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(今日は会えずに終わっちまったなあ…)
 残念ながら、とハーレイが零した小さな溜息。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今日は学校で会えずに終わってしまった、ブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 今はすっかりチビだけれども、愛おしい人には違いない。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が恋した人。
 「何処までも共に」と誓っていたのに、前の自分は失くしてしまった。
 誰よりも愛していた人を。
 気高く美しかった恋人、ソルジャー・ブルーと呼ばれた人を。
(……俺のせいではなかったんだが……)
 それとも俺のせいだったろうか、と今更のように思わないでもない。
 キャプテンとしての前の自分の判断、それが誤っていたのだろうか、と。
(…ジョミーの意見を容れる代わりに…)
 長老たちの意見に従っていたら、全ては違っていたかもしれない。
 赤いナスカを調査しに来た、あのメンバーズを殺していたら。
 今でも憎くてたまらない男、キース・アニアンの命を断っていたなら。
(…殺せとまでは言われなかったが…)
 あの時、ゼルたちが言っていたのは、それと同じなことだった。
 ジョミーは対話を望んだけれども、長老たちの意見は「調べ尽くす」こと。
 精神崩壊してもいいから、キースの真意を、地球の情報を、引っ張り出して。
(そうなっていたら、キースは発狂…)
 狂った人間に用など無いから、恐らくは、放り出しただろう。
 死ぬのを承知で、真っ暗な宇宙空間に。
 なにしろ人類がミュウにしたことは、それに似たことばかりだから。
(そしたら、キースは死んでしまって…)
 もうメギドなどは持ち出せないから、ブルーを失わなかったろうか。
 いつかメギドが来たとしたって、その頃までには、きっと備えがあったろうから。


(…俺のせいだったのかもしれないなあ…)
 間接的にはそうかもしれん、と思うけれども、自業自得の報いなら受けた。
 前のブルーを失くした後には、果てさえ見えない辛い道のりが待っていたから。
(あいつと約束してたのに…)
 ブルーの寿命が尽きてしまうことが、白い箱舟の中で分かった時。
 ドクター・ノルディが悲しい告知を口にした後、前の自分はブルーに誓った。
 「何処までも一緒に参りますから」と。
 ブルーの命の灯が消えた時は、自分も後から追ってゆくから、と。
 キャプテンとして、ソルジャーの葬儀を終えたなら。
(…その時のためにシドを選んで、薬も用意してたんだがな…)
 そのつもりで生きていたというのに、ブルーはそれを許さなかった。
 最後の最後に、「ソルジャー」として下した命令。
 恋人としての願いではなく、ソルジャーからの願いとして。
 「頼んだよ、ハーレイ」とブルーが紡いだ言葉が、前の自分を縛り付けた。
 ジョミーを支えて、地球までの道を歩んでゆくことに。
 ブルーを失い、魂は既に死んでいようと、白いシャングリラを地球まで運んでゆく道に。
(…本当に、生ける屍だったよなあ…)
 いくら顔では笑っててもな、と思い返すと今も苦しい。
 キャプテンだからと自分を叱咤し、懸命に繕い続けた外見。
 仲間たちを励まし、共に喜び、勝ち抜いていった人類軍との戦いの日々。
 「此処まで来られた」と歓声が船を揺るがせる度、笑顔の裏で思っていたことは…。
(これで、あいつに…)
 会いに行ける日がまた近付いた、ということだけ。
 船が地球まで辿り着いたら、そして人類に勝利したなら、ブルーに頼まれた役目は終わる。
 そうしたら、晴れて旅に出られる、と。
(先に逝っちまった、あいつを探しに…)
 身体を離れて飛んでゆける、と思っていた。
 その日が、早く来てくれないかと。
 一日も早くブルーの許に、と、ただ、それだけを頼みに生きた。
 自分の身体を捨ててゆく日に憧れ、それを望み続けて。


