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(連れて帰れはしないからなあ…)
 可哀相だが、とハーレイが思い浮かべた恋人。
 十四歳にしかならない恋人、前の生から愛したブルー。
 今日も家には寄ったのだけれど。
(またな、って…)
 手を振って帰って来ちまった、と見渡す自分の周り。
 コーヒー片手に、夜の書斎で。
 仕事の帰りに、ブルーには会って来たけれど。
 ブルーの部屋であれこれ話して、夕食も一緒に食べたけれども。
(あいつはチビで、まだまだ子供で…)
 どんなに見詰められたとしたって、この家に連れて帰れはしない。
 ブルーにはブルーの家があるから。
 両親と一緒に暮らす子供で、前のブルーとは違うから。
(連れて来たって、チビなんだし…)
 俺は子供にキスはしないぞ、と今のブルーの幼さを思う。
 確かにブルーなのだけれども、小さいと。
 前の生で初めて出会ったブルーと、まるで変わらないチビじゃないかと。
(…あの時のあいつも、本当にチビで…)
 成長を止めた姿と同じに、心も子供。
 自分よりもずっと年上だとは、夢にも思いはしなかった。
 凄い力を持ったチビだ、と驚いただけで。
(チビだったあいつは、中身も子供…)
 前の自分について歩いて、懐いていたのがチビだったブルー。
 恋人気取りの今のブルーとは違ったブルー。
 見た目は同じ姿でも。
 チビな所は、変わらなくても。


 今のあいつは中身だけ前のブルーなんだ、と浮かべた苦笑。
 中途半端に、恋をしていた部分だけが。
 一人前の恋人気取りで「ぼくにキスして」と言う所とか。
 「キスは駄目だ」と叱ってやったら、「ハーレイのケチ!」と膨れるだとか。
 前のブルーと同じ心を持っていたなら、そうなったりはしないだろうに。
 姿はチビでも、心は育っていたのなら。
(…俺の心に気付くぞ、あいつ…)
 小さなブルーが主張する通り、中身が前と一緒なら。
 前のブルーとそっくり同じになっていたなら、直ぐに理解することだろう。
 どうしてキスをしないのか。
 「キスは駄目だ」と叱らなくても、きっと一度で分かってくれる。
 小さくなった自分の身体を見回して。
 困ったような笑みを浮かべて、「仕方ないよね」と零す溜息。
 こんなに小さくなってしまっては、せいぜい、側にいるくらい、と。
 前の自分がやっていたように、後ろにくっついて歩くくらいが精一杯だ、と。
(あいつなら、分かってくれるんだ…)
 唇へのキスが駄目な理由も、育つまで待たねばならないことも。
 子供なのだし仕方がないと、チビの間は子供らしく、と。
(そういう中身だったなら…)
 連れて帰れたかもしれないな、と考えてみる。
 小さなブルーが自分の立場を心得ていたら、ただの客人なのだから。
 「ぼくにキスして」と強請らないなら、「キスしてもいいよ?」と誘わないなら。
 大人しくチョコンと椅子に座って、本でも読んでいるだとか。
 夜が更けたら、「おやすみなさい」とゲストルームに行くだとか。
 「ハーレイの部屋で寝たいんだけど…」などと、妙な我儘を言わないで。
 泊めて貰っているのだから、と礼儀正しく挨拶もして。
 「先に寝るね」と、子供らしく。
 「ハーレイも夜更かししてちゃ駄目だよ?」と、恋人らしい気遣いも。


(…あいつが、そういうヤツだったらなあ…)
 俺だって泊めてやったよな、と思わないでもないブルー。
 「一緒に来るか?」と、たまには誘って。
 泊まりに来るなら支度しろよ、とブルーが荷物を詰めるのを待って。
(多分、あいつの両親だって…)
 「すみません」と恐縮するだろうけれど、ブルーが泊まるのを止めたりはしない。
 いくら身体が弱い息子でも、一泊くらいなら大丈夫だから。
 万一、熱を出したとしたって、直ぐに迎えに行ける距離。
 思い立ったその日に連れて帰っても、何の問題も無いのがこの家。
 ブルーの家から何ブロックも離れていたって、同じ町には違いないから。
 休日には歩いて往復するほど、それが可能な場所にあるから。
(もしも、ブルーが泊まりに来たら…)
 きっと可愛いぞ、と緩んだ頬。
 前のブルーと同じ心を持っていたなら、礼儀正しくて愛らしい子供。
 そうでなくても、きっと可愛いことだろう。
 中身が今のブルーでも。
 一人前の恋人気取りで、厄介な方のブルーでも。
(俺と一緒に帰れるだけで、大はしゃぎだな)
 子供なんだし、と目に浮かぶよう。
 「泊まりに来るか?」と言ってやったら、一緒に帰れるとなったなら。
 「いいの?」と歓声、それにキラキラと輝く瞳。
 何を荷物に入れようかと。
 着替えにパジャマに、他にも色々、と。
(一人前の恋人気取りには違いないんだが…)
 お洒落な服を用意したりはしないだろう。
 なにしろ、中身は子供だから。
 恋人の家に泊まれるだけで、舞い上がってしまうチビだから。
 これが育ったブルーだったら、服だけでも悩みそうなのに。
 クローゼットを何度も覗いて、「どれにしようか」と真剣に。


