忙しくても
(…今日は忙しかったよなあ…)
すっかり遅くなっちまった、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(忙しかったのには、違いないんだが…)
あいつの家にも寄れなかったし、と学校でも確かに忙しかった。
放課後にあった会議の準備や、柔道部の指導をした後に、会議にも出た。
「遅れました」と謝ったけれど、それは大したことではない。
(…部活の顧問をやってりゃ、普通だしな)
他にも遅れた仲間はいるから、問題は何も無かったように思える。
(しかしだ…)
何処かでズレてしまったんだよな、と今になったら分かって来る。
出席していた全員が、一度に集まってスタートしたなら、会議は早く終わっただろう。
(…そろそろ終わるぞ、と思った所で…)
質問が一つ、飛び出して来た。
「この件については、どうでしたっけ?」と、中身自体は、ただの確認。
答えも直ぐに返ったけれども、それを切っ掛けに相次いだ質問。
(…どれも、確認ばかりなんだが…)
遅れて来た仲間が「自分が、いなかった時」に出ていたことを次々に聞いた。
(全体的には、単純なことで…)
誰かが「今日の会議は、こういう流れになっていました」と、先に纏めていたのなら…。
(質問も一つで済んでたのになあ…)
でなきゃ、質問そのものが出ない、と肩を竦める。
(気になっちまう、っていうだけのことで…)
会議は最後に長引いてしまって、世間話に近い終わり方になった。
(…揉めたわけじゃないのは、いいんだがな…)
帰りに飯を食いに行く話までが会議だった、とハーレイにすれば少し悲しい。
質問の嵐と「帰りに食事」の議題が無ければ、ブルーの家に寄って帰れていただろう。
予想以上に長引いた会議で、ブルーに会いに行き損ねた。
しかも会議の締めは「帰りに食事に行きませんか」で、出掛ける者も多かったけれど…。
(…飯に行くのを決めてた会議のせいで、あいつの家に行けなかったのに…)
俺まで飯に行くなんて、と後ろめたかったから、食事の誘いは断って帰った。
「ブルーの家には寄れなかった日」の定番通りに、家で食事が相応しい。
帰り道に食料品店に寄って、食材を買った。
(手早く作れて、美味いヤツを、と…)
選んだ食材をレジに運んで、会計を済ませたら、家に帰るだけ。
(遅くなっちまった、と帰って直ぐに、着替えてから…)
夕食の支度を始めていたら、通信が入った。
(時間からして、親父だろうな、と思ったんだが…)
父が通信を入れて来たなら、「後でかける」と言えばいいだろう。
「飯の支度を始めた所で、まだ食べていない」と説明したなら、父も分かってくれる。
(明日でいいぞ、と言ってくれるとか…)
急ぐ用なら、用件だけを言って切るとか、どちらにしても、さほど時間はかからない。
(そのつもりで、通信機のトコに行ったのに…)
表示されていた相手の名前は、前の学校の同僚だった。
(…何の用だ、と思うよなあ…?)
飯の誘いか何かかな、と通信に出たら、「久しぶりだ」の挨拶に続いて、こうだった。
「前にお前が話してたヤツ、生徒に話してやりたいんだが…」
「ああ、アレか。お前、詳しく聞いてっただろ?」
わざわざ俺に確かめなくても、と「話の中身」を思い返してみる。
人間が地球しか知らなかった時代の、イギリス辺りの話だったっけな、と。
「それはそうだが、俺はお前に聞いただけだし、元の情報、何に載ってた?」
お前が読んだ本にあったんだろう、と同僚は言った。
「データベースで調べてもいいんだが、どうせだったら、同じ本を読んでみたいんだ」
「なるほどな…。だが、俺も直ぐには…」
思い出せん、と首を竦めて、「調べて、後でかけ直す」と通信を切った。
(それから書斎へ急いで出掛けて、本棚の本を、片っ端から…)
どれだったかな、と引っ張り出しては、確認の作業。
しかも相手は「趣味の本」だけに、罠が幾つも待ち受けていた。
(そういえば、こういう話もあったっけな、と…)
ついつい中身を読んでしまったり、「ついでだから、これも教えてやろう」とメモしたり。
(…お目当ての本に辿り着くまでの時間、半時間は軽く…)
あったんだよな、と「本好きの血」を恨みたい気分にもなる。
寄り道しないで探していたなら、目的の本には、もっと早くに出会えていた。
(やっと見付けた、と通信をかけて、その後が、また…)
長引いたんだ、と時計を眺めて「遅くなるよなあ…」と溜息しか出ない。
同僚と話すのは久しぶりだし、話が弾んで、気が付いたら、かなり遅かった。
(飯の支度も途中だった、と思い出したし…)
名残惜しかったけれど、「また今度、飯でも食いに行こう」と約束をして、通信は終了。
(…書斎で散らかした本は、後でいいとして…)
飯だけは作って食わないとな、とキッチンに行って、夜食になりそうな夕食の支度を始めた。
(手早く出来る飯にしよう、と買った食材…)
予定が変わって「手抜き料理」になってしまったのが、今日の夕食。
最初は何を作るつもりで、出来上がった料理は何になったか、自分でも可笑しくなる。
(…こういう日だって、たまにあるってな!)
