カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(ウサギになりたかったんだよね…)
幼稚園だった頃には、と小さなブルーは、ふと思い出した。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…本気でウサギになりたかったけど…)
あの時、ウサギになれていたなら、ハーレイとの出会いも変わっていたろう。
ウサギのブルーは、今の学校に行きはしないし、いったい何処で出会えたのか。
(ぼくは野原で、ハーレイがドライブして来て、散歩していて…)
ブルーを見付けて連れて帰って、飼ってくれるのかもしれない。
(ハーレイ、ウサギの言葉が分かるのかな?)
それとも、ぼくがウサギだったら、思念波を使いこなせるのかな、などと考えてみる。
ハーレイに「ウサギの恋人」が出来た場合は、暮らしぶりも変わってしまいそう。
(学校に行くのに、ウサギ連れって…)
難しいよね、とブルーは可笑しくなった。
幼稚園ならともかく、今の学校にウサギを飼っている小屋は無い。
何処の学校も事情は同じで、ウサギ小屋は、下の学校の一部にある程度。
(ウサギ小屋があったら、授業の間は、此処にいてくれ、って…)
ハーレイが入れて行ってくれれば、帰りまで待つ。
他のウサギと一緒に食事で、遊んだり、寒い日には寄り添い合って温め合ったり。
(ウサギ小屋があれば、いいんだけどね…)
残念ながら無いとなったら、ブルーの居場所は、学校には無い。
(…出掛ける前には、ペットホテルに寄って行くのかな?)
仕事が終わるまでの間は、其処で待つことになりそう。
他にも待っている仲間がいたって、ウサギではなくて犬や猫かもしれない。
(うーん…)
つまらなさそう、と思うけれども、仕方ないから、慣れるしかない。
ウサギになっていなくて良かったよね、とブルーは、ホッと安心した。
同じ人間として再会したから、今の暮らしを満喫出来る。
不満な部分も多いとはいえ、結婚出来る年に育つ頃には、全て解消しているだろう。
(ぼくの背丈が、前のぼくだった頃と同じになったら…)
ハーレイとキスも出来るし、デートにも行ける。
ほんの数年だけの我慢で、それまでの間は耐えるしかない。
(あと十年とかじゃないから…)
幼稚園の頃とは違うものね、と振り返ってみて、ウサギ小屋のあった場所を思い浮かべる。
ハーレイが「ウサギになったブルー」と再会するより、幼稚園時代に出会った方が厄介そう。
(…結婚出来る年になるまで、十年以上も…)
ひたすら耐えて我慢の日々が続いて、キスもデートも、全て「おあずけ」。
(…あんまりすぎるよ…)
おまけに、ぼくも小さすぎるし、とブルーは部屋を見回した。
今は大きなベッドが置いてあるけれど、幼稚園の頃には、もっと小さなベッドだった。
部屋が広々していた記憶は、子供用ベッドのせいだけではない。
(勉強机も置いていないし、窓の所の、テーブルと椅子も…)
幼稚園時代のブルーは、一つも持っていなかった。
代わりに絨毯の上にクッション、オモチャが入った箱や、積み木の箱が置かれていた。
(…本棚も無くて、絵本も専用の場所があっただけ…)
ハーレイを呼ぶには、子供じみてる、とブルーは頭を抱えてしまった。
せっかく再会出来たというのに、ハーレイが恋人の部屋に来たなら、興覚めだろう。
(…何処で出会って、聖痕がどうなったのかとかも、ややこしそうで…)
幼稚園だったら大変だよね、と容易に想像がつく。
ハーレイが「幼稚園の先生」だとか、「幼稚園バスの運転手」でないと出会えなさそう。
(入園式で聖痕が出たら、大騒ぎになっちゃう…)
泣き出す子だけで済めばいいけど、と恐ろしくなった。
幼い子供は、「出血だけで怪我はしていない」聖痕現象などは理解出来ない。
パニックを起こして、倒れてしまう子も出るかもしれない。
(…ハーレイと出会うの、もっと後でないと…)
入園式は、ぼくは風邪でお休みするとか、と「出会いの瞬間」を先延ばしにする。
ついでに再会を果たす時にも、周りに他の子供がいない方が良さそう。
(…遅れて入って、ウサギ小屋を覗き込んでる時くらいかな…)
ハーレイが近付いて来て、「ウサギ見てるのか?」と声を掛けてくれて、振り向いた瞬間。
(それなら、聖痕が出ても、泣き出しちゃう子供は少なめ…)
被害は最小限で済みそうだよ、と考えたものの、それから後もかなり厄介。
幼稚園の先生か、幼稚園バスの運転手のハーレイも、恐らく「人気者」だろう。
他の子たちに引っ張りだこで、幼稚園では、ブルーが近付けるチャンスは少なそう。
(守り役だって、どうなるのかな…?)
学校に行くまでの間だけで終わりそうだし、と溜息が零れ落ちてしまう。
幼稚園の先生などのハーレイだった場合は、学校に入った時点で、多分、お別れ。
困っちゃうよね、とブルーは「今の出会い」に感謝する。
今の学校で出会ったからこそ、結婚までの待ち時間も少ない上に、一緒にいられる時間も多い。
(それに、ハーレイが家に来たって…)
座って貰うための椅子もある上、テーブルもある。
ブルーが寝込んでいる時に尋ねて来てくれても、ハーレイは其処で過ごしている。
(本棚もあるから、目に付いた本を取って読めるし…)
いいことずくめの部屋なんだから、と眺め回して、ハタと気付いた。
(出会った場所が、幼稚園だったら…)
ハーレイは「大人が過ごすには、退屈すぎる部屋」で、長い時間を費やす羽目に陥る。
幼稚園時代のブルーに、「お茶の時間」は存在しなかった。
(…お茶じゃなくって、おやつの時間で…)
母はティーセットを用意しないで、カップにミルクやココアを入れて渡してくれた。
お菓子は今と変わらなくても、お皿は小ぶりな「幼児用」だった。
(…ハーレイ先生が来てくれるから、って…)
母がティーセットを出して来るとは思えない。
ハーレイが好むコーヒーを淹れて、お菓子の皿とセットで、トレイに乗っけて…。
(絨毯の上に置いて行くのか、ちょっとした台を据えて、其処に置くのか…)
どちらにしたって、ブルーと「テーブルを挟んで、向かい合わせ」の時間にはならない。
お茶の時間を楽しむと言うより、ハーレイもブルーも、マイペースで「おやつ」を味わう。
(ぼくは積み木で遊んだりしてる合間に…)
少しずつ食べて、ハーレイは、微笑みながらコーヒー片手に「見守り」だろう。
(…そんな時間に、キスを強請りに出掛けても…)
断られてしまう以前に、様にならない。
頬っぺたに「お菓子の欠片」をくっつけたブルーが、「ぼくにキスして」では、笑われるだけ。
(おまけに、ハーレイに抱き付こうとしても…)
ぼくの身体が小さすぎるし、背中まで手が回らないかも、とブルーは愕然とさせられた。
まるで似合わない「恋人同士」で、今よりも酷くて情けない感じになって来る。
(…ハーレイと出会ったの、幼稚園だったら…)
二人きりで過ごす時間があっても、噛み合わないよ、と頭の中がぐるぐるしそう。
そういう出会いだった時には、きっと後まで笑い話で、ハーレイにからかわれ続ける人生。
(そんな人生、嫌すぎるから…!)
もっと早くに出会いたかったけど、と思いはしても、限界がある。
幼稚園での再会は「早すぎる」上に、尾を引きそうだから、諦めておこう。
ハーレイとの出会いの場所が幼稚園だったら、ハーレイには似合わない恋人だから…。
幼稚園だったら・了
※ハーレイ先生と出会った場所が幼稚園だったら、と想像してみたブルー君ですけど。
今よりも厄介な日々になりそう。第一、ハーレイ先生と釣り合いが取れないらしいですv
幼稚園だった頃には、と小さなブルーは、ふと思い出した。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…本気でウサギになりたかったけど…)
あの時、ウサギになれていたなら、ハーレイとの出会いも変わっていたろう。
ウサギのブルーは、今の学校に行きはしないし、いったい何処で出会えたのか。
(ぼくは野原で、ハーレイがドライブして来て、散歩していて…)
ブルーを見付けて連れて帰って、飼ってくれるのかもしれない。
(ハーレイ、ウサギの言葉が分かるのかな?)
それとも、ぼくがウサギだったら、思念波を使いこなせるのかな、などと考えてみる。
ハーレイに「ウサギの恋人」が出来た場合は、暮らしぶりも変わってしまいそう。
(学校に行くのに、ウサギ連れって…)
難しいよね、とブルーは可笑しくなった。
幼稚園ならともかく、今の学校にウサギを飼っている小屋は無い。
何処の学校も事情は同じで、ウサギ小屋は、下の学校の一部にある程度。
(ウサギ小屋があったら、授業の間は、此処にいてくれ、って…)
ハーレイが入れて行ってくれれば、帰りまで待つ。
他のウサギと一緒に食事で、遊んだり、寒い日には寄り添い合って温め合ったり。
(ウサギ小屋があれば、いいんだけどね…)
残念ながら無いとなったら、ブルーの居場所は、学校には無い。
(…出掛ける前には、ペットホテルに寄って行くのかな?)
