(…人類なあ…)
今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。
(……ふうむ……)
決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。
ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
その時代を経て、今の平和な世の中がある。
ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。
(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
来てはいけない、という規則などは無かった。
(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。
人類だったら・了
※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv
今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。
(……ふうむ……)
決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。
ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
その時代を経て、今の平和な世の中がある。
ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。
(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
来てはいけない、という規則などは無かった。
(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。
人類だったら・了
※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv
PR
「ねえ、ハーレイ。素直になるのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
お前は素直なんじゃないのか、とハーレイは尋ね返した。
今のブルーは、子供だけあって、素直だと思う。
自分の気持ちを隠すよりかは、直接ぶつけて来るタイプ。
(…これ以上、素直になられてもなあ…)
我儘になってしまうだけでは、と首を傾げるしかない。
するとブルーは、「ちょっぴり、反省中…」と口籠った。
「今のぼくじゃなくって、前のことなんだけど…」
後悔先に立たずで、もう遅いけどね、と溜息を零して。
「前のお前だって?」
確かに素直じゃなかったかもな、とハーレイは大きく頷く。
前のブルーは「自分に対して」素直とは言えなかった。
自分さえ我慢していれば、と様々な気持ちを押し殺した。
「それで? 今になってから、反省中だ、と?」
「そう…。失敗しちゃっていたのかも、ってね…」
もしも素直になっていたなら、とブルーは昔話を始めた。
「アルテメシアから逃げた直後も、そうなんだけど…」
ジョミーに「頼む」と言えていたら、とブルーは俯く。
「ナスカの時でも、それと同じで…」
一人で全部しようとしないで、話せば良かった、と。
「メギドに飛んで行っちまったことだな?」
ジョミーに後を頼んだだけで、とハーレイはブルーを睨む。
「お前がジョミーを頼っていたら、全て変わった」と。
「…分かってる…」
ホントに素直じゃなかったよね、とブルーは猛省中らしい。
ブルーが言うには、メギド以前に素直になるべき。
目覚めた直後の騒ぎはともかく、その後にあったチャンス。
「ナスカに残った仲間たちだけど、ぼくが目覚めて…」
地球に行きたいと言ってたらどう、とブルーは問うた。
「みんなを残して行けはしないし、船に乗ってくれ、って」
「なるほどな…。ジョミーの頼みじゃ、誰も聞かんが…」
ソルジャー・ブルーとなれば違うな、とハーレイも認めた。
十五年間も眠ったままでも、前のブルーは偉大な指導者。
目覚めて「行こう」と宣言されたら、逆らう者などいない。
「そうでしょ? ぼくはホントに、地球を見たかったし…」
寿命が尽きるとしても、行きたかった、とブルーは返した。
「どうしても見たい、って素直になれていたらね…」
「そうかもしれん…」
時すでに遅しというものだが、とハーレイも嘆きたくなる。
前のブルーが素直だったら、色々と違っていたのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、素直になれずに生きた前のブルー。
そう生きるしかなかったとはいえ、反省点は存在する。
今の平和な時代に振り返ってみれば、間違えていた選択肢。
「前のブルーが犠牲になる」より、回り道でも選べた進路。
長い時間がかかったとしても、時代はミュウに味方した筈。
「…お前、失敗しちまったんだな…」
「そうみたい…。だから、とっても思うんだけど…」
ハーレイにも失敗して欲しくない、とブルーは真剣な口調。
「今のハーレイ、自分に素直になれてないもの…」
「なんだって?」
俺は自由に生きているが、とハーレイは瞳を瞬かせた。
仕事をしている時はあっても、自分を殺してなどはいない。
上手く手抜きをしてみたりもして、前よりも楽だと言える。
「キャプテン・ハーレイ」だった頃には、不可能だった。
自分に素直に生きているのに、ブルーの指摘は心外すぎる。
(…はて…?)
いったい何処が素直じゃないんだ、とハーレイは首を捻る。
思い当たるような節は無いから、途惑うしかない。
するとブルーは、「やっぱりね…」と呆れ返った顔をした。
「ハーレイも、前のぼくの場合に似ているのかも…」
そんな風に生きるしか道が無いから、と赤い瞳に同情の光。
「ごめんね、ぼくの姿が子供だから…」
ハーレイ、素直になれないんでしょ、とブルーは嘆いた。
「育った姿で出会えていたら、違ってたのに…」
素直に生きた方がいいと思うよ、とブルーが近付いて来る。
「キスくらいだったら、してもいいから」と。
(……そう来たか……!)
