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(いいお天気…)
 今日も青空、とブルーが眺めた窓の外。
 夏休みの朝、目が覚めて一番に自分の部屋のカーテンを開けて。
 目覚ましが鳴るよりも前に起きたら射し込んでいた朝日。
 カーテンが少し開いていたのか、その隙間から。
 もうそれだけで晴れているのだと分かったけれども、確かめずにはいられない。
 雲一つ無い夏の青空を、まだ暑さよりも爽やかさが勝る朝の景色を。


 暑い季節は苦手だけれども、この時間なら涼しい風も吹いてゆくから。
 夜の間に降りた夜露や、冷えた地面が空気を冷やしてくれているから。
(うん、涼しい…!)
 自然のクーラー、と窓も大きく開け放ってみた。
 サアッと吹き込んで来た清々しい風を、胸一杯に吸い込んで。
 せっかくだからと深呼吸もして、身体中の細胞が目覚めた気分。
 パジャマ姿で顔も洗っていないけれども、誰も気にしていないだろうから。
 二階の窓からパジャマの子供が外をしげしげ眺めていようが、伸びをしようが。
 子供でなくても、庭と生垣を隔てた向こうを通る人は気にも留めないだろうから。


 気持ちいい、と大きく吸い込んだ空気、肌に心地良い朝の風。
 昼の間はジリジリと暑い夏の太陽も、今の時間は強く眩く輝くだけ。
 もっともっと高く昇っていったら、酷い暑さになるけれど。
 生まれつき身体の弱い自分は、とても仲良く出来ないけれど。
(朝の間は大丈夫…)
 ハーレイと夜明けを眺めた日だって、朝の食事は庭だった。
 庭で一番大きな木の下、お気に入りの白いテーブルと椅子で二人で朝食。
 涼しい朝だったから全く平気で、むしろ気持ちが良かったくらい。
 ダイニングで食べる、いつもの朝食よりも。
 父や母と囲む朝の食卓よりも。


(ハーレイがいたっていうのもあるけど…)
 前の生から愛した恋人、生まれ変わって再び出会えた大切な恋人。
 そのハーレイと二人きりの朝食、それは特別だった朝食。
 暗い内から日の出を待って、白いシャングリラでは見られなかった光景に二人で酔って。
 それから食べた朝食だったし、余計に素晴らしかったのだろう。
 朝の空気の清々しさも、お気に入りの木陰のテーブルと椅子も、何もかも。
 忘れられない夏休みの思い出、その中の一つ。大切な一つ。
 夏休みはまだまだ続いてゆくから、思い出はもっと増えてゆくけれど。
 幾つも、幾つも、きっと沢山。


 こうして眺める窓の外。
 朝食を食べに下りてゆくにはまだ早い時間、風を涼しく感じる時間。
 いい天気だから、ハーレイは今日も歩いてやって来るだろう。
 何ブロックも離れた所に住んでいるのに、そんな距離など物ともせずに。
 高く昇ってゆく夏の太陽、照り付ける日射しも気にもしないで。
 けれど、それには早すぎる時間。
 早起きだと聞くハーレイはとうに起きてはいるだろうけれど…。
(非常識だ、って言うんだよ)
 あまりにも早い時間に訪ねて来ることは。
 自分はちっともかまわないのに、両親だって気にしないのに。


 教師というハーレイの仕事柄なのか、前と同じに律儀な性格のせいなのか。
 「夏の夜明けは早いんだぞ?」と言っていたから、早い時間に起きていることは確実で。
 それなのに早くは来ないハーレイ、朝食を食べに来てはくれない。
 その気になったら来られるだろうに、充分に間に合うのだろうに。
 だから、こうして窓から外を覗いていたって…。
(ハーレイは歩いて来ないんだよ)
 来るならあっち、とその方向を向いたって。
 じいっと通りを眺めていたって、見慣れた姿は現れない。
 この時間には来る筈もなくて、家でのんびり朝食なのか、ジムへひと泳ぎしに出掛けたか。
 はたまた軽くジョギングだろうか、この家の辺りはコースに入らないらしいけれども。


(もうちょっと待てば、来るんだろうけど…)
 朝食を済ませて待っていれば。
 もちろん顔をきちんと洗って、パジャマも着替えて、それから食事。
 部屋の掃除もすっかりと終えて、椅子にチョコンと座っていたなら来るだろう待ち人。
 勉強机の前に座って本を読んでいる日も多いけれども、窓から見ていることもある。
 もう来るだろうかと、そろそろだろうかと、いつもハーレイと座る窓辺の椅子で。
 自分の指定席になった方の椅子で、まだか、まだかと窓の外を見て。


 けれども、それにはまだ早い時間。
 待っていたってハーレイは来ない、朝早くには。
 でも…。
(あっちの方から来るんだよね)
 いつも、と椅子に腰掛けた。窓辺の椅子に。
 前のハーレイのマントの色を淡くしたような苔色の座面、背もたれに籐が張ってある椅子に。
 普段はパジャマで座らない椅子、よそゆきの椅子。
 自分の部屋の椅子なのだから、よそゆきも何も無いけれど。
 どんな格好でいてもいいのだけれども、何故だか「よそゆき」な気がする椅子。


