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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

 小麦粉とバター、砂糖と卵。
 それを1ポンドずつ使って作るから「パウンド」ケーキ。
 ママはいろんなお菓子を作ってくれるけど。
 お菓子作りの名人だけれど、お菓子の名前は沢山ありすぎ、ホントにいっぱい。
 ママが教えてくれた由来なんかは、とてもじゃないけど覚え切れない、覚えていない。
 ぼくの頭は悪くないけど、成績だっていいんだけれど。
 それとこれとは話が違って、お菓子の名前と由来を聞いても、大抵、綺麗に忘れちゃう。


 タルトタタンが何だったのかも、ちょっぴり怪しいチビのぼく。
(確か、アップルパイを作ろうとして失敗…)
 そんな話だったと思うけれども、失敗した人はタタンさんだったか、どうだったのか。
 覚えられないお菓子の説明、名前は覚えても忘れる由来。
 だけど覚えたパウンドケーキ。一度で覚えたパウンドケーキ。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 材料をそれぞれ1ポンドずつで作るケーキだから、パウンドケーキ。


 ママが何度も焼いてくれたケーキ、1ポンドずつの材料で作るパウンドケーキ。
 それが特別なケーキに変わった、十四歳になった途端に。
 前のぼくだったソルジャー・ブルーの記憶が戻って、ハーレイともう一度会った途端に。
 ぼくの恋人だったハーレイ、今は学校の先生のハーレイ。
 それでもやっぱりぼくの恋人、キスは出来なくても、ぼくの恋人。
 そのハーレイが大好きなケーキ、ぼくのママが焼くパウンドケーキ。
 ハーレイが好きなケーキはぼくにも特別、もう絶対に忘れやしない。


 パウンドケーキはそういう特別、ぼくの恋人の大好物。
 好きだと知っていたけれど。知っていたから、特別なケーキだったんだけど。
(ハーレイのお母さんの味だったなんて…)
 それは知らずに食べていたぼく、初めて知ったハーレイがパウンドケーキを好きだった理由。
 ぼくのママが焼くパウンドケーキはハーレイのお母さんのと味がそっくり、瓜二つ。
 ハーレイのお母さんが焼いてコッソリ持って来たかと思ったくらいに似てるって。


 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 それを1ポンドずつでパウンドケーキで、うんと簡単なレシピらしいけど。
 ハーレイも作るらしいんだけれど、お母さんの味にはならないケーキ。
 何処か違ったパウンドケーキが出来てしまって、何度作っても駄目らしいのに…。
 ぼくのママは同じ味のを焼いてた、ハーレイのお母さんに習ったことは無い筈なのに。
 会ったことだって一度も無いのに、何故だかおんなじパウンドケーキ。


 ハーレイのお母さんのと同じ味のケーキ、そう聞いちゃったら、もっと特別。
 パウンドケーキはハーレイの特別、お母さんの味がするケーキ。
 もう絶対に忘れられない、特別すぎるパウンドケーキ。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 たったそれだけで魔法が生まれる、ママは魔法のケーキが焼ける。
 ハーレイが好きなパウンドケーキが、ハーレイのお母さんの味のケーキが。


 ママがどういう魔法を使うのか、どんな魔法か分からない、ぼく。
 ハーレイにだって分からないから、焼けないという味のパウンドケーキ。
 だけどママには魔法が使えて、パウンドケーキが焼き上がる。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 それをそれぞれ1ポンドずつで、ハーレイの好きなパウンドケーキ。


 ママの魔法は謎だけれども、ぼくにも使える魔法だといい。
 今は無理でも、大きくなったら使えるだとか。
(そしたら、ママのパウンドケーキ…)
 ぼくにだって焼ける、ママと同じのが。
 ハーレイが好きなお母さんの味と同じケーキが、ぼくにも焼ける。


