(今日は、会えずに終わっちまったなあ…)
お互い、運が無かったってな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それが温かな湯気を立てている。
ゆったりと椅子に腰を下ろして、寛ぎの時間なのだけれども、ブルーの方はどうだろう。
遅い時間になったとはいえ、今も膨れているかもしれない。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、パジャマ姿でベッドの縁に座って。
(膨れていないで、早く寝ろよ?)
寝ていてくれると嬉しいんだが、とブルーの弱い身体を気遣わずにはいられない。
今のブルーも前と同じに、虚弱な身体に生まれてしまった。
膨れっ面も、「会えなかったよ」とぼやく姿も可愛いとはいえ、夜更かしは良くない。
身体を冷やせば風邪を引くだろうし、そうでなくても体力を削られてしまう。
(…なあ、そうだろう?)
お前だって、そう思うよな、とハーレイは机の引き出しを開けた。
其処には日記が入れてあるけれど、日記の下に、そっと仕舞ってある写真集。
(……お前も頑固だったんだがなあ……)
今のお前も、負けていないな、と、その写真集を取り出した。
『追憶』というタイトルがつけられた、それ。
表紙に刷られた、前のブルーの一番有名な写真。
(これがお前の本当の顔で…)
誰にも見せやしなかったが、と今も鮮やかに思い出すことが出来る。
正面を向いたブルーの赤い瞳の奥には、憂いと悲しみの色が秘められていた。
前のブルーが、前のハーレイの前でだけ見せた表情。
遠く遥かな時の彼方で、こういう写真を必死に探した。
前のブルーを失った後で、データベースを端から掘り返すようにして。
(…なのに、どうしても見付けられなくて…)
断念せざるを得なかったのに、後世の誰かが「それ」を見付けた。
恐らく、残されたブルーの映像の中から、この表情に気付いたのだろう。
「これだ」と、前のブルーの心を見抜いて、その一瞬を切り取った。
「これこそ、ソルジャー・ブルーなのだ」と、「ソルジャーの顔ではない」本当の顔を。
今では一番有名になった、その写真。
それが表紙になっている本も、また多い。
『追憶』もそういう中の一冊だけれど、選んで買って来た写真集。
すっかり宝物になっている本、毎晩、日記を布団代わりに掛けてやる。
前のブルーが寂しくないよう、温かく包み込むように。
日記の下なら、「ハーレイと一緒にいる」のと変わらないだろう、と思っているから。
(お前も、寂しがり屋だったんだが…)
今のお前も同じだよな、と写真集を机に置いて、心の中で前のブルーに語り掛ける。
表紙に刷られた写真と向き合い、まるでブルーがいるかのように。
(お前からも言ってやってくれよな、夜更かししないで寝ろ、ってな)
でないと風邪を引いちまうから、と前のブルーに頼み込む。
「俺には、どうにも出来やしないし」と、「お前は、お前なんだから」と。
とはいえ、自分でも分かってはいる。
「前のブルー」は、そっくりそのまま、「今のブルー」だという事実。
いくら「前のブルー」に頼み込んでも、それは「今のブルー」に届きはしない。
全く同じ魂なのだし、写真は「ただの写真」でしかなくて、言わば幻影のようなもの。
無駄だと分かっているのだけれども、時々、こうして話し掛けてしまう。
「前のブルー」が、此処にいるような気持ちになって。
時の彼方で失くした恋人、その人が今も、写真を通して、こちらを見詰めているようで。
(…そうじゃないって、百も千も承知なんだがなあ…)
どうにも駄目だ、とハーレイは苦笑し、コーヒーのカップを傾けた。
「この癖は、治りそうもない」と。
いつか治る日が来るのだろうか、それとも一生モノなのだろうか。
(……さてなあ……?)
今のブルーが前のブルーと同じ姿になった時には、あるいは治るのかもしれない。
失くしたブルーが、あの頃と全く同じ姿で、側にいるようになるわけだから。
(その時には、嫁に来てくれるわけで…)
二度と失くしはしないわけだし、「前のブルー」の面影を探し求める必要は無くなる。
いつでも同じ顔を見られて、同じ声を聞ける日々が来るのだから。
そうなったならば、この写真集を引っ張り出さなくても…。
(前のあいつに会えるんだしな?)
きっと、この癖も治るだろう、と思う一方、治らないような気もしている。
生まれ変わって来た今のブルーは、幸せ一杯に育ったブルー。
『追憶』の表紙に刷られた表情、それと同じ瞳を見せる時など、永遠に来ない。
悲しみも憂いも、前のブルーの味わったものとは、まるで全く違うから。
せいぜい「ハーレイに会えなかったよ」程度で、前のブルーのそれとは重さが違いすぎる。
(…この表情を、俺が今のブルーで見ることは…)
本当に永遠に無いんだよな、と思うからこそ、「この癖は治らないかもな」と感じている。
前のブルーを想い続ける、この気持ちもまた、本物だから。
どんなに「今のブルー」がいようと、この想いは消えてくれそうもない。
(…百年くらい、一緒に暮らせば…)
治ってくれるかもしれないけれども、それまでは、きっと「前のブルー」を追い続ける。
何かのはずみに、この写真集を取り出して。
今夜みたいに、「お前だったら、どう思う?」などと「ブルー」に尋ねたりもして。
(例えば、あいつと喧嘩しちまって…)
膨れっ面になったブルーが、「ぼくは一人で寝るからね!」とバンと扉を閉めたような夜。
締め出しを食らって寝室に入れず、すごすごと書斎に来るしか道が無かった時。
そうした夜には、この引き出しを開けることだろう。
写真集を取り出し、前のブルーに向かって愚痴を零してしまうと思う。
「流石、あいつもお前だよな」と、「今夜は放り出されちまった」と、コーヒー片手に。
(なんて頑固なヤツなんだ、と…)
当の「ブルー」を相手に嘆いて、寝場所を失った惨めな自分の姿を披露して笑うことだろう。
「見てくれ、俺はこのザマなんだ」と、「全部、お前がやったんだぞ?」と。
(お前からも、ちょっと、とりなしてくれ、と頼んだりして…)
前のブルーに頭を下げたら、寝室の扉も開いてくれるかもしれない。
なにしろ同じ「ブルー」なのだし、魂が何処かで共鳴して。
(…ところが、どっこい…)
生憎と「ブルー」の魂は一つ、今のブルーが持っている以上、そんな救いは来はしない。
哀れなハーレイの心の中では、「前のブルー」が同情をしてくれたって。
「今夜は、ぼくと話して過ごそう」と、優しい言葉が聞こえたように思えたとしても。
本物のブルーは寝室に籠って、プンスカと怒り続けたまま。
「朝まで開けてやらないんだから」と、「今夜は、書斎かソファで寝たら?」と。
(…そんな夜には、やっぱり、こいつに…)
愚痴を聞いて貰うのが一番だよな、とハーレイは『追憶』の表紙を指でトントンと叩く。
「お前は、俺といてくれるしな」と、「いつまでも、俺と一緒なんだ」と、微笑み掛けて。
ただの写真で幻影だろうと、「前のブルー」は何処へも行かない。
本は歩いて逃げたりしないし、ハーレイを締め出すことだってしない。
「いつだって、俺が望みさえすれば会えるんだしな」と、思った所でハタと気付いた。
寝室から「ハーレイ」を締め出しそうな、前と同じに頑固なブルー。
今のブルーと結婚したなら、ブルーは書斎にも出入りする。
「ねえ、何の本を読んでいるの?」と、背後から覗きもすることだろう。
そうなった時は、今、机の上に置いている『追憶』も…。
(どうして、こんな写真集なんかを持ってるの、って…)
今のブルーは興味津々、ブルーがそれを見付けた途端に、質問攻めに遭うに違いない。
何故、買ったのか、いつからあるのか、どうして普段は出ていないのか、と。
(…俺の愛読書は多いとはいえ、どれも本棚に並んでて…)
引き出しの中が定位置の本など、一冊も無いという現実がある。
気が向いた時に本棚からヒョイと手に取り、机に持って行って読むのが「ハーレイ流」。
それが気に入りの読書のスタイル、ブルーも、じきに覚えるだろう。
「また、その本? それって、そんなに面白い?」などと笑って、肩越しに読んでみたりして。
時には、読書の邪魔をしないようにと、コーヒーだけ置いて去ってゆくことも。
(そんな具合に、俺のスタイルを覚えられちまった後にだな…)
この『追憶』がブルーに見付かったならば、大変なことになるかもしれない。
「どうして、これだけ」と、「引き出しの中って、宝物なの?」とブルーが怒り始めて。
必死に言い訳してみたところで、ブルーが聞く耳を持つ筈もない。
何故なら、今のブルーときたら…。
(…前の自分に嫉妬するんだ…)
まるで銀色の子猫みたいに、鏡に映った自分に向かって、フーフーと毛を逆立てて。
「こいつなんかは、大っ嫌いだ!」と、膨れっ面になって、プンスカ怒って。
そうやって嫉妬していた日々が、ブルーの中で蘇ることは間違いない。
「ハーレイ、やっぱり、前のぼくの方が好きだったんだ!」と、チビだった頃を蒸し返す。
おまけに、今でも写真集を大切に持って、隠しているとなったら、怒り心頭。
「あんまりだよ!」と、「今でも、前のぼくの方が好きで大事にしているなんて!」と。
もう確実に、「バン!」と閉まるだろう、寝室の扉。
ブルーは其処に立て籠ったまま、何日経っても、怒りっ放しで怒りは解けない。
御機嫌伺いにノックしたって、食事やおやつを持って行っても、扉は固く閉まったまま。
「食事なら、其処に置いておけば?」と、不機嫌な声が投げ掛けられて。
「お皿が空いたら出しておくから、適当な時に持ってってよ」と、取りつく島も無い有様で。
懸命に詫びて詫び続けたって、最後には、きっとこう言われる。
「本当に悪いと思ってるんなら、あの本、捨ててしまってよ!」と閉じた扉の向こうから。
「ぼくなら、此処にちゃんといるでしょ」と、「あんな写真は要らないんだから!」と。
(…そう言われてもだな…!)
前のあいつを捨てたりなんか出来るもんか、と分かっているから、溜息と共に眉間を揉んだ。
「どうしたもんか」と、未来の自分を思い描いて。
この本を大切に持っておきたいなら、今のブルーに見付からないよう、隠すしかない。
隠し事などしたくないのに、そうしない限り、大戦争が勃発しそう。
(弱ったな…)
秘密にするなら、何処に隠せばいいんだか、と書斎を見回し、とても大きな溜息をつく。
「簡単に思い付くような場所なら、ブルーも簡単に気付くってことだぞ」と、天井を仰いで。
「何処に秘密の場所があるんだ」と、「まあ、もっと先になってからでいいか」と。
恋人に隠し事をするなど、考えたことも無かったから。
どう考えても出来そうになくて、けれど、バレたら大惨事だから…。
秘密にするなら・了
※ハーレイ先生が大切にしている、前のブルーの写真集。一人暮らしの今はいいんですけど…。
ブルー君と一緒に暮らす時が来たら、困ってしまうことになりそう。見付かったら大変。
お互い、運が無かったってな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それが温かな湯気を立てている。
ゆったりと椅子に腰を下ろして、寛ぎの時間なのだけれども、ブルーの方はどうだろう。
遅い時間になったとはいえ、今も膨れているかもしれない。
「今日はハーレイに会えなかったよ」と、パジャマ姿でベッドの縁に座って。
(膨れていないで、早く寝ろよ?)