 たまには座りたい気分になるし、とパジャマで座って、外を眺めて。
 待っていたって来ない恋人、まだ現れない恋人が歩いて来るだろう方を見下ろして。
(流石に早すぎ…)
 朝御飯にも早い時間なんだし、と視線を移した空の方。
 まだ太陽はそれほど高くは昇っていなくて、吹いてくる風も涼しくて。
 気持ちいいよね、と足をブラブラさせていて…。


 ハタと気付いた、窓の向こうに広がる朝の景色に。
 この前、ハーレイと二人で見ていた時間よりかは遅いけれども、爽やかな朝の光と風に。
 木々の間を吹いて来る風、眩しく輝く朝の太陽。
 白いシャングリラには無かったのだった、こういう朝の光景は。
 夜が明けても雲海が白くなるというだけ、昇る朝日は見られなかった。
 長く潜んだアルテメシアの白い雲海、其処からの浮上は死に繋がるから。
 船の存在を知られてしまって、追われるより他に道は無いから。
 人類軍の船に追われて、沈むまで続いただろう攻撃。
 だからシャングリラに朝日は無かった、雲海の中では見られないから。


 それでハーレイに強請ったのだった、二人で一緒に朝日を見ようと。
 暗い内から待って見ようと、二人で夜明けを見てみたいのだと。
 そうして実現させたというのに、ハーレイと日の出を見たというのに。
 アルテメシアどころか地球の夜明けを見たというのに、綺麗に忘れた、その有難さ。
 前の自分が焦がれ続けた青い地球。
 行けずに終わってしまった地球。
 其処の朝日をハーレイと二人、窓から見られた奇跡のことを。


(ぼくの部屋の窓じゃなかったけれど…)
 東向きの大きな窓がある部屋、其処で二人で待ったけれども。
 あの日に二人で眺めた夜明けは地球の夜明けで、窓の向こうに今も地球。
 パジャマ姿で見ている景色は、朝の景色は青い地球のもので。
 吹いて来る風も、まだ暑くはない眩い日射しも、何もかもが青い地球の上のもので。
(…ハーレイが歩いて来る道だって…)
 地球の地面の上にあるのだった、前の自分が行きたいと願い続けた星に。
 辿り着けずに終わってしまった、青く輝く夢の星の上に。


 前の自分が生きた時代に、青い水の星は無かったけれど。
 死に絶えた星しか無かったけれども、青く蘇った母なる地球。
 その地球の上に自分は生まれた、ハーレイと二人で生まれ変わってやって来た。
 当たり前のように其処にある地球、窓の向こうに朝の地球。
 もうすぐ太陽が高く昇って、ハーレイが歩いてやって来る。
 他所の家を訪ねてもかまわない時間になったなら。
 ハーレイが自分で決めている時間、それが訪れたら、窓の向こうにハーレイの姿。
 今は夏だから、半袖のシャツで。
 涼しそうな夏物のズボンやジーンズ、そういったラフな格好で。


 今の自分が見慣れた光景、この窓の側で待っていたなら見られる光景。
 夏の暑さを物ともしないで颯爽と歩いて来るハーレイ。
 なんとも思わずにいたのだけれども、今もパジャマでその光景を思い描いていたけれど。
(窓の向こうに、ハーレイが見えて当たり前、って…)
 時間になったら来て当たり前だと思ったハーレイ、窓の向こうに見えるハーレイ。
 それは今では当然だけれど、夏休みだから来てくれる日も多いけれども。
(…地球なんだっけ…)
 窓の向こうも、この家の下も、丸ごと全部。
 何もかもが全部、前の自分が焦がれ続けた地球の上。
 朝の光も、涼やかな風も、ハーレイが歩いて来てくれる地面も。


 夢みたいだ、と頬を抓った景色だけれど。
 窓の向こうに地球だなんてと、ハーレイまでついているだなんて、と思ったけれど。
 きっとパジャマを脱いでいる内に、顔を洗う内に、素晴らしい奇跡を忘れるのだろう。
 今の自分には、この風景と日常が当たり前だから。
 窓の向こうに地球はあるもの、それが普通のことだから。
 だから忘れてしまう前に、と窓の向こうにペコリとお辞儀をしておいた。
 凄い奇跡をありがとう、と。
 いつも忘れてしまってごめんと、今のぼくには窓の向こうに地球があるのが普通だから、と…。

 

       窓の向こうに・了


※ブルー君の部屋の窓の外、見える景色は当たり前に地球。見慣れた景色ですけれど…。
 前のブルーは地球を見てさえいないのです。その地球が日常になった今は幸せですよねv





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(よし!)
 いい天気だな、と大きく伸びをしたハーレイ。
 カーテンを開け放った窓の向こうに昇った朝日。
 目覚めて直ぐに窓も開けてみた、この時間なら夏でも涼しいから。
 朝の心地よい風が入って来るから、胸一杯に朝の空気を吸い込もうと。
 ベッドから起き出して、パジャマのままで。
 顔も洗わない内から開け放った窓、誰が見ているわけでもないし、と。


