奇跡のように。
 生まれ変わったブルーと二人で、青い地球まで。
 本物の太陽が照らす地球まで、元気すぎる太陽が眩しい地球へ。
 夏の盛りにはうだってしまう草木、へばってしまう草木の緑が息づく星へ。
 青い空から命を育てる恵みの雨と、太陽の光が降り注ぐ星へ。


 それに気付けば、なんという幸せなのだろう。
 昼間がどんなに暑くなっても、数日の内には水撒きの手間がかかっても。
 青い地球があるから、太陽がそれを照らしているから、暑くなる夏。
 草木もへばってしまう夏がある、青い水の星と太陽がきちんと揃っているから。
(よし、少しくらい暑くなっても…)
 それも一興、と外を眺める、「たまには水撒きもいいもんだ」と。
 ブルーの家へと出掛けるよりも前、暗い内から水を撒く庭。
 愛おしい人と地球まで来られたからこそ、出来る贅沢、朝の水撒き。
 暑くなっても草木がへばってしまわないよう、「たっぷり飲めよ」と青い地球の水を…。

 

       暑くなっても・了


※夏の日射しも嫌いではないハーレイ先生、けれど庭木は暑さが苦手。
 暑さをもたらす原因が地球の太陽と気付けば、水撒きタイムも贅沢ですよねv





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(地球に来ちゃった…)
 嘘みたい、と小さなブルーが抓ってみた頬。
 ふと、それを思い出したから。
 此処は地球だと、自分は地球に住んでいるのだと気付いたから。
 何度も何度も、思い出しては気付いたけれど。
 青い地球の上に生まれ変わったと、生きているのだと思ったけれど。
 その度にギュッと抓ってみる頬、それが柔らかな頬だから。
 子供の頬の感触だから、余計に素敵な気がする奇跡。
 青い地球に来たと、ちゃんと身体もあるのだから、と。


 前の自分が焦がれた地球。
 いつか行きたいと夢に見た星、恋人と共にゆこうとした星。
 その恋人も一緒に地球に生まれた、二人揃って生まれ変わった。
 青い地球の上に。
 二人でゆこうと夢見た星に。
 再び巡り会えたハーレイ、もう会えないと思ったハーレイ。
 メギドに向かって飛び立った時に持っていた温もり、それを失くしてしまったから。
 ハーレイと自分を繋ぐ絆を、右手に残ったハーレイの温もりを失くしたから。


 二度と会えないと泣きながら死んだ、前の自分は。
 ハーレイと離れて独りぼっちになってしまったと、右の手が凍えて冷たいと泣いて。
 地球へ行けないことよりも辛く、悲しかったハーレイとの別れ。
 それでも絆はあると信じて、温もりを抱いて逝こうと思って飛び立ったのに。
 白いシャングリラを守り抜くために、一人、メギドへと飛んだのに。
 失くしてしまった右手の温もり、切れてしまったハーレイとの絆。
 悲しみの中で、死よりも恐ろしい絶望の中で、前の自分の生は終わった。


 なのに、どうしたことだろう。
 気付けば青い地球に来ていて、ハーレイまでがついて来た。
 二度と会えないと思った恋人、そのハーレイとまた巡り会えた。
 この地球の上で。
 前の自分たちが二人で目指した、行きたいと願った青い星の上で。
 少しばかり小さく生まれて来たのが残念だけれど。
 あと数年ほど育った身体で、前の自分と同じ姿で恋人と再会したかったけれど。
 今の自分は十四歳にしかならない子供で、ハーレイはキスもくれないから。
 「キスは駄目だ」と頬と額だけ、唇へのキスは貰えないから。


 少々、不満はあるけれど。
 小さな身体が悔しいけれども、本物の身体と、貰った命。
 前の自分が失くした命。
 それを貰った、青い地球の上で。前とそっくり同じ姿で。
 頬を抓れば、子供の頬の柔らかな感触、前の自分の頬とは違う。
 ソルジャー・ブルーだった自分とは違う、この柔らかな子供の頬は。
 新しい命を貰った証拠で、今の自分の生の証で。
 不満だけれども嬉しくもある、自分は地球に生まれて来たと。
 青い地球の上に生まれ変わって、幸せに生きているのだと。


