(んー…)
もうちょっとだけ、と小さなブルーが思ったこと。
休日の朝に、ベッドの中で。
さっき目覚ましが鳴ったけれども、今日は休日。
時間通りに飛び起きなくても、学校に遅刻したりはしない。
ほんのちょっぴり、朝御飯が遅くなるだけのこと。
目覚ましできちんと起きた朝より、そういう休日の時間より。
(…ちょっとだけ…)
もう少しだけ寝てもいいよね、と瞑った瞳。
昨夜は少し遅かったから。
夢中で本を読んでいる間に、経ってしまっていた時間。
寝ようと決めている時間より。
次の日も学校に行くのだったら、とうに寝ている時間よりも。
(…今日はお休み…)
そう思ったから、時計を見ないで本の世界に浸って過ごして、すっかり夜更かし。
目覚まし時計に起こされたって、「眠いよ」と訴えている身体。
学校に行かなくていい日なのだし、もう少しくらい寝てたって、と。
こうして一度は目を覚ましたから、眠ってもじきに目が覚めるよ、と。
(…眠い時には、ちょっぴりお昼寝…)
それで眠気がスッキリ取れる、と言っていたのは友達だった。
授業の最中に居眠りしていた言い訳だけれど。
「寝た方が頭が冴えるんです」と。
先生に見付かって叱られた時に、大真面目に。
眠い頭で起きているより、五分ほど寝るのが効率的。
それでシャッキリ目が覚めるのだし、そのために寝ていたのだと。
(先生、呆れていたけれど…)
否定はしない、と苦笑いだってしていたから。
眠い時には無理に起きるより、五分ほど寝た方がいい。
今朝の自分も、それがお似合い。
五分だけだよ、と瞑った瞳。
同じ五分を眠るのだったら、ぐっすりと。
そう思ったから、クルンと身体を丸くした。
眠る時には、いつもこうして丸くなるのが好きだから。
(…五分だけ…)
それで眠気が取れるんだしね、とウトウトと落ちた眠りの淵。
気持ちいいや、と。
五分経ったら目を覚まそうと、目覚まし時計は要らないよね、と。
(おやすみなさい…)
スウッと眠って、五分で起きる筈だったのに。
パッチリと目を覚ますつもりで、心地良く眠りに入ったのに。
「ブルー?」
朝よ、と母に揺り起こされた。
眠い瞼を押し上げてみたら、心配そうな母の顔。
「何処か具合が悪いの?」と。
「…ううん、ちょっぴり眠かっただけ…」
何時、と訊いてビックリ仰天。
五分しか経っていないつもりが、一時間以上も経っていたから。
母が「ほらね」と見せてくれた時計も、そういう時間を指していたから。
(嘘…!)
なんでこうなっちゃったわけ、と慌てたけれども、寝たのは自分。
友達が授業中に言った言い訳、それを自分も言い訳にして。
(五分で眠気が取れる、って…)
だから五分、と思っていたのに、五分どころか一時間以上も眠ってしまった。
母が心配して、部屋まで起こしに来るくらい。
(…でも、お休み…)
学校に遅刻するわけじゃないし、と考えたけれど。
大丈夫だよ、と思ったけれど…。
「大変…!」
どうして起こしてくれなかったの、とベッドの上に飛び起きた。
今日は休みで、いつもより遅くセットしていた目覚まし時計。
其処へ一時間以上の寝坊で、とても早いとは言えない時間。
(…ハーレイが来ちゃう…!)
いい天気だから、きっと歩いて。
母がカーテンを開けた窓から、日が燦々と射してくるから。
この時間だと家を出ているだろうか、こちらに向かって。
今から急いで支度したって、部屋の掃除が間に合わない。
朝御飯を食べていたならば。
いつもの休日、それと同じにのんびり過ごしていたならば。
もうバタバタと慌てているのに、母は「朝御飯、ホットケーキがいい?」と、いつもの調子。
それともトーストにマーマレード、と。
「ブルーは好きでしょ、ホットケーキの朝御飯?」
どっちにするの、と笑顔の母。
「どっちもいいよ…!」
ミルクだけで、と返した返事。
食べている時間は無さそうだから。
ホットケーキも、トーストも。
朝食なんかを食べていたなら、部屋の掃除は絶対に無理。
ハーレイが来る休日の朝は、張り切って掃除しているのに。
二人で使うテーブルだって、綺麗にキュッキュと拭いているのに。
「駄目よ、朝御飯抜きなんて」
「でも、ママ…!」
部屋の掃除が間に合わないよ、と叫んだら。
ハーレイが来ちゃう、と困り顔で部屋を見回したら…。
「ママがするわよ」と可笑しそうな母。
任せなさいなと、ママは掃除のプロなんだから、と。
部屋の掃除は、母が代わってくれるらしい。
それなら、とホッとついた息。
(ハーレイが来ても大丈夫…)
いつもの部屋、と安心したら、「パジャマじゃ駄目よ?」と母に言われた。
きちんと顔を洗って着替え、と。
朝御飯も食べて、ミルクだけにはしないこと、と。
「うん、分かってる…!」
食べるならホットケーキがいいな、と注文してから顔を洗いに。
寝坊したことが分からないよう、念入りに。
(…眠気はちゃんと取れたんだけど…)
さっきまで寝てた顔だもんね、と眺めた鏡に映った自分。
まだ眠そう、と。
しっかりと石鹸で顔を洗って、お湯と、冷たい水だって。
冷たい水だと、シャッキリと目が覚めるから。
鏡の向こうの自分の瞳も、もう眠そうではなくなったから。
(これでハーレイにはバレないよね?)
