(…やり直しか…)
人生の、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(題材としては、よくあるんだよな)
小説やドラマなんかの中で、と幾つも思い出すことが出来る。
人生を何処かの時点から「やり直す」こと。
けっこう人気が高いらしくて、SD体制が敷かれる前から存在していた物語。
人間が地球しか知らなかった頃から、それは一種の夢だったようだ。
(…やり直せるようになる方法の方も、それこそ色々…)
あるのだけれども、現実の世界では、成功した例は一つも無い筈。
もしもあったら、話題になっているだろうから。
(…俺にしたって、やり直すことは出来ないし…)
方法の見当もつかないけれども、やり直せたなら、どうなのだろう。
今の自分の人生の方は、まるで全く無い不満。
仕事も私生活も順調、おまけに恋人まで出来た。
前の生から愛し続けた愛おしい人と、巡り会うことが出来たから。
(しかしだな…)
その人と生きた前の生なら、やり直してみたいような気もする。
遠く遥かな時の彼方へ、戻る方法があるのなら。
今の自分の記憶はそのまま、前の人生をやり直せるなら。
(…やり直しってのは、そういうモンだしな?)
人生をやり直す小説もドラマも、記憶はそっくり抱えているもの。
自分が何処で失敗したのか、覚えていないと話にならない。
同じ過ちを繰り返さないよう、人生をやり直してゆくのだから。
(右に進んで失敗したなら、左へ行くとか…)
どちらへも行かずに真っ直ぐだとか、そうやって修正してゆく人生。
今の人生なら、そうしたいとも思わないけれど、前の自分の人生ならば…。
(やってみる価値はあるかもな?)
ちょいと想像してみるとするか、と椅子の背にゆったりもたれかかった。
どんな具合になるんだろうな、と。
SD体制が敷かれていた頃、自分は其処に生きていた。
今とは別の肉体を持って、その時代に。
(…やり直せるなら、何処から直していくのがいいんだ?)
なにしろ記憶はそのままなんだし…、と考えてみる。
小説やドラマの主人公だと、やり直す先の肉体の年齢には縛られない。
既に立派な大人だったのが、子供の頃に戻りもする。
だから自分も、子供時代に戻れるだろう。
(そうなってくると、成人検査の前ってヤツも…)
前の生の記憶に無い時代とはいえ、恐らく、戻ってゆけると思う。
今では顔も思い出せない、育ててくれた養父母の元へ。
(…それも一興…)
もしも会えたら、懐かしく思い出せそうな両親。
「こういう顔の人たちだった」と、「それに、この家で育ったんだ」と。
(…子供時代から、やり直すんなら…)
今度は上手く生きればいい。
「ミュウだ」と判断されないように。
成人検査さえ切り抜けたならば、後は順風満帆の筈。
(…前の俺の記憶があるってことは…)
あの忌まわしい成人検査も、なんとか誤魔化してパス出来るだろう。
どういった部分が「機械のお気に召さない」のかは、充分、承知していたから。
深層心理テストに似ているとはいえ、予め知っていたならば…。
(心の一部を遮蔽しとけば、引っ掛からんぞ)
ついでに記憶も失くさないな、と自信はある。
「キャプテン・ハーレイを甘く見るなよ」と、「成人検査ごときに負けるか」と。
だから成人検査が済んだら、堂々と行ける教育ステーション。
もちろん、普通の人間として。
適性をどう判断されるかは、自分でも分からないけれど。
(…料理人なのか、パイロットなのか…)
あるいは全く違う職業、そのための育成場所かもしれない。
それでも普通に生きてゆけるし、ミュウにはならずに普通の人生。
(…ふうむ…)
そいつも、なかなか面白いな、と少し興味をそそられる。
人類として生きてゆくのも、一興だろう、と。
(…しかし、だ…)
俺の記憶があるってことは…、と頭に浮かんだブルーの顔。
すっかり馴染んだ今のブルーの方とは違って、時の彼方で共に生きた人。
(俺は普通に生きていたって、あいつの方は…)
あのアルタミラの研究所の中に、囚われたまま。
過酷な人体実験を繰り返されて、心も身体も成長を止めて。
(…あいつを助けてやりたくっても…)
普通の人間になった自分では、どうすることも出来ないだろう。
運良く研究者になっていたとしても、ブルーを解放する権限など無い。
それを持つのは機械だけだし、せいぜい、待遇を良く出来る程度。
(…でもって、その内、メギド兵器でアルタミラごと…)
ブルーは消されることに決まって、自分はアルタミラを離れるしかない。
他の研究者たちと船に乗り込み、ブルーはシェルターに閉じ込めておいて。
(…そこで俺だけ脱走するか?)
