(いつか、こういう夜も無くなるんだな…)
あと何年か経ったならな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(今の俺は、一人暮らしなんだが…)
ブルーが結婚出来る年になったら、一人暮らしではなくなるだろう。
待ちかねていた恋人が、この家に早々に引っ越して来て。
(あいつのことだし、何年も待ってるわけがないしな?)
上の学校にも進学しないで、ブルーは、来るに違いない。
十八歳になった途端に、結婚式を挙げて、この家の住人になるブルー。
そうなったならば、今夜のような「一人の夜」は、消えて無くなる。
コーヒー片手に書斎に来たって、ブルーは、ついて来るだろう。
「何を読むの?」と興味津々、書棚から本を選ぶ間も、きっと隣に立っている。
(邪魔するなよ、と言ってみたって…)
ブルーは「うん」と返事はしても、書斎から出てはいかないと思う。
自分は自分で何か選んで、そのままストンと床に座って、勝手に読書。
「これなら邪魔にならないでしょ?」と言わんばかりに、黙って本を読むブルー。
(…書斎で、テストとかを採点していても…)
同じ理屈で、ブルーはいるに違いない。
「ハーレイの邪魔にならない範囲」で、ブルー自身のスタイルで。
本を読んだり、新聞や雑誌を持ち込んだりと、暇つぶしになる何かを見付け出して。
(確かに、邪魔にはなっていないし…)
そういう時間も、とても幸せに思えることだろう。
少々、ブルーに気を取られようと、それは「ブルーがいるからこそ」。
今夜のように一人きりでは、気を取られたりすることさえ無い。
だから待ち遠しく思うけれども、「ブルーがいる」のが、当たり前になってしまった後。
「ちょっと邪魔だぞ」と、ふざけて言ったりもしたくなる頃、一人きりの夜が来たならば…。
(…どうなるだろうな?)
今とは逆の状況なんだが…、と首を捻った。
「そんな夜には、どうするんだ?」と。
ブルーと結婚式を挙げたら、二人で暮らすに決まっている。
この家にブルーの荷物が運び込まれて、ブルーのための部屋も出来上がる。
毎日、朝には一緒に朝食、それから仕事に出掛けて行って…。
(あいつが留守番してるってわけで…)
仕事が終わって帰って来たなら、ちゃんとブルーが待っている。
夕食の支度は、多分、ブルーがするのではなくて、自分の担当だろうけれども。
(なんたって、俺は料理が得意で、経験も豊富なんだしな?)
帰宅してからササッと作って、ブルーと二人で食べるのがいい。
「今日は、こいつがあったからな」と、買って来た食材を披露して。
「こうやって食うのが美味いんだぞ」などと、料理する姿も、ブルーに見せて。
(…仕事の無い日は、もちろん、朝から夜まで一緒で…)
何処に行くのも、ブルーと一緒。
買物も、散歩に出掛けてゆくのも、何をするのもブルーと二人で当たり前の休日。
そういった暮らしが、判で押したように続いてゆきそうだけれど…。
(…あいつと違って、俺が留守番する時だって…)
無いとは言い切れないだろう。
ブルーにも、ブルーの人生があって、ブルーの世界があるのだから。
学校の友人たちと出掛けて、留守にする日も来そうではある。
(明日の昼間は、出掛けて来るね、って…)
留守にすることも、まるで無いとは言えないと思う。
ついでに言うなら、昼間どころか、夜になっても…。
(帰って来ないってこともあるよなあ?)
次の日もな、と顎に当てる手。
「なんたって、あいつは若いんだから」と。
ブルーは結婚する気だけれども、ブルーの友人たちの場合は、そうではない。
彼らは十八歳になれば進学、上の学校へと進むだろう。
中には、今、住んでいる町を離れて…。
(ちょっと遠い所の学校に行こうってヤツも…)
いるだろうから、そういう友人に招かれたならば、ブルーは家を留守にする。
「友達の家まで行って来るね」と、泊りがけで遊びに出掛けて行って。
(…大いに有り得る話だよなあ…)
あいつが出掛けちまって留守番、とカップを片手に頷いた。
ブルーが泊まりで出掛けて行ったら、今夜と同じで、一人きりの夜が訪れる。
それより前の昼間の時点で、既に一人の時間だけれど。
家に帰ってもブルーはいなくて、この家の中に、ポツンと一人。
(…いやいや、そこは上手にだな…)
やってみせるさ、と想像してみることにした。
「ブルーがいなくて、留守番するなら」と、その間の自分の状況を。
どんな具合に時間を潰して、どういう夜を過ごすのかと。
(…仕事のある日じゃ、想像し甲斐が無いってモンだし…)
休み中ってことで考えるかな、と場面を長期休暇に設定した。
如何にもブルーが留守にしそうで、友達も招待しそうな時期が夏休みなど。
(朝に、あいつを送り出して、だ…)
車で何処かまで送ってやったら、その後は、自分一人の時間。
まずはそのまま、ドライブもいい。
いつもはブルーと出掛ける所を、一人、気ままに。
「その辺で、休憩した方がいいよな」などと、気遣う相手がいないドライブ。
(何処まで行こうが、休憩無しで突っ走ろうが…)
自由なのだし、とても新鮮に感じることだろう。
今の自分には普通だけれども、結婚した後は、もう出来なくなるドライブだから。
気ままに走ってゆくことなんかは、ブルーと一緒では難しいから。
(うん、なかなかに…)
悪くないぞ、と出だしは上々。
ブルーがいない留守番の暮らしは、ドライブで始めるのが良さそうだ。
思いのままにハンドルを切って、気の向くままに愛車で走る。
休憩場所など考えないで、「此処にしよう」と思ったら、停めて入ってゆく。
喫茶店でも、農産物の直売所でも、「これだ」とピンと来た場所に。
(入ったら、ぐるっと見回して…)
此処だ、と決めた席に座るとか、あるいは立ったまま、飲むとか、齧るとか。
ブルーと一緒では出来ない冒険、行儀なんかも気にしない。
気ままな男の一人旅だし、誰にも気兼ねは要らないから。
(今だと、まさにそうなんだがなあ…)
ブルーの家には寄れなかった日に、夜にドライブするような時。
思い立ったら車を走らせ、目についた店で食事したりもするけれど…。
(あいつと一緒に暮らし始めたら、そいつは無理だ)
遅くなったら、ブルーは疲れて眠ってしまうし、身体にも悪い。
そうでなくても虚弱な恋人、そうそう引っ張り回せはしない。
(…ドライブもそうだし、街に出掛けて行ったって…)
ブルーのためには、こまめに休憩、飲食する店も気を遣わねば。
騒がしい店など選べはしないし、席もゆったりしている店しか入れないだろう。
(そりゃあ、たまには…)
カウンター席もいいだろうけれど、あくまで「たまに」。
ブルーの身体の調子が良くて、「ちょっと冒険したって、いい日」。
だから自然と生まれる制約、二人だからこそ失う「自由」。
(あいつが出掛けて、留守番するなら…)
失くしてしまった自由を満喫、思い切り羽を伸ばして暮らす。
ドライブの後は、街へと走って、あちこち一人で歩くのもいい。
ブルーと二人だった時には、入れなかった店を回って、一日、のんびり。
「あいつは退屈するだろうから」と御無沙汰だった、いろんなスポットを楽しんで。
(…あいつが一緒でも、少しくらいは…)
そうした場所にも寄るだろうけれど、早めに出るのは間違いない。
「お前には、ちょっと退屈だろう」と、ブルーの気持ちを気遣って。
いくらブルーが「ううん」と首を横に振っても、瞳を見れば本音が分かる。
「ハーレイの好きな場所なんだから」と、好奇心一杯だろうけれども、疲れている、と。
(…あいつは、そういうヤツなんだ…)
自分の身体が辛くなっても、相手の気持ちが最優先。
それに「ハーレイが大好きなもの」は、体験したくなるのがブルー。
今の所は、コーヒーに挑戦程度だけれども、結婚したなら、挑戦は増える。
「ハーレイのお気に入り」に片っ端から挑んで、それで疲れて寝込んでも…。
(ちっとも懲りやしないんだ、きっと)
その分、俺が気を付けないと…、と分かっているから、出来ないことが増えてゆく。
気ままなドライブや、足の向くまま歩くことやら、今は「普通」にある自由を失くして。
(留守番するなら、そういったことを…)
思う存分、謳歌した後、買い物をして家路につく。
「今夜は、俺しかいないんだしな?」と、一人分の食材を買い込んで。
普段は買わない総菜などを買うのもいいし、インスタントも悪くないだろう。
ブルーと一緒の暮らしだったら、そんな手抜きはしないから。
(弁当を買って、食うのもいいよな)
酒とつまみも買うとするかな、と「独身の夜」を計画してゆく。
今の自分なら「気が向いた時に出来ること」が、ブルーと一緒では出来ないから。
ブルーが留守にしている時しか、手抜きの夕食などは不可能。
(もっとも、普段の俺にしたって…)
手抜きなんぞはしないんだがな、と思うからこそ、手抜きがいい。
せっかくの「独身に戻った夜」だし、それっぽいのが楽しそうだから。
料理などとは無縁の男子学生だったら、こうなるだろう、といった夕食。
(インスタントか、はたまた弁当…)
それでも酒があったら上々、と学生時代の友人たちを思い浮かべてニヤリとする。
「気ままな一人暮らしってヤツだ」と、「ブルーが留守の間だけだが」と。
手抜きの夕食を食べるからには、後片付けの方も手抜きが一番。
「明日の朝、纏めて洗えばいいさ」と、キッチンのシンクに突っ込んで終わり。
(流石に、水で軽く流して…)
汚れは軽く取っておくが、と考える辺りが、少々、所帯じみているけれど、仕方ない。
一人暮らしが長すぎるのと、料理好きなのと、マメなのが「悪い」。
(手抜きした後は、酒をゆっくり楽しんで…)
眠くなったら、ベッドに潜り込んでおしまい。
「ブルーがいない」寂しさなんかは、何処かへ消し飛んでいそうな夜。
あまりにも、「一人」が楽しくて。
独身時代に戻った一日、それですっかり満足して。
(…おいおいおい…)
それじゃ、あいつに悪くないか、と思うけれども、どうやら自分は…。
(…ブルーが留守でも、ちっとも寂しくないようだぞ?)
留守番するなら、楽しんじまうタイプなんだな、と浮かべた苦笑。
「きっと、前の俺のせいなんだろう」と。
前のブルーがいなくなった後、一人きりで長く生きていたのが悪い、と言い訳する。
「ブルーが何処にもいない」人生は辛いけれども、留守ならば、別。
気を遣わないでも大丈夫な分、「羽を伸ばしたくなったりするさ」と。
「留守番するなら、ちょいと御褒美を貰うくらいは、許されるってモンなんだから」と…。
留守番するなら・了
※結婚した後、ブルー君が留守で、留守番するなら…、と想像してみたハーレイ先生。
泊りがけで出掛けて行ったら、独身生活を満喫するようです。人生を楽しめるタイプですねv
あと何年か経ったならな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(今の俺は、一人暮らしなんだが…)
ブルーが結婚出来る年になったら、一人暮らしではなくなるだろう。
待ちかねていた恋人が、この家に早々に引っ越して来て。
(あいつのことだし、何年も待ってるわけがないしな?)
