粘り強さは
「ねえ、ハーレイ。粘り強さは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「粘り強さだって?」
今の話と繋がらないんだが、とハーレイはブルーを眺めた。
他愛ないことを話していたから、粘り強さの出番は無い。
「うん。…でも、思い付いた時には、質問でしょ?」
すっかり忘れてしまう前に、というブルーの言葉は正しい。
現にハーレイも、生徒たち授業中などに、よく言っている。
「質問があったら、直ぐに言えよ」と、口を酸っぱくして。
だから、ブルーにも頷くしかない。
「そうだな。忘れちまったら、駄目だからなあ…」
それで何を聞きたいんだ、とブルーの瞳を真っ直ぐに見る。
ブルーの意図が分からないだけに、気を引き締めて。
(…何度も、この手に引っ掛かったし…)
こいつの質問は、油断出来ん、とハーレイは既に経験済み。
真面目に答えてやった結果が、とんでもないことも数多い。
「…ハーレイ、ぼくを疑ってるよね…」
急に質問しちゃったから、とブルーに言われてハッとする。
(先入観ってヤツを、持ち過ぎてたか…)
疑ってかかるのは良くないよな、とハーレイは反省した。
経験則は役に立つけれど、頼り過ぎると失敗しがち。
「悪い、ついつい、思い込みでな」
すまん、と潔く頭を下げたら、ブルーはクスッと笑った。
「そう思われても、仕方ないけど…」
膨れていないで聞き直すのも、粘り強さ、とブルーは言う。
「粘り強さが皆無だったら、もう聞かないでしょ?」
「そりゃそうだ。馬鹿にされてる、と放り出してな」
粘り強さに感謝するぞ、とハーレイも大きく頷いた。
ブルーが投げ出してしまうタイプだったら、話はおしまい。
というわけで、振り出しに戻って、粘り強さの話になった。
「あのね…。さっきみたいなのも、そうなんだけど…」
諦めないでコツコツ努力は大事だよね、とブルーが尋ねる。
投げ出しちゃうより、粘り強さ、と真剣そうな瞳をして。
「うむ。たった今、証明されちまったし…」
他の面でも大事ではある、とハーレイはブルーを肯定した。
「お前には、あまり関係無さそうなんだが…」
勉強もスポーツも、粘り強さが重要だぞ、と説く。
「出来やしない、と放り出したら、それっきりだ」
勉強だったら置いて行かれて、スポーツなら負ける、と。
「そうだよね…。ぼくも毎日、頑張ってるもの」
まるで駄目だよ、と泣きそうでも、とブルーは苦笑した。
「諦めないでコツコツやっているよ」と、少し誇らしげに。
「…泣きそうだって?」
お前がなのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
ブルーは、スポーツはともかく、優秀な生徒。
「まるで駄目だよ」と泣きそうになるとは思えない。
「…泣きそうだってば、毎日とまでは言わないけれど…」
毎日、牛乳、厳しいんだよ、とブルーの答えは奮っていた。
「紅茶に入れて飲んだ程度じゃ、足りないしね…」
朝御飯でも飲んで、頑張ってる、とブルーは自分を指差す。
「でないと、背丈が伸びないんだもの…」
だけど、ちっとも伸びてくれない、と深い溜息も零れ出た。
「一ミリさえも伸びないんだよ」と、ブルーが言う通り。
青い地球に生まれ変わって再会してから、背丈は同じまま。
ブルーの成長は止まってしまって、少しも伸びない。
(…なるほど、努力が報われない、というわけか…)
気の毒だが仕方ないことだな、とハーレイは思う。
ブルーの背丈を決めているのは、多分、神様だから。
「お前の気持ちは、分からないでもないんだが…」
子供時代を楽しめるよう、そうなんだろう、と諭してやる。
「育っちまったら、もう後戻りは出来ないしな」と。
「…粘り強さで、頑張れって?」
ちっともゴールが見えなくっても、とブルーは半ば諦め顔。
「大切なのは分かってるけど、たまに泣きそう…」
投げ出しちゃったら、ごめんなさい、と謝られた。
「ハーレイには悪いけど、チビのままかも…」
「投げ出すってか!?」
それは困る、とハーレイは慌てた。
もしもブルーが育たなくても、嫌いはならないけれども…。
「お前が育ってくれないことには、この先がだな…!」
俺も大変になっちまうぞ、と焦ると、ブルーが微笑んだ。
「そうでしょ? だったら、粘り強さを保てるように…」
励ましのキス、と注文をされたものだから…。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別件だ、とハーレイは軽く拳を握った。
ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
粘り強さを投げ出されそうだとは、もう思わない。
(どうせ、こいつは、最初から…)
こうするつもりでいたんだしな、とブルーに、お仕置き。
「よくも騙してくれやがって」と、コッツンと。
「同情した分、馬鹿を見ちまった」と、呆れ顔で…。