仕事が終わるまでの間は、其処で待つことになりそう。
他にも待っている仲間がいたって、ウサギではなくて犬や猫かもしれない。
(うーん…)
つまらなさそう、と思うけれども、仕方ないから、慣れるしかない。
ウサギになっていなくて良かったよね、とブルーは、ホッと安心した。
同じ人間として再会したから、今の暮らしを満喫出来る。
不満な部分も多いとはいえ、結婚出来る年に育つ頃には、全て解消しているだろう。
(ぼくの背丈が、前のぼくだった頃と同じになったら…)
ハーレイとキスも出来るし、デートにも行ける。
ほんの数年だけの我慢で、それまでの間は耐えるしかない。
(あと十年とかじゃないから…)
幼稚園の頃とは違うものね、と振り返ってみて、ウサギ小屋のあった場所を思い浮かべる。
ハーレイが「ウサギになったブルー」と再会するより、幼稚園時代に出会った方が厄介そう。
(…結婚出来る年になるまで、十年以上も…)
ひたすら耐えて我慢の日々が続いて、キスもデートも、全て「おあずけ」。
(…あんまりすぎるよ…)
おまけに、ぼくも小さすぎるし、とブルーは部屋を見回した。
今は大きなベッドが置いてあるけれど、幼稚園の頃には、もっと小さなベッドだった。
部屋が広々していた記憶は、子供用ベッドのせいだけではない。
(勉強机も置いていないし、窓の所の、テーブルと椅子も…)
幼稚園時代のブルーは、一つも持っていなかった。
代わりに絨毯の上にクッション、オモチャが入った箱や、積み木の箱が置かれていた。
(…本棚も無くて、絵本も専用の場所があっただけ…)
ハーレイを呼ぶには、子供じみてる、とブルーは頭を抱えてしまった。
せっかく再会出来たというのに、ハーレイが恋人の部屋に来たなら、興覚めだろう。
(…何処で出会って、聖痕がどうなったのかとかも、ややこしそうで…)
幼稚園だったら大変だよね、と容易に想像がつく。
ハーレイが「幼稚園の先生」だとか、「幼稚園バスの運転手」でないと出会えなさそう。
(入園式で聖痕が出たら、大騒ぎになっちゃう…)
泣き出す子だけで済めばいいけど、と恐ろしくなった。
幼い子供は、「出血だけで怪我はしていない」聖痕現象などは理解出来ない。
パニックを起こして、倒れてしまう子も出るかもしれない。
(…ハーレイと出会うの、もっと後でないと…)
入園式は、ぼくは風邪でお休みするとか、と「出会いの瞬間」を先延ばしにする。
ついでに再会を果たす時にも、周りに他の子供がいない方が良さそう。
(…遅れて入って、ウサギ小屋を覗き込んでる時くらいかな…)
ハーレイが近付いて来て、「ウサギ見てるのか?」と声を掛けてくれて、振り向いた瞬間。
(それなら、聖痕が出ても、泣き出しちゃう子供は少なめ…)
被害は最小限で済みそうだよ、と考えたものの、それから後もかなり厄介。
幼稚園の先生か、幼稚園バスの運転手のハーレイも、恐らく「人気者」だろう。
他の子たちに引っ張りだこで、幼稚園では、ブルーが近付けるチャンスは少なそう。
(守り役だって、どうなるのかな…?)
学校に行くまでの間だけで終わりそうだし、と溜息が零れ落ちてしまう。
幼稚園の先生などのハーレイだった場合は、学校に入った時点で、多分、お別れ。
困っちゃうよね、とブルーは「今の出会い」に感謝する。
今の学校で出会ったからこそ、結婚までの待ち時間も少ない上に、一緒にいられる時間も多い。
(それに、ハーレイが家に来たって…)
座って貰うための椅子もある上、テーブルもある。
ブルーが寝込んでいる時に尋ねて来てくれても、ハーレイは其処で過ごしている。
(本棚もあるから、目に付いた本を取って読めるし…)
いいことずくめの部屋なんだから、と眺め回して、ハタと気付いた。
(出会った場所が、幼稚園だったら…)
ハーレイは「大人が過ごすには、退屈すぎる部屋」で、長い時間を費やす羽目に陥る。
幼稚園時代のブルーに、「お茶の時間」は存在しなかった。
(…お茶じゃなくって、おやつの時間で…)
母はティーセットを用意しないで、カップにミルクやココアを入れて渡してくれた。
お菓子は今と変わらなくても、お皿は小ぶりな「幼児用」だった。
(…ハーレイ先生が来てくれるから、って…)
母がティーセットを出して来るとは思えない。
ハーレイが好むコーヒーを淹れて、お菓子の皿とセットで、トレイに乗っけて…。
(絨毯の上に置いて行くのか、ちょっとした台を据えて、其処に置くのか…)
どちらにしたって、ブルーと「テーブルを挟んで、向かい合わせ」の時間にはならない。
お茶の時間を楽しむと言うより、ハーレイもブルーも、マイペースで「おやつ」を味わう。
(ぼくは積み木で遊んだりしてる合間に…)
少しずつ食べて、ハーレイは、微笑みながらコーヒー片手に「見守り」だろう。
(…そんな時間に、キスを強請りに出掛けても…)
断られてしまう以前に、様にならない。
頬っぺたに「お菓子の欠片」をくっつけたブルーが、「ぼくにキスして」では、笑われるだけ。
(おまけに、ハーレイに抱き付こうとしても…)
ぼくの身体が小さすぎるし、背中まで手が回らないかも、とブルーは愕然とさせられた。
まるで似合わない「恋人同士」で、今よりも酷くて情けない感じになって来る。
(…ハーレイと出会ったの、幼稚園だったら…)
二人きりで過ごす時間があっても、噛み合わないよ、と頭の中がぐるぐるしそう。
そういう出会いだった時には、きっと後まで笑い話で、ハーレイにからかわれ続ける人生。
(そんな人生、嫌すぎるから…!)
もっと早くに出会いたかったけど、と思いはしても、限界がある。
幼稚園での再会は「早すぎる」上に、尾を引きそうだから、諦めておこう。
ハーレイとの出会いの場所が幼稚園だったら、ハーレイには似合わない恋人だから…。
幼稚園だったら・了
※ハーレイ先生と出会った場所が幼稚園だったら、と想像してみたブルー君ですけど。
今よりも厄介な日々になりそう。第一、ハーレイ先生と釣り合いが取れないらしいですv
PR
(幼稚園なら、って話もあったっけな…)
そういえば、とハーレイが、ふと思い出したこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
生まれ変わって再び出会えた、愛おしい人との再会の場所は学校だった。
そのブルーと何度も話した間に、幼稚園説が出て来た。
(あいつが幼稚園児の頃に出会えていたら、と話したんだが…)
幼稚園で出会っていたなら、どうなったろう、とハーレイは気になり始めた。
(公園とかで会うのは、ありがちなんだが…)
そのものズバリは、かなり難しそう。
幼稚園という場所柄、部外者が訪れることは殆ど無い。
(親が行くのも、参観日とかで…)
それ以外の者が訪問するなら、学校活動の一環で出掛ける程度。
幼稚園の子供たちが「出て来る」機会の方が何倍も多い。
(…ふうむ…)
出会いからしてハードルが高いぞ、とハーレイは、この難題に取り組むことにした。
ブルーと幼稚園で出会うためには、ハーレイも幼稚園に入らないといけない。
今の学校は、下の学校と違って、幼稚園の子たちと一緒に動く行事は無かった。
(…俺に子供がいるわけじゃないし、どうやって入り込んだモンだか…)
関係者になるしか道は無いな、と思うし、それが手っ取り早そうだ。
幼稚園の先生になるか、送迎バスの運転手になって、雑用などもこなす立場か。
(…あいつの側にいる時間を、たっぷり取りたかったら、先生だな…)
柔道も水泳も、まるで出番は無さそうだが、と悔しいけれども、贅沢は言えない。
古典の教師の道に行かずに、幼稚園の先生になれる道を真っ直ぐ進んで、幼稚園へ。
(そもそも、そこからして有り得ない気が…)
してしまうだけに厳しそうだ、と前提条件の時点で、つまずいてしまいそう。
「やはり俺には向いていない」と、進路変更、結局は古典の教師で落ち着くコース。
(…出会いの場には、向いてないんだ…)
幼稚園ってトコはな、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
出会う前から門前払いで、幼稚園には入れないのが「ハーレイ」らしい。
(…その辺の所は、ご都合主義で…)
おとぎ話のように上手く乗り越え、幼稚園の先生になれていたなら、どうなるだろう。
ブルーが入園してくるまでの間は、「ハーレイ先生」と慕われるだろうか。
(…身体がデカいし、肩車もしてやれるしな…)
絨毯などが敷いてある場所なら、子供たちを乗せて馬になるのも、お安い御用。
一度に三人くらいは乗せられそうだし、かなり人気が高いかもしれない.
