「えーっと、ハーレイ…?」
ちょっと質問があるんだけれど、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後の、お茶の時間の真っ最中。
テーブルを挟んで向かい合わせで、赤い瞳でじっと見詰めて。
「質問だって…?」
嫌な予感しかしないんだがな、とハーレイは顔を顰めた。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、とんでもない。
何か企んでいるのが普通で、真面目に聞いたら、馬鹿を見る。
すっかり馴染んでしまっただけに、今日もそれだと考えた。
(どうせ、ろくでもないことなんだ)
およそ聞くだけ無駄ってモンだ、と思ったのだけれど…。
「そう言わないで、ちょっとだけ…」
ね? とブルーは愛らしく笑んだ。
ハーレイに「否」を言わせないよう、それは無邪気に。
(……こう言われると、弱いんだよなあ……)
ついでに、この顔、と呆気なく崩れるハーレイの防壁。
前の生から愛したブルーに、冷たい態度が取れるわけがない。
ろくでもない結果が待っていようと、頼み込まれたら。
おまけに可愛らしい笑みまでセットで、お願いされたら。
「仕方ないな…。質問するなら、簡潔に言え」
「ありがとう! いい子と悪い子、どっちが好き?」
ハーレイの好きな子供はどっち、とブルーは膝を乗り出した。
「どっちがハーレイの好みなのかな」と。
「はあ?」
「だから、いい子と悪い子だってば!」
ハーレイは悪ガキだったんだよね、というブルーの指摘。
「すると悪ガキの方がいいの?」と、興味津々で。
(なんだ、マトモな質問じゃないか)
こういうヤツなら大歓迎だ、とハーレイは大きく頷いた。
ついでに子供は大好きなのだし、こんな質問も悪くない。
「そうだな、俺は悪ガキだったわけだが…」
「それじゃやっぱり、悪い子がいい?」
「場合によるかな、たとえば、俺がサンタクロースなら…」
うんと悩むぞ、クリスマス前に、子供の評価で。
悪ガキにもプレゼントを持ってってやるか、どうするかで。
あんまり悪戯ばかりのガキじゃあ、おしおきってのも…。
必要だしな、とウインクした。
「いい子と悪い子は程度によるな」と、「要はバランス」と。
うんと悪ガキでも、根っこは悪くないんだから、と。
そうしたら…。
「だったら、うんといい子にしてたら…」
クリスマスにキスをしてくれる? と言い出したブルー。
「プレゼントを持って来てくれるのなら、それがいいな」と。
「馬鹿野郎!」
今のは例え話ってヤツだ、とブルーの頭に落とした拳。
「お前にキスは、まだ早い」と。
「第一、俺はサンタクロースじゃないだろうが!」と。
そして心で悪態をつく。
こいつは立派な悪ガキだ、と。
いい子にするなど聞いて呆れると、また騙された、と…。
いい子にしてたら・了
(双子って、いるよね…)
不思議な力で繋がった子たち、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ぼくの友達には、いないんだけど…)
何度も見かけている双子。
今の学校にもいるかもしれない、瓜二つの顔をした子たち。
(一卵性双生児…)
母親の胎内に宿った卵子が、何かのはずみで二つに分かれる。
すると生まれて来る、そっくりな子たちが一卵性の双子。
(繋がっているらしいよね?)
心の何処かが、と聞いてはいる。
片方の身に何かあったら、もう片方にも伝わるらしい。
サイオンを使っていなくても。
思念波で連絡を取っていなくても、「何かあった」と感じ取れるのが双子の兄弟。
(…シャングリラにも…)
いたんだっけね、と遥かな時の彼方を思う。
一卵性ではなかったけれども、心が繋がった双子の兄妹。
白い箱舟にいた、ヨギとマヒルという子供。
(いつだって、手を繋いでて…)
片方が喋った言葉を、もう片方が、復唱するかのように喋った。
「ソルジャー、遊ぼう」とヨギが言ったら、マヒルが「遊ぼう、ソルジャー」などと。
だから今でもよく覚えている、印象的な子供たち。
さほど接点は無かったけれども、「船にいたよ」と。
一卵性の双子でなくても、白いシャングリラにも「双子がいた」と。
(……んーと?)
ヨギとマヒルが一卵性の双子だったら、もっと面白かっただろうか。
言葉を復唱するだけではなくて、他にも特技があったとか。
(…どうなのかな?)