寝坊したこと、とタオルで拭いた顔。
水気を拭って、髪の毛だって跳ねていないか確かめた。
もしも寝癖がついていたなら、母に頼まないといけないから。
「寝癖、直して」と声を掛けて。
母が掃除に行ってしまう前に、寝癖がきちんと直るように。
(…跳ねてないから…)
そっちは平気、と戻った部屋。
次は着替えで、制服ではなくて家で着る服。
どれにしようか少し悩んで、これがいいな、と引っ張り出して。
(ハーレイが来るから…)
今日はこの服、と選んだ服を身に着けてゆく。
ハーレイも似たような服だといいなと、お揃いだったらいいのに、と。
着替えてダイニングに出掛けて行ったら、ホットケーキが焼き上がった所。
父に「寝坊か?」と笑われたけれど、気にしない。
ハーレイに笑われたわけではないから、寝坊はバレない筈だから。
(部屋の掃除はママがしてくれるし…)
大丈夫だよね、と掃除に行く母を見送りながらの朝御飯。
ホットケーキにメープルシロップ、それに金色のバターも乗せて。
熱で柔らかくとろけるバターと、メープルシロップが奏でるハーモニー。
これが大好き、と頬張っていたら掠めた記憶。
(…ホットケーキ…)
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が食べていた。
青い地球を夢見て、いつか地球で、と。
地球に着いたら、ホットケーキを食べてみたいと夢を描いていた自分。
青い地球には、サトウカエデの森があるから。
地球の草をたっぷり食んで育った、牛たちのミルクで作ったバターもあるだろうから。
(いつか、こういう朝御飯…)
食べてみたいと何度思ったことだろう。
白いシャングリラが地球に着いたら、ホットケーキの朝食を、と。
ハーレイと一緒に食べたかったし、それが自分の夢だった。
(…地球には来られたんだけど…)
まだハーレイと朝御飯は食べられないものね、と零れた溜息。
一緒に暮らしていないのだから、二人きりで食べる朝食は無理。
夢のホットケーキは此処にあるのに、足りないハーレイ。
(…ハーレイと二人で暮らせるようにならないと…)
前の自分の夢の朝食、ホットケーキの夢は叶わない。
半分だけしか叶わないまま。
本物のサトウカエデのメープルシロップ、地球で育った牛のバター。
其処までだけしか叶わないよねと、ハーレイと一緒に食べられない、と。
まだ当分は無理なんだけど、とホットケーキを眺めるけれど。
フォークで口へと運ぶのだけれど、いつかは叶うだろう夢。
ホットケーキの朝食をハーレイと二人、そんな朝に自分が寝坊したなら…。
(…ホットケーキは、どうなっちゃうわけ?)
もしもハーレイに起こされたって、「もうちょっと…」と寝ていたら。
一時間以上もそのまま起きずに、ぐっすり眠ってしまっていたら。
(ホットケーキ、すっかり冷めちゃって…)
起きて行ったら、消えているかもしれない。
「冷めちまうから、食っておいたぞ」と、ハーレイがダイニングにいたりして。
二人分のホットケーキを平らげた後に、のんびりコーヒーを飲んだりもして。
(…そんなの、酷い…!)
ぼくのホットケーキはどうなるの、と思ったけれど。
夢の朝御飯が台無しだよ、と寝坊した自分を棚に上げて怒りそうだけど…。
(でも、ハーレイも…)
優しいものね、と浮かんだ考え。
母が寝坊した自分の代わりに、部屋の掃除をしてくれるように、ハーレイだって…。
(冷めるから食べた、って言っていたって…)
きっと自分が起きて行ったら、ホットケーキを新しく焼いてくれるのだろう。
「焼き立てが美味いに決まってるしな?」と、用意してあった材料を出して。
(うん、ハーレイなら、きっとそう…)
寝坊したって、ハーレイはきっと叱らない。
ホットケーキを新しく焼いて、「食えよ?」と渡してくれる筈。
きっとそうだから、ハーレイが来たら訊いてみようか。
「寝坊したって大丈夫?」と。
今朝、本当に寝坊したことは言わないで。
「もしもだよ?」と、笑みを浮かべて、「ぼくは寝坊をしたっていい?」と…。
寝坊したって・了
※休日の朝に寝坊してしまったブルー君。朝御飯も要らない、と大慌てですけど…。
ハーレイ先生と一緒に暮らすようになっても、寝坊するかも。きっと許して貰えますよねv
(ん…?)