うんと忙しかったんだし、と思っているくせに、コーヒーだけは、きちんと淹れた。
そして書斎へ持って来たけれど、時間は、普段よりも遅い。
(…それでも、後悔してる部分は…)
手抜きになった飯だけなんだ、と悔いは無い。
同僚と話し込んで経った時間も、本を探すのに寄り道したのも、充実した時間だった。
(忙しかったな、と思い返しながら、コーヒーを淹れてた時間にしても…)
どれも全く後悔は無いし、「勿体なかった」とも思わない。
忙しくても、自分としては満足なのだし、楽しかったとも言えるだろう。
(…どっちかと言えば、今日の残念なトコは…)
忙しかったわけでもないのに「会議が長引いた」所だよな、とブルーの顔を頭に浮かべる。
(あればっかりは、俺にはどうしようもなくて…)
飯は食わずに帰ったんだし、あいつも文句は言わないだろう、と思うけれども…。
(…忙しくても、時間を割いてやりたいよなあ…)
あいつにだって、と「同僚のために費やした時間」を時計を見詰めて数えてみる。
「もしも、あいつの家に寄っていたなら、同じくらいになってたよな」と。
(…恨むべきは会議で、通信を寄越したヤツじゃなくって…)
とはいえ、同じ時間を割くのだったら、あいつの方にしてやりたかった、と考えてしまう。
そんな時間の使い方など、自分で選べるわけがないのに。
(時間ってヤツは、神様が決めたスケジュール通りに流れてるから…)
今日は「こうなる」運命だった、と分かってはいても、選んでいいなら、ブルーがいい。
どれほど時間に追い回されることになっても、ブルーだったら、微塵も後悔しないだろう。
間違いない、とハーレイは大きく頷く。
(…今は、離れて暮らしてるんだが…)
いつか二人で暮らし始めたら、「忙しい日」にだって、きっと出くわす。
朝は早くに学校へ行って、他にも山ほど何かあるとか、そういった時が今だってある。
ブルーと二人で住んでいたって、忙しい日はやって来るだろう。
(…それでも、あいつが最優先で…)
俺は時間を何とかするぞ、と自信もあれば、覚悟も出来る。
ブルーが困ってしまわないよう、寂しい思いもさせないように、努力するのも充実の時間。
(…俺の飯だけ後回しになって、俺は仕事に追われてたって…)
あいつの飯は先に作って、後片付けだって俺がやるさ、と想像するだけで嬉しくなる。
「早く、あいつと住みたいモンだ」と、大忙しの自分の姿を思い浮かべて。
(そうさ、あいつと暮らせるんなら…)
忙しくても俺は大満足だ、と未来の「自分が忙しい日」に夢を幾つも重ねてゆく。
(あいつだけ先に寝て貰っても、そうなった日の埋め合わせに…)
一段落したら、お詫びにデートすべきか、飯がいいのか、どれがいいか、と。
家でゆっくり過ごすのもいいし、ドライブに行くのも、小旅行でも素敵だよな、と…。
忙しくても・了
※忙しかったせいで、ブルー君の家に行けなかったハーレイ先生。会議やら、色々と。
ブルー君と暮らし始めても、忙しい日が来るでしょうけど、最優先するのは、ブルー君v
すっかり遅くなっちまった、とハーレイが浮かべた苦笑い。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(忙しかったのには、違いないんだが…)
あいつの家にも寄れなかったし、と学校でも確かに忙しかった。
放課後にあった会議の準備や、柔道部の指導をした後に、会議にも出た。
「遅れました」と謝ったけれど、それは大したことではない。
(…部活の顧問をやってりゃ、普通だしな)
他にも遅れた仲間はいるから、問題は何も無かったように思える。
(しかしだ…)
何処かでズレてしまったんだよな、と今になったら分かって来る。
出席していた全員が、一度に集まってスタートしたなら、会議は早く終わっただろう。
(…そろそろ終わるぞ、と思った所で…)
質問が一つ、飛び出して来た。
「この件については、どうでしたっけ?」と、中身自体は、ただの確認。
答えも直ぐに返ったけれども、それを切っ掛けに相次いだ質問。
(…どれも、確認ばかりなんだが…)
