カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(…俺としたことが…)
今日は失敗しちまったな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それはお馴染み。
今夜は、他にも「お仲間」がいる。
皿に載せて来た夜食と言うか、おやつと言うか。
(…時間的には、ちと遅いんだが…)
食うのは俺の自由だしな、とハーレイが眺めるものは、みたらし団子。
今日は帰りが遅かったけれど、中途半端な時間だった。
ブルーの家に寄るには遅かっただけで、家に帰るには、さほど遅くなかった。
(…そうなるとだ…)
少し余裕が出来てくるから、食料品店へ寄った所で、いいものを見付けた。
出張販売に来ていた店で、みたらし団子が焼かれている。
(美味そうな匂いだったし、買って帰るか、と側に行ったら…)
焼き上がった団子たちの隣に、半製品のが置かれていた。
店の秘伝のタレが添えられ、団子も串に刺してある。
(…買って帰って、家で炙れば…)
出来立ての味を再現出来るのが、売りだという。
(焼けているのを買って帰ったんでは、冷めちまうしな…)
コレにしよう、と半製品のを買うことにした。
家に帰れば夕食の支度などもあるし、ゆっくり味わうのならば、断然、半製品がいい。
「一つ下さい」と注文したら、店員は親切に教えてくれた。
焼くなら時間はこのくらい、タレも温めておくと美味しいから、と。
そういうわけで、今夜は「みたらし団子」が皿の上にいる。
コーヒーの友には、丁度いい。
(…美味いんだがなあ…)
団子もタレも絶品なんだ、と頬張るけれども、悔やまれる点があるのが惜しかった。
夕食の後に片付けをしてから、焼くことにした「みたらし団子」。
(どうせ一度に食っちまうんだし、と…)
網に並べて焼き始めたまでは良かった。
「このくらいかな」と火加減だって調整したし、上手く焼き上がる筈だった。
(…其処で失敗…)
みたらし団子は、あくまで「団子」。
魚や肉を焼くのとは違う。
半製品でも「炙るだけ」の所まで出来ているわけで、表面が熱くなって来たなら…。
(火が通るのは、早いってな…)
其処の所を忘れてたぞ、と我ながら情けなくなる。
自分自身に言い訳するなら、こうだろう。
(…正月はとうに過ぎた後だし、餅を焼くようなことも無いから…)
炙り方が、料理の方になっちまうんだ、としか言いようがない。
「みたらし団子」は、店に並べられていた品に比べて、色黒の団子になってしまった。
つまり「表面が焦げた」状態、真っ黒までは行っていないのが不幸中の幸い。
(…いい感じだな、と思った所で、火から離せば…)
こんな姿にはならなかった、と焦げた団子が悲しいけれど、仕方ない。
(まあ、パリッとした皮も味わえる、とでも…)
思っとくか、と夜食を味わう。
固くなるほど焦げてはいないし、タレもあるから、充分、美味しい。
(…焼き上がったのを買って返って、温め直すよりは…)
美味いんだしな、と負け惜しみをマグカップに向かって言ってみた。
「お前さんには分けてやらんぞ」と、ニッと笑って。
マグカップは、何も言わなかった。
みたらし団子を寄越さない「ハーレイ」に、文句を言いはしなかったけれど…。
(…文句と言えばだな…)
あいつなんだ、と頭に浮かんで来た、小さなブルー。
「ハーレイ、今日は来てくれなかったよ…」と、不満だったに違いない。
もしもブルーが、此処にいたなら…。
(焦げた団子に、文句たらたら…)
プンスカ怒っちまっていそうだよな、とハーレイは軽く肩を竦めた。
此処にいるのが「ブルー」だった時は、「分けてやらんぞ」と言える相手ではない。
むしろ、みたらし団子は「ブルー」優先、ブルー用に買って来ることになっていたろう。
(…今だからこそ、俺が一人で暮らしてて…)
好きに夜食を食べているけれど、いずれは、一人暮らしに「さよなら」を告げる。
ブルーと一緒に暮らし始めて、食事も夜食も、ブルーと食べるわけだから…。
(今日みたいに、焦がしちまったら…)
あいつの分も焦げるわけだ、と冷汗が出そう。
きっとブルーは、笑って許してくれると思いはしても、自分が悲しい。
「焦がすなんて」と、失敗したことを悔やんで、ブルーの分まで焦がしたことが悔しくて…。
(焦げた中から、マシなヤツをだ…)
コレとコレだな、と選び出してから、ブルーに渡すのだろう。
「すまんな、少し焦がしちまった。この辺は、少しマシだからな」と。
(…情けない上に、申し訳ない…)
ブルーに、焦げた団子なんて、と「後悔先に立たず」を痛感させられる。
今夜のような「少し失敗」をやらかした時は、そうなるしかない。
(…お前さんなら、何も問題無いんだがなあ…)
お前さんも、古い馴染みなのに、と愛用のマグカップに愚痴だけれども、一方で少し嬉しい。
ブルーが此処にいる時が来たなら、普段は、幸せ一杯だから。
一人きりの「気ままな時間」もいい。
みたらし団子を買って、一人で炙って、焦げたのを頬張る時間も、楽しくはある。
(とはいえ、あいつと一緒だったら…)
毎日が、もっと充実していて、張り合いだってあることだろう。
仕事に行くのも、家事をするのも、今よりも、ずっと。
(…そんな中でも、今夜みたいな失敗を…)
やらかす時が来るんだよな、と「やらかす」方の自信ならある。
ブルーと話しながら炙っている間に、焦げていたとか。
(…ありそうだぞ…)
でもって、きっと、やっちまうんだ、と「ブルーの文句」が怖いけれども、それも今だけ。
「ハーレイと一緒に暮らせない」から、ブルーは不満をぶつけて来る。
何かといえば頬をプウッと膨らませては、フグみたいな顔になったりもする。
(あの頬っぺたを、両手でペシャンと…)
潰してやって「フグが、ハコフグになっちまった」と笑い飛ばせるのも、今の間だけ。
一緒に暮らせる時が来たなら、ブルーは、今のブルーのようにはならない。
(あいつの分まで、焦がしちまっても…)
文句どころか、逆に謝ってくれるのだろう。
「ごめんね、ハーレイ…。話し掛けてた、ぼくが悪いんだよ」などと、申し訳なさそうに。
(…ついでに、あいつのことだから…)
酷く焦げた方を「ぼくが貰う」と、選び出していそう。
「いや、大丈夫だ、俺が食うから!」と、慌てて止めに入る「自分」の姿が目に見えるよう。
でないとブルーは、本当に「持ってゆく」だろう。
自分用の皿に「焦げたものばかり」載せて、自分の席へと。
(…今のあいつは、まだチビだから…)
きっと文句を言う方なんだ、と確信はしても、育ったブルーは違っていそう。
前のブルーと「そっくり同じ」に、ハーレイのことを気遣うようになって。
(……うーむ……)
それは喜ばしいことなんだが…、と思うけれども、文句を言って欲しくもある。
「なんで、ハーレイ、失敗したの!?」と、焦げてしまった「みたらし団子」を見て。
「もっと綺麗に焼けていたなら、もっと美味しく出来た筈だよ」と、未練がましく。
(…そういうブルーが、出来ちまっても…)
俺としては、ちっともかまいやしないんだ、という気もする。
前のブルーのように「気遣い過ぎて」、仲間たちのためにメギドまで飛んでしまうよりかは。
(…もしも、団子を焦がしちまったら…)
文句たらたら、「ハーレイ、ウッカリしてたんじゃない?」と顔を顰めるブルーでもいい。
酷く焦げた分を選ぶどころか、「マシなの、コレとコレだよね?」と逆の選び方。
「ぼくはマシなの、食べておくから」と、焦げた分は全部、ハーレイに押し付けて来る。
話し掛けて来た「ブルー」のせいで、焦げてしまった団子だろうが、遠慮しないで。
(…そうだな、下手に気遣うブルーよりかは…)
文句なブルーの方がいいかもしれん、と大きく頷き、焦げた団子を頬張って笑む。
「そうだ、理想は、こういうブルーかもな」と、思い付いた「ブルー」を頭に描いて。
みたらし団子でも、他の料理でも…。
(俺がウッカリ、焦がしちまったら…)
酷く焦げた分を選ぶわけでも、その逆でもなくて、「半分ずつがいいね」と笑顔のブルー。
「分けて食べれば、焦げているのも、半分になるよ」と。
「美味しい所も、焦げた所も、半分こで」と、笑ってくれる「ブルー」だといい。
気遣いは「そのくらい」が、きっといいんだ、と心から思う。
前のブルーのようになるより、「半分こして食べようよ」と微笑むブルーの方が、きっと…。
焦がしちまったら・了
※みたらし団子を焦がしてしまった、ハーレイ先生。結婚した後も、やりそうなミス。
そういう時に、ブルー君なら、どうするか。半分こを提案するブルー君だと、いいですよねv
今日は失敗しちまったな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それはお馴染み。
今夜は、他にも「お仲間」がいる。
皿に載せて来た夜食と言うか、おやつと言うか。
(…時間的には、ちと遅いんだが…)
食うのは俺の自由だしな、とハーレイが眺めるものは、みたらし団子。
今日は帰りが遅かったけれど、中途半端な時間だった。
ブルーの家に寄るには遅かっただけで、家に帰るには、さほど遅くなかった。
(…そうなるとだ…)
少し余裕が出来てくるから、食料品店へ寄った所で、いいものを見付けた。
出張販売に来ていた店で、みたらし団子が焼かれている。
(美味そうな匂いだったし、買って帰るか、と側に行ったら…)
焼き上がった団子たちの隣に、半製品のが置かれていた。
店の秘伝のタレが添えられ、団子も串に刺してある。
(…買って帰って、家で炙れば…)
出来立ての味を再現出来るのが、売りだという。
(焼けているのを買って帰ったんでは、冷めちまうしな…)
コレにしよう、と半製品のを買うことにした。
家に帰れば夕食の支度などもあるし、ゆっくり味わうのならば、断然、半製品がいい。
「一つ下さい」と注文したら、店員は親切に教えてくれた。
焼くなら時間はこのくらい、タレも温めておくと美味しいから、と。
そういうわけで、今夜は「みたらし団子」が皿の上にいる。
コーヒーの友には、丁度いい。
(…美味いんだがなあ…)
団子もタレも絶品なんだ、と頬張るけれども、悔やまれる点があるのが惜しかった。
夕食の後に片付けをしてから、焼くことにした「みたらし団子」。
(どうせ一度に食っちまうんだし、と…)
網に並べて焼き始めたまでは良かった。
「このくらいかな」と火加減だって調整したし、上手く焼き上がる筈だった。
(…其処で失敗…)
みたらし団子は、あくまで「団子」。
魚や肉を焼くのとは違う。
半製品でも「炙るだけ」の所まで出来ているわけで、表面が熱くなって来たなら…。
(火が通るのは、早いってな…)
其処の所を忘れてたぞ、と我ながら情けなくなる。
自分自身に言い訳するなら、こうだろう。
(…正月はとうに過ぎた後だし、餅を焼くようなことも無いから…)
炙り方が、料理の方になっちまうんだ、としか言いようがない。
「みたらし団子」は、店に並べられていた品に比べて、色黒の団子になってしまった。
つまり「表面が焦げた」状態、真っ黒までは行っていないのが不幸中の幸い。
(…いい感じだな、と思った所で、火から離せば…)
こんな姿にはならなかった、と焦げた団子が悲しいけれど、仕方ない。
(まあ、パリッとした皮も味わえる、とでも…)
思っとくか、と夜食を味わう。
固くなるほど焦げてはいないし、タレもあるから、充分、美味しい。
(…焼き上がったのを買って返って、温め直すよりは…)
美味いんだしな、と負け惜しみをマグカップに向かって言ってみた。
「お前さんには分けてやらんぞ」と、ニッと笑って。
マグカップは、何も言わなかった。
みたらし団子を寄越さない「ハーレイ」に、文句を言いはしなかったけれど…。
(…文句と言えばだな…)
あいつなんだ、と頭に浮かんで来た、小さなブルー。
「ハーレイ、今日は来てくれなかったよ…」と、不満だったに違いない。
もしもブルーが、此処にいたなら…。
(焦げた団子に、文句たらたら…)
プンスカ怒っちまっていそうだよな、とハーレイは軽く肩を竦めた。
此処にいるのが「ブルー」だった時は、「分けてやらんぞ」と言える相手ではない。
むしろ、みたらし団子は「ブルー」優先、ブルー用に買って来ることになっていたろう。