 夏休みだから、今日は部活の予定も無いから、ゆっくり過ごせる自由な日。
 朝食を食べて暫く経ったら、ブルーの家へと出掛けてゆく日。
 いい天気だから、もちろん歩いて。
 気の向くままに道を選んで、庭木や生垣、花壇の花などを楽しみながら。
 けれど、出掛けるにはまだ早い時間。
 ただでも夏の夜明けは早いし、こんな時間に訪ねて行っても…。
(大迷惑な上に、ブルーは寝てるぞ)
 夢の中だな、とクッと笑った。
 早起きは得意だと言っていたくせに、夏の夜明けが何時なのかを知らなかったブルー。


 「ハーレイと一緒に夜明けを見たい」と頼まれて凄い時間に訪ねた、先日。
 まだ暗い内に家を出発して、ブルーと二人で眺めた朝日。
 あの日よりかは遅いけれども、朝の光で蘇る思い出、地球の夜明けだと。
 白いシャングリラでは無かった光景、夜明け自体が見られなかったと。
 アルテメシアの雲海の中に隠れ住んでいた白い船。
 浮上することは死を意味したから、船は朝日を浴びられなかった。
 夜が明けても暗かった雲が白くなるだけ、昇る朝日は見られなかった。
 だからブルーと二人で眺めた、ブルーの家で。
 ブルーの部屋とは違う部屋の窓で、東に向かって開いた窓で。


 夜空に残っていた星が一つ、二つと消えて行った後に明るさを帯びた東の空。
 みるみる白さを増して行った空、朝日が射すなり色づいた世界。
 あの光景には敵わないけれど、朝日は昇った後だけれども。
(…地球なんだなあ…)
 それにシャングリラじゃ見ることもなかった景色なんだ、と窓の向こうをグルリと見渡す。
 こんな風に照らし出された世界も、朝日も無縁だった船。
 其処で暮らした前の生の自分、アルテメシアを落とした後には船の外へも出たけれど。
 幾つもの星で、ノアでも地上に降りたけれども、生憎と朝日の記憶など無い。
 感動を覚えたことすらも無い。
 ブルーを失くしてしまったから。
 世界の全ては色を失い、生きる意味さえ失くしたから。


 ブルーと二人で目指した地球。
 白いシャングリラで辿り着こうと夢に見た星、其処へ行く夢さえ、もう意味は無くて。
 辿り着いたら全て終わると、自分の役目は其処で終わると、ただそれだけ。
 ブルーに託されたキャプテンの務め、ジョミーを支えて地球へゆくこと。
 それが終われば自由になれると、飛び去ったブルーを追っていいのだと思っていた地球。
 ようやっと着いた地球は赤くて、青い星ではなかったけれど。
 死に絶えた星で、命の影さえ無かったけれども、それすらも、もう…。
(…あいつの夢が砕けちまった、と思いはしたが…)
 こんな星のためにブルーは逝ってしまったのか、と考えはしても、辛く悲しく思いはしても。
 自分のためにはどうでも良かった、夢の星ではなくて終着点だったから。
 青く美しい水の星の景色、それをブルーに見せたかっただけで、自分はどうでも良かったから。


 そのせいだろうか、地球で夜明けは見ていない。
 ユグドラシルに泊まったのだし、見ようと思えば見られただろうに。
 汚染された大気と無残に朽ちた高層ビル群、其処から昇るものであっても地球の夜明けを。
 朝の光が照らし出す地球を。
(…寝ちまってたかな…)
 それとも何の興味も抱かず、カーテンを開けもしなかったのか。
 朝日が見えそうな場所を探して歩くことさえしなかったのか。
 おぼろげな記憶に残ってはいない、前の自分の生が終わった日の朝のことは。
 地球の夜明けを見なかったことは確かだけれど。


(そいつが今では当たり前なのか…)
 早起きをすれば夜明けが見られる、地球の夜明けが。
 ユグドラシルまで出向かなくても、今の自分が暮らす家から。
 窓のカーテンをサッと開ければ、朝日が昇る時間に東が見える窓から覗きさえすれば。
 だからこそブルーと二人で見られた、地球の夜明けを。
 前の自分が失くしてしまった愛おしいブルー、帰って来てくれた小さなブルーと。
 いつかは二人でゆきたいと願った夢の星、地球。
 其処へ二人で生まれ変わって、暗い内から夜明けを待って。


 当たり前の光景になってしまった、地球の朝。
 こんな風にパジャマ姿で見られる朝の風景、顔も洗わずに。
 誰が見ているわけでもないし、と寝室の窓を開けて覗いて、胸一杯に朝の空気を吸い込んで。
(前の俺だったら…)
 どうしただろうか、「地球の夜明けを見せてやろう」と言われたら。
 ブルーは気持ちよく眠っているけれど、早起きをして一人で見てみないかと誘われたなら。
(あいつが眠っていたとしたって…)
 見てみないかと誘いが来るなら、次の機会もあるのだろうし。
 ブルーと二人で眺めるチャンスも来るのだろうし、と下見の気分で眺めただろう。
 どんなものかと緊張しながら、「ブルーにも教えてやらなければ」と目を凝らして。


