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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(今は俺しかいないわけだが…)
 いずれは二人になるんだよな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(あと数年もしたら、ブルーは卒業だから…)
 結婚式を挙げた後には、一緒に暮らすことになる。
 気ままな一人暮らしの日々にサヨナラ、そうと言えないこともなかった。
(思い立った時に、ヒョイと書斎に来るのも難しいぞ…)
 タイミングが悪いと、ブルーが機嫌を損ねちまうし、と肩を竦める。
 今よりも育ったブルーが、今と同じに頬を膨らませて怒るかもしれない。
(ハーレイ、ぼくを放っとくの!? って…)
 ありそうだよなあ、と思えて来るから、気を付けないと駄目だろう。


 数年後には、やって来るのが「自由の無い」日常。
 出勤前の朝にしたって、気分次第で早朝のジョギングには出られそうにない。
 前の日から「明日の朝には、ジョギングするから」と予告が要りそう。
(いい天気だから、って着替えて家を出ようモンなら…)
 戻った途端に、ブルーの雷が落ちるのは間違い無かった。
(ぼくの朝御飯、まだなんだけど、と膨れっ面か…)
 そうでなければ、恩着せがましく朝食が出来ているだろう。
 如何にも「ハーレイが出掛けて、直ぐに作りました」と言わんばかりの冷め具合で。


(…うーむ…)
 それはそれで愉快な暮らしなんだが、とハーレイは苦笑してしまう。
 楽しいながらも、不自由を伴う結婚生活。
 仕事帰りの寄り道にしても、朝と同じで予告か、連絡しないとブルーの怒りを招く。
(こんな時間まで、帰らないなんて、とだ…)
 夕食も食べずに待っているとか、嫌味たらしくカップ麺の空き容器が置いてあるとか。
(洗いもしないで、テーブルの上に置きっ放しで…)
 スナック菓子の袋も、開封したのが転がっていそう。
 普段のブルーは、そんな食事も、スナック菓子も、さほど好まないのに。
(俺が作った夕食を食って、デザートは、俺の土産だったり…)
 休日に作り置きした日持ちする菓子などを、ブルーは食べているだろう。
 夕食用の支度が無かったことは認めるとしても、菓子類は何か残っていたって無視。


 とんでもなく我儘に、当たり散らしそうなブルーだけれども、それも可愛い。
 前のブルーだった頃には、考えられないだけに、許してしまえる。
(…しかしだな…)
 俺の自由は失われるな、と嘆いたはずみに、思考が逸れた。
 「ハーレイの、予告なしの行動」で、ブルーが怒るのは当たり前の反応と言える。
 だったら、逆の場合はどうなることか。
(…あいつにしたって、思い付きで動くことだって…)
 有り得るだろうし、予告しないで行動を起こす場面も来そう。
(そうそう出掛けはしないと思うが、友達もいるし…)
 友達と出掛けてくる、と言って外出したまま、戻って来ないといった出来事。
 結婚しているブルーと違って、友人たちは、まだまだ上の学校で学生をしている。
 自由気ままな学生生活、ハーレイにだって覚えはドッサリとあった。


(今夜は友達と食べて来るから、とまでは聞いていて…)
 其処までは予告があった訳だし、自分一人で夕食を済ませて、久々の自由を満喫する。
 のんびり後片付けを済ませて、書斎で今夜のように、本を読んだりして待つ。
(ずいぶん遅いな、と思ってもだ…)
 学生の友達と飲みに行ったりしたなら、遅くもなりそう。
 時計を見ながら、待ち続ける間に、ブルーからの通信が入る。
(…ごめん、遅くなったから、友達に泊めて貰うね、って…)
 楽しそうな声で、アッサリと告げて、通信はプツンと切れておしまい。
(…迎えに行くから、何処なんだ、と聞き返す暇さえも…)
 与えられずに、いきなり、一人きりの夜に放り出される。
 ブルーが帰って来たら、と用意していた熱い風呂なども無駄になってしまう。


 思いがけない自由な夜だ、と受け止める前向きな気持ちには、多分、なれない。
 ずっと二人で暮らして来たから、捨てられたような気分にさえも、なりかねなかった。
(泊めて貰うね、って言ってた向こうで、ワイワイと…)
 友人たちの話し声や、笑い声が響いていたなら、なおのことだろう。
 ブルーは「楽しんでいる」のに、待っていた方のハーレイは「独りぼっち」。
 学生時代だったらともかく、今となっては、こんな時間に来てくれる友人もいない。
(…今夜は暇だから、飲みに来ないか、と…)
 同僚たちに、片っ端から声を掛けて回るには、遅すぎる。
 ブルーが予め、言ってくれていたなら、そういう過ごし方だって、出来ただろうに。


