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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(教室だったとは限らないんだよな…)
 俺とブルーが出会った場所は、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(たまたま、教室だっただけで、他の場所だった可能性も…)
 顔を合わせればいいんだし、と別の所を頭に描く。
 時期が来たからこその出会いで、教室である必要は無い。
(…俺とあいつの行動範囲が重なりさえすれば、何処でもいいんだ…)
 学校の近くの文具店でもいいし、バス停でもいい。
 長い散歩や、気まぐれなジョギングで出掛けた先が、ブルーの家の近所も有り得る。


 早い話が、ブルーの家の前でバッタリ会っても、おかしくなかった。
 知らずに通り掛かったハーレイと、門から出て来たブルーが、顔を合わせる。
(…ふうむ…)
 興味深いケースではある、と思う間に、別の出会いを考え付いた。
 今のブルーも身体が弱いけれども、家の近くなら散歩していたりもする。
(散歩のついでに、ちょっとした買い物くらいだったら…)
 頼まれて行ったり、自分で出掛けることもあるだろう。
(…何処かの店先で、バッタリか…)
 店主や店員は、酷く慌てて、救急車を呼んだり、とんでもない騒ぎが目に見えるよう。
(…場を収めるのは、俺の役目なんだろうな…)
 救急車に一緒に乗って行くから、ブルーの家に連絡を頼む、などと落ち着いた口調で告げる。
 教師なのだし、そういったことには慣れているから、問題は無い。


(とはいえ、無関係な店を巻き込んじまうのは、ちと困るぞ…)
 俺が店主だったらいいんだがな、と苦笑したはずみに、ポンと出て来た愉快な想像。
 ブルーが来るのは、「ハーレイの店」の店先。
 そっちだったら、誰にも迷惑をかけはしないし、店員を雇っていたって、大丈夫だろう。
(俺は教師を選んだんだが、スポーツ選手の道に行かないのなら、店主もアリだな)
 料理作りは元々好きだし、菓子作りだって、と「違う進路」が無いわけではない。
 何処かで「料理の道に進もう」と思っていたなら、充分、ありそうなコース。
 上の学校に進む代わりに、料理人を育てる専門学校に入ればいい。
(あらゆる料理を学べる上に、菓子職人向けのコースもあるんだし…)
 どれを選ぶかは好み次第で、その気になったら、掛け持ちで学ぶことだって出来てしまう。
 卒業した後、成績が良ければ、有名店で修業もさせて貰える。
 その後、一人立ちして、店を持つなら、今くらいの年になりそうだった。


 有名店に勤める間に貯めた資金で、まずは自分の店を買うこと。
 何も知らずに選んだ場所が、ブルーの家の近くでも、不思議は無かった。
(ちょうど良さそうな感じなんだよなあ、住宅街だし…)
 あまり有名な店に育てたいという気はしない。
 店主と客の距離が近くて、気軽に話せて、調理場が見られるカウンターなども作ってみたい。
 出来ることなら、料理の傍ら、菓子作りもして、販売用のスペースも欲しい所だ。
(ちょっとした棚でいいから、店主の気まぐれ風にだな…)
 焼き菓子を置いたり、パンを多めに焼き上げてみたり、何があるかは、来てのお楽しみ。
(俺の好みは、そういう具合に、フラリと入れる店なんだ…)
 自分が店を始めるにしても、似たような店を作りたいぞ、と夢は描ける。
 子供のお小遣い程度で買える、「美味しいクッキー」でもあったら、ブルーも来そうだ。


