(気付いてるのに、だ…)
出会えない日ってのは、あるもんだな、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
今日は会えずに終わったブルー。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…あいつが気付いていなかっただけで…)
俺の方では見てたんだよな、と今日の出来事を思い出す。
ブルーに会えずに終わったけれども、姿だけなら目にしていた。
授業の合間の空き時間に通った、ブルーの教室の横にある廊下、其処の窓から。
(たまたま、用事があって通ったら…)
教室の中から、教師の声が聞こえて来た。
つまり、ブルーは授業中。
(あいつがいるな、と思ったから…)
足は止めずに、目だけで探した教室の中。
「ブルーの席は、あの辺りだった筈なんだがな」と、古典の授業で覚えた席を。
予想通り、其処に座っていたブルー。
机の上に教科書を広げて、熱心に教師の方を見ていた。
(邪魔しちゃいかん、と早足になって…)
通り過ぎたから、ブルーは気付かなかっただろう。
今、廊下の方へ視線を向けたら、「ハーレイがいる」ということに。
恋人の目が自分の方へと、向けられていた時間があったことにも。
(…だから、あいつは…)
今日は「ハーレイ」を見てはいなくて、会えずに終わってしまった一日。
家に寄ってもくれなかったから、今頃は不満たらたらだろう。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、膨れっ面で。
(それとも、ションボリ項垂れちまって…)
溜息を零して泣きそうな顔で、不運を嘆いているのだろうか。
「ツイてないよ」と、「ハーレイに会えずに終わっちゃった」と。
どちらなのかは分からないけれど、ブルーの気持ちは想像がつく。
姿だけは見ていた自分の方でも、溜息をついていたのだから。
(…なまじ、気付いちまったしなあ…)
余計に気分が参るのかもな、という気がする。
これが全く出会わなかったら、「そういう日なんだ」と割り切れたろう。
同じ学校に行っていたって、出会わない日は珍しくない。
ブルーと自分が歩く場所やら、其処を歩いた時間によっては。
(…うまい具合に、って言い方はおかしいんだが…)
互いが移動してゆく線が、交わらない日。
留まる点も重ならないまま、学校にいる時間が終われば、そうなってしまう。
(すれ違い、っていうヤツだよな)
そっちなら諦めもつくんだが…、と今日の不運に零れる溜息。
ブルーの姿を目にした時には、「ツイているな」と思ったから。
まさかそのまま、二度と会えずに…。
(終わっちまうとは、あの時、思いもしなかったんだ…)
ツイているから、何処かで会えると浮き立った心。
廊下でバッタリ顔を合わせるか、グラウンドや中庭で出会うことになるか。
放課後は会議の予定だけれども、それが早めに終わってくれて、ブルーの家へと…。
(行けるかもな、と思ったのにな?)
生憎と予想は悉く外れ、ブルーには二度と出会えなかった。
ついでに、愛おしいブルーの方では、「ハーレイに会えずに終わった一日」。
(……なんてこった……)
ただ会えないより酷いじゃないか、とコーヒーを一口、コクリと飲んだ。
「なんて日なんだ」と、「俺は気付いてたっていうのに」と。
確かにブルーの姿を見たのに、愛おしい人を目に出来たのに…。
(…会えずじまいで終わっちまった…)
ツイてるどころか、その逆だったぞ、と神様を恨みたくもなる。
想いが中途半端に残って、溜息ばかりが出て来るから。
最初から会えずに終わっていたなら、「ツイてないな」で済んだのに。
熱いコーヒーで気分転換、気持ちを別の方へと向けて。
(…こんな気分で、別のことをと言われてもなあ…?)
何が浮かんでくると言うんだ、と心の中で愚痴った途端に、掠めた考え。
「気付いてるのに、出会えなかったら?」と。
(……今日のは、まさにそれだったんだが……)
自分とブルーは恋人同士で、ちゃんと互いを、よく知っている。
今日は会えずに終わったけれども、明日には会えることだろう。
学校では会えずに終わったとしても、放課後に用は入っていないし、家まで行ける。
だから何処かで必ず会えるし、今日の不運は、今日だけでおしまいのなのだけれども…。
(そうじゃなくって、出会いの時から…)
気付いてるのに出会えないんだ、と思い描いた「ブルーとの出会い」。
(俺があいつに、初めて出会ったのは…)
今の学校に赴任して来て、ブルーの教室に入った日。
忘れもしない五月の三日で、其処でブルーに現れた聖痕。
(あれでお互い、記憶が戻って…)
めでたく恋人同士だけれども、それとは違った出会いだったら。
何処かで、ブルーの姿を見掛けて…。
(その瞬間に、ブルーなんだ、と気が付いて…)
聖痕などとは全く無縁で、けれど「ブルーだ」と気付く瞬間。
前の生での記憶が戻って、「ブルーなんだ」と、愛おしい人の存在に気が付く。
「あれはブルーだ」と。
「俺のブルーが帰って来た」と、「あそこにいる」と心が跳ねて。
(でもって、駆け出して抱き締めたいのに…)
それは叶わない、そういう出会い。
「ブルーなんだ」と気付いているのに、手が届かないというケース。
(…全く無いとは言い切れないぞ…)
あいつがバスに乗っているとか、と直ぐに浮かんだシチュエーション。
今のブルーも身体が弱くて、バスで通学しているから。
(…俺の学校に通っているなら、バスの中でもいいんだが…)
また会える日が来るからな、と頭にあるのは全く違う別のバス。
それに乗っているブルーを見たって、手も足も出ない、悲しすぎる出会い。
(…最悪のヤツは、観光バスだな)
俺が見付けたブルーが乗っているバスは、と考えただけで恐ろしくなる。
そんな出会いになっていたなら、どうしようもない、と。
(…あいつの方でも、俺に気付いて…)
明らかに表情が変わるのだけれど、それでおしまい。
ブルーを乗せた観光バスは、信号で止まっていたか何かで…。
(…赤信号が青に変わったら、走り始めて…)
あっという間にスピードを上げて、視界から消えてしまうのだろう。
見付けたばかりの愛おしい人、前の生から愛し続けたブルーを乗せて。
追い掛けて走って行こうとしたって、バスの方が遥かにスピードが上で。
(…その上、俺も焦っちまってて…)
バスのナンバープレートどころか、どんなバスかも記憶に残っていないと思う。
赤いバスだったか、青だったのかも、他の色かも分からないほどに。
(…そんなじゃ、まるで手掛かりがなくて…)
ブルーを乗せたバスが何処から来たのか、それさえも掴むことが出来ない。
この町に拠点があるバス会社か、他の町から来たバスなのかも。
(バスの会社が分からないんじゃ、乗客なんかは…)
何処の誰だか、探す方法さえ無いことだろう。
せめてブルーが今と同じに子供だったら、運が良ければ、少しくらいは絞り込める。
(ただし、旅行に来ていた時だな)
遠足では駄目だ、と分かっている現実。
学校単位で旅行に来ていて、この町に宿泊していた場合。
そういう時だけ、幾つかの学校に絞れるけれども…。
(…それにしたって、学校から旅行に来ていた、という条件でしか…)
無理なんだよな、とコーヒーを一口、飲み下した。
「家族旅行じゃどうにもならん」と、「ツアーの観光バスではなあ…」と。
旅行客を乗せた観光バスなど、それこそ星の数ほどあるから。
バス会社さえも分からないのでは、文字通り、お手上げ。
ブルーを乗せたバスの行方も、ブルーが何処から来たのかも。
今も「ブルー」という名前なのか、それさえも分からないままで。
あったかもしれない、そういう出会い。
確かに「ブルー」に気付いて、見付けて、ブルーの方でも気が付いたのに。
お互い、時の彼方の記憶も、恋の記憶も取り戻したのに。
(…あいつを乗っけたバスは、そのまま行っちまって…)
追い付くことも出来なかったから、ブルーとの出会いはそれっきり。
同じ世界に、あれほど愛した人がいるのに。
今も恋しくて堪らないのに、ブルーには手が届かない。
何処へ行ったか、何処から来たのか、手掛かりが何も無いものだから。
どうやって「ブルー」を探せばいいのか、まるで見当も付かないから。
(…地球にいるのか、そうじゃないのか、それも謎だし…)
本当に無理だ、と溜息が出る。
同じ地域に住んでいるなら、新聞に投書するという手もあるけれど…。
(…ブルーの家でも、同じ新聞を取っていないと…)
無駄足になる可能性が大。
ブルーの知り合いの誰かが気付いて、ブルーに連絡しない限りは。
「こういう投書が載っていたけど、心当たりが無いだろうか」と、親切な誰かが。
(アルビノだしなあ、あるいは、そういうことだって…)
あるのかもな、と思うけれども、そうそう上手くはいかない出会い。
「ブルー」を見付けることは出来ずに、時だけが空しく流れていって…。
(…ある時、ひょいと、また出会うんだ…)
今度は宙港での出会いだろうか、飛び立ってゆく船に見付けるブルー。
たまたま展望台に行ったら、離陸直前の船に「ブルー」がいる。
窓の向こうから、展望台を見て驚く「ブルー」が。
「ハーレイ」を確かに見付けたと分かる、そんな瞳をしている「ブルー」。
(…なのに、宇宙船は…)
ブルーを乗せて飛び立ってしまい、追い掛けてゆくことは、もちろん出来ない。
空を飛ぶことなど出来はしなくて、思念波だって…。
(…今の世界じゃ、宇宙船には…)
届きはしなくて、ブルーとの出会いは其処までで終わる。
お互い、相手に気が付いたのに。
これが街角で出会ったのなら、駆け寄って抱き締められただろうに。
(…見付けられればいいんだがなあ、宇宙船に乗って行っちまった、あいつを…)
あいつの方でも探してくれれば、と思うし、きっと「ブルー」も探すと思う。
けれど、それでも、何年経っても、ずっと互いに出会えないままで…。
(…また何年か経った頃にだ、気付いてるのに、どうしようもないって出会いを…)
やらかしそうで怖いんだがな、と背筋が寒くなるから、此処で打ち切り、と飲んだコーヒー。
幸い、ブルーと、そんな出会いはしなかったから。
ちゃんとお互い気が付いているし、明日には、きっと会えるのだから…。
気付いてるのに・了
※ブルー君との出会いについて、考えてみたハーレイ先生。こんな出会いをしていたら、と。
お互い、ちゃんと気付いているのに、抱き合うことは叶わない出会い。辛すぎですよね。
出会えない日ってのは、あるもんだな、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
今日は会えずに終わったブルー。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…あいつが気付いていなかっただけで…)
俺の方では見てたんだよな、と今日の出来事を思い出す。
ブルーに会えずに終わったけれども、姿だけなら目にしていた。
授業の合間の空き時間に通った、ブルーの教室の横にある廊下、其処の窓から。
(たまたま、用事があって通ったら…)
教室の中から、教師の声が聞こえて来た。
つまり、ブルーは授業中。
(あいつがいるな、と思ったから…)
足は止めずに、目だけで探した教室の中。
「ブルーの席は、あの辺りだった筈なんだがな」と、古典の授業で覚えた席を。
予想通り、其処に座っていたブルー。
机の上に教科書を広げて、熱心に教師の方を見ていた。
(邪魔しちゃいかん、と早足になって…)
通り過ぎたから、ブルーは気付かなかっただろう。
今、廊下の方へ視線を向けたら、「ハーレイがいる」ということに。
恋人の目が自分の方へと、向けられていた時間があったことにも。
(…だから、あいつは…)
今日は「ハーレイ」を見てはいなくて、会えずに終わってしまった一日。
家に寄ってもくれなかったから、今頃は不満たらたらだろう。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、膨れっ面で。
(それとも、ションボリ項垂れちまって…)
溜息を零して泣きそうな顔で、不運を嘆いているのだろうか。
「ツイてないよ」と、「ハーレイに会えずに終わっちゃった」と。
どちらなのかは分からないけれど、ブルーの気持ちは想像がつく。
姿だけは見ていた自分の方でも、溜息をついていたのだから。
(…なまじ、気付いちまったしなあ…)
余計に気分が参るのかもな、という気がする。
これが全く出会わなかったら、「そういう日なんだ」と割り切れたろう。
同じ学校に行っていたって、出会わない日は珍しくない。
ブルーと自分が歩く場所やら、其処を歩いた時間によっては。
(…うまい具合に、って言い方はおかしいんだが…)
互いが移動してゆく線が、交わらない日。
留まる点も重ならないまま、学校にいる時間が終われば、そうなってしまう。
(すれ違い、っていうヤツだよな)
そっちなら諦めもつくんだが…、と今日の不運に零れる溜息。
ブルーの姿を目にした時には、「ツイているな」と思ったから。
まさかそのまま、二度と会えずに…。
(終わっちまうとは、あの時、思いもしなかったんだ…)
ツイているから、何処かで会えると浮き立った心。
廊下でバッタリ顔を合わせるか、グラウンドや中庭で出会うことになるか。
放課後は会議の予定だけれども、それが早めに終わってくれて、ブルーの家へと…。
(行けるかもな、と思ったのにな?)