(…予想もしていない時に、一人になったら…)
 俺のダメージ、大きそうだ、とハーレイは大きな溜息を吐き出す。
 「たまには、一人暮らしの夜に戻りたい」と思っていたって、それとは事情が違う。
 いるつもりだった「ブルー」が、ぽっかりと「いない」。
 まるで、シャングリラで独りぼっちになった時代に、逆戻りしたかのよう。
(…あいつは、メギドに行ったんじゃなくて、友達の家に泊まってて…)
 賑やかな声も聞こえたんだが、と承知していても、心が遥かな時の彼方へ連れ戻される。
 「ブルーが、いない」家に残され、一人きりの夜では、きっと、そうなってしまう。
(…一人になったら、泣いちまうかもなあ…)
 何度もやられりゃ、慣れて来るだろうが、とハーレイは、低く呻くしかない。
 「なんてこった」と、「俺の心は、まだまだ昔を引き摺ってるのか」と溜息をついて…。



          一人になったら・了


※一人暮らしを満喫しているハーレイ先生。結婚した後は、自由が減りそう。
 とはいえ、ブルー君が突然いなくなる事態の場合は、楽しむどころか、ダメージかもv






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(教室だったとは、限らないよね…)
 ぼくとハーレイの出会いの場所、とブルーの頭に浮かんだ考え。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(たまたま、教室だっただけだし…)
 グラウンドとか、廊下だったとかもありそう、と学校内の場所を挙げてみる。
 ハーレイは転任して来たばかりだったし、何処で会っても、おかしくはない。
 ブルーのクラスで授業があったせいで、あの時、入って来たに過ぎない。
(…ぼくが学校に着いて、教室へ行く前に…)
 何処かで会ったら、其処で初対面になる。
 たちまち聖痕が表れ、その後の流れは、実際に起こったことと変わらないだろう。
(…何処で会っても、人騒がせで…)
 救急車が来たり、野次馬の生徒が押し掛けて来たりと、学校中が大騒ぎに違いない。
 授業中だったのは、不幸中の幸いだったと言えるだろうか。
(…他のクラスからの野次馬、少ない方だったと思うから…)
 始業のベルが鳴る前のグラウンドだとか、休み時間の廊下では、そうはいかない。
 駆け付けた先生や、ハーレイ自身が「落ち着いて!」「教室に戻りなさい」と叫ぶほどの騒動。
 その日は一日、学校中が落ち着かなくて、生徒たちは授業に身が入らなかった恐れも大きい。
 もっとも、ブルーのクラスだけは、そういう有様だったらしいけれども。


 そうは言っても、教室内で良かったと思う。
 学校中に大迷惑をかけるよりかは、ブルーのクラス限定で済ませておきたい。
(…学校だった分だけ、まだマシなのかも…)
 外の道路じゃ、やっぱり大騒ぎだよ、とブルーにも分かる。
 路線バスで最寄りのバス停に着いた直後に、出会っていたなら、通行人も何人もいる。
 学校の始業時間は早めなのだし、通勤客だって通り掛かる時間帯だった。
(…歩道を歩いてる人の他にも、車で出勤中の人もいるよね…)
 外でも野次馬が集まっちゃいそう、と容易に想像が出来てしまう。
 通行人は足を止めるし、車の人だって、スピードを落として通って、停まる車も出て来そう。
 ただの野次馬だと、車を停めたら叱られそうでも、応急手当が出来る場合は、話が異なる。
 「どうしました!?」などと呼び掛けながら、走って来るだろう。
(…救急車を呼びに走る人だって、ハーレイじゃなくって…)
 通りすがりの誰かで、ハーレイは「すみませんが」と、学校への連絡を頼むしかない。
 「表の通りで生徒が倒れたので、救急車には、私が付き添います」という伝言。
 それから、ブルーの生徒手帳を調べて、両親への連絡などもして貰わねばならない。
 表通りで出会っていたなら、教室以上の大騒ぎは確実だった。
(…おまけに、聖痕現象…)
 目撃していた人が多いわけだし、新聞に載っていたのだろうか。
 単独で記事にされることはなくても、「居合わせたんです!」という目撃者の寄稿。
 ちょっとした日々の出来事が投稿されるコーナーだったら、目玉投稿になりそうだった。