(お母さんに聞いたか、近所の誰かか、友達に評判を聞かされたとかで…)
 今のブルーは、母が作る様々な菓子が好きだし、何処かの店の菓子でも喜ぶ。
 近い所に「美味しい菓子の店が出来たらしい」と耳にしたなら、きっと覗きに来るだろう。
(あいつのことだし、入りやすそうな店なら、中の様子を覗き見してから…)
 開けてあるだろうドアをくぐって、ヒョイと店へと入って来る。
(おじさん、どんなお菓子があるの、とだな…)
 声を掛けようとして、店主を見たなら、「俺」なわけだ、と可笑しくなった。
 よりにもよって、「ハーレイ」が「店主の、おじさん」。
 お菓子を買いに入ったつもりが、前の生での恋人と、バッタリ出会うという衝撃的な瞬間。
(…それでも、聖痕、出るんだろうか…?)
 出ては来るんだろうが、ワンテンポ以上、遅れそうだな、と思わないでもない。
 「店主の、おじさん」と、「キャプテン・ハーレイ」では、あまりにもギャップが大きすぎる。


(俺の方でも、あいつに聖痕が出ない間は、記憶は戻ってくれないんだし…)
 入った途端に立ち尽くしているブルーに向かって、こう尋ねそうだ。
 「おい、どうしたんだ? 小遣いで買えそうな菓子しか、置いていないぞ?」
 それとも食事をしたいのか、と空いている席を示した辺りで、やっと、聖痕が姿を現す。
(…なんとも間抜けで、呆れちまうんだが…)
 俺がやってる店の場合は、そうなるかもな、とハーレイはクスクスと笑い始めた。
 「間抜けすぎる出会い」の方でも、悪くはない。
 居合わせた客や、一人くらいはいそうな店員などには、「運が悪かった」と諦めて貰おう。
 「臨時休業」の札が出されて、その日一日、店は「お休み」。
(…聖痕で汚れちまった床の掃除も、店員に頼むことにになるから、後でだな…)
 給料にドンと上乗せしとくさ、と気前のいい「店主」が出来上がりそうだ。
 恐らく、それ以降、小さなブルーは「店の常連」。
 毎日のように来るだろうから、店員とも仲良くなる筈なのだし、うんとサービスして欲しい。
 ブルーが店に入った瞬間、「いらっしゃいませ!」で、お気に入りの席へと、御案内で…。



           店先だったら・了


※ハーレイ先生と、ブルー君の出会いの場所。店先だった可能性も充分、ありそう。
 ついでに「ハーレイ先生」ではなくて、「ハーレイ店長」だった場合は、楽しそうですv




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(…アルテメシアかあ…)
 懐かしいのかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。


 アルテメシアは、前の生での思い出の星の一つ。
 白いシャングリラで長く潜んだ、雲海に覆われていた星だった。
(雲海、今も変わらないらしいけど、テラフォーミングが進んだから…)
 覚えている星とは違うかもね、とブルーにも分かっている。
 あの頃には、まだ育英都市が二つしか無かった。
 ジョミーを見付けたアタラクシアと、シロエが育ったエネルゲイアだけ。
(今だと、他にも町が幾つも出来ている上に、SD体制、無くなったせいで…)
 赤ん坊から高齢の人まで、大勢の人が暮らしている。
 血の繋がった「本物の家族」を中心にして、仕事などで単身、長期滞在も珍しくない。


 様子だけでも変わっているから、今の時代に行ってみたって、別の星のようだろう。
 けれども、何処かに「懐かしい」と思う気持ちは、あるように思う。
 雲海の中での長い歳月、たまに地上に降りていたせいもあるかもしれない。
(遊びに出掛けたわけじゃなくって、ちゃんと理由はあったんだけど…)
 ミュウの子供の救出作戦の事前調査で降りていたとか、ユニバーサルの偵察だとか。
 降りた機会に、空き時間が出来た時だけ、海を見に出掛けていたりした。
 郊外の森の中でも、ゆったりと流れる雲を見上げた。
(どの場所も、きっと変わっちゃってて、残ってないよね…)
 分かっているけど、行けるんだったら、行ってみたいな、という気はする。
 思い出の場所に行くのではなくて、アルテメシアと呼ばれる雲海の星へ。