寝ていてくれると嬉しいんだが、とブルーの弱い身体を気遣わずにはいられない。
今のブルーも前と同じに、虚弱な身体に生まれてしまった。
膨れっ面も、「会えなかったよ」とぼやく姿も可愛いとはいえ、夜更かしは良くない。
身体を冷やせば風邪を引くだろうし、そうでなくても体力を削られてしまう。
(…なあ、そうだろう?)
お前だって、そう思うよな、とハーレイは机の引き出しを開けた。
其処には日記が入れてあるけれど、日記の下に、そっと仕舞ってある写真集。
(……お前も頑固だったんだがなあ……)
今のお前も、負けていないな、と、その写真集を取り出した。
『追憶』というタイトルがつけられた、それ。
表紙に刷られた、前のブルーの一番有名な写真。
(これがお前の本当の顔で…)
誰にも見せやしなかったが、と今も鮮やかに思い出すことが出来る。
正面を向いたブルーの赤い瞳の奥には、憂いと悲しみの色が秘められていた。
前のブルーが、前のハーレイの前でだけ見せた表情。
遠く遥かな時の彼方で、こういう写真を必死に探した。
前のブルーを失った後で、データベースを端から掘り返すようにして。
(…なのに、どうしても見付けられなくて…)
断念せざるを得なかったのに、後世の誰かが「それ」を見付けた。
恐らく、残されたブルーの映像の中から、この表情に気付いたのだろう。
「これだ」と、前のブルーの心を見抜いて、その一瞬を切り取った。
「これこそ、ソルジャー・ブルーなのだ」と、「ソルジャーの顔ではない」本当の顔を。
今では一番有名になった、その写真。
それが表紙になっている本も、また多い。
『追憶』もそういう中の一冊だけれど、選んで買って来た写真集。
すっかり宝物になっている本、毎晩、日記を布団代わりに掛けてやる。
前のブルーが寂しくないよう、温かく包み込むように。
日記の下なら、「ハーレイと一緒にいる」のと変わらないだろう、と思っているから。
(お前も、寂しがり屋だったんだが…)
今のお前も同じだよな、と写真集を机に置いて、心の中で前のブルーに語り掛ける。
表紙に刷られた写真と向き合い、まるでブルーがいるかのように。
(お前からも言ってやってくれよな、夜更かししないで寝ろ、ってな)
でないと風邪を引いちまうから、と前のブルーに頼み込む。
「俺には、どうにも出来やしないし」と、「お前は、お前なんだから」と。
とはいえ、自分でも分かってはいる。
「前のブルー」は、そっくりそのまま、「今のブルー」だという事実。
いくら「前のブルー」に頼み込んでも、それは「今のブルー」に届きはしない。
全く同じ魂なのだし、写真は「ただの写真」でしかなくて、言わば幻影のようなもの。
無駄だと分かっているのだけれども、時々、こうして話し掛けてしまう。
「前のブルー」が、此処にいるような気持ちになって。
時の彼方で失くした恋人、その人が今も、写真を通して、こちらを見詰めているようで。
(…そうじゃないって、百も千も承知なんだがなあ…)
どうにも駄目だ、とハーレイは苦笑し、コーヒーのカップを傾けた。
「この癖は、治りそうもない」と。
いつか治る日が来るのだろうか、それとも一生モノなのだろうか。
(……さてなあ……?)
今のブルーが前のブルーと同じ姿になった時には、あるいは治るのかもしれない。
失くしたブルーが、あの頃と全く同じ姿で、側にいるようになるわけだから。
(その時には、嫁に来てくれるわけで…)
二度と失くしはしないわけだし、「前のブルー」の面影を探し求める必要は無くなる。
いつでも同じ顔を見られて、同じ声を聞ける日々が来るのだから。
そうなったならば、この写真集を引っ張り出さなくても…。
(前のあいつに会えるんだしな?)
きっと、この癖も治るだろう、と思う一方、治らないような気もしている。
生まれ変わって来た今のブルーは、幸せ一杯に育ったブルー。
『追憶』の表紙に刷られた表情、それと同じ瞳を見せる時など、永遠に来ない。
悲しみも憂いも、前のブルーの味わったものとは、まるで全く違うから。
せいぜい「ハーレイに会えなかったよ」程度で、前のブルーのそれとは重さが違いすぎる。
(…この表情を、俺が今のブルーで見ることは…)
本当に永遠に無いんだよな、と思うからこそ、「この癖は治らないかもな」と感じている。
前のブルーを想い続ける、この気持ちもまた、本物だから。
どんなに「今のブルー」がいようと、この想いは消えてくれそうもない。
(…百年くらい、一緒に暮らせば…)
治ってくれるかもしれないけれども、それまでは、きっと「前のブルー」を追い続ける。
何かのはずみに、この写真集を取り出して。
今夜みたいに、「お前だったら、どう思う?」などと「ブルー」に尋ねたりもして。
(例えば、あいつと喧嘩しちまって…)
膨れっ面になったブルーが、「ぼくは一人で寝るからね!」とバンと扉を閉めたような夜。
締め出しを食らって寝室に入れず、すごすごと書斎に来るしか道が無かった時。
そうした夜には、この引き出しを開けることだろう。
写真集を取り出し、前のブルーに向かって愚痴を零してしまうと思う。
「流石、あいつもお前だよな」と、「今夜は放り出されちまった」と、コーヒー片手に。
(なんて頑固なヤツなんだ、と…)
当の「ブルー」を相手に嘆いて、寝場所を失った惨めな自分の姿を披露して笑うことだろう。
「見てくれ、俺はこのザマなんだ」と、「全部、お前がやったんだぞ?」と。
(お前からも、ちょっと、とりなしてくれ、と頼んだりして…)
前のブルーに頭を下げたら、寝室の扉も開いてくれるかもしれない。
なにしろ同じ「ブルー」なのだし、魂が何処かで共鳴して。
(…ところが、どっこい…)
生憎と「ブルー」の魂は一つ、今のブルーが持っている以上、そんな救いは来はしない。
哀れなハーレイの心の中では、「前のブルー」が同情をしてくれたって。
「今夜は、ぼくと話して過ごそう」と、優しい言葉が聞こえたように思えたとしても。
本物のブルーは寝室に籠って、プンスカと怒り続けたまま。
「朝まで開けてやらないんだから」と、「今夜は、書斎かソファで寝たら?」と。
(…そんな夜には、やっぱり、こいつに…)
愚痴を聞いて貰うのが一番だよな、とハーレイは『追憶』の表紙を指でトントンと叩く。
「お前は、俺といてくれるしな」と、「いつまでも、俺と一緒なんだ」と、微笑み掛けて。
ただの写真で幻影だろうと、「前のブルー」は何処へも行かない。
本は歩いて逃げたりしないし、ハーレイを締め出すことだってしない。
「いつだって、俺が望みさえすれば会えるんだしな」と、思った所でハタと気付いた。
寝室から「ハーレイ」を締め出しそうな、前と同じに頑固なブルー。
今のブルーと結婚したなら、ブルーは書斎にも出入りする。
「ねえ、何の本を読んでいるの?」と、背後から覗きもすることだろう。
そうなった時は、今、机の上に置いている『追憶』も…。
(どうして、こんな写真集なんかを持ってるの、って…)
今のブルーは興味津々、ブルーがそれを見付けた途端に、質問攻めに遭うに違いない。
何故、買ったのか、いつからあるのか、どうして普段は出ていないのか、と。
(…俺の愛読書は多いとはいえ、どれも本棚に並んでて…)
引き出しの中が定位置の本など、一冊も無いという現実がある。
気が向いた時に本棚からヒョイと手に取り、机に持って行って読むのが「ハーレイ流」。
それが気に入りの読書のスタイル、ブルーも、じきに覚えるだろう。
「また、その本? それって、そんなに面白い?」などと笑って、肩越しに読んでみたりして。
時には、読書の邪魔をしないようにと、コーヒーだけ置いて去ってゆくことも。
(そんな具合に、俺のスタイルを覚えられちまった後にだな…)
この『追憶』がブルーに見付かったならば、大変なことになるかもしれない。
「どうして、これだけ」と、「引き出しの中って、宝物なの?」とブルーが怒り始めて。
必死に言い訳してみたところで、ブルーが聞く耳を持つ筈もない。
何故なら、今のブルーときたら…。
(…前の自分に嫉妬するんだ…)
まるで銀色の子猫みたいに、鏡に映った自分に向かって、フーフーと毛を逆立てて。
「こいつなんかは、大っ嫌いだ!」と、膨れっ面になって、プンスカ怒って。
そうやって嫉妬していた日々が、ブルーの中で蘇ることは間違いない。
「ハーレイ、やっぱり、前のぼくの方が好きだったんだ!」と、チビだった頃を蒸し返す。
おまけに、今でも写真集を大切に持って、隠しているとなったら、怒り心頭。
「あんまりだよ!」と、「今でも、前のぼくの方が好きで大事にしているなんて!」と。
もう確実に、「バン!」と閉まるだろう、寝室の扉。
ブルーは其処に立て籠ったまま、何日経っても、怒りっ放しで怒りは解けない。
御機嫌伺いにノックしたって、食事やおやつを持って行っても、扉は固く閉まったまま。
「食事なら、其処に置いておけば?」と、不機嫌な声が投げ掛けられて。
「お皿が空いたら出しておくから、適当な時に持ってってよ」と、取りつく島も無い有様で。
懸命に詫びて詫び続けたって、最後には、きっとこう言われる。
「本当に悪いと思ってるんなら、あの本、捨ててしまってよ!」と閉じた扉の向こうから。
「ぼくなら、此処にちゃんといるでしょ」と、「あんな写真は要らないんだから!」と。
(…そう言われてもだな…!)