(…うーん…。表通りなだけで、騒ぎが倍以上かなあ…)
 生徒と先生だけの学校で大正解だよ、と思ったはずみに、別のシチュエーションが掠めた。
 表通りよりも人が多くて、目立ちそうな場所は幾らでもある。
 公園もそうだし、繁華街でもそう。
 ショッピングセンターなどだった時にも、間違いなく人垣が出来て、野次馬だらけ。
(…何処にしたって、ぼくが全く行かないわけじゃないし…)
 本屋さんとかも危なそうだよ、と本好きのハーレイと自分の行動パターンを考慮してみる。
 バッタリ会うのが書店の中でも、充分、有り得る。
(ショッピングセンターだって、たまに行くんだし、ハーレイも行くし…)
 大迷惑なのは、お店の場合かも、とブルーは肩を竦めた。
 買物という心浮き立つイベントの場所が、一瞬の間に、流血の惨事で台無しになってしまう。
 自分が怪我をしたわけでなくても、居合わせた「誰か」が、血塗れでは恐ろしい。
 しかも「子供」が血を流しながら倒れて、動かないのでは、たまらない。
(…十四歳だと、まだまだ子供で、見てた人たち、可哀相に、って…)
 心配したり、動揺したり、ザワザワザワと揺れ動くばかり。
 小さな子供が居合わせたりしたら、最悪だろう。
(…こっちに来なさい、って手を引っ張ったり、抱え上げたり…)
 事故の現場を見せないように、懸命に駆け去ってゆくしかなさそう。
 幼い子供の心に「傷」が残ってしまっては、夜に悪夢にうなされたりもするだろうから。


 店という場所だけは避けないと、と思うけれども、実際、無事に避けられた。
 ハーレイが教室に来るという、平穏なケースで終わった出会い。
(…お店じゃなくって、ホントに良かった…)
 神様は其処まで考えてくれていたんだ、と感謝しながら、また考えが逸れた。
(もしも、ハーレイのお店だったら、どうなるんだろう…?)
 学校の先生の代わりに、何かのお店、と思い付いたら、ポンと出たのが菓子店だった。
 前のハーレイは厨房出身だったけれども、今のハーレイも、料理を得意としている。
 プロのスポーツ選手にならずに、選んだ道が教師で、料理人という選択もあった。
(学校を出た後、料理の専門学校に進んだって、いいんだものね…)
 お父さんたちに学費を頼まなくても、働きながら行けそうだから、と空想の翼を広げてみる。
 ハーレイだったら、料理店を始めるよりも、菓子店の方になりそう。
 子供が気軽に立ち寄れる店で、大人向けにカフェも併設していて、店があるのは住宅街。
(手広くやるより、お馴染みさんたちと、和気あいあいのお店で…)
 店主をする方が、ハーレイには、よく似合う。
 そういった店を近所で始めて、ブルーが評判を聞いて出掛けて行ったら、店先で出会う。


(…出会った途端に、聖痕なんだけど…)
 ハーレイの方でも思い出すから、居合わせた客が騒ぎ出しても、上手く鎮めるだろう。
 自分で救急車を呼んだ後には、客たちに「すみませんが、今日は休業で」と詫びの挨拶。
 店のドアには「臨時休業」の札が出されて、ハーレイは救急車に乗ってゆく。
 客たちに「お詫びです」と菓子を渡して、後日、再訪してくれるよう、埋め合わせの約束。
(…ハーレイなんだし、きっと、そんな風…)
 店先だったなら、うんと迷惑かけてしまいそう、と分かっているのに、ワクワクする。
 そんな出会いも悪く無さそうで、ハーレイの店の常連になるのも楽しそう。
 聖痕の現場を見ていた客とも、引き合わせて貰って、仲良しになって。
(…ハーレイの店の、お馴染みになって、行く度に、お菓子のサービス…)
 あるといいなあ、と自分本位で考えてしまうのは、まだまだ子供の証拠かもしれない。
 出会いの場所が店先だったなら、大迷惑をかけるに違いないのに、嬉しいのだから…。



