「ねえ、ハーレイ。過保護にするのは…」
良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。
「すまん、別件だったんだな?」
勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
SD体制の時代だったら、育児は違った。
機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。
カリナは、過保護だったわけではない。
ただ、愛情が深くて大きすぎた。
トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。
「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。
(そう来やがったか…!)
今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。
過保護にするのは・了
良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。
「すまん、別件だったんだな?」
勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
SD体制の時代だったら、育児は違った。
機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。
カリナは、過保護だったわけではない。
ただ、愛情が深くて大きすぎた。
トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。
「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。
(そう来やがったか…!)
今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。
過保護にするのは・了
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(美人でも、三日で飽きるって言うらしいけど…)
今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。
懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
今のブルーは、そういう位置付け。
誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。
(…美人でも、三日で飽きられるから…)
ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。
(……えっと……?)
会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。
(…ということは、今のぼくだと…)
育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
おかしくないんだ、と恐ろしい。
なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。
そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
飽きられてしまったら、おしまいだから。
いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。
飽きられちゃったら・了
※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv
今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。
懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
今のブルーは、そういう位置付け。
誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。
(…美人でも、三日で飽きられるから…)
ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。
(……えっと……?)
会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。
(…ということは、今のぼくだと…)
育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
おかしくないんだ、と恐ろしい。
なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。
そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
飽きられてしまったら、おしまいだから。
いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。
飽きられちゃったら・了
※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv
(…美人は三日で飽きる、って言うが…)
前の俺は飽きはしなかったな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…三日どころか、三百年も…)
飽きずに眺め続けたんだ、と遠く遥かな時の彼方での歳月を思う。
前のハーレイは、飽きることなく「前のブルー」を見詰め続けた。
三日で飽きるなど、今、考えてみても「有り得ない」。
(…あんな美人は、そうはいないぞ…)
美人過ぎると飽きないのかもな、と可笑しくなる。
「ブルーに飽きる」時が来るなど、思い付きさえしなかった。
(…今の俺にしても、きっと…)
三百年でも飽きやしない、と「飽きない自信」は、たっぷりとある。
青い地球の上に生まれ変わったのだし、尚更だろう。
(前だと、考えられなかったような暮らしで…)
飽きるどころか、新鮮な日々が続きそうだ。
(現に今でも、新鮮で…)
新鮮すぎると言うべきかもな、と「今のブルー」を頭に描いた。
今のブルーは、十四歳にしかならない「子供」で「チビ」。
小さなブルーは、前の生でも出会ったけれども、今のブルーとは全く違う。
(中身は確かに子供だったが、前の俺より年上で…)
サイオンだって凄かったんだ、とアルタミラでの出会いを思い出す。
今の「サイオンが不器用になった」ブルーとは、月とスッポンくらいに差があった。
(…俺が言うまで、思い付いてはいなかったが…)
前のブルーは、強いサイオンで、大勢の仲間を救い出した。
メギドの炎で燃える地面を走り続けて、閉じ込められた仲間を解き放って。
前のブルーは、同じチビでも「強かった」。
サイオンばかりか、心の方も、やはり強めに出来ていた。
(直ぐに膨れてしまいやしなかったな…)
頬っぺたを膨らませた顔などは知らん、と今のブルーと比べてみる。
(前のあいつの、ハコフグみたいな顔は知らんし…)
顔を見ているだけでも新鮮だ、と愉快になる。
今でさえも「そういう調子」なのだし、先の人生は、もっと新鮮なのに違いない。
(前のあいつと瓜二つでも、まるで違って見えそうだぞ…)
釣りをしているブルーなんて、と「約束」の一つを思うだけでも、楽しみな気分。
今のハーレイの父は、釣りの名人。
ブルーも「大きくなったら、ハーレイのお父さんと釣りに行きたい」と夢を見ている。
約束は、じきに叶うだろうし、釣竿を持った「ブルー」が見られる。
前のブルーだと、釣りの道具を使う機会は、一度も無かった。
釣りが出来る日を「いつか、地球で」と夢に見たって、其処までが長い。
(…まず、人類とミュウの関係ってヤツを…)
なんとか解決しないことには、地球には行けない。
当然、釣りに行けもしないし、其処までの道を「切り開く」のが、前のブルーの役目だった。
(…とんでもない、重大な責任で…)
ブルーが一人で背負ってゆくには「重すぎた」けれど、どうすることも出来はしなかった。
(…タイプ・ブルーは、あいつ一人で…)
他の者では「戦えない」以上、ブルーが一人で背負うしかない。
(そんなあいつを、横で支えることしか出来なかったが…)
今度は逆になりそうだしな、と「今のブルー」が「前より弱い」のが、本当に嬉しい。
(あいつは、不満たらたらなんだが…)
俺にとっては有難いんだ、と「今の自分」に感謝する。
ブルーよりも年上に生まれられたし、身体も頑丈に出来ているから、今のブルーに丁度いい。
横で支えて生きるのではなくて、先に立って進んでゆける人生。
(…今のあいつの手を、しっかりと握ってだな…)
次はこっちだ、とリードしながら行けるってモンだ、とコーヒーのカップを傾ける。
ブルーに「飽きる」日など来なくて、人生が幕を閉じる時まで、幸せ一杯で歩けそうだ。
(…砂糖カエデが生えた森とか、青いケシが咲く高い山とか…)
旅に行けるし、普段だったら食事にドライブ、と夢が大きく広がってゆく。
どれも「今は、まだ夢」の時点だけれども、いずれは叶うことばかり。
(あいつに飽きる暇など、何処にあるんだ?)
無いじゃないか、と思う間に、ハタと気付いた。
(……待てよ?)
