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(今日はハーレイに会えただけ…)
 たったそれだけ、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日、学校で会ったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 けれども、今は教師と生徒。
 自分はハーレイが教える学校の生徒で、ハーレイは其処の古典の教師。
 そういう関係になっている二人、何かと制約の多い学校。
 「ハーレイ先生」と呼び掛けなければいけないとか。
 話す時には、必ず敬語を使うだとか。
(でも、そんなのは…)
 大したことじゃないんだよね、と考えてしまう、今日のような日。
 ハーレイとは「会えた」だけだったから。
 廊下ですれ違う時に挨拶、それで終わってしまったから。
 お互い、次の授業があって。
 立ち止まって少し話す時間は、まるで持ち合わせていなくって。
(…あれっきり…)
 話せないままになったハーレイ。
 会ったのは、その一度だけ。
 仕事の帰りに訪ねて来てもくれなかったし、今日はハーレイと話せてはいない。
 ほんの僅かな立ち話さえも。
 他の生徒も通ってゆく場所、廊下や、それに中庭などでの立ち話。
 それも出来ずに終わった今日。
 ハーレイと色々、話したいのに。
 中身は大したことでなくても、教師と生徒の会話でも。
 「元気そうだな」と声を掛けて貰って、それに答えを返すだけでも。
 ハーレイの声が聞けたら充分だから。
 こちらを見詰めて話してくれたら、もうそれだけで嬉しいから。


 そう思うけれど、叶わなかった今日。
 挨拶だけしか交わしていなくて、ハーレイの言葉は貰えないまま。
 「次の授業は何なんだ?」とも。
 「俺はこれから、向こうの校舎で授業でな」とも。
 そんな中身でかまわないのに。
 ハーレイの様子が分かれば充分、それに自分の様子も伝えられたら。
 「ぼくは次の時間、歴史なんだよ」とか。
 「体育だけど、今日は見学」だとか。
 そう言ったならば、ハーレイは訊いてくれるから。
 「歴史か…。今はどの辺なんだ?」とか、「見学って…。お前、大丈夫か?」とか。
 体育の授業を見学するなら、何処か具合が悪いのか、とも。
(…今日の体育、いつもより疲れそうだから…)
 見学するよう、前の授業の時に言われた。
 体育担当の先生から。
 「ブルー君は、次は見学だぞ」と。
 それだけのことで、何処も具合は悪くない。
 ハーレイにそう話をしたなら、「それは良かった」と笑顔だろうに。
 「心配したぞ」と、「そういうことなら、ちゃんと見学するんだぞ?」と。
 ほんの短い立ち話だって、ハーレイと気持ちが通うのに。
 好きでたまらないあの声を聞いて、大好きな笑顔も見られるのに。
(…でも、今日は…)
 その「ちょっぴり」も無かったんだけど、と寂しい気持ち。
 学校では挨拶したというだけ、立ち話は無し。
 それに家にも、訪ねて来てはくれなかったから。
 「ハーレイ、今日は来てくれるかな?」と、何度も窓の方を見たのに。
 窓辺に立って、庭の向こうの門扉も何度か眺めたのに。
 耳を澄ませてチャイムも待った。
 ハーレイが鳴らしてくれるだろうかと、今に聞こえてくるかも、と。


 けれど、鳴らずに終わったチャイム。
 今日は来てくれなかったハーレイ。
 話せないままで夕食が済んで、お風呂に入って、もうこんな時間。
 後はベッドに入って寝るだけ、湯冷めしない内に。
 なんとも寂しい気分だけれども、今日という日は、そういう日。
 ハーレイと同じ地球にいたって、同じ町に家があったって。
(…学校もおんなじ場所なのに…)
 どうしてこうなっちゃうんだろう、と悲しいけれど。
 話せないままで終わるだなんて、と寂しいけれども、会えただけでもマシな方。
 会えずに終わる日もあるから。
 ハーレイは学校にいる筈なのに、自分も学校にいるというのに。
(そんな日、あるよね…)
 どうしたわけだか、すれ違いさえもしないままの日。
 ハーレイの姿を目で探したって、何処にも見付けられない日。
 それに比べたら、今日は遥かにいいのだろう。
 ハーレイに会えて、ちゃんと挨拶出来たから。
 挨拶だけで離れていっても、会うことだけは出来たのだから。
(…だけど、残念…)
 何の話も交わせないまま、今日という日が終わること。
 せっかく二人で地球に生まれて、同じ町で暮らしているというのに。
 ハーレイの職場は、自分が通う学校なのに。
(…ホントに、何か話せたら…)
 それで充分なんだけどな、と思い浮かべる恋人の顔。
 教師の方の顔でいいから、何か話が出来ていたなら、きっと幸せ。
 ハーレイが向けてくれる言葉を聞けるから。
 話す間は、自分の方を見てくれるから。
 恋人を見詰める目ではなくても、ハーレイの瞳。
 それに笑顔もハーレイのもので、声は大好きなあの声だから。


 少しだけでも話せるのならば、話の中身は何でもいい。
 授業のことでも、今日の天気のことだって。
 贅沢を言っていいというなら、出来れば家で話したかった。
 この部屋で二人、色々なことを。
 他愛ないことでかまわないから、まるで中身は無くていいから。
 前の自分たちのことなどは抜きで、シャングリラだって欠片も出ずに。
 遠く遥かな時の彼方を、顧みることさえしないままで。
(それでいいよね?)
 今は地球の上にいるのだから。
 新しい命と身体を貰って、別の人生なのだから。
 前の生のことを忘れていたって、それも間違ってはいないと思う。
 ハーレイのことが好きだったら。
 前の自分の恋の続きでも、恋しているのは今の自分で、今のハーレイは今のハーレイ。
 白いシャングリラの舵を握る代わりに、学校で古典を教える教師。
 今の自分は教え子なのだし、今を幸せに生きればいい。
 ハーレイと話す時にしたって、そのように。
 遠い昔を懐かしむ代わりに、今日、学校であったこと。
 それを話したり、ハーレイからも「今日の柔道部のことなんだが…」と聞いたりして。
 二人揃って今に夢中で、気が付いたらもう、夕食の時間。
 両親も一緒に食べる夕食、二人きりの時間はおしまいだけれど…。
(ちっとも惜しくないと思うよ)
 前の生のことを、一度も話さないままだって。
 シャングリラのことも、ソルジャーのことも、キャプテンだって忘れていても。
 きっと二人で立ち上がるのだろう、母が部屋まで呼びに来たなら。
 「夕食の支度が出来ましたから」と声がしたなら。
 ハーレイが「行くか」と腰を上げて。
 自分も「そうだね」と椅子から立って、二人で階段を下りてゆく。
 両親が待っているダイニングへ。
 温かな空気が満ちた部屋へと。


