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(見た目通りになっちまったなあ…)
 俺とブルーは、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 十四歳にしかならない、小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 今では自分が年上だけれど、前の生では違っていたな、と。
(…アルタミラで初めて会った時には、前のあいつは…)
 今のブルーとそっくり同じで、成人検査を受けたばかりのチビだった。
 SD体制があった頃には、十四歳と言えば成人。
 本当の大人とは違ったけれども、大人社会に出てゆくための船出の年齢。
(ところが、俺たちミュウにとっては…)
 成人検査は地獄の入口、文字通り死へと突き落とされた者たちも多かった。
 アルタミラがメギドに滅ぼされた後は、大抵の者は、そうなったろう。
 生かしておいても、意味が無いから。
(…実験体など、そう沢山は要らないからな)
 ごく少数の場合を除いて、その場で処分されたと思う。
 白いシャングリラが救えた者など、本当に、ほんの一握りで。
 アルテメシア以外の星で育てられたら、何処からも救いの手は来ないから。
(…おっと…)
 暗い考えになっちまった、と思考を元の道へと戻す。
 前のブルーがチビに見えたのは、成人検査のせいだったよな、と。
(俺なんかよりも、ずっと昔に、ブルーは脱落しちまって…)
 しかも初めてのミュウだったから、過酷な実験を受け続けた。
 おまけに貴重なタイプ・ブルーでは、研究者たちが放っておかない。
 死なないようにと治療されては、繰り返される人体実験。
 それでブルーは、無意識の内に成長を止めた。
 成長したって、いいことは何も起こらないから。
 心も身体も育たなくても、困ることなど無いのだから。


 そういうわけで、前の自分が出会ったブルーは、十四歳になったばかりの子供。
(シェルターを破壊しちまうような、凄いサイオンの持ち主だったが…)
 ほんの子供には違いないから、そのように接して、扱った。
 「子供には、優しくしてやらないと」と、年長らしく振る舞って。
 なのに、後から分かった真実。
 見た目も中身も子供のブルーは、本当は、とても年上なのだ、と。
 アルタミラから脱出した船、それに乗っていた仲間たちよりも、遥かに、ずっと。
(…なんてこった、と思ったもんだが…)
 幸いなことに、ブルーは再び育ち始めた。
 ゼルやヒルマン、エラにブラウといった仲間が、色々、気を付けてやって。
 心も身体も育ててやろう、とブルーの日常に気を配って。
(…そして今では、ソルジャー・ブルーと言えば大英雄だよなあ…)
 立派に育ってくれたもんだ、と思うけれども、最後まで埋まらなかった年の差。
 実年齢の方はもちろん、中身の年も。
 どんなにブルーが育ったところで、他の仲間も、前の自分も成長してゆく。
(老けてゆくのは、また別として、だ…)
 日々、経験を積んでゆくから、ブルーとの差は埋まらない。
 お蔭で、前の自分とブルーは、最後まで…。
(…立場の上では、ソルジャーのあいつが上だったんだが…)
 他の所じゃ、俺の方が年長のままだったよな、と苦笑する。
 白いシャングリラで暮らした仲間は、気付かなかったかもしれないけれど。
 あるいは長老と呼ばれるくらいになったゼルたち、彼らにしても。
(…俺はブルーに、敬語だったし…)
 いつでも礼を取っていたから、ブルーが上に見えていたろう。
 会議の席でもブルーを立てたし、視察の時にも付き従っていたけれど…。
(どっこい、実は前のブルーは…)
 最後まで、甘えん坊だった。
 「前のハーレイ」に対してだけは。
 あれこれ我儘なことを言ったり、注文したり、と。
 メギドに向かって飛んだ時でさえ、「前のハーレイ」にだけ、無理に遺言を押し付けて。


(…あいつは、そういうヤツだったんだが…)
 今度は本当に年下だよな、とチビのブルーを思い浮かべる。
 二十四歳も年の離れた、小さなブルー。
 だから今度は、どんな我儘を言い出そうとも、年長者としてゆったり構えて…。
(何でも聞いてやりたいってな)
 前のあいつが苦労した分、と常に思っているのだけれど…。
(…ちゃんと年下に生まれて来たのも、神様の粋な計らいってヤツで…)
 あいつにピッタリな人生だよな、と考えた所で、ヒョイと覗いた別の考え。
 もしも、今度は逆だったなら、と。
(…いや、逆と言うより、それが正しいと言うのか、これは…?)
 今度もブルーの方が年上に生まれていた場合…、と顎に当てた手。
 前ほど離れているかどうかは、この際、考えに入れないとして…、と。
(今のあいつと、今の俺とが逆だったなら…)
 ちょいと愉快なことになるぞ、と想像の翼を羽ばたかせる。
 「聖痕も横に置いておくか」と、「アレを考えたら、ややこしくなる」と。
(…出会いも、適当にしておくとして…)
 ハーレイ先生と教え子のブルーな関係の代わりに、それの逆。
 ブルー先生がいて、今の自分が教え子な立場。
(ふうむ……)
 これはなかなか…、と緩んだ頬。
 けっこう楽しそうじゃないか、と「逆だった場合」を思い描いて。
(年の差は、今の逆でいいだろう)
 あいつが今の俺の年で…、と決めた最初の設定。
 「でもって、俺は、あいつの年だ」と。
 そういう二人だった場合を、少し考えてみるとするか、と。


