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人類だったなら
(…人類かあ…)
 今は一人もいないんだよね、と小さなブルーが、ふと考えたこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(前のぼくたちが生きた時代は、人類の時代で…)
 ミュウは虐げられたけれども、今はミュウしかいない世界になっている。
 何処を探しても「人類」はいない。
(今のミュウって、あの頃の人類みたいに頑丈だし…)
 寿命が長いとか、年を取らないとか、そういった点を除けば、似ていると思う。
 なにしろ「サイオンを使わない」ことがマナーで、瞬間移動をする者だっていない。
(…ぼくの場合は、やりたくっても…)
 出来ないんだけど、とブルーは小さく肩を竦めた。
 今のブルーは、前と同じにタイプ・ブルーに生まれて来たのに、サイオンが不器用だった。
 思念波さえ、ろくに紡げないから、瞬間移動も、空を飛ぶことも出来ない。
(今の時代に紛れ込んじゃった、人類みたい…)
 きっと、こういう感じなんだよ、とブルーも苦笑してしまう。
 「サイオンを使わない」ことが社会のマナーでなければ、肩身が狭かったことだろう。
(…人類がミュウを怖がっていたの、そういう部分もあったのかな…)
 想像もつかない能力を持った人間なんて、気味が悪いと恐れられても仕方ない。
 おまけに人の心を読んだり、手を使わないで物を動かしたりもするのがミュウという人種。
(気味が悪いし、いなくなって欲しくなるよね…)
 今のぼくだと理解出来るよ、とブルーは切実に分かってしまう。
 「ソルジャー・ブルー」だった頃には、当たり前だった「ミュウ」の部分が眠っている。
 人類が見ていた世界の方が、今のブルーには近いのかもしれない。


(…前のぼくには、ミュウの視点で見ることしか…)
 出来なかったから、人類の気持ちは分かっていなかったかも、とフウと溜息を一つ零した。
 あの頃の「ブルー」にしてみれば、「ミュウとして生きてゆく」のが全てだったけれど…。
(もしも、ミュウに生まれていなかったら…)
 前のぼくが、人類だったなら、と考えてみると、「ミュウが恐ろしい」のも想像がつく。
 人類ばかりが悪かったのではなくて、時代が悪すぎたのだろう。
 「ミュウを排除しろ」と叫び続けた機械のせいで、誰も疑おうとさえもしなかった。
(…SD体制の時代じゃなければ、もっと、お互い…)
 話せる機会もあったろうから、譲り合ったり、理解し合ったり、出来たかもしれない。
(今の友達、ぼくのサイオンが不器用なのを、笑い飛ばして…)
 サイオンは抜きで付き合ってくれるし、そんな世界もあっただろうか。
 今のブルーが習った歴史だと、人類の殆どは「ミュウになりたい」と希望したらしい。
(ミュウの因子を持っていない人も、変化出来るようになって…)
 ほんの一部の人を除いて、人類はミュウへと移行していった。
 人類から変化して来た人たちや、移行期の間のことを踏まえて、社会のルールが完成した。
 「サイオンは使わない」マナーは、「ヒトらしく生きる」ためのルールだという。
(前のぼくたち、そういったことには、ちっとも…)
 思い至っていなかったよね、と「今のブルー」は分かるけれども、前のブルーは出来ない。
 サイオンの有無で「感じ方まで、変わって来る」とは、前のブルーには分からなかった。


 前のブルーが生きた時代は、ミュウは異端で少数派な世界。
 だからこそ「意地になっていた」部分も、大きかったに違いない。
(…前のぼくが、人類だったなら…)
 ミュウは、やっぱり恐ろしいよ、と人類の気持ちで考える内に、ハタと気付いた。
(あの時代のミュウは、少なかったんだし…)
 人類に生まれた可能性だってあったのかも、と時の彼方を思い出す。
 ミュウの因子を持っているかは、運の問題だった時代で、因子が無ければ人類だった。
(…ミュウの因子を持ってなければ、どんな人生?)
 どんな具合になってたのかな、と想像の翼を羽ばたかせた。
(えっと…?)
 前のブルーは、成人検査よりも前の記憶が「全く無い」。
 そうなったのは、ミュウに変化したせいで受けた、過酷な人体実験の結果なのだから…。
(ぼくが人類だったなら、子供時代の記憶も、ある程度は…)
 残っている筈で、其処からしても、まるで違った人生になっていただろう。
 大人の社会に出て行った後に、懐かしい友と再会したり、故郷の星に立ち寄ったりして。
(運が良かったら、パパやママにも…)
 会えていたよね、と「今のブルー」の知識から分かる。
(ジョミーの幼馴染だったスウェナは、ジョミーの両親を覚えてて…)
 チャンスを作って、ジョミーを両親に会わせようとしていたらしい。
 両親が強制収容所に送られた時も、ジョミーに伝えるために奮闘したと伝わっている。
(…人類だったなら、ミュウが怖いという部分以外は…)
 幸せに生きられた時代だったかもね、と思えて来る。
 「何も知らずに」、機械の言いなりには違いなくても、多分、幸せではあったろう。