人間が全てミュウになった今の時代でも、一卵性の双子は特別。
「サイオンを使わなくても、繋がっている」という点で。
(じゃあ、サイオンを使ったら…)
もっとシンクロするのだろうか、まるで二人で一人のように。
特訓なんかは全く無しでも、即興のダンスで同じステップを踏めるとか。
(……そうなのかもね?)
だったら凄い、という気がする。
もしも「彼ら」に才能があれば、アッという間にスターになれそう。
誰もが惹かれる素敵な外見、それに歌声でもあれば。
(…デビューした途端に、ファンがつくよね?)
女の子の双子がデビューしたなら、大勢の男子が熱狂する。
逆に男子なら、女性のファンが群がるだろう。
(…ぼくは、そういうのに疎いから…)
知らないけれども、もしかしたら、過去にはいたかもしれない。
一卵性の双子に生まれて、一世を風靡した大スターが。
歌も姿も超一流で、ステージで披露するダンスも素晴らしかった双子が。
(ぼくだって、見惚れちゃいそうだよ…)
そんな双子のステージだったら、きっと魂を奪われて。
「なんてダンスが上手いんだろう」と、「歌も凄いよ」と。
なんと言っても、二人が「そっくり」なのだから。
歌声もステップも見事にシンクロ、少しもズレたりしないのだから。
そういう歌手っているのかな、と首を捻っても、足りない知識。
日頃、興味が無い世界だから、手も足も出ない。
(…だけど、いたなら、絶対、凄い…)
それこそ宇宙が熱狂するよ、とチビの子供の自分でも分かる。
もう文字通りにスーパースターで、引く手あまたの有名人になるだろう、と。
(……ちょっと待ってよ?)
もしも、ぼくが双子だったなら…、と思い付いたこと。
「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりの自分は、正真正銘、ソルジャー・ブルー。
今では記憶も戻っているから、自分でも疑いようがない。
ただし、そのことを知っている者は、たった四人しかいないけれども。
(パパとママと、病院のお医者さんと、ハーレイ…)
彼ら以外は、全く知らない「本当のこと」。
ついでに言うなら、この春、前の生の記憶が戻るよりも前は…。
(…自分でも、よく似てるよね、って…)
思っていたのが「ソルジャー・ブルー」という存在。
今の平和な時代の始まりになった、大英雄の「ソルジャー・ブルー」。
おまけに、「自分で言うのは厚かましい」けれど、とても美しかったから…。
(写真集とかがドッサリ出ていて、大人気で…)
そんな「ソルジャー・ブルー」に似ていた自分は、幼い頃から注目された。
大英雄と同じアルビノな上に、顔立ちまでが似ている子供。
いったい何度、大人たちに言われたことだろう。
「小さなソルジャー・ブルー」だ、と。
両親も充分、承知だったから、髪型まで「ソルジャー・ブルー」風。
幼稚園の時には、とっくにそういうヘアスタイル。
だから街でも、公園などでも、何人もに声を掛けられたもの。
それだけ目立っていたのだったら、その姿で双子だったなら…。
(…スカウトされてた?)
もしかしたなら、幼い頃に。
育てばスターになれそうだからと、芸能界のスカウトマンに。
(…本当に、双子だったなら…)
有り得たよね、と思うスターへの道。
いくら身体が弱いと言っても、双子だったら、今よりはマシ。
(繋がってるから、二人ともダウンしちゃうかもだけど…)
そうならないよう、マネージャーがしっかり、スケジュールを管理。
身体が慣れるまでの間は、交代でステージに立つだとか。
(それなら、使う体力も半分…)
片方はしっかり休めるわけだし、その間に充分、休養できる。
(…それに、ベッドに転がってたって…)
もう片方が立つステージのことは、きっと分かるに違いない。
観客たちの声援だって、煌めく照明などだって。
(サイオン、うんと不器用だけど…)
それでもミュウには違いないから、双子だったら、事情は変わる。
互いの間なら「通じる」全て。
きっと同じにステップが踏めて、即興のダンスでも、見事にシンクロ。
そこへ「ソルジャー・ブルー」にそっくり、これでスターになれない方が…。
(……おかしいよね?)
今の姿だと、まだ小さいから、それほど有名ではないかもしれない。
けれど将来は期待できるし、先を見越したファンもつきそう。
(でもって、前のぼくだった頃と、そっくり同じに育ったら…)
もう間違いなくトップスターだ、という気がする。
何と言っても、今の時代も、大人気なのが「ソルジャー・ブルー」。
大英雄だからというだけではなくて、美しかった容姿のせいで。
その再来のような歌手が登場、しかも双子となったなら…。
(ホントに人気で、何処へ行っても…)
ファンに囲まれ、握手攻めになることだろう。
考えたことも無かったけれども、そういう人生も、きっと有り得た。
一人息子に生まれる代わりに、一卵性の双子だったなら。
トップスターになる自分。
双子の兄弟とステップを踏んで、歌を歌って。
(ちょっと、いいかも…?)
