(…タイプ・ブルーか…)
今のあいつも同じなんだが、とハーレイが思い浮かべた、ブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(ついでに言えば、今の世の中、タイプ・ブルーのヤツは、そこそこ…)
いるんだよな、と面白くもある。
珍しいことには違いなくても、前の生の頃ほど希少ではない。
(サイオンを使わないのがマナーなせいで、誰がそうかは分かりにくいが…)
空を飛んでるヤツもいないし、と笑みが零れて来る。
瞬間移動をしている者にも、街中でお目にかかれはしない。
(お蔭で、ブルーが不器用なのも、目立たないよな)
あいつはサイオンが、まるで駄目だし、と可笑しいけれども、事実だった。
今のブルーは、サイオンの扱いが上手ではない。
持っていないのと変わらないほど、何も出来ないと言ってもいいだろう。
(…あいつ、悔しがっているんだが…)
平和な世界の証拠だ、と嬉しくもある。
タイプ・ブルーの出番が無いのは、ミュウの時代になったからこそ。
今も人類と戦っていたら、ブルーのサイオンも、眠ってはいない。
(何処かで必ず、目を覚まして…)
前の生と同じに戦うことになっていた。
そうはならずに済んだ世界は、青い水の星まで蘇っている。
(神様に、感謝しないとな…)
前のあいつは可哀相すぎた、と考えていて、ハタと気付いた。
(なんで、あいつがタイプ・ブルーだったんだ…?)
別に俺でもいいじゃないか、と思わないでもない。
ブルーよりも遥かに頑丈なのだし、そちらの方が良かったのでは、という気がする。
(前の俺は、タイプ・グリーンに生まれたんだが…)
違っていたら、とハーレイは顎に手を当てた。
ブルーではなくて、前の自分が「タイプ・ブルー」だった場合、どうなっていたのか。
(……ふうむ……)
目覚める条件としては、成人検査でいいんだよな、と前のブルーと重ね合わせる。
成人検査を受けに行ったら、記憶を消去されそうになって、前のブルーは覚醒した。
(俺にしたって、多分、そうだろう)
あまりハッキリ覚えちゃいないが、とハーレイは苦笑する。
覚醒した後、劇的に変化した環境と、過酷な人体実験で忘れてしまった。
とはいえ、サイオンが目覚めるほどの衝撃なのだし、記憶の消去が原因だろう。
(でもって、俺がタイプ・ブルーなら…)
前のブルーの時と同じで、最初に現れたミュウになりそう。
「タイプ・ブルー・オリジン」が、ブルーからハーレイに入れ替わる。
(俺の人生、出だしからして変わりそうだぞ…)
正確に言えば途中からだが、と「成人検査」以降を想像してみることにした。
前のハーレイは「ブルーよりも後」の生まれで、人類は「ミュウの扱い」に慣れていた。
(成人検査で判明したら、直ぐに捕獲で…)
研究施設に送られたけれど、「最初のミュウ」となれば変わって来る。
(前のあいつは、成人検査用の機械を壊しちまって…)
保安部隊の者が駆け付け、銃撃を受けたと、ブルーから聞いた。
覚醒したのが「ハーレイ」にしても、そうなったろう。
(…咄嗟にシールドで受け止められても、その後がどうか…)
ブルーは倒れちまったんだが、と前の自分と比較してみると、違うかもしれない。
前のハーレイは「聴力が弱かった」だけで、身体の方は頑丈だった。
(銃撃されても、倒れないかもな…)
捕獲されるのは同じだろうが、と「十四歳の子供」と、保安部隊のプロを比べる。
(タイプ・ブルーでも、目覚めたばかりじゃ…)
爆発的な力を使った直後は、ふらついたりもするだろう。
其処へ「戦闘のプロ」が来るわけなのだし、抵抗してみても敵いそうにない。
(…前と同じで、檻の中だな…)
押し込まれちまって、不味い餌ばかり食わせられる日々だ、とゲンナリした。
その上、人体実験を繰り返されるのでは、気力が失せてしまいそうだけれど…。
(なんと言っても、俺なんだしなあ…)
不屈の精神で踏ん張りそうだ、と自分のことだから、ハッキリと分かる。
前のブルーは「成長してみても、未来など無い」と諦め切って、成長を止めた。
(あいつだったから、そうなっただけで…)
俺なら育ち続けそうだ、と自信ならある。
「負けてたまるか」と起死回生のチャンスに賭けて、餌を食べながら育ち続ける。
子供の身体と精神よりも、大人の方が「強くなる」のは、間違いない。
自分で道を切り開くならば、育った方が、断然、いい。
檻の中で順調に育つ間に、周りだって見えてくるだろう。
年月が経てば、新しいミュウが生まれ始める。
それを察知するだけの「力と知恵」も、身についていそう。
(檻の数が増えて来たとか、その程度ならば、見れば分かるし…)
もっと詳しく知りたかったら、人類どもの心を読めばいいんだ、とニヤリと笑う。
研究者たちも、檻と外との移動をさせる者たちも、「メンバーズ」ではない。
サイオンに対する訓練などは受けていないし、隙を狙えば「読み取れた」だろう。