(……いつか行くんなら……)
 ハーレイと一緒に決まってるよ、と確信があった。
 アルテメシアは遠い星だし、今の学校の間に出掛けてゆくには、向いてはいない。
 旅行に行くなら、ワープを何度もしないと着けない場所より、近い何処かの星だろう。
(…今のぼくだって、身体が弱いままだし、地球の上でも、旅は殆ど…)
 していないもの、と溜息が零れてしまいそう。
 せっかく青い地球の上に来たのに、「青い水の星」を、未だに一度も見ていないまま。
 ハーレイの方は、何度も見ているらしくて、羨ましい。
(…でも、ハーレイだって、アルテメシアは…)
 行ったことが無いと聞いているから、出掛けてゆくなら、ハーレイと暮らし始めた後だろう。


 遠く遥かな時の彼方で、前のハーレイが舵輪を握る白い箱舟で、雲海の星に辿り着いた。
 あの時と変わらないのは「ハーレイと一緒」という所だけ。
 今のハーレイは、古典の教師で、宇宙船を操縦することは出来ない。
 アルテメシア行きのチケットを二人分、買って手に入れ、定期航路で向かうことになる。
(ひょっとしたら、臨時便が飛んでいる時期もあるのかも…)
 観光名所があるんだったら、と思うけれども、どうだろう。
 アルテメシアで有名な場所は、前の自分たちの墓碑が並んだ「記念墓地」。
 記念墓地には、シャングリラが解体された時に、移植した木たちの森もあるらしい。
 「シャングリラの森」という名で、かなり知られている。


(記念墓地には、前のぼくたちの墓碑があるけど、墓碑だけで…)
 身体は欠片も残っていないんだよね、と小さなブルーは苦笑する。
 前の自分はともかく、他の誰一人として「残っていない」というのが、少し愉快な気分。
 荒れたままだった地球の地の底深くで、前のハーレイ達も、キースも命尽きていった。
 その地球ではなくて、アルテメシアに墓碑があるのは、地球が蘇る前だったから。
(…そんな所に行ってみたって、挨拶だけしたら充分かな…)
 もちろん、花束か花輪は持って行くけど、と考えてから、幾つ買うのか気になって来た。
 大抵の人は、大英雄の「ソルジャー・ブルー」の墓碑に置くもので、他の墓標には祈りだけ。
 憧れている人や、尊敬している人がいたなら、そちらにも置く。
 ジョミーの墓標や、キースの墓標で、どちらも花が絶えないらしい。
 律儀な人が出掛けた場合は、全ての墓標に、一輪ずつの花を置くとも聞いていた。


 今のハーレイと出掛けてゆくなら、花束は幾つ必要だろう。
(…前のぼくには、置かないとしたって…)
 ずいぶん沢山、花が要りそう、とブルーは自分の両手を眺めてみる。
 手に一杯の花を買ったら、全員の分にはなるかもしれない。
 とはいえ、「知らない間柄ではなかった」人たちの墓標に、花を一輪だけでいいのだろうか。
(…ジョミーの墓碑には、お礼の気持ちで大きな花束か花輪、置きたいし…)
 いくらハーレイが「キース嫌い」でも、キースの墓標にも立派な花を届けたい。
 キースが変わってくれたからこそ、SD体制の終わりが早くなったのは確かだから。
(…他にも、お礼を言いたい人がドッサリ、花束は幾つ…?)
 幾つ買ったらいいんだろう、とブルーは何度も数え直して、悩ましくなった。