俺の方では飽きないんだが…、と「今のブルー」を考えてみる。
(…美人でも、三日で飽きるそうだし…)
俺の場合はどうなんだ、と鏡を覗くまでもない。
(…美人どころか、逆と言っても…)
いいのが「俺」というわけなだんだが…、と時の彼方での「約束事」が蘇って来る。
(…シャングリラで作ってた、薔薇の花びらのジャムは…)
数が少ないせいで、出来上がる度に「クジ引き」だった。
そのためのクジが入れられた箱は、白いシャングリラの中を回って、ブリッジにも来た。
(クジの箱が来たら、ゼルまでもが…)
「どれ、運試しじゃ」と、箱に手を突っ込んでいたものだけれど…。
(クジ引きの箱は、前の俺の前は、いつも素通り…)
立ち止まりもせずに通り過ぎて行った、クジの箱を持った女性たち。
「キャプテンに、薔薇のジャムは似合わないわよね」と、船の女性たちは思っていた。
(…恐らく、前のあいつ以外は…)
俺なんか見てはいなかったんだ、と悪い方での自信なら「ある」。
前のブルーは「美人過ぎる」くらいだったけれども、前のハーレイは「美人」とは逆。
ついでに「今のハーレイ」の方も、前のハーレイと瓜二つ。
導き出せる答えは、一つしか無くて、今のハーレイも、「美人ではない」。
(…なんてこった…)
美人でも三日で飽きるんだぞ、とハーレイは、恐ろしい気持ちになって来た。
(シャングリラの頃なら、前のあいつも…)
ハーレイしか見てはいなかったけれど、今の生では条件が違う。
「ソルジャーとキャプテン」という、絶対的な絆の方も、今度は危うい。
(…結婚して、一緒に暮らし始めたら…)
あいつ、三日で飽きるかもな、と背筋がゾクリと冷える。
(…俺の顔なんぞを見続けてるより、ちょいと息抜き、って…)
別行動を取りたくなって、二人で買い物に出掛けた先でも、入口の所で別れるとか。
(…それじゃ、後で、と…)
集合時間と場所を決めたら、ブルーは「一人で」出掛けてゆく。
ハーレイが「野菜や肉」といった食材を買いに行こうが、ブルーの方は、お構いなし。
(…今夜の食事は、これがいいな、とも…)
希望のメニューを言いもしないで、ブルーの関心は他に向けられて、別の買い物。
(…買い物で済めば、まだマシな方で…)
近くの公園へ散歩に行くとか、最悪なケースとしては、同じ店の中で…。
(フードコートに出掛けて行って、新着メニューをチェックして…)
何か飲んだり、アイスを食べたり、「ハーレイは抜きで」、寛ぎの時間。
なにしろ「ハーレイには、飽きた」わけだし、「ハーレイがいない」場所が一番。
(…ありそうな未来で、困るんだが…!)
飽きられたなら、そうなっちまう、と慌てふためいてみても、解決策は無さそう。
前の生から「この顔」なのだし、変わってくれるわけがない。
ブルーがハーレイに「飽きてしまえば」、それでおしまい。
(…どうすりゃいいんだ…?)
巻き返しのチャンスは、自力で作るしか無いんだよな、と絶望しそうにもなる。
ブルーが「ハーレイに飽きた」以上は、誘ってみるだけ無駄だろう。
デートも食事も、旅にしたって、ブルーは「付き合ってはくれる」だろうけれども…。
(行った先でも、退屈そうに…)
俺とは別に動くかもな、と思えて来るから、そんな未来は来て欲しくない。
(…俺の方では、あいつに飽きる時は来ないし…)
飽きられたなら、泣き暮らす日々になるんだしな、と今から神に祈りたくなる。
「ブルーが、俺に飽きませんように」と、「美人ではない」自分の未来を。
美人でも三日で飽きるらしいし、美人ではない「今のハーレイ」は、大いに不利。
「どうか、神様…」と、祈ることしか出来ないわけだし、祈っておこう。
今のブルーも、前のブルーと同じに「ハーレイに、飽きてしまわない」ように。
三百年以上経とうが、飽きることなく「ハーレイ」だけを見てくれるよう。
「ハーレイの顔を見てるよりかは」と、別行動を取られる日々だと、悲しすぎるから…。
飽きられたなら・了
※ブルー君に飽きる日など来ない、と思うハーレイ先生ですけど、逆が問題。
美人でさえも三日で飽きるのだったら、美人とは逆のハーレイ先生、飽きられるのかもv
前の俺は飽きはしなかったな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…三日どころか、三百年も…)
飽きずに眺め続けたんだ、と遠く遥かな時の彼方での歳月を思う。
前のハーレイは、飽きることなく「前のブルー」を見詰め続けた。
三日で飽きるなど、今、考えてみても「有り得ない」。
(…あんな美人は、そうはいないぞ…)
美人過ぎると飽きないのかもな、と可笑しくなる。
「ブルーに飽きる」時が来るなど、思い付きさえしなかった。
(…今の俺にしても、きっと…)
三百年でも飽きやしない、と「飽きない自信」は、たっぷりとある。
青い地球の上に生まれ変わったのだし、尚更だろう。
(前だと、考えられなかったような暮らしで…)
飽きるどころか、新鮮な日々が続きそうだ。
(現に今でも、新鮮で…)
新鮮すぎると言うべきかもな、と「今のブルー」を頭に描いた。
今のブルーは、十四歳にしかならない「子供」で「チビ」。
小さなブルーは、前の生でも出会ったけれども、今のブルーとは全く違う。
(中身は確かに子供だったが、前の俺より年上で…)
サイオンだって凄かったんだ、とアルタミラでの出会いを思い出す。
