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腕で作る輪

(こんなものだったな…)
 このくらいだった、とハーレイは両腕で輪を作ってみた。
 まるで何かを抱き込むかのように、胸よりも少し下の辺りで。
 確かめるようにそれを見てみる、自分の両腕が作っている輪を。
 こんなものだと、このくらいの感じだったのだ、と。


(こんなに小さくなりやがって…)
 そう思うけれど、愛おしい。
 自分の両腕が作ってみせる輪、その輪の中に収まる大きさ。
 小さな小さな、それは小さなブルーの身体を抱き締めた。
 もう一度この腕に抱くことが出来た、遠い昔に失くしてしまった恋人を。
 メギドへと飛んで、戻らなかったブルーの身体を。


 奇跡のように戻って来てくれた、小さなブルー。
 十四歳の子供の身体で、生まれ変わった少年の身体で。
 再会の抱擁はほんの僅かな間だったけれど、この腕で確かに抱き締められた。
 その時に両方の腕が作っただろう輪、それを何度も何度も作る。
 ほどいては作り、作ってはほどく。
 このくらいだったと、このくらいの身体を、温もりを抱いた、と。


 小さなブルーの命の温もり、それを感じた両の腕。
 抱き込んだ胸は自分の熱さで、高鳴る鼓動でもう一杯になっていたから。
 どこまでがブルーの温もりだったか、どこまでが自分の熱さだったか、分からない。
 今となっては定かではなくて、なんとも頼りなくおぼろげなもの。
 確かにブルーを抱いていたのに、抱き締めたというのに、幻のようで。
 代わりに腕が憶えていた。
 このくらいだったと、この輪の中にブルーが居たと。


(本当に小さかったんだ…)
 遠い記憶の中、幾度も抱き締めた恋人の身体は華奢だったけれど。
 細く儚く見えたけれども、それでも大人と言えるものではあったから。
 今の小さなブルーよりかは、ずっと大きく育っていたから。
 抱き締めた時に腕が作る輪は、この輪よりも、もっと…。


(…このくらいはあった筈なんだ…)
 こうだ、と愛した人の身体に回していた腕の輪を作ってみた。
 小さなブルーの身体に合わせて作っていた輪を、そっと広げて。
(…そうだ、このくらい…)
 数え切れないほどに何度も抱き締めた身体、細かったブルー。
 けれども、こうして輪を作ったら。
 その身体に見合う輪を作ってみたなら、なんという違いなのだろう。
 なんと小さな身体なのだろう、今の小さな小さなブルーは。


(…このくらいしかないんだ、あいつ…)
 今はこうだ、と輪を縮めた。
 小さなブルーの身体に合わせて。腕が記憶していた、その大きさに。
 こんなに小さな輪だというのに、それがどれほど愛おしいか。
 どれほどに愛しく、何度もこの輪を作りたくなるか。


(…俺のブルーだ…)
 此処に帰って来てくれたんだ、と小さなブルーが収まっていた輪を作り出す。
 この腕の中にブルーが居たと、小さくなって帰って来てくれたと。
 何度も何度も腕で輪を作る、ブルーを抱き締めた両腕で輪を。
 そこにブルーはいないけれども、こうするだけで胸が温かくなる。
 ブルーは此処に帰って来た。
 小さな小さな、こんなに小さな輪にすっぽりと収まってしまう身体で。


(小さくても、あいつは俺のブルーだ…)
 もう離さない、と腕で輪を作る。
 今度こそ、けしてブルーを離しはしない。
 腕の中から飛んでゆかせない、こうして輪を作り、閉じ込めよう。
 ブルーは戻って来たのだから。
 この腕の輪の中に、確かな命の温もりと共に…。

 

       腕で作る輪・了


※再会した後のハーレイ先生、きっとこういう感じでしょう。
 ブルー君と別れて家に帰って、しみじみと愛おしさを噛み締め中ですv






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