(思っていたのと、少々、違っちまったが…)
 前の自分は地球の地の底で死んで、そうしてブルーと、また巡り会えた。
 青く蘇った、この地球の上で。
 前のブルーが焦がれ続けた、青い水の星で。
(あいつに会うって夢は立派に叶ったな)
 それも最高の形で会えた、と考えただけで嬉しくなる。
 前の生でブルーと共に描いた、「地球に着いたら」という夢の数々。
 ブルーの寿命が尽きると分かって、諦めるしかなかった夢たち。
 それを二人で叶えてゆけるし、そうなる時が待ち遠しい。
 チビのブルーが前のブルーと同じ姿に育って、結婚式を挙げる日が。
 今度こそ二人で生きてゆけるし、同じ家で暮らせるようになるから。
(それもこれも、あいつに出会えたからで…)
 幸せだよな、と頬が緩んでしまう。
 記憶が戻って来るよりも前は、想像さえもしなかった人生。
 恋人が出来て、結婚式を夢見るなんて。
 その恋人に会えなかったと、溜息をつく日が来るなんて。
(…もしも、あいつに出会わなかったら…)
 今日も普通に授業を済ませて、会議をしていたことだろう。
 「会議があるとは、ツイてないな」とは思わずに。
 そのせいで恋人に会いに行けない、とガッカリしたりは全くせずに。
(いそいそと会議に出掛けて行って、それが終わったら…)
 愛車を家に向かって走らせ、途中で買い物。
 今日の自分も、買い物には寄って来たけれど…。
(…あいつの顔が浮かんじまって…)
 御機嫌と言えはしなかった。
 家に帰って夕食の支度、その間だって。
 ブルーに出会う前だったならば、鼻歌交じりに楽しく料理をしたのだろうに。


 何もかも変わっちまったな、と思う「出会ってからの日々」。
 前の自分もそうだったろうか、と時の彼方に思いを馳せる。
 今はこれほど幸せなのだし、前の自分はどうだったろう、と。
 前のブルーと出会った後には、人生がすっかり変わったろうか、と。
(…前のあいつとは…)
 燃えるアルタミラで出会ったんだ、と遠い記憶の糸を手繰った。
 増え続けるミュウに恐れをなした人類が決めた、星ごと滅ぼしてしまうこと。
 実験体だったミュウは一人残らず、シェルターの中に閉じ込められた。
 「人類の敵」を檻に押し込めた後は、宇宙船で逃げて行った人類。
 それからメギドが照準を定め、地獄の劫火が解き放たれた。
 アルタミラがあったジュピターの衛星、ガニメデに向けて。
 ミュウが一人も生き残らぬよう、跡形もなく燃やし、消し去るために。
(シェルターの中で、とんでもない地震に見舞われて…)
 これで死ぬのだ、と泣き叫ぶミュウたちに囲まれながら思った。
 地獄だった日々も此処で終わると、それもいいかもしれないな、と。
(…少々、苦しい死に方をしても…)
 自分の命は其処で終わりで、二度と人体実験は無い。
 死んでしまえば、あの苦痛からは解放される。
 「死にたくない」と騒ぐミュウたち、彼らは「気付いていないだけ」。
 解放されるということに。
 不幸な形には違いないけれど、生き地獄は終わるということに。
(…どのくらいの間、そう思ってたんだか…)
 長かったように思うけれども、実際は、一分も無かっただろう。
 何故なら、自分は「本当に」解放されたから。
 木っ端微塵に砕けたシェルター、閉じ込める檻は一瞬の内に消え失せたから。
(あの時、真っ直ぐ、逃げ出していたら…)
 ブルーとは出会わなかったのだろう。
 前の自分の人生もまた、それから間もなく終わったと思う。
 燃えるアルタミラから逃げ出せていても、前のブルーがいないから。
 前のブルーがいなかったならば、誰も生き延びられないから。


(あそこで人生、変わったんだな)
 前のあいつと出会ったから、と深く頷く。
 「人生、すっかり変わっちまった」と、「今の俺とは違う形で」と。
 シェルターが砕け散った瞬間、それをやってのけた少年を見た。
 青いサイオンの光を放って、皆を自由にした少年を。
(しかし、あいつは…)
 自分がそれをやったことさえ、まるで気付いていなかった。
 その場にペタンとへたり込んだまま、動こうともせずに。
 自由を得られたミュウたちは皆、我先に逃げて行ったのに。
 何処へ向かって逃げるというのか、目標さえも定めないまま、一目散に。
(…俺は冷静だったんだろうか…)
 それとも単に鈍かっただけか、それは今でも分からない。
 けれど自分は、逃げ出さなかった。
 代わりに「皆を助けなければ」と、他のシェルターのことを思った。
 そうするためには、一人でも多い方がいい。
 その上、助けてくれた少年、彼を見捨ててなどは行けない。
(…だから、あいつを助け起こして…)
 「お前、凄いな」と声を掛けてやって、そこから全てが始まった。
 他のシェルターでの救出劇も、アルタミラからの脱出も。
 脱出した後、シャングリラで長く宇宙を旅して、アルテメシアに辿り着いてからの日々も。
(……もしも、あいつと出会わなかったら…)
 何もかも、あそこで終わっていた上、今の人生も無いのだろう。
 前のブルーと出会ったからこそ、こうして二人で生まれ変わって来たのだから。
(…うん、最高の出会いだったな)
 そして今もな、と浮かべた笑み。
 前の自分も、今の自分も、ブルーと出会って幸せだから。
 もしもブルーと出会わなかったら、今の人生は無いのだから…。

 