今の「サイオンが不器用になった」ブルーとは、月とスッポンくらいに差があった。
(…俺が言うまで、思い付いてはいなかったが…)
前のブルーは、強いサイオンで、大勢の仲間を救い出した。
メギドの炎で燃える地面を走り続けて、閉じ込められた仲間を解き放って。
前のブルーは、同じチビでも「強かった」。
サイオンばかりか、心の方も、やはり強めに出来ていた。
(直ぐに膨れてしまいやしなかったな…)
頬っぺたを膨らませた顔などは知らん、と今のブルーと比べてみる。
(前のあいつの、ハコフグみたいな顔は知らんし…)
顔を見ているだけでも新鮮だ、と愉快になる。
今でさえも「そういう調子」なのだし、先の人生は、もっと新鮮なのに違いない。
(前のあいつと瓜二つでも、まるで違って見えそうだぞ…)
釣りをしているブルーなんて、と「約束」の一つを思うだけでも、楽しみな気分。
今のハーレイの父は、釣りの名人。
ブルーも「大きくなったら、ハーレイのお父さんと釣りに行きたい」と夢を見ている。
約束は、じきに叶うだろうし、釣竿を持った「ブルー」が見られる。
前のブルーだと、釣りの道具を使う機会は、一度も無かった。
釣りが出来る日を「いつか、地球で」と夢に見たって、其処までが長い。
(…まず、人類とミュウの関係ってヤツを…)
なんとか解決しないことには、地球には行けない。
当然、釣りに行けもしないし、其処までの道を「切り開く」のが、前のブルーの役目だった。
(…とんでもない、重大な責任で…)
ブルーが一人で背負ってゆくには「重すぎた」けれど、どうすることも出来はしなかった。
(…タイプ・ブルーは、あいつ一人で…)
他の者では「戦えない」以上、ブルーが一人で背負うしかない。
(そんなあいつを、横で支えることしか出来なかったが…)
今度は逆になりそうだしな、と「今のブルー」が「前より弱い」のが、本当に嬉しい。
(あいつは、不満たらたらなんだが…)
俺にとっては有難いんだ、と「今の自分」に感謝する。
ブルーよりも年上に生まれられたし、身体も頑丈に出来ているから、今のブルーに丁度いい。
横で支えて生きるのではなくて、先に立って進んでゆける人生。
(…今のあいつの手を、しっかりと握ってだな…)
次はこっちだ、とリードしながら行けるってモンだ、とコーヒーのカップを傾ける。
ブルーに「飽きる」日など来なくて、人生が幕を閉じる時まで、幸せ一杯で歩けそうだ。
(…砂糖カエデが生えた森とか、青いケシが咲く高い山とか…)
旅に行けるし、普段だったら食事にドライブ、と夢が大きく広がってゆく。
どれも「今は、まだ夢」の時点だけれども、いずれは叶うことばかり。
(あいつに飽きる暇など、何処にあるんだ?)
無いじゃないか、と思う間に、ハタと気付いた。
(……待てよ?)
俺の方では飽きないんだが…、と「今のブルー」を考えてみる。
(…美人でも、三日で飽きるそうだし…)
俺の場合はどうなんだ、と鏡を覗くまでもない。
(…美人どころか、逆と言っても…)
いいのが「俺」というわけなだんだが…、と時の彼方での「約束事」が蘇って来る。
(…シャングリラで作ってた、薔薇の花びらのジャムは…)
数が少ないせいで、出来上がる度に「クジ引き」だった。
そのためのクジが入れられた箱は、白いシャングリラの中を回って、ブリッジにも来た。
(クジの箱が来たら、ゼルまでもが…)
「どれ、運試しじゃ」と、箱に手を突っ込んでいたものだけれど…。
(クジ引きの箱は、前の俺の前は、いつも素通り…)
立ち止まりもせずに通り過ぎて行った、クジの箱を持った女性たち。
「キャプテンに、薔薇のジャムは似合わないわよね」と、船の女性たちは思っていた。
(…恐らく、前のあいつ以外は…)
俺なんか見てはいなかったんだ、と悪い方での自信なら「ある」。
前のブルーは「美人過ぎる」くらいだったけれども、前のハーレイは「美人」とは逆。
ついでに「今のハーレイ」の方も、前のハーレイと瓜二つ。
導き出せる答えは、一つしか無くて、今のハーレイも、「美人ではない」。
(…なんてこった…)
美人でも三日で飽きるんだぞ、とハーレイは、恐ろしい気持ちになって来た。
(シャングリラの頃なら、前のあいつも…)
ハーレイしか見てはいなかったけれど、今の生では条件が違う。
「ソルジャーとキャプテン」という、絶対的な絆の方も、今度は危うい。
(…結婚して、一緒に暮らし始めたら…)
あいつ、三日で飽きるかもな、と背筋がゾクリと冷える。
(…俺の顔なんぞを見続けてるより、ちょいと息抜き、って…)
別行動を取りたくなって、二人で買い物に出掛けた先でも、入口の所で別れるとか。
(…それじゃ、後で、と…)
集合時間と場所を決めたら、ブルーは「一人で」出掛けてゆく。
ハーレイが「野菜や肉」といった食材を買いに行こうが、ブルーの方は、お構いなし。
(…今夜の食事は、これがいいな、とも…)
希望のメニューを言いもしないで、ブルーの関心は他に向けられて、別の買い物。
(…買い物で済めば、まだマシな方で…)
近くの公園へ散歩に行くとか、最悪なケースとしては、同じ店の中で…。
(フードコートに出掛けて行って、新着メニューをチェックして…)
何か飲んだり、アイスを食べたり、「ハーレイは抜きで」、寛ぎの時間。
なにしろ「ハーレイには、飽きた」わけだし、「ハーレイがいない」場所が一番。
(…ありそうな未来で、困るんだが…!)