(…今だからこそ、俺が一人で暮らしてて…)
好きに夜食を食べているけれど、いずれは、一人暮らしに「さよなら」を告げる。
ブルーと一緒に暮らし始めて、食事も夜食も、ブルーと食べるわけだから…。
(今日みたいに、焦がしちまったら…)
あいつの分も焦げるわけだ、と冷汗が出そう。
きっとブルーは、笑って許してくれると思いはしても、自分が悲しい。
「焦がすなんて」と、失敗したことを悔やんで、ブルーの分まで焦がしたことが悔しくて…。
(焦げた中から、マシなヤツをだ…)
コレとコレだな、と選び出してから、ブルーに渡すのだろう。
「すまんな、少し焦がしちまった。この辺は、少しマシだからな」と。
(…情けない上に、申し訳ない…)
ブルーに、焦げた団子なんて、と「後悔先に立たず」を痛感させられる。
今夜のような「少し失敗」をやらかした時は、そうなるしかない。
(…お前さんなら、何も問題無いんだがなあ…)
お前さんも、古い馴染みなのに、と愛用のマグカップに愚痴だけれども、一方で少し嬉しい。
ブルーが此処にいる時が来たなら、普段は、幸せ一杯だから。
一人きりの「気ままな時間」もいい。
みたらし団子を買って、一人で炙って、焦げたのを頬張る時間も、楽しくはある。
(とはいえ、あいつと一緒だったら…)
毎日が、もっと充実していて、張り合いだってあることだろう。
仕事に行くのも、家事をするのも、今よりも、ずっと。
(…そんな中でも、今夜みたいな失敗を…)
やらかす時が来るんだよな、と「やらかす」方の自信ならある。
ブルーと話しながら炙っている間に、焦げていたとか。
(…ありそうだぞ…)
でもって、きっと、やっちまうんだ、と「ブルーの文句」が怖いけれども、それも今だけ。
「ハーレイと一緒に暮らせない」から、ブルーは不満をぶつけて来る。
何かといえば頬をプウッと膨らませては、フグみたいな顔になったりもする。
(あの頬っぺたを、両手でペシャンと…)
潰してやって「フグが、ハコフグになっちまった」と笑い飛ばせるのも、今の間だけ。
一緒に暮らせる時が来たなら、ブルーは、今のブルーのようにはならない。
(あいつの分まで、焦がしちまっても…)
文句どころか、逆に謝ってくれるのだろう。
「ごめんね、ハーレイ…。話し掛けてた、ぼくが悪いんだよ」などと、申し訳なさそうに。
(…ついでに、あいつのことだから…)
酷く焦げた方を「ぼくが貰う」と、選び出していそう。
「いや、大丈夫だ、俺が食うから!」と、慌てて止めに入る「自分」の姿が目に見えるよう。
でないとブルーは、本当に「持ってゆく」だろう。
自分用の皿に「焦げたものばかり」載せて、自分の席へと。
(…今のあいつは、まだチビだから…)
きっと文句を言う方なんだ、と確信はしても、育ったブルーは違っていそう。
前のブルーと「そっくり同じ」に、ハーレイのことを気遣うようになって。
(……うーむ……)
それは喜ばしいことなんだが…、と思うけれども、文句を言って欲しくもある。
「なんで、ハーレイ、失敗したの!?」と、焦げてしまった「みたらし団子」を見て。
「もっと綺麗に焼けていたなら、もっと美味しく出来た筈だよ」と、未練がましく。
(…そういうブルーが、出来ちまっても…)
俺としては、ちっともかまいやしないんだ、という気もする。
前のブルーのように「気遣い過ぎて」、仲間たちのためにメギドまで飛んでしまうよりかは。
(…もしも、団子を焦がしちまったら…)
文句たらたら、「ハーレイ、ウッカリしてたんじゃない?」と顔を顰めるブルーでもいい。
酷く焦げた分を選ぶどころか、「マシなの、コレとコレだよね?」と逆の選び方。
「ぼくはマシなの、食べておくから」と、焦げた分は全部、ハーレイに押し付けて来る。
話し掛けて来た「ブルー」のせいで、焦げてしまった団子だろうが、遠慮しないで。
(…そうだな、下手に気遣うブルーよりかは…)
文句なブルーの方がいいかもしれん、と大きく頷き、焦げた団子を頬張って笑む。
「そうだ、理想は、こういうブルーかもな」と、思い付いた「ブルー」を頭に描いて。
みたらし団子でも、他の料理でも…。
(俺がウッカリ、焦がしちまったら…)
酷く焦げた分を選ぶわけでも、その逆でもなくて、「半分ずつがいいね」と笑顔のブルー。
「分けて食べれば、焦げているのも、半分になるよ」と。
「美味しい所も、焦げた所も、半分こで」と、笑ってくれる「ブルー」だといい。
気遣いは「そのくらい」が、きっといいんだ、と心から思う。
前のブルーのようになるより、「半分こして食べようよ」と微笑むブルーの方が、きっと…。
焦がしちまったら・了
※みたらし団子を焦がしてしまった、ハーレイ先生。結婚した後も、やりそうなミス。
そういう時に、ブルー君なら、どうするか。半分こを提案するブルー君だと、いいですよねv
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(ちっとも覚えていなかったなんてね…)
ハーレイのこと、と小さなブルーが浮かべた苦笑。
そのハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ハーレイ、今日は来てくれなかった、って…)
考えただけでもガッカリするのに、其処まで大事なハーレイのことを、忘れていた。
今のブルーの話ではなくて、今年の五月三日が訪れるまでの人生の中で。
(…聖痕が出たら、一瞬で思い出したけど…)
実の所は、聖痕の前兆が現れた時には、怖い思いをしていた。
(もし、本当に、ソルジャー・ブルーの生まれ変わりだったら…)
当時の記憶を取り戻した途端に、「今のブルー」は消えてしまうかもしれない。
十四年間も生きて来た「ブルー」は「仮の姿」で、元の「ブルー」になってしまって。
(…そんなの怖い、って泣き出しそうで…)
絶対に嫌だと恐れていたのに、現実は違った。
(…前の記憶が戻って来たら、目の前にハーレイがいて…)
前の生での恋の続きが始まったわけで、二人分の幸せを噛み締めている。
うんとお得で、素敵なことが溢れているのが「今の人生」。
(でも、前のハーレイのこと、聖痕が出るまでは…)
綺麗サッパリ忘れて生きていたのが、情けないような気分にもなる。
時の彼方で命尽きる時、深い絶望の淵にいたのが信じられない。
(…もうハーレイには、二度と会えない、って…)
泣きじゃくりながら死んでいったくらいに、ハーレイを想い続けていた。
二度と会えないままになっても、忘れたいと願いはしなかった。
なのに、こうして「生まれ変わった」今の自分は、ハーレイを覚えているどころか…。
(…歴史の教科書とかで見たって、昔の偉い人なんだ、としか…)
思わないまま、「今のハーレイ」に出会うまでの日々を過ごした。
薄情にも程があるだろう。
あれほど愛した「ハーレイ」のことを、まるで覚えていなかったなんて。
そうなった理由に、心当たりは「ある」。
聖痕をくれた神様のせいで、そうなるように仕組まれていた、と。
(…今のぼくが、ハーレイのことを覚えていたなら…)
人生、きっと変わってたよね、と容易に想像が出来る。
いくら本物の両親がいても、愛されていても、のびのびと生きられはしなかったろう。
(…だって、覚えているんだものね…)
自分が誰か、というのはともかく、「ハーレイ」がいない人生は辛い。
ハーレイとの絆が切れたのかどうか、それも確認出来そうにない。
(今のぼくまで育って来たって、難しいよね…)
同じ地球の上に「ハーレイ」がいても、どうやって見付け出せばいいのか。
十四歳にしかならない子供の身では、新聞に広告も出せないだろう。
もちろん「探しに出掛ける」ことも出来ない。
(今のぼくでも、そうなんだから…)
生まれた直後の「赤ん坊」なら、尚更のこと。
(…病院で生まれて、目を開けてみたら…)
前の生の最後に「撃たれた右目」が、「見えている」事実に気付くと思う。
「何故、見えるんだ?」と驚いて、周りを探ろうとしても…。
(…ぼくのサイオン、うんと不器用になっちゃったから…)
いきなり盲目になったかのように、「何も見えない」。
両目の視力はあるというのに、サイオンの瞳で「見る」ことが出来ない。
(…耳も同じで…)
補聴器は無しで聞こえている、と驚きはしても、サイオンで思念を拾えない。
(…自分の目と耳だけで、探るしかなくて…)
焦りながらも懸命に事態を把握しようと努力し続けて、どの辺りで「現実」を見付けるやら。
「今の自分」は、「ソルジャー・ブルー」ではなく、生まれたばかりの「赤ん坊」。
ベッドの「ブルー」を覗き込むのは、生んでくれた母と、血の繋がった父。
(……衝撃の事実……)
どれほどショックを受けるんだろう、と「今のブルー」は肩を竦めた。
おまけに「ハーレイ」が「何処にもいない」。
前の生では、恋人としても、右腕としても、「ハーレイ」を頼りにしていたのに。
(…そのハーレイが、いなくなってて…)
赤ん坊の姿で、今の人生を歩んでゆくしかない。
今の世界の中の何処かに「ハーレイ」もいるのか、それさえも分からないままで。
(…毎日、溜息ばっかりかも…)
可愛くない赤ちゃんになってしまいそう、と思っただけでも、神様の意図が読み取れる。
「今の人生を楽しみなさい」と、「前の生の記憶」を封じたのだ、と。
(…ハーレイを忘れていないままだったら…)
溜息だらけの「赤ん坊時代」が過ぎた後には、幼稚園に行く。
幼稚園児になれば、少し世界が広くなるけれど…。
(…行き帰りの幼稚園バスの窓を、じっと見詰めて…)
窓の外を行く人を眺めて、「ハーレイ」を探し続けていそう。
対向車の窓まで、気を配るかもしれない。
(すれ違う車に、乗ってないとは限らないしね…)
目を皿のようにしての「ハーレイ探し」に、幼稚園バスでの往復は費やされる。
「ハーレイを忘れ去っていた」今の「ブルー」は、往復の時間を満喫していたというのに。
(…毎日、好奇心で一杯で…)
窓の向こうの景色や、店や、犬の散歩にも興味津々。
雨降りで視界が悪い日でさえも、水溜まりなどに注意を向けていた。
「あの車が来たら、水溜まりの水が飛び散るかな?」といった具合に。
(…幼稚園でも、休み時間はウサギ小屋とか…)
覗きに行くのが好きだったけれど、「ハーレイを探し続けるブルー」だったら違ったろう。
(…休み時間は、門の側にいたか…)
外を見られる場所に陣取って、「ハーレイ探し」で終わってしまう。
幼稚園の外を「通るかもしれない」と、懐かしい人影を探し続けて、追い求めて。
それだけ必死に探し続けても、ハーレイは「いない」。
同じ町の中に「住んでいる」のに、会える機会は訪れないまま。
(…聖痕が出るまで、時期は来ないんだし…)
無駄に費やす時間ばかりで、学校に入った後にも、似たような人生になる。
幼稚園児の頃よりも「世界が広がった」分だけ、探せる場所が増えるのだから。
(…友達と出掛けて行くにしたって…)
いつもキョロキョロ、落ち着きの無い「ブルー」が出来上がりそう。
遠足にしても、はしゃぐよりも先に「ハーレイ探し」。
(行きのバスでも、帰りのバスでも、行った先でも…)
いつもと違う場所に来たから、と普段以上に注意しながら「ハーレイ」を探す。
何処かにチラリと見えはしないか、うんと遠くに見える人まで注目して。
(…これじゃ駄目すぎ…)
ぼくの人生、台無しだよね、と溜息しか出ない。
成績は悪くないだろうけれど、それ以外の部分は「駄目な人生」。
せっかく「青い地球」に来たというのに、嬉しいとさえ思わないのだろう。
「ハーレイは何処にいるんだろう?」と探すばかりで、景色にも、本物の両親にも…。
(目を向けないで、ハーレイばかりを探し続けて…)
子供らしくなくて、新しい命を貰ったことへの感謝も、多分、無さそう。
(…そんなの、神様だって…)
嫌だろうから、忘れさせたんだよ、と分かっているのは本当だけれど…。
(…覚えていたなら、ホントに最悪…)
駄目すぎだよ、と思ってはいても、忘れていたことは、やっぱり悲しい。
「ハーレイ」を忘れて「十四年間も」、自由気ままに生きていただなんて。
(…可愛くなくても、溜息ばかりの赤ん坊でも…)
ハーレイを覚えていたかったよ、と思った所で、ハタと気付いた。
(…ぼくは覚えたままでいたって、ハーレイの方は…?)
