「ねえ、ハーレイ。困った時には…」
人に頼る方がいいのかな、と小さなブルーが尋ねて来た。
二人きりで過ごす休日の午後の、お茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
何か困ったことでもあるのか、とハーレイの方も問い返す。
急に訊かれても、質問の答えを出すことは出来ない。
「俺に訊く前に、まずは訊きたいヤツというのを…」
きちんと整理してからにしてくれ、と注文をつけた。
ブルーが何で困っているのか、状況によって答えが異なる。
そう説明したら、ブルーは「分かった」と、素直に頷いた。
「あのね…。ぼくがハーレイに訊いているのは…」
解決までの道のりなんだよ、とブルーは少し首を傾げた。
ブルーが言うには、一般論を知りたいらしい。
何か困ったことが出来たら、自分で解決するべきなのか。
それとも人に頼っていいのか、どちらなのか。
「ハーレイは、どっちが立派だと思う?」
自力で解決してしまうのと、人を頼るのと、という質問。
「ふうむ…。困りごとにもよるだろうなあ…」
一般論にしたって、二通りだ、とハーレイは腕組みをした。
自力で解決か、人を頼るか、どちらも正解、と。
「えっと…? それって、どういう意味?」
分からないよ、とブルーはキョトンとしている。
「そうかもな。答えが二つじゃ、謎なんだろうが…」
本当に両方とも正しいんだ、とハーレイは解説し始めた。
「いいか、一つは、自分で解決するべきヤツで…」
困りごとの原因がハードルの時だ、とブルーに語る。
「自分で乗り越えなくちゃならん時には、ハードルだな」
「…ハードル?」
「ああ。分かりやすく言うなら、宿題もそうだ」
学校で出される宿題ってヤツは大事で、やらなきゃいかん。
それも自分で仕上げてこそで、人を頼っちゃいけないんだ。
自分の力がつかないからな。
「…そっか…。自分でやらなきゃ、意味が無いよね」
「分かったか? 難しそうに見えていたって、実はだな…」
宿題は出来ることしか出さない、と教師の立場から説いた。
「学校で習った知識の範囲で、答えは導き出せるんだ」
きちんと発展させてやればな、と宿題の意義も教えてやる。
知識をモノにしてゆくためにも、人に頼るな、と。
「そうだよね…。だったら、もう一つの正解の方は?」
人に頼るのは、どんな時なの、とブルーは興味深々らしい。
答えが二つあるというなら、もう一つは、と。
「そうさな、そっちはハードルと言うよりは、壁で…」
壁を乗り越えるのは難しいだろ、とハーレイは語ってゆく。
乗り越える人も、ぶち壊す人も、いないことはない。
とはいえ、どちらも出来ない人が多くて、頼るのが早い。
「例を出すなら、家で使う何かが、故障したとか…」
お前、洗濯機とかを修理出来るか、とハーレイは訊いた。
「ううん、出来ない…」
「それが普通だ、人に頼るしかないヤツだぞ」
洗濯出来なきゃ困るんだから、と軽く肩を竦めてみせる。
「手洗いしとけばいいじゃないか、というヤツも…」
無理に動かしちまうヤツも、とハーレイは苦笑した。
「どちらもゼロとは言いやしないが、ダメなヤツだろ?」
根本的な解決、出来てないしな、というのが正解の理由。
修理しないと駄目な機械は、人に頼んで修理すべきだ、と。
そういったわけで、正解は二つ。
ブルーが知りたい一般論というのが、二つに分かれる。
「うーん…。ぼくの困りごと、どっちなのかなあ…?」
「なんだ、困りごと、持っていたのか?」
人に頼る方なら力を貸すぞ、とハーレイは笑んだ。
「せっかく俺がいるわけなんだし、遠慮なく頼れ」
「本当に? 難しいかもしれないのに?」
頼ってもいいの、とブルーは瞳を瞬かせる。
「いいさ、機械の修理じゃなさそうだしな」
何も壊れていなさそうだし、とブルーの部屋を見回す。
「せいぜい、掃除の手伝いだろ?」
チビのお前じゃ届かないとか、と天井を指した。
そうしたら…。
「あのね、チビには違いないけど…」
チビになったせいで、キスが貰えなくて、という困りごと。
「ハーレイ、頼っていいんだよね?」
ぼくにキスして、と頼って来たから、叱り飛ばした。
「馬鹿野郎! そいつは壁じゃない、ハードルの方だ!」
成長したら乗り越えられるしな、と銀色の頭を拳でコツン。
叩いても、痛くないように。
「そいつは自力で解決するモンだ」と、お説教つきで…。
困った時には・了
人に頼る方がいいのかな、と小さなブルーが尋ねて来た。
二人きりで過ごす休日の午後の、お茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
何か困ったことでもあるのか、とハーレイの方も問い返す。
急に訊かれても、質問の答えを出すことは出来ない。
「俺に訊く前に、まずは訊きたいヤツというのを…」
きちんと整理してからにしてくれ、と注文をつけた。
ブルーが何で困っているのか、状況によって答えが異なる。
そう説明したら、ブルーは「分かった」と、素直に頷いた。
「あのね…。ぼくがハーレイに訊いているのは…」
解決までの道のりなんだよ、とブルーは少し首を傾げた。
ブルーが言うには、一般論を知りたいらしい。
何か困ったことが出来たら、自分で解決するべきなのか。
それとも人に頼っていいのか、どちらなのか。
「ハーレイは、どっちが立派だと思う?」
自力で解決してしまうのと、人を頼るのと、という質問。
「ふうむ…。困りごとにもよるだろうなあ…」
一般論にしたって、二通りだ、とハーレイは腕組みをした。
自力で解決か、人を頼るか、どちらも正解、と。
「えっと…? それって、どういう意味?」
分からないよ、とブルーはキョトンとしている。
「そうかもな。答えが二つじゃ、謎なんだろうが…」
本当に両方とも正しいんだ、とハーレイは解説し始めた。
「いいか、一つは、自分で解決するべきヤツで…」
困りごとの原因がハードルの時だ、とブルーに語る。
「自分で乗り越えなくちゃならん時には、ハードルだな」
「…ハードル?」
「ああ。分かりやすく言うなら、宿題もそうだ」
学校で出される宿題ってヤツは大事で、やらなきゃいかん。
それも自分で仕上げてこそで、人を頼っちゃいけないんだ。
自分の力がつかないからな。
「…そっか…。自分でやらなきゃ、意味が無いよね」
「分かったか? 難しそうに見えていたって、実はだな…」