朝か、とハーレイが止めた目覚まし時計。
上掛けの下から手を伸ばして。
ついでに掴んで、目の前に持って来た時計。
今の時間を確かめようと、「定刻だよな?」と。
けれど、文字盤を目にした瞬間、身体を貫いていった衝撃。
(しまった…!)
なんて時間だ、とガバッと起きた。
いつもに比べて遅すぎる時間、三十分も。
きっと昨夜に間違えたのに違いない。
目覚まし時計をセットする時、ついウッカリと勘違いして。
学校のある日と、休日の朝とを間違えて。
(俺としたことが…!)
大変だぞ、と飛び出したベッド。
目覚ましよりも早く起きる朝は多いけれども、寝坊の方は珍しい。
よほど身体が疲れない限り、目覚ましの音でシャッキリと目が覚めるから。
そうでなくても「あと少し…」と考えたりはしない性格。
(三十分も…)
どう取り戻す、と頭の中で計算してゆく。
朝食を抜くことが一番だけれど、避けたい選択。
頭に栄養が行かなかったら、何処かでミスをするものだから。
授業でも、それに朝一番の柔道部の指導の方だって。
(それよりも前に、運転ミス…)
自分ではしっかりしているつもりでいたって、指示器を出すのを忘れるだとか。
早めに変更するべき車線を、大慌てで変える羽目になるとか。
(派手にクラクションを…)
鳴らされちまう、と後続車の様子が目に浮かぶよう。
「しっかりしてくれ」と、「事故を起こすぞ」と警告してくるクラクション。
朝食抜きは絶対にいかん、と大急ぎで走った洗面所。
とにかく顔を洗って着替えて、全てはそれから。
(こういう時に限ってだな…!)
なんだって髪がこんな具合に、と鏡に映った自分を眺める。
寝癖がついてしまった髪。
上手く直せればいいんだが、と歯を磨きながら空いた左手で撫でてみて…。
(この程度なら…)
きちんとブラシをかけてやったら直せるか、とホッと心でついた息。
これが頑固な寝癖だったら、普段以上に時間がかかるから。
スーツを着てから、「うーむ…」と覗き込む鏡。
「こいつをいったい、どうしたもんか」と、「いっそサイオンで直しちまうか?」と。
サイオンを使った寝癖直しは、あまり好きではないけれど。
昔ながらのレトロな方法、それでのんびり整えるのが好きなのだけれど。
(贅沢は言っていられないしな、こんな時には…)
寝癖の方は助かった、と歯磨きを終えてバシャバシャ洗った顔。
急ぎだけれども、顔の隅までキッチリと。
お湯だけで済ませてしまいはしないで、石鹸をちゃんと泡立てて。
(よし…!)
これでいいな、と見詰めた鏡。
タオルで水気を拭ってから。
眠そうな顔をしてはいないし、寝ていた気配も取れた筈。
側の時計もチラリと眺めて、確かめた時刻。
(五分は短縮出来たってか…?)
あと二十五分を何処で縮める、と戻った部屋。
朝食抜きが駄目となったら、縮められそうな時間の方は…。
(…手抜きの朝飯くらいしか…)
それしか無いな、と分かっていること。
ゆっくりコーヒーを淹れたりしないで、インスタントで済ませる朝。
もうそれだけで大きく違うし、新聞だって読まずに、と。
普段だったら、朝の始まりはコーヒーから。
そういうパターンが多いのが自分。
時間をかけて淹れるコーヒー、香りで高める一日の士気。
「今日も一日、頑張らないとな?」と。
授業も、柔道部の活動も。
手抜きはしないで、どれも全力で取り組むのがいい。
会議にしたって、他の色々なことだって。
仕事をするなら全力がいいし、それでこそ満足のゆく一日。
「今日も一日、いい日だった」と、夜になってから振り返って。
夕食の後で淹れるコーヒー、寛ぎの一杯を傾けながら。
けれども、今朝は残念ながら…。
(インスタントにするしかないな…)
新聞を広げる時間も無いから、車に乗せてゆくしかない。
学校に着いたら、何処かで時間が取れる筈。
(見出しだけでも見ておかないと…)
職業柄、とても困るんだ、と分かっているのが新聞の中身。
車でも聴けるニュースはともかく、他にも色々あるものだから。
古典の教師なら知っておきたい、見逃せない記事も色々と。
(コーヒーを諦めて、新聞も…)
それでいける、と弾き出した時間。
朝食をしっかり食べて行っても、学校には時間通りの到着。
(目覚ましの時間を間違えたことは…)
誰にもバレやしないってな、とパジャマを脱いで始めた着替え。
下着のシャツをガバッと被って、袖を通して…。
(お次はワイシャツ…)
それからズボン、と手を伸ばしかけて驚いた。
ワイシャツが置いてある筈の場所に、ワイシャツは無かったものだから。
代わりに置かれたラフなシャツ。
休日に何処かへ出掛けてゆくには、丁度似合いのシャツが一枚。
(…やっちまった…)
朝から派手に間違えたのか、と思わず掻いてしまった頭。
「参ったな」と。
今日は休日、ブルーの家へと出掛けてゆく日。
だから遅めにかけた目覚まし、昨夜は少し遅かったから。