ぼくを覚えていてくれるわけ、と自分自身に問い掛けるまでもなく、答えは明らか。
「今のハーレイ」の記憶が戻って来るのは、「今のブルーに出会えた時」。
つまり、ブルーが「懸命に探し続けた間」も、ハーレイの方は「普通の人生」。
充実した子供時代を過ごした後は、柔道や水泳に打ち込む学生時代で、それから教師に。
(…先生をやってるハーレイ、楽しそうだしね…)
仕事が忙しい時だって、と知っているから、今のハーレイの人生は幸せで溢れている。
そうやって「新しい人生」を歩んで来た「ハーレイ」と、「忘れなかったブルー」が出会う。
ハーレイは喜んでくれるけれども、ブルーが「探し続けていた」ことを知ったら…。
(…ハーレイ、うんとショックだよね…)
どうして「ブルーを忘れていられたのか」と、ハーレイは悔やむに違いない。
「覚えていたせいで」台無しになった、今のブルーの人生の方にも、思いを馳せて。
(……ハーレイ、きっと傷付いちゃうよ……)
とても真面目な「ハーレイ」だけに、一生、謝り続けていそうでもある。
「すまん、忘れてしまっていて」と、何度も何度も、繰り返して。
(…そんなハーレイ、見てるだけでも辛くなるから…)
ぼくがハーレイを覚えていたなら、そうなっちゃうし…、と改めて神に感謝する。
「覚えていなかったことは、悲しいんだけれど、これでいいから」と。
「もしも、ハーレイを覚えていたなら、ぼくもハーレイも、辛くなってた筈だものね」と…。
覚えていたなら・了
※生まれ変わってから、ハーレイのことを忘れ去っていたブルー。正確にはブルー君。
もしもハーレイを覚えていたら、人生が台無しになりそう。ハーレイ先生も、後悔は確実。
ハーレイのこと、と小さなブルーが浮かべた苦笑。
そのハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ハーレイ、今日は来てくれなかった、って…)
考えただけでもガッカリするのに、其処まで大事なハーレイのことを、忘れていた。
今のブルーの話ではなくて、今年の五月三日が訪れるまでの人生の中で。
(…聖痕が出たら、一瞬で思い出したけど…)
実の所は、聖痕の前兆が現れた時には、怖い思いをしていた。
(もし、本当に、ソルジャー・ブルーの生まれ変わりだったら…)
当時の記憶を取り戻した途端に、「今のブルー」は消えてしまうかもしれない。
十四年間も生きて来た「ブルー」は「仮の姿」で、元の「ブルー」になってしまって。
(…そんなの怖い、って泣き出しそうで…)
絶対に嫌だと恐れていたのに、現実は違った。
(…前の記憶が戻って来たら、目の前にハーレイがいて…)
前の生での恋の続きが始まったわけで、二人分の幸せを噛み締めている。
うんとお得で、素敵なことが溢れているのが「今の人生」。
(でも、前のハーレイのこと、聖痕が出るまでは…)
綺麗サッパリ忘れて生きていたのが、情けないような気分にもなる。
時の彼方で命尽きる時、深い絶望の淵にいたのが信じられない。
(…もうハーレイには、二度と会えない、って…)
泣きじゃくりながら死んでいったくらいに、ハーレイを想い続けていた。
二度と会えないままになっても、忘れたいと願いはしなかった。
なのに、こうして「生まれ変わった」今の自分は、ハーレイを覚えているどころか…。
(…歴史の教科書とかで見たって、昔の偉い人なんだ、としか…)
思わないまま、「今のハーレイ」に出会うまでの日々を過ごした。
薄情にも程があるだろう。
あれほど愛した「ハーレイ」のことを、まるで覚えていなかったなんて。
そうなった理由に、心当たりは「ある」。
聖痕をくれた神様のせいで、そうなるように仕組まれていた、と。
(…今のぼくが、ハーレイのことを覚えていたなら…)
人生、きっと変わってたよね、と容易に想像が出来る。
いくら本物の両親がいても、愛されていても、のびのびと生きられはしなかったろう。
(…だって、覚えているんだものね…)
自分が誰か、というのはともかく、「ハーレイ」がいない人生は辛い。
ハーレイとの絆が切れたのかどうか、それも確認出来そうにない。
(今のぼくまで育って来たって、難しいよね…)
同じ地球の上に「ハーレイ」がいても、どうやって見付け出せばいいのか。
十四歳にしかならない子供の身では、新聞に広告も出せないだろう。
もちろん「探しに出掛ける」ことも出来ない。
(今のぼくでも、そうなんだから…)
生まれた直後の「赤ん坊」なら、尚更のこと。
(…病院で生まれて、目を開けてみたら…)
前の生の最後に「撃たれた右目」が、「見えている」事実に気付くと思う。
「何故、見えるんだ?」と驚いて、周りを探ろうとしても…。
(…ぼくのサイオン、うんと不器用になっちゃったから…)
いきなり盲目になったかのように、「何も見えない」。
両目の視力はあるというのに、サイオンの瞳で「見る」ことが出来ない。
(…耳も同じで…)
補聴器は無しで聞こえている、と驚きはしても、サイオンで思念を拾えない。
(…自分の目と耳だけで、探るしかなくて…)
焦りながらも懸命に事態を把握しようと努力し続けて、どの辺りで「現実」を見付けるやら。
「今の自分」は、「ソルジャー・ブルー」ではなく、生まれたばかりの「赤ん坊」。
ベッドの「ブルー」を覗き込むのは、生んでくれた母と、血の繋がった父。
(……衝撃の事実……)
どれほどショックを受けるんだろう、と「今のブルー」は肩を竦めた。
おまけに「ハーレイ」が「何処にもいない」。
前の生では、恋人としても、右腕としても、「ハーレイ」を頼りにしていたのに。
(…そのハーレイが、いなくなってて…)
赤ん坊の姿で、今の人生を歩んでゆくしかない。
今の世界の中の何処かに「ハーレイ」もいるのか、それさえも分からないままで。
(…毎日、溜息ばっかりかも…)
可愛くない赤ちゃんになってしまいそう、と思っただけでも、神様の意図が読み取れる。
「今の人生を楽しみなさい」と、「前の生の記憶」を封じたのだ、と。
(…ハーレイを忘れていないままだったら…)
溜息だらけの「赤ん坊時代」が過ぎた後には、幼稚園に行く。
幼稚園児になれば、少し世界が広くなるけれど…。
(…行き帰りの幼稚園バスの窓を、じっと見詰めて…)
窓の外を行く人を眺めて、「ハーレイ」を探し続けていそう。
対向車の窓まで、気を配るかもしれない。
(すれ違う車に、乗ってないとは限らないしね…)
目を皿のようにしての「ハーレイ探し」に、幼稚園バスでの往復は費やされる。
「ハーレイを忘れ去っていた」今の「ブルー」は、往復の時間を満喫していたというのに。
(…毎日、好奇心で一杯で…)
窓の向こうの景色や、店や、犬の散歩にも興味津々。
雨降りで視界が悪い日でさえも、水溜まりなどに注意を向けていた。
「あの車が来たら、水溜まりの水が飛び散るかな?」といった具合に。
(…幼稚園でも、休み時間はウサギ小屋とか…)
覗きに行くのが好きだったけれど、「ハーレイを探し続けるブルー」だったら違ったろう。
(…休み時間は、門の側にいたか…)
外を見られる場所に陣取って、「ハーレイ探し」で終わってしまう。
幼稚園の外を「通るかもしれない」と、懐かしい人影を探し続けて、追い求めて。
それだけ必死に探し続けても、ハーレイは「いない」。
同じ町の中に「住んでいる」のに、会える機会は訪れないまま。
(…聖痕が出るまで、時期は来ないんだし…)
無駄に費やす時間ばかりで、学校に入った後にも、似たような人生になる。
幼稚園児の頃よりも「世界が広がった」分だけ、探せる場所が増えるのだから。
(…友達と出掛けて行くにしたって…)
いつもキョロキョロ、落ち着きの無い「ブルー」が出来上がりそう。
遠足にしても、はしゃぐよりも先に「ハーレイ探し」。
(行きのバスでも、帰りのバスでも、行った先でも…)
いつもと違う場所に来たから、と普段以上に注意しながら「ハーレイ」を探す。
何処かにチラリと見えはしないか、うんと遠くに見える人まで注目して。
(…これじゃ駄目すぎ…)
ぼくの人生、台無しだよね、と溜息しか出ない。
成績は悪くないだろうけれど、それ以外の部分は「駄目な人生」。
せっかく「青い地球」に来たというのに、嬉しいとさえ思わないのだろう。
「ハーレイは何処にいるんだろう?」と探すばかりで、景色にも、本物の両親にも…。
(目を向けないで、ハーレイばかりを探し続けて…)
子供らしくなくて、新しい命を貰ったことへの感謝も、多分、無さそう。
(…そんなの、神様だって…)
嫌だろうから、忘れさせたんだよ、と分かっているのは本当だけれど…。
(…覚えていたなら、ホントに最悪…)
駄目すぎだよ、と思ってはいても、忘れていたことは、やっぱり悲しい。
「ハーレイ」を忘れて「十四年間も」、自由気ままに生きていただなんて。
(…可愛くなくても、溜息ばかりの赤ん坊でも…)
ハーレイを覚えていたかったよ、と思った所で、ハタと気付いた。
(…ぼくは覚えたままでいたって、ハーレイの方は…?)
ぼくを覚えていてくれるわけ、と自分自身に問い掛けるまでもなく、答えは明らか。
「今のハーレイ」の記憶が戻って来るのは、「今のブルーに出会えた時」。
つまり、ブルーが「懸命に探し続けた間」も、ハーレイの方は「普通の人生」。
充実した子供時代を過ごした後は、柔道や水泳に打ち込む学生時代で、それから教師に。
(…先生をやってるハーレイ、楽しそうだしね…)
仕事が忙しい時だって、と知っているから、今のハーレイの人生は幸せで溢れている。
そうやって「新しい人生」を歩んで来た「ハーレイ」と、「忘れなかったブルー」が出会う。
ハーレイは喜んでくれるけれども、ブルーが「探し続けていた」ことを知ったら…。
(…ハーレイ、うんとショックだよね…)
どうして「ブルーを忘れていられたのか」と、ハーレイは悔やむに違いない。
「覚えていたせいで」台無しになった、今のブルーの人生の方にも、思いを馳せて。
(……ハーレイ、きっと傷付いちゃうよ……)
とても真面目な「ハーレイ」だけに、一生、謝り続けていそうでもある。
「すまん、忘れてしまっていて」と、何度も何度も、繰り返して。
(…そんなハーレイ、見てるだけでも辛くなるから…)
ぼくがハーレイを覚えていたなら、そうなっちゃうし…、と改めて神に感謝する。
「覚えていなかったことは、悲しいんだけれど、これでいいから」と。
「もしも、ハーレイを覚えていたなら、ぼくもハーレイも、辛くなってた筈だものね」と…。
覚えていたなら・了
※生まれ変わってから、ハーレイのことを忘れ去っていたブルー。正確にはブルー君。
もしもハーレイを覚えていたら、人生が台無しになりそう。ハーレイ先生も、後悔は確実。
(よくも忘れていられたよなあ…)
あいつのことを、とハーレイは、ふと考えた。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
もちろん、「あいつ」は、ブルーのことを指している。
青い地球の上に生まれ変わって再会してから、忘れた日など、一日も無い。
(…前の俺だって、地球の地の底で…)
瓦礫が崩れ落ちて来て、死ぬ瞬間まで、ブルーを忘れはしなかった。
(これで、あいつの所へ行けるんだ、と…)
夢見るように思いながら死んで、気付いたら、今の人生で…。
(目の前で、あいつの目から血が出て…)
全てを思い出したわけだけれども、それまで「忘れ果てていた」。
「ソルジャー・ブルー」の写真を見ようが、話を聞こうが、何も思いはしなかった。
(…薄情と言うにしても、酷すぎるぞ…)
すっかり忘れちまっていたなんて、と情けない。
あれほど愛した「ブルー」のことを忘れて、のうのうと生きていたなんて。
(…なんとも、情けないんだが…)
多分、神様のお計らいだな、という気がする。
もしも「ブルー」を覚えていたら、今の人生は、まるで違っていただろう。
(…最初から覚えていたとなったら…)
どうなるんだ、と振り返ってみることにした。
夜の時間は、考え事には相応しい。
まずは、今の人生の「最初」、出発地点に立ってみる。
(…今の俺は、隣町の病院で生まれたわけで…)
八月二十八日だから、暑い盛りで、エアコンの効いた病院の外は、晴れていたと聞く。
生まれた時点で、前の生での記憶があるなら、最初に母を見て、驚いたかもしれない。
(これは誰だ、と目を見開いて…)
それから懸命に耳を澄ませて、様子を探る間に、「補聴器が無い」と気付いたろうか。
(今の俺だと、補聴器なんぞは要らなくて…)
耳で直接、聞こえるのだから、それに気付いて驚きそう。
(そうなるのが先か、自分が「赤ん坊」だと分かるのが先か…)
どっちなのやら、と考えるけれど、補聴器の方が先になりそう。
(知らない所に来ちまったんだし、下手に動けば命取りだしな…)
なにしろ「母」が、味方かどうかも分からない。
自分の身体を見回す前に、周りの状況を把握するべき。
(…実に、とんでもない赤ん坊だな…)
可愛くないぞ、と苦笑してしまう。
母が「生みの母」だと分かるまでには、どのくらい時間がかかるのやら。
(…流石に、夜には分かりそうだが…)
親父がいるのも分かるだろうが、と思うけれども、困ったことに、自分は「赤ん坊」。
(…どうやら生まれ変わったらしい、と把握出来ても…)
そこから先へは進めない。
(自分の足で歩くどころか、喋ることさえ出来ないってな!)
