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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(…人類かあ…)
 今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
 ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
 何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
 寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
 なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
 出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
 今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
 思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
 きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
 「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
 想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
 おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
 今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
 「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
 人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。


(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
 出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
 あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
 前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
 人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
 「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
 話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
 サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
 今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
 ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
 人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
 「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
 思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
 サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。


 前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
 だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
 ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
 人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
 ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
 どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
 前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
 そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
 残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
 大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
 会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
 チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
 両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
 幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
 「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。


(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
 もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
 とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
 寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
 養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
 実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
 希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
 身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
 人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
 出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
 今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
 出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
 ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
 学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
 人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
 短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
 機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。


(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
 ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
 養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
 今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
 時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
 育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
 そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
 将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
 養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
 ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
 ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
 ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
 ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
 ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
 「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
 育英惑星になることだけは、無さそうだった。
 「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。


 そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
 軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
 そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
 ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
 ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
 身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
 人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
 SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
 「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。



          人類だったなら・了


※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
 とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv





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(…人類なあ…)
 今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
 変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
 人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
 どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
 今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
 タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
 暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
 その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
 何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
 右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
 そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
 たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
 とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
 身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
 まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
 ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
 「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
 親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
 神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。


(……ふうむ……)
 決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
 なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
 越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
 何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
 あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
 SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
 互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
 感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
 あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
 実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
 呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
 「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
 変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
 もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。


 ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
 その時代を経て、今の平和な世の中がある。
 ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
 面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
 前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
 人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
 出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
 あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
 「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
 ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
 無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
 今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
 人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
 あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
 教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
 育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。


(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
 ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
 恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
 果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
 故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
 連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
 四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
 ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
 そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
 おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
 ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
 ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
 卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
 「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
 来てはいけない、という規則などは無かった。


(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
 さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
 「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
 ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
 結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
 一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
 そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
 「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
 とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
 あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
 やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
 人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
 「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。



          人類だったら・了


※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
 けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv






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(今のぼくなら、前の人生、もっと上手に…)
 生きられるかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…今のぼくはチビで、子供の姿なんだけど…)
 前の自分の記憶を全て持っているから、前の生を、上手くやり直すことが出来そう。
(転生モノって、そういう形の話もあるのかな?)
 人気が高いジャンルだよね、と今のブルーは、よく知っている。
 何かのはずみで「生まれ変わった」人の物語で、その生き様が醍醐味で人を惹き付ける。
(生まれ変わった先で、前の自分の記憶や知識を活かして…)
 人生を過ごしてゆくわけだけれど、生まれ変わった人物がガラリと変わってしまう。
 意地悪なキャラになるべき所が、いい人になってしまっていて、周りの調子を狂わせたりも。
(…悪役の筈が、優しい人のポジションだったりするんだよ)
 自分だったら「此処は、こうする」と思う通りに動き回れば、悪役が善人になっても仕方ない。
 他にも様々な物語が幾つもあって、どれも話題を呼んでいるジャンルが「転生モノ」。
(ぼくの場合は、ちょっと珍しいパターンになりそう…)
 生まれ変わって「やり直す」んだから、と面白いアイデアに引き込まれてゆく。
 前の生を「今の自分」の知識や記憶を活用しながら、やり直してゆくという物語。