 ハーレイと二人でゆこうとした星、白いシャングリラで目指した星。
 前の自分の寿命が尽きると分かった時には涙したけれど、それでも夢見た青い地球。
 出来るものなら一目見たいと、ほんの一目でいいのだからと。
 メギドへ向かって飛び立つ前にも、それを思わずにはいられなかった。
 「地球を見たかった」と、叶わない夢を心で呟いていた。
 思いがけずも命永らえて此処まで来たのに、終わるのかと。
 長く潜んだアルテメシアを離れて宇宙に出たのに、自分の旅は此処で終わってしまうのかと。


 ハーレイとの別れも辛かったけれど、見られない地球。
 あとどのくらいの旅を続ければ、青い水の星へ着けるというのか。
 分からないままに死んでゆく自分、けして地球へは着けない自分。
 此処で自分が犠牲にならねば、シャングリラは地球まで行けないから。
 地球へ行けずに沈むだろうから、自分は船を降りねばならない。
 白いシャングリラを、船の仲間たちを、青い地球へと送り出すために。
 ハーレイが舵を握っている船、それを飛び立たせるために。


 そうして一人、後にした船。
 メギドに向かって飛んで別れたシャングリラ。
 永遠の別れを告げた白い船、それは必ず地球へ着くのだと信じていた。
 青い水の星に。
 銀河の海に浮かんだ一粒の真珠、青い母なる水の星へと。
 自分は見ることは叶わないけれど、あのシャングリラは其処へゆくのだと。
 白い鯨は地球を見るのだと、青く美しく輝く星を、と。


 前の自分が焦がれた地球。
 ハーレイと行こうとしていた星。白いシャングリラできっといつか、と。
 夢に見た地球は、青い水の星だと信じていた。
 一度は滅びた星だけれども今は青いと、それが宇宙の何処かにあると。
 シャングリラは其処へ旅立ってゆくと、自分の命と引き換えにそれを送り出そうと。
 ハーレイと共に暮らしていた船、ハーレイとの恋を育んだ船。
 自分は此処で降りるけれども、地球への旅は続くようにと。
 どうか母なる青い地球へと、あの船が無事に着けるようにと。


 祈る気持ちで飛び立った自分、白いシャングリラを離れた自分。
 青い水の星があると信じて、仲間たちを其処へと祈り続けて、恋した人とも別れて、一人。
 自分は此処で死んでゆくけれど、あの船は地球へ行くのだからと。
 ハーレイとの別れは悲しいけれども、地球を見られないことも悲しいけれど。
 そうせねば船は旅立てないから、青い地球には行けないから。
 白いシャングリラの、仲間たちの未来を拓くためにと一人きりで降りた大切な船。
 永遠の別れを告げて自ら後にした船、赤いナスカで降りようと決めたシャングリラ。


 振り返りもせずに飛んだ自分は、青い地球があると信じていた。
 宇宙の何処かに、青い水の星が。
 母なる地球がきっと何処かにある筈なのだと、シャングリラは其処へ飛んでゆくのだと。
 ハーレイが船の舵を握って、青い地球への旅が始まる。
 自分は此処で降りるけれども、皆と一緒に乗って地球へは行けないけれど。


 そう、本当に信じていた。
 前の自分は、最後まで。
 ハーレイと別れて、シャングリラを離れて飛び立つ時まで、疑いもせずに信じ切っていた。
 青い水の星を。
 宇宙の何処かにあるに違いない、フィシスの記憶に刻まれた地球を。


(ぼくはホントに信じてたのに…)
 だから焦がれた、いつか行こうと。
 ハーレイと二人で辿り着こうと、あのシャングリラで地球へ行こうと。
 それが叶わないと知った後にも、夢を見ずにはいられなかった。
 出来ることなら一目見たいと、青い地球をこの目で捉えてみたいと。