前のあいつを捨てたりなんか出来るもんか、と分かっているから、溜息と共に眉間を揉んだ。
「どうしたもんか」と、未来の自分を思い描いて。
この本を大切に持っておきたいなら、今のブルーに見付からないよう、隠すしかない。
隠し事などしたくないのに、そうしない限り、大戦争が勃発しそう。
(弱ったな…)
秘密にするなら、何処に隠せばいいんだか、と書斎を見回し、とても大きな溜息をつく。
「簡単に思い付くような場所なら、ブルーも簡単に気付くってことだぞ」と、天井を仰いで。
「何処に秘密の場所があるんだ」と、「まあ、もっと先になってからでいいか」と。
恋人に隠し事をするなど、考えたことも無かったから。
どう考えても出来そうになくて、けれど、バレたら大惨事だから…。
秘密にするなら・了
※ハーレイ先生が大切にしている、前のブルーの写真集。一人暮らしの今はいいんですけど…。
ブルー君と一緒に暮らす時が来たら、困ってしまうことになりそう。見付かったら大変。
PR
「ねえ、ハーレイ。子供の意見は…」
尊重すべきでしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 子供って…」
意見って何だ、とハーレイは目を丸くした。
ブルーが質問して来た意図が、まるで全く分からない。
この部屋に子供などはいないし、窓の外を見ても…。
(子供なんか、何処にもいないよなあ…?)
何処から子供が出て来たんだ、と謎は深まる一方。
質問が出て来る前の話題も、子供とは無関係だった。
(しかも、尊重すべきとか…)
そいつは子供が前提では、とハーレイは首を捻り続ける。
ブルーの問いに対する答えを、一つも見付けられなくて。
(弱ったな…)
なんと答えてやればいいんだ、と頭の中に渦巻く疑問。
ブルーが何を尋ねたいのか、片鱗だけでも掴まないと…。
(いつまで黙っているつもりなの、って…)
怒り出すのは確実なんだ、と思いはしても謎は解けない。
けれど、ブルーの機嫌を損ねてしまったら…。
(膨れてフグになっちまうしなあ…)
此処は降参するしかない、とハーレイは腹を括った。
「分からないの?」と詰られようとも、訊く方がマシ。
だからブルーを真っ直ぐ見詰めて、頼むことにした。
「すまんが、俺に分かるように、だ…」
意味を教えてくれないか、とブルーの問いに返した質問。
子供の意見とは何を指すのか、尊重とは…、と。
「…分からないの?」
案の定、ブルーは呆れた表情になった。
「大人なのに」と、「それに、先生だよね?」とも。
呆れられたのは無理もないけれど、二つ目に傷付く。
「先生だよね?」という、ブルーの指摘。
ハーレイは学校の教師なのだし、子供相手の仕事になる。
言われてみれば、生徒の意見というものは…。
(頭ごなしに否定しないで…)
尊重すべきものだった、と今更のように気付かされた。
生徒の言い分をよく聞いてやって、動くのは、それから。
「そいつは駄目だな」と、否定することになろうとも。
(…うーむ…)
痛い所を突かれたな、と思いながらも、まず謝った。
「申し訳ない」と、潔く。
小さな恋人に頭を下げて、「俺が鈍すぎた」と。
「確かに、お前の言う通りだ。子供の意見は…」
尊重しないと駄目だったな、と苦笑する。
「俺の仕事の鉄則なのに、すっかり忘れちまってた」と。
「やっぱりね…。学校の生徒もそうなんだけど…」
子供全般に言えることでしょ、とブルーは溜息をつく。
「例えば、お菓子を分ける時とか、どうするの?」と。
「そういや、そうだな…。子供が混じっているんなら…」
先に子供に選ばせないと、とハーレイは大きく頷いた。
切り分けたケーキを分ける時には、子供が優先。
大きさや、それにデコレーションやら、フルーツやら。
子供が欲しい部分は何処か、意見を尊重しなければ。
(いろんな種類の菓子がある時も…)
子供の意見が最優先で、大人はじっと待つことになる。
「どれが食べたい?」と尋ねてやって、選ぶのを。
どんなに待たされる羽目になろうと、尊重すべき意見。
ブルーの言葉は、実に正しい。
何処も間違っていないわけだし、ハーレイは笑んだ。
「お前、なかなか考えてるな」と。
「いつもは我儘ばかりのくせに、見直したぞ」と。
「そりゃ、ぼくだって、たまにはね…」
物事ってヤツを考えるもの、とブルーは得意げ。
「これでも昔は、ソルジャーをやっていたんだし」と。
「なるほどなあ…。それで、昔に返ってみた、と」
お前は子供たちと仲が良かったし、と遠い昔が懐かしい。
前のブルーは、よく子供たちと遊んでいたから…。
(子供の意見は尊重すべき、って考えるよなあ…)
そんな場面が幾つもあった、と思い出すキャプテン時代。
「子供たちのために」と、前のブルーは、よく提案した。
子供たちがそれを望んでいるから、そのように、と。
(…本当に色々あったっけなあ…)
懐かしいな、と感慨に耽っていたら、ブルーが言った。
「分かったんなら、尊重してよね」と。
「…はあ?」
また丸くなった、鳶色の瞳。
二度目の「はあ?」に合わせて、再び真ん丸に。
「まだ分からないの? ぼくも今は、子供なんだから…」
尊重してよ、とブルーはキスを強請って来た。
「唇にね」と、「額や頬じゃ駄目だよ」と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握る。
悪知恵が回るブルーの頭を、コツンと叩いてやるために。
十四歳の小さなブルーに、唇へのキスは早すぎるから…。
子供の意見は・了
尊重すべきでしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 子供って…」
意見って何だ、とハーレイは目を丸くした。
ブルーが質問して来た意図が、まるで全く分からない。
この部屋に子供などはいないし、窓の外を見ても…。
(子供なんか、何処にもいないよなあ…?)
何処から子供が出て来たんだ、と謎は深まる一方。
質問が出て来る前の話題も、子供とは無関係だった。
(しかも、尊重すべきとか…)
そいつは子供が前提では、とハーレイは首を捻り続ける。
ブルーの問いに対する答えを、一つも見付けられなくて。
(弱ったな…)
なんと答えてやればいいんだ、と頭の中に渦巻く疑問。
ブルーが何を尋ねたいのか、片鱗だけでも掴まないと…。
(いつまで黙っているつもりなの、って…)
怒り出すのは確実なんだ、と思いはしても謎は解けない。
けれど、ブルーの機嫌を損ねてしまったら…。
(膨れてフグになっちまうしなあ…)
此処は降参するしかない、とハーレイは腹を括った。
「分からないの?」と詰られようとも、訊く方がマシ。
だからブルーを真っ直ぐ見詰めて、頼むことにした。
「すまんが、俺に分かるように、だ…」
意味を教えてくれないか、とブルーの問いに返した質問。
子供の意見とは何を指すのか、尊重とは…、と。
「…分からないの?」
案の定、ブルーは呆れた表情になった。
「大人なのに」と、「それに、先生だよね?」とも。
呆れられたのは無理もないけれど、二つ目に傷付く。
「先生だよね?」という、ブルーの指摘。
ハーレイは学校の教師なのだし、子供相手の仕事になる。
言われてみれば、生徒の意見というものは…。
(頭ごなしに否定しないで…)
尊重すべきものだった、と今更のように気付かされた。
生徒の言い分をよく聞いてやって、動くのは、それから。
「そいつは駄目だな」と、否定することになろうとも。
(…うーむ…)
痛い所を突かれたな、と思いながらも、まず謝った。
「申し訳ない」と、潔く。
小さな恋人に頭を下げて、「俺が鈍すぎた」と。
「確かに、お前の言う通りだ。子供の意見は…」
尊重しないと駄目だったな、と苦笑する。
「俺の仕事の鉄則なのに、すっかり忘れちまってた」と。
「やっぱりね…。学校の生徒もそうなんだけど…」
子供全般に言えることでしょ、とブルーは溜息をつく。
「例えば、お菓子を分ける時とか、どうするの?」と。
「そういや、そうだな…。子供が混じっているんなら…」
先に子供に選ばせないと、とハーレイは大きく頷いた。
切り分けたケーキを分ける時には、子供が優先。
大きさや、それにデコレーションやら、フルーツやら。
子供が欲しい部分は何処か、意見を尊重しなければ。
(いろんな種類の菓子がある時も…)
子供の意見が最優先で、大人はじっと待つことになる。
「どれが食べたい?」と尋ねてやって、選ぶのを。
どんなに待たされる羽目になろうと、尊重すべき意見。
ブルーの言葉は、実に正しい。
何処も間違っていないわけだし、ハーレイは笑んだ。
「お前、なかなか考えてるな」と。
「いつもは我儘ばかりのくせに、見直したぞ」と。
「そりゃ、ぼくだって、たまにはね…」
物事ってヤツを考えるもの、とブルーは得意げ。
「これでも昔は、ソルジャーをやっていたんだし」と。
「なるほどなあ…。それで、昔に返ってみた、と」
お前は子供たちと仲が良かったし、と遠い昔が懐かしい。
前のブルーは、よく子供たちと遊んでいたから…。
(子供の意見は尊重すべき、って考えるよなあ…)
そんな場面が幾つもあった、と思い出すキャプテン時代。
「子供たちのために」と、前のブルーは、よく提案した。
子供たちがそれを望んでいるから、そのように、と。
(…本当に色々あったっけなあ…)
懐かしいな、と感慨に耽っていたら、ブルーが言った。
「分かったんなら、尊重してよね」と。
「…はあ?」
また丸くなった、鳶色の瞳。
二度目の「はあ?」に合わせて、再び真ん丸に。
「まだ分からないの? ぼくも今は、子供なんだから…」
尊重してよ、とブルーはキスを強請って来た。
「唇にね」と、「額や頬じゃ駄目だよ」と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握る。
悪知恵が回るブルーの頭を、コツンと叩いてやるために。
十四歳の小さなブルーに、唇へのキスは早すぎるから…。
子供の意見は・了
(こういう、独りぼっちの夜は…)
その内に無くなるんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…十八歳になったら、ハーレイと結婚出来るから…)
誕生日が来たら、直ぐにでも結婚式を挙げることだろう。
そしたら、ハーレイの家に引っ越し、一緒に暮らす。
夜になっても、一人きりにはなったりしない、同じ家での日々が始まる。
(昼間は、ハーレイ、お仕事だけれど…)
夜は必ず帰って来るから、今夜のように一人の夜など、消えて無くなる。
家の何処かにハーレイがいて、呼べば答えてくれるから。
返事が無くても捜しに行ったら、ハーレイの姿が見付かるから。
(幸せだよね…)
昼間はお留守番だけど、と結婚出来る日が待ち遠しい。
どんな時でもハーレイと一緒で、何処へ行くにも二人が普通な、幸せな日々がやって来る。
休日となれば、朝から晩まで離れはしないし、ドライブも旅行も、二人で出掛ける。
ハーレイが「行くか?」と誘ってくれて、運転したり、旅の手配をしてくれたりして。
(…ホントに朝から晩まで一緒…)
夏休みとかなら、長い旅行も出来るよね、と顔が綻ぶ。
船旅だって、他の星へと宇宙船で出掛けることだって、長い休暇の時なら簡単。
アルテメシアにも行ってみたいし、地球一周の船旅もいい。
(だけど、普段は、お留守番…)
昼の間は、と結婚してからの日常を思う。
ハーレイは毎朝、スーツに着替えて、学校へ出勤しないといけない。
柔道部などの指導もあるから、朝はかなり早いことだろう。
(…ぼくが寝ている間に行っちゃう?)
