「ねえ、ハーレイ。技を磨くのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
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(ちゃんと、ハーレイと会えたんだよね…)
今日は会い損なっちゃったけれど、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…学校でも、全然、会えなかったけど…)
でも、ハーレイは、ちゃんといるから、と視線を窓の方へと向けた。
何ブロックも離れた所だけれども、同じこの町に住んでいるハーレイ。
忘れもしない五月の三日に、学校の教室で再会出来た。
時の彼方で「ソルジャー・ブルー」の生を終えた時には、絶望の淵の底だったのに。
もうハーレイには二度と会えないと、「絆が切れてしまったから」と。
(…最後まで持っていたかった、ハーレイの温もり…)
それをキースに撃たれた痛みで失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだ前の自分。
なのに、気付いたら、ハーレイがいた。
前とそっくり同じ姿で、青い地球の上に生まれ変わったハーレイが。
(ぼくの方は、チビになっちゃったけれど…)
やはり同じに前の自分の姿ではある。
ちょっぴりチビだというだけで。
メギドで死んだ時と違って、アルタミラから逃れた頃の姿になってしまっただけで。
(神様が、会わせてくれたんだよね)
もうずっと一緒なんだから、と分かっているから、今日は会えなくても文句は言わない。
二度と会えないと思った恋人、その人が同じ町にいるから。
青い地球の上に二人で生まれて、一緒に生きてゆけるのだから。
(…ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
そして文句を言っちゃうけどね、と肩を竦めて苦笑する。
「仕方ないよね」と、「子供だもの」と。
子供は何かと欲張りなのだし、我慢も出来ないものなんだから、と。
此処にいるのが前の自分なら、文句は言わないことだろう。
ハーレイと再び出会えただけでも、思いがけない幸運だから。
ほんの一日、会えない程度で、頬っぺたを膨らませたりはしない。
(…だって、あっちは大人だものね)
今のぼくとは違うんだよ、と思ったはずみに、気が付いたこと。
「大人だった頃の自分」は、長い間、何処にいたのだろうか、と。
(……今のハーレイ、今のぼくより、二十四歳も年上だから……)
そのハーレイを追い掛けて生まれた自分は、二十四年も待った勘定になる。
青い地球の上に生まれて来る前、母の胎内に宿った時まで。
(…だけど、なんにも覚えてないよ…)
気が付いたら、学校の教室だったし、と自分の記憶が情けない。
生まれて来るより前のことなど、まるで覚えていないから。
(二十四年も待ってたんなら、今のハーレイが育っていくのを…)
側で見ていたかもしれないのにね、と思うけれども、そんな記憶は何処にも無い。
覚えていたなら、今のハーレイと思い出話が出来るのに。
「ハーレイ、ホントに、凄い悪ガキだったよね」と、自分が見ていた光景を。
(…そういうのも、楽しそうなのに…)
ちょっと残念、と思う間に、別の方へと向かった思考。
「身体があるとは限らないんだ」と。
今のハーレイと巡り会えた時、この肉体を持っているとは限らない。
魂だけだった頃の自分が、子供の頃のハーレイを眺めていたかもしれないように…。
(…ハーレイの方が、魂だけだ、ってことも…)
有り得たかもね、と考え付いた。
前の自分は、前のハーレイよりも遥かに年上。
神様が、それを忠実になぞっていたなら、十四歳の、今の自分が出会えるハーレイは…。
(……生まれてなくって、魂だけ……)
そんなハーレイになっちゃうんだ、と大きく頷く。
神様の粋な計らいのお蔭で、逆さになってしまっただけ。
前の生の通りになるのだったら、ハーレイは、「まだまだ、魂だけだよ」と。
もしも、再び出会えたハーレイが、肉体を持っていなかったら。
生まれ変わる前で、魂だけだったなら、どんな出会いになるのだろうか。
(…聖痕なんかは、出ないだろうし…)
ある日、突然、ハーレイが現れるのかもしれない。
魂だけだし、思念体のような姿で、この部屋にでも。
(探しましたよ、って…)
ハーレイに呼び掛けられる声を待たずに、記憶が戻って来るのだと思う。
現れた人が、誰なのか。
どんなに会いたい人だったのかも、会えるとは思っていなかったことも。
(…きっと、涙がポロポロ出ちゃって…)
ハーレイに縋り付きたくなるだろうけれど、生憎と、魂だけだから…。
(すり抜けちゃって、触れなくって…)
懐かしい声も、耳で聞き取ることは出来ない。
今の生では、もう補聴器は要らないのに。
自分の鼓膜で、ハーレイの声を受け止めることが出来るのに。
(…残念だけど…)
うんとサイオンが不器用な自分が、「ハーレイ」の姿を見られるだけでも奇跡だろう。
思念の声を聞き取れることも、神様に感謝しなくては。
(…前のぼくなら、そんなの、朝飯前なんだけどね…)
今のぼくだと、ホントに不器用なんだから、と可笑しくなる。
「きっと、ハーレイも笑うよね」と。
不器用になってしまった恋人、それが「ソルジャー・ブルー」だなんて、と。
(…だけど、笑われちゃったって…)
会えただけで幸せなんだから、と「ハーレイ」との再会に思いを馳せる。
「魂だけでも、嬉しいよね」と。
ハーレイは、どんな姿だろうかと、「やっぱり、キャプテンの制服だよね?」と。
(…だって、ハーレイ、生まれ変わっていないんだから…)
今の時代の服を着ているわけがない。
キャプテンだった頃と全く同じに、濃い緑色だったマントまで着けて。
ついでに、言葉遣いの方も、当時と変わっていないのだろう。
(敬語のままで、きっとソルジャー・ブルー向け…)
なんだか色々と違うみたい、と思う新鮮な出会い。
今の自分が教室で再会した「ハーレイ」とは違うようだと、「面白いかも」と。
十四歳にしかならないチビに向かって、律義に敬語で話すハーレイ。
「あちこち探したのですよ」と、「会えて良かった」と。
前のハーレイは、ずっと敬語を使っていたから、その通りに。
(…敬語で話さなくていいよ、って言ったって…)
そう簡単には直りそうにもない敬語。
いくら相手がチビになっても、十四歳の子供でも。
(なんだか、くすぐったい感じ…)
ハーレイの方が、うんと年上なのに、と魂の年齢を数えてみる。
時の彼方での年に加えて、今の時代までの長い長い時間。
それを加えた分まであるのに、チビに敬語で話さなくても、と。
(だけど、ハーレイなんだしね?)
直らないかも、とクスクス笑った。
「いつまで経っても、敬語で話し続けるんだよ」と、「習慣になっていますから、って」と。
(…敬語で喋って、キャプテンの服で…)
そういうハーレイが側にいる日々。
魂だけの姿なのだし、他の人には見えないけれど。
(…何処に行くのも、ハーレイと一緒…)
学校にだって、魂だけのハーレイと一緒に出掛けてゆく。
家からバス停までを歩いて、路線バスに二人で乗り込んで。
(バスの中でも、思念でお喋り…)
ハーレイとなら大丈夫、と自分の思念の不器用さは心配していない。
魂だけのハーレイだったら、ちゃんと「ブルー」の思念を捉えてくれるだろう。
不器用になったブルーにも届く、思念を紡いでくれるのだから。
(初めて学校に一緒に行く日は、ガイドさんみたいになっちゃいそう!)
あそこに見える建物はね、などと説明して。
お店や公園、窓から見えるものを次々、初めて眺めるハーレイに教えて。
そうやって学校に辿り着いても、観光ガイドは続くのだろう。
グラウンドや中庭、今の自分の教室がある校舎など。
(友達に会ったら、お喋り、中断しちゃうけど…)
ハーレイは笑顔で待っていてくれて、授業の間は、まるで参観日の保護者みたいに…。
(教室の一番後ろに立って、授業を眺めてるんだよね?)
今の時代は、どんな授業をしているのかと、興味津々で。
SD体制が無くなった世界で、他の子供と変わらない暮らしをする恋人を。
(ハーレイに、いいトコ、見せなくっちゃ…!)
うんと張り切って、手を挙げて、それから質問だって。
先生に褒めて貰えるように、いつも以上に頑張って。
(…お昼休みになったら、食堂…)
友達と出掛けてゆくのだけれども、ハーレイも一緒。
ランチプレートは、前の自分たちの頃のと、大して変わっていないから…。
(ぼく、食堂では、注文したことないけれど…)
注文するなら、うどんか蕎麦か、ラーメンだろうか。
どれも、ハーレイは知らないから。
前の自分たちが生きた時代は、麺と言ったら、パスタだったから。
(…どうせだったら、天麩羅うどん?)
天麩羅も無かった時代だもんね、と遥かな時の彼方を思う。
多様な文化を消してしまった、機械が統治していた世界。
(これは、日本のフライなんだよ、って…)
元は厨房出身だった、ハーレイに指差して教えてあげたい。
友達に変に思われないよう、注意しながら。
「その内、ママが作るだろうから、作り方は、その時、見るといいよ」と。
(…ハーレイ、それまで我慢出来るかな?)