 けれど、無かったらしい地球。
 白いシャングリラが辿り着いた地球は、青い星ではなかったという。
 ハーレイはどれほどショックだったことか、ジョミーや他の仲間たちにしても。
(…前のぼくだって…)
 地球がそういう姿なのだと知っていたなら、あの時、メギドに飛べたかどうか。
 夢の星だと信じていたから、未来を託して白い船を降りた。
 自分の代わりに、どうか地球へ、と。
 青い命の星だからこそ、ハーレイとの恋も、地球への思いも、切り捨てて船を降りられた。
 地球は希望の星だったから。
 ハーレイと二人、夢に見続けた星だったから。


 きっと知らなくて良かったのだろう、あの頃の地球の真の姿は。
 前の自分が知らなかったことは、神の采配なのだろう。
 次の世代に未来を託して、あそこで船を降りられるよう。
 青い地球へと、夢の星へと、白いシャングリラを守って送り出せるよう。


 前の自分が夢に見た地球、それは何処にも無かったけれど。
 青い地球は幻だったけれども、今はある。
 小さな自分が生まれて来た地球、ハーレイと二人、また生きてゆける青い星。
 まるで奇跡で、前の自分が思いもしないで死んでいった未来。
 ハーレイと二人で生きてゆける未来。
(…なんだか不思議…)
 聖痕もとても不思議だけれども、青い地球。
 前のハーレイと二人、夢に見た地球。
 其処で二人で生きてゆく。
 いつか自分が大きくなったら、キスを交わして、結婚して。
 前の自分が夢に見た地球で、何処までも二人、手を繋ぎ合って…。

 

        夢に見た地球・了


※青い地球に生まれたブルー君。地球は青いと信じて死んでいったソルジャー・ブルー。
 ブルー君が青い地球の上に生まれて来たのは、きっと神様の御褒美ですねv





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(本当に地球に来ちまったんだな…)
 夢のようだが、とハーレイがギュッと抓ってみた頬。
 夕食の後で、ダイニングで。
 コーヒーを飲みながら広げた新聞、そこに見付けた「地球」という文字。
 ごく当たり前に、一週間の天気の欄に。
 色々な所へ旅行する人も少なくないから、様々な地域の週間予報。
 晴れのマークやら、雨マークやら。
 中には雪のマークまである、地球の半分は今の季節が逆だから。


 他に「地球」は…、と目を向けてみれば、それは幾つもの「地球」の文字。
 地球のあちこちから送られて来た愉快なニュースや、彩りも豊かな写真やら。
 それより何より、新聞そのものが地球の新聞。
 地球に住んでいる人が読者の中心、投稿欄を見たって分かる。
 日々の出来事を綴ったものから、趣味の短歌の類まで。
 投稿者が暮らす地域の地名は殆どが地球で、たまに他のが混ざる程度で。
 つまりは全てが地球で構成された新聞、本日の地球のホットなニュース。
 写真も、記事も。
 読者があれこれ投稿している、読者中心のコーナーだって。


 前世の記憶を取り戻してから、何度も「地球だ」と思ったけれど。
 自分は地球にやって来たのだと、地球の住人だと思ったけれど。
 その度に頬を抓りたくなる、今夜のように。
 こんな奇跡があっていいのかと、本当に地球に来られるとは、と。
 おまけにブルーもついて来た。
 前の生から愛し続けた、一度は失くした愛おしい人。
 ソルジャー・ブルーだったブルーも、この地球の上に生まれて来た。
 前とそっくり同じ姿で、けれど少々、幼い姿で。


 まだ十四歳にしかならないブルーと、三十代も後半の自分。
 奇跡のようにまた巡り会えた、青い地球の上で。
 前の生から二人でゆこうと夢を見続けた、水の星の上で。
 当たり前のように其処にある地球、今の自分たちが生まれて来た地球。
 何も知らずに生まれ変わって、今まで暮らしてきていた星。
 前の生の記憶が戻るまで。
 前の自分が誰であったか、それに気付いたあの日まで。