 そういった風に話したいのに、何も話せなかった今日。
 前の生なら、話さない日は無かったのに。
 ハーレイがどんなに多忙な時でも、必ず飛んで来た思念。
 「今日は仕事が長引きそうです」と、「先にお休みになって下さい」と。
 いつも「待つよ」と返した自分。
 「遅くなっても待っているから」と、「ぼくが眠っていたら起こして」と。
 時には冗談も飛ばしたりした。
 キャプテンの仕事に追われるハーレイ、それを承知で「本当かい?」と。
 「お酒つきの会議じゃないだろうね」と、「ゼルやヒルマンの部屋で仕事?」という質問。
 少し笑いを含んだ思念で。
 ハーレイの苦々しい顔を想像しながら、青の間から茶目っ気たっぷりに。
 それをやったら、「ならば、御覧になりますか?」と思念が返って来たけれど。
 「どうぞ視察にお越し下さい」と、仕事に忙しいハーレイの思念。
 いつも笑って断っていた。
 「御免だよ」と、「ぼくも忙しいから」と。
 夕食もとうに終わった時間に忙しいことなど、ないくせに。
 本当は暇でたまらないくせに、ハーレイもそれを知っているのに。
(…ああいう風に話せたら…)
 それだけで心が通い合うのに、と思うけれども、叶わない今。
 サイオンが不器用になってしまって、思念もろくに紡げはしない。
 そうでなくても、離れている人に連絡するなら、通信を入れるのが社会のマナー。
 今の時代は、サイオンや思念を使わないのがルールだから。
(…マナー違反でも、それも出来ない…)
 ハーレイに思念を送れないよ、と悲しい気分。
 前の自分なら、こんな夜でもハーレイと話が出来たのに。
 「ねえ、ハーレイは今、何してるの?」と訊けたのに。


 だけど出来ない、と残念でたまらないけれど。
 前の自分がそうしたように、ハーレイと少し話せたら、と窓の方向を眺めるけれど。
(…思念波は無理で、こんな時間に通信も無理…)
 もしも通信を入れに行ったら、「まだ起きてるのか?」と叱られそう。
 「早く寝ろよ」と、「明日も学校、あるんだからな」と。
 叱られたって、ハーレイの声が聞けたら満足だけど。
 話が出来た、と心が弾むだろうけれど。
(ほんのちょっぴり、話せたら…)
 そう思ったって、今は出来ない。
 チビの自分は寝る時間だから。
 とはいえ、いつかはハーレイと好きなだけ話せる時が来る。
 二人一緒に暮らし始めたら、「まだ寝ないのか?」と睨まれたって。
 「もうちょっとだけ」と我儘を言って、ハーレイといくらでも続けられる話。
 側にいたなら、ハーレイだって「仕方ないな」と笑うだろうから。
 ハーレイの側にくっついたままで、疲れて眠りに落ちてゆくまで話し続けていいのだから…。

 

        君と話せたら・了


※今日はハーレイと話せなかった、と残念な気持ちのブルー君。挨拶だけの日だったよ、と。
 つまらないことでいいから話したいのに、出来ない今。けれど、いつかはたっぷりお話v






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(今日は話せなかったよなあ…)
 会いそびれちまった、とハーレイがフウとついた溜息。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 今日は会えずに終わったブルー。
 前の生から愛した恋人、また巡り会えた愛おしい人。
 同じ地球の上に生まれたけれども、生憎と今は教師と生徒。
 学校がある日は、会えない日だって出来てくる。
 そう、今日のように。
(…会えなかったわけじゃないんだが…)
 会った内には入らないよな、と思う程度のブルーとの時間。
 学校の廊下ですれ違っただけ、互いに挨拶したというだけ。
 「ハーレイ先生!」とブルーの笑顔が弾けたけれども、それでおしまい。
 じきに授業が始まるのだから、足を止めてはいられない。
 ブルーも、それに自分の方も。
 お互い、逆の方へと歩いて、開いていったブルーとの距離。
(それっきりで、だ…)
 仕事が終わるのが遅くなったから、帰りに寄れはしなかった。
 ブルーが待っているだろう家へ。
 「今日はハーレイ、来てくれるかな?」と、何度も窓を見たろうに。
 チャイムの音が聞こえないかと、耳を澄ませていたのだろうに。
(すまんな、ブルー…)
 寂しい思いをさせちまって、と思うけれども、寂しい気持ちは自分も同じ。
 「今日は話せなかったんだ」と。
 ブルーと二人で、色々な話。
 教師と生徒の会話だとしても、話せないよりはずっといい。
 他の生徒も通ってゆく場所、廊下や中庭で立ち話でも。
 今日のブルーの様子が聞けたら、自分のことも話せたならば。