 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 いつか知りたい、使いたい魔法。ぼくのママが使っている魔法。
 それを使ってケーキを焼きたい、ハーレイの好きなパウンドケーキ。
 ハーレイのお母さんの味のケーキを、大好物のパウンドケーキを。
(だって、特別…)
 パウンドケーキはホントに特別、ママのは特別なんだから。
 食べている時のハーレイはホントに、うんと幸せそうなんだから。


 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 ハーレイに幸せをあげられるケーキ、お母さんの味のパウンドケーキ。
 今はママしか使えない魔法、ぼくもいつかは使ってみたい。
 ハーレイが喜ぶ顔を見たいから、幸せをプレゼントしたいから。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 それをそれぞれ1ポンドずつで、魔法のケーキをハーレイに焼いてあげたいから…。

 

       ママのケーキ・了


※ハーレイがパウンドケーキを好きな理由を知ったブルー君、こういう心境らしいですv
 いつか焼きたいと健気ですけど、ママの味のケーキは焼けるのかな…?







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 小麦粉とバター、砂糖と卵。
 それをそれぞれ1ポンドずつ使って作るから「パウンド」ケーキ。
 1ポンドずつの小麦粉とバター、それから砂糖と、それに卵と。
 ごくごく単純、なんの捻りもないレシピ。
 SD体制が始まるよりも遥かな昔の地球で生まれたパウンドケーキ。


 そう言ってしまえば誰でも簡単に焼けそうだけれど、焼けるのだけれど。
 どうしたわけだか、味が異なるパウンドケーキ。
 オーブンのせいか、はたまたレシピの微妙な違いか、作り手の腕か。
(俺が思うに…)
 腕なんだろう、と今頃気付いた、パウンドケーキの奥の深さに。
 小さなブルーの家で出されたパウンドケーキをフォークで口へと運んだ時に。


 母のケーキと同じ味がした、口の中にあの味が広がった。
 幼い頃から馴染んでいた味、何度も何度も隣町の家で食べた味。
 明るい光が射し込むキッチン、母がケーキ作りの支度をしていた。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。それを並べて、きちんと量って。
 母の笑顔が目に浮かぶようだ、「ミルクを出してね」と言われた声も。
 パウンドケーキには使わないミルク、冷蔵庫からミルクを出して、と。


(ミルクが欠かせなかった頃もあったんだっけな…)
 猫のミーシャが家にいた頃、ハーレイが子供だった頃。
 小さなブルーと同じくらいの年の頃にも、白いミーシャはまだいたろうか?
 ブルーそっくりに甘えん坊だったミーシャ、ケーキのお裾分けを欲しがったミーシャ。
 ケーキ作りの気配がしたなら、もうおねだりが始まった。
 ミルクが欲しいと、ケーキを作るならミルクも分けて、と。


 おねだりする時は母の足元に纏わりつくから、床に転がったりもするものだから。
 ウッカリと踏んでしまわないよう、ミルクを器に入れてやるのがハーレイの役目。
 だからパウンドケーキを作る時にも、ミルクの用意が欠かせなかった。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 パウンドケーキにミルクは入らないのに、ミーシャにはそれが分からないから。
 小麦粉とバター、砂糖に卵。
 きっとケーキだと、ケーキの用意だと走って来たから、ミルクを分けてとねだったから。


 そんなことまで思い出した味、母が焼いていたケーキの味。
 今でも焼いているけれど。
 隣町の家へ帰った時には、あの味のケーキも出るのだけれど。
(…俺が焼いても、どういうわけだか…)
 母の直伝のレシピなのだし、まるで同じに焼けそうな気がするのだけれど。
 そうなると思って焼いたのだけれど、今でもたまに焼くのだけれど。
 母の味にはなってくれないパウンドケーキ。
 何処か違うと、あの味がしないと食べる羽目になるパウンドケーキ。