(前の人生、やり直すんなら…)
 まずは成人検査の所からかな、と「前の自分」の「一番古い記憶」を引っ張り出した。
 成人検査でミュウに変化したせいで、人生そのものが狂ってしまって、記憶は其処から始まる。
(…前のぼくの記憶、これよりも古いの、無いんだよね…)
 でも、とブルーは顎に手を当て、時の彼方を思い出してみた。
 今の自分が「やり直す」場合、記憶の一番古い所からになるとは思えない。
(赤ん坊の時代は、論外だとしても…)
 学校に通っていた頃くらいには、戻っていそう。
 「やり直す」のは、スタート地点からの人生になる。
(……そうすると……)
 上手く立ち回って、成人検査を受けないままで、逃げ出すことも出来るだろう。
 「今のブルー」は運転免許も持っていないし、宇宙船の操縦は無理なのだけれど…。
(やり直すんなら、前のぼくだし…)
 無免許なのは変わらなくても、操船技術は「持っている」。
 「前のハーレイ」が、キャプテンに就任した後、懸命に技術を磨く間に、ブルーも覚えた。
 厨房出身だった「キャプテン・ハーレイ」を育て上げた、シミュレーターがあったから。
(前のぼく、ハーレイの練習に付き合って…)
 シミュレーターを「ゲーム感覚」で使いこなして、ハーレイ以上の成績を叩き出していた。
 けれど、今の時代は、宇宙船の仕組みが変わったせいで、過去の栄光は通用しない。
 「キャプテン・ハーレイ」本人の、「今のハーレイ」も、宇宙船の操船などは出来ない時代。
(今の時代だったら、無理なんだけど…)
 遠く遥かな時の彼方でなら、ブルーにだって「操縦」は出来る。
(船を奪って、何処か遠くへ…)
 逃げてゆくのが良さそうかな、と考えたけれど、その先が上手くいきそうにない。
(機械の目からは隠れられても、ミュウの未来を見捨てるのと同じで…)
 自分だけしか得をしないよ、とブルーは溜息を一つ零した。
 「今の自分」の記憶があるわけなのだし、自分が何を放り出したか、分かってしまう。


 こんなのじゃ駄目だ、と「やり直す」地点は、変えるしかない。
 大勢のミュウの命と未来を「捨ててしまってまで」、図太く生きてゆくのは難しすぎる。
(ソルジャー・ブルーの存在自体が、宇宙から消えてしまうしね…)
 駄目すぎるよ、と悲しいけれども、「ソルジャー・ブルー」は大物だった。
(…転生したら、ソルジャー・ブルーだった、なんていう小説があっても…)
 ちっとも不思議じゃないくらいだし、と自覚せざるを得ない「前の自分」の重要さ。
 今の自分が「やりたい通り」に「やり直す」ことは、時代の流れまで変えてしまうだろう。
(…ソルジャー・ブルー、いないわけにはいきそうにないよ…)
 成人検査は回避不可能らしいよね、と小さなブルーは、頭痛がしそう。
 あの忌まわしい「検査」を受けたが最後、前の自分の子供時代の記憶は消される。
(転生モノだし、今のぼくの記憶まで消えはしないんだけど…)
 なんだか悔しい、と腹立たしくなっても、「運命」だと思って耐えるしかない。
 成人検査の後に落ちた地獄も、「生き延びられる」ことを知っているなら、耐えられそう。
(…もっと早くに、脱出したって…)
 大切な人が「いない」んだよ、と「ハーレイ」の顔を思い浮かべた。
 「やり直しの人生」で、「ハーレイに出会いたい」のならば、我慢して生きる以外に無い。
(アルタミラが、メギドで燃えるよりも前に…)
 前のハーレイだけを「助け出す」ことは出来ても、ハーレイは、きっと従ってくれない。
(他のヤツらは、どうするんだ、って…)
 ハーレイならば「尋ねて来る」に決まっているから、脱出自体が「大脱走」に化ける。
 人類が「ミュウを閉じ込めていた」施設を丸ごと、破壊してからの逃走劇。
(…宇宙船、上手く見付かればいいんだけれど…)
 どうなのかな、と「今のブルー」の知識の中にも、当時の宙港の仕組みは入っていない。
 常駐している宇宙船の数も、離発着する宇宙船のスケジュールも、謎でしかない。
(…メギドが来る前に、逃げ出すのは無理…)
 失敗するのに決まっているよ、と思うものだから、これも「前の通り」にしか運んでくれない。
(ミュウの仲間を、ほんの少しばかり…)
 多めに助け出せる程度なんだ、と歯噛みしてみても、どうにも出来ない。