赤ん坊でも、思念波らしきものは「使える」らしい。
ただし、漠然としたもので、「お腹が空いた」と伝わる程度の、拙いもの。
(…いったい、此処は何処なんだ、と訊きたくても…)
赤ん坊になった身では、複雑な思念を紡げはしない。
(…地球に生まれて来たらしい、と分かるまでにも、何ヶ月も…)
かかりそうだな、とフウと溜息が出そう。
いくら「ブルー」を覚えていようが、それどころではないだろう。
人生の最初に立った時点で、いきなり高いハードルがある。
「思い通りにならない、赤ん坊の身体」で、それを乗り越えるには何年もかかる。
(…最低でも、幼稚園に行ける程度までには…)
育たないとな、と子供時代を思い浮かべて、また溜息が一つ零れた。
(…ブルーを探しに行きたくなっても、赤ん坊では、どうにもならないし…)
幼稚園児まで育って、ようやく「外の世界」で動けるようになる。
一人で出掛けることは出来なくても、幼稚園までの往復だとか、遠足だとか。
(外の世界ってヤツに、触れる機会が増えるしな…)
行く先々で、「ブルーがいないか」見回しながら、気を付ける人生が始まりそう。
銀色の髪の人がいたなら、直ぐに視線で追い掛けるとか。
(…文字は覚えている筈だから、新聞とかも…)
出来るだけ読んで、「ブルーの手がかり」を探すのだろう。
両親は「もう、文字が読めるらしい」と喜びそうでも、やっていることは「人探し」。
(…しかしだ…)
幼稚園児では、新聞に「人を探しています」と、載せて貰うことは出来ない。
そういう記事を載せるためには、もっと大きくならないと無理。
(…せいぜい、作文…)
少々、嘘をついたって、と組み立ててみた作文は、こういう中身。
「ぼくは、前世の記憶があります。その頃の友達に、また会いたくて、書きました」。
幼い子供が書いた「作文」なのだし、上手くいけば載せて貰えそう。
「子供らしい、思い付きだ」と、新聞社の人たちも、面白がってくれて、挿絵もつけて。
(…その作文の中に、あいつなら分かってくれそうな「何か」を…)
織り込んでおけば、何処かで「ブルー」が読むかもしれない。
そうすれば「ハーレイだ!」と、ブルーの方で、気付いてくれる。
(…でもって、作文を書いた俺にだな…)
連絡を取ろう、と思ってくれれば、万々歳。
めでたく「ブルー」に会えるけれども、それは「ブルー」が、そこそこ育っていた場合。
(…新聞を読むような年で、新聞社に連絡を入れて…)
作文を書いた「ハーレイ」を探せる年なら、何も問題は無いのだけれど…。
(…今のあいつなら、出来るんだろうが…)
幼稚園児や、赤ん坊なら無理じゃないか、と特大の溜息が零れ落ちた。
「生まれていない」可能性もあるし、この方法でも、「ブルー」は見付かりそうにない。
そうやって「ブルー探し」の人生が続いて、いつまで経っても「終わらない」。
なにしろ、今のブルーが生まれたのは、ほんの14年ほど前に過ぎない。
(…あいつが生まれて、病院を出る日に…)
病院の前を、ジョギングで走っていたかもしれない、と、前にブルーと話したけれど…。
(銀色の髪に注目しながら、ジョギング中でも…)
赤ん坊まで目を配ってるとは、思えないぞ、と溜息しか出ない。
きっと「走りながら、探している」のは、前の生で見ていた「ブルー」が基準だろう。
初めて出会った「少年の姿」のブルーくらいからしか、「探す」中には入らない。
(…ついでに、今のブルーが病院を出た日は、雪がちらついてて…)
ブルーは、ストールで包まれていたと、今のブルーから聞いた。
赤ん坊をストールで包んでいたなら、髪もすっかり隠れていそう。
(冷えないように、って包むわけだし、そうなるよなあ…)
銀の欠片も見えやしない、と想像がつく。
「ブルー探し」の対象どころか、気付きもしないで、前を走って行っておしまい。
(…その後にしても、同じ町には、住んでいたって…)
行動範囲が違っているから、まるで会えない。
今のブルーが育ち始めて、銀色の髪が目立つようになって来た後でも。
(…小さい頃から、ソルジャー・ブルー風の髪型で…)
育って来たのが「ブルー」だけれども、出会う機会がまるで無ければ、どうにもならない。
(…おまけに、俺は育ち過ぎてて…)
ブルー探しの広告とかを、新聞に載せることは出来ても、今度は「ブルー」に伝わらない。
前の生の記憶を「今のブルー」は持っていないし、新聞で記事を見掛けても、読むだけ。
(…誰を探しているんだろう、って首を傾げて、それっきりだよなあ…)
これじゃ駄目だ、と何度目か分からない溜息が落ちる。
「前のブルー」を覚えていたって、出会えないまま、長い歳月が過ぎてゆく。
今の学校に転任して来た、「あの日」が訪れるまでは、ずっと。
(…ザッと数えても、三十七年だぞ…)
それだけの間、「ブルー」には会えずに、探し続けて生きる人生。
柔道や水泳に集中出来たか、それさえも謎。
(…多分、教師にはなったと思うが…)
人と出会う機会が多いからな、と自信はあるから、「今のブルー」には教室で再会出来る。
そうは言っても、三十七年もの間、「探し続ける人生」だったら、失ったものも多いだろう。
(…失うと言うか、最初っから…)
手に入れ損ねたものと言うか…、と頭に浮かんで来るのは、幾つもの優勝トロフィーや盾。
柔道も水泳も、プロの域までは「行けずじまい」に違いない。
今の自分の授業中の「雑談」にしても、中身は、うんと薄くなりそう。
(…趣味の雑学、仕入れてるより、ブルー探しで…)
あれこれ失くしていそうだよな、と苦笑いしか出て来ない。
そうならないよう、「前のブルー」を「覚えていない」人生を、神様がくれたのだと思う。
(新しい人生を、しっかりと生きて、楽しんで…)
生まれ変わって来た「ブルー」と出会えた時に、役立つように、沢山の経験と知識。
それを「積み上げておきなさい」と、神様は「覚えていない」人生にした。
(…きっと、そうだな…)
あいつのことを、覚えていたら、人生、棒に振っちまうし、とコーヒーのカップを傾ける。
(…忘れちまっていたっていうのは、情けないんだが…)
これでいいんだ、と「今のブルー」を思い描いて、笑みを浮かべた。
ブルーとは、無事に出会えたのだし、それだけでいい。
覚えていたら、出会えるまでの人生は「虚しく過ぎて行っただけ」になるのだし…。
(うん、これでいいんだ)
情けないのは、御愛嬌だな、と心から神に感謝する。
今のブルーのために役立ちそうな、様々なことを「得られた」から。
「覚えていたら」出来なかったことを、それと知らずに、積み上げたから。
今のハーレイの経験の全てが、今のブルーの「役に立つ」。
何処かへ出掛けてゆくにしたって、日々の暮らしで、料理をするとか、家事にしたって…。
覚えていたら・了
※ブルー君と再会するまで、前のブルーを忘れていた、ハーレイ先生ですけれど。
もしも、最初から記憶があったら、今の人生、変わっていそう。きっと神様のお計らいv
あいつのことを、とハーレイは、ふと考えた。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
もちろん、「あいつ」は、ブルーのことを指している。
青い地球の上に生まれ変わって再会してから、忘れた日など、一日も無い。
(…前の俺だって、地球の地の底で…)
瓦礫が崩れ落ちて来て、死ぬ瞬間まで、ブルーを忘れはしなかった。
(これで、あいつの所へ行けるんだ、と…)
夢見るように思いながら死んで、気付いたら、今の人生で…。
(目の前で、あいつの目から血が出て…)
全てを思い出したわけだけれども、それまで「忘れ果てていた」。
「ソルジャー・ブルー」の写真を見ようが、話を聞こうが、何も思いはしなかった。
(…薄情と言うにしても、酷すぎるぞ…)
すっかり忘れちまっていたなんて、と情けない。
あれほど愛した「ブルー」のことを忘れて、のうのうと生きていたなんて。
(…なんとも、情けないんだが…)
多分、神様のお計らいだな、という気がする。
もしも「ブルー」を覚えていたら、今の人生は、まるで違っていただろう。
(…最初から覚えていたとなったら…)
どうなるんだ、と振り返ってみることにした。
夜の時間は、考え事には相応しい。
まずは、今の人生の「最初」、出発地点に立ってみる。
(…今の俺は、隣町の病院で生まれたわけで…)
八月二十八日だから、暑い盛りで、エアコンの効いた病院の外は、晴れていたと聞く。
生まれた時点で、前の生での記憶があるなら、最初に母を見て、驚いたかもしれない。
(これは誰だ、と目を見開いて…)
それから懸命に耳を澄ませて、様子を探る間に、「補聴器が無い」と気付いたろうか。
(今の俺だと、補聴器なんぞは要らなくて…)
耳で直接、聞こえるのだから、それに気付いて驚きそう。
(そうなるのが先か、自分が「赤ん坊」だと分かるのが先か…)
どっちなのやら、と考えるけれど、補聴器の方が先になりそう。
(知らない所に来ちまったんだし、下手に動けば命取りだしな…)
なにしろ「母」が、味方かどうかも分からない。
自分の身体を見回す前に、周りの状況を把握するべき。
(…実に、とんでもない赤ん坊だな…)
可愛くないぞ、と苦笑してしまう。
母が「生みの母」だと分かるまでには、どのくらい時間がかかるのやら。
(…流石に、夜には分かりそうだが…)
親父がいるのも分かるだろうが、と思うけれども、困ったことに、自分は「赤ん坊」。
(…どうやら生まれ変わったらしい、と把握出来ても…)
そこから先へは進めない。
(自分の足で歩くどころか、喋ることさえ出来ないってな!)