(…順風満帆で先生をやっていたら、ある日、ブルーが入園して来て…)
その場で聖痕が現れ、血塗れの姿になるというのは変わらない。
(今の学校の時と同じで、大騒ぎで…)
俺が救急車に乗って付き添いなんだ、と「実際にあった出来事」と、やっと繋がった。
ブルーの記憶も、ハーレイの記憶も戻って来るから、暫くの間は、同じように時が流れる。
互いに再会を喜び合って、時間を共有出来るけれども…。
(…なにしろ、あいつは幼稚園児で…)
扱い方が難しそうだ、と次の難問が降って来た。
十四歳のブルーでさえも、何かと我儘、困らされている恋人ではある。
幼稚園児のブルーとなったら、その比ではないように思えてしまう。
(…そうでなくても、我慢が出来ない年の頃だし…)
約束事を決めてみたって、ブルーには、きっと守れない。
「幼稚園では、俺を先生らしく扱え」と教え込んでも、遠慮しないで親し気に話す。
他の子たちが「ハーレイ先生」と呼んでいる中、ブルーだけが「ハーレイ」と呼び掛けて。
(その上、下手に親しいモンだから…)
肩車も馬も、他の子たちが並んで待つ中、割り込んで来そう。
「ハーレイ、ぼくにも!」と列をかき分け、悪びれもしないで先頭に立って。
(俺が「こら、並ばないとダメじゃないか!」と叱ったら…)
たちまちフグのように膨れっ面か、でなければ大きな声で泣き出す。
「ハーレイ先生、酷い!」と、自分が悪かったことなど、考えもせずに棚に上げて大泣き。
(…泣き声を聞いて、他の先生が…)
飛んで来るのは目に見えているし、ハーレイが叱られる方かもしれない。
「ブルー君の気持ちも、考えてあげて」と、子供は我慢が出来ないことを説かれて。
「もっと優しい言い方をして、分かりやすく!」と、お説教まで食らいそう。
もちろんブルーは、お説教の間も、「お話、まだ終わらないのかな?」と無邪気に待つだけ。
なんてこった、とハーレイは軽く頭痛がして来た。
幼稚園でのブルーとの出会いは、再会した後も「ご難続き」の日々らしい。
人気者の「ハーレイ先生」を巡って、ブルーの独占欲が発揮される。
(仕事帰りに、あいつの家に寄るのは、控えないとな…)
でなきゃ一層、増長するぞ、と思うものだから、会える時間は今よりも減ることだろう。
幼すぎるブルーが「ハーレイ先生は、ぼくだけの先生」と勘違いしないよう、距離を取る。
(…今のあいつよりも、何倍も厄介…)
いくら中身が「ブルー」でもな、と容易に想像出来てしまう。
今のブルーでも、前のブルーに比べて「抑えが効かない」。
幼稚園児のブルーとなったら、我儘放題、コントロールは不可能に近い。
(…自制心を、と教え込んでも、その自制心が…)
備わる前の時代なんだ、と分かっているから、どうにもならない。
ブルーが育って「分別がつく」年頃になるまで、トラブル続きの日かもしれない。
(ハーレイ先生は、ブルーも、他の子も、お気に入りのオモチャで…)
奪い合いしては大騒ぎなのか、とハーレイは書斎の天井を仰いだ。
「幼稚園時代のブルー」はともかく、「幼稚園での出会い」を避けられたのは幸運だった。
(…もしも出会いが、幼稚園なら…)
俺が幼稚園の先生だったら、と溜息しか出ない有様なのだし、今の出会いでいいのだろう。
今のブルーも、かなり厄介な「ませた子供」とはいえ、幼稚園児のブルーよりはマシ。
(…出会ってた場所が幼稚園なら、ご難続きで卒園してった後もだな…)
付き合いが続いて、今のブルーの時代もやって来るんだ、とハーレイは軽く肩を竦めた。
(幼稚園で出会って、あいつが結婚出来る年になるまで…)
待ちぼうけどころか、受難までだぞ、と思うものだから、神様に感謝するしかない。
「今の出会いで幸運でした」と、振り回される年数が少なめなことを…。
幼稚園なら・了
※もしも、ブルー君と幼稚園で出会っていたら、と考えてみたハーレイ先生。
幼稚園の先生のハーレイの奪い合いとか、トラブルが多そう。今の出会いが一番ですよねv
そういえば、とハーレイが、ふと思い出したこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
生まれ変わって再び出会えた、愛おしい人との再会の場所は学校だった。
そのブルーと何度も話した間に、幼稚園説が出て来た。
(あいつが幼稚園児の頃に出会えていたら、と話したんだが…)
幼稚園で出会っていたなら、どうなったろう、とハーレイは気になり始めた。
(公園とかで会うのは、ありがちなんだが…)
そのものズバリは、かなり難しそう。
幼稚園という場所柄、部外者が訪れることは殆ど無い。
(親が行くのも、参観日とかで…)
それ以外の者が訪問するなら、学校活動の一環で出掛ける程度。
幼稚園の子供たちが「出て来る」機会の方が何倍も多い。
(…ふうむ…)
出会いからしてハードルが高いぞ、とハーレイは、この難題に取り組むことにした。
ブルーと幼稚園で出会うためには、ハーレイも幼稚園に入らないといけない。
今の学校は、下の学校と違って、幼稚園の子たちと一緒に動く行事は無かった。
(…俺に子供がいるわけじゃないし、どうやって入り込んだモンだか…)
関係者になるしか道は無いな、と思うし、それが手っ取り早そうだ。
幼稚園の先生になるか、送迎バスの運転手になって、雑用などもこなす立場か。
(…あいつの側にいる時間を、たっぷり取りたかったら、先生だな…)
柔道も水泳も、まるで出番は無さそうだが、と悔しいけれども、贅沢は言えない。
古典の教師の道に行かずに、幼稚園の先生になれる道を真っ直ぐ進んで、幼稚園へ。
(そもそも、そこからして有り得ない気が…)
してしまうだけに厳しそうだ、と前提条件の時点で、つまずいてしまいそう。
「やはり俺には向いていない」と、進路変更、結局は古典の教師で落ち着くコース。
(…出会いの場には、向いてないんだ…)
幼稚園ってトコはな、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
出会う前から門前払いで、幼稚園には入れないのが「ハーレイ」らしい。
(…その辺の所は、ご都合主義で…)
おとぎ話のように上手く乗り越え、幼稚園の先生になれていたなら、どうなるだろう。
ブルーが入園してくるまでの間は、「ハーレイ先生」と慕われるだろうか。
(…身体がデカいし、肩車もしてやれるしな…)
絨毯などが敷いてある場所なら、子供たちを乗せて馬になるのも、お安い御用。
一度に三人くらいは乗せられそうだし、かなり人気が高いかもしれない.
(…順風満帆で先生をやっていたら、ある日、ブルーが入園して来て…)
その場で聖痕が現れ、血塗れの姿になるというのは変わらない。
(今の学校の時と同じで、大騒ぎで…)
俺が救急車に乗って付き添いなんだ、と「実際にあった出来事」と、やっと繋がった。
ブルーの記憶も、ハーレイの記憶も戻って来るから、暫くの間は、同じように時が流れる。
互いに再会を喜び合って、時間を共有出来るけれども…。
(…なにしろ、あいつは幼稚園児で…)
扱い方が難しそうだ、と次の難問が降って来た。
十四歳のブルーでさえも、何かと我儘、困らされている恋人ではある。
幼稚園児のブルーとなったら、その比ではないように思えてしまう。
(…そうでなくても、我慢が出来ない年の頃だし…)
約束事を決めてみたって、ブルーには、きっと守れない。
「幼稚園では、俺を先生らしく扱え」と教え込んでも、遠慮しないで親し気に話す。
他の子たちが「ハーレイ先生」と呼んでいる中、ブルーだけが「ハーレイ」と呼び掛けて。
(その上、下手に親しいモンだから…)
肩車も馬も、他の子たちが並んで待つ中、割り込んで来そう。
「ハーレイ、ぼくにも!」と列をかき分け、悪びれもしないで先頭に立って。
(俺が「こら、並ばないとダメじゃないか!」と叱ったら…)
たちまちフグのように膨れっ面か、でなければ大きな声で泣き出す。
「ハーレイ先生、酷い!」と、自分が悪かったことなど、考えもせずに棚に上げて大泣き。
(…泣き声を聞いて、他の先生が…)
飛んで来るのは目に見えているし、ハーレイが叱られる方かもしれない。
「ブルー君の気持ちも、考えてあげて」と、子供は我慢が出来ないことを説かれて。
「もっと優しい言い方をして、分かりやすく!」と、お説教まで食らいそう。
もちろんブルーは、お説教の間も、「お話、まだ終わらないのかな?」と無邪気に待つだけ。
なんてこった、とハーレイは軽く頭痛がして来た。
幼稚園でのブルーとの出会いは、再会した後も「ご難続き」の日々らしい。
人気者の「ハーレイ先生」を巡って、ブルーの独占欲が発揮される。
(仕事帰りに、あいつの家に寄るのは、控えないとな…)
でなきゃ一層、増長するぞ、と思うものだから、会える時間は今よりも減ることだろう。
幼すぎるブルーが「ハーレイ先生は、ぼくだけの先生」と勘違いしないよう、距離を取る。
(…今のあいつよりも、何倍も厄介…)
いくら中身が「ブルー」でもな、と容易に想像出来てしまう。
今のブルーでも、前のブルーに比べて「抑えが効かない」。
幼稚園児のブルーとなったら、我儘放題、コントロールは不可能に近い。
(…自制心を、と教え込んでも、その自制心が…)
備わる前の時代なんだ、と分かっているから、どうにもならない。
ブルーが育って「分別がつく」年頃になるまで、トラブル続きの日かもしれない。
(ハーレイ先生は、ブルーも、他の子も、お気に入りのオモチャで…)
奪い合いしては大騒ぎなのか、とハーレイは書斎の天井を仰いだ。
「幼稚園時代のブルー」はともかく、「幼稚園での出会い」を避けられたのは幸運だった。
(…もしも出会いが、幼稚園なら…)
俺が幼稚園の先生だったら、と溜息しか出ない有様なのだし、今の出会いでいいのだろう。
今のブルーも、かなり厄介な「ませた子供」とはいえ、幼稚園児のブルーよりはマシ。
(…出会ってた場所が幼稚園なら、ご難続きで卒園してった後もだな…)
付き合いが続いて、今のブルーの時代もやって来るんだ、とハーレイは軽く肩を竦めた。
(幼稚園で出会って、あいつが結婚出来る年になるまで…)
待ちぼうけどころか、受難までだぞ、と思うものだから、神様に感謝するしかない。
「今の出会いで幸運でした」と、振り回される年数が少なめなことを…。
幼稚園なら・了
※もしも、ブルー君と幼稚園で出会っていたら、と考えてみたハーレイ先生。
幼稚園の先生のハーレイの奪い合いとか、トラブルが多そう。今の出会いが一番ですよねv
(…引き金は、転勤だったんだよね…)
ぼくとハーレイが出会ったのは、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイの転勤、決まってたけど、前の学校で引き留められて…)
来るのが少し遅れたんだっけ、とブルーも事情を知っている。
本当だったら、ハーレイが来るのは、入学式よりも前の筈だった。
予定通りに来ていた場合は、もっと早くに出会えただろう。
(…その代わり、大事な入学式がメチャクチャ…)
凄い迷惑をかけていたよね、と光景が目に浮かぶよう。
ハーレイを初めて目にした瞬間、ブルーの身体に聖痕が出現した。
右の瞳や、両方の肩や、脇腹からも血が流れ出して、教室は酷い騒ぎになった。
(…ぼくは倒れて、前のぼくだった頃の記憶が戻って来るのを…)
感じ取りながら意識を手放したけれど、後でクラスメイトたちから聞かされた。
ハーレイが慌てて駆け寄り、「救急車を呼んで来てくれ!」と指示し、他の教師も駆け付けた。
「みんな、落ち着いて、席について!」と先生たちが叫んでも、皆は直ぐには従わなかった。
落ち着くどころか、他所のクラスや、違う校舎からまで、見に来る生徒が多かったほど。
(…教室の中でも、そうだったんだし…)
入学式なら大騒ぎだよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
大切な式は台無しになって、皆の記憶に、違う意味合いで残っただろう。
そうならないよう、ハーレイが来るのが遅れたのかな、という気がしている。
一生に一度の入学式だし、お祝いをする家も少なくはない。
(…大騒ぎになって、救急車まで来てました、なんていう思い出よりは…)
後になってから思い出せるのは「お祝いの御馳走とケーキだけ」でも、きっといい。
(だから、神様、ハーレイの転勤が決まっても…)
直ぐには来られないようにしてたんだよ、と思うけれども、どうだろう。
もっと早くに出会えていたなら、もっと沢山、色々な話が出来たのに。
(……うーん……)
タイミングっていうのは難しいよね、と思う間に、「次の転勤」が頭を掠めた。
今のハーレイは教師なのだし、「キャプテン・ハーレイ」だった頃とは違う。
同じ職場で勤め続ける仕事ではない。
(…先生の任期って、どのくらいだっけ…?)