         出会わなかったら・了


※ハーレイ先生が考えたこと。ブルー君と出会って変わった人生、前もそうだった、と。
 前のブルーに出会わなかったら、恋はもちろん、白いシャングリラでの旅も無かったのですv












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「あのね、ハーレイ…。ちょっと相談があるんだけれど」
 聞いてくれる、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、いきなり何の前触れも無く。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(相談だって?)
 嫌な予感しかしないんだがな、とハーレイは心で溜息をつく。
 こういった時に、ブルーが改めて言い出すことといったら…。
(ロクなことじゃないと来たもんだ)
 俺の経験からしてな、と思うけれども、無視も出来ない。
 放っておいたら、ブルーの機嫌を損ねるから。
 たちまち頬っぺたが、ぷうっと膨れて…。
(フグになっちまうし…)
 一応、話は聞いておくか、と腹を括った。
 フグになられるよりかはマシだ、と「聞くだけだしな?」と。


 そう決めたから、ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて問い掛けた。
「相談というのは、何事なんだ?」
 聞いてやらないこともないから、まあ、話してみろ、と。
「えっとね…。失くしたんだけど…」
「はあ?」
 失せ物なのか、とハーレイは拍子抜けした。
 そういうことなら、きちんと相談に乗らなければ。
 何処で失くしたのか知らないけれども、探す手助けも。
 だから、とりあえず、失くした物についての質問。
 「いったい何を失くしたんだ」と、「失くした場所は?」と。
 するとブルーは、小さな肩を落として答えた。
 「失くしたの、前のぼくなんだよ」と、悲しげな顔で。
「前のお前だって!?」
 するとアレか、とハーレイは即座に思い当たった。
 失せ物というのが何のことなのか、一瞬の内に。


 前のブルーが失くした物。
 それは…。
(メギドで落としちまったっていう、俺の温もり…)
 最後まで大切に持っていたいと願った、右手の温もり。
 それをブルーは失くしてしまった。
 キースに銃で撃たれた痛みで、消えてしまって。
 前のブルーの右手は凍えて、泣きながら死んでいったという。
 「ハーレイには、二度と会えない」と。
 「絆が切れてしまったから」と、絶望の淵に突き落とされて。
 今のブルーも、その悲しみを忘れていない。
 右手が冷たくなった時には、「温めてよ」と強請ってくる。
 断ることなど出来はしないし、いつも包んで温めてやる。
 ブルーがすっかり満足するまで、今の自分の大きな両手で。


(…そういうことか…)
 疑っちまって悪かった、とハーレイはブルーに詫びたくなる。
 もちろん口には出さないけれども、その分、右手を…。
(しっかり温めてやらないとな)
 よし、とブルーに微笑み掛けた。
「前のお前が失くした物を、俺に戻して欲しいんだな?」
 お前が大切にしていた物を、と「素直に言えばいいのに」と。
「ハーレイ、ぼくに返してくれるの?」
 今のぼくに、と赤い瞳が瞬きをする。
 「ホントにいいの?」と、「ぼく、欲張りだよ」と。
「分かっているさ。お前が、どんなに悲しかったかも」
 お安い御用だ、とハーレイは胸を叩いた。
 「いくらでも俺が返してやる」と、「俺で良ければ」と。
 そうしたら…。


「ありがとう! それじゃ、ぼくにキスして!」
 頬っぺたじゃなくて、唇にお願い、と煌めいたブルーの瞳。
 「失くしちゃったもの」と、「キスしてくれないから」と。
 確かに間違ってはいない。
 まるで全く、間違いなどではないのだけれど…。
「馬鹿野郎!」
 それは育ってからのことだ、とハーレイは拳をお見舞いした。
 悪だくみをしたブルーの頭に、コツンと軽く。
 「俺はすっかり騙されたんだぞ」と、ブルーを睨んで。
 「メギドのことだと思うだろうが」と、「大嘘つきが」と…。




