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暑いけれども

(暑くなりそうなんだけど…)
 そんな感じのお日様だけど、とブルーが眺める窓の外。
 夏休みの朝、朝食を終えて、二階の自分の部屋の窓から。
 茂った庭の木々や芝生を照らす太陽、真夏の朝の明るい日射し。
 今の時間はさほど暑くはないけれど。
 木陰にいたなら涼しい風だって抜けてゆくのだし、まだ充分に爽やかな朝。
 もう少し経てば、そうも言ってはいられなくなってしまうけど。
 暑くて駄目だと、涼しい場所へと、家に駆け込むだろうけれども。


 生まれつき身体が弱いから。
 丈夫でないから、夏の眩い日射しは苦手。
 暑すぎる太陽も身体には毒で、出来るだけ日陰を選んでしまう。
 夏の太陽は肌だけでなくて、身体ごと焼いてしまうから。
 下手をしたなら暑くなりすぎて、身体を壊してしまうから。
 夏は草木を育てる季節で、背丈も伸びそうな気だってするのに。
 ぐんぐん伸びてゆく草や木のように、自分も大きくなれそうなのに。
 前の自分と同じ背丈になれる日を目指して、ぐんぐんと。
 夏の日射しを身体に浴びれば、健やかに伸びてゆけそうなのに。


 けれども無理だと分かっているから、夏の日射しも暑さも身体に悪いから。
 暑くなりそうな日は何かと苦手で、家に引っ込んでしまうのが自分。
 庭で一番大きな木の下、白いテーブルと椅子でハーレイとお茶を楽しむくらいで。
 それも暑さが酷くない日の午前中だけ、涼しい風が吹く間だけ。
 暑さが増したら「そろそろ中に入らんとな?」とハーレイが言うか、母がやって来るか。
 「暑いから中に入りなさい」と、「お茶は運んであげるから」と。


 そんな具合で、夏の暑さと仲がいいとはとても言えない。
 夏が大好きな子供は多いし、夏休みと言えば子供にとっては天国なのに。
 海で泳げて、プールで泳げて、太陽の下で駆け回れる季節。
 草木もへばってしまう暑い盛りはアイスクリームを買って食べたり、水に飛び込んだり。
 公園の噴水で水浴びしてしまう子供だって多い、涼しいからと。
 服を着たまま噴水を浴びて、濡れた服のままで遊び回って。
 「涼しいんだぜ!」と友達に教えられたけれど、自分には無理な服での水浴び。
 服が自然に乾くよりも前に、きっと気分が悪くなる。
 びっしょりと濡れた服を乾かしてくれる、真夏の暑い太陽のせいで。
 燦々と照り付ける暑い日射しで、それでクラリとしてしまって。


 生命力に溢れている夏、窓越しでも分かる命の輝き。
 木々の緑は力強いし、芝生の緑も他の季節よりもずっと鮮やか。
 日盛りの昼間は暑さのあまりに色褪せたようになってしまっても、夕方になれば元通り。
 暑すぎる太陽が傾いてゆけば、シャンと力を取り戻す。
 庭の木々も芝生も息を吹き返して、涼やかな風が吹いてゆく。
 夕方の風が、夜の涼しさの先触れの風が。


(お日様が沈んでる間は涼しいんだけどな…)
 星が瞬く夜は涼しい、窓を開けたら冷房が要らなくなるほどに。
 夏の夜空に輝く星たち、その煌めきから冷たい夜露が降り注ぐのかと思うくらいに。
 暑い太陽とはまるで違って清かな光の月や星たち、夜風も肌に心地良い。
 痛いほどの日射しが照り付け、身体ごと焼かれる昼と違って。
 眩しすぎる太陽が支配している昼間と違って。


 今日も朝から太陽の光は元気一杯、空には雲の欠片も見えない。
 急に湧き上がる入道雲くらいしか期待出来ない、あの太陽を遮るものは。
 ザッと夕立を降らせる雲でも湧かない限りは、暑くなる一方としか思えない昼間。
 夕方になって陽が陰るまで。
 元気すぎる真夏の暑い太陽が、西の空へと落ちてゆくまで。


 太陽が沈めば涼しい夜が来るけれど。
 身体に優しい夜になるけれど、それまではきっと暑そうな今日。
 そんな暑さを物ともしないで、ハーレイは歩いて来るだろうけれど。
 前の生から愛した恋人、褐色の肌の夏の太陽が似合う恋人。
(…ハーレイは暑いの、平気だもんね…)
 柔道と水泳が得意なハーレイ、水泳をやるなら夏が一番。
 部活で学校へ行って来た日はプールでひと泳ぎして来るという。
 自分は長くは入れないプール、そこで泳いで、それから歩いてこの家まで。


 なんとも元気すぎる恋人、夏の太陽と同じに元気な恋人。
 あんな風に暑さに馴染めたならと、仲良く出来たらと思うけれども、出来ない相談。
 弱すぎる身体に夏は酷な季節、夜くらいしか仲良くなれそうもない季節。
 庭で一番大きな木の下、それが作ってくれる日陰も長く続きはしないから。
 日陰にいたって風が暑くなって、家に入るしかなくなるから。


