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人類だったら
(…人類なあ…)
 今は何処にもいないんだよな、とハーレイが、ふと考えたこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
(…俺とブルーが、いない間に、世の中すっかり…)
 変わっちまっていたわけで、と改めて思うと、今の世界は劇的に違う。
 人類とミュウの区別どころか、ミュウしかいない時代が来ていた。
(…はてさて、人類っていうヤツは…)
 どれほどミュウと違ったんだか、と不思議な気分になって来る。
 今の時代は「サイオンは使わないのがマナー」とされて、日常で使う場面は全く無い。
 タイプ・ブルーが「そこそこの数はいる」のに、瞬間移動をする者もいない。
(…人類が今の世界に来たとしたって、気付くんだろうか…)
 暮らしている人間は皆、ミュウな事実に、とハーレイは少し可笑しくなった。
 その人類は、多分、「気付かないまま」で、恐れることもしないだろう。
 何日間か滞在する羽目に陥ったとしても、困る点といえば宿や食事といった代物。
(神様の気まぐれで紛れ込んじまって、一文無しで…)
 右も左も分からないから、公園にでも座っているしかない。
 そうする間に、「親切な誰か」が、「どうしました?」と聞きに来るのが今の世の中。
(SD体制の時代だったら、そうなる前に、通報だよなあ…)
 たちまち警備隊がやって来るんだ、と時代の違いを思い知らされる。
 とはいえ、今は違う時代で、「紛れ込んだ人類」は、帰る時まで気付きそうにない。
(通報されなかったのは、運が良かったからだ、と考えるだけで…)
 身元不明の「謎の人類」を、心配しながら見守ってくれた「ミュウ」にも思い至らない。
(…そういう仕事のエキスパートだ、と思い込んでて…)
 まさかミュウとも思わないよな、と想像してみるだけで楽しい。
 ミュウの方でも「何処かから来た、謎の人類」を心配しつつ、何の脅威も感じないだろう。
 「無事に帰れるといいんだがな」と、帰れるかどうかを心配するだけ。
(帰れなかったら、可哀相だと…)
 親身になって世話をしていても、サイオンの出番は一度も来なくて、お別れの日になる。
 神様がヒョイと連れて帰って、人類は「ミュウと暮らした」ことも知らずに帰ってしまう。


(……ふうむ……)
 決定的な違いは無さそうなんだ、と思うくらいに、人類とミュウは、実は「似ている」。
 なにしろ元は「同じ人類」、其処から進化をしたかどうかの違いだけ。
(前の俺たちが生きた時代は、お互い、不幸なすれ違いで…)
 越えられない壁と、深い溝とが出来てしまって、最終的には戦いになった。
 何処かで一つ違っていたなら、全て変わっていたかもしれない。
(…グランド・マザーも、ミュウの因子を抹消することは禁止されていたしな…)
 あの機械が厄介だったことは分かるが、と「元凶はアレだ」と思わざるを得ない。
 SD体制の時代を「ミュウを排除すべき時代」と決め付けていたのは、あの機械だった。
(ソレさえなけりゃあ、きっと誰もが…)
 互いの間に「大した違いは存在しない」ことに気付いていただろう。
 感情も心も考えることも、「なんだ、同じだ」と思う場面が幾つでもあって。
(身体的には、ミュウが虚弱で、寿命が長いってトコがだな…)
 あったけれども、それにしたって「羨ましい!」となっていたのに違いない。
 実際、人類とミュウが「ごくごく自然に混ざり合っていった」時代は、そうだったらしい。
(…羨ましいな、と思う過程で、ミュウの因子が…)
 呼び起されて変化した者が多かったと聞く。
 「ミュウの因子を持っていない者」にも、ミュウに変化する方法が確立された。
(…前のブルーが、フィシスをミュウに変えたみたいに…)
 変わりたい人は変化すればいいし、望まないなら、そのままでいい。
 もっとも、殆どの人類は「ミュウになる」方を選んだらしいけれども。