          失くしたんだけど・了









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(…今のハーレイは、学校の先生なんだよね…)
 前のハーレイからは、ちょっと想像できないけれど、と小さなブルーが思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は、仕事の帰りに来てくれなかったハーレイ。
 放課後に会議があったのだろうか、それとも柔道部の部活が長引いたのか。
 どちらにしたって「教師ならではの」理由、其処から「学校の先生」に向かった思考。
 「今のハーレイは、学校の先生なんだ」と。
 遠く遥かな時の彼方では、ハーレイの仕事はキャプテンだった。
 白いシャングリラの舵を握って、仲間たちを纏め上げていた前のハーレイ。
 船の航路から、船内で起こる様々な事まで、常にしっかり把握し続けて。
(…んーと…?)
 そう考えてみると、今のハーレイの教師の仕事も、適職と言えば言えるだろう。
 前のハーレイがキャプテンでなければ、教師をやっていたかもしれない。
 子供たちだって懐いていたから、まるで不向きな職ではない。
 もしもハーレイに「その気」があって、そういうチャンスがあったなら。
(だけど、前のハーレイがキャプテンになる前は…)
 働いていた場は、厨房だった。
 シャングリラというのは名ばかりの船で、せっせと料理をしていたハーレイ。
 そうなったのは「料理人の素質があったから」だと聞いている。
 ある日、たまたま手伝った厨房、其処で誰よりも料理の才能を発揮したから。
 野菜を切るのも、下ごしらえも、身体が勝手に動いたという。
 前のハーレイには、料理をした記憶は無かったのに。
(それで厨房に入ったんだし、キャプテンになっていなかったなら…)
 きっとそのまま、厨房の責任者を続けていたことだろう。
 教師の仕事は巡って来なくて、厨房のトップ。
 白い鯨になったシャングリラに、子供たちが来るようになった後にも。
 船に「先生」という職業が出来て、ヒルマンが彼らを纏める時代が訪れても。


(……前のハーレイだと、先生は無理……)
 向いてることにも、きっと気付かなかったよね、とブルーは首を傾げる。
 教えるチャンスが無かったのなら、キャプテンか、厨房のトップのままなハーレイ。
(でも、ひょっとしたら…)
 先生そのものにはなっていなくても、教えることは出来たかもしれない。
 白いシャングリラに、それを思い付く人がいたなら。
(子供相手の料理教室…)
 今の時代は、けっこう人気があると聞く。
 本物の料理教室と違って、毎日通うわけではなくて…。
(ホテルとか、大きなレストランとかで、一日だけ…)
 子供たちを集めて、プロの料理人が料理を教える教室。
 其処で教える料理は色々、凝ったものから、ごく簡単に作れるものまで。
(シャングリラだと、食料は大事だったから…)
 自給自足で飛んでいた船では、コーヒーさえも代用品で出来ていたほど。
 キャロブの豆から作ったコーヒー、それにチョコレートやココアなど。
 そんな船では、貴重な食材を無駄にすることは許されない。
 料理に全く慣れない子供たちに、卵やバターは任せられない。
(オムレツだって、焦がしちゃったら…)
 たとえ黒焦げにならなくっても、その分の卵は「無駄遣い」。
 それが厨房の見習いだったら、叱られて終わりになるけれど。
 「焦げた分は、お前が食べておけ!」と、厨房のトップに怒鳴られるだけ。
 けれども、子供たちの場合は、そうはいかない。
 おまけに子供は遊びたがるもの、フライパンから煙が出たって、よそ見をしそう。
 他の子たちはどんな具合か、キョロキョロして。
 挙句にオムレツが焦げていたって、「失敗しちゃった」と俯くか…。
(ペロッと舌を出しちゃって…)
 ごめんなさい、と口では言っても、目だけは笑っていそうな子も。
(…お料理教室、シャングリラでは無理…)
 お料理教室の先生も無さそう、と大きく頷いた。
 前のハーレイには、教師という職は無かっただろう、と。


 そうなってくると、教師は今のハーレイならではの仕事。
 ハーレイが好きで選んだ仕事で、プロのスポーツ選手への道もあったと聞いた。
 柔道も水泳も、今のハーレイはプロ級だから。
 学生時代は沢山の大会に出て、幾つもの賞を取っていた。
 そっちの道に進んでいたなら、そういうハーレイに出会えただろう。
(プロのスポーツ選手の方も…)
 前のハーレイには無理だったよね、と時の彼方を頭に描く。
 SD体制が敷かれた時代は、職業は機械が決めていた。
 いくら前のハーレイが頑丈に出来ていたって、プロにはなれなかったと思う。
 それほど才能があるのだったら、食材を前に勝手に身体が動くようには…。
(なってないよね?)
 料理に費やすような時間は、子供時代から無かった筈。
 たとえ料理が好きだったとしても、そうそう、させては貰えない。
 スポーツの時間が最優先で、学校はもちろん、きっと他にも練習の場があったろう。
 養父母が送り迎えをしたのか、それとも送迎バスが来たのか。
(お休みの日だって、練習だよね…)
 プロのスポーツ選手の指導で、才能をもっと伸ばせるように。
 料理をしている暇があったら、トレーニングに励むように、と教え込まれて。
(…あの時代だと、前のハーレイが就いてた職って…)
 ミュウだと判断されていなかったならば、料理人になっていたのだろうか。
 あるいは操船の才能を機械が見出し、パイロットの道に進んだろうか。
(どっちにしたって、先生は無し…)
 本当に今のハーレイらしいよ、と嬉しくなるのが教師という職。
 前のハーレイだと、どう転がっても、教師になるのは無理だから。
 ミュウであっても、ミュウでなくても、なれそうにないのが学校の教師。
 他の仕事を割り当てられて、別の道へと向かってしまう。
 シャングリラならば、キャプテンか厨房の料理人。
 人類の世界で暮らしていたなら、パイロットか、料理人の道へと。