 ブルーと出会って戻った記憶。
 白いシャングリラで生きていた自分、キャプテン・ハーレイだった頃。
 この地球は夢の星だった。
 ブルーと行こうと夢を見ていた、いつかはきっと、と。
 白い鯨で辿り着こうと、母なる地球をその目で見ようと。


 なのにブルーは逝ってしまって、取り残されてしまった自分。
 愛おしい人を追って逝くことも出来ず、シャングリラに独り残された自分。
 仲間たちの姿が幾つあっても、自分は独りきりだった。
 生きる意味さえ失くしてしまった、自分のためにと生き続ける意味は。
 前のブルーが望んだからこそ、前の自分は生きていた。
 ジョミーを支えて地球へ行かねばと、このシャングリラで辿り着かねばと。


 そうして半ば屍のように、けれども船のキャプテンとしては懸命に。
 ただひたすらに地球を目指した、其処がゴールになるのだろうと。
 辿り着いたら役目は終わると、きっとブルーの許へゆけると。
 それだけを心の支えにしていた、地球に着いたら終わるのだから、と。
 少しばかり残務処理があっても、それが済んだらブルーの許へ、と。


(…土産話にしたかったんだが…)
 地球を見られずに逝ってしまった、愛おしい人。
 青い水の星に焦がれ続けたブルー。
 先に逝ったブルーと再会したなら、土産話に青い地球。
 自分は其処へ行って来たのだと、こんな星だったと、土産話にしたかった。
 きっとブルーも魂となって、シャングリラを追っているだろうけれど。
 青い地球にも一緒に着くだろうけれど、魂だけでは分からないものもあるだろうから。


 地球の空気や、風の気配や、それが運んで来る匂いやら。
 肉体が無くては分からないもの、感じ取れないだろうものたち。
 そういったものを土産にと持って、ブルーに会いにゆく筈だった。
 「地球は本当に青かったですよ」と、「これが地球に吹く風の香りですよ」と。
 青い星で飲んだ水の味やら、其処で育った野菜の味やら。
 そんなものまで持ってゆきたかった、味わえなかったブルーのために。
 「地球の食べ物はこうでしたよ」と、「地球は素晴らしい星でしたよ」と。


 それなのに夢は無残に砕けた、長く苦しかった旅の終わりに。
 勝ち戦が続いていた時でさえも、ブルーを失くした悲しみしか無かった旅の終わりに。
 ようやっと辿り着いた地球。
 最後のワープで超えた空間、月の向こうに見えてくる筈だった青い星。
 それをブルーに報告しようと、この感動の瞬間を一番最初にブルーの許へ、と見詰めた月。
 もうすぐ向こうに地球が見えると、旅の終わりの水の星が、と。
(…だが、あの地球は土産どころか…)
 笑い話にさえもなりはしなかった、赤かった地球。
 あれが地球かと、そんなことがと、誰もが言葉を失った地球。


 死の星が其処に転がっていた。
 そう、文字通りに「転がっていた」としか言えなかった地球、骸と化した醜い星。
 前の自分たちの死に物狂いの努力と戦いを嘲笑うように。
 長かった旅路を、地球までの旅を嘲るように。


 青い水の星は何処にも無かった、前のブルーに見せたかった星は。
 前のブルーと夢見た星は。
 土産話に持ってゆこうにも、どうしようもない赤い死の星。
 こんな土産は持ってゆけはしない、地球に焦がれていたブルーには。
 白いシャングリラを、自分たちの船を地球へと送り出すために、散ってしまったブルーには。
 とてもブルーに話したくはない、教えたくもない赤かった地球。
 生き物の影さえありはしなくて、青い海さえも無かった地球。