そしてブルーを助けに行くか、と巡らせた思考。
シェルターの合鍵を持って逃げたら、ブルーを助け出せる筈。
(しかし、それだと…)
ブルーのサイオンは、あそこまで覚醒したのかどうか。
他のミュウたちを助け出すのは、合鍵でなんとかなるにしたって…。
(…逃走用の船も、俺が「あれだ」と指示してだな…)
ついでに操縦出来たとしたって、それから後。
ブルーのサイオンが、極限まで目覚めていなかったなら。
(…食料が尽きてしまった所で…)
旅は終わるのかもしれない。
心も身体も子供のブルーに、「奪って来い」とは言えないから。
「お前には、そういう力があるんだ」と、強制するなど、出来はしないから。
(…どうやら、その辺で詰んじまうかな…)
俺が人類のふりをして生きた場合は、と零れた溜息。
首尾よくブルーと逃れられても、飢え死にしてしまうのかもしれない、と。
(とはいえ、あいつは、あの時だって…)
誰に頼まれたわけでもないのに、食料を奪いに飛び出して行った。
だから、同じことが起きるかもしれない。
ブルーのサイオンが「目覚める」ポイント、その時が「其処」になるだけで。
(それなら、旅を続けられるな)
俺だってミュウの仲間になって、と広げる想像の翼。
なにしろ元々ミュウだったのだし、人類のふりをしていただけ。
(…研究者だった俺のことを…)
責める者たちが何人かいても、時が解決してくれるだろう。
アルタミラから逃れる時には、「ハーレイ」が活躍したのだから。
シェルターの合鍵を持って脱走して来て、閉じ込められていた仲間を助けて。
(ついでに船も操縦出来るし、こりゃ最初からキャプテンだな)
厨房時代は無いようだ、と可笑しくなる。
「キャプテン・ハーレイ」の記憶があるなら、船の操縦はお手の物。
離陸の時から「俺に任せろ」で、順調に続いてゆく航行。
飢え死にの危機を乗り越えた後は、船の改造も早めに出来そう。
(…前の俺の知識があるんだし…)
ゼルやヒルマンと協力したなら、白いシャングリラが誕生する。
自給自足のミュウの箱舟、人類軍にはモビー・ディックと呼ばれた船が。
(船さえ出来れば、ブルーの寿命がある内に…)
地球にも辿り着けただろう。
前の生では長らく謎だった地球の座標も、記憶の中にあるのだから。
(…何処にあるかを、俺が知ってりゃ…)
ソル太陽系と地球に繋がるデータも、首尾よく何処かで拾える筈。
「前の自分」には分からなかった、人類側のデータから。
(この座標が地球ではないでしょうか、と…)
前のブルーに進言したなら、其処までの道が開くと思う。
「行ってみよう」と、「駄目で元々」と。
(…よーし…)
前のあいつと地球に行けるな、と思ったけれど。
焦がれていた星を見せてやれる、と考えたけれど、地球に至る道。
人類の聖地だった地球まで、白いシャングリラで旅することは可能だろうか。
(…ステルス・デバイスがあると言っても…)
かなり危うい航路になるな、と「キャプテン・ハーレイ」だったから分かる。
ソル太陽系に近付くだけでも、人類軍に遭遇するのは確実。
(戦法は、俺の頭にあるが…)
生憎とジョミーがいないんだった、と抱えた頭。
おまけにトォニィたちもいなくて、タイプ・ブルーは、ただ一人だけ。
(…あいつが戦うことになるんだ…)
それじゃ駄目だ、と背筋に冷たい汗が伝った。
ブルーを地球まで連れて行ったら、ブルーは一人で戦うだろう。
地球の地の底深くに据えられ、SD体制を支配しているグランド・マザーと。
時の彼方で、ジョミーがキースと「そうした」ように。
人類側に味方はいないというのに、ただ一人きりで。
(……俺では、役に立たないし……)
却って足手まといなだけか、と情けなくなる。
グランド・マザーと戦う術など、自分は持っていないから。
今の自分の記憶があっても、グランド・マザーには手も足も出ない。
(…そして、あいつも…)
果たして、グランド・マザーに勝てるのかどうか。
寿命が充分に残っていたって、ジョミーと同じで相討ちになるとか。
(そうなりゃ、俺だけ生きていたって…)
仕方ないしな、と浮かんだ苦笑。
「やり直せたって、最後は同じか」と。
崩れ落ちて来る瓦礫に潰され、死んでゆく最期。
息絶えたブルーの身体を抱き締め、庇うようにして。
「俺もお前と一緒に行くから」と。
二人一緒に天へゆこうと、ただの恋人同士として、と。
(なんだか、少しも変わっちゃいないぞ)
大筋ってヤツが、と呆れてしまった、前の人生のやり直し。
今の自分の記憶があっても、どうやら同じになりそうだよな、と。
(やり直せるなら、劇的に変わりそうなんだがなあ…)
あいつがいるのが問題なんだ、とコーヒーのカップを傾ける。
ブルーと一緒に生きてゆくなら、きっと、そちらに引き寄せられてしまうから。
前のブルーが歩むだろう道、それに自分もついてゆくから。
(あいつがいない人生なんかは、俺には味気ないんだからな)
それでいいさ、と湛えた笑み。
「やり直せるなら、あいつと一緒だ」と、「たとえ結果は同じでもな」と…。
やり直せるなら・了
※人生をやり直せたら、どうなるだろう、と考えてみたハーレイ先生。前の人生の方を。
成人検査を上手くパスして、変わりそうなのに、結果は同じ。ブルーと一緒だからなのですv
「あのね、ハーレイ…。聞きたいんだけど…」
フグの恋人はフグだよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? フグって…」
フグというのは魚のフグか、とハーレイは目を見開いた。
どうしていきなり、そうなるのか、と。
(…フグだって?)