(……料理人かあ……)
 前のハーレイが厨房で働く姿は見たから、今のハーレイのも見たい気がする。
 シェフの帽子も、寿司職人などが被る帽子も、良く似合いそう。
(うん、ハーレイならピッタリだよ)
 スポーツ選手並みの身体に、料理人の白い制服、それに制帽。
 なかなか絵になる姿なのだし、そっちの道に進んだハーレイに出会っていても…。
(やっぱり、ハーレイはハーレイだものね)
 きっとハーレイを好きになったよ、と胸が高鳴る。
 教室ではなくて、ハーレイの店が出会いの場だったとしても。
 両親に連れられて入ったお店で、「いらっしゃいませ」と迎えられても。
(絶対、一目で分かるんだから!)
 だって、ハーレイはハーレイだもの、と思ったけれども、どうだろう。
 今のハーレイは、前のハーレイにそっくりだけれど…。
(…違う姿ってこともあるよね?)
 髪と瞳の色が違うとか、肌の色が違っているだとか。
 それだけで済んだら、まだマシな方で、顔立ちからして別人だとか。
(……うーん……)
 今の生でも、二人揃って、そっくり同じに生まれて来た。
 白いシャングリラで共に暮らした、ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイに。
 今の自分はチビだけれども、大きくなったら、前と同じになるだろう。
 ハーレイは「キャプテン・ハーレイ」にそっくりなのだし、自分も、きっと。
 けれども、これは奇跡に等しい。
 違う姿に生まれていたって、不思議ではないし、嫌とも言えない。
 二人一緒に、青い地球に生まれられたなら。
 前の生での記憶も戻って、二人で生きてゆけるのならば。
(神様が、うんと贅沢に…)
 奇跡を大盤振る舞いしてくれたお蔭で、同じ姿に生まれて来られただけ。
 もしも奇跡が少なめだったら、違う姿も有り得ただろう。
 自分はもちろん、ハーレイだって。
 全く違う姿に生まれて、見た目だけなら別人になって。


(それでも、きっと…)
 ぼくは一目で分かる気がする、と心がじんわり温かくなる。
 料理人になったハーレイの店で、「いらっしゃいませ」と迎えられても。
 前のハーレイとは似ても似つかない、繊細な青年が出て来たとしても。
(身体なんかも、すっかり華奢になっちゃって…)
 どちらかと言えば「ソルジャー・ブルー」に近い体格、そんな青年になったハーレイ。
 今のハーレイほど年を取っていなくて、若々しい姿で止めた年齢。
 それが似合いの姿形で、それもセールスポイントの一つ。
 「とても素敵なオーナーシェフ」が腕を振るうなら、店の人気も高くなる。
 料理の腕が素晴らしい上、目の保養まで出来るとなったら、客が放っておかないから。
 一度でも食事をしに訪れたら、二回、三回と通いたくなるだろうから。
(ハーレイだったら、うんと気配り出来るから…)
 男性客にも、きっと大いに喜ばれる筈。
 「やたらと美形な店長なんだが、店の雰囲気が最高なんだ」と。
 腰が低くて、とても気が利いて、料理はどれも美味しいから、と。
(……見た目は、ハーレイらしくないけど……)
 それでも、やっぱりハーレイなんだよ、と見抜ける自信は大いにある。
 もしも、その店に入った時に、客の中に「ハーレイそのもの」の人がいたって。
 前のハーレイにそっくりそのまま、そういう姿で、けれど中身は他人の魂。
(そんな人が食事をしてたって…)
 ぼくは絶対、間違えやしない、と思うし、きっと間違えない。
 「ハーレイにそっくりな客」の方には、目をくれもしないことだろう。
 カウンターの向こうの繊細な青年、そちらの方に惹き付けられて。
 前のハーレイには何処も似ていない、若いオーナーシェフに惹かれて。
(ハーレイの姿だけだったなら…)
 ぼくは好きになんかならないものね、と浮かべた笑み。
 どんな姿になっていようと、惹かれるのは、その魂だから。
 ハーレイの魂を持っていてこそ、前の生から愛し続ける人なのだから。
 たとえ姿は違っていても。
 教師ではなくて料理人でも、うんと繊細な姿形で、逞しさの欠片も無かったとしても…。

 

            姿だけだったなら・了


※ハーレイの仕事を考える内に、ブルー君が見たくなった料理人のハーレイ。似合いそう、と。
 けれど、前のハーレイの姿でなくても、必ず好きになるのです。惹かれるものは魂v