飽きられたなら、そうなっちまう、と慌てふためいてみても、解決策は無さそう。
前の生から「この顔」なのだし、変わってくれるわけがない。
ブルーがハーレイに「飽きてしまえば」、それでおしまい。
(…どうすりゃいいんだ…?)
巻き返しのチャンスは、自力で作るしか無いんだよな、と絶望しそうにもなる。
ブルーが「ハーレイに飽きた」以上は、誘ってみるだけ無駄だろう。
デートも食事も、旅にしたって、ブルーは「付き合ってはくれる」だろうけれども…。
(行った先でも、退屈そうに…)
俺とは別に動くかもな、と思えて来るから、そんな未来は来て欲しくない。
(…俺の方では、あいつに飽きる時は来ないし…)
飽きられたなら、泣き暮らす日々になるんだしな、と今から神に祈りたくなる。
「ブルーが、俺に飽きませんように」と、「美人ではない」自分の未来を。
美人でも三日で飽きるらしいし、美人ではない「今のハーレイ」は、大いに不利。
「どうか、神様…」と、祈ることしか出来ないわけだし、祈っておこう。
今のブルーも、前のブルーと同じに「ハーレイに、飽きてしまわない」ように。
三百年以上経とうが、飽きることなく「ハーレイ」だけを見てくれるよう。
「ハーレイの顔を見てるよりかは」と、別行動を取られる日々だと、悲しすぎるから…。
飽きられたなら・了
※ブルー君に飽きる日など来ない、と思うハーレイ先生ですけど、逆が問題。
美人でさえも三日で飽きるのだったら、美人とは逆のハーレイ先生、飽きられるのかもv
「ねえ、ハーレイ。思い付きって…」
大切だよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? たった今、何か思い付いたのか?」
まあいいんだが、とハーレイは苦笑しながら返した。
「お前、いきなり思い付くしな」
それでどうした、とブルーに向かって尋ねてみる。
「俺にして欲しいようなことでも、出来たのか?」
いつものヤツなら、お断りだぞ、とハーレイは釘を刺した。
こういった時のブルーは、要注意。
ろくでもないことを思い付いては、無理なおねだり。
(…キスをしろとか、うるさいんだ…)
チビのくせに、とブルーを睨んだけれども、違ったらしい。
ブルーは「違うってば!」と、不満そうに頬を膨らませた。
「ただの質問みたいなものなんだよ」
思い付きというのは、閃きとかで、とブルーが説明する。
「ほら、色々と思い付くでしょ?」
何かする時でなくても、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「いろんなアイデア、そうやって出て来るもので…」
発明だって、そうじゃないかな、とハーレイを見詰める。
あれこれ考えて順序立てるだけでは、ダメそうだよ、と。
「ぐるぐるしちゃって、煮詰まってくだけで…」
頭の中は、それで一杯、とブルーは自分の頭を指差す。
「そうなった時に、お茶とかで休憩していたら…」
いいアイデアが閃くものじゃないの、と言われれば、そう。
実際、大発明の切っ掛けになることも多い。
「なるほどなあ…。確かに、思い付きは大切かもな」
お前の場合は、違う気がするが、とハーレイは慎重になる。
此処でウッカリ「その通りだ」と同意するのは危険だろう。
「ハーレイ、疑っているんでしょ?」
よく、そんなので、先生やってるよね、とブルーは膨れる。
「生徒が思い付いたアイデア、否定するわけ?」
「いや、それは…。まずは話を聞いてだな…」
それから中身を検討なんだ、とハーレイは答えた。
「いいアイデアか、そうでないかは、聞いてみないと…」
「だったら、ぼくのも聞くべきでしょ!」
初っ端から否定するなんて…、とブルーは眉を吊り上げた。
「生徒の前で同じことをしたら、嫌われちゃうよ?」
「だから、しないと…」
「ぼくだけ、違う枠になるわけなの!?」
ハーレイの生徒の一人なのに、とブルーは怒り始めた。
フグみたいに頬を膨らませて、プンスカと。
「ハーレイ、いつも酷いんだから!」と、睨み付けて。
とはいえ、ハーレイの方にも言い分はある。
ブルーは生徒の一人に違いなくても、特別な枠の中にいる。
ハーレイは「ブルーの守り役」なのだし、学校でも承知。
「お前なあ…。違う枠になっても、当然だろう?」
毎日のように家庭訪問だぞ、とハーレイは説いた。
「他の生徒なら、其処まではしない」と、守り役について。
「言わば特別扱いなんだし、向き合い方も変わるよな?」
「うーん…。頭ごなしに否定するのは、違うと思う…」
いつだって、そういう調子なんだから、とブルーも粘る。
「もっと、きちんと扱ってよね」と、諦めないで。
「そう言われてもなあ…。ところで、お前の思い付きは…」
この問答を吹っ掛けることだったのか、とハーレイは訊く。
どうも、そうとしか思えないから、確認をした方がいい。
「押し問答で終わりそうだし、早い間に切り上げろよ?」
するとブルーは、更に頬っぺたを膨らませた。
「やっぱり、聞く気なんか無いでしょ!」
分からず屋だよね、と散々、怒り続けた果てに…。
「ハーレイ、今ので少しは懲りた?」
ぼくの思い付きを聞くべきだ、って、とブルーが尋ねる。
「否定しないで聞いていたなら、ぼくは怒らないよ?」
「…そうだな、俺が悪かった…」
すまん、とハーレイは謝ったけれど、次の瞬間、後悔した。
ブルーの顔が、たちまち笑顔に変わったから。
「懲りたんだったら、謝ってよね!」
お詫びはキスで充分だから、とブルーは、それは嬉しそう。