 欲を言うなら、ブルーの家で会いたいけれど。
 ブルーと二人でお茶を飲みながら、のんびりと話したいけれど。
(話の中身は、なんだっていいんだ…)
 それにブルーの言葉遣いも。
 「ハーレイ先生!」と呼んで、敬語で話すブルーでも。
 愛おしい人の声が聞けたなら。
 それに応えて何か言えたら、どんなことでも。
 「おはよう、今日も元気そうだな」とでも声を掛けたら、始まる会話。
 「ハーレイ先生、柔道部の朝練はもう終わりですか?」と。
 二言三言、話せたらいい。
 休み時間の廊下にしたって、ブルーの様子は分かるから。
 「次の時間は体育なんです」と口にしたなら、「頑張れよ」とか。
 見学するのだと言われたならば、「今日は具合が悪いのか?」とか。
(そんな具合に…)
 ほんのちょっぴり、話せるだけでも幸せな気分。
 なにしろ、ブルーは恋人だから。
 姿を見られれば心が弾むし、声を聞けたら胸が温かくなるものだから。
(でもって、あいつの家で会えたら…)
 もう最高とも言える時間。
 他愛ない話で終わったとしても、まるで中身が無さそうでも。
 前の自分たちに繋がる話は、欠片さえも出て来なくても。
(お互い、今を生きてるんだしな?)
 そうそう後ろを振り返らなくてもいいだろう。
 遠く遥かに過ぎ去った時を、シャングリラという船で生きた時代を。
 今は今だし、自分もブルーも新しい命。
 身体も同じに新しいもので、暮らす場所だって地球の上。
 踏みしめる地面をしっかりと持って、幸せに生きているのだから。
 宇宙の何処にも、もう戦いは無いのだから。


 そんな時代に生まれたのだし、もっとブルーといたいのに。
 色々なことを話したいのに、今日のような日も混じったりする。
 学校で会っても挨拶しただけ、何も話せはしなかった日が。
(…姿も見られないよりマシだが…)
 全く会えずに終わる日もあるし、それよりはマシ。
 そういう意味では、「会いそびれた」と思うことは贅沢。
 けれど、やっぱり思ってしまう。
 こうして夜が更けていったら、書斎で独り、過ごしていたら。
 コーヒーを淹れて、憩いのひと時でも。
 愛用のマグカップが側にあっても、ふと掠めてゆく寂しい気持ち。
 「今日はあいつと話せなかった」と。
 ブルーと何も話していないと、愛おしい人の思いを聞いてはいないのだと。
 「体育、頑張って来ますね」とも。
 「見学ですけど、特に具合が悪いわけではないんです」とも。
 前と同じに弱く生まれてしまったブルーは、体育の授業についてゆけない。
 途中から見学になる日もしばしば、最初から見学することも多い。
(どっちなのかが分かるだけでも…)
 あいつと会えた、って思うんだよな、と頭に浮かべる愛おしい人。
 「今日のブルーの様子が分かった」と、グンと身近に感じる恋人。
 ただ挨拶をするよりも。
 挨拶だけで別れてゆくより、二言、三言、交わせたら。
 「次の授業は歴史なんです」でも、「そうか、歴史か」と思うから。
 「家庭科なんです」と耳にしたなら、「今日は料理を作るのか?」とも聞けるから。
 ブルーのことなら何でも知りたい、ほんの小さなことだって。
 それが聞けたら幸せな気分、中身が授業のことにしたって。
 「歴史の授業、今やってるのは…」という話でも。
 「家庭科、調理実習ですけど…。ハーレイ先生の分は、無いですよ?」と言われても。
 自分はブルーの担任ではないし、調理実習の成果は貰えないのが当然だから。
 何の不満もありはしないし、「かまわないぞ?」と笑むだけだから。


 愛おしい人が側にいるのに、同じ地球の上の同じ町なのに。
 ブルーが通う学校で教師を務めているのに、話が出来ずに更けてゆく夜。
 こういう時には、何処か寂しい。
 「ブルーと話せなかったよな」と。
 前の生なら、こんなことなど無かったから。
 キャプテンの仕事で多忙な時でも、何処かで思念で交わせた話。
 「今日は仕事で遅くなります」と送ったならば、「でも、待ってるよ」と返った思念。
 寝てしまっていても、待っているからと。
 「青の間に来た時、ぼくが寝ていたら起こして」とも。
 もうそれだけで通い合った心。
 ブルーの思念は、その日によって少し違ったものだから。
 「また遅いのかい?」と不満そうだったり、「無理をしないでよ?」と労ったり。
 時には、からかう時だってあった。
 「本当に今日は仕事かい?」と。
 ゼルたちと一緒じゃないだろうねと、「お酒を飲みながら会議だとか?」と。
 「違いますよ」と、こちらも少し嫌味をこめて返した思念。
 本当にとても忙しいのですと、「なんなら、御覧になりますか?」と。
 「ブリッジまで視察においで下さい」と、「忙しいのがよくお分かりになりますよ」と。
 そう送ったなら、いつも笑いを含んだ思念。
 「御免蒙るよ」と、「ソルジャーだって、忙しいんだよ」と。
 忙しいことなど、ないくせに。
 「遅くなります」と伝えるような時間に、ソルジャーの仕事がある筈もない。
 とうに夕食も終えてしまって、暇を持て余しているのがブルー。
 そんなブルーの様子が分かって、幸せだった。
 「お元気でいらっしゃるらしい」と。
 昼の間に何か無茶して、体調を崩す時もあるから。
 子供たちと一緒に走り回って、疲れすぎてもうヘトヘトだとか。
 そうでなくても、風邪を引きかけているだとか。


(あいつが元気でいてくれたなら…)
 それだけで幸せだったんだよな、と思い出す前の生のこと。
 ほんの短い思念での会話、それで様子が分かったんだが、と。
 ところが、そうはいかない今。
 ブルーのサイオンが不器用でなくても、思念波は使わないのがマナー。
 離れた所にいる人間と話したかったら、通信を入れるのが社会のルール。
 前の生なら、こんな夜更けでも話せたのに。
 コーヒー片手に「どうしてる?」と思念を送れば、返事が返って来たろうに。
 「今、寝るトコ!」とか、何も返事が返って来なくて…。
(…あいつ、眠っているんだな、って…)
 そう思うことも出来ただろう。
 「話したかったが、寝ちまったか」と。
 もう少し早く思念を送っていたなら、ちょっと話が出来ただろうに、と。
(つまらないことでいいんだ、うん)
 今日の夕食は何だったかとか、「俺が食ったのは…」と話すだとか。
 そうすれば返る、ブルーの答え。
 「晩御飯、お揃いだったんだね」とか、「ハーレイの料理、食べたかったよ」とか。
 そんな他愛ないことでいいから、少しブルーと話せたらいい。
 今日のような日は、話せずに終わってしまった日には。
 話せたらな、と思うけれども、今は無理でも、もう何年か経ったなら…。
(もう寝るんだから、って邪魔にされるくらいで…)
 嫌というほど話せるよな、と零れた笑み。
 ブルーと二人で暮らし始めたら、いくらでも話し掛けられるから。
 「こんな夜は、あいつと話せたら…」と思わなくても、夜もブルーは側にいるから…。