 今とは逆な関係の二人。
 ブルー先生と、教え子のハーレイ。
(…もちろん、あいつは、外見の年をとっくに止めていて…)
 前のあいつと同じ姿でいるんだろうな、とソルジャー・ブルーを頭に描く。
 当然、髪型も前とそっくり、とてもモテるに違いない。
 今の時代は「ソルジャー・ブルー」は大英雄だし、それにそっくりとなったなら。
 しかも写真集が沢山あるほど、気高く美しいソルジャー・ブルー。
(引く手あまたというヤツだろうが、子供の俺と出会うからには…)
 ブルー先生は、独身でいるに違いない。
 いつか「ハーレイ」と再会を遂げて、もう一度、恋を育むために。
 そう、今の自分が結婚しないで、ブルーを待っていたように。
(…俺に自覚は無かったんだが、そうなったしな?)
 俺だって、ちゃんとモテたんだから、と学生時代を思い返して誇らしい気持ち。
 誰とも付き合わなかっただけで、大勢の女性のファンがいた頃を。
(だから、とてもモテるブルー先生も…)
 独身のままで待っていてくれて、ちゃんと再会するのだろう。
 それから恋が始まるけれども、生憎と、今の自分の方は…。
(…十四歳にしかならないチビで…)
 体格は良くてもチビはチビだ、と十四歳だった頃の自分を振り返る。
 「やっぱり、中身は子供だよな」と、「ブルー先生とは、だいぶ違うぞ」と。
(…ブルー先生も、古典の教師になるのか?)
 面倒だから、それで考えとくか、と加えた設定。
 ブルー先生は古典の教師で、生徒にも人気があるだろう、と。
(……しかしだな……)
 柔道部の指導はしてくれないぞ、と早速、難問にぶつかった。
 今のブルーも身体が弱いし、水泳部の指導も無理だろう。
 きっと顧問になったとしても、名ばかりの顧問。
 指導は他の誰かに任せて、部活には顔を出すというだけ。
(…参ったな…)
 まあ、今のブルーも似たようなモンだが、と思いはしても、不満は残る。
 「同じ部活をやるんだったら、ブルー先生の指導がいい」と。


 そうなってくると、ブルー先生の方に合わせて、自分が変わるしかないだろう。
 柔道と水泳は趣味の範囲に留めて、ブルー先生と過ごす時間を増やす。
(…今の俺みたいに打ち込んでいたら、休みの日だって…)
 練習なのだし、ブルー先生とは、そうそう会えない。
 今のブルーがやっているように、休日は二人で過ごすというのは、とても無理。
(…仕方ない…)
 ブルー先生と出会った時点で、柔道と水泳は捨てるとするか、と決心した。
 そっちのプロにはなっていないから、別に困りはしないだろう。
(よし、休日はブルー先生と…)
 お茶に食事だ、と思ったけれども、それが自分に似合うだろうか。
 自分の部屋に椅子とテーブルを据えて、ブルー先生とお茶の時間を楽しむのが。
(……うーむ……)
 致命的に似合っていない気がする、と抱えた頭。
 十四歳の自分が、ブルー先生と食事をするのなら…。
(店に出掛けて、ラーメンとか、お好み焼きだとか…)
 絶対、そっちだ、と思うものだから、それはそれで愉快な光景ではある。
 今の時代も人気が高い「ソルジャー・ブルー」にそっくりなブルー先生と、ラーメンの店。
 お好み焼きの店にしたって、周りの人が驚くだろう。
 「チビのハーレイ」には似合いの店でも、ブルー先生の方は…。
(…掃き溜めに鶴というヤツだ)
 こいつはいいな、と可笑しくなった。
 きっと「ハーレイ」が成長してゆく間に、そんな場面が掃いて捨てるほど。
(ブルー先生は、俺に合わせてくれるんだろうし…)
 洒落た店が似合う年になるまで、そういった店に付き合ってくれる。
 ついでに、「チビのハーレイ」が、前のハーレイと同じ年齢になるまでには…。
(うんと時間がかかっちまって、同い年くらいに見える時代も…)
 やって来るから、面白い。
 その頃には、もう「ブルー先生」がいる学校は、とうに卒業していて…。
(堂々とデートに誘えるってモンだ)
 同い年だが、とクックッと笑う。
 「ちょうど似合いのカップルだよな」と。


(こりゃ、いいな)
 逆だったなら、前とは違う楽しみ方が…、と夢が広がる。
 ブルーと同じ年頃でデートなんかは、前の生では出来ていないから。
 前のブルーが追い付く前に、前の自分が年を重ねたから。
(…ブルー先生の方じゃ、どう思ってるかは分からんが…)
 そいつも悪くないじゃないか、とコーヒーのカップを傾ける。
 「ブルー先生と、ハーレイ君だ」と、「俺の人生も変わっちまうぞ」と。
 残念なことに、夢物語に過ぎないけれども、逆の立場も悪くはない。
 きっと色々、新鮮だから。
 前の生では出来なかったこと、驚きが山ほどあるだろうから…。

 

          逆だったなら・了


※ハーレイ先生とブルー君が、逆の立場で出会っていたら、と考えてみたハーレイ先生。
 なかなか愉快なことになりそう、同い年のカップルでデートなんかも。それも素敵かもv