 小麦粉にバター、砂糖と卵。
 たったそれだけ、遠い昔から伝わるケーキ。
 1ポンドずつを使って作るからパウンドケーキ、と母に教わったケーキのレシピ。
 いったい何がいけないのかと色々試して、もう諦めていたけれど。
 どうやら自分には才能が無いと、あの味は無理だと匙を投げてから久しいけれど。
(こんな所で出会うなんてな?)
 人生とは全く分からないものだ、母の味のケーキが別の家でヒョイと現れた。
 それも自分の恋人の家で、前の生から愛し続けたブルーの家で。


 小さなブルーの家でなければ、隣町の何処かの家だったなら。
 母のケーキだと思っただろう、母が作ってその家に届けに来たのだと。
 今でさえも考えてしまったりもする、母がコッソリ持って来たかと、有り得ないことを。
(おふくろのケーキそのものなんだが…)
 あの味なんだ、と思うけれども、母が届けに来る筈がないから。
 小さなブルーも「ママのケーキ」と言っているから、これはブルーの母の手作り。
 小麦粉にバター、砂糖に卵。
 まるで奇跡のようだけれども、母の味と同じパウンドケーキ。


(うん、作り手の腕なんだな)
 きっとそうだな、とパウンドケーキを頬張った。
 バターに卵に、砂糖に粉に。
 混ぜてゆく時の力加減か、あるいは作り手の癖のようなものか。
 やっと気付いた、それで変わるに違いないと。
 ともあれ、これからは此処で出会える、おふくろの味が食べられる。
 小さなブルーの家を訪ねたら、パウンドケーキが出て来たら。


(思いがけないオマケつきか…)
 前の生から愛し続けて、再び出会えた小さなブルー。
 その恋人の家に、美味しい素敵なオマケがついた。
 おふくろの味のパウンドケーキ。
 母の味と同じパウンドケーキが、幸せな思い出が詰まったケーキが…。

 

      おふくろのケーキ・了


※ブルー君のお母さんのパウンドケーキと、ハーレイのお母さんのパウンドケーキ。
 同じ味がするケーキなのです、ハーレイ先生の大好物。おふくろの味が一番ですよねv





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(学校に行きたい…)
 行きたいのに、とブルーはベッドで悔し涙を零した。
 朝、目が覚めたら少し重かった頭。念のために計れば少しだけ、微熱。
 それでも無理は出来ないから。
 無理が出来るような頑丈な身体は持っていないから、今日は欠席。
 母に言われるまでもなく。父に止められるまでもなく。


 きちんと早めに治すためにも休まなくては、と自分で決めたことだけれども。
 熱があるから今日は休む、と母に自分で言ったけれども。
 なのに悔しい、行けなかった学校。休んでしまったハーレイの授業。
(今日は二時間目…)
 本当だったら今頃の時間は授業を聞いていただろう。
 いつもの自分の席に座って、ハーレイの声を聞けただろう。
 もしかしたら運良く当てて貰って、音読だって。


(行きたかったよ…)
 ハーレイの授業に出たかったよ、と涙を零しても行けない学校。
 言うことを聞いてくれない身体。
 まだ熱があると自分でも分かる、微熱だけれど。
 ほんの少し熱く感じる頬やら、だるく感じる手足やら。


 もっと健康な身体だったら、丈夫に生まれていたならば。
 このくらいの微熱は多分なんでもないのだろう。
 大事を取って体育を見学したりはしても、休むほどではないのだろう。
 友達は笑って言っているから。
 熱と言うのはこのくらいからだと、それよりも低ければ熱ではないと。


(ぼくにとっては高熱なのに…)
 病院に行かねばならないのに、と思うような熱が普通の発熱。
 ようやっと学校を休む気になるレベルの発熱、それ以下だったら行ける学校。
 もっとも彼らが登校したがる理由は、授業などではないのだけれど。
 学校でしか会えない友達と過ごすための時間や、食堂のランチのメニューやら。
 そういったものが目当てで熱を無視する友達、丈夫な友達。
 彼らの身体が羨ましい。
 自分は授業に出られないのに、出られないと涙を零しているのに。