宿題は出来ることしか出さない、と教師の立場から説いた。
「学校で習った知識の範囲で、答えは導き出せるんだ」
きちんと発展させてやればな、と宿題の意義も教えてやる。
知識をモノにしてゆくためにも、人に頼るな、と。
「そうだよね…。だったら、もう一つの正解の方は?」
人に頼るのは、どんな時なの、とブルーは興味深々らしい。
答えが二つあるというなら、もう一つは、と。
「そうさな、そっちはハードルと言うよりは、壁で…」
壁を乗り越えるのは難しいだろ、とハーレイは語ってゆく。
乗り越える人も、ぶち壊す人も、いないことはない。
とはいえ、どちらも出来ない人が多くて、頼るのが早い。
「例を出すなら、家で使う何かが、故障したとか…」
お前、洗濯機とかを修理出来るか、とハーレイは訊いた。
「ううん、出来ない…」
「それが普通だ、人に頼るしかないヤツだぞ」
洗濯出来なきゃ困るんだから、と軽く肩を竦めてみせる。
「手洗いしとけばいいじゃないか、というヤツも…」
無理に動かしちまうヤツも、とハーレイは苦笑した。
「どちらもゼロとは言いやしないが、ダメなヤツだろ?」
根本的な解決、出来てないしな、というのが正解の理由。
修理しないと駄目な機械は、人に頼んで修理すべきだ、と。
そういったわけで、正解は二つ。
ブルーが知りたい一般論というのが、二つに分かれる。
「うーん…。ぼくの困りごと、どっちなのかなあ…?」
「なんだ、困りごと、持っていたのか?」
人に頼る方なら力を貸すぞ、とハーレイは笑んだ。
「せっかく俺がいるわけなんだし、遠慮なく頼れ」
「本当に? 難しいかもしれないのに?」
頼ってもいいの、とブルーは瞳を瞬かせる。
「いいさ、機械の修理じゃなさそうだしな」
何も壊れていなさそうだし、とブルーの部屋を見回す。
「せいぜい、掃除の手伝いだろ?」
チビのお前じゃ届かないとか、と天井を指した。
そうしたら…。
「あのね、チビには違いないけど…」
チビになったせいで、キスが貰えなくて、という困りごと。
「ハーレイ、頼っていいんだよね?」
ぼくにキスして、と頼って来たから、叱り飛ばした。
「馬鹿野郎! そいつは壁じゃない、ハードルの方だ!」
成長したら乗り越えられるしな、と銀色の頭を拳でコツン。
叩いても、痛くないように。
「そいつは自力で解決するモンだ」と、お説教つきで…。
困った時には・了
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(…タイプ・ブルーかあ…)
今は、そこそこいるんだよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくの身近には、いないんだけれど…)
人間が全てミュウな今では、タイプ・ブルーも少なくはない。
「サイオンは使わない」ことが社会のマナーだから、空を飛ぶ人などがいないだけ。
(…飛べないタイプ・ブルーなら、此処に一人…)
今のぼくだって、タイプ・ブルーなんだけどな、と苦笑してしまう。
前の生で自在に使えたサイオン、それが不器用になってしまった。
(思念波も、ろくに紡げないから…)
人類の方に近いのかも、と思うくらいに、今のブルーは「ミュウらしくない」。
時の彼方で「そう」だったならば、成人検査も通過していそう。
(…シロエはともかく、マツカの方はバレていなくて…)
キースの側近を勤め上げたほどだし、前のブルーでも、生き延びられたろう。
身体が弱い点があるから、研究者か何か、大人しい仕事に就いて、平穏無事な生涯。
(…表に出てない、タイプ・ブルーなら…)
そう出来たんじゃあ、と思ったはずみに、別の考えがヒョイと浮かんだ。
(…タイプ・ブルー、前のぼくじゃなくても、良かったんじゃあ…?)
他の人でも務まったよね、と仲間たちの顔を頭に描いた。
ゼルでもいいし、ヒルマンでもいい。
女性の「ソルジャー」も、ダメということは無かっただろう。
(一応、女性の基本は、ママになることで…)
養父母コースが一般的だったけれど、軍人やメンバーズにだって、女性がいた。
エラやブラウがタイプ・ブルーだったとしても、不都合な点はありそうにない。
(……だけど、一番、向いていそうなのは……)
ハーレイじゃないかな、と前の生からの恋人の名を挙げてみた。
キャプテン・ハーレイだったわけだし、ソルジャーも充分、務まりそう。
(…ソルジャーとして、やっていくために、ビジュアルの方は…)
関係無いと思うんだよね、と「前の自分との違い」を、ブルーは一蹴した。
「ソルジャー・ブルー」は今の時代も、写真集が編まれるくらいに「美しかった」。
逆に「キャプテン・ハーレイ」の方は、「美しくない」と評判だった。
(…シャングリラの女の人たちが作ってた、薔薇の花びらで出来たジャム…)
数が少なくて、配る時にはクジ引きをした。
そのクジが入った箱が、ハーレイの前だけを素通りしたほど、不似合いとされていた。
(前のハーレイ、綺麗じゃないから、薔薇のジャムなんか、似合わないって…)
決め付けられて、クジ引きの対象からは除外だった。
(だけど、そんなの、シャングリラが平和だったからの話で…)
戦いの道を走ってゆくなら、顔の美醜は意味が無い。
サイオンが強くて「戦える」ことが、ソルジャーの唯一の条件と言える。
(指導者としての資質だったら、ハーレイだって、充分あったし…)
ハーレイがピッタリ、と「前の生で、タイプ・ブルーになれそうな人」に選び出した。
前の自分と違う人でも、かまわないんじゃあ、と想像の翼を羽ばたかせる。
「もしも、タイプ・ブルーに生まれた人が、違っていたなら」と。
遠く遥かな時の彼方で、最初に「誕生した」ミュウ。
実際はブルーだったけれども、ただのミュウなら、先に生まれていたかもしれない。
(タイプ・ブルーじゃなければ、成人検査で何かあっても…)
検査用の機械は壊れないから、誰も気付きはしないだろう。
「ミュウの存在」が知れた後でも、マツカが無事に通過していた例もある。
(…前のハーレイが、タイプ・ブルーだった場合は、最初のミュウになるわけで…)
タイプ・ブルー・オリジンだよね、と「前の自分」に人類がつけた名前を進呈した。
成人検査の機械を壊して、サイオンに目覚めた前のハーレイに、想像の中で。
(…タイプ・ブルー・オリジン…)