「明日は休みだ」と読み始めた本、欲張ってページをめくり続けたから。
夜更かしした分、睡眠時間はたっぷりと、とセットしておいた目覚まし時計。
(…あれが裏目に出ちまったってな…)
大失敗だ、と浮かべた苦笑。
いつも通りに起きていたなら、こんな目には遭わなかったから。
起きた時にも「今日は休みだ」と余裕たっぷり、そういう朝になったろうから。
(まったく、俺としたことが…)
しかし時間は充分あるな、と着込んだシャツ。
ズボンも履いて、それから直したさっきの寝癖。
鏡の前で鼻歌交じりに。
「サイオンで直す羽目にならなくて良かったな?」と、鏡の自分に語り掛けながら。
鏡の向こうに休日の自分。
スーツではなくて、ラフな服装。
出掛けてゆくにはまだ早い時間、コーヒーだってゆっくり飲める。
インスタントでお湯を注ぐ代わりに、豆から挽いて。
休日ならではの時間をかけて、ゆったりと淹れる朝のコーヒー。
(新聞も端まで読めるってもんだ)
朝食の後で全部読んでも、まだ余りそうな自分の時間。
ブルーの家へと出発するには、この時間では早すぎるから。
庭の手入れやジョギングをしても、ブルーの家には遅刻しない。
三十分遅く起きたって。
学校へ行くなら慌てるしかない、あんな時間に起きたって。
寝坊じゃなくて助かった、と座った朝のダイニング。
明るい日射しが射し込む中で、朝食と朝のコーヒーと。
(…うん、充分に間に合うってな)
なんたって休みなんだから、と頬張るトースト。
それにオムレツ、焼いたソーセージもつけて。
寝坊したかと慌てていたのに、普段以上に余裕のある朝。
(実に焦ったが…)
俺の勘違いで良かったよな、とコーヒーが入ったマグカップを傾けていたら掠めた思い。
「弛んでるぞ」と、時の彼方から。
それでもキャプテン・ハーレイなのかと、寝坊なんかが許されるのか、と。
(…前の俺だと…)
寝坊はマズイ、と考えなくても分かること。
三十分も寝坊したなら、取り戻すには一苦労。
(おまけにブルーがいるもんだから…)
ただじゃ済まんぞ、と思い浮かべた白いシャングリラ。
あの船でブルーと恋をしたから、眠る時には同じベッドで。
青の間でも、キャプテンの部屋にブルーが来た時も。
(それで寝坊をしちまったら…)
ブルーも一緒にしてしまう寝坊。
起きた途端に、二人で慌てることだろう。
どうして時間を間違えたのかと、じきに朝食の係が来るのに、と。
朝は二人で朝食だったし、それがソルジャーとキャプテンの朝の習慣。
青の間に朝食係が来た時、ブルーが部屋にいなかったならば首を傾げることだろう。
いたとしたって、寝坊のせいでスケジュールが狂っていたならば…。
(俺が先にシャワーを浴びないとマズイし、時間短縮出来なかったら…)
もうキャプテンが来て待っているのに、ブルーはシャワー。
つまり寝坊をしたのはブルーで、前の自分ではない勘定。
食事係の目から見たなら。
本当は二人で寝坊したのに、二人揃って起きる時間を間違えたのに。
(前のあいつが貧乏クジになっちまうんだ…)
俺じゃなくて、とクックッと笑う。
二人揃って寝坊したって、ブルーが寝坊になっちまうのか、と。
それをやってはいないけれども、やっていたらブルーはどうしただろう、と。
(きっと、怒って…)
後で文句を言うんだろうな、と零れる笑み。
目覚まし時計をセットするのは、いつでも自分だったから。
きっとブルーは怒ったろうなと、「ハーレイのせいで寝坊したのに」と。
そんな事件は一度も起こっていないけれども、前のブルーに出会えた気分。
前の自分が寝坊をしたら、こうなるんだと。
ブルーが寝坊をしたことになって、お詫びのキスは欠かせないよな、と…。
寝坊をしたら・了
※ハーレイ先生には珍しい寝坊。起きた途端に大慌てしたわけですけれど。
気付いたら休みの日だったわけで、前のブルーを思い浮かべる時間もある朝v
「えーっと…。ハーレイ?」
君に頼みがあるんだけれど、とハーレイを見詰めた小さなブルー。
テーブルを挟んで向かい合わせで、お茶の時間の最中に。
庭の白いテーブルと椅子とは違って、ブルーの部屋で。
「なんだ、キスならお断りだぞ?」
そいつは絶対駄目だからな、と睨んだハーレイ。
チビの恋人は、何かと言えばキスを強請るから。
「俺は子供にキスはしない」と言っているのに、聞きもしないで。
「そのキスだけれど…」
ぼくが子供だから駄目なんだろう、とブルーの瞳に真剣な色。
「でも、今のぼくは子供じゃないんだから」と。
「なんだって?」
何処から見たって子供じゃないか、とハーレイが眺めた小さな恋人。
少しも大きくなっていないし、顔も身体も子供そのもの。
十四歳のブルーが其処にいるだけで、大人のブルーは何処にもいない。
「…分からないかな、ぼくだってことが」
君のブルーだ、と揺れる瞳の赤。
「帰って来たよ」と、「心は元の通りだから」と。
