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(希望のを一つ…)
 何にしようかな、と小さなブルーが眺めたプリント。
 今日の授業で配られた宿題、ハーレイの古典の時間に貰った。
 「何でもいいから、希望のを一つ」という宿題。
 古典の教科書から一つ選んで、感想文を書いて出せばいい。
(ハーレイが読んでくれるんだよ)
 いつも出される宿題よりも、念入りに。
 どの生徒のも、心をこめて。
 作品の指定が無いというのは、そういうこと。
 流れ作業で読めはしなくて、評価するためにじっくり読む筈。
(頑張らなくちゃ…)
 短くても難解だと思うヤツを選ぶか、定番の作品をしっかり読むか。
 「こんな解釈も出来るのか」と、意外に思って貰えるのもいい。
 ハーレイの目を惹き付けたいなら、どういうのが効果的だろう?
 「これで来たか」とハッとさせるか、「あいつらしいな」と微笑まれるか。
 なんとも迷ってしまう所で、選ぶ前からワクワク出来る。
 どれにしようかと、何で感想を書こうかと。
(みんな、ブツブツ言ってたけれど…)
 いっそ俳句で書いてやろうか、と言った男子もいたけれど。
 自分にとっては、ハーレイにアピールするチャンス。
 授業をきちんと聞いていますと、こんなに真面目にやりましたと。
 普段の宿題や試験などでは出来ない評価。
 それをハーレイがしてくれるチャンス、頑張って自分を売り込まなくては。
 前の生から愛し続けるハーレイに。
 今は学校の教師でもある、好きでたまらないハーレイに。


 やっぱり恋のがいいだろうか、と思い浮かべた教科書の中身。
 恋の話も幾つもあるから、其処から一つ。
(ハッピーエンドのヤツがいいかな?)
 それとも悲恋がいいのだろうか、死んだ後にもきっと離れない恋人たち。
 まるで自分たちの恋のようだし、そういうチョイスもいいかもしれない。
 自分もハーレイも生まれ変わって、前の続きを生きているから。
 青く蘇った水の星の上で、恋の続きが始まったから。
(…そっちがいいかな…)
 悲恋のお話も幾つもあるし、と選ぶべき話を考える。
 どれがいいかと、ホントに迷う、と。
(希望のを一つ、っていうのがね…)
 嬉しいけれども悩んじゃうよね、と見詰めるプリント。
 クラスメイトたちが悲鳴を上げた宿題プリント、けれど自分には魅力の塊。
 何を選んでも、ハーレイが読んでくれるから。
 「あいつはこれを選んだのか」と、大きく頷くハーレイが見えるようだから。
 ハーレイが喜んでくれそうな作品がいいし、どうせならそれを選びたい。
 いったいどちらが好みなのだろうか、ハッピーエンドか悲恋なのか。
(前のぼくたちと重なっちゃったら、ハーレイ、泣くかな…)
 それも可哀相、と思うけれども、捨て難い悲恋。
 こんな悲しい恋もあるけど、今のぼくたちは幸せだよ、と思うから。
 前の自分たちの悲しすぎた恋。
 さよならのキスも出来ないままで、引き裂かれるように終わった恋。
 それの続きを生きているから、今は最高に幸せだから。
 悲恋に終わった恋の話も、結びの後はきっと幸せだろう。
 二人で何処かに生まれ変わって。
 もう離れない、と手を繋ぎ合って。


 きっと二人は幸せになったと思います、と感想を書いて出したなら。
 「こんな風に」と想像の翼を羽ばたかせたなら。
(…うんと印象深いかも…)
 あいつらしい、とハーレイが思ってくれそうな感じ。
 元の物語は締め括られても、恋する二人は鳥になって飛んでゆくだとか。
 それまで辺りにいなかった鳥が、つがいで仲良く住み着いたとか。
(白鳥が飛んで行くのもいいし…)
 見上げた人たちが、「何の鳥だろう?」と噂し合うような鳥でもいい。
 何処から来たのかと、まるであの二人が鳥になったようだ、と噂する鳥。
 そういう感想文を書くのもいいよね、と膨らむ夢。
 きっとハーレイなら分かってくれると、書いた自分の気持ちを、と。
 白鳥も、つがいで住み着いた鳥も、今の自分たちに重ねてあると。
 青い地球の上でまた巡り会えた自分たち。
 だから、この物語が好きなんです、と。
(ハーレイが読んで泣いちゃっても…)
 今は幸せな恋なのだった、と気付けば止まるだろう涙。
 それに、ハーレイが出した宿題。
 「何でもいいから、希望のを一つ」と。
 自分はそれに応えたわけだし、ハーレイも怒りはしない筈。
 「やられちまった」と思ったとしても、頭を掻いて苦笑い。
 「あいつのことを忘れていたな」と、読む話を絞るべきだったと。
 ズラズラとプリントに書いて並べて、「この中から一つ」と。
 同じ「希望のを一つ」にしたって、候補を絞ればいいのだから。
 悲恋の話を選べないように、最初からそれを外しておいて。
 「此処から一つ」と、好きな話を選ばせる。
 そうすれば悲恋は選べないから、ハーレイは泣かずに済む筈で…。


 好きに選ばせたハーレイのせいだ、と候補は悲恋。
 泣いて貰って、今の幸せを思って貰って、ハッピーエンド。
(それでいいよね?)
 希望のヤツを一つだもんね、と指先でチョンとつついたプリント。
 こう書いたのはハーレイだもの、と。
 「希望のを一つ」、そういう指定。
 だから希望のを選ぶわけだし、それでハーレイが泣く羽目になってもかまわない。
 ハーレイの宿題の出し方が問題、と「希望」の文字を眺めたけれど。
(…えっと…?)
 何を選ぶのも自分の自由、と思った根拠。
 プリントにハーレイが書いて来た「希望」、それが心にクイと引っ掛かった。
 自分は宿題用に何を読もうか、それを考えていたけれど。
(希望って…)
 よく聞く言葉で、よく使う言葉。
 昼休みに食堂へ行く時にだって、ランチ仲間に訊かれたりする。
 「先に行って席を取っておくけど、希望の場所は?」といった具合に。
 ランチの時にも、「今日は選べるみたいだぜ?」と、希望のメニューの種類とか。
 当たり前のように溢れる言葉で、何度も聞いた。
 自分も何度も口にして来たし、もちろん希望は幾つもある。
(卒業したら、ハーレイのお嫁さんになって…)
 うんと幸せに暮らすんだから、と夢を見るのも希望の一つ。
 将来の夢で、大きな希望。
 それがあるから、いつも幸せ。
 未来で希望が待っているから、いつか必ず手に入るから。
 他にも沢山、幾つもの希望。
 幸せ一杯の未来の夢には、希望が山ほど詰まっているから。


