(もう一度あいつに会えたんだ…)
夢のようだ、とハーレイは心で繰り返す。
もう一度会えたと、また恋人に巡り会えたと。
蘇って来た前世の記憶。すっかり失くしていた記憶。
それが戻って、目の前に恋人。前の生で愛したソルジャー・ブルー。
もう、その名前ではなかったけれど。
ソルジャーではなくて、ただのブルーで、おまけに生徒。
転任して来た学校で初めて足を踏み入れた教室、そのクラスの生徒。
出会った瞬間、ブルーの右目から溢れた鮮血。
何事なのかと思う間も無く、小さなブルーは血まみれになった。
まるで大怪我をしたかのように。
両方の肩に左の脇腹、それに右目からの大量出血、心臓が止まるほど驚いた。
事故だと思った、生徒が事故に遭ったのだと。
教師としての使命感。武道を嗜む者の心得、そういったもので駆け寄った。
早く手当てをと、一刻を争う事態なのだと、大慌てで。
けれども抱え起こした瞬間、自分の中から湧き出した前世の膨大な記憶。
腕の中に抱いた生徒の方からも、同じように流れて来た記憶。
互いに交差し、絡み合う記憶が教えてくれた。
失くしたブルーが帰って来たと、腕の中にブルーが帰って来たと。
それから後は、慌ただしく過ぎて流れた時間。
とにかくブルーを病院へ、と保健委員の生徒を救急車を呼びに走らせた。
待つ間に周りの生徒に尋ねた、腕の中のブルーの今の名前を。
この生徒の名は何と言うのかと、この子の家にも連絡せねば、と。
そして教えられた名前はブルー。前の生と全く同じにブルー。
その瞬間に身体が震えた、本当にブルーを取り戻した、と。
(運命ってヤツだ…)
まさに運命の出会い、もう一度ブルーに巡り会えた。
遠い昔に失くしたブルーに、メギドに飛ばれて失くしたブルーに。
(チビなんだがなあ…)
それでもブルーだ、と心の中で繰り返す。
俺のブルーが帰って来たと、本当に帰って来てくれたのだと。
病院へと走る救急車の中、祈る思いで叫んだけれど。
助かってくれと、もう二度とお前を失くしたくないと、その手を握って叫んだけれど。
教師の立場で言えた言葉は、それとは違った。冷静さはまだ残っていた。
だから叫んだ、「大丈夫だからな」と。「すぐ病院に着くからな」と。
(大怪我なんだと思っていたが…)
付き添いの自分は入れなかった、病院の白い扉の向こう。
長い手術が始まるものだと覚悟していた。
ブルーの命が助かるようにと、ただそれだけを祈っていた。
ところが、扉は暫く経ったらスイと開いて、出て来た看護師。
駄目だったのか、と一瞬思った。
ブルーは再び逝ってしまって、もう看護師は要らないのかと。
医師も看護師もブルーには要らず、永遠の眠りに就いたのかと。
(あいつ、驚かせてくれやがって…)
傍目にも分かるほど青ざめていたろう、あの時の自分。
そんな自分に看護師が告げた、「大丈夫ですよ」と。
ブルーは何処にも怪我はしていないと、念のために点滴はしているけれど、と。
あの瞬間のホッとした気持ちを、どう例えたらいいのだろう。
出会えたブルーを失くさずに済んだと、心の底から安堵した気持ち。
そして湧き上がった愛おしさ。
また巡り会えたと、今度はブルーを失くさなかったと。
帰って来たブルー、十四歳の小さなブルー。
今度こそ、二度と失くしはすまい。
ブルーは帰って来たのだから。また帰って来てくれたのだから…。
再会・了
※ブルー君の聖痕、ハーレイ先生は腰が抜けるほど驚いたかと。
どう見たって大怪我ですもんねえ…。きっとこういう心境でしょう。