食堂の厨房を見に行っちゃいそう、と思わないでもない。
研究熱心なキャプテンだったし、厨房時代も、あれこれと試作していたから。
天麩羅の作り方にしたって、知りたくなったら、頑張りそうで。
(…ふふっ…)
魂だけのハーレイでも、充分、幸せだよね、と笑みが零れる。
触れ合えなくても、キスさえ贈って貰えなくても。
(…魂だけだったなら、ぼくにキスしてくれなくっても…)
どうせ元から、触れないんだし…、と納得出来そう。
守護天使みたいに側にいるだけ、そういうハーレイ。
(何処に行くにも、二人一緒で…)
他の人には見えないだけで、ハーレイは側にいてくれる。
どんな時でも、何があっても、恋人の「ブルー」を気遣って。
熱が出て寝込んでしまっていたって、ベッドの側で見守ってくれて。
(……うんと幸せ……)
それでもいいや、と思ったけれど。
ちゃんとハーレイに出会えたのだし、幸せな日々、と考えたけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
ハーレイと再会出来たからには、いずれハーレイも生まれ変わって来るのだろう。
同じ青い地球の上に生まれて、ブルーと暮らしてゆくために。
時の彼方で二人で描いた、幾つもの夢を叶えるために。
(…前のぼくとハーレイの年の差の分、時が過ぎたら…)
ハーレイは微笑んで、お別れを告げに来ることになる。
「少し待っていて下さいね」と。
「もうすぐ、生まれ変わりますから」と、「急いで育って、直ぐにあなたを迎えに来ます」と。
(…そう言われたって、直ぐじゃないから…!)
一年や二年じゃないんだから、と背中がたちまち冷たくなる。
「ぼくは何年待てばいいの」と、「独りぼっちになっちゃうじゃない!」と。
(…ハーレイが、ちゃんと育って迎えに来るまで…)
待つなんて、とても出来そうにない。
毎日、寂しくて、泣いて、泣きじゃくって、辛い日々が続くに決まっている。
「戻って来るよ」と分かっていたって、「また会えるから」と、確信していたって。
(…ハーレイが、魂だけだったなら…)
そうなっちゃいそう、と思うものだから、そんな出会いはしたくない。
魂だけのハーレイと出会えば、楽しい日々を送れそうでも。
今より新鮮な出会いだとしても、その後に来るのは、長く待たされる日々なのだから…。
魂だけだったなら・了
※再会したハーレイが魂だけの存在だったら、と想像してみたブルー君。面白いかも、と。
楽しくて幸せそうですけれど、ハーレイが生まれ変わって来るまでが大変。辛すぎますよねv
今日は会い損なっちゃったけれど、と小さなブルーが浮かべた笑み。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…学校でも、全然、会えなかったけど…)
でも、ハーレイは、ちゃんといるから、と視線を窓の方へと向けた。
何ブロックも離れた所だけれども、同じこの町に住んでいるハーレイ。
忘れもしない五月の三日に、学校の教室で再会出来た。
時の彼方で「ソルジャー・ブルー」の生を終えた時には、絶望の淵の底だったのに。
もうハーレイには二度と会えないと、「絆が切れてしまったから」と。
(…最後まで持っていたかった、ハーレイの温もり…)
それをキースに撃たれた痛みで失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだ前の自分。
なのに、気付いたら、ハーレイがいた。
前とそっくり同じ姿で、青い地球の上に生まれ変わったハーレイが。
(ぼくの方は、チビになっちゃったけれど…)
やはり同じに前の自分の姿ではある。
ちょっぴりチビだというだけで。
メギドで死んだ時と違って、アルタミラから逃れた頃の姿になってしまっただけで。
(神様が、会わせてくれたんだよね)
もうずっと一緒なんだから、と分かっているから、今日は会えなくても文句は言わない。
二度と会えないと思った恋人、その人が同じ町にいるから。
青い地球の上に二人で生まれて、一緒に生きてゆけるのだから。
(…ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
そして文句を言っちゃうけどね、と肩を竦めて苦笑する。
「仕方ないよね」と、「子供だもの」と。
子供は何かと欲張りなのだし、我慢も出来ないものなんだから、と。
此処にいるのが前の自分なら、文句は言わないことだろう。
ハーレイと再び出会えただけでも、思いがけない幸運だから。
ほんの一日、会えない程度で、頬っぺたを膨らませたりはしない。
(…だって、あっちは大人だものね)
今のぼくとは違うんだよ、と思ったはずみに、気が付いたこと。
「大人だった頃の自分」は、長い間、何処にいたのだろうか、と。
(……今のハーレイ、今のぼくより、二十四歳も年上だから……)
そのハーレイを追い掛けて生まれた自分は、二十四年も待った勘定になる。
青い地球の上に生まれて来る前、母の胎内に宿った時まで。
(…だけど、なんにも覚えてないよ…)
気が付いたら、学校の教室だったし、と自分の記憶が情けない。
生まれて来るより前のことなど、まるで覚えていないから。
(二十四年も待ってたんなら、今のハーレイが育っていくのを…)
側で見ていたかもしれないのにね、と思うけれども、そんな記憶は何処にも無い。
覚えていたなら、今のハーレイと思い出話が出来るのに。
「ハーレイ、ホントに、凄い悪ガキだったよね」と、自分が見ていた光景を。
(…そういうのも、楽しそうなのに…)
ちょっと残念、と思う間に、別の方へと向かった思考。
「身体があるとは限らないんだ」と。
今のハーレイと巡り会えた時、この肉体を持っているとは限らない。
魂だけだった頃の自分が、子供の頃のハーレイを眺めていたかもしれないように…。
(…ハーレイの方が、魂だけだ、ってことも…)
有り得たかもね、と考え付いた。
前の自分は、前のハーレイよりも遥かに年上。
神様が、それを忠実になぞっていたなら、十四歳の、今の自分が出会えるハーレイは…。
(……生まれてなくって、魂だけ……)
そんなハーレイになっちゃうんだ、と大きく頷く。
神様の粋な計らいのお蔭で、逆さになってしまっただけ。
前の生の通りになるのだったら、ハーレイは、「まだまだ、魂だけだよ」と。
もしも、再び出会えたハーレイが、肉体を持っていなかったら。
生まれ変わる前で、魂だけだったなら、どんな出会いになるのだろうか。
(…聖痕なんかは、出ないだろうし…)
ある日、突然、ハーレイが現れるのかもしれない。
魂だけだし、思念体のような姿で、この部屋にでも。
(探しましたよ、って…)
ハーレイに呼び掛けられる声を待たずに、記憶が戻って来るのだと思う。
現れた人が、誰なのか。
どんなに会いたい人だったのかも、会えるとは思っていなかったことも。
(…きっと、涙がポロポロ出ちゃって…)
ハーレイに縋り付きたくなるだろうけれど、生憎と、魂だけだから…。
(すり抜けちゃって、触れなくって…)
懐かしい声も、耳で聞き取ることは出来ない。
今の生では、もう補聴器は要らないのに。
自分の鼓膜で、ハーレイの声を受け止めることが出来るのに。
(…残念だけど…)
うんとサイオンが不器用な自分が、「ハーレイ」の姿を見られるだけでも奇跡だろう。
思念の声を聞き取れることも、神様に感謝しなくては。
(…前のぼくなら、そんなの、朝飯前なんだけどね…)
今のぼくだと、ホントに不器用なんだから、と可笑しくなる。
「きっと、ハーレイも笑うよね」と。
不器用になってしまった恋人、それが「ソルジャー・ブルー」だなんて、と。
(…だけど、笑われちゃったって…)
会えただけで幸せなんだから、と「ハーレイ」との再会に思いを馳せる。
「魂だけでも、嬉しいよね」と。
ハーレイは、どんな姿だろうかと、「やっぱり、キャプテンの制服だよね?」と。
(…だって、ハーレイ、生まれ変わっていないんだから…)
今の時代の服を着ているわけがない。
キャプテンだった頃と全く同じに、濃い緑色だったマントまで着けて。
ついでに、言葉遣いの方も、当時と変わっていないのだろう。
(敬語のままで、きっとソルジャー・ブルー向け…)
なんだか色々と違うみたい、と思う新鮮な出会い。
今の自分が教室で再会した「ハーレイ」とは違うようだと、「面白いかも」と。
十四歳にしかならないチビに向かって、律義に敬語で話すハーレイ。
「あちこち探したのですよ」と、「会えて良かった」と。
前のハーレイは、ずっと敬語を使っていたから、その通りに。
(…敬語で話さなくていいよ、って言ったって…)
そう簡単には直りそうにもない敬語。
いくら相手がチビになっても、十四歳の子供でも。
(なんだか、くすぐったい感じ…)
ハーレイの方が、うんと年上なのに、と魂の年齢を数えてみる。
時の彼方での年に加えて、今の時代までの長い長い時間。
それを加えた分まであるのに、チビに敬語で話さなくても、と。
(だけど、ハーレイなんだしね?)
直らないかも、とクスクス笑った。
「いつまで経っても、敬語で話し続けるんだよ」と、「習慣になっていますから、って」と。
(…敬語で喋って、キャプテンの服で…)
そういうハーレイが側にいる日々。
魂だけの姿なのだし、他の人には見えないけれど。
(…何処に行くのも、ハーレイと一緒…)
学校にだって、魂だけのハーレイと一緒に出掛けてゆく。
家からバス停までを歩いて、路線バスに二人で乗り込んで。
(バスの中でも、思念でお喋り…)
ハーレイとなら大丈夫、と自分の思念の不器用さは心配していない。
魂だけのハーレイだったら、ちゃんと「ブルー」の思念を捉えてくれるだろう。
不器用になったブルーにも届く、思念を紡いでくれるのだから。
(初めて学校に一緒に行く日は、ガイドさんみたいになっちゃいそう!)
あそこに見える建物はね、などと説明して。
お店や公園、窓から見えるものを次々、初めて眺めるハーレイに教えて。
そうやって学校に辿り着いても、観光ガイドは続くのだろう。
グラウンドや中庭、今の自分の教室がある校舎など。
(友達に会ったら、お喋り、中断しちゃうけど…)
ハーレイは笑顔で待っていてくれて、授業の間は、まるで参観日の保護者みたいに…。
(教室の一番後ろに立って、授業を眺めてるんだよね?)