(…前のぼくって、やり直しさえも難しいくらい…)
 凄い人生を生きていたみたい、とブルーはフウと溜息をついて、次に進んだ。
 アルタミラでも「やり直せない」のなら、チャンスは「脱出してから」後のことになる。
(…アルタミラから逃げて、アルテメシアに辿り着くまでは…)
 人類軍にも出会わなかったし、「やり直したい」ほどの出来事は無かった。
 アルテメシアでも平穏な日々で、「今の自分の記憶」の出番は、ミュウの子供の救出だろう。
(助け損ねた子供たちなら、一人残らず覚えてるから…)
 先回りをすれば、どの子も「無事に」シャングリラに迎えられる。
(もしかしたら、そうやって助け出した子供たちの中に…)
 優秀な人材が混じってるかも、と前向きに考えていて、ハタと気付いた。
(……大物は、ジョミー……)
 タイプ・ブルーは、ジョミー以外に「いなかった」んだよ、と現実を見詰めざるを得ない。
 どう頑張っても、ジョミーが「早めに生まれて来る」コースを、作れはしない。
 寿命の残りが少なくなるまで、頼もしいジョミーは生まれて来ない。
(…やり直すんなら、ジョミーとの出会いになるんだけれど…)
 最低最悪な出会いだったし、と「今の自分」も思うけれども、変えようが無さそう。
(分かりました、って素直に船に来るような「ジョミー」は…)
 強いだけの「ミュウ」でしかないよ、と嫌というほど分かっている。
 「ソルジャー・ブルー」に逆らうほどの人材だったからこそ、後のソルジャー・シンがあった。
(…ジョミーに嫌われて、追っかけて行って…)
 後釜に据えるしか無いんだってば、と「また、躓いた」。
 「やり直せない」のは、ジョミーについても「同じ」らしい。
(ジョミーと衝突しちゃったツケが、ずっと響いて…)
 アルテメシアを追われた後に、十五年間も「眠り続ける」ことになってしまった。
 出来るものなら「やり直したい」ポイントだけれど、体調までは「変えられはしない」。
 眠り続けて、ナスカで再び目覚める時まで、「やり直せる」地点は一つも無い。


(……ナスカなんて……)
 やり直すのは、どう転がっても無理そうだよ、とブルーは頭を抱えてしまった。
 「今の自分」の記憶があっても、それを活かせる場面の中に「前の自分」が存在しない。
(…鍵になるのは、キースなんだけどな…)
 格納庫で出会う直前まで、ぼくは「目覚めてくれない」んだし、と嘆きたくなる。
 前の自分が「眠ったままで、目覚めない」以上、記憶があっても「やり直し」は出来ない。
(…やり直すんなら、此処が最大の山場に違いないんだけどね…)
 前のぼくの人生、やり直すことも出来ないみたい、と超特大の溜息をついた。
 やり直して「違う展開」に変えてみたくても、やり方を見付けることが出来そうにない。
(…前のぼくって、大物すぎだよ…)
 誰か上手に書いてくれないかな、とプロの作家に頼みたくなる。
 「人生を上手くやり直す」ためのシナリオを。
 誰も不幸になりはしなくて、前の自分も幸せになれる筋書きの物語。
 『転生したら、ソルジャー・ブルーだった』という、うんと素敵な「転生モノ」を…。



          やり直すんなら・了


※前の生をやり直すのなら、どうすればいいか、考え始めたブルー君。転生モノの一種。
 ところが上手くやり直すには、ハードルが高すぎる前の生。プロ作家の出番かもv






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(今の人生、やり直しみたいなモンなんだよなあ…)
 実際には前の続きなんだが、とハーレイが、ふと考えたこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(考え方によっては、やり直しとも言えるだろう)
 前の生では出来なかった沢山のことを、青い地球の上でやっていけるし、やり直し。
 しかも愛おしい人も一緒で、素晴らしい人生を送ってゆけそう。
(…前のあいつを失くした時には、俺の人生、真っ暗になってしまって…)
 それから後は、どう生きていたかも記憶が定かではない。
 白いシャングリラのキャプテンとしては、全て覚えているのだけれども、他が怪しい。
(個人的なことになったら、他人事のようで…)
 傍観者でしかないんだよな、と思うくらいに、「自分」を捨ててしまっていた。
 前のブルーが「いない」人生、それには意味が無かったから。
(今から、人生、やり直せるのは、有難いぞ)
 ちょいと時代がズレちまったが、と苦笑はしても、青く蘇った地球での人生。
 時代が少しズレていようが、前の自分が「英雄扱い」の世界だろうが、構わない。
 愛おしい人と「やり直せる」なら、例え地獄の底であろうと、きっと自分は幸せだろう。
(…とはいえ、地獄は御免蒙りたいが…)
 前の生だけで充分だしな、と時の彼方を思い返して、別の考えがヒョイと浮かんだ。
 同じ「人生」を「やり直す」のなら、前の生だと、どうなるのだろう、と。
 遠く遥かな時の彼方に、「前の自分」の人生がある。
 「キャプテン・ハーレイ」として生きた時代で、その「人生」を、やり直すという考え。
(転生モノってヤツが、色々とあって…)
 死んだ人間が、生まれ変わって「別の人生」を生きてゆくという物語がある。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わるのも、「転生モノ」でいいのだろうか。