そう呼ばれるようになった「前のハーレイ」は、どうするだろう。
(ぼくとは、色々、違っていそう…)
目覚めた時から違いそうだよ、と容易に分かる。
前のハーレイも「頑丈だった」から、力に目覚めて、保安部隊が駆け付けたって…。
(うんと落ち着いて、対応出来そう…)
シールドを展開するのも、銃撃を防いだ後の行動にしても。
(いくらハーレイでも、初めてサイオンを爆発させたら…)
身体の方がついてゆきはしないし、保安部隊に取り押さえられてしまいそう。
(でも、取り押さえられてるって段階で、前のぼくとは…)
大違いだし、と前の自分の「情けなさ」に溜息が出そう。
前の自分は気を失って、気付いた時には、檻に閉じ込められていた。
ハーレイの場合は、小突かれながら、檻に連れて行かれて、押し込まれるのに違いない。
(頑丈なミュウで、心だって、うんと強かったから…)
檻の中での暮らしが始まったって、絶望したりはしないだろう。
(ぼくみたいに、成長を止めてしまって、子供のままで…)
全て諦めて生きてゆくより、前を見詰めて生きてゆきそう。
「いつか必ず、此処を出てやる」と、人体実験に耐えて、歯を食いしばって。
(…ハーレイだったら、出来そうだよね…)
最初から、タイプ・ブルー・オリジンらしい生き方、と誇らしくなる。
前の生から愛する人だし、想像の中でも、頼もしい。
(人類がメギドを持って来る前に、仲間たちを逃がして脱出だって…)
ハーレイだったら、きっと出来るよ、と夢が広がる。
人類が「ミュウ」を脅威と位置付ける前に、動き出していたら、逃げられただろう。
研究施設の警備が甘くて、研究者たちも「考え方が甘かった」頃だったならば、出来た。
(ハーレイのサイオンで、研究施設を吹っ飛ばして…)
収容されているミュウの独房だけを、きちんとシールドすれば、脱出は可能。
破壊した施設から「仲間たち」を救って、宙港まで逃げてゆけばいい。
(船は沢山あった筈だし、良さそうな船を制圧して…)
操縦者つきで宇宙に飛び出し、それから後は、アルテメシア時代のような位置付け。
(隠れられそうな場所を見付けて、其処に潜んで…)
アルタミラで生まれる「ミュウの子供」を救い出しながら、待ち続ける。
人類と本格的な戦闘に入って、地球を目指して舵を切る日まで。
(…前のぼくより、うんと早めに…)
地球に行けそう、とブルーは笑みを浮かべる。
ハーレイだったら、自分の寿命が尽きるよりも前に、地球まで辿り着くのに違いない。
「後継者探し」などはしないで、グランド・マザーも、システムも全て、自分で倒して。
(…そうなりそうだよ…)
ハーレイの方が良かったんじゃあ、と思えてしまう「タイプ・ブルー・オリジン」。
時の彼方で最初に生まれる、伝説のミュウ。
そっちの方が良さそうだよね、と考える内に、ハタと気付いた。
もしも「ハーレイ」が、タイプ・ブルー・オリジンだったら、前のブルーは、どうだろう。
(ハーレイの代わりに、タイプ・グリーンなのかな?)
それはいいとして、何処で「ハーレイ」に出会うかが、大いに問題。
上手い具合に「ハーレイよりも後に生まれて」、子供だったとしても、厄介そう。
(…研究施設で、脱出の時に、見付けて貰えても…)
ハーレイは「とても忙しい」から、自分で探しに来てくれるかどうか。
仲間を指揮して陣頭なのだし、別の誰かが来るかもしれない。
(…ハーレイが来たら、ぼくを見付けて…)
「おい、坊主! 大丈夫か? 急げ、逃げるぞ!」と手を引いてくれても…。
(他の人だと、そうはいかないよね…)
その人が、手を引いて逃げてくれても、ハーレイと出会えるわけではない。
ハーレイは指揮を執り続けたまま、船が宇宙へ出ることだろう。
(…後は、ハーレイ、船のトップで…)
やるべきことが山とあるから、ブルーにまで目を配れはしない。
(もっと後になって生まれて来たって、救出されて…)
ハーレイの船に迎え入れられるだけで、挨拶だけで終わってしまいそう。
ブルーを待っているのは「子供の世話をする係」や教師で、ハーレイは来ない。
(……うーん……)
運命の出会いをしてるチャンスは無さそう、と愕然となった。
ハーレイが「ブルー」に一目惚れしてくれる機会は、全く無さそうなコース。
(…ぼくにしたって、どうなのかなあ…?)
尊敬している人で終わって、それだけになってしまうのかも。
(ソルジャー・ハーレイ、凄い人だ、って…)
見上げて暮らすだけの人生、恋は生まれず、別の誰かと生きてゆくかもしれない。
(…そんなの、困ってしまうから!)
タイプ・ブルー・オリジンがハーレイだなんて、と思うものだから、神に心から感謝した。
前の自分の人生は辛い部分も多かったけれど、幸せだった。
(タイプ・ブルー・オリジン、前のぼくとは違っていたなら…)
ハーレイと恋が出来ないんだよ、と「ぼくで良かった」と、ホッと安堵の溜息をつく。
「あれでいいんだ」と、「ハーレイじゃダメ」と…。
違っていたなら・了
※前の生でのサイオン・タイプ。ブルーではなくて、ハーレイがタイプ・ブルー。
地球へは早く行けそうですけど、恋をしているチャンスが無さそう。困りますよねv
今は、そこそこいるんだよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくの身近には、いないんだけれど…)
人間が全てミュウな今では、タイプ・ブルーも少なくはない。
「サイオンは使わない」ことが社会のマナーだから、空を飛ぶ人などがいないだけ。
(…飛べないタイプ・ブルーなら、此処に一人…)
今のぼくだって、タイプ・ブルーなんだけどな、と苦笑してしまう。
前の生で自在に使えたサイオン、それが不器用になってしまった。
(思念波も、ろくに紡げないから…)
人類の方に近いのかも、と思うくらいに、今のブルーは「ミュウらしくない」。
時の彼方で「そう」だったならば、成人検査も通過していそう。
(…シロエはともかく、マツカの方はバレていなくて…)
キースの側近を勤め上げたほどだし、前のブルーでも、生き延びられたろう。
身体が弱い点があるから、研究者か何か、大人しい仕事に就いて、平穏無事な生涯。
(…表に出てない、タイプ・ブルーなら…)
そう出来たんじゃあ、と思ったはずみに、別の考えがヒョイと浮かんだ。
(…タイプ・ブルー、前のぼくじゃなくても、良かったんじゃあ…?)