赤ん坊でも、思念波らしきものは「使える」らしい。
ただし、漠然としたもので、「お腹が空いた」と伝わる程度の、拙いもの。
(…いったい、此処は何処なんだ、と訊きたくても…)
赤ん坊になった身では、複雑な思念を紡げはしない。
(…地球に生まれて来たらしい、と分かるまでにも、何ヶ月も…)
かかりそうだな、とフウと溜息が出そう。
いくら「ブルー」を覚えていようが、それどころではないだろう。
人生の最初に立った時点で、いきなり高いハードルがある。
「思い通りにならない、赤ん坊の身体」で、それを乗り越えるには何年もかかる。
(…最低でも、幼稚園に行ける程度までには…)
育たないとな、と子供時代を思い浮かべて、また溜息が一つ零れた。
(…ブルーを探しに行きたくなっても、赤ん坊では、どうにもならないし…)
幼稚園児まで育って、ようやく「外の世界」で動けるようになる。
一人で出掛けることは出来なくても、幼稚園までの往復だとか、遠足だとか。
(外の世界ってヤツに、触れる機会が増えるしな…)
行く先々で、「ブルーがいないか」見回しながら、気を付ける人生が始まりそう。
銀色の髪の人がいたなら、直ぐに視線で追い掛けるとか。
(…文字は覚えている筈だから、新聞とかも…)
出来るだけ読んで、「ブルーの手がかり」を探すのだろう。
両親は「もう、文字が読めるらしい」と喜びそうでも、やっていることは「人探し」。
(…しかしだ…)
幼稚園児では、新聞に「人を探しています」と、載せて貰うことは出来ない。
そういう記事を載せるためには、もっと大きくならないと無理。
(…せいぜい、作文…)
少々、嘘をついたって、と組み立ててみた作文は、こういう中身。
「ぼくは、前世の記憶があります。その頃の友達に、また会いたくて、書きました」。
幼い子供が書いた「作文」なのだし、上手くいけば載せて貰えそう。
「子供らしい、思い付きだ」と、新聞社の人たちも、面白がってくれて、挿絵もつけて。
(…その作文の中に、あいつなら分かってくれそうな「何か」を…)
織り込んでおけば、何処かで「ブルー」が読むかもしれない。
そうすれば「ハーレイだ!」と、ブルーの方で、気付いてくれる。
(…でもって、作文を書いた俺にだな…)
連絡を取ろう、と思ってくれれば、万々歳。
めでたく「ブルー」に会えるけれども、それは「ブルー」が、そこそこ育っていた場合。
(…新聞を読むような年で、新聞社に連絡を入れて…)
作文を書いた「ハーレイ」を探せる年なら、何も問題は無いのだけれど…。
(…今のあいつなら、出来るんだろうが…)
幼稚園児や、赤ん坊なら無理じゃないか、と特大の溜息が零れ落ちた。
「生まれていない」可能性もあるし、この方法でも、「ブルー」は見付かりそうにない。
そうやって「ブルー探し」の人生が続いて、いつまで経っても「終わらない」。
なにしろ、今のブルーが生まれたのは、ほんの14年ほど前に過ぎない。
(…あいつが生まれて、病院を出る日に…)
病院の前を、ジョギングで走っていたかもしれない、と、前にブルーと話したけれど…。
(銀色の髪に注目しながら、ジョギング中でも…)
赤ん坊まで目を配ってるとは、思えないぞ、と溜息しか出ない。
きっと「走りながら、探している」のは、前の生で見ていた「ブルー」が基準だろう。
初めて出会った「少年の姿」のブルーくらいからしか、「探す」中には入らない。
(…ついでに、今のブルーが病院を出た日は、雪がちらついてて…)
ブルーは、ストールで包まれていたと、今のブルーから聞いた。
赤ん坊をストールで包んでいたなら、髪もすっかり隠れていそう。
(冷えないように、って包むわけだし、そうなるよなあ…)
銀の欠片も見えやしない、と想像がつく。
「ブルー探し」の対象どころか、気付きもしないで、前を走って行っておしまい。
(…その後にしても、同じ町には、住んでいたって…)
行動範囲が違っているから、まるで会えない。
今のブルーが育ち始めて、銀色の髪が目立つようになって来た後でも。
(…小さい頃から、ソルジャー・ブルー風の髪型で…)
育って来たのが「ブルー」だけれども、出会う機会がまるで無ければ、どうにもならない。
(…おまけに、俺は育ち過ぎてて…)
ブルー探しの広告とかを、新聞に載せることは出来ても、今度は「ブルー」に伝わらない。
前の生の記憶を「今のブルー」は持っていないし、新聞で記事を見掛けても、読むだけ。
(…誰を探しているんだろう、って首を傾げて、それっきりだよなあ…)
これじゃ駄目だ、と何度目か分からない溜息が落ちる。
「前のブルー」を覚えていたって、出会えないまま、長い歳月が過ぎてゆく。
今の学校に転任して来た、「あの日」が訪れるまでは、ずっと。
(…ザッと数えても、三十七年だぞ…)
それだけの間、「ブルー」には会えずに、探し続けて生きる人生。
柔道や水泳に集中出来たか、それさえも謎。
(…多分、教師にはなったと思うが…)
人と出会う機会が多いからな、と自信はあるから、「今のブルー」には教室で再会出来る。
そうは言っても、三十七年もの間、「探し続ける人生」だったら、失ったものも多いだろう。
(…失うと言うか、最初っから…)
手に入れ損ねたものと言うか…、と頭に浮かんで来るのは、幾つもの優勝トロフィーや盾。
柔道も水泳も、プロの域までは「行けずじまい」に違いない。
今の自分の授業中の「雑談」にしても、中身は、うんと薄くなりそう。
(…趣味の雑学、仕入れてるより、ブルー探しで…)
あれこれ失くしていそうだよな、と苦笑いしか出て来ない。
そうならないよう、「前のブルー」を「覚えていない」人生を、神様がくれたのだと思う。
(新しい人生を、しっかりと生きて、楽しんで…)
生まれ変わって来た「ブルー」と出会えた時に、役立つように、沢山の経験と知識。
それを「積み上げておきなさい」と、神様は「覚えていない」人生にした。
(…きっと、そうだな…)
あいつのことを、覚えていたら、人生、棒に振っちまうし、とコーヒーのカップを傾ける。
(…忘れちまっていたっていうのは、情けないんだが…)
これでいいんだ、と「今のブルー」を思い描いて、笑みを浮かべた。
ブルーとは、無事に出会えたのだし、それだけでいい。
覚えていたら、出会えるまでの人生は「虚しく過ぎて行っただけ」になるのだし…。
(うん、これでいいんだ)
情けないのは、御愛嬌だな、と心から神に感謝する。
今のブルーのために役立ちそうな、様々なことを「得られた」から。
「覚えていたら」出来なかったことを、それと知らずに、積み上げたから。
今のハーレイの経験の全てが、今のブルーの「役に立つ」。
何処かへ出掛けてゆくにしたって、日々の暮らしで、料理をするとか、家事にしたって…。
覚えていたら・了
※ブルー君と再会するまで、前のブルーを忘れていた、ハーレイ先生ですけれど。
もしも、最初から記憶があったら、今の人生、変わっていそう。きっと神様のお計らいv
(…今日は、捕まっちゃったんだよね…)
悪いことなんかしてはいないけど、と小さなブルーが竦めた肩。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくは、普通に歩いてただけで…)
ただの学校帰りだったんだけど、と昼間の出来事を思い返して苦笑する。
いつも通りに学校を出て、家の方へと向かう路線バスに乗り込んだ。
家の近くのバス停で降りたら、後は家まで歩けばいい。
(ほんのちょっぴり、散歩気分で…)
楽に歩いて帰れる距離だし、時間もさほどかかりはしない。
それなのに、今日は…。
(うんと時間がかかっちゃった…)
ホントに歩いていただけなのに、と可笑しくもなる。
通学鞄を提げて歩いていたら、突然、声を掛けられた。
「あら、ブルー君! 丁度、良かったわ」
ケーキが焼けた所なのよ、と呼び止められて、ご近所の奥さんが生垣の向こうに。
(…後で、届けに行くつもりだったから、って…)
良かったらどうぞ、と家の中へと招かれた。
(ケーキ、冷めないと、包めないから…)
待っている間に、お茶とお菓子を召し上がれ、と誘われてしまえば、断れはしない。
ついでに言うなら、出して貰えるらしい「お菓子」にも、興味津々。
(…娘さんが住んでる、海の向こうの遠い地域の…)
名物のお菓子が送られて来たから、食べて行かない、と聞けば心が揺さぶられる。
(そのお菓子、ご近所全部に配るほどには…)
数が無いからこその、「お誘い」だろう。
ブルーの両親に渡す分さえ足りないわけで、通りかかった「ブルー」だけに、と。
(お裾分け…)
こんなチャンスは二度と無さそう、と大喜びで、お邪魔することにした。
いそいそと奥さんの後について入って、居心地のいいリビングに案内されて…。
(待っててね、って…)
奥さんが「お菓子」を用意してくれる間も、ドキドキだった。
「どんなお菓子が出て来るのかな?」と、あれこれ想像してみて、ワクワクとして。
お茶と一緒に出て来た「お菓子」は、期待以上のものだった。
(うんと昔の地球で言ったら、アラブ風ってことになるんだって…)
揚げ菓子の一種らしいけれども、「わざわざ麺を作って、細かく切ってから」揚げるもの。
(油で揚げたら、甘いシロップを絡めて、纏め上げてから、シロップを掛けて固めて…)
ブルーに出された「お菓子」は、四角い形に出来上がっていた。
娘さんが暮らす地域に行ったら、形も色々、お皿の上に盛って固めることもあるらしい。
(美味しかったし、珍しかったし…)
お菓子の話も、娘さんが暮らす地域の話も面白くて、つい…。
(…ケーキが冷める間だけ、って思ってたのに…)
長居したわけで、「ありがとうございました!」とお礼を言って出るまでに、かなりの時間。
「お母さんによろしくね!」と渡されたケーキの箱を、しっかりと持って急ぎ足で…。
(遅くなっちゃった、って…)
家に帰って、ホッと一息。
(まだまだ、ハーレイ、来ない時間だったし…)
いつもより遅い帰宅とはいえ、理由は誰も責めないものだし、証拠の品だってある。
預かって来たケーキを母に渡して、それから二階の部屋に上がって…。
(鞄を置いて、制服を脱いで…)
急ぎ足だった分の休憩、とキッチンに行って、ホットミルクを母に注文した。
(ハーレイに聞いた、シロエ風の…)
マヌカ多めのシナモン入りで、いつもの自分の席に座って、のんびりと飲んでいたけれど…。
(飲んでる途中で…)
ふと思い出した、「明日までに」と期限が切られた、今日の宿題。
大した中身ではなくて、ブルーにとっては、とても簡単な内容なのに…。
(解くのは、うんと簡単だけど…!)
答えだけを書いて「出来ました!」と提出することは許されない。
どうして「そういう答えになる」のか、途中経過を書かないと叱られてしまう。
(時間、そんなにかからないけど…!)
今日は時間が「無い」んだっけ、と大慌てでミルクの残りを喉に落とし込んだ。
(舌をちょっぴり、火傷したかも…)
まだ冷めるには早かったしね、と舌をペロリと出してみる。
幸い、あれから痛みはしないし、多分、軽症だったのだろう。
もっとも、舌を火傷していたとしても…。
(あの状況では…)
冷たい水を飲みに行く時間も惜しかったもんね、と思うくらいに、持ち時間は少なかった。
ハーレイが「仕事帰りに寄る」としたなら、それまでの間に残る時間は、ごく僅か。
(…宿題、やってしまわないと…)
後で大変なことになりそう。
明日、学校に着いてからでも、出来るけれども…。
(…宿題があるのを忘れてたんだな、って…)
クラスメイトにバレるわけだし、それは恥ずかしすぎて出来ない。
それが嫌なら、なんとしてでも「今日の間に」やっておくしかないわけで…。
(…ハーレイが来たら、宿題が出来る時間なんかは…)
取れはしなくて、ハーレイが「帰って行った」後の時間しか空いてはいない。
(そんなの、嫌だよ…!)
宿題が残っているんだけどな、と頭の隅にある状態では、ハーレイとの時間を楽しめはしない。
「ちょっと待ってね、宿題をしないとダメだから!」と「待って貰う」手もあるけれど…。
(それだと、「お前、宿題、忘れてたのか、って…)
ハーレイに言われてしまうだろう。
「珍しいな」と、笑われながらの「宿題タイム」で、ハーレイと話す時間も削られる。
(どんなコースでも、全部、困るし…!)