下の学校の先生と同じくらいかな、と考えてみる。
そうだとしたなら、ブルーが卒業する頃までは、充分、いてくれる筈。
プラスして二年くらいは、勤めていたって変ではない。
(…だけど、ハーレイ、そうそういない先生だよね…?)
古典はともかく、柔道と水泳、とハーレイが持つ「特技」が気になる。
どちらもプロの選手にもなれる腕だし、欲しい学校は多いだろう。
(……強豪校で、欠員が出たら……)
ここぞとばかりに声が掛かって、転勤になってしまいそう。
古典の教師は、資格さえあれば出来るけれども、柔道部などの指導は、そうはいかない。
(…其処の学校にいる古典の先生、ハーレイと交換ってことにしたなら…)
めでたく「プロ級の人材」が来るわけだから、大いに有り得る。
欠員が出た科目が古典でなくても、まずは「ハーレイ」を手に入れること。
(…先生が足りなくなった科目が、数学とかでも…)
そちらはそちらで、「数学の先生」を探し出せばいい。
(転勤する人、一人だけで済むトコ、二人になってしまうけど…)
そんなことより、部活の指導が優先だろう。
優秀なコーチがいないばかりに、強豪校から転落するのは、何処も避けたい。
(…ハーレイ、連れて行かれちゃう…!)
ハーレイは喜ぶかもだけど、と思うけれども、それと話は別だった。
転勤で他所に行ってしまったら、ハーレイに会えるチャンスが減るのは確実。
(学校の中では会えない上に、帰りに家に寄ってくれる日も…)
うんと減りそう、と容易に分かる。
強豪校で指導するなら、休日だって不在がちになるかもしれない。
試合や遠征が増えるだろうし、今の学校よりも忙しそう。
それは困るよ、とブルーは怖くなって来た。
「絶対に無い」とは言い切れないだけに、恐ろしいとも言い換えられる。
(強豪校だと、何処なのかな…?)
分かんないや、と呻くくらいに、ブルーはスポーツに縁が無い。
縁が無いから興味も無くて、どの学校が有名なのかもサッパリだけれど、強豪校は存在する。
大きな大会に出場しては、賞を貰って凱旋して来る。
(…もし、ハーレイが転勤したなら…)
今は名前も知らない学校、それを追うことになるのだろう。
(新聞とかでも、今までチラッと見ていただけのスポーツ欄とか…)
食い入るように目を通しては、「ハーレイ」の名前が無いかを探す。
順調に勝ち進んでいればもちろん、試合の時期と違っていたって、関連記事を載せたりもする。
(今のチームはこんな感じ、って…)
先生も一緒に写真が出たり、と「記事の印象」だけは頭にあるから、探す毎日。
何処かに「ハーレイ」が写っていないか、インタビューの類は載っていないか、と。
(…ハーレイの様子を詳しく知りたかったら、そうするしか…)
滅多に家に来てくれないなら、他に方法は見付からない。
「今日のハーレイ」の最新情報を掴みたかったら、友達探しも必要だろう。
(ハーレイが行った学校の生徒で、柔道とか水泳に興味があって…)
だけど部員じゃない、普通の生徒、と条件は厳しい。
部員の場合は「他所の学校にいる友達」と話す時間を、そうそう取れはしないから。
(ハーレイ先生、今日はどうだった、って聞けやしないから…)
無難に部活の話題で始めて、さりげなく情報を掴むしかない。
古典の授業があった日だったら、「今日の雑談、どんなのだった?」でいいだろう。
(ハーレイ、雑談が得意技だしね?)
前の学校で聞いていた「ブルー」が興味を持っても、変ではない。
聞かれた方でも、「楽しかったよ、今日、聞いたのは…」と、楽し気に話すに違いない。
(…水泳とか柔道を見る趣味がある生徒、どうやって探せばいいのかな…?)
うーん、と壁にぶつかったけれど、乗り越えないと「ハーレイの最新情報」は手に入らない。
今の学校の生徒で、似た趣味を持つ「誰か」を探して、人脈を辿るのが早いだろうか。
(…でも、ハーレイが、ぼくの守り役なことは、みんな知ってて…)
その「ブルー」が、「ハーレイが転勤した先の学校」の生徒と繋がりたいなら、理由は一つ。
「ハーレイの情報を追っている」からで、熱烈なファンなのだと「勘違い」されそう。
(…転勤した先の学校の生徒、教えてくれても、その生徒には…)
「ハーレイ先生の熱烈なファン」がいるから、仲良くしてやって欲しい、と紹介だろう。
貰える情報は増えそうだけれど、「熱烈なファン」である本当の理由が問題だった。
(…本当は恋人を追ってるんです、なんて言えやしないし…)
隠し事をしながら付き合えるかな、と思うと答えは「否」でしかない。
何処かでウッカリ、バレてしまうか、そうでなくても「後ろめたい」。
やっぱり新聞くらいしか、と情けなくても、それが現実。
ハーレイが転勤で行ってしまったら、情報源は他に無さそう。
(…今だって、試合で来られない日とか、寂しくなってしまうのに…)
そんな日が増えて、学校の中でも会えないなんて、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
まだ「そうなった」わけでもないのに、「その日」を想像してみただけで。
(…悲しすぎるよ…)
ハーレイが転勤しちゃったら、と恐ろしいから、強豪校の先生たちには頑張って欲しい。
病気になったり、怪我をしたりで、「指導出来なくなりました」という事態に陥らないよう。
(あと四年ほどだけで充分だから…!)
ぼくが卒業しちゃった後なら、「ハーレイ」が転勤したって平気だしね、とブルーは祈る。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、転勤は単に「勤め先が変わる」だけに過ぎない。
(来年から、此処の学校だ、とハーレイに聞いて…)
その学校って何処にあるの、と質問してみる所から始まる。
「其処で柔道部の指導もするの?」だとか、「水泳部の顧問なのかな?」とか。
行ったことの無い場所にある学校だった時は、「どんな校舎?」と聞くのもいい。
(ハーレイが勤め始めたら、ドライブに出掛けた時に、ついでに…)
寄って貰って見てみたいよね、と素敵な夢が膨らんでゆくから、そっちの方が断然いい。
(ぼくが学校に通ってる間に、転勤したなら、大変だけど…)
卒業した後なら、楽しそうだよ、とブルーは「その日」を祈り続ける。
「ハーレイの転勤は、ぼくが卒業した後にして下さい」と、聖痕をくれた神に向かって…。
転勤したなら・了
※もし、ハーレイ先生が転勤になったら、と考えてみたブルー君。会える日が減りそう。
ハーレイ先生の情報も手に入らなくなって、悲しすぎる日々。卒業までいて欲しいですねv
ぼくとハーレイが出会ったのは、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ハーレイの転勤、決まってたけど、前の学校で引き留められて…)
来るのが少し遅れたんだっけ、とブルーも事情を知っている。
本当だったら、ハーレイが来るのは、入学式よりも前の筈だった。
予定通りに来ていた場合は、もっと早くに出会えただろう。
(…その代わり、大事な入学式がメチャクチャ…)
凄い迷惑をかけていたよね、と光景が目に浮かぶよう。
ハーレイを初めて目にした瞬間、ブルーの身体に聖痕が出現した。
右の瞳や、両方の肩や、脇腹からも血が流れ出して、教室は酷い騒ぎになった。
(…ぼくは倒れて、前のぼくだった頃の記憶が戻って来るのを…)
感じ取りながら意識を手放したけれど、後でクラスメイトたちから聞かされた。
ハーレイが慌てて駆け寄り、「救急車を呼んで来てくれ!」と指示し、他の教師も駆け付けた。
「みんな、落ち着いて、席について!」と先生たちが叫んでも、皆は直ぐには従わなかった。
落ち着くどころか、他所のクラスや、違う校舎からまで、見に来る生徒が多かったほど。
(…教室の中でも、そうだったんだし…)
入学式なら大騒ぎだよ、とブルーは小さく肩を竦めた。
大切な式は台無しになって、皆の記憶に、違う意味合いで残っただろう。
そうならないよう、ハーレイが来るのが遅れたのかな、という気がしている。
一生に一度の入学式だし、お祝いをする家も少なくはない。
(…大騒ぎになって、救急車まで来てました、なんていう思い出よりは…)
後になってから思い出せるのは「お祝いの御馳走とケーキだけ」でも、きっといい。
(だから、神様、ハーレイの転勤が決まっても…)
直ぐには来られないようにしてたんだよ、と思うけれども、どうだろう。
もっと早くに出会えていたなら、もっと沢山、色々な話が出来たのに。
(……うーん……)
タイミングっていうのは難しいよね、と思う間に、「次の転勤」が頭を掠めた。
今のハーレイは教師なのだし、「キャプテン・ハーレイ」だった頃とは違う。
同じ職場で勤め続ける仕事ではない。
(…先生の任期って、どのくらいだっけ…?)
下の学校の先生と同じくらいかな、と考えてみる。
そうだとしたなら、ブルーが卒業する頃までは、充分、いてくれる筈。
プラスして二年くらいは、勤めていたって変ではない。
(…だけど、ハーレイ、そうそういない先生だよね…?)