 あれもこれも、と幾つもの夢。
 希望に溢れた夢が未来で、きっと自分は手に入れられる。
 ハーレイと二人で地球に来たから、今度は結婚出来るのだから。
(前と違って、ホントに幸せ…)
 恋人同士だと明かしても良くて、何処へ行くにも繋いでゆける手。
 考えただけでも幸せな未来、自分は希望を手に入れるけれど。
(…前のぼくたち…)
 希望なんかは無かったっけ、と今頃になって気が付いた。
 自分もそうだし、宿題プリントに「希望」と書いたハーレイだって。
 白いシャングリラの仲間たちだって、希望を持ってはいなかった。
 正確に言うなら、持っていたけれど…。
(…希望には手が届かないんだよ…)
 どんなに懸命に手を伸ばしたって、欲しいと努力を積み重ねたって。
 そもそも、しようがなかった努力。
 シャングリラだけが、世界の全てだったから。
 人類に追われるミュウの箱舟、生きてゆくだけで精一杯。
 生きてゆける自由を手に入れただけでも、幸運だった自分たち。
 それよりも上は望めなかった。
 望んだところで、それが叶いはしなかった。
 どう頑張っても、マザー・システムはミュウを認めはしなかったから。
 人類のために作られた世界に、ミュウの居場所は無かったから。
 紛れ込んだなら、殺される。
 そういう世界で努力したって、追われる仲間を救い出せるだけ。
 シャングリラに迎え入れて終わりで、その先にはもう無かった希望。
 踏みしめる地面を手に入れることも、自由を謳歌することも。
 誰もが焦がれる青い水の星、地球まで辿り着くことも。


 だから無かった、と気付いた希望。
 希望を胸に抱いてはいても、それが叶いはしないから。
 けして叶わないだろう希望は、夢物語と何処も変わりはしないから。
 「こんな世界があったらいいな」と、夢見るお伽話の世界。
 努力したって掴み取れない、お伽話の中にある世界。
(ホントのホントに、ただの夢だけで…)
 あれは希望と言えなかった、と今だからこそ痛切に思う。
 前の自分は「いつか地球へ」と夢見たけれども、本当に夢。
 どうすれば地球へ辿り着けるか、それを知ってはいなかった。
 いつかは道が開けるのでは、と思っただけで。
 地球へ行くのだと夢を掲げて、その夢に縋り続けただけで。
(…ジョミーは地球まで行ってくれたけど…)
 そのジョミーでさえ、決意するまでに長くかかった。
 戦いの道を選び取るまで、地球に向かえはしなかった。
(ナスカに住もうとしたくらいだもの…)
 きっとジョミーも、地球へ行くという希望を掴んでいなかった。
 何度も掴み損ねては泣いて、ようやっと決意したのがナスカ崩壊の後。
 それまでは、白いシャングリラには…。
(希望、ホントに無かったんだよ…)
 ほんのささやかな、船の中でも持てる小さな希望くらいしか。
 将来はブリッジクルーになろうとか、いつか操舵士になりたいだとか。
 それを思えば、今の世界は…。
(宿題プリント…)
 今のハーレイが出した宿題、其処に「希望」と書かれた文字。
 希望が溢れた時代だからこそ、こんなプリントに「希望」の文字。
 今は誰でも、希望を掴み取れるから。
 それに向かって走りさえすれば、希望はしっかり両手で掴めるものなのだから…。

 

        希望のある今・了


※ハーレイ先生の宿題プリントで、夢を膨らませたブルー君。何で感想を書こうかと。
 けれど、プリントの「希望」の文字。前の自分が生きた世界と比べてビックリみたいですv





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(希望なあ…)
 ふうむ、とハーレイが目を落としたプリント。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 今日の授業で配ったプリント、幾つかのクラスで渡して来た。
 授業が無かったクラスの生徒は、明日以降に受け取るわけだけれども。
 早い話が宿題プリント、「感想文を出せ」というもの。
 教えている古典の教科書の中の、古文の作品。
 どれでもいいから一つ選べと、そして感想を書いて来いと。
(読解力ってヤツが大切なんだ)
 文章だけなら、誰だって読める。
 授業を真面目に聞いていさえすれば、音読は出来て当たり前。
 けれども、其処に落とし穴。
 音読が出来て、文法的なことが分かっていたって…。
(肝心の作品ってヤツが、分かってないのがいるからな)
 書いた作者の心情だとか。
 作者不明の作品にしても、其処にこめられたメッセージ。
 教訓だったり、今の時代も共感できる内容だったり、それは様々。
 其処まで読めて一人前。
 やっと古典の世界が分かるし、「他にも読もう」という気にもなる。
 それを分かって欲しいものだから、感想文の宿題を出した。
 一つ選んで感想を、と。
 短くてもいいから、自分の気持ちを書いて来いと。