(そうすりゃ、俺の知識も増えていくしな)
具体的な脱出プランも立てられそうだ、と思う通りで、人類は、まだ無防備だった。
彼らがメギドを持ち出す前に、施設を破壊し、仲間たちを連れての脱出も可能。
(宇宙船を奪って、逃げるにしたって…)
アルタミラ事変でも出来たわけだし、ぶっつけ本番で出来ると思う。
(もっとも、事前に準備するなら…)
操縦出来る者もつけて奪えばいいんだ、と「物騒なこと」を考え付いた。
脱出した仲間たちを引き連れ、宙港に着いたら、どの船を奪うにしても、選び放題。
(食料などを、たっぷり積んでて、大型船で…)
武装していりゃ、お誂え向きだ、と「夢のよう」でも、実際、あったに違いない。
人類軍の船が寄港していれば、充分、有り得る。
(物資を補給してる間は、殆どのヤツが船を降りるし…)
そういう船を奪うまでだな、と「脱出コース」を描き出す。
船に残っている者を「制圧する」のは、タイプ・ブルーなら苦にもならない。
最低限の者を船に残して、他は降ろして、操縦者に「出せ!」と命じるだけ。
(船を攻撃された所で、俺さえいれば…)
丸ごとシールド出来るんだ、と「タイプ・ブルー」の能力をフルに発揮しての脱出劇。
逃げ出した後は、アルテメシア時代と同様、隠れながらの日々になるだけ。
(アルタミラにも、雲はそこそこ…)
あったわけだし、其処に潜んで、ミュウの子供を救出しながら「時を待つ」。
奪い取った船の操縦にしても、人類軍の者から知識を読み取り、出来るようになる。
(そうすりゃ、元の乗員の記憶を消して、地上に戻して…)
ミュウだけの船の出来上がりだ、と大満足で考える内に、不意に思い出した。
(…ありゃ?)
前のあいつは、と顔が浮かんだ「前のブルー」は何処にいるのか。
(…俺よりも後に生まれるんだし、船の何処かに…)
乗っていてくれると思うけれども、タイプ・ブルーではない「ただのミュウ」。
(俺がタイプ・ブルーなら、タイプ・グリーンか?)
実際とは逆になるんだしな、と「前のブルー」の居場所を探してみる。
脱出劇の時にいたのか、その後に「救い出した」子供か、どちらにしても、影が薄そう。
(成人検査直後か、チビの子供が、船にいたって…)
大脱出を指揮した「ハーレイ」と出会う機会は、そうは無い。
ハーレイは多忙な日々を送って、ブルーは船で教育されている日々。
(…果たして、会える時が来るやら…)
おまけに会っても「一目惚れ」なんか無さそうだよな、とハーレイは天を仰いだ。
もっとも、書斎の中に空は無いから、仰いだ先には「天井」だけれど。
(ブルーに会っても、チビの子供が、頑張ってるだけで…)
可愛い子だな、と思う程度で、惚れ込んだりはしないだろう。
ブルーの方でも、多分、同じで、「船で一番偉い、おじさん」を尊敬の目で見上げるだけ。
(教師にしたって、俺が如何に偉いか、日頃、教えているんだろうし…)
気安く口を利ける人ではない、とブルーは思い込んでいる。
最初の出会いは「挨拶」くらいで、それから後も、接点は大して無いままなのに違いない。
(…あいつがいたって、お互い、惚れ込まないんじゃなあ…)
最後まで「ただの仲間」なだけか、と思うものだから、それは勘弁願いたい。
(…前の人生、サイオン・タイプが、違っていたら…)
大惨事だ、とハーレイは首を竦めて、改めて神に感謝した。
前の自分がタイプ・ブルーなら、ブルーと出会っても、恋は無いから。
お互い、相手に惚れ込むことが無いまま、人生、終わっていただろうから…。
違っていたら・了
※前の生で、自分がタイプ・ブルーだったら、と考えてみたハーレイ先生。順調そう。
脱出も上手くいきそうですけど、ブルーに出会っても恋をしない人生。悲しいですよねv
今のあいつも同じなんだが、とハーレイが思い浮かべた、ブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(ついでに言えば、今の世の中、タイプ・ブルーのヤツは、そこそこ…)
いるんだよな、と面白くもある。
珍しいことには違いなくても、前の生の頃ほど希少ではない。
(サイオンを使わないのがマナーなせいで、誰がそうかは分かりにくいが…)
空を飛んでるヤツもいないし、と笑みが零れて来る。
瞬間移動をしている者にも、街中でお目にかかれはしない。
(お蔭で、ブルーが不器用なのも、目立たないよな)
あいつはサイオンが、まるで駄目だし、と可笑しいけれども、事実だった。
今のブルーは、サイオンの扱いが上手ではない。
持っていないのと変わらないほど、何も出来ないと言ってもいいだろう。
(…あいつ、悔しがっているんだが…)
平和な世界の証拠だ、と嬉しくもある。
タイプ・ブルーの出番が無いのは、ミュウの時代になったからこそ。
今も人類と戦っていたら、ブルーのサイオンも、眠ってはいない。
(何処かで必ず、目を覚まして…)
前の生と同じに戦うことになっていた。