(花束とか花輪を、うんと沢山、買うんだったら…)
 持ち切れない上に、お金だって高くなりそうだし、と頭に浮かぶのは、今のハーレイ。
(任せておけ、って花をドッサリ抱えて運んで、お金も払ってくれそうだけど…)
 なんだか、ちょっぴり申し訳ない気がしちゃう、と思うものだから、どうするべきか。
(…うーん…。アルテメシアに、いつか行くんなら…)
 記念墓地には行かずに、シャングリラの森だけ見に行こうかな、と逃げを打ちたい。
 そうは言っても、記念墓地に行かずに済ませようにも、ハーレイは賛成しないだろう。
(……ハーレイの方が、行くべきだ、って言うんだったら……)
 花の係は任せちゃおうかな、とブルーは、クスッと小さく笑った。
 ハーレイが花を山と抱えて運ぶ羽目になろうが、財布の中身がピンチだろうが、自業自得。
 もっとも、財布がピンチになったら、お土産を買って帰るのは、難しそうだけれど…。



        いつか行くんなら・了


※いつかハーレイと、アルテメシアに行きたいブルー君。外せない場所が記念墓地。
 いったい幾つ花が要るやら、お土産を買うお金、残ってくれるといいですねv







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(アルテメシアか…)
 いつか行きたい場所ではあるな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…地球からだと、かなり遠いんだが…)
 それもそうか、と少し可笑しくなった。
 遠く遥かな時の彼方で、アルテメシアから地球を目指した。
 ミュウと人類の間の溝や戦い、それらを抜きにしても、長い道のりだった。
(最後の長距離ワープにしたって、とんでもない距離を…)
 ワープしたんだ、とキャプテンだったからこそ、鮮明に分かる。
 あの時のワープの出発地点は、アルテメシアよりも、ずっと地球に近かった。
(今の時代の船で行っても、地球から行くには、ワープを数回…)
 繰り返さないと無理だ、と分かっている。
 前の生での記憶が戻って来た後、何度も見たのが「アルテメシア行き」のツアー広告。
 どのくらいの日数で行けて、何処を見て回る旅になるのか、興味津々で眺めている。


(行く時は、ブルーとの旅になるよな)
 俺一人でも行けないことはないんだが、とハーレイは苦笑した。
 ツアーの日数などからして、夏休み中とかならば、時間は作れる。
 けれども、「ちょっと旅行に行って来る」と言おうものなら、ブルーはフグになるだろう。
 頬っぺたをプウッと膨らませて怒って、「ハーレイ、酷い!」と睨むに違いない。
(その上、行先がアルテメシアではなあ…)
 ブルーの怒りは「酷い!」どころか「ずるい!」に変わって、プンスカ怒って、おかんむり。
 最悪の場合、「出て行ってよ!」と怒鳴って、クッションを投げて来ることも有り得る。
(…それでホントに帰っちまったら、それはそれで…)
 怒り散らすんだ、と分かっているから、今はまだ旅に出られはしない。
 アルテメシアでなくても、自分の楽しみのために行くのは、許して貰えないだろう。
(土産をドッサリ買って来たって、土産だけ、ちゃっかり貰っておいて…)
 文句三昧でフグになるんだ、とクスクスと笑う。
 アルテメシアに行くとしたなら、ブルーと一緒に暮らし始めた後にするしかない。


 とはいえ、アルテメシアに行くとなったら、ブルーと行くのが似合いではある。
 前の生での思い出の星で、一番長く、ブルーと暮らした場所でもあった。
(…ただなあ…)
 あいつと違って、俺の場合は「思い出の場所」が無いんだよな、と顎に手を当てた。
 前のブルーは、「タイプ・ブルー」に相応しいサイオンの使い手だった。
 雲海に潜む船の外にも、自在に出られた。
(海を眺めたり、テラフォーミングされた範囲の山に降りたり…)
 外に出た「ついで」に、自然を満喫していたようだ。
 空を見上げたり、星を仰いだり、通り過ぎて行く風に吹かれたりも。
(気に入りの場所も、あちこち、あったんだろうが…)
 俺は無いんだ、と少し悲しい。
 他の仲間も同じだったけれども、船の外には出て行けない。
 潜入班の者たちだけが、外の世界に「思い出の場所」を持っていた。