上の学校にも進学しないで、ブルーは、来るに違いない。
十八歳になった途端に、結婚式を挙げて、この家の住人になるブルー。
そうなったならば、今夜のような「一人の夜」は、消えて無くなる。
コーヒー片手に書斎に来たって、ブルーは、ついて来るだろう。
「何を読むの?」と興味津々、書棚から本を選ぶ間も、きっと隣に立っている。
(邪魔するなよ、と言ってみたって…)
ブルーは「うん」と返事はしても、書斎から出てはいかないと思う。
自分は自分で何か選んで、そのままストンと床に座って、勝手に読書。
「これなら邪魔にならないでしょ?」と言わんばかりに、黙って本を読むブルー。
(…書斎で、テストとかを採点していても…)
同じ理屈で、ブルーはいるに違いない。
「ハーレイの邪魔にならない範囲」で、ブルー自身のスタイルで。
本を読んだり、新聞や雑誌を持ち込んだりと、暇つぶしになる何かを見付け出して。
(確かに、邪魔にはなっていないし…)
そういう時間も、とても幸せに思えることだろう。
少々、ブルーに気を取られようと、それは「ブルーがいるからこそ」。
今夜のように一人きりでは、気を取られたりすることさえ無い。
だから待ち遠しく思うけれども、「ブルーがいる」のが、当たり前になってしまった後。
「ちょっと邪魔だぞ」と、ふざけて言ったりもしたくなる頃、一人きりの夜が来たならば…。
(…どうなるだろうな?)
今とは逆の状況なんだが…、と首を捻った。
「そんな夜には、どうするんだ?」と。
ブルーと結婚式を挙げたら、二人で暮らすに決まっている。
この家にブルーの荷物が運び込まれて、ブルーのための部屋も出来上がる。
毎日、朝には一緒に朝食、それから仕事に出掛けて行って…。
(あいつが留守番してるってわけで…)
仕事が終わって帰って来たなら、ちゃんとブルーが待っている。
夕食の支度は、多分、ブルーがするのではなくて、自分の担当だろうけれども。
(なんたって、俺は料理が得意で、経験も豊富なんだしな?)
帰宅してからササッと作って、ブルーと二人で食べるのがいい。
「今日は、こいつがあったからな」と、買って来た食材を披露して。
「こうやって食うのが美味いんだぞ」などと、料理する姿も、ブルーに見せて。
(…仕事の無い日は、もちろん、朝から夜まで一緒で…)
何処に行くのも、ブルーと一緒。
買物も、散歩に出掛けてゆくのも、何をするのもブルーと二人で当たり前の休日。
そういった暮らしが、判で押したように続いてゆきそうだけれど…。
(…あいつと違って、俺が留守番する時だって…)
無いとは言い切れないだろう。
ブルーにも、ブルーの人生があって、ブルーの世界があるのだから。
学校の友人たちと出掛けて、留守にする日も来そうではある。
(明日の昼間は、出掛けて来るね、って…)
留守にすることも、まるで無いとは言えないと思う。
ついでに言うなら、昼間どころか、夜になっても…。
(帰って来ないってこともあるよなあ?)
次の日もな、と顎に当てる手。
「なんたって、あいつは若いんだから」と。
ブルーは結婚する気だけれども、ブルーの友人たちの場合は、そうではない。
彼らは十八歳になれば進学、上の学校へと進むだろう。
中には、今、住んでいる町を離れて…。
(ちょっと遠い所の学校に行こうってヤツも…)
いるだろうから、そういう友人に招かれたならば、ブルーは家を留守にする。
「友達の家まで行って来るね」と、泊りがけで遊びに出掛けて行って。
(…大いに有り得る話だよなあ…)
あいつが出掛けちまって留守番、とカップを片手に頷いた。
ブルーが泊まりで出掛けて行ったら、今夜と同じで、一人きりの夜が訪れる。
それより前の昼間の時点で、既に一人の時間だけれど。
家に帰ってもブルーはいなくて、この家の中に、ポツンと一人。
(…いやいや、そこは上手にだな…)
やってみせるさ、と想像してみることにした。
「ブルーがいなくて、留守番するなら」と、その間の自分の状況を。
どんな具合に時間を潰して、どういう夜を過ごすのかと。
(…仕事のある日じゃ、想像し甲斐が無いってモンだし…)
休み中ってことで考えるかな、と場面を長期休暇に設定した。
如何にもブルーが留守にしそうで、友達も招待しそうな時期が夏休みなど。
(朝に、あいつを送り出して、だ…)
車で何処かまで送ってやったら、その後は、自分一人の時間。
まずはそのまま、ドライブもいい。
いつもはブルーと出掛ける所を、一人、気ままに。
「その辺で、休憩した方がいいよな」などと、気遣う相手がいないドライブ。
(何処まで行こうが、休憩無しで突っ走ろうが…)
自由なのだし、とても新鮮に感じることだろう。
今の自分には普通だけれども、結婚した後は、もう出来なくなるドライブだから。
気ままに走ってゆくことなんかは、ブルーと一緒では難しいから。
(うん、なかなかに…)
悪くないぞ、と出だしは上々。
ブルーがいない留守番の暮らしは、ドライブで始めるのが良さそうだ。
思いのままにハンドルを切って、気の向くままに愛車で走る。
休憩場所など考えないで、「此処にしよう」と思ったら、停めて入ってゆく。
喫茶店でも、農産物の直売所でも、「これだ」とピンと来た場所に。
(入ったら、ぐるっと見回して…)
此処だ、と決めた席に座るとか、あるいは立ったまま、飲むとか、齧るとか。
ブルーと一緒では出来ない冒険、行儀なんかも気にしない。
気ままな男の一人旅だし、誰にも気兼ねは要らないから。
(今だと、まさにそうなんだがなあ…)
ブルーの家には寄れなかった日に、夜にドライブするような時。
思い立ったら車を走らせ、目についた店で食事したりもするけれど…。
(あいつと一緒に暮らし始めたら、そいつは無理だ)
遅くなったら、ブルーは疲れて眠ってしまうし、身体にも悪い。
そうでなくても虚弱な恋人、そうそう引っ張り回せはしない。
(…ドライブもそうだし、街に出掛けて行ったって…)
ブルーのためには、こまめに休憩、飲食する店も気を遣わねば。
騒がしい店など選べはしないし、席もゆったりしている店しか入れないだろう。
(そりゃあ、たまには…)
カウンター席もいいだろうけれど、あくまで「たまに」。
ブルーの身体の調子が良くて、「ちょっと冒険したって、いい日」。
だから自然と生まれる制約、二人だからこそ失う「自由」。
(あいつが出掛けて、留守番するなら…)
失くしてしまった自由を満喫、思い切り羽を伸ばして暮らす。
ドライブの後は、街へと走って、あちこち一人で歩くのもいい。
ブルーと二人だった時には、入れなかった店を回って、一日、のんびり。
「あいつは退屈するだろうから」と御無沙汰だった、いろんなスポットを楽しんで。
(…あいつが一緒でも、少しくらいは…)
そうした場所にも寄るだろうけれど、早めに出るのは間違いない。
「お前には、ちょっと退屈だろう」と、ブルーの気持ちを気遣って。
いくらブルーが「ううん」と首を横に振っても、瞳を見れば本音が分かる。
「ハーレイの好きな場所なんだから」と、好奇心一杯だろうけれども、疲れている、と。
(…あいつは、そういうヤツなんだ…)
自分の身体が辛くなっても、相手の気持ちが最優先。
それに「ハーレイが大好きなもの」は、体験したくなるのがブルー。
今の所は、コーヒーに挑戦程度だけれども、結婚したなら、挑戦は増える。
「ハーレイのお気に入り」に片っ端から挑んで、それで疲れて寝込んでも…。
(ちっとも懲りやしないんだ、きっと)
その分、俺が気を付けないと…、と分かっているから、出来ないことが増えてゆく。
気ままなドライブや、足の向くまま歩くことやら、今は「普通」にある自由を失くして。
(留守番するなら、そういったことを…)
思う存分、謳歌した後、買い物をして家路につく。
「今夜は、俺しかいないんだしな?」と、一人分の食材を買い込んで。
普段は買わない総菜などを買うのもいいし、インスタントも悪くないだろう。
ブルーと一緒の暮らしだったら、そんな手抜きはしないから。
(弁当を買って、食うのもいいよな)
酒とつまみも買うとするかな、と「独身の夜」を計画してゆく。
今の自分なら「気が向いた時に出来ること」が、ブルーと一緒では出来ないから。
ブルーが留守にしている時しか、手抜きの夕食などは不可能。
(もっとも、普段の俺にしたって…)
手抜きなんぞはしないんだがな、と思うからこそ、手抜きがいい。
せっかくの「独身に戻った夜」だし、それっぽいのが楽しそうだから。
料理などとは無縁の男子学生だったら、こうなるだろう、といった夕食。
(インスタントか、はたまた弁当…)
それでも酒があったら上々、と学生時代の友人たちを思い浮かべてニヤリとする。
「気ままな一人暮らしってヤツだ」と、「ブルーが留守の間だけだが」と。
手抜きの夕食を食べるからには、後片付けの方も手抜きが一番。
「明日の朝、纏めて洗えばいいさ」と、キッチンのシンクに突っ込んで終わり。
(流石に、水で軽く流して…)
汚れは軽く取っておくが、と考える辺りが、少々、所帯じみているけれど、仕方ない。
一人暮らしが長すぎるのと、料理好きなのと、マメなのが「悪い」。
(手抜きした後は、酒をゆっくり楽しんで…)
眠くなったら、ベッドに潜り込んでおしまい。
「ブルーがいない」寂しさなんかは、何処かへ消し飛んでいそうな夜。
あまりにも、「一人」が楽しくて。
独身時代に戻った一日、それですっかり満足して。
(…おいおいおい…)
それじゃ、あいつに悪くないか、と思うけれども、どうやら自分は…。
(…ブルーが留守でも、ちっとも寂しくないようだぞ?)
留守番するなら、楽しんじまうタイプなんだな、と浮かべた苦笑。
「きっと、前の俺のせいなんだろう」と。
前のブルーがいなくなった後、一人きりで長く生きていたのが悪い、と言い訳する。
「ブルーが何処にもいない」人生は辛いけれども、留守ならば、別。
気を遣わないでも大丈夫な分、「羽を伸ばしたくなったりするさ」と。
「留守番するなら、ちょいと御褒美を貰うくらいは、許されるってモンなんだから」と…。
留守番するなら・了
※結婚した後、ブルー君が留守で、留守番するなら…、と想像してみたハーレイ先生。
泊りがけで出掛けて行ったら、独身生活を満喫するようです。人生を楽しめるタイプですねv
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「致命的だよね…」
ホントに致命的だと思う、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「致命的だと?」
いきなりどうした、とハーレイは恋人の顔を覗き込んだ。
致命的とは、聞いただけでも穏やかではない。
いったい何があったというのか、聞き出さなければ。
(何かミスでもやらかしたのか?)