古典はともかく、柔道と水泳、とハーレイが持つ「特技」が気になる。
どちらもプロの選手にもなれる腕だし、欲しい学校は多いだろう。
(……強豪校で、欠員が出たら……)
ここぞとばかりに声が掛かって、転勤になってしまいそう。
古典の教師は、資格さえあれば出来るけれども、柔道部などの指導は、そうはいかない。
(…其処の学校にいる古典の先生、ハーレイと交換ってことにしたなら…)
めでたく「プロ級の人材」が来るわけだから、大いに有り得る。
欠員が出た科目が古典でなくても、まずは「ハーレイ」を手に入れること。
(…先生が足りなくなった科目が、数学とかでも…)
そちらはそちらで、「数学の先生」を探し出せばいい。
(転勤する人、一人だけで済むトコ、二人になってしまうけど…)
そんなことより、部活の指導が優先だろう。
優秀なコーチがいないばかりに、強豪校から転落するのは、何処も避けたい。
(…ハーレイ、連れて行かれちゃう…!)
ハーレイは喜ぶかもだけど、と思うけれども、それと話は別だった。
転勤で他所に行ってしまったら、ハーレイに会えるチャンスが減るのは確実。
(学校の中では会えない上に、帰りに家に寄ってくれる日も…)
うんと減りそう、と容易に分かる。
強豪校で指導するなら、休日だって不在がちになるかもしれない。
試合や遠征が増えるだろうし、今の学校よりも忙しそう。
それは困るよ、とブルーは怖くなって来た。
「絶対に無い」とは言い切れないだけに、恐ろしいとも言い換えられる。
(強豪校だと、何処なのかな…?)
分かんないや、と呻くくらいに、ブルーはスポーツに縁が無い。
縁が無いから興味も無くて、どの学校が有名なのかもサッパリだけれど、強豪校は存在する。
大きな大会に出場しては、賞を貰って凱旋して来る。
(…もし、ハーレイが転勤したなら…)
今は名前も知らない学校、それを追うことになるのだろう。
(新聞とかでも、今までチラッと見ていただけのスポーツ欄とか…)
食い入るように目を通しては、「ハーレイ」の名前が無いかを探す。
順調に勝ち進んでいればもちろん、試合の時期と違っていたって、関連記事を載せたりもする。
(今のチームはこんな感じ、って…)
先生も一緒に写真が出たり、と「記事の印象」だけは頭にあるから、探す毎日。
何処かに「ハーレイ」が写っていないか、インタビューの類は載っていないか、と。
(…ハーレイの様子を詳しく知りたかったら、そうするしか…)
滅多に家に来てくれないなら、他に方法は見付からない。
「今日のハーレイ」の最新情報を掴みたかったら、友達探しも必要だろう。
(ハーレイが行った学校の生徒で、柔道とか水泳に興味があって…)
だけど部員じゃない、普通の生徒、と条件は厳しい。
部員の場合は「他所の学校にいる友達」と話す時間を、そうそう取れはしないから。
(ハーレイ先生、今日はどうだった、って聞けやしないから…)
無難に部活の話題で始めて、さりげなく情報を掴むしかない。
古典の授業があった日だったら、「今日の雑談、どんなのだった?」でいいだろう。
(ハーレイ、雑談が得意技だしね?)
前の学校で聞いていた「ブルー」が興味を持っても、変ではない。
聞かれた方でも、「楽しかったよ、今日、聞いたのは…」と、楽し気に話すに違いない。
(…水泳とか柔道を見る趣味がある生徒、どうやって探せばいいのかな…?)
うーん、と壁にぶつかったけれど、乗り越えないと「ハーレイの最新情報」は手に入らない。
今の学校の生徒で、似た趣味を持つ「誰か」を探して、人脈を辿るのが早いだろうか。
(…でも、ハーレイが、ぼくの守り役なことは、みんな知ってて…)
その「ブルー」が、「ハーレイが転勤した先の学校」の生徒と繋がりたいなら、理由は一つ。
「ハーレイの情報を追っている」からで、熱烈なファンなのだと「勘違い」されそう。
(…転勤した先の学校の生徒、教えてくれても、その生徒には…)
「ハーレイ先生の熱烈なファン」がいるから、仲良くしてやって欲しい、と紹介だろう。
貰える情報は増えそうだけれど、「熱烈なファン」である本当の理由が問題だった。
(…本当は恋人を追ってるんです、なんて言えやしないし…)
隠し事をしながら付き合えるかな、と思うと答えは「否」でしかない。
何処かでウッカリ、バレてしまうか、そうでなくても「後ろめたい」。
やっぱり新聞くらいしか、と情けなくても、それが現実。
ハーレイが転勤で行ってしまったら、情報源は他に無さそう。
(…今だって、試合で来られない日とか、寂しくなってしまうのに…)
そんな日が増えて、学校の中でも会えないなんて、と深い溜息が零れ落ちてしまう。
まだ「そうなった」わけでもないのに、「その日」を想像してみただけで。
(…悲しすぎるよ…)
ハーレイが転勤しちゃったら、と恐ろしいから、強豪校の先生たちには頑張って欲しい。
病気になったり、怪我をしたりで、「指導出来なくなりました」という事態に陥らないよう。
(あと四年ほどだけで充分だから…!)
ぼくが卒業しちゃった後なら、「ハーレイ」が転勤したって平気だしね、とブルーは祈る。
ハーレイと一緒に暮らし始めたら、転勤は単に「勤め先が変わる」だけに過ぎない。
(来年から、此処の学校だ、とハーレイに聞いて…)
その学校って何処にあるの、と質問してみる所から始まる。
「其処で柔道部の指導もするの?」だとか、「水泳部の顧問なのかな?」とか。
行ったことの無い場所にある学校だった時は、「どんな校舎?」と聞くのもいい。
(ハーレイが勤め始めたら、ドライブに出掛けた時に、ついでに…)
寄って貰って見てみたいよね、と素敵な夢が膨らんでゆくから、そっちの方が断然いい。
(ぼくが学校に通ってる間に、転勤したなら、大変だけど…)
卒業した後なら、楽しそうだよ、とブルーは「その日」を祈り続ける。
「ハーレイの転勤は、ぼくが卒業した後にして下さい」と、聖痕をくれた神に向かって…。
転勤したなら・了
※もし、ハーレイ先生が転勤になったら、と考えてみたブルー君。会える日が減りそう。
ハーレイ先生の情報も手に入らなくなって、悲しすぎる日々。卒業までいて欲しいですねv
(…転勤か…)
あれが運命の出会いだったな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…心臓が止まりそうになったんだが…)
いきなり生徒が血塗れなんだし、と衝撃の瞬間は忘れられない。
ブルーに聖痕が現れた日のことで、居合わせた教師は、ハーレイだけだった。
事故だと思って駆け寄った途端、膨大な記憶が蘇って来た。
遠く遥かな時の彼方で、自分が何と呼ばれていたのか、血塗れの生徒が誰なのかも。
(……まさに運命の巡り合わせで……)
奇跡のように再会出来たのが、前の生での愛おしい人。
今日は会えずに終わったけれども、明日には、きっと会えるだろう。
明日が駄目でも、明後日もある。
その次の日も、ちゃんとあるのだし、週末はブルーの家を訪ねるのだから。
もっと早くに出会いたかった、と思う気持ちは否定出来ない。
神様が決めた巡り合わせだけに、「あの日しか無かった」と分かってはいる。
前の学校で引き留められたせいで、着任が遅れてしまったのも仕方ない。
それでも「もしも」と考えるほどに、ブルーと再会してから後の人生は素晴らしい。
(あいつに会えていなかったなら、今日の俺だって…)
ただの寂しい独身人生、とハーレイは苦笑してしまう。
ブルーと再会する前の自分が「寂しい独身」だったとは、まるで思いはしないけれども。
独身人生には違いなくても、ハーレイなりに日々を楽しんでいた。
ジョギングをしたり、料理に凝ったり、趣味の読書に勤しんだりと、自分の時間を有効活用。
教師の仕事が多忙な時でも、一人暮らしに不満を覚えはしなかった。
(残業を済ませて家に帰ったら、真っ暗な部屋でも…)
灯りを点けたら明るくなるのだし、寂しさなどは感じない。
どちらかと言えば、ブルーと出会った後の今の方が、そうした場面で寂しくなる。
(…帰って来たって、あいつは家にいないんだしな…)
そいつが寂しい、とブルーの顔を思い浮かべたら、溜息が一つ零れ落ちた。
「帰ったら、ブルーが迎えてくれる暮らし」は、まだ何年も待たないと来てはくれない。
ブルーが結婚出来る年の十八歳にならない限り、この家で一緒に暮らせはしない。
今の学校を「ブルーが卒業してから」の話で、四年近くもかかる勘定。
(…それまでの間は、学校の中か、あいつの家くらいでしか…)
会えるチャンスは来ないわけだ、とハーレイは寂しく思うのだけれど、待つしかない。
あと四年ほど待っていたなら、この家にブルーを迎えられる。
(……たった四年だ……)
俺の任期は、その後、数年くらいだろうな、と「今の学校」で過ごす期間を考えてみた。
同じ学校に何年いるかは、厳密に言えば、明確な決まりは設けられていない。
「このくらいだ」という目安はあるのだけれど、誰もが「そうなる」わけではない。
(現場と、周りの状況次第で…)
同じ学校で長く教師をする者もいれば、短めの期間で転勤してゆく者も少なくなかった。
ハーレイの場合も、長く勤めた学校もあれば、そこそこの期間で別れた学校もある。
今の学校が「どちらになるのか」は、任期が終わるまで分からないだろう。
早い転勤になったとしたなら、ブルーが在学している間に、他の学校に移ることになる。
いくら「ブルーの守り役」だからと言っても、特別扱いは無いかもしれない。
(そもそも、あいつが卒業しちまったら…)
守り役を続けられはしないし、卒業までの期間限定で、その任に就いているというだけ。
学校の側で、やむを得ない事情が出来てしまえば、任期が終わるよりも前に、転勤もある。
(…運次第か…)
あいつの卒業まで、今の学校で教師をしてるかどうかは、とハーレイは気付かされた。
何処かの学校で「ハーレイ」のような人材が必要になったら、転勤だろう。
今すぐとまでは言われなくても、年度末には辞令が出る。
「この学校に赴任してくれ」と指示が来た時は、従うしかない。
(…転勤したら、今の暮らしは続けられないよな…)