粘り強さは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「粘り強さだって?」
今の話と繋がらないんだが、とハーレイはブルーを眺めた。
他愛ないことを話していたから、粘り強さの出番は無い。
「うん。…でも、思い付いた時には、質問でしょ?」
すっかり忘れてしまう前に、というブルーの言葉は正しい。
現にハーレイも、生徒たち授業中などに、よく言っている。
「質問があったら、直ぐに言えよ」と、口を酸っぱくして。
だから、ブルーにも頷くしかない。
「そうだな。忘れちまったら、駄目だからなあ…」
それで何を聞きたいんだ、とブルーの瞳を真っ直ぐに見る。
ブルーの意図が分からないだけに、気を引き締めて。
(…何度も、この手に引っ掛かったし…)
こいつの質問は、油断出来ん、とハーレイは既に経験済み。
真面目に答えてやった結果が、とんでもないことも数多い。
「…ハーレイ、ぼくを疑ってるよね…」
急に質問しちゃったから、とブルーに言われてハッとする。
(先入観ってヤツを、持ち過ぎてたか…)
疑ってかかるのは良くないよな、とハーレイは反省した。
経験則は役に立つけれど、頼り過ぎると失敗しがち。
「悪い、ついつい、思い込みでな」
すまん、と潔く頭を下げたら、ブルーはクスッと笑った。
「そう思われても、仕方ないけど…」
膨れていないで聞き直すのも、粘り強さ、とブルーは言う。
「粘り強さが皆無だったら、もう聞かないでしょ?」
「そりゃそうだ。馬鹿にされてる、と放り出してな」
粘り強さに感謝するぞ、とハーレイも大きく頷いた。
ブルーが投げ出してしまうタイプだったら、話はおしまい。
というわけで、振り出しに戻って、粘り強さの話になった。
「あのね…。さっきみたいなのも、そうなんだけど…」
諦めないでコツコツ努力は大事だよね、とブルーが尋ねる。
投げ出しちゃうより、粘り強さ、と真剣そうな瞳をして。
「うむ。たった今、証明されちまったし…」
他の面でも大事ではある、とハーレイはブルーを肯定した。
「お前には、あまり関係無さそうなんだが…」
勉強もスポーツも、粘り強さが重要だぞ、と説く。
「出来やしない、と放り出したら、それっきりだ」
勉強だったら置いて行かれて、スポーツなら負ける、と。
「そうだよね…。ぼくも毎日、頑張ってるもの」
まるで駄目だよ、と泣きそうでも、とブルーは苦笑した。
「諦めないでコツコツやっているよ」と、少し誇らしげに。
「…泣きそうだって?」
お前がなのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
ブルーは、スポーツはともかく、優秀な生徒。
「まるで駄目だよ」と泣きそうになるとは思えない。
「…泣きそうだってば、毎日とまでは言わないけれど…」
毎日、牛乳、厳しいんだよ、とブルーの答えは奮っていた。
「紅茶に入れて飲んだ程度じゃ、足りないしね…」
朝御飯でも飲んで、頑張ってる、とブルーは自分を指差す。
「でないと、背丈が伸びないんだもの…」
だけど、ちっとも伸びてくれない、と深い溜息も零れ出た。
「一ミリさえも伸びないんだよ」と、ブルーが言う通り。
青い地球に生まれ変わって再会してから、背丈は同じまま。
ブルーの成長は止まってしまって、少しも伸びない。
(…なるほど、努力が報われない、というわけか…)
気の毒だが仕方ないことだな、とハーレイは思う。
ブルーの背丈を決めているのは、多分、神様だから。
「お前の気持ちは、分からないでもないんだが…」
子供時代を楽しめるよう、そうなんだろう、と諭してやる。
「育っちまったら、もう後戻りは出来ないしな」と。
「…粘り強さで、頑張れって?」
ちっともゴールが見えなくっても、とブルーは半ば諦め顔。
「大切なのは分かってるけど、たまに泣きそう…」
投げ出しちゃったら、ごめんなさい、と謝られた。
「ハーレイには悪いけど、チビのままかも…」
「投げ出すってか!?」
それは困る、とハーレイは慌てた。
もしもブルーが育たなくても、嫌いはならないけれども…。
「お前が育ってくれないことには、この先がだな…!」
俺も大変になっちまうぞ、と焦ると、ブルーが微笑んだ。
「そうでしょ? だったら、粘り強さを保てるように…」
励ましのキス、と注文をされたものだから…。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別件だ、とハーレイは軽く拳を握った。
ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
粘り強さを投げ出されそうだとは、もう思わない。
(どうせ、こいつは、最初から…)
こうするつもりでいたんだしな、とブルーに、お仕置き。
「よくも騙してくれやがって」と、コッツンと。
「同情した分、馬鹿を見ちまった」と、呆れ顔で…。
粘り強さは・了
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