「ほほう…? 中身は子供じゃないんだな?」
育ったのか、とハーレイが訊けば、「そう」と大きく頷くブルー。
「だからね…。君に協力して欲しい」
今のままだと、ぼくは子供のままだから…、とブルーが口にしたこと。
「前と同じに育つためには、君の協力が必要なんだ」と。
「協力だって?」
「そうだ。でないと、永遠に元に戻れない」
呪いにかかってしまったから、とブルーの瞳は悲しげで…。
ブルーが言うには、昨夜、いきなり育ったらしい。
チビだったのが、前の背丈と同じ姿に。
ところが喜んだのも束の間、現れたのが悪い魔女。
魔法の杖がサッと振られて、ブルーにかかってしまった呪い。
伸びた背丈はみるみる縮んで、チビの姿に逆戻り。
心は大人になっているのに、身体だけが子供に戻ったという。
「本当なんだよ、呪いを解くには真実の愛が必要で…」
キスしてくれたら元に戻れる、とブルーは至って真面目だけれど。
恋人のキスが必要なのだと、呪いを解いて、と頼むのだけれど。
「なるほどなあ…。よくあるお伽話だな」
キスで呪いが解けるというのは、とハーレイの唇に浮かんだ笑み。
「そいつは素敵だ」と、「俺のブルーに戻るんだな?」と。
「うん、そう! だからね…」
ぼくにキスして、と輝いた顔。
キスを頂戴と、そしたら前とおんなじ姿に戻るんだから、と。
大喜びでキスを強請るブルーは、どう眺めても子供の顔で。
ついさっきまでの、大人びた口調も消えているから、笑ったハーレイ。
「おいおい、尻尾が見えているぞ」と。
「えっ、尻尾?」
何処に、とキョロキョロしているブルー。「ホントに尻尾?」と。
「ああ、立派なのが生えてるな。見えないか?」
「どんなの? どんな尻尾が生えたっていうの?」
尻尾、何処にも無いんだけれど、と探すブルーは本当に子供。
そんな具合だから、ハーレイの笑いは止まらない。
「お前、呪いはどうなったんだ?」と。
「嘘をついてもバレるからな」と、「だから尻尾が見えるんだ」と…。
キスが必要・了
(今日もやっぱり駄目だったよ…)
ハーレイのケチ、と小さなブルーが零した溜息。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
前の生から愛した恋人、今も愛しているハーレイ。
今日も来てくれたのだけれども、「駄目だ」と言われてしまったキス。
「ぼくにキスして」と強請ったら。
仕事の帰りに寄ってくれたハーレイ、その膝の上に座って甘えたら。
(キスは駄目だ、って…)
叱られて、お決まりの言葉。
「俺は子供にキスはしない」と、「何度も言っている筈だが?」と。
なんともケチで酷い恋人、ハーレイが勝手に決めてしまった約束事。
(前のぼくと同じ背丈になるまでは…)
キスは額と頬にだけ。
そういう決まりで、ハーレイはけして破りはしない。
「ハーレイのケチ!」と膨れても。
プンスカ怒って仏頂面でも、知らん顔で紅茶を飲んでいたりする。
「冷めちまうぞ?」とカップを傾けて。
そうでなければ、お菓子を口に運ぶとか。
「美味いが、お前、食わないのか?」などと言ったりもして。
同じ唇に運ぶのだったら、カップよりキスが良さそうなのに。
甘いお菓子より、キスの方がずっと甘い筈だと思うのに。
(…ハーレイ、本当にケチなんだから…)
ちょっとくらいキスをしてくれたって、と思うけれども、叱られるだけ。
強請っても、それに誘っても。
キスの代わりに、時には頭にコツンと拳。
額を指で弾かれることも。
お仕置きとばかりに、ピンと、コツンと。
けれど諦められないキス。
せっかくハーレイと巡り会えたのだし、今も同じに恋人同士。
前の自分たちの恋の続きを生きているのに、貰えないキス。
いくら強請っても、誘ってみても。
(…ぼくがチビだから…)
十四歳にしかならない子供で、背丈だって二十センチも足りない。
ソルジャー・ブルーと呼ばれた頃の自分に比べて、二十センチも足りない身長。
顔立ちだって子供そのもの、それは分かっているけれど。
鏡を見れば子供が映るし、クローゼットに書いた前の自分の背丈の印も…。
(…あんなに上…)
まだ届かない、と見上げるしかないチビの自分。
ハーレイが子供扱いするのも、当然と言えば当然のこと。
今の姿で「大人だよ!」と言ってみたって、誰も信じてくれないから。
誰が聞いても子供の言うこと、「偉いのねえ」と褒めて貰えるだけ。
「ホントに大きなお兄ちゃんね」と、「一人で何でも出来るのね」と。
きっとそうなる、言い張ったなら。
(…それに、一人じゃ何も出来ない…)
褒めて貰えても、子供でも出来ることくらいしか。
学校までバスで通って行くとか、ちょっとお使いに行くだとか。
買い物や、母のお手伝い。
ご近所さんの家まで、「ママが作ったケーキです」と届けに出掛けてゆく程度。
(…買い物だって、頼まれた物を買うだけで…)