            店先だったなら・了

※ブルー君が想像してみた、ハーレイ先生との出会いの場所。学校以外もありそう。
 もしも、ハーレイが店主の店なら、大迷惑をかけてしまっても、ブルー君は嬉しいかもv





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(教室だったとは限らないんだよな…)
 俺とブルーが出会った場所は、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(たまたま、教室だっただけで、他の場所だった可能性も…)
 顔を合わせればいいんだし、と別の所を頭に描く。
 時期が来たからこその出会いで、教室である必要は無い。
(…俺とあいつの行動範囲が重なりさえすれば、何処でもいいんだ…)
 学校の近くの文具店でもいいし、バス停でもいい。
 長い散歩や、気まぐれなジョギングで出掛けた先が、ブルーの家の近所も有り得る。


 早い話が、ブルーの家の前でバッタリ会っても、おかしくなかった。
 知らずに通り掛かったハーレイと、門から出て来たブルーが、顔を合わせる。
(…ふうむ…)
 興味深いケースではある、と思う間に、別の出会いを考え付いた。
 今のブルーも身体が弱いけれども、家の近くなら散歩していたりもする。
(散歩のついでに、ちょっとした買い物くらいだったら…)
 頼まれて行ったり、自分で出掛けることもあるだろう。
(…何処かの店先で、バッタリか…)
 店主や店員は、酷く慌てて、救急車を呼んだり、とんでもない騒ぎが目に見えるよう。
(…場を収めるのは、俺の役目なんだろうな…)
 救急車に一緒に乗って行くから、ブルーの家に連絡を頼む、などと落ち着いた口調で告げる。
 教師なのだし、そういったことには慣れているから、問題は無い。


(とはいえ、無関係な店を巻き込んじまうのは、ちと困るぞ…)
 俺が店主だったらいいんだがな、と苦笑したはずみに、ポンと出て来た愉快な想像。
 ブルーが来るのは、「ハーレイの店」の店先。
 そっちだったら、誰にも迷惑をかけはしないし、店員を雇っていたって、大丈夫だろう。
(俺は教師を選んだんだが、スポーツ選手の道に行かないのなら、店主もアリだな)
 料理作りは元々好きだし、菓子作りだって、と「違う進路」が無いわけではない。
 何処かで「料理の道に進もう」と思っていたなら、充分、ありそうなコース。
 上の学校に進む代わりに、料理人を育てる専門学校に入ればいい。
(あらゆる料理を学べる上に、菓子職人向けのコースもあるんだし…)
 どれを選ぶかは好み次第で、その気になったら、掛け持ちで学ぶことだって出来てしまう。
 卒業した後、成績が良ければ、有名店で修業もさせて貰える。
 その後、一人立ちして、店を持つなら、今くらいの年になりそうだった。


 有名店に勤める間に貯めた資金で、まずは自分の店を買うこと。
 何も知らずに選んだ場所が、ブルーの家の近くでも、不思議は無かった。
(ちょうど良さそうな感じなんだよなあ、住宅街だし…)
 あまり有名な店に育てたいという気はしない。
 店主と客の距離が近くて、気軽に話せて、調理場が見られるカウンターなども作ってみたい。
 出来ることなら、料理の傍ら、菓子作りもして、販売用のスペースも欲しい所だ。
(ちょっとした棚でいいから、店主の気まぐれ風にだな…)
 焼き菓子を置いたり、パンを多めに焼き上げてみたり、何があるかは、来てのお楽しみ。
(俺の好みは、そういう具合に、フラリと入れる店なんだ…)
 自分が店を始めるにしても、似たような店を作りたいぞ、と夢は描ける。
 子供のお小遣い程度で買える、「美味しいクッキー」でもあったら、ブルーも来そうだ。


(お母さんに聞いたか、近所の誰かか、友達に評判を聞かされたとかで…)
 今のブルーは、母が作る様々な菓子が好きだし、何処かの店の菓子でも喜ぶ。
 近い所に「美味しい菓子の店が出来たらしい」と耳にしたなら、きっと覗きに来るだろう。
(あいつのことだし、入りやすそうな店なら、中の様子を覗き見してから…)
 開けてあるだろうドアをくぐって、ヒョイと店へと入って来る。
(おじさん、どんなお菓子があるの、とだな…)
 声を掛けようとして、店主を見たなら、「俺」なわけだ、と可笑しくなった。
 よりにもよって、「ハーレイ」が「店主の、おじさん」。
 お菓子を買いに入ったつもりが、前の生での恋人と、バッタリ出会うという衝撃的な瞬間。
(…それでも、聖痕、出るんだろうか…?)
 出ては来るんだろうが、ワンテンポ以上、遅れそうだな、と思わないでもない。
 「店主の、おじさん」と、「キャプテン・ハーレイ」では、あまりにもギャップが大きすぎる。