そうはならずに済んだ世界は、青い水の星まで蘇っている。
(神様に、感謝しないとな…)
前のあいつは可哀相すぎた、と考えていて、ハタと気付いた。
(なんで、あいつがタイプ・ブルーだったんだ…?)
別に俺でもいいじゃないか、と思わないでもない。
ブルーよりも遥かに頑丈なのだし、そちらの方が良かったのでは、という気がする。
(前の俺は、タイプ・グリーンに生まれたんだが…)
違っていたら、とハーレイは顎に手を当てた。
ブルーではなくて、前の自分が「タイプ・ブルー」だった場合、どうなっていたのか。
(……ふうむ……)
目覚める条件としては、成人検査でいいんだよな、と前のブルーと重ね合わせる。
成人検査を受けに行ったら、記憶を消去されそうになって、前のブルーは覚醒した。
(俺にしたって、多分、そうだろう)
あまりハッキリ覚えちゃいないが、とハーレイは苦笑する。
覚醒した後、劇的に変化した環境と、過酷な人体実験で忘れてしまった。
とはいえ、サイオンが目覚めるほどの衝撃なのだし、記憶の消去が原因だろう。
(でもって、俺がタイプ・ブルーなら…)
前のブルーの時と同じで、最初に現れたミュウになりそう。
「タイプ・ブルー・オリジン」が、ブルーからハーレイに入れ替わる。
(俺の人生、出だしからして変わりそうだぞ…)
正確に言えば途中からだが、と「成人検査」以降を想像してみることにした。
前のハーレイは「ブルーよりも後」の生まれで、人類は「ミュウの扱い」に慣れていた。
(成人検査で判明したら、直ぐに捕獲で…)
研究施設に送られたけれど、「最初のミュウ」となれば変わって来る。
(前のあいつは、成人検査用の機械を壊しちまって…)
保安部隊の者が駆け付け、銃撃を受けたと、ブルーから聞いた。
覚醒したのが「ハーレイ」にしても、そうなったろう。
(…咄嗟にシールドで受け止められても、その後がどうか…)
ブルーは倒れちまったんだが、と前の自分と比較してみると、違うかもしれない。
前のハーレイは「聴力が弱かった」だけで、身体の方は頑丈だった。
(銃撃されても、倒れないかもな…)
捕獲されるのは同じだろうが、と「十四歳の子供」と、保安部隊のプロを比べる。
(タイプ・ブルーでも、目覚めたばかりじゃ…)
爆発的な力を使った直後は、ふらついたりもするだろう。
其処へ「戦闘のプロ」が来るわけなのだし、抵抗してみても敵いそうにない。
(…前と同じで、檻の中だな…)
押し込まれちまって、不味い餌ばかり食わせられる日々だ、とゲンナリした。
その上、人体実験を繰り返されるのでは、気力が失せてしまいそうだけれど…。
(なんと言っても、俺なんだしなあ…)
不屈の精神で踏ん張りそうだ、と自分のことだから、ハッキリと分かる。
前のブルーは「成長してみても、未来など無い」と諦め切って、成長を止めた。
(あいつだったから、そうなっただけで…)
俺なら育ち続けそうだ、と自信ならある。
「負けてたまるか」と起死回生のチャンスに賭けて、餌を食べながら育ち続ける。
子供の身体と精神よりも、大人の方が「強くなる」のは、間違いない。
自分で道を切り開くならば、育った方が、断然、いい。
檻の中で順調に育つ間に、周りだって見えてくるだろう。
年月が経てば、新しいミュウが生まれ始める。
それを察知するだけの「力と知恵」も、身についていそう。
(檻の数が増えて来たとか、その程度ならば、見れば分かるし…)
もっと詳しく知りたかったら、人類どもの心を読めばいいんだ、とニヤリと笑う。
研究者たちも、檻と外との移動をさせる者たちも、「メンバーズ」ではない。
サイオンに対する訓練などは受けていないし、隙を狙えば「読み取れた」だろう。
(そうすりゃ、俺の知識も増えていくしな)
具体的な脱出プランも立てられそうだ、と思う通りで、人類は、まだ無防備だった。
彼らがメギドを持ち出す前に、施設を破壊し、仲間たちを連れての脱出も可能。
(宇宙船を奪って、逃げるにしたって…)
アルタミラ事変でも出来たわけだし、ぶっつけ本番で出来ると思う。
(もっとも、事前に準備するなら…)
操縦出来る者もつけて奪えばいいんだ、と「物騒なこと」を考え付いた。
脱出した仲間たちを引き連れ、宙港に着いたら、どの船を奪うにしても、選び放題。
(食料などを、たっぷり積んでて、大型船で…)
武装していりゃ、お誂え向きだ、と「夢のよう」でも、実際、あったに違いない。
人類軍の船が寄港していれば、充分、有り得る。
(物資を補給してる間は、殆どのヤツが船を降りるし…)
そういう船を奪うまでだな、と「脱出コース」を描き出す。
船に残っている者を「制圧する」のは、タイプ・ブルーなら苦にもならない。
最低限の者を船に残して、他は降ろして、操縦者に「出せ!」と命じるだけ。
(船を攻撃された所で、俺さえいれば…)
丸ごとシールド出来るんだ、と「タイプ・ブルー」の能力をフルに発揮しての脱出劇。
逃げ出した後は、アルテメシア時代と同様、隠れながらの日々になるだけ。
