「ねえ、ハーレイ。…ひょっとして、下手くそになっちゃった?」
膝の上にチョコンと座ったブルーに、愛くるしい瞳で見詰められて。
ハーレイは「はあ?」と首を傾げた。
「下手って…。何がだ?」
そんなことを言われる覚えなど無い。
「下手になった?」と訊かれそうなものの心当たりもない。
今の自分の得意と言ったら柔道に水泳、そんな所で。
どちらもブルーとは無縁の代物、腕前を知っているわけがない。
下手になろうが上達しようが、判断がつくとも思えない。
意味が不明なブルーの質問、愛らしい顔で見上げるブルー。
桜色の唇が「えっとね…」と言葉を紡ぎ出して。
「もしかしたら、下手になっちゃったのかな、って…」
「だから、何がだ? 何が下手になると言うんだ、俺が」
お前は何も知らない筈だが、と顔を顰めてしまったハーレイ。
柔道も水泳も、俺の腕など知らないだろうが、と。
「うん、知らない。…それに見たって分からないしね」
多分、と答えた小さなブルー。
勝ったか負けたか、そのくらいしか分からないよ、と。
「だったら、何がどう下手になったと言いたいんだ、お前?」
俺の授業は分かりにくいか、と軽く睨んだ。
自信を持って教えているのに、少々自信が揺らぎそうだが、と。
「んーと…。ハーレイの授業は分かりやすいよ、教えるのは上手」
他の先生よりずっと上手、と褒められて悪い気はしないけれども。
そうなると、ますます分からない。
自分は何が下手だと言うのか、ブルーは何に気が付いたのか。
これはしっかり訊いておかねば、と赤い瞳を覗き込んで。
小さな身体をヒョイと抱えて座り直させて、改めて訊いた。
「ハッキリ言ってくれないか、ブルー? 何が下手だと思うんだ?」
俺は何が下手になっていそうなんだ。それを教えて欲しいんだが。
そう尋ねたら、返った答え。
「キスだよ、下手になっちゃったんでしょ?」
そのせいでキスをしないんでしょ、と得意げな瞳が煌めくから。
赤い瞳が見上げてくるから、気が付いた。
これは罠だと、自分を釣ろうとしているのだと。
だから…。
「ああ、下手だとも!」
下手に決まっているだろうが、とブルーの額を指で弾いた。
子供相手にキスはしないし、下手に決まっているだろうがと。
ついでに「下手だ」と言われたくもないし、キスは絶対しないからと。
「俺のプライドの問題だしな?」と涼しい顔。
お前に下手だと笑われるより、キスしないのが一番だしな、と…。
下手くそになった? ・了