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「ねえ、ハーレイ。神様ってさ…」
 ちょっと酷くない、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然、真剣な顔で。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「酷いって…。いったい何があったんだ?」
 今日のお前は元気そうだが、とハーレイの方も首を傾げた。
 いきなり「神様は酷い」と言われても、意味が掴めない。
 ブルーが風邪でも引いていたなら、直ぐに納得するけれど。
(せっかくの休日に風邪だなんて、と言うのなら…)
 不満たらたらになって当然、神様を恨みもするだろう。
 とはいえ、今日のブルーは至って普通。
 虚弱な身体の持ち主にしても、この様子なら充分、健康。
(なのに、神様は酷いってか?)
 分からんぞ、と首を捻っていると、ブルーが重ねて言った。
 「だって、本当に酷いんだもの」と。


「あのね…。ハーレイは、今は、何歳?」
 急に投げ掛けられた質問。
 「神様は酷い」と、どう繋がるのか分からない。
 けれど、答えないと、話は進んでくれないだろうし…。
「俺の年なら、お前と同じでウサギ年だから…」
 二十四歳、足すだけだな、と指を右手で二本、左手で四本。
 「干支が二回り違うんだから、そうなるだろう」と。
「ほらね、やっぱり酷いんだってば」
 神様はさ、とブルーは桜色の唇を尖らせた。
 「違いだけでも二十四年」と、「ぼくは十四歳なのに」と。
「なるほどな…。お前の不満は、だいたい分かった」
 チビに生まれたのが嫌なんだな、とハーレイは大きく頷く。
 「俺より遥かに年下のチビで、子供な件か」と。
「そう! だって、あんまりすぎるんだもの」
 不公平だよ、とブルーは膨れた。
 「ハーレイだけ、先に大人にして」と、「酷いってば」と。


 ブルーが言うには、条件は、もっと平等にすべき。
 同じに生まれ変わらせるのなら、年齢の方も公平に、と。
「そう思わない? ちょっと酷いと思うんだけど…!」
 この年の差はどうかと思う、とブルーは更に言い募る。
 「もっと縮めてくれなくっちゃ」と、「公平にね」と。
(…要するに、自分がチビなのが嫌で…)
 もっと大人でいたいんだろうが…、とハーレイにも分かる。
 ブルーの気持ちは理解出来るし、確かに思わないでもない。
 「ブルーが、もっと大人だったら良かったのに」と。
 結婚出来る十八歳になっていたなら、今頃は、とうに…。
(一緒に暮らしていたんだろうしな)
 ちゃんと結婚式を挙げて、と思ったことは何度もある。
 「どうして、こうなっちまったんだ」と。
 ブルーが二十四歳も年下の、チビに生まれて来るなんて。
 この差が、せめてニ十歳なら、結婚出来る年なのに、と。


「黙っちゃったってことは、ハーレイだって同じでしょ?」
 そうなんでしょ、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「神様は、ちょっと酷いと思う」と「不公平だよ」と。
(……うーむ……)
 確かにな、と頷きそうになるのだけれども、どうだろう。
 ブルーと自分を、生まれ変わらせてくれた存在が、神。
 青く蘇った水の星の上に、前の生と同じ姿までつけて。
(この上、俺まで文句を言ったら…)
 バチが当たってしまいそうだ、と頭の中で懸命に考える。
 どうすれば「不公平」な現状を、違うと否定出来るかと。
(公平だったら、どうなるんだろうな?)
 年の差が二十四も無ければ…、と数える数字。
 「ニ十歳でも、大きすぎるか」と、「不公平だな」と。
(…そうなってくると…)
 妥当な数字は、五年くらいといった所か。
 いや、五年でも大きいだろうか、三年くらい…。


(そうだな、三年くらいとすると…)
 どんなもんだ、と想像してみて、「それだ!」と閃いた。
 「公平だったら、大変だぞ」と。
 「俺も、ブルーも、困っちまう」と、「とんでもない」と。
 これならいける、とブルーを真っ直ぐ見詰めて言った。
 「不公平な方がいいと思うぞ」と。
「えっ…?」
 なんで、とブルーは即座に抗議したけれど。
 「公平だったら、結婚だって出来ていたよ」と言うけれど。
「お前の目当ては、やっぱりソレか。しかしだな…」
 公平にするなら、年の差は三年くらいだろう。
 お前が十四歳だと、俺は十七、同じ学校の生徒だな。
 つまり、お前が、前のお前と同じ姿になる頃も…。
 俺は素敵に若いわけだが、それでいいのか、若い俺でも?


 どうなんだ、と尋ねてやったら、ブルーは叫んだ。
 「不公平でいい!」と。
 「二十四歳違ってもいいよ」と、「公平だと、嫌」と。
「ほほう…。若い俺だと、頼りにならん、と」
「そうじゃないけど! そうじゃないんだけど…」
 やっぱり嫌だ、と騒いでいるから、これでいい。
 神様がくれた新しい命に、文句をつけてはいけないから。
 たとえ少々不満があっても、そこは我慢をすべきだから…。




         不公平だよ・了





        



