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いつか行くんなら
(…アルテメシアかあ…)
 懐かしいのかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。


 アルテメシアは、前の生での思い出の星の一つ。
 白いシャングリラで長く潜んだ、雲海に覆われていた星だった。
(雲海、今も変わらないらしいけど、テラフォーミングが進んだから…)
 覚えている星とは違うかもね、とブルーにも分かっている。
 あの頃には、まだ育英都市が二つしか無かった。
 ジョミーを見付けたアタラクシアと、シロエが育ったエネルゲイアだけ。
(今だと、他にも町が幾つも出来ている上に、SD体制、無くなったせいで…)
 赤ん坊から高齢の人まで、大勢の人が暮らしている。
 血の繋がった「本物の家族」を中心にして、仕事などで単身、長期滞在も珍しくない。


 様子だけでも変わっているから、今の時代に行ってみたって、別の星のようだろう。
 けれども、何処かに「懐かしい」と思う気持ちは、あるように思う。
 雲海の中での長い歳月、たまに地上に降りていたせいもあるかもしれない。
(遊びに出掛けたわけじゃなくって、ちゃんと理由はあったんだけど…)
 ミュウの子供の救出作戦の事前調査で降りていたとか、ユニバーサルの偵察だとか。
 降りた機会に、空き時間が出来た時だけ、海を見に出掛けていたりした。
 郊外の森の中でも、ゆったりと流れる雲を見上げた。
(どの場所も、きっと変わっちゃってて、残ってないよね…)
 分かっているけど、行けるんだったら、行ってみたいな、という気はする。
 思い出の場所に行くのではなくて、アルテメシアと呼ばれる雲海の星へ。


(……いつか行くんなら……)
 ハーレイと一緒に決まってるよ、と確信があった。
 アルテメシアは遠い星だし、今の学校の間に出掛けてゆくには、向いてはいない。
 旅行に行くなら、ワープを何度もしないと着けない場所より、近い何処かの星だろう。
(…今のぼくだって、身体が弱いままだし、地球の上でも、旅は殆ど…)
 していないもの、と溜息が零れてしまいそう。
 せっかく青い地球の上に来たのに、「青い水の星」を、未だに一度も見ていないまま。
 ハーレイの方は、何度も見ているらしくて、羨ましい。
(…でも、ハーレイだって、アルテメシアは…)
 行ったことが無いと聞いているから、出掛けてゆくなら、ハーレイと暮らし始めた後だろう。


 遠く遥かな時の彼方で、前のハーレイが舵輪を握る白い箱舟で、雲海の星に辿り着いた。
 あの時と変わらないのは「ハーレイと一緒」という所だけ。
 今のハーレイは、古典の教師で、宇宙船を操縦することは出来ない。
 アルテメシア行きのチケットを二人分、買って手に入れ、定期航路で向かうことになる。
(ひょっとしたら、臨時便が飛んでいる時期もあるのかも…)
 観光名所があるんだったら、と思うけれども、どうだろう。
 アルテメシアで有名な場所は、前の自分たちの墓碑が並んだ「記念墓地」。
 記念墓地には、シャングリラが解体された時に、移植した木たちの森もあるらしい。
 「シャングリラの森」という名で、かなり知られている。


(記念墓地には、前のぼくたちの墓碑があるけど、墓碑だけで…)
 身体は欠片も残っていないんだよね、と小さなブルーは苦笑する。
 前の自分はともかく、他の誰一人として「残っていない」というのが、少し愉快な気分。
 荒れたままだった地球の地の底深くで、前のハーレイ達も、キースも命尽きていった。
 その地球ではなくて、アルテメシアに墓碑があるのは、地球が蘇る前だったから。
(…そんな所に行ってみたって、挨拶だけしたら充分かな…)
 もちろん、花束か花輪は持って行くけど、と考えてから、幾つ買うのか気になって来た。
 大抵の人は、大英雄の「ソルジャー・ブルー」の墓碑に置くもので、他の墓標には祈りだけ。
 憧れている人や、尊敬している人がいたなら、そちらにも置く。
 ジョミーの墓標や、キースの墓標で、どちらも花が絶えないらしい。
 律儀な人が出掛けた場合は、全ての墓標に、一輪ずつの花を置くとも聞いていた。


 今のハーレイと出掛けてゆくなら、花束は幾つ必要だろう。
(…前のぼくには、置かないとしたって…)
 ずいぶん沢山、花が要りそう、とブルーは自分の両手を眺めてみる。
 手に一杯の花を買ったら、全員の分にはなるかもしれない。
 とはいえ、「知らない間柄ではなかった」人たちの墓標に、花を一輪だけでいいのだろうか。
(…ジョミーの墓碑には、お礼の気持ちで大きな花束か花輪、置きたいし…)
 いくらハーレイが「キース嫌い」でも、キースの墓標にも立派な花を届けたい。
 キースが変わってくれたからこそ、SD体制の終わりが早くなったのは確かだから。
(…他にも、お礼を言いたい人がドッサリ、花束は幾つ…?)
 幾つ買ったらいいんだろう、とブルーは何度も数え直して、悩ましくなった。


(花束とか花輪を、うんと沢山、買うんだったら…)
 持ち切れない上に、お金だって高くなりそうだし、と頭に浮かぶのは、今のハーレイ。
(任せておけ、って花をドッサリ抱えて運んで、お金も払ってくれそうだけど…)
 なんだか、ちょっぴり申し訳ない気がしちゃう、と思うものだから、どうするべきか。
(…うーん…。アルテメシアに、いつか行くんなら…)
 記念墓地には行かずに、シャングリラの森だけ見に行こうかな、と逃げを打ちたい。
 そうは言っても、記念墓地に行かずに済ませようにも、ハーレイは賛成しないだろう。
(……ハーレイの方が、行くべきだ、って言うんだったら……)
 花の係は任せちゃおうかな、とブルーは、クスッと小さく笑った。
 ハーレイが花を山と抱えて運ぶ羽目になろうが、財布の中身がピンチだろうが、自業自得。
 もっとも、財布がピンチになったら、お土産を買って帰るのは、難しそうだけれど…。



        いつか行くんなら・了


※いつかハーレイと、アルテメシアに行きたいブルー君。外せない場所が記念墓地。
 いったい幾つ花が要るやら、お土産を買うお金、残ってくれるといいですねv







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