(ハーレイの古典…)
 今日の中身は何だったろう?
 教科書のページはどのくらい進んでゆくのだろう?
 熱が下がって学校に行けば、友達が教えてくれるけれども。
 ノートも貸して貰えるけれども、自分の力で書きたかったノート。
 ハーレイの授業を聞いて、教室の前のボードを眺めて、自分で纏めてゆくノート。
 友達のノートではそうはいかない、自分が書いたようにはいかない。
 どう頑張っても、何処かが違ってしまうもの。
 自分の耳で聞いたようには、目で見たようにはならないノート。


 ハーレイが何を授業で話していたのか、どう教えたのか。
 それが知りたい、聞きたい、見たい。
 だから学校に行きたいけれども、今日は一日、ベッドの住人。
 ハーレイの授業を聞けはしなくて、自分でノートを取れもしなくて。
 もう悲しくてたまらないけれど、授業は今も続いている筈。
 ベッドの自分を置き去りにしたまま、クラスの他の生徒たちの前で。


(学校、行きたい…)
 行けば良かった、と悔しがっても出来ない相談、無理の出来ない虚弱な身体。
 もっと丈夫に生まれたかった、と涙が零れる。
 ポロポロと枕に、幾つも、幾つも。
 そうやって泣いても行けない学校、今日は休むしかなかった学校。
 もっと沢山休みたくなければ、具合を悪くしたくなければ。


(ハーレイの授業…)
 聞いている友達が羨ましい。
 この瞬間にも前のボードを眺めて、ハーレイの声を聞いているクラスメイトが。
 それが出来る幸せなどにも気付かず、居眠ったりもするクラスメイトたちが。
(ぼくなら絶対…)
 居眠りはしないし、余所見だってしない。
 食らい付くように聞いて聞き続けて、ノートを取って…。


(行きたいんだけどな…)
 学校に行きたい、と涙を零す間に時計の針は進んでいって。
 二時間目の終わりを示す時刻が過ぎた途端に、零れてしまった大きな溜息。
 聞き逃してしまったハーレイの授業、取れなかった今日の授業のノート。
 もう悲しくてたまらないから、こんな日は…。
(ハーレイのスープ…)
 せめてハーレイのスープが飲みたい、ハーレイが作る野菜スープが。
 あの味で心を癒したい。
 聞き損なった授業の分まで、枕を濡らした涙の分まで…。

 

       学校に行きたい・了


※学校を休んでしまった日のブルー君。ハーレイ先生の授業がある日は、きっとこう。
 行きたかったな、と涙と溜息、「ハーレイ先生」でも会いたいのですv





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(あいつがもう少し丈夫だったらなあ…)
 ブルーの身体が弱くなければ、とハーレイはフウと溜息をついた。夜の書斎で。
 今日も学校で出会ったブルー。小さなブルー。
 顧問を務める柔道部の朝練、それが終わった直後に出会った。
 まだ柔道着を着ていた自分を、眩しそうに見詰めていたブルー。
 「ハーレイ先生、おはようございます!」とペコリと頭を下げてくれたブルー。


 少し立ち話をしたけれど。
 今日はそれだけ、ブルーのクラスの授業は無い日で、ブルーの家にも寄れなかった日。
 そんな日にはふと思ってしまう。夜の書斎で考えてしまう。
 もしもブルーが丈夫だったら、もっと一緒に過ごせるのに、と。


 小さなブルーは前と全く同じに弱くて、体育の授業も休みがち。
 出席した日もサッカーなどの途中で挙手しては休み、体力の温存に努める生徒。
 だから出来ないハードな運動、柔道部などは夢のまた夢。
 ブルー自身もたまに言うけれど、「ハーレイのクラブに入りたかったな」と言うけれど。
 ハーレイの方でもそれは同じで、ブルーにクラブに居て欲しかった。
 自分が指導しているクラブに、朝と放課後とに教えるクラブに。