きっとそうだな、と心の中で見当を付けた。
ブルーにとっては致命的だと思える失敗、そんな所だと。
けれど、ブルーは話そうとしない。
ハーレイの顔を見詰めるだけで、言葉を紡ぐ気配も無い。
それでは何も出来はしないし、改めて問いを投げ掛ける。
「おい、話さないと何も分からないぞ?」
黙っていても俺には通じん、と話すようにと促した。
「致命的だというヤツのことを、分かるように話せ」と。
するとブルーは、もう一度、深い溜息をついた。
「分からない?」と、肩を竦めて。
「そういうトコだよ」と、「致命的なのは」と。
「……はあ?」
ますますもって分からんぞ、と疑問が更に膨らんでゆく。
「話せ」という言葉の何処を取ったら、致命的なのか。
(…しかしだな…)
今のブルーの言葉からして、問題は「自分」の方らしい。
致命的な何かを持っているのは、ブルーではなくて…。
(俺の方だ、という意味だよな?)
どうやらそうだ、と其処までは辛うじて推測出来た。
だが、その先が分からない。
自分の何が致命的なのか、どういう部分がソレなのかが。
(……うーむ……)
今日、此処に来てから、失敗をしてはいないと思う。
ブルーの両親には、いつも通りに挨拶をしたし…。
(昼飯を服に零しちゃいないし、お茶だって…)
午前も今も、服もテーブルも汚してはいない。
食べ方がガサツだったということだって、無いだろう。
礼儀作法には自信があるし、姿勢も悪くない筈だ。
(それなのに、何処が致命的だと?)
俺の何処が問題になると言うんだ、と謎は深まるばかり。
ブルーはと言えば、あからさまに溜息をついている。
「ホントのホントに致命的だよ」と、呆れ果てたように。
(…ブルーには分かっているんだよなあ…)
なのに俺には、全く分からないわけで、と気ばかり焦る。
ブルーが話してくれるのを待つか、もう一度、訊くか。
どうするべきか、と悩み続けていたら…。
「さっきも言ったけど、ソレなんだよね…」
ハーレイの致命的なトコ、とブルーは口を開いた。
「キャプテンだったら、船が沈むよ?」と。
「なんだって!?」
そんなに致命的なのか、とハーレイは愕然とした。
今の自分は「ただの教師」で、キャプテンではない。
だから自分では気付かないだけで、ブルーから見れば…。
(こう、あからさまな欠点ってヤツが…)
あるんだよな、と自分自身に問い掛ける。
「どうすりゃいいんだ」と、「俺のことだぞ?」と。
「よく考えろ」と叱咤してみても、やはり分からない。
今の自分の何処が駄目なのか、致命的な欠点なのか。
いくら考えても、答えは一向に出て来ないまま。
ブルーはフウと大きな溜息をついて、また繰り返した。
「本当に致命的だよね」と。
そう言われても分からないから、降参するしか道は無い。
ハーレイは「すまん」と頭を下げた。
「分からないんだ、本当に…。だから、教えてくれ」
直すべき所があるなら直すから、と正直に言った。
下手にこの場を取り繕うより、その方がいい。
聞くは一時の恥と言うから、尋ねるのが一番いいだろう。
訊かれたブルーは、「あーあ…」と、またも溜息まじり。
「ホントに鈍くて、駄目すぎるんだよ」と。
「…鈍いだと?」
俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
鈍いと言われたことなどは無いし、運動神経だっていい。
なのに何処が、と思う間に、次の言葉が降って来た。
「洞察力っていうのかな…。まるで駄目だよ」
ぼくの心にも気が付かないし、とブルーは膨れる。
「さっきから、ずっと見詰めてるのに、何もしなくて…」
キスさえもしてくれないなんて、と詰られた。
「そんな調子じゃ、仲間の心も掴めないよ」と。
それでは仲間を纏められなくて、船が沈んじゃうよ、と。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握った。
致命的な点がソレだと言うなら、ブルーの方を直すべき。
何故なら、洞察力があるから、今だって…。
(こいつと一緒に暮らしたいのを、グッと我慢で…)
あえて目を瞑っているんだからな、と心で溜息をつく。
ブルーの頭を、拳でコツンとやりながら。
「お前の気持ちは分かっているさ」と、「前からな」と。
「だからキスなぞ強請るんじゃない」と、想いをこめて。
キスしてしまえば、二度と歯止めは利かないから。
そういう自分を分かっているから、鈍いふりだ、と…。
致命的だよね・了
ホントに致命的だと思う、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「致命的だと?」
いきなりどうした、とハーレイは恋人の顔を覗き込んだ。
致命的とは、聞いただけでも穏やかではない。
いったい何があったというのか、聞き出さなければ。
(何かミスでもやらかしたのか?)
きっとそうだな、と心の中で見当を付けた。
ブルーにとっては致命的だと思える失敗、そんな所だと。
けれど、ブルーは話そうとしない。
ハーレイの顔を見詰めるだけで、言葉を紡ぐ気配も無い。
それでは何も出来はしないし、改めて問いを投げ掛ける。
「おい、話さないと何も分からないぞ?」
黙っていても俺には通じん、と話すようにと促した。
「致命的だというヤツのことを、分かるように話せ」と。
するとブルーは、もう一度、深い溜息をついた。
「分からない?」と、肩を竦めて。
「そういうトコだよ」と、「致命的なのは」と。
「……はあ?」
ますますもって分からんぞ、と疑問が更に膨らんでゆく。
「話せ」という言葉の何処を取ったら、致命的なのか。
(…しかしだな…)
今のブルーの言葉からして、問題は「自分」の方らしい。
致命的な何かを持っているのは、ブルーではなくて…。
(俺の方だ、という意味だよな?)
どうやらそうだ、と其処までは辛うじて推測出来た。
だが、その先が分からない。
自分の何が致命的なのか、どういう部分がソレなのかが。
(……うーむ……)
今日、此処に来てから、失敗をしてはいないと思う。
ブルーの両親には、いつも通りに挨拶をしたし…。
(昼飯を服に零しちゃいないし、お茶だって…)
午前も今も、服もテーブルも汚してはいない。
食べ方がガサツだったということだって、無いだろう。
礼儀作法には自信があるし、姿勢も悪くない筈だ。
(それなのに、何処が致命的だと?)
俺の何処が問題になると言うんだ、と謎は深まるばかり。
ブルーはと言えば、あからさまに溜息をついている。
「ホントのホントに致命的だよ」と、呆れ果てたように。
(…ブルーには分かっているんだよなあ…)
なのに俺には、全く分からないわけで、と気ばかり焦る。
ブルーが話してくれるのを待つか、もう一度、訊くか。
どうするべきか、と悩み続けていたら…。
「さっきも言ったけど、ソレなんだよね…」
ハーレイの致命的なトコ、とブルーは口を開いた。
「キャプテンだったら、船が沈むよ?」と。
「なんだって!?」
そんなに致命的なのか、とハーレイは愕然とした。
今の自分は「ただの教師」で、キャプテンではない。
だから自分では気付かないだけで、ブルーから見れば…。
(こう、あからさまな欠点ってヤツが…)
あるんだよな、と自分自身に問い掛ける。
「どうすりゃいいんだ」と、「俺のことだぞ?」と。
「よく考えろ」と叱咤してみても、やはり分からない。
今の自分の何処が駄目なのか、致命的な欠点なのか。
いくら考えても、答えは一向に出て来ないまま。
ブルーはフウと大きな溜息をついて、また繰り返した。
「本当に致命的だよね」と。
そう言われても分からないから、降参するしか道は無い。
ハーレイは「すまん」と頭を下げた。
「分からないんだ、本当に…。だから、教えてくれ」
直すべき所があるなら直すから、と正直に言った。
下手にこの場を取り繕うより、その方がいい。
聞くは一時の恥と言うから、尋ねるのが一番いいだろう。
訊かれたブルーは、「あーあ…」と、またも溜息まじり。
「ホントに鈍くて、駄目すぎるんだよ」と。
「…鈍いだと?」
俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
鈍いと言われたことなどは無いし、運動神経だっていい。
なのに何処が、と思う間に、次の言葉が降って来た。
「洞察力っていうのかな…。まるで駄目だよ」
ぼくの心にも気が付かないし、とブルーは膨れる。
「さっきから、ずっと見詰めてるのに、何もしなくて…」
キスさえもしてくれないなんて、と詰られた。
「そんな調子じゃ、仲間の心も掴めないよ」と。
それでは仲間を纏められなくて、船が沈んじゃうよ、と。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握った。
致命的な点がソレだと言うなら、ブルーの方を直すべき。
何故なら、洞察力があるから、今だって…。
(こいつと一緒に暮らしたいのを、グッと我慢で…)
あえて目を瞑っているんだからな、と心で溜息をつく。
ブルーの頭を、拳でコツンとやりながら。
「お前の気持ちは分かっているさ」と、「前からな」と。
「だからキスなぞ強請るんじゃない」と、想いをこめて。
キスしてしまえば、二度と歯止めは利かないから。
そういう自分を分かっているから、鈍いふりだ、と…。
致命的だよね・了
(…今度のぼくも、無理そうだよね…)
前と同じで、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(……今のハーレイも、苦いコーヒー、大好きなのに……)
ぼくには、ただの苦い飲み物、と夕食の席を思い出す。
今日、両親が食事の後に飲んでいたのは、そのコーヒー。
後片付けを済ませた母が、父と自分の分をカップに淹れて、二人で、ゆっくり。
ブルーも其処にいたのだけれども、ブルーの分のカップは無かった。
何故なら、飲めはしないから。
元々、飲んではいなかった上に、ハーレイと再会した後に…。
