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(そういえば、ウサギ…)
 ウサギだっけね、と小さなブルーが思ったこと。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ、学校で古典を教える教師。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 今の自分の将来の夢は、そのハーレイの「お嫁さん」。
 前とそっくり同じに育って、結婚できる十八歳を迎えたら夢は必ず叶う。
 けれど、ハーレイと再会する前。
 今よりもずっと幼かった頃に、なりたいと思っていたものは…。
(……ウサギ……)
 真っ白な毛皮に赤い瞳で、長い二本の耳を持ったウサギ。
 それになるのが、幼い自分の夢だった。
 幼稚園にいた、元気一杯のウサギたち。
 いつもピョンピョン跳ね回っていて、疲れ知らずな、子供の友達。
 生まれつき身体が弱かったから、あのウサギたちが羨ましかった。
 いつ見ても元気で、生き生きしていた真っ白なウサギ。
(ぼくもウサギになれたらいいな、って…)
 そうしたら、きっと元気な身体が手に入る。
 一日中、走り回っていたって、倒れてしまわない身体。熱を出したりもしない身体が。
(ぼくの目、ウサギとおんなじで…)
 人間には珍しい真っ赤な瞳。
 生まれた時からアルビノだったし、髪は銀色、肌も真っ白。
(色だけだったら、ウサギそっくり…)
 人間のくせに良く似ているから、頑張ればウサギにだってなれそう。
 なる方法が分かったら。
 「こうすればいいよ」と、あのウサギたちが方法を教えてくれたなら。


 そう思ったから、仲良くなろうとしたウサギたち。
 幼稚園の休み時間は、せっせとウサギの小屋を覗いて。
 ウサギたちが外で遊ぶ時間は、「ぼくと遊ぼう」と近付いていって。
(仲良くなったら、ウサギになれる方法も…)
 教えて貰えるだろうと思った、幼い自分。
 ウサギと友達になれたのだったら、「一緒に暮らそう」と誘ってくれるだろう。
 「ウサギになるには、こうするんだよ」と方法だって教えてくれて。
(きっと教えて貰えるよ、って…)
 信じていたから、父と母にもそう言った。
 「いつかウサギになりたいな」と、「ぼくがウサギになったら、飼ってね」と。
 子供部屋なら持っていたけれど、ウサギは其処で暮らせない。
 ウサギが住むには何かと不便で、庭の方がきっと便利な筈。
 父に頼んで、ウサギの小屋を庭に作って貰えたら。
 ウサギが好きなニンジンなんかを、母が運んで来てくれたなら。
(ニンジンを食べて、庭で元気に遊んで…)
 とても幸せな毎日だろうし、将来の夢は、断然、ウサギ。
 「ウサギがいいな」と思っていたのに、いつの間にやら忘れてしまった。
 気付けば夢は「お嫁さん」。
 前の生では無理だったことで、もう最高の夢だけれども…。
(ぼくがウサギになっていたなら、どうなったんだろ?)
 幼かった頃の夢が叶って、真っ白なウサギだったなら。
 庭にウサギ小屋を作って貰って、其処で暮らしていたのなら。
(それでも、きっと会えるよね…?)
 ある日、ハーレイが生垣の向こうを通り掛かって。
 たまたまジョギングで走って来たとか、そんな具合に。
(ぼくの家の辺りは、コースじゃないって言ってたけれど…)
 いつも気ままに走るのだから、通る日だってきっとあるだろう。
 「今日はこっちに行ってみるか」と、初めてのコースを走り始めて。


 ハーレイが道を走って来たなら、どちらが先に気付くのだろう?
 ウサギの自分か、ジョギング中のハーレイか。
(表の道を走って行く人は、別に珍しくないけれど…)
 健康のためにと走る人なら、ごくごく馴染みの光景ではある。
 だから「また誰か来た」と思う程度で、ウサギの自分はニンジンに夢中かもしれない。
 みずみずしいのに齧り付きながら、「美味しいよ」と大満足で。
 けれど、ハーレイの方では違う。
 庭に犬やら猫のいる家は多いけれども、ウサギというのは珍しい。
 おまけに芝生の色は青くて、白いウサギはよく目立つ。
 いくらニンジンに夢中でも。
 生垣の向こうを走るハーレイ、そちらにお尻を向けてニンジンを齧っていても。
(あんな所にウサギがいるぞ、って…)
 ハーレイは立ち止まりそう。
 「一休みして見て行くかな」と、「あれがこの家のペットなのか」と。
 そうやって足を止めた途端に、ハーレイは気付いてくれるのだろう。
 「あれはブルーだ」と、「俺のブルーが、ウサギになって帰って来た」と。
 もちろん自分の方でも気付く。
 ハーレイが生垣の向こうで止まって、こっちに視線を向けてくれたら。
 「誰か見てる」と視線を感じて、ニンジンを放ってそちらを見たら。
(…ハーレイなんだ、って…)
 ウサギの自分も、その瞬間に分かるのだろう。
 聖痕なんかは出なくても。
 「ハーレイ!」と叫べる声は持たなくても、思念波さえも紡げなくても。
(だって、ハーレイなんだもの…)
 きっと大急ぎで駆けてゆく。
 ウサギなのだし、ピョンピョンと跳ねて、ハーレイがいる所まで。
 生垣の向こうには出られなくても、隙間から顔を覗かせて。
 「ハーレイだよね?」と、もう大喜びで。


