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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(恋人が出来ちゃった…)
 嘘みたい、とブルーはクスッと笑った。
 信じられないことだけれども、恋人が出来た。
 十四歳にしかならない自分に。
 ずうっと年上の恋人が出来た、それも誰にも秘密の恋人。
 両親には決して言えはしないし、友達にだって。


(だって、学校の先生だものね?)
 おまけに守り役、聖痕現象を起こさないためにと付けられた守り役。
 でも、本当は…。
(…ぼくの恋人…)
 前の生から恋して、愛して。
 運命に引き裂かれるように別れて、再び出会った。この地球の上で。


(また会えたよ…)
 大好きだよ、と恋人の名前を呟く。
 ハーレイ、と。
 前の生から何度呼んだのだろうか、この名前を何度呼んだだろうか。
 また呼ぶことが出来る。この唇で紡いで呼べる、ハーレイの名を。
 学校では「ハーレイ先生」だけれど。家でしか「ハーレイ」とは呼べないけれど。


(だけど、恋人…)
 思いもかけず出来た恋人、出会えた恋人。
 前の生ではその手を離してしまったけれども、今度こそ二度と離れはしない。
 再び会うことが出来たのだから。
 もう運命に引き裂かれることは無いのだから。


(…大好きだよ、ハーレイ…)
 誰にも言えない秘密の恋人、今はまだ内緒にするしかない恋。
 けれども、いつかは誰にでも言える。
 自分の恋人はハーレイなのだと、ハーレイと恋をしてゆくのだと。
 いつか大きくなったなら。先生と生徒でなくなったなら…。

 

(恋人が出来ちまったな…)
 嘘のようだが、とハーレイは苦笑いした。
 信じられないことだけれども、恋人が出来た。
 三十七歳の独身男の自分に。
 ずっと年下の恋人が出来た、それも誰にも秘密の恋人。
 同僚には決して言えはしないし、友人にも、けして。


(なにしろ、俺の教え子だしな?)
 おまけに自分の役どころは守り役、聖痕を背負ったその子の守り役。
 けれど、本当は…。
(…俺の恋人なんだ、あいつは…)
 前の生から愛して、守ると誓い続けて。
 運命に引き裂かれるように別れて、再び出会った。青い地球の上で。


(また会えるとはな…)
 愛している、と小さな恋人の名前を呟く。
 ブルーと、俺が失くしたブルーにまた出会えたと。
 前の生から何度この名を呼んだだろうか。何度呼んでは抱き締めたろうか。
 また呼ぶことが出来る、恋人の名を。この声で呼べる、ブルーの名前を。
 学校では「ブルー君」だけれども。ブルーの家でしか呼び捨てには出来ないけれども。


(それでも、俺の恋人だ…)
 思いがけずも出来た恋人、出会えた恋人。
 前の生ではメギドに飛ばれて失くしたけれども、今度こそ手を離しはしない。
 再び会うことが出来たのだから。
 もう運命に引き裂かれることは無いのだから。


(…愛している、ブルー…)
 誰にも言えない秘密の恋人、今はまだ内緒にするしかない恋。
 それでも、いつかは堂々と言える。
 自分の恋人はブルーなのだと、ブルーと共に生きてゆくのだと。
 いつかブルーが大きく育ったなら。教師と生徒ではなくなったなら…。

 

(…大好きだよ、ハーレイ…)
(…愛している、ブルー…)
 今はまだ、同じ家では暮らせないけれど。
 恋人同士だとも明かせないけれど。
 二人、互いに呟き続ける。
 奇跡のように再び出会えた恋人の名前を、前の生からの恋人の名を…。

 

     恋人が出来た・了


※バレンタインデーなので、それっぽく。
 やっぱり恋人同士だものねv



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「すみません、キッチンをお借りします」
 ブルーの母にそう断って、ハーレイはワイシャツの袖をまくった。


 学校を休んでしまったブルー。
 今日は教室にいなかったブルー。
 仕事の帰りに寄ってみたらば、案の定。
 朝から殆ど何も食べずに部屋で眠っていると言うから。
 そんなことではないかと思って来たのだから、とキッチンへ。


 この家のキッチンにもすっかり慣れた。
 小さなブルーは、夕食などは食べられそうにないけれど。
 ブルーの両親は食べるのだから、母が夕食の支度をしている。
 邪魔をしないように気を付けながら、いつものように野菜を選んだ。
 そして細かく刻んでゆく。どれも端から、細かく、細かく。


 キャベツにニンジン、タマネギにセロリ…。
 決まったものは無いけれど。
 これが無くては始まらない、というものも無いし、要は何でもいいのだけれど。
 とにかく沢山、スープに似合いの野菜を沢山、それが鉄則。
 後は細かく、食べやすいように。早くとろけるようにと、細かく細かく刻むこと。


(…こんなものかな)
 刻み終えたものから、小さな鍋へと入れてゆく。
 次から次へとリズミカルに。
 トントンと刻み、刻み終えたらパパッと鍋へ。
 全部の野菜を刻み終わって鍋に入れたら、その次は水。
 スープを煮るための水をたっぷり、野菜の旨味が溶け出すように。


 鍋を火にかけ、コトコトと煮る。
 吹きこぼれないよう、野菜の風味を損なわないよう、弱火でゆっくり。
 少しずつ透明になってゆく野菜。とろけてゆく何種類もの野菜たち。


(…あいつはこの味が好きなんだ)
 野菜を煮ただけの素朴なスープが、基本の調味料だけで煮込んだスープが。
 前のブルーの気に入りの味。
 小さなブルーも大好きなスープ。


(さて、と…)
 パラリと塩を振り、味見をしてみた。
 もう少しか、と塩を一振り、そうして火を止め、器に注ぐ。
 野菜を煮込んだだけのスープを、何の工夫も凝らされていない野菜スープを。


 最初にキッチンを借りた時には、目を丸くしていたブルーの母。
 あれこれとアドバイスをしようとした母。
 彼女も今では何も言わない。
 これがブルーの、前世の記憶を持った息子のお気に入りだと知っているから。


「では、行って来ます」
 ブルー君の部屋へ、とスープの器をトレイに載せた。
「ハーレイ先生、お世話になります」
 すみません、と頭を下げる母に「いいえ」と笑顔で返して、キッチンを出た。


 さあ、階段の方へ急ごう、小さなブルーが待っているから。
 自分が来たことに気付いているなら、きっとスープを待っているから。
 二階へ、ブルーの部屋へと急ぐ。
 野菜スープのトレイを手にして、小さなブルーが待っている部屋へ…。



     ハーレイのスープ・了


※ハーレイ先生の野菜スープの舞台裏(?)
 
 とにかく刻んで煮るのですv




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