今の時代は、どんな授業をしているのかと、興味津々で。
SD体制が無くなった世界で、他の子供と変わらない暮らしをする恋人を。
(ハーレイに、いいトコ、見せなくっちゃ…!)
うんと張り切って、手を挙げて、それから質問だって。
先生に褒めて貰えるように、いつも以上に頑張って。
(…お昼休みになったら、食堂…)
友達と出掛けてゆくのだけれども、ハーレイも一緒。
ランチプレートは、前の自分たちの頃のと、大して変わっていないから…。
(ぼく、食堂では、注文したことないけれど…)
注文するなら、うどんか蕎麦か、ラーメンだろうか。
どれも、ハーレイは知らないから。
前の自分たちが生きた時代は、麺と言ったら、パスタだったから。
(…どうせだったら、天麩羅うどん?)
天麩羅も無かった時代だもんね、と遥かな時の彼方を思う。
多様な文化を消してしまった、機械が統治していた世界。
(これは、日本のフライなんだよ、って…)
元は厨房出身だった、ハーレイに指差して教えてあげたい。
友達に変に思われないよう、注意しながら。
「その内、ママが作るだろうから、作り方は、その時、見るといいよ」と。
(…ハーレイ、それまで我慢出来るかな?)
食堂の厨房を見に行っちゃいそう、と思わないでもない。
研究熱心なキャプテンだったし、厨房時代も、あれこれと試作していたから。
天麩羅の作り方にしたって、知りたくなったら、頑張りそうで。
(…ふふっ…)
魂だけのハーレイでも、充分、幸せだよね、と笑みが零れる。
触れ合えなくても、キスさえ贈って貰えなくても。
(…魂だけだったなら、ぼくにキスしてくれなくっても…)
どうせ元から、触れないんだし…、と納得出来そう。
守護天使みたいに側にいるだけ、そういうハーレイ。
(何処に行くにも、二人一緒で…)
他の人には見えないだけで、ハーレイは側にいてくれる。
どんな時でも、何があっても、恋人の「ブルー」を気遣って。
熱が出て寝込んでしまっていたって、ベッドの側で見守ってくれて。
(……うんと幸せ……)
それでもいいや、と思ったけれど。
ちゃんとハーレイに出会えたのだし、幸せな日々、と考えたけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
ハーレイと再会出来たからには、いずれハーレイも生まれ変わって来るのだろう。
同じ青い地球の上に生まれて、ブルーと暮らしてゆくために。
時の彼方で二人で描いた、幾つもの夢を叶えるために。
(…前のぼくとハーレイの年の差の分、時が過ぎたら…)
ハーレイは微笑んで、お別れを告げに来ることになる。
「少し待っていて下さいね」と。
「もうすぐ、生まれ変わりますから」と、「急いで育って、直ぐにあなたを迎えに来ます」と。
(…そう言われたって、直ぐじゃないから…!)
一年や二年じゃないんだから、と背中がたちまち冷たくなる。
「ぼくは何年待てばいいの」と、「独りぼっちになっちゃうじゃない!」と。
(…ハーレイが、ちゃんと育って迎えに来るまで…)
待つなんて、とても出来そうにない。
毎日、寂しくて、泣いて、泣きじゃくって、辛い日々が続くに決まっている。
「戻って来るよ」と分かっていたって、「また会えるから」と、確信していたって。
(…ハーレイが、魂だけだったなら…)
そうなっちゃいそう、と思うものだから、そんな出会いはしたくない。
魂だけのハーレイと出会えば、楽しい日々を送れそうでも。
今より新鮮な出会いだとしても、その後に来るのは、長く待たされる日々なのだから…。
魂だけだったなら・了
※再会したハーレイが魂だけの存在だったら、と想像してみたブルー君。面白いかも、と。
楽しくて幸せそうですけれど、ハーレイが生まれ変わって来るまでが大変。辛すぎますよねv
(今日は会い損なっちまったが…)
ちゃんと再会出来たんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…まさに運命の恋人ってヤツだ)
すっかりチビになっちまったが、と少し可笑しくなる。
前の生で愛した愛おしい人は、生まれ変わって戻って来てくれた。
遠く遥かな時の彼方で別れた時には、絶望だけしか残らなかったのに。
(……俺が死んだら、会えるだろうとは思ったが……)
その日は、見えはしなかった。
他ならぬブルーが遺した言葉が、「ハーレイ」の命を縛ったから。
白いシャングリラが地球に着くまで、ジョミーを支えてやってくれ、と。
(お蔭で、俺は生ける屍でしかなくなって…)
ただ地球だけを目指したけれども、旅路の果てで、地球の地の底で命尽きた後。
(あいつに会えたか、とんと記憶が無いんだよなあ…)
知ってるのは今のあいつだけだ、と苦笑する。
忘れもしない五月の三日に、小さなブルーと再会した。
今の学校に赴任して来て、初めて入ったブルーのクラスの教室で。
(其処で記憶が戻ったわけだが、それまで、どうしていたんだろうな?)
俺もあいつも、と全く分からない、地球に生まれて来るまでの時間。
ブルーの方が二十四歳も年下なのだし、二十四年間、ブルーは何処かで…。
(…生まれ変わるのを待っていたってことになるのか?)
独りぼっちで、と思う一方、「違うだろうな」という気もする。
聖痕という奇跡を起こした神なら、二十四年も一瞬の内に飛び越えさせる筈だ、と。
(そうでなければ、あいつが寂しすぎるってな)
生まれ変わる前なら、記憶も前の通りだろうし、と大きく頷く。
先に生まれて行った「ハーレイ」、その魂を見送った後が、寂しいだろう、と。
運命の恋人同士なのだし、それまで一緒にいただろうから。
何処にいたかは分からなくても、片時も離れたりはしないで。
(…二十四年も、独りぼっちで待つのはなあ…)
いくらなんでも辛いじゃないか、と白いシャングリラの頃を思い出す。
前のブルーを失くした後に、孤独の中で生きた歳月。
途轍もなく長く感じたけれども、二十四年も生きてはいない。
その前に船は地球に辿り着き、自分の命も終わったから。
(生まれ変われば、俺に会えると分かってたって…)
二十四年だぞ、と指を折ってみる。
両手の指では足りやしないと、足の指を足しても、まだ足りない、と。
(もしも、あいつが待ってたんなら…)
寂しすぎるぞ、と思ったはずみに、考えたこと。
「あいつが、魂だけだったら?」と。
この地球で再会出来たブルーが、魂だけの姿だったなら、と。
(……今の年の差だと、魂だけのあいつと俺が出会うのは……)
ずいぶんと前になっちまうから、と「今」とは切り離すことにした。
今のブルーは十四歳だし、母の胎内に宿ったのは十五年前になる。
それまで「ハーレイ」を見ていたとしても、その頃の「ハーレイ」はと言えば…。
(十五年前なら、辛うじて新米教師なんだが…)
もっと前だと学生時代で、更に前だと悪ガキだった時代まである。
そんな時代に「ブルー」と会っても、なんだかきまりが悪い気がするし、それは駄目だ、と。
(…今、ってことで考えるかな)
魂だけのあいつに会うのは、と決めた設定。
こうして書斎にいる時にでも、「ブルー」がヒョイと現れるんだ、と。
魂だけの姿なのだし、今のようなチビのブルーではない。
メギドに向かって飛び去った時と、何処も変わっていない「ブルー」。
あの日のままの、気高く美しい姿だろう、と。
(…キースに撃たれた傷とか、血とかも…)
すっかりと消えて、生きていた時の姿そのまま。
そういう「ブルー」が来るのだろうと、「きっと微笑んでいるんだろうな」と。
生まれ変わって来たチビのブルーは、心に傷を抱えている。
メギドで味わった深い絶望、その時の記憶が癒えないままで。
(…右手が冷たくなった時には…)
それを思い出して苦しむけれども、魂だけの「ブルー」の方は、深い傷など…。
(俺の前にヒョイと出て来る前に、心の底に埋めてしまって…)
まるで何事も無かったかのように、「ハーレイ!」と微笑み掛けるのだろう。
「やっと会えた」と、「ずっと君に会いたかったんだ」と。
「君は青い地球に生まれたんだね」と、「地球の暮らしは気に入ってるかい?」と。
(…きっと、そうだな…)
右手のことなど、言いやしないな、と確信に満ちた思いがある。
前のブルーの魂だったら、そうなるだろう、と。
「あれから何があったんだ?」と問い掛けてみても、「知ってるだろう?」と笑みが返るだけ。
「ぼくがメギドを沈めたんだよ」と、「ちょっと大変だったけれどね」と。
(…そう聞かされたら、俺も安心しちまって…)
前のブルーを見舞った悲劇に、気付くことさえ無いだろう。
「ブルー」はメギドを道連れに逝って、其処から「此処」へ飛んで来たのだ、と考えて。
魂だけでも「やっと会えた」と、心が喜びに満たされて。
(俺の記憶もすっかり戻って、もう幸せで…)
愛おしい人を眺め回して、何度も瞬きすることだろう。
「夢じゃないよな」と、「ブルーだよな?」と。
こうして目の前に現れたからには、これからは、ずっと…。
(…ブルーと一緒で、うんと幸せな毎日が…)
訪れるのだ、と嬉しくて堪らない気持ちで一杯。
たとえ魂だけであろうと、「ブルー」だから。
手を伸ばしても触れられなくても、まるで全く構いはしない。