その手に乗ってたまるもんか、とハーレイは拳を握った。
「馬鹿野郎!」
真剣に聞いた俺も馬鹿だったが、とブルーの頭に軽く一発。
悪戯小僧には、素直に「お仕置き」するべき。
素直に生きた方がいいなら、心のままに、コッツンと…。
素直になるのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
お前は素直なんじゃないのか、とハーレイは尋ね返した。
今のブルーは、子供だけあって、素直だと思う。
自分の気持ちを隠すよりかは、直接ぶつけて来るタイプ。
(…これ以上、素直になられてもなあ…)
我儘になってしまうだけでは、と首を傾げるしかない。
するとブルーは、「ちょっぴり、反省中…」と口籠った。
「今のぼくじゃなくって、前のことなんだけど…」
後悔先に立たずで、もう遅いけどね、と溜息を零して。
「前のお前だって?」
確かに素直じゃなかったかもな、とハーレイは大きく頷く。
前のブルーは「自分に対して」素直とは言えなかった。
自分さえ我慢していれば、と様々な気持ちを押し殺した。
「それで? 今になってから、反省中だ、と?」
「そう…。失敗しちゃっていたのかも、ってね…」
もしも素直になっていたなら、とブルーは昔話を始めた。
「アルテメシアから逃げた直後も、そうなんだけど…」
ジョミーに「頼む」と言えていたら、とブルーは俯く。
「ナスカの時でも、それと同じで…」
一人で全部しようとしないで、話せば良かった、と。
「メギドに飛んで行っちまったことだな?」
ジョミーに後を頼んだだけで、とハーレイはブルーを睨む。
「お前がジョミーを頼っていたら、全て変わった」と。
「…分かってる…」
ホントに素直じゃなかったよね、とブルーは猛省中らしい。
ブルーが言うには、メギド以前に素直になるべき。
目覚めた直後の騒ぎはともかく、その後にあったチャンス。
「ナスカに残った仲間たちだけど、ぼくが目覚めて…」
地球に行きたいと言ってたらどう、とブルーは問うた。
「みんなを残して行けはしないし、船に乗ってくれ、って」
「なるほどな…。ジョミーの頼みじゃ、誰も聞かんが…」
ソルジャー・ブルーとなれば違うな、とハーレイも認めた。
十五年間も眠ったままでも、前のブルーは偉大な指導者。
目覚めて「行こう」と宣言されたら、逆らう者などいない。
「そうでしょ? ぼくはホントに、地球を見たかったし…」
寿命が尽きるとしても、行きたかった、とブルーは返した。
「どうしても見たい、って素直になれていたらね…」
「そうかもしれん…」
時すでに遅しというものだが、とハーレイも嘆きたくなる。
前のブルーが素直だったら、色々と違っていたのだろう。
遠く遥かな時の彼方で、素直になれずに生きた前のブルー。
そう生きるしかなかったとはいえ、反省点は存在する。
今の平和な時代に振り返ってみれば、間違えていた選択肢。
「前のブルーが犠牲になる」より、回り道でも選べた進路。
長い時間がかかったとしても、時代はミュウに味方した筈。
「…お前、失敗しちまったんだな…」
「そうみたい…。だから、とっても思うんだけど…」
ハーレイにも失敗して欲しくない、とブルーは真剣な口調。
「今のハーレイ、自分に素直になれてないもの…」
「なんだって?」
俺は自由に生きているが、とハーレイは瞳を瞬かせた。
仕事をしている時はあっても、自分を殺してなどはいない。
上手く手抜きをしてみたりもして、前よりも楽だと言える。
「キャプテン・ハーレイ」だった頃には、不可能だった。
自分に素直に生きているのに、ブルーの指摘は心外すぎる。
(…はて…?)
いったい何処が素直じゃないんだ、とハーレイは首を捻る。
思い当たるような節は無いから、途惑うしかない。
するとブルーは、「やっぱりね…」と呆れ返った顔をした。
「ハーレイも、前のぼくの場合に似ているのかも…」
そんな風に生きるしか道が無いから、と赤い瞳に同情の光。
「ごめんね、ぼくの姿が子供だから…」
ハーレイ、素直になれないんでしょ、とブルーは嘆いた。
「育った姿で出会えていたら、違ってたのに…」
素直に生きた方がいいと思うよ、とブルーが近付いて来る。
「キスくらいだったら、してもいいから」と。
(……そう来たか……!)
その手に乗ってたまるもんか、とハーレイは拳を握った。
「馬鹿野郎!」
真剣に聞いた俺も馬鹿だったが、とブルーの頭に軽く一発。
悪戯小僧には、素直に「お仕置き」するべき。
素直に生きた方がいいなら、心のままに、コッツンと…。
素直になるのは・了
(今のぼくなら、前の人生、もっと上手に…)
生きられるかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…今のぼくはチビで、子供の姿なんだけど…)
前の自分の記憶を全て持っているから、前の生を、上手くやり直すことが出来そう。
(転生モノって、そういう形の話もあるのかな?)
人気が高いジャンルだよね、と今のブルーは、よく知っている。
何かのはずみで「生まれ変わった」人の物語で、その生き様が醍醐味で人を惹き付ける。
(生まれ変わった先で、前の自分の記憶や知識を活かして…)
人生を過ごしてゆくわけだけれど、生まれ変わった人物がガラリと変わってしまう。
意地悪なキャラになるべき所が、いい人になってしまっていて、周りの調子を狂わせたりも。
(…悪役の筈が、優しい人のポジションだったりするんだよ)
自分だったら「此処は、こうする」と思う通りに動き回れば、悪役が善人になっても仕方ない。
他にも様々な物語が幾つもあって、どれも話題を呼んでいるジャンルが「転生モノ」。
(ぼくの場合は、ちょっと珍しいパターンになりそう…)
生まれ変わって「やり直す」んだから、と面白いアイデアに引き込まれてゆく。
前の生を「今の自分」の知識や記憶を活用しながら、やり直してゆくという物語。
(前の人生、やり直すんなら…)
まずは成人検査の所からかな、と「前の自分」の「一番古い記憶」を引っ張り出した。
成人検査でミュウに変化したせいで、人生そのものが狂ってしまって、記憶は其処から始まる。
(…前のぼくの記憶、これよりも古いの、無いんだよね…)
でも、とブルーは顎に手を当て、時の彼方を思い出してみた。
今の自分が「やり直す」場合、記憶の一番古い所からになるとは思えない。
(赤ん坊の時代は、論外だとしても…)
学校に通っていた頃くらいには、戻っていそう。
「やり直す」のは、スタート地点からの人生になる。
(……そうすると……)
上手く立ち回って、成人検査を受けないままで、逃げ出すことも出来るだろう。
「今のブルー」は運転免許も持っていないし、宇宙船の操縦は無理なのだけれど…。
(やり直すんなら、前のぼくだし…)
無免許なのは変わらなくても、操船技術は「持っている」。