(顔を洗っていないなんぞは有り得んな)
 きっと約束の時間よりも早く起きて身支度、顔を洗って髪もきちんと撫で付けて。
 キャプテンの制服をカッチリ着込んで、背筋もピシッと伸ばしただろう。
 地球の夜明けに敬意を表して、もしかしたら敬礼したかもしれない。
 直立不動で見たかもしれない、昇って来る地球の太陽を。


 ところが今の自分ときたら。
 パジャマ姿で顔も洗わず、寝起きのままでカーテンを開けた。
 この時間の風は心地良いからと窓も開け放った、何の敬意も表さずに。
 いい天気だからと伸びをしただけで、誰が見ているわけでもないし、と隙だらけ。
 前の自分が地球の夜明けに向き合ったならば、一分の隙も無かったろうに。
 これが夜明けかと、ブルーに教えてやらなければと、真剣に見詰めていたのだろうに。
(…まったく、とんだ格好だよなあ…)
 酷いもんだ、と見回した身体。
 寝起きで皺が出来たパジャマに、スリッパさえ履いていない素足で。
 顔を洗っていないのだから、きっと髪だってクシャクシャだろう。
 好き勝手な方へと跳ねてしまって、寝癖までついて。


(昔は、朝日というのはだな…)
 SD体制が始まるよりも、遥かな昔の時代の地球。
 この辺りにあった小さな島国、日本では朝日は神聖なもの。
 朝一番に昇る太陽に頭を下げたり、拝んだ人さえあったという。
 普段はそこまでしなかったとしても、新しい年を迎える元日、その日の朝は。
 初日の出と呼ばれた元日の朝日、それに敬意を表する行事は長く続いていたというから。
(…まったくもって酷いもんだよなあ…)
 今の自分の、この格好。
 地球がどれほど有難いものか、地球の夜明けが如何に貴重か、誰よりも知っている筈なのに。
 遠い昔に白いシャングリラで辿り着いた死の星、それを目にした筈なのに。


 地球の朝日に失礼すぎるな、と思うけれども、これが日常。
 今日はたまたま気付いたけれども、「やっちまった」と苦笑したけれど、明日にはきっと。
(また忘れちまって、寝起きでパジャマだ)
 二階の窓など誰も見ない、と寝癖がついたクシャクシャの髪で、皺の寄ったパジャマで。
 顔も洗わずに「いい天気だな」と窓を開け放って、伸びをして。
 胸一杯に朝の空気を吸い込んだ後は、「さてと…」と朝食の段取りだろう。
 何を食べようか、トーストにするか田舎パンか、などと考えながら。
 地球の朝日を気にも留めずに、有難いとも思いもせずに。


(こうなっちまった原因は、だな…)
 窓の向こうが当たり前のように地球だからだな、と肩を竦めて朝日に詫びた。
 前はともかく、今の自分が目にする窓の向こうは地球。
 自分の家でも、ブルーの家でも、窓の向こうはいつでも地球。
 これでは慣れて当たり前だし、前の生の記憶が戻る前から見ていたのだし…。
(夢の風景だが、こうも見慣れてしまうとなあ…)
 申し訳ない、と朝日に詫びる。
 前の自分が地球で見上げた筈の太陽、その太陽は今も同じだから。
 同じ星だから、詫びておく。
 有難さを忘れちまってすまんと、窓の向こうは当たり前に地球になっちまったから、と…。

 

       窓の向こうは・了


※ハーレイ先生が朝一番に「いい天気だな」と眺める窓の外。当たり前の景色。
 けれども、キャプテン・ハーレイだった頃なら貴重品。それが普通になった幸せv





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「ねえ、ハーレイ。…ひょっとして、下手くそになっちゃった?」
 膝の上にチョコンと座ったブルーに、愛くるしい瞳で見詰められて。
 ハーレイは「はあ?」と首を傾げた。
「下手って…。何がだ?」
 そんなことを言われる覚えなど無い。
 「下手になった?」と訊かれそうなものの心当たりもない。
 今の自分の得意と言ったら柔道に水泳、そんな所で。
 どちらもブルーとは無縁の代物、腕前を知っているわけがない。
 下手になろうが上達しようが、判断がつくとも思えない。


 意味が不明なブルーの質問、愛らしい顔で見上げるブルー。
 桜色の唇が「えっとね…」と言葉を紡ぎ出して。
「もしかしたら、下手になっちゃったのかな、って…」
「だから、何がだ? 何が下手になると言うんだ、俺が」
 お前は何も知らない筈だが、と顔を顰めてしまったハーレイ。
 柔道も水泳も、俺の腕など知らないだろうが、と。
「うん、知らない。…それに見たって分からないしね」
 多分、と答えた小さなブルー。
 勝ったか負けたか、そのくらいしか分からないよ、と。


「だったら、何がどう下手になったと言いたいんだ、お前?」
 俺の授業は分かりにくいか、と軽く睨んだ。
 自信を持って教えているのに、少々自信が揺らぎそうだが、と。
「んーと…。ハーレイの授業は分かりやすいよ、教えるのは上手」
 他の先生よりずっと上手、と褒められて悪い気はしないけれども。
 そうなると、ますます分からない。
 自分は何が下手だと言うのか、ブルーは何に気が付いたのか。