「ブルー」が其処にいてくれるなら。
呼べばきちんと声が返って、ちゃんと話が出来るなら。
「ブルー」の声が思念だろうと、ほんの些細なことでしかない。
また巡り会えて、ブルーと過ごしてゆけるなら。
愛おしい人の姿を見ながら、この地球で生きてゆけるのならば。
(……そうだよなあ……)
魂でも構いやしないんだ、と改めて思う。
前の生から愛した「ブルー」に、生まれ変わって再び出会えるのなら。
「ブルー」の方は魂だけでも、間違いなく「ブルー」なのだから。
(…俺が気を付けないといけない点は、だ…)
他の人には見えないだろう、ブルーの姿。
どんなにブルーが愛おしかろうと、人の目がある所では…。
(話し掛けるなら、きちんと思念の方にして…)
肉声は使わないで話して、視線を向けるのも、不審がられないよう注意が必要。
でないと、心配されるから。
「気は確かか?」とまでは言われなくても、何処か変だと感づかれて。
(他のヤツらにも見えるんだったら、安心なんだが…)
それはそれで厄介なことになるんだ、と分かっている。
前のブルーは知られ過ぎていて、誰が見たって一目で「ソルジャー・ブルー」だと気付く。
どうして「ソルジャー・ブルー」が「ハーレイ」の側にいるのか、誰でも気になる。
(…そうなっちまうと、前の俺たちの二の舞で…)
恋人同士だと知られないよう、あれこれと気を配らねば。
今の自分は「キャプテン・ハーレイ」に瓜二つだから、そっちの方も問題だろう。
「やっぱり生まれ変わりなんだな」と、誰もが自然に考えるから。
そうなってくると、気ままな今の暮らしは出来ない。
取材に追われて、ついでに「ブルー」も追い掛け回されることになる。
伝説にも等しい大英雄が、この世に現れたのだから。
魂だけの姿とはいえ、出来るものなら取材をしようと、大勢の記者が追い掛ける。
二人きりでの平穏な日々は、得られはしない。
何処へ行っても、記者やカメラに追い回されて。
(…シャングリラの時代以上に、大変な苦労になっちまうぞ…)
恋人同士だと隠すのはな、と竦めた肩。
きっと、そうなってしまわないよう、「ブルー」の魂は、「ハーレイ」にしか見えないだろう。
「ハーレイ」の目にだけ映る恋人、声も「ハーレイ」にしか聞こえない。
「そういう姿で現れるんだ」と、「そうに違いない」と。
自分にしか見えない、声も聞こえはしない「ブルー」。
けれど、最高に幸せだろう。
愛おしい人が帰って来たのだから。
二度と離れず、二人で生きてゆけるのだから。
(…あいつの方は、生きちゃいないんだがな)
だが、そんなのは細かいことだ、と心から思う。
「ブルー」が側にいてくれる日々は、幸せに満ちているだろうから。
触れることさえ出来はしなくても、「ブルー」」は確かに「居る」のだから。
(毎日、いろんなことを話して、いろんな所に連れてってやって…)
前のブルーが焦がれ続けた、青い水の星を案内せねば。
最初は海へのドライブだろうか、魂だけのブルーを助手席に乗せて。
海への道でも、様々な場所に立ち寄って…。
(こんな食べ物があるんだぞ、と…)
今ならではの名物料理や菓子を教えて、「食うか?」と訊く。
魂だけの姿であっても、食べられるだろうと思うから。
(供え物とかがあるんだからな?)
そして美味そうに食うんだろうな、と想像しながら傾けるコーヒーのカップ。
「あいつはコーヒーは苦手だったが、地球のコーヒーなら、飲みたがるだろう」と。
(…苦い所は変わらないね、と顔を顰めるだろうがな)
うん、充分に幸せだよな、と笑みが零れる「ブルー」との暮らし。
「魂だけでも、俺は構わん」と、「うんと幸せな暮らしじゃないか」と。
(…そういう暮らしに慣れちまったら…)
ある日、ブルーが「もうじき、生まれ変わるんだ」と言おうものなら、どうなることか。
「急いで育って戻って来るから、十四年ほど待っていてくれる?」と。
(…おいおいおい…)
今更、置いて行かないでくれ、と慌てる自分が目に見えるよう。
そして「ブルー」が行ってしまったら、「十四年だ」と分かっていたって…。
(泣きの涙で、毎日、ブルーに会いたくて…)
寂しいなんてもんじゃないぞ、と思うものだから、「ブルー」が魂だけだったら…。
(そのまま、ずっと俺の側にいてくれた方が…)
いいのかもな、という気がする。
きっと、自分は「待てない」から。
生まれ変わったブルーと再び出会える時まで、泣かずに待てるわけがないから…。
魂だけだったら・了
※地球に生まれた自分の前に、魂だけのブルーが現れたなら、と想像してみたハーレイ先生。
幸せな日々を送れそうですけど、「生まれ変わって来るから、待っていて」は困りますよねv
ちゃんと再会出来たんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…まさに運命の恋人ってヤツだ)
すっかりチビになっちまったが、と少し可笑しくなる。
前の生で愛した愛おしい人は、生まれ変わって戻って来てくれた。
遠く遥かな時の彼方で別れた時には、絶望だけしか残らなかったのに。
(……俺が死んだら、会えるだろうとは思ったが……)
その日は、見えはしなかった。
他ならぬブルーが遺した言葉が、「ハーレイ」の命を縛ったから。
白いシャングリラが地球に着くまで、ジョミーを支えてやってくれ、と。
(お蔭で、俺は生ける屍でしかなくなって…)
ただ地球だけを目指したけれども、旅路の果てで、地球の地の底で命尽きた後。
(あいつに会えたか、とんと記憶が無いんだよなあ…)
知ってるのは今のあいつだけだ、と苦笑する。
忘れもしない五月の三日に、小さなブルーと再会した。
今の学校に赴任して来て、初めて入ったブルーのクラスの教室で。
(其処で記憶が戻ったわけだが、それまで、どうしていたんだろうな?)
俺もあいつも、と全く分からない、地球に生まれて来るまでの時間。
ブルーの方が二十四歳も年下なのだし、二十四年間、ブルーは何処かで…。
(…生まれ変わるのを待っていたってことになるのか?)
独りぼっちで、と思う一方、「違うだろうな」という気もする。
聖痕という奇跡を起こした神なら、二十四年も一瞬の内に飛び越えさせる筈だ、と。
(そうでなければ、あいつが寂しすぎるってな)
生まれ変わる前なら、記憶も前の通りだろうし、と大きく頷く。
先に生まれて行った「ハーレイ」、その魂を見送った後が、寂しいだろう、と。
運命の恋人同士なのだし、それまで一緒にいただろうから。
何処にいたかは分からなくても、片時も離れたりはしないで。
(…二十四年も、独りぼっちで待つのはなあ…)
いくらなんでも辛いじゃないか、と白いシャングリラの頃を思い出す。
前のブルーを失くした後に、孤独の中で生きた歳月。
途轍もなく長く感じたけれども、二十四年も生きてはいない。
その前に船は地球に辿り着き、自分の命も終わったから。
(生まれ変われば、俺に会えると分かってたって…)
二十四年だぞ、と指を折ってみる。
両手の指では足りやしないと、足の指を足しても、まだ足りない、と。
(もしも、あいつが待ってたんなら…)
寂しすぎるぞ、と思ったはずみに、考えたこと。
「あいつが、魂だけだったら?」と。
この地球で再会出来たブルーが、魂だけの姿だったなら、と。
(……今の年の差だと、魂だけのあいつと俺が出会うのは……)
ずいぶんと前になっちまうから、と「今」とは切り離すことにした。
今のブルーは十四歳だし、母の胎内に宿ったのは十五年前になる。
それまで「ハーレイ」を見ていたとしても、その頃の「ハーレイ」はと言えば…。
(十五年前なら、辛うじて新米教師なんだが…)
もっと前だと学生時代で、更に前だと悪ガキだった時代まである。
そんな時代に「ブルー」と会っても、なんだかきまりが悪い気がするし、それは駄目だ、と。
(…今、ってことで考えるかな)
魂だけのあいつに会うのは、と決めた設定。
こうして書斎にいる時にでも、「ブルー」がヒョイと現れるんだ、と。
魂だけの姿なのだし、今のようなチビのブルーではない。
メギドに向かって飛び去った時と、何処も変わっていない「ブルー」。
あの日のままの、気高く美しい姿だろう、と。
(…キースに撃たれた傷とか、血とかも…)
すっかりと消えて、生きていた時の姿そのまま。
そういう「ブルー」が来るのだろうと、「きっと微笑んでいるんだろうな」と。
生まれ変わって来たチビのブルーは、心に傷を抱えている。
メギドで味わった深い絶望、その時の記憶が癒えないままで。
(…右手が冷たくなった時には…)
それを思い出して苦しむけれども、魂だけの「ブルー」の方は、深い傷など…。
(俺の前にヒョイと出て来る前に、心の底に埋めてしまって…)
まるで何事も無かったかのように、「ハーレイ!」と微笑み掛けるのだろう。
「やっと会えた」と、「ずっと君に会いたかったんだ」と。
「君は青い地球に生まれたんだね」と、「地球の暮らしは気に入ってるかい?」と。
(…きっと、そうだな…)
右手のことなど、言いやしないな、と確信に満ちた思いがある。
前のブルーの魂だったら、そうなるだろう、と。