「前のハーレイ」が、キャプテンに就任した後、懸命に技術を磨く間に、ブルーも覚えた。
厨房出身だった「キャプテン・ハーレイ」を育て上げた、シミュレーターがあったから。
(前のぼく、ハーレイの練習に付き合って…)
シミュレーターを「ゲーム感覚」で使いこなして、ハーレイ以上の成績を叩き出していた。
けれど、今の時代は、宇宙船の仕組みが変わったせいで、過去の栄光は通用しない。
「キャプテン・ハーレイ」本人の、「今のハーレイ」も、宇宙船の操船などは出来ない時代。
(今の時代だったら、無理なんだけど…)
遠く遥かな時の彼方でなら、ブルーにだって「操縦」は出来る。
(船を奪って、何処か遠くへ…)
逃げてゆくのが良さそうかな、と考えたけれど、その先が上手くいきそうにない。
(機械の目からは隠れられても、ミュウの未来を見捨てるのと同じで…)
自分だけしか得をしないよ、とブルーは溜息を一つ零した。
「今の自分」の記憶があるわけなのだし、自分が何を放り出したか、分かってしまう。
こんなのじゃ駄目だ、と「やり直す」地点は、変えるしかない。
大勢のミュウの命と未来を「捨ててしまってまで」、図太く生きてゆくのは難しすぎる。
(ソルジャー・ブルーの存在自体が、宇宙から消えてしまうしね…)
駄目すぎるよ、と悲しいけれども、「ソルジャー・ブルー」は大物だった。
(…転生したら、ソルジャー・ブルーだった、なんていう小説があっても…)
ちっとも不思議じゃないくらいだし、と自覚せざるを得ない「前の自分」の重要さ。
今の自分が「やりたい通り」に「やり直す」ことは、時代の流れまで変えてしまうだろう。
(…ソルジャー・ブルー、いないわけにはいきそうにないよ…)
成人検査は回避不可能らしいよね、と小さなブルーは、頭痛がしそう。
あの忌まわしい「検査」を受けたが最後、前の自分の子供時代の記憶は消される。
(転生モノだし、今のぼくの記憶まで消えはしないんだけど…)
なんだか悔しい、と腹立たしくなっても、「運命」だと思って耐えるしかない。
成人検査の後に落ちた地獄も、「生き延びられる」ことを知っているなら、耐えられそう。
(…もっと早くに、脱出したって…)
大切な人が「いない」んだよ、と「ハーレイ」の顔を思い浮かべた。
「やり直しの人生」で、「ハーレイに出会いたい」のならば、我慢して生きる以外に無い。
(アルタミラが、メギドで燃えるよりも前に…)
前のハーレイだけを「助け出す」ことは出来ても、ハーレイは、きっと従ってくれない。
(他のヤツらは、どうするんだ、って…)
ハーレイならば「尋ねて来る」に決まっているから、脱出自体が「大脱走」に化ける。
人類が「ミュウを閉じ込めていた」施設を丸ごと、破壊してからの逃走劇。
(…宇宙船、上手く見付かればいいんだけれど…)
どうなのかな、と「今のブルー」の知識の中にも、当時の宙港の仕組みは入っていない。
常駐している宇宙船の数も、離発着する宇宙船のスケジュールも、謎でしかない。
(…メギドが来る前に、逃げ出すのは無理…)
失敗するのに決まっているよ、と思うものだから、これも「前の通り」にしか運んでくれない。
(ミュウの仲間を、ほんの少しばかり…)
多めに助け出せる程度なんだ、と歯噛みしてみても、どうにも出来ない。
(…前のぼくって、やり直しさえも難しいくらい…)
凄い人生を生きていたみたい、とブルーはフウと溜息をついて、次に進んだ。
アルタミラでも「やり直せない」のなら、チャンスは「脱出してから」後のことになる。
(…アルタミラから逃げて、アルテメシアに辿り着くまでは…)
人類軍にも出会わなかったし、「やり直したい」ほどの出来事は無かった。
アルテメシアでも平穏な日々で、「今の自分の記憶」の出番は、ミュウの子供の救出だろう。
(助け損ねた子供たちなら、一人残らず覚えてるから…)
先回りをすれば、どの子も「無事に」シャングリラに迎えられる。
(もしかしたら、そうやって助け出した子供たちの中に…)
優秀な人材が混じってるかも、と前向きに考えていて、ハタと気付いた。
(……大物は、ジョミー……)
タイプ・ブルーは、ジョミー以外に「いなかった」んだよ、と現実を見詰めざるを得ない。
どう頑張っても、ジョミーが「早めに生まれて来る」コースを、作れはしない。
寿命の残りが少なくなるまで、頼もしいジョミーは生まれて来ない。
(…やり直すんなら、ジョミーとの出会いになるんだけれど…)
最低最悪な出会いだったし、と「今の自分」も思うけれども、変えようが無さそう。
(分かりました、って素直に船に来るような「ジョミー」は…)
強いだけの「ミュウ」でしかないよ、と嫌というほど分かっている。
「ソルジャー・ブルー」に逆らうほどの人材だったからこそ、後のソルジャー・シンがあった。
(…ジョミーに嫌われて、追っかけて行って…)
後釜に据えるしか無いんだってば、と「また、躓いた」。
「やり直せない」のは、ジョミーについても「同じ」らしい。
(ジョミーと衝突しちゃったツケが、ずっと響いて…)
アルテメシアを追われた後に、十五年間も「眠り続ける」ことになってしまった。
出来るものなら「やり直したい」ポイントだけれど、体調までは「変えられはしない」。
眠り続けて、ナスカで再び目覚める時まで、「やり直せる」地点は一つも無い。
(……ナスカなんて……)
やり直すのは、どう転がっても無理そうだよ、とブルーは頭を抱えてしまった。
「今の自分」の記憶があっても、それを活かせる場面の中に「前の自分」が存在しない。
(…鍵になるのは、キースなんだけどな…)
格納庫で出会う直前まで、ぼくは「目覚めてくれない」んだし、と嘆きたくなる。
前の自分が「眠ったままで、目覚めない」以上、記憶があっても「やり直し」は出来ない。
(…やり直すんなら、此処が最大の山場に違いないんだけどね…)
前のぼくの人生、やり直すことも出来ないみたい、と超特大の溜息をついた。
やり直して「違う展開」に変えてみたくても、やり方を見付けることが出来そうにない。
(…前のぼくって、大物すぎだよ…)
誰か上手に書いてくれないかな、とプロの作家に頼みたくなる。
「人生を上手くやり直す」ためのシナリオを。
誰も不幸になりはしなくて、前の自分も幸せになれる筋書きの物語。
『転生したら、ソルジャー・ブルーだった』という、うんと素敵な「転生モノ」を…。
やり直すんなら・了
※前の生をやり直すのなら、どうすればいいか、考え始めたブルー君。転生モノの一種。
ところが上手くやり直すには、ハードルが高すぎる前の生。プロ作家の出番かもv
生きられるかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…今のぼくはチビで、子供の姿なんだけど…)
前の自分の記憶を全て持っているから、前の生を、上手くやり直すことが出来そう。
(転生モノって、そういう形の話もあるのかな?)