(アルタミラにも、雲はそこそこ…)
あったわけだし、其処に潜んで、ミュウの子供を救出しながら「時を待つ」。
奪い取った船の操縦にしても、人類軍の者から知識を読み取り、出来るようになる。
(そうすりゃ、元の乗員の記憶を消して、地上に戻して…)
ミュウだけの船の出来上がりだ、と大満足で考える内に、不意に思い出した。
(…ありゃ?)
前のあいつは、と顔が浮かんだ「前のブルー」は何処にいるのか。
(…俺よりも後に生まれるんだし、船の何処かに…)
乗っていてくれると思うけれども、タイプ・ブルーではない「ただのミュウ」。
(俺がタイプ・ブルーなら、タイプ・グリーンか?)
実際とは逆になるんだしな、と「前のブルー」の居場所を探してみる。
脱出劇の時にいたのか、その後に「救い出した」子供か、どちらにしても、影が薄そう。
(成人検査直後か、チビの子供が、船にいたって…)
大脱出を指揮した「ハーレイ」と出会う機会は、そうは無い。
ハーレイは多忙な日々を送って、ブルーは船で教育されている日々。
(…果たして、会える時が来るやら…)
おまけに会っても「一目惚れ」なんか無さそうだよな、とハーレイは天を仰いだ。
もっとも、書斎の中に空は無いから、仰いだ先には「天井」だけれど。
(ブルーに会っても、チビの子供が、頑張ってるだけで…)
可愛い子だな、と思う程度で、惚れ込んだりはしないだろう。
ブルーの方でも、多分、同じで、「船で一番偉い、おじさん」を尊敬の目で見上げるだけ。
(教師にしたって、俺が如何に偉いか、日頃、教えているんだろうし…)
気安く口を利ける人ではない、とブルーは思い込んでいる。
最初の出会いは「挨拶」くらいで、それから後も、接点は大して無いままなのに違いない。
(…あいつがいたって、お互い、惚れ込まないんじゃなあ…)
最後まで「ただの仲間」なだけか、と思うものだから、それは勘弁願いたい。
(…前の人生、サイオン・タイプが、違っていたら…)
大惨事だ、とハーレイは首を竦めて、改めて神に感謝した。
前の自分がタイプ・ブルーなら、ブルーと出会っても、恋は無いから。
お互い、相手に惚れ込むことが無いまま、人生、終わっていただろうから…。
違っていたら・了
※前の生で、自分がタイプ・ブルーだったら、と考えてみたハーレイ先生。順調そう。
脱出も上手くいきそうですけど、ブルーに出会っても恋をしない人生。悲しいですよねv
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「ねえ、ハーレイ。やられっ放しは…」
良くないのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? やられっ放し?」
急にどうした、とハーレイはポカンとした。
ブルーは大人しい子だから、何かされているのだろうか。
「うん。悪戯とか、意地悪とか、色々あるでしょ?」
やり返した方がいいものなの、とブルーは続けた。
なんとも物騒な話ではある。
ハーレイは、一気に緊張した。
人間が全てミュウの今では、深刻なトラブルは起こらない。
そうなる前に、互いに思念で理解し合って、それで解決。
(しかしだ…)
子供の場合は、まだバランスが上手く取れない。
「理解し合おう」と考える前に、口や手が先に出がち。
止める係は、親や教師で、今のハーレイは教師。
もしかして俺の出番なのか、とハーレイは身構えた。
ブルーの担任ではないけれど、守り役として対処すべき。
「お前、その手のヤツで、困ってるのか?」
どうなんだ、と確認したら、ブルーはコクリと頷いた。
「ちょっぴりだけどね…。基本は仲良しだから」
「なるほどなあ…」
ありがちなヤツだ、とハーレイには直ぐに分かった。
子供同士は、歯止めが利きにくい。
最初は軽い悪戯や意地悪、それが次第に加速してゆく。
相手の気持ちが分からないから、加減も知らない。
(嫌がられていない、と勘違いして…)
大人しい子に、やっちまうんだ、と教師の勘が告げている。
きっとブルーも、巻き込まれたのだろう。
(とはいえ、もう解決の糸口、見えているよな)
俺は背中を押すだけでいい、とハーレイは少しホッとした、
こういうトラブルが起きた時には、行動力が肝になる。
「やられている子」が、「嫌だ」と気持ちを伝えること。
(口で言うのが一番なんだが、やり返すってのも…)
ストレートに伝わるから、方法の一つには違いない。
ブルーに「その気」があるのだったら、そうしてもいい。
(もっとも、こいつに、出来るんだろうか?)
なんと言っても、ブルーだしな、と心配ではある。
大人しい上に、前の生では「ソルジャー・ブルー」。
「自分一人が我慢すれば」で、メギドまで飛んだほど。
(…どうするかなあ…)
背中の押し方、と悩ましい。
「やり返していい」と言った所で、ブルーが従うかどうか。
それでも、此処は押すべきだろう。