 そんな事情で、ハーレイは「思い出の場所」を持たない。
 アルテメシアまで旅をしたって、もう一度、見たい場所も、行きたい場所も思い付かない。
(ツアーで行っても、いいくらいだよな…)
 お勧めコースを観光して回って、それでおしまいの「ごく普通の旅」。
 今の時代ならではの「名物料理」があったら、それも、もちろん食べられる。
(…いっそ、そういう旅にするかな…)
 それとも個人旅行で、ブルーと二人で出掛けてゆくか、と悩ましい。
 ブルーの方には「行きたい場所」があるかもしれないし、それに合わせて旅程を組む。
(…あいつ次第か…)
 どうせ行くなら、あいつが一緒なんだしな、と思うけれども、ふと浮かんだ考え。


(そうだ、記念墓地にある、俺の墓標に…)
 散々、似合わないと言われた「薔薇の花」をドッサリ供えてやろう、とクスリと笑う。
 「薔薇の花びらのジャム」を配るクジの箱さえ、前のハーレイの前は素通りだった。
 それほど「似合わない」とされた花でも、今の時代は、墓標に供えられている。
(よし、コレだ!)
 アルテメシアに着いたら、早速、花屋に出掛けないとな、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブルーと一緒に店に入って、「薔薇の花で花束と花輪を作って貰えますか」と注文しよう。
 うんと豪華で見栄えのするものを、と付け加えるのも忘れない。
 そして花束と花輪が出来たら、ブルーと二人で供えに行こう。
 「薔薇の花びらのジャム」が似合わないと言われた、「キャプテン・ハーレイ」の墓標に。
 誰一人として気付かなくても、ブルーとハーレイだけに分かる、最高のジョークなのだから…。



         いつか行くなら・了


※いつかは行ってみたい、アルテメシア。けれど、思い出の場所が無いハーレイ先生。
 ツアーにするのも良さそうですけど、記念墓地で薔薇を供えるんなら、個人旅行ですねv






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(ウサギになりたかったんだよね…)
 小さかった頃は、とブルーが、ふと考えたこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(幼稚園にいたウサギ、元気そうだったから…)
 ウサギになれたら楽しそうだ、と思って、仲間入りがしたかった。
 あの時、ウサギになっていたなら、ハーレイとの出会いは難しそう。
(…前にハーレイに、この話をしたら、仲間になってくれるって…)
 ハーレイは頼もしい言葉をくれたけれども、出会いからして、人間同士のようにはいかない。
 それに、ハーレイも一緒にウサギにならない限り、野原で暮らすウサギは厳しいだろう。
(ぼくが自分で、巣穴を掘って、ご飯を探して頑張らないと…)
 生きてゆけないから、幼稚園にいたウサギみたいに、飼われているウサギが向いている。
 ウサギ用の小屋を持っていて、庭で気ままに跳ね回るウサギがいい。
(…庭にいるトコへ、ハーレイが通り掛かって…)
 見付けてくれたら出会えるわけで、その後の暮らしは、ハーレイ次第。
 揃ってウサギになってもいいし、ハーレイが貰い受けてくれて、飼ってくれるのも良さそう。
(ハーレイと一緒に暮らせるんなら、どっちでもいいよね)
 野原暮らしのウサギになっても、ハーレイの家のペットでも幸せなのに違いない。