 

         あいつと話せたら・了


※ブルー君と話せなかったな、と少し寂しいハーレイ先生。「話せたらな」と。
 けれども話せないのが今。いつか二人で暮らす時には、邪魔にされそうなほどですけどねv






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(ハーレイのケチ…)
 ホントのホントにケチなんだから、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日も来てくれた、愛おしい人。
 前の生から愛したハーレイ、また巡り会えた恋人だけれど。
(…キスは駄目だ、って…)
 そればっかり、と膨らませた頬。
 ハーレイはキスをしてくれないから。
 「俺は子供にキスはしない」と、叱られてしまうだけだから。
 額を指でピンと弾かれたり、頭をコツンとやられたり。
 そうならなくても、鳶色の瞳に「分かってるよな?」と睨まれる。
 「何度も言ってる筈なんだが」と。
(…キスは額と頬っぺただけ…)
 悲しいけれど、そういう決まり。
 ハーレイが勝手に決めてしまって、そうなった。
 前の自分と同じ背丈にならない限りは、けして貰えはしないキス。
 「ぼくにキスして」と強請っても。
 「キスしてもいいよ?」と誘ってみても。
 他にも色々試したけれども、キスは未だに貰えないまま。
 今日も同じに叱られただけで、唇へのキスは貰えなかった。
 恋人同士の二人だったら、そういうキスを交わすのに。
 白いシャングリラで生きた頃には、何度もキスを交わしたのに。
(…ぼくからキスを頼まなくても…)
 幾らでも貰えたハーレイのキス。
 唇どころか、身体中に。
 数え切れないほどのキスを貰って、それは幸せに生きていたのに。


 そのハーレイとまた巡り会えて、青い地球の上で恋人同士。
 幸せな時が流れ始めて、前の自分たちの恋の続きを生きている。
 とても平和になった時代で、前の自分が焦がれた地球で。
(でも、ハーレイはケチになっちゃって…)
 唇へのキスをくれないまま。
 いくら頼んでも、強請っても無駄。
 「キスは駄目だ」の一点張りで、ハーレイの心は動かせない。
 どう頑張っても、ハーレイを釣ろうと色々な策を考えてみても。
(いつも、叱られちゃって終わりで…)
 キスをくれないから、許せない。
 なんというケチな恋人だろう、と。
 「本当にぼくのことが好きなら、キスしてくれてもいいのに」と。
 こんなにキスが欲しいのだから。
 ハーレイの方でも、「俺のブルーだ」と強く抱き締めてくれるのだから。
(…許せないよね、キス無しだなんて…)
 あんな恋人、と怒りたくなる。
 ハーレイのことは好きだけれども、それとこれとは別問題。
 恋人だったら、ぼくにキスして、と。
 好きな証拠に唇にキス、と。
(キスもそうだし、他にも色々…)
 許せないことがあるんだから、と思い始めたら出て来る欠点。
 「あれでも、ぼくの恋人なの?」と。
 例えば、置き去りにされること。
 ハーレイが家に帰ってゆく時、自分はこの家にポツンと置き去り。
 「またな」と置いてゆかれてしまって。
 軽く手を振って帰るハーレイ、車で、あるいは自分の足で。
 恋人を置いてゆくというのに、悲しそうな顔も見せないで。
 別れのキスを贈る代わりに、「またな」と笑顔で手を振るだけで。


 あれも許せない、と思う置き去り。
 一度くらいは連れて帰って欲しいのに。
 教師と教え子、そういう関係の二人なのだし、連れて帰っても大丈夫な筈。
 両親だって、きっと許してくれるだろう。
 「ハーレイ先生の家でお泊まり」するだけ、合宿のようなものだから。
 恋人同士だと知りはしないし、止める理由は何も無い。
 「御迷惑をかけないように」と、幾つか注意をされる程度で。
 自分のことは自分でするとか、はしゃぎすぎて疲れないようにとか。
(…そういうの、出来る筈なのに…)
 これまたハーレイのせいで出来ない、一緒に帰って泊まること。
 ハーレイが許してくれないから。
 キスも駄目なら、ハーレイの家に遊びに行くことだって…。
(…ハーレイが駄目って決めちゃったんだよ…!)
 前の自分と同じ背丈になるまでは。
 そっくり同じに育つ時までは、遊びに行けないハーレイの家。
 だから泊まりに行けもしないし、ハーレイと一緒に帰れはしない。
 「またな」と置いてゆかれるだけで。
 ハーレイが一人で、車で帰ってゆくだけで。
(…ハーレイと一緒に帰れるんなら…)
 車でなくても、文句を言いはしないのに。
 路線バスに揺られて帰るコースはもちろん、「今日は歩くぞ」と言われても。
 チビの自分には遠すぎる距離を、「ほら、頑張れ」と歩かされても。
(…それでも、許してあげるのに…)
 車で来なかったハーレイのことを。
 路線バスにも乗せてくれずに、「歩け」と言い出すハーレイだって。
 大好きなハーレイの言うことだから。
 頑張って一緒に歩いて行ったら、ハーレイの家に着くのだから。
 門扉や玄関を開けて貰って、「入れ」と中に案内されて。
 「何か飲むか?」と、優しい言葉も掛けて貰って。