 あの時の衝撃を忘れてはいない、こうして生まれ変わった今も。
 死に絶えた地球に降りた時の痛み、「ブルーには言えない」と渦巻いていた胸の奥の痛みも。
 けれども、今では地球は青くて、此処にあるのが当たり前の星。
 自分の手の中に地球の新聞、青い地球の今を映した新聞。
 読者が撮って送った写真や、記者たちが書いた様々な記事や。
 天気予報までが地球で埋められ、晴れのマークに雨マーク。
 曇りのマークも、雪のマークも、何もかもが賑やかに地球で埋め尽くされて。


(前の俺が見たら…)
 きっと夢だと思うだろう。
 そんなことなどありはしないと、地球は死の星だったのだから、と。
 自分はこの目でそれを見たのだし、新聞などがあるわけもないと。
 第一、誰がそれを読むのだと、ただの日報の間違いだろうと。
 ユグドラシルにいたリボーンの者たち、彼らのための読み物だろうと。


 ところが時代はすっかり変わって、シャングリラは時の彼方に消えて。
 前の自分も地球の地の底で死んでしまって、それから長い時が流れていって。
 地球は青い星になって宇宙に戻った、蘇った青い水の星。
 自分もブルーも其処に生まれた、前と全く同じ姿で。
 再び出会って恋をするために、今度こそ共に生きてゆくために。


 前の自分たちの夢だった地球、共にゆこうと夢に見た地球。
 其処へブルーと還って来た。
 前の自分も一度は着いた地球だけれども、あんな赤い地球は…。
(地球は地球でも、あれじゃ話にならないってな)
 先に逝ってしまった愛しい人への土産話にも出来はしない、と思った地球。
 信じられない思いで見詰めた、赤い死の星。


 それが今では青い星になって、こうして新聞までがある。
 地球のニュースや写真を集めて編まれた、天気予報まで地球一色の新聞が。
 当たり前になってしまった地球。
 日常になってしまった地球。
(…なんとも不思議な話だよなあ…)
 それに奇跡だ、と小さなブルーを思い浮かべる、恋人と二人で此処まで来たと。
 夢だった地球に辿り着いたと、今度こそ二人で生きてゆこうと…。

 

        夢だった地球・了


※ハーレイ先生も驚く、「地球が当たり前にある」という今の現実。それも青い地球が。
 キャプテンだった時代に目にした赤い地球。見たからこそ分かる今の素晴らしさですv





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(夏のお日様みたいなんだよ…)
 ハーレイの笑顔、とブルーは微笑む。
 お風呂上がりにパジャマ姿で。ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 前の生から愛した恋人、今も大好きでたまらないハーレイ。
 前と同じに恋人だけれど、お互い恋人同士だけれど。
 少し小さく生まれすぎたから、まだ十四歳にしかならないから。
 残念なことにキスは出来ない、唇へのキスは貰えない。
 その先のこともしては貰えない、どんなに望んでも、強請ってみても。


 キスさえも「駄目だ」と叱る恋人、今日もコツンとやられたけれど。
 「キスしてもいいよ?」と言ったら額を小突かれたけれど、それでも好きでたまらない。
 前の生から愛し続けたハーレイのことが、また巡り会えたハーレイのことが。
 一度は離れてしまったのに。
 右の手に持っていたハーレイの温もり、それを失くしてしまったのに。


 メギドでキースに撃たれた痛みで、落として失くしてしまった温もり。
 最後まで持っていたいと願った、ハーレイの腕から貰った温もり。
 それを失くして泣きながら死んだ、独りぼっちになってしまったと。
 もうハーレイには二度と会えないと泣きじゃくりながら、前の自分の生は終わった。
 白いシャングリラから遠く離れて、暗い宇宙で。
 たった一人で死んでしまった、メギドを沈めたのと引き換えに。


 なのに、どうしたことだろう。
 気付けば自分は地球の上にいた、青く蘇った水の星の上に。
 新しい命と身体を貰って、ハーレイと共に生まれ変わって生きていた。
 そして出会った、またハーレイに。
 夏の太陽のような笑顔が眩しい、今を生きているハーレイに。
 柔道と水泳、それを得意とするハーレイ。
 前とはすっかり違う人生、教師になってしまった恋人。
 白いシャングリラの舵を握る代わりに、古典を教えているハーレイ。
 今の自分が通う学校で、五月の初めに転任して来て。