生憎と予想は悉く外れ、ブルーには二度と出会えなかった。
ついでに、愛おしいブルーの方では、「ハーレイに会えずに終わった一日」。
(……なんてこった……)
ただ会えないより酷いじゃないか、とコーヒーを一口、コクリと飲んだ。
「なんて日なんだ」と、「俺は気付いてたっていうのに」と。
確かにブルーの姿を見たのに、愛おしい人を目に出来たのに…。
(…会えずじまいで終わっちまった…)
ツイてるどころか、その逆だったぞ、と神様を恨みたくもなる。
想いが中途半端に残って、溜息ばかりが出て来るから。
最初から会えずに終わっていたなら、「ツイてないな」で済んだのに。
熱いコーヒーで気分転換、気持ちを別の方へと向けて。
(…こんな気分で、別のことをと言われてもなあ…?)
何が浮かんでくると言うんだ、と心の中で愚痴った途端に、掠めた考え。
「気付いてるのに、出会えなかったら?」と。
(……今日のは、まさにそれだったんだが……)
自分とブルーは恋人同士で、ちゃんと互いを、よく知っている。
今日は会えずに終わったけれども、明日には会えることだろう。
学校では会えずに終わったとしても、放課後に用は入っていないし、家まで行ける。
だから何処かで必ず会えるし、今日の不運は、今日だけでおしまいのなのだけれども…。
(そうじゃなくって、出会いの時から…)
気付いてるのに出会えないんだ、と思い描いた「ブルーとの出会い」。
(俺があいつに、初めて出会ったのは…)
今の学校に赴任して来て、ブルーの教室に入った日。
忘れもしない五月の三日で、其処でブルーに現れた聖痕。
(あれでお互い、記憶が戻って…)
めでたく恋人同士だけれども、それとは違った出会いだったら。
何処かで、ブルーの姿を見掛けて…。
(その瞬間に、ブルーなんだ、と気が付いて…)
聖痕などとは全く無縁で、けれど「ブルーだ」と気付く瞬間。
前の生での記憶が戻って、「ブルーなんだ」と、愛おしい人の存在に気が付く。
「あれはブルーだ」と。
「俺のブルーが帰って来た」と、「あそこにいる」と心が跳ねて。
(でもって、駆け出して抱き締めたいのに…)
それは叶わない、そういう出会い。
「ブルーなんだ」と気付いているのに、手が届かないというケース。
(…全く無いとは言い切れないぞ…)
あいつがバスに乗っているとか、と直ぐに浮かんだシチュエーション。
今のブルーも身体が弱くて、バスで通学しているから。
(…俺の学校に通っているなら、バスの中でもいいんだが…)
また会える日が来るからな、と頭にあるのは全く違う別のバス。
それに乗っているブルーを見たって、手も足も出ない、悲しすぎる出会い。
(…最悪のヤツは、観光バスだな)
俺が見付けたブルーが乗っているバスは、と考えただけで恐ろしくなる。
そんな出会いになっていたなら、どうしようもない、と。
(…あいつの方でも、俺に気付いて…)
明らかに表情が変わるのだけれど、それでおしまい。
ブルーを乗せた観光バスは、信号で止まっていたか何かで…。
(…赤信号が青に変わったら、走り始めて…)
あっという間にスピードを上げて、視界から消えてしまうのだろう。
見付けたばかりの愛おしい人、前の生から愛し続けたブルーを乗せて。
追い掛けて走って行こうとしたって、バスの方が遥かにスピードが上で。
(…その上、俺も焦っちまってて…)
バスのナンバープレートどころか、どんなバスかも記憶に残っていないと思う。
赤いバスだったか、青だったのかも、他の色かも分からないほどに。
(…そんなじゃ、まるで手掛かりがなくて…)
ブルーを乗せたバスが何処から来たのか、それさえも掴むことが出来ない。
この町に拠点があるバス会社か、他の町から来たバスなのかも。
(バスの会社が分からないんじゃ、乗客なんかは…)
何処の誰だか、探す方法さえ無いことだろう。
せめてブルーが今と同じに子供だったら、運が良ければ、少しくらいは絞り込める。
(ただし、旅行に来ていた時だな)
遠足では駄目だ、と分かっている現実。
学校単位で旅行に来ていて、この町に宿泊していた場合。
そういう時だけ、幾つかの学校に絞れるけれども…。
(…それにしたって、学校から旅行に来ていた、という条件でしか…)
無理なんだよな、とコーヒーを一口、飲み下した。
「家族旅行じゃどうにもならん」と、「ツアーの観光バスではなあ…」と。
旅行客を乗せた観光バスなど、それこそ星の数ほどあるから。
バス会社さえも分からないのでは、文字通り、お手上げ。
ブルーを乗せたバスの行方も、ブルーが何処から来たのかも。
今も「ブルー」という名前なのか、それさえも分からないままで。
あったかもしれない、そういう出会い。
確かに「ブルー」に気付いて、見付けて、ブルーの方でも気が付いたのに。
お互い、時の彼方の記憶も、恋の記憶も取り戻したのに。
(…あいつを乗っけたバスは、そのまま行っちまって…)
追い付くことも出来なかったから、ブルーとの出会いはそれっきり。
同じ世界に、あれほど愛した人がいるのに。
今も恋しくて堪らないのに、ブルーには手が届かない。
何処へ行ったか、何処から来たのか、手掛かりが何も無いものだから。
どうやって「ブルー」を探せばいいのか、まるで見当も付かないから。
(…地球にいるのか、そうじゃないのか、それも謎だし…)
本当に無理だ、と溜息が出る。
同じ地域に住んでいるなら、新聞に投書するという手もあるけれど…。
(…ブルーの家でも、同じ新聞を取っていないと…)
無駄足になる可能性が大。
ブルーの知り合いの誰かが気付いて、ブルーに連絡しない限りは。
「こういう投書が載っていたけど、心当たりが無いだろうか」と、親切な誰かが。
(アルビノだしなあ、あるいは、そういうことだって…)
あるのかもな、と思うけれども、そうそう上手くはいかない出会い。
「ブルー」を見付けることは出来ずに、時だけが空しく流れていって…。
(…ある時、ひょいと、また出会うんだ…)
今度は宙港での出会いだろうか、飛び立ってゆく船に見付けるブルー。
たまたま展望台に行ったら、離陸直前の船に「ブルー」がいる。
窓の向こうから、展望台を見て驚く「ブルー」が。
「ハーレイ」を確かに見付けたと分かる、そんな瞳をしている「ブルー」。
(…なのに、宇宙船は…)
ブルーを乗せて飛び立ってしまい、追い掛けてゆくことは、もちろん出来ない。
空を飛ぶことなど出来はしなくて、思念波だって…。
(…今の世界じゃ、宇宙船には…)
届きはしなくて、ブルーとの出会いは其処までで終わる。
お互い、相手に気が付いたのに。
これが街角で出会ったのなら、駆け寄って抱き締められただろうに。
(…見付けられればいいんだがなあ、宇宙船に乗って行っちまった、あいつを…)
あいつの方でも探してくれれば、と思うし、きっと「ブルー」も探すと思う。
けれど、それでも、何年経っても、ずっと互いに出会えないままで…。
(…また何年か経った頃にだ、気付いてるのに、どうしようもないって出会いを…)
やらかしそうで怖いんだがな、と背筋が寒くなるから、此処で打ち切り、と飲んだコーヒー。
幸い、ブルーと、そんな出会いはしなかったから。
ちゃんとお互い気が付いているし、明日には、きっと会えるのだから…。
気付いてるのに・了
※ブルー君との出会いについて、考えてみたハーレイ先生。こんな出会いをしていたら、と。
お互い、ちゃんと気付いているのに、抱き合うことは叶わない出会い。辛すぎですよね。
PR
「あのね、ハーレイって…」
狡いんだから、と小さなブルーが少し険しくした瞳。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「狡いって…。俺がか?」
何かしたか、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーの母が運んで来た紅茶は、ポットに入って二人分。
それぞれのカップにも注がれていて、砂糖もミルクも…。
(充分だよな?)