何が何でもやってしまおう、と机に向かって、懸命に「作業」をした。
問題を解いて「こんなの、わざわざ書かなくっても…!」と思う過程も、書き並べて。
(やっと終わったら、ホントにギリギリで…)
ハーレイが来そうな時間だったんだよね、と思い返すと冷汗が出そう。
結果的には「ハーレイが来ない日」の方で、焦って必死になっていた分、拍子抜けした。
普段だったら、「今日はハーレイ、来なかったよ…」とガッカリだけれど、今日は違った。
(…なんだ、来ない方の日だったんだ、って…)
それなら先に言っておいてよ、と少し膨れて、「来なかったハーレイ」に心で文句。
「ハーレイのせいで、焦っちゃったよ」と、自分の失敗は全部、棚に上げてしまって。
寄り道をしていて「遅くなった」のも、「宿題の存在を忘れていた」のも、自分なのに。
「来なかったハーレイ」に文句を言っていたのは、ただの八つ当たりでしかない。
ハーレイは少しも悪くないわけで、悪いのは「ブルー」一人だけ。
(…時間に追われる羽目になったの…)
ぼくのせいだ、と充分、承知している。
確かに「帰り道に、捕まった」とはいえ、捕まえた奥さんは悪くない上に…。
(あそこで長居なんかしないで、急いで帰れば…)
時間はもっと沢山あったし、敗因は「宿題の存在を忘れ果てていた」ことになるだろう。
(あの家で、お菓子を食べていた時、宿題のことを…)
覚えていたなら、食べ終えた後は「御馳走様でした」と、お礼を言って帰っている。
「娘さんが暮らす地域」のことで話が弾んで、帰りが遅くなったりはしないで。
(……大失敗……)
こんな経験、無いんだけどな、と情けなくなった所で、ハタと思い出した。
「今のブルー」は、時間に追われて「大失敗」だと、嘆き続けているけれど…。
(…あんなの、前のぼくにしてみれば…)
「追われている」どころか、ただの平和な「日常」なのに違いない。
遠く遥かな時の彼方で、「ソルジャー・ブルー」と呼ばれていた頃には、まるで違った。
(…追って来るのが、時間にしても…)
もっと「とんでもない」レベルの代物ばかりで、ミュウの未来が懸かった局面ばかり。
(…アルテメシアの地上から直接、宇宙に向かって…)
ワープしよう、と決断を下した時もそうだし、メギドに向かって飛んだ時にしても…。
(メギドが次弾を撃って来る前に…)
破壊しないと、ミュウの未来は消え失せてしまう。
そうならないよう、命を捨てるしかなくて、地球も、ハーレイも、全て諦めて…。
(…飛ぶしかなくって、宿題なんかじゃ比較にならなくて…)
今のぼくって、平和すぎるよ、と思い知らされてしまう。
たかが宿題、それに追われて「時間に追い掛けられちゃった」と嘆くだなんて。
(…平和ボケだよね…)
人生自体が、別物だけど、と「今の時代」に感謝する。
なんて平和な世界に生きているのか、つくづく実感させられた。
「今のブルー」を追って来るものは、とても平和なものでしかない。
時間もそうだし、人類軍だって、「とうの昔に」いない世の中。
「今のブルー」が捕まったものは、ご近所さんで、気のいい「奥さん」。
(…前のぼくだと、もっと恐ろしいものばかりが…)
「ソルジャー・ブルー」を捕獲しようと待ち受けていて、捕まえるか、殺すかが目的だった。
「危険なタイプ・ブルー」なのだし、「捕まえられないなら、殺してしまえ」と。
(…何もかも、すっかり変わっちゃったよ…)
シャングリラだけで暮らした時代からは、と心から思う。
そういう時代でも「前のハーレイ」が一緒にいてくれたお蔭で、生きることが出来た。
今の平和な世界だったら、あの時代よりも…。
(追われていたって、ずっと平和で、幸せだよね…)
現に今日だってそうだったよね、と勉強机の方に目を遣った。
何時間か前、あそこの椅子に座って、時間に「追われ続けていた」。
「終わらないよ!」と「面倒な宿題」と格闘しながら、ハーレイが来るのを待ってもいた。
(これさえ終われば、ハーレイが来ても安心だから、って…)
必死に宿題、焦り続けた時間だったとはいえ、あれも「幸せ」と言うのだろう。
「ハーレイが来ても、困らないように」という目的のために、追われ続けていたのだから。
(…前のぼくより、うんと幸せ…)
追って来るものも、追い掛けられてる状態だって、と頬が緩んだ。
この先もきっと、こういう具合なのだろう。
(…いつか、ハーレイと暮らし始めても…)
似たようなことがあるかもしれない。
「宿題」ではなくて、他の「何か」に追われ続けて、焦って、困りながらでも…。
(これさえ終われば、後はハーレイと…)
食事に行ったり、ドライブをしたり、と「素敵な時間」が待っている場面。
後に御褒美が待っているのは確かなのだし、それを励みに頑張れることだろう。
「早くやらなきゃ」と自分に発破で、エールを飛ばして。
(うん、ハーレイと一緒に暮らしてるなら…)
追われていたって、ぼくは平気で大丈夫、と自信があるから、少し楽しみになってもいる。
「未来のぼくは、何に追われているのかな?」と、ちょっと覗き見してみたい気分。
今のブルーが「知らない未来」は、きっと素敵に違いないから。
何かに追われて困っていたって、ハーレイがいれば、間違いなく、幸せ一杯だから…。
追われていたって・了
※寄り道したせいで、時間に追われる羽目に陥ったブルー君。宿題を忘れていた結果。
今の生では、追って来る時間も平和なもの。ハーレイと結婚した後にも、追って来るかもv
悪いことなんかしてはいないけど、と小さなブルーが竦めた肩。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくは、普通に歩いてただけで…)
ただの学校帰りだったんだけど、と昼間の出来事を思い返して苦笑する。
いつも通りに学校を出て、家の方へと向かう路線バスに乗り込んだ。
家の近くのバス停で降りたら、後は家まで歩けばいい。
(ほんのちょっぴり、散歩気分で…)
楽に歩いて帰れる距離だし、時間もさほどかかりはしない。
それなのに、今日は…。
(うんと時間がかかっちゃった…)
ホントに歩いていただけなのに、と可笑しくもなる。
通学鞄を提げて歩いていたら、突然、声を掛けられた。
「あら、ブルー君! 丁度、良かったわ」
ケーキが焼けた所なのよ、と呼び止められて、ご近所の奥さんが生垣の向こうに。
(…後で、届けに行くつもりだったから、って…)
良かったらどうぞ、と家の中へと招かれた。
(ケーキ、冷めないと、包めないから…)
待っている間に、お茶とお菓子を召し上がれ、と誘われてしまえば、断れはしない。
ついでに言うなら、出して貰えるらしい「お菓子」にも、興味津々。
(…娘さんが住んでる、海の向こうの遠い地域の…)
名物のお菓子が送られて来たから、食べて行かない、と聞けば心が揺さぶられる。
(そのお菓子、ご近所全部に配るほどには…)
数が無いからこその、「お誘い」だろう。
ブルーの両親に渡す分さえ足りないわけで、通りかかった「ブルー」だけに、と。
(お裾分け…)
こんなチャンスは二度と無さそう、と大喜びで、お邪魔することにした。
いそいそと奥さんの後について入って、居心地のいいリビングに案内されて…。
(待っててね、って…)
奥さんが「お菓子」を用意してくれる間も、ドキドキだった。
「どんなお菓子が出て来るのかな?」と、あれこれ想像してみて、ワクワクとして。
お茶と一緒に出て来た「お菓子」は、期待以上のものだった。
(うんと昔の地球で言ったら、アラブ風ってことになるんだって…)
揚げ菓子の一種らしいけれども、「わざわざ麺を作って、細かく切ってから」揚げるもの。
(油で揚げたら、甘いシロップを絡めて、纏め上げてから、シロップを掛けて固めて…)
ブルーに出された「お菓子」は、四角い形に出来上がっていた。
娘さんが暮らす地域に行ったら、形も色々、お皿の上に盛って固めることもあるらしい。
(美味しかったし、珍しかったし…)
お菓子の話も、娘さんが暮らす地域の話も面白くて、つい…。
(…ケーキが冷める間だけ、って思ってたのに…)
長居したわけで、「ありがとうございました!」とお礼を言って出るまでに、かなりの時間。
「お母さんによろしくね!」と渡されたケーキの箱を、しっかりと持って急ぎ足で…。
(遅くなっちゃった、って…)
家に帰って、ホッと一息。
(まだまだ、ハーレイ、来ない時間だったし…)
いつもより遅い帰宅とはいえ、理由は誰も責めないものだし、証拠の品だってある。
預かって来たケーキを母に渡して、それから二階の部屋に上がって…。
(鞄を置いて、制服を脱いで…)
急ぎ足だった分の休憩、とキッチンに行って、ホットミルクを母に注文した。
(ハーレイに聞いた、シロエ風の…)
マヌカ多めのシナモン入りで、いつもの自分の席に座って、のんびりと飲んでいたけれど…。
(飲んでる途中で…)
ふと思い出した、「明日までに」と期限が切られた、今日の宿題。
大した中身ではなくて、ブルーにとっては、とても簡単な内容なのに…。
(解くのは、うんと簡単だけど…!)
答えだけを書いて「出来ました!」と提出することは許されない。
どうして「そういう答えになる」のか、途中経過を書かないと叱られてしまう。
(時間、そんなにかからないけど…!)
今日は時間が「無い」んだっけ、と大慌てでミルクの残りを喉に落とし込んだ。
(舌をちょっぴり、火傷したかも…)
まだ冷めるには早かったしね、と舌をペロリと出してみる。
幸い、あれから痛みはしないし、多分、軽症だったのだろう。
もっとも、舌を火傷していたとしても…。
(あの状況では…)
冷たい水を飲みに行く時間も惜しかったもんね、と思うくらいに、持ち時間は少なかった。
ハーレイが「仕事帰りに寄る」としたなら、それまでの間に残る時間は、ごく僅か。
(…宿題、やってしまわないと…)
後で大変なことになりそう。
明日、学校に着いてからでも、出来るけれども…。
(…宿題があるのを忘れてたんだな、って…)
クラスメイトにバレるわけだし、それは恥ずかしすぎて出来ない。
それが嫌なら、なんとしてでも「今日の間に」やっておくしかないわけで…。
(…ハーレイが来たら、宿題が出来る時間なんかは…)
取れはしなくて、ハーレイが「帰って行った」後の時間しか空いてはいない。
(そんなの、嫌だよ…!)
宿題が残っているんだけどな、と頭の隅にある状態では、ハーレイとの時間を楽しめはしない。
「ちょっと待ってね、宿題をしないとダメだから!」と「待って貰う」手もあるけれど…。
(それだと、「お前、宿題、忘れてたのか、って…)
ハーレイに言われてしまうだろう。
「珍しいな」と、笑われながらの「宿題タイム」で、ハーレイと話す時間も削られる。
(どんなコースでも、全部、困るし…!)