 そうやってハーレイと再会出来たら、頭を撫でて貰えるだろう。
 忘れもしない褐色の肌の、ハーレイの手が伸びて来て。
 「お前だよな?」と、懐かしそうな笑みを浮かべて。
(撫でて貰って、御機嫌でいたら…)
 家の中から母が出てくるかもしれない。ハーレイが立っているのに気付いて。
 「ウサギ、お好きですか?」と尋ねたりして、「入ってお茶でも如何ですか?」と。
 そうなったらもう、しめたもの。
 ハーレイにたっぷり遊んで貰って、抱き上げたりもして貰える。
 帰り際には「また来るからな」と優しい笑顔で、本当にまた来てくれるだろう。
 この家の前を通るコースを、いつものジョギングコースに決めて。
 通り掛かったら立ち止まってくれて、母たちだって、「中へどうぞ」と招き入れて。
(ウサギは言葉を喋れないけど…)
 気持ちはきっと通じる筈。
 言葉も思念波も何も無くても、ハーレイと見詰め合うだけで。
 「大好きだよ」と見詰めていたなら、「俺もだ」と見詰め返されて。
 何度もそうして会っている内に、ある日、ハーレイは母から聞くのだろう。
 「この子、元は人間だったんですの」と、「私の一人息子ですのよ」と。
 ウサギになりたい夢を叶えて、今はウサギの姿の息子。
 「元はこの部屋にいたんですの」と、子供部屋にも案内して。
 お気に入りだったオモチャが、今もそのままの部屋に。
 人間だった頃の写真が、幾つも飾ってある部屋に。
(普通だったら、冗談だろうと思うんだろうし…)
 母も「冗談かもしれませんわよ?」とコロコロ笑っていたって、ハーレイなら気付く。
 「全部、本当のことなんだ」と。
 「俺のブルーは、今はウサギになったんだな」と、「それがあいつの夢だったのか」と。
 本当のことに気付いたのなら、ハーレイは、きっと…。
(お前、どうやってウサギになった、って…)
 訊いてくれるに違いない。今のハーレイが前に言った通りに、その質問を。


 ウサギになりたかった夢。
 それをハーレイに話した時に、聞かされたこと。
 「お前がウサギになっていたなら、俺もウサギにならなきゃな」と。
 今の自分は、「飼ってくれる?」と訊いたのに。
 ウサギの姿になった自分を、ハーレイは飼ってくれるだろうかと。
(ハーレイの家の庭に、小屋を作って…)
 其処でハーレイに飼って貰えたら、充分、幸せ。
 ハーレイの手からニンジンなどを貰って、優しく撫でて貰えたならば。
(でも、ハーレイはウサギになるって…)
 そう言ってくれた。
 「俺も一緒にウサギになるぞ」と、「方法はお前が知ってるからな?」と。
 元は人間だった自分がウサギの姿になっているなら、方法は確かに知っている筈。
 それをハーレイに懸命に伝えて、「こうするんだよ」と教えたならば…。
(ハーレイも人間をやめてしまって、ウサギになって…)
 二人で一緒に暮らしてゆく。
 ウサギなのだし、「二匹」と言うかもしれないけれど。
(ハーレイだったら、白じゃなくって茶色のウサギ…)
 茶色の毛皮で黒い瞳の、野ウサギみたいな逞しいウサギ。
 そして、庭にある小屋で暮らしてゆくよりも…。
(野原がいいって言っていたよね?)
 住宅街の中の庭とは違って、広々とした郊外に広がる野原。
 其処で暮らしてゆくとなったら、巣穴が必要になってくるから…。
(ハーレイが頑張って、穴を掘ってくれて…)
 とても立派で、住み心地のいい家が出来るのだろう。
 天気のいい日は外に出掛けて日向ぼっこで、雨の日や風が冷たい時には巣穴で過ごす。
 くっつき合って色々話して、眠くなったら二人で眠って。
 前の生での思い出話も、今の話も、まるで尽きない。
 食事しながら話していたって、日向ぼっこの間中、ずっとお喋りだって。


(ウサギだったなら…)
 そんなのもいいね、と思ってしまう。
 ハーレイと二人で巣穴で暮らして、元の家にはもう帰らないで。
 きっと毎日が幸せだよね、と描いてみる夢。
 「ウサギになっていたとしたって、ぼくは幸せなんだから」と。
 ハーレイもウサギになってくれるし、うんと仲のいいウサギのカップル。
 白いウサギと茶色いウサギで、いつまでも幸せに暮らすんだよ、と…。

 

          ウサギだったなら・了


※もしもウサギになっていたなら、と考えてしまったブルー君。どうなるんだろう、と。
 ハーレイ先生なら、きっと気付いてくれますから…。二人でウサギになれるんですよねv









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(…そういや、ウサギ…)
 ウサギだっけな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎でコーヒー片手に。
(あいつ、小さかった頃はウサギに…)
 なりたかったと言ってたんだ、と小さなブルーを思い浮かべる。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 まだ十四歳にしかならないブルーは、前と同じに赤い瞳で…。
(おまけに綺麗な銀髪なんだ)
 その上、抜けるように真っ白な肌。
 前とは違って生まれつきのアルビノ、確かにウサギのようではある。
 白い毛皮に赤い瞳で、長い二本の耳を持っているウサギ。
 幼かったブルーが通う幼稚園にも、そういうウサギがいたものだから…。
(今も身体が弱いあいつは…)
 ウサギになりたいと思ったらしい。
 いつも元気に跳ね回るウサギ、その姿がとても羨ましくて。
 「ぼくもウサギになってみたいな」と、「大きくなったらウサギがいい」と描いた夢。
(将来の夢が、ウサギってのも…)
 子供らしいとは思うけれども、幼いブルーは真剣そのもの。
 両親にも「いつかウサギになりたい」と話して、「それは無理よ」と笑われたって。
(その内に、きっとなれるだろうと…)
 夢を諦めずに、幼稚園にあったウサギの小屋を覗く日々。
 ウサギと仲良くなった時には、「ウサギになれる方法」を聞けると思い込んで。
 そうしてウサギの姿になれたら、元気な身体が手に入るから、と。
(お母さんたちに、飼って貰うつもりだったというのが…)
 また傑作だ、と可笑しくなる。
 幼かった頃のブルーの夢では、「自分の家の庭」にウサギの小屋だったから。