(…ハーレイも飲んでいるんだから、って、強請って…)
淹れて貰って、ハーレイと一緒に飲んだのだけれど、苦すぎて酷い目に遭った。
一口目から「駄目だ」と感じて、頑張ってみても飲み干せない。
結局、砂糖とミルクをたっぷり入れて貰って、ホイップクリームまで足して…。
(やっと飲めたの、パパもママも、ちゃんと見てたから…)
飲めないことが分かっているから、母は「ブルーも飲む?」とは訊いてくれない。
代わりにカップに注がれるのは、ホットミルクだったり、ココアだったり。
(…あんまりだよね…)
訊いてくれてもいいのにな、と不満だけれども、飲めないことは明白な事実。
それに両親は気付いていない、飲んだ後の後遺症まであった。
(後遺症って言うより、体質の問題なんだけど…)
コーヒーのカフェインにやられてしまって、飲んだ日の夜、眠れなかった。
お蔭で寝不足、前の自分にも、よくあったこと。
前のハーレイに「ぼくも飲むよ」と強請った後に、目が冴えて困った経験は多数。
そういう夜には、前のハーレイが寝かせてくれていたのに、今の自分は一人きり。
「眠れないよ」と訴えようにも、両親は別の部屋で寝ている。
ついでに、そんなことを言ったら、ますますコーヒーが遠ざかる。
「ブルーは、どうせ飲めないんだし」と、ミルクやココアばかりが出て来て。
本当は、飲んでみたいコーヒー。
前のハーレイも、今のハーレイも、紅茶よりコーヒーが好きだから。
(ハーレイも、ぼくも、好き嫌いは全く無いけれど…)
それとは違って嗜好の問題、側にあったら嬉しい飲み物。
前の自分の場合は紅茶で、前のハーレイはコーヒーだった。
白いシャングリラに、本物のコーヒーは無かったのに。
(…改造前のシャングリラだった頃は、本物のコーヒーがあったから…)
前の自分が人類の船から奪った物資には、コーヒーなども混ざっていた。
だから「本物」を楽しめたわけで、ハーレイは、すっかりコーヒー党。
自給自足の船になっても、その味が忘れられなかった。
酒好きの仲間たちと一緒に、合成の酒を飲んでいたけれど、それでは足りない。
(お酒は、仕事の合間なんかに飲めないし…)
朝食や昼食の時に飲むにも、アルコール類は駄目に決まっている。
そうなると、やはりコーヒーが欲しい、と思う仲間も多かったから…。
(…代用品が出来たんだよね…)
最初の間は酒と同じで合成品だった、白いシャングリラのコーヒー。
ところが、ひょんなことから生まれた、代用品のコーヒーがあった。
(船に子供たちが加わったから…)
子供たちには、合成品のチョコレートよりも本物を、と検討した末に出来た代用品。
イナゴ豆とも呼ばれるキャロブで、その豆から作られたチョコレートやコーヒー。
(キャロブは、カフェインが入ってないから…)
カフェインを加えて、コーヒーを作った。
前のハーレイは、それを好んで、休憩と言えば熱いコーヒー。
美味しそうに飲んでいるものだから、前の自分も欲しくなる。
(…美味しそうだ、っていうのもあったけど…)
それより何より、「ハーレイと同じ飲み物」を飲んでみたかった。
誰よりも愛した恋人なのだし、側にいる時は、一緒にカップを傾けたくなる。
もちろん、前のハーレイも同じで、そのために紅茶を飲んでいた。
青の間に来たら、いつでも紅茶。
コーヒーが飲めない恋人に合わせて、船で作られた紅茶を淹れて。
(…紅茶だったら、一緒に飲んでいたんだけれど…)
今の自分もそうなのだけれど、付き合ってくれるハーレイの好みは紅茶ではない。
遠く遥かな時の彼方でも、青い地球でも、ハーレイと言えばコーヒー党。
知っているから、飲みたいコーヒー。
ハーレイと一緒に、「美味しいよね」とカップを傾けて。
流石にブラックで飲むのは無理だし、適量の砂糖とミルクを入れて。
(…それが出来たら、いいのにね…)
ハーレイと一緒に飲めたなら、と溜息が零れ落ちてゆく。
「今度も、ぼくは駄目みたい」と、悲しくなって。
背丈が前と同じになっても、飲めるようになるとは思えないから。
(……ハーレイ、笑っていたんだもの……)
チビの自分がコーヒーに挑んで、苦さに閉口していた時に、笑ったハーレイ。
「ほらな」と、「やっぱり無理だったろう?」と、可笑しそうに。
それから母にアドバイスをした。
砂糖とミルクをたっぷりと入れて、おまけにホイップクリームを、と。
「前のブルーも、そうでしたから」と、「ブルーでも飲めるコーヒー」の作り方を伝えて。
(…そりゃ、ハーレイは、前のぼくのことを覚えているから…)
あのアドバイスも当然だけれど、笑っていたのは、きっとそれだけではないだろう。
自分自身の過去を踏まえて、その分までも…。
(可笑しくて、たまらなかったんだよ…!)
そうに決まっているんだから、と確信に近いものがある。
過去というのは、前のハーレイではなくて…。
(今のハーレイにも、本物のパパとママがいて…)
成人検査などは無いから、子供時代の記憶をきちんと持っている。
その中に、きっと、コーヒーのこともあるのだろう。
初めてコーヒーを飲んだ日のこと、どういう経験をしたのか、などが。
(…コーヒー党になってるんだし、ぼくと違って…)
酷い目などには、遭わなかったに違いない。
子供の舌には、コーヒーは苦すぎたのだとしても。
「苦い!」と顔を顰めたにしても、ちょっと背伸びをして、飲み終えた後は大満足。
大人の仲間入りをした気分になって、得意になって。
そうなんだろうな、と思う「今のハーレイと、コーヒーの出会い」。
けして最悪の出会いではなくて、最良とも言える初めてのコーヒー体験。
其処から道を歩み始めて、今は立派なコーヒー党。
だからこそ、「ブルー」を笑ったのだろう。
「今度も、やっぱり飲めないんだな」と、「前と全く同じじゃないか」と。
自分自身の過去と重ねてみたなら、違いは明らかなのだから。
コーヒーを好むか、そうでないかは、恐らく、出会いで分かるもの。
背伸びしてでも飲みたい子供か、白旗を掲げて逃げ出してしまう子供かで。
(…ホントに残念…)
コーヒーの才能は無さそうだから、と心底、残念で堪らない。
今の自分は、前とは別の人間なのに。
魂と見た目はそっくりだけれど、身体は違うものなのに。
(…せっかく、生まれ変わって来て…)
新しい身体を手に入れたのに、どうして同じになったのだろう。
「コーヒーが駄目だった」前の自分と、似ていなくても良かったのに。
(…ぼくがコーヒー党だったら…)
ハーレイは驚きそうだけれども、多分、嘆きはしない筈。
「俺のブルーは、どうなったんだ?」と慌てはしても、それだけのこと。
(…ぼくのおでこに、手を当てちゃって…)
熱を測って、「正気なのか?」と鳶色の瞳をパチパチとさせて、笑顔になる。
「それでも、お前はブルーだよな?」と。
「コーヒー党でも、俺のブルーだ」と、「そうか、今度は飲めるんだな」と。
(…ビックリした後は、喜びそうだよ…)
ぼくがコーヒー党だったなら、と容易に想像出来ること。
きっと、ハーレイは大喜びして、チビのブルーが育つ日を待ち侘びるのだろう。
デートに出掛けてゆける日を。
お気に入りの喫茶店に連れてゆく日を、まだか、まだか、と首を長くして。
(…ぼくが一緒に飲めたなら…)
出来るものね、と思いはしても、その日はどうやら来そうにない。
今の自分も、コーヒーは駄目なようだから。
前と同じに苦手に生まれて、育っても飲めそうにない身体だから。
(…飲める身体に生まれていたら…)
デートだけでなくて、家でも飲めて…、と想像だけが広がってゆく。
「もしも」と、「ぼくも、ハーレイと一緒に飲めたなら」と。
そうなっていたら、デートに出掛けて、美味しいコーヒーを二人で楽しむ。
飲めない自分には分からないけれど、コーヒーにも色々あるらしい。
淹れ方だとか、コーヒー豆の種類も沢山、奥の深い世界。
(……前のぼくたちには、キャロブのコーヒーしか無かったけれど……)
今なら、いくらでもコーヒーの世界を追い掛けてゆける。
淹れ方はもちろん、豆だって。
あの頃は無かった青い地球の上で、何種類もの豆が育っていて。
(…いろんな豆のを、喫茶店で飲んで、お気に入りが出来たら…)
何度も通ってゆくのもいいし、家でも挑戦したっていい。
ハーレイも自分もコーヒー党なら、それだけの価値はあるだろう。
「あのお店の味、家でやっても出せるかな?」などと、持ち掛けて。
「だって、家でも飲みたいものね」と、「淹れ方、二人で研究しようよ」と。
(…お店によっては、豆を売ってるトコだって…)
あると聞くから、そういう店なら、お気に入りの豆を買って持ち帰る。
そして二人で淹れるのだけれど、きっとお店のようにはいかない。
あちらはプロだし、ただのコーヒー党とは比較にならないノウハウがある。
だからこそ、その味に近付けたい。
ハーレイと二人で、頑張って。
「淹れ方かな?」と首を傾げたり、コーヒーメーカーのせいなのかも、と考えたり。
家にあるのでは駄目なのかも、とプロ仕様のを買い込んだり、と。
(…そういうのって、きっと楽しいよね?)
ハーレイと研究の日々を重ねて、美味しいコーヒーを目指す毎日。
「今日のは、ちょっと近付いたかな?」と、二人でカップを傾けて。
「次も、この淹れ方でやってみようか」などと、専用のノートに記録したりして。
(…記録は、ハーレイの係だよね?)
航宙日誌じゃなくって、コーヒー日誌、と笑みが零れる。
ハーレイなら、几帳面に書きそうだから。
日付も、使った豆の種類も、淹れた方法も、きちんと、細かく。
(…キャプテン・ハーレイの、コーヒー日誌…)
もうキャプテンじゃないんだけどね、と思いはしても、ハーレイは、同じハーレイのまま。
新しい身体になっていたって、コーヒー党のハーレイだから…。
(…コーヒー日誌、つけてくれそう…)
記録しようよ、と言ったなら。
「美味しいコーヒーを研究するには、記録も大事」と、そそのかしたら。
(…それとも、とっくに作ってるかな…?)