楽しいかもね、と思ったけれども、その場合…。
(……ぼくの名前は?)
今の自分は、前と同じに「ブルー」という名を付けて貰った。
「ソルジャー・ブルー」と同じアルビノだからと、彼の名前にあやかって。
生まれた子供は一人だったから、「ブルー」に決まったのだけれど…。
(双子だったら、どうなっちゃうの?)
両方「ブルー」に出来はしないし、別の名前を付けただろうか。
それとも一人に「ブルー」と名付けて、もう一人には別の名前だとか。
(…ソルジャー・ブルーと対にするなら、ジョミーとか?)
あるいは「ブルー」の「青」に揃えようと、他の言葉での「青」にするとか。
(地域によって、言葉は色々…)
それを端から調べていったら、似合いの「青」もあるかもしれない。
「ブルー」と響きの似たものが。
双子の息子に名付けてやるのに、丁度いいのが。
(…ぼくの名前は、どっちになるの?)
ブルーの方か、別の方なのか。
前の生の記憶が戻る前なら、どちらだろうと気にしない。
けれども、記憶が戻って来たなら、名前が「ブルー」でなかったら…。
(……凄く悲しい……)
今度も「ブルー」に生まれて来たのに、違う名前で呼ばれるなんて。
前の自分が持っていた名が、そっくりな顔の兄弟の名前になるなんて。
(…悲しすぎるよ…!)
そんなのは、と思った所でハタと気付いた。
「ブルー」の名前を持っている方も、「ブルー」なのかもしれない、と。
自分と同じに前の生がある、「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりかも、と。
(…一つの卵子が、何かのはずみに…)
二つに分かれて生まれて来るのが、瓜二つの姿を持った一卵性双生児。
それなら二つに分かれる時に、魂も分かれるかもしれない。
「ソルジャー・ブルー」の魂が二つ、そういう双子。
(……スターを目指して、頑張ってる間はいいけれど……)
前の生の記憶を取り戻したなら、とても大変なことになる。
そっくり同じな魂が二つ、もちろん恋した相手も同じ。
ハーレイと巡り会った途端に、二人とも「ハーレイに恋をする」。
前の生からの恋の続きを、青い地球の上で生きてゆきたくて。
今度こそ二人、何処までも手を繋ぎ合って、と。
(…でも、ぼくは二人…)
ハーレイも途惑うだろうけれども、自分たちだって、大いに困る。
もしもスターを目指していたなら、まずは、その道を捨てなければ。
(……忙しすぎて、ハーレイとデートも出来ないもんね?)
だから引退、と言い出した途端、もう片方と喧嘩になる。
「どちらが引退するのか」で。
何故なら、引退していった方は、「ハーレイと結婚する」のだから。
それにスターは「二人揃っていてこそ」、ソロで活動しても有名になれるかどうか。
(…片方は結婚して幸せなのに、もう片方は…)
結婚も出来ず、人気も出ないで、散々な人生になるかもしれない。
「ハーレイ」は一人しかいないから。
なのに「ブルー」が二人いたなら、一卵性の双子だったなら。
(……大喧嘩した上、喧嘩に負けたの、ぼくの方なら……)
とんでもない悲劇が待っていそうだから、自分は、双子でなくて良かった。
前の生の記憶が戻る前なら、とても楽しく生きられても。
ソロでもスターになれたとしたって、それよりもハーレイの側がいいから…。
双子だったなら・その2・了
※もしも双子に生まれていたら、とブルー君が想像してみた人生。スターになれそう、と。
けれど魂も同じだった場合、待っているのは悲劇なのかも。双子でなくて良かったですよねv
※なんで「その2」があるのか、と言えば…。
「ブルーのバージョン、書いてなかったよね?」と書き終わってから気付いた悲劇。
書いていたことをすっかり忘れていました、お蔵入りも辛いし、「その2」ってことで…。
(双子かぁ……)
たまにいるよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今の時代は、双子というのは珍しくない。
瓜二つの双子も、似ていない双子も、男女の双子も。
(ぼくの学年には、いないんだけど…)
学校全体なら、何組かいるのが双子たち。
街や公園に出掛けた時にも、「あっ、双子だ」と目を瞠ったことが何度も。
(そういえば、前のぼくの頃にも…)
いたんだっけ、と双子の兄妹を思い出した。
白いシャングリラにいた、ヨギとマヒルという双子。
彼らは少し変わった子供で、いつでも「何処かで」繋がっていた。
幼い頃には本当に手を繋いでばかりで、片時も離れようとはしなかったほど。
(片方が喋った言葉を、もう片方が…)
まるで復唱するかのように、そっくりそのまま喋ったりもした。
主語と述語が逆になっていても、言葉の中身は全く同じ。
(他の子たちと喋る時には、普通なんだけどね?)