仕事帰りに、あいつの家に寄り道なんぞは出来やしないぞ、と一番に考えた。
転勤先の学校が、ほんの近くで、隣の校区くらいだったら、帰り道に寄ることも出来る。
とはいえ、そうそう幸運は無くて、過去の経験からしてみても、新しい学校がある場所は遠い。
(隣の校区どころか、このデカい町の反対側で…)
車を飛ばして走って来たって、半時間以上はかかるとかな、と溜息が出そう。
来られない距離ではないのだけれども、帰りに気軽に行けそうにない。
(第一、俺には苦ではなくても…)
ブルーの両親は、そうは考えないだろう。
(わざわざ時間を作って、遠い所から来るわけだから…)
恐縮するのは目に見えているし、もうそれだけで、充分に高いハードルだった。
毎日など、とても来られない。
(せいぜい、週に一回か二回…)
家に行ければ上等だ、という気がする。
今は近いから、金曜日の仕事帰りに寄っていたって、土曜も平気で訪問出来る。
ところが、「遠路はるばる」となった場合は、金曜に時間が取れたとしても、行きにくい。
ブルーの両親に「息子のためだけに、申し訳ない」と、気を遣わせてしまうだろうから。
こいつは困った、と「転勤」の文字が、ハーレイの頭の中で回り始める。
ブルーと一緒に暮らし始めた後のことなら、問題は無い。
「来年から、別の学校らしい」とブルーに告げれば、それでおしまい。
ブルーが「そうなの? ぼくも知ってる学校かな?」と知りたがる程度。
(でもって、俺が転勤してから後に、ドライブついでに…)
「此処が新しい学校なんだ」と、ブルーに車から見せてやればいい。
グラウンドに知り合いの教師がいたなら、駐車場に車を止めたっていい。
(俺の嫁さんだから、学校の中を見せてやってもいいだろうか、と…)
尋ねさえすれば、多分、断られはしないだろう。
「どうぞ、どうぞ」と招き入れてくれて、グラウンドだけを見るつもりでも…。
(校舎の中まで見せてくれるとか、運が良ければ、ちょいとお茶まで…)
淹れて貰えることもあるよな、と自分もやったことがあるから、想像がつく。
部活の指導で学校にいた時、何度か、そういう場面があった。
(鍵を開けなきゃ、校舎に入れないなら別なんだが…)
開いているなら、中に入って見て貰っても構わない。
お茶を出せる場所があった時には、お茶を淹れたし、後で咎められることも無かった
(…新しい職場が、結婚した後に来たら、そのコースで…)
ブルーを案内出来るけれども、その前だったら、ピンチでしかない。
(……あいつを案内してやるどころか、家にも御無沙汰……)
月に何回、顔を出せるやら、と考えただけで頭痛を覚えてしまいそう。
ハーレイ自身も寂しいけれども、ブルーは「寂しい」どころの騒ぎではない。
今でさえ、「ハーレイ、来てくれなかったじゃない!」と不満げな顔を見せる日がある。
転勤して学校で会えない上に、家にも殆ど来ないとなったら、どうなることやら。
(それこそ毎日、泣きの涙で…)
過ごしかねんぞ、と思うものだから、転勤は勘弁して欲しい。
いくら人材が不足していて、「ハーレイ先生、是非に!」などと、頭を下げて頼まれても。
「行ってくれるなら、特別に手当てを出すから」と、給料を上げる条件を出されても。
(あいつが本当に必要なものは、守り役じゃなくて…)
前の生での恋人なんだ、と分かっているから、祈るしかない。
転勤の話が来るかどうかは、もう本当に、運の問題。
何処かで人材が不足しない限り、今の学校にいられる期間は、充分にある。
ブルーが卒業してゆく年を迎えても、まだ数年は勤められる筈だった。
(……神様、どうぞ、今の学校で……)
当分の間、お願いします、とハーレイは祈らないではいられない。
ブルーが在籍している間に転勤したら、大変だから。
ハーレイが寂しく思う以上に、愛おしい人が寂しがる上、涙を流す日々だろうから…。
転勤したら・了
※転勤について考えてみた、ハーレイ先生。ブルー君と結婚した後なら、問題はゼロ。
けれど、ブルー君が卒業する前に、転勤となると、とんでもないことになりそうですねv
あれが運命の出会いだったな、とハーレイが、ふと考えたこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…心臓が止まりそうになったんだが…)
いきなり生徒が血塗れなんだし、と衝撃の瞬間は忘れられない。
ブルーに聖痕が現れた日のことで、居合わせた教師は、ハーレイだけだった。
事故だと思って駆け寄った途端、膨大な記憶が蘇って来た。
遠く遥かな時の彼方で、自分が何と呼ばれていたのか、血塗れの生徒が誰なのかも。
(……まさに運命の巡り合わせで……)
奇跡のように再会出来たのが、前の生での愛おしい人。
今日は会えずに終わったけれども、明日には、きっと会えるだろう。
明日が駄目でも、明後日もある。
その次の日も、ちゃんとあるのだし、週末はブルーの家を訪ねるのだから。
もっと早くに出会いたかった、と思う気持ちは否定出来ない。
神様が決めた巡り合わせだけに、「あの日しか無かった」と分かってはいる。
前の学校で引き留められたせいで、着任が遅れてしまったのも仕方ない。
それでも「もしも」と考えるほどに、ブルーと再会してから後の人生は素晴らしい。
(あいつに会えていなかったなら、今日の俺だって…)
ただの寂しい独身人生、とハーレイは苦笑してしまう。
ブルーと再会する前の自分が「寂しい独身」だったとは、まるで思いはしないけれども。
独身人生には違いなくても、ハーレイなりに日々を楽しんでいた。
ジョギングをしたり、料理に凝ったり、趣味の読書に勤しんだりと、自分の時間を有効活用。
教師の仕事が多忙な時でも、一人暮らしに不満を覚えはしなかった。
(残業を済ませて家に帰ったら、真っ暗な部屋でも…)
灯りを点けたら明るくなるのだし、寂しさなどは感じない。
どちらかと言えば、ブルーと出会った後の今の方が、そうした場面で寂しくなる。
(…帰って来たって、あいつは家にいないんだしな…)
そいつが寂しい、とブルーの顔を思い浮かべたら、溜息が一つ零れ落ちた。
「帰ったら、ブルーが迎えてくれる暮らし」は、まだ何年も待たないと来てはくれない。
ブルーが結婚出来る年の十八歳にならない限り、この家で一緒に暮らせはしない。
今の学校を「ブルーが卒業してから」の話で、四年近くもかかる勘定。
(…それまでの間は、学校の中か、あいつの家くらいでしか…)
会えるチャンスは来ないわけだ、とハーレイは寂しく思うのだけれど、待つしかない。
あと四年ほど待っていたなら、この家にブルーを迎えられる。
(……たった四年だ……)
俺の任期は、その後、数年くらいだろうな、と「今の学校」で過ごす期間を考えてみた。
同じ学校に何年いるかは、厳密に言えば、明確な決まりは設けられていない。
「このくらいだ」という目安はあるのだけれど、誰もが「そうなる」わけではない。
(現場と、周りの状況次第で…)
同じ学校で長く教師をする者もいれば、短めの期間で転勤してゆく者も少なくなかった。
ハーレイの場合も、長く勤めた学校もあれば、そこそこの期間で別れた学校もある。
今の学校が「どちらになるのか」は、任期が終わるまで分からないだろう。
早い転勤になったとしたなら、ブルーが在学している間に、他の学校に移ることになる。
いくら「ブルーの守り役」だからと言っても、特別扱いは無いかもしれない。
(そもそも、あいつが卒業しちまったら…)
守り役を続けられはしないし、卒業までの期間限定で、その任に就いているというだけ。
学校の側で、やむを得ない事情が出来てしまえば、任期が終わるよりも前に、転勤もある。
(…運次第か…)
あいつの卒業まで、今の学校で教師をしてるかどうかは、とハーレイは気付かされた。
何処かの学校で「ハーレイ」のような人材が必要になったら、転勤だろう。
今すぐとまでは言われなくても、年度末には辞令が出る。
「この学校に赴任してくれ」と指示が来た時は、従うしかない。
(…転勤したら、今の暮らしは続けられないよな…)
仕事帰りに、あいつの家に寄り道なんぞは出来やしないぞ、と一番に考えた。
転勤先の学校が、ほんの近くで、隣の校区くらいだったら、帰り道に寄ることも出来る。
とはいえ、そうそう幸運は無くて、過去の経験からしてみても、新しい学校がある場所は遠い。
(隣の校区どころか、このデカい町の反対側で…)
車を飛ばして走って来たって、半時間以上はかかるとかな、と溜息が出そう。
来られない距離ではないのだけれども、帰りに気軽に行けそうにない。
(第一、俺には苦ではなくても…)
ブルーの両親は、そうは考えないだろう。
(わざわざ時間を作って、遠い所から来るわけだから…)
恐縮するのは目に見えているし、もうそれだけで、充分に高いハードルだった。
毎日など、とても来られない。
(せいぜい、週に一回か二回…)
家に行ければ上等だ、という気がする。
今は近いから、金曜日の仕事帰りに寄っていたって、土曜も平気で訪問出来る。
ところが、「遠路はるばる」となった場合は、金曜に時間が取れたとしても、行きにくい。
ブルーの両親に「息子のためだけに、申し訳ない」と、気を遣わせてしまうだろうから。
こいつは困った、と「転勤」の文字が、ハーレイの頭の中で回り始める。
ブルーと一緒に暮らし始めた後のことなら、問題は無い。
「来年から、別の学校らしい」とブルーに告げれば、それでおしまい。
ブルーが「そうなの? ぼくも知ってる学校かな?」と知りたがる程度。
(でもって、俺が転勤してから後に、ドライブついでに…)
「此処が新しい学校なんだ」と、ブルーに車から見せてやればいい。
グラウンドに知り合いの教師がいたなら、駐車場に車を止めたっていい。
(俺の嫁さんだから、学校の中を見せてやってもいいだろうか、と…)
尋ねさえすれば、多分、断られはしないだろう。
「どうぞ、どうぞ」と招き入れてくれて、グラウンドだけを見るつもりでも…。
(校舎の中まで見せてくれるとか、運が良ければ、ちょいとお茶まで…)
淹れて貰えることもあるよな、と自分もやったことがあるから、想像がつく。