おかわりの分もたっぷりあるし、と視線はケーキへ。
こちらは一人分ずつ、お皿に載せてあるけれど…。
(俺のケーキが、ブルーの分よりデカイってことは…)
ないと思うが、と大きさを目だけで比較してみる。
既に胃袋に収まった分も、くっついていると仮定して。
(…大して変わらん筈だがな?)
それにパウンドケーキでもないぞ、と首を捻った。
そうだったならば、「狡い」というのも分かるんだが、と。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、ハーレイの好物。
好き嫌いは無いハーレイだけれど、それとは別。
(俺のおふくろが焼くパウンドケーキと…)
同じ味だからな、と改めて思う、ブルーの母が焼くケーキ。
ブルーもそれを知っているから、母に注文する時もある。
「次の土曜日は、パウンドケーキを焼いてよね」などと。
(…しかしだ、今日は違うケーキで…)
狡いと言われる筋合いは無い、と不思議になる。
いったい何が「狡い」というのか、見当もつかない。
(それとも、俺用にパウンドケーキを注文出来るのに…)
ブルーは注文出来ないからか、と顎に当てた手。
「これがいいな」と、ケーキを注文出来ないとか、と。
けれど、そんなことは無いだろう。
ブルーの両親はブルーに甘いし、小さなブルーは甘え放題。
きっと普段から、あれこれ注文をつけている筈。
「今日のおやつは、これがいいな」と指定して。
学校から帰る時間に焼き上がるように、ケーキやクッキー。
そういう日々に決まっているから、「狡い」などとは…。
(…何処から出て来て、何を指すんだ?)
サッパリ分からん、と考え込んでいたら、ブルーが尋ねた。
「何が狡いか、分かってないの?」
本当に、と赤い瞳が睨んで来る。
「ぼくより先に生まれて来ちゃって、うんと大きくて…」
大人じゃない、とブルーは唇を尖らせた。
「絶対、狡いと思うんだよね」と、「酷いじゃない」と。
「ぼくのことをチビって、馬鹿にしちゃって」と。
プンスカと怒り始めたブルー。
「ハーレイ、ホントに狡いんだから」と、睨みながら。
「あんまりだってば」と、「先回りしちゃうなんて」と。
(…そう言われてもなあ…?)
こればっかりは、とハーレイは溜息をついた。
ハーレイ自身に責任は無いし、どうすることも出来ない話。
いくら「狡い」と責め立てられても、身体も年も…。
(ガキだった頃には、戻せないしな?)
その上、俺がチビになると…、と思った所で気付いたこと。
もちろん自分も困るけれども、ブルーの方も困るのだ、と。
(…よし、それだ!)
それでいくぞ、とブルーと真っ直ぐ向き合った。
「いいか」と、「よく聞いてから、考えろよ?」と。
「要するに、俺が先に生まれたのが狡いんだな?」
そうだろう、と念を押したら、ブルーは大きく頷いた。
「うん、さっきから言ってるじゃない!」
「分かった、俺が悪かった。今度の俺は、大いに狡い」
ズルをしちまって申し訳ない、とブルーに頭を下げる。
「ちゃんと合わせるべきだったよな」と、「前の俺に」と。
「…前のハーレイ?」
なあに、とブルーが瞳を丸くするから、ニッと笑った。
「そのままの意味だ、俺はお前より、ずっと後にだ…」
生まれて来ないと駄目なんだよな、とニヤニヤしてみせる。
「だから、悪いが、もう十年ほど待ってくれ」と。
「いや、もっとかも」と、「前のお前は年寄りだった」と。
なんと言っても前のブルーは、かなり年上だったから…。
「俺が狡いと言うんだったら、お前もきちんと待つんだぞ」
俺が生まれて来るまでな、と言った途端に上がった悲鳴。
「ごめんなさい!」と。
「もう言わないよ」と、「狡くないよ」と。
「今のハーレイは大人でいいよ」と、泣きそうなブルー。
(…勝った!)
今日は勝ったぞ、とハーレイはクックッと笑い始める。
「そうそう毎回、負けてたまるか」と、「大勝利だ」と…。
狡いんだから・了
狡いんだから、と小さなブルーが少し険しくした瞳。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「狡いって…。俺がか?」
何かしたか、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーの母が運んで来た紅茶は、ポットに入って二人分。
それぞれのカップにも注がれていて、砂糖もミルクも…。
(充分だよな?)
おかわりの分もたっぷりあるし、と視線はケーキへ。
こちらは一人分ずつ、お皿に載せてあるけれど…。
(俺のケーキが、ブルーの分よりデカイってことは…)
ないと思うが、と大きさを目だけで比較してみる。
既に胃袋に収まった分も、くっついていると仮定して。
(…大して変わらん筈だがな?)
それにパウンドケーキでもないぞ、と首を捻った。
そうだったならば、「狡い」というのも分かるんだが、と。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、ハーレイの好物。
好き嫌いは無いハーレイだけれど、それとは別。
(俺のおふくろが焼くパウンドケーキと…)
同じ味だからな、と改めて思う、ブルーの母が焼くケーキ。
ブルーもそれを知っているから、母に注文する時もある。
「次の土曜日は、パウンドケーキを焼いてよね」などと。
(…しかしだ、今日は違うケーキで…)
狡いと言われる筋合いは無い、と不思議になる。
いったい何が「狡い」というのか、見当もつかない。
(それとも、俺用にパウンドケーキを注文出来るのに…)
ブルーは注文出来ないからか、と顎に当てた手。
「これがいいな」と、ケーキを注文出来ないとか、と。
けれど、そんなことは無いだろう。
ブルーの両親はブルーに甘いし、小さなブルーは甘え放題。
きっと普段から、あれこれ注文をつけている筈。
「今日のおやつは、これがいいな」と指定して。
学校から帰る時間に焼き上がるように、ケーキやクッキー。
そういう日々に決まっているから、「狡い」などとは…。
(…何処から出て来て、何を指すんだ?)
サッパリ分からん、と考え込んでいたら、ブルーが尋ねた。
「何が狡いか、分かってないの?」
本当に、と赤い瞳が睨んで来る。
「ぼくより先に生まれて来ちゃって、うんと大きくて…」
大人じゃない、とブルーは唇を尖らせた。
「絶対、狡いと思うんだよね」と、「酷いじゃない」と。
「ぼくのことをチビって、馬鹿にしちゃって」と。
プンスカと怒り始めたブルー。
「ハーレイ、ホントに狡いんだから」と、睨みながら。
「あんまりだってば」と、「先回りしちゃうなんて」と。
(…そう言われてもなあ…?)
こればっかりは、とハーレイは溜息をついた。
ハーレイ自身に責任は無いし、どうすることも出来ない話。
いくら「狡い」と責め立てられても、身体も年も…。
(ガキだった頃には、戻せないしな?)
その上、俺がチビになると…、と思った所で気付いたこと。
もちろん自分も困るけれども、ブルーの方も困るのだ、と。
(…よし、それだ!)
それでいくぞ、とブルーと真っ直ぐ向き合った。
「いいか」と、「よく聞いてから、考えろよ?」と。
「要するに、俺が先に生まれたのが狡いんだな?」
そうだろう、と念を押したら、ブルーは大きく頷いた。
「うん、さっきから言ってるじゃない!」
「分かった、俺が悪かった。今度の俺は、大いに狡い」
ズルをしちまって申し訳ない、とブルーに頭を下げる。
「ちゃんと合わせるべきだったよな」と、「前の俺に」と。
「…前のハーレイ?」
なあに、とブルーが瞳を丸くするから、ニッと笑った。
「そのままの意味だ、俺はお前より、ずっと後にだ…」
生まれて来ないと駄目なんだよな、とニヤニヤしてみせる。
「だから、悪いが、もう十年ほど待ってくれ」と。
「いや、もっとかも」と、「前のお前は年寄りだった」と。
なんと言っても前のブルーは、かなり年上だったから…。
「俺が狡いと言うんだったら、お前もきちんと待つんだぞ」
俺が生まれて来るまでな、と言った途端に上がった悲鳴。
「ごめんなさい!」と。
「もう言わないよ」と、「狡くないよ」と。
「今のハーレイは大人でいいよ」と、泣きそうなブルー。
(…勝った!)
今日は勝ったぞ、とハーレイはクックッと笑い始める。
「そうそう毎回、負けてたまるか」と、「大勝利だ」と…。
狡いんだから・了
(今日はハーレイに会えなかったけど…)
きっと明日には会えるものね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…寄ってくれるかと思ってたのに…)
仕事の帰りに、と嘆いてみたって始まらない。
ハーレイは忙しかったのだろうし、そういう時には、どんなに文句を言ったって…。
(…ハーレイにだって、どうすることも出来ないよね…)
会議や柔道部のことだったなら、と分かっているから、どうしようもない。
他の先生たちと食事に出掛けて行ったのだとしても、それも大人の付き合いだから…。
(どんなにハーレイが楽しんでたって、ぼくには何にも…)
言えやしないよ、と充分、承知してはいる。
それでも時々、深い溜息をついている日もあるけれど。
「ハーレイ、ぼくを忘れてるかも」と、「他の先生たちと楽しく食事だもんね」と。
(…でも、今日は…)
そんな文句は言わない日、と気持ちを明日に切り替える。
明日は古典の授業があるから、ハーレイに会えることは確実。
(どんな雑談、してくれるかな?)
楽しみだよね、と期待に膨らむ胸。
ハーレイが授業で繰り出す雑談、それは生徒の集中力を取り戻すため。
皆の興味を惹き付けるように、色々な話題を持ち出して来る。
(食べ物の話かな、それとも昔の文化とかかな…?)