ヨギはヨギとして会話が出来たし、もちろんマヒルも。
なのに二人が「同じ言葉」を口にすることが、何度も、何度も。
(……あれだと、ミュウだとバレない方が……)
おかしいのだから、シャングリラに来たのも無理はない。
とはいえ、彼らは幸運な方。
シャングリラに迎え入れられたのだから。
誰にも知られず、赤ん坊の頃に抹殺された双子の方が、きっと多かっただろうから。
(あんな風に何処かで繋がってるんじゃ…)
きっと言葉を発する前から、双子の子たちは「繋がっている」。
ヨギとマヒルは、男女の双子だったけれども…。
(そっくりな、一卵性の双子だと…)
もっと繋がりが強くなるから、養父母も「変だ」と気付くだろう。
「うちの子たちは何処か違う」と、「普通の子ではなさそうだ」と。
機械が統治していた時代は、徹底していた養父母ヘの教育。
(……ミュウ因子の存在は、隠されてたけど……)
異分子の排除はSD体制の根幹なのだし、機械はそういう風に教えた。
「普通ではない子供がいたなら、直ぐに通報するように」と。
通報した結果が「どうなる」のかは、養父母たちにも教えはせずに。
(…だから、双子に生まれた子供は…)
思念さえも紡げないくらいに幼い間に、ユニバーサルに処分されたのだろう。
彼らの「悲鳴」が届かない限り、救いの手は伸びて来ないから。
前の自分も、救助班の者も、「彼ら」を知りようもなかったから。
(……ごめんね……)
本当にごめん、と前の自分が救えなかった子たちに詫びた。
もっとも、彼らも、とっくの昔に…。
(ぼくと同じで、生まれ変わって…)
幸せに暮らしていることだろう。
地球にいるのか、他の星かは分からないけれど。
前の悲しかった最期は忘れて、のびのびと。
人間が全てミュウになった今では、誰も彼らを抹殺したりはしないから。
(今の時代だと、双子の子供に生まれて来たら…)
楽しいことが山ほどありそう。
なにしろ双子は「繋がっている」から、普通の兄弟とは違う。
ヨギとマヒルの頃よりも、もっと自然に「繋がった」彼ら。
他の学年にいる双子の噂は、たまに耳にすることがある。
(サイオンを使わなくても、通じてる、って…)
別の教室で座っていたって、相手の身に起こっていることなどが。
「今、先生に叱られた」だとか、そんな具合に。
(……ぼくも、双子に生まれていたら……)
分身の術が使えたのかな、と考えてみる。
姿形がそっくり同じな双子の兄弟、それなら自分が「二人いる」感じ。
家にいたって、片方は庭で、もう片方はリビングだとか。
(宿題とかも、二人でやったら早いのかも…?)
同じ宿題を出されたのなら、分業で。
「ぼくは、この問題を解くから」と言えば、もう片方が「ぼくは、こっち」と。
(学年が違う兄弟だったら、これは不可能…)
双子でないと出来ないよね、と広がる想像。
それに「何処かで繋がっている」なら、おやつで迷った時だって…。
(どっちのケーキを食べようか、って悩まなくても…)
二人で別のケーキを食べれば、きっと満足できるだろう。
お互いが食べたケーキの味わい、それが伝わってくるだろうから。
まるで自分が食べたかのように、「美味しかった」と。
(…なんだか、色々、得しそうだよね?)
双子に生まれたかったかも、と眺めた鏡。
「もう一人、そっくりな自分」がいたなら、何かと楽しそうだから。
それにお得なことも沢山、人生だって、二倍、楽しめそうだから。
ちょっぴりいいな、と思った双子。
一卵性で、姿形が瓜二つ。
(でも、ちょっと待って…?)