「あれから何があったんだ?」と問い掛けてみても、「知ってるだろう?」と笑みが返るだけ。
「ぼくがメギドを沈めたんだよ」と、「ちょっと大変だったけれどね」と。
(…そう聞かされたら、俺も安心しちまって…)
前のブルーを見舞った悲劇に、気付くことさえ無いだろう。
「ブルー」はメギドを道連れに逝って、其処から「此処」へ飛んで来たのだ、と考えて。
魂だけでも「やっと会えた」と、心が喜びに満たされて。
(俺の記憶もすっかり戻って、もう幸せで…)
愛おしい人を眺め回して、何度も瞬きすることだろう。
「夢じゃないよな」と、「ブルーだよな?」と。
こうして目の前に現れたからには、これからは、ずっと…。
(…ブルーと一緒で、うんと幸せな毎日が…)
訪れるのだ、と嬉しくて堪らない気持ちで一杯。
たとえ魂だけであろうと、「ブルー」だから。
手を伸ばしても触れられなくても、まるで全く構いはしない。
「ブルー」が其処にいてくれるなら。
呼べばきちんと声が返って、ちゃんと話が出来るなら。
「ブルー」の声が思念だろうと、ほんの些細なことでしかない。
また巡り会えて、ブルーと過ごしてゆけるなら。
愛おしい人の姿を見ながら、この地球で生きてゆけるのならば。
(……そうだよなあ……)
魂でも構いやしないんだ、と改めて思う。
前の生から愛した「ブルー」に、生まれ変わって再び出会えるのなら。
「ブルー」の方は魂だけでも、間違いなく「ブルー」なのだから。
(…俺が気を付けないといけない点は、だ…)
他の人には見えないだろう、ブルーの姿。
どんなにブルーが愛おしかろうと、人の目がある所では…。
(話し掛けるなら、きちんと思念の方にして…)
肉声は使わないで話して、視線を向けるのも、不審がられないよう注意が必要。
でないと、心配されるから。
「気は確かか?」とまでは言われなくても、何処か変だと感づかれて。
(他のヤツらにも見えるんだったら、安心なんだが…)
それはそれで厄介なことになるんだ、と分かっている。
前のブルーは知られ過ぎていて、誰が見たって一目で「ソルジャー・ブルー」だと気付く。
どうして「ソルジャー・ブルー」が「ハーレイ」の側にいるのか、誰でも気になる。
(…そうなっちまうと、前の俺たちの二の舞で…)
恋人同士だと知られないよう、あれこれと気を配らねば。
今の自分は「キャプテン・ハーレイ」に瓜二つだから、そっちの方も問題だろう。
「やっぱり生まれ変わりなんだな」と、誰もが自然に考えるから。
そうなってくると、気ままな今の暮らしは出来ない。
取材に追われて、ついでに「ブルー」も追い掛け回されることになる。
伝説にも等しい大英雄が、この世に現れたのだから。
魂だけの姿とはいえ、出来るものなら取材をしようと、大勢の記者が追い掛ける。
二人きりでの平穏な日々は、得られはしない。
何処へ行っても、記者やカメラに追い回されて。
(…シャングリラの時代以上に、大変な苦労になっちまうぞ…)
恋人同士だと隠すのはな、と竦めた肩。
きっと、そうなってしまわないよう、「ブルー」の魂は、「ハーレイ」にしか見えないだろう。
「ハーレイ」の目にだけ映る恋人、声も「ハーレイ」にしか聞こえない。
「そういう姿で現れるんだ」と、「そうに違いない」と。
自分にしか見えない、声も聞こえはしない「ブルー」。
けれど、最高に幸せだろう。
愛おしい人が帰って来たのだから。
二度と離れず、二人で生きてゆけるのだから。
(…あいつの方は、生きちゃいないんだがな)
だが、そんなのは細かいことだ、と心から思う。
「ブルー」が側にいてくれる日々は、幸せに満ちているだろうから。
触れることさえ出来はしなくても、「ブルー」」は確かに「居る」のだから。
(毎日、いろんなことを話して、いろんな所に連れてってやって…)
前のブルーが焦がれ続けた、青い水の星を案内せねば。
最初は海へのドライブだろうか、魂だけのブルーを助手席に乗せて。
海への道でも、様々な場所に立ち寄って…。
(こんな食べ物があるんだぞ、と…)
今ならではの名物料理や菓子を教えて、「食うか?」と訊く。
魂だけの姿であっても、食べられるだろうと思うから。
(供え物とかがあるんだからな?)
そして美味そうに食うんだろうな、と想像しながら傾けるコーヒーのカップ。
「あいつはコーヒーは苦手だったが、地球のコーヒーなら、飲みたがるだろう」と。
(…苦い所は変わらないね、と顔を顰めるだろうがな)
うん、充分に幸せだよな、と笑みが零れる「ブルー」との暮らし。
「魂だけでも、俺は構わん」と、「うんと幸せな暮らしじゃないか」と。
(…そういう暮らしに慣れちまったら…)
ある日、ブルーが「もうじき、生まれ変わるんだ」と言おうものなら、どうなることか。
「急いで育って戻って来るから、十四年ほど待っていてくれる?」と。
(…おいおいおい…)
今更、置いて行かないでくれ、と慌てる自分が目に見えるよう。
そして「ブルー」が行ってしまったら、「十四年だ」と分かっていたって…。
(泣きの涙で、毎日、ブルーに会いたくて…)
寂しいなんてもんじゃないぞ、と思うものだから、「ブルー」が魂だけだったら…。
(そのまま、ずっと俺の側にいてくれた方が…)
いいのかもな、という気がする。
きっと、自分は「待てない」から。
生まれ変わったブルーと再び出会える時まで、泣かずに待てるわけがないから…。
魂だけだったら・了
※地球に生まれた自分の前に、魂だけのブルーが現れたなら、と想像してみたハーレイ先生。
幸せな日々を送れそうですけど、「生まれ変わって来るから、待っていて」は困りますよねv
「ねえ、ハーレイ。贈り物って…」
受け取らないと失礼になるんだよね、と首を傾げたブルー。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
贈り物だって、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いったい何を言い出すのかと、小さな恋人を観察する。
(…贈り物ってだけでも、充分、唐突過ぎるのに…)
失礼かどうかと訊かれても、と湧き上がる疑問は尽きない。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、良くないもの。
何かとんでもない魂胆があって、探るように尋ねて来る。
額面通りに受け取ったならば、馬鹿を見ることが大多数。
(どうせ今日のも、そういうヤツだぞ)
その手に乗るか、と思いながらも、問い返してみる。
「何か贈り物を貰ったのか?」
それとも貰う予定なのか、と赤い瞳を覗き込んだ。
「誕生日には、まだ早すぎるが」と、「何かの礼か?」と。
ブルーが気にする、贈り物のこと。
受け取る話が出て来るからには、心当たりがあるのだろう。
いくら唐突でも、それを言わせた何かがある筈。
そう考えて、質問の意図を探り出そうとしたのだけれど…。
「贈り物なんか貰っていないし、予定も無いよ」
次に貰えるのはクリスマスかな、とブルーは答えた。
クリスマスには、きっと貰える筈、とニッコリと笑む。
「パパとママもくれるし、ハーレイもでしょ?」と。
「俺は、やるとは言っていないが?」
気が早いにも程があるぞ、とハーレイは顔を顰めてみせた。
ブルーに何か贈るにしたって、せいぜい、お菓子。
日持ちするクッキーや焼き菓子の類、そういう程度。
(こいつが、大事に取っておくようなものは…)
誕生日までは贈らないんだ、と決めている。
そうでなくても恋人気取りで、何かと困らされるから。
「えっ、ハーレイは何もくれないの?」
「お前が期待するようなものは、贈らんだろうな」
子供には菓子で充分だ、とハーレイは返してやった。
「靴下を用意しておくんだぞ」と、「入れてやるから」と。
「靴下って…。それに、お菓子って…」
酷い、とブルーが頬を膨らませるから、チャンスと捉えた。
ブルーの質問の意図はともかく、答えは返せる。
ハーレイはブルーを真っ直ぐ見詰めて、こう言った。
「おい、それは失礼っていうモンだろう」
「えっと…?」
何処が、とキョトンとしているブルーに、畳み掛ける。
「お前、自分で言っただろうが。さっき、俺にな」
贈り物を受け取らないと失礼なんだろ、と意地悪く尋ねた。
「そう思ったから訊いたんだろう」と、「違うのか?」と。
ブルーは瞳をパチパチとさせて、渋々といった体で頷いた。
「そうだけど…」と、それは不満そうな顔をして。
「じゃあ、ハーレイがお菓子をくれたら…」
「受け取らないと失礼だよなあ、「ありがとう」って」
喜んで靴下に入れて貰うこった、とハーレイは笑った。
「それがマナーというものなんだぞ、贈り物を貰った時の」
ちゃんと質問にも答えたからな、と腕組みをする。
「どうだ?」と、「これで満足したか?」と。
「…うう…。分かったよ、お菓子でも我慢する…」
失礼になっちゃいけないものね、とブルーは唸った。
「仕方ないや」と、「それが贈り物のマナーなんだし」と。
(…よしよし、これでクリスマスの贈り物も決まったぞ)
美味い菓子でも買ってやるか、とハーレイは心の中で頷く。
何を贈っても、ブルーは受け取るしかない運命。