思い付いた通りに、上手く話が転がったらしい。
「馬鹿野郎!」
お前の思い付きなどは聞かなくていい、とハーレイは叱る。
「どうせ、ろくでもないことなんだしな!」
現に、たった今、証明されたぞ、とブルーの頭をコツン。
軽く一発お見舞いするのが、今のブルーに似合いだから…。
思い付きって・了
大切だよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? たった今、何か思い付いたのか?」
まあいいんだが、とハーレイは苦笑しながら返した。
「お前、いきなり思い付くしな」
それでどうした、とブルーに向かって尋ねてみる。
「俺にして欲しいようなことでも、出来たのか?」
いつものヤツなら、お断りだぞ、とハーレイは釘を刺した。
こういった時のブルーは、要注意。
ろくでもないことを思い付いては、無理なおねだり。
(…キスをしろとか、うるさいんだ…)
チビのくせに、とブルーを睨んだけれども、違ったらしい。
ブルーは「違うってば!」と、不満そうに頬を膨らませた。
「ただの質問みたいなものなんだよ」
思い付きというのは、閃きとかで、とブルーが説明する。
「ほら、色々と思い付くでしょ?」
何かする時でなくても、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「いろんなアイデア、そうやって出て来るもので…」
発明だって、そうじゃないかな、とハーレイを見詰める。
あれこれ考えて順序立てるだけでは、ダメそうだよ、と。
「ぐるぐるしちゃって、煮詰まってくだけで…」
頭の中は、それで一杯、とブルーは自分の頭を指差す。
「そうなった時に、お茶とかで休憩していたら…」
いいアイデアが閃くものじゃないの、と言われれば、そう。
実際、大発明の切っ掛けになることも多い。
「なるほどなあ…。確かに、思い付きは大切かもな」
お前の場合は、違う気がするが、とハーレイは慎重になる。
此処でウッカリ「その通りだ」と同意するのは危険だろう。
「ハーレイ、疑っているんでしょ?」
よく、そんなので、先生やってるよね、とブルーは膨れる。
「生徒が思い付いたアイデア、否定するわけ?」
「いや、それは…。まずは話を聞いてだな…」
それから中身を検討なんだ、とハーレイは答えた。
「いいアイデアか、そうでないかは、聞いてみないと…」
「だったら、ぼくのも聞くべきでしょ!」
初っ端から否定するなんて…、とブルーは眉を吊り上げた。
「生徒の前で同じことをしたら、嫌われちゃうよ?」
「だから、しないと…」
「ぼくだけ、違う枠になるわけなの!?」
ハーレイの生徒の一人なのに、とブルーは怒り始めた。
フグみたいに頬を膨らませて、プンスカと。
「ハーレイ、いつも酷いんだから!」と、睨み付けて。
とはいえ、ハーレイの方にも言い分はある。
ブルーは生徒の一人に違いなくても、特別な枠の中にいる。
ハーレイは「ブルーの守り役」なのだし、学校でも承知。
「お前なあ…。違う枠になっても、当然だろう?」
毎日のように家庭訪問だぞ、とハーレイは説いた。
「他の生徒なら、其処まではしない」と、守り役について。
「言わば特別扱いなんだし、向き合い方も変わるよな?」
「うーん…。頭ごなしに否定するのは、違うと思う…」
いつだって、そういう調子なんだから、とブルーも粘る。
「もっと、きちんと扱ってよね」と、諦めないで。
「そう言われてもなあ…。ところで、お前の思い付きは…」
この問答を吹っ掛けることだったのか、とハーレイは訊く。
どうも、そうとしか思えないから、確認をした方がいい。
「押し問答で終わりそうだし、早い間に切り上げろよ?」
するとブルーは、更に頬っぺたを膨らませた。
「やっぱり、聞く気なんか無いでしょ!」
分からず屋だよね、と散々、怒り続けた果てに…。
「ハーレイ、今ので少しは懲りた?」
ぼくの思い付きを聞くべきだ、って、とブルーが尋ねる。
「否定しないで聞いていたなら、ぼくは怒らないよ?」
「…そうだな、俺が悪かった…」
すまん、とハーレイは謝ったけれど、次の瞬間、後悔した。
ブルーの顔が、たちまち笑顔に変わったから。
「懲りたんだったら、謝ってよね!」
お詫びはキスで充分だから、とブルーは、それは嬉しそう。
思い付いた通りに、上手く話が転がったらしい。
「馬鹿野郎!」
お前の思い付きなどは聞かなくていい、とハーレイは叱る。
「どうせ、ろくでもないことなんだしな!」
現に、たった今、証明されたぞ、とブルーの頭をコツン。
軽く一発お見舞いするのが、今のブルーに似合いだから…。
思い付きって・了
(…今日は、忙しかったよね…)
ぼくにしては、と小さなブルーが振り返ってみる今日の出来事。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイが来た日じゃなかったのに…)
読もうとしていた本が読めなかったな、と勉強机の方に目を遣る。
其処に置かれた本に挟んだ栞は、昨日の場所から一ページさえも動いていない。
(…今から読んだら、止まらなくなって…)
夜更かしになってしまうもの、と諦めてはいる。
「だけど、ちょっぴり残念だよね」と、本の中身が気になるけれども、仕方ない。
(…帰って来た後、晩御飯までの時間は…)
いつも通りに過ごしてたよね、と自分でも不思議に思えてくる。
(あそこまでは、時間、あったんだけどな…)
学校から家に帰って来てから、おやつを食べて、宿題も予習も早く済ませた。