(…前のぼくが人類だったなら、ミュウの時代がやって来るのは…)
 もっと遅れて、大変なことになるんだけれど、と頭の中では理解出来ている。
 とはいえ、「もしも」と、「幸せだったかもしれない人生」を夢に見たっていいだろう。
(前のぼくだって、ホントに人類だったなら…)
 寿命がうんと短くっても、幸せに生きていけたんだよね、と「あの時代」を思う。
 養父母の家で育てられながら、学校に通って、成人検査を受ける日さえも、きっと楽しみ。
(何になりたいか、夢だって、あって…)
 実現出来るコースに行けるようになるよう、努力してみたりもして、その日を待つ。
 希望通りのステーションに行けたら、次は大人の社会を夢に描いて頑張ってゆく。
(順風満帆、そんなのだといいな…)
 身体が弱いのは同じだろうし、研究者かな、と想像する間に、思い出した。
(…そうだ、ハーレイ…!)
 人類に生まれていても、愛おしい人に出会えるのだろうか。
 出会い自体が「メギドの炎で燃えるアルタミラ」だけに、急に心配になった。
 今の今まで「ハーレイ」のことを忘れていたのは、ご愛敬だと思いたい。
(…ハーレイだって、人類に生まれていてくれないと…)
 出会えないよ、と怖いけれども、都合よく考えておくことにした。
 ハーレイが生まれて来るのが、前のブルーよりも「かなり後」だったことも、変更でいい。
(…今のぼくたちみたいに、ハーレイの方が年上で…)
 学校の先生と生徒なのがいいよ、と夢の翼が広がってゆく。
 人類同士で出会って、あの時代に恋に落ちる人生。
 短い寿命の間だけしか、一緒に生きてはゆけないけれども、幸せなのに違いない。
 機械は「恋」には介入しなかったそうだし、男同士でも、大丈夫そう。


(養父母向けのコースで出会うと、困っちゃうかな?)
 ハーレイのことを好きになったら、コース変更、とステーション時代の壁にぶつかった。
 養父母になれる条件は「男女」だったから、ハーレイと暮らすことは出来ない。
(…だけど、ぼくって、基本、おっとり…)
 今のブルーが「ほんの十四歳でも、ハーレイが好き」なのは、生まれ変わって来たせい。
 時の彼方の記憶が無かったとしたら、恋をするのは、もっと大きくなってから。
(ステーション時代よりも前に、ハーレイに恋はしないよね…)
 育英都市の学校で出会っていたって、恋は無さそう、と思うから、ステーション時代。
 そのステーションで、何処に行くのか、コース次第で人生が変わるけれども…。
(研究者になるコースにしたって、よほど優秀な人材でないと…)
 将来的には「養父母になる」わけで、シロエの父も、その一例。
 養父母になれる人材を育ててゆくのが、殆どのステーションだった。
(…Eー1077みたいなのは、特殊例だし…)
 ブルーには向いていそうもないから、送られることは無いだろう。
 ハーレイにしても不向きで、「教えている」場所は、養父母を前提としているステーション。
(…うーん…)
 ぼくも、ハーレイも、コース変更になってしまいそう、と容易に分かる。
 ステーションを支配しているコンピューターも、その方向で調整をしてゆく筈で…。
(…ぼくが卒業するまでの間に、色々と…)
 ブルーとハーレイの受け入れ先を検討してみて、相応の居場所を弾き出す。
 「男同士のカップル」がいても、邪魔にならない「何処か」。
 育英惑星になることだけは、無さそうだった。
 「未来を担う子供たち」には、「男女の養父母」が似合いなのだし、他は「要らない」。


 そうなって来ると、場所は相当、限られて来る。
 軍人ばかりの「軍事基地」だとか、何かの採取用にあるだけの「基地」だとか。
(……うーん……)
 そういう場所でも、幸せに暮らしていければね、と思うけれども、白い箱舟には及ばない。
 ハーレイと一緒に暮らせはしても、何処か殺伐とした世界での日々。
(…休憩時間も、軍人さんとかが一緒なんだし…)
 ぼくとハーレイの仕事も、まるで違って、夜まで出会えなさそう、と情けない。
 身体が弱いブルーはデスクワークで、ハーレイは力仕事が任務だとか。
(そんな人生、困っちゃうから!)
 人類だったなら、そうなるのかも、と怖くなるから、前の人生は正しかった。
(…うんと悲惨な目に遭ったけど、ミュウで正解…)
 SD体制の時代に生きるんだったら、断然、ミュウ、と改めて思う。
 「人類だったなら、ハーレイと一緒に生きる人生、損をするしね」と…。



          人類だったなら・了


※前の生で人類に生まれていたら、と考えてみたブルー君。多分、幸せに暮らせそう。
 とはいえ、ハーレイ先生に出会った後が大変。ミュウに生まれた方が良さそうですよねv





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