ハーレイのことはどうするの、と気付いた、前の生での恋人。
青い地球の上に生まれ変わって来て、また巡り会えた愛おしい人。
もしも双子に生まれていたなら、そのハーレイと再会するのは…。
(…どっちか片方だけになっちゃう?)
一卵性の双子の場合は、魂まで分けているかもしれない。
元は「ソルジャー・ブルー」だった魂、それを二人で半分ずつ。
(だけど、魂が半分ずつでも…)
今のハーレイと出会う時には、多分、同時とはいかないだろう。
幼稚園児の頃ならともかく、今の学校ほどの年になったら、クラスは別々。
同じクラスに同じ顔が二人は、なにかと面倒なものだから。
(そうなると、ハーレイが先に授業に行ったクラスで…)
出会った方の双子の片割れ、そちらがハーレイと再会を遂げる。
右の瞳や、両方の肩から血を溢れさせて。
身体に刻まれた聖痕が全部、怪我をしたように鮮血を噴いて。
(…魂は同じで、繋がってるから…)
別のクラスにいた片割れの方にも、聖痕は現れると思う。
そして記憶も戻りそうだけれど、残念なことに、ハーレイは「一人」。
(……ぼくが片方、余っちゃう……)
ハーレイは二つに分けられないから、感動の再会は「先に出会った」一人だけ。
救急車で病院に運ばれる時も、ハーレイが付き添うのは、そっちだけ。
(…もう片方には、保健室の先生…)
それとも、そこで授業をしていて、担任を持っていない先生だろうか。
どちらにしたって、ハーレイの付き添いは望めない。
同じように記憶が戻っていたって、「ハーレイに会えた」と知ったって。
ハーレイと教室で再会したのは、もう片方の自分だから。
いくら心は繋がっていても、身体の方は別々だから。
(…病院に着いたら、同じ病室かもしれないから…)
ハーレイに会えるかもしれないけれども、その後のこと。
記憶が戻った「ブルー」が二人、とハーレイが知ったら、どうなるのだろう。
(……ハーレイは、とても優しいから……)
二人に増えてしまった「ブルー」を、公平に扱ってくれそうではある。
そうする前には、「再会し損なった方」のブルーを、まず、思い切り甘やかして。
「お前についててやれなくてすまん」と、すまなそうに謝ったりもして。
(…それでも、キスはしてくれないよね?)
きっと抜け駆け禁止だろうし、ハーレイが決める「約束」も同じ。
ブルーが二人いようがいまいが、キスは「大きくなるまで」は駄目。
「前のブルー」と同じ背丈に育つまで。
前のハーレイが愛した姿になるまで、キスは我慢で、お預けのまま。
(……うーん……)
再会の場にいなかったお詫びに、キスが貰えるなら、「そちらの自分」も悪くない。
けれど、ハーレイはとてもケチだし、絶対にキスはしてくれない。
お詫びの印に甘やかしてくれても、キスだけは無理。
(だったら、再会する方の、ぼく…)
そっちでないと、と考えた所で、ポンと頭に浮かんだこと。
「ブルー」が二人いるというなら、ハーレイと結婚できるのは…。
(…もしかして、どっちか片方だけ?)
そうなっちゃうよね、と愕然とした。
ハーレイが二人いない以上は、選ぶ「お嫁さん」は一人だけ。
いくら「ブルー」が二人いたって、お嫁さんは二人も貰えはしない。
片方を選んで結婚するのか、それとも選ばずに独身でゆくか。
「俺のブルーだ」とハーレイが思う相手が、二人に分かれているのなら。
どちらも同じに「前のブルー」で、魂も姿も「同じ」なのなら。
(……酷くない?)
片方だけが「お嫁さん」なんて、と身が切られるよう。
たとえ「自分」が選ばれたとしても、もう片方の悲しみが分かる。
「ぼくは選んで貰えなかった」と、心の中にまで伝う涙が。
同じようにハーレイを愛しているのに、どうして自分は駄目だったのか、と。
(いっそ、日替わり……)
結婚するのは片方だけでも、結婚生活は一日交代。
そうすることも出来るけれども、戸籍の上では、結婚したのは…。
(…やっぱり、どっちか一人だけ…)
それを思うと、「結婚できなかった方」は悲しい。
恨みっこ無しのジャンケンをして、結婚する方を決めたにしても。
あるいはハーレイにクジを作って貰って、引いた結果が、それだったにしても。
(……悲しすぎるってば……!)
ハーレイのお嫁さんになれないなんて、と気が狂いそう。
おまけに日替わりの結婚生活、いくらハーレイが優しくても…。
(毎日は同じじゃないんだよ…!)