 ウサギの暮らしも悪くはなさそう、と思うけれども、出会うチャンスが少ないのが難点。
(ハーレイの散歩と、ぼくが庭に出ている時間が合わないと…)
 お互い、気付かないまま、擦れ違ってしまう。
(…うーん…。ぼくがウサギじゃ、難しいかな…)
 ウサギは散歩に行かない生き物だしね、とブルーの頭に浮かんだのは、別の生き物。
 毎日、散歩に行くと言ったら、犬だろう。
(ぼくが公園で散歩してたら、ハーレイがジョギングで走って来るんだよ)
 そのハーレイに「やっと会えたよ!」と叫んだならば、気付いて貰える。
 声は犬でも、姿形も人でなくても。
(だってハーレイ、どんな姿になった、ぼくでも…)
 見付けられると言っているから、大丈夫。
 「おっ、ブルー!?」と、大急ぎで駆けて来るだろう。
 リードを握った飼い主の方に、まずは挨拶、それから「犬のブルー」にも…。
(元気そうな子だな、と頭を撫でてくれそうだよね!)
 それとも「お利口そうな子ですね」と、飼い主を見ながら言うのだろうか。
 どっちにしたって、自然な出会いで、ハーレイの口から「ブルー」の名前が出たら最高。
(犬のぼく、名前が何かは分からないもの…)
 飼い主が決めた名前なのだし、「ブルー」になるとは限らない。
 ハーレイは、飼い主に「この子の名前は、何でしょう?」と尋ねて、その名で呼ぶ。
 名前が「ブルー」でなかった時には、「ブルー」とは呼んで貰えない。
 あの懐かしい声で、「ブルー」と呼ばれたくても、違う名前しか出て来ない。


(…それって、悲しい…)
 せっかく再会出来たというのに、ハーレイは「ブルー」と呼んでくれない。
 おまけに、ジョギングの途中なのだし、そうそう長くはいてくれないだろう。
(ぼくの飼い主だって、変だと思いそうだし…)
 いくらハーレイが「犬好き」に見えたとしても、立ち話出来るのは、五分ほどかもしれない。
(ハーレイも犬を連れていたなら、もっと、ゆっくり…)
 飼い主同士で話せるのにね、と項垂れたはずみに、掠めた考え。
(…ハーレイの方も、犬だったら…?)
 犬同士、公園で出会ったのなら、と思考が別の方向を向いた。
 ハーレイも犬に生まれ変わっていて、散歩コースで、「ブルー」と出会う。
 そっちの方なら、もう少し長く一緒にいられそう。
 再会した後も、散歩の時間が合ったら、何度でも会える。
 犬は毎日、散歩するから、飼い主同士で時間合わせをしてくれれば、毎日でも。
(流石に、雨の日は無理だろうけど…)
 ぼくが犬なら、小型犬だろうし、と白くて小さな犬を思い浮かべた。
 様々な種類の犬がいるから、どれになるかは分からない。
(ハーレイは、きっと、もっと大きい種類の犬で…)
 頼もしそうな犬なんだよね、と大型犬を想像していて、ハタと気付いた。
 小型の犬と、大型の犬が、公園で出会った場合、飼い主たちは、どう動くだろう。


(ハーレイの飼い主、リードを、グッと握って…)
 犬のハーレイが「犬のブルー」を驚かせないように、距離を取りそう。
 ハーレイが大人しい種類の犬にしたって、用心に越したことはない。
(犬にも相性、あるみたいだから…)
 万一があれば、ハーレイは「ブルー」に吠えてかかるし、それは良くない。
 犬のブルーを飼っている方も、大型犬のハーレイを目にした途端に、回れ右して…。
(今日は、こっちに行きましょうね、って…)
 ハーレイを避けて、急ぎ足で公園を出るかもしれない。
 そうなってしまえば、「犬のハーレイ」とは、出会っただけでおしまい。
(待って、ハーレイ! って、ぼくが叫んでも…)
 ブルーの飼い主には、無謀に思えてしまうのだろう。
 大型犬の怖さを知らない「ブルー」が、喧嘩を吹っ掛けていると勘違いして。
(縄張り意識、あるものね…)
 いつもの散歩コースを変えられたのだし、「あの犬のせいだ!」と怒り出したとか。
(そうじゃないのに、犬の言葉は、人間に通じないから…)
 ハーレイの飼い主の方も、「これはまずい」と考えそう。
 自分の犬が「小さな犬」を挑発したかのようで、何か起きたら、大型犬だけに大惨事になる。
(どっちかのリード、離れちゃったら…)
 大型犬のハーレイは全力疾走、ブルーをガップリ噛むかもしれない。
 走り出したのがブルーの方でも、犬のハーレイに挑みかかって、ガブリとやられる。