前のぼくも知らない話ばっかり、と耳にする前から、もう嬉しくてたまらない。
明日には、聞ける筈だから。
学校を休んだり、古典の時間に保健室に行ったりしていなければ。
(絶対、学校に行かなくちゃ…)
風邪なんか引いていられないよ、と決意を新たにする。
「今夜は、しっかり寝なくっちゃ」と。
そうは思っても、今の生でも弱い身体に生まれた自分。
運が悪いと、明日になったら、具合が悪いということもある。
(でも、きっと…)
学校を休んでしまったとしても、ハーレイには会えることだろう。
「ハーレイの授業を聞きたかったよ」と、昼間はベッドでしょげていたって。
(…よっぽど忙しくない限り…)
仕事の帰りに、ハーレイは見舞いに来てくれる。
他の先生との食事なんかは、断って。
会議があったり、柔道部の部活が長引いた時でも、よっぽど遅くならない限りは。
(…だって、ハーレイの授業がある日に…)
教室に「ブルー」の姿が無ければ、ハーレイにも直ぐに「身体の具合が悪い」と分かる。
熱があるのか、風邪を引いたか、とても心配してくれるだろう。
(だから、仕事が終わったら…)
急いで家まで来てくれる筈で、場合によっては、母に頼んでキッチンに立って…。
(野菜スープを作ってくれるんだよ)
前のぼくが大好きだったスープ、と緩む頬。
ほんの少しの塩味しかない、何種類もの野菜をコトコト煮込んだスープ。
前の自分が寝込んだ時には、ハーレイが作る、そのスープしか受け付けなかった。
(ホントに具合が悪すぎる、って時だけれどね…)
そうじゃない時は、他の食事も食べていたよ、と時の彼方に思いを馳せる。
身体を治すには、まず栄養をつけないと。
ノルディにも厳しく言われていたから、食べられる時は食べていた。
(…だけど、食べられない時だって…)
少なくはなくて、そういう時には、ハーレイのスープ。
今の自分も、その味わいを覚えていたから、ハーレイは、ちゃんと作ってくれる。
「これくらいなら、食えるだろ」と。
「明日には、お母さんが作る食事も食べるんだぞ」などと言いながら。
(…授業で会えるか、休んでしまって家で会うのか…)
明日にならないと分からないけれど、恐らく、会える。
「会えなかったよ」と、此処で嘆いていなくても。
「ハーレイは、ぼくのことなんか忘れてるんだ」と、恨まなくても。
明日になったら会える恋人。
そう考えたら、心はグンと軽くなる。
「ハーレイの授業まで、あと何時間?」と数えたりして。
運が良ければ、登校した時、朝のグラウンドで出くわすこともあるのだから。
(…今日はたまたま、会えなかっただけで…)
会える日の方が多いもんね、と大きく頷く。
たまに会えない日が続いたって、一週間も続きはしない。
週末は、学校が休みだから。
其処でハーレイが家に来てくれるし、週末に何か用事があるなら…。
(それよりも前に、何処かの平日に時間を作って…)
必ず、寄ってくれるんだもの、と分かっているから安心出来る。
会えないままで、一週間も過ぎてしまうことは、有り得ないから。
寂しいのを何日か我慢したなら、優しい笑顔を見られるから。
(…うんと幸せ…)
前のぼくよりは、ちょっぴり寂しい毎日だけど、と白いシャングリラを思い出す。
ミュウの箱船では、会えない日などは無かったから。
どんなにハーレイが多忙な時でも、朝の食事は一緒に食べた。
そういう決まりになっていたから。
シャングリラの頂点に立つソルジャーとキャプテン、二人が会う場は必要だろう、と。
(だけど、今だと、そういう決まりは…)
誰も作ってくれなかったわけで、いくらハーレイが「守り役」でも…。
(毎日、必ず、会って下さい、って、病院の先生も言わなかったし…)
聖痕を診た主治医が決めなかった以上、学校だって、其処まで配慮はしてくれない。
ハーレイが「ブルー」を特別扱い、そうすることは認めていても。
特定の教え子にだけ親切なのを、咎めることはしないけれども。
(…ちょっぴり残念…)
決まりがあったら良かったよね、と思いはしても、仕方ない。
それは贅沢というものだから。
会えない時でも、一週間も空きはしないのだから。
だから我慢、と思ったはずみに、頭の中を掠めた考え。
「ハーレイに会えなくなったなら」と。
今はどんなに間が空いても、一週間も会えないままになったりはしないのだけれど…。
(…ハーレイが、ぼくの学校の先生だったから…)
そうなっただけで、今のハーレイの仕事によっては、もっと間が空くのかも、と。
(プロのスポーツ選手だったら、遠征試合に出掛けちゃったら…)
行き先は遠い他所の星だし、いつ帰るかも分からないほど。
星から星へと転戦してゆくのなら、そのシーズンが終わるまで…。
(…地球には、帰って来なくって…)
会えなくなっちゃう、と愕然とする。
この地球の上で遠征したって、他の地域へ出掛けてゆくなら、一週間では戻れない。
その上、スポーツ選手だったら、練習のための合宿期間だってある。
(…合宿する場所が、この町でなければ…)
合宿の間も会えやしない、と気が付いた。
「それは困るよ」と、「やっぱり、ハーレイは先生でなくちゃ」と。
(……だけど……)
同じ古典の教師にしたって、遠い町で教師をしていた時には、どうなるだろう。
日帰りするのは厳しいくらいに、うんと離れた町だったなら。
(…そういう所の先生だって、研修とかだと、この町に…)
やって来ることも少なくないから、巡り会うのは、研修でこの町に来ている時。
研修の合間の休憩時間に、ハーレイが何処かを散歩していて…。
(ぼくとバッタリ出会った途端に、ぼくに聖痕…)
それで互いの記憶が戻って、もちろんハーレイは、血まみれになった「ブルー」と一緒に…。
(救急車に乗って、病院までついて来てくれて…)
その後も、ちゃんと付き添っていてくれるだろう。
研修先に連絡を入れて、「目の前で子供が大怪我をしたから」と事情を伝えて。
一段落したら、研修先に戻ってゆくのだろうけれど…。
(記憶が戻って来たんだし…)
何か理由を考え出して、休暇を取ってくれると思う。
ほんの二日か三日だけでも、研修の後で、色々、話が出来るようにと。
(…そこまでは、一緒にいられるけれど…)
ハーレイの休暇が終わってしまえば、離れ離れになるしかない。
なにしろ、ハーレイが勤めているのは、遠い町にある学校だから。
其処で生徒たちが待っているから、休暇が済んだら、戻らなければ。
どれほど「ブルー」に未練があっても、仕事を放り出すことは…。
(……出来ないよね?)
今のハーレイも真面目だものね、とハーレイの性格を改めて思う。
キャプテン・ハーレイだった頃と同じで、とても責任感が強いハーレイ。
やっている仕事が違うというだけ、仕事にかける思いは同じ。
(教え子たちを放って、ぼく一人には…)
絶対、かまけてくれやしない、と容易に想像がつく。
再会出来て喜んだ後は、別れが待っているのだと。
「じゃあな」と手を振り、ハーレイは行ってしまうのだ、と。
(…遠い町だから、週末の度に来るなんてこと、出来やしないし…)
次に会えるのは、長期休暇の時だろう。
夏休みだとか、冬休み。
学校が長い休みに入って、ハーレイが旅をしてもいい時。
(…それまで、会えなくなったなら…)
いったい自分はどうするだろうか、ハーレイが行ってしまったら。
一週間どころか、何ヶ月も会えなくなってしまって、それが普通の二人だったら。
(…どんなに会いたくなったって…)
今の自分の弱い身体では、ハーレイが暮らしている町まで旅をするのは厳しい。
なんとか辿り着けたとしたって、寝込んでしまうことだろう。
(ハーレイが来られないんなら、って…)
週末に会いに出掛けたつもりが、宿で寝込んで、ハーレイに心配をかけるだけ。
おまけに、一回、それをやったら…。
(…パパとママは二度目を、絶対、許してくれないし…)
ハーレイにだって、釘を刺されてしまう筈。
「こんな無茶、二度とするんじゃないぞ」と。
「俺の方から会いに行くから、それまで大人しく待つんだな」と。
そのハーレイが会いに来てくれるのは、何ヶ月も先のことになるのに。
(……そんなの、困る……)
会えなくなったら困っちゃうよ、と思うけれども、有り得た話。
今のハーレイが、別の仕事をしていたら。
同じ古典の教師にしたって、遠く離れた町にいたなら。
(…神様が、ちゃんとしてくれたから…)
一週間も会えずに終わることなど、ないけれど。
何処かで必ず会えるけれども、ハーレイに会えなくなったなら…。
(…手紙に、通信…)
ハーレイが書いた返事を見たくて、せっせと手紙を書いて投函するのだろう。
まるで日記をつけるみたいに、毎日のように郵便ポストに行って。
家に帰ったら門扉の脇のポストを覗いて、返事が届いていないかを見て。
(ポストの中が空っぽだったら…)
玄関の扉を開けるなり、「手紙は来てた?」と叫ぶのだろうか、母に向かって。
もしも手紙が届いていたなら、何よりも先に読みたいから。
(それに、通信…)
ハーレイが家にいて、忙しくなさそうな時間を選んで、入れる通信。
「あのね」と、「ハーレイ、元気にしてる?」と。
ちゃんと手紙を貰っていたって、ハーレイの声が聞きたくて。
(声を聞けたら、とても嬉しくなるだろうけど…)
手紙と通信だけの日々など、我慢出来るとは思えないから。
ハーレイに会いたくて堪らなくなって、泣いてしまう夜もありそうだから…。
(一週間も空けずに会えるだけでも…)
幸せなんだと思わなくちゃね、と自分に向かって言い聞かせる。
もしもハーレイに会えなくなったなら、きっと耐えられはしないから。
長い休みにしか会えないだなんて、もう絶対に御免だから…。
会えなくなったなら・了
※ハーレイ先生に会えなくなったなら、と想像してみたブルー君。遠くに離れて暮らしていて。
会えるのは長い休みの時だけ、それまでは我慢するしかない日々。耐えられませんよねv
きっと明日には会えるものね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…寄ってくれるかと思ってたのに…)
仕事の帰りに、と嘆いてみたって始まらない。
ハーレイは忙しかったのだろうし、そういう時には、どんなに文句を言ったって…。
(…ハーレイにだって、どうすることも出来ないよね…)
会議や柔道部のことだったなら、と分かっているから、どうしようもない。
他の先生たちと食事に出掛けて行ったのだとしても、それも大人の付き合いだから…。
(どんなにハーレイが楽しんでたって、ぼくには何にも…)
言えやしないよ、と充分、承知してはいる。
それでも時々、深い溜息をついている日もあるけれど。
「ハーレイ、ぼくを忘れてるかも」と、「他の先生たちと楽しく食事だもんね」と。
(…でも、今日は…)
そんな文句は言わない日、と気持ちを明日に切り替える。
明日は古典の授業があるから、ハーレイに会えることは確実。
(どんな雑談、してくれるかな?)