人気が高いジャンルだよね、と今のブルーは、よく知っている。
何かのはずみで「生まれ変わった」人の物語で、その生き様が醍醐味で人を惹き付ける。
(生まれ変わった先で、前の自分の記憶や知識を活かして…)
人生を過ごしてゆくわけだけれど、生まれ変わった人物がガラリと変わってしまう。
意地悪なキャラになるべき所が、いい人になってしまっていて、周りの調子を狂わせたりも。
(…悪役の筈が、優しい人のポジションだったりするんだよ)
自分だったら「此処は、こうする」と思う通りに動き回れば、悪役が善人になっても仕方ない。
他にも様々な物語が幾つもあって、どれも話題を呼んでいるジャンルが「転生モノ」。
(ぼくの場合は、ちょっと珍しいパターンになりそう…)
生まれ変わって「やり直す」んだから、と面白いアイデアに引き込まれてゆく。
前の生を「今の自分」の知識や記憶を活用しながら、やり直してゆくという物語。
(前の人生、やり直すんなら…)
まずは成人検査の所からかな、と「前の自分」の「一番古い記憶」を引っ張り出した。
成人検査でミュウに変化したせいで、人生そのものが狂ってしまって、記憶は其処から始まる。
(…前のぼくの記憶、これよりも古いの、無いんだよね…)
でも、とブルーは顎に手を当て、時の彼方を思い出してみた。
今の自分が「やり直す」場合、記憶の一番古い所からになるとは思えない。
(赤ん坊の時代は、論外だとしても…)
学校に通っていた頃くらいには、戻っていそう。
「やり直す」のは、スタート地点からの人生になる。
(……そうすると……)
上手く立ち回って、成人検査を受けないままで、逃げ出すことも出来るだろう。
「今のブルー」は運転免許も持っていないし、宇宙船の操縦は無理なのだけれど…。
(やり直すんなら、前のぼくだし…)
無免許なのは変わらなくても、操船技術は「持っている」。
「前のハーレイ」が、キャプテンに就任した後、懸命に技術を磨く間に、ブルーも覚えた。
厨房出身だった「キャプテン・ハーレイ」を育て上げた、シミュレーターがあったから。
(前のぼく、ハーレイの練習に付き合って…)
シミュレーターを「ゲーム感覚」で使いこなして、ハーレイ以上の成績を叩き出していた。
けれど、今の時代は、宇宙船の仕組みが変わったせいで、過去の栄光は通用しない。
「キャプテン・ハーレイ」本人の、「今のハーレイ」も、宇宙船の操船などは出来ない時代。
(今の時代だったら、無理なんだけど…)
遠く遥かな時の彼方でなら、ブルーにだって「操縦」は出来る。
(船を奪って、何処か遠くへ…)
逃げてゆくのが良さそうかな、と考えたけれど、その先が上手くいきそうにない。
(機械の目からは隠れられても、ミュウの未来を見捨てるのと同じで…)
自分だけしか得をしないよ、とブルーは溜息を一つ零した。
「今の自分」の記憶があるわけなのだし、自分が何を放り出したか、分かってしまう。
こんなのじゃ駄目だ、と「やり直す」地点は、変えるしかない。
大勢のミュウの命と未来を「捨ててしまってまで」、図太く生きてゆくのは難しすぎる。
(ソルジャー・ブルーの存在自体が、宇宙から消えてしまうしね…)
駄目すぎるよ、と悲しいけれども、「ソルジャー・ブルー」は大物だった。
(…転生したら、ソルジャー・ブルーだった、なんていう小説があっても…)
ちっとも不思議じゃないくらいだし、と自覚せざるを得ない「前の自分」の重要さ。
今の自分が「やりたい通り」に「やり直す」ことは、時代の流れまで変えてしまうだろう。
(…ソルジャー・ブルー、いないわけにはいきそうにないよ…)
成人検査は回避不可能らしいよね、と小さなブルーは、頭痛がしそう。
あの忌まわしい「検査」を受けたが最後、前の自分の子供時代の記憶は消される。
(転生モノだし、今のぼくの記憶まで消えはしないんだけど…)
なんだか悔しい、と腹立たしくなっても、「運命」だと思って耐えるしかない。
成人検査の後に落ちた地獄も、「生き延びられる」ことを知っているなら、耐えられそう。
(…もっと早くに、脱出したって…)
大切な人が「いない」んだよ、と「ハーレイ」の顔を思い浮かべた。
「やり直しの人生」で、「ハーレイに出会いたい」のならば、我慢して生きる以外に無い。
(アルタミラが、メギドで燃えるよりも前に…)
前のハーレイだけを「助け出す」ことは出来ても、ハーレイは、きっと従ってくれない。
(他のヤツらは、どうするんだ、って…)
ハーレイならば「尋ねて来る」に決まっているから、脱出自体が「大脱走」に化ける。
人類が「ミュウを閉じ込めていた」施設を丸ごと、破壊してからの逃走劇。
(…宇宙船、上手く見付かればいいんだけれど…)
どうなのかな、と「今のブルー」の知識の中にも、当時の宙港の仕組みは入っていない。
常駐している宇宙船の数も、離発着する宇宙船のスケジュールも、謎でしかない。
(…メギドが来る前に、逃げ出すのは無理…)
失敗するのに決まっているよ、と思うものだから、これも「前の通り」にしか運んでくれない。
(ミュウの仲間を、ほんの少しばかり…)
多めに助け出せる程度なんだ、と歯噛みしてみても、どうにも出来ない。
(…前のぼくって、やり直しさえも難しいくらい…)
凄い人生を生きていたみたい、とブルーはフウと溜息をついて、次に進んだ。
アルタミラでも「やり直せない」のなら、チャンスは「脱出してから」後のことになる。
(…アルタミラから逃げて、アルテメシアに辿り着くまでは…)
人類軍にも出会わなかったし、「やり直したい」ほどの出来事は無かった。