ハーレイが仕事帰りに寄ってくれたら、安心して時間を使えるように。
(でも、ハーレイは来なくって…)
本の続きを読もうかな、と考えたものの、今日は時間がたっぷりとある。
急がなくても構わないや、と白いシャングリラの写真集を見たりしてから、夕食だった。
(晩御飯が済んで、部屋に帰ろうとしてた所で…)
通信機が鳴り出して、表示されていたのは、友人の家の番号だったらしい。
「はい」と通信に出た母が、「ブルー、お友達からよ」と呼びに来た。
(学校で会ったのに、何なんだろう、って…)
首を傾げて通信機の前に立った時から、忙しくなった。
通信機の向こうから聞こえた、友人の最初の言葉はこうだった。
「悪い、国語の宿題、何だったっけ?」
国語の授業は明日の一時間目で、前の授業は昨日だったのに。
友人が言うには、「学校に教科書とノートを忘れて来た」らしい。
(…宿題、プリントを貰ったわけじゃなくって…)
授業の終わり際に、先生が「宿題を出しますから、問題をメモして帰りなさい」と宣言した。
「ごく簡単な問題が三つ、答えはレポート用紙に書いて提出してするように」とも。
(…その問題を書いたノートを、忘れたんじゃね…)
仕方ないよ、と同情しながら「ちょっと待ってて」と部屋に急いだ。
問題を書いたノートを持って戻って、友人に伝える。
「いい? 一問目は、こう。二問目がこうで、三問目がこうだったよ」と、順に読み上げて。
友人は「悪いな、急に」とメモしていたけれど、三問目まで聞いて「ええ…」という声。
「どうかしたの?」
ただ感想を書くだけだよ、と声を掛けたら、返って来たのは…。
「…あの話、読んでいなかった…」
「…嘘…」
教科書にしか載っていない話だったんじゃ…、とブルーも絶句してしまった。
ごくごく短い話なのだけれど、教科書のための書き下ろしだと聞く。
本の形で出てはいなくて、データベースにも入っていない。
友人が頑張って調べたとしても、「誰かが勝手に載せた」話が見付かるかは謎。
(だけど、探して貰うしか…)
読まないと感想は書けないものね、と気の毒に思いかけたら、友人は深い溜息をついた。
「どうしよう…。誰かが載せてくれてたとしても、調べられないんだ…」
「なんで?」
「端末、昨日、壊しちまって…」
修理から戻って来るのは、明日の夕方になるらしい。
「親のを借りればいいんだろうけど、お前に通信を入れていたのが…」
バレちまってるから、宿題のことだとバレるよな、と友人の声は萎れていた。
「借りるの、多分、無理だと思うぜ…」と。
宿題の一問目と二問目までは、教科書を忘れて帰っていても書ける内容。
けれど、三問目だけは、そうはいかない。
(一度だけでも、読んでいたなら…)
少し中身がズレていたって、先生は気付かないだろう。
感想などは人の数だけあるものなのだし、「この子の考えだと、こうらしいな」で済む。
大間違いをやっていたとしても、「読解力が足りないらしい」と思われるだけ。
(…だけど、全然、読んでないんじゃ…)
下の学校の一年生の作文みたいになっちゃうよ、とブルーにも分かる。
「とても楽しいお話でした」とだけ書いてあるような、感想文。
通信機の向こうの友人にだって、「マズイ状況」なことは分かっているから、何度も溜息。
(…諦めるしかないものね…)
宿題を忘れた生徒は、後日に提出になって、オマケの課題も出されてしまう。
とはいえ、そうなるしかない運命なのが友人だった。
(…可哀相だけど…)
ぼくじゃどうにもしてあげられない、と無力さを思う間に、友人が「そうだ!」と叫んだ。
「あの話、短かったよな?」
「うん。読む気があったら、読めた筈だよ」
「教科書を読む趣味、無くってさ…。悪いけど、読んでくれないか?」
それを聞いたら感想だって書けるしな、という素晴らしいアイデア。
「…そうだね、教科書、部屋から持って来るよ!」
宿題が出来ればいいんだし、と教科書を取りに出掛けて、それから朗読。
「聞いているだけ」の友人の頭に入るようにと、ゆっくりにして。
一文ごとに「次に行っていい?」と確認もして。
お蔭で友人の宿題は出来て、大いに感謝されたけれども…。
(…朗読だけでは、済まなかったんだよね…)
友人は「聞いてただけだし、勘違いがあったら困るから」と、感想を書いている間も…。
(待っててくれ、って頼まれちゃって…)
書き上がった後に、「これでいいかな?」と感想文の読み上げまでした。
全て終わって「お疲れ様!」と、通信を切れば良かったのに…。
(ついつい、今日の学校の話とか…)
話し込んでしまって、通信が終わって部屋に戻るなり、母が呼びに来た。
「ブルー、とっくにお風呂の時間よ、まだ入らないの?」
「えっ、そうだっけ?」
「そうよ、通信、長かったでしょう?」
ちゃんと時計を見ておかないと、と母が指差す壁の時計は、お風呂の時間になっていた。
しかも普段の「お風呂」だったら、そろそろ上がって来そうな頃合い。
(…気付かなかった、って大慌てで…)
パジャマなどを抱えて階段を下りて、お風呂の中でも大急ぎ。
(のんびり浸かっていたら、遅くなるから…)
このくらいかな、と切り上げて部屋に帰った後が、「今」という時間。
読もうと思っていた本は読めなくて、後は寝るしかないだけになる。
(…忙しすぎ…)
いつもだったら、もっとゆっくり出来るのに、と嘆くけれども、後悔は無い。
友人のピンチを助けられたし、お喋りの時間も楽しかった。
「教科書の話を朗読した」のも、滅多に出来ない経験だったと言えるだろう。
(ハーレイに話したら、大笑いしそう!)