他の人でも務まったよね、と仲間たちの顔を頭に描いた。
ゼルでもいいし、ヒルマンでもいい。
女性の「ソルジャー」も、ダメということは無かっただろう。
(一応、女性の基本は、ママになることで…)
養父母コースが一般的だったけれど、軍人やメンバーズにだって、女性がいた。
エラやブラウがタイプ・ブルーだったとしても、不都合な点はありそうにない。
(……だけど、一番、向いていそうなのは……)
ハーレイじゃないかな、と前の生からの恋人の名を挙げてみた。
キャプテン・ハーレイだったわけだし、ソルジャーも充分、務まりそう。
(…ソルジャーとして、やっていくために、ビジュアルの方は…)
関係無いと思うんだよね、と「前の自分との違い」を、ブルーは一蹴した。
「ソルジャー・ブルー」は今の時代も、写真集が編まれるくらいに「美しかった」。
逆に「キャプテン・ハーレイ」の方は、「美しくない」と評判だった。
(…シャングリラの女の人たちが作ってた、薔薇の花びらで出来たジャム…)
数が少なくて、配る時にはクジ引きをした。
そのクジが入った箱が、ハーレイの前だけを素通りしたほど、不似合いとされていた。
(前のハーレイ、綺麗じゃないから、薔薇のジャムなんか、似合わないって…)
決め付けられて、クジ引きの対象からは除外だった。
(だけど、そんなの、シャングリラが平和だったからの話で…)
戦いの道を走ってゆくなら、顔の美醜は意味が無い。
サイオンが強くて「戦える」ことが、ソルジャーの唯一の条件と言える。
(指導者としての資質だったら、ハーレイだって、充分あったし…)
ハーレイがピッタリ、と「前の生で、タイプ・ブルーになれそうな人」に選び出した。
前の自分と違う人でも、かまわないんじゃあ、と想像の翼を羽ばたかせる。
「もしも、タイプ・ブルーに生まれた人が、違っていたなら」と。
遠く遥かな時の彼方で、最初に「誕生した」ミュウ。
実際はブルーだったけれども、ただのミュウなら、先に生まれていたかもしれない。
(タイプ・ブルーじゃなければ、成人検査で何かあっても…)
検査用の機械は壊れないから、誰も気付きはしないだろう。
「ミュウの存在」が知れた後でも、マツカが無事に通過していた例もある。
(…前のハーレイが、タイプ・ブルーだった場合は、最初のミュウになるわけで…)
タイプ・ブルー・オリジンだよね、と「前の自分」に人類がつけた名前を進呈した。
成人検査の機械を壊して、サイオンに目覚めた前のハーレイに、想像の中で。
(…タイプ・ブルー・オリジン…)
そう呼ばれるようになった「前のハーレイ」は、どうするだろう。
(ぼくとは、色々、違っていそう…)
目覚めた時から違いそうだよ、と容易に分かる。
前のハーレイも「頑丈だった」から、力に目覚めて、保安部隊が駆け付けたって…。
(うんと落ち着いて、対応出来そう…)
シールドを展開するのも、銃撃を防いだ後の行動にしても。
(いくらハーレイでも、初めてサイオンを爆発させたら…)
身体の方がついてゆきはしないし、保安部隊に取り押さえられてしまいそう。
(でも、取り押さえられてるって段階で、前のぼくとは…)
大違いだし、と前の自分の「情けなさ」に溜息が出そう。
前の自分は気を失って、気付いた時には、檻に閉じ込められていた。
ハーレイの場合は、小突かれながら、檻に連れて行かれて、押し込まれるのに違いない。
(頑丈なミュウで、心だって、うんと強かったから…)
檻の中での暮らしが始まったって、絶望したりはしないだろう。
(ぼくみたいに、成長を止めてしまって、子供のままで…)
全て諦めて生きてゆくより、前を見詰めて生きてゆきそう。
「いつか必ず、此処を出てやる」と、人体実験に耐えて、歯を食いしばって。
(…ハーレイだったら、出来そうだよね…)
最初から、タイプ・ブルー・オリジンらしい生き方、と誇らしくなる。
前の生から愛する人だし、想像の中でも、頼もしい。
(人類がメギドを持って来る前に、仲間たちを逃がして脱出だって…)
ハーレイだったら、きっと出来るよ、と夢が広がる。
人類が「ミュウ」を脅威と位置付ける前に、動き出していたら、逃げられただろう。
研究施設の警備が甘くて、研究者たちも「考え方が甘かった」頃だったならば、出来た。
(ハーレイのサイオンで、研究施設を吹っ飛ばして…)
収容されているミュウの独房だけを、きちんとシールドすれば、脱出は可能。
破壊した施設から「仲間たち」を救って、宙港まで逃げてゆけばいい。
(船は沢山あった筈だし、良さそうな船を制圧して…)
操縦者つきで宇宙に飛び出し、それから後は、アルテメシア時代のような位置付け。
(隠れられそうな場所を見付けて、其処に潜んで…)
アルタミラで生まれる「ミュウの子供」を救い出しながら、待ち続ける。
人類と本格的な戦闘に入って、地球を目指して舵を切る日まで。
(…前のぼくより、うんと早めに…)
地球に行けそう、とブルーは笑みを浮かべる。
ハーレイだったら、自分の寿命が尽きるよりも前に、地球まで辿り着くのに違いない。
「後継者探し」などはしないで、グランド・マザーも、システムも全て、自分で倒して。
(…そうなりそうだよ…)
ハーレイの方が良かったんじゃあ、と思えてしまう「タイプ・ブルー・オリジン」。
時の彼方で最初に生まれる、伝説のミュウ。
そっちの方が良さそうだよね、と考える内に、ハタと気付いた。
もしも「ハーレイ」が、タイプ・ブルー・オリジンだったら、前のブルーは、どうだろう。
(ハーレイの代わりに、タイプ・グリーンなのかな?)
それはいいとして、何処で「ハーレイ」に出会うかが、大いに問題。
上手い具合に「ハーレイよりも後に生まれて」、子供だったとしても、厄介そう。
(…研究施設で、脱出の時に、見付けて貰えても…)
ハーレイは「とても忙しい」から、自分で探しに来てくれるかどうか。
仲間を指揮して陣頭なのだし、別の誰かが来るかもしれない。
(…ハーレイが来たら、ぼくを見付けて…)
「おい、坊主! 大丈夫か? 急げ、逃げるぞ!」と手を引いてくれても…。
(他の人だと、そうはいかないよね…)
その人が、手を引いて逃げてくれても、ハーレイと出会えるわけではない。
ハーレイは指揮を執り続けたまま、船が宇宙へ出ることだろう。
(…後は、ハーレイ、船のトップで…)
やるべきことが山とあるから、ブルーにまで目を配れはしない。
(もっと後になって生まれて来たって、救出されて…)
ハーレイの船に迎え入れられるだけで、挨拶だけで終わってしまいそう。
ブルーを待っているのは「子供の世話をする係」や教師で、ハーレイは来ない。
(……うーん……)
運命の出会いをしてるチャンスは無さそう、と愕然となった。
ハーレイが「ブルー」に一目惚れしてくれる機会は、全く無さそうなコース。
(…ぼくにしたって、どうなのかなあ…?)
尊敬している人で終わって、それだけになってしまうのかも。
(ソルジャー・ハーレイ、凄い人だ、って…)
見上げて暮らすだけの人生、恋は生まれず、別の誰かと生きてゆくかもしれない。
(…そんなの、困ってしまうから!)