ブルー自身が蒔いた種だし、自業自得というものだ。
(菓子なら、悩まなくても済むしな)
ついでに文句も言われないし、と喜んでいたら…。
「あのね、ハーレイ。もう一度、確認なんだけど…」
受け取らないと失礼なんだよね、と恋人が念を押して来た。
「でないとマナー違反なんでしょ」と、真剣な顔で。
「そうだとも。お前も言ったし、俺も肯定したからな」
つまらない菓子でも受け取るんだぞ、と重々しく告げる。
「こんなの嫌だ」は通らないぞ、と「分かったな?」と。
そうしたら…。
「なら、ぼくのキスも受け取って!」
ぼくからの贈り物だから、と立ち上がったブルー。
「唇にキスをしてあげるから」と、「動かないでね」と。
「馬鹿野郎!」
礼儀知らずでも俺は構わん、とハーレイが握り締めた拳。
「そういう贈り物は断る」と、「俺は要らん」と。
「くれると言っても、断固拒否する」と、怖い顔で。
「貰うより前に、頭に一発、プレゼントする」と…。
贈り物って・了
受け取らないと失礼になるんだよね、と首を傾げたブルー。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
贈り物だって、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いったい何を言い出すのかと、小さな恋人を観察する。
(…贈り物ってだけでも、充分、唐突過ぎるのに…)
失礼かどうかと訊かれても、と湧き上がる疑問は尽きない。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、良くないもの。
何かとんでもない魂胆があって、探るように尋ねて来る。
額面通りに受け取ったならば、馬鹿を見ることが大多数。
(どうせ今日のも、そういうヤツだぞ)
その手に乗るか、と思いながらも、問い返してみる。
「何か贈り物を貰ったのか?」
それとも貰う予定なのか、と赤い瞳を覗き込んだ。
「誕生日には、まだ早すぎるが」と、「何かの礼か?」と。
ブルーが気にする、贈り物のこと。
受け取る話が出て来るからには、心当たりがあるのだろう。
いくら唐突でも、それを言わせた何かがある筈。
そう考えて、質問の意図を探り出そうとしたのだけれど…。
「贈り物なんか貰っていないし、予定も無いよ」
次に貰えるのはクリスマスかな、とブルーは答えた。
クリスマスには、きっと貰える筈、とニッコリと笑む。
「パパとママもくれるし、ハーレイもでしょ?」と。
「俺は、やるとは言っていないが?」
気が早いにも程があるぞ、とハーレイは顔を顰めてみせた。
ブルーに何か贈るにしたって、せいぜい、お菓子。
日持ちするクッキーや焼き菓子の類、そういう程度。
(こいつが、大事に取っておくようなものは…)
誕生日までは贈らないんだ、と決めている。
そうでなくても恋人気取りで、何かと困らされるから。
「えっ、ハーレイは何もくれないの?」
「お前が期待するようなものは、贈らんだろうな」
子供には菓子で充分だ、とハーレイは返してやった。
「靴下を用意しておくんだぞ」と、「入れてやるから」と。
「靴下って…。それに、お菓子って…」
酷い、とブルーが頬を膨らませるから、チャンスと捉えた。
ブルーの質問の意図はともかく、答えは返せる。
ハーレイはブルーを真っ直ぐ見詰めて、こう言った。
「おい、それは失礼っていうモンだろう」
「えっと…?」
何処が、とキョトンとしているブルーに、畳み掛ける。
「お前、自分で言っただろうが。さっき、俺にな」
贈り物を受け取らないと失礼なんだろ、と意地悪く尋ねた。
「そう思ったから訊いたんだろう」と、「違うのか?」と。
ブルーは瞳をパチパチとさせて、渋々といった体で頷いた。
「そうだけど…」と、それは不満そうな顔をして。
「じゃあ、ハーレイがお菓子をくれたら…」
「受け取らないと失礼だよなあ、「ありがとう」って」
喜んで靴下に入れて貰うこった、とハーレイは笑った。
「それがマナーというものなんだぞ、贈り物を貰った時の」
ちゃんと質問にも答えたからな、と腕組みをする。
「どうだ?」と、「これで満足したか?」と。
「…うう…。分かったよ、お菓子でも我慢する…」
失礼になっちゃいけないものね、とブルーは唸った。
「仕方ないや」と、「それが贈り物のマナーなんだし」と。
(…よしよし、これでクリスマスの贈り物も決まったぞ)
美味い菓子でも買ってやるか、とハーレイは心の中で頷く。
何を贈っても、ブルーは受け取るしかない運命。
ブルー自身が蒔いた種だし、自業自得というものだ。
(菓子なら、悩まなくても済むしな)
ついでに文句も言われないし、と喜んでいたら…。
「あのね、ハーレイ。もう一度、確認なんだけど…」
受け取らないと失礼なんだよね、と恋人が念を押して来た。
「でないとマナー違反なんでしょ」と、真剣な顔で。
「そうだとも。お前も言ったし、俺も肯定したからな」
つまらない菓子でも受け取るんだぞ、と重々しく告げる。
「こんなの嫌だ」は通らないぞ、と「分かったな?」と。
そうしたら…。
「なら、ぼくのキスも受け取って!」
ぼくからの贈り物だから、と立ち上がったブルー。
「唇にキスをしてあげるから」と、「動かないでね」と。
「馬鹿野郎!」
礼儀知らずでも俺は構わん、とハーレイが握り締めた拳。
「そういう贈り物は断る」と、「俺は要らん」と。
「くれると言っても、断固拒否する」と、怖い顔で。
「貰うより前に、頭に一発、プレゼントする」と…。
贈り物って・了
(今日はハーレイに会えなかったよね…)
家にも来てくれなかったから、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…ホントは、ちょっぴり、ほんの少しだけ…)
会えていないわけじゃないんだけれど、と昼間の出来事を思い返した。
休み時間に友人たちと、校舎の外を歩いていた時のこと。
(…国語の先生たちのためにある、準備室…)
それがある校舎に、ハーレイが入ってゆくのを見掛けた。
一歩踏み出せば、もう校舎の中、そういう入口の直ぐ近くで。
(あと一歩、ってトコだったけれど…)
大きな声で「ハーレイ先生!」と呼び掛けたならば、きっと振り向いて貰えただろう。
こちらを向いて、笑顔で手だって振ってくれたと思うけれども…。
(……ぼくは友達と一緒だったし……)
ハーレイの方も、他の先生と話をしながら歩いていた。
そうでなかったら、ハーレイが一人だったなら…。
(真っ直ぐ、校舎に入る代わりに…)
足を止めて、見回してくれた気がする。
休み時間の最中なのだし、何人もの生徒が出歩いている時間帯。
その中にブルーがいるかもしれない、とチビの恋人が歩いていないか、確かめるために。
(…そうだよね?)
そうでなくても、其処まで歩いて来るまでの道中、「ブルー」を探していただろう。
目の色を変えてとは言わないけれども、運良く、出会えるかもしれない、と。
(…キョロキョロしたりはしなくても…)
何気ない顔で歩きながらも、探してくれてはいたのだと思う。
他の先生と一緒でなければ、「ブルーに会えればいいんだがな」と。
「ちょいと手を振るだけでもいいから、あいつに会えれば嬉しいんだが」と。
ハーレイなら探してくれた筈だよ、と考えることは、思い上がりではないだろう。
前の生からの恋人同士で、今も恋人なのだから。
キスさえくれない恋人だけれど、「キスは早すぎる」と叱られるチビの子供だけれど。
(…でも、ハーレイなら…)
探してくれたし、気付いてくれた筈なのに。
他の先生さえ一緒でなければ、見回してくれたと思うのに…。
(……真っ直ぐ、入って行っちゃった……)
振り向きさえもしなかったよね、と浮かぶのは「消えてゆくハーレイ」ばかり。
こっちには顔も向けてくれずに、他の先生と話しながら。
「ブルー」にはまるで気付きもしないで、校舎の中へと消えてゆく姿。
(…ぼくだって、声を掛けられなかったし…)
お互い様だと思うけれども、やっぱり少し悲しくなる。
「ぼくは、ハーレイに気付いてたのに」と。
「ハーレイの方では、全然、気付いてくれなかったよ」と。
(…あれでも、会えたとは言うんだろうけど…)
会えない時だと、姿も見られないんだから、と思いはしても、寂しい気持ちは変わらない。
なまじ姿を見掛けた分だけ、「全く会えずに終わった」日よりも、辛い気もする。
何故なら、自分は「気付いた」から。
「あっ、ハーレイだ!」と心が躍った、そんな瞬間を味わったから。
(……気付いているのに、それっきりって……)
なんだか酷い、と神様を恨みたい気分。
ハーレイの姿を見掛けた時には、「今日はツイてる」と考えたほど。
「今日はハーレイの授業は無いけど、会えちゃったよね」と。
一方的な出会いだけれども、とても素敵な偶然で。
「こんな所で会えるんだったら、後で、絶対、会えるんだから」と飛び跳ねた心。
廊下で会うのか、グラウンドで会えるか、もっと違う場所で出会うのか。
(次に会えたら、ちゃんとハーレイが気付いてくれて…)
声を掛けてくれて、話も出来ることだろう。
学校の中では、教師と生徒の会話だけれども、それでも充分、幸せな時間。
