(夏のお日様みたいなんだよ…)
ハーレイの笑顔、とブルーは微笑む。
お風呂上がりにパジャマ姿で。ベッドにチョコンと腰を下ろして。
前の生から愛した恋人、今も大好きでたまらないハーレイ。
前と同じに恋人だけれど、お互い恋人同士だけれど。
少し小さく生まれすぎたから、まだ十四歳にしかならないから。
残念なことにキスは出来ない、唇へのキスは貰えない。
その先のこともしては貰えない、どんなに望んでも、強請ってみても。
キスさえも「駄目だ」と叱る恋人、今日もコツンとやられたけれど。
「キスしてもいいよ?」と言ったら額を小突かれたけれど、それでも好きでたまらない。
前の生から愛し続けたハーレイのことが、また巡り会えたハーレイのことが。
一度は離れてしまったのに。
右の手に持っていたハーレイの温もり、それを失くしてしまったのに。
メギドでキースに撃たれた痛みで、落として失くしてしまった温もり。
最後まで持っていたいと願った、ハーレイの腕から貰った温もり。
それを失くして泣きながら死んだ、独りぼっちになってしまったと。
もうハーレイには二度と会えないと泣きじゃくりながら、前の自分の生は終わった。
白いシャングリラから遠く離れて、暗い宇宙で。
たった一人で死んでしまった、メギドを沈めたのと引き換えに。
なのに、どうしたことだろう。
気付けば自分は地球の上にいた、青く蘇った水の星の上に。
新しい命と身体を貰って、ハーレイと共に生まれ変わって生きていた。
そして出会った、またハーレイに。
夏の太陽のような笑顔が眩しい、今を生きているハーレイに。
柔道と水泳、それを得意とするハーレイ。
前とはすっかり違う人生、教師になってしまった恋人。
白いシャングリラの舵を握る代わりに、古典を教えているハーレイ。
今の自分が通う学校で、五月の初めに転任して来て。
まるで全く違う生き方、宇宙船など動かしもしないハーレイだけれど。
宇宙船の代わりに車だけれども、キャプテンの制服も着ていないけれど。
前と変わらない顔立ちと姿、服を替えたらきっと分からない。
前のハーレイと区別がつかない、恋人の自分の目から見たって。
ハーレイが口を利かない限りは。
「俺の顔に何かついているのか?」と言わない限りは分からない。
前のハーレイだったら敬語だった言葉、それが崩れてしまうまでは。
(でも、元々は…)
敬語ではなかったハーレイの言葉。
前のハーレイが自分と話していた時の言葉。
それが互いの立場のせいで変わってしまった、ソルジャーを敬うための敬語に。
どんな時でもハーレイは敬語、恋人同士の時でさえ敬語。
それを思えば、今はすっかり元の通りと言えなくもない。
前のハーレイと出会った頃と。
互いの立場と距離が開いてしまう前の頃と。
それに何より、ハーレイの笑顔。
夏の太陽を思わせるハーレイの笑顔、これは昔から変わらない。
前の生で出会った時から変わらず、言葉と違って変わらないままで最後まで。
いつもは穏やかな笑みだったけれど、ふとした時に見せたとびきりの笑顔。
それだけは変わりはしなかった。
ハーレイの言葉が敬語になっても、恋人同士になった後にも。
だから懐かしい、ハーレイの笑顔。
前と全く同じに眩しい、夏のお日様そのものの笑顔。
「キスは駄目だと言ってるだろうが」とコツンと額をつついた後にも、その笑顔。
軽く睨まれて、プウッと膨れた自分に向かって。
「文句があるか?」と、「駄目なものは駄目だと言っているよな?」と。
大抵はそれで陥落してしまう、膨れっ面。
フニャリと崩れて、もう降参で。
それくらいに好きなハーレイの笑顔、膨れっ面も消し飛ぶ笑顔。
前の自分も好きだった。
ハーレイが見せた、あの笑顔。
青い地球の夏は知らなかったけれど、アルテメシアの夏の太陽に似ていた笑顔。
とても眩しくて、それに明るくて。
どんなに気分が沈んでいたって、「どうしました?」と微笑まれるだけで軽くなった心。
「私がいますよ」と、「大丈夫ですよ」と笑顔を向けられたら、怖いものなど無くなった。
ハーレイがいてくれるのだったと、自分にはハーレイがいるのだから、と。
恋人同士になる前から。
最高の友達同士だった頃から。
そのハーレイは、生まれ変わって夏生まれ。
本物の夏に地球の上に生まれた、八月の二十八日に。
まだまだ暑い夏の盛りに、ハーレイ曰く「夏休みが残り三日しか無い」という八月の末に。