タイプ・ブルー・オリジンがハーレイだなんて、と思うものだから、神に心から感謝した。
前の自分の人生は辛い部分も多かったけれど、幸せだった。
(タイプ・ブルー・オリジン、前のぼくとは違っていたなら…)
ハーレイと恋が出来ないんだよ、と「ぼくで良かった」と、ホッと安堵の溜息をつく。
「あれでいいんだ」と、「ハーレイじゃダメ」と…。
違っていたなら・了
※前の生でのサイオン・タイプ。ブルーではなくて、ハーレイがタイプ・ブルー。
地球へは早く行けそうですけど、恋をしているチャンスが無さそう。困りますよねv
(…タイプ・ブルーか…)
今のあいつも同じなんだが、とハーレイが思い浮かべた、ブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(ついでに言えば、今の世の中、タイプ・ブルーのヤツは、そこそこ…)
いるんだよな、と面白くもある。
珍しいことには違いなくても、前の生の頃ほど希少ではない。
(サイオンを使わないのがマナーなせいで、誰がそうかは分かりにくいが…)
空を飛んでるヤツもいないし、と笑みが零れて来る。
瞬間移動をしている者にも、街中でお目にかかれはしない。
(お蔭で、ブルーが不器用なのも、目立たないよな)
あいつはサイオンが、まるで駄目だし、と可笑しいけれども、事実だった。
今のブルーは、サイオンの扱いが上手ではない。
持っていないのと変わらないほど、何も出来ないと言ってもいいだろう。
(…あいつ、悔しがっているんだが…)
平和な世界の証拠だ、と嬉しくもある。
タイプ・ブルーの出番が無いのは、ミュウの時代になったからこそ。
今も人類と戦っていたら、ブルーのサイオンも、眠ってはいない。
(何処かで必ず、目を覚まして…)
前の生と同じに戦うことになっていた。
そうはならずに済んだ世界は、青い水の星まで蘇っている。
(神様に、感謝しないとな…)
前のあいつは可哀相すぎた、と考えていて、ハタと気付いた。
(なんで、あいつがタイプ・ブルーだったんだ…?)
別に俺でもいいじゃないか、と思わないでもない。
ブルーよりも遥かに頑丈なのだし、そちらの方が良かったのでは、という気がする。
(前の俺は、タイプ・グリーンに生まれたんだが…)
違っていたら、とハーレイは顎に手を当てた。
ブルーではなくて、前の自分が「タイプ・ブルー」だった場合、どうなっていたのか。
(……ふうむ……)
目覚める条件としては、成人検査でいいんだよな、と前のブルーと重ね合わせる。
成人検査を受けに行ったら、記憶を消去されそうになって、前のブルーは覚醒した。
(俺にしたって、多分、そうだろう)
あまりハッキリ覚えちゃいないが、とハーレイは苦笑する。
覚醒した後、劇的に変化した環境と、過酷な人体実験で忘れてしまった。
とはいえ、サイオンが目覚めるほどの衝撃なのだし、記憶の消去が原因だろう。
(でもって、俺がタイプ・ブルーなら…)
前のブルーの時と同じで、最初に現れたミュウになりそう。
「タイプ・ブルー・オリジン」が、ブルーからハーレイに入れ替わる。
(俺の人生、出だしからして変わりそうだぞ…)
正確に言えば途中からだが、と「成人検査」以降を想像してみることにした。
前のハーレイは「ブルーよりも後」の生まれで、人類は「ミュウの扱い」に慣れていた。
(成人検査で判明したら、直ぐに捕獲で…)
研究施設に送られたけれど、「最初のミュウ」となれば変わって来る。
(前のあいつは、成人検査用の機械を壊しちまって…)
保安部隊の者が駆け付け、銃撃を受けたと、ブルーから聞いた。
覚醒したのが「ハーレイ」にしても、そうなったろう。
(…咄嗟にシールドで受け止められても、その後がどうか…)
ブルーは倒れちまったんだが、と前の自分と比較してみると、違うかもしれない。
前のハーレイは「聴力が弱かった」だけで、身体の方は頑丈だった。
(銃撃されても、倒れないかもな…)
捕獲されるのは同じだろうが、と「十四歳の子供」と、保安部隊のプロを比べる。
(タイプ・ブルーでも、目覚めたばかりじゃ…)
爆発的な力を使った直後は、ふらついたりもするだろう。
其処へ「戦闘のプロ」が来るわけなのだし、抵抗してみても敵いそうにない。
(…前と同じで、檻の中だな…)
押し込まれちまって、不味い餌ばかり食わせられる日々だ、とゲンナリした。
その上、人体実験を繰り返されるのでは、気力が失せてしまいそうだけれど…。
(なんと言っても、俺なんだしなあ…)
不屈の精神で踏ん張りそうだ、と自分のことだから、ハッキリと分かる。
前のブルーは「成長してみても、未来など無い」と諦め切って、成長を止めた。
(あいつだったから、そうなっただけで…)
俺なら育ち続けそうだ、と自信ならある。
「負けてたまるか」と起死回生のチャンスに賭けて、餌を食べながら育ち続ける。
子供の身体と精神よりも、大人の方が「強くなる」のは、間違いない。
自分で道を切り開くならば、育った方が、断然、いい。
檻の中で順調に育つ間に、周りだって見えてくるだろう。
年月が経てば、新しいミュウが生まれ始める。
それを察知するだけの「力と知恵」も、身についていそう。
(檻の数が増えて来たとか、その程度ならば、見れば分かるし…)
もっと詳しく知りたかったら、人類どもの心を読めばいいんだ、とニヤリと笑う。
研究者たちも、檻と外との移動をさせる者たちも、「メンバーズ」ではない。
サイオンに対する訓練などは受けていないし、隙を狙えば「読み取れた」だろう。
(そうすりゃ、俺の知識も増えていくしな)
具体的な脱出プランも立てられそうだ、と思う通りで、人類は、まだ無防備だった。
彼らがメギドを持ち出す前に、施設を破壊し、仲間たちを連れての脱出も可能。
(宇宙船を奪って、逃げるにしたって…)
アルタミラ事変でも出来たわけだし、ぶっつけ本番で出来ると思う。
(もっとも、事前に準備するなら…)
操縦出来る者もつけて奪えばいいんだ、と「物騒なこと」を考え付いた。
脱出した仲間たちを引き連れ、宙港に着いたら、どの船を奪うにしても、選び放題。
(食料などを、たっぷり積んでて、大型船で…)
武装していりゃ、お誂え向きだ、と「夢のよう」でも、実際、あったに違いない。
人類軍の船が寄港していれば、充分、有り得る。
(物資を補給してる間は、殆どのヤツが船を降りるし…)
そういう船を奪うまでだな、と「脱出コース」を描き出す。
船に残っている者を「制圧する」のは、タイプ・ブルーなら苦にもならない。
最低限の者を船に残して、他は降ろして、操縦者に「出せ!」と命じるだけ。
(船を攻撃された所で、俺さえいれば…)
丸ごとシールド出来るんだ、と「タイプ・ブルー」の能力をフルに発揮しての脱出劇。
逃げ出した後は、アルテメシア時代と同様、隠れながらの日々になるだけ。
(アルタミラにも、雲はそこそこ…)
あったわけだし、其処に潜んで、ミュウの子供を救出しながら「時を待つ」。
奪い取った船の操縦にしても、人類軍の者から知識を読み取り、出来るようになる。
(そうすりゃ、元の乗員の記憶を消して、地上に戻して…)
ミュウだけの船の出来上がりだ、と大満足で考える内に、不意に思い出した。
(…ありゃ?)