あのハーレイのことだものね、とクスッと笑う。
日記は今も書いているようだし、日記が兼ねているかもしれない。
美味しいコーヒーが出来上がった時は、覚え書きとして、日記に記録。
「この豆で、こういう淹れ方をしたら、美味しかった」といった具合に。
(…ぼくも一緒に飲めたなら…)
二人で暮らし始めた時には、コーヒー日誌が欲しいよね、と広がる夢。
「もしも、一緒に飲めたなら」と。
喫茶店で飲んで、家でも飲んで、あれこれ研究、と。
ハーレイが好きなコーヒーだから。
今の自分も駄目そうだけれど、ハーレイと一緒に楽しめたならば、最高だから…。
一緒に飲めたなら・了
※今の生でもコーヒーが飲めそうにない、ブルー君。ハーレイ先生と一緒に飲みたいのに。
もしも飲めたら、とても楽しいことになりそう。コーヒー日誌をつけるハーレイ先生とかv
前と同じで、と小さなブルーが零した溜息。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(……今のハーレイも、苦いコーヒー、大好きなのに……)
ぼくには、ただの苦い飲み物、と夕食の席を思い出す。
今日、両親が食事の後に飲んでいたのは、そのコーヒー。
後片付けを済ませた母が、父と自分の分をカップに淹れて、二人で、ゆっくり。
ブルーも其処にいたのだけれども、ブルーの分のカップは無かった。
何故なら、飲めはしないから。
元々、飲んではいなかった上に、ハーレイと再会した後に…。
(…ハーレイも飲んでいるんだから、って、強請って…)
淹れて貰って、ハーレイと一緒に飲んだのだけれど、苦すぎて酷い目に遭った。
一口目から「駄目だ」と感じて、頑張ってみても飲み干せない。
結局、砂糖とミルクをたっぷり入れて貰って、ホイップクリームまで足して…。
(やっと飲めたの、パパもママも、ちゃんと見てたから…)
飲めないことが分かっているから、母は「ブルーも飲む?」とは訊いてくれない。
代わりにカップに注がれるのは、ホットミルクだったり、ココアだったり。
(…あんまりだよね…)
訊いてくれてもいいのにな、と不満だけれども、飲めないことは明白な事実。
それに両親は気付いていない、飲んだ後の後遺症まであった。
(後遺症って言うより、体質の問題なんだけど…)
コーヒーのカフェインにやられてしまって、飲んだ日の夜、眠れなかった。
お蔭で寝不足、前の自分にも、よくあったこと。
前のハーレイに「ぼくも飲むよ」と強請った後に、目が冴えて困った経験は多数。
そういう夜には、前のハーレイが寝かせてくれていたのに、今の自分は一人きり。
「眠れないよ」と訴えようにも、両親は別の部屋で寝ている。
ついでに、そんなことを言ったら、ますますコーヒーが遠ざかる。
「ブルーは、どうせ飲めないんだし」と、ミルクやココアばかりが出て来て。
本当は、飲んでみたいコーヒー。
前のハーレイも、今のハーレイも、紅茶よりコーヒーが好きだから。
(ハーレイも、ぼくも、好き嫌いは全く無いけれど…)
それとは違って嗜好の問題、側にあったら嬉しい飲み物。
前の自分の場合は紅茶で、前のハーレイはコーヒーだった。
白いシャングリラに、本物のコーヒーは無かったのに。
(…改造前のシャングリラだった頃は、本物のコーヒーがあったから…)
前の自分が人類の船から奪った物資には、コーヒーなども混ざっていた。
だから「本物」を楽しめたわけで、ハーレイは、すっかりコーヒー党。
自給自足の船になっても、その味が忘れられなかった。
酒好きの仲間たちと一緒に、合成の酒を飲んでいたけれど、それでは足りない。
(お酒は、仕事の合間なんかに飲めないし…)
朝食や昼食の時に飲むにも、アルコール類は駄目に決まっている。
そうなると、やはりコーヒーが欲しい、と思う仲間も多かったから…。
(…代用品が出来たんだよね…)
最初の間は酒と同じで合成品だった、白いシャングリラのコーヒー。
ところが、ひょんなことから生まれた、代用品のコーヒーがあった。
(船に子供たちが加わったから…)
子供たちには、合成品のチョコレートよりも本物を、と検討した末に出来た代用品。
イナゴ豆とも呼ばれるキャロブで、その豆から作られたチョコレートやコーヒー。
(キャロブは、カフェインが入ってないから…)
カフェインを加えて、コーヒーを作った。
前のハーレイは、それを好んで、休憩と言えば熱いコーヒー。
美味しそうに飲んでいるものだから、前の自分も欲しくなる。
(…美味しそうだ、っていうのもあったけど…)
それより何より、「ハーレイと同じ飲み物」を飲んでみたかった。
誰よりも愛した恋人なのだし、側にいる時は、一緒にカップを傾けたくなる。
もちろん、前のハーレイも同じで、そのために紅茶を飲んでいた。
青の間に来たら、いつでも紅茶。
コーヒーが飲めない恋人に合わせて、船で作られた紅茶を淹れて。
(…紅茶だったら、一緒に飲んでいたんだけれど…)
今の自分もそうなのだけれど、付き合ってくれるハーレイの好みは紅茶ではない。
遠く遥かな時の彼方でも、青い地球でも、ハーレイと言えばコーヒー党。
知っているから、飲みたいコーヒー。
ハーレイと一緒に、「美味しいよね」とカップを傾けて。
流石にブラックで飲むのは無理だし、適量の砂糖とミルクを入れて。
(…それが出来たら、いいのにね…)
ハーレイと一緒に飲めたなら、と溜息が零れ落ちてゆく。
「今度も、ぼくは駄目みたい」と、悲しくなって。
背丈が前と同じになっても、飲めるようになるとは思えないから。
(……ハーレイ、笑っていたんだもの……)
チビの自分がコーヒーに挑んで、苦さに閉口していた時に、笑ったハーレイ。
「ほらな」と、「やっぱり無理だったろう?」と、可笑しそうに。
それから母にアドバイスをした。
砂糖とミルクをたっぷりと入れて、おまけにホイップクリームを、と。
「前のブルーも、そうでしたから」と、「ブルーでも飲めるコーヒー」の作り方を伝えて。
(…そりゃ、ハーレイは、前のぼくのことを覚えているから…)
あのアドバイスも当然だけれど、笑っていたのは、きっとそれだけではないだろう。
自分自身の過去を踏まえて、その分までも…。
(可笑しくて、たまらなかったんだよ…!)
そうに決まっているんだから、と確信に近いものがある。
過去というのは、前のハーレイではなくて…。
(今のハーレイにも、本物のパパとママがいて…)
成人検査などは無いから、子供時代の記憶をきちんと持っている。
その中に、きっと、コーヒーのこともあるのだろう。
初めてコーヒーを飲んだ日のこと、どういう経験をしたのか、などが。
(…コーヒー党になってるんだし、ぼくと違って…)
酷い目などには、遭わなかったに違いない。
子供の舌には、コーヒーは苦すぎたのだとしても。
「苦い!」と顔を顰めたにしても、ちょっと背伸びをして、飲み終えた後は大満足。
大人の仲間入りをした気分になって、得意になって。
そうなんだろうな、と思う「今のハーレイと、コーヒーの出会い」。
けして最悪の出会いではなくて、最良とも言える初めてのコーヒー体験。
其処から道を歩み始めて、今は立派なコーヒー党。
だからこそ、「ブルー」を笑ったのだろう。
「今度も、やっぱり飲めないんだな」と、「前と全く同じじゃないか」と。
自分自身の過去と重ねてみたなら、違いは明らかなのだから。
コーヒーを好むか、そうでないかは、恐らく、出会いで分かるもの。
背伸びしてでも飲みたい子供か、白旗を掲げて逃げ出してしまう子供かで。
(…ホントに残念…)
コーヒーの才能は無さそうだから、と心底、残念で堪らない。
今の自分は、前とは別の人間なのに。
魂と見た目はそっくりだけれど、身体は違うものなのに。
(…せっかく、生まれ変わって来て…)
新しい身体を手に入れたのに、どうして同じになったのだろう。
「コーヒーが駄目だった」前の自分と、似ていなくても良かったのに。
(…ぼくがコーヒー党だったら…)
ハーレイは驚きそうだけれども、多分、嘆きはしない筈。
「俺のブルーは、どうなったんだ?」と慌てはしても、それだけのこと。
(…ぼくのおでこに、手を当てちゃって…)
熱を測って、「正気なのか?」と鳶色の瞳をパチパチとさせて、笑顔になる。
「それでも、お前はブルーだよな?」と。
「コーヒー党でも、俺のブルーだ」と、「そうか、今度は飲めるんだな」と。
(…ビックリした後は、喜びそうだよ…)
ぼくがコーヒー党だったなら、と容易に想像出来ること。
きっと、ハーレイは大喜びして、チビのブルーが育つ日を待ち侘びるのだろう。
デートに出掛けてゆける日を。
お気に入りの喫茶店に連れてゆく日を、まだか、まだか、と首を長くして。
(…ぼくが一緒に飲めたなら…)
出来るものね、と思いはしても、その日はどうやら来そうにない。
今の自分も、コーヒーは駄目なようだから。
前と同じに苦手に生まれて、育っても飲めそうにない身体だから。
(…飲める身体に生まれていたら…)
デートだけでなくて、家でも飲めて…、と想像だけが広がってゆく。
「もしも」と、「ぼくも、ハーレイと一緒に飲めたなら」と。
そうなっていたら、デートに出掛けて、美味しいコーヒーを二人で楽しむ。
飲めない自分には分からないけれど、コーヒーにも色々あるらしい。
淹れ方だとか、コーヒー豆の種類も沢山、奥の深い世界。
(……前のぼくたちには、キャロブのコーヒーしか無かったけれど……)
今なら、いくらでもコーヒーの世界を追い掛けてゆける。
淹れ方はもちろん、豆だって。
あの頃は無かった青い地球の上で、何種類もの豆が育っていて。
(…いろんな豆のを、喫茶店で飲んで、お気に入りが出来たら…)
何度も通ってゆくのもいいし、家でも挑戦したっていい。
ハーレイも自分もコーヒー党なら、それだけの価値はあるだろう。
「あのお店の味、家でやっても出せるかな?」などと、持ち掛けて。
「だって、家でも飲みたいものね」と、「淹れ方、二人で研究しようよ」と。
(…お店によっては、豆を売ってるトコだって…)
あると聞くから、そういう店なら、お気に入りの豆を買って持ち帰る。
そして二人で淹れるのだけれど、きっとお店のようにはいかない。
あちらはプロだし、ただのコーヒー党とは比較にならないノウハウがある。
だからこそ、その味に近付けたい。
ハーレイと二人で、頑張って。
「淹れ方かな?」と首を傾げたり、コーヒーメーカーのせいなのかも、と考えたり。
家にあるのでは駄目なのかも、とプロ仕様のを買い込んだり、と。
(…そういうのって、きっと楽しいよね?)
ハーレイと研究の日々を重ねて、美味しいコーヒーを目指す毎日。
「今日のは、ちょっと近付いたかな?」と、二人でカップを傾けて。
「次も、この淹れ方でやってみようか」などと、専用のノートに記録したりして。
(…記録は、ハーレイの係だよね?)
航宙日誌じゃなくって、コーヒー日誌、と笑みが零れる。
ハーレイなら、几帳面に書きそうだから。
日付も、使った豆の種類も、淹れた方法も、きちんと、細かく。
(…キャプテン・ハーレイの、コーヒー日誌…)
もうキャプテンじゃないんだけどね、と思いはしても、ハーレイは、同じハーレイのまま。
新しい身体になっていたって、コーヒー党のハーレイだから…。
(…コーヒー日誌、つけてくれそう…)
記録しようよ、と言ったなら。
「美味しいコーヒーを研究するには、記録も大事」と、そそのかしたら。
(…それとも、とっくに作ってるかな…?)