寝坊してたら、そうなるよね、と肩を竦めた。
「それが嫌なら、早起きしなくちゃ」と。
ハーレイと朝食を食べたいのならば、眠くても、朝は起きなくては、と。
早く出勤するハーレイに合わせて、毎朝、早起き。
頑張って起きて、顔を洗って、着替えをしたりしている間に…。
(今と同じで、朝御飯、出来てるんだよね、きっと…)
母の代わりに、ハーレイが作る朝食が待っているだろう。
美味しそうな匂いが漂って来て、オムレツが焼けていたりして。
(きっとハーレイは、朝から、たっぷり食べるから…)
ソーセージなどもあるのだろうし、もちろんサラダも。
それらが載ったテーブルを前に、ハーレイがとびきりの笑顔を向けて来る。
「おはよう、朝飯、出来ているぞ」と。
「早く食べろよ」と、「トーストも、直ぐに焼けるから」などと。
(…ぼくが大きく育った後でも、朝御飯、そんなに沢山は…)
食べられない気がするのだけれども、ハーレイは「食べろ」と勧めて来そう。
「お前、身体が弱いからな」と、「食える時に、食べておかないと」と。
(寝込んじゃったら、食べないもんね…)
そうなった時のために体力、と食べさせられる朝御飯。
「このくらいは、食える筈だしな?」と、ハーレイが皿に盛り付けてくれて。
「そんなに無理だよ!」と膨れてみたって、「駄目だ」と怖い顔で睨み返されて。
(…朝から、お腹一杯になって…)
もう動くのも大変だよ、と文句を言っても、ハーレイは、きっと笑うだけ。
「だったら、軽く運動しろよ」と、「後片付けは、お前がやって」と。
(わざわざ、言われなくっても…)
後片付けくらい、毎朝、担当するだろう。
ハーレイが作ってくれたのだから、そのくらいのことはしなくては。
(それから、お掃除…)
出掛けるハーレイを玄関先で見送った後は、自分の役目に取り掛かる時間。
掃除に洗濯、「お嫁さん」らしく、こなしてゆく家事。
(午前中の時間は、あっという間に…)
終わっちゃうかな、と思うけれども、じきに家事にも馴れそうだから…。
(…早く終わって、自由時間が出来ちゃいそう…)
ハーレイが出るのも早いものね、と壁の時計を眺めてみた。
「十時頃には終わっていそう」と、「午前中のお茶の時間までには」と。
午前中の分の家事が済んだら、どうやって時間を過ごそうか。
留守番なのだし、出掛けないで家にいるべきだろう。
どうしても買いに行きたい物があるとか、特別な事情が無い限りは。
(まず、お茶を淹れて…)
それからダイニングで、椅子に座って一休み。
新聞を広げて、気になる記事を読んでゆく。
(ハーレイは、朝から読んだだろうから…)
朝食を一緒に食べる間に、教えてくれた記事があるかもしれない。
「今日は、こんなのが載っていたぞ」と、「面白いから、読んでおくといい」と。
(そういうのがあったら、一番に読んで…)
ハーレイが感想を言っていたなら、「なるほど」と納得しながら読む。
何も言わずに出掛けたのなら、ハーレイが仕事から戻った後に…。
(あのね、って…)
夕食の席などで記事の話題を持ち出し、あれこれと二人で話すのもいい。
記事によっては、おねだりだって出来ることだろう。
「書いてあった場所に行ってみたいよ」とか、「あの料理、家で作れそう?」とか。
(お料理の記事もあるもんね?)
他の地域の名物料理を紹介したり、食べ歩いたりしている記事。
そんな記事なら、「其処に行きたい」と強請られたって、ハーレイは嫌な顔などはしない。
「そうだな」と優しい笑みを浮かべて、「いつか行こうか」と相槌を打ってくれる筈。
名物料理を作れそうか、と尋ねられても、同じこと。
「それじゃ、作ってみるとするかな」と、「まずはレシピを探さないと」と頷いて。
(…ハーレイが、なんにも言ってなくても…)
新聞をじっくり読み込んでいけば、色々な発見がありそうな感じ。
「これは、ハーレイに話さなくっちゃ」と、夕方まで覚えていたい何かが。
あるいは「これ、ハーレイなら、作れるよね?」と、目を留めてしまうレシピとか。
(…ハーレイが帰るまで、忘れないように…)
メモしておいたり、新聞の記事を色のついたペンで囲んだりする。
レシピの場合は、切り抜いても支障が無い場所だったら、切り抜いておこう。
裏をチェックして広告だったら、ハサミを持って来て、もう早速に。
午前中の時間は穏やかに過ぎて、お昼になったら、昼御飯。
(ハーレイが、何か作っておいてくれそう…)
朝食のついでに拵えるとか、前の晩から作ってあるとか。
なんと言っても、前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が得意なのだから。
(ぼくの昼御飯を作るついでに、自分のお弁当だって…)
手際よく作って持って行きそうな、料理上手な今のハーレイ。
学校の食堂でも姿を見かけるけれども、お弁当を持って来ることもある。
(一人暮らしでも、お弁当を作っているんだし…)
結婚して「ブルーのお昼御飯」を作るとなったら、毎日、お弁当かもしれない。
もしかしたら、用意して行くお昼御飯も…。
(お弁当箱に入っているかも!)
ハーレイとお揃いのお弁当箱で、中身もお揃い、と胸がときめく。
お昼になったら、ハーレイは学校で、自分は家で、それぞれ、お弁当箱の蓋を開けて…。
(いただきます、って…)
一緒に食べている気分になって、楽しんで味わうお弁当。
ハーレイが仕事から帰って来たなら、お弁当の話も出来るだろう。
「今日のお弁当に入ってた、あれ、いいよね」などと、味や切り方について和やかに。
(…ウサギの形をしたリンゴとか、タコの形のウインナーとか…)
ハーレイなら入れてくれそうだけれど、ハーレイの分のお弁当箱には…。
(タコもウサギも、いない気がする…)
普通のリンゴやウインナーが入って、ごくごく平凡なお弁当。
職場で食べるお弁当だし、ウサギやタコは似合わないから。
(…ぼくが作ったら、入れちゃうんだけど…)
愛妻弁当って言うんだよね、と憧れるけれど、入れるチャンスは来そうにない。
早く起きて出掛けるハーレイよりも、早く起きないと作れないのが大問題。
(うんと早起きして、作ろうとしても…)
ハーレイなら、きっと目を覚ます。
「ブルーがいないぞ」と気配で気付いて、キッチンに来るに違いない。
「おい、お前、何をしてるんだ?」と、お弁当作りをチェックしに。
「リンゴのウサギを入れちゃ駄目だぞ」と、「ウインナーのタコも駄目だからな?」と。
(…どうせ、そうなっちゃうんだから…)
お昼御飯だの、お弁当だのは、ハーレイに全部任せてしまおう。
留守番しながら美味しく食べて、後片付けをすれば充分。
(後は、ハーレイが帰って来るまで…)
洗濯物を取り込んで、畳んで仕舞うくらいだろうか。
他にするべき家事と言ったら、買い物や夕食の支度だけれど…。
(そっちも、ハーレイがやっちゃうしね?)
仕事の帰りに買い物をして、帰宅してから夕食作り。
今のハーレイの暮らしと変わらないから、結婚した後も同じやり方。
留守番をするブルーの仕事は、少しだけしか無い毎日。
(…留守番するんなら、もっと頑張りたいけれど…)
なんにも思い付かないよね、とフウと溜息が零れてしまう。
「だって、ハーレイが凄すぎるから」と、「ぼくには何も出来ないもの」と。
頑張って夕食を作ってみたって、出来栄えはハーレイに敵いはしない。
いくらハーレイが褒めてくれても、自分の腕前は、自分が一番良く分かる。
(お弁当を作っても、ウサギのリンゴは入れちゃ駄目だ、って言われるし…)
出来そうなことは、パウンドケーキを焼くくらい。
ハーレイの母が作るのと同じ味がする、大好物のレシピを母に習って、練習して。
(…ホントのホントに、それくらいしか…)
出来やしない、と嘆いてみたって、どうしようもない今の自分。
ハーレイよりも遅く生まれて来た分、経験値が足りなさすぎるから。
どれほど努力を重ねてみたって、ハーレイが先をゆくのだから。
(…もっと何か、ぼくに出来そうなこと…)
同じ留守番するんなら、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
留守番するのは、昼間だけとは限らないのだ、と。
ハーレイが仕事で遅くなったら、夕食も外で食べて来る。
会議が長引いたような時には、他の先生たちと外食。
(いくら結婚してたって…)
毎回、断ることは無理だし、付き合いで食べに行くこともある。
そうなった時は、夕食も一人きりで食べて、帰宅を待っているしかない。
急に決まって遅くなったら、「すまん」と連絡が入ったきりで、独りぼっちで。
(えっと…?)
ぼくの晩御飯はどうするの、と困った途端に頭に浮かんだ、両親の顔。
何ブロックも離れていたって、この家は、ちゃんとあるのだから…。
(…食べさせて、って家に帰って、ハーレイの食事とかが終わったら…)
家まで迎えに来て貰うとか、と大きく頷く。
「どうせ役には立たないんだし」と、「下手に作ったら、焦がしそうだし」と。
(ハーレイに迷惑かけちゃうよりは、迎えに来て貰う方がいいよね?)