 これはしっかり訊いておかねば、と赤い瞳を覗き込んで。
 小さな身体をヒョイと抱えて座り直させて、改めて訊いた。
「ハッキリ言ってくれないか、ブルー? 何が下手だと思うんだ?」
 俺は何が下手になっていそうなんだ。それを教えて欲しいんだが。
 そう尋ねたら、返った答え。
「キスだよ、下手になっちゃったんでしょ?」
 そのせいでキスをしないんでしょ、と得意げな瞳が煌めくから。
 赤い瞳が見上げてくるから、気が付いた。
 これは罠だと、自分を釣ろうとしているのだと。
 だから…。


「ああ、下手だとも!」
 下手に決まっているだろうが、とブルーの額を指で弾いた。
 子供相手にキスはしないし、下手に決まっているだろうがと。
 ついでに「下手だ」と言われたくもないし、キスは絶対しないからと。
 「俺のプライドの問題だしな?」と涼しい顔。
 お前に下手だと笑われるより、キスしないのが一番だしな、と…。



       下手くそになった? ・了





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(暑くなりそうなんだけど…)
 そんな感じのお日様だけど、とブルーが眺める窓の外。
 夏休みの朝、朝食を終えて、二階の自分の部屋の窓から。
 茂った庭の木々や芝生を照らす太陽、真夏の朝の明るい日射し。
 今の時間はさほど暑くはないけれど。
 木陰にいたなら涼しい風だって抜けてゆくのだし、まだ充分に爽やかな朝。
 もう少し経てば、そうも言ってはいられなくなってしまうけど。
 暑くて駄目だと、涼しい場所へと、家に駆け込むだろうけれども。


 生まれつき身体が弱いから。
 丈夫でないから、夏の眩い日射しは苦手。
 暑すぎる太陽も身体には毒で、出来るだけ日陰を選んでしまう。
 夏の太陽は肌だけでなくて、身体ごと焼いてしまうから。
 下手をしたなら暑くなりすぎて、身体を壊してしまうから。
 夏は草木を育てる季節で、背丈も伸びそうな気だってするのに。
 ぐんぐん伸びてゆく草や木のように、自分も大きくなれそうなのに。
 前の自分と同じ背丈になれる日を目指して、ぐんぐんと。
 夏の日射しを身体に浴びれば、健やかに伸びてゆけそうなのに。


 けれども無理だと分かっているから、夏の日射しも暑さも身体に悪いから。
 暑くなりそうな日は何かと苦手で、家に引っ込んでしまうのが自分。
 庭で一番大きな木の下、白いテーブルと椅子でハーレイとお茶を楽しむくらいで。
 それも暑さが酷くない日の午前中だけ、涼しい風が吹く間だけ。
 暑さが増したら「そろそろ中に入らんとな?」とハーレイが言うか、母がやって来るか。
 「暑いから中に入りなさい」と、「お茶は運んであげるから」と。


 そんな具合で、夏の暑さと仲がいいとはとても言えない。
 夏が大好きな子供は多いし、夏休みと言えば子供にとっては天国なのに。
 海で泳げて、プールで泳げて、太陽の下で駆け回れる季節。
 草木もへばってしまう暑い盛りはアイスクリームを買って食べたり、水に飛び込んだり。
 公園の噴水で水浴びしてしまう子供だって多い、涼しいからと。
 服を着たまま噴水を浴びて、濡れた服のままで遊び回って。
 「涼しいんだぜ!」と友達に教えられたけれど、自分には無理な服での水浴び。
 服が自然に乾くよりも前に、きっと気分が悪くなる。
 びっしょりと濡れた服を乾かしてくれる、真夏の暑い太陽のせいで。
 燦々と照り付ける暑い日射しで、それでクラリとしてしまって。


 生命力に溢れている夏、窓越しでも分かる命の輝き。
 木々の緑は力強いし、芝生の緑も他の季節よりもずっと鮮やか。
 日盛りの昼間は暑さのあまりに色褪せたようになってしまっても、夕方になれば元通り。
 暑すぎる太陽が傾いてゆけば、シャンと力を取り戻す。
 庭の木々も芝生も息を吹き返して、涼やかな風が吹いてゆく。
 夕方の風が、夜の涼しさの先触れの風が。


(お日様が沈んでる間は涼しいんだけどな…)
 星が瞬く夜は涼しい、窓を開けたら冷房が要らなくなるほどに。
 夏の夜空に輝く星たち、その煌めきから冷たい夜露が降り注ぐのかと思うくらいに。
 暑い太陽とはまるで違って清かな光の月や星たち、夜風も肌に心地良い。
 痛いほどの日射しが照り付け、身体ごと焼かれる昼と違って。
 眩しすぎる太陽が支配している昼間と違って。


 今日も朝から太陽の光は元気一杯、空には雲の欠片も見えない。
 急に湧き上がる入道雲くらいしか期待出来ない、あの太陽を遮るものは。
 ザッと夕立を降らせる雲でも湧かない限りは、暑くなる一方としか思えない昼間。
 夕方になって陽が陰るまで。
 元気すぎる真夏の暑い太陽が、西の空へと落ちてゆくまで。