あのハーレイのことだものね、とクスッと笑う。
日記は今も書いているようだし、日記が兼ねているかもしれない。
美味しいコーヒーが出来上がった時は、覚え書きとして、日記に記録。
「この豆で、こういう淹れ方をしたら、美味しかった」といった具合に。
(…ぼくも一緒に飲めたなら…)
二人で暮らし始めた時には、コーヒー日誌が欲しいよね、と広がる夢。
「もしも、一緒に飲めたなら」と。
喫茶店で飲んで、家でも飲んで、あれこれ研究、と。
ハーレイが好きなコーヒーだから。
今の自分も駄目そうだけれど、ハーレイと一緒に楽しめたならば、最高だから…。
一緒に飲めたなら・了
※今の生でもコーヒーが飲めそうにない、ブルー君。ハーレイ先生と一緒に飲みたいのに。
もしも飲めたら、とても楽しいことになりそう。コーヒー日誌をつけるハーレイ先生とかv
(…今度のあいつも、駄目そうだよなあ…)
コーヒーってヤツは、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(俺は昔から、コーヒーが好きで…)
本物が無かったシャングリラでも飲んでいたんだ、と今も鮮やかに思い出せる。
キャプテン・ハーレイだった頃にも、休憩のお供はコーヒーだった。
(自給自足の船になる前は、本物のコーヒーがあってだな…)
すっかりコーヒー党だったから、白い鯨になった船でも、コーヒー党。
ただし、本物のコーヒーは無くて、キャロブで作った代用品。
それでも満足だったくらいに、コーヒーと共に生きた人生。
(…そのせいってわけでもないんだろうが…)
青い地球の上に生まれ変わっても、同じコーヒー党に育った。
気付けば、コーヒーと歩む人生、けして紅茶と歩んではいない。
(もちろん紅茶だっていけるし、好き嫌いだって無いんだが…)
選んでいいならコーヒーだよな、と断言出来る。
「どちらになさいますか?」と尋ねられたなら、迷わず選ぶものはコーヒー。
好き嫌いとは違った次元で、好んでいると言えるだろう。
(…そういう点では、今のブルーも…)
前と同じで、好き嫌いの無い子供だけれども、コーヒーよりは紅茶を好む。
好むどころか、前のブルーと全く同じに、どうもコーヒーは苦手な模様。
(俺が飲むから、欲しがったくせに…)
苦すぎて飲めなかった挙句に、眠れなかったと文句たらたら。
カフェインの仕業で、前のブルーも、同じ目に何度も遭っていた。
(今のあいつは、まだチビだから…)
もっと育ったら、カフェインは克服するかもしれない。
けれど、コーヒーを好むようになるかどうか、と考えてみたら…。
(…どうやら、絶望的ってヤツで…)
望みは薄いな、と諦めの境地。
何故なら、自分が子供だった頃には、今のブルーよりもマシだったから。
いくらコーヒー党と言っても、生まれた時からそうではない。
赤ん坊ならミルクなのだし、少し育っても、子供が飲むのはミルクなど。
(ジュースとかを飲む年になっても…)
コーヒーは、まだまだ、大人の飲み物。
紅茶の方なら、両親の友人が来た時などに、お相伴したりもしたけれど…。
(…コーヒーは出て来なかったよなあ…)
チビの頃には、と懐かしく、隣町の家を思い出す。
あの家で飲んだ初めてのコーヒー、それは両親に強請ったもの。
両親が美味しそうに飲んでいるから、「欲しい」とカップを差し出して。
(まだ早い、とは言われたんだが…)
そう言われると、一層、背伸びをしたくなる。
だから強引に注いで貰って、口に含んで、「苦い!」とビックリ仰天した。
そこまでは、今のブルーと同じ。
違うのは、「苦い!」と驚いた後。
(…これが大人の飲み物なんだ、と…)
心の中で噛み締めながら、気取って、ちゃんと飲み干した。
砂糖やミルクを加えたのかは、生憎、覚えていないけれども。
(…それからも、懲りはしなかったよなあ…)
それを思うと、カフェインに負けはしなかったらしい。
昼間は元気に走り回って、夜は疲れてグッスリだった子供なのだし、眠れて当然。
つまりコーヒーは「苦かった」だけで、成長と共に舌だって馴れる。
いつの間にやら、コーヒー党になっていた。
いわゆる「上の学校」時代は、喫茶店などで飲むなら、コーヒー。
そうして今に至るけれども、ブルーの場合は無理な気がする。
(既に苦さに敗北してるし、カフェインの方も惨敗だしなあ…)
今のブルーが飲める「コーヒー」は、前のブルーと同じもの。
砂糖をたっぷり、ミルクも加えて、おまけにホイップクリームまで。
もはや「コーヒー」とは呼べない代物、それがブルーでも飲める「コーヒー」。
前のブルーは最後まで「それ」で、終生、変わりはしなかった。
「ぼくも飲むよ」と言い出した時は、必ず、そういう結末になって。
青い地球の上に生まれたブルーも、恐らく同じことだろう。
まだ子供だから、可能性はゼロではないけれど…。
(…今の時点で、コーヒー党の欠片も無いんだし…)
才能の片鱗さえ見えていないから、大きくなっても、変わるとはあまり思えない。
今は紅茶を好んでいるのが、コーヒー党に育つだなんて、万に一つも無いだろう。
いくら「ハーレイ」がコーヒー党でも、それに合わせて舌を変えるのは…。
(…どう考えても、無理だよなあ?)
殆ど修行になっちまうぞ、とカップの縁をカチンと弾く。
ブルーはコーヒーが「苦手」なのだし、それを克服しないといけない。
気取って飲める子供ならまだしも、そうではないから、修行になる。
「苦いけれども、飲まなければ」と、喉へと無理やり流し込む日々。
それを今から重ねていったら、飲めるようになるかもしれないけれど…。
(今のあいつは、甘えん坊の弱虫なんだし…)
修行なんかは、したくもないに違いない。
第一、前のブルーにしたって、修行を積みはしなかった。
「ハーレイと一緒に飲みたいから」と、コーヒー党になるための努力をしてなどはいない。
前のブルーなら、強い意志と心を持っていたから、修行するなら、出来ただろうに。
「この日までには、飲めるようにする」と、目標を決めて、挑んだならば。
(…前のあいつなら、きっと出来たぞ)
他にやるべきことが多くて、やっていないというだけだ、と確信出来る。
仲間たちを地球まで導くことが、前のブルーの唯一の、そして最大の務め。
そのための努力は惜しまなかったし、それ以外は切り捨ててゆかねばならない。
「コーヒー党になるための修行」なんかは、している暇さえ無かっただろう。
そのための時間はあったとしても、それに割く心の余裕が無くて。
「頑張って、飲めるようになろう」と、思い付きさえしないで生きて。
(…そうして、修行はしないままで、だ…)
前のブルーは逝ってしまって、今のブルーが戻って来た。
甘えん坊で弱虫のブルー、修行なんかは「無理だってば!」と泣き出しそうなブルーが。
修行と聞いただけで逃げ出し、「許して」と悲鳴を上げそうなブルー。
たかが「コーヒー」が相手でも。
コーヒー党になれたとしたら、人生の幅が広がるとしても。
(…其処なんだよなあ…)
あいつがコーヒー党だったなら、と思考が最初の所に戻る。
「もしもブルーが、コーヒー党に育ってくれたら」と、今の自分の願いと共に。
叶う見込みは少ない夢。
今のブルーが、コーヒーを好むタイプになるのは難しい。
分かっているから、夢の世界を追い掛けたくなる。
「あいつの舌が変わってくれたら」と、コーヒー党のブルーがいる世界へと。
ブルーがコーヒーを好きになったら、きっと素敵なことだろう。
前のブルーとは出来なかったこと、その中の一つが今度は出来るようになるから。
寛ぎの時間に二人でコーヒー、そんなひと時が持てる人生。
(あいつと、コーヒーを一緒に飲めたら…)
家での過ごし方も変わるな、と大きく頷く。
二人で一緒に暮らし始めたら、もちろん、食事の時間も一緒。
休日でなくても、食事が済んだら、今夜みたいに…。
(後片付けを済ませて、コーヒーを淹れて…)
ブルーと二人で、ゆっくりとカップを傾ける。
淹れたばかりの熱いコーヒー、香り高い湯気が漂うカップ。
(そいつを、二人で…)
味わいながら、色々と話して、笑い合って、という夜の過ごし方。
ブルーもコーヒー党だったならば、コーヒーについての話だけでも盛り上がるだろう。
いつもと違う豆で淹れたら、あれこれと味を評価して。
淹れ方を変えてみた日だったら、普段に比べてどうなのか、などと。
(一緒に飲めたら、そんな話が出来るんだ)
これはブルーが「飲む」というだけでは、出来ないこと。
ブルーも心底、コーヒーが好きで、味わって飲めるタイプでないと、けして出来ない。
何故なら、コーヒー党でなければ、ブルーはコーヒーを楽しめないから。
「ぼくも飲むよ」と付き合うだけでは、修行するのと変わらない。
ブルーにとっては「苦いだけ」の飲み物、それを無理やり飲み下したって…。
(美味しいね、とは言えやしないんだしなあ…)
残念だ、と思うからこそ、夢の世界で遊びたい。
ブルーがコーヒー党な世界で、ブルーと一緒に飲めたら、と。
そういうブルーになってくれたら、初めてのデートも変わりそう。
チビのブルーが大きく育って、初めて二人で出掛ける時。
(飲まず食わず、ってわけにはいかないんだしな?)