勢いをつけてやらないと、と励ましてやることにした。
「そうだな、やり返すというのも、止めはしないぞ」
一発、ガツンとやって来い、とハーレイはウインクした。
「悪戯なんだか、意地悪なんだか、俺は知らんが」
「やり返してやった方がいいわけ?」
じっと我慢をしてるよりも、とブルーが確認する。
「ホントにいいの?」と、赤い瞳を瞬かせて。
「ああ。でないと、ソレは収まらんしな」
お前のサイオンは不器用すぎて、とハーレイは付け加える。
「普通だったら、なんとなくでも伝わることもあるが…」
「ぼくだと、ぼくの気持ちは、分かって貰えないしね…」
「そういうことだ。親や教師の出番が来ちまう」
まず、お互いを理解しろ、と割って入りに、と苦笑い。
「そうなる前に、やり返してやれ」
相手に気持ちを伝えるんだ、とハーレイは背中を押した。
「遠慮しないで、ガッツンとな!」
やられた通りにやって来い、とブルーを励ます。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、意地悪で嫌い!」
大嫌いだってば、とブルーは拳をグッと握った。
「やり返してやる!」
いつも叩かれてばかりだしね、とハーレイの頭をゴッツン。
椅子から立って、パッと側に来て、真上から一発。
「うわっ、何をするんだ!?」
「ハーレイ、自分で言ったじゃない!」
やり返した方がいいって、とブルーは勝ち誇った笑み。
「キスの代わりに、コレばっかりだもの!」
悪戯なのか、意地悪なのか、分かんないけど、という理屈。
(……うーむ……)
逆の立場になっちまった、とハーレイは頭を抱えるだけ。
ブルーが言うのも、一理あるから。
いくら理由を並べてみたって、ブルーから見れば意地悪。
(…やり返されるしかないよなあ…)
痛かったぞ、と白旗を掲げて、仲直り。
キスはしないで、ひたすら「すまん」と謝り続けて…。
やられっ放しは・了
良くないのかな、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? やられっ放し?」
急にどうした、とハーレイはポカンとした。
ブルーは大人しい子だから、何かされているのだろうか。
「うん。悪戯とか、意地悪とか、色々あるでしょ?」
やり返した方がいいものなの、とブルーは続けた。
なんとも物騒な話ではある。
ハーレイは、一気に緊張した。
人間が全てミュウの今では、深刻なトラブルは起こらない。
そうなる前に、互いに思念で理解し合って、それで解決。
(しかしだ…)
子供の場合は、まだバランスが上手く取れない。
「理解し合おう」と考える前に、口や手が先に出がち。
止める係は、親や教師で、今のハーレイは教師。
もしかして俺の出番なのか、とハーレイは身構えた。
ブルーの担任ではないけれど、守り役として対処すべき。
「お前、その手のヤツで、困ってるのか?」
どうなんだ、と確認したら、ブルーはコクリと頷いた。
「ちょっぴりだけどね…。基本は仲良しだから」
「なるほどなあ…」
ありがちなヤツだ、とハーレイには直ぐに分かった。
子供同士は、歯止めが利きにくい。
最初は軽い悪戯や意地悪、それが次第に加速してゆく。
相手の気持ちが分からないから、加減も知らない。
(嫌がられていない、と勘違いして…)
大人しい子に、やっちまうんだ、と教師の勘が告げている。
きっとブルーも、巻き込まれたのだろう。
(とはいえ、もう解決の糸口、見えているよな)
俺は背中を押すだけでいい、とハーレイは少しホッとした、
こういうトラブルが起きた時には、行動力が肝になる。
「やられている子」が、「嫌だ」と気持ちを伝えること。
(口で言うのが一番なんだが、やり返すってのも…)
ストレートに伝わるから、方法の一つには違いない。
ブルーに「その気」があるのだったら、そうしてもいい。
(もっとも、こいつに、出来るんだろうか?)
なんと言っても、ブルーだしな、と心配ではある。
大人しい上に、前の生では「ソルジャー・ブルー」。
「自分一人が我慢すれば」で、メギドまで飛んだほど。
(…どうするかなあ…)
背中の押し方、と悩ましい。
「やり返していい」と言った所で、ブルーが従うかどうか。
それでも、此処は押すべきだろう。
勢いをつけてやらないと、と励ましてやることにした。
「そうだな、やり返すというのも、止めはしないぞ」
一発、ガツンとやって来い、とハーレイはウインクした。
「悪戯なんだか、意地悪なんだか、俺は知らんが」
「やり返してやった方がいいわけ?」
じっと我慢をしてるよりも、とブルーが確認する。
「ホントにいいの?」と、赤い瞳を瞬かせて。
「ああ。でないと、ソレは収まらんしな」
お前のサイオンは不器用すぎて、とハーレイは付け加える。
「普通だったら、なんとなくでも伝わることもあるが…」
「ぼくだと、ぼくの気持ちは、分かって貰えないしね…」