 その辺りからして、感覚がズレていそうなブルー。
 中身は本当にチビだから。
 姿そのままに子供なのだし、持って行く服を選ぶなら、きっと…。
(俺の目に、そいつがどう映るかより…)
 あいつの好みなんだろうな、と微笑ましい。
 次の日に着たい気分のシャツやら、ズボンやら。
 そういう服を引っ張り出すぞと、選んで鞄に詰め込むんだ、と。
 服がそうなら、寝るためのパジャマの方だって。
 「これがいいな」と選ぶパジャマは、着心地優先なのだろう。
 恋人の家へ泊まりにゆくのに、色気の欠片も無さそうなパジャマ。
 元が子供の持ち物なのだし、当然だけれど。
 そうでなくても、男性用には、色気はあまり無さそうだけれど。
(…そうは言っても、それなりに…)
 ブルーが頭を働かせたなら、選ぶパジャマは変わってくる。
 頭から被るタイプよりかは、ボタンで留める方がいいとか。
 同じボタンで留めるパジャマでも、襟ぐりが開いた方がいいとか。
(考える余地はあるってわけで…)
 悩むポイントも多い筈だが、と思うけれども、相手はブルー。
 一人前の恋人気取りのチビの子供で、中身はそっくりそのまま子供。
 着やすさだけで選び出すだろう、泊まりに持ってゆくパジャマ。
(着心地がいいのが一番だ、ってな)
 色気なんぞは考えたりもしないんだ、と想像がつくから愉快な気分。
 何処から見たって色気など無い、可愛いだけのパジャマ姿。
 もしもブルーが泊まりに来たなら、そうなるんだな、と。
 どんなに恋人気取りでいたって、服やパジャマでボロが出るぞ、と。
 服よりも先にボロが出るのが、夜にブルーが着替えるパジャマ。
 着心地の方を最優先して、色気の欠片も無いパジャマ。
 それにいそいそ着替えるんだな、と。
 「先にシャワーを浴びてもいい?」と、前のブルーを気取っても。
 バスルームから出て来た時には、頬を上気させて湯気を纏っていても。


(うん、なかなかに楽しいじゃないか)
 チビのあいつが側にいたなら、と膨らむ想像。
 連れて帰れはしないけれども、側にいたならこうなりそうだ、と。
 こうしてコーヒーを楽しむ間に、ブルーはシャワーを浴びるのだろう。
 誘惑するには、まずはシャワー、と。
(まるで分かっちゃいないんだがな?)
 前のあいつと同じにやっても、中身がチビって所がな、とクックッと笑う。
 シャワーを浴びて来さえしたなら、恋人同士の時間なのだと思う辺りが、と。
 今のブルーはチビなのに。
 きっと着心地優先のパジャマ、それを選んで着るのだろうに。
 ホカホカと湯気を立てていたって、可愛らしいだけの小さな恋人。
 それが書斎に来るのか、と。
 「ハーレイ?」と、「ぼくにキスして」と。
 すっかり遅いし、ベッドに行こう、と。
 「ぼくをベッドに連れて行って」と、「ハーレイのベッドで寝てもいいよね?」と。
 キスも出来ない子供のくせに、一人前の恋人気取りで。
 恋人の家に泊まる以上は、ベッドも一緒で夜も一緒、と。
 そう頭から信じるブルーを、「よし」と抱き上げてやるのもいい。
 「寝るとするか」と、「もう遅いしな?」と。
 小さなブルーは、勘違いして喜ぶだろう。
 「ハーレイと一緒に寝られる」と。
 本物の恋人同士になれると、心の底からワクワクして。
(色気の欠片も無いパジャマでな…)
 だから余計に面白い。
 「チビは此処だ」と、ゲストルームのベッドに放り込んだなら。
 「おやすみ」とドアを閉めたなら。
 きっと聞こえる、「ハーレイのケチ!」という声が。
 もしもブルーが側にいたなら、「俺と来るか?」と、この家に連れて帰って来たら…。

 

         側にいたなら・了


※ブルー君を連れて帰って来たら、と想像してみるハーレイ先生。今のチビのブルーを。
 きっとこういう結末ですよね、ブルー君がどんなに努力したって。子供は子供v






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(ハーレイのケチ!)
 いつまで経ってもケチなんだから、と小さなブルーが尖らせた唇。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は土曜日、ハーレイが訪ねて来てくれたけれど。
 午前中から一緒に過ごしたけれども、たったそれだけ。
 恋人同士の二人でいたのに、部屋では二人きりだったのに…。
(今日も断られちゃったんだよ!)
 ハーレイにキスを強請ったら。
 「ぼくにキスして」と頼んだら。
 鳶色の瞳で睨み付けられて、それはすげなく言われた言葉。
 「俺は子供にキスはしない」と、「何度言ったら分かるんだ」と。
 嫌というほど聞いた言葉で、ケチのハーレイはキスをくれない。
 キスを貰えるのは額と頬だけ、唇へのキスは貰えない。
 前の生からの恋人同士で、もう一度巡り会えたのに。
 新しい命と身体を貰って、この地球の上で会えたのに。
 遠く遥かな時の彼方で、焦がれ続けた水の星。
 いつか地球まで辿り着けたら、と幾つもの夢を描いた星。
 ハーレイと一緒にあれをしようと、これもしたいと。
 その夢の星に来たというのに、ハーレイはケチになってしまった。
(…今でも恋人同士なのに…)
 駄目だ、と言われてしまうキス。
 何度頼んでも、強請っても。
 「キスしてもいいよ?」と誘ってみたって、いつもハーレイに叱られるだけ。
 今の自分はチビだから。
 十四歳にしかならない子供で、前の自分よりも小さいから。
 それは分かっているのだけれども、なんとも腹立たしいケチなハーレイ。
 自分を愛してくれているなら、一度くらいキスが欲しいのに。
 恋人同士が交わす甘いキス、唇へのキスが欲しいのに。


 ホントに一度でいいんだから、と思うけれども、ハーレイはケチ。
 どんなに頼んで強請ってみたって、「駄目だ」としか言いはしないのだろう。
 「前のお前と同じ背丈になるまでは駄目だ」と、お決まりの台詞。
 百五十センチしか無い自分の身長、前の自分だと百七十センチ。
 あと二十センチも伸びない限りは、ハーレイはキスをしてくれない。
 すっかりケチになったから。
 生まれ変わって来たせいだろうか、前のハーレイよりもケチだから。
(…酷いよね…)
 ホントに酷い、と零れる溜息。
 前のハーレイなら、幾らでもキスをくれたのに。
 今でも夢に出て来た時には、優しくキスをくれるのに。
 キスをくれるし、キスのその先のことだって。
 本物の恋人同士の時間も、夢のハーレイならくれるのに。
(…でも、夢の中だと、ぼくだって…)
 前のぼくになってしまうんだよ、と残念な気持ち。
 チビの自分は消えてしまって、前の自分になっている夢。
 ハーレイとキスを交わしているのは、自分ではなくて前の自分。
 恋人同士の甘い時間を過ごすのも。
 いつも目覚めてはガッカリする夢、「今日の夢も、ぼくじゃなかったよ」と。
 今の自分よりも大きく育った、前の自分でしかなかったと。
(…夢の中のハーレイ、前のぼくが盗ってしまっちゃう…)
 ハーレイは自分の恋人なのに。
 こんなに好きでたまらないのに、前の自分が奪ってしまう。
 育った身体を持っているから、その分、ずっと有利だから。
 「キスは駄目だ」と言われはしなくて、ハーレイとキスが出来るから。
 同じ自分なのに、夢の後では、いつもちょっぴり悲しい気分。
 「ぼくじゃなかった」と。
 前のぼくにハーレイを盗られちゃったと、とても幸せな夢だったのに、と。