前のあいつは、と顔が浮かんだ「前のブルー」は何処にいるのか。
(…俺よりも後に生まれるんだし、船の何処かに…)
乗っていてくれると思うけれども、タイプ・ブルーではない「ただのミュウ」。
(俺がタイプ・ブルーなら、タイプ・グリーンか?)
実際とは逆になるんだしな、と「前のブルー」の居場所を探してみる。
脱出劇の時にいたのか、その後に「救い出した」子供か、どちらにしても、影が薄そう。
(成人検査直後か、チビの子供が、船にいたって…)
大脱出を指揮した「ハーレイ」と出会う機会は、そうは無い。
ハーレイは多忙な日々を送って、ブルーは船で教育されている日々。
(…果たして、会える時が来るやら…)
おまけに会っても「一目惚れ」なんか無さそうだよな、とハーレイは天を仰いだ。
もっとも、書斎の中に空は無いから、仰いだ先には「天井」だけれど。
(ブルーに会っても、チビの子供が、頑張ってるだけで…)
可愛い子だな、と思う程度で、惚れ込んだりはしないだろう。
ブルーの方でも、多分、同じで、「船で一番偉い、おじさん」を尊敬の目で見上げるだけ。
(教師にしたって、俺が如何に偉いか、日頃、教えているんだろうし…)
気安く口を利ける人ではない、とブルーは思い込んでいる。
最初の出会いは「挨拶」くらいで、それから後も、接点は大して無いままなのに違いない。
(…あいつがいたって、お互い、惚れ込まないんじゃなあ…)
最後まで「ただの仲間」なだけか、と思うものだから、それは勘弁願いたい。
(…前の人生、サイオン・タイプが、違っていたら…)
大惨事だ、とハーレイは首を竦めて、改めて神に感謝した。
前の自分がタイプ・ブルーなら、ブルーと出会っても、恋は無いから。
お互い、相手に惚れ込むことが無いまま、人生、終わっていただろうから…。
違っていたら・了
※前の生で、自分がタイプ・ブルーだったら、と考えてみたハーレイ先生。順調そう。
脱出も上手くいきそうですけど、ブルーに出会っても恋をしない人生。悲しいですよねv
今のあいつも同じなんだが、とハーレイが思い浮かべた、ブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(ついでに言えば、今の世の中、タイプ・ブルーのヤツは、そこそこ…)
いるんだよな、と面白くもある。
珍しいことには違いなくても、前の生の頃ほど希少ではない。
(サイオンを使わないのがマナーなせいで、誰がそうかは分かりにくいが…)
空を飛んでるヤツもいないし、と笑みが零れて来る。
瞬間移動をしている者にも、街中でお目にかかれはしない。
(お蔭で、ブルーが不器用なのも、目立たないよな)
あいつはサイオンが、まるで駄目だし、と可笑しいけれども、事実だった。
今のブルーは、サイオンの扱いが上手ではない。
持っていないのと変わらないほど、何も出来ないと言ってもいいだろう。
(…あいつ、悔しがっているんだが…)
平和な世界の証拠だ、と嬉しくもある。
タイプ・ブルーの出番が無いのは、ミュウの時代になったからこそ。
今も人類と戦っていたら、ブルーのサイオンも、眠ってはいない。
(何処かで必ず、目を覚まして…)
前の生と同じに戦うことになっていた。
そうはならずに済んだ世界は、青い水の星まで蘇っている。
(神様に、感謝しないとな…)
前のあいつは可哀相すぎた、と考えていて、ハタと気付いた。
(なんで、あいつがタイプ・ブルーだったんだ…?)
別に俺でもいいじゃないか、と思わないでもない。
ブルーよりも遥かに頑丈なのだし、そちらの方が良かったのでは、という気がする。
(前の俺は、タイプ・グリーンに生まれたんだが…)
違っていたら、とハーレイは顎に手を当てた。
ブルーではなくて、前の自分が「タイプ・ブルー」だった場合、どうなっていたのか。
(……ふうむ……)
目覚める条件としては、成人検査でいいんだよな、と前のブルーと重ね合わせる。
成人検査を受けに行ったら、記憶を消去されそうになって、前のブルーは覚醒した。
(俺にしたって、多分、そうだろう)
あまりハッキリ覚えちゃいないが、とハーレイは苦笑する。
覚醒した後、劇的に変化した環境と、過酷な人体実験で忘れてしまった。
とはいえ、サイオンが目覚めるほどの衝撃なのだし、記憶の消去が原因だろう。
(でもって、俺がタイプ・ブルーなら…)
前のブルーの時と同じで、最初に現れたミュウになりそう。
「タイプ・ブルー・オリジン」が、ブルーからハーレイに入れ替わる。
(俺の人生、出だしからして変わりそうだぞ…)
正確に言えば途中からだが、と「成人検査」以降を想像してみることにした。
前のハーレイは「ブルーよりも後」の生まれで、人類は「ミュウの扱い」に慣れていた。
(成人検査で判明したら、直ぐに捕獲で…)
研究施設に送られたけれど、「最初のミュウ」となれば変わって来る。
(前のあいつは、成人検査用の機械を壊しちまって…)
保安部隊の者が駆け付け、銃撃を受けたと、ブルーから聞いた。
覚醒したのが「ハーレイ」にしても、そうなったろう。
(…咄嗟にシールドで受け止められても、その後がどうか…)
ブルーは倒れちまったんだが、と前の自分と比較してみると、違うかもしれない。
前のハーレイは「聴力が弱かった」だけで、身体の方は頑丈だった。
(銃撃されても、倒れないかもな…)
捕獲されるのは同じだろうが、と「十四歳の子供」と、保安部隊のプロを比べる。
(タイプ・ブルーでも、目覚めたばかりじゃ…)
爆発的な力を使った直後は、ふらついたりもするだろう。
其処へ「戦闘のプロ」が来るわけなのだし、抵抗してみても敵いそうにない。
(…前と同じで、檻の中だな…)
押し込まれちまって、不味い餌ばかり食わせられる日々だ、とゲンナリした。
その上、人体実験を繰り返されるのでは、気力が失せてしまいそうだけれど…。
(なんと言っても、俺なんだしなあ…)
不屈の精神で踏ん張りそうだ、と自分のことだから、ハッキリと分かる。
前のブルーは「成長してみても、未来など無い」と諦め切って、成長を止めた。
(あいつだったから、そうなっただけで…)
俺なら育ち続けそうだ、と自信ならある。
「負けてたまるか」と起死回生のチャンスに賭けて、餌を食べながら育ち続ける。
子供の身体と精神よりも、大人の方が「強くなる」のは、間違いない。