夕食の献立だって違うし、毎日の出来事も違ってくる。
「片方の気持ち」が伝わる分だけ、「もう片方」の心も揺れる。
「どうして、ぼくの日じゃないの?」と。
「ぼくの日よりも、今日の方が良かった」と、「どうして取り替えられないの?」と。
(……ハーレイが独身を選んでも……)
今度は「結婚できない」のが辛くて、毎日、悲しむことになる。
「どうして、ぼくは双子だったの」と、「一人だけなら良かったのに」と。
(…もし、ぼくが、双子だったなら…)
そうなっちゃうんだ、と考えただけで怖くなるから、同じ顔の兄弟はいなくていい。
お得で楽しそうだけれども、記憶が戻ったら大変だから。
「前の自分」が二人になっても、ハーレイは一人きりなのだから…。
双子だったなら・了
※もしも双子に生まれていたら、と想像してみたブルー君。色々お得で楽しそうだ、と。
けれど、ハーレイ先生と再会した後が大変なのです。お嫁さんになれるのは一人ですしねv
(双子なあ……)
シャングリラにもいたんだっけな、とハーレイが懐かしく思い出した顔。
ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
愛用のマグカップにたっぷりと淹れたコーヒー、それをゆったり傾けていたら。
何が切っ掛けで「双子」なのかは、自分でもよく分からない。
双子座なんかは考えていないし、兄弟について考えていたわけでもない。
(でもまあ、世の中、そういうことも…)
ままあるもんだ、と分かっているから、続きを楽しむことにした。
せっかく「双子」が出て来たからには、気の向くままに追い掛けよう、と。
(……ヨギとマヒルか……)
白いシャングリラにいた、双子の兄妹の名前。
一卵性の双子ではなかったけれども、面白い特徴を持っていた。
(何かっていえば、二人で同じ言葉を…)
まるで復唱するかのように、片方が片方の言葉を追った。
そのままなぞっている時もあれば、主語と述語が逆になったり。
(あれは男女の双子だったが…)
それでも心が通じてたんだな、と今でも思う。
シャングリラの頃にも、そうだった。
「双子というのは不思議なものだ」と、彼らの言葉を聞く度に。
当時は「ミュウの箱舟」にいたから、サイオンのせいだと考えたけれど…。
(…実際は、もっと昔から…)
双子同士の不思議については語られてたな、と今なら分かる。
「今の自分」が、何処かで聞いた。
双子というのは、心の何処かが繋がっているものなのだ、と。
片方の身の上に何か起きたら、もう片方にもそれが伝わる。
サイオンなどは、誰も知らなかった昔から。
SD体制が敷かれる遥か前から、ヒトが地球しか知らなかった頃から。
母の胎内で「一緒に育って」生まれて来るのが、双子の子供。
胎児の形も成さない内から、ずっと一緒に育った兄弟。
(そりゃあ、心が繋がってても…)
不思議じゃないな、と「今なら」思う。
前の自分が生きた頃には、自然出産は禁忌とされていた。
機械が禁じた自然出産、子供は人工子宮で育って生まれて来るもの。
トォニィが生まれるまでの時代は、「そう」だった。
だから「双子の不思議」については、「サイオンのせい」で片付けていた。
サイオンを持った兄妹だから、普通以上に通じるのだと。
(よく考えたら、その説でいくと…)
ゼルとハンスも「そうなる」筈だし、どうやら詰めが甘かったらしい。
前の自分も、子供たちの教育を引き受けていたヒルマンでさえも。
(……一卵性でなくても、アレだったんだから……)
一卵性の双子だったら、もっと繋がりは深かっただろう。
言葉を互いに真似るどころか、互いの考えも瞬時に分かってしまうくらいに。
(実際、そうだと聞くからなあ…)
今の時代の「双子」たち。
人間が全てミュウになった今は、そういう双子は珍しくない。
「わざわざ」サイオンを使わなくても、ごくごく自然に繋がっているから…。
(…学校じゃ、悪戯小僧の定番…)
別のクラスに分けておいたら、入れ替わって教室にいるだとか。
教師相手の悪戯の時に、指揮官と参謀を務めるだとか。
(阿吽の呼吸というヤツで…)
息がピッタリ合っているから、逃げ足だって素晴らしいもの。
片方が「逃げろ」と思念を飛ばす前から、もう逃げ出しているのだから。
なにしろ片方に起こった「変事」が、直ぐに伝わるものだから。