 けれども、そうはいかない現実。
 ハーレイの家まで行けはしないし、連れて帰っても貰えない。
 いくらハーレイのことが好きでも、こんなにケチな恋人なのでは…。
(許せないってば…!)
 酷すぎだよ、と文句の一つも言いたくなる。
 「ぼくは本当に恋人なの?」と。
 「ハーレイはホントに、ぼくの恋人?」と。
 ケチで意地悪なハーレイだから。
 唇へのキスをくれない恋人、家に呼んでもくれない恋人。
 それもハーレイが決めた理由で。
 自分には相談してもくれずに、ハーレイが一人で決めてしまった約束事。
 唇へのキスをくれないことも。
 ハーレイの家に遊びに行ったり、泊めて貰ったり出来ないことも。
(好きでも、こんなの許せないよ…!)
 ホントに酷い、と怒り出したら止まらない。
 自分がチビの子供なばかりに、何もかも一人で決めるハーレイ。
 少しも相談してはくれずに、「こうしろ」と。
 「キスは駄目だと言ってるよな?」だとか、「俺の家には来るな」とか。
 あまりにも自分勝手なハーレイ、一人で何でも決める恋人。
 年が上だというだけで。
 ハーレイは大人で、自分は子供というだけで。
(そんなの、狡い…)
 恋人だったら、きちんとぼくにも相談してよ、と思うのに。
 二人で相談して決めたのなら、どんな決まりでも、納得出来ると思うのに…。
(ハーレイ、一人で決めちゃって…)
 ぼくには決まりを守らせるだけ、と膨らませた頬。
 とても酷いと、あんなの許せないんだから、と。
 ぼくが怒っても当然だよねと、ハーレイの方が悪いんだから、と。


(ハーレイのことは好きだけど…)
 好きでも怒る時は怒るよ、と許せない気分。
 ハーレイが「駄目だ」と決めた約束、それはキスだけではなかったから。
 他にも幾つも思い出したから、どれも許せはしないから。
(あんなハーレイ…)
 ぼくは絶対、許さないよ、とプンスカ怒って、想った前のハーレイのこと。
 前のハーレイは優しかったから。
 けして「駄目だ」と叱りはしなくて、穏やかな笑みを浮かべただけ。
 「それがあなたの考えでしたら」と微笑んでいたし、反対意見を唱えた時も…。
(…頭から「駄目だ」って言ったりしないで…)
 最後まで耳を傾けた上で、「ですが…」と控えめに述べていた。
 前のハーレイの考えを。
 「私はこのように考えますが」と、「私は間違っておりますか?」と。
 ああいう風に言ってくれたら、自分も怒りはしないのに。
 「こういう決まりにしようと思うが」と、その一言をくれていたなら…。
(それは嫌だ、って反対出来るし…)
 ハーレイだって、少しは考える筈。
 「本当にこれでいいのだろうか?」と。
 キスのことにしても、「家に来るな」と決めてしまった一件も。
(…ぼくの意見を聞いてくれたら…)
 そしたら、ぼくも許したかも、と思ったけれど。
 聞きに来なかったハーレイが悪い、と考えたけれど、其処で気付いた。
 今のハーレイは立派な大人。
 それに比べて自分は子供で、十四歳にしかならないことに。
 大人が子供の意見を聞いても、「なるほどな」と頷きはしても…。
(…お前の方が正しい、なんて…)
 そうそう言いはしないのだろう。
 いくら恋人の意見でも。
 前の生からの絆があっても、そういう恋人同士でも。


 これじゃ駄目だ、と零れた溜息。
 前の自分とハーレイのようにはいかないらしい、と。
(…前のぼくだと、ソルジャーだから…)
 それに年上だったんだから、と今の自分との違いを数える。
 ハーレイよりも上だったよねと、年も、それから肩書きだって、と。
(…だから、ハーレイ…)
 いつも敬語で話していた。
 今のように「俺」と言いもしないで、「私」と、とても丁寧に。
 周りに人がいない時でも、恋人同士で過ごす時にも。
(…あれって、なんだか…)
 寂しい気がする、今のハーレイに比べたら。
 「またな」と置き去りにするハーレイでも、「キスは駄目だ」と叱る恋人でも…。
(…ハーレイ、普通に喋ってて…)
 その上、大人の余裕たっぷり。
 「チビはもうすぐ寝る時間だぞ」と笑ったりもして。
 ケチな恋人でも、今のハーレイの言葉遣いの方がいい。
 額をピンと指で弾かれても、頭を拳でコツンと軽く叩かれたって。
(今のハーレイの方がいいみたい…)
 いくら好きでも許せない、と思う恋人でも。
 ケチでも、キスもくれなくても。
 普通に喋って笑うハーレイ、そちらに慣れてしまったから。
 前のハーレイだって、ずっと昔は、そういうハーレイだったのだから。
(…怒っちゃ駄目…)
 許せないなんて思っちゃ駄目、と思うけれども、ちょっぴり悲しい。
 ハーレイのキスが欲しいから。
 家にも一緒に帰りたいから、ハーレイの側にいたいのだから…。

 

        君が好きでも・了


※ハーレイ先生のことは好きでも、許せないことが沢山あるのがブルー君。キスは駄目、とか。
 ケチでも今のハーレイの方がいいみたい、と気付いても…。悲しい気分なのが可愛いかもv






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(懲りないヤツめ…)
 いったい何度目になるんだか、とハーレイがついた大きな溜息。
 夜の書斎でコーヒー片手に、眉間の皺を少し深くして。
 今日も会って来た小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、また巡り会えた愛おしい人。
 けれども、今のブルーは少年。
 十四歳にしかならない子供で、両親と暮らすのが似合いの年頃。
(何処から見たってチビなんだが…)
 中身は立派にブルーだからな、と傾けた愛用のマグカップ。
 絶妙な苦味が好きなコーヒー、それが苦手なのがブルー。
 チビのブルーも、時の彼方で愛した人も。
(なまじっか、同じブルーだから…)
 当然のように、チビのブルーも一人前の恋人気取り。
 顔立ちも背丈も、子供のくせに。
 誰に見せても、「可愛いソルジャー・ブルーですね」と言われるだろうに。
 前のブルーだった頃とは違って、「美しい」とは表現されない容姿。
 「気高い」という言葉も出ては来ないし、ただただ「可愛らしい」だけ。
 それと同じに心も子供で、何かといえば膨れっ面。
 今日も怒って膨れたブルー。
 「ハーレイのケチ!」と。
 キスをするよう仕向けて来たから、「駄目だ」と叱り付けた途端に。
 「俺は子供にキスはしないと言ったよな?」と、指で弾いたブルーの額。
 悪戯小僧には、お仕置きだから。
 キスをするより、そっちの方がお似合いだから。
 いくらブルーが怒っても。
 「まるでフグだな」と思うくらいに、頬っぺたをプウッと膨らませても。


