やり直すんなら
(今のぼくなら、前の人生、もっと上手に…)
生きられるかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…今のぼくはチビで、子供の姿なんだけど…)
前の自分の記憶を全て持っているから、前の生を、上手くやり直すことが出来そう。
(転生モノって、そういう形の話もあるのかな?)
人気が高いジャンルだよね、と今のブルーは、よく知っている。
何かのはずみで「生まれ変わった」人の物語で、その生き様が醍醐味で人を惹き付ける。
(生まれ変わった先で、前の自分の記憶や知識を活かして…)
人生を過ごしてゆくわけだけれど、生まれ変わった人物がガラリと変わってしまう。
意地悪なキャラになるべき所が、いい人になってしまっていて、周りの調子を狂わせたりも。
(…悪役の筈が、優しい人のポジションだったりするんだよ)
自分だったら「此処は、こうする」と思う通りに動き回れば、悪役が善人になっても仕方ない。
他にも様々な物語が幾つもあって、どれも話題を呼んでいるジャンルが「転生モノ」。
(ぼくの場合は、ちょっと珍しいパターンになりそう…)
生まれ変わって「やり直す」んだから、と面白いアイデアに引き込まれてゆく。
前の生を「今の自分」の知識や記憶を活用しながら、やり直してゆくという物語。
(前の人生、やり直すんなら…)
まずは成人検査の所からかな、と「前の自分」の「一番古い記憶」を引っ張り出した。
成人検査でミュウに変化したせいで、人生そのものが狂ってしまって、記憶は其処から始まる。
(…前のぼくの記憶、これよりも古いの、無いんだよね…)
でも、とブルーは顎に手を当て、時の彼方を思い出してみた。
今の自分が「やり直す」場合、記憶の一番古い所からになるとは思えない。
(赤ん坊の時代は、論外だとしても…)
学校に通っていた頃くらいには、戻っていそう。
「やり直す」のは、スタート地点からの人生になる。
(……そうすると……)
上手く立ち回って、成人検査を受けないままで、逃げ出すことも出来るだろう。
「今のブルー」は運転免許も持っていないし、宇宙船の操縦は無理なのだけれど…。
(やり直すんなら、前のぼくだし…)
無免許なのは変わらなくても、操船技術は「持っている」。
「前のハーレイ」が、キャプテンに就任した後、懸命に技術を磨く間に、ブルーも覚えた。
厨房出身だった「キャプテン・ハーレイ」を育て上げた、シミュレーターがあったから。
(前のぼく、ハーレイの練習に付き合って…)
シミュレーターを「ゲーム感覚」で使いこなして、ハーレイ以上の成績を叩き出していた。
けれど、今の時代は、宇宙船の仕組みが変わったせいで、過去の栄光は通用しない。
「キャプテン・ハーレイ」本人の、「今のハーレイ」も、宇宙船の操船などは出来ない時代。
(今の時代だったら、無理なんだけど…)
遠く遥かな時の彼方でなら、ブルーにだって「操縦」は出来る。
(船を奪って、何処か遠くへ…)
逃げてゆくのが良さそうかな、と考えたけれど、その先が上手くいきそうにない。
(機械の目からは隠れられても、ミュウの未来を見捨てるのと同じで…)
自分だけしか得をしないよ、とブルーは溜息を一つ零した。
「今の自分」の記憶があるわけなのだし、自分が何を放り出したか、分かってしまう。
こんなのじゃ駄目だ、と「やり直す」地点は、変えるしかない。
大勢のミュウの命と未来を「捨ててしまってまで」、図太く生きてゆくのは難しすぎる。
(ソルジャー・ブルーの存在自体が、宇宙から消えてしまうしね…)
駄目すぎるよ、と悲しいけれども、「ソルジャー・ブルー」は大物だった。
(…転生したら、ソルジャー・ブルーだった、なんていう小説があっても…)
ちっとも不思議じゃないくらいだし、と自覚せざるを得ない「前の自分」の重要さ。
今の自分が「やりたい通り」に「やり直す」ことは、時代の流れまで変えてしまうだろう。
(…ソルジャー・ブルー、いないわけにはいきそうにないよ…)
成人検査は回避不可能らしいよね、と小さなブルーは、頭痛がしそう。
あの忌まわしい「検査」を受けたが最後、前の自分の子供時代の記憶は消される。
(転生モノだし、今のぼくの記憶まで消えはしないんだけど…)
なんだか悔しい、と腹立たしくなっても、「運命」だと思って耐えるしかない。
成人検査の後に落ちた地獄も、「生き延びられる」ことを知っているなら、耐えられそう。
(…もっと早くに、脱出したって…)
大切な人が「いない」んだよ、と「ハーレイ」の顔を思い浮かべた。
「やり直しの人生」で、「ハーレイに出会いたい」のならば、我慢して生きる以外に無い。