 まるで全く違う生き方、宇宙船など動かしもしないハーレイだけれど。
 宇宙船の代わりに車だけれども、キャプテンの制服も着ていないけれど。
 前と変わらない顔立ちと姿、服を替えたらきっと分からない。
 前のハーレイと区別がつかない、恋人の自分の目から見たって。
 ハーレイが口を利かない限りは。
 「俺の顔に何かついているのか?」と言わない限りは分からない。
 前のハーレイだったら敬語だった言葉、それが崩れてしまうまでは。


(でも、元々は…)
 敬語ではなかったハーレイの言葉。
 前のハーレイが自分と話していた時の言葉。
 それが互いの立場のせいで変わってしまった、ソルジャーを敬うための敬語に。
 どんな時でもハーレイは敬語、恋人同士の時でさえ敬語。
 それを思えば、今はすっかり元の通りと言えなくもない。
 前のハーレイと出会った頃と。
 互いの立場と距離が開いてしまう前の頃と。


 それに何より、ハーレイの笑顔。
 夏の太陽を思わせるハーレイの笑顔、これは昔から変わらない。
 前の生で出会った時から変わらず、言葉と違って変わらないままで最後まで。
 いつもは穏やかな笑みだったけれど、ふとした時に見せたとびきりの笑顔。
 それだけは変わりはしなかった。
 ハーレイの言葉が敬語になっても、恋人同士になった後にも。


 だから懐かしい、ハーレイの笑顔。
 前と全く同じに眩しい、夏のお日様そのものの笑顔。
 「キスは駄目だと言ってるだろうが」とコツンと額をつついた後にも、その笑顔。
 軽く睨まれて、プウッと膨れた自分に向かって。
 「文句があるか?」と、「駄目なものは駄目だと言っているよな?」と。
 大抵はそれで陥落してしまう、膨れっ面。
 フニャリと崩れて、もう降参で。
 それくらいに好きなハーレイの笑顔、膨れっ面も消し飛ぶ笑顔。


 前の自分も好きだった。
 ハーレイが見せた、あの笑顔。
 青い地球の夏は知らなかったけれど、アルテメシアの夏の太陽に似ていた笑顔。
 とても眩しくて、それに明るくて。
 どんなに気分が沈んでいたって、「どうしました?」と微笑まれるだけで軽くなった心。
 「私がいますよ」と、「大丈夫ですよ」と笑顔を向けられたら、怖いものなど無くなった。
 ハーレイがいてくれるのだったと、自分にはハーレイがいるのだから、と。
 恋人同士になる前から。
 最高の友達同士だった頃から。


 そのハーレイは、生まれ変わって夏生まれ。
 本物の夏に地球の上に生まれた、八月の二十八日に。
 まだまだ暑い夏の盛りに、ハーレイ曰く「夏休みが残り三日しか無い」という八月の末に。
 夏に生まれたと知っているからか、余計に太陽が似合うハーレイ。
 姿はもちろん、夏の太陽のようだと思った笑顔も夏のお日様そのもので。
 眩しくて明るくて、膨れっ面さえも消し飛んでしまう、あの笑みを向けられてしまったら。
 太陽の笑顔を向けられたら。


(…ホントのホントに、夏のお日様…)
 思えば思うほどに夏の太陽、前の生から変わらない笑顔。
 ハーレイが見せる、とびきりの笑顔。
 今はともかく、前の生では辛いことも沢山あっただろうに。
 アルタミラで舐めた辛酸の数は、思い出したくもなかっただろうに。
 けれど、明るく笑ったハーレイ。
 いつも、いつだって「大丈夫ですよ」と。
 前の自分にも、仲間たちにも向けられた笑顔。
 歪んだ悲しい顔の代わりに、まるで本物の太陽のように。
 どんな時でも行く道を明るく照らし出すように、船を導く灯台のように。