(もしもあいつが柔道部にいたら…)
 ハーレイがいるから、と入部して来てくれたなら。
 学校で一番のチビであっても、まるで女の子のように見えるチビでも、きっと。
 目をかけてやって、伸びるようにと指導してやって、腕の立つ子にしてやれただろう。
 ブルーは頑固で努力家なのだし、性格はとても柔道向き。
 礼儀正しくて負けず嫌いで、おまけに前世はソルジャー・ブルー。
 自分の命を捨ててメギドを沈めたほどの勢い、武道の道でも伸びそうだけれど。
 小柄でも強い柔道の選手は少なくないから、ブルーも強くなれそうだけれど。


(…如何せん、元の身体がなあ…)
 朝の走り込みだけでダウンしそうな、か弱いブルー。
 練習前のストレッチだけで息が上がりそうな、虚弱なブルー。
 柔道どころか体育の時間も満足にこなせず、休んでばかりの小さなブルー。
 自分でも充分に分かっているからだろう、柔道部への入部届けを出してはこない。
 思い込んだら後には引かない性格のくせに、それだけは提出してこない。
 却下されると踏んでいるのか、思い付きさえしないのか。
 小さなブルーが懸命に書いた入部届けは見てみたいけれど、出て来ないまま。
 考えてみると少し寂しい、「入部届けさえ出して貰えないのか」と。


 小さなブルーは入れそうにない柔道部。
 入れたとしても、次の週には辞めていそうな柔道部。
 まるで練習についていけないと辞めてしまうか、保健室送りで辞めることになるか。
 どう考えても、小さなブルーと柔道部の時間は重ならない。
 柔道部に入ってくれさえしたなら、入れさえしたら、もっと一緒に過ごせるのに。
 朝の授業が始まる前に一緒に練習、放課後も時間いっぱい練習。
 放課後の部活が終わった後には、二人一緒に帰れるのに。
 「お前の家まで乗って行くか?」と車に乗せてもやれるのに。
 そうしてブルーの家までドライブ、夕食を二人で食べられる。
 今日の部活はどうだったかとか、柔道の話に興じながら。


(遠征試合も行けるんだがなあ…)
 他の柔道部員と一緒に、ブルーを連れて。
 路線バスに乗って他の学校との試合に出掛けて、見事勝利を収めたら食事。
 負け試合でも食事するのは同じだけれども、勝った時には豪華な食事。
 「俺のおごりだ」と財布の紐を緩めて大盤振る舞い、部員たちの歓声が上がるひと時。
 そういった場所にブルーがいたなら、小さなブルーもいてくれたなら…。


 どんなにいいか、と思うけれども、ブルーは其処にはいないから。
 柔道部にも入って来てくれないから、入れないから、夢物語。
(もう少し、丈夫だったらなあ…)
 一人前の選手にするのに、チビでも強いと評判の選手が育つだろうに。
 前のブルーと同じに育てば、それは美しい若武者だろうに。
 そういう夢を描いてみる。
 柔道着を纏った小さなブルーを、一本背負いを決める大きく育ったブルーを。
 叶わないから、夢に見る。
 もしもブルーが丈夫だったら、柔道部に入ってくれていたら、と…。

 

       柔道部は無理・了


※ブルー君には入れそうもない柔道部。ハーレイ先生の世界なんですが…。
 でも、柔道着は似合いそう。大きく育って一本背負いは、かっこいいでしょうねv





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(学校って、なんだか…)
 ブリッジみたい、と考えたブルー。
 学校ではなくて、家に帰ってから。自分の部屋に戻ってから。
 そう考えた理由はごくごく単純、単なるブルーの思い付き。
 学校に行けば、ハーレイも自分もよそ行きの顔で過ごしているから。
 恋人同士の語らいどころか、親しげにさえも振舞えないから。


 ブルーの家で過ごす時だと、ハーレイは「ブルー」と親しげに名前を呼ぶけれど。
 学校だと「ブルー君」になる。他の生徒と同じ扱い、呼び捨てにしては貰えない。
 ブルーの方でもそれは同じで、ハーレイを呼ぶなら「ハーレイ先生」。
 互いの呼び名もよそよそしくなってしまう学校、それが学校。
 だからブリッジだと思ってしまった、白いシャングリラのブリッジのようだと。