フグなんぞ、影も形も無いぞ、とテーブルの上を眺め回す。
紅茶の入ったカップと、ポット。
ブルーの母が焼いたケーキが載っている皿。
何処にもフグは隠れていないし、カップや皿の絵柄にも…。
(…フグも魚も、まるで描かれちゃいないんだがな?)
いったい何処からフグが来たんだ、と見当もつかない。
それまでの会話も、フグとは関係無かったから。
まさに降って湧いた、フグという単語。
しかもブルーの質問は…。
(フグの恋人は、フグなのか、と…)
どういう意味だ、と謎だけれども、無視も出来ない。
目を白黒とさせている間も、ブルーは黙って待っている。
(…もうちょっと、質問の意図ってヤツを、だ…)
言ってくれると助かるんだが、と考えた末に問い掛けた。
「お前の言うフグは、魚のフグで合ってるんだな?」
「そうだよ、違うって言ってないでしょ?」
それでどうなの、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「フグの恋人はフグだよね?」と。
「いや、だから…。何なんだ、その恋人ってのは?」
「恋人は、恋人に決まってるじゃない!」
ぼくとハーレイみたいな恋人、とブルーは即答した。
「他にどんなのがあるって言うの」と、真面目な顔で。
「フグに恋人がいるって時には、フグだよね?」と。
(…本当に、あのフグなのか…)
魚なのか、とハーレイは軽い頭痛を覚えた。
理由はサッパリ分からないけれど、フグが問題。
ブルーの頭を占めているのは、フグの恋人はフグか否か。
(…どう考えても、フグだよなあ…?)
フグにも色々いるわけなんだが、と溜息と共に口を開いた。
「…そうなるだろうな、フグの恋人はフグだろう」
いるとしたらな、とも付け加えた。
フグのカップルはピンと来ないし、魚が恋をするかどうか。
(…鳥や動物なら、つがいってヤツも…)
あるんだがな、と思うけれども、魚の場合はどうだろう。
子孫を残してゆくにあたって、恋をするのか分からない。
(求愛のダンスをする魚、ってのも…)
いると聞くけれど、その求愛が恋かどうかは本当に謎。
けれど、ブルーは満足そうに頷いた。
「そっか、やっぱりフグなんだね!」
フグの恋人はフグになるんだ、と嬉しそうな顔をして。
「それを聞いたら安心しちゃった」と、瞳を煌めかせて。
「つまり、フグの恋人も、フグってことだね」と。
(おいおいおい…)
そんなに喜ぶようなことか、と不思議で堪らないハーレイ。
フグの恋人がフグだというのは、自然の法則の一つだろう。
(…同じフグという種族の中なら、色々と…)
品種の違った組み合わせも、あるいはあるかもしれない。
トラフグとクサフグの血が混じるとか、そういったこと。
けれども、それが種族の限界。
フグの恋人が鯛になったり、ヒラメになったりしはしない。
(…あくまでフグには、フグなんだがな?)
そう思ったから、ブルーに向かって言った。
「フグの恋人は、フグ以外には有り得ないぞ」と。
「他の魚ってことは無いんだ、絶対にな」と。
するとブルーは、「そうでしょ!」と顔を輝かせた。
「だから、ハーレイもフグなんだよね」と、最高の笑顔で。
「フグ以外には有り得ないよ」と、「今、言ったもの」と。
(…フグだって!?)
この俺がか、と文字通り言葉を失ったけれど。
本当に言葉が出ないけれども、ブルーは歌うように続けた。
「だってね、ぼくはハコフグだもの」
「ハーレイ、いつもそう言ってるでしょ」と、得意げな顔。
「ぼくの頬っぺた、押し潰しては、ハコフグだ、って」と。
「……それで、俺までハコフグなのか……?」
フグの恋人はフグだからか、と、やっとのことで返したら。
「俺はお前の恋人なんだし、俺もフグか」と尋ねたら…。
「だって、ハコフグの恋人でしょ?」
それが嫌なら、ぼくの頬っぺた、潰さないで、という答え。
「だって何度も膨れるもの」と、「キスをくれるまで」と。
「なるほどな…。だったら、フグでいるとしよう」
ついでに、フグはキスをしない、とニヤリと笑ってやった。
「フグの世界には、キスは存在しないしな」と。
「俺もお前も、そういう世界の住人だろう?」と。
「実に平和な世界だよな」と、「それで構わん」と…。
フグの恋人は・了
(…ハーレイと一緒に、地球にいるんだよね…)
今日は会えずに終わっちゃったけど、と小さなブルーが思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
大好きで、たまらないハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしい人。
長い長い時を二人で飛び越え、この地球の上で再び出会った。
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれた星で。
(神様からの、うんと素敵なプレゼント…)
二人で地球に来られたなんて、と考えただけで嬉しくなる。
前の生では、どう頑張っても手が届かなくて、諦めるしかなかった地球。
まだ座標さえも掴めない内に、前の自分の寿命が尽きてしまうと分かって。
青い水の星は夢でしかなくて、肉眼で見ることは叶わないのだと。
(…そう思った時より、長生きしたけど…)
昏睡状態で眠り続けて十五年ほど、延びていた命。
けれども、それも失くしてしまった。
ミュウの未来を切り開くために、白いシャングリラを守った時に。
(…それは後悔しなかったけど…)
今でも悔いは無いのだけれども、とんだオマケがついて来た。
メギドでキースに撃たれた痛みで、右手に持っていた温もりを落として。
最後まで持っていたいと願った、愛おしい人の温もりを。
(ハーレイとの絆が切れちゃった、って…)
泣きじゃくりながら死んでいった時、地球のことなど微塵も思いはしなかった。
ハーレイに二度と会えないことが、悲しくて。
深い悲しみと激しい絶望、地球のことなど、針の先ほども…。
(考えないまま、死んじゃったのに…)
神様は、ちゃんと覚えていてくれたらしい。
前の自分が焦がれた星を。
「いつか行きたい」と願い続けた、青く輝く母なる地球を。
そして起こった、素晴らしい奇跡。
神様がくれた、最高の御褒美。
(…ハーレイに会えて、二人とも、地球に生まれて来てて…)
これから二人で生きてゆくのは、焦がれ続けた青い地球の上。
前の自分が幾つもの夢を描き続けた、憧れの星。
(ホントに、最高…!)