「そういうことだ。親や教師の出番が来ちまう」
まず、お互いを理解しろ、と割って入りに、と苦笑い。
「そうなる前に、やり返してやれ」
相手に気持ちを伝えるんだ、とハーレイは背中を押した。
「遠慮しないで、ガッツンとな!」
やられた通りにやって来い、とブルーを励ます。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、意地悪で嫌い!」
大嫌いだってば、とブルーは拳をグッと握った。
「やり返してやる!」
いつも叩かれてばかりだしね、とハーレイの頭をゴッツン。
椅子から立って、パッと側に来て、真上から一発。
「うわっ、何をするんだ!?」
「ハーレイ、自分で言ったじゃない!」
やり返した方がいいって、とブルーは勝ち誇った笑み。
「キスの代わりに、コレばっかりだもの!」
悪戯なのか、意地悪なのか、分かんないけど、という理屈。
(……うーむ……)
逆の立場になっちまった、とハーレイは頭を抱えるだけ。
ブルーが言うのも、一理あるから。
いくら理由を並べてみたって、ブルーから見れば意地悪。
(…やり返されるしかないよなあ…)
痛かったぞ、と白旗を掲げて、仲直り。
キスはしないで、ひたすら「すまん」と謝り続けて…。
やられっ放しは・了
(…人類かあ…)
今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。
(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。
前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。
(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。
(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
育英惑星になることだけは、無さそうだった。
「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。
そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。
人類だったなら・了
※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv
今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。
(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。
前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。
(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。
(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
育英惑星になることだけは、無さそうだった。
「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。
そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。
人類だったなら・了
※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv
(…人類なあ…)
今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。
(……ふうむ……)
決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。
ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
その時代を経て、今の平和な世の中がある。
ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。
(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
来てはいけない、という規則などは無かった。
(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。
人類だったら・了
※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv
今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。
(……ふうむ……)
決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。
ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
その時代を経て、今の平和な世の中がある。
ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。
(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
来てはいけない、という規則などは無かった。
(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。
人類だったら・了
※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv
「ねえ、ハーレイ。素直になるのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
お前は素直なんじゃないのか、とハーレイは尋ね返した。
今のブルーは、子供だけあって、素直だと思う。
自分の気持ちを隠すよりかは、直接ぶつけて来るタイプ。
(…これ以上、素直になられてもなあ…)
我儘になってしまうだけでは、と首を傾げるしかない。
するとブルーは、「ちょっぴり、反省中…」と口籠った。
「今のぼくじゃなくって、前のことなんだけど…」
後悔先に立たずで、もう遅いけどね、と溜息を零して。
「前のお前だって?」
確かに素直じゃなかったかもな、とハーレイは大きく頷く。
前のブルーは「自分に対して」素直とは言えなかった。
自分さえ我慢していれば、と様々な気持ちを押し殺した。
「それで? 今になってから、反省中だ、と?」
「そう…。失敗しちゃっていたのかも、ってね…」
もしも素直になっていたなら、とブルーは昔話を始めた。
「アルテメシアから逃げた直後も、そうなんだけど…」
ジョミーに「頼む」と言えていたら、とブルーは俯く。
「ナスカの時でも、それと同じで…」
一人で全部しようとしないで、話せば良かった、と。
「メギドに飛んで行っちまったことだな?」
ジョミーに後を頼んだだけで、とハーレイはブルーを睨む。
「お前がジョミーを頼っていたら、全て変わった」と。
「…分かってる…」
ホントに素直じゃなかったよね、とブルーは猛省中らしい。
ブルーが言うには、メギド以前に素直になるべき。
目覚めた直後の騒ぎはともかく、その後にあったチャンス。
「ナスカに残った仲間たちだけど、ぼくが目覚めて…」
地球に行きたいと言ってたらどう、とブルーは問うた。
「みんなを残して行けはしないし、船に乗ってくれ、って」
「なるほどな…。ジョミーの頼みじゃ、誰も聞かんが…」
ソルジャー・ブルーとなれば違うな、とハーレイも認めた。
十五年間も眠ったままでも、前のブルーは偉大な指導者。
目覚めて「行こう」と宣言されたら、逆らう者などいない。
「そうでしょ? ぼくはホントに、地球を見たかったし…」
寿命が尽きるとしても、行きたかった、とブルーは返した。
「どうしても見たい、って素直になれていたらね…」
「そうかもしれん…」
時すでに遅しというものだが、とハーレイも嘆きたくなる。
前のブルーが素直だったら、色々と違っていたのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、素直になれずに生きた前のブルー。
そう生きるしかなかったとはいえ、反省点は存在する。
今の平和な時代に振り返ってみれば、間違えていた選択肢。
「前のブルーが犠牲になる」より、回り道でも選べた進路。
長い時間がかかったとしても、時代はミュウに味方した筈。
「…お前、失敗しちまったんだな…」
「そうみたい…。だから、とっても思うんだけど…」
ハーレイにも失敗して欲しくない、とブルーは真剣な口調。
「今のハーレイ、自分に素直になれてないもの…」
「なんだって?」
俺は自由に生きているが、とハーレイは瞳を瞬かせた。
仕事をしている時はあっても、自分を殺してなどはいない。
上手く手抜きをしてみたりもして、前よりも楽だと言える。
「キャプテン・ハーレイ」だった頃には、不可能だった。
自分に素直に生きているのに、ブルーの指摘は心外すぎる。
(…はて…?)
いったい何処が素直じゃないんだ、とハーレイは首を捻る。
思い当たるような節は無いから、途惑うしかない。
するとブルーは、「やっぱりね…」と呆れ返った顔をした。
「ハーレイも、前のぼくの場合に似ているのかも…」
そんな風に生きるしか道が無いから、と赤い瞳に同情の光。
「ごめんね、ぼくの姿が子供だから…」
ハーレイ、素直になれないんでしょ、とブルーは嘆いた。
「育った姿で出会えていたら、違ってたのに…」
素直に生きた方がいいと思うよ、とブルーが近付いて来る。
「キスくらいだったら、してもいいから」と。
(……そう来たか……!)