 前の生で過ごした白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 そのハーレイの居場所だったブリッジ、白いシャングリラの心臓部。
 其処にはブルーも顔を出したけれど、様々な用で出掛けたけれど。
 ハーレイに会っても恋人同士の語らいどころか、親しげな振舞いも出来なくて。
 ソルジャーの貌で立っていただけ、ハーレイもキャプテンだっただけ。


(学校とブリッジ、やっぱり似てる…)
 いくら会えても、同じ時間を過ごしてはいても、互いに親しく触れ合えない場所。
 語らう時にも互いの立場が邪魔をする場所、学校とブリッジ。
 まるで全く似てはいないけれど、それがある場所も、その形すらも。
 学校があるのは青い地球の上で、頼りなく空に浮かんではいない。
 ブリッジのように計器が並んでもいない、もちろん舵だってついてはいない。
 似ている所はたった一つだけ、ハーレイと親しく出来ないことで…。


(他は全然、違うんだけどな…)
 形も違うし大きさだって、と思い浮かべてみた学校。
 白いシャングリラはとても大きくて、学校が丸ごと入りそうだけれど。
 ブリッジだけならきっと、学校のグラウンドに充分置ける。
 ハーレイがいつも座っていた場所、コアブリッジなら職員室にでも置けそうで。


(職員室サイズ…)
 ホントに似てる、とブルーの唇から漏れた溜息。
 職員室こそまさにブリッジ、ハーレイが一番よそよそしくなってしまう場所。
 学校の廊下や中庭などなら、ちょっとした話も出来るのに。
 「ハーレイ先生!」と声を掛ければ、「おっ、元気そうだな」と声が返るのに。
 職員室だとそうはいかない、きちんと挨拶、それと用件。
 用が終われば話も終わりで、そんな所までブリッジに似ている。
 ソルジャーだった頃、「それじゃ」とブリッジを後にしたように。
 ハーレイと個人的な言葉も交わさず、マントを翻して去って行ったように。


 ブリッジと学校、傍目には似てはいないのに。
 並べて置いても、誰も似ているとは言わないだろうに、共通点。
 けれども、それは自分たち二人だけのこと。自分とハーレイだけのこと。
 前の生でも今の生でも、秘密の恋人同士だから。
 誰にも内緒の恋人同士で過ごしているから、学校とブリッジが似てしまう。
 恋人同士としては振舞えない場所、よそよそしくなってしまう場所。
 学校もブリッジもどちらも同じで、けして親しくは振舞えなくて。


(でも、学校…)
 今はそういう場所だけれども、自分が大きく育ったならば。
 学校の生徒でいる時期が過ぎて、ハーレイと共に暮らせる時が来たならば。
(ぼく、ハーレイがいる学校へ行ける…?)
 ハーレイに何かを届けに行くとか、そんな用事が出来たなら。
 そういう時なら、学校の中でもきっと「ハーレイ」と呼べるのだろう。
 ハーレイも「ブルー」と呼んでくれるだろう、優しい笑顔で。
 もしかしたらキスだって出来るかもしれない、挨拶のキスが。触れるだけのキスが。


(うん、きっと…)
 そんなチャンスも訪れるだろう、ハーレイと暮らし始めたならば。
 学校がブリッジではなくなる時が。似ているとさえ思わなくなる、幸せな時が。
 今はブリッジに似た学校だけれど、今だけの我慢。
 いつかハーレイと結婚したなら、もうブリッジとは似ても似つかなくなるのだから…。

 

       学校とブリッジ・了


※学校とブリッジ。似ていると思ったブルー君ですけど、似ているのは今の間だけ。
 いつかハーレイ先生に届けに行くのは何なんでしょうね、忘れ物かな…?





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