 太陽が沈めば涼しい夜が来るけれど。
 身体に優しい夜になるけれど、それまではきっと暑そうな今日。
 そんな暑さを物ともしないで、ハーレイは歩いて来るだろうけれど。
 前の生から愛した恋人、褐色の肌の夏の太陽が似合う恋人。
(…ハーレイは暑いの、平気だもんね…)
 柔道と水泳が得意なハーレイ、水泳をやるなら夏が一番。
 部活で学校へ行って来た日はプールでひと泳ぎして来るという。
 自分は長くは入れないプール、そこで泳いで、それから歩いてこの家まで。


 なんとも元気すぎる恋人、夏の太陽と同じに元気な恋人。
 あんな風に暑さに馴染めたならと、仲良く出来たらと思うけれども、出来ない相談。
 弱すぎる身体に夏は酷な季節、夜くらいしか仲良くなれそうもない季節。
 庭で一番大きな木の下、それが作ってくれる日陰も長く続きはしないから。
 日陰にいたって風が暑くなって、家に入るしかなくなるから。


(あのお日様のせいなんだけど…)
 朝だというのに他の季節よりも高く昇っている太陽。
 其処から照り付ける眩しすぎる日射し、それがどんどん強くなる。
 昼間に向かって、日盛りに向かって、暑さは増してゆく一方で。
 雲が隠してくれない限りは、うだるような日になるのだろう。今日だって、きっと。
 凶悪とまでは言わないけれども、暴力的に暑い太陽のせいで。
 一年で一番元気な季節の太陽のせいで。


 もう少し和らいでくれないだろうかと、せめて陰ってくれないだろうかと見上げた太陽。
 朝だというのに他の季節より高く昇っている太陽。
 あれのせいだと、あのせいで夏は暑いんだからと眩しい光を睨んだ途端。
 目を細めつつもキッと睨んでやった途端に気が付いた。
(…本物の太陽…)
 あれが本物、と前の自分が心の何処かで飛び跳ねた。
 ずっと焦がれていた星なのだと、あの星を夢見て自分は生きたと。


 フィシスの記憶で見ていた地球。
 機械が与えた映像だけれど、それは充分、知っていたけれど。
 本物なのだと信じた映像、地球へ行くにはこういう風に旅をしてゆくのだと。
 銀河の海に浮かぶ母なる地球。青い水の星。
 其処への標がソル太陽系を照らす太陽、人間を生み出した地球の恒星。
 遠い昔には太陽は一つだけしか無かった、地球を照らしていた太陽しか。
 それ以外の星は全部恒星、太陽と呼ぶ者はいなかった。
 人が宇宙へと船出するまで、幾つもの星に根を下ろすまで。


 漆黒の宇宙に散らばる星たち、その中のたった一つの太陽。
 青い地球を連れて宇宙に浮かんだ、ソル太陽系の真ん中の星。
 それを幾度も夢に見ていた、其処へ向かって旅立ちたいと。
 青い地球まで辿り着こうと、本物の太陽を目指して飛ぼうと。


 けれど、叶わなかった夢。
 前の自分が命尽きた星に、赤いナスカに太陽は二つ。
 青い地球では有り得ない光景、本物の太陽は一つだけしか無いのだから。
 長く潜んだ雲海の星の太陽は一つだったけれども、地球とは違ったアルテメシア。
 輝いていた太陽はクリサリス星系の星で、本物の太陽などではなかった。
 ジョミーを救って力尽きた自分が深い眠りに就いていた間、仲間たちは地球を探したけれど。
 白いシャングリラで宇宙を旅したけれども、ソル太陽系は見付からなくて。
 そして自分は命を落とした、赤いナスカで。
 二つの太陽が存在していた、地球が見えもしないジルベスター星系の片隅で。


 それを思えば、なんという幸せなのだろう。
 本物の太陽が輝く地球に自分は生まれた。
 ハーレイと二人、生まれ変わって青い地球まで辿り着けた。
 前の自分が焦がれ続けて、行けずに終わってしまった地球へ。
 あの星を標に旅をしようと夢を見続けた、本物の太陽が輝く地球へ。
(…太陽がこんなに暑かったなんて…)
 夢にも思いはしなかった。
 肌を焼く真夏の太陽の日射しも、草木も項垂れてしまうほどの夏も。
 これほどに力強い星とは、太陽がこれほど眩いとは。


(…本物の太陽は元気一杯…)
 フィシスの映像とはまるで違う、と窓の外を見た、夏の太陽を。
 これからどんどん高く昇って、酷い暑さを運んで来そうな元気すぎる夏の太陽を。
 今の自分には夏の暑さは辛いけれども、身体にも良くはないのだけれど。
 これが本物の太陽だから。
 前の自分が夢に見続けた、青い地球を照らす太陽なのだから。
(暑いけれども、これが本物…)
 元気一杯の夏の太陽でも、元気すぎる暑さが辛くても。
 急に素敵な気持ちがして来た、なんと元気な星だろうかと。強い太陽なのだろうかと。