その手に乗ってたまるもんか、とハーレイは拳を握った。
「馬鹿野郎!」
真剣に聞いた俺も馬鹿だったが、とブルーの頭に軽く一発。
悪戯小僧には、素直に「お仕置き」するべき。
素直に生きた方がいいなら、心のままに、コッツンと…。
素直になるのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
お前は素直なんじゃないのか、とハーレイは尋ね返した。
今のブルーは、子供だけあって、素直だと思う。
自分の気持ちを隠すよりかは、直接ぶつけて来るタイプ。
(…これ以上、素直になられてもなあ…)
我儘になってしまうだけでは、と首を傾げるしかない。
するとブルーは、「ちょっぴり、反省中…」と口籠った。
「今のぼくじゃなくって、前のことなんだけど…」
後悔先に立たずで、もう遅いけどね、と溜息を零して。
「前のお前だって?」
確かに素直じゃなかったかもな、とハーレイは大きく頷く。
前のブルーは「自分に対して」素直とは言えなかった。
自分さえ我慢していれば、と様々な気持ちを押し殺した。
「それで? 今になってから、反省中だ、と?」
「そう…。失敗しちゃっていたのかも、ってね…」
もしも素直になっていたなら、とブルーは昔話を始めた。
「アルテメシアから逃げた直後も、そうなんだけど…」
ジョミーに「頼む」と言えていたら、とブルーは俯く。
「ナスカの時でも、それと同じで…」
一人で全部しようとしないで、話せば良かった、と。
「メギドに飛んで行っちまったことだな?」
ジョミーに後を頼んだだけで、とハーレイはブルーを睨む。
「お前がジョミーを頼っていたら、全て変わった」と。
「…分かってる…」
ホントに素直じゃなかったよね、とブルーは猛省中らしい。
ブルーが言うには、メギド以前に素直になるべき。
目覚めた直後の騒ぎはともかく、その後にあったチャンス。
「ナスカに残った仲間たちだけど、ぼくが目覚めて…」
地球に行きたいと言ってたらどう、とブルーは問うた。
「みんなを残して行けはしないし、船に乗ってくれ、って」
「なるほどな…。ジョミーの頼みじゃ、誰も聞かんが…」
ソルジャー・ブルーとなれば違うな、とハーレイも認めた。
十五年間も眠ったままでも、前のブルーは偉大な指導者。
目覚めて「行こう」と宣言されたら、逆らう者などいない。
「そうでしょ? ぼくはホントに、地球を見たかったし…」
寿命が尽きるとしても、行きたかった、とブルーは返した。
「どうしても見たい、って素直になれていたらね…」
「そうかもしれん…」
時すでに遅しというものだが、とハーレイも嘆きたくなる。
前のブルーが素直だったら、色々と違っていたのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、素直になれずに生きた前のブルー。
そう生きるしかなかったとはいえ、反省点は存在する。
今の平和な時代に振り返ってみれば、間違えていた選択肢。
「前のブルーが犠牲になる」より、回り道でも選べた進路。
長い時間がかかったとしても、時代はミュウに味方した筈。
「…お前、失敗しちまったんだな…」
「そうみたい…。だから、とっても思うんだけど…」
ハーレイにも失敗して欲しくない、とブルーは真剣な口調。
「今のハーレイ、自分に素直になれてないもの…」
「なんだって?」
俺は自由に生きているが、とハーレイは瞳を瞬かせた。
仕事をしている時はあっても、自分を殺してなどはいない。
上手く手抜きをしてみたりもして、前よりも楽だと言える。
「キャプテン・ハーレイ」だった頃には、不可能だった。
自分に素直に生きているのに、ブルーの指摘は心外すぎる。
(…はて…?)
いったい何処が素直じゃないんだ、とハーレイは首を捻る。
思い当たるような節は無いから、途惑うしかない。
するとブルーは、「やっぱりね…」と呆れ返った顔をした。
「ハーレイも、前のぼくの場合に似ているのかも…」
そんな風に生きるしか道が無いから、と赤い瞳に同情の光。
「ごめんね、ぼくの姿が子供だから…」
ハーレイ、素直になれないんでしょ、とブルーは嘆いた。
「育った姿で出会えていたら、違ってたのに…」
素直に生きた方がいいと思うよ、とブルーが近付いて来る。
「キスくらいだったら、してもいいから」と。
(……そう来たか……!)
その手に乗ってたまるもんか、とハーレイは拳を握った。
「馬鹿野郎!」
真剣に聞いた俺も馬鹿だったが、とブルーの頭に軽く一発。
悪戯小僧には、素直に「お仕置き」するべき。
素直に生きた方がいいなら、心のままに、コッツンと…。
素直になるのは・了
