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店先だったら
(教室だったとは限らないんだよな…)
 俺とブルーが出会った場所は、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(たまたま、教室だっただけで、他の場所だった可能性も…)
 顔を合わせればいいんだし、と別の所を頭に描く。
 時期が来たからこその出会いで、教室である必要は無い。
(…俺とあいつの行動範囲が重なりさえすれば、何処でもいいんだ…)
 学校の近くの文具店でもいいし、バス停でもいい。
 長い散歩や、気まぐれなジョギングで出掛けた先が、ブルーの家の近所も有り得る。


 早い話が、ブルーの家の前でバッタリ会っても、おかしくなかった。
 知らずに通り掛かったハーレイと、門から出て来たブルーが、顔を合わせる。
(…ふうむ…)
 興味深いケースではある、と思う間に、別の出会いを考え付いた。
 今のブルーも身体が弱いけれども、家の近くなら散歩していたりもする。
(散歩のついでに、ちょっとした買い物くらいだったら…)
 頼まれて行ったり、自分で出掛けることもあるだろう。
(…何処かの店先で、バッタリか…)
 店主や店員は、酷く慌てて、救急車を呼んだり、とんでもない騒ぎが目に見えるよう。
(…場を収めるのは、俺の役目なんだろうな…)
 救急車に一緒に乗って行くから、ブルーの家に連絡を頼む、などと落ち着いた口調で告げる。
 教師なのだし、そういったことには慣れているから、問題は無い。


(とはいえ、無関係な店を巻き込んじまうのは、ちと困るぞ…)
 俺が店主だったらいいんだがな、と苦笑したはずみに、ポンと出て来た愉快な想像。
 ブルーが来るのは、「ハーレイの店」の店先。
 そっちだったら、誰にも迷惑をかけはしないし、店員を雇っていたって、大丈夫だろう。
(俺は教師を選んだんだが、スポーツ選手の道に行かないのなら、店主もアリだな)
 料理作りは元々好きだし、菓子作りだって、と「違う進路」が無いわけではない。
 何処かで「料理の道に進もう」と思っていたなら、充分、ありそうなコース。
 上の学校に進む代わりに、料理人を育てる専門学校に入ればいい。
(あらゆる料理を学べる上に、菓子職人向けのコースもあるんだし…)
 どれを選ぶかは好み次第で、その気になったら、掛け持ちで学ぶことだって出来てしまう。
 卒業した後、成績が良ければ、有名店で修業もさせて貰える。
 その後、一人立ちして、店を持つなら、今くらいの年になりそうだった。


 有名店に勤める間に貯めた資金で、まずは自分の店を買うこと。
 何も知らずに選んだ場所が、ブルーの家の近くでも、不思議は無かった。
(ちょうど良さそうな感じなんだよなあ、住宅街だし…)
 あまり有名な店に育てたいという気はしない。
 店主と客の距離が近くて、気軽に話せて、調理場が見られるカウンターなども作ってみたい。
 出来ることなら、料理の傍ら、菓子作りもして、販売用のスペースも欲しい所だ。
(ちょっとした棚でいいから、店主の気まぐれ風にだな…)
 焼き菓子を置いたり、パンを多めに焼き上げてみたり、何があるかは、来てのお楽しみ。
(俺の好みは、そういう具合に、フラリと入れる店なんだ…)
 自分が店を始めるにしても、似たような店を作りたいぞ、と夢は描ける。
 子供のお小遣い程度で買える、「美味しいクッキー」でもあったら、ブルーも来そうだ。


(お母さんに聞いたか、近所の誰かか、友達に評判を聞かされたとかで…)
 今のブルーは、母が作る様々な菓子が好きだし、何処かの店の菓子でも喜ぶ。
 近い所に「美味しい菓子の店が出来たらしい」と耳にしたなら、きっと覗きに来るだろう。
(あいつのことだし、入りやすそうな店なら、中の様子を覗き見してから…)
 開けてあるだろうドアをくぐって、ヒョイと店へと入って来る。
(おじさん、どんなお菓子があるの、とだな…)
 声を掛けようとして、店主を見たなら、「俺」なわけだ、と可笑しくなった。
 よりにもよって、「ハーレイ」が「店主の、おじさん」。
 お菓子を買いに入ったつもりが、前の生での恋人と、バッタリ出会うという衝撃的な瞬間。
(…それでも、聖痕、出るんだろうか…?)
 出ては来るんだろうが、ワンテンポ以上、遅れそうだな、と思わないでもない。
 「店主の、おじさん」と、「キャプテン・ハーレイ」では、あまりにもギャップが大きすぎる。


(俺の方でも、あいつに聖痕が出ない間は、記憶は戻ってくれないんだし…)
 入った途端に立ち尽くしているブルーに向かって、こう尋ねそうだ。
 「おい、どうしたんだ? 小遣いで買えそうな菓子しか、置いていないぞ?」
 それとも食事をしたいのか、と空いている席を示した辺りで、やっと、聖痕が姿を現す。
(…なんとも間抜けで、呆れちまうんだが…)
 俺がやってる店の場合は、そうなるかもな、とハーレイはクスクスと笑い始めた。
 「間抜けすぎる出会い」の方でも、悪くはない。
 居合わせた客や、一人くらいはいそうな店員などには、「運が悪かった」と諦めて貰おう。
 「臨時休業」の札が出されて、その日一日、店は「お休み」。
(…聖痕で汚れちまった床の掃除も、店員に頼むことにになるから、後でだな…)
 給料にドンと上乗せしとくさ、と気前のいい「店主」が出来上がりそうだ。
 恐らく、それ以降、小さなブルーは「店の常連」。
 毎日のように来るだろうから、店員とも仲良くなる筈なのだし、うんとサービスして欲しい。
 ブルーが店に入った瞬間、「いらっしゃいませ!」で、お気に入りの席へと、御案内で…。



           店先だったら・了


※ハーレイ先生と、ブルー君の出会いの場所。店先だった可能性も充分、ありそう。
 ついでに「ハーレイ先生」ではなくて、「ハーレイ店長」だった場合は、楽しそうですv




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