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一人になったら
(今は俺しかいないわけだが…)
 いずれは二人になるんだよな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(あと数年もしたら、ブルーは卒業だから…)
 結婚式を挙げた後には、一緒に暮らすことになる。
 気ままな一人暮らしの日々にサヨナラ、そうと言えないこともなかった。
(思い立った時に、ヒョイと書斎に来るのも難しいぞ…)
 タイミングが悪いと、ブルーが機嫌を損ねちまうし、と肩を竦める。
 今よりも育ったブルーが、今と同じに頬を膨らませて怒るかもしれない。
(ハーレイ、ぼくを放っとくの!? って…)
 ありそうだよなあ、と思えて来るから、気を付けないと駄目だろう。


 数年後には、やって来るのが「自由の無い」日常。
 出勤前の朝にしたって、気分次第で早朝のジョギングには出られそうにない。
 前の日から「明日の朝には、ジョギングするから」と予告が要りそう。
(いい天気だから、って着替えて家を出ようモンなら…)
 戻った途端に、ブルーの雷が落ちるのは間違い無かった。
(ぼくの朝御飯、まだなんだけど、と膨れっ面か…)
 そうでなければ、恩着せがましく朝食が出来ているだろう。
 如何にも「ハーレイが出掛けて、直ぐに作りました」と言わんばかりの冷め具合で。


(…うーむ…)
 それはそれで愉快な暮らしなんだが、とハーレイは苦笑してしまう。
 楽しいながらも、不自由を伴う結婚生活。
 仕事帰りの寄り道にしても、朝と同じで予告か、連絡しないとブルーの怒りを招く。
(こんな時間まで、帰らないなんて、とだ…)
 夕食も食べずに待っているとか、嫌味たらしくカップ麺の空き容器が置いてあるとか。
(洗いもしないで、テーブルの上に置きっ放しで…)
 スナック菓子の袋も、開封したのが転がっていそう。
 普段のブルーは、そんな食事も、スナック菓子も、さほど好まないのに。
(俺が作った夕食を食って、デザートは、俺の土産だったり…)
 休日に作り置きした日持ちする菓子などを、ブルーは食べているだろう。
 夕食用の支度が無かったことは認めるとしても、菓子類は何か残っていたって無視。


 とんでもなく我儘に、当たり散らしそうなブルーだけれども、それも可愛い。
 前のブルーだった頃には、考えられないだけに、許してしまえる。
(…しかしだな…)
 俺の自由は失われるな、と嘆いたはずみに、思考が逸れた。
 「ハーレイの、予告なしの行動」で、ブルーが怒るのは当たり前の反応と言える。
 だったら、逆の場合はどうなることか。
(…あいつにしたって、思い付きで動くことだって…)
 有り得るだろうし、予告しないで行動を起こす場面も来そう。
(そうそう出掛けはしないと思うが、友達もいるし…)
 友達と出掛けてくる、と言って外出したまま、戻って来ないといった出来事。
 結婚しているブルーと違って、友人たちは、まだまだ上の学校で学生をしている。
 自由気ままな学生生活、ハーレイにだって覚えはドッサリとあった。


(今夜は友達と食べて来るから、とまでは聞いていて…)
 其処までは予告があった訳だし、自分一人で夕食を済ませて、久々の自由を満喫する。
 のんびり後片付けを済ませて、書斎で今夜のように、本を読んだりして待つ。
(ずいぶん遅いな、と思ってもだ…)
 学生の友達と飲みに行ったりしたなら、遅くもなりそう。
 時計を見ながら、待ち続ける間に、ブルーからの通信が入る。
(…ごめん、遅くなったから、友達に泊めて貰うね、って…)
 楽しそうな声で、アッサリと告げて、通信はプツンと切れておしまい。
(…迎えに行くから、何処なんだ、と聞き返す暇さえも…)
 与えられずに、いきなり、一人きりの夜に放り出される。
 ブルーが帰って来たら、と用意していた熱い風呂なども無駄になってしまう。


 思いがけない自由な夜だ、と受け止める前向きな気持ちには、多分、なれない。
 ずっと二人で暮らして来たから、捨てられたような気分にさえも、なりかねなかった。
(泊めて貰うね、って言ってた向こうで、ワイワイと…)
 友人たちの話し声や、笑い声が響いていたなら、なおのことだろう。
 ブルーは「楽しんでいる」のに、待っていた方のハーレイは「独りぼっち」。
 学生時代だったらともかく、今となっては、こんな時間に来てくれる友人もいない。
(…今夜は暇だから、飲みに来ないか、と…)
 同僚たちに、片っ端から声を掛けて回るには、遅すぎる。
 ブルーが予め、言ってくれていたなら、そういう過ごし方だって、出来ただろうに。


(…予想もしていない時に、一人になったら…)
 俺のダメージ、大きそうだ、とハーレイは大きな溜息を吐き出す。
 「たまには、一人暮らしの夜に戻りたい」と思っていたって、それとは事情が違う。
 いるつもりだった「ブルー」が、ぽっかりと「いない」。
 まるで、シャングリラで独りぼっちになった時代に、逆戻りしたかのよう。
(…あいつは、メギドに行ったんじゃなくて、友達の家に泊まってて…)
 賑やかな声も聞こえたんだが、と承知していても、心が遥かな時の彼方へ連れ戻される。
 「ブルーが、いない」家に残され、一人きりの夜では、きっと、そうなってしまう。
(…一人になったら、泣いちまうかもなあ…)
 何度もやられりゃ、慣れて来るだろうが、とハーレイは、低く呻くしかない。
 「なんてこった」と、「俺の心は、まだまだ昔を引き摺ってるのか」と溜息をついて…。



          一人になったら・了


※一人暮らしを満喫しているハーレイ先生。結婚した後は、自由が減りそう。
 とはいえ、ブルー君が突然いなくなる事態の場合は、楽しむどころか、ダメージかもv






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