 この作品で、と指定しなかったのは、面白みを知って欲しいから。
 教科書に名前が挙がっているなら、本文は其処に無くてもいい。
 手持ちの本を読んだっていいし、図書室でもいい。
 生徒が興味を持てる作品、それが一番だと思うから。
(好き嫌いってヤツは、あるものなんだ)
 今の時代の小説などでも分かれる好み。
 推理小説が好きだと言っても、誰のでもというわけにはいかない。
 この作者のなら大好きだけれど、他のはちょっと、といった具合に。
(まして古典となったらなあ?)
 好きな時代やら、書かれた内容。
 もう本当に好みが分かれる、そういう世界。
 だから「希望の作品を一つ」、プリントにそう書いておいた。
 好きに選べと、短い作品でも長い作品でもかまわない、と。
(そうは書いたんだが…)
 コーヒーを飲みながら、ふと見たプリント。
 明日も配るから、生徒の悲鳴が聞こえそうだな、と軽い気持ちで。
 「宿題ですか!?」と慌てる生徒や、「中止でいいです!」と叫びそうな生徒。
 宿題を出されて喜ぶ生徒は、まずいない。
(今日のクラスには一人だけいたが…)
 あいつの場合は事情が異なる、と思い浮かべた小さな恋人。
 前の生から愛したブルーは、ウキウキとプリントを手にしていたから。
 もう見るからに嬉しそうな顔で、他の生徒とは大違い。
(俺に読んで貰える、と喜びやがって…)
 通り一遍の宿題ではなくて、感想文。
 それも希望の作品を一つ、評価する方も型通りではないのだと分かる。
 一枚一枚、きちんと読んでゆくのだろうと。
 書き込む評価も、中身に応じて変わるだろうと。


 たった一人だけ、宿題を喜んでいたブルー。
 明日以降に配ってゆくクラスにも、喜ぶ生徒はいない筈。
 あいつだけだ、と思った途端に気が付いたこと。
 それが「希望」という言葉。
(軽い気持ちで、「希望」とだな…)
 書き込んだのだった、プリントを作った時の自分は。
 「好みの作品を一つ選べ」では、軽すぎるだろうと考えたから。
 宿題嫌いで悪知恵が働く生徒あたりが、「好みなんです」と選びそうなモノ。
(古典には違いなくてもだ…)
 和歌や俳句といった作品、それも「作品」とは言える。
 長くて三十一文字なモノを選ばれたのでは、たまらない。
 読解力は問えるけれども、あまりに短すぎるから。
(短くても、せめて文章と言えるヤツをだな…)
 選ばなくては、と思わせたいから、「希望」と書いた。
 もしも短歌を選んで来たなら、「お前の希望は、この程度か?」と睨んでやれる。
 ずいぶん小さな希望なんだなと、希望ってヤツはデカイもんだが、と。
 皮肉の一つも言ってやれるから、「好み」ではなくて「希望」の文字。
 好みよりかは、ずっと大きいのが希望だから。
 希望はそういう言葉だから。
(其処までは分かっちゃいたんだが…)
 分かっていたから「希望」なんだが、と眺めるプリント。
 しかし今ではこうなるのかと、宿題プリントに「希望」の文字かと。
 思い付いたから書いたけれども、「好み」よりいいと思ったけれど。
 今は「希望」が宿題らしいと。
 一冊選んで、感想文を書いて出すのが「希望」の世界、と。


 宿題プリントを見ていたブルー。
 今は自分の教え子だけれど、遠い昔はソルジャー・ブルー。
 遠く遥かな時の彼方で、ミュウの長として生きていた。
 前の自分はキャプテン・ハーレイ、ブルーと二人で船を守った。
 箱舟だったシャングリラ。
 人類に追われるミュウたちを乗せて、たった一隻で飛んでいた船。
(あそこじゃ、希望というヤツは…)
 とても大きくて、大きいどころか手が届かないもの。
 人類に追われ続ける身では。
 明日をも知れない船の中では、手など届きはしなかった。
 これを希望、と口にしたって、大抵は無駄。
 あの船で叶った希望というのは、もう本当にささやかなもの。
(せいぜい、食事のメニューってトコで…)
 これが食べたい、とその場で言っても通る程度の。
 厨房の者たちに余裕がある日に、「目玉焼きより、スクランブルエッグ」と頼める程度。
 それくらいしか通りはしなくて、同じ食事でも「シチューを希望」は通らない。
 メニューはきちんと決まっているから、個人の希望で変えられはしない。
(もっと大きな希望となると…)
 船で担当する仕事。
 ブリッジがいいとか、機関部だとか。
 責任の重い仕事は無理だ、と思うのだったら掃除係とか。
(あれは一応、進路ってヤツで…)
 大きな希望と言えただろう。
 必要だったら適性検査で、合格必須のものもあったから。
 今日から念願のブリッジクルー、と張り切った者も多かった。
 けれど、手の届く希望はそこまで。
 シャングリラにあった希望はそこまで、その先はもう…。


 無かったっけな、と指でなぞったプリントの文字。
 今は気軽に「希望」と書いてしまえるけれども、前の自分は違ったんだ、と。
 前のブルーが、前の自分が、皆に与えられた「希望」は、本当に配属先くらい。
 その程度ならば叶えてやれたし、後から変更することも出来た。
 「自分には向いていないようです」と言われたならば、他を探して。
 それが限界、シャングリラでは。
 手が届くような希望はそこまで、もうその先には無かった希望。
(…みんな、持ってはいたんだが…)
 同時に、それを諦めてもいた。
 どうせ無理だと、手に入らないと。
 ミュウが人類に追われる間は、けして自分の手は届かないと。
(いつか自由の身になるってヤツで…)
 箱舟から降りて、地面の上で生きること。
 もう人類には追われないこと。
 そういう世界を手に入れるために地球に行くこと、地球を見ること。
 どれも簡単に叶いはしないと、希望と言っても夢物語。
(夢と夢物語は違って…)
 夢なら、いつか叶いもする。
 希望と同じに手が届く日も来そうだけれども、夢物語は絵空事。
 お伽話のような世界で、ただ夢に見るということだけ。
 そういう世界があればいいなと、何処かにあれば素敵なのに、と。
(前の俺たちが持ってた希望は…)
 叶うことのない夢物語。
 誰もが諦め、夢を描いていたに過ぎない。
 どんなに望んでも、それは無理だと。
 そういう時代が長く続いて、ジョミーを迎えた後も続いた。
 前のブルーがいなくなるまで。
 ナスカを失くして、ジョミーが戦う道を選ぶまで。