(……ふうむ……)
 その手の知識に詳しくはないが、とハーレイは少し首を捻った。
 「転生モノ」に該当するのか、しないのかまでは、知識不足で分からない。
 古典の教師をやっている上、現代小説なども好きだとはいえ、範疇外の疑問になる。
(その手の知識は、持っちゃいないし…)
 まあいいとしよう、と「転生モノ」かどうかは、棚上げにして先に進んだ。
 「今の自分」が、「前の自分」に生まれ変わって、その人生を生きてみるのも、興味深い。
(生まれ変わりなんだし、今の俺と、条件は変わらないんだよなあ?)
 何処の時点で記憶があるかは、運次第だが、と想像の翼を羽ばたかせる。
(生まれつき持っていたっていいし、途中からでもいいんだが…)
 先が分かっている人生だしな、とハーレイはコーヒーのカップを傾けた。
 「今の自分」の記憶を持っているなら、「人生の先」は分かっている。
 前のブルーと「メギドの炎で燃え上がる地獄」で出会って、後にメギドのせいで別れた。
(…まるでメギドが鍵のようだな…)
 メギドが人生の節目とは酷い、と思いはしても、今では「済んでしまったこと」でしかない。
 「仕方なかった」で終わりなのだけれど、「やり直し」ならば「違って来る」。
(転生モノの醍醐味と言えば、そういった点で…)
 定型的な筈の物語が、「転生」という要素で、ガラリと変わってゆくのが王道だろう。
 「本来、こういった人は、こう生きる」と誰もが頷く所が、人が変わって、生き方も変わる。
 「今の自分」が「前の自分」に「生まれ変わった」場合にしたって、当て嵌まりそう。
(…メギドの辺りを、ちょいとだな…)
 今の俺ならではの知識でもって、書き換えてやれば、と思わず笑みを湛えてしまった。
 始まりの方の「メギド」は、そのままにしておいても、問題は無い。
 ちょっぴり欲を出していいなら、当時は「持ち合わせなかった」記憶をプラスしてやれば…。
(閉じ込められてたシェルターが、壊れちまってて…)
 救出が間に合わなかった仲間を、先回りして何人も救い出せる。
 何処のシェルターが「無事に残っていたか」は、今の自分が覚えている。
 救出するのを後に回せば、壊れていたシェルターが「無事な間」に、きっと救える。


(よし、物語の出だしは、なかなかに…)
 良さそうじゃないか、とハーレイは自画自賛した。
 滑り出しとしては上々、幸先のいいスタートを切ることが出来そう。
(其処から先は、多分、大して…)
 大きく変わりはしないんだよな、と時の彼方を思い返した。
 幸いなことに、人類軍との「本格的な戦闘」は、アルテメシアに着くまで無かった。
 アルテメシアでも、ジョミーを救出するまでの間は、平穏な日々が流れていた。
(今の俺の記憶で救い出せるのは、そう多くなくて…)
 ミュウの子供を助ける程度だよな、と「助け損ねた子供」の数だけ指を折ってみる。
(…恐らく、この子たちの全てを…)
 俺の記憶で助けられるぞ、と「救出失敗」の理由を挙げて、ハーレイは大きく頷いた。
(そうなりゃ、ジョミーの救出にしても…)
 先回り出来る部分はありそうだが、と思うけれども、その件は、後でいいだろう。
(……問題は、メギド……)
 ナスカで出て来た、例のヤツだ、と忌まわしい惑星破壊兵器に舌打ちをする。
 流石に「メギド」は、今の自分の記憶があっても、手も足も出ない。
 使える兵器は限られているし、白いシャングリラでは「破壊出来ない」。
(…壊せないなら、アレが来るのを…)
 阻むか、キースがメギドを持ち出す前に、シャングリラでナスカから脱出するか。
(現実的な選択としては、後者で…)
 ナスカに残ろうとした者たちを、全て殴り倒してでも、強引に船に乗り込ませる。
(皆を乗せたら、ブリッジで舵をしっかり握って、シャングリラ、発進! とだ…)
 俺が号令すれば行けるぞ、とシナリオを描く。
 メギドが来る前に、ワープしさえすれば、誰もナスカで死にはしないし、前のブルーも…。
(失くさないで済んで、かなり時間がかかったとしても…)
 地球まで連れて行けそうだよな、とハーレイは笑んだ。
 「今の自分」の記憶さえあれば、前の自分が辿った道より、旅は短い。
 訪れるだろう様々な危機をヒョイと乗り越え、シャングリラは地球に辿り着ける。
 もっとも、そうして着いた「憧れの地球」の姿は、とても無残なものなのだけれど。


 前のブルーが、地球で目覚めて、赤茶けている星を見たなら、悲しむだろう。
 青い水の星を長く夢見て、焦がれ続けていたのだから。
(しかしだな…)
 どうにも出来んし、ご愛敬で勘弁して欲しい、と「転生モノ」の中のブルーに、心で詫びる。
(地球という星に生きて行けただけでも、良しとして…)
 青くない点は許してくれよ、と苦笑していて、別のルートを考え付いた。
(…メギド自体は破壊出来んが、アレが来るのを…)
 阻む方法、無いわけでも、と「非現実的だ」としか言えない方の、選択肢の先を。
(メギドが来たのは、キースがアレを持ち出したせいで…)
 ヤツさえいなけりゃ、どうとでもなるな、と「転生モノ」ならではの展開を。
(要は、キースが…)
 消えてくれればいいってことだ、と顎に手を当て、ニヤリと笑う。
(今の俺なら、先回りして…)
 ヤツを殺してしまうことが出来るぞ、と「あの後に起きた」事実を挙げてゆく。
(一度目のチャンスは、ヤツがナスカに下りて来た時で…)
 他の仲間が何と言おうが、「撃ち落とせ!」と、たった一言、命じればいい。
 キースが乗って降下して来る小型機、それを落とせば、キースは「死ぬ」。
(…実際、緊迫した場面だったし…)
 「キャプテン・ハーレイ」の判断ならば、ジョミーも従うことだろう。
 第一、ジョミーは、あの時には…。
(ナスカに下りてたわけなんだしな…?)
 俺が、撃墜させたとしたって、事後報告に過ぎん、と嬉しくなった「名案」だけども…。


(…待てよ?)
 キースが死んだら、其処から先は、どうなるんだ、と「穴」に気付いた。
 当時のキースは「悪」そのものでも、後には「人類の世界を根底から変えた英雄」になる。
(…もしも、キースを消しちまったら…)
 前のブルーは存命だけれど、地球までの旅路が、どうなるのやら、と深い溜息が零れ落ちた。
(……難問だな……)
 転生モノってヤツの中でも、人生は難しいのかもしれん、と苦い笑いをうかべるしかない。
(…やり直すなら、今の俺の人生くらいが、丁度いいのかもな…)
 平和な青い地球の上で、とカップを傾け、納得した。
 「俺の人生、これでいいんだ」と、満足で。
 今の新しい人生をくれた、神に心からの感謝をこめて、カップを乾杯のように掲げて…。



           やり直すなら・了


※前の自分に転生したなら、上手く人生をやり直せる、と思い付いたハーレイ先生。
 けれど、キースを消してしまうのは無理で、縛りが多そう。今の人生が良さそうですねv








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(美人でも、三日で飽きるって言うらしいけど…)
 今のぼくだと美人以前、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…前のぼくだと、美人だよね?)
 男だけど、と今の時代の「前の自分」の評判からも推測出来る。
 前の生では写真を撮っている暇などは無くて、公式写真の類さえも無かった。
(記録としての写真と、映像ばっかり…)
 その筈なのに、長い時が流れた今の時代は、写真集が幾つも出たりしている。
 恐らく、トォニィが生きた頃にも、似たような状況だったのだろう。
(…写真集だし、伝記とかではなくって…)
 写真を鑑賞するための本で、「ソルジャー・ブルー」の顔を眺めることが目的。
 「ソルジャー・ブルー」が美人でなければ、写真集があっても、せいぜい一冊くらい。
 現に、前のハーレイは、写真集など出版されてはいない。
 「キャプテン・ハーレイの、航宙日誌」ならば、愛蔵版までがあるというのに。
(…前のぼくって、間違いなく、美人…)
 船の仲間たちだって、そう思ってたよね、と白いシャングリラが懐かしい。
 「ソルジャー・ブルー」に夢中だった女性は多くて、特別扱いされてもいた。
(…ソルジャーだから、って言うだけじゃなくて…)
 今で言うなら、トップスターのようなものだったろう。
 船の中だけが世界の全てだったわけだし、スターの代わりに「ソルジャー・ブルー」。
(会えたらラッキー、みたいな感じだったよ)
 青の間から視察で出たりする度、熱い視線を感じていた。
 ブリッジはもちろん、通路や農場のような場所でも。


 懐かしいな、と少しの間、ブルーの思考は白い船へと飛んだのだけれど…。
(…あの頃のぼくなら、美人なのにな…)
 今だと、枠が違うんだよね、と溜息がフウと零れてしまった。
 「ソルジャー・ブルー」は美人だったけれど、今のブルーは、そうではない。
(…前のぼくに似ているっていう、チビのお子様…)
 ソルジャー・ブルーにも少年時代はあったわけだし、写真は今も残っている。
 写真集にも載っているから、今のブルーに出会った人は、驚きもする。
(小さなソルジャー・ブルーそっくり、って大喜びして…)
 記念に写真を撮る人だって少なくはない。
(…だけど、それだけ…)
 スターとは枠が違うんだよ、と自覚だったら充分にあった。
 今のブルーで喜ぶ人たちの目には、「可愛らしい」姿が映っている。
(眺めて楽しみたいトコは、同じなんだけど…)
 前のぼくはスターで、今のぼくだと愛玩動物、と情けない気分。
 スターだったら、「一緒に記念撮影」を頼み込まれて、記念の握手も求められそう。
(…今のぼくだと、そんなのは無くて…)
 頼まれる写真は「ブルーしか写っていない」ものでも、気にはされない。
 記念の握手も頼まれなくて、写真撮影させてくれた御礼を言われておしまい。
(…散歩してるペットと、同じだってば!)
 可愛い犬などを連れて散歩中の人が、公園などで頼まれる「ペットの写真撮影」。
(とても可愛いワンちゃんですね、お名前は、って…)
 飼い主に尋ねて、記念撮影、と「今の自分」と比べてみる。
 「まるでちっとも変わらないよ」と、「美人ではない」今の自分を重ね合わせて。
 今のブルーは、そういう位置付け。
 誰も「美人」と言いはしなくて、「可愛らしい」と喜ばれる。


(…美人でも、三日で飽きられるから…)
 ダメらしいけど、枠が違えば安心かも、と前向きな方に考える。
 今の自分は「美人ではない」し、ハーレイも、飽きはしないだろう。
(愛玩動物の枠と同じだしね?)
 ハーレイだって、楽しんでるトコはあるもの、と思い当たる節はドッサリとあった。
(…ぼくの頬っぺた、両手でペシャンと潰して、ハコフグ…)
 怒って膨れたら、やられてるし、と「ハコフグの刑」が浮かんで来る。
(アレをやってる時のハーレイ、いつも笑ってばっかりで…)
 絶対、ぼくをオモチャにしてるよね、と悔しいけれども、嬉しくもある。
 「愛玩動物の枠」と同じ枠に入っているから、そういった具合にからかわれる。
 飽きるどころか、顔を見る度、新鮮なのに違いない。
(…会えない日だって、珍しくないし…)
 今日だってそう、と思うくらいに、前の生とは違っている。
 前の生だと、会えない日などは、一日も無かった。
(ソルジャーとキャプテン、船のトップに立っていたから…)
 一日に一度は顔を合わせられるように、朝食の時間が設けられていた。
 毎朝、青の間で一緒に食事で、情報交換などが出来るように、と。


(……えっと……?)
 会えない日は無かった、という点が、ブルーの頭に引っ掛かった。
(…前のぼくだと、うんと美人で…)
 今でも写真集があるほどだけど、と首を傾げる。
(……前のハーレイ、飽きていないよ……?)
 毎日、美人と会っていたのに、と不思議だけれども、前のハーレイは特別だったろうか。
(何日見てても、飽きないタイプで…)
 三百年以上も飽きなかったのかな、と思い返して、感心してしまう。
(前のハーレイ、とても辛抱強かったしね…)
 飽きるなんてことは無かったんだ、と感動していて、思い違いに気が付いた。
(…違うってば!)
 飽きてる余裕が無かっただけ、と怖くなるくらいに、遠く遥かな時の彼方は「違っていた」。
(次の日が来るか、毎日、誰にも分からなくって…)
 船ごと沈められたら終わりなのだし、皆が懸命に生きていた。
 「今」があることが、白いシャングリラでは大切なことで、次のことなど保証されない。
(…飽きちゃったよ、って放り出したら、その次の日は…)
 来はしないままで、飽きたと思った「何か」に、二度と出会えるチャンスは無い。
(命ごと、全部、消えてしまって…)
 戻って来る日は来ないのだから、飽きたりはしない。
(…前のぼくには、飽きちゃったから、って…)
 ハーレイが「会いに来ないで、放っておいた日」が、船の最期になりかねない。
 そうなったならば、後悔している暇さえも無い。
(…人類軍の攻撃が来たら、ハーレイも、ぼくも…)
 顔を合わせることが出来るか、今、考えてみても危うい。
(ぼくは出撃、ハーレイはブリッジ…)
 それぞれ持ち場が違うわけだし、会えないままで命を落とせば、恋だって終わる。
(…前のぼくが、どんなに美人でも…)
 飽きただなんて、言えやしない、と嫌というほど理解出来そう。
 今の時代とは違った意味で、あの頃も、毎日が新鮮だった。
 前のハーレイは「飽きる」ことなく、前のブルーを想い続けて、死に別れた後までも、そう。


(…ということは、今のぼくだと…)
 育っちゃったら違うのかも、とブルーの背筋が冷たくなった。
(…前のぼくだった頃と、そっくり同じに育つんだから…)
 とびきりの「美人」が出来上がるわけで、今のハーレイも心待ちにしている。
(前のお前と同じ背丈に育ったら、って…)
 色々と約束までも交わして、いずれは二人で暮らすけれども…。
(…前と違って、真剣勝負じゃないんだよね…)
 今のぼくたちが暮らしてく日々、と深く考えるまでも無い。
 人類軍が襲って来ることは無いし、平穏な時が流れてゆくだけ。
(…毎朝、行ってらっしゃい、って…)
 ハーレイを送り出すのが未来の仕事で、船を見守ることなどはしない。
 二人で暮らす家を掃除してみたり、パウンドケーキを焼いてみたりと、平和そのもの。
(…ハーレイの方も、お仕事、忙しい時があったりするだけで…)
 命が懸かってなどはいないし、「明日が来るかが分からない」という状況でもない。
(…今のハーレイだったら、飽きちゃっても…)
 おかしくないんだ、と恐ろしい。
 なまじ「美人」に育つわけだし、飽きが来るのも…。
(…愛玩動物の枠よりも…)
 早いのかも、と泣きそうな気持ちになって来た。
(…もしもハーレイに、飽きられちゃったら…)
 どうすればいいの、と思考がぐるぐるしそうになる。
 飽きられてしまえば、ハーレイは、出て行ったりまではしなくても…。
(…ぼくがいたって、マイペースで…)
 本を読んだり、庭木を刈ったり、自分の世界で楽しむ日々。
 ブルーの方では、ハーレイに構って欲しいと思っているのに、知らん顔をして。


 そうなりそうだよ、と怖いけれども、対策は何も思い付かない。
(飽きられちゃったら、何をしたって…)
 ハーレイは「ブルー」に無関心だし、どうすることも出来はしないだろう。
(何処かに行こうよ、って誘ってみたって…)
 生返事になるか、出掛けた先で、「俺はこっちの方に行くから」と、別行動になるか。
(…どっちも、ホントにありそうなんだけど…!)
 困っちゃうよ、と泣きそうだから、飽きられるのは勘弁して欲しい。
 飽きられてしまったら、おしまいだから。
 いくらハーレイのことが好きでも、ハーレイはブルーに無関心になってしまうのだから…。



          飽きられちゃったら・了


※今のブルー君は、美人と呼ばれるには少し早すぎ。美人と違って、飽きはしなさそう。
 けれど、いずれは前と同じに美人なだけに、ハーレイ先生、飽きてしまうかもv








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