(…両方の飼い主、そう思うよね…)
 犬同士だったら起こりそうだし、と恐ろしくなった。
 ほんの一瞬、再会しただけで、次は無い出会い。
 飼い主は散歩コースを変えてしまうか、遠くから見掛けて、その日はコース変更になる。
(…そんなの、酷い…!)
 飼い主がいたなら、そうなっちゃうんだ、と思うものだから、人間で良かった。
 小さかった頃の夢が叶って、ウサギになっていたって、上手く運びはしなかっただろう。
(…飼い主がいたなら、ウサギ人生、飼い主次第になっちゃうものね…)
 神様に感謝しなくっちゃ、とブルーは聖痕をくれた神に向かって、お礼の言葉を繰り返す。
 「人間にしてくれて、ありがとう!」と、ハーレイの分も合わせて、何回も…。



※ウサギになりたかったブルー君。ウサギよりも犬の方がいい、と考えたのですけど。
 犬同士で出会った場合は、その後のことは、飼い主次第。人間に生まれるのが一番ですv






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(何に生まれたって、あいつを見付け出せる自信はだ…)
 あるんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(例えば、犬や猫にしたって、ウサギだったり、鳥になっていても…)
 必ず見付けられるし、出会えるだろう、と考える。
 ブルーとの絆は強いものだけに、人間として出会えなくても、きっと出会える。
(もしも犬だと、俺とは種類が違いそうだぞ)
 俺は大型の犬で、あいつは小さな種類の犬で、と想像しただけで微笑ましい。
 犬に生まれたブルーも、白い犬なのに違いない。
(ふわふわしてるか、毛足が長いか、それとも…)
 どんなのにしも可愛いんだ、と「犬のブルー」を頭に描く。
 アルビノでなくても、真っ白な犬で、手入れが行き届いていることだろう。
(頭にリボンを結んでるとかも、あるかもしれないな…)
 美容室に連れて行って貰ったりしたら、そうなりそう。
 ブルーが「男の子」の犬であっても、見栄えがするなら頭にリボン。
(飼い主が色々、コレクションしたのを日替わりで…)
 毎朝、頭にキュッと結んで、それから散歩なんだ、と「散歩に行くブルー」が見えるよう。


 犬のブルーは愛らしいけども、ハーレイの方は違っているという気がする。
 大型犬だし、可愛く見えるのは子犬時代だけ。
(犬のあいつと出会う頃には、育っちまってて…)
 ブルーの何倍あるだろうか、と思うくらいに体格からして差があるだろう。
 外見にしても、獰猛そうでなければマシだと言える。
(大型犬にも、大人しいのから、猟犬とかまでいるんだし…)
 出来れば大人しい種類に生まれたいもんだ、とハーレイは肩を軽く竦める。
 見るからに恐ろしそうな犬だった時は、犬のブルーの飼い主に距離を取られてしまう。
 ブルーが「あっ、ハーレイ!」と気付いて、嬉しそうに鳴いていたって、近付けてくれない。
(危ないわよ、とリードをグッと握って…)
 足早に去って、公園だったら出てゆくだろうし、路上だったら遠ざかってゆく。
(…ほんの一瞬だけの出会いで…)
 次があっても同じことだぞ、と結果は考えるまでもない。
 「犬のブルー」が、獰猛そうな大型犬に向かって鳴くのは、飼い主にすれば好ましくない。
(この子が、怖さに気付いていないだけなんだ、と…)
 勘違いをして、散歩コースを変えてしまえば、もう会うことは出来なくなる。
 「犬のハーレイ」の飼い主にしたって、トラブルは避けたいと考えそう。
(…俺がブルーを噛んじまったら、大変なことになっちまうからなあ…)
 散歩コースを変更するのは、ハーレイの飼い主の方かもしれない。
 他の犬が多い公園よりも、人の少ない場所の散歩に切り替えるとか。