部活の指導で学校にいた時、何度か、そういう場面があった。
(鍵を開けなきゃ、校舎に入れないなら別なんだが…)
開いているなら、中に入って見て貰っても構わない。
お茶を出せる場所があった時には、お茶を淹れたし、後で咎められることも無かった
(…新しい職場が、結婚した後に来たら、そのコースで…)
ブルーを案内出来るけれども、その前だったら、ピンチでしかない。
(……あいつを案内してやるどころか、家にも御無沙汰……)
月に何回、顔を出せるやら、と考えただけで頭痛を覚えてしまいそう。
ハーレイ自身も寂しいけれども、ブルーは「寂しい」どころの騒ぎではない。
今でさえ、「ハーレイ、来てくれなかったじゃない!」と不満げな顔を見せる日がある。
転勤して学校で会えない上に、家にも殆ど来ないとなったら、どうなることやら。
(それこそ毎日、泣きの涙で…)
過ごしかねんぞ、と思うものだから、転勤は勘弁して欲しい。
いくら人材が不足していて、「ハーレイ先生、是非に!」などと、頭を下げて頼まれても。
「行ってくれるなら、特別に手当てを出すから」と、給料を上げる条件を出されても。
(あいつが本当に必要なものは、守り役じゃなくて…)
前の生での恋人なんだ、と分かっているから、祈るしかない。
転勤の話が来るかどうかは、もう本当に、運の問題。
何処かで人材が不足しない限り、今の学校にいられる期間は、充分にある。
ブルーが卒業してゆく年を迎えても、まだ数年は勤められる筈だった。
(……神様、どうぞ、今の学校で……)
当分の間、お願いします、とハーレイは祈らないではいられない。
ブルーが在籍している間に転勤したら、大変だから。
ハーレイが寂しく思う以上に、愛おしい人が寂しがる上、涙を流す日々だろうから…。
転勤したら・了
※転勤について考えてみた、ハーレイ先生。ブルー君と結婚した後なら、問題はゼロ。
けれど、ブルー君が卒業する前に、転勤となると、とんでもないことになりそうですねv
(…タイプ・ブルーかあ…)
今は、そこそこいるんだよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくの身近には、いないんだけれど…)
人間が全てミュウな今では、タイプ・ブルーも少なくはない。
「サイオンは使わない」ことが社会のマナーだから、空を飛ぶ人などがいないだけ。
(…飛べないタイプ・ブルーなら、此処に一人…)
今のぼくだって、タイプ・ブルーなんだけどな、と苦笑してしまう。
前の生で自在に使えたサイオン、それが不器用になってしまった。
(思念波も、ろくに紡げないから…)
人類の方に近いのかも、と思うくらいに、今のブルーは「ミュウらしくない」。
時の彼方で「そう」だったならば、成人検査も通過していそう。
(…シロエはともかく、マツカの方はバレていなくて…)
キースの側近を勤め上げたほどだし、前のブルーでも、生き延びられたろう。
身体が弱い点があるから、研究者か何か、大人しい仕事に就いて、平穏無事な生涯。
(…表に出てない、タイプ・ブルーなら…)
そう出来たんじゃあ、と思ったはずみに、別の考えがヒョイと浮かんだ。
(…タイプ・ブルー、前のぼくじゃなくても、良かったんじゃあ…?)
他の人でも務まったよね、と仲間たちの顔を頭に描いた。
ゼルでもいいし、ヒルマンでもいい。
女性の「ソルジャー」も、ダメということは無かっただろう。
(一応、女性の基本は、ママになることで…)
養父母コースが一般的だったけれど、軍人やメンバーズにだって、女性がいた。
エラやブラウがタイプ・ブルーだったとしても、不都合な点はありそうにない。
(……だけど、一番、向いていそうなのは……)
ハーレイじゃないかな、と前の生からの恋人の名を挙げてみた。
キャプテン・ハーレイだったわけだし、ソルジャーも充分、務まりそう。
(…ソルジャーとして、やっていくために、ビジュアルの方は…)
関係無いと思うんだよね、と「前の自分との違い」を、ブルーは一蹴した。
「ソルジャー・ブルー」は今の時代も、写真集が編まれるくらいに「美しかった」。
逆に「キャプテン・ハーレイ」の方は、「美しくない」と評判だった。
(…シャングリラの女の人たちが作ってた、薔薇の花びらで出来たジャム…)
数が少なくて、配る時にはクジ引きをした。
そのクジが入った箱が、ハーレイの前だけを素通りしたほど、不似合いとされていた。
(前のハーレイ、綺麗じゃないから、薔薇のジャムなんか、似合わないって…)
決め付けられて、クジ引きの対象からは除外だった。
(だけど、そんなの、シャングリラが平和だったからの話で…)
戦いの道を走ってゆくなら、顔の美醜は意味が無い。
サイオンが強くて「戦える」ことが、ソルジャーの唯一の条件と言える。
(指導者としての資質だったら、ハーレイだって、充分あったし…)
ハーレイがピッタリ、と「前の生で、タイプ・ブルーになれそうな人」に選び出した。
前の自分と違う人でも、かまわないんじゃあ、と想像の翼を羽ばたかせる。
「もしも、タイプ・ブルーに生まれた人が、違っていたなら」と。
遠く遥かな時の彼方で、最初に「誕生した」ミュウ。
実際はブルーだったけれども、ただのミュウなら、先に生まれていたかもしれない。
(タイプ・ブルーじゃなければ、成人検査で何かあっても…)
検査用の機械は壊れないから、誰も気付きはしないだろう。
「ミュウの存在」が知れた後でも、マツカが無事に通過していた例もある。
(…前のハーレイが、タイプ・ブルーだった場合は、最初のミュウになるわけで…)
タイプ・ブルー・オリジンだよね、と「前の自分」に人類がつけた名前を進呈した。
成人検査の機械を壊して、サイオンに目覚めた前のハーレイに、想像の中で。
(…タイプ・ブルー・オリジン…)
そう呼ばれるようになった「前のハーレイ」は、どうするだろう。
(ぼくとは、色々、違っていそう…)
目覚めた時から違いそうだよ、と容易に分かる。
前のハーレイも「頑丈だった」から、力に目覚めて、保安部隊が駆け付けたって…。
(うんと落ち着いて、対応出来そう…)
シールドを展開するのも、銃撃を防いだ後の行動にしても。
(いくらハーレイでも、初めてサイオンを爆発させたら…)
身体の方がついてゆきはしないし、保安部隊に取り押さえられてしまいそう。
(でも、取り押さえられてるって段階で、前のぼくとは…)
大違いだし、と前の自分の「情けなさ」に溜息が出そう。
前の自分は気を失って、気付いた時には、檻に閉じ込められていた。
ハーレイの場合は、小突かれながら、檻に連れて行かれて、押し込まれるのに違いない。
(頑丈なミュウで、心だって、うんと強かったから…)
檻の中での暮らしが始まったって、絶望したりはしないだろう。
(ぼくみたいに、成長を止めてしまって、子供のままで…)
全て諦めて生きてゆくより、前を見詰めて生きてゆきそう。
「いつか必ず、此処を出てやる」と、人体実験に耐えて、歯を食いしばって。
(…ハーレイだったら、出来そうだよね…)
最初から、タイプ・ブルー・オリジンらしい生き方、と誇らしくなる。
前の生から愛する人だし、想像の中でも、頼もしい。
(人類がメギドを持って来る前に、仲間たちを逃がして脱出だって…)
ハーレイだったら、きっと出来るよ、と夢が広がる。
人類が「ミュウ」を脅威と位置付ける前に、動き出していたら、逃げられただろう。
研究施設の警備が甘くて、研究者たちも「考え方が甘かった」頃だったならば、出来た。
(ハーレイのサイオンで、研究施設を吹っ飛ばして…)
収容されているミュウの独房だけを、きちんとシールドすれば、脱出は可能。
破壊した施設から「仲間たち」を救って、宙港まで逃げてゆけばいい。
(船は沢山あった筈だし、良さそうな船を制圧して…)
操縦者つきで宇宙に飛び出し、それから後は、アルテメシア時代のような位置付け。
(隠れられそうな場所を見付けて、其処に潜んで…)
アルタミラで生まれる「ミュウの子供」を救い出しながら、待ち続ける。
人類と本格的な戦闘に入って、地球を目指して舵を切る日まで。
(…前のぼくより、うんと早めに…)
地球に行けそう、とブルーは笑みを浮かべる。
ハーレイだったら、自分の寿命が尽きるよりも前に、地球まで辿り着くのに違いない。
「後継者探し」などはしないで、グランド・マザーも、システムも全て、自分で倒して。
(…そうなりそうだよ…)
ハーレイの方が良かったんじゃあ、と思えてしまう「タイプ・ブルー・オリジン」。
時の彼方で最初に生まれる、伝説のミュウ。
そっちの方が良さそうだよね、と考える内に、ハタと気付いた。
もしも「ハーレイ」が、タイプ・ブルー・オリジンだったら、前のブルーは、どうだろう。
(ハーレイの代わりに、タイプ・グリーンなのかな?)
それはいいとして、何処で「ハーレイ」に出会うかが、大いに問題。
上手い具合に「ハーレイよりも後に生まれて」、子供だったとしても、厄介そう。
(…研究施設で、脱出の時に、見付けて貰えても…)
ハーレイは「とても忙しい」から、自分で探しに来てくれるかどうか。
仲間を指揮して陣頭なのだし、別の誰かが来るかもしれない。
(…ハーレイが来たら、ぼくを見付けて…)
「おい、坊主! 大丈夫か? 急げ、逃げるぞ!」と手を引いてくれても…。
(他の人だと、そうはいかないよね…)
その人が、手を引いて逃げてくれても、ハーレイと出会えるわけではない。
ハーレイは指揮を執り続けたまま、船が宇宙へ出ることだろう。
(…後は、ハーレイ、船のトップで…)
やるべきことが山とあるから、ブルーにまで目を配れはしない。
(もっと後になって生まれて来たって、救出されて…)
ハーレイの船に迎え入れられるだけで、挨拶だけで終わってしまいそう。
ブルーを待っているのは「子供の世話をする係」や教師で、ハーレイは来ない。
(……うーん……)
運命の出会いをしてるチャンスは無さそう、と愕然となった。
ハーレイが「ブルー」に一目惚れしてくれる機会は、全く無さそうなコース。
(…ぼくにしたって、どうなのかなあ…?)