教師にバレて捕まっただとか、まさに捕まりそうだとか。
(……面白いモンだな)
ヨギとマヒルよりも凄いんだから、と頭に浮かべる双子たち。
教師生活を始める前にも、後にも、一卵性の双子に出会って来た。
今から思えば、前の自分が生きた頃にも…。
(いたんだろうなあ、瓜二つの双子というヤツは)
SD体制の時代を創った機械は気まぐれ、たまに「兄弟」の子供を作った。
「一組の養父母に子供は一人」が、原則だった筈なのに。
だからゼルには弟がいたし、ヨギとマヒルは双子の兄妹。
一卵性の双子だったら、自然に生まれてくるけれど…。
(そうじゃないのに、双子ってヤツまでいたのなら…)
きっと一卵性の双子も、何人もいたことだろう。
前の自分が「出会わなかった」というだけで。
恐らくは、ミュウに生まれた場合は…。
(うんと早くにバレてしまって、処分されちまったんだ…)
ミュウだってことが、と容易に想像がつく。
白いシャングリラが救い出していた、ユニバーサルに追われる子供たち。
彼らは「ミュウだ」と通報されたか、その前に救い出されていたか。
いずれにしても、シャングリラが「把握できた」子だけが助かった。
前のブルーが思念を捉えただとか、潜入班が「その子」を見付けただとか。
サイオンを使い始めない限り、シャングリラでは彼らを捕捉できない。
(思考もハッキリしていないような、赤ん坊だと…)
ブルーでも見付けられなかっただろうな、と零れる溜息。
そして「彼ら」は、ユニバーサルに処分されたのだろう。
白い箱舟に、存在を知られることもなく。
彼らを育てた養父母たちに、「うちの子は変だ」と通報されて。
前の自分は出会わなかった、一卵性の双子。
何かのはずみで二つに分かれた、同じ卵子から育った子供。
(もしかしたら、今の俺だって…)
双子に生まれていたのかもな、と思い付いた、「その可能性」。
今の自分は自然出産で生まれた子供で、双子にだって「なり得た」存在。
母の胎内に宿っていた時、卵子が二つに分かれていたらなら、一卵性の双子。
(そうなっていたら、俺にそっくりな兄弟が…)
出来ていたわけで、きっと愉快な子供時代になっただろう。
双子の兄弟がよくやる悪戯、「入れ替わる」などは日常茶飯事。
(学校じゃ、うんと悪ガキになって…)
教師を相手に、それは沢山の悪さをしたに違いない。
大勢の仲間たちを率いて、指揮官と参謀役に分かれて。
「先生が来たぞ」と、思念波よりも早く、片割れに伝えて。
(流石に、今の年まで育てば、やらないだろうが…)
それでも互いに繋がっているから、仲の良い兄弟だろうと思う。
仕事帰りに「一杯やるか」と考えたならば、相手も同じ気分になって。
何の連絡もしていなくても、同じ店でバッタリ出会えるだとか。
(そいつは、なかなか愉快そうだぞ)
双子の兄弟が欲しかったかもな、という気がしてきた。
今の自分は両親の一人息子だけれども、まるで同じ顔が「もう一人」。
両親だって、子育てするのが楽しかったに違いない。
そっくり同じな姿の双子に、お揃いの服を着せたりして。
父の趣味の釣りに連れて行くにも、同じ釣竿を、それぞれに買って。
(釣りの腕前も、きっと似たようなモンで…)
親父たちにも、どっちがどっちか、分からないかもな、と可笑しくなる。
「ぼくは、こっち」と逆に名乗って、混乱させていたかもしれない。
名前を取り替えて一日暮らして、後で大いに笑うとか。
「上手くいった」と、兄弟で手を取り合って、ピョンピョン跳ねて。
(…双子でも、悪くなかったかもなあ…)
俺そっくりの兄弟ってヤツ、と広げる空想の翼。
二人揃って教師だったか、片方はプロのスポーツ選手になったか…。
(考え方までそっくりだったら、二人とも…)
教師だろうな、と思った所でハタと気付いた。
今の学校で出会った「ブルー」。
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が愛した恋人。
双子の自分が、今のブルーに出会った時には、どうなるのだろう。
(魂までが、二つに分かれていたら…)
先にブルーと出会った方だけ、前の記憶が戻るのだろうか。
それとも、そこは双子の不思議で、片割れがブルーと出会った途端に…。
(一瞬の内に伝わっちまって、そっちも記憶を取り戻すとか…?)