アルテメシアでも平穏な日々で、「今の自分の記憶」の出番は、ミュウの子供の救出だろう。
(助け損ねた子供たちなら、一人残らず覚えてるから…)
先回りをすれば、どの子も「無事に」シャングリラに迎えられる。
(もしかしたら、そうやって助け出した子供たちの中に…)
優秀な人材が混じってるかも、と前向きに考えていて、ハタと気付いた。
(……大物は、ジョミー……)
タイプ・ブルーは、ジョミー以外に「いなかった」んだよ、と現実を見詰めざるを得ない。
どう頑張っても、ジョミーが「早めに生まれて来る」コースを、作れはしない。
寿命の残りが少なくなるまで、頼もしいジョミーは生まれて来ない。
(…やり直すんなら、ジョミーとの出会いになるんだけれど…)
最低最悪な出会いだったし、と「今の自分」も思うけれども、変えようが無さそう。
(分かりました、って素直に船に来るような「ジョミー」は…)
強いだけの「ミュウ」でしかないよ、と嫌というほど分かっている。
「ソルジャー・ブルー」に逆らうほどの人材だったからこそ、後のソルジャー・シンがあった。
(…ジョミーに嫌われて、追っかけて行って…)
後釜に据えるしか無いんだってば、と「また、躓いた」。
「やり直せない」のは、ジョミーについても「同じ」らしい。
(ジョミーと衝突しちゃったツケが、ずっと響いて…)
アルテメシアを追われた後に、十五年間も「眠り続ける」ことになってしまった。
出来るものなら「やり直したい」ポイントだけれど、体調までは「変えられはしない」。
眠り続けて、ナスカで再び目覚める時まで、「やり直せる」地点は一つも無い。
(……ナスカなんて……)
やり直すのは、どう転がっても無理そうだよ、とブルーは頭を抱えてしまった。
「今の自分」の記憶があっても、それを活かせる場面の中に「前の自分」が存在しない。
(…鍵になるのは、キースなんだけどな…)
格納庫で出会う直前まで、ぼくは「目覚めてくれない」んだし、と嘆きたくなる。
前の自分が「眠ったままで、目覚めない」以上、記憶があっても「やり直し」は出来ない。
(…やり直すんなら、此処が最大の山場に違いないんだけどね…)
前のぼくの人生、やり直すことも出来ないみたい、と超特大の溜息をついた。
やり直して「違う展開」に変えてみたくても、やり方を見付けることが出来そうにない。
(…前のぼくって、大物すぎだよ…)
誰か上手に書いてくれないかな、とプロの作家に頼みたくなる。
「人生を上手くやり直す」ためのシナリオを。
誰も不幸になりはしなくて、前の自分も幸せになれる筋書きの物語。
『転生したら、ソルジャー・ブルーだった』という、うんと素敵な「転生モノ」を…。
やり直すんなら・了
※前の生をやり直すのなら、どうすればいいか、考え始めたブルー君。転生モノの一種。
ところが上手くやり直すには、ハードルが高すぎる前の生。プロ作家の出番かもv
(今の人生、やり直しみたいなモンなんだよなあ…)
実際には前の続きなんだが、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(考え方によっては、やり直しとも言えるだろう)
前の生では出来なかった沢山のことを、青い地球の上でやっていけるし、やり直し。
しかも愛おしい人も一緒で、素晴らしい人生を送ってゆけそう。
(…前のあいつを失くした時には、俺の人生、真っ暗になってしまって…)
それから後は、どう生きていたかも記憶が定かではない。
白いシャングリラのキャプテンとしては、全て覚えているのだけれども、他が怪しい。
(個人的なことになったら、他人事のようで…)
傍観者でしかないんだよな、と思うくらいに、「自分」を捨ててしまっていた。
前のブルーが「いない」人生、それには意味が無かったから。
(今から、人生、やり直せるのは、有難いぞ)
ちょいと時代がズレちまったが、と苦笑はしても、青く蘇った地球での人生。
時代が少しズレていようが、前の自分が「英雄扱い」の世界だろうが、構わない。
愛おしい人と「やり直せる」なら、例え地獄の底であろうと、きっと自分は幸せだろう。
(…とはいえ、地獄は御免蒙りたいが…)
前の生だけで充分だしな、と時の彼方を思い返して、別の考えがヒョイと浮かんだ。
同じ「人生」を「やり直す」のなら、前の生だと、どうなるのだろう、と。
遠く遥かな時の彼方に、「前の自分」の人生がある。
「キャプテン・ハーレイ」として生きた時代で、その「人生」を、やり直すという考え。
(転生モノってヤツが、色々とあって…)
死んだ人間が、生まれ変わって「別の人生」を生きてゆくという物語がある。
「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わるのも、「転生モノ」でいいのだろうか。
(……ふうむ……)
その手の知識に詳しくはないが、とハーレイは少し首を捻った。
「転生モノ」に該当するのか、しないのかまでは、知識不足で分からない。
古典の教師をやっている上、現代小説なども好きだとはいえ、範疇外の疑問になる。
(その手の知識は、持っちゃいないし…)
まあいいとしよう、と「転生モノ」かどうかは、棚上げにして先に進んだ。
「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わって、その人生を生きてみるのも、興味深い。
(生まれ変わりなんだし、今の俺と、条件は変わらないんだよなあ?)