その時のハーレイの顔が、目に浮かぶよう。
「おいおいおい…。その朗読をさせた間抜けは、どいつなんだ?」と尋ねるのも。
(…ハーレイの授業でも、よく失敗してるし…)
ハーレイは「あいつだったら、ありそうだよな」と笑い転げるかもしれない。
そういったことを考えるだけでも、愉快ではある。
だけど…、と「忙しかった結果」の方は、少し悲しい。
読めていた筈の「本の続き」は読めなかったし、栞の場所も動かないまま。
(…残念だよね…)
ホントに残念、と溜息をついて、ハタと気付いた。
いつか、ハーレイと暮らし始めた後にも、こういった時が来るかもしれない。
(ハーレイが何かしていて、手が足りなくて…)
「ちょっと手を貸してくれないか?」と頼んで来たなら、どうするだろう。
本を読んでいる最中だとか、お風呂に入ろうとしていた時とか、ブルーとしては大切な時間。
(もしも、ハーレイに手を貸しに行ったら…)
今日の友人で「そうなった」みたいに、忙しくなって、予定はパアになりそうだけれど…。
(…ハーレイのお手伝いが出来るんだしね…)
忙しくっても構わないや、と頬が緩んだ。
「ハーレイのために割いた時間」で、自分の時間を削ってしまっても、気にはならない。
どちらかと言えば嬉しいくらいで、今日と同じで後悔はしない。
(あそこで時間を持って行かれちゃった、と思ったって…)
残念な気分になったとしたって、少しだけだよ、と自信が溢れる。
「そんなの、後で取り返せるしね」と、「ハーレイのお手伝い」が最優先。
(…ハーレイだって、さっきの友達みたいに…)
喜んでくれる筈だし、手伝いの後に話し込むのも、きっと楽しい。
後で、どんなに忙しくっても。
「こんな筈じゃあ…」と、溜息をついて、失くした時間を数え直したとしても…。
忙しくっても・了
※宿題が出来ない友人のために、教科書を朗読したブルー君。手伝って忙しかった日。
けれど後悔は無くて、将来、ハーレイ先生と暮らし始めた後には、ハーレイ先生が最優先v
ぼくにしては、と小さなブルーが振り返ってみる今日の出来事。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイが来た日じゃなかったのに…)
読もうとしていた本が読めなかったな、と勉強机の方に目を遣る。
其処に置かれた本に挟んだ栞は、昨日の場所から一ページさえも動いていない。
(…今から読んだら、止まらなくなって…)
夜更かしになってしまうもの、と諦めてはいる。
「だけど、ちょっぴり残念だよね」と、本の中身が気になるけれども、仕方ない。
(…帰って来た後、晩御飯までの時間は…)
いつも通りに過ごしてたよね、と自分でも不思議に思えてくる。
(あそこまでは、時間、あったんだけどな…)
学校から家に帰って来てから、おやつを食べて、宿題も予習も早く済ませた。
ハーレイが仕事帰りに寄ってくれたら、安心して時間を使えるように。
(でも、ハーレイは来なくって…)
本の続きを読もうかな、と考えたものの、今日は時間がたっぷりとある。
急がなくても構わないや、と白いシャングリラの写真集を見たりしてから、夕食だった。
(晩御飯が済んで、部屋に帰ろうとしてた所で…)
通信機が鳴り出して、表示されていたのは、友人の家の番号だったらしい。
「はい」と通信に出た母が、「ブルー、お友達からよ」と呼びに来た。
(学校で会ったのに、何なんだろう、って…)
首を傾げて通信機の前に立った時から、忙しくなった。
通信機の向こうから聞こえた、友人の最初の言葉はこうだった。
「悪い、国語の宿題、何だったっけ?」
国語の授業は明日の一時間目で、前の授業は昨日だったのに。
友人が言うには、「学校に教科書とノートを忘れて来た」らしい。
(…宿題、プリントを貰ったわけじゃなくって…)
授業の終わり際に、先生が「宿題を出しますから、問題をメモして帰りなさい」と宣言した。
「ごく簡単な問題が三つ、答えはレポート用紙に書いて提出してするように」とも。
(…その問題を書いたノートを、忘れたんじゃね…)
仕方ないよ、と同情しながら「ちょっと待ってて」と部屋に急いだ。
問題を書いたノートを持って戻って、友人に伝える。
「いい? 一問目は、こう。二問目がこうで、三問目がこうだったよ」と、順に読み上げて。
友人は「悪いな、急に」とメモしていたけれど、三問目まで聞いて「ええ…」という声。
「どうかしたの?」
ただ感想を書くだけだよ、と声を掛けたら、返って来たのは…。
「…あの話、読んでいなかった…」
「…嘘…」
教科書にしか載っていない話だったんじゃ…、とブルーも絶句してしまった。
ごくごく短い話なのだけれど、教科書のための書き下ろしだと聞く。
本の形で出てはいなくて、データベースにも入っていない。
友人が頑張って調べたとしても、「誰かが勝手に載せた」話が見付かるかは謎。
(だけど、探して貰うしか…)
読まないと感想は書けないものね、と気の毒に思いかけたら、友人は深い溜息をついた。
「どうしよう…。誰かが載せてくれてたとしても、調べられないんだ…」
「なんで?」
「端末、昨日、壊しちまって…」
修理から戻って来るのは、明日の夕方になるらしい。