 ミュウというものを知れば知るほど、人類との違いは「無い」と、誰もが思った時代。
 その時代を経て、今の平和な世の中がある。
 ミュウしか暮らしていないけれども、「サイオンは使わないのがマナー」な社会。
(…人類が来ても、まるで気付かないくらいにな…)
 面白いモンだ、と考える内に、思考が別の方へと転がった。
(…大して違いが無いんだったら…)
 前の俺だたちと、どうだったろう、という「もしも」な世界へ。
(俺もブルーも、ミュウじゃなくって…)
 人類として生まれていたなら、どんな具合になっていたろう。
 出会いからして違って来そうで、出会った後まで「全く違った人生」かもしれない。
(…時間通りに進んでた場合は、出会えないかもな…)
 あいつの方が、俺より遥かに年上なんだし、とハーレイは苦笑してしまう。
 「ミュウではない」ブルーは、ハーレイよりも先に生まれて、順当に年を重ねてゆく。
 ハーレイが「人工子宮から生まれて、養父母の家に迎えられる」頃には、何歳だろうか。
(…それじゃ出会える機会もだな…)
 無いわけだから、少しズルを、と頭の中で時間を調整した。
 今のハーレイとブルーが「出会った」ように、ハーレイが先に生まれるコース。
 人類として成長してゆくからには、成人検査を突破した後の出会いになるだろう。
(記憶を調整されていたって、恋はするしな)
 あいつに出会って一目惚れだぞ、と思うけれども、ブルーの立ち位置は何処なのか。
 教え子だった場合は、教育ステーションでないと困ってしまう。
 育英都市の学校の生徒だったら、十四歳になった途端に、ブルーは「消える」。


(…俺と恋に落ちたとすれば、記憶操作をしても無駄なんだが…)
 ブルーは「ハーレイ先生」を忘れはしなくて、覚えたままでステーションに移ることになる。
 恋に落ちた人間の心は、機械の力でも軌道修正は不可能だったらしい。
(…しかし、あいつは、成人検査で行ってしまって…)
 果たして連絡は取れるんだろうか、と疑問だけれども、恐らく無理な話。
 故郷の星にいる「ハーレイ先生」と、連絡が取れるようでは、成人検査の意義が薄れる。
(…少なくとも、ステーション時代の四年間は…)
 連絡はつけようが無くて、どうすることも出来ないままで時が流れてゆくだろう。
 四年間の間に、ハーレイはともかく、ブルーの人生は「変わってしまう」かもしれない。
(ステーションで受けた教育の結果次第で、その先の人生、決まるんだしなあ…)
 ブルーが「ハーレイ先生」を覚えていてくれても、出会えない道に配属されてしまうとか。
 そうなった時は、いつか連絡が取れたとしても、遠距離恋愛。
 おまけに「出会えるチャンス」が来る人生になるかは、機械の考えと運次第。
(あまりに不幸な人生すぎるし…)
 ステーションで出会うコースの方がマシだろう、と考えたけれど、同じ運命に陥りそう。
 ハーレイが教えた「大切なブルー」が、ステーションの卒業生とは異色のコースに移って。
(教え子の殆どが配属される先なら…)
 卒業した後、会いに行けるし、ブルーの方でも会いに来られる。
 「卒業生がステーションに来る」こと自体は、そう珍しくはなかった時代。
 来てはいけない、という規則などは無かった。


(…よし、ステーションで出会って、恋をしてだな…)
 さて、その後は、と先に進んで、高いハードルにぶつかった。
 「ハーレイ先生」は、結婚してもいいのだろうか。
 ブルーにしても、ハーレイ先生と過ごす人生の場合、コース変更になるかもしれない。
(…コース変更になった場合は、あの時代だと…)
 結婚が理由なら、養父母向けのコースしか無かった。
 一般的には「そのコース」しか無くて、ついでに言うなら、養父母の条件は「男女」。
(…俺とあいつじゃ、行けやしないし…)
 そうなって来ると何があるんだ、と思い描いてみても「軍人」くらいしか道は無かった。
 「男しかいない」殺伐とした軍事基地なら、男同士のカップルがいても許されそうではある。
(…後は何かの採取基地とか…?)
 とにかく「男の世界」になっちまいそうだぞ、とハーレイは首を竦めるしかない。
 あの時代にも「男同士のカップル」は、きっと存在した筈なのに、記録は一切残されていない。
(……健全な子供の育成だけが目的だった、酷い時代で……)
 やっぱりミュウで正解だったぞ、と遠く遥かな時の彼方を思い出す。
(…人類とミュウは、殆ど同じだったんだがなあ…)
 人類じゃ人生、狂っちまう、と震え上がって、心から神に感謝した。
 「人類だったら、人生、大変でした」と、自分もブルーも、ミュウだったことを…。



          人類だったら・了


※前の人生で人類だったら、と考えてみたハーレイ先生。ブルー君とは出会えそう。
 けれど出会って恋をした後、大変な道が待っていそうで、ミュウに生まれるのがベストv






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