自分で道を切り開くならば、育った方が、断然、いい。
檻の中で順調に育つ間に、周りだって見えてくるだろう。
年月が経てば、新しいミュウが生まれ始める。
それを察知するだけの「力と知恵」も、身についていそう。
(檻の数が増えて来たとか、その程度ならば、見れば分かるし…)
もっと詳しく知りたかったら、人類どもの心を読めばいいんだ、とニヤリと笑う。
研究者たちも、檻と外との移動をさせる者たちも、「メンバーズ」ではない。
サイオンに対する訓練などは受けていないし、隙を狙えば「読み取れた」だろう。
(そうすりゃ、俺の知識も増えていくしな)
具体的な脱出プランも立てられそうだ、と思う通りで、人類は、まだ無防備だった。
彼らがメギドを持ち出す前に、施設を破壊し、仲間たちを連れての脱出も可能。
(宇宙船を奪って、逃げるにしたって…)
アルタミラ事変でも出来たわけだし、ぶっつけ本番で出来ると思う。
(もっとも、事前に準備するなら…)
操縦出来る者もつけて奪えばいいんだ、と「物騒なこと」を考え付いた。
脱出した仲間たちを引き連れ、宙港に着いたら、どの船を奪うにしても、選び放題。
(食料などを、たっぷり積んでて、大型船で…)
武装していりゃ、お誂え向きだ、と「夢のよう」でも、実際、あったに違いない。
人類軍の船が寄港していれば、充分、有り得る。
(物資を補給してる間は、殆どのヤツが船を降りるし…)
そういう船を奪うまでだな、と「脱出コース」を描き出す。
船に残っている者を「制圧する」のは、タイプ・ブルーなら苦にもならない。
最低限の者を船に残して、他は降ろして、操縦者に「出せ!」と命じるだけ。
(船を攻撃された所で、俺さえいれば…)
丸ごとシールド出来るんだ、と「タイプ・ブルー」の能力をフルに発揮しての脱出劇。
逃げ出した後は、アルテメシア時代と同様、隠れながらの日々になるだけ。
(アルタミラにも、雲はそこそこ…)
あったわけだし、其処に潜んで、ミュウの子供を救出しながら「時を待つ」。
奪い取った船の操縦にしても、人類軍の者から知識を読み取り、出来るようになる。
(そうすりゃ、元の乗員の記憶を消して、地上に戻して…)
ミュウだけの船の出来上がりだ、と大満足で考える内に、不意に思い出した。
(…ありゃ?)
前のあいつは、と顔が浮かんだ「前のブルー」は何処にいるのか。
(…俺よりも後に生まれるんだし、船の何処かに…)
乗っていてくれると思うけれども、タイプ・ブルーではない「ただのミュウ」。
(俺がタイプ・ブルーなら、タイプ・グリーンか?)
実際とは逆になるんだしな、と「前のブルー」の居場所を探してみる。
脱出劇の時にいたのか、その後に「救い出した」子供か、どちらにしても、影が薄そう。
(成人検査直後か、チビの子供が、船にいたって…)
大脱出を指揮した「ハーレイ」と出会う機会は、そうは無い。
ハーレイは多忙な日々を送って、ブルーは船で教育されている日々。
(…果たして、会える時が来るやら…)
おまけに会っても「一目惚れ」なんか無さそうだよな、とハーレイは天を仰いだ。
もっとも、書斎の中に空は無いから、仰いだ先には「天井」だけれど。
(ブルーに会っても、チビの子供が、頑張ってるだけで…)
可愛い子だな、と思う程度で、惚れ込んだりはしないだろう。
ブルーの方でも、多分、同じで、「船で一番偉い、おじさん」を尊敬の目で見上げるだけ。
(教師にしたって、俺が如何に偉いか、日頃、教えているんだろうし…)
気安く口を利ける人ではない、とブルーは思い込んでいる。
最初の出会いは「挨拶」くらいで、それから後も、接点は大して無いままなのに違いない。
(…あいつがいたって、お互い、惚れ込まないんじゃなあ…)
最後まで「ただの仲間」なだけか、と思うものだから、それは勘弁願いたい。
(…前の人生、サイオン・タイプが、違っていたら…)
大惨事だ、とハーレイは首を竦めて、改めて神に感謝した。
前の自分がタイプ・ブルーなら、ブルーと出会っても、恋は無いから。
お互い、相手に惚れ込むことが無いまま、人生、終わっていただろうから…。
違っていたら・了
※前の生で、自分がタイプ・ブルーだったら、と考えてみたハーレイ先生。順調そう。
脱出も上手くいきそうですけど、ブルーに出会っても恋をしない人生。悲しいですよねv
「ねえ、ハーレイ。やられっ放しは…」
良くないのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? やられっ放し?」
急にどうした、とハーレイはポカンとした。
ブルーは大人しい子だから、何かされているのだろうか。
「うん。悪戯とか、意地悪とか、色々あるでしょ?」
やり返した方がいいものなの、とブルーは続けた。
なんとも物騒な話ではある。
ハーレイは、一気に緊張した。
人間が全てミュウの今では、深刻なトラブルは起こらない。
そうなる前に、互いに思念で理解し合って、それで解決。
(しかしだ…)
子供の場合は、まだバランスが上手く取れない。
「理解し合おう」と考える前に、口や手が先に出がち。
止める係は、親や教師で、今のハーレイは教師。
もしかして俺の出番なのか、とハーレイは身構えた。
ブルーの担任ではないけれど、守り役として対処すべき。
「お前、その手のヤツで、困ってるのか?」
どうなんだ、と確認したら、ブルーはコクリと頷いた。
「ちょっぴりだけどね…。基本は仲良しだから」
「なるほどなあ…」
ありがちなヤツだ、とハーレイには直ぐに分かった。
子供同士は、歯止めが利きにくい。
最初は軽い悪戯や意地悪、それが次第に加速してゆく。
相手の気持ちが分からないから、加減も知らない。
(嫌がられていない、と勘違いして…)
大人しい子に、やっちまうんだ、と教師の勘が告げている。
きっとブルーも、巻き込まれたのだろう。
(とはいえ、もう解決の糸口、見えているよな)
俺は背中を押すだけでいい、とハーレイは少しホッとした、
こういうトラブルが起きた時には、行動力が肝になる。
「やられている子」が、「嫌だ」と気持ちを伝えること。
(口で言うのが一番なんだが、やり返すってのも…)
ストレートに伝わるから、方法の一つには違いない。
ブルーに「その気」があるのだったら、そうしてもいい。
(もっとも、こいつに、出来るんだろうか?)