 夢でさえもキスをくれないハーレイ、前の自分の時にしか。
 チビの自分の夢を見た時は、「キスは駄目だ」と睨むハーレイ。
 夢の中でも現実と同じ、せっかく夢を見ているのに。
 起きている時には叶わないこと、それが叶うのが夢なのに。
(…たまには、夢でも優しいハーレイ…)
 ぼくにキスしてくれるハーレイがいいな、と考えながら入ったベッド。
 今日もハーレイはケチだったのだし、夢でくらいは、と。
(…前のぼくさえ、出て来なかったら…)
 きっと貰えるだろうキス。
 上手い具合に、入れ替わったら。
 チビの自分が前の自分に勝てたなら。
(…サイオン勝負だと、負けてしまうに決まってて…)
 背の高さでも負ける、前の自分。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた自分。
 どうすれば彼に勝てるのだろうか、サイオンはとことん不器用なのに。
 思念波もろくに紡げはしなくて、瞬間移動は夢のまた夢。
 前の自分と入れ替わろうにも、その方法が見付からない。
 それとも夢だと出来るのだろうか、「ぼくにも出来る」と信じたら。
 サイオン・タイプは今でもタイプ・ブルーなのだし、潜在的にはある筈の力。
 たった一回きりだとはいえ、ハーレイの家へも飛べたから。
(…うんと頑張ったら…)
 前の自分に勝てるだろうか、スルリと居場所が変わるだろうか?
 ハーレイがキスをくれる立場へ、チビのまんまで。
 今の自分よりも育った姿の、前の自分と入れ替わって。
(…上手くいったら…)
 ハーレイが唇にくれそうなキス。
 チビの自分の背丈に合わせて、腰を屈めて。
 それでも強く抱き締めてくれて、「俺のブルーだ」と唇にキス。
 夢の中だと、ケチではないかもしれないハーレイ。
 そういう夢を見てみたいよね、と前の自分に挑むつもりで考えて…。


 ふと気付いたら、笑顔のハーレイ。
 「今日はドライブに連れて行ってやろう」と。
 行こう、と開けてくれたドア。
 今のハーレイの愛車だったから、大喜びで乗り込んだ。
 ハーレイもたまには気が変わるんだ、と。
(ドライブも駄目だ、って言ってるくせに…)
 今日は機嫌がいいみたい、と眺めた運転席のハーレイ。
 「どうしたんだ?」と向けられた笑みは優しくて、ドライブは嘘ではないらしい。
 直ぐにハーレイがかけたエンジン、走り出した車。
(何処に行くのかな?)
 もしかしたら隣町だろうか、と高鳴った胸。
 ハーレイの両親が住んでいる町、庭に夏ミカンの大きな木があると聞いた家。
 其処へ連れて行ってくれるのだったら、もう嬉しくてたまらない。
(お父さんたちに、ぼくを紹介してくれて…)
 きっと結婚の話も出るから、チビでもハーレイの婚約者。
 プロポーズはまだでも、正式な婚約はずっと先でも。
(…ふふっ…)
 どんな人たちなんだろう、と膨らむ夢。
 ハーレイが顔も教えてくれない、隣町に住む父と母。
(お父さんは、ヒルマンにちょっと似てるって…)
 早く会いたいな、と思っていたら、「此処だ」と車を停めたハーレイ。
 いつの間にか広い空き地に来ていて、其処にはギブリ。
 白いシャングリラにあったシャトルで、どういうわけだか、一機だけ。
「えっと…?」
 なんでギブリが、と目を丸くしたら。
「せっかく、お前とドライブだしな?」
 うんとでっかくドライブしよう、とハーレイが指差す空の上。
 青空に浮かぶシャングリラ。
 「あれで行こう」と、「今日は俺たち二人だけだぞ?」と。


 今のハーレイには、動かせそうもないギブリ。
 それに巨大なシャングリラ。
 「ハーレイ、そんなの動かせるの?」と訊いたけれども、「任せておけ」と頼もしい答え。
 ドライブなんだと言っただろうが、と。
 そして「乗るぞ」と促されたギブリ。
 操縦席に座ったハーレイは、見事にそれを動かした。
 まるで車を動かすように。
 キャプテンの制服を着てもいないのに、ドライブ用の普段着なのに。
 アッと言う間に、青い空へと飛び立ったギブリ。
 遥か上空に浮かぶシャングリラへ、白い鯨の背中へと向けて。
「今のお前は飛べないしな?」
 シャングリラにだって飛べんだろう、と笑ったハーレイ。
 「だが、こいつでなら簡単だぞ」と、「もう目の前に見えてるしな?」と。
 滑り込むように入った格納庫。
 誰も誘導してはいないのに、ハーレイは鮮やかにギブリを停めた。
 船に着いたら、「次はこっちだ」と引っ張られた手。
 「ドライブするなら、ブリッジの方へ行かんとな?」と。
(…ハーレイ、こんなの動かせるんだ…)
 ギブリも、それにシャングリラまで、と真ん丸になってしまった瞳。
 今のハーレイにも出来るだなんてと、前のハーレイよりずっと凄い、と。
(…柔道も水泳も、プロの選手に負けない腕で…)
 おまけにギブリの操縦が出来て、シャングリラだって動かせる。
 誰の助けも借りないで。
 航路も何もかも、一人で決めて。
「どうした、ブルー?」
 何処へ行きたい、とハーレイがシャングリラの舵を握って訊いたから。
 二人きりで何処を飛んでみたい、と尋ねられたから。
「もちろん、地球を一周だよ!」
 ぼくは宇宙から一度も見たことないんだから、と膨らませた胸。
 応えて笑顔になったハーレイ、「さあ、ドライブだ。シャングリラ、発進!」と。