 如何にも子供らしい夢。
 「大きくなったらウサギになる」のも、「家の庭で飼って貰う」のも。
 その夢は、いつの間にやら忘れてしまって、今のブルーの将来の夢は「お嫁さん」。
(俺の嫁さんになってくれるんだ…)
 今度のあいつは、と顔が綻ぶ。
 まだまだ先の話だけれども、ブルーを伴侶に迎えられる日。
 その日は必ずやって来るから、けして「夢」ではないのだから。
(しかしだな…)
 幼いブルーが描いていた夢、「将来はウサギになる」ということ。
 それが叶っていたとしたなら、どんな出会いになったのだろう?
(ウサギじゃ、聖痕なんかは出なくて…)
 もちろん言葉も話さない。
 けれど「出会えた」自信はある。
 ブルーがウサギになっていようと、あの家の庭で飼われていようと。
(きっと気ままにジョギングしてて…)
 今日はこっちに行ってみるか、とブルーの家がある方へと走る。
 初めて目にする景色を見ながら、タッタッと走って行ったなら…。
(家の庭にウサギ…)
 青い芝生に白いウサギは、きっと目を引くことだろう。
 犬や猫なら珍しくなくても、ウサギはあまり庭にはいないものだから。
(ウサギがいるぞ、と足を止めてだ…)
 生垣越しに覗き込んだら、その瞬間にピンとくる。
 「あれはブルーだ」と、「俺のブルーが帰って来た」と。
 そしてウサギのブルーの方でも、気付いて跳ねて来るのだろう。
 「ハーレイ!」と声は上げなくても。
 思念波さえも届かなくても、きっとブルーは大急ぎで跳ねて来てくれる。
 「やっと会えた」と、「ハーレイだよね?」と。


 出会ってしまえば、多分、伝わるのだろう気持ち。
 ブルーが言葉を話せなくても、思念波も持たないウサギでも。
(俺のブルーだ、って…)
 生垣越しに目と目で話して、その場を離れられなくなる。
 赤い瞳のウサギになっても、ブルーはブルーなのだから。
 前の自分たちの記憶も戻って、「会いたかった」と溢れる想い。
 ウサギのブルーを抱き締めることは出来なくても…。
(元気そうだな、と…)
 生垣の隙間から手を突っ込んで、撫でてやることは出来るだろう。
 ブルーの方も、精一杯に隙間から顔を出すのだろう。
 「会いたかったよ」と、「ハーレイも元気そうだよね」と。
 そうやってブルーを撫でていたなら、ブルーの母に出会うのだろうか。
 「ウサギ、お好きですか?」と庭に出て来たりして。
 「よろしかったら、お茶でもどうぞ」と門扉を開けてくれたりもして。
 それが出会いで、ジョギングコースは次から必ず、そっちの方へ。
 ウサギのブルーに会いに行こうと、時間がある日は足取りも軽く走って行って。
 何度も通ってブルーを撫でたり、ブルーの両親とも馴染みになっていったなら…。
(ある日、お茶を御馳走になってたら…)
 ブルーの母が話すのだろう。
 「あの子、うちの子なんですよ」と、「元は人間だったんですの」と。
 身体が弱かった一人息子で、「ウサギになりたい」と願ったブルー。
 夢が叶って今はウサギで、元気一杯に跳ね回る日々。
 庭にはブルーが住むための小屋もあるけれど…。
(元が人間だったもんだから、家の中にも…)
 前はブルーが住んでいたという子供部屋。
 ブルーの母は「可笑しいでしょう?」と笑いながらも、其処に案内してくれるだろう。
 幼かったブルーの写真が幾つも飾られた部屋に。
 ブルーのお気に入りだったオモチャが、今もそのまま置かれた部屋に。


(普通だったら、冗談だろうと思いそうなんだが…)
 ブルーの母も「全部、冗談かもしれませんわよ?」と、コロコロと笑いそうだけど。
 それでもきっと、自分なら分かる。
 「嘘じゃないんだ」と、「あいつ、元々は人間の子供だったんだ」と。
 弱い身体は悲しいから、とウサギになろうと夢見たブルー。
 夢が叶って、今ではウサギ。
 人間の言葉は失くしても。…思念波も持たない生き物でも。
(そうとなったら、俺だって…)
 ブルーの側にいたくなる。
 人間の姿は捨ててしまって、ウサギになって。
 いつもブルーと一緒に暮らして、ウサギ同士だからウサギの言葉で話もして。
(もう絶対に、そうするってな)
 今のブルーにも言ったけれども、自分も「ウサギになる」道を選ぶ。
 ブルーがウサギだったなら。
 真っ白で赤い瞳のウサギで、長い耳を持っているのなら。
(あいつがウサギになれたんだったら、ウサギになるための方法は…)
 きっとブルーが知っているから、頑張ってそれを聞く所から。
 ウサギのブルーを撫でてやりながら、「どうやるんだ?」と。
 「お前、どうやってウサギになった?」と、「俺もウサギになりたいんだが」と。
 首尾よく方法を聞き出せたならば、後は実行あるのみだけど。
 自分もウサギになるのだけれども、その前に…。
(あいつと二人で暮らすための家…)
 それを見付けて来なければ。
 ブルーの家の庭で暮らしてもいいのだけれども、それはなんだか気恥ずかしい。
 何も知らないブルーの両親、二人は不思議がるだろうから。
 「どうしてウサギになりたいんです?」と、「立派なお仕事もお持ちなのに」と。
 幼い子供だったブルーはともかく、いい年をした大人がウサギになるなんて。