連絡があった時に「じゃあ、晩御飯は、ぼくの家に行くね」と、言っておいたら大丈夫。
ハーレイが車で迎えに来るまで、家で晩御飯を御馳走になって…。
(お土産に、ママが作ったケーキとかを貰って…)
お礼を言って、ハーレイの車で帰ってゆくのが一番いい。
誰にも迷惑はかからない上、両親だって喜ぶから。
(うん、夜も留守番するんなら…)
ぼくの家に行って待つのがいいよ、とニッコリと笑う。
「お土産、ママのパウンドケーキがあったら、ホントに最高なんだけど」と。
帰りの車で、ハーレイに自慢出来るから。
「ママのケーキを貰って来たよ」と、「ハーレイの大好きな、パウンドケーキ」と…。
留守番するんなら・了
※ハーレイ先生と結婚した後、どうやって留守番しようかな、と考えてみたブルー君。
出来ることは殆ど無さそうな上に、留守番が夜まで続く時には、実家で晩御飯らしいですv
その内に無くなるんだよね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…十八歳になったら、ハーレイと結婚出来るから…)
誕生日が来たら、直ぐにでも結婚式を挙げることだろう。
そしたら、ハーレイの家に引っ越し、一緒に暮らす。
夜になっても、一人きりにはなったりしない、同じ家での日々が始まる。
(昼間は、ハーレイ、お仕事だけれど…)
夜は必ず帰って来るから、今夜のように一人の夜など、消えて無くなる。
家の何処かにハーレイがいて、呼べば答えてくれるから。
返事が無くても捜しに行ったら、ハーレイの姿が見付かるから。
(幸せだよね…)
昼間はお留守番だけど、と結婚出来る日が待ち遠しい。
どんな時でもハーレイと一緒で、何処へ行くにも二人が普通な、幸せな日々がやって来る。
休日となれば、朝から晩まで離れはしないし、ドライブも旅行も、二人で出掛ける。
ハーレイが「行くか?」と誘ってくれて、運転したり、旅の手配をしてくれたりして。
(…ホントに朝から晩まで一緒…)
夏休みとかなら、長い旅行も出来るよね、と顔が綻ぶ。
船旅だって、他の星へと宇宙船で出掛けることだって、長い休暇の時なら簡単。
アルテメシアにも行ってみたいし、地球一周の船旅もいい。
(だけど、普段は、お留守番…)
昼の間は、と結婚してからの日常を思う。
ハーレイは毎朝、スーツに着替えて、学校へ出勤しないといけない。
柔道部などの指導もあるから、朝はかなり早いことだろう。
(…ぼくが寝ている間に行っちゃう?)
寝坊してたら、そうなるよね、と肩を竦めた。
「それが嫌なら、早起きしなくちゃ」と。
ハーレイと朝食を食べたいのならば、眠くても、朝は起きなくては、と。
早く出勤するハーレイに合わせて、毎朝、早起き。
頑張って起きて、顔を洗って、着替えをしたりしている間に…。
(今と同じで、朝御飯、出来てるんだよね、きっと…)
母の代わりに、ハーレイが作る朝食が待っているだろう。
美味しそうな匂いが漂って来て、オムレツが焼けていたりして。
(きっとハーレイは、朝から、たっぷり食べるから…)
ソーセージなどもあるのだろうし、もちろんサラダも。
それらが載ったテーブルを前に、ハーレイがとびきりの笑顔を向けて来る。
「おはよう、朝飯、出来ているぞ」と。
「早く食べろよ」と、「トーストも、直ぐに焼けるから」などと。
(…ぼくが大きく育った後でも、朝御飯、そんなに沢山は…)
食べられない気がするのだけれども、ハーレイは「食べろ」と勧めて来そう。
「お前、身体が弱いからな」と、「食える時に、食べておかないと」と。
(寝込んじゃったら、食べないもんね…)
そうなった時のために体力、と食べさせられる朝御飯。
「このくらいは、食える筈だしな?」と、ハーレイが皿に盛り付けてくれて。
「そんなに無理だよ!」と膨れてみたって、「駄目だ」と怖い顔で睨み返されて。
(…朝から、お腹一杯になって…)
もう動くのも大変だよ、と文句を言っても、ハーレイは、きっと笑うだけ。
「だったら、軽く運動しろよ」と、「後片付けは、お前がやって」と。
(わざわざ、言われなくっても…)
後片付けくらい、毎朝、担当するだろう。
ハーレイが作ってくれたのだから、そのくらいのことはしなくては。
(それから、お掃除…)
出掛けるハーレイを玄関先で見送った後は、自分の役目に取り掛かる時間。
掃除に洗濯、「お嫁さん」らしく、こなしてゆく家事。
(午前中の時間は、あっという間に…)
終わっちゃうかな、と思うけれども、じきに家事にも馴れそうだから…。
(…早く終わって、自由時間が出来ちゃいそう…)
ハーレイが出るのも早いものね、と壁の時計を眺めてみた。
「十時頃には終わっていそう」と、「午前中のお茶の時間までには」と。
午前中の分の家事が済んだら、どうやって時間を過ごそうか。
留守番なのだし、出掛けないで家にいるべきだろう。
どうしても買いに行きたい物があるとか、特別な事情が無い限りは。
(まず、お茶を淹れて…)
それからダイニングで、椅子に座って一休み。
新聞を広げて、気になる記事を読んでゆく。
(ハーレイは、朝から読んだだろうから…)
朝食を一緒に食べる間に、教えてくれた記事があるかもしれない。
「今日は、こんなのが載っていたぞ」と、「面白いから、読んでおくといい」と。
(そういうのがあったら、一番に読んで…)
ハーレイが感想を言っていたなら、「なるほど」と納得しながら読む。
何も言わずに出掛けたのなら、ハーレイが仕事から戻った後に…。
(あのね、って…)
夕食の席などで記事の話題を持ち出し、あれこれと二人で話すのもいい。
記事によっては、おねだりだって出来ることだろう。
「書いてあった場所に行ってみたいよ」とか、「あの料理、家で作れそう?」とか。
(お料理の記事もあるもんね?)
他の地域の名物料理を紹介したり、食べ歩いたりしている記事。
そんな記事なら、「其処に行きたい」と強請られたって、ハーレイは嫌な顔などはしない。
「そうだな」と優しい笑みを浮かべて、「いつか行こうか」と相槌を打ってくれる筈。
名物料理を作れそうか、と尋ねられても、同じこと。
「それじゃ、作ってみるとするかな」と、「まずはレシピを探さないと」と頷いて。
(…ハーレイが、なんにも言ってなくても…)
新聞をじっくり読み込んでいけば、色々な発見がありそうな感じ。
「これは、ハーレイに話さなくっちゃ」と、夕方まで覚えていたい何かが。
あるいは「これ、ハーレイなら、作れるよね?」と、目を留めてしまうレシピとか。
(…ハーレイが帰るまで、忘れないように…)
メモしておいたり、新聞の記事を色のついたペンで囲んだりする。
レシピの場合は、切り抜いても支障が無い場所だったら、切り抜いておこう。
裏をチェックして広告だったら、ハサミを持って来て、もう早速に。
午前中の時間は穏やかに過ぎて、お昼になったら、昼御飯。
(ハーレイが、何か作っておいてくれそう…)
朝食のついでに拵えるとか、前の晩から作ってあるとか。
なんと言っても、前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が得意なのだから。
(ぼくの昼御飯を作るついでに、自分のお弁当だって…)
手際よく作って持って行きそうな、料理上手な今のハーレイ。
学校の食堂でも姿を見かけるけれども、お弁当を持って来ることもある。
(一人暮らしでも、お弁当を作っているんだし…)
結婚して「ブルーのお昼御飯」を作るとなったら、毎日、お弁当かもしれない。
もしかしたら、用意して行くお昼御飯も…。
(お弁当箱に入っているかも!)
ハーレイとお揃いのお弁当箱で、中身もお揃い、と胸がときめく。
お昼になったら、ハーレイは学校で、自分は家で、それぞれ、お弁当箱の蓋を開けて…。
(いただきます、って…)
一緒に食べている気分になって、楽しんで味わうお弁当。
ハーレイが仕事から帰って来たなら、お弁当の話も出来るだろう。
「今日のお弁当に入ってた、あれ、いいよね」などと、味や切り方について和やかに。
(…ウサギの形をしたリンゴとか、タコの形のウインナーとか…)
ハーレイなら入れてくれそうだけれど、ハーレイの分のお弁当箱には…。
(タコもウサギも、いない気がする…)
普通のリンゴやウインナーが入って、ごくごく平凡なお弁当。
職場で食べるお弁当だし、ウサギやタコは似合わないから。
(…ぼくが作ったら、入れちゃうんだけど…)
愛妻弁当って言うんだよね、と憧れるけれど、入れるチャンスは来そうにない。
早く起きて出掛けるハーレイよりも、早く起きないと作れないのが大問題。
(うんと早起きして、作ろうとしても…)
ハーレイなら、きっと目を覚ます。
「ブルーがいないぞ」と気配で気付いて、キッチンに来るに違いない。
「おい、お前、何をしてるんだ?」と、お弁当作りをチェックしに。
「リンゴのウサギを入れちゃ駄目だぞ」と、「ウインナーのタコも駄目だからな?」と。
(…どうせ、そうなっちゃうんだから…)
お昼御飯だの、お弁当だのは、ハーレイに全部任せてしまおう。
留守番しながら美味しく食べて、後片付けをすれば充分。
(後は、ハーレイが帰って来るまで…)
洗濯物を取り込んで、畳んで仕舞うくらいだろうか。
他にするべき家事と言ったら、買い物や夕食の支度だけれど…。
(そっちも、ハーレイがやっちゃうしね?)
仕事の帰りに買い物をして、帰宅してから夕食作り。
今のハーレイの暮らしと変わらないから、結婚した後も同じやり方。
留守番をするブルーの仕事は、少しだけしか無い毎日。
(…留守番するんなら、もっと頑張りたいけれど…)
なんにも思い付かないよね、とフウと溜息が零れてしまう。
「だって、ハーレイが凄すぎるから」と、「ぼくには何も出来ないもの」と。
頑張って夕食を作ってみたって、出来栄えはハーレイに敵いはしない。
いくらハーレイが褒めてくれても、自分の腕前は、自分が一番良く分かる。
(お弁当を作っても、ウサギのリンゴは入れちゃ駄目だ、って言われるし…)
出来そうなことは、パウンドケーキを焼くくらい。
ハーレイの母が作るのと同じ味がする、大好物のレシピを母に習って、練習して。
(…ホントのホントに、それくらいしか…)
出来やしない、と嘆いてみたって、どうしようもない今の自分。
ハーレイよりも遅く生まれて来た分、経験値が足りなさすぎるから。
どれほど努力を重ねてみたって、ハーレイが先をゆくのだから。
(…もっと何か、ぼくに出来そうなこと…)
同じ留守番するんなら、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
留守番するのは、昼間だけとは限らないのだ、と。
ハーレイが仕事で遅くなったら、夕食も外で食べて来る。
会議が長引いたような時には、他の先生たちと外食。
(いくら結婚してたって…)
毎回、断ることは無理だし、付き合いで食べに行くこともある。
そうなった時は、夕食も一人きりで食べて、帰宅を待っているしかない。
急に決まって遅くなったら、「すまん」と連絡が入ったきりで、独りぼっちで。
(えっと…?)
ぼくの晩御飯はどうするの、と困った途端に頭に浮かんだ、両親の顔。
何ブロックも離れていたって、この家は、ちゃんとあるのだから…。
(…食べさせて、って家に帰って、ハーレイの食事とかが終わったら…)
家まで迎えに来て貰うとか、と大きく頷く。
「どうせ役には立たないんだし」と、「下手に作ったら、焦がしそうだし」と。
(ハーレイに迷惑かけちゃうよりは、迎えに来て貰う方がいいよね?)