 小さなブルーと再会してから、繰り広げて来た攻防戦。
 唇へのキスが欲しいブルーと、「キスはしない」と突っぱねる自分。
 何度やったか、数え切れないほどだけれども、懲りないブルー。
 「ぼくにキスして」と正攻法やら、「キスしてもいいよ?」と誘う時やら。
 悪巧みをする時だってある。
 「この方法なら、釣れるかも」と。
 ついウカウカと釣り上げられて、唇にキスをくれるかも、と。
(俺は魚じゃないんだが…)
 それに釣られるほど甘くもないぞ、と思うけれども、ブルーは懲りない。
 もう本当にあの手この手で、勝ち取ろうとして頑張るキス。
 努力するだけ無駄なのに。
 どう頑張っても、キスを贈りはしないのに。
(まったく、これだからチビは…)
 困るんだよな、と喉を潤すコーヒー。
 「こいつの味が分かるくらいの年になればな」と、「子供のくせに」と。
 コーヒーの美味さも分からないチビが、と思い浮かべる膨れっ面。
 あんな顔をして膨れる間は、もう充分に子供だと。
 だから叱ってやればいいんだと、子供にキスは相応しくないと。
(いくらあいつが好きでも、だ…)
 何でも許せるわけじゃないぞ、と苦々しい気持ち。
 コーヒーの苦味は好きだけれども、それとは違った苦さが広がる。
 「チビのくせに」と、「俺だって怒る時には怒る」と。
 もっとも、直ぐに許すのだけれど。
 小さなブルーが膨れていたって、「ハーレイのケチ!」と睨み付けたって。
(…許せないことと、愛せないことは…)
 まるで違うというモンだしな、と分かっている。
 チビのブルーが強請ってくるキス、それは決して許さないけれど。
 キスを強請るブルーは叱るけれども、ブルーを嫌いになったりはしない。
 どんなに「ケチ!」と詰られても。
 まだ懲りないか、と溜息の日々が続いても。


 許せないものはあるんだが…、と小さな今のブルーを想う。
 「あいつが好きでも、キスは駄目だ」と、「そいつは許してやれないよな」と。
 それがブルーのためだから。
 十四歳にしかならないブルーは、心も身体も本当に子供。
 ブルーにそういう自覚が無いだけ、「前と同じだ」と思っているだけ。
 中身は同じ魂だから。
 遠く遥かな時の彼方で、逝ってしまったブルーだから。
(…そいつが少々、厄介なトコで…)
 記憶を持っていやがるからな、と傾ける愛用のマグカップ。
 コーヒーはたっぷり淹れて来たから、心ゆくまで楽しめる。
 チビのブルーは苦手なコーヒー、大人に相応しい味を。
 大人だからこそ分かる苦味を、その美味しさを。
(…あいつが育たない内は…)
 まだまだ続くぞ、と苦笑い。
 キスが欲しいと強請るブルーと、「駄目だ」と叱り付ける自分と。
 ブルーはプウッと膨れてしまって、もうプンスカと怒るだけ。
 「ハーレイのケチ!」が決まり文句で、赤い瞳でキッと睨んで。
 なんというケチな恋人だろうと、不満たらたらの顔付きで。
(まったく、いつまで続くんだか…)
 いつになったら分かるやら、と嘆いてみたって、ブルーは子供。
 どうしてキスが貰えないのか、きっと分かりはしないだろう。
 もっと大きく育つまで。
 いくら好きでも許せないこと、それがあるのだと気付く時まで。
(…やっぱり、コーヒーの味が分かるまではだ…)
 無理なんだろうな、と考えたけれど。
 コーヒーの美味さも分からないようなチビは駄目だ、と思ったけれど。
(…待てよ?)
 前のあいつも駄目だったんだ、とコツンと叩いた自分の頭。
 あいつもコーヒーは苦手だったと、ちゃんと育っていたんだが、と。


 前の自分が愛した人。
 それは気高く、美しかったソルジャー・ブルー。
 かの人も、苦いコーヒーを飲めはしなかった。
 砂糖たっぷり、ミルクたっぷり、ホイップクリーム入りのものしか。
(…コーヒーは基準にならないってか?)
 俺としたことが、と浮かべた苦笑。
 ついウッカリと間違えたぞと、前のあいつもコーヒーは飲めやしなかった、と。
(しかしだな…)
 チビのブルーと全く同じに、コーヒーが苦手だった恋人。
 前のブルーに「許せないこと」はあっただろうか、と考えてみる。
 いくら好きでも、けして許せはしないこと。
 「これだけは駄目だ」と、ブルーを叱り付けること。
 今の自分が、チビのブルーに「キスは駄目だ」と言うように。
 額をピンと弾いてやるとか、頭をコツンと叩くとか。
 そんな具合に、前のブルーにも「許せないこと」はあったろうか、と。
(…前のあいつに…)
 あるわけがない、と即座に答えを弾き出す。
 前のブルーを叱りはしないし、ブルーが膨れることだって。
(あいつなら、膨れるよりかは、拗ねて…)
 きっと怒ったことだろう。
 「もう青の間に来なくていい」と。
 明日から此処には出入り禁止だと、プイと背中を向けてしまって。
(そうだろうな、と想像ってヤツはつくんだが…)
 実際に起こっちゃいないからな、と記憶を手繰らなくても分かる。
 前のブルーと、そんな戦いはしていないから。
 たまに喧嘩はあったけれども、繰り返したりはしなかった。
 「駄目だと何度も申し上げている筈ですが」と、苦い顔をした覚えも無い。
 前のブルーがやっていたこと、それを「許せない」と一度も思いはしなかったから。
 喧嘩の理由は他愛ないことで、ブルーが機嫌を損ねたというだけだから。