(前のあいつが生きてた頃は…)
 元気だった頃には、シャングリラには無かった希望。
 それはあまりに大きすぎたから、手など届きはしなかったから。
 希望したって、せいぜい卵の調理方法、大きな希望が叶う時なら配属先。
 本当に希望と呼べそうなものは、夢物語で絵空事。
 だから無かった、希望などは。
 「希望は大きいものだしな?」などと、考えたりはしなかった。
 大きな希望は叶わないから、持っていたって夢見るだけ。
 今の時代なら、希望は叶うものなのに。
 それに向かって努力したなら、いつか手が届くものなのに。
(…まるで世界が変わっちまった…)
 宿題プリントに書いちまったぞ、と見詰める二文字。
 前の自分なら、軽い気持ちでそれを記せはしなかったのに。
 まして「希望は大きいものだ」と、仲間たちに言えはしなかったのに。
 「希望を大きく持っていろ」と檄を飛ばしても、希望に手など届かないから。
 却って士気が下がるだけだし、とても口には出来なかった言葉。
(そいつが、今では宿題プリント…)
 なんてこった、と苦笑するしかない時代。
 誰もが希望を持てる時代は、希望は必ず手に入るから。
 希望を大きく持てば持つほど、素晴らしい未来を掴み取れるのが今なのだから…。

 

        希望がある今・了


※ハーレイ先生が軽い気持ちで、「希望」と書いた宿題プリントですけれど。
 希望があっても手に入らなかったのがシャングリラ。世界は大きく変わりましたよねv





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(ホントに入っていたなんて…)
 ちょっとビックリ、と小さなブルーが瞬かせた瞳。
 ハーレイと二人で過ごした日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 昨日のハーレイの落とし物。
 「またな」と帰って行った後で床に見付けた、瑠璃色のペン。
 今のハーレイの愛用のペンで、教師になって直ぐに買ったと聞いた。
 ペンの瑠璃色が気に入って。
(あれって、星空みたいだもんね)
 人工のラピスラズリで出来たペン。
 瑠璃色の地には、金色の小さな粒が幾つも。
 鏤められた金色は不揃いなもので、大きさも形も実に様々。
 並び方だって不規則だから、本当に本物の星空のよう。
 そうでなければ、宇宙に散らばる幾つもの星。
 宇宙の色は、瑠璃色ではなくて漆黒だけれど。
 星たちも瞬きはしないけれども、星空と宇宙は兄弟のよう。
 夜空に輝く星の向こうは、宇宙だから。
 薄い大気の層を抜けたら、星たちはもう瞬かないから。
(ハーレイも、宇宙みたいだからって…)
 あの瑠璃色のペンが気に入った。
 いつも持ち歩くペンなのだけれど、昨日、うっかり落として行った。
 それを見付けて、心が躍った。
 「ハーレイのペンだ」と。
 前の生から愛した恋人、今も変わらず愛おしい人。
 子供の自分は連れて帰って貰えないけれど、それでガッカリしていたけれど。
 まるでハーレイの代わりみたいに、愛用のペンが落っこちていた。
 今夜は一緒、と拾い上げたペン。このペンが一緒にいてくれるよ、と。


 ドキドキしながら手に取ったペンは、チビの自分の手には重くて。
 持ち主の手の大きさを示しているようで、もう嬉しくて。
 しげしげと眺めて、其処に探した星座の模様。
 金色の粒が、馴染んだ配置になっていないかと。
(地球の星座とか、アルテメシアとか…)
 今の自分が仰ぐ星座や、前の自分が見ていた星座。
 それが無いかと、子細に調べた。
 もしもあるなら、ハーレイがとうに話していそうな気もしたけれど。
(でも、念のため、って思うよね?)
 せっかくこうして手に取れたのだし、じっくり見ようと。
 ハーレイが気付いていないだけかもと、隅から隅まで探したのに。
(星座、一つも無かったから…)
 やはり無いのか、と残念な気持ち。
 けれども、それもほんの一瞬。
 ハーレイのペンを持っているのだから、こういう時しか出来ないこと。
 どんな書き心地か試してみたくて、早速、紙に向かってみた。
 きっとスラスラ書けるんだよ、と。
 ところが、難しかったペン。
 初めて使った万年筆は、意外に先が引っ掛かるもの。
 普通のペンのようにはいかない、書こうとしても。
(百聞は一見に如かずって言うの?)
 それとも、もっと適切な言葉があるのだろうか。
 ハーレイが使っているのを見ていた時には、如何にも書きやすそうだったのに。
 だから自分も、と意気込んだのに、手ごわかったのが万年筆。
 チビに書かせてたまるものか、と言わんばかりに。
 小さな手にはまだまだ早いと、これは大人のペンなのだから、と。


 万年筆を持つには早すぎたけれど、ハーレイがいつも使っているペン。
 「ブルー」と綴ったことがあるのか、一度も書かないままなのか。
 書いていない、という気がしたから、「ブルー」と自分の名前を書いた。
 「これがぼくの名前」と、「覚えておいて」と。
 いつかハーレイと結婚したなら、このペンも一緒に暮らすのだから。
 ハーレイの側にはこれがあるから、覚えておいて貰おうと。
 それが済んだら、持ってベッドに入りたくなった。
 いつもハーレイと一緒のペンだし、側にいたいよ、と。
(だけど、壊したら大変だから…)
 そうっと枕の下に忍ばせた瑠璃色のペン。
 此処にあったら、ハーレイの夢が見られるかも、と。
 けれど、ハーレイの夢は来なくて、気付いたら朝になっていて。
 残念だけれど、ペンはハーレイに返すしかない。
 きっと捜しているのだろうし、このまま持ってはいられないから。
 案の定、「俺は落とし物をしていなかったか?」と言って訪ねて来たハーレイ。
 瑠璃色のペンを「はい」と渡したら、喜ばれたけれど。
(ぼくの思念、読まれてしまいそうで…)
 ペンに残った残留思念。
 それを読まれたら、ハーレイに全て分かってしまう。
 星座探しは平気だけれども、ペンを使ってみたことだって平気だけれど。
(ブルーって書いて…)
 覚えておいて、と語り掛けた上に、一緒に眠っていた自分。
 枕の下に入れた瑠璃色のペン。
 ハーレイの夢が見られないかと、弾んだ心で眠ったこと。
 全部バレちゃう、と慌てた自分。
 それはあまりに恥ずかしすぎると、ハーレイの気を逸らさなければ、と。