チビだったのは、ちょっぴり残念だけど、と細っこい自分の手足を眺める。
せっかくハーレイと再会したのに、今の自分はチビだった。
十四歳にしかならない子供で、まだハーレイと暮らせはしない。
結婚出来る年になるまで、それはお預け。
(でも、ハーレイに会えただけでも、うんと幸せ…)
それに地球だし、と見回す部屋。
今の自分の、小さなお城。
カーテンが閉まった窓の向こうには、地球の夜空があるだろう。
前の自分が見たいと願った、地球の星座が輝く星空。
(ホントのホントに、最高だよね…)
こうして地球に来られたなんて、と緩んだ頬。
白いシャングリラで暮らした頃には、地球と言えば夢の星だったのに。
(…それに、前のぼくが、地球に行けても…)
青い地球など無かったのだ、と今の自分は知っている。
ハーレイからも聞いたけれども、歴史の授業でも教わったこと。
SD体制が敷かれた時代に、青い水の星は何処にも無かった。
地球を蘇らせるために作られたシステム、それは結果を生み出さなかった。
(死の星のままで、生き物は何も生きられなくて…)
砂漠と毒の海に覆われた地球。
皮肉なことに、SD体制が崩壊したのが、再生の引き金になったという。
グランド・マザーを失い、真っ赤に燃え上がった地球。
まるで不死鳥が蘇るように、炎の中から、青い水の星が復活した。
だから今では、青い地球がある。
今の自分が生まれて来た星、ハーレイと再び出会えた星が。
(今度は、最初から地球の上だし…)
青い地球で生きていけるんだよね、と神様の奇跡に感謝する。
なんて素晴らしい奇跡なのかと、地球までついて来ただなんて、と。
(神様が、覚えていてくれたから…)
青い地球の上に生まれたんだよ、と嬉しいけれども、一番の幸せは、今のハーレイ。
またハーレイと出会えた上に、二人で生きてゆけるから。
今度は恋を隠すことなく、大きくなったら結婚して。
(…地球に来られても、ハーレイがいなきゃ…)
きっと幸せじゃなかったよね、と心から思う。
どんなに地球が素敵な星でも、前の自分の夢が叶っても。
(ハーレイとの絆が、切れちゃっていたら…)
記憶が戻った今の自分は、泣き暮らすことになっただろうか。
両親の前では、平気な顔をしていても。
夜が来る度、この部屋で一人、ハーレイを想って、涙を流して。
「どうしてハーレイは、此処にいないの」と、「ぼくだけ、地球に来ただなんて」と。
(…絶対、そう…)
そうなってたよ、とハッキリと分かる。
「青い地球より、ハーレイの方が大事なんだよ」と。
ハーレイがいない青い地球など、アルテメシアよりも味気ない。
前の生で長い時を暮らした、あの雲海の星よりも。
(……あれ?)
だったら、地球じゃなくっても…、と別の方へと向かった思考。
今のハーレイさえいてくれたならば、二人で生まれて来られた星は…。
(……地球じゃなくっても、かまわないのかも……)
そうじゃないの、と自分自身に問い掛けた。
「どうしても、地球じゃなくちゃ駄目?」と。
地球とは違った、何処か、別の星。
そういう所に生まれていたなら、どうだったのか、と。
ハーレイとは巡り会えたけれども、地球までは、うんと遠いとか。
二人で夜空を見上げてみたって、太陽の姿も見えないだとか。
(…その可能性も、あったんだよね…)
神様の考え方によっては、と今更ながらに気が付いた。
「地球だとは、限らなかったかも」と。
宇宙はとても広いのだから、暮らしやすい星は幾つでもある。
わざわざ地球に限らなくても、大勢の人々が、幸せに暮らしている星が。
(そういう星の中の一つに…)
今の自分は、生まれ変わっていたかもしれない。
其処で育って、十四歳になったなら…。
(やっぱり、聖痕が現れちゃって…)
先に生まれていたハーレイと、無事に再会するのだろう。
地球とは違った、何処かの星の学校で。
きっとハーレイは古典の教師で、遅れて赴任して来た所で。
(きっと救急車は、何処の星でも同じだよね?)