何処の時点で記憶があるかは、運次第だが、と想像の翼を羽ばたかせる。
(生まれつき持っていたっていいし、途中からでもいいんだが…)
先が分かっている人生だしな、とハーレイはコーヒーのカップを傾けた。
「今の自分」の記憶を持っているなら、「人生の先」は分かっている。
前のブルーと「メギドの炎で燃え上がる地獄」で出会って、後にメギドのせいで別れた。
(…まるでメギドが鍵のようだな…)
メギドが人生の節目とは酷い、と思いはしても、今では「済んでしまったこと」でしかない。
「仕方なかった」で終わりなのだけれど、「やり直し」ならば「違って来る」。
(転生モノの醍醐味と言えば、そういった点で…)
定型的な筈の物語が、「転生」という要素で、ガラリと変わってゆくのが王道だろう。
「本来、こういった人は、こう生きる」と誰もが頷く所が、人が変わって、生き方も変わる。
「今の自分」が「前の自分」に「生まれ変わった」場合にしたって、当て嵌まりそう。
(…メギドの辺りを、ちょいとだな…)
今の俺ならではの知識でもって、書き換えてやれば、と思わず笑みを湛えてしまった。
始まりの方の「メギド」は、そのままにしておいても、問題は無い。
ちょっぴり欲を出していいなら、当時は「持ち合わせなかった」記憶をプラスしてやれば…。
(閉じ込められてたシェルターが、壊れちまってて…)
救出が間に合わなかった仲間を、先回りして何人も救い出せる。
何処のシェルターが「無事に残っていたか」は、今の自分が覚えている。
救出するのを後に回せば、壊れていたシェルターが「無事な間」に、きっと救える。
(よし、物語の出だしは、なかなかに…)
良さそうじゃないか、とハーレイは自画自賛した。
滑り出しとしては上々、幸先のいいスタートを切ることが出来そう。
(其処から先は、多分、大して…)
大きく変わりはしないんだよな、と時の彼方を思い返した。
幸いなことに、人類軍との「本格的な戦闘」は、アルテメシアに着くまで無かった。
アルテメシアでも、ジョミーを救出するまでの間は、平穏な日々が流れていた。
(今の俺の記憶で救い出せるのは、そう多くなくて…)
ミュウの子供を助ける程度だよな、と「助け損ねた子供」の数だけ指を折ってみる。
(…恐らく、この子たちの全てを…)
俺の記憶で助けられるぞ、と「救出失敗」の理由を挙げて、ハーレイは大きく頷いた。
(そうなりゃ、ジョミーの救出にしても…)
先回り出来る部分はありそうだが、と思うけれども、その件は、後でいいだろう。
(……問題は、メギド……)
ナスカで出て来た、例のヤツだ、と忌まわしい惑星破壊兵器に舌打ちをする。
流石に「メギド」は、今の自分の記憶があっても、手も足も出ない。
使える兵器は限られているし、白いシャングリラでは「破壊出来ない」。
(…壊せないなら、アレが来るのを…)
阻むか、キースがメギドを持ち出す前に、シャングリラでナスカから脱出するか。
(現実的な選択としては、後者で…)
ナスカに残ろうとした者たちを、全て殴り倒してでも、強引に船に乗り込ませる。
(皆を乗せたら、ブリッジで舵をしっかり握って、シャングリラ、発進! とだ…)
俺が号令すれば行けるぞ、とシナリオを描く。
メギドが来る前に、ワープしさえすれば、誰もナスカで死にはしないし、前のブルーも…。
(失くさないで済んで、かなり時間がかかったとしても…)
地球まで連れて行けそうだよな、とハーレイは笑んだ。
「今の自分」の記憶さえあれば、前の自分が辿った道より、旅は短い。
訪れるだろう様々な危機をヒョイと乗り越え、シャングリラは地球に辿り着ける。
もっとも、そうして着いた「憧れの地球」の姿は、とても無残なものなのだけれど。
前のブルーが、地球で目覚めて、赤茶けている星を見たなら、悲しむだろう。
青い水の星を長く夢見て、焦がれ続けていたのだから。
(しかしだな…)
どうにも出来んし、ご愛敬で勘弁して欲しい、と「転生モノ」の中のブルーに、心で詫びる。
(地球という星に生きて行けただけでも、良しとして…)
青くない点は許してくれよ、と苦笑していて、別のルートを考え付いた。
(…メギド自体は破壊出来んが、アレが来るのを…)
阻む方法、無いわけでも、と「非現実的だ」としか言えない方の、選択肢の先を。
(メギドが来たのは、キースがアレを持ち出したせいで…)
ヤツさえいなけりゃ、どうとでもなるな、と「転生モノ」ならではの展開を。
(要は、キースが…)
消えてくれればいいってことだ、と顎に手を当て、ニヤリと笑う。
(今の俺なら、先回りして…)
ヤツを殺してしまうことが出来るぞ、と「あの後に起きた」事実を挙げてゆく。
(一度目のチャンスは、ヤツがナスカに下りて来た時で…)
他の仲間が何と言おうが、「撃ち落とせ!」と、たった一言、命じればいい。
キースが乗って降下して来る小型機、それを落とせば、キースは「死ぬ」。
(…実際、緊迫した場面だったし…)
「キャプテン・ハーレイ」の判断ならば、ジョミーも従うことだろう。
第一、ジョミーは、あの時には…。
(ナスカに下りてたわけなんだしな…?)