 其処でパチリと開いた瞳。
 覚めてしまった、素敵な夢。
(…今の、夢なの?)
 夢だったの、と残念だけれど、ケチではなかった夢のハーレイ。
 「ぼくにキスして」と強請ることさえ、夢の自分は忘れていたから。
 ハーレイの姿に見惚れてしまって、夢のドライブに胸を躍らせていて。
(夢の中だと、ハーレイ、とってもカッコ良くって…)
 キスのことさえ忘れていたのが自分なのだし、今日はハーレイに言ってみようか。
 「ぼくをドライブに連れてって」と。
 車じゃなくってシャングリラがいいよと、シャングリラで地球を見に行くんだよ、と…。

 

         夢の中だと・了


※今のハーレイはケチだから、と膨れていたのがブルー君。夢でくらいはキスが欲しい、と。
 そしたらシャングリラでドライブする夢。キスも忘れてしまう所が幸せですよねv






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(ハーレイのケチ、なあ…)
 あれを言われるのも何度目やらな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 今日は土曜日、朝から出掛けてブルーに会って来たけれど。
 恋人の家を訪ねたけれども、言われた言葉が「ハーレイのケチ!」。
 ケチ呼ばわりの理由は一つで、いつもと同じ。
 「ぼくにキスして」と強請るブルーを、「駄目だ」と睨み付けたこと。
 「俺は子供にキスはしない」と、「何度言ったら分かるんだ」と。
 小さなブルーは膨れてしまって、桜色の唇が紡いだ言葉。
 「ハーレイのケチ!」と。
 けしてケチではない筈なのに。
 ブルーの望みは、何でも叶えてやりたいのに。
(なんたって、俺のブルーだからな)
 前の生から愛した恋人、また巡り会えた愛おしい人。
 生まれ変わって、この地球の上で。
 前のブルーが夢に見た星、焦がれ続けた青い水の星で。
 ブルーと二人、新しい身体と命を貰って、これからも生きてゆくけれど。
 前の自分たちの恋の続きを生きるのだけれど、子供になってしまったブルー。
 十四歳にしかならない子供に、今の自分の教え子に。
 時の彼方で失くした時には、ブルーは大人だったのに。
 それは気高く美しい人で、背だってずっと高かったのに。
(…どうしたわけだか、今はチビでだ…)
 俺のブルーには違いなくても、チビはチビだ、と分かる恋人。
 姿と同じに中身も子供で、柔らかで無垢な心のブルー。
 「キスしてもいいよ?」と、誘う日だってあるけれど。
 一人前の恋人気取りで、キスを強請ってくるのだけれど。


 いくらブルーが望むことでも、唇へのキスは贈れない。
 子供にはキスは早すぎるから。
 頬と額へのキスで充分、それが自分の信条だから。
(なのに、あいつは分かっちゃいなくて…)
 ハーレイのケチと来たもんだ、と溜息をついても仕方ないこと。
 ブルーにとっては「ケチ」だから。
 小さなブルーが望んでいるのに、キスを断るケチな恋人。
 きっとまだまだ、ブルーは分かってくれないだろう。
 もっと大きく育つまで。
 心も身体と同じに育って、ケチな恋人の本当の想いに気付くまで。
(あいつを大事に思っているから、キスは駄目だと言ってるんだが…)
 チビのブルーには分からないよな、と自分が可哀相になる。
 ブルーのためを思っているのに、「ケチ」呼ばわりをされるから。
 「キスは駄目だ」と断る度に、「ハーレイのケチ!」と膨れられるから。
(…あいつがチビでさえなけりゃ…)
 幾つでもキスを贈ってやれる。
 「もう要らないよ!」と、ブルーが逃げ出すほどに。
 「キスもいいけど、ちょっとはのんびりさせて欲しい」と言い出すほどに。
 愛おしさのままに、幾つでも。
 ブルーが「ハーレイ!」と怒っていたって、ギュッと両腕で抱き締めて。
 たとえば、おやつを食べているブルー。
 美味しそうにケーキを頬張るブルーに惹かれたら。
 唇にちょっぴりついたクリーム、それが羨ましくなったなら。
 「クリームのくせに、俺のブルーを」と。
 ブルーの唇は俺のものだと、ケーキにくれてやるもんか、と。
 捕まえてキスを贈る唇。
 ブルーには、いい迷惑だけれど。
 「ぼくはケーキを食べてるのに!」と、「ハーレイの馬鹿!」と怒りそうだけれど。


 ケチよりは「馬鹿」の方がいいな、と思うけれども、まだ先のこと。
 小さなブルーはチビの子供で、結婚出来もしないから。
 二人一緒に暮らせはしないし、もちろんキスも贈れない。
 こうして夢を見るのがせいぜい、「大きく育ったブルー」のことを。
 その日が来たら、と思い描いて、ブルーの言葉を想像して。
(…そいつが俺の限界ってヤツで…)
 ぜめて夢では会いたいもんだ、とグイと飲み干したコーヒーの残り。
 夢の中なら、前のブルーにも会えるから。
 小さなブルーも現れるけれど、育ったブルーも現れる。
 「ハーレイ?」と微笑む愛おしい人。
 何処へ行こうか、と車の助手席に座っていたり。
(…今夜はそいつで頼みたいもんだ)
 ケチと言われてしまったからな、とパジャマに着替えて入ったベッド。
 出来れば甘い夢を見たいと、ブルーとドライブ、それからデート。
 今は叶わないことだけれども、叶わないからこその夢。
 目覚めた時にはガッカリしたって、夢の中では幸せな自分。
 ブルーとデートで、ドライブだから。
 「美味い飯でも食いに行くか」と、ハンドルを握っていたりするから。
 もっとも、小さなブルーが来たなら、そうはいかないのだけれど。
 学校の夢やら、今日と変わらない日々の夢。
 小さなブルーを抱き締めるだけで、時によっては…。
(夢の中でも「ハーレイのケチ!」だ)
 あまりに何度も言われたせいで、すっかり覚えてしまった自分。
 プウッと膨れるブルーの顔も。
 だから夢でも同じこと。
 小さなブルーが現れたならば、現実と同じになる展開。
 せっかく夢を見たというのに、得をした気分がまるで無い夢。
 ブルーに会えたというだけのことで、夢ならではのことが起こらないから。
 それは御免だ、と落ちてゆく眠り。
 お得な夢でよろしく頼む、と。