それを家まで持って帰っても、その先のことは出来ない子供。
母の代わりにキッチンに立って、料理を作り始めるとか。
「足りなかったの、これだよね?」とサッと加えて、材料を計り始めるだとか。
掃除も自分の部屋は出来ても、家中を綺麗にするのは無理。
庭の手入れもほんの真似事、ちょっぴり草を抜く程度。
父のように芝生を刈れはしないし、母がやる花壇の植え替えも無理。
早い話が本当に子供、今の自分の外側は。
(だけど、中身は…)
前のぼくだと思うんだけどな、と眺める自分の小さな右手。
小さい手でも、右手は前の自分の右手と同じ。
この手が冷えてしまった時には、恐ろしい夢を見てしまうから。
メギドで迎えた悲しい最期を思い出すから。
(…ハーレイの温もり、失くしちゃって…)
独りぼっちだ、と泣きながら死んだソルジャー・ブルー。
前の自分の悲しすぎた最期、今も覚えている孤独と絶望。
もうハーレイには二度と会えない、と泣きじゃくりながら死んでいった自分。
絆が切れてしまったから。
ハーレイの温もりを失くしてしまって、右手が凍えてしまったから。
(あれでおしまいの筈だったのに…)
全ては終わって、それっきりになる筈だったのに。
気付けば青い地球に来ていて、また巡り会えた愛おしい人。
今日もハーレイに会えたというのに、貰えなかった唇へのキス。
ハーレイのキスが欲しいのに。
今も恋人同士だからこそ、唇へのキスが欲しいのに。
(…ハーレイ、ホントにケチなんだから…)
どうしてチビなだけで駄目なの、と溢れる不満。
キスを断ったハーレイの方は、とうに忘れていそうだけれど。
家に帰って「いい日だった」と、飲んでいそうな熱いコーヒー。
それがハーレイの習慣なのだと聞いているから、今頃は…。
(…ぼくのことなんか、とっくに忘れて…)
寛ぎの一杯、それから日記を書くのだろう。
「今日も一日いい日だった」と、天気や、それに仕事のこと。
恋人の自分のことは書かない覚え書き。
それと同じで、ハーレイの頭の中からも…。
(キスを断ったことなんか…)
消えちゃってるよ、と悲しい気分。
ハーレイにとっては普通の一日、キスを断ったことも普通なんだ、と。
きっとそうだ、と分かっているから、余計に悔しい今日のこと。
「キスは駄目だ」と叱られた上に、貰えなかった唇へのキス。
もう何度目だか分からないほど、強請っては断られてばかり。
今の自分がチビだから。
姿も子供で、自分一人では何も出来ない子供だから。
(中身は前とおんなじだよ、って言ったって…)
ハーレイはいつも笑うだけ。
「俺はチビだと思うがな?」と、「お前、中身も子供だろうが」と。
そして笑いながら、お決まりの言葉。
「俺は子供にキスはしない」と、「キスは大きくなってからだと言ってるよな?」と。
あの決まり事が変わらない限り、ハーレイのキスは貰えない。
どんなに頑張って強請ってみたって、頼んでみたって、誘惑しても。
ハーレイは其処にいるというのに、前と同じに恋人なのに。
(…恋人だったら、キスしてくれても…)
いいと思う、と考えているのは自分だけ。
ハーレイの方では別の考え、子供の姿をしている限りは…。
(キスする気なんか無いんだよ…)
ホントに酷い、と思うけれども、そのハーレイ。
前の自分は、ハーレイと離れて一人きりで死んだ。
仲間は誰もいないメギドで、ハーレイの温もりさえも失くして。
もうハーレイには二度と会えない、と泣きじゃくりながら。
(…でも、会えちゃった…)
地球の上で、と見詰めた右手。
何度もハーレイが温めてくれて、「大丈夫か?」と温もりを移してくれた手。
今のハーレイの、褐色の手ですっぽりと包み込んで。
記憶の中の前のハーレイ、その手と少しも変わらない手で。
違っているのは、今の自分の手の大きさだけ。
前のハーレイの温もりを落として失くした、あの時とは。
たった一人でメギドへと飛んで、ハーレイと別れてしまった時とは。
(今のぼく、ちゃんとハーレイと一緒…)
キスは駄目でも、唇へのキスは貰えなくても。
ハーレイに「駄目だ」と叱られていても、そう言って睨み付ける人。
鳶色の瞳で睨む恋人、そのハーレイは何処も変わっていない。
前の自分の記憶そのまま、着ている服が違うだけ。
キャプテンの制服を着込む代わりに、スーツだったり、私服だったり。
(…ハーレイ、今もいるんだよ…)
キスもくれないで帰って行ってしまったけれど。
チビの自分をすっかり忘れて、コーヒーを飲んでいそうだけれど。
それでもハーレイは同じ地球にいるし、同じ町にある家にいる。
何ブロックも離れていたって、自分と同じ町の住人。
(…ぼくと会えない時だって…)
ハーレイは何処かで何かしていて、その場所が自分と重ならないだけ。
前の自分は、独りぼっちになったのに。
もうハーレイとは、二度と会えない筈だったのに。
(……膨れてたら、罰が当たっちゃう?)