 この太陽が青い地球を育てて、人を生み出して、今も照らして。
 自分は其処に生まれて来たから、地球に来られたから、夏の暑さを知っている。
 今日もこれから暑くなりそうだと空を見上げる、少し陰ってくれればと。
(…なんて贅沢…)
 前の自分が憧れ続けた地球の太陽、それに陰って欲しいだなんて。
 雲でも湧いてくれればいいとか、夜の方が涼しくて好きだとか。
 今日くらいは少し我慢をしようか、暑いけれども、この太陽は本物だから。
 前の自分が夢に見続けた、本物の地球の太陽だから…。

 

        暑いけれども・了


※夏の暑さが苦手なブルー君。でも、その暑さが何処から来るのか気付いたら…。
 暑いけれども我慢してみようかと思ったようです、無理はしないでねv





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(今日も暑い日になりそうだな…)
 夜中は涼しかったんだがな、とハーレイが眺めた窓の外。
 夏休みの朝のまだ早い時間、朝日が射す庭は生命の輝きが溢れているけれど。
 芝生は元気一杯の緑、庭の木々も青い葉を茂らせて空を仰いでいるけれど。
 この輝きは朝の間だけ、爽やかな風が吹き抜けてゆく間だけ。
 もう少し経てば太陽の光が強くなるから、暑い日射しが照り付けるから。
 瑞々しい緑はうだってしまって失せる鮮やかさ、元気の良さ。
 夕方に陰って涼しくなるまで、人と同じでへばってしまう。
 暑すぎて駄目だと言わんばかりに、草木も疲れてしまうのが真夏。


 夏の暑さで疲れてしまうのは人だけではなくて、動物も同じ。
 涼しい朝には飼い主とはしゃいで散歩していたような犬でも、昼間はぐったり。
 ハアハアと舌を出して暑さを訴えているか、でなければ日陰に転がっているか。
 空をゆく鳥も暑い盛りは鳴かない気がする、朝夕は賑やかに囀っていても。
 しんと静まってしまいそうな夏の日盛り、出歩く人影も減る時間。
 心なしか車も減っているように思える時間。
 それほどに暑くなるのが真夏で、その原因は…。


(今の時間は、ただ眩しいってだけなんだがな?)
 庭の隅々まで明るく照らし出す夏の太陽、一年で一番、太陽が元気になる季節。
 強く眩しく輝く季節。
 夏の日射しは嫌いではない、夏生まれだからか、それとも水の季節だからか。
 子供の頃から親しんだ水泳、海や川で楽しく泳げる季節は夏だから。
 春や秋ではプールと違って泳げはしないし、冬ともなれば論外だから。
(まあ、冬は冬で…)
 寒中水泳なるものもあるし、水辺と全く無縁とまでは言えないけれど。
 冬の川や海で泳ごうという人もいるけれど、やはり最高の季節は夏。
 水の季節は夏だと思うし、暑い日射しがよく似合う季節。


 そんな具合で、夏の太陽も日射しも多分、好きな方。
 四季それぞれに良さがあるから、夏を贔屓はしないけれども。
 ただ、その太陽の元気の良さも少々困りものではある。
 朝の間はいいけれど。
 爽やかな朝だと、今日も快晴になりそうだ、と眺める間はいいのだけれど。
(…へばっちまうしなあ、庭の木とかが)
 水を下さいと言わんばかりに萎れてしまう葉だってある。
 太陽に炙られてもう限界だと、シャンと姿勢を保てはしないと。
 夕方になって陽が陰ったなら、また勢いを取り戻すけれど…。


(何日も雨が降らなかったりしたら、ヤツらも限界…)
 夏ならではの夕立が来れば、天の恵みで自然の水撒き。
 ザアッと空から降ってくる雨が地面を潤し、木々も潤す。
 気温も下がって暫くの間は暑さも一服、うだっていた草木も息を吹き返す。
 そうした雨が来ればいいけれど、来てくれなければ乾く一方。
 芝生はまだしも、木々の中には悲鳴を上げるものだってある。
 夏の間は分からなくても、秋になったら水不足だったと訴える木が。
 木の葉が色づく紅葉の季節に、葉がチリチリと縮んでしまって可哀相な木が。


 けれども昼間は出来ない水撒き、ブルーの家に行くからではない。
 家にいたってしてはならない、父に厳しく教えられた。
 自然に降る夕立は地面も空気も丸ごと冷やすから大丈夫だけども、水撒きは駄目だと。
 人の力で庭だけに水を撒いてやっても、一時しのぎにしかならないからと。
 却って草木が疲れてしまって、その後の暑さでダウンしてしまう。
 もっと水をと、これではまるで足りはしないと。
 つまりは人間と全く同じ。
 喉が乾いてたまらない時に一口しか水を貰えなかったら、余計に喉が乾くから。
 もっと飲みたいと、ゴクゴクと水を飲みたいのに、と。