(アルタミラが、メギドで燃えるよりも前に…)
前のハーレイだけを「助け出す」ことは出来ても、ハーレイは、きっと従ってくれない。
(他のヤツらは、どうするんだ、って…)
ハーレイならば「尋ねて来る」に決まっているから、脱出自体が「大脱走」に化ける。
人類が「ミュウを閉じ込めていた」施設を丸ごと、破壊してからの逃走劇。
(…宇宙船、上手く見付かればいいんだけれど…)
どうなのかな、と「今のブルー」の知識の中にも、当時の宙港の仕組みは入っていない。
常駐している宇宙船の数も、離発着する宇宙船のスケジュールも、謎でしかない。
(…メギドが来る前に、逃げ出すのは無理…)
失敗するのに決まっているよ、と思うものだから、これも「前の通り」にしか運んでくれない。
(ミュウの仲間を、ほんの少しばかり…)
多めに助け出せる程度なんだ、と歯噛みしてみても、どうにも出来ない。
(…前のぼくって、やり直しさえも難しいくらい…)
凄い人生を生きていたみたい、とブルーはフウと溜息をついて、次に進んだ。
アルタミラでも「やり直せない」のなら、チャンスは「脱出してから」後のことになる。
(…アルタミラから逃げて、アルテメシアに辿り着くまでは…)
人類軍にも出会わなかったし、「やり直したい」ほどの出来事は無かった。
アルテメシアでも平穏な日々で、「今の自分の記憶」の出番は、ミュウの子供の救出だろう。
(助け損ねた子供たちなら、一人残らず覚えてるから…)
先回りをすれば、どの子も「無事に」シャングリラに迎えられる。
(もしかしたら、そうやって助け出した子供たちの中に…)
優秀な人材が混じってるかも、と前向きに考えていて、ハタと気付いた。
(……大物は、ジョミー……)
タイプ・ブルーは、ジョミー以外に「いなかった」んだよ、と現実を見詰めざるを得ない。
どう頑張っても、ジョミーが「早めに生まれて来る」コースを、作れはしない。
寿命の残りが少なくなるまで、頼もしいジョミーは生まれて来ない。
(…やり直すんなら、ジョミーとの出会いになるんだけれど…)
最低最悪な出会いだったし、と「今の自分」も思うけれども、変えようが無さそう。
(分かりました、って素直に船に来るような「ジョミー」は…)
強いだけの「ミュウ」でしかないよ、と嫌というほど分かっている。
「ソルジャー・ブルー」に逆らうほどの人材だったからこそ、後のソルジャー・シンがあった。
(…ジョミーに嫌われて、追っかけて行って…)
後釜に据えるしか無いんだってば、と「また、躓いた」。
「やり直せない」のは、ジョミーについても「同じ」らしい。
(ジョミーと衝突しちゃったツケが、ずっと響いて…)
アルテメシアを追われた後に、十五年間も「眠り続ける」ことになってしまった。
出来るものなら「やり直したい」ポイントだけれど、体調までは「変えられはしない」。
眠り続けて、ナスカで再び目覚める時まで、「やり直せる」地点は一つも無い。
(……ナスカなんて……)
やり直すのは、どう転がっても無理そうだよ、とブルーは頭を抱えてしまった。
「今の自分」の記憶があっても、それを活かせる場面の中に「前の自分」が存在しない。
(…鍵になるのは、キースなんだけどな…)
格納庫で出会う直前まで、ぼくは「目覚めてくれない」んだし、と嘆きたくなる。
前の自分が「眠ったままで、目覚めない」以上、記憶があっても「やり直し」は出来ない。
(…やり直すんなら、此処が最大の山場に違いないんだけどね…)
前のぼくの人生、やり直すことも出来ないみたい、と超特大の溜息をついた。
やり直して「違う展開」に変えてみたくても、やり方を見付けることが出来そうにない。
(…前のぼくって、大物すぎだよ…)
誰か上手に書いてくれないかな、とプロの作家に頼みたくなる。
「人生を上手くやり直す」ためのシナリオを。
誰も不幸になりはしなくて、前の自分も幸せになれる筋書きの物語。
『転生したら、ソルジャー・ブルーだった』という、うんと素敵な「転生モノ」を…。
やり直すんなら・了
※前の生をやり直すのなら、どうすればいいか、考え始めたブルー君。転生モノの一種。
ところが上手くやり直すには、ハードルが高すぎる前の生。プロ作家の出番かもv
生きられるかな、と小さなブルーは、ふと考えた。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…今のぼくはチビで、子供の姿なんだけど…)
前の自分の記憶を全て持っているから、前の生を、上手くやり直すことが出来そう。
(転生モノって、そういう形の話もあるのかな?)