ついでに学校が終わった後には、家にも寄ってくれるのだろう、と膨らんだ期待。
「今日はゆっくり、お喋り出来るよ」と、「晩ご飯だって、ハーレイと一緒なんだよね」と。
ところがどっこい、期待外れに終わった一日。
ハーレイには二度と出会えないまま、今日という日は暮れてしまって…。
(…ほんのちょっぴり、一方的に…)
会えただけだよ、と零れる溜息。
「あんまりだよね」と、「気付いているのに、話も出来なかっただなんて」と。
大好きな笑顔も向けて貰えず、手だって、振って貰えていない。
確かに「ハーレイ」を見掛けたのに。
ハーレイの姿に心が躍って、ツイているとまで考えたのに。
(……今日の神様、ホントに意地悪……)
こんなの酷い、と嘆いたはずみに、心を掠めていったこと。
「気付いているのに、会えなかったら?」と。
今日の出来事とは全く違って、「最初から、そういう出会いだったら?」と。
(…ぼくとハーレイ、五月の三日に出会ったけれど…)
自分に現れた聖痕のお蔭で、二人揃って記憶が戻って、今では恋人同士だけれど…。
(……ああいう風な出会いじゃなくって……)
ぼくだけ、ハーレイに気が付いちゃう、っていうことも…、と怖い考えが頭に浮かんだ。
聖痕などとは全く無縁に、ある日、突然、記憶が戻る。
「ハーレイ」の姿を何処かで見掛けて、「ハーレイなんだ」と気付いた時に。
あそこに確かにハーレイがいると、前の生から愛した人だ、と。
(…でも、気付いたのは、ぼくだけで…)
ハーレイの方は、少しも気付いていないんだよ、と「悲しすぎる出会い」が心に広がってゆく。
自分の方では気付いているのに、ハーレイは、まるで気が付かない。
その上、出会いは、ほんの一瞬、アッと言う間に離れてゆく距離。
声を掛けてもいないのに。
「ハーレイ!」と声を掛ける暇さえ、そのチャンスさえも無いままで。
(…学校から遠足に行った先とか…)
有り得るよね、と嫌な想像が膨らみ始める。
本当の出会いは「そうではない」のに、「そうじゃなかったら?」と、違う方へと。
気付いているのに出会えない出会い、そういう出会いも有り得たのだ、と。
(……学校の遠足、休んじゃったことも多いけど……)
バスで遠くへ出掛けて行って、一日過ごして、学校のある町へ帰って来る。
その遠足に出掛けた時に、ハーレイの姿に気が付く自分。
バスから降りて、何かしている時ではなくて…。
(…バスの窓から、外を見ていて…)
歩いているハーレイの姿を見掛けて、その瞬間に「思い出す」。
「ハーレイなんだ」と。
其処にいるのは愛おしい人で、遠く遥かな時の彼方で愛した人だ、と。
(だけど、ハーレイは気が付いてなくて…)
こちらの方を眺めもしないで、何処かへ向かって歩いているだけ。
そして窓から呼び掛けようにも、バスは走っているのだから…。
(…ハーレイなんだ、って気が付いたって…)
その場で止まってなどはくれずに、目的地に向かって走り続ける。
歩いているハーレイを一瞬で追い越し、たちまち後ろへ置き去りにして。
「バスを止めて!」と叫びたくても、ただの生徒ではどうにもならない。
(……気分が悪くなったから、止めて下さい、って……)
止めて貰えそうな言い訳を思い付く前に、ハーレイがいた場所は遠くなっている。
それに「ハーレイ」の方にしたって、その道を真っ直ぐ、歩き続けるとは限らない。
(途中で曲がってしまってるとか、何処かの建物に入っちゃったとか…)
そうなっていたら、言い訳を考えてバスを戻しても、もう「ハーレイ」は見付からない。
他の道へと曲がって行って、違う所を歩いているから。
あるいは建物の中に入って、バスが走るような道を離れてしまっているから。
(…頑張って、バスを戻しても…)
二度と見付からない、愛おしい人。
自分は確かに気が付いたのに。
「ハーレイ」の姿を見付けた途端に、何もかも思い出したのに。
(……そういう風に出会っちゃったら……)
どうやって「ハーレイ」を探せばいいのか、どうすれば、また会えるのか。
今も「ハーレイ」という名前かどうかも、分からないのに。
ハーレイが何処に住んでいるかも、考えるほどに、謎が深まるのに。
そう、「ハーレイ」を見掛けた場所が、今の「ハーレイ」が暮らす町とは言い切れない。
ハーレイの仕事が教師でなければ、出張なんかは普通のこと。
他所の町から仕事で来ていて、たまたま歩いていたというだけ。
「ブルー」を乗っけた遠足のバスが、其処を走っていた時に。
(…出張で来ていたんなら…)
仕事が済んだら、帰って行ってしまうだろう。
何処から来たのか知らないけれども、今の「ハーレイ」が住む町へ。
(学校の先生をやっていたって…)
研修などで遠くに行くから、「他の町」で出会う可能性だって少なくない。
つまり「ハーレイ」が住んでいる場所さえ、今の自分には分からない。
「きっと、あそこの町なんだよ」と、見掛けた場所で探すにしたって…。
(……どうすればいいの?)
その町に「こういう人はいませんか」と、新聞に投書するくらいしか思い付かない。
「バスの窓から見掛けたんです」と、「うんと昔の知り合いなんです」と。
(…ぼくは子供だから、そう書いたって…)
新聞記者の目に留まったなら、載せて貰えることだろう。
幼かった日に、親切にして貰った「知らない人」を、見掛けて思い出したのかも、と。
「会って、お礼を言いたいんだな」と、「見付かるといいが」と、考えてくれて。
(…でも、その新聞を、ハーレイが…)
読んでくれないと、全く気付いて貰えない。
今のハーレイは新聞を愛読しているけれども、新聞と言っても、幾つもあるから…。
(…ハーレイが取ってる新聞でないと…)
投書は無駄になってしまって、ハーレイに読んで貰えはしない。
運が良ければ、「ハーレイ」の知り合いの誰かが、気付いてくれて…。
(これは、お前のことじゃないか、って…)
尋ねてくれるかもしれないけれど、あまり期待は出来そうもない。
そうなれば「ハーレイ」には出会えないまま、時が流れてゆくのだろう。
「あの日、確かに見付けたのに」と、心に想いを残したままで。
何処かで再び出会えないかと、ただ、その日だけを待ち望みながら。
(…もう一度、ハーレイに会いたいよ、って…)
会わせて下さい、と神に祈って、祈り続けて、願いが叶ったとしても。
また「ハーレイ」に気付いたとしても、その時も「同じ」かもしれない。
(……気付いているのに、出会えなくって……)
声さえも届けられないままで、離れていってしまう距離。
今度は宙港で出会うのだろうか、宇宙船を見ようと展望台に出掛けた時に。
離陸してゆく宇宙船の窓の向こうに、「ハーレイ」がいる、と気が付いた自分。
「ハーレイ」の方でも、今度は視線を展望台の方に向けていて…。
(…あっ、ていう顔をするんだよ…)
きっと「ブルー」に気が付いたのだ、と分かる表情。
ようやく互いに気付いたけれど、「ハーレイ」も「ブルー」を見付けてくれたけれども…。
(……宇宙船、飛んで行っちゃって……)
それっきりになってしまって、出会えない二人。
ハーレイを乗せた宇宙船の前後に、何機も離陸した同じタイプの宇宙船。
正確な時刻が分からないから、何処へ行った船か分からなくて。
「ハーレイ」の方も、「ブルー」を探そうと努力するのに、実らなくて。
(…そんなの、嫌だ…)
気付いているのに、会えないなんて、とゾッとするから、今日の不運は不運の内にも入らない。
ハーレイには、ちゃんと会うことが出来て、今も恋人同士だから。
今日は会えずに終わったけれども、会えた時には、幸せな時を過ごせるから…。
気付いているのに・了
※ハーレイ先生を見掛けただけで終わってしまったブルー君。溜息が零れるばかりですけど…。
互いの存在に気付いている分、幸せな今の人生。そうじゃない出会いも有り得たかも…?
家にも来てくれなかったから、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は会えずに終わったハーレイ。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…ホントは、ちょっぴり、ほんの少しだけ…)
会えていないわけじゃないんだけれど、と昼間の出来事を思い返した。
休み時間に友人たちと、校舎の外を歩いていた時のこと。
(…国語の先生たちのためにある、準備室…)
それがある校舎に、ハーレイが入ってゆくのを見掛けた。
一歩踏み出せば、もう校舎の中、そういう入口の直ぐ近くで。
(あと一歩、ってトコだったけれど…)
大きな声で「ハーレイ先生!」と呼び掛けたならば、きっと振り向いて貰えただろう。
こちらを向いて、笑顔で手だって振ってくれたと思うけれども…。
(……ぼくは友達と一緒だったし……)
ハーレイの方も、他の先生と話をしながら歩いていた。
そうでなかったら、ハーレイが一人だったなら…。
(真っ直ぐ、校舎に入る代わりに…)
足を止めて、見回してくれた気がする。
休み時間の最中なのだし、何人もの生徒が出歩いている時間帯。
その中にブルーがいるかもしれない、とチビの恋人が歩いていないか、確かめるために。
(…そうだよね?)