 ふと気付いたら、「ハーレイ!」と駆けて来るブルー。
 転がるように、懸命に。
 一杯に手を振っているけれど、そんなに急いで走ったら…。
「ブルー!」
 危ないぞ、と止める間もなく、転んでしまったブルーの身体。
 石か何かに躓いて。
 上手く手をつくことも出来ずに、地面に叩き付けられて。
「痛いよ…!」
 ママ、と大声で泣き出したブルー。
 慌てて起こしに走って行った。
 ジョギングの途中だったのだけれど、それどころではない状況だから。
(…絆創膏も持っちゃいないぞ…!)
 俺は転んだりしないから、と大股で駆け寄り、抱き起こした。
 「痛い」と泣き叫ぶ恋人を。
 何処から見たって幼稚園児で、とても幼い恋人を。
「大丈夫か、ブルー!?」
 ママはどうした、と見回したけれど、姿が見えないブルーの母。
 此処は公園、きっと何処かにいる筈なのに。
 けれど「いないよ」と答えたブルー。
 涙をポロポロ零しながら。
 擦り剥いた膝から血が出ているのに、それでも健気に笑顔を作って。
 「ぼくは一人」と、「一人で来たよ」と。
 ハーレイに会いたかったから、と。
「会えて良かった…。やっぱり、いたね」
 ジョギングしてたね、とブルーは笑顔だけれども、痛そうな膝。
 傷の手当てをしてやりたいのに、持ってはいない傷薬。
 それに絆創膏だって。
「お前なあ…。一人で此処まで来たなんて…」
 無茶するなよな、と幼いブルーを抱き上げた。
 公園の管理事務所に行こうと、あそこだったら傷の手当てが出来るしな、と。


 宝物のように大切に抱いて、管理事務所に連れて行ったブルー。
 「転んで怪我をしたんです」と。
 傷薬と絆創膏を貰えますかと、手当ては私がやりますから、と。
「ごめんね、ハーレイ…」
 ぼく、迷惑をかけちゃった、幼いブルーがしょげているから。
 事務所の椅子にチョコンと座って、悲しそうな顔をするものだから。
「気にするな。…お前、頑張ったんだしな?」
 一人で家から来たんだろう、と消毒してやるブルーの膝。
 「ちょっとしみるぞ」と、「痛けりゃ泣いてもいいからな」と。
 けれど、泣いたりしなかったブルー。
 消毒されても、傷に薬を塗られても。
 キュッと唇を結んで耐えて、「ありがとう」と笑みさえ浮かべたくらい。
 「ぼくはホントに平気だから」と、「痛くないよ」と。
 本当はとても痛いだろうに。
 今だって傷はズキズキ痛んで、きっと泣きたいくらいだろうに。
(…こいつを送って行かないとな?)
 ブルーが一人で出て来た家まで、きちんと送り届けなければ。
 いつの間にやら消えてしまった一人息子を、きっと探しているだろうから。
 まさか公園まで行っているとは思いもしないで、家の近所で。
「ほら、ブルー」
 背負ってやるから一緒に帰ろう、と言ってやったら、弾けた笑顔。
 「ホント?」と「ハーレイが送ってくれるの?」と。
 一緒に帰ってくれるんだね、と。
 「ハーレイと一緒に帰りたいから、ぼく、頑張って来たんだよ」と。


 其処でパチンと覚めた夢。
 あれは夢か、と目覚めたベッド。
(うーむ…)
 可愛いじゃないか、と思った恋人。
 今よりもずっと小さいけれども、夢の中では可愛かったブルー。
 「ハーレイのケチ!」と膨れる代わりに、健気に笑みを浮かべたブルー。
 ああいうブルーも悪くないなと、今よりチビでも可愛かった、と。
 今日はブルーに話してやろうか、「もっと小さくならないか?」と。
 お前よりもずっと可愛げがあって、「ケチ!」とも言わないようだからな、と…。

 

         夢の中では・了


※「ハーレイのケチ!」と言われてしまったハーレイ先生。せめて夢では、と思ったら…。
 もっと小さなブルーが出て来て、可愛らしさに参った模様。幼いブルーも素敵かもv






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(ハーレイ、来てくれなかったよ…)
 待ってたのに、と小さなブルーがついた溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は学校で会えただけのハーレイ、前の生から愛した恋人。
 「ハーレイ先生!」と呼び掛けられたし、立ち話も少ししたけれど。
 大好きな声は聞けたのだけれど、学校ではあくまで教師と生徒。
 恋人同士の話は出来ないまま。
 だから寂しくなってくる。
 「会えたけれども、ぼくのハーレイじゃなかったよ」と。
 中身は同じにハーレイだけれど、やっぱり違う「ハーレイ先生」。
 同じ声でも、同じ顔でも。
 優しい笑みを浮かべていたって、恋人の顔とは違うもの。
 一緒にいたいのは「ハーレイ」の方で、話をしたいのも「ハーレイ」。
 「ハーレイ先生」の方ではなくて。
(…来てくれるかと思ってたのに…)
 何の根拠も無かったけれども、期待して待っていたのが今日。
 来てくれるといいなと、会えるといいな、と。
 期待が膨らんでゆけばゆくほど、上手く運びそうな気がしてくるもの。
 「きっと来てくれるに違いない」と。
 じきに会えると、もう少しだけ待ったなら、と。
(…ホントに会えると思ってたのに…)
 何度も窓の方を眺めて、窓から下を見下ろしたりも。
 ハーレイの愛車がやって来ないか、門扉の向こうに見慣れた姿が見えないかと。
 それと同じでチャイムも待った。
 鳴ってくれると、ハーレイが鳴らしてくれるだろうと。
 けれど、鳴らずに終わったチャイム。
 ついに来てくれなかった恋人、あんなに待っていたというのに。