 如何にもありそうな、「出会えなくなる」結末。
 犬のブルーと犬種が違って、「犬のハーレイ」が怖そうな見た目になっていれば起きる。
(大型犬でも、大人しい方で願いたいぞ…)
 どんな性格をしている犬かは、飼い主にしか分からないし、とハーレイは溜息をついた。
 前の自分も、人によっては「怖そうな人だ」と見ていただろうか。
 ブリッジで指揮を執る所だけしか知らなかったら、有り得そうではある。
(眉間に皺で、難しい顔で…)
 シャングリラの中を歩いていたのが前の自分で、怖そうな犬と同じかもしれない。
(犬に生まれた俺の場合も、猟犬になっていたって、大人しい性格で…)
 訓練でボールなどはキャッチ出来ても、動物を追うことはしないのだろう。
 もちろん「小型犬のブルー」を噛みはしないし、出会えたのなら、一緒に遊ぶだけ。
(仲良くなれたら、飼い主同士も、話が弾んで…)
 散歩コースや時間を合わせてくれて、会える日がグンと増えてくれそう。
 「大人しい犬なんです」とアピールする機会は、是非とも欲しい。
 ブルーの飼い主が足早に去って、二度と出会えなくなるのは悲しすぎる。


(違う種類の犬でも、仲良くなれるケースは多いからなあ…)
 犬と猿でも仲良くなるって話も聞くし、とハーレイは思う。
 「犬猿の仲」という言葉があるのだけれども、仲がいい犬と猿とは存在する。
(…俺の飼い主と、ブルーの飼い主に期待するしか…)
 判断違いが起きちまったら、おしまいなんだ、とゾッとしてから、ハタと気付いた。
 犬のブルーと仲良くなれても、出会える時間は散歩の時しか無さそう。
 それ以外の時間は、それぞれの家で過ごしているしかない。
(雨が降ったら、散歩は行かないだろうし…)
 寒すぎる日とか、暑すぎる日にも、犬のブルーは「家の近く」で散歩を済ませるだろう。
 大型犬のハーレイと違って、暑さ寒さに弱いのは容易に分かる。
(…そうなってくると、せっかく、あいつと再会出来ても…)
 俺たちの人生、飼い主次第か、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 犬の場合は「犬生」だけれども、全てが飼い主に左右されてしまう。
 散歩コースを変えるにしても、合わせるにしても、ハーレイとブルーは蚊帳の外になる。


(ついでに、一緒に暮らすなんぞは、夢のまた夢…)
 雄同士だしな、とハーレイは頭を抱えたくなった。
 犬のブルーが雌にしたって、犬種が違う時点で絶望的。
(交配したい、と思う飼い主、いないだろうし…)
 仲が良さそうだから、と例外を認めるにしても、一緒に飼ってはくれないだろう。
 子供が出来るシーズンにだけ、ほんの数日、どちらかの家で過ごしておしまい。
(生まれて来た子も、ブルーの家で育っていくだけで…)
 俺は顔さえ見られないんだ、と思うものだから、犬に生まれ変わるのは駄目かもしれない。
(飼い主がいたら、お互い、どうにも出来んからなあ…)
 犬は駄目だ、とハーレイは神に感謝した。
 今の生で犬に生まれていたなら、ハーレイもブルーも、悲しい思いをすることになった。
(何に生まれても、あいつを見付け出せるんだが…)
 飼い主のいない生き物で頼む、と心から願う。
 ハーレイもブルーも、飼い主がいたら、自由に生きるのは不可能だから…。



           飼い主がいたら・了


※何に生まれても、ブルー君を見付ける自信があるハーレイ先生。犬や鳥でも大丈夫。
 けれど気付いてしまった現実。飼い主がいる場合は、思い通りには生きられませんよねv







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