楽しみだよね、と期待に膨らむ胸。
ハーレイが授業で繰り出す雑談、それは生徒の集中力を取り戻すため。
皆の興味を惹き付けるように、色々な話題を持ち出して来る。
(食べ物の話かな、それとも昔の文化とかかな…?)
前のぼくも知らない話ばっかり、と耳にする前から、もう嬉しくてたまらない。
明日には、聞ける筈だから。
学校を休んだり、古典の時間に保健室に行ったりしていなければ。
(絶対、学校に行かなくちゃ…)
風邪なんか引いていられないよ、と決意を新たにする。
「今夜は、しっかり寝なくっちゃ」と。
そうは思っても、今の生でも弱い身体に生まれた自分。
運が悪いと、明日になったら、具合が悪いということもある。
(でも、きっと…)
学校を休んでしまったとしても、ハーレイには会えることだろう。
「ハーレイの授業を聞きたかったよ」と、昼間はベッドでしょげていたって。
(…よっぽど忙しくない限り…)
仕事の帰りに、ハーレイは見舞いに来てくれる。
他の先生との食事なんかは、断って。
会議があったり、柔道部の部活が長引いた時でも、よっぽど遅くならない限りは。
(…だって、ハーレイの授業がある日に…)
教室に「ブルー」の姿が無ければ、ハーレイにも直ぐに「身体の具合が悪い」と分かる。
熱があるのか、風邪を引いたか、とても心配してくれるだろう。
(だから、仕事が終わったら…)
急いで家まで来てくれる筈で、場合によっては、母に頼んでキッチンに立って…。
(野菜スープを作ってくれるんだよ)
前のぼくが大好きだったスープ、と緩む頬。
ほんの少しの塩味しかない、何種類もの野菜をコトコト煮込んだスープ。
前の自分が寝込んだ時には、ハーレイが作る、そのスープしか受け付けなかった。
(ホントに具合が悪すぎる、って時だけれどね…)
そうじゃない時は、他の食事も食べていたよ、と時の彼方に思いを馳せる。
身体を治すには、まず栄養をつけないと。
ノルディにも厳しく言われていたから、食べられる時は食べていた。
(…だけど、食べられない時だって…)
少なくはなくて、そういう時には、ハーレイのスープ。
今の自分も、その味わいを覚えていたから、ハーレイは、ちゃんと作ってくれる。
「これくらいなら、食えるだろ」と。
「明日には、お母さんが作る食事も食べるんだぞ」などと言いながら。
(…授業で会えるか、休んでしまって家で会うのか…)
明日にならないと分からないけれど、恐らく、会える。
「会えなかったよ」と、此処で嘆いていなくても。
「ハーレイは、ぼくのことなんか忘れてるんだ」と、恨まなくても。
明日になったら会える恋人。
そう考えたら、心はグンと軽くなる。
「ハーレイの授業まで、あと何時間?」と数えたりして。
運が良ければ、登校した時、朝のグラウンドで出くわすこともあるのだから。
(…今日はたまたま、会えなかっただけで…)
会える日の方が多いもんね、と大きく頷く。
たまに会えない日が続いたって、一週間も続きはしない。
週末は、学校が休みだから。
其処でハーレイが家に来てくれるし、週末に何か用事があるなら…。
(それよりも前に、何処かの平日に時間を作って…)
必ず、寄ってくれるんだもの、と分かっているから安心出来る。
会えないままで、一週間も過ぎてしまうことは、有り得ないから。
寂しいのを何日か我慢したなら、優しい笑顔を見られるから。
(…うんと幸せ…)
前のぼくよりは、ちょっぴり寂しい毎日だけど、と白いシャングリラを思い出す。
ミュウの箱船では、会えない日などは無かったから。
どんなにハーレイが多忙な時でも、朝の食事は一緒に食べた。
そういう決まりになっていたから。
シャングリラの頂点に立つソルジャーとキャプテン、二人が会う場は必要だろう、と。
(だけど、今だと、そういう決まりは…)
誰も作ってくれなかったわけで、いくらハーレイが「守り役」でも…。
(毎日、必ず、会って下さい、って、病院の先生も言わなかったし…)
聖痕を診た主治医が決めなかった以上、学校だって、其処まで配慮はしてくれない。
ハーレイが「ブルー」を特別扱い、そうすることは認めていても。
特定の教え子にだけ親切なのを、咎めることはしないけれども。
(…ちょっぴり残念…)
決まりがあったら良かったよね、と思いはしても、仕方ない。
それは贅沢というものだから。
会えない時でも、一週間も空きはしないのだから。
だから我慢、と思ったはずみに、頭の中を掠めた考え。
「ハーレイに会えなくなったなら」と。
今はどんなに間が空いても、一週間も会えないままになったりはしないのだけれど…。
(…ハーレイが、ぼくの学校の先生だったから…)
そうなっただけで、今のハーレイの仕事によっては、もっと間が空くのかも、と。
(プロのスポーツ選手だったら、遠征試合に出掛けちゃったら…)
行き先は遠い他所の星だし、いつ帰るかも分からないほど。
星から星へと転戦してゆくのなら、そのシーズンが終わるまで…。
(…地球には、帰って来なくって…)
会えなくなっちゃう、と愕然とする。
この地球の上で遠征したって、他の地域へ出掛けてゆくなら、一週間では戻れない。
その上、スポーツ選手だったら、練習のための合宿期間だってある。
(…合宿する場所が、この町でなければ…)
合宿の間も会えやしない、と気が付いた。
「それは困るよ」と、「やっぱり、ハーレイは先生でなくちゃ」と。
(……だけど……)
同じ古典の教師にしたって、遠い町で教師をしていた時には、どうなるだろう。
日帰りするのは厳しいくらいに、うんと離れた町だったなら。
(…そういう所の先生だって、研修とかだと、この町に…)
やって来ることも少なくないから、巡り会うのは、研修でこの町に来ている時。
研修の合間の休憩時間に、ハーレイが何処かを散歩していて…。
(ぼくとバッタリ出会った途端に、ぼくに聖痕…)
それで互いの記憶が戻って、もちろんハーレイは、血まみれになった「ブルー」と一緒に…。
(救急車に乗って、病院までついて来てくれて…)
その後も、ちゃんと付き添っていてくれるだろう。
研修先に連絡を入れて、「目の前で子供が大怪我をしたから」と事情を伝えて。
一段落したら、研修先に戻ってゆくのだろうけれど…。
(記憶が戻って来たんだし…)
何か理由を考え出して、休暇を取ってくれると思う。
ほんの二日か三日だけでも、研修の後で、色々、話が出来るようにと。
(…そこまでは、一緒にいられるけれど…)
ハーレイの休暇が終わってしまえば、離れ離れになるしかない。
なにしろ、ハーレイが勤めているのは、遠い町にある学校だから。
其処で生徒たちが待っているから、休暇が済んだら、戻らなければ。
どれほど「ブルー」に未練があっても、仕事を放り出すことは…。
(……出来ないよね?)
今のハーレイも真面目だものね、とハーレイの性格を改めて思う。
キャプテン・ハーレイだった頃と同じで、とても責任感が強いハーレイ。
やっている仕事が違うというだけ、仕事にかける思いは同じ。
(教え子たちを放って、ぼく一人には…)
絶対、かまけてくれやしない、と容易に想像がつく。
再会出来て喜んだ後は、別れが待っているのだと。
「じゃあな」と手を振り、ハーレイは行ってしまうのだ、と。
(…遠い町だから、週末の度に来るなんてこと、出来やしないし…)
次に会えるのは、長期休暇の時だろう。
夏休みだとか、冬休み。
学校が長い休みに入って、ハーレイが旅をしてもいい時。
(…それまで、会えなくなったなら…)
いったい自分はどうするだろうか、ハーレイが行ってしまったら。
一週間どころか、何ヶ月も会えなくなってしまって、それが普通の二人だったら。
(…どんなに会いたくなったって…)
今の自分の弱い身体では、ハーレイが暮らしている町まで旅をするのは厳しい。
なんとか辿り着けたとしたって、寝込んでしまうことだろう。
(ハーレイが来られないんなら、って…)
週末に会いに出掛けたつもりが、宿で寝込んで、ハーレイに心配をかけるだけ。
おまけに、一回、それをやったら…。
(…パパとママは二度目を、絶対、許してくれないし…)
ハーレイにだって、釘を刺されてしまう筈。
「こんな無茶、二度とするんじゃないぞ」と。
「俺の方から会いに行くから、それまで大人しく待つんだな」と。
そのハーレイが会いに来てくれるのは、何ヶ月も先のことになるのに。
(……そんなの、困る……)
会えなくなったら困っちゃうよ、と思うけれども、有り得た話。
今のハーレイが、別の仕事をしていたら。
同じ古典の教師にしたって、遠く離れた町にいたなら。
(…神様が、ちゃんとしてくれたから…)
一週間も会えずに終わることなど、ないけれど。
何処かで必ず会えるけれども、ハーレイに会えなくなったなら…。
(…手紙に、通信…)
ハーレイが書いた返事を見たくて、せっせと手紙を書いて投函するのだろう。
まるで日記をつけるみたいに、毎日のように郵便ポストに行って。
家に帰ったら門扉の脇のポストを覗いて、返事が届いていないかを見て。
(ポストの中が空っぽだったら…)
玄関の扉を開けるなり、「手紙は来てた?」と叫ぶのだろうか、母に向かって。
もしも手紙が届いていたなら、何よりも先に読みたいから。
(それに、通信…)
ハーレイが家にいて、忙しくなさそうな時間を選んで、入れる通信。
「あのね」と、「ハーレイ、元気にしてる?」と。
ちゃんと手紙を貰っていたって、ハーレイの声が聞きたくて。
(声を聞けたら、とても嬉しくなるだろうけど…)
手紙と通信だけの日々など、我慢出来るとは思えないから。
ハーレイに会いたくて堪らなくなって、泣いてしまう夜もありそうだから…。
(一週間も空けずに会えるだけでも…)
幸せなんだと思わなくちゃね、と自分に向かって言い聞かせる。
もしもハーレイに会えなくなったなら、きっと耐えられはしないから。
長い休みにしか会えないだなんて、もう絶対に御免だから…。
会えなくなったなら・了
※ハーレイ先生に会えなくなったなら、と想像してみたブルー君。遠くに離れて暮らしていて。
会えるのは長い休みの時だけ、それまでは我慢するしかない日々。耐えられませんよねv
(…今日は会えずに終わっちまったが…)
明日は間違いなく会えるだろうさ、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で、コーヒー片手に。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人、それがブルー。
十四歳の子供になってしまったけれども、ブルーは帰って来てくれた。
青く蘇った水の星の上で、新しい命と身体を貰って。
今は自分の教え子のブルー。
学校に行けば、大抵、会うことが出来る。
会えないままで放課後が来ても、仕事の帰りにブルーの家に寄ることも出来る。
(今日は、どっちもダメだったんだが…)
きっと明日には会える筈だぞ、と自分の仕事に感謝した。
今の仕事は古典の教師で、明日はブルーのクラスでの授業。
(あいつが欠席してない限りは…)
其処で会えるし、もしもブルーが休んでいたなら、仕事帰りに見舞いに出掛ける。
明日は会議などの予定も無いから、柔道部の部活を済ませた後で。
(…頼むから、誰も怪我してくれるなよ?)