(俺の方でも、あいつに聖痕が出ない間は、記憶は戻ってくれないんだし…)
 入った途端に立ち尽くしているブルーに向かって、こう尋ねそうだ。
 「おい、どうしたんだ? 小遣いで買えそうな菓子しか、置いていないぞ?」
 それとも食事をしたいのか、と空いている席を示した辺りで、やっと、聖痕が姿を現す。
(…なんとも間抜けで、呆れちまうんだが…)
 俺がやってる店の場合は、そうなるかもな、とハーレイはクスクスと笑い始めた。
 「間抜けすぎる出会い」の方でも、悪くはない。
 居合わせた客や、一人くらいはいそうな店員などには、「運が悪かった」と諦めて貰おう。
 「臨時休業」の札が出されて、その日一日、店は「お休み」。
(…聖痕で汚れちまった床の掃除も、店員に頼むことにになるから、後でだな…)
 給料にドンと上乗せしとくさ、と気前のいい「店主」が出来上がりそうだ。
 恐らく、それ以降、小さなブルーは「店の常連」。
 毎日のように来るだろうから、店員とも仲良くなる筈なのだし、うんとサービスして欲しい。
 ブルーが店に入った瞬間、「いらっしゃいませ!」で、お気に入りの席へと、御案内で…。



           店先だったら・了


※ハーレイ先生と、ブルー君の出会いの場所。店先だった可能性も充分、ありそう。
 ついでに「ハーレイ先生」ではなくて、「ハーレイ店長」だった場合は、楽しそうですv




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(…アルテメシアかあ…)
 懐かしいのかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。


 アルテメシアは、前の生での思い出の星の一つ。
 白いシャングリラで長く潜んだ、雲海に覆われていた星だった。
(雲海、今も変わらないらしいけど、テラフォーミングが進んだから…)
 覚えている星とは違うかもね、とブルーにも分かっている。
 あの頃には、まだ育英都市が二つしか無かった。
 ジョミーを見付けたアタラクシアと、シロエが育ったエネルゲイアだけ。
(今だと、他にも町が幾つも出来ている上に、SD体制、無くなったせいで…)
 赤ん坊から高齢の人まで、大勢の人が暮らしている。
 血の繋がった「本物の家族」を中心にして、仕事などで単身、長期滞在も珍しくない。


 様子だけでも変わっているから、今の時代に行ってみたって、別の星のようだろう。
 けれども、何処かに「懐かしい」と思う気持ちは、あるように思う。
 雲海の中での長い歳月、たまに地上に降りていたせいもあるかもしれない。
(遊びに出掛けたわけじゃなくって、ちゃんと理由はあったんだけど…)
 ミュウの子供の救出作戦の事前調査で降りていたとか、ユニバーサルの偵察だとか。
 降りた機会に、空き時間が出来た時だけ、海を見に出掛けていたりした。
 郊外の森の中でも、ゆったりと流れる雲を見上げた。
(どの場所も、きっと変わっちゃってて、残ってないよね…)
 分かっているけど、行けるんだったら、行ってみたいな、という気はする。
 思い出の場所に行くのではなくて、アルテメシアと呼ばれる雲海の星へ。


(……いつか行くんなら……)
 ハーレイと一緒に決まってるよ、と確信があった。
 アルテメシアは遠い星だし、今の学校の間に出掛けてゆくには、向いてはいない。
 旅行に行くなら、ワープを何度もしないと着けない場所より、近い何処かの星だろう。
(…今のぼくだって、身体が弱いままだし、地球の上でも、旅は殆ど…)
 していないもの、と溜息が零れてしまいそう。
 せっかく青い地球の上に来たのに、「青い水の星」を、未だに一度も見ていないまま。
 ハーレイの方は、何度も見ているらしくて、羨ましい。
(…でも、ハーレイだって、アルテメシアは…)
 行ったことが無いと聞いているから、出掛けてゆくなら、ハーレイと暮らし始めた後だろう。