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(…今のあいつなあ…)
 どうしようもなくチビなんだがな、とハーレイが思い浮かべたブルーの姿。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた、コーヒー片手に。
(チビでも、確かに俺のブルーだ)
 失くしちまった時に比べりゃチビの子供でも、と大きく頷く。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が愛したブルー。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた愛おしい人。
 十四歳にしかならないブルーは、前の自分が別れた時より、ずっと小さい。
 あと四年くらいは経ってくれないと、あの美しく気高い姿は、戻っては来ないことだろう。
 「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた時代の、前の自分が恋をした人は。
(…そうは言っても、前の俺は、だ…)
 自分では自覚していなかっただけで、もっと前から恋していた。
 多分、アルタミラで初めて出会った時から、まだチビだった前のブルーに。
 年だけはかなり上だったけれど、見た目も中身も、幼いままだった頃のブルーに。
(だから今でも、チビのあいつに…)
 やっぱり恋しているんだろうな、と可笑しくなる。
 前のブルーと同じ背丈に育つまでは、と唇へのキスを禁じていても。
 ブルーが口付けを強請ってくる度、「駄目だ」と叱り飛ばしていても。
(…前のあいつと、ウッカリ重なっちまったら…)
 自分でも歯止めが利かなくなるから、そういう決まりを作っただけ。
 なにしろブルーはブルーなのだし、恋した人には違いない。
 今のブルーが小さくても。
 見た目通りに十四歳の子供で、前のブルーより遥かに幼くても。
(……今は待つしか無いってわけだ)
 チビのあいつが育つのを…、とコーヒーのカップを傾ける。
 まだ何年も待たされるけれど、その間だって至福の時だ、と。


 これから育ってゆくブルー。
 再会した日から少しも育っていないけれども、いつかは育つ時が来る。
 そうなったならば、一日ごとに、前のブルーに近付くだろう。
 会う度に、ハッとするほどに。
 「俺のブルーだ」と、前のブルーの姿が鮮やかに蘇るほどに。
 日に日に育つブルーを見るのは、きっと素敵に違いない。
 前の自分もそれを目にした筈なのだけれど、まるで覚えていないから。
(…記憶が抜けているんじゃなくて…)
 意識して見ちゃいなかったんだ、と苦笑する。
 あの頃は、多忙だったから。
 とうにキャプテンの任に就いていた上、シャングリラという船の中だけでの日々。
 余裕のある暮らしを心がけていても、それには自然と限界があった。
 今の自分なら、こうして毎日、寛ぎの時を持つことが出来る。
 週末は仕事も休みになるから、ブルーと過ごすことだって。
(だが、前の俺は…)
 そういうわけにはいかなかったし、ブルーだけを見てはいられなかった。
 ついでに恋の自覚が無いから、会っても注目してなどはいない。
(…前のあいつが、ソルジャーではなかったとしても…)
 ソルジャーとキャプテンという関係でなくても、状況は変わらなかっただろう。
 何処かでバッタリ顔を合わせても、友達に会うのと同じこと。
 食堂で一緒に食事をしたって、他愛ない話に興じるだけ。
 前のブルーの顔を、姿を、注意して見ることなどは無い。
 「親しい友達」なのだから。
 一番古い友達なだけで、恋人だとは思っていないから。
(…そして、あいつが育ってから…)
 やっと恋だと気付くわけだし、それまでの姿を覚えてはいない。
 どんな具合に蕾が綻び、ふわりと花を咲かせたのか。
 艶を含んだ柔らかな花弁、それが蕾から覗くようになったのは、いつなのかを。


 けれど、今度の自分は違う。
 ブルーへの恋を最初から自覚しているのだから、見逃さない。
 まだ十四歳にしかならないブルーが、前のブルーと同じ姿に育つのを。
 少しずつ大人び、背丈も伸びて、日毎に変わってゆくだろう時を。
(…実に贅沢なお楽しみだな)
 毎日、写真を撮りたいほどだ、と思うくらいに待ち遠しい時。
 今のブルーが育ってゆくのを、胸をときめかせて眺められる日々。
(自制するのは大変だろうが、それも醍醐味というヤツだ)
 素晴らしい御褒美が貰えるんだし、と顔が綻びそうになる。
 いつかブルーが育った時には、その唇にキスをする。
 「俺だって、ずっと待たされたんだ」と、もったいぶって。
 高鳴る鼓動を懸命に隠して、大人の余裕たっぷりに。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が失くした姿を、目の前にして。
(本当に、俺のブルーなんだ、と……)
 きっと涙が零れてしまうに違いない。
 ようやく戻って来てくれたブルーの姿に、胸が、心が、一杯になって。
 「俺が失くしたブルーなんだ」と、ブルーの身体を、力の限りに抱き締めて。
(今だって、ブルーはブルーなんだが…)
 やっぱり何処かが違うんだよな、と自分でもハッキリ自覚はある。
 書斎の机の引き出しの中に、大切に仕舞ってある写真集。
 前のブルーの一番有名な写真が表紙の、『追憶』というタイトルの本。
 表紙に刷られたブルーを見る度、今も悲しみに囚われてしまう。
 「その人」を自分は失くしたから。
 憂いを秘めた瞳をしていた、美しい人を。
 誰よりも気高く、強かったブルー。
 ミュウの未来を拓くためだけに、その身を、命を捨て去った人を。