 前は恋人同士だったんですよ、と明かせば話は早いのだけれど。
 ブルーの両親も「そういうことなら」と、ウサギ用の小屋を広げてくれそうだけれど。
(あいつのお母さんたちがいる前でだな…)
 仲睦まじく暮らしていたなら、たまに恥ずかしくもなるだろう。
 夜は一緒の小屋で眠って、昼間も仲がいいウサギのカップル。
 一匹は白いウサギのブルーで、もう一匹は…。
(俺だから、きっと茶色のウサギだ)
 茶色い毛皮に黒い瞳の、野ウサギみたいな逞しいウサギ。
 白と茶色で、庭で仲良く暮らしてゆくのもいいけれど…。
(そうするよりかは、二人きりで、誰にも遠慮しないで…)
 のびのびと生きてゆくのがいい。
 自然の中で、ブルーと同じ巣穴に住んで。
 天気がいい日は日向ぼっこで、雨の降る日や寒い日なんかは…。
(居心地のいい巣穴の中で、あいつとピッタリくっついて…)
 前の生での思い出話や、人間だった頃の話に興じる。
 話し疲れたら一緒に眠って、お腹が減ったら食事もして。
(そのための巣穴を作る場所を、だ…)
 まずは探しに行かないと、と夢は尽きない。
 「もしもあいつがウサギだったら」と、「俺もウサギになるのなら」と。
 きっとウサギの日々も楽しい。
 ブルーと二人で暮らす巣穴を、「此処に掘るから」とブルーに教えてやって。
 「俺もこれからウサギになるぞ」と、「頑張ってデカイ家を作ろう」と。
 そういうのもいいな、と幼かったブルーが描いた夢を追い掛けてみる。
 「ブルーがウサギになっていたなら、俺もウサギだ」と。
 「郊外にデカイ巣穴を掘るぞ」と、「家の庭より、二人きりの新居が最高だしな」と…。

 

           ウサギだったら・了


※ブルー君が幼かった頃の「将来の夢」は、ウサギになること。元気一杯に跳ね回るウサギ。
 そういうブルーに出会っていたら、と夢見るハーレイ先生。ウサギになっても、きっと幸せv









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(ハーレイのケチ…!)
 ホントのホントにケチなんだから、と小さなブルーが膨らませた頬。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日はハーレイが来てくれたから、一日、一緒に過ごしたのに。
 とても幸せな時間だったのに、今も残って消えない不満。
 ハーレイにキスを強請ってみたのに、断られたから。
 「ぼくにキスして」と頼んだ途端に、「駄目だ」と額を指で弾かれた。
 キスの代わりに、額をピンと。
(そんなに痛くはなかったけれど…)
 酷いと思ってしまう恋人。キスはくれずに、指で額を弾くだなんて。
 その上、ジロリと睨まれた。
 「キスは駄目だと言ってるよな?」と、「俺は子供にキスはしない」と。
 それまでの笑顔は消えてしまって、眉間に皺まで。
 腕組みをして睨むハーレイの顔は、まるで厳しいキャプテンのよう。
(シャングリラのブリッジで、ああいう顔をしていた時は…)
 船の舵をキャプテン自ら握って、背筋を伸ばして立っていた時。
 「他の者になど任せられるか」と、何時間でも、ただ一人きりで、立ちっ放しで。
(あんな頃とは比べられないほど、うんと平和になったのに…)
 ミュウしかいない世界に来たのに、二人で生まれ変わって来たというのに、睨むハーレイ。
 恋人の自分を捕まえて。
 キスが欲しいと頼んでいるのに、「駄目だ」と冷たく断って。
(……分かってるけどね……)
 そうなるだろうということは。
 ハーレイが決めた決まりは絶対、チビの間は貰えないキス。
 前の自分と同じ背丈になるまでは。
 そっくり同じ姿に育って、ハーレイの家にも「行ってもいい」と許可が出るまでは。


 ちゃんと分かっているのだけれども、諦められない「ハーレイのキス」。
 頬や額へのキスとは違って、恋人同士の唇へのキス。
 それが欲しいから、強請ってしまう。
 「ぼくにキスして」と、「キスしてもいいよ?」と、キスをくれない恋人に。
 何度叱られても、指で額を弾かれても。
 睨み付けられても、もっと酷い目に遭わされても。
(…今日は大丈夫だったけど…)
 苛められてしまう時だってある。
 キスを断られて膨れていたら、頬っぺたをペシャンと潰される時。
 あの褐色の大きな両手で、膨らませていた頬を容赦なく。
(ペシャンと潰して、「ハコフグだな」って大笑いして…)
 とても楽しそうに笑うハーレイ、「今のお前は、ハコフグだぞ」と。
 恋人の顔を潰して苛めて、おまけにハコフグ呼ばわりまで。
 本当に酷い恋人だけれど、それでも好きでたまらない。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 嫌いになるなど有り得ないから、どんな目に遭ってもハーレイが好き。
 苛められても、睨み付けられても、「キスは駄目だ」と叱られても。
(本当に好きでたまらないから…)
 欲しくなるのが唇へのキス。
 前の自分が幾つも貰って、ハーレイと交わした甘い口付け。
 あれが欲しくてたまらないのに、一度もくれないものだから…。
(我儘だって言いたくなるよね?)
 いくら「駄目だ」と叱られても。
 キスは貰えない決まりがあっても、「そうだよね」と素直に聞きたくはない。
 ハーレイが勝手に決めた決まりで、何の相談も無かったから。
 いきなり「こうしろ」と告げられただけで、意見など聞いて貰えなかった。
 「お前は、まだまだチビだからな」と、「子供の間は、大人の言うことを聞くもんだ」と。


 せっかくハーレイと巡り会えたのに、作られてしまった「酷すぎる決まり」。
 どんなにキスを強請ってみたって、許してくれない酷い恋人。
 それでは不満が募る一方、だから我儘をぶつけてしまう。
 頭では「無理だ」と分かっていたって、「ぼくにキスして」と。
 頼むよりかは誘った方が、と思った時には「キスしてもいいよ?」。
 いったい何度ぶつけただろうか、「キスが欲しい」という我儘を。
 何度ハーレイに断られたろうか、指で額を弾かれたりして。
(だけど、諦めないんだから…)
 頑張るもんね、と諦めるつもりは「まるで無い」。
 ハーレイが断り続けるのならば、こちらも強請り続けるだけ。
 頼んで駄目なら「誘う」までだし、あの手この手で重ねる努力。
 「チビの間はキスはしない」と言わせていないで、ハーレイがキスしたくなるように。
(だって、恋人同士なんだもの…)
 キスのその先のことは無理でも、キスくらいなら大丈夫。
 母が扉をノックしたなら、離れればいいだけのことだから。
 パッと離れてしまっていたなら、母はキスには気付きはしない。
 少しくらい頬が染まっていたって、耳がちょっぴり赤くったって。
(ママ、そんなトコまで見てないもんね?)
 母の注意は、テーブルの上に向いているから。
 昼食のお皿は綺麗に空になっているのか、料理は口に合ったのか。
 お茶やお菓子の時だって同じ、「お茶のおかわりは如何?」と訊いたりもして。
(そっちの方しか見ていないから…)
 ハーレイとキスを交わしていたって、母にバレたりすることはない。
 もう絶対の自信があるから、我儘一杯に強請ってしまう。
 「ぼくにキスして」と、今日みたいに。
 ハーレイに何度断られたって、諦めないで。
 苛められても、額を指でピンと弾かれても、懲りたりせずに。
 ハーレイが眉間に皺を寄せても、腕組みをして睨み付けていたって。