 どうしようか、と焦っていたら、ポンと浮かんだ星座のこと。
 これに限る、とハーレイに向かって切り出した。
 「そのペン、ホントに星空みたいだけれども、星座は一つも無いんだね」と。
 本当に思ったことだから。
 ちゃんと星座を探したのだから、嘘とは違って本当のこと。
 ハーレイは「なんだ、探したのか?」と話に乗って来たから、しめたもの。
 残留思念を読まれないためには、星座の話を続けなければ。
 だから、せっせと星座の話。
 「地球やアルテメシアの星座は無いけど、他の星はあるかもしれないね」と。
 前の自分が知らない星座。…見ていない星座。
 長い眠りに就いていた間に旅をした宇宙や、前の自分がいなくなった後。
 ハーレイは星たちを見ただろうから、そういった星は無いのか、と。
 「ふむ…」とペンに視線を落としたハーレイ。
 どうだろうな、と探しているから、もう安全だと思ったら。
 「おっ…!」とハーレイが上げた声。
 「此処を見てみろ」と、褐色の指がつついた瑠璃色のペン。
 不規則に並んだ七つの金色。
 瑠璃色の地に、ポツリポツリと散っている点。
 ハーレイの目が懐かしそうに細められていて、遠く遥かな時の彼方を見ている瞳。
 そして呟いた、「ナスカでこいつを見ていたな」と。
 いつの星だったかと、ハーレイが遡ってゆく記憶。
 今はもう無い、赤い星。
 その星の夜空を思い浮かべて、遠い記憶を辿っていって。
 「種まきをする季節の星だ」と、ハーレイの記憶が戻って来た。
 ナスカの春に昇った星だと、こういう七つの星があったと。
 特に名前もつけなかったが、と。


 まさか本当にあっただなんて、と驚いた星座。
 今のハーレイが愛用している瑠璃色のペンに、ナスカの星座。
 赤いナスカは、とうに無いのに。
 それよりも前に、ハーレイは気付いていなかったのに。
 瑠璃色のペンに鏤められた、小さな七つの金色の粒。
 幾つも散らばる粒の中の七つが、赤いナスカの星座だなんて。
(あれを買ったのは、ずうっと昔で…)
 ハーレイは知りもしなかった。
 ナスカからどんな星が見えたか、自分がそれを見たことさえも。
 前のハーレイの記憶は戻っていなかったから。
 記憶が無いなら、それだと分かる筈もないから。
(ペンがハーレイを選んだんだ、って…)
 そう思ったから、ハーレイにそれを伝えたけれど。
 ハーレイが言うには、ペンは「選んで買った」もの。
 同じペンを何本も出して貰って、試し書きなどをしてみた後で。
 一番しっくりくるのを買ったと、それを愛用しているのだと。
(ハーレイが選んだペンらしいけど…)
 でも違うよね、という気がする。
 ハーレイが書き心地を試す間に、ペンの方も語り掛けたのだろう。
 まだハーレイが思い出してもいなかった星が、自分の上にあるからと。
 この七粒の金色がそうだと、だから自分を選んでくれと。
 そうやってペンが呼び掛けていたから、ハーレイはナスカの星を選んだ。
 このペンがいいと、手に馴染むからと。
 まるで運命の出会いだったように、その一本を買って帰った。
 「これにします」と差し出して。
 包んで貰って、ハーレイの家へ。


 きっとそうだよ、と考えずにはいられない不思議。
 ハーレイのペンにナスカの星座があったこと。
(あの星、ぼくは知らなかった…)
 どんな星だったの、とハーレイの記憶を見せて貰った七つの星。
 ナスカの春に、種まきの季節に昇った星座。
 誰も名前をつけなかったけれど、愛されていたからハーレイも覚えていたのだろう。
 あの星が昇れば種まきの季節の始まりなのだ、と。
(前のぼくは眠っていたけれど…)
 ナスカには一度も降りはしなくて、種まきの季節の星も知らないままだったけれど。
 それをハーレイが教えてくれた。
 前の自分が守ろうとした星、メギドの炎に砕かれた星の夜空にあった星座を。
 「これだ」と遠い昔の記憶を。
 今のハーレイのペンに隠れていた星座の姿を。
(凄く不思議だけど、きっと他にも…)
 運命だとしか思えないことがあるのだろう。
 今の自分と、今のハーレイとが巡り会えたように。
 沢山の不思議が、運命が、奇跡が、きっとこれから先も幾つも。
 ハーレイのペンにはナスカの星座があるのだから。
 記憶が戻るよりもずっと前から、ハーレイは七つの星と一緒にいたのだから…。

 

        ペンにある星座・了


※ブルー君が言い出したことから、発見されたハーレイ先生のペンにある星座。
 まさか本当にあったなんて、と驚くブルー君ですけど、運命ってそういうものですよねv





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(ふうむ…)
 不思議なことがあるもんだな、とハーレイの唇から漏れた呟き。
 ブルーの家へと出掛けて来た日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップに淹れたコーヒー、それは普段と変わらないけれど。
 机の上にコロンと置いてあるペン。
 白い羽根ペンとは違うペン。
(こいつとは長い付き合いなんだが…)
 教師になった時からだしな、と瑠璃色のペンを手に取った。
 ずいぶんと手に馴染んだ品だし、失くしたことに気付いた時には青ざめたけれど。
(あいつが持っててくれたんだ…)
 小さなブルーの部屋に落としていたらしい自分。
 ブルーと過ごす時間に夢中で、落としたことにも気付かなかった。
 そのまま家まで帰ってしまって、手帳を出す時にようやく気付いた。
 何処かに落として来たことに。
 慌てて玄関まで戻ったけれども、無かったペン。
 此処を歩いた、と庭に出てみて、門扉の所まで辿ってみても。
(失くしちまった、とガックリしたが…)
 今日もブルーの家まで歩く途中に、あちこち見ながら歩いたほど。
 「落とし物です」と書き添えて、何処かの垣根に結び付けられていないかと。
 あるいは小さな籠やケースに入って、「落とし物」の文字。
 今の時代は、落ちていた物を失敬する人間はいないから。
 持ち主の所へ戻るようにと、気を配ってくれる時代だから。
(しかしだな…)
 それはあくまで、落とし物が発見された時。
 見付からない場所に落としたならば、誰も拾ってくれはしないし、気付きもしない。
 溝蓋の下とか、そういった場所。