俺が、撃墜させたとしたって、事後報告に過ぎん、と嬉しくなった「名案」だけども…。
(…待てよ?)
キースが死んだら、其処から先は、どうなるんだ、と「穴」に気付いた。
当時のキースは「悪」そのものでも、後には「人類の世界を根底から変えた英雄」になる。
(…もしも、キースを消しちまったら…)
前のブルーは存命だけれど、地球までの旅路が、どうなるのやら、と深い溜息が零れ落ちた。
(……難問だな……)
転生モノってヤツの中でも、人生は難しいのかもしれん、と苦い笑いをうかべるしかない。
(…やり直すなら、今の俺の人生くらいが、丁度いいのかもな…)
平和な青い地球の上で、とカップを傾け、納得した。
「俺の人生、これでいいんだ」と、満足で。
今の新しい人生をくれた、神に心からの感謝をこめて、カップを乾杯のように掲げて…。
やり直すなら・了
※前の自分に転生したなら、上手く人生をやり直せる、と思い付いたハーレイ先生。
けれど、キースを消してしまうのは無理で、縛りが多そう。今の人生が良さそうですねv
実際には前の続きなんだが、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(考え方によっては、やり直しとも言えるだろう)
前の生では出来なかった沢山のことを、青い地球の上でやっていけるし、やり直し。
しかも愛おしい人も一緒で、素晴らしい人生を送ってゆけそう。
(…前のあいつを失くした時には、俺の人生、真っ暗になってしまって…)
それから後は、どう生きていたかも記憶が定かではない。
白いシャングリラのキャプテンとしては、全て覚えているのだけれども、他が怪しい。
(個人的なことになったら、他人事のようで…)
傍観者でしかないんだよな、と思うくらいに、「自分」を捨ててしまっていた。
前のブルーが「いない」人生、それには意味が無かったから。
(今から、人生、やり直せるのは、有難いぞ)
ちょいと時代がズレちまったが、と苦笑はしても、青く蘇った地球での人生。
時代が少しズレていようが、前の自分が「英雄扱い」の世界だろうが、構わない。
愛おしい人と「やり直せる」なら、例え地獄の底であろうと、きっと自分は幸せだろう。
(…とはいえ、地獄は御免蒙りたいが…)
前の生だけで充分だしな、と時の彼方を思い返して、別の考えがヒョイと浮かんだ。
同じ「人生」を「やり直す」のなら、前の生だと、どうなるのだろう、と。
遠く遥かな時の彼方に、「前の自分」の人生がある。
「キャプテン・ハーレイ」として生きた時代で、その「人生」を、やり直すという考え。
(転生モノってヤツが、色々とあって…)
死んだ人間が、生まれ変わって「別の人生」を生きてゆくという物語がある。
「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わるのも、「転生モノ」でいいのだろうか。
(……ふうむ……)
その手の知識に詳しくはないが、とハーレイは少し首を捻った。
「転生モノ」に該当するのか、しないのかまでは、知識不足で分からない。
古典の教師をやっている上、現代小説なども好きだとはいえ、範疇外の疑問になる。
(その手の知識は、持っちゃいないし…)
まあいいとしよう、と「転生モノ」かどうかは、棚上げにして先に進んだ。
「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わって、その人生を生きてみるのも、興味深い。
(生まれ変わりなんだし、今の俺と、条件は変わらないんだよなあ?)