 遠く遥かな時の彼方で、前のハーレイが舵輪を握る白い箱舟で、雲海の星に辿り着いた。
 あの時と変わらないのは「ハーレイと一緒」という所だけ。
 今のハーレイは、古典の教師で、宇宙船を操縦することは出来ない。
 アルテメシア行きのチケットを二人分、買って手に入れ、定期航路で向かうことになる。
(ひょっとしたら、臨時便が飛んでいる時期もあるのかも…)
 観光名所があるんだったら、と思うけれども、どうだろう。
 アルテメシアで有名な場所は、前の自分たちの墓碑が並んだ「記念墓地」。
 記念墓地には、シャングリラが解体された時に、移植した木たちの森もあるらしい。
 「シャングリラの森」という名で、かなり知られている。


(記念墓地には、前のぼくたちの墓碑があるけど、墓碑だけで…)
 身体は欠片も残っていないんだよね、と小さなブルーは苦笑する。
 前の自分はともかく、他の誰一人として「残っていない」というのが、少し愉快な気分。
 荒れたままだった地球の地の底深くで、前のハーレイ達も、キースも命尽きていった。
 その地球ではなくて、アルテメシアに墓碑があるのは、地球が蘇る前だったから。
(…そんな所に行ってみたって、挨拶だけしたら充分かな…)
 もちろん、花束か花輪は持って行くけど、と考えてから、幾つ買うのか気になって来た。
 大抵の人は、大英雄の「ソルジャー・ブルー」の墓碑に置くもので、他の墓標には祈りだけ。
 憧れている人や、尊敬している人がいたなら、そちらにも置く。
 ジョミーの墓標や、キースの墓標で、どちらも花が絶えないらしい。
 律儀な人が出掛けた場合は、全ての墓標に、一輪ずつの花を置くとも聞いていた。


 今のハーレイと出掛けてゆくなら、花束は幾つ必要だろう。
(…前のぼくには、置かないとしたって…)
 ずいぶん沢山、花が要りそう、とブルーは自分の両手を眺めてみる。
 手に一杯の花を買ったら、全員の分にはなるかもしれない。
 とはいえ、「知らない間柄ではなかった」人たちの墓標に、花を一輪だけでいいのだろうか。
(…ジョミーの墓碑には、お礼の気持ちで大きな花束か花輪、置きたいし…)
 いくらハーレイが「キース嫌い」でも、キースの墓標にも立派な花を届けたい。
 キースが変わってくれたからこそ、SD体制の終わりが早くなったのは確かだから。
(…他にも、お礼を言いたい人がドッサリ、花束は幾つ…?)
 幾つ買ったらいいんだろう、とブルーは何度も数え直して、悩ましくなった。


(花束とか花輪を、うんと沢山、買うんだったら…)
 持ち切れない上に、お金だって高くなりそうだし、と頭に浮かぶのは、今のハーレイ。
(任せておけ、って花をドッサリ抱えて運んで、お金も払ってくれそうだけど…)
 なんだか、ちょっぴり申し訳ない気がしちゃう、と思うものだから、どうするべきか。
(…うーん…。アルテメシアに、いつか行くんなら…)
 記念墓地には行かずに、シャングリラの森だけ見に行こうかな、と逃げを打ちたい。
 そうは言っても、記念墓地に行かずに済ませようにも、ハーレイは賛成しないだろう。
(……ハーレイの方が、行くべきだ、って言うんだったら……)
 花の係は任せちゃおうかな、とブルーは、クスッと小さく笑った。
 ハーレイが花を山と抱えて運ぶ羽目になろうが、財布の中身がピンチだろうが、自業自得。
 もっとも、財布がピンチになったら、お土産を買って帰るのは、難しそうだけれど…。



        いつか行くんなら・了


※いつかハーレイと、アルテメシアに行きたいブルー君。外せない場所が記念墓地。
 いったい幾つ花が要るやら、お土産を買うお金、残ってくれるといいですねv







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(アルテメシアか…)
 いつか行きたい場所ではあるな、とハーレイは、ふと考えた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…地球からだと、かなり遠いんだが…)
 それもそうか、と少し可笑しくなった。
 遠く遥かな時の彼方で、アルテメシアから地球を目指した。
 ミュウと人類の間の溝や戦い、それらを抜きにしても、長い道のりだった。
(最後の長距離ワープにしたって、とんでもない距離を…)
 ワープしたんだ、とキャプテンだったからこそ、鮮明に分かる。
 あの時のワープの出発地点は、アルテメシアよりも、ずっと地球に近かった。
(今の時代の船で行っても、地球から行くには、ワープを数回…)
 繰り返さないと無理だ、と分かっている。
 前の生での記憶が戻って来た後、何度も見たのが「アルテメシア行き」のツアー広告。
 どのくらいの日数で行けて、何処を見て回る旅になるのか、興味津々で眺めている。