(前のあいつには無かったよな…)
 好きでも、けして許せないこと。
 どんなにブルーが強請って来たって、「駄目だ」と、それを突っぱねること。
 ブルーを叱ったことは無いから、「許せない」とも思わなかったから。
(その点、今のあいつはだな…)
 我儘放題というヤツで…、と零れる溜息。
 まだまだ攻防戦が続くのだろうと、「俺は当分、ケチ呼ばわりだ」と。
 ブルーが膨れて、プンスカ怒って。
 「ハーレイのケチ!」と睨み付けられて。
(…実に報われないってな…)
 いつになったら、あいつは分かってくれるんだ、と前のブルーと重ねてみる。
 「まるで違うな」と、「前のあいつには、許せないことは無かったからな」と。
 前の自分に叱られるような、「駄目だ」と額を弾かれること。
 それをブルーはしてはいないと、「あいつは大人だったから」と。
(…結局、チビはチビだってことで…)
 我慢の日々が続くってな、と思った所で気が付いた。
 前のブルーにも、一つあったと。
 いくら好きでも許せないこと、それは確かにあったのだった、と。
(…なのに、あいつを叱りたくても…)
 あいつ、何処にもいなかったんだ、と蘇って来た悲しみの記憶。
 前のブルーは、一人きりで逝ってしまったから。
 一人でメギドに飛んでしまって、二度と戻って来なかったから。
(…あれが許せなかったんだ…)
 もしもブルーが戻って来たなら、叱ったろうに。
 「なんという無茶をしたのです」と。
 「二度としないと、私に約束して下さい」と。


 そうか、と思い出したこと。
 前のブルーにも一つあったと、「好きでも許せないこと」が。
 叱りたくても、叱るブルーを失くしてしまったんだった、と。
(…あれに比べりゃ…)
 今は充分、幸せだよな、と浮かんだ笑み。
 チビのブルーは、叱ればプウッと膨れるから。
 「ハーレイのケチ!」と怒り出すのは、ブルーが生きていてくれるから。
(あいつが好きでも、許せないことは…)
 ちゃんと叱っていいんだからな、とコーヒーのカップを傾ける。
 叱る相手がいるというのは幸せだ、と。
 俺は充分に幸せ者だと、ブルーを叱ってやれるんだから、と…。

 

       あいつが好きでも・了


※好きでも「許せないこと」はあるよな、と考えているハーレイ先生。「キスは駄目だ」と。
 前のブルーには無かった筈だ、と思っていたら…。叱れる今は幸せですよねv






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(…一緒に帰りたいのにな…)
 ハーレイと、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 前の生から愛した恋人、また巡り会えた愛おしい人。
 今日も仕事の帰りに訪ねて来てくれたけれど。
 二人でお茶を飲んで過ごして、夕食も一緒だったのだけれど。
 「またな」とハーレイは帰ってしまった。
 軽く手を振って、車に乗って。
 前のハーレイのマントの色をした、濃い緑色の車に一人で乗り込んで。
(ぼくも、あの車に乗れたらいいのに…)
 ハーレイが帰ってゆく時に。
 助手席のドアを開けて貰って、シートに座って。
 それが出来たら、どんなに幸せなことだろう。
 ハーレイの家まで夜のドライブ、大した距離ではないけれど。
 何ブロックも離れていたって、車で走れば近いのだけれど。
(一回くらいは…)
 連れて帰ってくれてもいいのに、と思うけれども、叶わない夢。
 チビの自分は、ハーレイの家にも行けないから。
 前の自分と同じ背丈に育たない内は、中に入れても貰えない家。
 そういう決まりになっているから。
 ハーレイが一人で決めてしまって、チビの自分は従うしかない。
 どんなに遊びに行きたくても。
 柔道部員の生徒たちなら、自由に出入り出来るのに。
(…ハーレイの家に呼んで貰って、バーベキューとか…)
 徳用袋のクッキーだとか、宅配サービスのピザだとか。
 柔道部員の教え子たちなら、大いに歓迎される家。
 チビの自分は行けないのに。
 連れて帰って貰えもしなくて、今日だって此処に置き去りなのに。


 そうなる理由は、ちゃんと分かっているけれど。
 自分がハーレイの恋人なせいで、おまけに小さいからだけれども。
(…大きくなるまで行けないなんて…)
 ホントに辛い、と悲しい気持ち。
 もっと幼い子供だったら、ハーレイの家にも行けそうなのに。
 「泊まりに来るか?」と誘って貰って、荷物を抱えて車に乗って。
 本当に一人で大丈夫なのか、と心配そうな父と母とに、元気一杯に窓から振る手。
 「行ってくるね」と、「大丈夫だよ」と。
 ハーレイが側にいてくれるのだし、一人で行っても、絶対に平気。
 ちっとも寂しくなったりはしない、両親と離れて一人でも。
 夜の道路を走る車に乗っている時も、ハーレイの家に着いた後にも。
(きっとワクワクしてるんだから…)
 寂しいだなんて、思わずに。
 両親のいる家に帰りたいとも、まるで考えたりせずに。
 大好きなハーレイと一緒だから。
 ハーレイの側にいられるのだから、「またな」と置いてゆかれる代わりに。
(庭とかが夜で真っ暗でも…)
 怖い気持ちもしないのだろう。
 好きでたまらない、ハーレイの側にいられたら。
 ハーレイが側にいてくれたなら。
(真っ暗でも、怖くないんだから…)
 今より小さな子供でも。
 フクロウのオバケがとても怖くて、泣いていたようなチビの頃でも。
(…フクロウ、とっても怖かったけど…)
 両親のベッドに潜り込んだら怖くなかった。
 それと同じで、ハーレイがいればフクロウの声が聞こえて来たって平気。
 「オバケ、怖いよ」と震えていたなら、ハーレイが抱き締めてくれるから。
 「俺がいるから大丈夫だ」と。
 オバケなんかは入って来ないと、「来たって退治してやるからな」と。