怪我だと思って運ばれちゃうんだ、とハーレイとの出会いを思い返した。
まるで違う星に生まれていたって、その辺りは変わらないだろう。
二人の記憶が戻って来たなら、その星の上で恋が始まる。
遠く遥かな時の彼方で、一度は失くしてしまった恋。
それの続きが、奇跡のように。
今のハーレイと出会えたならば、今の自分は、チビの生徒で。
(…他所の星でも、ハーレイはキスしてくれないだろうし…)
結婚出来る年も十八歳で、まだ先のこと。
それでも、幸せだと思う。
また、ハーレイに出会えただけで。
「切れてしまった」と思って泣いた絆が、切れずにいてくれたのだから。
(もうそれだけで、幸せなんだよ)
地球まで、うんと遠くたって…、と弾き出した答え。
「地球じゃなくっても、かまわないよ」と。
神様が新しい命をくれたのならば、それだけで。
ハーレイと二人で生きてゆけるのなら、その星が地球ではなかったとしても。
地球ではない、何処か別の星。
其処にハーレイと生まれて来たなら、どうだったろう。
(…地球じゃなくっても、かまわないけど…)
どんな暮らしになっていたかな、と想像してみることにした。
もちろん、ハーレイと生きてゆく日々を。
結婚出来る年になるまで、二人で待っている間は…、と。
(…もしも、太陽が見える星だったなら…)
ソル太陽系の中心に位置する、地球の太陽。
遠くの星から眺めたならば、夜空に輝く星たちの一つ。
(ハーレイが、家に来てくれた時に…)
夜に二人で見上げるだろう。
「あれが太陽?」と、博識なハーレイに確認しながら。
「あそこに、地球があるんだよね」と。
前の生では座標も知らずに、見られないままで終わった地球。
今も肉眼では見えないけれども、あの方向に「地球があるんだ」と。
(…家にあるような望遠鏡では、無理だよね…)
天文台に行かないと…、と考えるまでもない、地球を眺めるための方法。
そういう星に生まれたのなら、いつかデートに出掛ける時は…。
(地球が見たいな、って…)
強請ってみるのもいいかもしれない。
「地球を見られる天文台まで、連れて行ってよ」と。
ハーレイの車で夜のドライブ、地球が見られるシーズンに。
(…地球は、公転してるんだから…)
きっと、いつでも見られるわけではないだろう。
ついでに、自分たちが住んでいる星も、其処の太陽の周りを回る。
上手く季節が重ならないと、天文台に行ったって…。
(太陽は見えても、地球は何処にも…)
見えてくれないのに違いない。
どんなに凄い望遠鏡でも、季節はどうにも出来ないから。
地球が観測出来るかどうかは、きちんと調べて出掛けないと。
(…ふふっ…)
座標が分かっていたって駄目、と可笑しくなった、地球を見ること。
宙港に行けば、地球に向かう定期便があっても、見られない地球。
(もし、ハーレイが旅行したことがあったなら…)
せがんで、記憶を見せて貰おう。
前の自分が、フィシスの地球を見ていたように。
「ねえ、ハーレイの地球を見せてよ」と、手を差し出して。
(…ぼくのサイオン、うんと不器用だろうけど…)
足りない分は、ハーレイが補助してくれる筈。
「ほら、手を出せ」と、「お前、不器用になっちまったしな?」と。
(…今のハーレイが見て来た地球なら…)
機械がフィシスに植え込んだ記憶より、ずっと鮮明。
それに本物の地球の記憶で、今のハーレイのガイドもつく。
(食べた食事も、ちゃんと見せてよ、って…)
強請ってみたなら、レストランにも入ってゆけるに違いない。
もっと気さくな、露店などで食べた時の記憶も。
(そういうのを何度も見せて貰って、「行きたいな」って…)
ハーレイに言ったりするだろうけれど、その店でなくても、気にしない。
大きく育って、ハーレイと食事に出掛ける時には、生まれた星で、きっと満足。
「地球のお店の方がいいな」という、とても我儘な注文などは…。
(…きっと、しないよ)
運があったら、いつか行けるよ、と浮かんだ笑み。
「行けないままでも、かまわないもの」と。
一生、地球は遠いままでも、幸せに生きていけると思う。
今のハーレイと一緒なら。
結婚して、同じ家で暮らして、何処に行くのも二人なら。
(…地球じゃなくっても…)
ぼくは幸せ、と自信を持って言い切れる。
青い地球より、ハーレイの方が大切だから。
ハーレイさえ側にいてくれるのなら、地球は無くても気にしないから…。
地球じゃなくっても・了
※ハーレイ先生がいてくれるのなら、地球に生まれて来なくてもいい、と思うブルー君。
地球に生まれた今の暮らしは最高ですけど、ハーレイ先生が一緒でないと意味が無いのですv
(地球なあ…)
俺たちは地球にいるわけだが、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
今の自分が生まれて来た地球。
当たり前のように生まれ育って、まるで気にしていなかったけれど…。
(前の俺にとっては、奇跡みたいな話なんだ)
地球に生まれて育つなんて、と時の彼方に思いを馳せる。
前の自分が生きた頃には、地球は憧れの星だったから。
(選ばれたヤツしか行けない聖地で…)
青く輝く銀河のオアシス、水の星、地球。
そんな具合に教え込まれて、母なる星に誰もが焦がれた。