でないと俺の予定がパアだ、と柔道部の部員の無事を祈った。
誰かが怪我でもしようものなら、病院に連れて行かねばならない。
すると時間を取られてしまって、ブルーの家に出掛けるどころか…。
(…怪我した生徒を家まで車で送り届けて、そいつの家で…)
お茶を御馳走になる羽目に…、と分かっているから、部員には無事でいて貰わねば。
部活の後には、ブルーの家へ。
ブルーが元気に登校していても、それとこれとは話が別。
(学校じゃ、教師と教え子だしなあ…)
そういう風にしか振る舞えなくて、会話にしたって、ブルーは敬語を使って話す。
遠い昔に、前の自分が、前のブルーにそうしたように。
ソルジャーとキャプテンの恋というのは、誰にも知られてはならなかったから。
教師と教え子の恋と同じで、秘めておかねばいけなかったから。
(…遠慮なく、あいつと話すためには…)
あいつの家に行くしかないしな、と苦笑する。
「だから、明日には会いに行くんだ」と、「誰も怪我してくれるんじゃないぞ」と。
明日には会える筈の恋人。
どうせだったら、風邪など引かずに、元気に登校して来て欲しい。
学校では教師と教え子だけれど、それでもブルーの席に姿が無かったら…。
(…残念なんてモンじゃないんだ)
他の生徒の手前もあるから、もちろん顔には出したりしない。
「ふむ、今日はブルーは欠席なんだな」と、教卓の上で欠席の印を書き込むだけ。
誰かが「風邪を引いたらしいです」とでも教えてくれたら、「そうか」と静かに頷いて。
心配でも、それは口には出さずに、「授業を始める」と話を切り替えて。
(でもって、平気な顔して、授業を…)
するのだけれども、視線は何度も、ブルーのいない席を捉えることだろう。
風邪を引いたというのだったら、熱は高くないか、辛くないか、と。
特に病名を聞かなかったら、「腹を壊したか、風邪でも引いたか…」と気になって。
(学校が終わったら、あいつの家まで一直線だな)
顔を見るまで落ち着かないぞ、と自分でもよく分かっている。
今日のように会えずに終わった日だって、ブルーが気になって仕方ないから。
夜にこうして思い出すほど、ブルーの顔を見たいのだから。
(…前の俺だと、あいつに会えない日なんかは…)
一日だって無かったからな、と時の彼方に思いを馳せる。
恋人同士だったことは伏せていたけれど、前のブルーには、毎日会えた。
ソルジャーとキャプテン、白いシャングリラの頂点に立つ二人だったから。
毎日、一度は顔を合わせて、色々なことを話し合うべき、と船の仲間たちは考えた。
(そういう方針だったからなあ…)
忙しい日でも、そのための時間を確保出来るよう、朝食の席が選ばれた。
朝食は必ず食べるものだし、青の間で会食すればいい、と。
(…朝食係まで拵えちまって…)
青の間の奥の小さなキッチン、其処で作られていた朝食。
それをブルーと二人で食べた。
毎朝、必ず、顔を合わせて。
どんなに多忙な時であろうと、朝は青の間に出掛けて行って。
残念なことに、今はそういうわけにはいかない。
いくらブルーの守り役とはいえ、「毎日、必ず会って下さい」とは言われていない。
(…そう言われていりゃ、なんとしてでも…)
時間を作って、会えるんだがな、と少しばかり、もどかしい気持ち。
今日は忙しかったけれども、何処かで時間は作れただろう。
ブルーが欠席だったとしたって、授業の合間の空き時間になら、家まで行ける。
ちょっと車を走らせたならば、ブルーの家に着けるから。
ブルーの顔を見て、僅かな時間でも言葉を交わして、急いで学校に戻ればいい。
元気に登校していた時でも、仕事を全部済ませた後で…。
(遅くなりましたが、会いに来ました、と…)
訪ねてゆくのが許される上に、それが役目なら、歓待されることだろう。
ブルーの両親に感謝されて。
「お忙しいのに、本当にありがとうございます」と、夕食まで用意されたりして。
(ところがどっこい、そんな役目は…)
俺は貰っちゃいないんだ、と残念至極。
お蔭で、今日のように会えない日だって珍しくない。
前の生なら、毎日、必ず会えたのに。
ブルーが深く眠ってしまって、何年も目覚めずにいた時だって。
(…あいつに会えなくなっちまったのは…)
いなくなっちまった後なんだよな、と零れる溜息。
前のブルーはメギドへと飛んで、二度と戻って来なかった。
長い長い時を共に過ごして、深い眠りに沈んでしまっていても、いてくれたのに。
青の間を訪ねて行きさえすれば、前のブルーは、其処にいた。
まるで目覚めることが無くても、儚く消えてしまったりはしないで。
手を伸ばしたなら、いつでも頬に、その手に触れることさえも出来て。
(…そういうモンだと思っていたから…)
失った後は、前の自分も死んでしまった。
身体は生きていたのだけれども、魂は死んだ「生ける屍」。
今の自分は、そんな羽目には陥るわけもないけれど…。
(…会えなくなったら、どうするんだ?)
頭を過っていった考え。
もしもブルーに会えなくなったら、と。
(……今の俺には、そんなことなど……)
起こらないと分かっているんだがな、と言えるからこそ、「もしも」と思った。
そういうことが起きたとしたなら、今の自分はどうするのだろう、と。
(…たまたま、教師だったから…)
ブルーの学校に赴任した日に、今のブルーと再会出来た。
その後も、教師と教え子として、毎日のように学校で会える。
今日のように会えない時が続いたとしても、せいぜい数日。
(…しかしだな…)
自分の仕事や、暮らしている場所。
それによっては、今のブルーと再会出来ても…。
(ほんの数日、この町にいられるというだけで…)
とても幸せな日々が過ぎたら、離れるしかないということもある。
同じ教師の仕事にしたって、遠い所の学校で教師をしていた場合など。
(この町には、研修に来たってだけで…)
本来だったら、ほんの一泊二日くらいでの出張。
それをブルーと出会ったからと、何か理由を付けて延長。
(休暇だったら、取れないこともないからなあ…)
同僚たちを拝み倒して、何日か。
再会を遂げた愛おしい人と、思い出話などをして過ごすために。
(なんたって、ブルーはチビだから…)
いくら前の生での恋人とはいえ、連れて帰るというわけにはいかない。
休暇が終われば、「またな」と手を振り、住んでいる土地へ戻るしかない。
其処へ帰れば、当分の間、ブルーに会うことは出来ないのに。
次に会える日は、週末どころか、長期休暇しか無いだろう。
夏休みだとか、冬休みといった学校が長い休みの時。
その間だけ、また、この町に来る。
少しでも長く側にいられるよう、懸命に仕事を片付けて。
何処かに安い宿でも取って、其処からブルーの家に通って。
そんなことなど、起こりはしない。
ブルーに聖痕を与えた神なら、会えなくなるような出会いはさせない。
そうだと分かっているのだけれども、考えてしまう。
「ブルーに、会えなくなったら」と。
いったい自分はどうするだろうと、どういう日々を送るのだろう、と。
(…同じ地球の上に、あいつがいるのに…)
会いに行くことが出来ない暮らし。
どんなにブルーの声が聞きたくても、顔を見たいと思っても。
(週末しか会えない、ってことになっても…)
もう充分に辛いと思う。
学校で顔を合わせることも出来なくて、ブルーの家にも寄れない毎日。
会いに行けるのは土曜と日曜、そんな生活になっただけでも、きっと溜息が増えるだろう。
日曜日の夜、家に戻る度、気分が暗く沈んでしまって。
「また来週まで、ブルーに会えないわけだよなあ…」と、カレンダーの日付を眺めて。
(…ほんの一週間足らずでも…)
そうなるんだ、と容易に想像がつく。
今はブルーを軽くあしらい、「キスは駄目だ」と叱り付けたりしているけれど…。
(…週末どころか、長い休みまで会えないってことになっちまったら…)
果たしてブルーを叱れるだろうか、今の自分と同じ調子で。
「まだキスは早い!」と頭を小突いて、膨れっ面になるのを笑ったりもして。
(……キスは許してやれないんだが……)
頭ごなしには叱れんかもな、と額を指でトントンと叩く。
キスをしたいとは思わないけれど、離れたくない気持ちはあるから。
「また帰らないといけないのか」と心が痛くて、ブルーを抱き締めたくもなるから。
(…会えなくなったら、そうなるだろうなあ…)
今は書こうとも思わないブルー宛の手紙を、せっせと書いては、投函するとか。
強請られても入れてやらない通信、それを自分から入れるとか。
ブルーの声が聞きたくて。
手紙にしたって、ブルーの返事が来るだろうから、ブルーが書いたそれを見たくて。
会えなくなったら、きっとそうなる。
ブルーに会えずに過ごすしかない、毎日が辛く、空虚になって。
同僚と笑い合っていたって、心がお留守になったりもして。
(…生ける屍とまでは、いかないだろうが…)
前の俺よりマシなんだが、と思いはしても、それは勘弁願いたい。
ブルーに会えない日が続くなんて、考えただけでも悲しいから。
溜息に埋もれて過ごす日々など、絶対に御免蒙りたいから…。
会えなくなったら・了
※ブルー君と、今のようには会えなくなったら、と考えてしまったハーレイ先生。
起こるわけがないことですけれど、そうなった時は、かなり辛そうです。会えるのが一番v
明日は間違いなく会えるだろうさ、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で、コーヒー片手に。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人、それがブルー。
十四歳の子供になってしまったけれども、ブルーは帰って来てくれた。
青く蘇った水の星の上で、新しい命と身体を貰って。
今は自分の教え子のブルー。
学校に行けば、大抵、会うことが出来る。
会えないままで放課後が来ても、仕事の帰りにブルーの家に寄ることも出来る。
(今日は、どっちもダメだったんだが…)
きっと明日には会える筈だぞ、と自分の仕事に感謝した。
今の仕事は古典の教師で、明日はブルーのクラスでの授業。
(あいつが欠席してない限りは…)
其処で会えるし、もしもブルーが休んでいたなら、仕事帰りに見舞いに出掛ける。
明日は会議などの予定も無いから、柔道部の部活を済ませた後で。
(…頼むから、誰も怪我してくれるなよ?)