 なんとも残念な気分の今。
 「ハーレイ先生」にしか会えなかったから。
 恋人のハーレイは来てくれないまま、今日が終わってしまうから。
(…もしもハーレイが来てくれてたら…)
 ちゃんと我慢をしたんだけどな、と思い浮かべる夕食の席。
 正確には夕食の後のテーブル、「コーヒーにするか」と言った父。
 そういうメニューだったから。
 食事の後で何か飲むなら、コーヒーが似合いだった夕食。
(…ぼくには違いが分からないけど…)
 紅茶でもいいし、ほうじ茶だって。
 食後のお茶なんか特に飲まなくても、「御馳走様」と立っても良さそうなのに。
 ハーレイが一緒の日ならともかく、家族三人だけなのだから。
 それでも父が頼んだコーヒー、母も「そうね」と淹れに出掛けた。
 だからコーヒーがピッタリのメニュー、熱いコーヒーで締め括るのが。
(ハーレイも一緒に食べてたら…)
 来てくれていたら、食後は間違いなくコーヒー。
 父と母と、それにハーレイは。
 コーヒーが苦手な自分一人だけが、ポツンと仲間外れにされて。
 母に「ブルーは紅茶でしょ?」と別の飲み物を用意されて。
(コーヒーがいいな、って言ったって…)
 父も母も変な顔をするだけ。
 ハーレイだって、「やめた方がいいと思うがな?」と苦い顔付きになるのだろう。
 「お前はコーヒー、駄目だろうが」と。
 「前のお前の頃からそうだ」と、「ソルジャー・ブルーも飲めなかった」と。
 またコーヒーを無駄にする気か、とお説教されるかもしれない。
 美味いコーヒーを台無しにするなと、「お母さんにも迷惑だぞ?」と。
 今の自分も前の自分も、コーヒーはまるで駄目だから。
 独特の苦味がとても苦手で、甘くしないと飲めないから。


 前の自分がしていた飲み方、それが今でも自分の飲み方。
 苦いコーヒーに挑むなら。
 なんとか飲んでみようとするなら。
(お砂糖たっぷり、ミルクたっぷり…)
 甘いホイップクリームもこんもりと入れて、ようやく飲めるコーヒーになる。
 何処から見たって、もうコーヒーではないけれど。
 ソルジャー・ブルーだった頃から、ハーレイが溜息をついていたけれど。
 「それはコーヒーではありませんよ」と。
 コーヒー風味の別の飲み物だと、カフェオレですらもなさそうだと。
 今だって父も母も呆れた、実にとんでもない飲み方。
(子供だから、まだ笑われないけど…)
 ソルジャー・ブルーは充分に大人の姿だったし、驚いていた父と母。
 こんな飲み方をする人なのかと、前の自分の好みのことで。
 どう見ても子供の飲み方だから。
 「苦いのは駄目」と甘くしたがる、子供好みのコーヒーだから。
 充分に承知している両親、そのせいで駄目な食後のコーヒー。
 淹れて貰っても無駄になるから、コーヒーの味が台無しだから。
(今日の晩御飯だと、ぼくだけ紅茶…)
 そういう時には、食後のお茶は両親と一緒。
 コーヒーが好きなハーレイがゆっくり味わえるように、食卓で。
 紅茶や緑茶やほうじ茶だったら、「部屋でどうぞ」と言われるのに。
 二階の部屋まで母が運んでくれるとか。
 「ぼくが運ぶよ」とトレイを持つとか、「俺が持とう」とハーレイが持ってくれるとか。
 いずれにしたって、食後のお茶は部屋でのんびり、両親は抜きで。
 ハーレイが「そろそろ帰らないとな?」と立ち上がるまで。
 それがコーヒーでなかったら。
 「ハーレイ先生もお好きでしたわね?」と、母が用意をしなかったなら。


 今日、ハーレイが来てくれていたら、食後に出ていただろうコーヒー。
 そして自分は仲間外れで、食後のお茶の時間も無し。
 ハーレイと二人きりの時間は。
 もう一度二階の部屋に戻って、あれこれ話が出来る時間は。
(…そうなっちゃっても、我慢したのに…)
 ハーレイが来てくれるなら。
 夕食の支度が出来るまでの間、部屋で二人で話せるのなら。
 苦いコーヒーに二人の仲を裂かれても。
 同じ飲み物が出て来ない上に、食後は両親つきになっても。
(…それでも、そうなるまでの時間は…)
 ハーレイと恋人同士で過ごせて、幸せ一杯。
 「キスは駄目だ」と叱られたって。
 唇へのキスは貰えないまま、プウッと膨れる羽目になっても。
(ハーレイと一緒にいられるのにね…)
 今日のようにコーヒーが邪魔をしたって。
 ハーレイと二人で過ごす時間が減ったって。
 そうなってもいいから、ハーレイに来て欲しかった。
 もっと贅沢を言っていいなら、ハーレイが来てくれて、コーヒーは無し。
 コーヒーが全く合わない夕食、そういうのがいい。
 こうして夜に一人きりだと、どんどん我儘が膨らんでゆく。
 ハーレイが来てくれていたなら、今頃はきっと満足なのに。
 「今日は幸せ」と、「いい日だったよね」と、胸がじんわり温かいのに。
 なのに来てくれなかったハーレイ、コーヒーが出ても我慢したのに。
 食後のお茶の時間が無くても、両親にハーレイを取られても。
 苦くて苦手なコーヒーのせいで、悲しい思いをする食後。
 そういう時間が待っていたって、きっと我慢をしただろう。
 大好きなハーレイと二人で過ごせて、その後に夕食でコーヒーならば。
 それまでの時間は幸せだった、と自分自身に言い聞かせて。