遅れて来た仲間が「自分が、いなかった時」に出ていたことを次々に聞いた。
(全体的には、単純なことで…)
誰かが「今日の会議は、こういう流れになっていました」と、先に纏めていたのなら…。
(質問も一つで済んでたのになあ…)
でなきゃ、質問そのものが出ない、と肩を竦める。
(気になっちまう、っていうだけのことで…)
会議は最後に長引いてしまって、世間話に近い終わり方になった。
(…揉めたわけじゃないのは、いいんだがな…)
帰りに飯を食いに行く話までが会議だった、とハーレイにすれば少し悲しい。
質問の嵐と「帰りに食事」の議題が無ければ、ブルーの家に寄って帰れていただろう。
予想以上に長引いた会議で、ブルーに会いに行き損ねた。
しかも会議の締めは「帰りに食事に行きませんか」で、出掛ける者も多かったけれど…。
(…飯に行くのを決めてた会議のせいで、あいつの家に行けなかったのに…)
俺まで飯に行くなんて、と後ろめたかったから、食事の誘いは断って帰った。
「ブルーの家には寄れなかった日」の定番通りに、家で食事が相応しい。
帰り道に食料品店に寄って、食材を買った。
(手早く作れて、美味いヤツを、と…)
選んだ食材をレジに運んで、会計を済ませたら、家に帰るだけ。
(遅くなっちまった、と帰って直ぐに、着替えてから…)
夕食の支度を始めていたら、通信が入った。
(時間からして、親父だろうな、と思ったんだが…)
父が通信を入れて来たなら、「後でかける」と言えばいいだろう。
「飯の支度を始めた所で、まだ食べていない」と説明したなら、父も分かってくれる。
(明日でいいぞ、と言ってくれるとか…)
急ぐ用なら、用件だけを言って切るとか、どちらにしても、さほど時間はかからない。
(そのつもりで、通信機のトコに行ったのに…)
表示されていた相手の名前は、前の学校の同僚だった。
(…何の用だ、と思うよなあ…?)
飯の誘いか何かかな、と通信に出たら、「久しぶりだ」の挨拶に続いて、こうだった。
「前にお前が話してたヤツ、生徒に話してやりたいんだが…」
「ああ、アレか。お前、詳しく聞いてっただろ?」
わざわざ俺に確かめなくても、と「話の中身」を思い返してみる。
人間が地球しか知らなかった時代の、イギリス辺りの話だったっけな、と。
「それはそうだが、俺はお前に聞いただけだし、元の情報、何に載ってた?」
お前が読んだ本にあったんだろう、と同僚は言った。
「データベースで調べてもいいんだが、どうせだったら、同じ本を読んでみたいんだ」
「なるほどな…。だが、俺も直ぐには…」
思い出せん、と首を竦めて、「調べて、後でかけ直す」と通信を切った。
(それから書斎へ急いで出掛けて、本棚の本を、片っ端から…)
どれだったかな、と引っ張り出しては、確認の作業。
しかも相手は「趣味の本」だけに、罠が幾つも待ち受けていた。
(そういえば、こういう話もあったっけな、と…)
ついつい中身を読んでしまったり、「ついでだから、これも教えてやろう」とメモしたり。
(…お目当ての本に辿り着くまでの時間、半時間は軽く…)
あったんだよな、と「本好きの血」を恨みたい気分にもなる。
寄り道しないで探していたなら、目的の本には、もっと早くに出会えていた。
(やっと見付けた、と通信をかけて、その後が、また…)
長引いたんだ、と時計を眺めて「遅くなるよなあ…」と溜息しか出ない。
同僚と話すのは久しぶりだし、話が弾んで、気が付いたら、かなり遅かった。
(飯の支度も途中だった、と思い出したし…)
名残惜しかったけれど、「また今度、飯でも食いに行こう」と約束をして、通信は終了。
(…書斎で散らかした本は、後でいいとして…)
飯だけは作って食わないとな、とキッチンに行って、夜食になりそうな夕食の支度を始めた。
(手早く出来る飯にしよう、と買った食材…)
予定が変わって「手抜き料理」になってしまったのが、今日の夕食。
最初は何を作るつもりで、出来上がった料理は何になったか、自分でも可笑しくなる。
(…こういう日だって、たまにあるってな!)