ハーレイのケチ、と怒っていたら。
プンスカ怒って膨れっ面とか、今みたいに不満たらたらだとか。
今もハーレイが何処かにいること、もうそれだけで奇跡みたいなことだから。
おまけにいつか大きくなったら、ハーレイと結婚出来るのだから。
(結婚出来たら、ずっと一緒で…)
二人で暮らして、いつだってキス。
「おはよう」のキスに、「いってらっしゃい」のキス。
ハーレイが仕事から帰って来たなら、「おかえりなさい」のキスをする。
それが出来るのも、ハーレイと二人で生まれて来たから。
青い地球の上に、二人一緒に生きているから。
(…キスは駄目でも…)
一緒だもんね、と思ったら胸に溢れた幸せ。
いつか大きくなった時には、数え切れないほど貰えるキス。
ハーレイと一緒に地球に来たから、今はチビでも、こうして巡り会えたのだから…。
キスは駄目でも・了
※ハーレイがキスしてくれなかった、と不満たらたらのブルー君。今日も駄目だった、と。
けれども、前の自分の悲しい最期を思ったら…。一緒にいられるだけで幸せですよねv
(ハーレイのケチ、と言われちまったが…)
ついでに今日も膨れていたが、とハーレイが思い浮かべた恋人。
夜の書斎でコーヒー片手に、クックッと笑いを漏らしながら。
仕事の帰りに会って来たブルー。
前の生から愛した恋人、青い地球の上に生まれ変わって再び巡り会えた人。
けれど、前とは違うことが一つ。
今のブルーは育つ途中で、十四歳にしかならない子供。
姿と同じに心も無垢な子供のくせに…。
(一人前の恋人気取りって所がなあ…)
大いに問題ありってな、と熱いコーヒーが入ったカップを傾ける。
今日もブルーに強請られたキス。
「ぼくにキスして」と、まるでお菓子を強請るみたいに。
だから額に落としたキス。
「愛してるぞ」と、言葉もつけて。
チュッと音までさせてやったのに、案の定、機嫌を損ねたブルー。
そういうキスは頼んでいないと、「ハーレイのケチ!」と。
プンスカ怒って膨れっ面。
恋人にキスもくれないなんて、と不満たらたら、子供の顔で。
「俺は子供にキスはしない」と、何度も言っているというのに。
前のブルーと同じ背丈に育たない内は、キスは額と頬にだけ、という決まり。
いくら繰り返し言い聞かせたって、懲りもしないのが小さなブルー。
今日のように強請って、あるいは誘って、キスを貰おうと頑張る日々。
(会う度にってわけではないんだが…)
それでは効果が無いと思っているのだろう。
何かのはずみに持ち出して来るか、隙を狙って来るというのか。
キスを貰えはしないのに。
ブルーが大きく育たない限り、贈ってやりはしないのに。
全く懲りないトコも子供だ、と思うけれども愛おしい。
ブルーは帰って来てくれたから。
前の自分が失くした姿で、ほんのちょっぴりチビになったというだけで。
(…ちょっぴりだよな?)
幼稚園児ってわけじゃないんだから、と今のブルーの姿を思う。
キスも出来ない子供だけれども、恋をするにも幼いけれど。
(四年もすれば…)
結婚出来る年になるわけなのだし、「ちょっぴり」チビなだけだろう。
もっと幼いブルーだったら、十年以上も待たされる。
四歳のブルーに出会っていたなら、十八歳までは十四年。
(…そうなっていたら、大変だぞ?)