(…あの時の姿に育つまでは、だ…)
 前のブルーを本当の意味で「取り戻した」とは言えないだろう。
 現にこうして、「前のブルー」を想い続ける自分がいるから。
 引き出しの中から写真集を出しては、表紙のブルーに心で語り掛ける自分が。
(……あの姿が戻って来るまでは……)
 胸の痛みも消えないのだろう、と前の自分の苦しみを思う。
 「どうして一人で逝かせたのか」と、取り残された悲しみの中で生き続けた日々。
 そうするしか無かったと分かっていてなお、生ける屍だった歳月。
 今でも忘れることは出来なくて、それを消すには、あの姿のブルーを待つしかない。
 十四歳にしかならない今のブルーが、その身に秘めている姿。
 いつか大きく育つ時まで、目にすることは出来ないブルー。
(…もう一度、あいつに出会わないとな…)
 何年待つことになろうとも、と思うけれども、果たして、それは正しいだろうか。
 前の自分が失くした通りの、ブルーの姿に巡り会うこと。
 「ソルジャー・ブルー」の姿そのまま、生き写しの人に会うということ。
(……今の俺だと、確実に会うことが出来るんだろうが……)
 チビのブルーが育った時には、必ず「そうなる」と分かってはいる。
 前のブルーとそっくり同じな銀色の髪と、赤い瞳を持ったアルビノ。
 誰が見たって「小さなソルジャー・ブルー」そのものな姿の、今のブルー。
 だから期待をしてしまうけれど、そうでなければ、どうだったろう。
 今のブルーが、前の姿と違っていたら。
 銀色をした髪の代わりに、金色の髪を持っていたとか。
 赤い瞳をしてはいなくて、海の色の水色だったとか。
(…前のあいつが、成人検査を受ける前には…)
 その色だったと聞いているから、まるで有り得ない話ではない。
 髪や瞳の色だけではなく、姿からして違っていたかもしれない。
 前のブルーとは似ても似付かない、全く別の面差しになって。
 体格さえも別物になって、見る影もないほど違ったとか。


 もしも、そういうブルーに会ったら、どうしただろう。
 ちゃんと記憶は戻って来たのか、それとも戻らなかったのか。
(…聖痕も出て来なかったなら…)
 それが「ブルー」だと分かりはしなくて、右と左に別れただろうか。
 同じように教室で巡り会っても、ただの教師と生徒のままで。
 ブルーが学校を卒業したなら、二人の縁も切れてしまって。
(……うーむ……)
 しかし、と心の奥がざわめく。
 ブルーが違う姿であっても、自分は同じに「見付ける」だろう、と。
 前の自分の記憶が戻るよりも前に、選んで買った愛車の色。
 「白い車は好きだが、嫌だ」と、前の自分のマントと同じ濃い緑色の車を買った。
 白い車は、白いシャングリラのようだから、と自分でも気付かない内に。
 「ブルーがいないのに、白い車を運転したって意味が無い」と。
(…それと同じで、あいつに会ったら…)
 きっと自分は一目で恋に落ちるのだろう。
 「俺が探していた人だ」と。
 前のブルーとはまるで違って、可愛らしくさえなかったとしても。
 柔道部に似合いのゴツイ生徒で、わんぱく小僧だったとしても。
(…でもって、その時…)
 そんなブルーと同じ学年に、銀色の髪で赤い瞳の子がいたら。
 時の彼方で失った人と、面差しの似た生徒がいたら…。
(恋をするか、って訊かれたら…)
 答えは「否」だ、と瞬時に言える。
 前の自分が恋をしたのは、姿ではなくて、ブルーの魂。
 だから記憶があっても無くても、「あの魂」を持った人に惹かれる。
 姿ではなくて、その中身に。
 互いの記憶がどうであろうと、互いに、心で求め合って。