うんと忙しかったんだし、と思っているくせに、コーヒーだけは、きちんと淹れた。
そして書斎へ持って来たけれど、時間は、普段よりも遅い。
(…それでも、後悔してる部分は…)
手抜きになった飯だけなんだ、と悔いは無い。
同僚と話し込んで経った時間も、本を探すのに寄り道したのも、充実した時間だった。
(忙しかったな、と思い返しながら、コーヒーを淹れてた時間にしても…)
どれも全く後悔は無いし、「勿体なかった」とも思わない。
忙しくても、自分としては満足なのだし、楽しかったとも言えるだろう。
(…どっちかと言えば、今日の残念なトコは…)
忙しかったわけでもないのに「会議が長引いた」所だよな、とブルーの顔を頭に浮かべる。
(あればっかりは、俺にはどうしようもなくて…)
飯は食わずに帰ったんだし、あいつも文句は言わないだろう、と思うけれども…。
(…忙しくても、時間を割いてやりたいよなあ…)
あいつにだって、と「同僚のために費やした時間」を時計を見詰めて数えてみる。
「もしも、あいつの家に寄っていたなら、同じくらいになってたよな」と。
(…恨むべきは会議で、通信を寄越したヤツじゃなくって…)
とはいえ、同じ時間を割くのだったら、あいつの方にしてやりたかった、と考えてしまう。
そんな時間の使い方など、自分で選べるわけがないのに。
(時間ってヤツは、神様が決めたスケジュール通りに流れてるから…)
今日は「こうなる」運命だった、と分かってはいても、選んでいいなら、ブルーがいい。
どれほど時間に追い回されることになっても、ブルーだったら、微塵も後悔しないだろう。
間違いない、とハーレイは大きく頷く。
(…今は、離れて暮らしてるんだが…)
いつか二人で暮らし始めたら、「忙しい日」にだって、きっと出くわす。
朝は早くに学校へ行って、他にも山ほど何かあるとか、そういった時が今だってある。
ブルーと二人で住んでいたって、忙しい日はやって来るだろう。
(…それでも、あいつが最優先で…)
俺は時間を何とかするぞ、と自信もあれば、覚悟も出来る。
ブルーが困ってしまわないよう、寂しい思いもさせないように、努力するのも充実の時間。
(…俺の飯だけ後回しになって、俺は仕事に追われてたって…)
あいつの飯は先に作って、後片付けだって俺がやるさ、と想像するだけで嬉しくなる。
「早く、あいつと住みたいモンだ」と、大忙しの自分の姿を思い浮かべて。
(そうさ、あいつと暮らせるんなら…)
忙しくても俺は大満足だ、と未来の「自分が忙しい日」に夢を幾つも重ねてゆく。
(あいつだけ先に寝て貰っても、そうなった日の埋め合わせに…)
一段落したら、お詫びにデートすべきか、飯がいいのか、どれがいいか、と。
家でゆっくり過ごすのもいいし、ドライブに行くのも、小旅行でも素敵だよな、と…。
忙しくても・了
※忙しかったせいで、ブルー君の家に行けなかったハーレイ先生。会議やら、色々と。
ブルー君と暮らし始めても、忙しい日が来るでしょうけど、最優先するのは、ブルー君v
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