でないと俺の予定がパアだ、と柔道部の部員の無事を祈った。
誰かが怪我でもしようものなら、病院に連れて行かねばならない。
すると時間を取られてしまって、ブルーの家に出掛けるどころか…。
(…怪我した生徒を家まで車で送り届けて、そいつの家で…)
お茶を御馳走になる羽目に…、と分かっているから、部員には無事でいて貰わねば。
部活の後には、ブルーの家へ。
ブルーが元気に登校していても、それとこれとは話が別。
(学校じゃ、教師と教え子だしなあ…)
そういう風にしか振る舞えなくて、会話にしたって、ブルーは敬語を使って話す。
遠い昔に、前の自分が、前のブルーにそうしたように。
ソルジャーとキャプテンの恋というのは、誰にも知られてはならなかったから。
教師と教え子の恋と同じで、秘めておかねばいけなかったから。
(…遠慮なく、あいつと話すためには…)
あいつの家に行くしかないしな、と苦笑する。
「だから、明日には会いに行くんだ」と、「誰も怪我してくれるんじゃないぞ」と。
明日には会える筈の恋人。
どうせだったら、風邪など引かずに、元気に登校して来て欲しい。
学校では教師と教え子だけれど、それでもブルーの席に姿が無かったら…。
(…残念なんてモンじゃないんだ)
他の生徒の手前もあるから、もちろん顔には出したりしない。
「ふむ、今日はブルーは欠席なんだな」と、教卓の上で欠席の印を書き込むだけ。
誰かが「風邪を引いたらしいです」とでも教えてくれたら、「そうか」と静かに頷いて。
心配でも、それは口には出さずに、「授業を始める」と話を切り替えて。
(でもって、平気な顔して、授業を…)
するのだけれども、視線は何度も、ブルーのいない席を捉えることだろう。
風邪を引いたというのだったら、熱は高くないか、辛くないか、と。
特に病名を聞かなかったら、「腹を壊したか、風邪でも引いたか…」と気になって。
(学校が終わったら、あいつの家まで一直線だな)
顔を見るまで落ち着かないぞ、と自分でもよく分かっている。
今日のように会えずに終わった日だって、ブルーが気になって仕方ないから。
夜にこうして思い出すほど、ブルーの顔を見たいのだから。
(…前の俺だと、あいつに会えない日なんかは…)
一日だって無かったからな、と時の彼方に思いを馳せる。
恋人同士だったことは伏せていたけれど、前のブルーには、毎日会えた。
ソルジャーとキャプテン、白いシャングリラの頂点に立つ二人だったから。
毎日、一度は顔を合わせて、色々なことを話し合うべき、と船の仲間たちは考えた。
(そういう方針だったからなあ…)
忙しい日でも、そのための時間を確保出来るよう、朝食の席が選ばれた。
朝食は必ず食べるものだし、青の間で会食すればいい、と。
(…朝食係まで拵えちまって…)
青の間の奥の小さなキッチン、其処で作られていた朝食。
それをブルーと二人で食べた。
毎朝、必ず、顔を合わせて。
どんなに多忙な時であろうと、朝は青の間に出掛けて行って。
残念なことに、今はそういうわけにはいかない。
いくらブルーの守り役とはいえ、「毎日、必ず会って下さい」とは言われていない。
(…そう言われていりゃ、なんとしてでも…)
時間を作って、会えるんだがな、と少しばかり、もどかしい気持ち。
今日は忙しかったけれども、何処かで時間は作れただろう。
ブルーが欠席だったとしたって、授業の合間の空き時間になら、家まで行ける。
ちょっと車を走らせたならば、ブルーの家に着けるから。
ブルーの顔を見て、僅かな時間でも言葉を交わして、急いで学校に戻ればいい。
元気に登校していた時でも、仕事を全部済ませた後で…。
(遅くなりましたが、会いに来ました、と…)
訪ねてゆくのが許される上に、それが役目なら、歓待されることだろう。
ブルーの両親に感謝されて。
「お忙しいのに、本当にありがとうございます」と、夕食まで用意されたりして。
(ところがどっこい、そんな役目は…)
俺は貰っちゃいないんだ、と残念至極。
お蔭で、今日のように会えない日だって珍しくない。
前の生なら、毎日、必ず会えたのに。
ブルーが深く眠ってしまって、何年も目覚めずにいた時だって。
(…あいつに会えなくなっちまったのは…)
いなくなっちまった後なんだよな、と零れる溜息。
前のブルーはメギドへと飛んで、二度と戻って来なかった。
長い長い時を共に過ごして、深い眠りに沈んでしまっていても、いてくれたのに。
青の間を訪ねて行きさえすれば、前のブルーは、其処にいた。
まるで目覚めることが無くても、儚く消えてしまったりはしないで。
手を伸ばしたなら、いつでも頬に、その手に触れることさえも出来て。
(…そういうモンだと思っていたから…)
失った後は、前の自分も死んでしまった。
身体は生きていたのだけれども、魂は死んだ「生ける屍」。
今の自分は、そんな羽目には陥るわけもないけれど…。
(…会えなくなったら、どうするんだ?)
頭を過っていった考え。
もしもブルーに会えなくなったら、と。
(……今の俺には、そんなことなど……)
起こらないと分かっているんだがな、と言えるからこそ、「もしも」と思った。
そういうことが起きたとしたなら、今の自分はどうするのだろう、と。
(…たまたま、教師だったから…)
ブルーの学校に赴任した日に、今のブルーと再会出来た。
その後も、教師と教え子として、毎日のように学校で会える。
今日のように会えない時が続いたとしても、せいぜい数日。
(…しかしだな…)
自分の仕事や、暮らしている場所。
それによっては、今のブルーと再会出来ても…。
(ほんの数日、この町にいられるというだけで…)
とても幸せな日々が過ぎたら、離れるしかないということもある。
同じ教師の仕事にしたって、遠い所の学校で教師をしていた場合など。
(この町には、研修に来たってだけで…)
本来だったら、ほんの一泊二日くらいでの出張。
それをブルーと出会ったからと、何か理由を付けて延長。
(休暇だったら、取れないこともないからなあ…)
同僚たちを拝み倒して、何日か。
再会を遂げた愛おしい人と、思い出話などをして過ごすために。
(なんたって、ブルーはチビだから…)
いくら前の生での恋人とはいえ、連れて帰るというわけにはいかない。
休暇が終われば、「またな」と手を振り、住んでいる土地へ戻るしかない。
其処へ帰れば、当分の間、ブルーに会うことは出来ないのに。
次に会える日は、週末どころか、長期休暇しか無いだろう。
夏休みだとか、冬休みといった学校が長い休みの時。
その間だけ、また、この町に来る。
少しでも長く側にいられるよう、懸命に仕事を片付けて。
何処かに安い宿でも取って、其処からブルーの家に通って。
そんなことなど、起こりはしない。
ブルーに聖痕を与えた神なら、会えなくなるような出会いはさせない。
そうだと分かっているのだけれども、考えてしまう。
「ブルーに、会えなくなったら」と。
いったい自分はどうするだろうと、どういう日々を送るのだろう、と。
(…同じ地球の上に、あいつがいるのに…)
会いに行くことが出来ない暮らし。
どんなにブルーの声が聞きたくても、顔を見たいと思っても。
(週末しか会えない、ってことになっても…)
もう充分に辛いと思う。
学校で顔を合わせることも出来なくて、ブルーの家にも寄れない毎日。
会いに行けるのは土曜と日曜、そんな生活になっただけでも、きっと溜息が増えるだろう。
日曜日の夜、家に戻る度、気分が暗く沈んでしまって。
「また来週まで、ブルーに会えないわけだよなあ…」と、カレンダーの日付を眺めて。
(…ほんの一週間足らずでも…)
そうなるんだ、と容易に想像がつく。
今はブルーを軽くあしらい、「キスは駄目だ」と叱り付けたりしているけれど…。
(…週末どころか、長い休みまで会えないってことになっちまったら…)
果たしてブルーを叱れるだろうか、今の自分と同じ調子で。
「まだキスは早い!」と頭を小突いて、膨れっ面になるのを笑ったりもして。
(……キスは許してやれないんだが……)
頭ごなしには叱れんかもな、と額を指でトントンと叩く。
キスをしたいとは思わないけれど、離れたくない気持ちはあるから。
「また帰らないといけないのか」と心が痛くて、ブルーを抱き締めたくもなるから。
(…会えなくなったら、そうなるだろうなあ…)
今は書こうとも思わないブルー宛の手紙を、せっせと書いては、投函するとか。
強請られても入れてやらない通信、それを自分から入れるとか。
ブルーの声が聞きたくて。
手紙にしたって、ブルーの返事が来るだろうから、ブルーが書いたそれを見たくて。
会えなくなったら、きっとそうなる。
ブルーに会えずに過ごすしかない、毎日が辛く、空虚になって。
同僚と笑い合っていたって、心がお留守になったりもして。
(…生ける屍とまでは、いかないだろうが…)
前の俺よりマシなんだが、と思いはしても、それは勘弁願いたい。
ブルーに会えない日が続くなんて、考えただけでも悲しいから。
溜息に埋もれて過ごす日々など、絶対に御免蒙りたいから…。
会えなくなったら・了
※ブルー君と、今のようには会えなくなったら、と考えてしまったハーレイ先生。
起こるわけがないことですけれど、そうなった時は、かなり辛そうです。会えるのが一番v
「ねえ、ハーレイ。草や木とかが育つのには…」
光や水が必要だよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、窓の外へと目を遣って。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ああ、まあ…。簡単に言えば、そういうことだな」
光と水があれば、最低限はいける筈だ、とハーレイは頷く。
草や木などの植物たちは、光合成をして生きるもの。
太陽の光を、生きる力に変えてゆく。
光合成をするために必要な葉を、育ててゆくには…。
(水ってことだな)
そいつがあれば、種から芽が出てくるから、と。
(…しかし、今日のは…)
随分と変わった話題じゃないか、と不思議ではある。
ブルーは植物に無関心ではないけれど…。
(…季節の花とか、珍しい植物とか…)
その手の話が多いタイプで、育つ過程はさほどでもない。
(はて…?)