なんと言っても、ブルーだしな、と心配ではある。
大人しい上に、前の生では「ソルジャー・ブルー」。
「自分一人が我慢すれば」で、メギドまで飛んだほど。
(…どうするかなあ…)
背中の押し方、と悩ましい。
「やり返していい」と言った所で、ブルーが従うかどうか。
それでも、此処は押すべきだろう。
勢いをつけてやらないと、と励ましてやることにした。
「そうだな、やり返すというのも、止めはしないぞ」
一発、ガツンとやって来い、とハーレイはウインクした。
「悪戯なんだか、意地悪なんだか、俺は知らんが」
「やり返してやった方がいいわけ?」
じっと我慢をしてるよりも、とブルーが確認する。
「ホントにいいの?」と、赤い瞳を瞬かせて。
「ああ。でないと、ソレは収まらんしな」
お前のサイオンは不器用すぎて、とハーレイは付け加える。
「普通だったら、なんとなくでも伝わることもあるが…」
「ぼくだと、ぼくの気持ちは、分かって貰えないしね…」
「そういうことだ。親や教師の出番が来ちまう」
まず、お互いを理解しろ、と割って入りに、と苦笑い。
「そうなる前に、やり返してやれ」
相手に気持ちを伝えるんだ、とハーレイは背中を押した。
「遠慮しないで、ガッツンとな!」
やられた通りにやって来い、とブルーを励ます。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、意地悪で嫌い!」
大嫌いだってば、とブルーは拳をグッと握った。
「やり返してやる!」
いつも叩かれてばかりだしね、とハーレイの頭をゴッツン。
椅子から立って、パッと側に来て、真上から一発。
「うわっ、何をするんだ!?」
「ハーレイ、自分で言ったじゃない!」
やり返した方がいいって、とブルーは勝ち誇った笑み。
「キスの代わりに、コレばっかりだもの!」
悪戯なのか、意地悪なのか、分かんないけど、という理屈。
(……うーむ……)
逆の立場になっちまった、とハーレイは頭を抱えるだけ。
ブルーが言うのも、一理あるから。
いくら理由を並べてみたって、ブルーから見れば意地悪。
(…やり返されるしかないよなあ…)
痛かったぞ、と白旗を掲げて、仲直り。
キスはしないで、ひたすら「すまん」と謝り続けて…。
やられっ放しは・了
良くないのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? やられっ放し?」
急にどうした、とハーレイはポカンとした。
ブルーは大人しい子だから、何かされているのだろうか。
「うん。悪戯とか、意地悪とか、色々あるでしょ?」
やり返した方がいいものなの、とブルーは続けた。
なんとも物騒な話ではある。
ハーレイは、一気に緊張した。
人間が全てミュウの今では、深刻なトラブルは起こらない。
そうなる前に、互いに思念で理解し合って、それで解決。
(しかしだ…)
子供の場合は、まだバランスが上手く取れない。
「理解し合おう」と考える前に、口や手が先に出がち。
止める係は、親や教師で、今のハーレイは教師。
もしかして俺の出番なのか、とハーレイは身構えた。
ブルーの担任ではないけれど、守り役として対処すべき。
「お前、その手のヤツで、困ってるのか?」
どうなんだ、と確認したら、ブルーはコクリと頷いた。
「ちょっぴりだけどね…。基本は仲良しだから」
「なるほどなあ…」
ありがちなヤツだ、とハーレイには直ぐに分かった。
子供同士は、歯止めが利きにくい。
最初は軽い悪戯や意地悪、それが次第に加速してゆく。
相手の気持ちが分からないから、加減も知らない。
(嫌がられていない、と勘違いして…)
大人しい子に、やっちまうんだ、と教師の勘が告げている。
きっとブルーも、巻き込まれたのだろう。
(とはいえ、もう解決の糸口、見えているよな)
俺は背中を押すだけでいい、とハーレイは少しホッとした、
こういうトラブルが起きた時には、行動力が肝になる。
「やられている子」が、「嫌だ」と気持ちを伝えること。
(口で言うのが一番なんだが、やり返すってのも…)
ストレートに伝わるから、方法の一つには違いない。
ブルーに「その気」があるのだったら、そうしてもいい。
(もっとも、こいつに、出来るんだろうか?)
なんと言っても、ブルーだしな、と心配ではある。
大人しい上に、前の生では「ソルジャー・ブルー」。
「自分一人が我慢すれば」で、メギドまで飛んだほど。
(…どうするかなあ…)
背中の押し方、と悩ましい。
「やり返していい」と言った所で、ブルーが従うかどうか。
それでも、此処は押すべきだろう。
勢いをつけてやらないと、と励ましてやることにした。
「そうだな、やり返すというのも、止めはしないぞ」
一発、ガツンとやって来い、とハーレイはウインクした。
「悪戯なんだか、意地悪なんだか、俺は知らんが」
「やり返してやった方がいいわけ?」
じっと我慢をしてるよりも、とブルーが確認する。
「ホントにいいの?」と、赤い瞳を瞬かせて。
「ああ。でないと、ソレは収まらんしな」
お前のサイオンは不器用すぎて、とハーレイは付け加える。
「普通だったら、なんとなくでも伝わることもあるが…」
「ぼくだと、ぼくの気持ちは、分かって貰えないしね…」
「そういうことだ。親や教師の出番が来ちまう」
まず、お互いを理解しろ、と割って入りに、と苦笑い。
「そうなる前に、やり返してやれ」
相手に気持ちを伝えるんだ、とハーレイは背中を押した。
「遠慮しないで、ガッツンとな!」
やられた通りにやって来い、とブルーを励ます。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、意地悪で嫌い!」
大嫌いだってば、とブルーは拳をグッと握った。
「やり返してやる!」
いつも叩かれてばかりだしね、とハーレイの頭をゴッツン。
椅子から立って、パッと側に来て、真上から一発。
「うわっ、何をするんだ!?」
「ハーレイ、自分で言ったじゃない!」
やり返した方がいいって、とブルーは勝ち誇った笑み。
「キスの代わりに、コレばっかりだもの!」
悪戯なのか、意地悪なのか、分かんないけど、という理屈。
(……うーむ……)
逆の立場になっちまった、とハーレイは頭を抱えるだけ。
ブルーが言うのも、一理あるから。
いくら理由を並べてみたって、ブルーから見れば意地悪。
(…やり返されるしかないよなあ…)
痛かったぞ、と白旗を掲げて、仲直り。
キスはしないで、ひたすら「すまん」と謝り続けて…。
やられっ放しは・了
(…人類かあ…)
今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。
(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。
前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。
(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。
(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
育英惑星になることだけは、無さそうだった。
「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。
そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。
人類だったなら・了
※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv
今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。
(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。
前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。
(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。
(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
育英惑星になることだけは、無さそうだった。
「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。
そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。
人類だったなら・了
※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv
