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一人になったなら
(今は、のんびり一人だけれど…)
 何年か経ったら違うんだよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(家の何処かに、ハーレイがいるんだし…)
 こういう時間は減っていくんだろうな、と容易に分かる。
 同じ屋根の下に、ハーレイがいるというのに、自室で一人は少ないと思う。
 リビングで一緒に過ごしていたり、キッチンで手伝いをしてみたり。
(お風呂から上がった後にも、リビングに行って…)
 コーヒーを飲んでいるハーレイと話すとか、書斎を覗きに出掛けたりしそう。
 一人きりでいる夜は減ってしまって、珍しくなることだろう。
(ぼくにしたって、一人で部屋にいるより…)
 ハーレイの姿が見える所にいたいし、自然とそうなる。
 夜に一人きりで、のんびりする方が好みなら、結婚などはしない。


 そう考えてみると、今の「一人の時間」は貴重だった。
 結婚するまでに満喫しないと、いずれは消えて無くなってしまう。
(今日はハーレイ、寄ってくれなかったけど…)
 それを恨んでいられる時間も、残り数年しかなかった。
 じきに「嫌でも、ハーレイが帰って来る」暮らしが始まる。
(帰って来るのが嫌だなんて、思うわけがないんだけど…)
 朝に喧嘩でもしたら別だけれどね、とブルーは、クスッと小さく笑った。
 ハーレイとの喧嘩だったら、今でも、たまにやったりしている。
 一方的にからかわれた挙句に、「ハーレイ、酷い!」と食って掛かるケース。
(ぼくが頬っぺた、膨らませてたら、両手でペシャンと押し潰すし…)
 その顔を見て「フグがハコフグになっちまった!」などと大笑いされる。
 あれだけは腹が立ってくるから、喧嘩を売るけれども、勝てない。
(それじゃ、俺は帰るぞ、って言うんだもの…)
 同じ家なら言えないんだから、出ていくかな、と朝の景色を思い浮かべる。
 通勤用の鞄を手にしたハーレイが、「それじゃ、俺は出るから!」と家を出ていく。
 スタスタスタと、大股にガレージに向かって、車を急発進させて学校へと。


(そういう朝だった日の後だと、ハーレイが帰って来るのが嫌かも…)
 勝ち逃げされたわけだもの、と悔しい気分の自分が見えるよう。
 「ハーレイなんか嫌いだ!」と、家の中でプンスカ怒って、当たり散らす。
(マグカップは、流石に割れちゃうから…)
 投げ付けたりはしないけれども、ハーレイの枕などは殴るかもしれない。
 腹立ちまぎれに拳をお見舞いするのもいいだろう。
(…だけど、そうやって怒っていたって…)
 夕方まで怒りが持続するかは、あまり自信が無かった。
 早い場合は、昼過ぎ頃には、もう、軟化していそう。
(ハーレイが作っておいてくれた昼御飯があったりするしね…)
 おやつも手作りのケーキなどだったら、夕方まで持ちはしないだろう。
 「早く帰って来ないかな…」と待ち侘びる方で、ハーレイの勝利で終わる一日。


(ハーレイ、そのまま帰って来ないとかは、ないんだし…)
 家には必ず帰るものね、と考えた所で、「もしも」が浮かんだ。
 本当に「必ず」帰って来るかは、確かとは言えない。
(…事故とか病気は、無いだろうけど…)
 帰れなくなってしまう場合は、皆無なのだろうか。
(…どうなのかなあ…?)
 出張とかだと、泊まりがけだし、そんな時の出がけに喧嘩はしそうにない。
 仮に喧嘩をしたって、「許すから、行ってらっしゃい!」と送り出すだろう。
 それから後には、一人が嫌なら、両親の家に行くとか、友達の家に泊まりに行くとか。
(ぼくだけ、家に一人ってことは無いよね…)
 ハーレイが帰って来る時しか、家にはいないんだし、と思いはしても、例外はありそう。
 絶対に無いとは言い切れないのが「一人きりになる夜」。
 戻る筈のハーレイが「戻れなかった場合」は、そうなってしまう。

 例えば、日帰り出張に出かけた先で、ハーレイが旧友と再会するとか。
 「久しぶりだな!」と挨拶だけで済むわけがない。
 お互い、仕事が終わった後には、待ち合わせをして食事になるのが自然な流れ。
(…お仕事が始まる前とか、お昼休みに出会っていたら…)
 今夜は遅くなるかもしれない、と連絡が入ることだろう。
 「もしかしたら、戻れないかもしれないし、お母さんたちの家に泊まれ」などと。
 けれども、帰り道でバッタリ顔を合わせたのなら、どうなるだろうか。
(ちょっと連絡を入れて来る、って、直ぐに言うのは悪そうだし…)
 連絡を入れる時間を先送りにしている間に、飲みに出掛けたら、おしまい。
(ハーレイ、遅いなあ、って待っていたら、遅い時間に…)
 通信機が鳴って、心配しながら「はい!」と出ると、楽しそうなハーレイの声。
 「悪い、今夜は帰れそうにないんだ」と、賑やかな人声がしている場所から。
(…飲みに来たから、友達の家に泊めて貰うことにした、って…)
 そう言われちゃったら、どうしよう、とブルーは、愕然とする。
 いきなり「家に一人きり」の夜で、もう両親の家に行くには遅すぎる時間。


(…友達の家にしたって、そんな時間に、バスは走っていないし…)
 タクシーを呼んで行くというのも、あまりに非常識だった。
 上の学校に行った友達が、気楽な一人暮らしにしたって、夜更けに「泊めて」は酷いだろう。
(普段から、遅い時間に押し掛けているなら、アリなんだけどなあ…)
 そうじゃない分、行きにくいよ、という気がするから、一人きりで家にいるしかない。
(心の準備が出来ていないのに、いきなり、一人…?)
 翌日の朝御飯は、なんとかなるだろうけれども、夜更けに自分だけがポツンと残される。
 何をしたらいいのか、迷うどころか、困ってしまう。
(…夜の夜中に、ハーレイがいなくて、一人になったなら…)
 自由時間が出来た気分には、きっと、なれない。
 家の中をウロウロ歩き回ったり、ハーレイのいない書斎を覗き込んだり、手持無沙汰。
 おまけに、「いきなり一人」のショックで、眠気も訪れそうになさそう。


(…そんなの、ホントに困っちゃうから…)
 今の一人の夜とは違いすぎるよ、とブルーは神に祈るしかなかった。
 いつかハーレイと暮らし始めても、「いきなり一人きりの夜」が、来ないようにと。
 「一人きりの夜」を過ごすブルーを放って、ハーレイだけが楽しんでいるのも悲しすぎる。
(…ぼくだけ、ポツンと、一人になったなら…)
 ヤケ酒でも飲んで、酔っぱらって眠り込んでしまうかも、と未来の自分の想像がついた。
 ハーレイ秘蔵のウイスキーでも呷って、床にバッタリ倒れ込んだままで、翌朝までグッスリ。
 起きたら見事な二日酔いで、立ち上がれないことだろう。
(…あんまりすぎるよ…)
 だけどありそう、と思うものだから、それだけは勘弁願いたい。
 もしも、いきなり、一人になったなら、ヤケ酒を呷って酔い潰れて眠りそうだから…。



         一人になったなら・了


※いつかハーレイ先生と暮らし始めたら、減りそうな一人きりの時間ですけど。
 遅い時間に、一人きりの夜が決定した場合、ブルー君、困ってしまいそうですよねv





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