 そうならないよう水撒きするなら、朝とんでもなく早い内。
 暗い内から水撒きを始めて、朝日が昇る頃までに終えてしまうというのが正しい方法。
 これなら草木は自然に水を吸い込めるから。
 夜の間に降りた夜露を吸うのと同じで、それをたっぷり貰えたようなものだから。
(…もう何日か降らないようなら…)
 そのコースだな、と考える。
 ブルーの家へと出掛けるよりも前、朝食を食べるよりも、まだ早い時間。
 水撒き用のホースを持ち出し、庭一面に景気よく。
 しっかり水を飲んでおいてくれと、これで暑さを乗り越えてくれと。


 毎朝やっても、特に問題ないけれど。
 むしろいいのかもしれないけれども、庭木は甘やかさない主義。
 農家の畑の野菜でもなし、せっせと手入れをしてやらずとも、と。
 夏は暑いし、それを自力で乗り切ってこそと思うから。
 自分の都合で庭に植えてある責任の分だけ、手をかけてやればと思うから。
 後は庭木の頑張り次第で、うだる夏にはそのように。
 寒い季節も、それに見合った生き方を。


 そうは思っても困りものの夏、太陽が元気すぎる夏。
 水撒きの手間は惜しまないけれど、出来れば自然に任せたい。
 せっかく庭に植えてあるのだし、家の中に置かれた鉢植えなどではないのだから。
 屋根も壁も無くて、太陽も雨も風も浴び放題、そういう場所にあるのだから。
(出来れば一雨…)
 夕立でもいいし、夜中に降ってくれてもいいし、と庭を眺めて。
 今日も暑そうだから、入道雲が湧いてくれないものか、と眩しい日射しの元を仰いで。


(そうか、太陽…!)
 本物だった、と気付いた太陽。庭を照らしている太陽。
 ごくごく見慣れた光景だけれど、太陽は空にあるものだけれど。
(前の俺だと…)
 無かったのだった、こういう地球の太陽は。
 白いシャングリラの何処を探しても、太陽にはお目にかかれなかった。
 あの船の中に太陽は無くて、アルテメシアの太陽でさえも船体を照らし出しただけ。
 雲海に潜んだ白いシャングリラ、それを昼間は白く見せただけ。
 船の中にまでは日射しは届かず、天窓を通して射し込んだくらい。
 ブリッジからも見えた公園、ああいった場所に。


 赤いナスカに降りた時には太陽が二つ。
 一つではなくて二つの太陽、しかもジルベスター星系の恒星。
 あの頃に太陽と言ったら恒星のことで、太陽という言葉の源になった星ではなくて。
(…地球の太陽なんぞは夢のまた夢…)
 いつかは其処へ、と夢を見た星、青い水の星を連れているのが母なる地球の太陽だった。
 ソル太陽系の中心となる星、それが太陽。
 太陽という言葉を生み出した元の恒星、人を生み出した地球の太陽。


 それは青い地球と同じで夢の彼方に浮かんでいた星、座標さえも掴めなかった星。
 いくら宇宙を捜し回っても、幾つもの星系を訪れてみても。
 どれも違った、ソル太陽系とは違った太陽。
 ナスカのように二つだったり、三連恒星だったものもあった。
 本物の太陽には出会えないままに宇宙を旅した、前のブルーを乗せていた船で。
 昏々と眠り続けるブルーを、ジョミーを救って力尽きてしまった前のブルーを乗せた船で。


 そうして太陽が二つあった星、赤いナスカでブルーは消えた。
 いなくなってしまった、メギドを沈めて。
 白いシャングリラから飛び立って行って、二度と戻りはしなかった。
 前のブルーの犠牲のお蔭で辿り着けたソル太陽系。
 太陽は其処にあったけれども、地球を照らしていたのだけども。
(…肝心の地球が無かったんだった…)
 死に絶えたままの赤い星しか。
 前のブルーが最後まで焦がれ続けた星は何処にも無かった、青い水の星は。


(そいつが今では揃ったってか…)
 元の通りに、と笑みが浮かんだ、本物の太陽と青い地球。
 其処に自分はまた辿り着いた、長く遥かな時を飛び越えて奇跡のように。
 生まれ変わったブルーと二人で、青い地球まで。
 本物の太陽が照らす地球まで、元気すぎる太陽が眩しい地球へ。
 夏の盛りにはうだってしまう草木、へばってしまう草木の緑が息づく星へ。
 青い空から命を育てる恵みの雨と、太陽の光が降り注ぐ星へ。


 それに気付けば、なんという幸せなのだろう。
 昼間がどんなに暑くなっても、数日の内には水撒きの手間がかかっても。
 青い地球があるから、太陽がそれを照らしているから、暑くなる夏。
 草木もへばってしまう夏がある、青い水の星と太陽がきちんと揃っているから。
(よし、少しくらい暑くなっても…)
 それも一興、と外を眺める、「たまには水撒きもいいもんだ」と。
 ブルーの家へと出掛けるよりも前、暗い内から水を撒く庭。
 愛おしい人と地球まで来られたからこそ、出来る贅沢、朝の水撒き。
 暑くなっても草木がへばってしまわないよう、「たっぷり飲めよ」と青い地球の水を…。

 

       暑くなっても・了


※夏の日射しも嫌いではないハーレイ先生、けれど庭木は暑さが苦手。
 暑さをもたらす原因が地球の太陽と気付けば、水撒きタイムも贅沢ですよねv





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