 ちゃんと我慢をしたんだよ、と思うコーヒー。
 独特の苦味は苦手だけれども、まるで全く飲めないけれど。
 飲めないお蔭で仲間外れで、両親にハーレイを持って行かれる。
 自分もコーヒーを飲めたとしたなら、食後のお茶は二階へ運んでゆけるのに。
 熱いコーヒーを満たしたカップを、「ぼくが運ぶよ」とトレイに載せて。
(…あれはいつまで経っても無理そう…)
 前の自分も駄目だったのだし、来年も、そのまた次の年も。
 ハーレイと一緒に暮らし始めても、きっと自分は飲めないまま。
 どんなに見た目が美味しそうでも、ハーレイが「美味いぞ?」と言ったって。
(ぼくの舌、前とおんなじだから…)
 どうせそうなるに決まっているから、大きくなってもコーヒーは駄目。
 ハーレイがいそいそ淹れていたって、「またコーヒー?」と横目で見るだけ。
 「ぼくには紅茶を淹れてよね」と。
 コーヒーなんか飲まないからと、「ハーレイだって知ってるでしょ?」と。
 前の生からそうだったのだし、ハーレイに文句は言わせない。
 食事は出来るだけコーヒーが似合わないメニューがいいな、と我儘も言って。
 今、胸の中で膨らむ我儘、それをハーレイにもぶつけてやって。
(ハーレイと幸せに過ごしたかったら、コーヒーは抜き…)
 この家でなら我慢するのだけれども、それでも消えない我儘な気持ち。
 出来ればコーヒー抜きがいい、と。
 だからハーレイと暮らすのだったら、コーヒーは抜きの方がいい。
 あんなに苦い飲み物なんか、と思った所で気が付いた。
(…コーヒーの味…)
 それを苦いと思う自分。
 嫌だと感じる、今の自分の小さな舌。
 前とそっくり同じだけれども、前の自分は、その舌を…。
(…身体ごと失くしちゃったんだ…)
 右手に持っていたハーレイの温もり、それを失くした悲しみの中で。
 メギドでたった独りぼっちで、前の自分が命尽きた時に。


 そうだったんだ、と見開いた瞳。
 コーヒーは今も苦手だけれども、「苦い」と感じさせる舌。
 それを一度は失くしたのだと、それなのに今は持っているよね、と。
(…ちゃんと舌があって、コーヒーは苦くて…)
 前と同じに味がするよ、と思った今。
 まるで気付いていなかったけれど、これって凄い、と。
(ハーレイ、今日は会えなかったけど…)
 家に来てくれはしなかったけれど、そのハーレイと二人、青い地球の上。
 コーヒーの苦さが分かる舌を持っているのも、ぼくが生きてるからなんだ、と。
 今日は文句は言わないでおこう、この幸せに気付いたから。
 コーヒーの苦い味がする今、それは自分が生きている証なのだから…。

 

       味がする今・了


※ハーレイ先生が来てくれるのなら、苦手なコーヒーを出されたって、と思うブルー君。
 そのコーヒーを「苦い」と感じる舌を持っているのは、とても幸せなことですよねv






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(今日も一日、終わったってな)
 いい日だった、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
 夜の書斎でコーヒー片手に。
 ブルーの家には寄れなかったけれど、いい日ではあった。
 恋人のブルーには会えていないけれど、生徒の方なら会えたから。
 「ハーレイ先生!」と笑顔のブルーに。
 それから少し立ち話だって。
(まるで会えない日もあるからなあ…)
 遠目に姿を見られればまだしも、それさえも出来なかったような日。
 それに比べれば今日はいい日で、文句を言ったら…。
(罰が当たるぞ)
 会えただけでも幸運じゃないか、と前向きに。
 話も出来たし、今日は上々、と。
 教師と教え子、そういう中身の会話でも。
 甘さの欠片も無い話でも。
(…甘さってヤツが欲しければ、だ…)
 このコーヒーに砂糖をドッサリ、そうすれば甘くなるわけで、と一人で冗談。
 スプーンで何杯も入れてやったら、いくらでも甘くなるコーヒー。
 「これは菓子か?」と思うほどにも出来るだろう。
 コーヒーではなくてチョコレートでは、というような出来。
(そういう飲み物もあるんだしな?)
 正真正銘、本物のチョコレートで出来た飲み物。
 ホットチョコレートとか、ショコラショーとか、呼び方の方は色々だけど。
 チョコレートを削って、鍋で溶かして、「どうぞ」と出される甘い飲み物。
(…ポットごとなら、固まらないように…)
 かき混ぜる棒がついてたっけな、と思い出すホットチョコレートの専用ポット。
 母のお供で飲んだから。
 あれもなかなか面白いんだ、と。


 ホットチョコレートには敵わなくても、コーヒーだって甘くなる。
 砂糖をドッサリ入れさえすれば。
 ブルーとの会話に足りなかった甘さ、それをコーヒーで補うならば。
(しかし、実際は甘さが違って…)
 あいつと話す時とコーヒーじゃ違うよな、と見詰めるカップ。
 だから冗談しか言えないんだが、と。
 コーヒーを甘くしてみた所で、甘くならない今日のブルーとの立ち話。
 とっくに過ぎた時間のことだし、今は一人でコーヒータイム。
 小さなブルーはきっとベッドの中だろう。
 そうでなければパジャマ姿で、本を読みながら夜更かし中か。
(早く寝ないと風邪を引いちまうぞ?)
 なあ、と心で語り掛けても、ブルーの耳には届かない。
 やっぱり甘さが足りなかったか、と残念な気持ちはあるけれど。
 今日はあいつと恋人同士で話せていない、と思うけれども、それを除けばいい一日。
 不満を漏らすなど、とんでもない。
(いっそ砂糖を入れちまうか?)
 甘さが足りないと思うんだったら、とカップの中身を覗き込む。
 「とてもコーヒーとは言えないぞ」と思うくらいに、砂糖を入れてやろうかと。
 キッチンに行って、スプーンで山ほど。
 溶けないのでは、と誰が見たって呆れるような量の砂糖を。
(それも一興…)
 とてつもなく甘くなっちまったら、俺の目だって覚めるだろうさ、と指で弾いた額。
 「いい日」に不満を抱く俺には、ちょいと罰だって必要だよな、と。
 とんでもなく甘いコーヒーが。
 今は絶妙な苦味と味わい、それが吹っ飛ぶような甘さが。
 「しっかりしろよ」と、「目を覚ませ」と。
 いい一日を過ごしたろうがと、なのに贅沢を言うんじゃない、と。
 きっとガツンと胃袋に効く。
 なんて味だ、と舌にも、きっと。