何処かで食事で、お茶にも誘うわけだけれども、そのための店。
厳選したい店の候補に、「コーヒーが美味しい喫茶店」が入ることだろう。
コーヒー党の今の自分の行きつけの店で、雰囲気もいい店を選ばなければ、と。
(…紅茶の方だと、サッパリなんだが…)
何処が評判の店になるのか、調べないと分からないほどだけれども、コーヒーは違う。
なにしろ自分の好きな飲み物、初めて入る店にしたって…。
(だいたい、勘で分かるんだよな)
美味いコーヒーを出すかどうかは、とコーヒー党の勘には自信がある。
紅茶の店だと迷うけれども、コーヒーの店なら迷わない。
「よし、美味そうだ」と思えば入って、それを外したことは無いのが自分。
(だから、あいつと一緒に飲めたら…)
コーヒーの美味しい店を選んで連れてゆく。
「美味いんだぞ?」と、店の表で、小さな看板を指差して。
中に入ったら、ブルーと二人でメニューを広げる。
コーヒーと一緒に頼みたいケーキ、それを選ぶのも大切だけれど…。
(どのコーヒーを注文するのか、も…)
とても重要なことなんだよな、とコーヒーのカップを傾ける。
豆や淹れ方、それでコーヒーは変わるから。
行きつけの店で選ぶにしても、その日の気分で決めたいくらいに、奥の深い世界。
(あいつと二人で、メニューを眺めて…)
コーヒーで決めるか、ケーキに合わせてコーヒーを選ぶか、それも楽しい。
「どっちにする?」と、迷うような店もあるだろう。
美味しそうなケーキが幾つもあって、ブルーの瞳が釘付けになって。
「コーヒーもいいけど、先にケーキかな?」と、訊かれたりして。
そのケーキだって、ブルーの目を惹くものが幾つもあったなら…。
(残したら、俺が食ってやるから、って…)
全部、注文したっていい。
そして、それに合いそうな味のコーヒー、それはどれかと二人で悩んで。
(…そんな具合に、うんと楽しいデートってヤツが…)
出来るんだよなあ、と夢の世界に酔いしれながら、溜息をつく。
「あいつがコーヒーを一緒に飲めたら、出来るんだが」と。
家での夕食の後の時間も、二人でコーヒーを淹れられるのに、と。
(こうやって、今のようにだな…)
カップに淹れるコーヒーにしても、ブルーと二人分を淹れて楽しむ。
「今日はどれだ?」と、豆を選んで、淹れ方も決めて。
(…しかし、今度のあいつも、きっと…)
飲めないだろうし、夢で終わるぞ、と少し悲しい。
ブルーがコーヒーを一緒に飲めたら、本当に素敵だろうから。
家での時間も、デートの時間も、飲めないブルーと二人より、幅が広がるのだから…。
一緒に飲めたら・了
※ブルー君がコーヒー党だったら、と考え始めたハーレイ先生。「一緒に飲めたら」と。
もしもブルー君がコーヒー党なら、確かに色々変わりそう。無理な感じしかしませんけどv
コーヒーってヤツは、とハーレイがフウと零した溜息。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(俺は昔から、コーヒーが好きで…)
本物が無かったシャングリラでも飲んでいたんだ、と今も鮮やかに思い出せる。
キャプテン・ハーレイだった頃にも、休憩のお供はコーヒーだった。
(自給自足の船になる前は、本物のコーヒーがあってだな…)
すっかりコーヒー党だったから、白い鯨になった船でも、コーヒー党。
ただし、本物のコーヒーは無くて、キャロブで作った代用品。
それでも満足だったくらいに、コーヒーと共に生きた人生。
(…そのせいってわけでもないんだろうが…)
青い地球の上に生まれ変わっても、同じコーヒー党に育った。
気付けば、コーヒーと歩む人生、けして紅茶と歩んではいない。
(もちろん紅茶だっていけるし、好き嫌いだって無いんだが…)
選んでいいならコーヒーだよな、と断言出来る。
「どちらになさいますか?」と尋ねられたなら、迷わず選ぶものはコーヒー。
好き嫌いとは違った次元で、好んでいると言えるだろう。
(…そういう点では、今のブルーも…)
前と同じで、好き嫌いの無い子供だけれども、コーヒーよりは紅茶を好む。
好むどころか、前のブルーと全く同じに、どうもコーヒーは苦手な模様。
(俺が飲むから、欲しがったくせに…)
苦すぎて飲めなかった挙句に、眠れなかったと文句たらたら。
カフェインの仕業で、前のブルーも、同じ目に何度も遭っていた。
(今のあいつは、まだチビだから…)
もっと育ったら、カフェインは克服するかもしれない。
けれど、コーヒーを好むようになるかどうか、と考えてみたら…。
(…どうやら、絶望的ってヤツで…)
望みは薄いな、と諦めの境地。
何故なら、自分が子供だった頃には、今のブルーよりもマシだったから。
いくらコーヒー党と言っても、生まれた時からそうではない。
赤ん坊ならミルクなのだし、少し育っても、子供が飲むのはミルクなど。
(ジュースとかを飲む年になっても…)
コーヒーは、まだまだ、大人の飲み物。
紅茶の方なら、両親の友人が来た時などに、お相伴したりもしたけれど…。
(…コーヒーは出て来なかったよなあ…)
チビの頃には、と懐かしく、隣町の家を思い出す。
あの家で飲んだ初めてのコーヒー、それは両親に強請ったもの。
両親が美味しそうに飲んでいるから、「欲しい」とカップを差し出して。
(まだ早い、とは言われたんだが…)
そう言われると、一層、背伸びをしたくなる。
だから強引に注いで貰って、口に含んで、「苦い!」とビックリ仰天した。
そこまでは、今のブルーと同じ。
違うのは、「苦い!」と驚いた後。
(…これが大人の飲み物なんだ、と…)
心の中で噛み締めながら、気取って、ちゃんと飲み干した。
砂糖やミルクを加えたのかは、生憎、覚えていないけれども。
(…それからも、懲りはしなかったよなあ…)
それを思うと、カフェインに負けはしなかったらしい。
昼間は元気に走り回って、夜は疲れてグッスリだった子供なのだし、眠れて当然。
つまりコーヒーは「苦かった」だけで、成長と共に舌だって馴れる。
いつの間にやら、コーヒー党になっていた。
いわゆる「上の学校」時代は、喫茶店などで飲むなら、コーヒー。
そうして今に至るけれども、ブルーの場合は無理な気がする。
(既に苦さに敗北してるし、カフェインの方も惨敗だしなあ…)
今のブルーが飲める「コーヒー」は、前のブルーと同じもの。
砂糖をたっぷり、ミルクも加えて、おまけにホイップクリームまで。
もはや「コーヒー」とは呼べない代物、それがブルーでも飲める「コーヒー」。
前のブルーは最後まで「それ」で、終生、変わりはしなかった。
「ぼくも飲むよ」と言い出した時は、必ず、そういう結末になって。
青い地球の上に生まれたブルーも、恐らく同じことだろう。
まだ子供だから、可能性はゼロではないけれど…。
(…今の時点で、コーヒー党の欠片も無いんだし…)
才能の片鱗さえ見えていないから、大きくなっても、変わるとはあまり思えない。
今は紅茶を好んでいるのが、コーヒー党に育つだなんて、万に一つも無いだろう。
いくら「ハーレイ」がコーヒー党でも、それに合わせて舌を変えるのは…。
(…どう考えても、無理だよなあ?)
殆ど修行になっちまうぞ、とカップの縁をカチンと弾く。
ブルーはコーヒーが「苦手」なのだし、それを克服しないといけない。
気取って飲める子供ならまだしも、そうではないから、修行になる。
「苦いけれども、飲まなければ」と、喉へと無理やり流し込む日々。
それを今から重ねていったら、飲めるようになるかもしれないけれど…。
(今のあいつは、甘えん坊の弱虫なんだし…)
修行なんかは、したくもないに違いない。
第一、前のブルーにしたって、修行を積みはしなかった。
「ハーレイと一緒に飲みたいから」と、コーヒー党になるための努力をしてなどはいない。
前のブルーなら、強い意志と心を持っていたから、修行するなら、出来ただろうに。
「この日までには、飲めるようにする」と、目標を決めて、挑んだならば。
(…前のあいつなら、きっと出来たぞ)
他にやるべきことが多くて、やっていないというだけだ、と確信出来る。
仲間たちを地球まで導くことが、前のブルーの唯一の、そして最大の務め。
そのための努力は惜しまなかったし、それ以外は切り捨ててゆかねばならない。
「コーヒー党になるための修行」なんかは、している暇さえ無かっただろう。
そのための時間はあったとしても、それに割く心の余裕が無くて。
「頑張って、飲めるようになろう」と、思い付きさえしないで生きて。
(…そうして、修行はしないままで、だ…)
前のブルーは逝ってしまって、今のブルーが戻って来た。
甘えん坊で弱虫のブルー、修行なんかは「無理だってば!」と泣き出しそうなブルーが。
修行と聞いただけで逃げ出し、「許して」と悲鳴を上げそうなブルー。
たかが「コーヒー」が相手でも。
コーヒー党になれたとしたら、人生の幅が広がるとしても。
(…其処なんだよなあ…)
あいつがコーヒー党だったなら、と思考が最初の所に戻る。
「もしもブルーが、コーヒー党に育ってくれたら」と、今の自分の願いと共に。
叶う見込みは少ない夢。
今のブルーが、コーヒーを好むタイプになるのは難しい。
分かっているから、夢の世界を追い掛けたくなる。
「あいつの舌が変わってくれたら」と、コーヒー党のブルーがいる世界へと。
ブルーがコーヒーを好きになったら、きっと素敵なことだろう。
前のブルーとは出来なかったこと、その中の一つが今度は出来るようになるから。
寛ぎの時間に二人でコーヒー、そんなひと時が持てる人生。
(あいつと、コーヒーを一緒に飲めたら…)
家での過ごし方も変わるな、と大きく頷く。
二人で一緒に暮らし始めたら、もちろん、食事の時間も一緒。
休日でなくても、食事が済んだら、今夜みたいに…。
(後片付けを済ませて、コーヒーを淹れて…)
ブルーと二人で、ゆっくりとカップを傾ける。
淹れたばかりの熱いコーヒー、香り高い湯気が漂うカップ。
(そいつを、二人で…)
味わいながら、色々と話して、笑い合って、という夜の過ごし方。
ブルーもコーヒー党だったならば、コーヒーについての話だけでも盛り上がるだろう。
いつもと違う豆で淹れたら、あれこれと味を評価して。
淹れ方を変えてみた日だったら、普段に比べてどうなのか、などと。
(一緒に飲めたら、そんな話が出来るんだ)
これはブルーが「飲む」というだけでは、出来ないこと。
ブルーも心底、コーヒーが好きで、味わって飲めるタイプでないと、けして出来ない。
何故なら、コーヒー党でなければ、ブルーはコーヒーを楽しめないから。
「ぼくも飲むよ」と付き合うだけでは、修行するのと変わらない。
ブルーにとっては「苦いだけ」の飲み物、それを無理やり飲み下したって…。
(美味しいね、とは言えやしないんだしなあ…)
残念だ、と思うからこそ、夢の世界で遊びたい。
ブルーがコーヒー党な世界で、ブルーと一緒に飲めたら、と。
そういうブルーになってくれたら、初めてのデートも変わりそう。
チビのブルーが大きく育って、初めて二人で出掛ける時。
(飲まず食わず、ってわけにはいかないんだしな?)