何かあったか、とブルーに尋ねてみることにした。
どうして、植物が育つ話なのか。
「草や木が育つのに光や水って、急に、どうしたんだ?」
種か苗でも貰ったのか、と真正面から投げ掛けた問い。
一番有り得るのが、それだと思ったから。
ブルー自身が貰わなくても、母が貰って来ただとか。
けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「そんなの、貰わないけれど?」
「じゃあ、なんだって、光や水って…」
何処から思い付いたんだ、と重ねて尋ねる。
植物を育てるアテも無いのに、いきなりどうした、と。
「えっとね…。光や水だけで、ちゃんと育つと思う?」
立派な植物、とブルーは窓の外の木を指差した。
庭で一番大きな木。
その木の下には、白いテーブルと椅子がある。
ブルーと初めてのデートをした場所、ブルーのお気に入り。
「あの木か…。あれほど大きくなるには…」
光と水だけじゃ、ちょっと無理だな、とハーレイは答えた。
ブルーは質問に答えていなくて、逆に質問なのだけど…。
(無視するわけにもいかんしな?)
きちんと答えてやらないと、と大きな木を眺めて説明する。
「さっきも言ったが、光と水は最低限だ」と。
「大きく立派に育つためには、養分も要る」と。
光合成だけで生きる植物は、けして少ないとは言えない。
とはいえ、野山や庭に生えている草木や、農作物などは…。
(…養分が無いと、サッパリなんだ)
ブルーも知ってると思うんだが、と零れる苦笑。
なにしろ理科の基本なのだし、下の学校で教わる内容。
「お前、学校で習っただろう? 光合成の他にもだな…」
養分ってヤツが必要なこと、とブルーを見詰める。
「まさか寝ていて、聞いてないわけじゃないだろう?」と。
「居眠りなんか、してないってば!」
腐葉土とかが要るんだよね、とブルーは返した。
「他にも色々」と、「痩せた土だと駄目なんだよ」と。
「なんだ、分かっているんじゃないか。なのにだな…」
何を今更、俺に訊くんだ、と赤い瞳を覗き込む。
「分かっているなら、訊かなくても」と。
「何か育てるわけでもないのに、何故、訊くんだ」と。
するとブルーは、「分からない?」と瞬きをした。
「全然、ちっとも育たないのが、此処にいるでしょ」と。
「ぼくの背、少しも伸びないんだよ」と。
再会した日から、一ミリさえも育たないのがブルーの背丈。
それは間違いないのだけれど…。
(おいおいおい…)
マズくないか、とハーレイの胸に嫌な予感が広がってゆく。
植物の話だと思っていたのに、どうやら中身が違いそう。
ハーレイの不安を見透かしたように、ブルーは口を開いた。
「分かってるの?」と、とても真剣な顔で。
「いい、ハーレイ? 草や木だって、大きくなるには…」
養分が欠かせないんだよ、とブルーの赤い瞳が瞬く。
「ぼくが少しも育たないのは、養分不足なんだから」と。
「養分って…。お前、少ししか食わないんだし…」
栄養が足りていないんだろう、と返したけれど。
それで済むことを祈ったけれども、ブルーは首を横に振る。
「違うでしょ! ハーレイがキスしてくれないからだよ!」
だから、いつまでもチビのまま、と頬を膨らませるブルー。
「そのせいで背が伸びないんだよ」と、「養分不足」と。
前のブルーのように育つには、愛情も要る、と。
「そう思わない?」と、ブルーは譲らないけれど。
「育たないのは、ハーレイのせい」と、言い張るけれど…。
「其処まで言うなら、今日から、食え」
しっかりとな、とハーレイは腕組みをして、反撃に出た。
「お母さんにも言っておくから、充分に食え」と。
「ちょ、ちょっと…!」
そんなの無理、とブルーは慌てるけれども、ニヤリと笑う。
「養分が足りていないんだろう?」と。
「まずは、一ヶ月ほど、しっかり食って様子を見よう」
「それで駄目なら考えてもいい」と、「食うことだ」と。
「柔道部員並みの量を食べれば、足りるだろう」と。
お母さんにメニューを渡しておくから、努力しろよ、と…。
大きくなるには・了
光や水が必要だよね、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、窓の外へと目を遣って。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ああ、まあ…。簡単に言えば、そういうことだな」
光と水があれば、最低限はいける筈だ、とハーレイは頷く。
草や木などの植物たちは、光合成をして生きるもの。
太陽の光を、生きる力に変えてゆく。
光合成をするために必要な葉を、育ててゆくには…。
(水ってことだな)
そいつがあれば、種から芽が出てくるから、と。
(…しかし、今日のは…)
随分と変わった話題じゃないか、と不思議ではある。
ブルーは植物に無関心ではないけれど…。
(…季節の花とか、珍しい植物とか…)
その手の話が多いタイプで、育つ過程はさほどでもない。
(はて…?)
何かあったか、とブルーに尋ねてみることにした。
どうして、植物が育つ話なのか。
「草や木が育つのに光や水って、急に、どうしたんだ?」
種か苗でも貰ったのか、と真正面から投げ掛けた問い。
一番有り得るのが、それだと思ったから。
ブルー自身が貰わなくても、母が貰って来ただとか。
けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「そんなの、貰わないけれど?」
「じゃあ、なんだって、光や水って…」
何処から思い付いたんだ、と重ねて尋ねる。
植物を育てるアテも無いのに、いきなりどうした、と。
「えっとね…。光や水だけで、ちゃんと育つと思う?」
立派な植物、とブルーは窓の外の木を指差した。
庭で一番大きな木。
その木の下には、白いテーブルと椅子がある。
ブルーと初めてのデートをした場所、ブルーのお気に入り。
「あの木か…。あれほど大きくなるには…」
光と水だけじゃ、ちょっと無理だな、とハーレイは答えた。
ブルーは質問に答えていなくて、逆に質問なのだけど…。
(無視するわけにもいかんしな?)
きちんと答えてやらないと、と大きな木を眺めて説明する。
「さっきも言ったが、光と水は最低限だ」と。
「大きく立派に育つためには、養分も要る」と。
光合成だけで生きる植物は、けして少ないとは言えない。
とはいえ、野山や庭に生えている草木や、農作物などは…。
(…養分が無いと、サッパリなんだ)
ブルーも知ってると思うんだが、と零れる苦笑。
なにしろ理科の基本なのだし、下の学校で教わる内容。
「お前、学校で習っただろう? 光合成の他にもだな…」
養分ってヤツが必要なこと、とブルーを見詰める。
「まさか寝ていて、聞いてないわけじゃないだろう?」と。
「居眠りなんか、してないってば!」
腐葉土とかが要るんだよね、とブルーは返した。
「他にも色々」と、「痩せた土だと駄目なんだよ」と。
「なんだ、分かっているんじゃないか。なのにだな…」
何を今更、俺に訊くんだ、と赤い瞳を覗き込む。
「分かっているなら、訊かなくても」と。
「何か育てるわけでもないのに、何故、訊くんだ」と。
するとブルーは、「分からない?」と瞬きをした。
「全然、ちっとも育たないのが、此処にいるでしょ」と。
「ぼくの背、少しも伸びないんだよ」と。
再会した日から、一ミリさえも育たないのがブルーの背丈。
それは間違いないのだけれど…。
(おいおいおい…)
マズくないか、とハーレイの胸に嫌な予感が広がってゆく。
植物の話だと思っていたのに、どうやら中身が違いそう。
ハーレイの不安を見透かしたように、ブルーは口を開いた。
「分かってるの?」と、とても真剣な顔で。
「いい、ハーレイ? 草や木だって、大きくなるには…」
養分が欠かせないんだよ、とブルーの赤い瞳が瞬く。
「ぼくが少しも育たないのは、養分不足なんだから」と。
「養分って…。お前、少ししか食わないんだし…」
栄養が足りていないんだろう、と返したけれど。
それで済むことを祈ったけれども、ブルーは首を横に振る。
「違うでしょ! ハーレイがキスしてくれないからだよ!」
だから、いつまでもチビのまま、と頬を膨らませるブルー。
「そのせいで背が伸びないんだよ」と、「養分不足」と。
前のブルーのように育つには、愛情も要る、と。
「そう思わない?」と、ブルーは譲らないけれど。
「育たないのは、ハーレイのせい」と、言い張るけれど…。
「其処まで言うなら、今日から、食え」
しっかりとな、とハーレイは腕組みをして、反撃に出た。
「お母さんにも言っておくから、充分に食え」と。
「ちょ、ちょっと…!」
そんなの無理、とブルーは慌てるけれども、ニヤリと笑う。
「養分が足りていないんだろう?」と。
「まずは、一ヶ月ほど、しっかり食って様子を見よう」
「それで駄目なら考えてもいい」と、「食うことだ」と。
「柔道部員並みの量を食べれば、足りるだろう」と。
お母さんにメニューを渡しておくから、努力しろよ、と…。
大きくなるには・了