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(……聖痕かあ……)
 ハーレイをビックリさせちゃったよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 そのハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 忘れもしない五月の三日に、自分の身の上に起こった事件。
 少し前から、その兆候はあったのだけれど…。
(ソルジャー・ブルーの名前を聞いたら、右目の奥が…)
 ツキンと痛む感じを受けた、今の学校に入学した日。
 校長先生の話に出て来た、「ソルジャー・ブルーに感謝しましょう」という言葉。
 今の時代では決まり文句で、そういった時には必ず出て来る。
 人間が全てミュウになった時代、SD体制が崩れた後の平和な世界。
 それを築くための礎になった、大英雄が「ソルジャー・ブルー」だから。
 彼の存在が無かったならば、ミュウの時代が来るのは遅れて…。
(…青い地球だって、蘇ったかどうか分からないから…)
 全ての始まりになった英雄なのだ、と讃えられているソルジャー・ブルー。
(学校で勉強できるのだって、ソルジャー・ブルーのお蔭なんだ、って…)
 入学式などではお決まりの挨拶、だから不思議に思わなかった。
 下の学校でも何度も聞いたし、珍しくもない言葉だから。
(…だけど、ぼくには…)
 自分では全く知らなかっただけで、「ソルジャー・ブルー」の魂が中に入っていた。
 その魂が目覚める兆候、それが右目の奥で起こった痛み。
 じきに痛みでは済まなくなって、家で勉強していた時に…。
(…ソルジャー・ブルーの名前を見たら、ズキンと痛んで…)
 右目から真っ赤な涙が零れて、ノートに血の色の染みを作った。
 もちろん自分も仰天したし、両親の所へ言いに行ったら、二人とも慌てふためいて…。
(…病院に連れていかれて、検査…)
 なのに、異常は何処にも無かった。
 それまでの経緯を聞かされた医者が、口にしたのが「聖痕」と呼ばれている現象。
 あるいは、それが起こったのかも、と。
 ソルジャー・ブルーが最期に受けたという傷、その傷跡が現れたのかも、と。


 もしも聖痕が本物だったら、今の自分は「ソルジャー・ブルー」なのかもしれない。
 生まれ変わって来た彼の魂が、身体の中に入っていて。
 何かのはずみで目覚めた「それ」が、聖痕を引き起こしているのかも、と話した医者。
 病院でそう聞かされた後は、とても怖くて堪らなかった。
 自分が自分でなくなるようで。
 「ソルジャー・ブルー」の魂が目を覚ましたならば、「自分」がいなくなるようで。
(…今のぼくは、すっかり消えてしまって…)
 元はソルジャー・ブルーだった魂、それだけが残るのかもしれない。
 そうなったならば、今の自分が生きた記憶も、大切なものも…。
(何もかも、全部なくなっちゃう…)
 そんなの怖い、と怯えていたのに、本当に現れてしまった聖痕。
 いつもと同じに学校に行った、今は記念日になった日に。
 前の生から愛し続けたハーレイと、再会を遂げた五月の三日に。
(…ハーレイそっくりの先生がいるんだ、って…)
 病院の医者から聞かされたけれど、まるで繋がってはいなかった。
 クラスメイトが噂していた、新しく来たという古典の教師。
(前の学校で、急な欠員が出ちゃったから…)
 新学期の開始より少し遅れて、赴任して来た教師がハーレイ。
 けれども、クラスメイトの噂話に「ハーレイ」の名前は欠片も入っていなかったから…。
(ふうん、って思っただけだったんだよ)
 新しい先生が来るんだな、と考えただけ。
 まさか「ハーレイ」がやって来るとは、夢にも思っていなかった自分。
 目覚めかけていた魂の方も、特に反応しなかった。
 右目の奥は少しも痛まなかったし、「聖痕」なんかも忘れていた。
 それなのに…。
(ハーレイが、教室に入って来た瞬間に…)
 聖痕は一気に、その全貌を現した。
 兆候があった右目どころか、両方の肩と左の脇腹に。
 「前の自分」がメギドでキースに撃たれた、全ての箇所に。


(…誰が見たって、大怪我だよね…)
 教室中に上がった悲鳴を覚えている。
 ハーレイが慌てて、駆け寄って来た時の表情も。
(聖痕、とっても痛かったけど…)
 痛みで意識が飛びそうだったけれど、その最中に思い出したこと。
 「ハーレイなんだ」と。
 倒れた自分を抱き起こしてくれた、今のハーレイの逞しい腕。
 自分の中から鮮血と一緒に溢れ出して来た、前の自分の膨大な記憶。
 それが「ハーレイだ」と告げていた。
 またハーレイに巡り会えたと、愛おしい人と再び出会えのだ、と。
 同時にハーレイの記憶も戻って、二人分の記憶が絡み合った。
 「やっと会えた」と。
 遠く遥かな時の彼方で引き裂かれてしまった、誰よりも大切に思った人と。
(…ハーレイも、学校の先生も、クラスのみんなも…)
 うんとビックリさせちゃったけど、と自分の身体を眺めてみる。
 あれきり聖痕は現れないから、その役目はもう、終わったのだろう。
 今の自分と、今のハーレイとを、無事に再会させられたから。
 もうお互いに離れはしなくて、何処までも一緒に生きてゆけるから。
(…ホントはちょっぴり、足りないんだけどね…)
 今のぼくの背丈と、それから年が、と零した溜息。
 結婚するには幼すぎる年で、前の自分より小さな身体。
 お蔭で、せっかく巡り会えても、まだ二人では暮らせない。
 暮らすどころか、唇へのキスもして貰えなくて、デートも断わられる始末。
 なんとも悲しくて情けないけれど、我慢するしかないのだろう。
 神様がくれた不思議な聖痕、それでハーレイと巡り会うことが出来たから。
 今のハーレイを驚かせてしまって、学校にも迷惑をかけたけれども。
(でも、聖痕が現れたから…)
 ハーレイと再会出来たんだよ、と嬉しくなる。
 「神様が奇跡を起こしてくれた」と、「神様からの贈り物なんだ」と。