 落とし物のペンが見付からないか、と捜しながら歩いて行った道。
 けれど何処にも「落とし物です」とは書かれていなくて、無かったペン。
 誰かが拾って届けただろうか、落とし物を扱う所へと。
 そっちだったら、問い合わせれば直ぐに分かるけれども…。
(誰も気付かない所だと…)
 駄目だろうな、と覚悟を決めた。
 見付からなくても仕方ないのだと、あのペンとの御縁はこれまでらしい、と。
 長く愛用して来たとはいえ、別れの時も来るだろう。
 それに、両親に何度も聞かされたこと。
(何かを失くしちまう時には…)
 消えた品物が、災難を持ち去ってくれるのだという。
 持ち主の代わりに、お守りのように。
 転んで怪我をしそうな所を、その怪我と一緒に何処かへ消えて。
 幼い頃から何度も聞いた。
 大切な物を失くしてしまって、見付からないと捜し回っていたら。
 諦め切れずに暗くなっても捜していたとか、そういう時に。
(所詮は子供の宝物だし…)
 今から思えば、ガラクタ同然。
 いいな、と思って拾った石とか、気に入りのガラス玉だとか。
 けれども、今の自分なら分かる。
(何かを失くしちまった時には、災難も一緒に…)
 持って行ってくれるという両親の言葉。
 前の自分は、前のブルーを失くしたから。
 失くしたブルーは、白い鯨の、ミュウの災難を一緒に持って行ったから。


 仕方ないな、と半ば諦めたペン。
 ブルーの家に無かったならば、帰ってから問い合わせてみるけれど。
(届いてません、と言われちまったら、お別れだな)
 あのペンはきっと、災難を持って何処かへ消えて行ったのだから。
 怪我か、それとも他の何かか。
 「ありがとう」とペンを労うべきだろう。
 長い間、お前の世話になったと。
 最後まで世話になってしまったから、後はゆっくり休んでくれと。
(前のあいつも、ゆっくり休めたならいいが…)
 ミュウの災難を持ち去った後。…メギドで逝ってしまった後。
 右手が凍えたことも忘れて、休んでくれていたならいいが、と。
 どうだったのかは、まるで知りようが無いけれど。
 小さなブルーは覚えていないし、今の自分も覚えていない。
 前の生を終えた後には、何処にいたのか。
 青く蘇った地球に来るまでは、何処で過ごしていたのかさえも。
(…あいつが幸せにしていたんなら、いいんだがな…)
 そういったことを考えながら鳴らしたチャイム。
 多分、この家にも瑠璃色のペンは無いのだろう、と。
 災難と一緒に消えてしまって、きっと戻っては来ないだろうな、と。
 なのに…。


 瑠璃色のペンは、小さなブルーが持っていた。
 「これ」とペン立てから取って来てくれた。
 ブルーの部屋に落としていたのか、と再会を喜んだ愛用のペン。
 それを手にしたら、ふわりと感じたブルーの心。
 ペンに残った残留思念。
(あいつ、大事にしてくれてたんだ…)
 持ち主が誰か知っているから、それは大切に。
 ペンが話してくれるかのよう。
 「この家でとても幸せでしたよ」と、「大事にして貰っていたんです」と。
 もう充分だ、と読みはしなかった残留思念。
 ブルーがペンとどう過ごしたのか、どう扱っていたのかは。
(読むのはマナー違反でもあるしな?)
 ブルーの心を感じられただけで満足だ、と思っていたら、言われたこと。
 「そのペン、星座は一つも無いんだね」と。
 唐突な質問だったけれども、直ぐに分かった。
 瑠璃色のペンは、ただの瑠璃色とは違うから。
 金色の粒が鏤められたペンだから。
(…宇宙みたいなペンなんだよなあ…)
 これは、とチョンとつついてみたペン。
 瑠璃色の元は、人工のラピスラズリという石。
 その特徴は、宇宙や夜空を思わせる姿。
 瑠璃色の地に散らばる金色、本当に小さな金色の粒。
 それが星空のように見えるものだから、一目惚れして買ったペン。
 宇宙のようだ、と惹かれたから。
 このペンがいい、と惹き付けられたから。


 同じペンを何本も出して貰って、試し書きをして。
 どれがいいかと何度も比べて、「これにしよう」と選んだ一本。
 手にしっくりと馴染むのがいいと、自分にピッタリのペンに違いないと。
(買って帰って、じっと見ていて…)
 自分も探したのだった。
 金色の粒は夜空の星のようだから、何処かに馴染みの星座は無いかと。
 混じっていたなら面白いのにと、ペンの隅から隅までを。
(しかし、一つも無くてだな…)
 そうそう上手くはいかないものか、と苦笑いしたのを覚えている。
 どのペンも違っていた筈の模様。
 瑠璃色の地に鏤められた金の粒の数、それがある場所も。
 選ばなかったペンの中には、星座つきのもあったかもしれない。
 「此処を見てくれ」と自慢したくなるような、誰にでも分かる星座入り。
 オリオン座だとか、白鳥だとか。
(少し残念には思ったんだが…)
 自分が選んだ一本なのだし、星座は無くても似合いの一本。
 こいつが俺の相棒なんだ、と大切にして来た万年筆。
 小さなブルーも同じに星座を探したのか、と嬉しい気持ちになった瞬間。
 そうしたら…。
 「他の星はあるかもしれないね」と言い出したブルー。
 地球の星座や、前の自分たちが長く暮らしたアルテメシア。
 そういう馴染みの星座は無くても、他の星のが、と。
 前のブルーが長い眠りに就いていた間や、いなくなった後の長い長い旅路。
 その間に見た星があるかもと、星座が隠れていないかと。