(…姿だけなら…)
 好きになったりしやしないさ、とカチンと弾いたマグカップ。
 「たとえ絶世の美人でなくても、俺はいいんだ」と。
 小さなブルーが前と同じに育ってゆくのは、楽しみではある。
 それを見るのも幸せだけれど、まるで違ったブルーに出会って、恋に落ちても…。
(間違いなく、俺は幸せなんだ)
 あいつと一緒にいられればな、と湛えた笑み。
 姿だけなら、俺は絶対に惚れやしない、と。
 前のブルーにそっくりな人が、今、目の前に現れても。
 小さなブルーの方の姿は、前のブルーに似ていなくても。
 前の自分が恋をしたのは、「前のブルー」が持っていた、あの魂だから。
 いくらそっくりな姿であっても、魂が別なら、けして選びはしないのだから…。

 

            姿だけなら・了


※いくら前のブルーにそっくりな人でも、魂が違えば惚れはしない、と思うハーレイ先生。
 そっくりな人が目の前にいても、ブルーの魂を持っている人の方に惹かれるのですv











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「あーあ…。お姫様なら良かったのにな」
 生まれ変わって来るのなら、と小さなブルーが零した溜息。
 ハーレイと過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が載ったテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
 お姫様だって、とハーレイは耳を疑った。
 何かを聞き間違えただろうか、と鳶色の目を大きく見開いて。
「お姫様って…。お前、そう言ったか?」
「うん、言った」
 お姫様に生まれて来たかったよね、と再び紡ぎ出された言葉。
 新しい命を貰うのだったら、そっちの方が良かったかも、と。


(……お姫様だと……?)
 こいつは気でも違ったのか、とハーレイの頭も変になりそう。
 よりにもよってお姫様とは、あまりにも信じられないから。
(お姫様っていうのは、お姫様だよな…?)
 王様とかの娘で、高貴な生まれの…、と懸命に整理する思考。
 他には「お姫様」などいないし、それ以外には無いけれど…。
「おい、念のために訊きたいんだが…」
 お姫様っていうのは何だ、とブルーに確認することにした。
 もしかしたら、他にもあるかもしれない「お姫様」。
 例えば学校の生徒の間で、流行している遊びだとか。
(そっちの方なら、分からんでもない)
 何かのごっこ遊びだとかな、と大きく頷く。
 王様ゲームというものもあるし、お姫様と名のつく何か、と。


 きっとそういうものだろう、と考えた「答え」。
 お姫様という何かになったら、お得なことが起こるとか。
 けれど、ブルーは真剣な顔で、「お姫様だよ」と繰り返した。
 「白雪姫とか、色々いるでしょ、お姫様って」
「本物のお姫様なのか!?」
 なんだって、お姫様なんだ、とハーレイは仰天するしかない。
 お姫様に生まれて来たかった、などと言われても…。
(…おいおいおい…)
 今の時代に、お姫様なんぞはいないんだが、と、まず思う。
 そもそも王族などはいないし、お姫様に生まれようがない。
 だから…。


「お前なあ…。お姫様って、何処にいるんだ?」
 今の時代に、と冷静に指摘してやった。
 ブルーの頭の中身はともかく、その点は言っておかなければ。
「いないってことは、知ってるってば」
 でも…、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「お姫様に生まれたかったんだよ」と。
 同じに生まれ変わって来るなら、お姫様の方が良かった、と。
 お姫様の方が、絶対、幸せになれた筈だ、と主張するブルー。
 「今のぼくより、ずっと幸せ」と、「お姫様がいい」と。
「…お姫様ってヤツは、意外と不自由なんだぞ?」
 城から自由に出られやしないし、大変だぞ、と教えてやった。
 「お前の方が、ずっと自由で、いい暮らしだと思うがな」と。
 魔女に呪いもかけられないし、攫われもしない、と。
 そうしたら…。


「でも…。魔女の呪いにかかった時って…」
 王子様のキスが貰えるんだよ、とブルーは瞳を輝かせた。
 「白雪姫も、眠り姫も、そう」と。
 「お姫様には、王子様のキスが必要でしょ?」と。
「ちょっと待て! すると、お前は…」
 キスが目当てで、お姫様になりたいのか、と呆れたハーレイ。
 毒のリンゴで死んでしまおうが、百年眠り続けようが、と。
「そうだけど? だって、王子様のキスが貰えて…」
 うんと幸せになれるもんね、とブルーは夢を見ているから…。
「分かった、好きにするといい」
 頑張って、お姫様になれ、と今日は放っておくことにした。
 いつになったら気付くだろうか、と内心、ほくそ笑みながら。
 「王子様が俺とは限らないぞ」と。
 ブルーがお姫様になっても、王子が誰かは謎だから。
 ヒキガエルかもしれないのだし、モグラの王子ということも。
 なにしろ、生まれ変わりだから。
 別の人生を歩む以上は、王子様も別かもしれないから…。




          お姫様なら・了









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