連絡があった時に「じゃあ、晩御飯は、ぼくの家に行くね」と、言っておいたら大丈夫。
ハーレイが車で迎えに来るまで、家で晩御飯を御馳走になって…。
(お土産に、ママが作ったケーキとかを貰って…)
お礼を言って、ハーレイの車で帰ってゆくのが一番いい。
誰にも迷惑はかからない上、両親だって喜ぶから。
(うん、夜も留守番するんなら…)
ぼくの家に行って待つのがいいよ、とニッコリと笑う。
「お土産、ママのパウンドケーキがあったら、ホントに最高なんだけど」と。
帰りの車で、ハーレイに自慢出来るから。
「ママのケーキを貰って来たよ」と、「ハーレイの大好きな、パウンドケーキ」と…。
留守番するんなら・了
※ハーレイ先生と結婚した後、どうやって留守番しようかな、と考えてみたブルー君。
出来ることは殆ど無さそうな上に、留守番が夜まで続く時には、実家で晩御飯らしいですv
(いつか、こういう夜も無くなるんだな…)
あと何年か経ったならな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(今の俺は、一人暮らしなんだが…)
ブルーが結婚出来る年になったら、一人暮らしではなくなるだろう。
待ちかねていた恋人が、この家に早々に引っ越して来て。
(あいつのことだし、何年も待ってるわけがないしな?)
上の学校にも進学しないで、ブルーは、来るに違いない。
十八歳になった途端に、結婚式を挙げて、この家の住人になるブルー。
そうなったならば、今夜のような「一人の夜」は、消えて無くなる。
コーヒー片手に書斎に来たって、ブルーは、ついて来るだろう。
「何を読むの?」と興味津々、書棚から本を選ぶ間も、きっと隣に立っている。
(邪魔するなよ、と言ってみたって…)
ブルーは「うん」と返事はしても、書斎から出てはいかないと思う。
自分は自分で何か選んで、そのままストンと床に座って、勝手に読書。
「これなら邪魔にならないでしょ?」と言わんばかりに、黙って本を読むブルー。
(…書斎で、テストとかを採点していても…)
同じ理屈で、ブルーはいるに違いない。
「ハーレイの邪魔にならない範囲」で、ブルー自身のスタイルで。
本を読んだり、新聞や雑誌を持ち込んだりと、暇つぶしになる何かを見付け出して。
(確かに、邪魔にはなっていないし…)
そういう時間も、とても幸せに思えることだろう。
少々、ブルーに気を取られようと、それは「ブルーがいるからこそ」。
今夜のように一人きりでは、気を取られたりすることさえ無い。
だから待ち遠しく思うけれども、「ブルーがいる」のが、当たり前になってしまった後。
「ちょっと邪魔だぞ」と、ふざけて言ったりもしたくなる頃、一人きりの夜が来たならば…。
(…どうなるだろうな?)
今とは逆の状況なんだが…、と首を捻った。
「そんな夜には、どうするんだ?」と。
ブルーと結婚式を挙げたら、二人で暮らすに決まっている。
この家にブルーの荷物が運び込まれて、ブルーのための部屋も出来上がる。
毎日、朝には一緒に朝食、それから仕事に出掛けて行って…。
(あいつが留守番してるってわけで…)
仕事が終わって帰って来たなら、ちゃんとブルーが待っている。
夕食の支度は、多分、ブルーがするのではなくて、自分の担当だろうけれども。
(なんたって、俺は料理が得意で、経験も豊富なんだしな?)
帰宅してからササッと作って、ブルーと二人で食べるのがいい。
「今日は、こいつがあったからな」と、買って来た食材を披露して。
「こうやって食うのが美味いんだぞ」などと、料理する姿も、ブルーに見せて。
(…仕事の無い日は、もちろん、朝から夜まで一緒で…)
何処に行くのも、ブルーと一緒。
買物も、散歩に出掛けてゆくのも、何をするのもブルーと二人で当たり前の休日。
そういった暮らしが、判で押したように続いてゆきそうだけれど…。
(…あいつと違って、俺が留守番する時だって…)
無いとは言い切れないだろう。
ブルーにも、ブルーの人生があって、ブルーの世界があるのだから。
学校の友人たちと出掛けて、留守にする日も来そうではある。
(明日の昼間は、出掛けて来るね、って…)
留守にすることも、まるで無いとは言えないと思う。
ついでに言うなら、昼間どころか、夜になっても…。
(帰って来ないってこともあるよなあ?)
次の日もな、と顎に当てる手。
「なんたって、あいつは若いんだから」と。
ブルーは結婚する気だけれども、ブルーの友人たちの場合は、そうではない。
彼らは十八歳になれば進学、上の学校へと進むだろう。
中には、今、住んでいる町を離れて…。
(ちょっと遠い所の学校に行こうってヤツも…)
いるだろうから、そういう友人に招かれたならば、ブルーは家を留守にする。
「友達の家まで行って来るね」と、泊りがけで遊びに出掛けて行って。
(…大いに有り得る話だよなあ…)
あいつが出掛けちまって留守番、とカップを片手に頷いた。
ブルーが泊まりで出掛けて行ったら、今夜と同じで、一人きりの夜が訪れる。
それより前の昼間の時点で、既に一人の時間だけれど。
家に帰ってもブルーはいなくて、この家の中に、ポツンと一人。
(…いやいや、そこは上手にだな…)
やってみせるさ、と想像してみることにした。
「ブルーがいなくて、留守番するなら」と、その間の自分の状況を。
どんな具合に時間を潰して、どういう夜を過ごすのかと。
(…仕事のある日じゃ、想像し甲斐が無いってモンだし…)
休み中ってことで考えるかな、と場面を長期休暇に設定した。
如何にもブルーが留守にしそうで、友達も招待しそうな時期が夏休みなど。
(朝に、あいつを送り出して、だ…)
車で何処かまで送ってやったら、その後は、自分一人の時間。
まずはそのまま、ドライブもいい。
いつもはブルーと出掛ける所を、一人、気ままに。
「その辺で、休憩した方がいいよな」などと、気遣う相手がいないドライブ。
(何処まで行こうが、休憩無しで突っ走ろうが…)
自由なのだし、とても新鮮に感じることだろう。
今の自分には普通だけれども、結婚した後は、もう出来なくなるドライブだから。
気ままに走ってゆくことなんかは、ブルーと一緒では難しいから。
(うん、なかなかに…)
悪くないぞ、と出だしは上々。
ブルーがいない留守番の暮らしは、ドライブで始めるのが良さそうだ。
思いのままにハンドルを切って、気の向くままに愛車で走る。
休憩場所など考えないで、「此処にしよう」と思ったら、停めて入ってゆく。
喫茶店でも、農産物の直売所でも、「これだ」とピンと来た場所に。
(入ったら、ぐるっと見回して…)
此処だ、と決めた席に座るとか、あるいは立ったまま、飲むとか、齧るとか。
ブルーと一緒では出来ない冒険、行儀なんかも気にしない。
気ままな男の一人旅だし、誰にも気兼ねは要らないから。
(今だと、まさにそうなんだがなあ…)
ブルーの家には寄れなかった日に、夜にドライブするような時。
思い立ったら車を走らせ、目についた店で食事したりもするけれど…。
(あいつと一緒に暮らし始めたら、そいつは無理だ)
遅くなったら、ブルーは疲れて眠ってしまうし、身体にも悪い。
そうでなくても虚弱な恋人、そうそう引っ張り回せはしない。
(…ドライブもそうだし、街に出掛けて行ったって…)
ブルーのためには、こまめに休憩、飲食する店も気を遣わねば。
騒がしい店など選べはしないし、席もゆったりしている店しか入れないだろう。
(そりゃあ、たまには…)
カウンター席もいいだろうけれど、あくまで「たまに」。
ブルーの身体の調子が良くて、「ちょっと冒険したって、いい日」。
だから自然と生まれる制約、二人だからこそ失う「自由」。
(あいつが出掛けて、留守番するなら…)
失くしてしまった自由を満喫、思い切り羽を伸ばして暮らす。
ドライブの後は、街へと走って、あちこち一人で歩くのもいい。
ブルーと二人だった時には、入れなかった店を回って、一日、のんびり。
「あいつは退屈するだろうから」と御無沙汰だった、いろんなスポットを楽しんで。
(…あいつが一緒でも、少しくらいは…)
そうした場所にも寄るだろうけれど、早めに出るのは間違いない。
「お前には、ちょっと退屈だろう」と、ブルーの気持ちを気遣って。
いくらブルーが「ううん」と首を横に振っても、瞳を見れば本音が分かる。
「ハーレイの好きな場所なんだから」と、好奇心一杯だろうけれども、疲れている、と。
(…あいつは、そういうヤツなんだ…)
自分の身体が辛くなっても、相手の気持ちが最優先。
それに「ハーレイが大好きなもの」は、体験したくなるのがブルー。
今の所は、コーヒーに挑戦程度だけれども、結婚したなら、挑戦は増える。
「ハーレイのお気に入り」に片っ端から挑んで、それで疲れて寝込んでも…。
(ちっとも懲りやしないんだ、きっと)
その分、俺が気を付けないと…、と分かっているから、出来ないことが増えてゆく。
気ままなドライブや、足の向くまま歩くことやら、今は「普通」にある自由を失くして。
(留守番するなら、そういったことを…)
思う存分、謳歌した後、買い物をして家路につく。
「今夜は、俺しかいないんだしな?」と、一人分の食材を買い込んで。
普段は買わない総菜などを買うのもいいし、インスタントも悪くないだろう。
ブルーと一緒の暮らしだったら、そんな手抜きはしないから。
(弁当を買って、食うのもいいよな)
酒とつまみも買うとするかな、と「独身の夜」を計画してゆく。
今の自分なら「気が向いた時に出来ること」が、ブルーと一緒では出来ないから。
ブルーが留守にしている時しか、手抜きの夕食などは不可能。
(もっとも、普段の俺にしたって…)
手抜きなんぞはしないんだがな、と思うからこそ、手抜きがいい。
せっかくの「独身に戻った夜」だし、それっぽいのが楽しそうだから。
料理などとは無縁の男子学生だったら、こうなるだろう、といった夕食。
(インスタントか、はたまた弁当…)
それでも酒があったら上々、と学生時代の友人たちを思い浮かべてニヤリとする。
「気ままな一人暮らしってヤツだ」と、「ブルーが留守の間だけだが」と。
手抜きの夕食を食べるからには、後片付けの方も手抜きが一番。
「明日の朝、纏めて洗えばいいさ」と、キッチンのシンクに突っ込んで終わり。
(流石に、水で軽く流して…)
汚れは軽く取っておくが、と考える辺りが、少々、所帯じみているけれど、仕方ない。
一人暮らしが長すぎるのと、料理好きなのと、マメなのが「悪い」。
(手抜きした後は、酒をゆっくり楽しんで…)
眠くなったら、ベッドに潜り込んでおしまい。
「ブルーがいない」寂しさなんかは、何処かへ消し飛んでいそうな夜。
あまりにも、「一人」が楽しくて。
独身時代に戻った一日、それですっかり満足して。
(…おいおいおい…)
それじゃ、あいつに悪くないか、と思うけれども、どうやら自分は…。
(…ブルーが留守でも、ちっとも寂しくないようだぞ?)