夏に生まれたと知っているからか、余計に太陽が似合うハーレイ。
姿はもちろん、夏の太陽のようだと思った笑顔も夏のお日様そのもので。
眩しくて明るくて、膨れっ面さえも消し飛んでしまう、あの笑みを向けられてしまったら。
太陽の笑顔を向けられたら。
(…ホントのホントに、夏のお日様…)
思えば思うほどに夏の太陽、前の生から変わらない笑顔。
ハーレイが見せる、とびきりの笑顔。
今はともかく、前の生では辛いことも沢山あっただろうに。
アルタミラで舐めた辛酸の数は、思い出したくもなかっただろうに。
けれど、明るく笑ったハーレイ。
いつも、いつだって「大丈夫ですよ」と。
前の自分にも、仲間たちにも向けられた笑顔。
歪んだ悲しい顔の代わりに、まるで本物の太陽のように。
どんな時でも行く道を明るく照らし出すように、船を導く灯台のように。
きっとそう言えば、ハーレイは「違う」と首を左右に振るだろうけれど。
白いシャングリラを導く灯台、それはソルジャー・ブルーだったと言うだろうけれど。
(でも、ハーレイがぼくの灯台…)
ハーレイがいたから立っていられた、どんな時でもソルジャーとして。
倒れることなく立っていられた、ハーレイが支えていてくれたから。
前の自分を導く灯台、行く手を照らしてくれた太陽。
そのハーレイの笑顔は太陽そのもの、心から闇を払ってくれた。
悲しみも辛さも明るい光で消し去ってくれた、太陽の笑顔だったから。
まるで真夏の太陽のような、そういう笑顔だったから。
今も変わらないハーレイの笑顔、それは何処までも眩しくて。
太陽さながらに明るい笑顔で、あの笑顔が好きでたまらない。
「キスは駄目だ」と額をコツンと小突かれたって、叱られたって。
頬っぺたをプウッと膨らませたって、ハーレイの笑顔を向けられたらもう降参で。
とても膨れっ面を続けてはいられないから、自分の負け。
夏の太陽に溶かされてしまうアイスみたいに、氷みたいにフニャリと崩れてしまって負け。
気付けばすっかりしてやられている、あの笑顔に。
膨れっ面は消えてしまって、自分も笑顔。
ハーレイが好きでたまらないから、そのハーレイのとびきりの笑顔なのだから。
(…今日も負けちゃった…)
今日こそは負けてたまるものかと膨れたのに。
精一杯の膨れっ面でプンスカ怒っていたつもりなのに、あっさりと負けてしまった自分。
いつの間にやら御機嫌になって、ハーレイと笑顔で話をしていた自分。
あの笑顔には敵わない。
どう頑張っても勝てはしなくて、膨れっ面だって保てない。
「キスは駄目だ」とコツンとされたら、叱られたらプウッと膨れるのに。
意地悪な恋人を睨んでやるのに、あの笑顔のせいでいつだって負ける。
ハーレイに「すまん」と謝られる前に、ほどけてしまう膨れっ面。
何も言われていないというのに、笑顔を見たら許してしまう。
いつも、いつだって、今日みたいに。
大好きな笑顔を向けられただけで。
なんとも情けない話だけれども、今日もあっさり負けたけれども。
ハーレイの笑顔にやられたけれども、何故だか悔しい気持ちはしない。
あの笑顔がとても好きだから。
夏の太陽のような笑顔が、前の生から好きだったから。
(…前のぼくの太陽だったんだものね…)
ソルジャーだった前の自分の灯台、太陽だったハーレイの笑顔。
それを頼りに前の自分は生きていたから、あの笑顔が太陽だったのだから。
(…勝てっこないよね?)
前の自分も好きだった笑顔、前の自分の行く手を照らした太陽の笑顔。
それを向けられて勝てるわけがない、悔しい気持ちにもなるわけがない。
太陽が無ければ人は困るし、とても生きてはゆけないのだから。
宇宙船の中だけで生きるならともかく、星の上で生きるなら要るのが太陽。
まして地球なら、母なる青い水の星なら、太陽は命の源だから。
負けても仕方ないのだと思う、ハーレイの笑顔に敗北しても。
それに負けても悔しくはない。
何度負けても、負け続きだとしても、ハーレイの笑顔が見られればいい。
もうそれだけで幸せだから。
前の自分がそうだったように、ハーレイの笑顔が大好きだから…。
ハーレイの笑顔・了
※ハーレイ先生の笑顔に弱いブルー君。今日もあっさり負けたようです、膨れっ面が。
ソルジャー・ブルーだった頃から好きだった笑顔、これは絶対勝てませんよねv