「親のを借りればいいんだろうけど、お前に通信を入れていたのが…」
バレちまってるから、宿題のことだとバレるよな、と友人の声は萎れていた。
「借りるの、多分、無理だと思うぜ…」と。
宿題の一問目と二問目までは、教科書を忘れて帰っていても書ける内容。
けれど、三問目だけは、そうはいかない。
(一度だけでも、読んでいたなら…)
少し中身がズレていたって、先生は気付かないだろう。
感想などは人の数だけあるものなのだし、「この子の考えだと、こうらしいな」で済む。
大間違いをやっていたとしても、「読解力が足りないらしい」と思われるだけ。
(…だけど、全然、読んでないんじゃ…)
下の学校の一年生の作文みたいになっちゃうよ、とブルーにも分かる。
「とても楽しいお話でした」とだけ書いてあるような、感想文。
通信機の向こうの友人にだって、「マズイ状況」なことは分かっているから、何度も溜息。
(…諦めるしかないものね…)
宿題を忘れた生徒は、後日に提出になって、オマケの課題も出されてしまう。
とはいえ、そうなるしかない運命なのが友人だった。
(…可哀相だけど…)
ぼくじゃどうにもしてあげられない、と無力さを思う間に、友人が「そうだ!」と叫んだ。
「あの話、短かったよな?」
「うん。読む気があったら、読めた筈だよ」
「教科書を読む趣味、無くってさ…。悪いけど、読んでくれないか?」
それを聞いたら感想だって書けるしな、という素晴らしいアイデア。
「…そうだね、教科書、部屋から持って来るよ!」
宿題が出来ればいいんだし、と教科書を取りに出掛けて、それから朗読。
「聞いているだけ」の友人の頭に入るようにと、ゆっくりにして。
一文ごとに「次に行っていい?」と確認もして。
お蔭で友人の宿題は出来て、大いに感謝されたけれども…。
(…朗読だけでは、済まなかったんだよね…)
友人は「聞いてただけだし、勘違いがあったら困るから」と、感想を書いている間も…。
(待っててくれ、って頼まれちゃって…)
書き上がった後に、「これでいいかな?」と感想文の読み上げまでした。
全て終わって「お疲れ様!」と、通信を切れば良かったのに…。
(ついつい、今日の学校の話とか…)
話し込んでしまって、通信が終わって部屋に戻るなり、母が呼びに来た。
「ブルー、とっくにお風呂の時間よ、まだ入らないの?」
「えっ、そうだっけ?」
「そうよ、通信、長かったでしょう?」
ちゃんと時計を見ておかないと、と母が指差す壁の時計は、お風呂の時間になっていた。
しかも普段の「お風呂」だったら、そろそろ上がって来そうな頃合い。
(…気付かなかった、って大慌てで…)
パジャマなどを抱えて階段を下りて、お風呂の中でも大急ぎ。
(のんびり浸かっていたら、遅くなるから…)
このくらいかな、と切り上げて部屋に帰った後が、「今」という時間。
読もうと思っていた本は読めなくて、後は寝るしかないだけになる。
(…忙しすぎ…)
いつもだったら、もっとゆっくり出来るのに、と嘆くけれども、後悔は無い。
友人のピンチを助けられたし、お喋りの時間も楽しかった。
「教科書の話を朗読した」のも、滅多に出来ない経験だったと言えるだろう。
(ハーレイに話したら、大笑いしそう!)
その時のハーレイの顔が、目に浮かぶよう。
「おいおいおい…。その朗読をさせた間抜けは、どいつなんだ?」と尋ねるのも。
(…ハーレイの授業でも、よく失敗してるし…)
ハーレイは「あいつだったら、ありそうだよな」と笑い転げるかもしれない。
そういったことを考えるだけでも、愉快ではある。
だけど…、と「忙しかった結果」の方は、少し悲しい。
読めていた筈の「本の続き」は読めなかったし、栞の場所も動かないまま。
(…残念だよね…)
ホントに残念、と溜息をついて、ハタと気付いた。
いつか、ハーレイと暮らし始めた後にも、こういった時が来るかもしれない。
(ハーレイが何かしていて、手が足りなくて…)
「ちょっと手を貸してくれないか?」と頼んで来たなら、どうするだろう。
本を読んでいる最中だとか、お風呂に入ろうとしていた時とか、ブルーとしては大切な時間。
(もしも、ハーレイに手を貸しに行ったら…)
今日の友人で「そうなった」みたいに、忙しくなって、予定はパアになりそうだけれど…。
(…ハーレイのお手伝いが出来るんだしね…)
忙しくっても構わないや、と頬が緩んだ。
「ハーレイのために割いた時間」で、自分の時間を削ってしまっても、気にはならない。
どちらかと言えば嬉しいくらいで、今日と同じで後悔はしない。
(あそこで時間を持って行かれちゃった、と思ったって…)
残念な気分になったとしたって、少しだけだよ、と自信が溢れる。
「そんなの、後で取り返せるしね」と、「ハーレイのお手伝い」が最優先。
(…ハーレイだって、さっきの友達みたいに…)
喜んでくれる筈だし、手伝いの後に話し込むのも、きっと楽しい。
後で、どんなに忙しくっても。
「こんな筈じゃあ…」と、溜息をついて、失くした時間を数え直したとしても…。
忙しくっても・了
※宿題が出来ない友人のために、教科書を朗読したブルー君。手伝って忙しかった日。
けれど後悔は無くて、将来、ハーレイ先生と暮らし始めた後には、ハーレイ先生が最優先v