留守番するなら、楽しんじまうタイプなんだな、と浮かべた苦笑。
「きっと、前の俺のせいなんだろう」と。
前のブルーがいなくなった後、一人きりで長く生きていたのが悪い、と言い訳する。
「ブルーが何処にもいない」人生は辛いけれども、留守ならば、別。
気を遣わないでも大丈夫な分、「羽を伸ばしたくなったりするさ」と。
「留守番するなら、ちょいと御褒美を貰うくらいは、許されるってモンなんだから」と…。
留守番するなら・了
※結婚した後、ブルー君が留守で、留守番するなら…、と想像してみたハーレイ先生。
泊りがけで出掛けて行ったら、独身生活を満喫するようです。人生を楽しめるタイプですねv
あと何年か経ったならな、とハーレイが、ふと思ったこと。
ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(今の俺は、一人暮らしなんだが…)
ブルーが結婚出来る年になったら、一人暮らしではなくなるだろう。
待ちかねていた恋人が、この家に早々に引っ越して来て。
(あいつのことだし、何年も待ってるわけがないしな?)
上の学校にも進学しないで、ブルーは、来るに違いない。
十八歳になった途端に、結婚式を挙げて、この家の住人になるブルー。
そうなったならば、今夜のような「一人の夜」は、消えて無くなる。
コーヒー片手に書斎に来たって、ブルーは、ついて来るだろう。
「何を読むの?」と興味津々、書棚から本を選ぶ間も、きっと隣に立っている。
(邪魔するなよ、と言ってみたって…)
ブルーは「うん」と返事はしても、書斎から出てはいかないと思う。
自分は自分で何か選んで、そのままストンと床に座って、勝手に読書。
「これなら邪魔にならないでしょ?」と言わんばかりに、黙って本を読むブルー。
(…書斎で、テストとかを採点していても…)
同じ理屈で、ブルーはいるに違いない。
「ハーレイの邪魔にならない範囲」で、ブルー自身のスタイルで。
本を読んだり、新聞や雑誌を持ち込んだりと、暇つぶしになる何かを見付け出して。
(確かに、邪魔にはなっていないし…)
そういう時間も、とても幸せに思えることだろう。
少々、ブルーに気を取られようと、それは「ブルーがいるからこそ」。
今夜のように一人きりでは、気を取られたりすることさえ無い。
だから待ち遠しく思うけれども、「ブルーがいる」のが、当たり前になってしまった後。
「ちょっと邪魔だぞ」と、ふざけて言ったりもしたくなる頃、一人きりの夜が来たならば…。
(…どうなるだろうな?)
今とは逆の状況なんだが…、と首を捻った。
「そんな夜には、どうするんだ?」と。
ブルーと結婚式を挙げたら、二人で暮らすに決まっている。
この家にブルーの荷物が運び込まれて、ブルーのための部屋も出来上がる。
毎日、朝には一緒に朝食、それから仕事に出掛けて行って…。
(あいつが留守番してるってわけで…)
仕事が終わって帰って来たなら、ちゃんとブルーが待っている。
夕食の支度は、多分、ブルーがするのではなくて、自分の担当だろうけれども。
(なんたって、俺は料理が得意で、経験も豊富なんだしな?)
帰宅してからササッと作って、ブルーと二人で食べるのがいい。
「今日は、こいつがあったからな」と、買って来た食材を披露して。
「こうやって食うのが美味いんだぞ」などと、料理する姿も、ブルーに見せて。
(…仕事の無い日は、もちろん、朝から夜まで一緒で…)
何処に行くのも、ブルーと一緒。
買物も、散歩に出掛けてゆくのも、何をするのもブルーと二人で当たり前の休日。
そういった暮らしが、判で押したように続いてゆきそうだけれど…。
(…あいつと違って、俺が留守番する時だって…)
無いとは言い切れないだろう。
ブルーにも、ブルーの人生があって、ブルーの世界があるのだから。
学校の友人たちと出掛けて、留守にする日も来そうではある。
(明日の昼間は、出掛けて来るね、って…)
留守にすることも、まるで無いとは言えないと思う。
ついでに言うなら、昼間どころか、夜になっても…。
(帰って来ないってこともあるよなあ?)
次の日もな、と顎に当てる手。
「なんたって、あいつは若いんだから」と。
ブルーは結婚する気だけれども、ブルーの友人たちの場合は、そうではない。
彼らは十八歳になれば進学、上の学校へと進むだろう。
中には、今、住んでいる町を離れて…。
(ちょっと遠い所の学校に行こうってヤツも…)
いるだろうから、そういう友人に招かれたならば、ブルーは家を留守にする。
「友達の家まで行って来るね」と、泊りがけで遊びに出掛けて行って。
(…大いに有り得る話だよなあ…)
あいつが出掛けちまって留守番、とカップを片手に頷いた。
ブルーが泊まりで出掛けて行ったら、今夜と同じで、一人きりの夜が訪れる。
それより前の昼間の時点で、既に一人の時間だけれど。
家に帰ってもブルーはいなくて、この家の中に、ポツンと一人。
(…いやいや、そこは上手にだな…)
やってみせるさ、と想像してみることにした。
「ブルーがいなくて、留守番するなら」と、その間の自分の状況を。
どんな具合に時間を潰して、どういう夜を過ごすのかと。
(…仕事のある日じゃ、想像し甲斐が無いってモンだし…)
休み中ってことで考えるかな、と場面を長期休暇に設定した。
如何にもブルーが留守にしそうで、友達も招待しそうな時期が夏休みなど。
(朝に、あいつを送り出して、だ…)
車で何処かまで送ってやったら、その後は、自分一人の時間。
まずはそのまま、ドライブもいい。
いつもはブルーと出掛ける所を、一人、気ままに。
「その辺で、休憩した方がいいよな」などと、気遣う相手がいないドライブ。
(何処まで行こうが、休憩無しで突っ走ろうが…)
自由なのだし、とても新鮮に感じることだろう。
今の自分には普通だけれども、結婚した後は、もう出来なくなるドライブだから。
気ままに走ってゆくことなんかは、ブルーと一緒では難しいから。
(うん、なかなかに…)
悪くないぞ、と出だしは上々。
ブルーがいない留守番の暮らしは、ドライブで始めるのが良さそうだ。
思いのままにハンドルを切って、気の向くままに愛車で走る。
休憩場所など考えないで、「此処にしよう」と思ったら、停めて入ってゆく。
喫茶店でも、農産物の直売所でも、「これだ」とピンと来た場所に。
(入ったら、ぐるっと見回して…)
此処だ、と決めた席に座るとか、あるいは立ったまま、飲むとか、齧るとか。
ブルーと一緒では出来ない冒険、行儀なんかも気にしない。
気ままな男の一人旅だし、誰にも気兼ねは要らないから。
(今だと、まさにそうなんだがなあ…)
ブルーの家には寄れなかった日に、夜にドライブするような時。
思い立ったら車を走らせ、目についた店で食事したりもするけれど…。
(あいつと一緒に暮らし始めたら、そいつは無理だ)
遅くなったら、ブルーは疲れて眠ってしまうし、身体にも悪い。
そうでなくても虚弱な恋人、そうそう引っ張り回せはしない。
(…ドライブもそうだし、街に出掛けて行ったって…)
ブルーのためには、こまめに休憩、飲食する店も気を遣わねば。
騒がしい店など選べはしないし、席もゆったりしている店しか入れないだろう。
(そりゃあ、たまには…)
カウンター席もいいだろうけれど、あくまで「たまに」。
ブルーの身体の調子が良くて、「ちょっと冒険したって、いい日」。
だから自然と生まれる制約、二人だからこそ失う「自由」。
(あいつが出掛けて、留守番するなら…)
失くしてしまった自由を満喫、思い切り羽を伸ばして暮らす。
ドライブの後は、街へと走って、あちこち一人で歩くのもいい。
ブルーと二人だった時には、入れなかった店を回って、一日、のんびり。
「あいつは退屈するだろうから」と御無沙汰だった、いろんなスポットを楽しんで。
(…あいつが一緒でも、少しくらいは…)
そうした場所にも寄るだろうけれど、早めに出るのは間違いない。
「お前には、ちょっと退屈だろう」と、ブルーの気持ちを気遣って。
いくらブルーが「ううん」と首を横に振っても、瞳を見れば本音が分かる。
「ハーレイの好きな場所なんだから」と、好奇心一杯だろうけれども、疲れている、と。
(…あいつは、そういうヤツなんだ…)
自分の身体が辛くなっても、相手の気持ちが最優先。
それに「ハーレイが大好きなもの」は、体験したくなるのがブルー。
今の所は、コーヒーに挑戦程度だけれども、結婚したなら、挑戦は増える。
「ハーレイのお気に入り」に片っ端から挑んで、それで疲れて寝込んでも…。
(ちっとも懲りやしないんだ、きっと)
その分、俺が気を付けないと…、と分かっているから、出来ないことが増えてゆく。
気ままなドライブや、足の向くまま歩くことやら、今は「普通」にある自由を失くして。
(留守番するなら、そういったことを…)
思う存分、謳歌した後、買い物をして家路につく。
「今夜は、俺しかいないんだしな?」と、一人分の食材を買い込んで。
普段は買わない総菜などを買うのもいいし、インスタントも悪くないだろう。
ブルーと一緒の暮らしだったら、そんな手抜きはしないから。
(弁当を買って、食うのもいいよな)
酒とつまみも買うとするかな、と「独身の夜」を計画してゆく。
今の自分なら「気が向いた時に出来ること」が、ブルーと一緒では出来ないから。
ブルーが留守にしている時しか、手抜きの夕食などは不可能。
(もっとも、普段の俺にしたって…)
手抜きなんぞはしないんだがな、と思うからこそ、手抜きがいい。
せっかくの「独身に戻った夜」だし、それっぽいのが楽しそうだから。
料理などとは無縁の男子学生だったら、こうなるだろう、といった夕食。
(インスタントか、はたまた弁当…)
それでも酒があったら上々、と学生時代の友人たちを思い浮かべてニヤリとする。
「気ままな一人暮らしってヤツだ」と、「ブルーが留守の間だけだが」と。
手抜きの夕食を食べるからには、後片付けの方も手抜きが一番。
「明日の朝、纏めて洗えばいいさ」と、キッチンのシンクに突っ込んで終わり。
(流石に、水で軽く流して…)
汚れは軽く取っておくが、と考える辺りが、少々、所帯じみているけれど、仕方ない。
一人暮らしが長すぎるのと、料理好きなのと、マメなのが「悪い」。
(手抜きした後は、酒をゆっくり楽しんで…)
眠くなったら、ベッドに潜り込んでおしまい。
「ブルーがいない」寂しさなんかは、何処かへ消し飛んでいそうな夜。
あまりにも、「一人」が楽しくて。
独身時代に戻った一日、それですっかり満足して。
(…おいおいおい…)
それじゃ、あいつに悪くないか、と思うけれども、どうやら自分は…。
(…ブルーが留守でも、ちっとも寂しくないようだぞ?)