(…それは思いもしなかったしな?)
 どうだろうか、とブルーの前で見詰めた瑠璃色。其処に輝く金色の粒。
 ピンと来る模様がありはしないか、と探し始めたら…。
(隠れていたと来たもんだ…)
 前の自分が見上げた星座。
 赤いナスカで仰いでいたから、前のブルーは見ていない星座。
 種まきの季節に、夜空に昇った七つの星たち。
 ペンの中にそれが見付かった。
 今日まで、知りもしなかったのに。…それを探しさえしなかったのに。
(不思議なことがあるもんだよなあ…)
 愛用のペンに、ナスカの星座。前の自分が見ていた星たち。
 小さなブルーに教えてやって、記憶の中の夜空も見せた。
 「これが種まきの季節の星だ」と、「特に名前もつけなかったが」と。
 それを眺めたブルーが言うには、「このペンがハーレイの所に来たかったのかもね」。
 ナスカの星座を宿したペンだし、それを見ていた人の所へ、と。
(俺は選んだつもりだったが…)
 選ばれたのだろうか、このペンに宿るナスカの星に。
 連れて帰ってくれと頼まれたろうか、前の自分の記憶は戻っていなかったのに。
(そういったことも、あるのかもなあ…)
 失くした物が災難を持ってゆくと言うなら、物とは縁があるのだから。
 自分の持ち物に選んだ時から、縁が生まれるものだから。
(こいつも、俺の所に来たのか…)
 いつかブルーと巡り会った時には、きっとお役に立てますから、と。
 ナスカの星座を、見られなかった人に教えてあげて下さいと。
(うん、お前さんは俺の役に立ったぞ)
 ブルーに教えてやれたからな、と撫でてやったペン。
 これからも俺をよろしく頼むと、二度と落としはしないからな、と…。

 

       ペンの中の星座・了

※ハーレイ先生の愛用のペンに隠れていた星座。それもナスカで見ていた星たち。
 不思議なことがあるものですけど、こういうのを御縁と言うんですよねv





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(今日もチビ扱い…)
 ハーレイはホントに酷いんだから、と小さなブルーが零した溜息。
 そのハーレイと過ごした土曜日の夜に、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼく、ハーレイの恋人なのに…)
 どうしてキスも貰えないんだろう、と悲しい気持ち。
 前の生から愛し続けた、大好きでたまらないハーレイ。
 けれども、一度も貰えないキス。
 唇へのキスは貰えないまま、どんなに強請っても駄目なまま。
 今日も「キスして」と囁いたのに、キスの代わりにコツンと拳。
 頭を軽く小突かれた。
 「お前、まだまだチビだろうが」と、「俺は子供にキスはしないと言ったよな?」と。
 ホントに酷い、と思う恋人。キスもくれないケチなハーレイ。
 貰えるキスは頬と額だけ、唇にキスはしてくれない。
 「俺のブルーだ」と言ってくれても、恋人扱いして貰えない。
 今の自分はチビだから。
 十四歳にしかならない子供で、ハーレイよりもずっと年下。
 おまけにハーレイは学校の教師、チビの自分は教え子だから。
(…どう転んだって、ハーレイが上…)
 ぼくより立場が強いんだもの、と悔しくてたまならいけれど。
 逆転のチャンスは無いだろうかと思うけれども、あるわけがない。
 この地球の上に生まれて来た時、ハーレイが先に生まれていたから。
 一足どころか何年も先に、ちゃっかりと着いて育ったから。
(いくら頑張っても…)
 追い越せないよ、と溜息しか出ないハーレイの年。
 いつまで経っても自分はチビで、ハーレイの方が年上のまま。
 いつか大きく育っても。前の自分とそっくり同じになれたとしても。


 ハーレイの方が上なんだよね、と零れる溜息。
 前の自分なら、ハーレイよりも上だったのに。
 「チビ」と頭を小突かれたりはしなかったのに、と情けない気分。
 どうして今は子供なのかと、チビに生まれてしまったろうかと。
(前のぼくだって、最初の間は…)
 今の自分と同じにチビ。
 ハーレイもチビだと思い込んだほど、姿も中身もチビだった。
 けれども、本当は最初に発見されたミュウ。
 船の誰よりも年上だったし、ハーレイよりも遥かに年上。
 そして大きく育った後には、皆を導く立場のソルジャー。
 こうと決めたら、ハーレイを説き伏せることだって。
 それなのに今は上手く行かない、見掛け通りにチビだから。
 どう頑張ってもチビの自分は、ハーレイに勝てはしないから。
(きっと、大きくなったって…)
 ハーレイは今と変わらないまま、余裕たっぷりなのだろう。
 無理難題を吹っ掛けてみても、鼻で笑っているのだろう。
 「それで、お前はどうしたいんだ?」と。
 大きくなってもチビはチビだと、もっとしっかり考えてみろと。
 頭だってきっと、今と同じに小突かれる。
 褐色の手でコツンと、痛くないように。
 「痛いよ!」と叫んで抗議したって、「そうだったか?」と笑われるだけ。
 力を入れたつもりは無いがと、軽く触っただけなんだが、と。
 それでも痛いなら重傷なのだし、今日は大人しく寝てたらどうだ、と。
 とても勝てそうにないハーレイ。
 大きくなっても、前の自分と同じ姿に育っても。