何処かで食事で、お茶にも誘うわけだけれども、そのための店。
厳選したい店の候補に、「コーヒーが美味しい喫茶店」が入ることだろう。
コーヒー党の今の自分の行きつけの店で、雰囲気もいい店を選ばなければ、と。
(…紅茶の方だと、サッパリなんだが…)
何処が評判の店になるのか、調べないと分からないほどだけれども、コーヒーは違う。
なにしろ自分の好きな飲み物、初めて入る店にしたって…。
(だいたい、勘で分かるんだよな)
美味いコーヒーを出すかどうかは、とコーヒー党の勘には自信がある。
紅茶の店だと迷うけれども、コーヒーの店なら迷わない。
「よし、美味そうだ」と思えば入って、それを外したことは無いのが自分。
(だから、あいつと一緒に飲めたら…)
コーヒーの美味しい店を選んで連れてゆく。
「美味いんだぞ?」と、店の表で、小さな看板を指差して。
中に入ったら、ブルーと二人でメニューを広げる。
コーヒーと一緒に頼みたいケーキ、それを選ぶのも大切だけれど…。
(どのコーヒーを注文するのか、も…)
とても重要なことなんだよな、とコーヒーのカップを傾ける。
豆や淹れ方、それでコーヒーは変わるから。
行きつけの店で選ぶにしても、その日の気分で決めたいくらいに、奥の深い世界。
(あいつと二人で、メニューを眺めて…)
コーヒーで決めるか、ケーキに合わせてコーヒーを選ぶか、それも楽しい。
「どっちにする?」と、迷うような店もあるだろう。
美味しそうなケーキが幾つもあって、ブルーの瞳が釘付けになって。
「コーヒーもいいけど、先にケーキかな?」と、訊かれたりして。
そのケーキだって、ブルーの目を惹くものが幾つもあったなら…。
(残したら、俺が食ってやるから、って…)
全部、注文したっていい。
そして、それに合いそうな味のコーヒー、それはどれかと二人で悩んで。
(…そんな具合に、うんと楽しいデートってヤツが…)
出来るんだよなあ、と夢の世界に酔いしれながら、溜息をつく。
「あいつがコーヒーを一緒に飲めたら、出来るんだが」と。
家での夕食の後の時間も、二人でコーヒーを淹れられるのに、と。
(こうやって、今のようにだな…)
カップに淹れるコーヒーにしても、ブルーと二人分を淹れて楽しむ。
「今日はどれだ?」と、豆を選んで、淹れ方も決めて。
(…しかし、今度のあいつも、きっと…)
飲めないだろうし、夢で終わるぞ、と少し悲しい。
ブルーがコーヒーを一緒に飲めたら、本当に素敵だろうから。
家での時間も、デートの時間も、飲めないブルーと二人より、幅が広がるのだから…。
一緒に飲めたら・了
※ブルー君がコーヒー党だったら、と考え始めたハーレイ先生。「一緒に飲めたら」と。
もしもブルー君がコーヒー党なら、確かに色々変わりそう。無理な感じしかしませんけどv
「ねえ、ハーレイ。眠いんだけど…」
寝てもいい、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、何の前触れも無く。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「眠いって…。どうしたんだ?」
何処か具合でも悪いのか、とハーレイは顔を曇らせた。
元気そうに見えるブルーだけれども、油断は出来ない。
(俺が来る日を潰したくなくて、無理をして…)
起きていそうなのが、ブルーの性分。
実際、幾つも前科があった。
微熱があるのに隠していたとか、そういったもの。
今日もそれかもしれないな、とハーレイの心が騒ぎ出す。
ブルーの母を呼ぶべきだろうか、と考えたけれど…。
「ううん、ちょっぴり眠いだけだよ」
昨夜、夜更かししちゃったから、とブルーは肩を竦めた。
「早く寝なさい、って言われてたのに」と。
本を読むのに夢中になって、遅くなってしまったらしい。
それなら、ひとまず安心ではある。
でも…。
「睡眠不足というヤツか…。身体に悪いぞ」
あまり褒められたモンじゃない、とハーレイは注意した。
ただでも身体が弱いのだから、無理はいけない、と。
「うん…。だから、ママには言わないでくれる?」
叱られちゃうもの、とブルーは縋るような瞳になった。
夜に本を読むのを禁止されそうで、怖いのだという。
「お前なあ…。それで、どうしたいんだ?」
「ママが来るまでに、ちょっぴり、お昼寝…」
目覚ましと見張りをやってくれない、と赤い瞳が瞬く。
ブルーの母が来る時間になる前に、ブルーを起こす。
それが「目覚まし」。
見張りの方は言うまでもなくて、母の足音がしたら…。
「お前を叩き起こせ、ってか?」
「そう! 階段を上って来るんだから…」
足音は直ぐに分かるでしょ、とブルーが指摘する通り。
トントンと軽やかな音がするから、簡単に分かる。
「ふむ…。俺は一人で、のんびりしてればいいんだな?」
お茶を飲みながら本でも読んで、とハーレイは苦笑した。
そのくらいは、まあ、いいいだろう。
夜更かしは褒められないのだけれども、昼寝するのなら。
よし、とハーレイはブルーの頼みを請け負った。
ブルーがベッドで寝ている間、母が来ないか、番をする。
それから注意して時計を見ていて、夕方になったら…。
(ブルーのお母さんが、空になった皿を下げに来て…)
「お茶のおかわりは如何ですか?」と尋ねるのが常。
夕食までには、まだ時間があるから、それまでの分、と。
その時間が来る前に、ブルーを起こす。
「そろそろ起きろよ」と、肩を優しく揺すってやって。
「でないと、昼寝がバレちまうぞ」と、耳元で言って。
(なあに、簡単な役目だってな)
どの本を読んで待つとするかな、と本棚の方に目を遣る。
ブルーの蔵書は年相応のものだけれども、それなりに…。
(充実してるし、退屈なんかはしないってモンだ)
二冊くらいは読めそうだな、と背表紙を眺める。
子供向けだし、読破するのに、さほど時間はかからない。
あれと、あれと…、と算段していると、ブルーが言った。
「それじゃ、寝るから」と。
「ああ。昨夜の分を、しっかり取り戻すんだぞ」
ついでに身体を冷やさんようにな、とハーレイは笑んだ。
「上掛けを軽くかけるんだぞ」とベッドを指して。
「分かってる。あ、それから…」
ぼくを起こす時の注意だけれど…、とブルーが口ごもる。
「ママにバレないように、守ってくれる?」と。
「なんだ、大声を出すなってか?」
「あっ、分かった? ぼくって、寝起きが悪いから…」
ハーレイの声もそうだし、ぼくも同じ、とブルーが頷く。
「ママだと思って、「起きてるよ!」って言いそう…」
「大声でか?」
「うん、思いっ切り…」
だから…、とブルーは真剣な瞳になった。
「起こす時には、口を塞いで」と。
「俺の手で、口を塞いどけ、ってか?」
「違うよ、起こす時なんだよ?」
王子様のキスに決まってるでしょ、と赤い瞳が煌めいた。
「ぼくは起きるし、口も塞げるし、一石二鳥!」と。
「馬鹿野郎!」
俺の手で口を塞いでやる、とハーレイは眉を吊り上げた。
「そもそも、眠くないんだろうが!」と。
眠いなどとは、嘘で口実、キスが目当てに決まっている。
なにしろ、相手はブルーだから。
本当に眠いと言うのだったら、口を塞いで起こすまで。
「起きろよ、お母さん、来ちまうぞ」と。
「約束通り起こしてやったぞ」と、「早く起きろ」と…。
眠いんだけど・了
寝てもいい、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、何の前触れも無く。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「眠いって…。どうしたんだ?」
何処か具合でも悪いのか、とハーレイは顔を曇らせた。
元気そうに見えるブルーだけれども、油断は出来ない。
(俺が来る日を潰したくなくて、無理をして…)
起きていそうなのが、ブルーの性分。
実際、幾つも前科があった。
微熱があるのに隠していたとか、そういったもの。
今日もそれかもしれないな、とハーレイの心が騒ぎ出す。
ブルーの母を呼ぶべきだろうか、と考えたけれど…。
「ううん、ちょっぴり眠いだけだよ」
昨夜、夜更かししちゃったから、とブルーは肩を竦めた。
「早く寝なさい、って言われてたのに」と。
本を読むのに夢中になって、遅くなってしまったらしい。
それなら、ひとまず安心ではある。
でも…。
「睡眠不足というヤツか…。身体に悪いぞ」
あまり褒められたモンじゃない、とハーレイは注意した。
ただでも身体が弱いのだから、無理はいけない、と。
「うん…。だから、ママには言わないでくれる?」
叱られちゃうもの、とブルーは縋るような瞳になった。
夜に本を読むのを禁止されそうで、怖いのだという。
「お前なあ…。それで、どうしたいんだ?」
「ママが来るまでに、ちょっぴり、お昼寝…」
目覚ましと見張りをやってくれない、と赤い瞳が瞬く。
ブルーの母が来る時間になる前に、ブルーを起こす。
それが「目覚まし」。
見張りの方は言うまでもなくて、母の足音がしたら…。
「お前を叩き起こせ、ってか?」
「そう! 階段を上って来るんだから…」
足音は直ぐに分かるでしょ、とブルーが指摘する通り。
トントンと軽やかな音がするから、簡単に分かる。
「ふむ…。俺は一人で、のんびりしてればいいんだな?」
お茶を飲みながら本でも読んで、とハーレイは苦笑した。
そのくらいは、まあ、いいいだろう。
夜更かしは褒められないのだけれども、昼寝するのなら。
よし、とハーレイはブルーの頼みを請け負った。
ブルーがベッドで寝ている間、母が来ないか、番をする。
それから注意して時計を見ていて、夕方になったら…。
(ブルーのお母さんが、空になった皿を下げに来て…)
「お茶のおかわりは如何ですか?」と尋ねるのが常。
夕食までには、まだ時間があるから、それまでの分、と。
その時間が来る前に、ブルーを起こす。
「そろそろ起きろよ」と、肩を優しく揺すってやって。
「でないと、昼寝がバレちまうぞ」と、耳元で言って。
(なあに、簡単な役目だってな)
どの本を読んで待つとするかな、と本棚の方に目を遣る。
ブルーの蔵書は年相応のものだけれども、それなりに…。
(充実してるし、退屈なんかはしないってモンだ)
二冊くらいは読めそうだな、と背表紙を眺める。
子供向けだし、読破するのに、さほど時間はかからない。
あれと、あれと…、と算段していると、ブルーが言った。
「それじゃ、寝るから」と。
「ああ。昨夜の分を、しっかり取り戻すんだぞ」
ついでに身体を冷やさんようにな、とハーレイは笑んだ。
「上掛けを軽くかけるんだぞ」とベッドを指して。
「分かってる。あ、それから…」
ぼくを起こす時の注意だけれど…、とブルーが口ごもる。
「ママにバレないように、守ってくれる?」と。
「なんだ、大声を出すなってか?」
「あっ、分かった? ぼくって、寝起きが悪いから…」
ハーレイの声もそうだし、ぼくも同じ、とブルーが頷く。
「ママだと思って、「起きてるよ!」って言いそう…」
「大声でか?」
「うん、思いっ切り…」
だから…、とブルーは真剣な瞳になった。
「起こす時には、口を塞いで」と。
「俺の手で、口を塞いどけ、ってか?」
「違うよ、起こす時なんだよ?」
王子様のキスに決まってるでしょ、と赤い瞳が煌めいた。
「ぼくは起きるし、口も塞げるし、一石二鳥!」と。
「馬鹿野郎!」
俺の手で口を塞いでやる、とハーレイは眉を吊り上げた。
「そもそも、眠くないんだろうが!」と。
眠いなどとは、嘘で口実、キスが目当てに決まっている。
なにしろ、相手はブルーだから。
本当に眠いと言うのだったら、口を塞いで起こすまで。
「起きろよ、お母さん、来ちまうぞ」と。
「約束通り起こしてやったぞ」と、「早く起きろ」と…。
眠いんだけど・了