人間の生き方を変革してまで、蘇らせようとしたほどの地球。
きっと素晴らしい所だろうと、夢を描いて。
(…ミュウでなくても、行くのは難しかったからなあ…)
余計に地球は美化されてしまって、聖地扱い。
それだけに、前の自分たちも懸命に地球を目指した。
前のブルーを失った後も、ミュウの未来を手に入れるために。
いつか地球まで辿り着いたら、人類との戦いの日々も終わる、と。
(…確かに戦いは終わったんだが、肝心の地球は…)
とんでもない期待外れだったな、と今も覚えている衝撃。
白いシャングリラから眺めた地球は、少しも青くなかったから。
赤茶けた砂漠に覆われた星で、死の星でしかなかった地球。
それが今では青く蘇って、今の自分が暮らしている。
(…うん、本当に奇跡だってな)
ブルーに会えたこともそうだが、と緩んだ頬。
「神様の粋な計らいってヤツだ」と、「地球って所が最高なんだ」と。
前の自分たちが焦がれ続けた、青い水の星。
其処に生まれて来られただなんて、本当に夢のようなのだから。
生まれ変わって来た自分。
前の生の記憶が戻ると同時に、生まれ変わったブルーにも会えた。
(そして今度は、この地球の上で…)
あいつと生きていけるんだよな、と嬉しくなる。
十四歳にしかならない今のブルーが、もっと大きく育ったら。
結婚出来る年になったら、二人で同じ家で暮らして…。
(何処へ行くにも、一緒だってな)
仕事はともかく、旅行も、ドライブや食事なんかも…、と夢が膨らむ。
前の生では、どれも出来なかったことばかり。
ソルジャーだった前のブルーとは、結婚さえも出来なかった。
互いの立場が邪魔をして。
皆を導いてゆくソルジャーと、白いシャングリラを預かるキャプテン。
船の頂点に立つ二人の恋など、誰も喜ぶわけがない。
(…うんと平和な時代だったなら、トップが恋人同士でも…)
祝福されたかもしれないけれども、前の生の頃は、そうではなかった。
一つ判断を間違えたならば、船が沈むかもしれなかった時代。
(…ソルジャーとキャプテンが、揃って同じ意見を述べても…)
恋人同士だと知られていたなら、皆、疑ってかかっただろう。
同意し、即座に従う代わりに、揉めて結論は出ないまま。
(だが、人類軍は待ってはくれないしな?)
揉めてる間に攻撃されて終わりだ、と零れる溜息。
「だから最後まで秘密だったさ」と、「結婚なんぞは出来なかった」と。
けれど今度は結婚出来るし、二人で同じ家で暮らせる。
白い箱舟では出来なかった旅行も、ドライブも、それに外食だって。
(…しかも、出掛けてゆく先は、だ…)
もれなく地球の上なんだよなあ、と神様の計らいに感謝する。
青い地球の上に生まれて来たから、ドライブも食事も、地球の上。
「なんて素晴らしい話なんだ」と、「前の俺には、決して出来やしなかった」と。
奇跡のように生まれて来られた、青い地球。
いつかブルーと旅行する時も、青い水の星を満喫出来る。
前のブルーが地球に描いた、幾つもの夢。
それを端から叶えてゆくのが、今のブルーとの約束だから。
(サトウカエデの森に出掛けて、出来立てのメープルシロップを…)
真っ白な雪の上に流して、出来たキャンディーを食べるとか。
森に咲いているスズランを探して、五月の一日に贈り合うとか。
(どれも、お安い御用だってな)
なんたって、此処は地球なんだから、とコーヒーのカップを傾ける。
「わざわざ出掛けてゆくにしたって、宇宙船なんかは要らないんだ」と。
同じ地球の上での移動だったら、宇宙船に乗る必要は無い。
別の地域に行くにしたって、のんびりと船で旅だって出来る。
地球の上なら、青い海を辿ってゆけるから。
船に乗って地球を一周する旅、そんなツアーもあるほどだから。
(前のあいつが見ていた夢なら、いくらでも…)
叶えてやれるさ、と思った所で、不意に頭に浮かんだ「もしも」。
ブルーと二人で生まれて来たのが、青い地球ではなかったら、と。
同じように出会って、前の生での膨大な記憶が戻って来ても…。
(…地球に住んではいなかった、ってことも…)
有り得るんだよな、と顎に当てた手。
神様の考え方によっては、そういうこともあっただろう。
「地球でなくても、二人一緒ならいいだろう」と。
其処まで面倒を見てやらずとも、と適当に決められた「地球とは違う」星。
人間が全てミュウになっている今の時代は、何処の星でも平和だから。
宇宙の何処に生まれようとも、誰でも、幸せに暮らしてゆける。
(そういう時代を満喫しろ、と…)
神様は、考えたかもしれない。
「別の星でも、充分、幸せに生きられるだろう」と。
青い地球の上に生まれなくても、二人一緒なら、いいじゃないか、と。
(……ふうむ……)
その可能性もあったんだよな、と考えてみることにした。
地球ではない星に生まれていたなら、どうだったろう、と。
今と同じにブルーと出会って、それから後。
(…地球じゃなくても、俺たちの関係は変わらんだろうな)
俺が教師で、あいつが生徒、と小さなブルーを頭に描く。
やはり聖痕がブルーに現れ、そうして記憶が戻るのだろう、と。
二人の記憶が戻って来たなら、今と同じに、小さなブルーが育つのを待つ。
結婚出来る年になるまで。