人気が高いジャンルだよね、と今のブルーは、よく知っている。
何かのはずみで「生まれ変わった」人の物語で、その生き様が醍醐味で人を惹き付ける。
(生まれ変わった先で、前の自分の記憶や知識を活かして…)
人生を過ごしてゆくわけだけれど、生まれ変わった人物がガラリと変わってしまう。
意地悪なキャラになるべき所が、いい人になってしまっていて、周りの調子を狂わせたりも。
(…悪役の筈が、優しい人のポジションだったりするんだよ)
自分だったら「此処は、こうする」と思う通りに動き回れば、悪役が善人になっても仕方ない。
他にも様々な物語が幾つもあって、どれも話題を呼んでいるジャンルが「転生モノ」。
(ぼくの場合は、ちょっと珍しいパターンになりそう…)
生まれ変わって「やり直す」んだから、と面白いアイデアに引き込まれてゆく。
前の生を「今の自分」の知識や記憶を活用しながら、やり直してゆくという物語。
(前の人生、やり直すんなら…)
まずは成人検査の所からかな、と「前の自分」の「一番古い記憶」を引っ張り出した。
成人検査でミュウに変化したせいで、人生そのものが狂ってしまって、記憶は其処から始まる。
(…前のぼくの記憶、これよりも古いの、無いんだよね…)
でも、とブルーは顎に手を当て、時の彼方を思い出してみた。
今の自分が「やり直す」場合、記憶の一番古い所からになるとは思えない。
(赤ん坊の時代は、論外だとしても…)
学校に通っていた頃くらいには、戻っていそう。
「やり直す」のは、スタート地点からの人生になる。
(……そうすると……)
上手く立ち回って、成人検査を受けないままで、逃げ出すことも出来るだろう。
「今のブルー」は運転免許も持っていないし、宇宙船の操縦は無理なのだけれど…。
(やり直すんなら、前のぼくだし…)
無免許なのは変わらなくても、操船技術は「持っている」。
「前のハーレイ」が、キャプテンに就任した後、懸命に技術を磨く間に、ブルーも覚えた。
厨房出身だった「キャプテン・ハーレイ」を育て上げた、シミュレーターがあったから。
(前のぼく、ハーレイの練習に付き合って…)
シミュレーターを「ゲーム感覚」で使いこなして、ハーレイ以上の成績を叩き出していた。
けれど、今の時代は、宇宙船の仕組みが変わったせいで、過去の栄光は通用しない。
「キャプテン・ハーレイ」本人の、「今のハーレイ」も、宇宙船の操船などは出来ない時代。
(今の時代だったら、無理なんだけど…)
遠く遥かな時の彼方でなら、ブルーにだって「操縦」は出来る。
(船を奪って、何処か遠くへ…)
逃げてゆくのが良さそうかな、と考えたけれど、その先が上手くいきそうにない。
(機械の目からは隠れられても、ミュウの未来を見捨てるのと同じで…)
自分だけしか得をしないよ、とブルーは溜息を一つ零した。
「今の自分」の記憶があるわけなのだし、自分が何を放り出したか、分かってしまう。
こんなのじゃ駄目だ、と「やり直す」地点は、変えるしかない。
大勢のミュウの命と未来を「捨ててしまってまで」、図太く生きてゆくのは難しすぎる。
(ソルジャー・ブルーの存在自体が、宇宙から消えてしまうしね…)
駄目すぎるよ、と悲しいけれども、「ソルジャー・ブルー」は大物だった。
(…転生したら、ソルジャー・ブルーだった、なんていう小説があっても…)
ちっとも不思議じゃないくらいだし、と自覚せざるを得ない「前の自分」の重要さ。
今の自分が「やりたい通り」に「やり直す」ことは、時代の流れまで変えてしまうだろう。
(…ソルジャー・ブルー、いないわけにはいきそうにないよ…)
成人検査は回避不可能らしいよね、と小さなブルーは、頭痛がしそう。
あの忌まわしい「検査」を受けたが最後、前の自分の子供時代の記憶は消される。
(転生モノだし、今のぼくの記憶まで消えはしないんだけど…)
なんだか悔しい、と腹立たしくなっても、「運命」だと思って耐えるしかない。
成人検査の後に落ちた地獄も、「生き延びられる」ことを知っているなら、耐えられそう。
(…もっと早くに、脱出したって…)
大切な人が「いない」んだよ、と「ハーレイ」の顔を思い浮かべた。
「やり直しの人生」で、「ハーレイに出会いたい」のならば、我慢して生きる以外に無い。
(アルタミラが、メギドで燃えるよりも前に…)