何が何でもやってしまおう、と机に向かって、懸命に「作業」をした。
問題を解いて「こんなの、わざわざ書かなくっても…!」と思う過程も、書き並べて。
(やっと終わったら、ホントにギリギリで…)
ハーレイが来そうな時間だったんだよね、と思い返すと冷汗が出そう。
結果的には「ハーレイが来ない日」の方で、焦って必死になっていた分、拍子抜けした。
普段だったら、「今日はハーレイ、来なかったよ…」とガッカリだけれど、今日は違った。
(…なんだ、来ない方の日だったんだ、って…)
それなら先に言っておいてよ、と少し膨れて、「来なかったハーレイ」に心で文句。
「ハーレイのせいで、焦っちゃったよ」と、自分の失敗は全部、棚に上げてしまって。
寄り道をしていて「遅くなった」のも、「宿題の存在を忘れていた」のも、自分なのに。
「来なかったハーレイ」に文句を言っていたのは、ただの八つ当たりでしかない。
ハーレイは少しも悪くないわけで、悪いのは「ブルー」一人だけ。
(…時間に追われる羽目になったの…)
ぼくのせいだ、と充分、承知している。
確かに「帰り道に、捕まった」とはいえ、捕まえた奥さんは悪くない上に…。
(あそこで長居なんかしないで、急いで帰れば…)
時間はもっと沢山あったし、敗因は「宿題の存在を忘れ果てていた」ことになるだろう。
(あの家で、お菓子を食べていた時、宿題のことを…)
覚えていたなら、食べ終えた後は「御馳走様でした」と、お礼を言って帰っている。
「娘さんが暮らす地域」のことで話が弾んで、帰りが遅くなったりはしないで。
(……大失敗……)
こんな経験、無いんだけどな、と情けなくなった所で、ハタと思い出した。
「今のブルー」は、時間に追われて「大失敗」だと、嘆き続けているけれど…。
(…あんなの、前のぼくにしてみれば…)
「追われている」どころか、ただの平和な「日常」なのに違いない。
遠く遥かな時の彼方で、「ソルジャー・ブルー」と呼ばれていた頃には、まるで違った。
(…追って来るのが、時間にしても…)
もっと「とんでもない」レベルの代物ばかりで、ミュウの未来が懸かった局面ばかり。
(…アルテメシアの地上から直接、宇宙に向かって…)
ワープしよう、と決断を下した時もそうだし、メギドに向かって飛んだ時にしても…。
(メギドが次弾を撃って来る前に…)
破壊しないと、ミュウの未来は消え失せてしまう。
そうならないよう、命を捨てるしかなくて、地球も、ハーレイも、全て諦めて…。
(…飛ぶしかなくって、宿題なんかじゃ比較にならなくて…)
今のぼくって、平和すぎるよ、と思い知らされてしまう。
たかが宿題、それに追われて「時間に追い掛けられちゃった」と嘆くだなんて。
(…平和ボケだよね…)
人生自体が、別物だけど、と「今の時代」に感謝する。
なんて平和な世界に生きているのか、つくづく実感させられた。
「今のブルー」を追って来るものは、とても平和なものでしかない。
時間もそうだし、人類軍だって、「とうの昔に」いない世の中。
「今のブルー」が捕まったものは、ご近所さんで、気のいい「奥さん」。
(…前のぼくだと、もっと恐ろしいものばかりが…)
「ソルジャー・ブルー」を捕獲しようと待ち受けていて、捕まえるか、殺すかが目的だった。
「危険なタイプ・ブルー」なのだし、「捕まえられないなら、殺してしまえ」と。
(…何もかも、すっかり変わっちゃったよ…)
シャングリラだけで暮らした時代からは、と心から思う。
そういう時代でも「前のハーレイ」が一緒にいてくれたお蔭で、生きることが出来た。
今の平和な世界だったら、あの時代よりも…。
(追われていたって、ずっと平和で、幸せだよね…)
現に今日だってそうだったよね、と勉強机の方に目を遣った。
何時間か前、あそこの椅子に座って、時間に「追われ続けていた」。
「終わらないよ!」と「面倒な宿題」と格闘しながら、ハーレイが来るのを待ってもいた。
(これさえ終われば、ハーレイが来ても安心だから、って…)
必死に宿題、焦り続けた時間だったとはいえ、あれも「幸せ」と言うのだろう。
「ハーレイが来ても、困らないように」という目的のために、追われ続けていたのだから。
(…前のぼくより、うんと幸せ…)
追って来るものも、追い掛けられてる状態だって、と頬が緩んだ。
この先もきっと、こういう具合なのだろう。
(…いつか、ハーレイと暮らし始めても…)
似たようなことがあるかもしれない。
「宿題」ではなくて、他の「何か」に追われ続けて、焦って、困りながらでも…。
(これさえ終われば、後はハーレイと…)
食事に行ったり、ドライブをしたり、と「素敵な時間」が待っている場面。
後に御褒美が待っているのは確かなのだし、それを励みに頑張れることだろう。
「早くやらなきゃ」と自分に発破で、エールを飛ばして。
(うん、ハーレイと一緒に暮らしてるなら…)
追われていたって、ぼくは平気で大丈夫、と自信があるから、少し楽しみになってもいる。
「未来のぼくは、何に追われているのかな?」と、ちょっと覗き見してみたい気分。
今のブルーが「知らない未来」は、きっと素敵に違いないから。
何かに追われて困っていたって、ハーレイがいれば、間違いなく、幸せ一杯だから…。
追われていたって・了
※寄り道したせいで、時間に追われる羽目に陥ったブルー君。宿題を忘れていた結果。
今の生では、追って来る時間も平和なもの。ハーレイと結婚した後にも、追って来るかもv
(…今日は、捕まっちまったな…)
まあ、いいんだが、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…何の予定も無かったなんて、ブルーには、とても…)
言えやしないぞ、と軽く肩を竦める。
ブルーは今頃、部屋で膨れていることだろう。
そうでなければ、寂しそうな顔で俯いているか。
(ハーレイ、今日は来なかったよね、と…)
ガッカリしながら、自分自身に言い聞かせていそう。
「きっと、ハーレイ、忙しかったんだよ」と、会議や部活などを思い描いて。
(でなきゃ、同僚と飯を食いに行ったと考えてだな…)
そっちの場合は、頬っぺたを膨らませているコースになる。
「ハーレイ、酷い!」と、プンスカ怒って、楽しそうな食事風景は想像したくも無くて。
(…あいつが知ったら、怒る方だな…)
今日の俺は、とハーレイは溜息だけれど、ある意味、不意打ちでもあった。
ハーレイにも「予測不可能」なもので、青天の霹靂とも言えるだろう。
(なんで、あいつが…)
あんな所に、と頭の中に出て来る「あいつ」は、ブルーではない。
前の学校の同僚の一人で、転任前の送別会を最後に、会えていなかった。
(気のいいヤツで、いつも話が弾んでたから…)
送別会が終わって別れる時にも、交わした挨拶は「それじゃ、またな!」。
近い間に会えるつもりで、軽く手を振り、家に帰った。
転任先の学校に慣れて来たなら、連絡を取って、食事でもしよう、と算段をして。
(…あの時の予定じゃ、とうの昔に…)
彼とは再び会えていた筈で、再びどころか、三度、四度と回を重ねていただろう。
今の学校の同僚なども誘って、食事会もしたかもしれない。
(…しかしだな…)
予定は、すっかり狂ってしまって、今の「ハーレイ」は、ブルー専属になっている状態。
平日でさえ、仕事帰りに「ブルーの家まで」出掛けてゆくから、空き時間はゼロ。
(俺にしてみりゃ、うんと充実しているわけで…)
何の不満も無いものだから、今日、会った「友」は、思い出しさえしなかった。
(いや、ちゃんと覚えてはいるし、どうしてるかな、と…)
彼の家がある方を、眺めることもあったけれども、其処で「おしまい」。
(おい、どうしてる、と、だ…)
通信を入れることはしなくて、食事に誘うこともしなかったから…。
(……捕まっちまった……)
昔で言うなら、「お縄」ってヤツだな、と古典の教師らしく変換してみる。
(またな、と言ったきり、連絡もしないような俺は…)
友人にすれば「なんてヤツだ!」で、向こうからも連絡が来ないとはいえ…。
(俺の都合もあるだろうし、と遠慮してたわけで…)
実際、彼は、そう言っていた。
「今の学校、とんでもなく忙しいのかと思ってたんだが…」と、呆れ果てた顔で。
(…そりゃまあ、呆れ果てるよなあ…)
出くわした場所も悪かった、と自分でも思う。
授業の間の空き時間に出掛けた、書店だったけれど、仕事の本のフロアではなくて…。
(誰が見たって、趣味の本を探しているとしか…)
思えないフロア、ハーレイを見付けた友人の方も、そういった本を手に持っていた。
(レジに行こうとしてた所で、俺を見付けて…)
姿形を確認した後、真っ直ぐやって来たという次第。
本の棚を夢中で見ていた「ハーレイ」の肩を、その友人は、後ろからポンと叩いた。
「久しぶりだな!」と、気のいい笑顔だったけれど…。
(あいつの顔には、デカデカと…)
こういう文字が、と浮かんで来るのは「御用」の二文字。
遠い昔の「御用提灯」も、もちろんセットになっている。
(俺を、お縄にするために…)
友人は笑顔でやって来た。
「御用だ!」と、「ハーレイを捕まえる」捕り物をしに。
そういったわけで、今日のハーレイは「お縄」。
友人の顔には「逃がさないぞ」と書いてある上、出くわした場所が場所だけに…。
(…申し開きは出来ないってな…)
暇がたっぷりあるというのは、見ただけで分かる。
今の学校は多忙どころか、空き時間に自由に出歩ける職場。
友人にしても同じ状況、ハーレイを見付け出したからには、捕まえるしかない。
(仕事の後にも、時間あるだろ、と…)
質問されたら、嘘をつくのは道に反する。
(ブルーの家に行きたいから、なんて言えやしないぞ…)
恋人に会うのと、久しぶりに会った友人、どちらを優先するべきか。
答えは後者で、しかも「恋人にかまけていた」のが、友人に「お縄にされた」原因そのもの。
(逃げられるわけがないってな!)
仕方なく「お縄になった」結果は、放課後、店での待ち合わせだった。
前の学校に勤めていた頃、友人と通った行きつけの店。
(店主も、俺を覚えていてくれて…)
「お元気でしたか?」と、注文していない料理を振る舞ってくれた。
「お車ですから、お酒は出せませんしね」と、酒を一杯、奢る代わりに粋なサービス。
(ついつい、話が弾んじまって…)
友人や店主と楽しく過ごして、ついさっき、家に帰って来た。
会えないままで「今日」を過ごした、「ブルー」は思い出しもしないで。
(……本当に忘れていたってな……)
途中までは覚えていたんだが、と申し訳ない気分。
けれど、ブルーは「特殊すぎる」だけに、そうそう話すわけにはいかない。
「こういう生徒の守り役になって、忙しいんだ」とは、明かせない。
(もっと何度も会ってからしか…)
俺の近況、全て話せはしないしな、と分かっているから、黙って通した。
柔道部の話などは沢山しても、「ブルー」については、貝になって過ごしていたせいで…。
(…いつの間にやら、忘れちまって…)
御機嫌で家まで帰って来てから、やっと思い出した。
ガレージに車を入れる所で、「あいつ、膨れているだろうな…」といった具合に。
もしも「お縄」にならなかったら、ブルーには会えていただろう。
何も予定が無かったからこそ、「お縄」になって、友人と食事に出掛けて行った。
(…すまん、捕まっちまったんだ…!)
悪いことなどしていないんだが、とブルーの家の方に向かって、心で謝る。
「自覚は全く無かったんだが、追われてたんだ」と、「ついに捕まっちまってな」と。
(…俺は、あいつを探してなんかはいなかったわけで…)
友人の方だけが「探していた」となったら、「追われていた」とも言えるだろう。
「何処かでハーレイを見掛けた時には、捕まえないと」と、心に留めて。
(…捕まえて、どうこうしようってわけじゃなくても…)
単に食事をしたいだけでも、一種の「捕り物」。
「ハーレイ」を見付けることが出来なかったら、「お縄」には出来ない。
(…そして、とうとう、捕まっちまった…)
今の「俺」でも、「追われる」ことがあるんだな、と時の彼方に思いを馳せる。
遥かに遠くなった時代に、「前のハーレイ」は、常に「追われ続けて」生きていた。
ミュウというだけで「処分された」時代、逃げるより他に道は無かった。
(…前のあいつと、懸命に逃げて…)
燃えるアルタミラの地面を走って、仲間たちと宇宙に飛び立った。
それが始まり、「追われ続ける」人生を生きて、ついに地球まで行ったけれども…。
(…地球に着く前に、前のあいつは…)
いなくなってしまっていたから、前のブルーは「追われる」生き方しか知らないままだった。
前の「ハーレイ」の方は、辛うじて…。
(最後の方では、人類よりもミュウが優位だったから…)
追われてばかりの時代は終わって、追い詰める側になっていたのに、ブルーは「いない」。
それが辛くて悲しすぎたから、「追われない生き方」を満喫などはしていない。
ただ淡々と戦略を立てて、シャングリラを運んでいたというだけ。
「早く地球へ」と、「地球に着いたら、俺の役目は終わるからな」と心で繰り返して。
そんな人生を生きた「ハーレイ」が、今は「友人に追われる」時代。
あまりに平和になってしまって、ピンと来ないくらいに「違い過ぎる」。
(…他に追われるモノと言ったら…)
仕事くらいか、と可笑しくなるほど、今の時代は「追って来るもの」がいない。
(…時間も、たまに追い掛けて来るが…)
その程度だな、と数え上げてみて、ブルーの顔を思い浮かべた。
「前のブルー」ではなくて、「子供になった、今のブルー」の方。
(…あいつが、チビの間はだ…)
俺が「何か」に追われていたって、無関係だが…、とブルーの家がある方に目を遣る。
チビのブルーは、「今日のハーレイ」が「お縄になった」ことを知らない。
仕事や時間に追われている時も、「チビのブルー」は、その場には「いない」。
(…しかし、いつかは…)
二人で一緒に暮らすのだから、そうなった時は、ブルーも「居合わせる」ことがあるだろう。
(俺が、何処かで友達に…)
お縄になってしまった時には、ブルーは、其処には「いない」けれども…。
(家に通信を入れて、「すまん!」と謝って…)
帰れないことを、ブルーに詫びるか、あるいは「ブルーも」連れてゆくのか。
(…それもアリだな…)
友人に「ちょっと迎えに行って来る!」と断りさえすれば、ブルーも同席出来る。
もちろん「ブルー」は歓迎されて、友人とも仲良くなれるだろう。
別れる時には、「また会いましょう!」で、実際、じきに「次の機会」があったりもして。
(…追って来るのが、仕事や時間だったら…)
ブルーは「同じ家の中」でも、「ハーレイの邪魔にならないように」過ごすしかない。
我慢させてしまうことになるけれど、「追って来るもの」を片付けた後は、ハーレイは自由。
ブルーも「追われてなどはいない」し、直ぐにでも…。
(終わったぞ、と声を掛けてだ…)
食事に出掛けて行くのもいいし、ドライブするのも悪くない。
前のブルーとは、追われ続けるだけの人生だったけれど…。
(今だと、俺が追われていても…)
ブルーは、危険な目には遭いやしないし、追われる俺にも、メリットはある、と愉快な気持ち。
友人に追われているのだったら、「自慢のブルー」を紹介出来る。
仕事や時間の方だった時は、「早く終わらせて、ブルーと出掛けるぞ!」と励みになる。
(…なんとも素敵な人生じゃないか…!)