 きっとそう言えば、ハーレイは「違う」と首を左右に振るだろうけれど。
 白いシャングリラを導く灯台、それはソルジャー・ブルーだったと言うだろうけれど。
(でも、ハーレイがぼくの灯台…)
 ハーレイがいたから立っていられた、どんな時でもソルジャーとして。
 倒れることなく立っていられた、ハーレイが支えていてくれたから。
 前の自分を導く灯台、行く手を照らしてくれた太陽。
 そのハーレイの笑顔は太陽そのもの、心から闇を払ってくれた。
 悲しみも辛さも明るい光で消し去ってくれた、太陽の笑顔だったから。
 まるで真夏の太陽のような、そういう笑顔だったから。


 今も変わらないハーレイの笑顔、それは何処までも眩しくて。
 太陽さながらに明るい笑顔で、あの笑顔が好きでたまらない。
 「キスは駄目だ」と額をコツンと小突かれたって、叱られたって。
 頬っぺたをプウッと膨らませたって、ハーレイの笑顔を向けられたらもう降参で。
 とても膨れっ面を続けてはいられないから、自分の負け。
 夏の太陽に溶かされてしまうアイスみたいに、氷みたいにフニャリと崩れてしまって負け。
 気付けばすっかりしてやられている、あの笑顔に。
 膨れっ面は消えてしまって、自分も笑顔。
 ハーレイが好きでたまらないから、そのハーレイのとびきりの笑顔なのだから。


(…今日も負けちゃった…)
 今日こそは負けてたまるものかと膨れたのに。
 精一杯の膨れっ面でプンスカ怒っていたつもりなのに、あっさりと負けてしまった自分。
 いつの間にやら御機嫌になって、ハーレイと笑顔で話をしていた自分。
 あの笑顔には敵わない。
 どう頑張っても勝てはしなくて、膨れっ面だって保てない。
 「キスは駄目だ」とコツンとされたら、叱られたらプウッと膨れるのに。
 意地悪な恋人を睨んでやるのに、あの笑顔のせいでいつだって負ける。
 ハーレイに「すまん」と謝られる前に、ほどけてしまう膨れっ面。
 何も言われていないというのに、笑顔を見たら許してしまう。
 いつも、いつだって、今日みたいに。
 大好きな笑顔を向けられただけで。


 なんとも情けない話だけれども、今日もあっさり負けたけれども。
 ハーレイの笑顔にやられたけれども、何故だか悔しい気持ちはしない。
 あの笑顔がとても好きだから。
 夏の太陽のような笑顔が、前の生から好きだったから。
(…前のぼくの太陽だったんだものね…)
 ソルジャーだった前の自分の灯台、太陽だったハーレイの笑顔。
 それを頼りに前の自分は生きていたから、あの笑顔が太陽だったのだから。


(…勝てっこないよね?)
 前の自分も好きだった笑顔、前の自分の行く手を照らした太陽の笑顔。
 それを向けられて勝てるわけがない、悔しい気持ちにもなるわけがない。
 太陽が無ければ人は困るし、とても生きてはゆけないのだから。
 宇宙船の中だけで生きるならともかく、星の上で生きるなら要るのが太陽。
 まして地球なら、母なる青い水の星なら、太陽は命の源だから。
 負けても仕方ないのだと思う、ハーレイの笑顔に敗北しても。


 それに負けても悔しくはない。
 何度負けても、負け続きだとしても、ハーレイの笑顔が見られればいい。
 もうそれだけで幸せだから。
 前の自分がそうだったように、ハーレイの笑顔が大好きだから…。

 

        ハーレイの笑顔・了


※ハーレイ先生の笑顔に弱いブルー君。今日もあっさり負けたようです、膨れっ面が。
 ソルジャー・ブルーだった頃から好きだった笑顔、これは絶対勝てませんよねv





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