前のハーレイだけを「助け出す」ことは出来ても、ハーレイは、きっと従ってくれない。
(他のヤツらは、どうするんだ、って…)
ハーレイならば「尋ねて来る」に決まっているから、脱出自体が「大脱走」に化ける。
人類が「ミュウを閉じ込めていた」施設を丸ごと、破壊してからの逃走劇。
(…宇宙船、上手く見付かればいいんだけれど…)
どうなのかな、と「今のブルー」の知識の中にも、当時の宙港の仕組みは入っていない。
常駐している宇宙船の数も、離発着する宇宙船のスケジュールも、謎でしかない。
(…メギドが来る前に、逃げ出すのは無理…)
失敗するのに決まっているよ、と思うものだから、これも「前の通り」にしか運んでくれない。
(ミュウの仲間を、ほんの少しばかり…)
多めに助け出せる程度なんだ、と歯噛みしてみても、どうにも出来ない。
(…前のぼくって、やり直しさえも難しいくらい…)
凄い人生を生きていたみたい、とブルーはフウと溜息をついて、次に進んだ。
アルタミラでも「やり直せない」のなら、チャンスは「脱出してから」後のことになる。
(…アルタミラから逃げて、アルテメシアに辿り着くまでは…)
人類軍にも出会わなかったし、「やり直したい」ほどの出来事は無かった。
アルテメシアでも平穏な日々で、「今の自分の記憶」の出番は、ミュウの子供の救出だろう。
(助け損ねた子供たちなら、一人残らず覚えてるから…)
先回りをすれば、どの子も「無事に」シャングリラに迎えられる。
(もしかしたら、そうやって助け出した子供たちの中に…)
優秀な人材が混じってるかも、と前向きに考えていて、ハタと気付いた。
(……大物は、ジョミー……)
タイプ・ブルーは、ジョミー以外に「いなかった」んだよ、と現実を見詰めざるを得ない。
どう頑張っても、ジョミーが「早めに生まれて来る」コースを、作れはしない。
寿命の残りが少なくなるまで、頼もしいジョミーは生まれて来ない。
(…やり直すんなら、ジョミーとの出会いになるんだけれど…)
最低最悪な出会いだったし、と「今の自分」も思うけれども、変えようが無さそう。
(分かりました、って素直に船に来るような「ジョミー」は…)
強いだけの「ミュウ」でしかないよ、と嫌というほど分かっている。
「ソルジャー・ブルー」に逆らうほどの人材だったからこそ、後のソルジャー・シンがあった。
(…ジョミーに嫌われて、追っかけて行って…)
後釜に据えるしか無いんだってば、と「また、躓いた」。
「やり直せない」のは、ジョミーについても「同じ」らしい。
(ジョミーと衝突しちゃったツケが、ずっと響いて…)
アルテメシアを追われた後に、十五年間も「眠り続ける」ことになってしまった。
出来るものなら「やり直したい」ポイントだけれど、体調までは「変えられはしない」。
眠り続けて、ナスカで再び目覚める時まで、「やり直せる」地点は一つも無い。
(……ナスカなんて……)
やり直すのは、どう転がっても無理そうだよ、とブルーは頭を抱えてしまった。
「今の自分」の記憶があっても、それを活かせる場面の中に「前の自分」が存在しない。
(…鍵になるのは、キースなんだけどな…)
格納庫で出会う直前まで、ぼくは「目覚めてくれない」んだし、と嘆きたくなる。
前の自分が「眠ったままで、目覚めない」以上、記憶があっても「やり直し」は出来ない。
(…やり直すんなら、此処が最大の山場に違いないんだけどね…)
前のぼくの人生、やり直すことも出来ないみたい、と超特大の溜息をついた。
やり直して「違う展開」に変えてみたくても、やり方を見付けることが出来そうにない。
(…前のぼくって、大物すぎだよ…)
誰か上手に書いてくれないかな、とプロの作家に頼みたくなる。
「人生を上手くやり直す」ためのシナリオを。
誰も不幸になりはしなくて、前の自分も幸せになれる筋書きの物語。
『転生したら、ソルジャー・ブルーだった』という、うんと素敵な「転生モノ」を…。
やり直すんなら・了
※前の生をやり直すのなら、どうすればいいか、考え始めたブルー君。転生モノの一種。
ところが上手くやり直すには、ハードルが高すぎる前の生。プロ作家の出番かもv
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