俺も気が遠くなりそうだ、と眉間をトンと叩いた指。
子供のお守りで始まるだなんて、ブルーの成長を十四年間も見守るなんて、と。
それはそれで悪くないとは思う。
今のブルーとも、もっと早くに出会えていたら、と何度考えたことだろう。
ブルーが生まれて来るより前から、この町に来ていたのだから。
自分が生まれた隣町の家、其処を離れて。
父に家まで買って貰って、この町に根を下ろすつもりで。
(…あいつが生まれた病院だって…)
知っているのが今の自分。
気ままに走るジョギングコースで、たまに通ってゆく公園。
その直ぐ隣に見える病院、ブルーは其処で生まれて来た。
自分が気付いていなかっただけで。
赤ん坊だったブルーの方でも、何も知らないままだっただけで。
(出会える時が来ていなかった、ってことなんだろうが…)
幼稚園児だった頃のブルーにも、赤ん坊のブルーにも会い損なった。
下の学校の頃のブルーにだって。
子供のお守りをする羽目になっても、きっと幸せだっただろうに。
どんなに大変な思いをしようと、待ち続ける日が長すぎても。
今のブルーは、前の自分も知っている姿。
アルタミラの地獄で出会った時には、ああいう姿だったから。
成人検査を受けた時のままで、成長を止めていたブルー。
心も身体も、育たずに。
希望も見えない狭い檻の中で、育っても未来がありはしないから。
(…てっきり俺よりチビだとばかり…)
思っていたんだよな、と今も覚えている。
なんて小さな子供だろうと、それなのに強い力があるな、と。
前のブルーの本当の年を知るまでは。
ブルーが生まれた年がいつなのか、それを聞かされて驚くまでは。
(それでも、中身は姿と同じにチビだったわけで…)
今のあいつと同じだよな、と想った時の彼方のブルー。
姿そのままに幼い心で、前の自分を慕ってくれた。
いつも後ろをついて歩いて、もちろん恋などする筈もなくて。
(其処が今とのデカイ違いで…)
今のあいつは厄介なんだ、と零れる溜息。
何かと言えば「ぼくにキスして」で、「キスしてもいいよ?」と誘ってみたり。
キスを断ったらプウッと膨れて、「ハーレイのケチ!」とケチ呼ばわりで。
ブルーの方では、前のブルーと変わっていないつもりだから。
姿はともかく、中身の方は。
心は前のブルーと同じ、と思っているから恋人気取り。
本当は中身も子供なのに。
ブルーが気付いていないというだけ、だから余計に…。
(俺がケチってことになるんだ…)
恋人が側にいるというのに、キスを贈ってやらないから。
自分からキスを贈るどころか、「キスは駄目だ」と叱るから。
(あいつのためを思ってだな…)
俺はキスしてやらないわけだが、とチビのブルーに言っても無駄。
チビの自覚が無いのだから。
一人前の恋人気取りで、心は前のブルーと同じなのだと言い張るから。
なんとも厄介な話だけれども、そんなブルーも愛おしい。
「ハーレイのケチ!」と言われても。
プウッと膨れて、プンスカ怒って仏頂面でも。
(あいつは帰って来てくれたしな?)
前の俺は失くしちまったのに、と眺めた自分の大きな両手。
その手で掴み損ねたブルー。
止められないまま、メギドへ行かせてしまったブルー。
あれが別れで、前の自分は長い長い時を一人きりで生きた。
白いシャングリラを地球へ運ぶために、ブルーの望みを叶えるために。
(…あいつを失くして、独りぼっちで…)
どれだけ辛い日々だったろうか、地球までの旅は、仲間たちを乗せた白い船での孤独は。
地球に着いたら全てが終わる、と死だけを願って生きていた日々は。
(あれに比べりゃ、今は夢みたいな毎日で…)
会えない日だって、同じ地球の上に小さなブルー。
それも同じ町で、何ブロックか離れた所にある家で暮らしているブルー。
あちらは不満たらたらでも。
今、この瞬間にも、「ハーレイのケチ!」と怒っていても。
キスもくれない酷い恋人、そう思われていても気にならない。
ブルーは帰って来たのだから。
この手でブルーを抱き締められるし、髪を撫でてやることだって。
「キスは駄目だ」と叱ったついでに、指で額を弾いたり。
銀色の頭をコツンと叩いて、「何度言ったら分かるんだ?」と睨んだり。
(キスは駄目だが…)
あいつに触れることは出来るからな、と胸に温かな想いが広がる。
失くした筈の愛おしい人に、今の自分の手で触れられる。
前の自分とそっくり同じ姿に生まれて、また持っている褐色の手で。
ブルーを抱き締め、頬に、額に贈れるキス。
それがブルーは不満でも。
「ハーレイのケチ!」と膨れられても。
あいつがいればそれでいいんだ、と心の底から思うこと。
キスも出来ない子供でも。
もっと幼いブルーに出会って、子守りから始まったとしても。
(赤ん坊のあいつでも、幼稚園児でも…)
待たされる時間が今より長くて、十年を越えてしまってもいい。
ブルーがいるというだけで。
前の自分が失くしてしまった愛おしい人と、同じ時を生きていられるだけで。
(そうは言っても、十年以上も待つのはなあ…)
いくら幸せでも、今の自分の待ち時間よりも長いから。
四年どころではとても済まないのだから、今の出会いでいいのだろう。
十四歳のチビのブルーと出会って、育つ姿を見守ること。
あと四年経てば、ブルーは十八歳だから。
結婚出来る年になるから、ほんの四年の待ち時間。
(…幼稚園児の、可愛いあいつも見たかったがな…)
それは今だから思うこと。
待ち時間がたった四年で済むから、四年だけ待てばブルーと二人で暮らせるから。
(十年以上もキスが出来ないままではなあ…)
たまらんからな、と傾ける冷めたコーヒーのカップ。
今のあいつで充分だ、と。
「キスは駄目だ」と幼稚園児のブルーを叱るのは、きっと楽しくても…。
(辛すぎるしな?)
ずっと待ち続ける俺の方が、と浮かべた笑み。
十年以上は流石に長いと、今のあいつで丁度いいよな、と…。
キスは駄目だが・了
※「キスは駄目だ」とブルー君を叱るハーレイ先生。まだ子供だから、と。
ハーレイ先生の方でもキスは出来ないわけですけれども、幸せな日々。ブルー君がいればv