そうでなくても、其処まで歩いて来るまでの道中、「ブルー」を探していただろう。
目の色を変えてとは言わないけれども、運良く、出会えるかもしれない、と。
(…キョロキョロしたりはしなくても…)
何気ない顔で歩きながらも、探してくれてはいたのだと思う。
他の先生と一緒でなければ、「ブルーに会えればいいんだがな」と。
「ちょいと手を振るだけでもいいから、あいつに会えれば嬉しいんだが」と。
ハーレイなら探してくれた筈だよ、と考えることは、思い上がりではないだろう。
前の生からの恋人同士で、今も恋人なのだから。
キスさえくれない恋人だけれど、「キスは早すぎる」と叱られるチビの子供だけれど。
(…でも、ハーレイなら…)
探してくれたし、気付いてくれた筈なのに。
他の先生さえ一緒でなければ、見回してくれたと思うのに…。
(……真っ直ぐ、入って行っちゃった……)
振り向きさえもしなかったよね、と浮かぶのは「消えてゆくハーレイ」ばかり。
こっちには顔も向けてくれずに、他の先生と話しながら。
「ブルー」にはまるで気付きもしないで、校舎の中へと消えてゆく姿。
(…ぼくだって、声を掛けられなかったし…)
お互い様だと思うけれども、やっぱり少し悲しくなる。
「ぼくは、ハーレイに気付いてたのに」と。
「ハーレイの方では、全然、気付いてくれなかったよ」と。
(…あれでも、会えたとは言うんだろうけど…)
会えない時だと、姿も見られないんだから、と思いはしても、寂しい気持ちは変わらない。
なまじ姿を見掛けた分だけ、「全く会えずに終わった」日よりも、辛い気もする。
何故なら、自分は「気付いた」から。
「あっ、ハーレイだ!」と心が躍った、そんな瞬間を味わったから。
(……気付いているのに、それっきりって……)
なんだか酷い、と神様を恨みたい気分。
ハーレイの姿を見掛けた時には、「今日はツイてる」と考えたほど。
「今日はハーレイの授業は無いけど、会えちゃったよね」と。
一方的な出会いだけれども、とても素敵な偶然で。
「こんな所で会えるんだったら、後で、絶対、会えるんだから」と飛び跳ねた心。
廊下で会うのか、グラウンドで会えるか、もっと違う場所で出会うのか。
(次に会えたら、ちゃんとハーレイが気付いてくれて…)
声を掛けてくれて、話も出来ることだろう。
学校の中では、教師と生徒の会話だけれども、それでも充分、幸せな時間。
ついでに学校が終わった後には、家にも寄ってくれるのだろう、と膨らんだ期待。
「今日はゆっくり、お喋り出来るよ」と、「晩ご飯だって、ハーレイと一緒なんだよね」と。
ところがどっこい、期待外れに終わった一日。
ハーレイには二度と出会えないまま、今日という日は暮れてしまって…。
(…ほんのちょっぴり、一方的に…)
会えただけだよ、と零れる溜息。
「あんまりだよね」と、「気付いているのに、話も出来なかっただなんて」と。
大好きな笑顔も向けて貰えず、手だって、振って貰えていない。
確かに「ハーレイ」を見掛けたのに。
ハーレイの姿に心が躍って、ツイているとまで考えたのに。
(……今日の神様、ホントに意地悪……)
こんなの酷い、と嘆いたはずみに、心を掠めていったこと。
「気付いているのに、会えなかったら?」と。
今日の出来事とは全く違って、「最初から、そういう出会いだったら?」と。
(…ぼくとハーレイ、五月の三日に出会ったけれど…)
自分に現れた聖痕のお蔭で、二人揃って記憶が戻って、今では恋人同士だけれど…。
(……ああいう風な出会いじゃなくって……)
ぼくだけ、ハーレイに気が付いちゃう、っていうことも…、と怖い考えが頭に浮かんだ。
聖痕などとは全く無縁に、ある日、突然、記憶が戻る。
「ハーレイ」の姿を何処かで見掛けて、「ハーレイなんだ」と気付いた時に。
あそこに確かにハーレイがいると、前の生から愛した人だ、と。
(…でも、気付いたのは、ぼくだけで…)
ハーレイの方は、少しも気付いていないんだよ、と「悲しすぎる出会い」が心に広がってゆく。
自分の方では気付いているのに、ハーレイは、まるで気が付かない。
その上、出会いは、ほんの一瞬、アッと言う間に離れてゆく距離。
声を掛けてもいないのに。
「ハーレイ!」と声を掛ける暇さえ、そのチャンスさえも無いままで。
(…学校から遠足に行った先とか…)
有り得るよね、と嫌な想像が膨らみ始める。
本当の出会いは「そうではない」のに、「そうじゃなかったら?」と、違う方へと。
気付いているのに出会えない出会い、そういう出会いも有り得たのだ、と。
(……学校の遠足、休んじゃったことも多いけど……)
バスで遠くへ出掛けて行って、一日過ごして、学校のある町へ帰って来る。
その遠足に出掛けた時に、ハーレイの姿に気が付く自分。
バスから降りて、何かしている時ではなくて…。
(…バスの窓から、外を見ていて…)
歩いているハーレイの姿を見掛けて、その瞬間に「思い出す」。
「ハーレイなんだ」と。
其処にいるのは愛おしい人で、遠く遥かな時の彼方で愛した人だ、と。
(だけど、ハーレイは気が付いてなくて…)
こちらの方を眺めもしないで、何処かへ向かって歩いているだけ。
そして窓から呼び掛けようにも、バスは走っているのだから…。
(…ハーレイなんだ、って気が付いたって…)
その場で止まってなどはくれずに、目的地に向かって走り続ける。
歩いているハーレイを一瞬で追い越し、たちまち後ろへ置き去りにして。
「バスを止めて!」と叫びたくても、ただの生徒ではどうにもならない。
(……気分が悪くなったから、止めて下さい、って……)
止めて貰えそうな言い訳を思い付く前に、ハーレイがいた場所は遠くなっている。
それに「ハーレイ」の方にしたって、その道を真っ直ぐ、歩き続けるとは限らない。
(途中で曲がってしまってるとか、何処かの建物に入っちゃったとか…)
そうなっていたら、言い訳を考えてバスを戻しても、もう「ハーレイ」は見付からない。
他の道へと曲がって行って、違う所を歩いているから。
あるいは建物の中に入って、バスが走るような道を離れてしまっているから。
(…頑張って、バスを戻しても…)
二度と見付からない、愛おしい人。
自分は確かに気が付いたのに。
「ハーレイ」の姿を見付けた途端に、何もかも思い出したのに。
(……そういう風に出会っちゃったら……)
どうやって「ハーレイ」を探せばいいのか、どうすれば、また会えるのか。
今も「ハーレイ」という名前かどうかも、分からないのに。
ハーレイが何処に住んでいるかも、考えるほどに、謎が深まるのに。
そう、「ハーレイ」を見掛けた場所が、今の「ハーレイ」が暮らす町とは言い切れない。
ハーレイの仕事が教師でなければ、出張なんかは普通のこと。
他所の町から仕事で来ていて、たまたま歩いていたというだけ。
「ブルー」を乗っけた遠足のバスが、其処を走っていた時に。
(…出張で来ていたんなら…)
仕事が済んだら、帰って行ってしまうだろう。
何処から来たのか知らないけれども、今の「ハーレイ」が住む町へ。
(学校の先生をやっていたって…)
研修などで遠くに行くから、「他の町」で出会う可能性だって少なくない。
つまり「ハーレイ」が住んでいる場所さえ、今の自分には分からない。
「きっと、あそこの町なんだよ」と、見掛けた場所で探すにしたって…。
(……どうすればいいの?)
その町に「こういう人はいませんか」と、新聞に投書するくらいしか思い付かない。
「バスの窓から見掛けたんです」と、「うんと昔の知り合いなんです」と。
(…ぼくは子供だから、そう書いたって…)
新聞記者の目に留まったなら、載せて貰えることだろう。
幼かった日に、親切にして貰った「知らない人」を、見掛けて思い出したのかも、と。
「会って、お礼を言いたいんだな」と、「見付かるといいが」と、考えてくれて。
(…でも、その新聞を、ハーレイが…)
読んでくれないと、全く気付いて貰えない。
今のハーレイは新聞を愛読しているけれども、新聞と言っても、幾つもあるから…。
(…ハーレイが取ってる新聞でないと…)
投書は無駄になってしまって、ハーレイに読んで貰えはしない。
運が良ければ、「ハーレイ」の知り合いの誰かが、気付いてくれて…。
(これは、お前のことじゃないか、って…)
尋ねてくれるかもしれないけれど、あまり期待は出来そうもない。
そうなれば「ハーレイ」には出会えないまま、時が流れてゆくのだろう。
「あの日、確かに見付けたのに」と、心に想いを残したままで。
何処かで再び出会えないかと、ただ、その日だけを待ち望みながら。
(…もう一度、ハーレイに会いたいよ、って…)
会わせて下さい、と神に祈って、祈り続けて、願いが叶ったとしても。
また「ハーレイ」に気付いたとしても、その時も「同じ」かもしれない。
(……気付いているのに、出会えなくって……)
声さえも届けられないままで、離れていってしまう距離。
今度は宙港で出会うのだろうか、宇宙船を見ようと展望台に出掛けた時に。
離陸してゆく宇宙船の窓の向こうに、「ハーレイ」がいる、と気が付いた自分。
「ハーレイ」の方でも、今度は視線を展望台の方に向けていて…。
(…あっ、ていう顔をするんだよ…)
きっと「ブルー」に気が付いたのだ、と分かる表情。
ようやく互いに気付いたけれど、「ハーレイ」も「ブルー」を見付けてくれたけれども…。
(……宇宙船、飛んで行っちゃって……)
それっきりになってしまって、出会えない二人。
ハーレイを乗せた宇宙船の前後に、何機も離陸した同じタイプの宇宙船。
正確な時刻が分からないから、何処へ行った船か分からなくて。
「ハーレイ」の方も、「ブルー」を探そうと努力するのに、実らなくて。
(…そんなの、嫌だ…)
気付いているのに、会えないなんて、とゾッとするから、今日の不運は不運の内にも入らない。
ハーレイには、ちゃんと会うことが出来て、今も恋人同士だから。
今日は会えずに終わったけれども、会えた時には、幸せな時を過ごせるから…。
気付いているのに・了
※ハーレイ先生を見掛けただけで終わってしまったブルー君。溜息が零れるばかりですけど…。
互いの存在に気付いている分、幸せな今の人生。そうじゃない出会いも有り得たかも…?