 身体中が血に染まるだなんて、とても傍迷惑な聖痕。
 それに自分も痛かった。
 おまけに、聖痕を目にしたハーレイときたら…。
(キースを絶対、許さない、って…)
 心の底から怒り狂っていて、今は何処にもいないキースを、今も激しく憎んでいる。
 本物のキースがいないものだから、朝顔のキースに八つ当たりするほど。
(…秋朝顔の、キース・アニアン…)
 ご近所さんが育てている、秋に花を咲かせる種類の朝顔。
 幾つも品種があるのだけれど、ご近所さんのは「キース・アニアン」。
 その花の名前を知ったハーレイは、朝顔の「キース」に復讐する気満々で…。
(…もしも垣根から顔を出したら、毟ってやる、って…)
 本気かどうかは謎だけれども、ハーレイならばやりかねない。
 朝顔の花をブツッと毟って、指で八つ裂きにするくらいは。
 引き裂いた後はグチャグチャに潰して丸めてしまって、ポイとゴミ箱に捨てるくらいは。
(……本物のキースに、地球で会った時……)
 ハーレイは何も知らなかったから、キースに挨拶したという。
 メギドの中で何があったか知っていたなら、一発、お見舞いすべき所で。
(だから、ホントに憎んでて…)
 復讐を果たし損ねた恨みの分まで、余計に憎くて堪らないらしい。
 キースに撃たれた「ソルジャー・ブルー」は、キースを憎んでいないのに。
 むしろ、キースに会えたなら…。
(話したいことが、一杯あるのに…)
 それをハーレイに何度言っても、ハーレイの怒りは消えてくれない。
 「あいつは、お前を撃ったんだぞ」と言うだけで。
 「俺は、絶対、あいつを許さん」と、憎しみを引き摺り続けるだけで。
(……いつかは、消えると思うんだけど……)
 その時が来るまで、ハーレイはキースを憎み続けて、自分自身にも怒りを向ける。
 「どうして、気付かなかったんだ」と。
 キースが「ブルー」に何をしたのか、知らないままで死んだ前のハーレイ。
 そんな自分を「間抜けだった」と、その愚かしさを呪い続けて。


(ハーレイ、聖痕を見てしまったから…)
 時の彼方で何が起きたか、今頃になって知ることになった。
 メギドに飛び去った「ソルジャー・ブルー」が、どんな風に死んでいったのか。
 もしも聖痕を見なかったならば、ハーレイは知らないままだったろう。
 そうなればキースを憎みはしないし、自分自身に怒りを覚えることだって無い。
 ソルジャー・ブルーが受けた傷跡、それを知ることは無いのだから。
 「前のブルーは、メギドを沈めて死んだんだ」としか、思ってはいないわけだから。
(…ごめんね、ハーレイ…)
 聖痕なんかは、無かった方が良かったのかな、と傾げた首。
 あの聖痕があったからこそ、ハーレイと巡り会えたのだけれど…。
(…もしも、聖痕が無くっても…)
 ちゃんと出会えていた気がするよ、と溢れる自信。
 なんと言っても、ハーレイと自分なのだから。
 気が遠くなるほどの時が流れても、地球の上で再会出来たのだから。
(…前のハーレイと、ぼくとの絆…)
 二人の間を結ぶ絆は、とても強くて確かなもの。
 たとえ聖痕が無かったとしても、お互いに巡り会えたと思う。
 何処かの街角でバッタリ会うとか、公園で偶然、出会うだとか。
 その瞬間に、ハーレイも自分も、互いを見付けて、互いに思い出すことだろう。
 「前の自分」が何者だったか、目の前にいるのは誰なのかを。
 きっと互いに、見詰め合わずにはいられない。
 「本物なのか?」と。
 本当に再び出会えたのかと、今度こそ、共に生きられるのかと。
(…前のぼくは、メギドで泣きじゃくったけど…)
 ハーレイの温もりを失くしてしまって、右手が凍えて冷たくて泣いた。
 「ハーレイとの絆が切れてしまった」と、「二度と会えない」と。
 それでもこうして巡り会えたし、聖痕が無くても、何処かで必ず出会えただろう。
 ならば、ハーレイにキースを憎ませ、自分自身を責めさせるような聖痕は…。


(…無かった方が良かったのかも…)
 聖痕が無くっても、ぼくたちは、きっと出会えるものね、と思ったけれど。
 あんな無残な傷の跡など、現れない方が平和だよね、と考えたけれど…。
(…それだと、右手が冷たくなっても…)
 前の自分の悲しい最期を夢に見たりして辛くなっても、ハーレイに甘えることは出来ない。
 何があったか語らなければ、ハーレイには通じないのだから。
 「右手が冷たい、って…。冷やしたんだろ?」と言われるだけで、何も分かって貰えない。
 前の自分の悲しい最期も、思い出すと辛くなることも。
 右手が冷えてしまった時には、嫌でも蘇る悲しみのことも。
(…聖痕が無くっても、出会えそうだけど…)
 やっぱり、あって正解だよね、とコクリと頷く。
 今のハーレイには気の毒だけれど、今の自分は強くないから。
 ソルジャー・ブルーと同じ強さを持っていたなら、一生、黙っていられたとしても。
(…ごめんね、ハーレイ…)
 弱虫なぼくで、と思うけれども、ハーレイなら許してくれるだろう。
 聖痕が現れなかったとしても、出会えただろう恋人だから。
 二人で青い地球に生まれて、今度こそ、共に生きるのだから…。