 我儘なのだと分かってはいる。
 ハーレイが一人で決めたことでも、決まりは決まり。
(そういう決まりで、そういう約束…)
 どんなに言っても、きっと変わりはしないのだろう。
 今の自分はチビの子供で、もう「ソルジャー」ではないのだから。
(ぼくがソルジャーだったなら…)
 ハーレイに命令すれば良かった。
 ソルジャーとしての命令だったら、ハーレイは「否」と言えない立場。
 船を預かるキャプテンとはいえ、その上に立つのが「ソルジャー」だから。
 ソルジャーが決めて命令したなら、逆らえないのがキャプテンだから。
(だけど、前のぼく…)
 一度もそうはしなかった。
 前のハーレイに、頭ごなしに命令などは。
 ハーレイばかりか、他の誰にもやってはいない。
 ソルジャーだったら、何を言おうが、皆が従っていたのだろうに。
 どれほど勝手な命令だろうが、我儘の塊みたいになって「こうだ」と言い張ろうが。
(前のぼくなら、どんなことでも…)
 やろうと思えば好きに出来たし、それだけの力を持ってもいた。
 白いシャングリラがあったとはいえ、やはり「ソルジャー」は必要なもの。
 船の仲間だけでは守り切れない時が来たなら、戦える者はただ一人だけ。
 ソルジャーだった自分だけだし、何かと厚遇されていた。
 船の中で採れた色々な作物、それが優先で届くとか。
(他のみんなは少しだけでも…)
 ソルジャーにだけは、たっぷりの量。
 皆の気持ちは嬉しかったけれど、そのまま貰いはしなかった。
 「ぼくは少しで充分だから」と取り分けた後は、「子供たちに」などと渡していた。
 どんな時でも独占しないで、船の仲間を思っていた。
 「ソルジャーだからこそ」我儘も言わず、不平も不満も言いはしないで。


 そうやって生きた前の自分。
 ただの一度も、我儘などを言ってはいない。
 前のハーレイにも「命令」しなくて、穏やかに微笑み続けただけ。
 ソルジャー・ブルーの長い人生に、「我儘」というものがあったとしたら…。
(……あの時だけ……)
 前のハーレイにだけ「本当のこと」を伝えて、一人きりでメギドへ飛んで行った時。
 死にに行くのだと皆に知れたら、止められるに違いなかったから。
 あそこで「ソルジャー・ブルー」を止めたら、ミュウの未来が無くなるから。
(…船のみんなには、うんと迷惑かけちゃった…)
 白いシャングリラは守れたけれども、ソルジャー・ブルーを失った船。
 誰もが心細かったろうし、前のハーレイは言わずもがな。
(…前のぼくの我儘は、あの一度だけ…)
 他には思い付きもしないし、きっとやってはいないのだろう。
 我儘放題の「チビの自分」とは反対に。
 たかがキスくらいでプウッと膨れる、我儘な自分とはまるで違って。
(…今のぼくだと、ホントに我儘…)
 我儘すぎだ、と思うけれども、ハーレイの気持ちはどうだろう?
 今日もジロリと睨まれたけれど、「キスは駄目だ」と叱られたけれど。
(我儘なんかは一度も言わずに、みんなのことだけ思ってたぼくと…)
 チビで我儘放題の自分と、ハーレイはどちらが好きなのだろう?
 前の自分のただ一度きりの我儘のせいで、ハーレイは全てを失った。
 生きる望みも、心の底から愛した人も。
 おまけに、前の自分の「遺言」。
 それに縛られ、深い絶望と孤独の中でも、地球まで行くしかなかったのだから…。


(今の、我儘なぼくの方が…)
 ハーレイにはずっといいんじゃないの、と浮かべた笑み。
 我儘放題のチビだけれども、ハーレイを置いて逝ったりはしない。
 今度はいつまでも側にいるのだし、二人で生きてゆくのだから。
(ぼくが大きくなるまでは…)
 我儘を言って困らせたって、いいだろう。
 ハーレイが勝手に作った決まりに従わなくても、懲りずにキスを強請っても。
 我儘を言わなかった前の自分よりも、きっと我儘な「今の自分」がハーレイの好み。
 きっとそうなのに違いないから、これから先も我儘放題。
 「キスは駄目だ」と叱られても。
 鳶色の瞳で睨み付けられても、「ぼくにキスして」と諦めないで…。

 

          我儘なぼく・了


※我儘なんだ、と自覚はあるのがブルー君。「ぼくにキスして」と強請っていても。
 けれど、我儘など言わなかった前のブルーよりは…。ぼくの方がいいよね、と自信満々v









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(まったく…)
 あいつときたら、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 ブルーの家へと出掛けて来た日に、夜の書斎でコーヒー片手に。
 今日は一緒に過ごしたブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 けれど子供になってしまって、今の姿は十四歳にしかならないチビ。
 前と同じに愛せはしなくて、子供向けの愛になるものだから…。
(今日でいったい何度目なんだか…)
 もう数えてもいないんだがな、と思い返した昼間の出来事。
 「俺は子供にキスはしない」と言ってあるのに、今日もブルーは強請って来た。
 「ぼくにキスして」と、愛らしい顔に笑みを湛えて。
(あの顔からして違うんだがな?)
 前のあいつの表情とは…、と自分だからこそ分かること。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた頃には、ブルーは大人で、前の自分が愛した人。
 長い年月、前のブルーと共に生きたから、忘れはしない。
 かの人の仕草も、その表情も。
 すらりと伸びた細い手足に、華奢だった肢体。
 「月のようだ」と思った姿も、銀細工さながらの繊細さも。
(俺は忘れちゃいないから…)
 今のブルーがどう足掻いたって、「違う」と分かる。
 「キスしてもいいよ?」と誘うような顔をしたって、それも「子供の表情だ」と。
 前のブルーを真似たつもりでも、チビはチビ。
(あいつと出会って直ぐの頃には、重なって見えもしたんだが…)
 チビのブルーの表情の上に、前のブルーの面影が。
 それではマズイ、とブルーに家への出入りを禁じて、今に至っているけれど。
 「前のお前と同じ背丈に育つまでは」と、キスと同じに禁止だけれど。
 今となっては要らない心配、今のブルーは「ただのチビ」。
 何かと言ったら我儘ばかりで、見掛け通りの子供だから。