せっせとブルーの家に通って、色々なことを話しながら。
(あいつが前と同じ姿になるまでは…)
デートも出来んし、今と変わらん、と可笑しくなる。
「何処の星でも同じじゃないか」と、「地球じゃなくても」と。
ただ、違うのは…。
(地球って星が、うんと遠くにあることだよなあ…)
いくら近くても、宇宙船が無いと行けないぞ、と宇宙の広さを改めて思う。
ソル太陽系の中の何処かだとしても、地球に行くには宇宙船のお世話になるしかない。
(夜空を見たって、果たして地球が見えるかどうか…)
遠く離れた星だったならば、太陽さえも見えないだろう。
前の生で長く隠れ住んでいた、アルテメシアのような場所なら。
(…アルテメシアか…)
其処に生まれりゃ、馴染みはあるか、と思う雲海の星。
ブルーと二人で、アルテメシアに生まれていたなら、どうなったろう。
(…あそこには、前の俺たちの記念墓地ってヤツが…)
あるんだよな、と苦笑した。
墓地と言っても、亡骸が納められてはいない。
とはいえ、自分のための墓標があるのが、アルテメシア。
(いずれデートに行くしかないなあ、行き先が墓地というのも変だが…)
まあ、観光地ではあるんだし、と想像してみたブルーとのデート。
前の自分たちの墓標を眺めて、二人で笑い合うのだろうか。
「立派過ぎる」と、「まさか英雄にされるだなんて」と。
(…アルテメシアだったら、それが一番の見どころだよな)
記念墓地の墓標に、挨拶をして回るのもいい。
ジョミーや、ゼルや、ヒルマンの墓標。
「今はこんなに幸せだから」と、ブルーと二人で、手を繋ぎ合って。
前の生では明かせなかった、二人の恋を告げて回って。
(…そういや、キースの野郎の墓も…)
あるんだった、と顔を顰めて、「あいつは無視だ」とフンと鼻を鳴らす。
皆に花束を持ってゆくとしても、キースの分だけは「用意しないぞ」と。
(…しかしブルーは、キースのヤツを…)
嫌うどころか、やたらと庇う。
だから花束を「用意しない」と言った場合は、「酷い!」と文句を言うのだろうか。
「それなら、ぼくが用意するよ」と、「ハーレイの分の花まで入れて」と。
(…でもって、他のヤツらに供える花より…)
大きめになるのが、ブルーがキースに供える花束。
「だって、ハーレイが供えないから」と、「ハーレイと二人分だもの」と。
(……そいつはそいつで、俺は大いに……)
嬉しくないが、と思うけれども、仕方ない。
キースに花など供えたくないし、供えたいとも思わないから。
(…あの野郎が、立派な花束を供えて貰うのを…)
舌打ちしながら眺めたりして、またしてもブルーが「酷い!」と文句。
「どうして、そんなにキースを嫌うの」と、「ホントに心が狭いんだから」と。
(何とでも好きに言ってくれ!)
嫌いなものは嫌いなんだ、と思いはしても、ブルーを怒らせるとまずい。
せっかくのデートが台無しだから、機嫌を直して貰わねば。
(…墓参りが済んだら、とびきり美味いケーキでも…)
食べに行こう、と誘ってやったら、輝きそうなブルーの顔。
「うん、行きたい!」と、「何処のお店?」と。
そしたら、サッと腕を差し出し、エスコート。
「車で直ぐだ」と、「美味いんだぞ」と。
「ちゃんと調べておいたんだから」と、「もちろん、味も確かめたしな?」と。
(…うん、なかなかに…)
いいじゃないか、とマグカップの縁をカチンと弾いた。
「地球じゃなくても、充分、幸せに暮らせそうだぞ」と。
アルテメシアとは違う星でも、きっと、其処ならではの楽しみがある。
地球も太陽も見えないくらいに、遠く離れた星だって。
(そうさ、あいつと二人だったら…)
地球じゃなくても、幸せに生きていけるってもんだ、と浮かんだ笑み。
「あいつさえ、側にいてくれればな」と。
「それだけで充分、幸せなんだ」と、「地球じゃなくても、気にしないさ」と…。
地球じゃなくても・了
※ブルーと生まれ変わった場所が、地球とは別の星だったら、と考えてみたハーレイ先生。
別の星でも、充分、幸せに暮らしていけそう。ブルー君と一緒にいられるだけでv
「ねえ、ハーレイ。ぼく、お料理は…」
全然、詳しくないんだけれど、とブルーが持ち出した話題。
二人きりで過ごす休日の午後に、何の前触れも無く。
料理の話はしていなかった筈だけれども、突然に。
だから、ハーレイは、首を傾げた。「料理だって?」と。
「なんだ、いきなり、どうしたんだ?」
「お料理だってば、ホントに分かってないんだけれど…」
前のぼくだった頃も含めて、と小さなブルーは肩を竦めた。
「ホントのホントに、全然、ダメ」と。
「ふうむ…。まあ、今のお前も、やってないしな」
お母さんが作ってくれるんだから、とハーレイは笑う。
「料理上手な人がいるんじゃ、そうなっちまう」と。
料理をするのが好きだったならば、別だけれども、と。
「そうなんだよね…。ハーレイは好きで、得意なんだよね」
今のハーレイも、前のハーレイも、と頷くブルー。
「料理には、うんと詳しそう」と。
(…いきなり料理の話と来たぞ)
お茶の時間の最中なんだが、とハーレイは首を捻った。
ブルーの母が焼いたケーキと、香り高い紅茶。
どちらも料理の話題には…。
(繋がりそうにないんだがな?)