 

           聖痕がなくっても・了


※もしも聖痕が無かったとしても、ハーレイ先生とは出会えそうだ、と思うブルー君。
 でも、前の自分の悲しかった最期は知って欲しいし、やっぱり必要。弱虫ですものねv











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(……聖痕か……)
 あれには驚かされたよな、ハーレイが、ふと思い出したこと。
 ブルーの家には寄れなかった日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた熱いコーヒー、それを味わっていた時に。
 今のブルーと再会した時、目にした現象。
 十四歳にしかならないブルーは、転任して来た先の学校にいた。
 そうとも知らずに入った教室、其処で目にした一人の生徒。
(とても珍しいアルビノなんだが、それに気付くより前にだな…)
 生徒の瞳から溢れ出した血。
 それに脇腹、両方の肩からも鮮血が溢れて、教室のあちこちで上がった悲鳴。
(てっきり事故だと思ったんだ…)
 生徒が大怪我をしたのだろうと、倒れたブルーに駆け寄った。
 「大丈夫か?」と抱き起こした途端に、流れ込んで来た膨大なブルーの記憶。
 同時に自分自身の記憶も、湧き上がるように蘇った。
 「ブルーなんだ」と。
 遠く遥かな時の彼方で、誰よりも愛したソルジャー・ブルー。
 ただ一人きりの、愛おしい人。
 自分が「キャプテン・ハーレイ」と呼ばれていた頃、前のブルーと育んだ恋。
 「何処までも共に」と誓っていたのに、前の自分はブルーを失くした。
 前のブルーは、「ハーレイの恋人」であるよりも前に、ミュウを導く者だったから。
 ミュウの仲間を乗せていた船、白いシャングリラを守るソルジャー。
 白い箱舟をメギドの炎から守り抜くために、前のブルーは命を捨てた。
 「頼んだよ、ハーレイ」と、後を託して。
 シャングリラを地球まで運んで行くよう、前の自分に密かに頼んで。
(…だから前の俺は、生きるしかなくて…)
 愛おしい人のいない世界で、務めを果たすためだけに生きた。
 「いつか地球まで辿り着いたら、自由になれる」と。
 その日が来たなら、ブルーの許へと旅立てるのだ、と自分に懸命に言い聞かせて。


 いつか、その日は来る筈だった。
 実際、やって来たのだけれども、残念なことに記憶が無い。
 「これでブルーの所へ行ける」と、夢見るように考えた後の、一切が。
 燃え上がる地球の地の底深くで、崩れ落ちて来た大量の瓦礫。
 その下敷きになって死んだことだけは、間違いのない事実だけれども…。
(……あいつに会った記憶が無いんだ)
 魂が身体から解き放たれた後は、どうなったのか。
 真っ直ぐに何処かへ飛んで行ったか、それともブルーが迎えに来たか。
(…何も覚えちゃいないんだよなあ…)
 困ったもんだ、と思うのだけれど、こればかりはどうすることも出来ない。
 ついでに、生まれ変わって来たブルーの方も…。
(やっぱり覚えちゃいないと言うから、生まれ変わって来る時には…)
 天国の記憶は消えちまうんだな、と納得するより他に無かった。
 「もしも天国を覚えていたなら、きっと帰りたくなっちまうんだ」と。
 何と言っても天国なのだし、それは素晴らしい世界だろう。
 青い地球がどんなに美しくても、前のブルーが焦がれた星でも、地球は地球。
 神様の国に敵いはしないし、天国の記憶を持っていたなら、欲張りになる。
 「あちらの方が、ずっと良かった」などと、贅沢を言って。
 せっかく青い地球に来たのに、青い水の星に不満を抱き続けて。
(それじゃ駄目だと、神様が消してしまったんだな)
 前のあいつとの再会とかは、と苦笑する。
 再び会えた時の喜び、それに抱擁、そういったものも。
 前のブルーが流した涙も、前の自分が流した涙も。
(…綺麗サッパリ忘れちまって…)
 愛おしい人との再会の記憶、それは聖痕の鮮血で始まる。
 前のブルーがキースに撃たれた、痛ましい傷。
 赤く輝く右の瞳まで、キースは容赦なく撃った。
 まるでブルーを弄ぶように、致命傷を負わせないままで。
 苦痛を与え続けた挙句に、仕上げの屈辱を投げ付けるように。