大いにありそうな話じゃないか、と鳶色の瞳を瞬かせた。
今のブルーとの「運命の再会」、それさえ共有していそうだ、と。
片方がブルーと再会したなら、もう片方までが駆け付けて来る。
仕事さえ途中で放り出して来て、「俺のブルーが帰って来た」と。
運命の恋人が戻って来たと、「やっと出会えた」と。
(……おいおいおい……)
ブルーは一人しかいないんだぞ、と思うけれども、双子だったら起こり得る。
魂までもが二つに分かれて、どちらも同じに「前のハーレイ」。
(俺が本物のハーレイだ、って叫んでも…)
片割れの方も全く同じで、きっとブルーにも選べない。
なにしろ、「二人ともハーレイ」だから。
ハーレイが二人に増えてしまって、ブルーにはお得かもしれないけれど…。
(俺は勘弁願いたいぞ…!)
恋人を兄弟で共有なんて、と心底、思うものだから、自分は一人息子でいい。
一卵性の双子は楽しそうでも、魂までもが分かれていたなら、大変だから。
ブルーを独占出来ない人生、それはあまりに悲しすぎるから…。
双子だったら・了
※もしも双子に生まれていたら、と考え始めたハーレイ先生。楽しそうだ、と。
けれど魂まで分け合っていたら、ブルーと再会した後が、とても大変。ハーレイが二人v
「ねえ、ハーレイ。証拠って、大切だと思う?」
意見を聞かせて欲しいんだけど、と小さなブルーが開いた口。
二人きりで過ごす休日の午後、テーブルを挟んで唐突に。
紅茶が入ったカップを前に、小首を傾げて。
「証拠って…。いったい、どうしたんだ?」
分からんぞ、とハーレイは首を捻った。
いきなり質問されても困るし、ブルーの意図が分からない。
(……ろくなことでは、ないような気が……)
するんだがな、と思うけれども、確証が無い所が厄介。
真面目に問われているのだったら、真剣に答えてやらないと。
(…こいつの中には、チビのブルーと…)
前のあいつが同居してるし…、と心の中で零した溜息。
どちらが問いを投げ掛けたのかは、全く分からないのだから。
(……失敗した時は、運が無かったと思うしかないな)
真面目にやろう、と腹を括ったハーレイ。
それでブルーの罠にはまったら、それから腹を立てればいい。
ろくでもない魂胆の質問だったら、頭に拳を落としてやって。
(そっちになりそうではあるんだが……)
まあいい、とブルーの赤い瞳を真っ直ぐ見詰めた。
「そうだな…」と、自分の意見を纏めて、腕組みをして。
「大切だと思うぞ、証拠ってヤツは」
いろんな場面で必要になる、と小さなブルーに語り掛ける。
証拠が無ければ、証明できないことが幾つもあると。
それは数学の証明にも似ていて、無ければ認めて貰えない。
いくら「本当なんです」と主張したって、見向きもされない。
証拠無しでは、誰も納得してくれないから。
「たとえば、だ…。ずうっと昔のSD体制の時代にしても…」
今の時代に知られているのは、証拠のお蔭だ、と説明した。
地球が死の星だった事実も、ミュウが迫害されていたことも。
白いシャングリラが飛んでいたことも、人類との長い戦いも。
何もかも、資料が残っているから、真実だったと証明できる。
神話や伝説の類ではなくて、本当に起きたことばかりだと。
「…そう言われれば、そうかもね…」
証拠が無ければ、伝説とかと変わらないね、と頷くブルー。
前の自分たちの生涯にしても、神話と同じ扱いかも、と。
「そうだろう? だから証拠は大切なんだな」
よく分かったろ、とブルーに微笑み掛けた。
「前の俺たちが生きた証拠があって、良かったな」と。
前のブルーの写真集まで売られているほど、証拠だらけで。
そうしたら…。
「大切だって思うんだったら、証拠をちょうだい」
でないとダメ、と小さなブルーが睨み付けて来た。
「チビのぼくでも愛してるんなら、証拠が無いと」と。
唇にキスしてくれるだけでいいと、でないと信じられないと。
「馬鹿野郎!」
やっぱり裏があったんだな、とコツンと頭に落とした拳。
「そんなことだろうと思っていたさ」と、力は加減して。
「真面目に答えてやったというのに、そう来たか」と。
(こいつも、分かっているくせに…)
証拠なんかは無くってもな、と愛する心は変わらない。
どんなにブルーが我儘だろうが、唇へのキスを強請ろうが。
前の生から愛し続けた、ただ一人きりの人なのだから…。
証拠をちょうだい・了