(行く時は、ブルーとの旅になるよな)
 俺一人でも行けないことはないんだが、とハーレイは苦笑した。
 ツアーの日数などからして、夏休み中とかならば、時間は作れる。
 けれども、「ちょっと旅行に行って来る」と言おうものなら、ブルーはフグになるだろう。
 頬っぺたをプウッと膨らませて怒って、「ハーレイ、酷い!」と睨むに違いない。
(その上、行先がアルテメシアではなあ…)
 ブルーの怒りは「酷い!」どころか「ずるい!」に変わって、プンスカ怒って、おかんむり。
 最悪の場合、「出て行ってよ!」と怒鳴って、クッションを投げて来ることも有り得る。
(…それでホントに帰っちまったら、それはそれで…)
 怒り散らすんだ、と分かっているから、今はまだ旅に出られはしない。
 アルテメシアでなくても、自分の楽しみのために行くのは、許して貰えないだろう。
(土産をドッサリ買って来たって、土産だけ、ちゃっかり貰っておいて…)
 文句三昧でフグになるんだ、とクスクスと笑う。
 アルテメシアに行くとしたなら、ブルーと一緒に暮らし始めた後にするしかない。


 とはいえ、アルテメシアに行くとなったら、ブルーと行くのが似合いではある。
 前の生での思い出の星で、一番長く、ブルーと暮らした場所でもあった。
(…ただなあ…)
 あいつと違って、俺の場合は「思い出の場所」が無いんだよな、と顎に手を当てた。
 前のブルーは、「タイプ・ブルー」に相応しいサイオンの使い手だった。
 雲海に潜む船の外にも、自在に出られた。
(海を眺めたり、テラフォーミングされた範囲の山に降りたり…)
 外に出た「ついで」に、自然を満喫していたようだ。
 空を見上げたり、星を仰いだり、通り過ぎて行く風に吹かれたりも。
(気に入りの場所も、あちこち、あったんだろうが…)
 俺は無いんだ、と少し悲しい。
 他の仲間も同じだったけれども、船の外には出て行けない。
 潜入班の者たちだけが、外の世界に「思い出の場所」を持っていた。


 そんな事情で、ハーレイは「思い出の場所」を持たない。
 アルテメシアまで旅をしたって、もう一度、見たい場所も、行きたい場所も思い付かない。
(ツアーで行っても、いいくらいだよな…)
 お勧めコースを観光して回って、それでおしまいの「ごく普通の旅」。
 今の時代ならではの「名物料理」があったら、それも、もちろん食べられる。
(…いっそ、そういう旅にするかな…)
 それとも個人旅行で、ブルーと二人で出掛けてゆくか、と悩ましい。
 ブルーの方には「行きたい場所」があるかもしれないし、それに合わせて旅程を組む。
(…あいつ次第か…)
 どうせ行くなら、あいつが一緒なんだしな、と思うけれども、ふと浮かんだ考え。


(そうだ、記念墓地にある、俺の墓標に…)
 散々、似合わないと言われた「薔薇の花」をドッサリ供えてやろう、とクスリと笑う。
 「薔薇の花びらのジャム」を配るクジの箱さえ、前のハーレイの前は素通りだった。
 それほど「似合わない」とされた花でも、今の時代は、墓標に供えられている。
(よし、コレだ!)
 アルテメシアに着いたら、早速、花屋に出掛けないとな、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブルーと一緒に店に入って、「薔薇の花で花束と花輪を作って貰えますか」と注文しよう。
 うんと豪華で見栄えのするものを、と付け加えるのも忘れない。
 そして花束と花輪が出来たら、ブルーと二人で供えに行こう。
 「薔薇の花びらのジャム」が似合わないと言われた、「キャプテン・ハーレイ」の墓標に。
 誰一人として気付かなくても、ブルーとハーレイだけに分かる、最高のジョークなのだから…。



         いつか行くなら・了


※いつかは行ってみたい、アルテメシア。けれど、思い出の場所が無いハーレイ先生。
 ツアーにするのも良さそうですけど、記念墓地で薔薇を供えるんなら、個人旅行ですねv






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