(……とんでもないことをしやがって……)
 キースの野郎だけは許せん、と奥歯をギリッと噛み締めた。
 前の自分は、ブルーの最期を知らなかったから…。
(…キースの野郎に出会った時に…)
 相手は国家主席で人類の代表、キャプテンとして礼を尽くさねば、と挨拶をした。
 沢山の犠牲を払った果てに、ようやく辿り着いた地球。
 ミュウと人類の会談の場が設けられた以上は、平和的に話し合わなければ、と。
(それは分かっているんだが…)
 前の俺だって分かっちゃいたが、とギュッと握り締める手。
 「それでも、ブルーの最期を知っていたなら、俺はキースを殴っただろう」と。
 もちろん、会うなり殴りはしない。
 その程度の常識は心得ているし、自制心だって充分にあった。
 だから、キースを殴るなら…。
(ユグドラシルの中で、何か口実を設けてだな…)
 国家主席と「キャプテン」だけの私的な話し合いの場所。
 それをキースに用意させた上で、出掛けて行って殴ったと思う。
 「よくも、俺たちのソルジャーを」と。
 あくまでブルーの恋人ではなく、キャプテンとしての立場に立って。
 でないと、全てが無駄になるから。
 前のブルーと隠し続けた、大切な恋が明るみに出て。
(…人類との戦いが終わった以上は、別にバレてもいいんだが…)
 どうせブルーの後を追うのだし、そうなればミュウの仲間にも知れる。
 とはいえ、ブルーとの恋を最初に知るのが…。
(キースというのは、腹立たしいなんてモンじゃないしな)
 要は殴れればいいんだから、と思いはしても、その機会は永遠に無くなった。
 前の自分はとっくの昔に死んでしまって、キースもいない。
 生まれ変わって来ていたとしても、殴り飛ばすのは…。
(時効ってヤツで、キースにしたって…)
 新しい人生を生きているから、前のキースとは違う筈。
 「殴っていいぞ」と詫びて来られても、殴れない。
 そうして謝る殊勝なキースは、もう「仇」ではないのだから。


(…なんとも複雑な感じだな…)
 恨みの持って行き場も無いというのはな、とコーヒーのカップを傾ける。
 今のブルーに現れた聖痕、それで全てを知ったのに、と。
 ブルーの聖痕を見なかったならば、知らないままでいたかもしれない。
 前のブルーが生の最後に、どんな惨い目に遭ったのか。
 生まれ変わったチビのブルーに、聖痕が現れなかったならば。
(……そうかもしれん……)
 しかし、それでも出会えたろうな、と別の方へと向かった思考。
 今の自分も、今のブルーも、聖痕で記憶が戻ったけれど…。
(あれが現れなかったとしても…)
 聖痕が無くても、きっと出会えた、そんな気がする。
 前のブルーと自分の絆は、切れることなど無いだろうから。
 青い地球の上で出会わなくても、聖痕が無くても、互いに互いを見付けるだろう。
 神の助けを借りずとも。
 聖痕という神の奇跡の力が、ブルーの上に働かなくても。
(…うん、きっとそうだ)
 そうでなくちゃな、と溢れる自信。
 「俺はブルーを見付けられる」と、「ブルーも、俺を見付けてくれる」と。
 何故なら、誓い合ったから。
 遠く遥かな時の彼方で、「何処までも共に」と。
 前のブルーは誓いを破って、一人きりでメギドへ飛んだけれども…。
(…それでも俺たちは、ちゃんと出会えた)
 青く蘇った地球の上でな、と今の自分の手を見詰める。
 前の自分とそっくり同じな、その手のひら。
 ブルーはチビになったけれども、いずれは育って、前のブルーと同じ姿になるだろう。
 そこまで強い絆で結ばれ、こうして地球までやって来た。
 先に生まれた今の自分を追い掛けるように、ブルーが生まれて。
 隣町で生まれた今の自分は、ブルーが生まれる前に、この町に引っ越して来て。
 だから、必ず会えたと思う。
 今のブルーに聖痕が無くても、きっと何処かで。


(…そういう出会いも悪くないよな)
 聖痕は抜きで、奇跡の再会、と描いてみる夢。
 何処でブルーと出会っただろうか、記憶は直ぐに戻ったろうか、と。
(あいつなんだ、と気付いたら…)
 記憶は直ぐに戻ると思う。
 出会った場所が公園だろうと、街角でバッタリ出くわそうとも。
 そして互いに気が付いたならば、そのまま擦れ違うことはしないで…。
(絶対、あいつを呼び止めるんだ)
 ブルーが遠慮していたならな、と大きく頷く。
 十四歳にしかならないブルーは、自分から大人に声を掛ける勇気は無いだろう。
 サイオンもとても不器用なのだし、「ハーレイなの?」と思念で聞けはしないし…。
(俺に気付いた、って顔に出てても、恐らくは…)
 何も言えずにいるだろうから、「ブルーじゃないか?」と呼び掛ける。
 「もしも人違いだったら、すまん」と、一応、詫びの言葉も入れて。
(……そうしたら……)
 たちまち、あいつは飛び付いてくるな、と緩んだ頬。
 今のブルーなら、きっとそうなる。
 「ハーレイ!」と、顔を輝かせて。
 白いシャングリラの頃と違って、二人の恋を隠さなくてもいいのだから。
(とはいえ、やっぱり人目はあるし…)
 ついでに子供にキスは出来ん、と可笑しくなった。
 チビのブルーが飛び付いて来ても、「そこまでだな」と。
 「ちょっと、お茶でも飲まないか?」と、最初のデートに誘いはしても。
(でもって、あいつは不満たらたら…)
 今と大して変わらないぞ、と想像してみて、「やっぱり会えるな」と確信した。
 前のブルーの悲しい最期を表す聖痕、あれが無くても。
 何処かでブルーに巡り会えるし、記憶も戻って来るのだろう、と。
(しかし、キースの野郎は許せん)
 やっぱり、聖痕を見ておかないと、と思いもする。
 聖痕が無くても会えるけれども、それでは片手落ちだから。
 前のブルーの悲しい最期は、どうしても知っておきたいから…。