 今日もブルーがぶつけた我儘、「ぼくにキスして」。
 キスはしないと言っているのに、少しも懲りない小さなブルー。
 「諦める」ということもしないで、チャンスと思えば直ぐに言い出す。
 「ぼくにキスして」だの、「キスしてもいいよ」だのと、一人前の恋人気取りで。
(我儘なヤツめ…)
 もっと「我慢」を覚えて欲しい、と思ったりもする。
 「我慢」に「辛抱」、柔道部員には厳しく指導していること。
 心技体を鍛える武道が柔道、その道を志したからには、「しっかりやれ!」と。
 我儘ばかりを言っていたなら、上達などはしないから。
 朝早くから登校しての朝練、「眠いから」と家で眠っていたなら話にならない。
 我慢して起きて、顔を洗って、制服に着替えて登校してこそ。
(でもって、練習が辛くったって…)
 グッと堪えて其処で辛抱、自分自身を叱咤するのが次の段階へと進む早道。
 「我慢だ、我慢」と、「辛抱しないと置いてかれるぞ」と。
 他の部員はせっせと練習しているのだから、サボッた分だけ遅れる上達。
 朝練にしても、放課後の部活の時間にしても。
(柔道部員の辞書ってヤツには、「我儘」なんぞは…)
 載ってないんだ、とチビのブルーを叱ってやりたい。
 「あいつらを少しは見習わないか」と、「お前のはただの我儘だ!」と。
 もっとも、それを言った所で、相手はブルーなのだから…。
(ぼくには柔道なんかは無理、ってトコだな)
 前と同じに弱く生まれてしまったブルー。
 今の時代は誰もがミュウだし、前の自分たちが生きた頃とは違う。
 マラソン選手もサッカー選手も、ミュウばかり。
(ミュウは何処かが欠けているってのも…)
 とっくの昔に過去の話で、今のミュウなら健康そのもの。
 だからブルーも丈夫に生まれ変わっていたって、何処も不思議ではないというのに…。


(前と同じに弱いんだ…)
 可哀相に、とブルーの弱い身体を思う。
 体育の授業は見学ばかりで、そうでない日も途中で休む。
 「これ以上は無理」と思った時には、自分から手を挙げて、皆と離れて。
(そんなあいつに、柔道部員の心得なんぞを…)
 叩き込もうっていう方が無理だ、と分かってはいる。
 「我慢」と「辛抱」、それをブルーに当てはめたならば、大変なことになるだろう。
 熱があっても登校するとか、身体が悲鳴を上げていたって、体育の授業を受け続けるとか。
(俺がウッカリ言おうモンなら、思い込みってヤツで…)
 もう何もかもを「我慢」で「辛抱」、待っているのは「寝込む」ことだけ。
 弱い身体が壊れてしまって、ベッドから起き上がれずに。
 学校でパタリと倒れた時にも、意識なんかは失くしてしまって。
(それも、あいつの我儘だよなあ…)
 自分の我儘を通した結果。
 「ハーレイがこう言っていたもの」と、「我慢」で「辛抱」。
 熱があるのを隠しておくとか、気分が悪くなって来たのに、黙って体育を続けるだとか。
(周りの迷惑というヤツをだ…)
 まるで考えないのがあいつ、と光景が目に見えるよう。
 「ハーレイが言っていたもんね!」と「我慢」で「辛抱」、張り切った末に倒れるブルー。
 保健室へと運ばれた後は、其処のベッドに寝かされて…。
(あいつのお母さんが呼ばれて、迎えに来て…)
 タクシーで家に連れて帰って、ブルーのベッドに押し込むのだろう。
 朝の間に「熱があるよ」と言っていたなら、登校するのを止めさせるだけで済んだのに。
 体育の授業で無理をしなければ、いつも通りに「自分で」帰って来たろうに。
(お母さんが大いに大変な上に、俺だって…)
 ブルーが学校で倒れたと聞けば、帰りは見舞いに行かなくては。
 食欲がまるで無いとなったら、スープ作りも必要になる。
 前のブルーがとても好んだ、素朴な野菜スープを作って食べさせることが。


 何種類もの野菜を細かく刻んで、基本の調味料だけで煮込んだスープ。
 「野菜スープのシャングリラ風」の出番が来そうな、ブルーが倒れてしまった時。
 それも「我慢」と「辛抱」の末に、我儘を通して頑張った果てに。
(まったく、今のあいつときたら…)
 何処まで我儘に出来てるんだか、と思ってみたって始まらない。
 今のブルーはチビの子供で、もうそれだけで「我儘」だから。
 「我慢」も「辛抱」も辞書には無くって、やりたい放題、言いたい放題。
 「ぼくにキスして」だの、「キスしてもいいよ?」だのと。
(…何処に我慢を置いて来たんだ!)
 前のあいつは、ああじゃなかった、と前のブルーを思ったけれど。
 ソルジャー・ブルーだった頃のブルーを頭に浮かべて、今との違いを嘆いたけれど。
(いや、待てよ…?)
 前のあいつは、今とは逆で…、と美しかった人を思い出す。
 「ソルジャー・ブルー」と呼ばれる前から、前のブルーは「我慢」と「辛抱」。
 自覚があったかどうかはともかく、我儘などを言ってはいない。
(ジャガイモだらけの飯が続こうが、キャベツだらけの毎日だろうが…)
 船の仲間たちが不満だらけでも、「美味しいよ」と食べていたのがブルー。
 好き嫌いの一つも言いはしないで、いつも笑顔で。
 そんなブルーが大きくなったら、何もかも船の仲間が優先。
 白いシャングリラで採れた作物、それを「ソルジャーに」と最優先で回しても…。
(ぼくよりも、子供たちに、って…)
 譲ってしまうのが常のこと。
 ほんの少しだけ自分用に取って、「残りはみんなで食べてくれれば」と。
 「でも、みんなには行き渡らないから、子供たちにでも」と。
 そうやって生きて「我慢」に「辛抱」、前のブルーの「我儘」は知らない。
 我儘などは言いもしないで、三百年以上も生き続けて…。
(…逝っちまったんだ…)
 皆のためにと、命を捨てて。ただ一人きりで、メギドを沈めて。