 まるで勝てない、と考えるほどに悔しい気分。
 ハーレイの方が先に生まれて、自分よりもずっと年上だから。
 前の自分だった頃のようにはいかないから。
(今もそうだけど、これから先も…)
 負けっ放し、と肩を落とした。
 ハーレイときたら、今の自分の父と変わらない年だから。
 どう考えても勝てるわけがなくて、きっと一生、負けっ放しで。
(チビじゃなくなっても、チビ扱いで…)
 何かと言えば、子供時代のことを持ち出されるのに違いない。
 「お前、あの頃と変わらないよな」と、「やっぱりチビだ」と。
 俺に勝とうなど百年早いと、悔しかったら出直して来いと。
 年上に生まれてみたらどうだと、そしたらお前が勝てるかもな、と。
(…言いそうだものね…)
 きっと言うんだ、と思い浮かべた恋人の顔。
 「キスは駄目だ」と叱るハーレイ、なんともケチで酷い恋人。
 この地球の上に先に生まれただけなのに。
 自分よりも早く生まれ変わったというだけなのに、ハーレイの立場はずっと上。
 年上な上に、教師だから。
 チビの自分は、うんと年下の教え子だから。
 誰が見たって、ハーレイの方が上だと答えるだろう関係。
 いつまで経っても、きっと一生。
 前の自分と同じ背丈に育ったとしても、ハーレイには上がらない頭。
 いつも、いつだって年下だから。
 自分が育てば、ハーレイも一歩先へと進んでしまうから。


 これは困った、と思うけれども、負けっ放しな自分の未来。
 ハーレイに頭が上がりはしなくて、いつもコツンと小突かれる頭。
(今とおんなじ…)
 ケチのハーレイに叱られるのだろう、「キスは駄目だ」と。
 「俺は子供にキスはしない」と、今日と同じに。
 いつまでも勝てはしないから。
 ハーレイの方がずっと年上で、自分はチビのままだから。
(結婚したって、負けっ放しで…)
 勝てないんだよ、と零した所で気が付いた。
 ハーレイと結婚出来る自分なら、とっくにチビではないだろう年。
 前の自分と同じに育って、ハーレイとキスが出来る背丈になっている筈。
 「キスは駄目だ」と言われはしなくて、強請れば貰えるだろうキス。
 強請らなくても、きっと幾つも、唇へのキス。
 ハーレイの方が年上でも。
 少しも頭が上がらなくても、キスは幾つも降って来る。
 顎を取られて、上向かされて。
 鳶色の瞳で見詰められて。
(…ちゃんと、キス…)
 して貰えるのだった、自分が大きく育ったら。
 チビの子供ではなくなったなら。
 ハーレイには負けっ放しのままでも、一生、頭が上がらなくても。
 いつも年下のチビ扱いでも、そう扱われるというだけのこと。
 「チビのくせに」と、今のハーレイと変わらない顔で。
 頭をコツンと小突かれたりして、いつまで経っても子供扱い。
 ずっと年下なのだから。
 ハーレイの年を追い越せはしなくて、追い掛けることしか出来ないから。


(前のぼくだと…)
 見た目はともかく、本当の年は船の誰よりも上だったから。
 それに相応しく振舞わねば、と注意していたし、皆もそのように扱っていた。
 もちろん、前のハーレイだって。
 「お前」ではなくて「あなた」と呼んだし、話す時は敬語。
 今のハーレイとはまるで違った。
 「俺」と言う代わりに「私」だったハーレイ。
 最初の頃には、そんな風ではなかったのに。
 いつの間にやら、ハーレイは敬語。「お前」とも「俺」とも言わなくなって。
(前のハーレイも、好きだったけど…)
 ケチで年上な今のハーレイ、その方がずっと嬉しい気がする。
 普通に話してくれるから。
 チビ扱いでも、ソルジャー扱いより素敵だから。
(だって、ハーレイ、普段通りで…)
 言葉遣いを変えたりはしない。
 特別扱いされるよりかは、チビ扱いの方が近しい距離。
 一生、頭が上がらなくても。
 ハーレイの年を追い越せないまま、追い掛けて歩いてゆくだけでも。
(ぼくがホントに年下だから…)
 チビ扱いをするハーレイ。
 俺の方がずっと年上だから、と余裕たっぷりでケチなハーレイ。
 けれども、きっとその方がいい。
 特別扱いされてしまって、ハーレイに「あなた」と呼ばれるよりも。
 いつも敬語で話されるよりも、チビと呼ばれる方がいい。
 額をコツンとやられても。
 「キスは駄目だ」と叱られても。


 今は悲しいチビ扱いだけれど、いつか幸せになれるのだろう。
 ハーレイは敬語になりはしないし、一生、「お前」と呼んで貰える。
 「俺のブルーだ」と言って貰えて、唇にキスもして貰って。
(うん、きっと…)
 幸せなんだ、と思えてしまう。
 少しも頭が上がらなくても、ハーレイが先を歩いていても。
 我儘を言ったら、「チビのくせに」と叱られても。
(ハーレイだったら、そう言ったって…)
 きっと願いを叶えてくれる。
 今は駄目でも、ちゃんと大きくなったなら。
 前の自分と同じに育って、ハーレイと二人で暮らし始めたら。
 「仕方ないな」という顔をして。
 チビのくせに、と苦笑いしても、きっと許して貰える我儘。
 ハーレイの方が年上なのだし、我慢しなくてはいけない立場。
 前の自分がそうだったように、どんな時でも。
(無茶は言ったりしないけど…)
 ハーレイに甘えて、幾つも、幾つも強請ってみる。
 我儘だってぶつけてみる。
 一生、頭が上がらないけれど、その分、自分は強いから。
 年下な分だけ、きっと優しくして貰えるから。
(…ホントのホントに、年下なんだし…)
 ずっと年下に生まれたのだから、幸せな立場を生かしてみよう。
 いつか大きくなったなら。見た目がチビではなくなったなら。
 聞いて貰えるだろう我儘、困ったような顔をしたって。
 「俺の方が年上だしな…」と、大袈裟な溜息をついたって。
(年下で良かった…)
 ふふっ、と零れてしまった笑み。
 一生、ハーレイよりも年下だけれど、きっと幸せに暮らしてゆける。
 ハーレイの方が年上だから。年下の自分は、ハーレイを追い掛けて歩くのだから…。

 

       年下で良かった・了


※ハーレイ先生よりも年下なのがブルー君。前とは立場がすっかり逆様。
 一生、勝てないみたいですけど、それも幸せらしいです。我儘、言いたい放題ですしねv





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