 

           聖痕が無くても・了


※ブルー君に聖痕が現れたことで、再会したハーレイ先生と、ブルー君。でも…。
 聖痕が無くても、きっと再会出来た筈。そういう出会いも幸せですよね、片手落ちでもv












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「ねえ、ハーレイ」
 少し気になっていたんだけど、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、ハーレイを見詰めて。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…来た、来た、来た…)
 いつものヤツが、とハーレイは心で苦笑した。
 これからブルーが投げて来るのは、唐突な質問。
 休日の午後によくあることで、中身の方も分かっている。
(どうせ、ロクでもないヤツで…)
 真面目に聞くだけ無駄ってモンだ、と学習済み。
 とはいえ、無視することも出来ないし…。
「気になるって、いったい何が気になるんだ?」
 一応、話を聞いてやろう、と微笑み掛けた。
 「話して、お前の気が済むならな」と。


 そう言ってやれば、答えが返ると思ったのに。
 勢い込んで喋り出しそうなのに、そうではなかった。
 ブルーは逆に黙ってしまって、おまけに顔も俯き加減。
(…どうなってるんだ?)
 もしかして深刻な問題だろうか、と急に心配になって来た。
 いったい何処から話せばいいのか、悩むくらいの心配事。
「…おい。そいつは、俺には話し辛いのか?」
 どんなことだって聞いてやるが、とブルーの瞳を覗き込む。
 「ダテに長生きしちゃいないしな」と。
 「今の俺なら、お前より、ずっと年上なんだ」と。
 するとブルーは、「怒らない?」と赤い瞳を瞬かせた。
 「ハーレイの御機嫌、悪くなるかも」と、真剣な顔で。
 「ホントに前から気になってたけど、言えなくって」と。


(…うーむ…)
 こいつは判断に迷う所だ、と悩ましい。
 ロクでもないことが待っているのか、そうではないのか。
(…しかしだな…)
 本当に深刻な悩みだったら、放っておくなど、男が廃る。
 これでもブルーの恋人なのだし、おまけに教師。
(よし…!)
 正面から受け止めてみるとするか、と腹を括った。
 「怒らないから話してみろ」と、笑みを浮かべて。
 「俺の心は、そんなに狭くはないからな」と。
「前から気になっていたと言ったな、何なんだ?」
 どうやら俺のことらしいが、と尋ねたら、ブルーは頷いた。
「そうなんだけど…。ハーレイ、ぼくが嫌いなんでしょ?」
「はあ?」
「だからね、ぼくが嫌いなんでしょ?」
 そうだよね、と俯いてしまったブルー。
 「きっとそうだと思ってるから」と、「ぼくが嫌い」と。


「なんだって…?」
 どうして、そういうことになるんだ、と驚いたハーレイ。
 ブルーを嫌ったことなど無いし、もちろん嫌いな筈が無い。
 前の生から愛し続けて、再び巡り会えたのに。
 小さなブルーと出会った時から、恋の続きをしているのに。
 嫌うことなど有り得ないのに、何故、勘違いされるのか。
 けれどブルーは、俯いたまま。
 「…ホントのことなんか、言えないよね」と呟いて。
 「だって、ハーレイ、守り役だから」と。
「おいおいおい…。俺はお前を嫌っちゃいないぞ」
 嫌ったことなど一度も無いが、とブルーに語り掛けた。
 「前からだなんて、とんでもない」と。
「でも…。それ、前のぼくがいたからでしょ?」
 だからだよね、とブルーは顔を伏せたまま。
 「今のぼくとは違うんだもの」と、「何もかも、全部」と。


(…こいつは困った…)
 ますます答えに悩んじまう、とハーレイが眉間に寄せた皺。
 ブルーには何か魂胆があるのか、本当に勘違いなのか。
 勘違いをしているのだったら、急いで誤解を解かなければ。
(しかしだ、何か企んでるなら…)
 好きだと答えを返したが最後、ブルーの罠に落っこちる。
(ホントに好きなら、証拠をちょうだい、って…)
 言い出すんだぞ、と読めているから、動けない。
 下手に動けば罠に落ちるし、もしも罠ではなかった時は…。
(…やっぱり、ぼくが嫌いなんだ、と…)
 誤解したままになっちまうし、と眉間の皺が深くなる。
 気付いたブルーは、「やっぱりね…」と溜息を零した。
「ハーレイ、答えられないんでしょ?」
 嫌いだなんて言えないから、と赤い瞳に滲んだ涙。
 「ごめんね」と、「ハーレイを困らせちゃって」と。
 「御機嫌、悪くなっちゃったでしょ」と。


「そうじゃないんだ…!」
 俺はお前が嫌いじゃない、と思わず腰を浮かせたハーレイ。
 「ずっと好きだ」と。
 「お前がチビでも大好きなんだ」と、「お前だしな」と。
そうしたら…。
「本当に?」
 パッと輝いたブルーの顔。
 「それじゃ、キスして」と、「好きな証拠に」と。
「馬鹿野郎!」
 いつものヤツか、とブルーの頭に落とした拳。
 「悩んだ分だけ損をしたぞ」と、「してやられた」と。
 銀色の頭に軽くコツンと、ブルーにお仕置きするために…。




           嫌いなんでしょ・了











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