(もしも、あいつが我儘だったら…)
 ああいう最期を選んではいない。
 「我慢」と「辛抱」の最たる最期を、一人きりでのメギドでの死を。
(俺にも一緒に来いと言うとか、そもそもメギドに行かないだとか…)
 きっとそうだ、と気付いた途端に、愛おしくなったブルーの「我儘」。
 今のブルーはチビだけれども、とても自分に素直だから。
 「我慢」と「辛抱」が足りないけれども、我儘放題の日々なのだけれど。
(…前のあいつのことを思えば…)
 我儘なあいつの方がマシだな、と零れた笑み。
 今は少々厄介だけれど、あの調子ならば、前のようにはならない。
 悲しい別れが待ってはいなくて、ブルーは我儘放題で…。
(俺の側から離れないってな)
 間違いないぞ、と嬉しくなるから、これでいい。
 小さなブルーが我儘でも。
 「我慢」と「辛抱」を教えない方が、マシそうなチビの子供でも…。

 

         我儘なあいつ・了


※ブルー君の我儘に手を焼いているハーレイ先生。「我慢と辛抱を知らんのか!」と。
 けれど、それをした前のブルーは、ああいう最期。それを思えば我儘放題の方がずっと幸せv







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(昔々、って始まるんだよね…)
 ずっと昔のいろんなお話、と小さなブルーが思ったこと。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は訪ねて来てくれなかった恋人、前の生から愛したハーレイ。
 そのハーレイは今は古典の教師で、遠い昔の小さな島国、日本の古典を教えている。
(古典の授業で教わるヤツは…)
 いわゆる名作、「昔々」で始まる「昔話」とは違うもの。
 「これは昔話で読んだよ」と思う中身でも、もっと格調高い文章。
 そういう古典も、「昔々」と始まる昔話も、遥かな昔に生まれたもの。
 SD体制の時代を経たって、失われはせずに残り続けた。
 前の自分が生きた頃にも、データベースを探っていったら、きっと出会えただろうから。
(昔々かあ…)
 もう本当に昔だよね、と前の自分の時代を思う。
 死の星だった地球が青く蘇るほどに、長い時間が流れ去ったから。
 これほどの時が経った今なら、前の自分も昔話の主人公になれていそうな感じ。
 「ソルジャー・ブルー物語」だとか、「シャングリラ物語」といった具合に。
 けれど、一つも聞いたことが無い。
 前の自分のも、ジョミーやキースの昔話も。
(…伝記だったらあるんだけれど…)
 写真集だってあるのだけれども、昔話は一つも無い。
 原因はきっと、「英雄」になってしまったせい。
 おまけに豊富に残っているデータ、それでは「話を作れはしない」。
 「こうだったならば、面白いのに」と誰かが思い付いたとしても。
 それを書こうと挑んでみたって、あちこちから文句が来るのだろう。
 「こんな話は間違っている」とか、「でたらめなことを書くんじゃない」とか。


 昔話が幾つも生まれた時代は、人間が地球しか知らなかった頃。
 有り得ないような不思議なことでも、「起こりそうだ」と誰もが信じた時代。
 だから色々な昔話が生まれて、次の世代に伝わった。
 語り伝えたり、書き残したりと、大勢の人が馴染める形になって。
(竹の中から、かぐや姫が生まれて来るだとか…)
 桃から生まれる桃太郎とか、どう考えても現実には有り得ないことばかり。
 それでも昔話は残って、沢山の人に愛された。
 前の自分たちが生きた時代は、それどころではなかったけれど。
(機械が文化を統一しちゃって、いろんな文化を消しちゃったのも酷いけど…)
 人間までが人工子宮から生まれる有様、かぐや姫など生まれはしない。
 もちろん、桃太郎だって。
(人工子宮は人工子宮で、竹でも桃でもないもんね?)
 どう頑張っても「かぐや姫」も「桃太郎」も無理、と浮かべた苦笑。
 まるで全く夢が無い時代、そんな時代に幕を下ろしたのが前の自分たち。
 今も記念墓地に墓碑があるほど、「英雄」と称えられる人間。
(そんな偉い人の昔話を、好き勝手に作ったりしたら…)
 研究者ばかりか、その英雄のファンからも苦情が届くのだろう。
 「ジョミーはそんな人間じゃない」だの、「キースの人生は、そうじゃなかった」だの。
(…ぼくなら、好きに書いて貰っても…)
 いいんだけどな、と思わないでもない。
 ソルジャー・ブルーの昔話が生まれていたなら、きっとワクワク読むだろう。
 「この先は、いったいどうなるの?」と、食い入るように。
(…本当はメギドで死んでいません、って…)
 書いてあっても怒らない。
 キースに銃で撃たれもしないで、無事に脱出していても。
 白いシャングリラには戻らないまま、何処かでひっそり生き延びていても。
 小さな星を一つ見付けて、その上で薔薇を育てるだとか。
 「星の王子様」の話みたいに、星の大敵のバオバブの木を退治しながら。