 そういう罰を与えようか、と考えないでもない時間。
 「いい一日」に文句を言うなら、舌を懲らしめてやろうかと。
 いくら好き嫌いが無いと言っても、それとこれとは別問題。
 コーヒーはコーヒーらしいのがいいし、ホットチョコレートとは違うから。
 「こいつは違う」と受ける衝撃、そこの所は好き嫌いとはまた違う。
 例えて言うなら料理の味付け、それを間違うようなもの。
 辛さが身上の料理を作って、出来上がったら妙に甘いとか。
 甘いケーキを焼いたつもりが、砂糖と塩を間違えたとか。
(鈍いってわけじゃないんだから…)
 その辺はちゃんと分かるんだ、と傾ける愛用のマグカップ。
 コーヒーの味はこれでこそだと、甘くなりすぎたら台無しなんだ、と。
 けれども、今日の自分は不満があるようだから。
 「恋人のブルーに会えなかった」と、甘さ不足を感じているようだから…。
 入れちまおうか、と思う大量の砂糖。
 「そうすりゃ、俺も懲りるさ」と。
 甘すぎるコーヒーを飲む間中、反省することになるのだから。
 最後の一滴を喉に落とし込むまで、「俺が悪かった」と思うだろうから。
(だが、食べ物で遊ぶってのも…)
 どうだかなあ、と自分を叱りたくなるのは躾のせい。
 幼い頃から、両親に厳しく言われたから。
 「食べ物は感謝して食べるものだ」と、「オモチャにしてはいけない」と。
 学生時代には無茶もしたけれど、その無茶をした仲間たちだって…。
(普段はきちんとしてたしな?)
 運動部だったから、礼儀作法にうるさい世界。
 たとえ食べ物で遊んだとしても、「不味い」と捨てるなど出来ない世界。
 最後まできちんと平らげてこそで、それが出来ないなら遊べない。
(…コーヒーを甘くしちまうのもだ…)
 やったからには、反省しつつ飲み干すこと。
 いい年をした大人がやるのは、どうかという気もするけれど。


 さて、どうする、と睨むカップの中身。
 甘く仕上げて反省するか、このまま味わい深く飲むのか。
(…俺は充分、今、考えたぞ?)
 甘さ不足だと思う自分への、戒めも。
 コーヒーを甘くしてしまうことが、如何に大人げないことなのかも。
(そこは、きちんと考えたんだし…)
 美味いコーヒーのままで飲むのがいいんだろうな、と出した結論。
 でないとコーヒーも可哀相だと、せっかく今は美味いのに、と。
 最初から甘く仕上げていたなら、それはそういうコーヒーだけれど。
 甘すぎても飲むしかないのだけれども、いい味になっているのだから。
(このままだよな?)
 それがコーヒーへの礼儀ってモンだ、と思った途端にポンと頭に浮かんだ恋人。
 甘さ不足を感じる原因、立ち話しか出来ずに終わったブルー。
(…あいつ、前から…)
 ソルジャー・ブルーだった頃から、コーヒーが苦手なのだった。
 今も変わらず苦手なままで、たまに飲もうと挑んでは…。
(砂糖たっぷり、ミルクたっぷり…)
 おまけにホイップクリームまでだ、と思い出したブルーが飲むコーヒー。
 どんなに美味しく淹れてあっても、ブルーの舌には合わないから。
 今も昔も、「苦すぎるよ」と顔を顰めて降参だから。
(ふうむ…)
 人それぞれだ、と思うコーヒー。
 自分の舌には美味だけれども、ブルーは全く駄目だっけな、と。
 生まれ変わっても同じに駄目かと、舌まで前と同じなんだな、と。
(でもって、俺も前と同じな舌だから…)
 このコーヒーが美味いんだ、と思ったけれど。
 甘くするなど、コーヒーにとても失礼じゃないか、と考えたけれど。


(…待てよ?)
 その舌だ、と気付いたこと。
 なんの気なしに、「同じ舌だ」と思った舌。
 前の俺だった頃と変わっちゃいないと、コーヒーと言えばこれが好きだと。
 けれど、そうだと感じる舌。
 「この味がいい」と味わえる舌は、まるで奇跡のようなもの。
 前の自分は死んでしまって、其処で終わりの筈だったから。
 死の星だった地球の地の底、崩れ落ちて来た瓦礫の下敷きになって。
(おいおいおい…)
 あそこで舌も無くなったんだ、と分かること。
 身体が滅びて死んでしまったら、もう味などは分からない。
 暑さも寒さも感じないのだし、コーヒーの苦味が絶妙だろうが、甘すぎようが…。
(…死んじまった俺には分からんぞ?)
 死体の上から、ドボドボと注いで貰っても。
 「好きだったから」と墓碑に供えて貰っても。
(…魂なりに、味わうことは出来るんだろうが…)
 生きた身体とは違うだろうな、と容易に想像出来ること。
 どんなに美味しく飲めたとしたって、魂が飲むのと、生きた身体が飲むのは違う、と。
(きっと魂になっちまったら…)
 「甘さ不足だ」と砂糖をドッサリ、そんな飲み方はしないだろう。
 コーヒーは常に美味しいのだろう、温度も、それに味だって。
 なにしろ天国のコーヒーだから。
 不味く出来ているわけがないから。
(今だからこそ、甘さ不足で砂糖ドッサリの罰なんぞ…)
 思い付いたりするんだな、と零れた笑み。
 生きてるからだと、俺もブルーも、と。
 自分にはとても美味しいコーヒー、ブルーの舌には苦いコーヒー。
 味わえる舌を持っているのも今だからこそだと、味わえる今に感謝しようと。
 甘さ不足の日だったなどと言わないで。
 今日も一日いい日だったと、いつもの味のコーヒーのままで…。

 

         味わえる今・了


※今日はちょっぴり甘さ不足だった、と考えてしまったハーレイ先生ですけれど。
 甘くしようかと思ったコーヒー、その味が分かるのは生きているから。感謝ですよねv






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