留守番するなら、楽しんじまうタイプなんだな、と浮かべた苦笑。
「きっと、前の俺のせいなんだろう」と。
前のブルーがいなくなった後、一人きりで長く生きていたのが悪い、と言い訳する。
「ブルーが何処にもいない」人生は辛いけれども、留守ならば、別。
気を遣わないでも大丈夫な分、「羽を伸ばしたくなったりするさ」と。
「留守番するなら、ちょいと御褒美を貰うくらいは、許されるってモンなんだから」と…。
留守番するなら・了
※結婚した後、ブルー君が留守で、留守番するなら…、と想像してみたハーレイ先生。
泊りがけで出掛けて行ったら、独身生活を満喫するようです。人生を楽しめるタイプですねv
「致命的だよね…」
ホントに致命的だと思う、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「致命的だと?」
いきなりどうした、とハーレイは恋人の顔を覗き込んだ。
致命的とは、聞いただけでも穏やかではない。
いったい何があったというのか、聞き出さなければ。
(何かミスでもやらかしたのか?)
きっとそうだな、と心の中で見当を付けた。
ブルーにとっては致命的だと思える失敗、そんな所だと。
けれど、ブルーは話そうとしない。
ハーレイの顔を見詰めるだけで、言葉を紡ぐ気配も無い。
それでは何も出来はしないし、改めて問いを投げ掛ける。
「おい、話さないと何も分からないぞ?」
黙っていても俺には通じん、と話すようにと促した。
「致命的だというヤツのことを、分かるように話せ」と。
するとブルーは、もう一度、深い溜息をついた。
「分からない?」と、肩を竦めて。
「そういうトコだよ」と、「致命的なのは」と。
「……はあ?」
ますますもって分からんぞ、と疑問が更に膨らんでゆく。
「話せ」という言葉の何処を取ったら、致命的なのか。
(…しかしだな…)
今のブルーの言葉からして、問題は「自分」の方らしい。
致命的な何かを持っているのは、ブルーではなくて…。
(俺の方だ、という意味だよな?)
どうやらそうだ、と其処までは辛うじて推測出来た。
だが、その先が分からない。
自分の何が致命的なのか、どういう部分がソレなのかが。
(……うーむ……)
今日、此処に来てから、失敗をしてはいないと思う。
ブルーの両親には、いつも通りに挨拶をしたし…。
(昼飯を服に零しちゃいないし、お茶だって…)
午前も今も、服もテーブルも汚してはいない。
食べ方がガサツだったということだって、無いだろう。
礼儀作法には自信があるし、姿勢も悪くない筈だ。
(それなのに、何処が致命的だと?)
俺の何処が問題になると言うんだ、と謎は深まるばかり。
ブルーはと言えば、あからさまに溜息をついている。
「ホントのホントに致命的だよ」と、呆れ果てたように。
(…ブルーには分かっているんだよなあ…)
なのに俺には、全く分からないわけで、と気ばかり焦る。
ブルーが話してくれるのを待つか、もう一度、訊くか。
どうするべきか、と悩み続けていたら…。
「さっきも言ったけど、ソレなんだよね…」
ハーレイの致命的なトコ、とブルーは口を開いた。
「キャプテンだったら、船が沈むよ?」と。
「なんだって!?」
そんなに致命的なのか、とハーレイは愕然とした。
今の自分は「ただの教師」で、キャプテンではない。
だから自分では気付かないだけで、ブルーから見れば…。
(こう、あからさまな欠点ってヤツが…)
あるんだよな、と自分自身に問い掛ける。
「どうすりゃいいんだ」と、「俺のことだぞ?」と。
「よく考えろ」と叱咤してみても、やはり分からない。
今の自分の何処が駄目なのか、致命的な欠点なのか。
いくら考えても、答えは一向に出て来ないまま。
ブルーはフウと大きな溜息をついて、また繰り返した。
「本当に致命的だよね」と。
そう言われても分からないから、降参するしか道は無い。
ハーレイは「すまん」と頭を下げた。
「分からないんだ、本当に…。だから、教えてくれ」
直すべき所があるなら直すから、と正直に言った。
下手にこの場を取り繕うより、その方がいい。
聞くは一時の恥と言うから、尋ねるのが一番いいだろう。
訊かれたブルーは、「あーあ…」と、またも溜息まじり。
「ホントに鈍くて、駄目すぎるんだよ」と。
「…鈍いだと?」
俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
鈍いと言われたことなどは無いし、運動神経だっていい。
なのに何処が、と思う間に、次の言葉が降って来た。
「洞察力っていうのかな…。まるで駄目だよ」
ぼくの心にも気が付かないし、とブルーは膨れる。
「さっきから、ずっと見詰めてるのに、何もしなくて…」
キスさえもしてくれないなんて、と詰られた。
「そんな調子じゃ、仲間の心も掴めないよ」と。
それでは仲間を纏められなくて、船が沈んじゃうよ、と。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握った。
致命的な点がソレだと言うなら、ブルーの方を直すべき。
何故なら、洞察力があるから、今だって…。
(こいつと一緒に暮らしたいのを、グッと我慢で…)
あえて目を瞑っているんだからな、と心で溜息をつく。
ブルーの頭を、拳でコツンとやりながら。
「お前の気持ちは分かっているさ」と、「前からな」と。
「だからキスなぞ強請るんじゃない」と、想いをこめて。
キスしてしまえば、二度と歯止めは利かないから。
そういう自分を分かっているから、鈍いふりだ、と…。
致命的だよね・了
ホントに致命的だと思う、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「致命的だと?」
いきなりどうした、とハーレイは恋人の顔を覗き込んだ。
致命的とは、聞いただけでも穏やかではない。
いったい何があったというのか、聞き出さなければ。
(何かミスでもやらかしたのか?)
きっとそうだな、と心の中で見当を付けた。
ブルーにとっては致命的だと思える失敗、そんな所だと。
けれど、ブルーは話そうとしない。
ハーレイの顔を見詰めるだけで、言葉を紡ぐ気配も無い。
それでは何も出来はしないし、改めて問いを投げ掛ける。
「おい、話さないと何も分からないぞ?」
黙っていても俺には通じん、と話すようにと促した。
「致命的だというヤツのことを、分かるように話せ」と。
するとブルーは、もう一度、深い溜息をついた。
「分からない?」と、肩を竦めて。
「そういうトコだよ」と、「致命的なのは」と。
「……はあ?」
ますますもって分からんぞ、と疑問が更に膨らんでゆく。
「話せ」という言葉の何処を取ったら、致命的なのか。
(…しかしだな…)
今のブルーの言葉からして、問題は「自分」の方らしい。
致命的な何かを持っているのは、ブルーではなくて…。
(俺の方だ、という意味だよな?)
どうやらそうだ、と其処までは辛うじて推測出来た。
だが、その先が分からない。
自分の何が致命的なのか、どういう部分がソレなのかが。
(……うーむ……)
今日、此処に来てから、失敗をしてはいないと思う。
ブルーの両親には、いつも通りに挨拶をしたし…。
(昼飯を服に零しちゃいないし、お茶だって…)
午前も今も、服もテーブルも汚してはいない。
食べ方がガサツだったということだって、無いだろう。
礼儀作法には自信があるし、姿勢も悪くない筈だ。
(それなのに、何処が致命的だと?)
俺の何処が問題になると言うんだ、と謎は深まるばかり。
ブルーはと言えば、あからさまに溜息をついている。
「ホントのホントに致命的だよ」と、呆れ果てたように。
(…ブルーには分かっているんだよなあ…)
なのに俺には、全く分からないわけで、と気ばかり焦る。
ブルーが話してくれるのを待つか、もう一度、訊くか。
どうするべきか、と悩み続けていたら…。
「さっきも言ったけど、ソレなんだよね…」
ハーレイの致命的なトコ、とブルーは口を開いた。
「キャプテンだったら、船が沈むよ?」と。
「なんだって!?」
そんなに致命的なのか、とハーレイは愕然とした。
今の自分は「ただの教師」で、キャプテンではない。
だから自分では気付かないだけで、ブルーから見れば…。
(こう、あからさまな欠点ってヤツが…)
あるんだよな、と自分自身に問い掛ける。
「どうすりゃいいんだ」と、「俺のことだぞ?」と。
「よく考えろ」と叱咤してみても、やはり分からない。
今の自分の何処が駄目なのか、致命的な欠点なのか。
いくら考えても、答えは一向に出て来ないまま。
ブルーはフウと大きな溜息をついて、また繰り返した。
「本当に致命的だよね」と。
そう言われても分からないから、降参するしか道は無い。
ハーレイは「すまん」と頭を下げた。
「分からないんだ、本当に…。だから、教えてくれ」
直すべき所があるなら直すから、と正直に言った。
下手にこの場を取り繕うより、その方がいい。
聞くは一時の恥と言うから、尋ねるのが一番いいだろう。
訊かれたブルーは、「あーあ…」と、またも溜息まじり。
「ホントに鈍くて、駄目すぎるんだよ」と。
「…鈍いだと?」
俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
鈍いと言われたことなどは無いし、運動神経だっていい。
なのに何処が、と思う間に、次の言葉が降って来た。
「洞察力っていうのかな…。まるで駄目だよ」
ぼくの心にも気が付かないし、とブルーは膨れる。
「さっきから、ずっと見詰めてるのに、何もしなくて…」
キスさえもしてくれないなんて、と詰られた。
「そんな調子じゃ、仲間の心も掴めないよ」と。
それでは仲間を纏められなくて、船が沈んじゃうよ、と。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握った。
致命的な点がソレだと言うなら、ブルーの方を直すべき。
何故なら、洞察力があるから、今だって…。
(こいつと一緒に暮らしたいのを、グッと我慢で…)
あえて目を瞑っているんだからな、と心で溜息をつく。
ブルーの頭を、拳でコツンとやりながら。
「お前の気持ちは分かっているさ」と、「前からな」と。
「だからキスなぞ強請るんじゃない」と、想いをこめて。
キスしてしまえば、二度と歯止めは利かないから。
そういう自分を分かっているから、鈍いふりだ、と…。
致命的だよね・了