昼飯だって普通だったぞ、と思い出すメニュー。
それとも今夜は、何か特別な料理が出ると言うのだろうか。
(…その可能性もあるが、どうなんだ?)
分からんな、と考えていたら、ブルーが続けた。
「詳しそうだから、確認だけど…。お料理の食材って…」
新鮮な方がいいんだよね、という質問。
「食べるんだったら、新鮮な間がいいんでしょ?」と。
「ほほう…。夕食は鍋なのか?」
鮮度の話が出るんだったら、魚介類か、と尋ねてみた。
「お父さんが釣りに出掛けたとか、そんなのか?」と。
「そうじゃないけど…。ちょっと質問」
晩御飯が何かは知らないよ、とブルーは首を横に振った。
「ママには何も聞いてないもの」と「関係無いよ」と。
「ただの興味というヤツか…。まあ、そうだな」
新鮮な間が一番だよな、とハーレイは大きく頷いた。
「古くなったら、美味くなくなっちまうから」と。
鮮度が落ちてしまわないよう、冷凍する手もあるけれど。
保存用に加工する手もあるのだけれども、食べるのが一番。
その食材が新鮮な間に、それに似合いの調理法で。
今ならではの食べ方だったら、魚なら、刺身。
「そっか、お刺身…。新鮮じゃないとダメだよね…」
「そうだろう? 活きのいい間に捌かないとな」
新鮮な魚は実に美味い、とハーレイは笑む。
「 釣った魚を、その場で食うのは最高だぞ」と。
「美味しそう! ハーレイのお父さん、釣り名人だし…」
いいよね、とブルーは羨ましそう。
「ハーレイも、食べたことがあるんだ」と、「いいな」と。
「美味いんだぞ。お前も、いつかは連れてってやる」
親父とおふくろに紹介したらな、と瞑った片目。
「そしたら、みんなで釣りに行こう」と。
「約束だよ? 凄く楽しみ!」
連れて行ってね、とブルーは大喜びで赤い瞳を輝かせた。
「ハーレイのお父さんに、釣りを教わるんだ」と。
「その前に、大きくならんとな? しっかり食って」
「うん。新鮮な間に食べるのがいいんだよね!」
そうなんでしょ、と確認されたから、苦笑した。
「おいおい、お母さん任せのくせに」と。
「お前は自分で作らないだろ」と、「昔も今も」と。
「…そうだけど…。ハーレイは自分で作れるから…」
特に今はね、と真っ直ぐ見詰めて来るブルー。
「家でお料理しているんでしょ」と、「殆ど毎日」と。
「当然だろうが、一人暮らしをしてるんだから」
食材にも気を付けているぞ、と自信たっぷりに返す。
「買い出しの時は、新鮮なのを選んでいるな」と。
魚はもちろん、野菜も、それに果物も、と。
そうしたら…。
「だったら、新鮮な間に食べるべきだよ」
鮮度が落ちたらダメなんでしょ、とブルーが言った。
「放っておくなんて、絶対、ダメ」と。
「…何の話だ?」
何処に、そういう食材が、とテーブルの上を確認する。
ケーキの上には、フルーツは載っていないのに、と。
「分からない? 此処にあるでしょ、新鮮なのが!」
ぼくの唇、とブルーが指差す自分の唇。
「ハーレイ、ちっとも食べないんだもの」と。
「育ったら鮮度が落ちてしまうよ」と、「新鮮な間に」と。
「馬鹿野郎!」
それは別だ、とブルーの頭にコツンと軽く落とした拳。
「ついでに言うなら、肉というヤツは違うんだ」と。
「肉ってヤツはな、熟成させてから食うモンだ!」
覚えておけ、と食材の知識もぶつけておいた。
「新鮮すぎる肉は、美味くないんだ」と。
「肉は熟成させるモンだ」と、「お前もだな」と…。
新鮮な間に・了