(…ぼくは文句を言わないんだけどな…)
 本当の自分の最期は悲しく、とても辛くて惨いものでも。
 ハーレイの温もりを失くした右の手、それが凍えた記憶が今も残っていても。
(でも、昔話…)
 無いんだよね、と残念な気分。
 それがあったら、楽しめるのに。
 生まれ変わった自分だからこそ、「本当はこうじゃなかったけれど」と、ページを繰って。
(うーん…)
 遠慮しないで誰かが書いてくれていたら、と思ってはみても、無理なのも分かる。
 データが沢山残りすぎていて、誰にとっても「SD体制を倒した英雄」。
 話を勝手に作っていったら、文句や苦情がきっと山ほど。
 それでは誰も書きはしなくて、昔話は生まれないまま。
(…昔話があったら、ハッピーエンドも一杯…)
 昔話のお決まりの文句、「めでたし、めでたし」で結べるように。
 前の自分はメギドで死なずに生き残っていて、薔薇を育てるとか、ひっそり畑を耕すだとか。
(ジョミーやキースも死んじゃったけど…)
 やっぱり死なずに脱出したとか、そうでなければ夜空の星になったとか。
 星や星座の昔話に、そういったものは多いから。
 地上での命が尽きた後には、空に昇って星座や星に姿を変えた人が沢山。
(だけど、ジョミー座も、キースの名前がついた星も無いし…)
 昔話を作れる余地は無かったんだ、と思うとつまらない。
 「一つくらい、あってもいいのに」と。
 あの時代に生きた記憶があるから、なおのこと。
(もっと夢があればいいのにね…)
 最後はハッピーエンドになって、と「昔話」を思い描いてみる。
 地球の地の底で、ジョミーとキースが宝物をドッサリ見付けるだとか。
 グランド・マザーが壊れた後から、大判小判がザックザク。
 それを二人で背負って無事に脱出したなら、「めでたし、めでたし」なんだけど、と。


 他にも何か…、と考える内に、気付いたこと。
 ハッピーエンドの昔話には、恋の話も多いけれども…。
(前のぼくと、ハーレイ…)
 白いシャングリラで生きた恋人同士で、生まれ変わってさえ出会えたくらい。
 それほどに深い絆があるのに、前の自分たちは恋を隠し続けた。
 ソルジャーとキャプテンの仲が知れたら、船の仲間たちは皆、背を向けるに違いないから。
 「何でも二人で決めるのだろう」と、「そんなヤツらに従えるか」と。
 そうなってしまえば船はバラバラ、もはや纏めることは出来ない。
 地球にも辿り着けはしなくて、いつ沈むかも危ういほど。
(それじゃ駄目だし…)
 前の自分も、ハーレイも、誰にも恋を明かさなかった。
 最後の最後まで隠し通して、何も書き残してさえいない。
(…あれじゃ、恋人同士だったこと…)
 誰も気付いてくれはしないし、昔話だって生まれはしない。
 前の自分とハーレイの恋は、昔話の中でさえ…。
(ハッピーエンドにならないんだよ…!)
 そもそも、「恋」が無いものだから。
 恋した事実を誰も知らないなら、昔話だって作りようがない。
 誰かが知ってくれていたなら、出来ていたかもしれないのに。
 前の自分がメギドで死んでも、それでハーレイとの恋が消えても。
(死んだら、鳥の姿になって…)
 二人で飛び去った、悲しい恋人たちもいた。
 命ある間には叶わなかった恋を、鳥の世界で実らせようと。
 蝶に変わって、片時も離れず、舞い続けていた恋人たちだって。
 前の自分とハーレイの恋も、昔話の中なら実った。
 誰かがそれを書いてくれれば、つがいの鳥やら、蝶やらになって。
 前のハーレイが地球で命尽きたら、死の星の底から、二羽の鳥が空へ飛び立つだとか。
 何も棲めない筈の死の星、その上に二匹の蝶がいつまでも舞っていたとか。


 悲しい恋に終わっていたって、昔話ならハッピーエンドに出来る。
 「可哀相だ」と思った誰かが、「幸せになって欲しかった」と願って話を作りさえすれば。
(だけど、誰にも知られてないんじゃ…)
 ハッピーエンドになる筈がない。
 前の自分の昔話を誰かが作ってくれたとしたって、ハーレイは何処にも出て来ない。
(せいぜい、話の脇役で…)
 最後に恋が実りはしなくて、「めでたし、めでたし」と終わりはしない。
 ソルジャー・ブルーがメギドで死なずに、生き残っている話でも。
 キャプテン・ハーレイが無事に地球から逃れて、ジョミーたちと宝を山分けにする話でも。
(…酷くない?)
 ハッピーエンドが無いなんて、と思ったけれど。
 昔話の世界の中でも、前のハーレイと幸せになれはしないのだけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
 今の自分は、生まれ変わって青い地球の上。
 ハーレイも同じに生まれて来たから、いつか自分が大きくなったら一緒に暮らす。
 プロポーズされて、結婚式を挙げて、幸せに。
 誰にも恋を隠すことなく、祝福されて。
(…今のぼくたち、鳥でも蝶でもないけれど…)
 前と同じに人間だけれど、今度は恋を実らせる。
 そうして二人一緒に暮らして、デートもドライブも、それに旅行も。
(…ちゃんとハッピーエンドじゃない…!)
 絵に描いたようなハッピーエンド、と嬉しくなった。
 「昔話でも駄目みたい」と思っていたのに、ハッピーエンドが待っている。
 それも人間の姿のままで。…前とそっくり同じ姿で。
 昔話ならば、鳥や蝶になってしまうのに。…恋は実っても、姿が変わってしまうのに。
(なんだか凄い…)
 昔話よりもずっと凄い、と零れた笑み。
 今度の恋はハッピーエンドで、幸せな恋。
 誰も書いてはくれないけれども、前の自分たちの悲しい恋が、幸せな恋に変わるのだから…。

 

          昔話ならば・了


※「昔話でもハッピーエンドにならないみたい」と、思ったブルー君。「酷くない?」と。
 けれども、今度はハッピーエンドの恋が出来るのです。昔話よりもずっと、素敵ですよねv








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