今の人生、追われていても、最高だぞ、と嬉しくなるほど、最高の未来が来るのが「今」。
(…前の俺には、申し訳ないんだが…)
追われ続けて生きていた分、今度の人生、うんと楽しもう、とブルーと暮らす日が待ち遠しい。
今の時代は、追われていても、平和だから。
友人や仕事くらいしか追って来なくて、ブルーのお蔭で、それも楽しめるから…。
追われていても・了
※ブルー君の家に行くつもりの日に、友人に捕まってしまったハーレイ先生。予定はパア。
けれど今では、追い掛けて来るのは、うんと平和なものばかり。前の生とは大違いv
まあ、いいんだが、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…何の予定も無かったなんて、ブルーには、とても…)
言えやしないぞ、と軽く肩を竦める。
ブルーは今頃、部屋で膨れていることだろう。
そうでなければ、寂しそうな顔で俯いているか。
(ハーレイ、今日は来なかったよね、と…)
ガッカリしながら、自分自身に言い聞かせていそう。
「きっと、ハーレイ、忙しかったんだよ」と、会議や部活などを思い描いて。
(でなきゃ、同僚と飯を食いに行ったと考えてだな…)
そっちの場合は、頬っぺたを膨らませているコースになる。
「ハーレイ、酷い!」と、プンスカ怒って、楽しそうな食事風景は想像したくも無くて。
(…あいつが知ったら、怒る方だな…)
今日の俺は、とハーレイは溜息だけれど、ある意味、不意打ちでもあった。
ハーレイにも「予測不可能」なもので、青天の霹靂とも言えるだろう。
(なんで、あいつが…)
あんな所に、と頭の中に出て来る「あいつ」は、ブルーではない。
前の学校の同僚の一人で、転任前の送別会を最後に、会えていなかった。
(気のいいヤツで、いつも話が弾んでたから…)
送別会が終わって別れる時にも、交わした挨拶は「それじゃ、またな!」。
近い間に会えるつもりで、軽く手を振り、家に帰った。
転任先の学校に慣れて来たなら、連絡を取って、食事でもしよう、と算段をして。
(…あの時の予定じゃ、とうの昔に…)
彼とは再び会えていた筈で、再びどころか、三度、四度と回を重ねていただろう。
今の学校の同僚なども誘って、食事会もしたかもしれない。
(…しかしだな…)
予定は、すっかり狂ってしまって、今の「ハーレイ」は、ブルー専属になっている状態。
平日でさえ、仕事帰りに「ブルーの家まで」出掛けてゆくから、空き時間はゼロ。
(俺にしてみりゃ、うんと充実しているわけで…)
何の不満も無いものだから、今日、会った「友」は、思い出しさえしなかった。
(いや、ちゃんと覚えてはいるし、どうしてるかな、と…)
彼の家がある方を、眺めることもあったけれども、其処で「おしまい」。
(おい、どうしてる、と、だ…)
通信を入れることはしなくて、食事に誘うこともしなかったから…。
(……捕まっちまった……)
昔で言うなら、「お縄」ってヤツだな、と古典の教師らしく変換してみる。
(またな、と言ったきり、連絡もしないような俺は…)
友人にすれば「なんてヤツだ!」で、向こうからも連絡が来ないとはいえ…。
(俺の都合もあるだろうし、と遠慮してたわけで…)
実際、彼は、そう言っていた。
「今の学校、とんでもなく忙しいのかと思ってたんだが…」と、呆れ果てた顔で。
(…そりゃまあ、呆れ果てるよなあ…)
出くわした場所も悪かった、と自分でも思う。
授業の間の空き時間に出掛けた、書店だったけれど、仕事の本のフロアではなくて…。
(誰が見たって、趣味の本を探しているとしか…)
思えないフロア、ハーレイを見付けた友人の方も、そういった本を手に持っていた。
(レジに行こうとしてた所で、俺を見付けて…)
姿形を確認した後、真っ直ぐやって来たという次第。
本の棚を夢中で見ていた「ハーレイ」の肩を、その友人は、後ろからポンと叩いた。
「久しぶりだな!」と、気のいい笑顔だったけれど…。
(あいつの顔には、デカデカと…)
こういう文字が、と浮かんで来るのは「御用」の二文字。
遠い昔の「御用提灯」も、もちろんセットになっている。
(俺を、お縄にするために…)
友人は笑顔でやって来た。
「御用だ!」と、「ハーレイを捕まえる」捕り物をしに。
そういったわけで、今日のハーレイは「お縄」。
友人の顔には「逃がさないぞ」と書いてある上、出くわした場所が場所だけに…。
(…申し開きは出来ないってな…)
暇がたっぷりあるというのは、見ただけで分かる。
今の学校は多忙どころか、空き時間に自由に出歩ける職場。
友人にしても同じ状況、ハーレイを見付け出したからには、捕まえるしかない。
(仕事の後にも、時間あるだろ、と…)
質問されたら、嘘をつくのは道に反する。
(ブルーの家に行きたいから、なんて言えやしないぞ…)
恋人に会うのと、久しぶりに会った友人、どちらを優先するべきか。
答えは後者で、しかも「恋人にかまけていた」のが、友人に「お縄にされた」原因そのもの。
(逃げられるわけがないってな!)
仕方なく「お縄になった」結果は、放課後、店での待ち合わせだった。
前の学校に勤めていた頃、友人と通った行きつけの店。
(店主も、俺を覚えていてくれて…)
「お元気でしたか?」と、注文していない料理を振る舞ってくれた。
「お車ですから、お酒は出せませんしね」と、酒を一杯、奢る代わりに粋なサービス。
(ついつい、話が弾んじまって…)
友人や店主と楽しく過ごして、ついさっき、家に帰って来た。
会えないままで「今日」を過ごした、「ブルー」は思い出しもしないで。
(……本当に忘れていたってな……)
途中までは覚えていたんだが、と申し訳ない気分。
けれど、ブルーは「特殊すぎる」だけに、そうそう話すわけにはいかない。
「こういう生徒の守り役になって、忙しいんだ」とは、明かせない。
(もっと何度も会ってからしか…)
俺の近況、全て話せはしないしな、と分かっているから、黙って通した。
柔道部の話などは沢山しても、「ブルー」については、貝になって過ごしていたせいで…。
(…いつの間にやら、忘れちまって…)
御機嫌で家まで帰って来てから、やっと思い出した。
ガレージに車を入れる所で、「あいつ、膨れているだろうな…」といった具合に。
もしも「お縄」にならなかったら、ブルーには会えていただろう。
何も予定が無かったからこそ、「お縄」になって、友人と食事に出掛けて行った。
(…すまん、捕まっちまったんだ…!)
悪いことなどしていないんだが、とブルーの家の方に向かって、心で謝る。
「自覚は全く無かったんだが、追われてたんだ」と、「ついに捕まっちまってな」と。
(…俺は、あいつを探してなんかはいなかったわけで…)
友人の方だけが「探していた」となったら、「追われていた」とも言えるだろう。
「何処かでハーレイを見掛けた時には、捕まえないと」と、心に留めて。
(…捕まえて、どうこうしようってわけじゃなくても…)
単に食事をしたいだけでも、一種の「捕り物」。
「ハーレイ」を見付けることが出来なかったら、「お縄」には出来ない。
(…そして、とうとう、捕まっちまった…)
今の「俺」でも、「追われる」ことがあるんだな、と時の彼方に思いを馳せる。
遥かに遠くなった時代に、「前のハーレイ」は、常に「追われ続けて」生きていた。
ミュウというだけで「処分された」時代、逃げるより他に道は無かった。
(…前のあいつと、懸命に逃げて…)
燃えるアルタミラの地面を走って、仲間たちと宇宙に飛び立った。
それが始まり、「追われ続ける」人生を生きて、ついに地球まで行ったけれども…。
(…地球に着く前に、前のあいつは…)
いなくなってしまっていたから、前のブルーは「追われる」生き方しか知らないままだった。
前の「ハーレイ」の方は、辛うじて…。
(最後の方では、人類よりもミュウが優位だったから…)
追われてばかりの時代は終わって、追い詰める側になっていたのに、ブルーは「いない」。
それが辛くて悲しすぎたから、「追われない生き方」を満喫などはしていない。
ただ淡々と戦略を立てて、シャングリラを運んでいたというだけ。
「早く地球へ」と、「地球に着いたら、俺の役目は終わるからな」と心で繰り返して。
そんな人生を生きた「ハーレイ」が、今は「友人に追われる」時代。
あまりに平和になってしまって、ピンと来ないくらいに「違い過ぎる」。
(…他に追われるモノと言ったら…)
仕事くらいか、と可笑しくなるほど、今の時代は「追って来るもの」がいない。
(…時間も、たまに追い掛けて来るが…)
その程度だな、と数え上げてみて、ブルーの顔を思い浮かべた。
「前のブルー」ではなくて、「子供になった、今のブルー」の方。
(…あいつが、チビの間はだ…)
俺が「何か」に追われていたって、無関係だが…、とブルーの家がある方に目を遣る。
チビのブルーは、「今日のハーレイ」が「お縄になった」ことを知らない。
仕事や時間に追われている時も、「チビのブルー」は、その場には「いない」。
(…しかし、いつかは…)
二人で一緒に暮らすのだから、そうなった時は、ブルーも「居合わせる」ことがあるだろう。
(俺が、何処かで友達に…)
お縄になってしまった時には、ブルーは、其処には「いない」けれども…。
(家に通信を入れて、「すまん!」と謝って…)
帰れないことを、ブルーに詫びるか、あるいは「ブルーも」連れてゆくのか。
(…それもアリだな…)
友人に「ちょっと迎えに行って来る!」と断りさえすれば、ブルーも同席出来る。
もちろん「ブルー」は歓迎されて、友人とも仲良くなれるだろう。
別れる時には、「また会いましょう!」で、実際、じきに「次の機会」があったりもして。
(…追って来るのが、仕事や時間だったら…)
ブルーは「同じ家の中」でも、「ハーレイの邪魔にならないように」過ごすしかない。
我慢させてしまうことになるけれど、「追って来るもの」を片付けた後は、ハーレイは自由。
ブルーも「追われてなどはいない」し、直ぐにでも…。
(終わったぞ、と声を掛けてだ…)
食事に出掛けて行くのもいいし、ドライブするのも悪くない。
前のブルーとは、追われ続けるだけの人生だったけれど…。
(今だと、俺が追われていても…)
ブルーは、危険な目には遭いやしないし、追われる俺にも、メリットはある、と愉快な気持ち。
友人に追われているのだったら、「自慢のブルー」を紹介出来る。
仕事や時間の方だった時は、「早く終わらせて、ブルーと出掛けるぞ!」と励みになる。
(…なんとも素敵な人生じゃないか…!)
今の人生、追われていても、最高だぞ、と嬉しくなるほど、最高の未来が来るのが「今」。
(…前の俺には、申し訳ないんだが…)
追われ続けて生きていた分、今度の人生、うんと楽しもう、とブルーと暮らす日が待ち遠しい。
今の時代は、追われていても、平和だから。
友人や仕事くらいしか追って来なくて、ブルーのお蔭で、それも楽しめるから…。
追われていても・了
※ブルー君の家に行くつもりの日に、友人に捕まってしまったハーレイ先生。予定はパア。
けれど今では、追い掛けて来るのは、うんと平和なものばかり。前の生とは大違いv