尊敬している人で終わって、それだけになってしまうのかも。
(ソルジャー・ハーレイ、凄い人だ、って…)
見上げて暮らすだけの人生、恋は生まれず、別の誰かと生きてゆくかもしれない。
(…そんなの、困ってしまうから!)
タイプ・ブルー・オリジンがハーレイだなんて、と思うものだから、神に心から感謝した。
前の自分の人生は辛い部分も多かったけれど、幸せだった。
(タイプ・ブルー・オリジン、前のぼくとは違っていたなら…)
ハーレイと恋が出来ないんだよ、と「ぼくで良かった」と、ホッと安堵の溜息をつく。
「あれでいいんだ」と、「ハーレイじゃダメ」と…。
違っていたなら・了
※前の生でのサイオン・タイプ。ブルーではなくて、ハーレイがタイプ・ブルー。
地球へは早く行けそうですけど、恋をしているチャンスが無さそう。困りますよねv
今は、そこそこいるんだよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼくの身近には、いないんだけれど…)
人間が全てミュウな今では、タイプ・ブルーも少なくはない。
「サイオンは使わない」ことが社会のマナーだから、空を飛ぶ人などがいないだけ。
(…飛べないタイプ・ブルーなら、此処に一人…)
今のぼくだって、タイプ・ブルーなんだけどな、と苦笑してしまう。
前の生で自在に使えたサイオン、それが不器用になってしまった。
(思念波も、ろくに紡げないから…)
人類の方に近いのかも、と思うくらいに、今のブルーは「ミュウらしくない」。
時の彼方で「そう」だったならば、成人検査も通過していそう。
(…シロエはともかく、マツカの方はバレていなくて…)
キースの側近を勤め上げたほどだし、前のブルーでも、生き延びられたろう。
身体が弱い点があるから、研究者か何か、大人しい仕事に就いて、平穏無事な生涯。
(…表に出てない、タイプ・ブルーなら…)
そう出来たんじゃあ、と思ったはずみに、別の考えがヒョイと浮かんだ。
(…タイプ・ブルー、前のぼくじゃなくても、良かったんじゃあ…?)
他の人でも務まったよね、と仲間たちの顔を頭に描いた。
ゼルでもいいし、ヒルマンでもいい。
女性の「ソルジャー」も、ダメということは無かっただろう。
(一応、女性の基本は、ママになることで…)
養父母コースが一般的だったけれど、軍人やメンバーズにだって、女性がいた。
エラやブラウがタイプ・ブルーだったとしても、不都合な点はありそうにない。
(……だけど、一番、向いていそうなのは……)
ハーレイじゃないかな、と前の生からの恋人の名を挙げてみた。
キャプテン・ハーレイだったわけだし、ソルジャーも充分、務まりそう。
(…ソルジャーとして、やっていくために、ビジュアルの方は…)
関係無いと思うんだよね、と「前の自分との違い」を、ブルーは一蹴した。
「ソルジャー・ブルー」は今の時代も、写真集が編まれるくらいに「美しかった」。
逆に「キャプテン・ハーレイ」の方は、「美しくない」と評判だった。
(…シャングリラの女の人たちが作ってた、薔薇の花びらで出来たジャム…)
数が少なくて、配る時にはクジ引きをした。
そのクジが入った箱が、ハーレイの前だけを素通りしたほど、不似合いとされていた。
(前のハーレイ、綺麗じゃないから、薔薇のジャムなんか、似合わないって…)
決め付けられて、クジ引きの対象からは除外だった。
(だけど、そんなの、シャングリラが平和だったからの話で…)
戦いの道を走ってゆくなら、顔の美醜は意味が無い。
サイオンが強くて「戦える」ことが、ソルジャーの唯一の条件と言える。
(指導者としての資質だったら、ハーレイだって、充分あったし…)
ハーレイがピッタリ、と「前の生で、タイプ・ブルーになれそうな人」に選び出した。
前の自分と違う人でも、かまわないんじゃあ、と想像の翼を羽ばたかせる。
「もしも、タイプ・ブルーに生まれた人が、違っていたなら」と。
遠く遥かな時の彼方で、最初に「誕生した」ミュウ。
実際はブルーだったけれども、ただのミュウなら、先に生まれていたかもしれない。
(タイプ・ブルーじゃなければ、成人検査で何かあっても…)
検査用の機械は壊れないから、誰も気付きはしないだろう。
「ミュウの存在」が知れた後でも、マツカが無事に通過していた例もある。
(…前のハーレイが、タイプ・ブルーだった場合は、最初のミュウになるわけで…)
タイプ・ブルー・オリジンだよね、と「前の自分」に人類がつけた名前を進呈した。
成人検査の機械を壊して、サイオンに目覚めた前のハーレイに、想像の中で。
(…タイプ・ブルー・オリジン…)
そう呼ばれるようになった「前のハーレイ」は、どうするだろう。
(ぼくとは、色々、違っていそう…)
目覚めた時から違いそうだよ、と容易に分かる。
前のハーレイも「頑丈だった」から、力に目覚めて、保安部隊が駆け付けたって…。
(うんと落ち着いて、対応出来そう…)
シールドを展開するのも、銃撃を防いだ後の行動にしても。
(いくらハーレイでも、初めてサイオンを爆発させたら…)
身体の方がついてゆきはしないし、保安部隊に取り押さえられてしまいそう。
(でも、取り押さえられてるって段階で、前のぼくとは…)
大違いだし、と前の自分の「情けなさ」に溜息が出そう。
前の自分は気を失って、気付いた時には、檻に閉じ込められていた。
ハーレイの場合は、小突かれながら、檻に連れて行かれて、押し込まれるのに違いない。
(頑丈なミュウで、心だって、うんと強かったから…)
檻の中での暮らしが始まったって、絶望したりはしないだろう。
(ぼくみたいに、成長を止めてしまって、子供のままで…)
全て諦めて生きてゆくより、前を見詰めて生きてゆきそう。
「いつか必ず、此処を出てやる」と、人体実験に耐えて、歯を食いしばって。
(…ハーレイだったら、出来そうだよね…)
最初から、タイプ・ブルー・オリジンらしい生き方、と誇らしくなる。
前の生から愛する人だし、想像の中でも、頼もしい。
(人類がメギドを持って来る前に、仲間たちを逃がして脱出だって…)
ハーレイだったら、きっと出来るよ、と夢が広がる。
人類が「ミュウ」を脅威と位置付ける前に、動き出していたら、逃げられただろう。
研究施設の警備が甘くて、研究者たちも「考え方が甘かった」頃だったならば、出来た。
(ハーレイのサイオンで、研究施設を吹っ飛ばして…)
収容されているミュウの独房だけを、きちんとシールドすれば、脱出は可能。
破壊した施設から「仲間たち」を救って、宙港まで逃げてゆけばいい。
(船は沢山あった筈だし、良さそうな船を制圧して…)
操縦者つきで宇宙に飛び出し、それから後は、アルテメシア時代のような位置付け。
(隠れられそうな場所を見付けて、其処に潜んで…)
アルタミラで生まれる「ミュウの子供」を救い出しながら、待ち続ける。
人類と本格的な戦闘に入って、地球を目指して舵を切る日まで。
(…前のぼくより、うんと早めに…)
地球に行けそう、とブルーは笑みを浮かべる。
ハーレイだったら、自分の寿命が尽きるよりも前に、地球まで辿り着くのに違いない。
「後継者探し」などはしないで、グランド・マザーも、システムも全て、自分で倒して。
(…そうなりそうだよ…)
ハーレイの方が良かったんじゃあ、と思えてしまう「タイプ・ブルー・オリジン」。
時の彼方で最初に生まれる、伝説のミュウ。
そっちの方が良さそうだよね、と考える内に、ハタと気付いた。
もしも「ハーレイ」が、タイプ・ブルー・オリジンだったら、前のブルーは、どうだろう。
(ハーレイの代わりに、タイプ・グリーンなのかな?)
それはいいとして、何処で「ハーレイ」に出会うかが、大いに問題。
上手い具合に「ハーレイよりも後に生まれて」、子供だったとしても、厄介そう。
(…研究施設で、脱出の時に、見付けて貰えても…)
ハーレイは「とても忙しい」から、自分で探しに来てくれるかどうか。
仲間を指揮して陣頭なのだし、別の誰かが来るかもしれない。
(…ハーレイが来たら、ぼくを見付けて…)
「おい、坊主! 大丈夫か? 急げ、逃げるぞ!」と手を引いてくれても…。
(他の人だと、そうはいかないよね…)
その人が、手を引いて逃げてくれても、ハーレイと出会えるわけではない。
ハーレイは指揮を執り続けたまま、船が宇宙へ出ることだろう。
(…後は、ハーレイ、船のトップで…)
やるべきことが山とあるから、ブルーにまで目を配れはしない。
(もっと後になって生まれて来たって、救出されて…)
ハーレイの船に迎え入れられるだけで、挨拶だけで終わってしまいそう。
ブルーを待っているのは「子供の世話をする係」や教師で、ハーレイは来ない。
(……うーん……)
運命の出会いをしてるチャンスは無さそう、と愕然となった。
ハーレイが「ブルー」に一目惚れしてくれる機会は、全く無さそうなコース。
(…ぼくにしたって、どうなのかなあ…?)
尊敬している人で終わって、それだけになってしまうのかも。
(ソルジャー・ハーレイ、凄い人だ、って…)
見上げて暮らすだけの人生、恋は生まれず、別の誰かと生きてゆくかもしれない。
(…そんなの、困ってしまうから!)
タイプ・ブルー・オリジンがハーレイだなんて、と思うものだから、神に心から感謝した。
前の自分の人生は辛い部分も多かったけれど、幸せだった。
(タイプ・ブルー・オリジン、前のぼくとは違っていたなら…)
ハーレイと恋が出来ないんだよ、と「ぼくで良かった」と、ホッと安堵の溜息をつく。
「あれでいいんだ」と、「ハーレイじゃダメ」と…。
違っていたなら・了
※前の生でのサイオン・タイプ。ブルーではなくて、ハーレイがタイプ・ブルー。
地球へは早く行けそうですけど、恋をしているチャンスが無さそう。困りますよねv