(あのお日様のせいなんだけど…)
 朝だというのに他の季節よりも高く昇っている太陽。
 其処から照り付ける眩しすぎる日射し、それがどんどん強くなる。
 昼間に向かって、日盛りに向かって、暑さは増してゆく一方で。
 雲が隠してくれない限りは、うだるような日になるのだろう。今日だって、きっと。
 凶悪とまでは言わないけれども、暴力的に暑い太陽のせいで。
 一年で一番元気な季節の太陽のせいで。


 もう少し和らいでくれないだろうかと、せめて陰ってくれないだろうかと見上げた太陽。
 朝だというのに他の季節より高く昇っている太陽。
 あれのせいだと、あのせいで夏は暑いんだからと眩しい光を睨んだ途端。
 目を細めつつもキッと睨んでやった途端に気が付いた。
(…本物の太陽…)
 あれが本物、と前の自分が心の何処かで飛び跳ねた。
 ずっと焦がれていた星なのだと、あの星を夢見て自分は生きたと。


 フィシスの記憶で見ていた地球。
 機械が与えた映像だけれど、それは充分、知っていたけれど。
 本物なのだと信じた映像、地球へ行くにはこういう風に旅をしてゆくのだと。
 銀河の海に浮かぶ母なる地球。青い水の星。
 其処への標がソル太陽系を照らす太陽、人間を生み出した地球の恒星。
 遠い昔には太陽は一つだけしか無かった、地球を照らしていた太陽しか。
 それ以外の星は全部恒星、太陽と呼ぶ者はいなかった。
 人が宇宙へと船出するまで、幾つもの星に根を下ろすまで。


 漆黒の宇宙に散らばる星たち、その中のたった一つの太陽。
 青い地球を連れて宇宙に浮かんだ、ソル太陽系の真ん中の星。
 それを幾度も夢に見ていた、其処へ向かって旅立ちたいと。
 青い地球まで辿り着こうと、本物の太陽を目指して飛ぼうと。


 けれど、叶わなかった夢。
 前の自分が命尽きた星に、赤いナスカに太陽は二つ。
 青い地球では有り得ない光景、本物の太陽は一つだけしか無いのだから。
 長く潜んだ雲海の星の太陽は一つだったけれども、地球とは違ったアルテメシア。
 輝いていた太陽はクリサリス星系の星で、本物の太陽などではなかった。
 ジョミーを救って力尽きた自分が深い眠りに就いていた間、仲間たちは地球を探したけれど。
 白いシャングリラで宇宙を旅したけれども、ソル太陽系は見付からなくて。
 そして自分は命を落とした、赤いナスカで。
 二つの太陽が存在していた、地球が見えもしないジルベスター星系の片隅で。


 それを思えば、なんという幸せなのだろう。
 本物の太陽が輝く地球に自分は生まれた。
 ハーレイと二人、生まれ変わって青い地球まで辿り着けた。
 前の自分が焦がれ続けて、行けずに終わってしまった地球へ。
 あの星を標に旅をしようと夢を見続けた、本物の太陽が輝く地球へ。
(…太陽がこんなに暑かったなんて…)
 夢にも思いはしなかった。
 肌を焼く真夏の太陽の日射しも、草木も項垂れてしまうほどの夏も。
 これほどに力強い星とは、太陽がこれほど眩いとは。


(…本物の太陽は元気一杯…)
 フィシスの映像とはまるで違う、と窓の外を見た、夏の太陽を。
 これからどんどん高く昇って、酷い暑さを運んで来そうな元気すぎる夏の太陽を。
 今の自分には夏の暑さは辛いけれども、身体にも良くはないのだけれど。
 これが本物の太陽だから。
 前の自分が夢に見続けた、青い地球を照らす太陽なのだから。
(暑いけれども、これが本物…)
 元気一杯の夏の太陽でも、元気すぎる暑さが辛くても。
 急に素敵な気持ちがして来た、なんと元気な星だろうかと。強い太陽なのだろうかと。


 この太陽が青い地球を育てて、人を生み出して、今も照らして。
 自分は其処に生まれて来たから、地球に来られたから、夏の暑さを知っている。
 今日もこれから暑くなりそうだと空を見上げる、少し陰ってくれればと。
(…なんて贅沢…)
 前の自分が憧れ続けた地球の太陽、それに陰って欲しいだなんて。
 雲でも湧いてくれればいいとか、夜の方が涼しくて好きだとか。
 今日くらいは少し我慢をしようか、暑いけれども、この太陽は本物だから。
 前の自分が夢に見続けた、本物の地球の太陽だから…。

 

        暑いけれども・了


※夏の暑さが苦手なブルー君。でも、その暑さが何処から来るのか気付いたら…。
 暑いけれども我慢してみようかと思ったようです、無理はしないでねv





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