 もっと自分が幼かったら、そんな夜だってあったのだろう。
 ハーレイの家に泊めて貰って、幸せ一杯で過ごす夜。
 一人では眠れないくらいの年なら、ハーレイのベッドに入れて貰って。
 大きな身体にキュッと抱き付いて、優しい温もりに包まれて眠る。
 もしも自分がチビだったなら。
 今よりも、ずっと小さかったら。
(…小さいぼくなら、そうなってたよね…)
 ハーレイが誘ってくれた時には、ウキウキと荷物を用意して。
 お気に入りの絵本も持って行こうと、あれもこれもと欲張ったりして。
(…今のぼくでも、キスしてって言わなかったなら…)
 連れて帰って貰えただろう。
 柔道部員の生徒たちのように、教え子の一人だったなら。
 恋人なのだと主張しないで、もっと大人しくしていたならば。
(…とっくに手遅れ…)
 もうやり直しは出来ないものね、と自分でも分かっているけれど。
 ハーレイの家に「来るな」と言われてしまった時から、ちゃんと分かっているのだけれど。
 今の自分は間違えたろうか、恋人としての在り方を。
 チビの自分に相応しい恋をしていたのならば、ハーレイと一緒に帰れたろうか。
 ハーレイの気が向いたなら。
 「たまには俺と一緒に来るか?」と、誘いの言葉を貰えたならば。
 「泊まりに来るなら、支度しろよ」と、いつもの笑顔で。
 用意しないなら置いて帰るぞと、グズグズしてたらそうなるんだが、と。
(…誘ってくれたら…)
 大急ぎで支度するだろう。
 幼い頃なら、見当違いな荷物も用意しそうだけれど…。
(今のぼくなら、きちんと用意…)
 絵本やオモチャを詰めたりしないで、必要な物を。
 着替えの服やら、パジャマなんかを取り出して。
 忘れ物は無いかと、順に数えて確認もして。


 そうして支度が整ったならば、ハーレイの車の助手席に乗る。
 鞄を膝の上に乗っけて、見送る両親に手を振って。
 「行ってきます」と、もしかしたら、お土産なんかも持たせて貰って。
 急だけれども、ハーレイの家に泊まりに行くなら、母が用意をしそうだから。
 「ハーレイ先生と一緒に食べて」と、ケーキを箱に入れたりして。
(…ママなら、きっとそうだよね?)
 丁度いいケーキがあったなら。
 運が良ければ、ハーレイが好きなパウンドケーキが丸ごとだとか。
(ハーレイ、凄く喜びそう…)
 お土産の中身が、好物のパウンドケーキなら。
 ハーレイの母が作るケーキと、同じ味のケーキだったなら。
(車を運転している時から、もう御機嫌で…)
 家に着いたら、早速食べようとするのだろう。
 「お前も食うか?」と、パウンドケーキを切り分けて。
 パウンドケーキではなかったとしても、「ケーキ、お前も食うだろ?」と。
(お腹、一杯になりそうだけど…)
 きっと「要らない」とは言わない。
 ハーレイと二人で、幸せな時を過ごしたいから。
 いつもはハーレイが一人のテーブル、其処に自分も座りたいから。
(ハーレイ、コーヒーだろうけど…)
 それが苦手な自分のためには、他の飲み物をくれるだろう。
 「お前、紅茶がいいよな?」だとか。
 ココアがいいかと訊いてくれたり、「ホットミルクにしてみるか?」とか。
 二人分の飲み物の用意が出来たら、のんびり座って幸せな時間。
 ハーレイはコーヒーをゆったりと飲んで、自分は紅茶やココアなんかで。
 「美味しいね」とケーキを頬張って。
 夜がすっかり更けてしまうまで、ハーレイが「寝るか」と言い出すまで。
 「もう遅いから、寝ないとな?」と。
 お前のベッドは別だからな、とキッチリと釘を刺されるまで。


(泊まりに行っても、ベッドは別で…)
 もちろん寝室だって別。
 ハーレイは自分の寝室に行って、チビの自分はゲストルーム。
 そうなることは分かっているから、それでちっともかまわない。
 本当は一緒に眠りたいけれど。
 おやすみのキスも欲しいけれども、そんな我儘を言ったなら…。
(二度と来るな、って言われちゃうんだよ…!)
 今の自分がそうなったように、ハーレイの家には行けなくなってしまったように。
 だから我慢で、側にいられたら、それで充分。
 ハーレイが「おやすみ」と寝に行くまで。
 寝室のドアがパタンと閉まって、「お前も寝ろよ?」と言われるまで。
 それまでの時間を、ハーレイの側で過ごせたら。
 母が持たせてくれたケーキを一緒に食べて、コーヒーや紅茶を飲んでお喋り。
 お風呂から上がった後の時間も、ハーレイの側にいられたら。
 「湯冷めするぞ?」と叱られるまで。
 「お前が風邪を引いちまったら、俺がお母さんに叱られるんだ」と困った顔をされるまで。
 それが出来たら、ベッドは別でもかまわない。
 おやすみのキスが貰えなくても、貰えたとしても頬や額にだったとしても。
(…ハーレイの側にいられたら…)
 それだけで充分なんだけどな、と思うけれども、とうに失敗したのが自分。
 一人前の恋人気取りでキスを強請って、誘ったりもして、大失敗。
 もうハーレイの家に行けはしなくて、連れて帰っても貰えない。
 「またな」と置いてゆかれるだけで。
 「俺と一緒に帰らないか?」と、泊まりの誘いもして貰えなくて。
 チビの自分は、考えなしでキスばかり強請ったものだから。
 懲りずにキスを強請り続けては、いつも断られてばかりだから…。

 

        側にいられたら・了


※ハーレイ先生の家に連れて帰って貰えたらいいのに、と夢を見ているブルー君。
 けれども、とうに大失敗。キスさえ何度も強請らなかったら、誘って貰えたかもですねv





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