何処の時点で記憶があるかは、運次第だが、と想像の翼を羽ばたかせる。
(生まれつき持っていたっていいし、途中からでもいいんだが…)
先が分かっている人生だしな、とハーレイはコーヒーのカップを傾けた。
「今の自分」の記憶を持っているなら、「人生の先」は分かっている。
前のブルーと「メギドの炎で燃え上がる地獄」で出会って、後にメギドのせいで別れた。
(…まるでメギドが鍵のようだな…)
メギドが人生の節目とは酷い、と思いはしても、今では「済んでしまったこと」でしかない。
「仕方なかった」で終わりなのだけれど、「やり直し」ならば「違って来る」。
(転生モノの醍醐味と言えば、そういった点で…)
定型的な筈の物語が、「転生」という要素で、ガラリと変わってゆくのが王道だろう。
「本来、こういった人は、こう生きる」と誰もが頷く所が、人が変わって、生き方も変わる。
「今の自分」が「前の自分」に「生まれ変わった」場合にしたって、当て嵌まりそう。
(…メギドの辺りを、ちょいとだな…)
今の俺ならではの知識でもって、書き換えてやれば、と思わず笑みを湛えてしまった。
始まりの方の「メギド」は、そのままにしておいても、問題は無い。
ちょっぴり欲を出していいなら、当時は「持ち合わせなかった」記憶をプラスしてやれば…。
(閉じ込められてたシェルターが、壊れちまってて…)
救出が間に合わなかった仲間を、先回りして何人も救い出せる。
何処のシェルターが「無事に残っていたか」は、今の自分が覚えている。
救出するのを後に回せば、壊れていたシェルターが「無事な間」に、きっと救える。
(よし、物語の出だしは、なかなかに…)
良さそうじゃないか、とハーレイは自画自賛した。
滑り出しとしては上々、幸先のいいスタートを切ることが出来そう。
(其処から先は、多分、大して…)
大きく変わりはしないんだよな、と時の彼方を思い返した。
幸いなことに、人類軍との「本格的な戦闘」は、アルテメシアに着くまで無かった。
アルテメシアでも、ジョミーを救出するまでの間は、平穏な日々が流れていた。
(今の俺の記憶で救い出せるのは、そう多くなくて…)
ミュウの子供を助ける程度だよな、と「助け損ねた子供」の数だけ指を折ってみる。
(…恐らく、この子たちの全てを…)
俺の記憶で助けられるぞ、と「救出失敗」の理由を挙げて、ハーレイは大きく頷いた。
(そうなりゃ、ジョミーの救出にしても…)
先回り出来る部分はありそうだが、と思うけれども、その件は、後でいいだろう。
(……問題は、メギド……)
ナスカで出て来た、例のヤツだ、と忌まわしい惑星破壊兵器に舌打ちをする。
流石に「メギド」は、今の自分の記憶があっても、手も足も出ない。
使える兵器は限られているし、白いシャングリラでは「破壊出来ない」。
(…壊せないなら、アレが来るのを…)
阻むか、キースがメギドを持ち出す前に、シャングリラでナスカから脱出するか。
(現実的な選択としては、後者で…)
ナスカに残ろうとした者たちを、全て殴り倒してでも、強引に船に乗り込ませる。
(皆を乗せたら、ブリッジで舵をしっかり握って、シャングリラ、発進! とだ…)
俺が号令すれば行けるぞ、とシナリオを描く。
メギドが来る前に、ワープしさえすれば、誰もナスカで死にはしないし、前のブルーも…。
(失くさないで済んで、かなり時間がかかったとしても…)
地球まで連れて行けそうだよな、とハーレイは笑んだ。
「今の自分」の記憶さえあれば、前の自分が辿った道より、旅は短い。
訪れるだろう様々な危機をヒョイと乗り越え、シャングリラは地球に辿り着ける。
もっとも、そうして着いた「憧れの地球」の姿は、とても無残なものなのだけれど。
前のブルーが、地球で目覚めて、赤茶けている星を見たなら、悲しむだろう。
青い水の星を長く夢見て、焦がれ続けていたのだから。
(しかしだな…)
どうにも出来んし、ご愛敬で勘弁して欲しい、と「転生モノ」の中のブルーに、心で詫びる。
(地球という星に生きて行けただけでも、良しとして…)
青くない点は許してくれよ、と苦笑していて、別のルートを考え付いた。
(…メギド自体は破壊出来んが、アレが来るのを…)
阻む方法、無いわけでも、と「非現実的だ」としか言えない方の、選択肢の先を。
(メギドが来たのは、キースがアレを持ち出したせいで…)
ヤツさえいなけりゃ、どうとでもなるな、と「転生モノ」ならではの展開を。
(要は、キースが…)
消えてくれればいいってことだ、と顎に手を当て、ニヤリと笑う。
(今の俺なら、先回りして…)
ヤツを殺してしまうことが出来るぞ、と「あの後に起きた」事実を挙げてゆく。
(一度目のチャンスは、ヤツがナスカに下りて来た時で…)
他の仲間が何と言おうが、「撃ち落とせ!」と、たった一言、命じればいい。
キースが乗って降下して来る小型機、それを落とせば、キースは「死ぬ」。
(…実際、緊迫した場面だったし…)
「キャプテン・ハーレイ」の判断ならば、ジョミーも従うことだろう。
第一、ジョミーは、あの時には…。
(ナスカに下りてたわけなんだしな…?)
俺が、撃墜させたとしたって、事後報告に過ぎん、と嬉しくなった「名案」だけども…。
(…待てよ?)
キースが死んだら、其処から先は、どうなるんだ、と「穴」に気付いた。
当時のキースは「悪」そのものでも、後には「人類の世界を根底から変えた英雄」になる。
(…もしも、キースを消しちまったら…)
前のブルーは存命だけれど、地球までの旅路が、どうなるのやら、と深い溜息が零れ落ちた。
(……難問だな……)
転生モノってヤツの中でも、人生は難しいのかもしれん、と苦い笑いをうかべるしかない。
(…やり直すなら、今の俺の人生くらいが、丁度いいのかもな…)
平和な青い地球の上で、とカップを傾け、納得した。
「俺の人生、これでいいんだ」と、満足で。
今の新しい人生をくれた、神に心からの感謝をこめて、カップを乾杯のように掲げて…。
やり直すなら・了
※前の自分に転生したなら、上手く人生をやり直せる、と思い付いたハーレイ先生。
けれど、キースを消してしまうのは無理で、縛りが多そう。今の人生が良さそうですねv
「ねえ、ハーレイ。過保護にするのは…」
良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。
「すまん、別件だったんだな?」
勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
SD体制の時代だったら、育児は違った。
機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。
カリナは、過保護だったわけではない。
ただ、愛情が深くて大きすぎた。
トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。
「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。
(そう来やがったか…!)
今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。
過保護にするのは・了
良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。
「すまん、別件だったんだな?」
勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
SD体制の時代だったら、育児は違った。
機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。
カリナは、過保護だったわけではない。
ただ、愛情が深くて大きすぎた。
トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。
「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。
(そう来やがったか…!)
今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。
過保護にするのは・了
